(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
摩擦板を押圧する第1ピストンと、第1ピストンを摩擦板に近接する側に移動させる第2ピストンとが、摩擦板側からストローク方向にこの順に直列に配置された摩擦締結要素を備えた自動変速機であって、
前記第1ピストンは、前記第2ピストンと共に移動可能且つ前記第2ピストンに対して相対移動可能に前記第2ピストンに嵌入され、
前記第2ピストンは、変速機ケースに設けられ前記摩擦板に近接する側に開口する凹部に移動可能に嵌入され、
前記第1ピストンを摩擦板に近接する側にストロークさせるための油圧が供給される第1油圧室と、前記第2ピストンを摩擦板に近接する側にストロークさせるための油圧が供給される第2油圧室とが設けられ、
前記第1油圧室は、前記第1ピストンと前記第2ピストンとの間に画成された作動油圧室と、前記第2ピストンと前記凹部との間に画成され、前記第2ピストンに設けられた連通孔を介して前記作動油圧室と連通する非作動油圧室とを有するものであり、
前記第2油圧室は、前記第2ピストンと前記凹部との間に画成されたものであり、
前記非作動油圧室に油圧を供給する第1油圧室用油路及び前記第2油圧室に油圧を供給する第2油圧室用油路がそれぞれ前記凹部の前記摩擦板から離間する側に設けられた底壁に開口していることを特徴とする自動変速機。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0023】
(1)全体構成
本実施形態において、本発明は、
図1に示す自動変速機1に適用されている。この自動変速機1は、例えばフロントエンジンフロントドライブ車等のエンジン横置き式自動車に搭載されており、変速機構2と、変速機構2を収容する変速機ケース3とを有している。変速機構2の入力軸4に、図外のトルクコンバータを介して、エンジンの出力回転が入力される。変速機構2の出力回転は、出力ギヤ5から取り出され、図外の差動装置を介して、駆動輪に伝達される。
【0024】
変速機構2は、第1プラネタリギヤセット10、第2プラネタリギヤセット20、及び第3プラネタリギヤセット30を備えている。これらは、変速機構2の動力伝達経路を構成し、エンジン側から前記の順に入力軸4の軸芯上に同軸に並んでいる。
【0025】
変速機構2は、さらに、ロークラッチ40及びハイクラッチ50、L−Rブレーキ(ローリバースブレーキ)60、2−6ブレーキ70、並びにR−3−5ブレーキ80を備えている。これらは、摩擦締結要素であり、エンジン側から前記の順に入力軸4の軸芯上に同軸に並んでいる。
【0026】
第1プラネタリギヤセット10及び第2プラネタリギヤセット20はシングルピニオン型、第3プラネタリギヤセット30はダブルピニオン型である。各プラネタリギヤセット10,20,30は、それぞれ、サンギヤ11,21,31と、このサンギヤ11,21,31と噛み合うピニオン12,22,32(第3プラネタリギヤセット30にあっては内側のピニオン)と、このピニオン12,22,32を支持するキャリヤ13,23,33と、前記ピニオン12,22,32(第3プラネタリギヤセット30にあっては外側のピニオン)と噛み合うインターナルギヤ14,24,34とを備えている。
【0027】
第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11と第2プラネタリギヤセット20のサンギヤ21とが連結され、さらにロークラッチ40を介して入力軸4に断接自在に連結されている。
【0028】
第1プラネタリギヤセット10のインターナルギヤ14と第2プラネタリギヤセット20のキャリヤ23とが連結され、さらにハイクラッチ50を介して入力軸4に断接自在に連結されると共に、L−Rブレーキ60を介して変速機ケース3に断接自在に連結されている。
【0029】
第2プラネタリギヤセット20のインターナルギヤ24と第3プラネタリギヤセット30のインターナルギヤ34とが連結され、さらに2−6ブレーキ70を介して変速機ケース3に断接自在に連結されている。
【0030】
第3プラネタリギヤセット30のキャリヤ33がR−3−5ブレーキ80を介して変速機ケース3に断接自在に連結され、第3プラネタリギヤセット30のサンギヤ31が入力軸4に連結され、第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13が出力ギヤ5に連結されている。
【0031】
本実施形態に係る自動変速機1においては、
図2の締結表(○は締結を示す)に示すように、摩擦締結要素40,50,60,70,80が選択的に締結されることにより、プラネタリギヤセット10,20,30の動力伝達経路が切り換わり、前進1〜6速と後退速とが達成される。
【0032】
発進変速段の1つである前進1速ではロークラッチ40とL−Rブレーキ60とが締結される。入力軸4の回転は、第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11に入力される。入力された回転は、第1プラネタリギヤセット10によって大きな減速比で減速された後、第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13から出力ギヤ5に取り出される。
【0033】
前進2速ではロークラッチ40と2−6ブレーキ70とが締結される。入力軸4の回転は、第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11と、第2プラネタリギヤセット20のキャリヤ23を介して第1プラネタリギヤセット10のインターナルギヤ14とに入力される。入力された回転は、1速よりも小さな減速比で減速された後、第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13から出力ギヤ5に取り出される。
【0034】
前進3速ではロークラッチ40とR−3−5ブレーキ80とが締結される。入力軸4の回転は、第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11と、第3プラネタリギヤセット30のインターナルギヤ34及び第2プラネタリギヤセット20のキャリヤ23を介して第1プラネタリギヤセット10のインターナルギヤ14とに入力される。入力された回転は、2速よりもさらに小さな減速比で減速された後、第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13から出力ギヤ5に取り出される。
【0035】
前進4速ではロークラッチ40とハイクラッチ50とが締結される。入力軸4の回転は、第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11と、第2プラネタリギヤセット20のキャリヤ23を介して第1プラネタリギヤセット10のインターナルギヤ14とに入力される(減速なし)。入力された回転は、第1プラネタリギヤセット10全体を入力軸4と一体に回転させるので、減速比1の回転が第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13から出力ギヤ5に取り出される。
【0036】
前進5速ではハイクラッチ50とR−3−5ブレーキ80とが締結される。入力軸4の回転は、第3プラネタリギヤセット30のインターナルギヤ34及び第2プラネタリギヤセット20のサンギヤ21を介して第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11と、第2プラネタリギヤセット20のキャリヤ23を介して第1プラネタリギヤセット10のインターナルギヤ14とに入力される(減速なし)。入力された回転は、増速された後、第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13から出力ギヤ5に取り出される。
【0037】
前進6速ではハイクラッチ50と2−6ブレーキ70とが締結される。入力軸4の回転は、第2プラネタリギヤセット20のサンギヤ21を介して第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11と、第2プラネタリギヤセット20のキャリヤ23を介して第1プラネタリギヤセット10のインターナルギヤ14とに入力される(減速なし)。入力された回転は、5速よりも大きな増速比で増速された後、第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13から出力ギヤ5に取り出される。
【0038】
発進変速段の1つである後退速ではL−Rブレーキ60とR−3−5ブレーキ80とが締結される。入力軸4の回転は、第3プラネタリギヤセット30のインターナルギヤ34及び第2プラネタリギヤセット20のサンギヤ21を介して第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11に入力される。入力された回転は、第2プラネタリギヤセット20により回転方向が逆転されており、第1プラネタリギヤセット10によって大きな減速比で減速された後、第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13から入力軸4の回転方向と反対方向の回転として出力ギヤ5に取り出される。
【0039】
図3に示すように、本実施形態においては、オイルポンプから吐出された油圧は、レギュレータバルブ(図示せず)により所定のライン圧(図中「PL」で示す)に調圧された後、専用の油路を介して常に油圧回路200に供給されると共に、Dレンジ又はRレンジが選択されたときに、マニュアルバルブ140を介して前記油圧回路200に供給される。
【0040】
油圧回路200には、第1リニアソレノイドバルブ(以下、ソレノイドバルブを「SV」と記す)121、第2リニアSV122、オンオフSV123、及びシフトバルブ130が備えられている。第1リニアSV121は、ロークラッチ40の油圧室に油圧を供給するためのものである。第2リニアSV122は、後述するL−Rブレーキ60のA室61(第1油圧室)に油圧を供給するためのものである。オンオフSV123は、シフトバルブ130のスプールの位置を切り替えるためのものである。シフトバルブ130は、前記第2リニアSV122と前記A室61とを連通又は遮断し、及び所定のライン圧供給油路124と後述するL−Rブレーキ60のB室62(第2油圧室)とを連通又は遮断するためのものである。シフトバルブ130のスプールは図示しないリターンスプリングにより常に
図3に関して左側に付勢されている。シフトバルブ130と前記A室61との間にA室用油路63(第1油圧室用油路)が設けられ、シフトバルブ130と前記B室62との間にB室用油路64(第2油圧室用油路)が設けられている。
【0041】
前記オンオフSV123はノーマルオープンタイプである。そのため、前記オンオフSV123は、非通電状態(off)では油圧を出力し、シフトバルブ130のスプールを
図3に関して右側に位置させる。前記第1、第2リニアSV121,122はノーマルクローズタイプである。そのため、前記第1、第2リニアSV121,122は、非通電状態(off)では対応する摩擦締結要素、すなわちロークラッチ40及びL−Rブレーキ60に油圧を供給しない。
【0042】
(2)L−Rブレーキの構造
次に、本実施形態の特徴部分であるL−Rブレーキ60の構造を
図4〜
図7に基き説明する。
図4、
図6及び
図7に関して右側がエンジン側、左側が反エンジン側である。
【0043】
図4に示すように、本実施形態においては、L−Rブレーキ60は、主たる構成要素として、2つの油圧室(A室61及びB室62)と、2つのピストン(第1ピストン65及び第2ピストン66)と、複数の摩擦板(ドライブプレート69a及びドリブンプレート69c)とを備えている。第1ピストン65と、第2ピストン66とが、入力軸4の軸芯上に同軸に並び、摩擦板69a,69c側からストローク方向に前記の順に直列に配置されている。
【0044】
第1ピストン65は軸方向Aに見て円環形状であり(
図5参照)、
図4に示すように、外周部が反エンジン側に膨出し、中間部が径方向に延び、内周部がエンジン側に傾斜している。第2ピストン66も軸方向Aに見て円環形状であり(
図5参照)、
図4に示すように、外周端部が反エンジン側に突出し、外周部がエンジン側に膨出し、中間部が反エンジン側に膨出し、内周部がエンジン側に傾斜し、内周端部が反エンジン側に突出している。
【0045】
第1ピストン65は、第2ピストン66に比べて、外径が小さく、内径が大きい。第1ピストン65は、第2ピストン66の反エンジン側の面に嵌入されている。
【0046】
第1ピストン65の外周端部及び内周端部に第1外周シール部材67a及び第1内周シール部材67bがそれぞれ装着されている。第1外周シール部材67aは第2ピストン66の外周部に当接して第2ピストン66に対して摺動可能である。第1内周シール部材67bは第2ピストン66の内周端部に当接して第2ピストン66に対して摺動可能である。第1外周シール部材67a及び第1内周シール部材67bはそれぞれ第1ピストン65に油密に装着されている。そのため、第1外周シール部材67a及び第1内周シール部材67bは、第1ピストン65と第2ピストン66との間にA室61(より詳しくはA室61のうちのA室作動室61a)を画成する(
図7参照)。A室作動室61aは、本発明の作動油圧室に相当する。第1ピストン65は、前記第1シール部材67a,67bにより、第2ピストン66と共に移動可能且つ第2ピストン66に対して相対移動可能に第2ピストン66に嵌入されている。
【0047】
変速機ケース3に、反エンジン側が開口する凹部3aが設けられている。凹部3aは軸方向Aに見て円環形状であり、径方向の中間部に突出部(以下、「中間突出部」と記す)3bが形成されている。第2ピストン66は、この凹部3aに嵌入されている。
【0048】
第2ピストン66の外周部、中間部及び内周部に第2外周シール部材68a、第2中間シール部材68b及び第2内周シール部材68cがそれぞれ装着されている。第2外周シール部材68aは凹部3aの外周壁に当接して凹部3aに対して摺動可能である。第2中間シール部材68bは中間突出部3bの周壁(本実施形態では径方向内側の周壁)に当接して凹部3aに対して摺動可能である。第2内周シール部材68cは凹部3aの内周壁に当接して凹部3aに対して摺動可能である。第2外周シール部材68a、第2中間シール部材68b及び第2内周シール部材68cはそれぞれ第2ピストン66に油密に装着されている。そのため、第2外周シール部材68a及び第2中間シール部材68bは、第2ピストン66の外周部と凹部3aの外周部との間にA室61(より詳しくはA室61のうちのA室非作動室61b)を画成する(
図6参照)。A室非作動室61bは、本発明の非作動油圧室に相当する。また、第2中間シール部材68b及び第2内周シール部材68cは、第2ピストン66の内周部と凹部3aの内周部との間にB室62を画成する(
図4参照)。つまり、B室62は、A室非作動室61bよりも、径方向において内周側に配置されている。第2ピストン66は、前記第2シール部材68a,68b,68cにより、凹部3aに移動可能に嵌入されている。
【0049】
図4に示すように、シフトバルブ130から導かれたA室用油路63が変速機ケース3の壁を通って凹部3aの外周部のエンジン側の底壁に開口している。同様に、シフトバルブ130から導かれたB室用油路64が変速機ケース3の壁を通って凹部3aの内周部のエンジン側の底壁に開口している。A室用油路63は、径方向において、第2外周シール部材68aと第2中間シール部材68bとの間、すなわちA室非作動室61bに開口し、B室用油路64は、径方向において、第2中間シール部材68bと第2内周シール部材68cとの間、すなわちB室62に開口している。
【0050】
第2外周シール部材68aは、本発明の非作動油圧室(A室非作動室61b)の外周端を規定するシール部材に相当し、第2中間シール部材68bは、本発明の非作動油圧室(A室非作動室61b)の内周端を規定するシール部材に相当する。第2外周シール部材68aと第2中間シール部材68bとは、ストローク方向に相互にオーバーラップして配置されている。
【0051】
第2ピストン66の外周部に、A室作動室61aとA室非作動室61bとを連通する連通孔66aが設けられている。A室用油路63を介してA室非作動室61bに供給された油圧は、前記連通孔66aを通ってA室作動室61aに供給される。第1ピストン65は、このA室作動室61aに供給された油圧を受けて反エンジン側、すなわち摩擦板69a,69cに近接する側にストロークする(
図7参照)。つまり、A室61は、第1ピストン65を摩擦板69a,69cに近接する側にストロークさせるための油圧が供給される油圧室であり、第1ピストン65は、摩擦板69a,69cを押圧するためのピストンである。
【0052】
ここで、第1ピストン65と第2ピストン66との間に画成されたA室作動室61aと、第2ピストン66と凹部3aとの間に画成されたA室非作動室61bとは、ストローク方向に直列に位置している。そのため、これらを相互に連通する連通孔66aは、第2ピストン66の外周端部ではなく、それよりも中央部、すなわち第2ピストン66の外周部に設けられている。
【0053】
第2ピストン66は、B室用油路64を介してB室62に供給された油圧を受けて反エンジン側、すなわち摩擦板69a,69cに近接する側にストロークする(
図6参照)。つまり、B室62は、第2ピストン66を摩擦板69a,69cに近接する側にストロークさせるための油圧が供給される油圧室であり、第2ピストン66は、第1ピストン65を摩擦板69a,69cに近接する側に移動させるためのピストンである。
【0054】
図4に示すように、A室61の最上部を臨むA室用エア抜き通路3c及びB室62の最上部を臨むB室用エア抜き通路3dがそれぞれ変速機ケース3に形成されている。
【0055】
A室用エア抜き通路3cには、ラバーボール162とA室用エア抜きプラグ163とが挿入されている。ラバーボール162は、A室61に負圧が発生したとき、A室用エア抜き通路3cのテーパ面に当接してA室61を閉塞する。一方、ラバーボール162は、A室61に油圧が供給されたとき、前記テーパ面から離れてA室61に混入したエアを通過させる。通過したエアはA室用エア抜きプラグ163とA室用エア抜き通路3cとの間の間隙を通って変速機ケース3の外部に排出される。
【0056】
B室用エア抜き通路3dには、B室用エア抜きプラグ164が挿入されている。B室62に油圧が供給されたとき、B室62に混入したエアはB室用エア抜きプラグ164とB室用エア抜き通路3dとの間の間隙を通って変速機ケース3の外部に排出される。
【0057】
ドライブプレート69aは、第1プラネタリギヤセット10のインターナルギヤ14(
図1参照)の外周面にスプライン係合されている。ドライブプレート69aの両面にフェーシング69bが貼着されている。ドリブンプレート69cは、変速機ケース3の内面スプライン部3eにスプライン係合されている。前記内面スプライン部3eには、さらにリテーニングプレート69dがスプライン係合されている。リテーニングプレート69dは、スナップリング69eにより反エンジン側への移動が規制されている。
【0058】
このL−Rブレーキ60は多板ブレーキであって、複数のドライブプレート69aと複数のドリブンプレート69cとが交互に配置されている。そして、これらの摩擦板69a,69cは、前記リテーニングプレート69dと、前記第1ピストン65の反エンジン側に膨出する外周部(以下、「押圧部」と記すことがある)との間に挟まれて配置されている。摩擦板69a,69cは、リテーニングプレート69dにより反エンジン側への移動が規制されている。
【0059】
リテーニングプレート69dと第2ピストン66の外周端部との間にリターンスプリング161が介設されている。
図5に示すように、リターンスプリング161は複数設けられ、第2ピストン66の周方向に等間隔に配置されている。このリターンスプリング161は、第1ピストン65に作用せず、第2ピストン66のみに作用して、第2ピストン66と、第2ピストン66に嵌入された第1ピストン65とを摩擦板69a,69cから離間する側に付勢する。
【0060】
前記内面スプライン部3eには、第2ピストン66の外周端部の近傍において、スナップリングでなるストッパ部材160が設けられている。第2ピストン66は、反エンジン側に突出する外周端部とエンジン側に膨出する外周部との間の径方向に延びる部分が前記ストッパ部材160に当接することにより、反エンジン側、すなわち摩擦板69a,69cに近接する側への移動が規制されている(
図6参照)。
【0061】
(3)L−Rブレーキの動作
次に、L−Rブレーキ60の動作を説明する。
【0062】
(i)解放状態
L−Rブレーキ60は、解放状態にあっては、A室61及びB室62に油圧が供給されない。これにより、
図4に示すように、リターンスプリング161の付勢力で第1ピストン65及び第2ピストン66が共に摩擦板69a,69cから離間する側に移動される。
【0063】
第2ピストン66は、反エンジン側に膨出する中間部が凹部3aの中間突出部3bに当接して停止している。第1ピストン65は、径方向に延びる中間部が第2ピストン66の中間部に当接して停止している。すなわち、この解放状態のときの第1ピストン65の位置及び第2ピストン66の位置がそれぞれ第1ピストン65の初期位置及び第2ピストン66の初期位置である。
【0064】
なお、第2ピストン66に対する第1ピストン65の相対位置は、後述するゼロクリアランス位置に応じて様々に変化するので、第2ピストン66の初期位置は構造的に一定であるが、第1ピストン65の初期位置は一定ではない。ただし、ここでは、第1ピストン65の初期位置が構造的に摩擦板69a,69cから最も離間した位置にある場合(第1ピストン65の中間部が第2ピストン66の中間部に当接している場合)について説明する。
【0065】
この解放状態において、第2ピストン66がストッパ部材160により摩擦板69a,69cに近接する側への移動が規制されるまでに移動できる距離、すなわち第2ピストン66のストローク量をWとし、摩擦板69a,69cのクリアランス(L−Rブレーキ60のクラッチクリアランス)をVとすると、W≦V、好ましくはW=VとなるようにL−Rブレーキ60の各部の寸法が設定されている。
【0066】
なお、
図4には、便宜上、全摩擦板69a,69cが非押圧状態(フェーシング69bが変形していない状態)で隣接し、最もエンジン側にある摩擦板69cが第1ピストンの反エンジン側に膨出する外周部(すなわち押圧部)に接触したときの、リテーニングプレート69dのエンジン側の面と、最も反エンジン側にある摩擦板69aの反エンジン側の面に貼着されたフェーシング69bの反エンジン側の面との間の距離をクラッチクリアランスVとして示している。
【0067】
(ii)締結時−待機位置まで
解放状態のL−Rブレーキ60が締結されるときは、まず、第1ピストン65及び第2ピストン66がそれぞれ初期位置に位置した状態で、B室62に油圧が供給される。これにより、
図6に示すように、B室62に供給された油圧により、第2ピストン66と、2ピストン66に嵌入された第1ピストン65とが、共に摩擦板69a,69cに近接する側にストロークされる。
【0068】
なお、このとき、第2ピストン66は、リターンスプリング161を縮めつつ、つまりリターンスプリング161の付勢力に抗してストロークする。
【0069】
第2ピストン66は、反エンジン側に突出する外周端部とエンジン側に膨出する外周部との間の径方向に延びる部分がストッパ部材160に当接して停止する。第1ピストン65は、径方向に延びる中間部が第2ピストン66の中間部に当接した状態を保持したまま停止する。すなわち、この第2ピストン66のストロークが終了したときの第1ピストン65の位置及び第2ピストン66の位置がそれぞれ第1ピストン65の待機位置及び第2ピストン66の待機位置である。
【0070】
なお、前述したように、第2ピストン66に対する第1ピストン65の相対位置はゼロクリアランス位置に応じて様々に変化するので、第2ピストン66の待機位置は構造的に一定であるが、第1ピストン65の待機位置は一定ではない。ただし、ここでは、第1ピストン65の中間部が第2ピストン66の中間部に当接している場合について説明する。
【0071】
この待機状態において、(第2ピストン66のストローク量W)≦(クラッチクリアランスV)、好ましくは(第2ピストン66のストローク量W)=(クラッチクリアランスV)であったから、第2ピストン66のストローク量Wがゼロになっても、第1ピストン65は摩擦板69a,69cを押圧しない(すなわちL−Rブレーキ60の締結はまだ開始しない)。具体的に、W<Vのときは、クラッチクリアランスが狭められ(すなわち締結応答性がよくなり)、W=Vのときは、クラッチクリアランスがゼロになる(すなわち締結応答性が最もよくなる)。
【0072】
(iii)締結時−押圧完了位置まで
次いで、第1ピストン65及び第2ピストン66がそれぞれ待機位置に位置した状態で、A室61に油圧が供給される。これにより、
図7に示すように、A室61に供給された油圧により、第1ピストン65のみが摩擦板69a,69cに近接する側にストロークされる。
【0073】
なお、このとき、第1ピストン65は、リターンスプリング161の影響を受けることなくストロークする。
【0074】
第1ピストン65は、押圧部で摩擦板69a,69cを押圧し、摩擦板69a,69cの押圧を完了して、つまりドライブプレート69aの回転を停止させて移動を停止する。すなわち、この第1ピストン65のストロークが終了したときの第1ピストン65の位置が第1ピストン65の押圧完了位置である。このとき、ドライブプレート69a、フェーシング69b、ドリブンプレート69c、リテーニングプレート69d及びスナップリング69e等は、第1ピストン65の押圧力を受けて弾性変形する(特にフェーシング69bの厚みが薄くなる)。これにより、L−Rブレーキ60は締結状態となる。
【0075】
(iv)解放時−ゼロクリアランス位置まで
締結状態のL−Rブレーキ60が解放されるときは、まず、第1ピストン65が押圧完了位置に位置し、第2ピストン66が待機位置に位置した状態で、A室61の油圧が排出される。これにより、第1ピストン65の押圧力が除去されるから、
図6に示すように、それまで押圧されていた摩擦板(ドライブプレート69a、フェーシング69b、ドリブンプレート69c、リテーニングプレート69d及びスナップリング69e等を含めていう)の弾性復元力により、第1ピストン65のみが摩擦板69a,69cから離間する側に移動される。
【0076】
第1ピストン65は、前記弾性復元力で押し戻されて、摩擦板69a,69cの押圧を解除して停止する。このときの第1ピストン65の位置は、動力の伝達が行われないクラッチクリアランスのうち最もクラッチクリアランスが小さい位置(つまりクラッチクリアランスがゼロの位置)である。すなわち、このときの第1ピストン65の位置が第1ピストン65のゼロクリアランス位置である。
【0077】
このゼロクリアランス位置は、摩擦板(ドライブプレート69a、フェーシング69b、ドリブンプレート69c、リテーニングプレート69d及びスナップリング69e等を含めていう)の構造的状況(例えば厚み等の寸法)によって決まる位置であり、しかも現在の構造的状況(摩耗による厚みの減少等)を反映している。例えば、摩擦板69a,69cが新しいと、摩耗による厚みの減少等が少ないため、第1ピストン65が押し戻される距離が長くなって、ゼロクリアランス位置はエンジン側に変位し、摩擦板69a,69cが古いと、摩耗による厚みの減少等が多いため、第1ピストン65が押し戻される距離が短くなって、ゼロクリアランス位置は反エンジン側に変位する。
【0078】
L−Rブレーキ60の締結前の第1ピストン65の待機位置と締結後のゼロクリアランス位置とは一致するとは限らない。つまりゼロクリアランス位置はL−Rブレーキ60を締結する度に摩擦板の現在の構造的状況によって更新され、第2ピストン66に対する第1ピストン65の相対位置はゼロクリアランス位置に応じて様々に変化する。そのため、L−Rブレーキ60の締結前の第1ピストン65の待機位置と締結後のゼロクリアランス位置とは多くの場合一致しない。
【0079】
(v)解放時−初期位置まで
次いで、第1ピストン65がゼロクリアランス位置に位置し、第2ピストン66が待機位置に位置した状態で、B室62の油圧が排出される。これにより、
図4に示すように、リターンスプリング161の付勢力で第1ピストン65及び第2ピストン66が共に摩擦板69a,69cから離間する側に移動され、それぞれ初期位置に位置する。これにより、L−Rブレーキ60は解放状態となる。
【0080】
このとき、リターンスプリング161は第2ピストン66のみに作用し、第1ピストン65には作用しないから、第2ピストン66に対する第1ピストン65の相対位置は乱されず保持される。つまり、ゼロクリアランス位置が記録されたまま第1ピストン65及び第2ピストン66は初期位置に戻る。
【0081】
L−Rブレーキ60の締結前の第1ピストン65の初期位置と締結後の第1ピストン65の初期位置とは一致するとは限らない。つまりゼロクリアランス位置はL−Rブレーキ60を締結する度に摩擦板の現在の構造的状況によって更新され、第2ピストン66に対する第1ピストン65の相対位置はゼロクリアランス位置に応じて様々に変化する。そのため、L−Rブレーキ60の締結前の第1ピストン65の初期位置と締結後の第1ピストン65の初期位置とは多くの場合一致しない。
【0082】
(4)制御コントローラの制御動作
本実施形態に係る自動変速機1においては、
図8に示すように、制御コントローラ100が備えられている。この制御コントローラ100は、ロークラッチ40の油圧室に対する油圧の供給及び排出と、L−Rブレーキ60のA室61及びB室62に対する油圧の供給及び排出とを制御する。制御コントローラ100は、周知の通り、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。具体的に、制御コントローラ100は、選択されたレンジを検出するレンジセンサ101からの信号と、ブレーキペダルの踏込量を反映するブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサ102からの信号と、入力軸4の回転数を検出するタービン回転数センサ103からの信号とを入力し、これらの信号に基き、前記油圧回路200に備えられた第1リニアSV121、第2リニアSV122、及びオンオフSV123に制御信号を出力し、これによりN−D制御を行う。N−D制御とは、ロークラッチ40とL−Rブレーキ60とが解放されて変速機構30の動力伝達経路が遮断された状態から、ロークラッチ40とL−Rブレーキ60とが締結されて発進変速段である前進1速が達成された状態へ移行する制御である。
【0083】
次に、前記制御コントローラ100が行うN−D制御を
図9に示すフローチャート及び
図10に示すタイムチャートに基き説明する。
【0084】
まず、N−D制御がスタートするまで(時刻t1まで)は、Nレンジが選択されている。Nレンジでは、第1リニアSV121の通電量がゼロとされ、ロークラッチ圧(ロークラッチ40の油圧室の油圧)がドレンされて、ロークラッチ40は解放されている。また、オンオフSV123がoffとされ、シフトバルブ130のスプールは
図3に関して右側に位置している。そのため、L−Rブレーキ60のA室油圧(A室61の油圧)及びB室油圧(B室62の油圧)がドレンされて、L−Rブレーキ60は解放されている。この結果、第1ピストン65及び第2ピストン66は初期位置にあり、クラッチクリアランスは大きい状態である。ブレーキ液圧は高く、運転者はまだ発進要求をしていない。また、第2リニアSV122の通電量がゼロとされている。
【0085】
制御コントローラ100は、レンジセンサ101からの信号により、NレンジからDレンジへの切替えがあったと判定すると、N−D制御をスタートする(時刻t1)。
【0086】
すなわち、制御コントローラ100は、ステップS1で、第1リニアSV121の通電量をゼロから最大値(Max)まで増大する。この結果、ロークラッチ圧がライン圧(PL)まで増大し、ロークラッチ40が締結される。
【0087】
また、制御コントローラ100は、ステップS1で、オンオフSV123をoffからonに切り替える。この結果、シフトバルブ130のスプールが
図3に関して左側に位置し、L−Rブレーキ60のB室62とライン圧供給油路124とが連通して、B室油圧がライン圧(PL)まで増大する。これにより、第1ピストン65及び第2ピストン66が待機位置にストロークし、クラッチクリアランスがゼロとなる(時刻t2)。このとき、タービン回転数がN1に若干低下する。
【0088】
次いで、制御コントローラ100は、ステップS2で、ブレーキ液圧センサ102からの信号により、ブレーキ液圧が所定圧未満になった(運転者が発進要求をした)と判定すると、第2リニアSV122の通電量をゼロから徐々に増大する(時刻t3)。これにより、L−Rブレーキ60のA室61に油圧が供給され、A室油圧が徐々に増大する。この結果、第1ピストン65が押圧完了位置にストロークし、タービン回転数がさらに低下する。
【0089】
そして、制御コントローラ100は、ステップS3で、タービン回転数センサ103からの信号により、タービン回転数が目標値N2になった(摩擦板69a,69cの押圧が完了した、つまりドライブプレート69aの回転が停止した)と判定すると、第2リニアSV122の通電量を最大値(Max)まで増大する(時刻t4)。この結果、A室油圧がライン圧(PL)まで増大し、L−Rブレーキ60が締結される。以上により、ロークラッチ40とL−Rブレーキ60とが締結された前進1速が達成される。
【0090】
なお、従来は、L−Rブレーキ60に代えて、ワンウエイクラッチを用いて前進1速を達成していた。ワンウエイクラッチを用いると、ロークラッチを締結するだけで、ワンウエイクラッチが自然にロックして前進1速の動力伝達経路が形成されるという利点がある。そのため、摩擦締結要素の締結タイミングがずれることに起因する変速ショック等を良好に抑制することができる。
【0091】
しかし、ワンウエイクラッチは、自動変速機のコスト、重量、サイズの増大を招くだけでなく、走行時間の大半は空転するので、引き摺り抵抗が発生し、燃費の低下を招くという問題がある。
【0092】
そこで、本実施形態では、ワンウエイクラッチを廃止して、前進1速ではロークラッチ40とL−Rブレーキ60とを締結するようにした。
【0093】
ただし、ロークラッチ40とL−Rブレーキ60のうち、後で締結する摩擦締結要素の締結タイミングがずれると不快な変速ショックが発生する。特に前進1速等の発進変速段は、減速比が大きく、トルクが大きいので、発生する変速ショックがより大きくなる。
【0094】
そこで、本実施形態では、クラッチ要素は油圧室に遠心油圧が発生し、ブレーキ要素は油圧室に遠心油圧が発生しないことに着目して、遠心油圧の影響を受けるロークラッチ40を先に締結し、遠心油圧の影響を受けないL−Rブレーキ60を後で締結するようにした。こうすれば、L−Rブレーキ60は遠心油圧の影響を受けないから、後で締結するL−Rブレーキ60を精度よく適正なタイミングで締結することができる。
【0095】
さらに、本実施形態では、L−Rブレーキ60を2段ピストン構造・2段ストローク構造とし、L−Rブレーキ60を締結する可能性が生じた段階(時刻t1)で、第1ピストン65を待機位置にストロークさせて、クラッチクリアランスを狭めておき、そして、L−Rブレーキ60を締結する必要が生じた段階(時刻t3)で、第1ピストン65を待機位置から押圧完了位置までストロークさせるので、L−Rブレーキ60を応答性よく締結することができ、L−Rブレーキ60を精度よく適正なタイミングで締結することができ、L−Rブレーキ60の締結タイミングがずれることに起因する変速ショック等をより一層良好に抑制することができるのである。
【0096】
(5)作用等
以上のように、本実施形態に係る自動変速機1は、摩擦板69a,69cを押圧する第1ピストン65と、第1ピストン65を摩擦板69a,69cに近接する側に移動させる第2ピストン66とが、摩擦板69a,69c側からストローク方向にこの順に直列に配置されたL−Rブレーキ60を備えたものであるから、ピストンを複数有することにより、L−Rブレーキ60を応答性よく締結することができ、L−Rブレーキ60を精度よく適正なタイミングで締結することができる自動変速機1が提供される。その上で、本実施形態に係る自動変速機1は、次のような特徴的構成を具備している。
【0097】
第1ピストン65は、第2ピストン66と共に移動可能且つ第2ピストン66に対して相対移動可能に第2ピストン66に嵌入されている。第2ピストン66は変速機ケース3に設けられた凹部3aに移動可能に嵌入されている。第1ピストン65を摩擦板69a,69cに近接する側にストロークさせるための油圧が供給されるA室61と、第2ピストン66を摩擦板69a,69cに近接する側にストロークさせるための油圧が供給されるB室62とが設けられている。
【0098】
第2ピストン66に嵌入された第1ピストン65を摩擦板69a,69cに近接する側にストロークさせるための油圧が供給されるA室61は、第1ピストン65と第2ピストン66との間に画成されたA室作動室61aと、第2ピストン66と凹部3aとの間に画成され、第2ピストン66に設けられた連通孔66aを介してA室作動室61aと連通するA室非作動室61bとを有するものであり、A室非作動室61bに油圧を供給するA室用油路63が凹部3aの底壁に開口している。
【0099】
また、第2ピストン66を摩擦板69a,69cに近接する側にストロークさせるための油圧が供給されるB室62は、第2ピストン66と凹部3aとの間に画成されたものであり、B室62に油圧を供給するB室用油路64が凹部3aの底壁に開口している。
【0100】
第1ピストン65と第2ピストン66との間に画成されたA室作動室61aと、第2ピストン66と凹部3aとの間に画成されたA室非作動室61bとは、ストローク方向に直列に位置している。そのため、これらを相互に連通する連通孔66aは、わざわざ例えば第2ピストン66の外周端部に設けられることなく、外周端部よりも中央部(第2ピストン66の外周部)に設けられている。そのため、例えば、連通孔66aを設ける分、第2ピストン66の外周端部がストローク方向に長くなる、というような不具合がない。また、例えば、第2ピストン66がストロークしても連通孔66aとA室用油路63とが常に連通するので、A室用油路63の開口部をストローク方向に長くしなければならない、というような不具合もない。そのため、変速機ケース3を軸方向に長くすることなく、A室61に油圧を供給することができ、自動変速機1のコンパクト化ひいては車両への搭載性が確保される。
【0101】
図11は、
図4に対比させて、A室dに油圧を供給するための連通孔jを第2ピストンcの外周端部に設けた場合のL−Rブレーキの構造を示す断面図である。第2ピストンcに嵌入した第1ピストンbを摩擦板aに近接する側にストロークさせるためには、まず、第1ピストンbのための第1油圧室dを第1ピストンbと第2ピストンcとの間に画成することが考えられる。
【0102】
例えば、
図11において、符号aは摩擦板、符号bは第1ピストン、符号cは第2ピストン、符号dは第1ピストンbのためのA室、符号eは第2ピストンcのためのB室、符号fはリターンスプリングである。第2ピストンcの外周端部を摩擦板aに近接する側に曲折し、第1ピストンbに装着されたシール部材gが第2ピストンcの外周端部に当接してストローク方向に摺動できるようにする。第2ピストンcの外周端部に対向する変速機ケースhの壁部に、A室dに油圧を供給する油路iを開口させ、この油路iとA室dとを連通する連通孔jを第2ピストンcの外周端部に設ける。油路iから供給された油圧は、前記連通孔jを通ってA室dに供給される。
【0103】
しかしながら、連通孔jを設ける分、第2ピストンcの外周端部がストローク方向に長くなる。また、第2ピストンcがストロークしても連通孔jと油路iとが常に連通するように、油路iの開口部kをストローク方向に長くする必要が生じる。これらのため、変速機ケースhが軸方向に長くなり、自動変速機のコンパクト化が阻害され、車両への搭載性が低下する。
図11に示すL−Rブレーキはこのような不具合を有するのに対し、本実施形態に係るL−Rブレーキ60は前記不具合が解消されているのである。
【0104】
なお、
図11において、符号mはB室eに油圧を供給する油路、符号n,pは油路iと開口部kと連通孔jとをシールするために第2ピストンcに装着されたシール部材である。
【0105】
本実施形態では、第2ピストン66のみに作用して第1ピストン65及び第2ピストン66を摩擦板69a,69cから離間する側に付勢するリターンスプリング161が設けられている。
【0106】
この構成によれば、上で詳しく説明したように、たとえL−Rブレーキ60の個体差によってクラッチクリアランスが大きい場合や、経年変化によって摩擦板(ドライブプレート69a、フェーシング69b、ドリブンプレート69c、リテーニングプレート69d及びスナップリング69e等を含めていう)が摩耗し、クラッチクリアランスが大きくなった場合等でも、ゼロクリアランス位置が更新されるので、第2ピストン66に対する第1ピストン65の待機位置が変化し、これにより第1ピストン65の待機位置から押圧完了位置までの長さが増大することがない。この結果、第1ピストン65が摩擦板69a,69cの押圧を完了するのに要する時間が長くならず、L−Rブレーキ60の締結応答性が低下せず、L−Rブレーキ60の締結タイミングの精度が低下しない自動変速機1が提供される。
【0107】
本実施形態では、B室62は、A室非作動室61bよりも内周側に画成されている。
【0108】
この構成によれば、第2ピストン66と凹部3aとの間において、第2ピストン66をストロークさせるためのB室62がA室非作動室61bよりも内周側に画成されているので、B室62の容積が小さくなり、第2ピストン66をストロークさせるために必要な作動油の量が少なくて済む。
【0109】
本実施形態では、第2ピストン66に、A室非作動室61bの外周端を規定する第2外周シール部材68aと内周端を規定する第2中間シール部材68bとが装着され、両シール部材68a,68bがストローク方向に相互にオーバーラップして配置されている。
【0110】
この構成によれば、両シール部材68a,68bがストローク方向に相互にオーバーラップして配置されているので、両シール部材68a,68bがストローク方向に相互にオーバーラップせずに配置された場合に比べて、第2ピストン66がストローク方向に長くなることが抑制され、この点において、変速機ケース3の軸方向の短縮化が図られる。
【0111】
また、A室非作動室61bの内周端を規定する第2中間シール部材68bは、外周端を規定する第2外周シール部材68aに比べて周長が短いので、第2ピストン66をストロークさせる際の摺動抵抗が低減し、第2ピストン66を迅速にストロークさせることができる。
【0112】
これに対し、
図11において、第2ピストンcに装着されたシール部材n,pは、いずれも第2ピストンcの外周面に配置されて周長が長いので、第2ピストンcをストロークさせる際の摺動抵抗が増大し、第2ピストンcを迅速にストロークさせる点で不利である。
【0113】
なお、前記実施形態では、ロークラッチ40に、通常の油圧室の他に、遠心油圧を相殺するためのバランス室を設けなかったが、状況に応じて設けてもよい。
【0114】
また、第2ピストン66と凹部3aとの間において、A室非作動室61bを内周側に配置し、B室62を外周側に配置することも可能である。その場合、連通孔66aは第2ピストン66の内周部に設け、A室用油路63は凹部3aの内周部の底壁に開口させ、B室用油路64は凹部3aの外周部の底壁に開口させる。
【0115】
また、前記実施形態では、第2中間シール部材68bを中間突出部3bの径方向内側の周壁に当接させて凹部3aに対して摺動可能としたが、状況に応じて、第2中間シール部材68bを中間突出部3bの径方向外側の周壁に当接させて凹部3aに対して摺動可能としてもよい。
【0116】
また、
図9、
図10の制御動作は一例であり、これに限定されない。例えば、ロークラッチ圧の時間変化、A室油圧の時間変化、及びB室油圧の時間変化は、
図10に示したものと異なっていてもよい。また、第2リニアSV122は、最初から通電量をゼロから最大値(Max)まで増大してもよい。
【0117】
また、N−D制御において、L−Rブレーキ60を先に締結し、ロークラッチ40を後で締結してもよい。
【0118】
また、車両が停車している状態から発進変速段の1つである前進1速が達成されるN−D制御に限らず、車両が停車している状態から発進変速段の他の1つである後退速が達成されるN−R制御、つまりL−Rブレーキ60とR−3−5ブレーキ80とが解放されて変速機構30の動力伝達経路が遮断された状態から、L−Rブレーキ60とR−3−5ブレーキ80とが締結されて発進変速段である後退速が達成された状態へ移行する制御を行ってもよい。
【0119】
また、例えば、車両が走行中の2−1変速制御、つまりロークラッチ40と2−6ブレーキ70とが締結されて前進2速が達成された状態から、ロークラッチ40とL−Rブレーキ60とが締結されて前進1速が達成された状態へ移行する制御を行ってもよい。
【0120】
また、本発明に係る摩擦締結要素をL−Rブレーキ60以外の他の摩擦締結要素、例えば2−6ブレーキ70やR−3−5ブレーキ80等に適用することもできる。