(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1に示すように、無灰炭製造設備100は、無灰炭(HPC)製造工程の上流側から順に、石炭ホッパ1・溶剤タンク2、スラリー調製槽3、移送ポンプ4、脱水槽5、熱交換器6、移送ポンプ7、予熱器8、抽出槽9、重力沈降槽10を備えている。
【0015】
また、図示しないが、重量沈降槽10の下流側には、当該重量沈降槽10で分離された溶剤不溶成分濃縮液(固形分濃縮液)から溶剤を蒸発分離するための(固形分濃縮液から溶剤を分離・回収するための)溶剤分離器が配置されている。
【0016】
また、無灰炭製造設備100は、溶剤含有水を溶剤と水とに分離するための溶剤分離用圧力容器11と、当該溶剤分離用圧力容器11に供給する溶剤含有水と液体との熱交換を行う排熱回収ボイラ12と、を備えている。この溶剤分離用圧力容器11は、脱水槽5に管23で接続されている。また、排熱回収ボイラ12は、管23の途中に管24で接続されている。また、排熱回収ボイラ12は、抽出槽9に管25で接続されている。すなわち、本実施形態では、無灰炭を製造するプロセスのうち抽出工程で生じる気体の溶剤含有水を、脱水槽5及び抽出槽9から溶剤分離用圧力容器11に供給して液体の溶剤と液体の水とに分離している。
【0017】
なお、溶剤分離用圧力容器11は、脱水槽5に管23で接続されていなくてもよい。しかしながら、溶剤分離用圧力容器11を、管23で脱水槽5に接続することで、脱水槽5でスラリーが予備加熱されて蒸発した溶剤含有水を、溶剤分離用圧力容器11にて溶剤と水とに分離することができる。
【0018】
また、石炭に含まれる水分濃度が低い場合は、無灰炭製造装置100は、脱水槽5、熱交換器6、および、移送ポンプ7がなく、移送ポンプ4が予熱器8に接続されていても良い。すなわち、石炭に含まれる水分濃度が低い場合は、無灰炭を製造するプロセスのうち脱水工程を省略しても良い。
【0019】
さらには、排熱回収ボイラ12は、管23の途中に管24で接続されているのではなく、溶剤分離用圧力容器11に管24で接続されていてもよい。即ち、1つの溶剤分離用圧力容器11が、脱水槽5および排熱回収ボイラ12を介して抽出槽9の両方に接続されていてもよいし、脱水槽5および排熱回収ボイラ12を介して抽出槽9のそれぞれに1つずつ溶剤分離用圧力容器11が接続されていてもよい。
【0020】
また、溶剤分離用圧力容器11は、重力沈降槽10に管などで接続されていてもよい。すなわち、抽出工程で生じる気体の溶剤含有水(溶剤は液体であり、水蒸気に溶剤が混入している)を、重力沈降槽10から溶剤分離用圧力容器11に供給して溶剤と水とに分離してもよい。また、溶剤分離用圧力容器11を重力沈降槽10に接続することで、重力沈降槽10で微量の水分が発生した場合、ここで生じた溶剤含有水を溶剤分離用圧力容器11にて溶剤と水とに分離することができる。
【0021】
さらには、1つの溶剤分離用圧力容器11が、抽出槽9および重力沈降槽10の両方に接続されていてもよいし、抽出槽9および重力沈降槽10のそれぞれに1つずつ溶剤分離用圧力容器11が接続されていてもよい。重力沈降槽10に供給されたスラリーに水分が残存する場合には、重力沈降槽10から溶剤分離用圧力容器11に溶剤を含有する気体の溶剤含有水を排出することで水分を除去することができる。
【0022】
また、溶剤分離用圧力容器11は、スラリー調整槽3に管などで接続されていてもよい。水分を多く含んだ石炭を扱う場合には、スラリー調整槽3を水の沸点付近である100〜120℃に加温して石炭から水分を蒸発回収し、抽出工程へ送液するスラリー中の水分濃度を減らすことができるためである。ここで生じた溶剤含有水をスラリー調整槽3から溶剤分離用圧力容器11に供給して溶剤と水とに分離することができる。
【0023】
また、排熱回収ボイラ12は、管25により抽出槽9に接続されている。排熱回収ボイラ12は、抽出槽6から溶剤分離用圧力容器11に供給する溶剤含有水と液体との熱交換を行う。また、排熱回収ボイラ12は、管24により溶剤分離用圧力容器11に接続されている管23の途中に接続される。そして、排熱が回収された溶剤含有水は、管23を介して溶剤分離用圧力容器11に供給される。
【0024】
ここで、
図2に示すように、排熱回収ボイラ12は、脱水槽5に接続された熱交換器6に接続されていても良い。そして、排熱回収ボイラ12で溶剤含有水が有する排熱を回収することにより発生された蒸気を、脱水槽5に接続された熱交換器6に供給して、熱交換器6における熱交換に利用する。
【0025】
また、溶剤分離用圧力容器11に接続されている管24の途中にタンクを設置してもよい。当該タンクの中で溶剤含有水を一旦液体に凝縮させ(溶剤含有水の温度を低下させることで溶剤含有水を凝縮させる)、その後に再度水の沸点以上の温度に加温することで溶剤含有水から水分を蒸発させる。これにより得られた水分濃度を濃縮させた蒸気(溶剤が混入している)を溶剤分離用圧力容器11に当該タンクから送る。この工程により、溶剤分離用圧力容器11に送られる溶剤含有水中の溶剤濃度が低下し、溶剤のロス率をより低下させることができる。なお、当該タンクに残った溶剤は、タンクから抜き出されて再使用される。
【0026】
(無灰炭を製造するプロセス)
ここで、無灰炭の製造方法(無灰炭を製造するプロセス)は、スラリー調製工程、脱水工程、抽出工程、分離工程、および無灰炭取得工程を有する。以下、これらの各工程について説明しつつ、無灰炭を製造するプロセスで生じる溶剤含有水を溶剤と水とに分離する方法について説明する。なお、無灰炭の製造において原料とする石炭に、特に制限はなく、抽出率(無灰炭回収率)の高い瀝青炭を用いてもよいし、より安価な劣質炭(亜瀝青炭、褐炭)を用いてもよい。また、無灰炭とは、灰分が5重量%以下、好ましくは3重量%以下のもののことをいう。
【0027】
<スラリー調製工程>
スラリー調製工程は、石炭と溶剤とを混合してスラリーを調製する工程である。スラリー調製工程は、
図1および
図2中、スラリー調製槽3で実施される。原料である石炭が石炭ホッパ1からスラリー調製槽3に投入されるとともに、溶剤タンク2からスラリー調製槽3に溶剤が投入される。スラリー調製槽3に投入された石炭および溶剤は、攪拌機3aで混合されて石炭と溶剤とからなるスラリーとなる。
【0028】
石炭と溶剤とを混合して得られるスラリーを加熱して溶剤に可溶な石炭成分を抽出するにあたっては、石炭に対して大きな溶解力を持つ溶媒、多くの場合、芳香族溶剤(水素供与性あるいは非水素供与性の溶剤)と、石炭とを混合して、それを加熱し、石炭中の有機成分を抽出することになる。
【0029】
非水素供与性溶剤は、主に石炭の乾留生成物から精製した、2環芳香族を主とする溶剤である石炭誘導体である。非水素供与性溶剤の主な成分としては、2環芳香族であるナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレン等が挙げられ、その他の非水素供与性溶剤の成分として、脂肪族側鎖を有するナフタレン類、アントラセン類、フルオレン類、また、これらにビフェニルや長鎖脂肪族側鎖を有するアルキルベンゼンが含まれる。なお、テトラリンを代表とする水素供与性の化合物(石炭液化油を含む)を溶剤として用いてもよい。
【0030】
これら溶剤の比重(同体積の水の重さとの比)は、室温(常温)で約1である。
【0031】
また、溶剤の沸点は特に制限されるものではない。抽出工程および分離工程での圧力低減、抽出工程での抽出率、無灰炭取得工程などでの溶剤回収率などの観点から、例えば、180〜300℃、特に240〜280℃の沸点の溶剤が好ましく使用される。
【0032】
溶剤に対する石炭の混合比率は、例えば、乾燥炭基準で10〜50重量%であり、より好ましくは、20〜35重量%である。
【0033】
<脱水工程>
脱水工程は、スラリー調製工程で調製されたスラリーを予備加熱して脱水する工程である。脱水工程は、
図1および
図2中、脱水槽5および熱交換器6で実施される。スラリー調製槽3にて調製されたスラリーは、移送ポンプ4によって、一旦、脱水槽5に供給される。そして、スラリーは、熱交換器6で熱交換されて予備加熱された後、脱水槽5に戻される。熱交換器6において予備加熱されたスラリーは、脱水槽5において攪拌機5aで攪拌されて、石炭から水分が分離される。即ち、脱水槽5において、スラリーは脱水されて、石炭保有水分量が減少する。
【0034】
脱水工程でのスラリーの脱水温度は、例えば、水の沸点以上、溶剤の沸点未満の100〜150℃である。
【0035】
尚、脱水工程は、石炭に含まれる水分濃度が低い場合は、省略することができる。脱水工程を省略した場合、スラリー調製工程で調製されたスラリーは、抽出工程において、加熱されて溶剤に可溶な石炭成分を抽出される(溶剤に溶解させる)。
【0036】
<抽出工程>
抽出工程は、脱水工程で脱水されたスラリーを加熱して溶剤に可溶な石炭成分を抽出する(溶剤に溶解させる)工程である。抽出工程は、
図1および
図2中、予熱器8および抽出槽9で実施される。脱水槽5にて脱水されたスラリーは、移送ポンプ7によって、一旦、予熱器8に供給されて所定温度まで加熱された後、抽出槽9に供給され、攪拌機9aで攪拌されながら所定の加熱温度で保持されて抽出が行われる。
【0037】
抽出工程でのスラリーの加熱温度は、溶剤可溶成分が溶解され得る限り特に制限されず、溶剤可溶成分の十分な溶解と抽出率の向上の観点から、例えば、300〜420℃であり、より好ましくは、360〜400℃である。
【0038】
また、加熱時間(抽出時間)もまた特に制限されるものではないが、十分な溶解と抽出率の向上の観点から、例えば、10〜60分間である。加熱時間は、
図1および
図2中、予熱器8および抽出槽9での加熱時間を合計したものである。
【0039】
なお、抽出工程は、窒素などの不活性ガスの存在下で行う。抽出槽9内の圧力は、抽出の際の温度や用いる溶剤の蒸気圧にもよるが、1.0〜2.0MPaが好ましい。抽出槽9内の圧力が溶剤の蒸気圧より低い場合には、溶剤が揮発して液相に閉じ込められず、抽出できない。溶剤を液相に閉じ込めるには、溶剤の蒸気圧より高い圧力が必要となる。一方、圧力が高すぎると、機器のコスト、運転コストが高くなり、経済的ではない。
【0040】
(溶剤と水との分離方法)
上記したように、石炭成分の抽出において、抽出槽9で例えば300〜420℃の温度にスラリーは加熱される。ここで、このような高温下においては、石炭は熱分解反応を起こし、メタン(CH
4)、二酸化炭素(CO
2)、水(H
2O)などが発生する。また、原料の石炭は、そもそも水分を含んでおり、水は溶剤に不溶なので、溶剤による石炭成分の抽出に際し、石炭から水分が分離する。ここで、無灰炭を製造するプロセスで生じる溶剤含有水を溶剤と水とに分離する方法は、排熱回収工程、溶剤含有水供給工程と、温度保持工程を有する。以下、これらの各工程について説明する。
【0041】
<排熱回収工程>
排熱回収工程は、溶剤含有水が有する排熱を回収する工程である。排熱回収工程は、
図1および
図2中、排熱回収ボイラ12で実施される。抽出槽9において熱分解により石炭から発生した水(H2O)、および石炭成分の抽出に際し石炭から分離した水分(H2O)は、溶剤を含有したガス状態(溶剤含有水蒸気の状態)で、管25を介して排熱回収ボイラ12に供給される。ここで、抽出工程において加熱されたガス状態の溶剤含有水は、上述の通り、例えば300〜420℃の温度である。
【0042】
排熱回収ボイラ12では、抽出槽9から溶剤分離用圧力容器11に供給する溶剤含有水蒸気と液体とが熱交換されることで、溶剤含有水が有する排熱を回収して、温度保持工程において溶剤含有水を溶剤分離用圧力容器で保持される温度に近い温度に低下させる。溶剤含有水と熱交換を行う液体として、脱塩水を使用することができる。すなわち、抽出槽9から溶剤分離用圧力容器11に供給する溶剤含有水と、例えば常温の脱塩水との熱交換により、蒸気を発生させて、溶剤含有水が有する排熱を回収する。尚、溶剤含有水と熱交換を行う液体として、無灰炭を製造するプロセスで生じるスチームコンデンセートを利用してもよい。ここで、排熱回収ボイラ12で溶剤含有水が有する排熱を回収することにより、例えば130〜230℃の温度の蒸気が発生される。また、排熱回収ボイラ12で排熱が回収された溶剤含有水は、例えば150〜250℃の温度に低下され、管24に供給される。尚、排熱回収ボイラ12で排熱が回収された溶剤含有水の温度及び排熱回収ボイラ12で排熱を回収することにより生じる蒸気の温度は、排熱回収ボイラ12における設計条件等により変化する。
【0043】
また、
図2に示すように、排熱回収ボイラ12は、脱水槽5に接続された熱交換器6に接続されている場合、排熱回収ボイラ12で溶剤含有水が有する排熱を回収することにより発生された、例えば180〜230℃の温度の蒸気が、脱水槽5に接続された熱交換器6に供給される。そして、熱交換器6で脱水槽5内のスラリーと熱交換器6に供給された蒸気とで熱交換を行い、脱水槽5内のスラリーを、例えば100〜150℃の温度になるように予備加熱する。尚、熱交換器6で予備加熱されるスラリーの温度は、熱交換器6における熱交換プロセス条件等により変化する。また、熱交換器6に供給された蒸気は、熱交換機6において熱交換されることにより、温度が低下して凝縮されて、凝縮水として排出される。排熱回収ボイラ12で排熱が回収された溶剤含有水は、例えば200〜250℃の温度に低下され、管24に供給される。尚、排熱回収ボイラ12で排熱が回収された溶剤含有水の温度は、排熱回収ボイラ12における設計条件等により変化する。
【0044】
<溶剤含有水供給工程>
溶剤含有水供給工程は、溶剤含有水を溶剤分離用圧力容器に供給する工程である。溶剤含有水供給工程は、
図1および
図2中、管23および管24で実施される。排熱回収ボイラ12で排熱が回収された溶剤含有水は、管24を介して溶剤分離用圧力容器11に供給される(排出される)。また、脱水槽5において脱水されて生じた水蒸気には溶剤が混入されており、溶剤含有水として、管23を介して溶剤分離用圧力容器11に供給される(排出される)。ここでは、管24は、管23の途中に接続されているため、脱水槽4からの例えば100〜150℃の温度の溶剤含有水と、排熱回収ボイラ12からの例えば150〜250℃(または、200〜250℃)の温度の溶剤含有水とが、管23で混合されて、例えば100〜180℃の温度の溶剤含有水として、溶剤分離用圧力容器11に供給される。尚、溶剤分離用圧力容器11に供給される溶剤含有水の温度は、熱交換器6における熱交換プロセス条件や排熱回収ボイラ12における設計条件等により変化する。そして、溶剤分離用圧力容器11内の温度は、脱水槽5及び排熱回収ボイラ12内の温度よりも低くされるため、溶剤含有水は、水蒸気の状態から凝縮して液体となる。尚、脱水工程を省略した場合は、溶剤含有水供給工程では、排熱回収ボイラ12で排熱が回収された溶剤含有水のみが、溶剤分離用圧力容器11に供給される(排出される)。
【0045】
<温度保持工程>
温度保持工程は、溶剤分離用圧力容器11に供給された溶剤含有水の温度を、溶剤と水とが密度の差により分離する温度に保持する工程である。温度保持工程は、
図1および
図2中、溶剤分離用圧力容器11で実施される。排熱回収ボイラ12から管24を介して抽出槽6からおよび脱水槽5から管23を介して溶剤分離用圧力容器11に供給された溶剤含有水は、水の密度と溶剤の密度との差が大きく、溶剤と水とが密度の差により分離する温度で一定となるように、当該溶剤分離用圧力容器11内にて図示しない加温器により加温される。ここで、溶剤と水とが密度の差により分離する温度は、圧力の影響も受けるが、溶剤そのものの密度に大きく依存し、溶剤の種類によって変化するため、予め使用する溶剤と水とを用いて、複数の温度条件下で溶剤含有水を溶剤と水とに分離する実験を行うことにより、その範囲を測定する。例えば、後述する実施例の場合、溶剤分離用圧力容器11は水の密度と溶剤の密度との差が大きくなる温度である100℃以上150℃以下の温度で保持される。これにより、当該温度における水の密度と溶剤の密度との差により、溶剤分離用圧力容器11内の下部へ液体の水が下降し、溶剤分離用圧力容器11内の上部へ液体の溶剤が上昇することで、溶剤と水とが分離する。溶剤と水との分離性を向上させるために、溶剤含有水を所定の時間、静置することが好ましい。また、溶剤分離用圧力容器11は、溶剤含有水の温度を溶剤と水とが密度の差により分離する温度に保持するために、保温材で保温されていることが好ましい。なお、「静置する」とは、攪拌などを行わず、静止した状態に置くこと、をいう。
【0046】
溶剤分離用圧力容器11内の上部に溜まった溶剤は、溶剤分離用圧力容器11の上部から抜き出され、溶剤分離用圧力容器11内の下部に溜まった水は、溶剤分離用圧力容器11の下部から抜き出される。抜き出された溶剤は溶剤タンク2に戻されて再使用され、抜き出された水は廃棄される。
【0047】
また、温度保持工程は、窒素などの不活性ガスの存在下で行うことが好ましい。すなわち、溶剤分離用圧力容器11内に窒素などの不活性ガスが充填されていることが好ましい。溶剤分離用圧力容器11内の圧力は、水蒸気が凝縮して凝縮した水が液体の状態を保つように、水の飽和蒸気圧よりも高い圧力にされ、例えば、圧力容器内への窒素ガスの導入により0.3〜2.0MPaの圧力に調整される。
【0048】
また、溶剤分離用圧力容器11に供給された溶剤含有水を攪拌機などで攪拌した後、溶剤と水とが密度の差により分離する温度で一定となった時点で攪拌を止めて、静置してもよい。
【0049】
なお、溶剤分離用圧力容器11に供給された溶剤含有水の温度を、加温なしで所定の時間、溶剤と水とが密度の差により分離する温度に保持できるのであれば、加温器は不要である。
【0050】
(抽出槽9がない場合)
抽出槽9を省略して、予熱器8と重力沈降槽10との間の管内で、溶剤に可溶な石炭成分を抽出する場合もある。例えば、予熱器8と重力沈降槽10との間の管を、石炭成分の抽出に十分な長さのものなどとして、予熱器8と重力沈降槽10との間の管内で石炭成分の抽出を行う。石炭は、予熱器8と重力沈降槽10との間の加熱された高温(例えば380℃)の溶剤が流れる管内に直接供給される。この場合、排熱回収ボイラ12を重力沈降槽10に接続し、重力沈降槽10から排熱回収ボイラ12を介して排熱が回収された溶剤含有水を溶剤分離用圧力容器11に供給して(排出して)、溶剤含有水を溶剤と水とに分離する。
【0051】
無灰炭の製造工程に説明を戻す。
<分離工程>
分離工程は、抽出工程で得られたスラリーから、溶剤に溶解している石炭成分を含む溶液を分離する工程である。換言すれば、分離工程は、抽出工程で得られたスラリーを、溶剤に溶解している石炭成分を含む溶液と、溶剤不溶成分濃縮液(固形分濃縮液)とに分離する工程である。この分離工程は、
図1および
図2中、重力沈降槽10で実施される。抽出工程で得られたスラリーは、重力沈降槽10内で、重力にて、溶液としての上澄み液と、固形分濃縮液とに分離される(重力沈降法)。重力沈降槽10の上部の上澄み液は、必要に応じて図示しないフィルターユニットを経て、図示しない溶剤分離器へ排出されるとともに、重力沈降槽10の下部に沈降した固形分濃縮液は溶剤分離器へ排出される。
【0052】
重力沈降法は、スラリーを槽内に保持することにより、重力を利用して溶剤不溶成分を沈降・分離させる方法である。スラリーを槽内に連続的に供給しながら、上澄み液を上部から、固形分濃縮液を下部から連続的に排出することにより、連続的な分離処理が可能である。
【0053】
重力沈降槽10内は、石炭から溶出した溶剤可溶成分の再析出を防止するため、保温または加熱したり、加圧したりしておくことが好ましい。加熱温度は、例えば、300〜380℃であり、槽内圧力は、例えば、1.0〜3.0MPaとされる。
【0054】
なお、抽出工程で得られたスラリーから、溶剤に溶解している石炭成分を含む溶液を分離する方法として、重力沈降法以外に、濾過法、遠心分離法などがある。
【0055】
<無灰炭取得工程>
無灰炭取得工程は、上記した分離工程で分離された溶液(上澄み液)から溶剤を蒸発分離して無灰炭を得る工程である。この無灰炭取得工程は、図示しない溶剤分離器で実施される。
【0056】
溶液(上澄み液)から溶剤を分離する方法は、一般的な蒸留法や蒸発法を用いることができ、例えば、フラッシュ蒸留法が用いられる。分離して回収された溶剤はスラリー調製槽3へ循環して繰り返し使用することができる。溶剤の分離・回収により、上澄み液からは、実質的に灰分を含まない(例えば、灰分が3重量%以下)無灰炭(HPC)を得ることができる。無灰炭は、灰分をほとんど含まず、水分は皆無であり、原料石炭よりも高い発熱量を示す。さらに、製鉄用コークスの原料として特に重要な品質である軟化溶融性が大幅に改善され、原料石炭が軟化溶融性を有しなくとも、得られた無灰炭(HPC)は良好な軟化溶融性を有する。したがって、無灰炭は、例えばコークス原料の配合炭として使用することができる。
【0057】
<副生炭取得工程>
副生炭取得工程は、重力沈降槽10で分離された溶剤不溶成分濃縮液(固形分濃縮液)から溶剤を蒸発分離して副生炭を得る工程である。この副生炭取得工程は、固形分濃縮液から溶剤を蒸発分離して回収するための工程でもあり、図示しない溶剤分離器で実施される。なお、副生炭取得工程は、必須の工程ではない。
【0058】
固形分濃縮液から溶剤を分離する方法は、前記した無灰炭取得工程と同様に、一般的な蒸留法や蒸発法を用いることができる。分離して回収された溶剤は、スラリー調製槽3へ循環して繰り返し使用することができる。溶剤の分離・回収により、固形分濃縮液からは灰分などを含む溶剤不溶成分が濃縮された副生炭(RC、残渣炭ともいう)を得ることができる。副生炭は、灰分が含まれるものの水分が皆無であり、発熱量も十分に有している。副生炭は軟化溶融性を示さないが、含酸素官能基が脱離されているため、配合炭として用いた場合に、この配合炭に含まれる他の石炭の軟化溶融性を阻害するようなものではない。したがって、この副生炭は、通常の非微粘結炭と同様に、コークス原料の配合炭の一部として使用することができ、また、コークス原料炭とせずに、各種の燃料用として使用することも可能である。なお、副生炭は、回収せずに廃棄してもよい。
【0059】
(実施例)
溶剤含有水を溶剤と水とに分離する実験を行った。
図5は、溶剤含有水を溶剤と水とに分離する分離試験の概要を説明するための図である。溶剤として、2環芳香族であるメチルナフタレンを主成分とする石炭から精製した油分(石炭誘導体)を用いた。水として、蒸留水を用いた。
【0060】
実験で用いた縦長のオートクレーブ50は、φ62.3mmの円筒状の圧力容器であり、
図5に示したように、オートクレーブ50の底、および底から所定の高さの複数個所から液体を抜ける構造としている。液体のサンプリングは、オートクレーブ50の底を高さ0mmとして、0mm、170mm、380mm、590mm、700mm、800mmの計6箇所で行った。また、オートクレーブ50の内部に攪拌機50aを設置している。オートクレーブ50内に窒素ガスを充填して、オートクレーブ50内の圧力を、1.5MPaに調整した。
【0061】
溶剤:1200gと水:1200gとをオートクレーブ50に入れた。室温(常温)では、溶剤と水とは混じりあった状態で分離性は非常に悪かった。すなわち、室温(常温)では、水の密度と溶剤の密度との間にほとんど差がない。
【0062】
溶剤と水とからなる混合液を攪拌しながら所定の温度まで昇温させた。温度条件は、50℃、90℃、100℃、120℃、150℃、200℃とした。混合液の温度が所定の温度で一定となったところで攪拌を停止した。攪拌停止後、30分間、静置した。そして、サンプリング容器51a〜51fにオートクレーブ50から液体を取り出し、液体の水分濃度を測定した。結果を表1に示す。
図3は、表1に示した結果をグラフ化したものであり、縦軸は、オートクレーブ50の底からの高さであり、横軸は、水分濃度である。
【0064】
表1および
図6からわかるように、保持温度が50℃の場合、水分濃度はオートクレーブ50の高さ方向で大きくなったり小さくなったりを繰り返し、目視においても溶剤と水とが分離した傾向はあまり認められなかった。90℃、200℃の場合は、オートクレーブ50の上部において水分濃度が低い値を示したが、底部における水分濃度は十分に高い値ではない(溶剤が混合している)ため分離性能は低い。
【0065】
これに対して、保持温度が100℃、120℃、150℃の場合、オートクレーブ50の上部において水分濃度が低い値を示し、底部では高い値を示しており、底から400mm〜600mmにかけて水分濃度の大きな変化が認められた。これより、保持温度が100℃、120℃、150℃の場合、溶剤の分離性能が高いことがわかる。特に、150℃では、底部の水分濃度が最も高い98重量%を示した。これより、保持温度が150℃という温度域は、溶剤の分離条件として最も良い温度域であることがわかった。
【0066】
この分離試験により、水の密度と溶剤の密度との間の差は、温度により大きく変化する(温度に大きく依存する)ことがわかった。本発明は、このたび判明したこの性質を利用したものである。そして、本実施例の条件においては、上記の溶剤と水とが密度の差により分離する温度として、100〜150℃(好ましくは120〜150℃)の範囲を設定すると良いことがわかる。
【0067】
(作用・効果)
本発明の溶剤分離方法は、溶剤分離用圧力容器に供給された溶剤含有水の温度を、溶剤と水とが密度の差により分離する温度に保持する温度保持工程を備え、当該温度における水の密度と溶剤の密度との差を利用して、溶剤分離用圧力容器内で液体の水を下降させるとともに溶剤を上昇させることで、溶剤含有水を溶剤と水とに分離する。なお、容器内で水を液相に閉じ込めるため、圧力容器を用いている。本発明によると、圧力容器内で溶剤含有水の温度を、溶剤と水とが密度の差により分離する温度に保持することで、吸着剤などを用いることなく、溶剤含有水を溶剤と水とに容易に分離することができる。これにより、石炭成分の抽出に吸着剤を回収して再利用することができ溶剤のロスを抑えることができるとともに、水の廃棄処理コストも抑えることができる。なお、溶剤含有水を溶剤分離用圧力容器に供給する溶剤含有水供給工程は、連続で行われてもよいし、非連続で行われてもよい。
【0068】
また、前記温度保持工程において、溶剤含有水の温度を、溶剤と水とが密度の差により分離する温度に保持するとともに溶剤含有水を静置することで、溶剤と水との分離性能を向上させることができる。
【0069】
また、溶剤として2環芳香族であるメチルナフタレンを主成分とする石炭から精製した油分(石炭誘導体)を用い、水として蒸留水を用いた実施例では、温度保持工程において、溶剤分離用圧力容器内の溶剤含有水の温度を100℃以上150℃以下の温度に保持することで、溶剤と水との分離性能が非常によくなり、分離時間を短縮できる。溶剤分離用圧力容器の容量を小さくすることができるというメリットもある。より好ましくは、溶剤分離用圧力容器内の溶剤含有水の温度を120℃以上150℃以下の温度に保持することである。
【0070】
また、溶剤分離用圧力容器内の圧力が、水の飽和蒸気圧よりも高い圧力にされていることで、圧力容器内で水を確実に液相に閉じ込めることができ、溶剤と水との分離性能がより向上する。
【0071】
また、溶剤分離用圧力容器内に不活性ガスが充填されていることで、溶剤の爆発を防止することができる。
【0072】
また、排熱回収ボイラにおいて、抽出工程において加熱された溶剤含有水と脱塩水との熱交換により、蒸気を発生させて、溶剤含有水が有する排熱を回収していることで、無灰炭を製造するプロセスで生じる溶剤含有水が有する排熱を、廃棄することなく、有効利用することができる。例えば、排熱回収ボイラで溶剤含有水が有する排熱を回収することにより発生された蒸気を、脱水槽に接続された熱交換器に供給する。これにより、排熱回収ボイラで回収した溶剤含有水が有する排熱を、熱交換により脱水槽内のスラリーの予備加熱に利用して、排熱の有効利用を図ることができる。そして、抽出工程において加熱された高温の溶剤含有水の温度を低下させて、溶剤分離用圧力容器で保持される温度に近い温度で溶剤含有水を供給することで、溶剤分離用圧力容器内において、溶剤含有水の温度を低下させるための処理が不要となり、コスト及びエネルギーを抑えて、溶剤含有水の温度の保持を容易に行うことができる。
【0073】
また、無灰炭を製造するプロセスのうち前記した抽出工程で生じる溶剤含有水を溶剤分離用圧力容器に供給することが好ましい。水分が最も多く生じるのは、無灰炭を製造するプロセスのうち抽出工程であり、少なくともこの抽出工程で生じる溶剤含有水を溶剤分離用圧力容器に供給して、溶剤含有水を溶剤と水とに分離することで、水分に混入して系外に排出される溶剤のロスを確実に抑えることができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。
【0075】
(変形例)
図1および
図2に示す上記実施形態に係る無灰炭製造設備100では、脱水槽5および排熱回収ボイラ12を、溶剤分離圧力容器11に接続しているが、それに限らない。
図3の変形例に示すように、無灰炭製造設備100が、更に、気液分離用容器13及び移送ポンプ14を有し、気液分離用容器13を、溶剤分離圧力容器11に接続してもよい。脱水槽5および排熱回収ボイラ12は、気液分離用容器13に接続される。また、気液分離用容器13は、移送ポンプ14を介して、調整槽3に接続される。
【0076】
図3の変形例において、無灰炭を製造するプロセスで生じる溶剤含有水を溶剤と水とに分離する方法は、排熱回収工程、溶剤含有水供給工程と、気液分離工程と、温度保持工程を有する。
【0077】
気液分離工程は、溶剤含有水供給工程において溶剤分離用圧力容器に供給する溶剤含有水に対して、気液分離用容器(気液分離器)を用いて気液分離を行う工程である。気液分離工程は、
図3中、気液分離用容器13で実施される。気液分離用容器13では、管23および管24を介して供給される溶剤含有水に対して気液分離を行った後、気相側の溶剤含有水(水リッチの溶剤含有水)を溶剤分離圧力容器11に供給する。また、液相側の溶剤含有水は、移送ポンプ14により回収されて、調整槽3に供給される。
【0078】
そして、温度保持工程では、気液分離用容器13から溶剤分離用圧力容器11に供給された溶剤含有水が、水の密度と溶剤の密度との差が大きくなる温度で一定となるように、当該溶剤分離用圧力容器11内にて図示しない加温器により加温される。
【0079】
(作用・効果)
気液分離工程において、溶剤含有水供給工程において溶剤分離用圧力容器に供給する溶剤含有水に対して、気液分離用容器を用いて気液分離している。その結果、溶剤分離用圧力容器に供給する溶剤含有水を気液分離用容器内で液相側と気相側とに分けて、液相側の液体状態の溶剤含有水を回収することができる。そして、回収した液体状態の溶剤含有水を、調整槽に供給することで、溶剤を再利用して、溶剤のロスを抑えることができる。