特許第6002697号(P6002697)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6002697
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】内燃機関の点火装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/00 20060101AFI20160923BHJP
   F02P 3/045 20060101ALI20160923BHJP
【FI】
   F02P3/00 H
   F02P3/045 303F
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-1443(P2014-1443)
(22)【出願日】2014年1月8日
(65)【公開番号】特開2015-129465(P2015-129465A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2014年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105119
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 孝治
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100187805
【弁理士】
【氏名又は名称】毛利 弘人
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 真
(72)【発明者】
【氏名】木村 範孝
【審査官】 津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−83863(JP,A)
【文献】 特開平7−229461(JP,A)
【文献】 特開平4−284167(JP,A)
【文献】 米国特許第3892219(US,A)
【文献】 米国特許第3945362(US,A)
【文献】 米国特許第4922874(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 3/00
F02P 3/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火プラグと、該点火プラグに火花放電を発生させるためのコイル対を1つの点火プラグに対応して2つ備える駆動回路と、前記駆動回路の第1コイル対に供給する第1点火信号及び前記駆動回路の第2コイル対に供給する第2点火信号を生成する制御手段とを備える、内燃機関の点火装置において、
前記制御手段は、
前記第1コイル対を構成する第1一次コイルの通電によって発生する放電の開始から終了までの第1放電期間と、前記第2コイル対を構成する第2一次コイルの通電によって発生する放電の開始から終了までの第2放電期間とが一部において重複し、その重複放電期間が設定重複期間となり、かつ前記第1放電期間の始期が前記第2放電期間の始期より前となるように、前記第1及び第2点火信号を生成し、
前記設定重複期間は、前記第1放電期間と、前記点火プラグにおける放電電流が短時間遮断される吹き消えが発生しない放電電流値の最小値である吹き消え閾値と、前記第1放電期間の始期の放電電流値である放電開始電流値とに応じて設定されることを特徴とする内燃機関の点火装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1及び第2一次コイルの通電期間を同一として、前記第1一次コイルの通電開始時期からオフセット期間経過後に前記第2一次コイルの通電を開始し、
前記オフセット期間は、前記第1放電期間から前記設定重複期間を減算した期間であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の点火装置。
【請求項3】
前記設定重複期間は、下記式によって算出される目標期間の近傍の期間であってかつ該目標期間以上の期間に設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の点火装置:
TTGT=TSP1×ISPTH/ISPPKL
ここで、TTGTは前記目標期間、TSP1は前記第1放電期間、ISPTHは前記吹き消え閾値、ISPPKLは前記放電開始電流値である。
【請求項4】
前記制御手段は、前記機関の燃焼室内で発生するガス流動と相関がある機関運転パラメータに応じて前記吹き消え閾値を算出する吹き消え閾値算出手段を備え、
該吹き消え閾値算出手段により算出された吹き消え閾値を用いて前記設定重複期間の設定を行うことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の点火装置に関し、特に1つ点火プラグを駆動する駆動回路が2つのコイル対を備え、高圧の二次電圧を比較的短い時間間隔で発生させる多重点火を行う点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、1つ点火プラグを駆動する駆動回路が2つのコイル対を備え、点火プラグの放電エネルギー要求に応じて使用するコイル対を切り替えて点火を行う点火装置が示されてる。この装置によれば、放電エネルギー要求が低い時は1つのコイル対を使用した点火が行われ、放電エネルギー要求が高い点火強化領域では、同一サイクルで2つのコイル対を使用した多重点火が行われる。また、2つのコイル対を所定サイクル数毎に交互に使用して点火を行う制御も示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5047247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示された装置では、点火強化領域では同文献の図3に示されるように、2つのコイル対を用いた同時放電または交互放電が行われるが、同時放電では点火プラグにおける放電電流が大きくなり、スパッタリング(陽イオンのプラグ電極への衝突)による点火プラグの摩耗が発生し易くなるという課題がある。また、交互放電では吹き消え(放電電流の短時間の遮断)が発生し、吹き消え後に再度放電が開始されるが、放電電流は放電開始時(絶縁破壊発生時)に最大となるため、吹き消えによって放電開始頻度が高くなると、プラグ溶融によって点火プラグの摩耗が促進されるという課題がある。したがって、上記従来の装置においては、点火プラグの摩耗を抑制するための放電制御において改良する余地があった。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、多重点火を行う場合において、2つのコイル対に供給する点火信号をより適切に生成し、点火プラグの摩耗を抑制することができる点火装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、点火プラグ(1)と、該点火プラグに火花放電を発生させるためのコイル対(11,12)を1つの点火プラグに対応して2つ備える駆動回路(2)と、前記駆動回路の第1コイル対(11)に供給する第1点火信号(SI1)及び前記駆動回路の第2コイル対(12)に供給する第2点火信号(SI2)を生成する制御手段とを備える、内燃機関の点火装置において、前記制御手段は、前記第1コイル対(11)を構成する第1一次コイル(11a)の通電によって発生する放電の開始から終了までの第1放電期間(TSP1)と、前記第2コイル対(12)を構成する第2一次コイル(12a)の通電によって発生する放電の開始から終了までの第2放電期間(TSP2)とが一部において重複し、その重複放電期間(TOVL)が設定重複期間(TOVLSET)となり、かつ前記第1放電期間(TSP1)の始期(t2)が前記第2放電期間(TSP2)の始期(t3)より前となるように、前記第1及び第2点火信号(SI1,SI2)を生成し、前記設定重複期間(TOVLSET)は、前記第1放電期間(TSP1)と、前記点火プラグにおける放電電流が短時間遮断される吹き消えが発生しない放電電流値の最小値である吹き消え閾値(ISPTH)と、前記第1放電期間の始期(t2)の放電電流値である放電開始電流値(ISPPKL)とに応じて設定されることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、第1及び第2点火信号は下記の条件を満たすように生成される:
1)第1一次コイルの通電によって発生する放電の開始から終了までの第1放電期間と、第2一次コイルの通電によって発生する放電の開始から終了までの第2放電期間とが一部において重複し、
2)第1放電期間の始期が第2放電期間の始期より前となり、
3)重複放電期間が、第1放電期間と、吹き消え閾値と、第1放電期間始期の放電電流値である放電開始電流値とに応じて設定される設定重複期間と等しくなる。
【0008】
このように第1及び第2点火信号を生成し、設定重複期間を適切に設定することによって、吹き消えが発生しない範囲で放電電流の最大値を可能な限り低減した多重点火を行うことが可能となり、点火プラグの摩耗を抑制することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の点火装置において、前記制御手段は、前記第1及び第2一次コイル(11a,12a)の通電期間(TON1,TON2)を同一として、前記第1一次コイル(11a)の通電開始時期(t0)からオフセット期間(TOFS)経過後に前記第2一次コイル(12a)の通電を開始し、前記オフセット期間(TOFS)は、前記第1放電期間(TSP1)から前記設定重複期間(TOVLSET)を減算した期間であることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、第1及び第2一次コイルの通電期間が同一とされ、第1一次コイルの通電開始時期からオフセット期間経過後に第2一次コイルの通電が開始され、オフセット期間は、第1放電期間から設定重複期間を減算した期間とされる。このように第1及び第2一次コイルの通電制御を行うことによって、重複放電期間を設定重複期間に一致させる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の点火装置において、前記設定重複期間(TOVLSET)は、下記式(A)によって算出される目標期間(TTGT)の近傍の期間であってかつ該目標期間(TTGT)以上の期間に設定されることを特徴とする:
TTGT=TSP1×ISPTH/ISPPKL (A)
ここで、TTGTは前記目標期間、TSP1は前記第1放電期間、ISPTHは前記吹き消え閾値、ISPPKLは前記放電開始電流値である。
【0012】
この構成によれば、設定重複期間は、式(A)によって算出される目標期間の近傍であって目標期間以上の値に設定され、吹き消えが発生しない範囲で放電電流の最大値を最小とし、スパッタリングによる点火プラグの摩耗を抑制するための最適値とすることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の点火装置において、前記制御手段は、前記機関の燃焼室内で発生するガス流動と相関がある機関運転パラメータ(NE,GA)に応じて前記吹き消え閾値(ISPTH)を算出する吹き消え閾値算出手段を備え、該吹き消え閾値算出手段により算出された吹き消え閾値(ISPTH)を用いて前記設定重複期間(TOVLSET)の設定を行うことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、機関の燃焼室内で発生するガス流動と相関がある機関運転パラメータに応じて吹き消え閾値が算出され、その吹き消え閾値を用いて設定重複期間の設定が行われる。吹き消え閾値は、燃焼室内で発生するガス流動状態に依存して変化するため、そのガス流動と相関がある機関運転パラメータに応じて吹き消え閾値を算出し、算出された吹き消え閾値を用いて設定重複期間の設定を行うことによって、機関運転状態に対応して適切な設定重複期間の設定を行うことができる。例えば、機関の低回転運転状態または低負荷運転状態では、吹き消え閾値は比較的小さくなるため、対応して設定重複期間を短縮することによって、放電電流の最大値を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関の点火装置要部の構成を示す図である。
図2】点火装置に含まれる2つのコイル対と、該コイル対が巻回された鉄心とを示す縦断面である。
図3】機関回転数(NE)と、二次コイル(11b,12b)の両端電圧のピーク値(VbP)との関係を説明するための図である。
図4】重複点火モード及び交互点火モードにおける点火信号(SI1,SI2)、二次コイル電流(IC1b,IC2b)、及び放電電流(ISP)の推移を示すタイムチャートである。
図5】重複点火モードにおける点火信号(SI1,SI2)及び放電電流(ISP)の推移を示すタイムチャートである。
図6】2つの一次コイルの通電開始時期の差を示すオフセット期間(TOFS)と、ピーク放電電流(ISPPK)及び最小放電電流(ISPMN)との関係を示す図である。
図7】最小放電電流(ISPMN)の最大値(ISPPKL)及び放電期間(TSP)に依存して、吹き消えを防止できるオフセット期間(TOFSTH)が変化することを説明するために示す図である。
図8】重複点火モードにおける2つの点火信号(SI1,SI2)の通電期間(TON1,TON2)が異なる場合を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる内燃機関の点火装置要部の構成を示す図であり、図2は点火装置に含まれる2つのコイル対と、該コイル対が巻回された鉄心とを示す縦断面である。
【0017】
内燃機関(図示せず)は例えば4気筒を有し、各気筒には点火プラグ1が装着されている。点火プラグ1に火花放電を発生させるための駆動回路2は、2つのコイル対11,12を備え、第1コイル対11は、一次コイル11a及び二次コイル11bを鉄心10に巻回することによって構成され、第2コイル対12は、一次コイル12a及び二次コイル12bを鉄心10に巻回することによって構成される。
【0018】
鉄心10は、複数の薄い鉄板を積層した部材を隙間無く接触させることによって構成され、図2に示すように、第1コイル対11が巻回される第1中心鉄心10aと、第2コイル対12が巻回される第2中心鉄心10aと、中心鉄心10a,10bとともに磁気回路を構成する外周鉄心10c,10dとで構成される。外周鉄心10cは、第1コイル対11の一次コイル11aに通電することにより発生する磁束と、第2コイル対12の一次コイル12aに通電することにより発生する磁束とがともに通るため、外周鉄心10cの断面積は中心鉄心10a,10bの断面積より大きくなるように構成されている。
【0019】
一次コイル11a,12aの一端はバッテリ4の正極に接続され、他端はスイッチング素子としてのトランジスタQ1,Q2にコレクタに接続されている。トランジスタQ1,Q2のエミッタはアースに接続され、ベースはそれぞれ電子制御ユニット(以下「ECU」という)3に接続されている。トランジスタQ1,Q2のベースには、ECU3から点火信号SI1,SI2が供給され、トランジスタQ1,Q2のオンオフが制御される。
【0020】
点火プラグ1の一方の電極はアースに接続され、他方の電極はダイオードD1,D2を介して二次コイル11b,12bの一端に接続されている。二次コイル11b,12bの他端はアースに接続されている。
【0021】
ECU3には、機関回転数NEを検出する回転数センサ21、機関の吸入空気流量GAを検出する吸入空気流量センサ22、及び図示しない他のセンサが接続されており、それらのセンサの検出信号が、ECU3に供給される。ECU3は、それらのセンサの検出信号に基づいて、燃料噴射弁(図示せず)による燃料噴射量の制御、及び以下に説明する点火制御(点火信号SI1,SI2の生成)を行う。
【0022】
点火信号SI1,SI2によってトランジスタQ1,Q2がオンすると、一次コイル11a,12aに一次電流が供給される。トランジスタQ1,Q2がオフすると、二次コイル11b,12bの両端に高電圧が発生し、点火プラグ1の電極間において火花放電が発生する。放電電流ISPは放電開始当初が最大で、時間経過に伴って徐々に減少する。
【0023】
本実施形態では、第1及び第2コイル対11,12の二次コイル11b,12bの両端に、比較的短い時間間隔で二次電圧Vbを発生させる重複点火モードと、第1及び第2コイル対11,12による点火を1燃焼サイクル毎に交互に行う交互点火モードとを機関回転数に応じて切り換える制御を行う。
【0024】
図3は、機関回転数NEと、二次コイル11b,12bの両端電圧のピーク値(以下「ピーク二次電圧」という)VbPとの関係を説明するための図であり、実線L1は重複点火モードに対応し、実線L2は交互点火モードに対応する。図3(a)から明らかなように、重複点火モードでは、交互点火モードに比べてピーク二次電圧VbPが低下する。また、図3(a)に示す破線L3は、点火プラグ1が劣化していない状態における要求点火電圧(以下「初期要求点火電圧」という)VIGINIに対応し、実線L4は摩耗などによって点火プラグ1が劣化した状態における要求点火電圧(以下「劣化要求点火電圧」という)VIGDETに対応する。要求点火電圧は、点火プラグ1に放電を発生させる最低電圧である。なお機関回転数NEが高くなるほど、ピーク二次電圧VbPを低下させているのは、コイル対の温度上昇を抑制するためである。
【0025】
図に示すように劣化要求点火電圧VIGDETは、初期要求点火電圧VIGINIより高くなるため、機関回転数NEが高くなると重複点火モードではピーク二次電圧VbPが劣化要求点火電圧VIGDETより低くなり、点火ができなくなる。これに対し、交互点火モードでは、高回転状態においてもピーク二次電圧VbPが劣化要求点火電圧VIGDETより高くなるため、確実に点火することができる。
【0026】
そこで本実施形態では、図3(b)に示すように機関回転数NEが回転数閾値NETH(例えば4000rpm)以下であるときは、重複点火モードによる点火を実行し、機関回転数NEが回転数閾値NETHより高いときは、交互点火モードによる点火を実行する点火制御を行う。
【0027】
図4は、重複点火モード及び交互点火モードにおける点火信号SI1,SI2、二次コイル11b,12bを流れる二次コイル電流IC1b,IC2b、及び放電電流ISPの推移を示すタイムチャートであり、図4(a)が重複点火モードに対応し、図4(b)が交互点火モードに対応する。なお、二次コイル電流IC1b,IC2b及び放電電流ISPは負値で(「0」の状態から下方向に増加するように)示されているが、本明細書の説明は、放電電流値の大小関係あるいは増加/減少については、絶対値に着目した記載としている。
【0028】
重複点火モードでは、点火信号SI1,SI2はそれぞれ1燃焼サイクルTCYCL毎に若干の時間差をもって出力され、点火信号のオフ時点から放電が開始されて、二次コイル電流IC1b,IC2bが流れ、点火プラグ電極間の放電電流ISPは、二次コイル電流IC1b,IC2bの和となる。したがって、放電電流ISPのピーク値は1つのコイル対のみによる点火時のピーク値より大きくなる。
【0029】
交互点火モードでは、1燃焼サイクル毎に点火信号SI1またはSI2が出力され、二次コイル電流IC1b,IC2bは1燃焼サイクル毎に交互に流れる。したがって、放電電流ISPのピーク値は1つのコイル対のみによる点火時のピーク値と等しくなる。
【0030】
図5は、重複点火モードにおける点火信号SI1,SI2、二次電流IC1b,IC2b、及び放電電流ISPの推移を示すタイムチャートであり、図5を参照して重複点火モードにおける点火信号SI1,SI2の生成方法をより具体的に説明する。なお、以下の説明では、第1コイル対11に関連する部材名称及びパラメータには適宜「第1」を付し、第2コイル対12に関連する部材名称及びパラメータには適宜「第2」を付す。
【0031】
点火信号SI1,SI2は、時刻t0からt2までの期間において第1一次コイル11aの通電が行われ、時刻t1からt3までの期間において第2一次コイル12aの通電が行われるように、すなわち第1及び第2一次コイル11a,12aの通電期間の一部が重複し、かつ第1一次コイル11aの通電終了時t2より後の時刻t3において第2一次コイル12aの通電が終了するように生成される。
【0032】
その場合の放電電流ISPは、時刻t2において第1一次コイル11aの通電終了に対応するピーク値をとり、その後漸減し、時刻t3において第2一次コイル12aの通電終了に対応するピーク値をとる。ここで、図5に示す最大のピーク値をピーク放電電流ISPPKと定義し、時刻t3において第2二次コイル電流IC2bが流れ始める直前の放電電流を最小放電電流ISPMNと定義し、時刻t0からt1までの期間をオフセット期間TOFSと定義すると、オフセット期間TOFSと、ピーク放電電流ISPPK及び最小放電電流ISPMNとの関係は、図6に示すようになる。図6においては、破線がピーク放電電流ISPPKに対応し、実線が最小放電電流ISPMNに対応する。
【0033】
なお、本実施形態では、第1一次コイル11aの通電期間TON1と、第2一次コイル12aの通電期間TON2とは、同一である。また、第1二次コイル11bを第1二次電流IC1bが流れる期間、換言すれば第1一次コイル11aの通電によって発生する放電の開始(t2)から終了(t4)までの期間を第1放電期間TSP1と定義し、第2二次コイル12bを第2二次電流IC2bが流れる期間、換言すれば第2一次コイル12aの通電によって発生する放電の開始(t3)から終了(t5)までの期間を第2放電期間TSP2と定義する。
【0034】
オフセット期間TOFSが「0」であるとき、すなわち第1及び第2一次コイル11a,12aの通電期間が全部重複しているときは、二次コイル電流IC1b,IC2bが重なるため、放電電流ISPの時刻t3における極小値を示すピークが消失するが、最小放電電流ISPMNは、第1コイル対11に対応する二次コイル電流IC1bのピーク値(以下「最小ピーク値」という)ISPPKLと等しいみなすことができる。またピーク放電電流ISPPKは、最小ピーク値ISPPKLの約2倍に相当する最大ピーク値ISPPKHと等しくなる。最小ピーク値ISPPKLは、第1コイル対11で発生する二次電圧による放電の開始時の放電電流値に相当する。
【0035】
オフセット期間TOFSが増加するほど、最小放電電流ISPMN及びピーク放電電流ISPPKは減少し、オフセット期間TOFSが、第1放電期間TSP1と等しくなると、最小放電電流ISPMNは「0」となり、ピーク放電電流ISPPKは最小ピーク値ISPPKLとなる。
【0036】
最小放電電流ISPMNが小さくなると、放電電流の短時間の遮断(以下「吹き消え」という)が発生する。吹き消えが発生すると、その後第2一次コイル12aの通電終了によって再度放電が開始されるため、放電開始頻度が高くなり、点火プラグ1の摩耗を促進する。したがって、最小放電電流ISPMNが適切な値をとるように点火信号SI1,SI2を生成する必要がある。
【0037】
図6に示すISPTHは、吹き消えが全く発生しない放電電流の最小値(例えば30mA程度である)を示し、以下「吹き消え閾値ISPTH」という。最小放電電流ISPMNが吹き消え閾値ISPTH以上であれば、吹き消えを確実に防止できる。よって、吹き消えを確実に防止できる最大のオフセット期間TOFSは、同図に示すTOFSTHであり、以下「吹き消え防止オフセット期間TOFSTH」という。なお、吹き消え閾値ISPTHは、内燃機関の運転状態に依存して変化し、機関回転数が増加するほど、また機関負荷が増加するほど増加する傾向がある。したがって、本実施形態では、最も条件が厳しい高回転高負荷状態において吹き消えが発生しない値に予め設定される。
【0038】
オフセット期間TOFSが減少するほど、ピーク放電電流ISPPKが増加し、点火プラグ1においてスパッタリングによる摩耗が発生する可能性が高くなる。したがって、オフセット期間TOFSを吹き消え防止オフセット期間TOFSTHに設定することにより、吹き消えが発生しない範囲でピーク放電電流ISPPKを最小とすることができ、点火プラグ1の摩耗を抑制するための最適な設定となる。
【0039】
このようにオフセット期間TOFSを吹き消え防止オフセット期間TOFSTHに設定することは、2つのコイル対11,12のそれぞれの二次電圧による第1放電期間TSP1及び第2放電期間TSP2の重複放電期間TOVLを、下記式(1)によって算出される目標期間TTGTに設定することに相当する。式(1)は、オフセット期間TOFSと、最小放電電流ISPMNとの関係が、図6に示すようにほぼ直線関係となることに基づいている。
TTGT=TSP1×ISPTH/ISPPKL (1)
【0040】
重複放電期間TOVLが目標期間TTGTと等しくなるように設定することが望ましいが、完全に一致させることは困難であることから、重複放電期間TOVLが目標期間TTGT以上であってかつ目標期間TTGTに近い設定重複期間TOVLSETとなるように、点火信号SI1,SI2を生成する。このような設定重複期間TOVLSETを実現するには、オフセット期間TOFSを下記式(2)によって設定すればよい。本実施形態では、第1通電期間TON1は第2通電期間TON2と等しいので、時刻t0からt1までのオフセット期間TOFSは、時刻t2からt3までの期間と等しいことから、式(2)が得られる。
TOFS=TSP1−TOVLSET (2)
【0041】
図7は、最小放電電流ISPMNの最大値である最小ピーク値ISPPKL、すなわち第1コイル対11の二次電圧による放電開始時の放電電流値、及び放電期間TSP1に依存して、吹き消え防止オフセット期間TOFSTHが変化することを説明するために示す図である。最小ピーク値ISPPKL及び放電期間TSP1は、コイル対11及び12の仕様によって決まるパラメータである。
【0042】
図7(a)は、最小ピーク値ISPPKLが比較的小さい50mA程度であり、かつ放電期間TSP1が比較的短い場合を示す。この場合には、吹き消え閾値ISPTHは変化しないため、吹き消え防止オフセット期間TOFSTHは放電期間TSP1に対して相対的に短くなり、重複放電期間TOVLが相対的に長くなる(放電期間TSP1の60%程度となる)。
【0043】
図7(b)は、最小ピーク値ISPPKLが比較的大きい100mA程度であり、かつ放電期間TSP1が比較的長い場合を示す。この場合には、吹き消え防止オフセット期間TOFSTHは放電期間TSP1に対して相対的に長くなり、重複放電期間TOVLは相対的に短くなる(放電期間TSP1の30%程度となる)。
【0044】
図7(a)は、重複放電期間TOVLの放電期間TSP1に対する比率RTOVLがほぼ最大となる場合に対応し、図7(b)は、重複期間比率RTOVLがほぼ最小となる場合に対応する。すなわち、最小ピーク値ISPPKLと放電期間TSP1の他の組み合わせに対応する重複期間比率RTOVLは、30%から60%の間の値となる。
【0045】
以上のように本実施形態では、1)第1一次コイル11aの通電によって発生する放電の開始から終了までの第1放電期間TSP1と、第2一次コイル12aの通電によって発生する放電の開始から終了までの第2放電期間TSP2とが一部において重複し、2)第1放電期間TSP1の始期(t2)が第2放電期間TSP2の始期(t3)より前となり、3)重複放電期間TOVLが、第1放電期間TSP1と、吹き消え閾値ISPTHと、第1放電開始時の放電電流値である最小ピーク値ISPPKLとに応じて設定される設定重複期間TOVLSETとなるように、第1及び第2点火信号SI1,SI2が生成される。そして設定重複期間TOVLSETは、放電期間TSP、吹き消え閾値ISPTH、及び最小ピーク値ISPPKLを式(1)に適用して算出される目標期間TTGT以上であって目標期間TTGT近傍の値となるように設定される。したがって、吹き消えが発生しない範囲でピーク放電電流ISPPKを最小として重複点火モードの点火を行うことが可能となり、点火プラグ1の摩耗抑制のための最適な設定で重複点火(多重点火)を行うことができる。
本実施形態では、ECU3が制御手段を構成する。
【0046】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、吹き消え閾値ISPTHを最も厳しい高回転高負荷運転状態において吹き消えが発生しないように予め設定するようにしたが、機関運転中に検出される燃焼室内の混合気の流動(ガス流動)を示すパラメータ、例えば機関回転数NE及び吸入空気流量GAに応じて、吹き消え閾値ISPTHを設定するようにしてもよい。その場合には、機関回転数NEが高くなるほど吹き消え閾値ISPTHが増加するように設定し、吸入空気流量GAが高くなるほど吹き消え閾値ISPTHが増加するように設定する。
【0047】
この変形例によれば、上述した実施形態に比べて、低回転運転状態あるは低負荷運転状態において、吹き消え閾値ISPTHをより小さい値に設定することでき、ピーク放電電流ISPPKをより低減することが可能となる。その結果、点火プラグ1の摩耗をより抑制することができる。
この変形例では、ECU3が吹き消え閾値算出手段を構成する。
【0048】
また上述した実施形態では、第2通電期間TON2を第1通電期間TON1と同一期間としたが、異なる期間に設定した場合も本発明を適用可能である。例えば、図8に示すように、第2通電期間TON2を第1通電期間TON1より差分DTだけ短く設定した場合には、通電期間の始期の時間差であるオフセット期間TOFSと、通電期間の終期の時間差である終期オフセット期間TOFSEとの関係は、下記式(3)で与えられる。
TOFS=TOFSE+DT (3)
【0049】
また終期オフセット期間TOFSEの望ましい設定は、下記式(2a)で与えられるので、オフセット期間TOFSは下記式(4)で与えられる。
TOFSE=TSP1−TOVLSET (2a)
TOFS=TSP1−TOVLSET+DT (4)
【符号の説明】
【0050】
1 点火プラグ
2 駆動回路
3 電子制御ユニット(制御手段、吹き消え閾値算出手段)
10 鉄心
11,12 コイル対
11a,12a 一次コイル
11b,12b 二次コイル
ISPTH 吹き消え閾値
ISPPK ピーク放電電流
SI1,SI2 点火信号
TON1,TON2 通電期間
TOFS オフセット期間
TOVL 重複放電期間
TOVLSET 設定重複期間
TSP1,TSP2 放電期間
NE 機関回転数
GA 吸入空気流量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8