(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(1)絶縁樹脂シートを内層回路基板の両面又は片面に接するように内層回路基板に設置し、減圧下で、弾性材を介して加熱及び加圧することにより、内層回路基板上に積層するラミネート工程、(2)積層された絶縁樹脂シートを、金属板又は金属ロールにより加熱及び加圧することにより、絶縁樹脂シートを平滑化する平滑化工程、及び(3)平滑化された絶縁樹脂シートを熱硬化する熱硬化工程を含む多層プリント配線板の製造方法に用いられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の絶縁性樹脂シート。
絶縁層に穴あけする穴あけ工程、該絶縁層を粗化処理する粗化工程、粗化された絶縁層表面にめっきにより導体層を形成するめっき工程、及び導体層に回路を形成する回路形成工程をさらに含む、請求項9又は10に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して説明する。
本発明で使用するプリプレグは、シート状繊維基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、加熱乾燥させて得ることができる。
【0011】
熱硬化性樹脂組成物は、多層プリント配線板の絶縁層に適するものであれば、特に制限なく使用でき、かかる熱硬化性樹脂組成物の具体例としては、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ビニルベンジル樹脂等の熱硬化性樹脂とその硬化剤とを少なくとも含有する組成物が挙げられる。それらの中でも、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を含有する組成物が好ましく、例えば、エポキシ樹脂、熱可塑性樹脂及び硬化剤を含有する組成物が好ましい。
【0012】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールのジグリシジルエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノール類のグリシジルエーテル化物、及びアルコール類のジグリシジルエーテル化物、並びにこれらエポキシ樹脂のアルキル置換体、ハロゲン化物及び水素添加物等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、いずれか1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0013】
エポキシ樹脂は、これらの中でも、耐熱性、絶縁信頼性、金属膜との密着性の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂が好ましい。かかるエポキシ樹脂の具体例としては、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「エピコート828EL」)、ナフタレン型2官能エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業(株)製「HP4032」、「HP4032D」)、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業(株)製「HP4700」)、ナフトール型エポキシ樹脂(東都化成(株)製「ESN-475V」)、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂(ダイセル化学工業(株)製「PB-3600」)、ビフェニル構造を有するエポキシ樹脂(日本化薬(株)製「NC3000H」、「NC3000L」、ジャパンエポキシレジン(株)製「YX4000」)などが挙げられる。
【0014】
熱硬化性樹脂組成物には、硬化後の樹脂組成物に適度な可撓性を付与すること等を目的として、熱可塑性樹脂を配合することができる。かかる熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、いずれか1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。当該熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂組成物の不揮発成分を100質量%としたとき、0.5〜60質量%の割合で配合するのが好ましく、3〜50質量%の割合で配合するのがより好ましい。
【0015】
フェノキシ樹脂の市販品としては、例えば、東都化成(株)製FX280、FX293、ジャパンエポキシレジン(株)製YX8100、YL6954、YL6974等が挙げられる。
【0016】
ポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂が好ましく、かかるポリビニルアセタール樹脂の市販品としては、例えば、電気化学工業(株)製、電化ブチラール4000-2、5000-A、6000-C、6000-EP、積水化学工業(株)製エスレックBHシリーズ、BXシリーズ、KSシリーズ、BLシリーズ、BMシリーズ等が挙げられる。
【0017】
ポリイミドの市販品としては、例えば、新日本理化(株)製のポリイミド「リカコートSN20」及び「リカコートPN20」が挙げられる。また、2官能性ヒドロキシル基末端ポリブタジエン、ジイソシアネート化合物及び四塩基酸無水物を反応させて得られる線状ポリイミド(特開2006-37083号公報に記載のもの)、ポリシロキサン骨格含有ポリイミド(特開2002-12667号公報、特開2000-319386号公報等に記載のもの)等の変性ポリイミドが挙げられる。
【0018】
ポリアミドイミドの市販品としては、例えば、東洋紡績(株)製のポリアミドイミド「バイロマックスHR11NN」、「バイロマックスHR16NN」等が挙げられる。また、日立化成工業(株)製のポリシロキサン骨格含有ポリアミドイミド「KS9100」、「KS9300」等の変性ポリアミドイミドが挙げられる。
【0019】
ポリエーテルスルホンの市販品としては、例えば、住友化学(株)製のポリエーテルスルホン「PES5003P」等が挙げられる。
【0020】
ポリスルホンの市販品としては、例えば、ソルベンアドバンストポリマーズ(株)製のポリスルホン「P1700」、「P3500」等が挙げられる。
【0021】
硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、グアニジン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、フェノール系硬化剤、ナフトール系硬化剤、酸無水物系硬化剤又はこれらのエポキシアダクトやマイクロカプセル化したもの、シアネートエステル樹脂等が挙げられる。それらの中でも、フェノール系硬化剤、ナフトール系硬化剤、シアネートエステル樹脂が好ましい。これらの硬化剤は、いずれか1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
フェノール系硬化剤、ナフトール系硬化剤の市販品としては、例えば、MEH-7700、MEH-7810、MEH-7851(明和化成(株)製)、NHN、CBN、GPH(日本化薬(株)製)、SN170、SN180、SN190、SN475、SN485、SN495、SN375、SN395(東都化成(株)製)、LA7052、LA7054、LA3018、LA1356(大日本インキ化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0023】
シアネートエステル樹脂としては、例えば、ビスフェノールAジシアネート、ポリフェノールシアネート(オリゴ(3-メチレン-1,5-フェニレンシアネート))、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルフェニルシアネート)、4,4’-エチリデンジフェニルジシアネート、ヘキサフルオロビスフェノールAジシアネート、2,2-ビス(4-シアネート)フェニルプロパン、1,1-ビス(4-シアネートフェニルメタン)、ビス(4-シアネート-3,5-ジメチルフェニル)メタン、1,3-ビス(4-シアネートフェニル-1-(メチルエチリデン))ベンゼン、ビス(4-シアネートフェニル)チオエーテル、ビス(4-シアネートフェニル)エーテル等の2官能シアネート樹脂、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等から誘導される多官能シアネート樹脂、これらシアネート樹脂が一部トリアジン化したプレポリマー等が挙げられる。かかるシアネートエステル樹脂の具体例としては、例えば、フェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン(株)製「PT30」、シアネート当量124)やビスフェノールAジシアネートの一部又は全部がトリアジン化されて三量体となったプレポリマー(ロンザジャパン(株)製「BA230」、シアネート当量232)等が挙げられる。
【0024】
エポキシ樹脂と硬化剤の配合比率は、フェノール系硬化剤又はナフトール系硬化剤を用いる場合は、エポキシ樹脂のエポキシ当量1に対してこれら硬化剤のフェノール性水酸基当量が0.4〜2.0の範囲となる比率が好ましく、より好ましくは0.5〜1.0の範囲となる比率である。シアネートエステル樹脂を用いる場合は、エポキシ当量1に対してシアネート当量が0.3〜3.3の範囲となる比率が好ましく、0.5〜2.0の範囲となる比率がより好ましい。
【0025】
熱硬化性樹脂組成物には、硬化剤に加え、硬化促進剤をさらに含有させることができる。かかる硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール系化合物、有機ホスフィン系化合物等が挙げられ、具体例としては、2-メチルイミダゾール、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。硬化促進剤を用いる場合、硬化促進剤はエポキシ樹脂に対して0.1〜3.0質量%の範囲で用いるのが好ましい。なお、エポキシ樹脂硬化剤としてシアネートエステル樹脂を使用する場合には、硬化時間を短縮する目的で、従来からエポキシ樹脂組成物とシアネート化合物とを併用した系において硬化触媒として用いられている有機金属化合物を、添加してもよい。このような有機金属化合物としては、例えば、銅(II)アセチルアセトナート等の有機銅化合物、亜鉛(II)アセチルアセトナート等の有機亜鉛化合物、コバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(III)アセチルアセトナート等の有機コバルト化合物などが挙げられる。これらの有機金属化合物は、いずれか1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。有機金属化合物の添加量は、シアネートエステル樹脂に対し、金属換算で通常10〜500ppmの範囲であることが好ましく、25〜200ppmの範囲であることがより好ましい。
【0026】
また、熱硬化性樹脂組成物には、硬化後の樹脂組成物の低熱膨張化のために、無機充填剤を含有させることができる。かかる無機充填剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、雲母、マイカ、珪酸塩、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン等が挙げられ、これらの中でも、シリカ、アルミナが好ましく、シリカが特に好ましい。なお、無機充填剤の平均粒径は、絶縁信頼性の観点から、3μm以下が好ましく、1.5μm以下が特に好ましい。無機充填剤の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の不揮発成分を100質量%とした時、好ましくは20〜60質量%であり、より好ましくは20〜50質量%である。
【0027】
さらに、熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて他の成分を含有させることができる。他の成分としては、例えば、有機リン系難燃剤、有機系窒素含有リン化合物、窒素化合物、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物等の難燃剤;シリコーンパウダー、ナイロンパウダー、フッ素樹脂パウダー等の有機充填剤;オルベン、ベントン等の増粘剤;シリコーン系、フッ素樹脂系等の高分子系消泡剤又はレベリング剤;イミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系、シラン系カップリング剤等の密着性付与剤;フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、カーボンブラック等の着色剤等が挙げられる。
【0028】
プリプレグに用いるシート状繊維基材は特に限定されず、例えばガラスクロス、アラミド不織布、液晶ポリマー不織布等のプリプレグ用基材として常用されているものを用いることができる。特に、多層プリント配線板の絶縁層形成に用いる場合には、厚さが50μm以下の薄型のものが好適に用いられ、特に10〜40μmのものが好ましい。シート状繊維基材の具体的な例としては、ガラスクロス基材として、例えば、旭シュエーベル(株)製スタイル1027MS(経糸密度75本/25mm、緯糸密度75本/25mm、布重量20g/m
2、厚さ19μm)、旭シュエーベル(株)製スタイル1037MS(経糸密度70本/25mm、緯糸密度73本/25mm、布重量24g/m
2、厚さ28μm)、(株)有沢製作所製1037NS(経糸密度72本/25mm、緯糸密度69本/25mm、布重量23g/m
2、厚さ21μm)、(株)有沢製作所製1027NS(経糸密度75本/25mm、緯糸密度75本/25mm、布重量19.5g/m
2、厚さ16μm)、(株)有沢製作所製1015NS(経糸密度95本/25mm、緯糸密度95本/25mm、布重量17.5g/m
2、厚さ15μm)、(株)有沢製作所製1000NS(経糸密度85本/25mm、緯糸密度85本/25mm、布重量11g/m
2、厚さ10μm)などが挙げられる。また液晶ポリマー不織布として、(株)クラレ製の芳香族ポリエステル不織布のメルトブロー法によるベクルス(目付け量6〜15g/m
2)やベクトランなどが挙げられる。
【0029】
シート状繊維基材としては、ガラスクロスが汎用されている。多層プリント配線板に使用するガラスクロスは、一般に、ガラスフィラメントを数十〜数百本束ねたヤーンを自動織機等により織り込むことにより製造され、通常、ヤーンを束ねる際にヤーンのほつれ・ケバを防止するために撚りがかけられる。そのため、プリプレグにおいて、一部のガラスファイバーが均等に配列せず、重なる場所が局所的に存在するようになる。このガラスファイバーが重なった場所は、それ以外の場所に比較して、ガラスクロスの厚みが大きい。また、プリプレグ製造工程において、ガラスクロスのたるみ等により、ガラスクロスがプリプレグの中心ではなく、表面近傍に存在することがある。一般に、絶縁樹脂シートにおけるシート状繊維基材の露出は、このようにシート状繊維基材の厚さが局所的に大きい部分や、シート状繊維基材の一部が表面近傍にある箇所で特に顕著に現れやすい。
【0030】
プリプレグは、公知のホットメルト法、ソルベント法などにより製造することができる。ホットメルト法は、樹脂組成物を有機溶剤に溶解することなく、樹脂組成物と剥離性の良い離型紙に一旦コーティングし、それをシート状繊維基材にラミネートする、あるいはダイコータにより直接塗工するなどして、プリプレグを製造する方法である。またソルベント法は、樹脂組成物を有機溶剤に溶解した樹脂組成物ワニスにシート状繊維基材を浸漬することにより、樹脂組成物ワニスをシート状繊維基材に含浸させ、その後乾燥させる方法である。また、支持体
層上に積層された熱硬化性樹脂組成物からなる接着フィルムをシート状補強基材の両面から加熱、加圧条件下、連続的に熱ラミネートすることで調製することもできる。
【0031】
ワニスを調製する場合の有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を挙げることができる。有機溶剤は1種を使用しても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
乾燥条件は特に限定されないが、内層回路基板にラミネートするため、ラミネート工程における温度で熱硬化性樹脂組成物が流動性(フロー性)及び接着性を有する必要がある。従って、乾燥時には熱硬化性樹脂組成物の硬化をできる限り進行させないことが重要となる。一方、プリプレグ内に有機溶剤が多く残留すると、硬化後に膨れが発生する原因となるため、通常、熱硬化性樹脂組成物中への有機溶剤の含有割合が通常5質量%以下、好ましくは2質量%以下となるように乾燥させる。従って、これら両方の観点から乾燥条件は設定され、その条件は、熱硬化性樹脂組成物の硬化性やワニス中の有機溶媒量によっても異なるが、例えば30〜60質量%の有機溶剤を含むワニスにおいては、通常80〜180℃で3〜13分程度乾燥させることができる。なお、当業者は、簡単な実験により適宜、好適な乾燥条件を設定することができる。
【0033】
プリプレグの厚さは、内層回路基板の導体層の厚さによっても異なるが、導体層の厚さは通常10〜30μmであり、プリプレグの厚さは、通常10〜70μmの範囲であり、ガラスクロスのコスト及び絶縁樹脂シートとして所望される薄さの観点から、12〜50μmであることがより好ましく、さらには12〜40μmであることがより好ましい。なお、プリプレグの厚さが大きいほど繊維基材の露出は緩和される傾向となるが、多層プリント配線板の薄型化には不利となる。本発明の絶縁樹脂シートによれば、繊維基材の露出抑制と多層プリント配線板の薄型化が同時に達成される。なお、プリプレグの厚さは、熱硬化性樹脂組成物の含浸量を調整することにより、容易にコントロールすることが出来る。また、プリプレグは内層回路基板の配線部分にボイドを形成することなくラミネート可能な流動性を持つことが必要であり、最低溶融粘度が200〜7000poiseの範囲であることが好ましく、400〜3000poiseの範囲であることが特に好ましい。
【0034】
本発明における「熱硬化性樹脂組成物の硬化物層」は、熱硬化性樹脂組成物を熱硬化して得られるものである。熱硬化性樹脂組成物としては、多層プリント配線板の絶縁層に適するものであれば、特に制限なく使用でき、前記で説明したプリプレグに使用する熱硬化性樹脂組成物と同様のものを使用することができる。なお、プリプレグに使用する熱硬化性樹脂組成物と硬化物層に使用する熱硬化性樹脂組成物は同一でも、異なっていてもよい。
【0035】
本発明の絶縁樹脂シートにおける硬化物層は、例えば、支持体
層上に熱硬化性樹脂組成物層が形成された接着シートの熱硬化性樹脂組成物を熱硬化する方法によって得られる。すなわち、接着シートは、当業者に公知の方法、例えば、有機溶剤に熱硬化性樹脂組成物を溶解した樹脂ワニスを調製し、支持体
層上に該樹脂ワニスを塗布し、熱風吹きつけ等により加熱し、有機溶剤を乾燥させて熱硬化性樹脂組成物層を形成させることにより製造され、こうして得られた接着シートの熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させて硬化物シートとし、それをプリプレグの片面に接着する工程を経ることで本発明の絶縁樹脂シートを得ることができる。なお、接着シートの製造において、支持体
層上に塗布された樹脂ワニスを加熱して、乾燥及び硬化を同時または逐次的に行なうことによって、硬化物シートを得ることも可能であり、こうして得られた硬化物シートをプリプレグの片面に接着する工程を経ることで本発明の絶縁樹脂シートを得ることもできる。
【0036】
樹脂ワニスの調製に用いる有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を挙げることができる。有機溶剤は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
接着シートを調製する場合の乾燥条件は特に限定されないが、熱硬化性樹脂組成物層への有機溶剤の含有割合が通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下となるように乾燥させる。樹脂ワニス中の有機溶媒量によっても異なるが、例えば30〜60質量%の有機溶剤を含む樹脂ワニスを50〜150℃で3〜10分程度乾燥させることができる。該接着シートの熱硬化性樹脂組成物層を逐次的に硬化する場合、または支持体
層上に塗布された樹脂ワニスの乾燥と硬化を同時に行なう場合の硬化条件は特に限定されないが、例えば30〜60質量%の有機溶剤を含むワニスにおいては、50〜200℃程度の温度にて10分〜10時間程度加熱することにより硬化物層を形成することができる。なお、乾燥及び硬化条件は、当業者が簡単な実験により適宜、好適な条件を設定することができる。
【0038】
支持体
層としては、プラスチックフィルムが好適に用いられる。プラスチックフィルムの他には、離型紙や銅箔、アルミニウム箔等の金属箔なども支持体
層として用いることができる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、環状ポリオレフィン、トリアセチルセルロース、ポリエーテルサルファイド、ポリエーテルケトン、ポリイミドなどが挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムが好ましく、特に安価なポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。支持体
層において、特にプラスチックフィルムを使用する場合、熱硬化性樹脂組成物層の硬化物から剥離可能とするために、その熱硬化性樹脂組成物層の被形成面が離型処理された、離型層を有する支持体
層を使用するのが好ましい。金属箔はエッチング溶液により除去することもできるが、プラスチックフィルムを支持体
層として熱硬化性樹脂組成物を熱硬化した場合、離型層がないと、硬化物からプラスチックフィルムを剥離することが困難となる。離型処理に使用する離型剤としては、硬化物が支持体
層から剥離可能であれば特に限定されず、例えば、シリコーン系離型剤、アルキッド樹脂系離型剤等が挙げられる。なお、市販されている離型層付きプラスチックフィルムを用いてもよく、好ましいものとしては、例えば、アルキッド樹脂系離型剤を主成分とする離型層を有するPETフィルムである、リンテック(株)製のSK-1、AL-5、AL-7などが挙げられる。また、プラスチックフィルムはマット処理、コロナ処理を施してあってもよく、当該処理面上に離型層を形成してもよい。また銅箔を支持体として使用した場合は、剥離せずに該銅箔を導体層として利用してもよい。支持体の厚さは特に限定されないが、通常10〜150μmであり、好ましくは25〜50μmの範囲で用いられる。
【0039】
本発明の絶縁樹脂シートの硬化物層において、熱硬化性樹脂組成物は必ずしも完全に熱硬化されている必要はなく、本発明の効果が発揮される程度に硬化されていればよい。すなわち、一般的な、層間絶縁層形成に用いられる、支持体
層と熱硬化性樹脂組成物層からなる接着シートは、内層回路基板への積層により回路の埋め込みを行う必要があるため、十分な流動性を有する必要があるのに対し、本発明の絶縁樹脂シートにおける熱硬化性樹脂組成物の硬化物層は、プリプレグのシート状繊維基材の露出を抑制するために、ラミネート工程及び平滑化工程で流動性をほとんど有しないことが重要であり、実質的に流動性を有しないのがより好ましい。例えば、真空ラミネーターを用いて、熱硬化性樹脂組成物の硬化物層12cm×15cmを、20cm四方、0.8mm厚のFR4基板に、実際のラミネート工程及び平滑化工程と同じ条件で、ラミネートと平滑化を行い、その時の最大シミ出し長さが、好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下、特に好ましくは実質的に0となるような硬化状態であることが好ましい。例えば、以下の代表的条件下で測定した最大シミ出し長さを、本発明で用いるのに好ましい硬化物層の硬化度の指標とすることができる。すなわち、真空ラミネーターを使用し、熱硬化性樹脂組成物の硬化物層12cm×15cm(平面サイズが12cm×15cmの矩形の硬化物層)を、温度80℃にて30秒間真空吸引後、温度80℃、圧力7.0kgf/cm
2の条件で、耐熱ゴムを介して60秒間プレスすることによりラミネートし、さらに大気圧下で、SUS鏡板を用いて、温度80℃、圧力5.5kgf/cm
2の条件で90秒間プレスして平滑化処理を施した際の、樹脂の最大シミだし長さを測定し、該最大シミ出し長さが、好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下、特に好ましくは実質的に0である。
【0040】
熱硬化性樹脂組成物の硬化の程度は、ガラス転移温度でも評価することができる。本願発明においては、少なくとも硬化物のガラス転移温度が観測される程度まで硬化するのが好ましい。一般に、層間絶縁層形成に用いられる、支持体
層と熱硬化性樹脂組成物からなる接着シートは、上述したように流動性を有し、例えば熱硬化性樹脂組成物層がBステージであっても、反応度は著しく低く、通常ガラス転移温度を測定することは不可能であり、測定できたとしても、少なくとも室温以下のガラス転移温度となる。一般に、ガラス転移温度が観測される程度まで硬化された場合、一般のラミネート工程の温度及び平滑化工程の温度(約70℃〜140℃)範囲では、熱硬化性樹脂組成物が実質的に流動性を有しないか、又はほとんど流動性を有しない。これらの点で、一般の接着シートと本発明における硬化物シートとは明確に区別される。硬化物のガラス転移温度は80℃以上であるのがより好ましい。なお、ガラス転移温度の上限は特に限定されず、一般には硬化した熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度は、300℃以下の範囲に収まることが多い。
【0041】
ここでいう「ガラス転移温度」とは、耐熱性を示す値であり、JIS K 7179に記載の方法にしたがって決定され、具体的には、熱機械分析(TMA)、動的機械分析(DMA)などを用いて測定される。熱機械分析(TMA)としては、例えば、TMA-SS6100(セイコーインスツルメンツ(株)製)、TMA-8310((株)リガク製)などが挙げられ、動的機械分析(DMA)としては、例えば、DMS-6100(セイコーインスツルメンツ(株)製)などが挙げられる。また、ガラス転移温度が分解温度よりも高く、実際にはガラス転移温度が観測されない場合には、分解温度を本発明におけるガラス転移温度とみなすことができる。ここでいう分解温度とは、JIS K 7120に記載の方法にしたがって測定したときの質量減少率が5%となる温度で定義される。
【0042】
熱硬化性樹脂組成物の硬化物層の厚さは、通常1〜30μmの範囲であり、1〜20μmとするのがより好ましい。薄すぎると硬化物層の製造が困難となりまた繊維基材の露出抑制効果が薄れる傾向にある。また厚すぎると多層プリント配線板の薄型化に不利となる。なお、厚さは熱硬化性樹脂組成物の支持体
層への塗布量を調整することにより、容易にコントロールすることが出来る。
【0043】
本発明の絶縁樹脂シートは、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物層と前記プリプレグを接着させることにより得ることができる。例えば、支持体
層と熱硬化性樹脂組成物の硬化物層からなる硬化物シートを、プリプレグの片面にラミネートして接着する方法、プリプレグを該硬化物シートの硬化物層にラミネートして接着する方法が挙げられる。該硬化物シートとプリプレグをそれぞれロール状に巻き取り、連続式にラミネートしてもよく、またロール状の両シートを裁断し、枚葉式にラミネートを行ってもよい。
【0044】
本発明の絶縁樹脂シートにおける、プリプレグ層及び熱硬化性樹脂組成物の硬化物層の合計の厚みは、通常、11μm〜100μmの範囲であり、13〜70μmの範囲がより好ましく、特に、13〜55μmの範囲が好ましい。絶縁樹脂シートの厚さが薄すぎると、絶縁層を形成する上で回路の埋め込みが不十分となる傾向にあり、また製造も困難である。また絶縁樹脂シートの厚さが厚すぎると、多層プリント配線板の薄型化に不利となる。
【0045】
本発明の絶縁樹脂シートにおいて、硬化物層に接着していないプリプレグ面は、表面の凹みや傷の防止、異物の付着防止などの目的で、保護フィルムにより保護されているのが好ましい。保護フィルムは、前記支持体
層の説明において記載したプラスチックフィルムと同様のものを用いることができる。保護フィルムの厚さは、通常1〜40μm、好ましくは10〜30μmの範囲で用いられる。
【0046】
本発明の多層プリント配線板の製造方法は、本発明の絶縁樹脂シートを内層回路基板の片面又は両面にラミネートし、絶縁樹脂シートを硬化して絶縁層を形成する工程を含むものであり、一般に以下の(1)〜(3)の工程を含む。
(1)絶縁樹脂シートをそのプリプレグが内層回路基板の両面又は片面に接するように内層回路基板に配置し、減圧下で、弾性材を介して加熱及び加圧することにより、回路基板上に積層するラミネート工程、(2)積層された絶縁樹脂シートを、金属板又は金属ロールによって加熱および加圧する平滑化工程、及び(3)平滑化された絶縁樹脂シートを熱硬化することにより、絶縁層を形成する熱硬化工程。
【0047】
ここで、絶縁層の厚さは、基本的に熱硬化性樹脂組成物の硬化物層及びプリプレグの合計の厚さが踏襲される。したがって、絶縁層の厚さは、通常11〜100μmであり、好ましくは13〜70μm、より好ましくは13〜55μmである。
【0048】
ラミネート工程について説明する。ラミネートは一般に内層回路基板に絶縁樹脂シートを、減圧下で、加熱および加圧し、内層回路基板に絶縁樹脂シートをラミネートすることにより行われる。減圧下とは、空気圧を20mmHg(26.7hPa)以下に減じた雰囲気下である。ラミネート工程において、加熱および加圧は、加熱されたSUS鏡板等の金属板を支持体
層側からプレスすることにより行うことができるが、金属板を直接プレスするのではなく、回路基板の回路凹凸に絶縁樹脂シートが十分に追随するよう、耐熱ゴム等の弾性材を介してプレスを行う。プレスは、温度が好ましくは70〜140℃(より好ましくは80〜130℃)、圧力が好ましくは1〜11kgf/cm
2(9.8×10
4〜107.9×10
4N/m
2)の範囲で行われる。
【0049】
ラミネート工程の後に、ラミネートされた絶縁樹脂シートの平滑化を行う。該平滑化工程は、一般に、常圧下(大気圧下)で、加熱されたSUS鏡板等の金属板又は金属ロールにより、絶縁樹脂シートを加熱および加圧することにより行われる。平滑化は金属板によるのがより好ましい。加熱および加圧条件は、上記ラミネート工程と同様の条件を用いることができる。
【0050】
本発明におけるラミネート工程および平滑化工程は、市販されている真空ラミネーターによって連続的に行うことができる。市販されている真空ラミネーターとしては、例えば、(株)名機製作所製 真空加圧式ラミネーター、ニチゴー・モートン(株)製 バキュームアップリケーター等が挙げられる。
【0051】
ラミネート工程または平滑化工程の後、熱硬化工程を行う。熱硬化工程においては、絶縁樹脂シートを熱硬化し、絶縁層を形成する。熱硬化工程では主にプリプレグ層が熱硬化されることになる。熱硬化条件は熱硬化性樹脂組成物の種類等によっても異なるが、一般に硬化温度が150〜200℃、硬化時間が15〜60分である。
【0052】
本発明の多層プリント配線板の製造方法においては、絶縁層に穴あけする穴あけ工程、該絶縁層を粗化処理する粗化工程をさらに含んでもよい。これらの工程は、当業者に公知である、多層プリント配線板の製造に用いられている各種方法に従って行うことができる。本発明の多層プリント配線板の製造方法においては、熱硬化された絶縁樹脂シートから支持体
層を剥離する工程をさらに含んでもよい。支持体
層の剥離は熱硬化工程後又は穴あけ工程後に行うのが好ましい。支持体
層の剥離は、手動で剥離してもよく、自動剥離装置により機械的に剥離してもよい。支持体
層として金属箔を用いた場合はエッチング溶液によりエッチングすることで除去してもよい。
【0053】
穴あけ工程は、例えば、絶縁層に、ドリル、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー等のレーザー、プラズマ等によりビアホール、スルーホール等のホールを形成することにより行うことができる。多層プリント配線板においては、スルーホールの形成は一般にコア基板において行われ、ビルドアップされた絶縁層は一般にはビアホールにより導通が行われる。なお、スルーホール形成は、一般に機械ドリルが用いられる。
【0054】
粗化工程は、例えば、絶縁層表面をアルカリ性過マンガン酸水溶液等の酸化剤で処理することにより行うことができる。該粗化工程は、ビアホール、スルーホール等のホールのデスミア工程を兼ねる場合がある。アルカリ性過マンガン酸水溶液に先立って膨潤液による膨潤処理を行うのが好ましい。膨潤液には、例えば、アトテックジャパン(株)製のスウェリング・ディップ・セキュリガンスP(Swelling Dip Securiganth P)、スウェリング・ディップ・セキュリガンスSBU(Swelling Dip Securiganth SBU)等を挙げることができる。膨潤処理は、通常60〜80℃程度に加熱した膨潤液に絶縁層を5〜10分程度付すことで行われる。アルカリ性過マンガン酸水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウムの水溶液に過マンガン酸カリウムや過マンガン酸ナトリウムを溶解した溶液を挙げることができる。アルカリ性過マンガン酸水溶液による粗化処理は、通常60〜80℃、10〜30分程度付すことで行われる。アルカリ性過マンガン酸水溶液は、市販品としては、アトテックジャパン(株)製のコンセントレートコンパクトCP、ドージングソリューションセキュリガンスP等が挙げられる。
【0055】
本発明の多層プリント配線板の製造方法においては、さらに粗化された絶縁層表面にめっきにより導体層を形成するめっき工程、導体層形成後、加熱により回路基板をアニール処理する工程、及び導体層に回路を形成する回路形成工程をさらに含んでもよい。これらの工程は、当業者に公知である、多層プリント配線板の製造に用いられている各種方法に従って行うことができる。
【0056】
めっき工程は、例えば、粗化処理により凸凹のアンカーが形成された絶縁層表面に無電解めっきと電解めっきを組み合わせた方法で導体層を形成することにより行われる。この際、ビアホール内にもめっきが形成される。導体層としては銅めっき層が好ましい。銅めっき層は、通常、無電解銅めっきと電解銅めっきを組み合わせた方法が用いられるが、導体層とは逆パターンのめっきレジストを形成し、無電解銅めっきのみで導体層を形成することも可能である。無電解めっき層の厚さは、好ましくは0.1〜3μm、より好ましくは0.3〜2μmである。一方、電解めっき層の厚さとしては、無電解めっき層の厚さとの合計が3〜35μmとなる厚さが好ましく、5〜20μmとなる厚さがより好ましい。また、ビアホールはめっきによりフィルドビアとして形成することも可能である。
【0057】
アニール処理工程は、例えば、導体層形成後、回路基板を150〜200℃で20〜90分間加熱することにより行うことができる。アニール処理することにより、導体層のピール強度をさらに向上、安定化させることができる。
【0058】
回路形成工程としては、例えば、サブトラクティブ法、セミアディディブ法等を用いることができる。ファインライン形成にはセミアディティブ法が好ましく、無電解めっき層上にパターンレジストを施し、所望の厚さの電解めっき層を形成後、パターンレジストを剥離し、無電解めっき層をフラッシュエッチで除去することにより、回路形成することができる。
【0059】
なお、本発明でいう「内層回路基板」とは、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板の片面又は両面にパターン加工された(回路形成された)導体層を有し、多層プリント配線板を製造する際に、さらに絶縁層および導体層が形成されるべき中間製造物を言う。なお、導体層表面は黒化処理等により予め粗化処理が施されていた方が絶縁層の内層回路基板への密着性の観点から好ましい。
【0060】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明する。
なお、以下の記載において「部」は「質量部」を意味する。
【実施例1】
【0061】
(樹脂ワニスの作成)
エタノールとトルエンとを1:1(質量比)の割合で混合した溶媒に、60℃で、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業(株)製「KS-1」)を固形分15%になるように溶解させ、ポリビニルブチラール樹脂溶液を得た。次に、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量180、ジャパンエポキシレジン(株)製「エピコート828EL」)28部と、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂(エポキシ当量163、大日本インキ化学工業(株)製「HP4700」)28部とを、メチルエチルケトン(以下「MEK」と略称する。)15部及びシクロヘキサノン15部からなる混合溶媒に、撹拌しながら加熱溶解させた。そこへ、ナフトール系硬化剤(東都化成(株)製「SN-485」、フェノール性水酸基当量215)の固形分50%のMEK溶液110部、硬化触媒(四国化成工業(株)製、「2E4MZ」)0.1部、球形シリカ(平均粒径0.5μm、「SOC2」アドマテックス社製)70部、及び前記のポリビニルブチラール樹脂溶液30部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、樹脂ワニスを作製した。
【0062】
(硬化物シートの製造)
前記樹脂ワニスをアルキッド系離型剤で処理されたPETフィルム(38μm)の離型処理面上に、乾燥後の熱硬化性樹脂組成物層の厚さが15μmになるよう、ダイコータにて均一に塗布し、80〜120℃(平均100℃)で6〜8分間乾燥することにより、熱硬化性樹脂組成物層の最低溶融粘度が1300poiseとなる接着シートを得た。この接着シートの表面に、保護フィルムとして厚さ15μmのポリプロピレンフィルムを貼り合わせながらロール状に巻き取った。その後、ロール状の接着シートを幅502mmにスリットし、50巻きの接着シートを得た。接着シートの保護フィルムを剥離し、それぞれ150℃で15分間、160℃15分間、170℃15分間、180℃15分間熱硬化させ、熱硬化性樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度がそれぞれ86℃、99℃、113℃、129℃である硬化物シートを得た。一方、同様な方法で、熱硬化性樹脂組成物層の厚さが10μm、5μmのロール状の接着シートを得、保護フィルムを剥離し、180℃15分間熱硬化させて、熱硬化性樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が129℃である2種の硬化物シートを得た。
【0063】
(プリプレグの製造)
樹脂ワニスを(株)有沢製作所製1015NSガラスクロス(厚さ16μm)に含浸後、樹脂中の残存溶剤量が0.6%となるまで乾燥し、厚さ35μmのプリプレグを得た。次に、プリプレグの片面に厚さ15μmのポリプロピレンフィルムを、もう一方の面に38μmのPETフィルムをラミネートした。
【0064】
(絶縁樹脂シートの製造)
熱硬化性樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が86℃の硬化物シートの硬化物面に、ポリプロピレンフィルムを剥離した前記プリプレグを配置し、(株)名機製作所製の真空加圧式ラミネーターを使用して、温度120℃にて30秒間真空吸引後、温度120℃、圧力7.0kg/cm
2の条件で、PETフィルム上から、耐熱ゴムを介して30秒間ラミネートした。次に、大気圧下で、SUS鏡板を用いて、温度120℃、圧力5kg/cm
2の条件で60秒間プレスを行い、絶縁樹脂シートを得た。
【0065】
(絶縁樹脂シートのラミネート)
得られた絶縁樹脂シートを、内層回路基板(IPC MULTI-PURPOSE TESTBOARD No.IPC-B-25、導体厚18μm、0.8mm厚)の両面にラミネートした。かかるラミネートは、(株)名機製作所製の真空加圧式ラミネーターMVLP-500を用い、温度80℃にて30秒間真空吸引後、温度80℃、圧力7.0kg/cm
2の条件で、PETフィルム上から、耐熱ゴムを介して60秒間プレスすることによりラミネートした。次に、大気圧下で、SUS鏡板を用いて、温度80℃、圧力5.5kg/cm
2の条件で90秒間プレスを行った。
【0066】
(樹脂組成物の硬化)
ラミネートされた絶縁樹脂シートから、PETフィルムを剥離し、熱風循環炉を用いて、180℃、30分の硬化条件で、熱硬化性樹脂組成物(プリプレグ)を硬化させて、絶縁層を形成した。これにより、内層回路基板の両面に絶縁層が形成された積層板を得た。
【0067】
(粗化処理)
得られた積層板に過マンガン酸液による粗化処理を施した。まず、膨潤処理として、アトテックジャパン(株)製のスウェリング・ディップ・セキュリガントP(Swelling Dip Securiganth P)に60℃にて5分間浸漬し、次に、酸化処理として、アトテックジャパン(株)製のコンセントレート・コンパクトCPとドージングソリューション・セキュリガントPの混合液に80℃にて20分間浸漬し、その後、還元処理として、アトテックジャパン(株)製リダクション・ソリューション・セキュリガントP500(Reduction solution Securiganth P500)溶液に40℃にて5分浸漬した。
【0068】
(めっきによる導体層形成)
得られた積層板の絶縁層表面に、パラジウム含有のアトテックジャパン社製のアクチベータネオガント834を用いて無電解銅めっきの触媒付与を行なった後、酒石酸塩含有のアトテックジャパン(株)製プリントガントMSK-DKを用いて無電解めっきを行った。次に、硫酸銅を用いて銅厚が約20μmになるように電解めっきを行った。その後、180℃にて30分間硬化を行い、多層プリント配線板を得た。
【実施例2】
【0069】
硬化物シートとして、硬化物のガラス転移温度が99℃の硬化物シート(熱硬化性樹脂組成物層(硬化物層)の厚みが15μm)を使用した以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【実施例3】
【0070】
硬化物シートとして、硬化物のガラス転移温度が113℃の硬化物シート(熱硬化性樹脂組成物層(硬化物層)の厚みが15μm)を使用した以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【実施例4】
【0071】
絶縁樹脂シートの内層回路基板へのラミネート及び平滑化工程の温度が100℃であること以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【実施例5】
【0072】
硬化物シートとして、硬化物のガラス転移温度が99℃の硬化物シート(熱硬化性樹脂組成物層(硬化物層)の厚みが15μm)を使用し、絶縁樹脂シートの内層回路基板へのラミネート及び平滑化工程の温度が100℃であること以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【実施例6】
【0073】
硬化物シートとして、硬化物のガラス転移温度が113℃の硬化物シート(熱硬化性樹脂組成物層(硬化物層)の厚みが15μm)を使用し、絶縁樹脂シートの内層回路基板へのラミネート及び平滑化工程の温度が100℃であること以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【実施例7】
【0074】
絶縁樹脂シートの内層回路基板へのラミネート及び平滑化工程の温度が120℃であること以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【実施例8】
【0075】
硬化物シートとして、硬化物のガラス転移温度が99℃の硬化物シート(熱硬化性樹脂組成物層(硬化物層)の厚みが15μm)を使用し、絶縁樹脂シートの内層回路基板へのラミネート及び平滑化工程の温度が120℃であること以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【実施例9】
【0076】
硬化物シートとして、硬化物のガラス転移温度が113℃の硬化物シート(熱硬化性樹脂組成物層(硬化物層)の厚みが15μm)を使用し、絶縁樹脂シートの内層回路基板へのラミネート及び平滑化工程の温度が120℃であること以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【実施例10】
【0077】
硬化物シートとして、硬化物のガラス転移温度が129℃の硬化物シート(熱硬化性樹脂組成物層(硬化物層)の厚みが15μm)を使用し、絶縁樹脂シートの内層回路基板へのラミネート及び平滑化工程の温度が100℃であること以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【実施例11】
【0078】
硬化物シートとして、硬化物のガラス転移温度が129℃の硬化物シート(熱硬化性樹脂組成物層(硬化物層)の厚みが10μm)を使用し、絶縁樹脂シートの内層回路基板へのラミネート及び平滑化工程の温度が100℃であること以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【実施例12】
【0079】
硬化物シートとして、硬化物のガラス転移温度が129℃の硬化物シート(熱硬化性樹脂組成物層(硬化物層)の厚みが5μm)を使用し、絶縁樹脂シートの内層回路基板へのラミネート及び平滑化工程の温度が100℃であること以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【実施例13】
【0080】
硬化物シートとして、硬化物のガラス転移温度が129℃の硬化物シート(熱硬化性樹脂組成物層(硬化物層)の厚みが15μm)を使用し、絶縁樹脂シートの内層回路基板へのラミネート及び平滑化工程の温度が120℃であること以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【実施例14】
【0081】
硬化物シートとして、硬化物のガラス転移温度が129℃の硬化物シート(熱硬化性樹脂組成物層(硬化物層)の厚みが10μm)を使用し、絶縁樹脂シートの内層回路基板へのラミネート及び平滑化工程の温度が120℃であること以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【実施例15】
【0082】
硬化物シートとして、硬化物のガラス転移温度が129℃の硬化物シート(熱硬化性樹脂組成物層(硬化物層)の厚みが5μm)を使用し、絶縁樹脂シートの内層回路基板へのラミネート及び平滑化工程の温度が120℃であること以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【0083】
<比較例1>
絶縁樹脂シートの代わりに、厚さ50μmのプリプレグ層のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。なお、かかる厚さ50μmのプリプレグは、実施例1と同様の樹脂ワニスを、(株)有沢製作所製1015NSガラスクロス(厚さ16μm)に、得られるプリプレグの厚さが50μmになるように含浸させて、80〜150℃で10分間乾燥させて得た。
【0084】
<比較例2>
硬化物シートの代わりに接着シート(実施例1における硬化物シートの製造に使用した接着シート)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、多層プリント配線板を得た。
【0085】
以上の実施例及び比較例で得られた硬化物シート、プリプレグ、絶縁樹脂シート及び多層プリント板についての評価を下記のとおりに行った。その結果を下記表1に示す。
【0086】
(流動性の評価)
(株)名機製作所製の真空加圧式ラミネーターを用い、硬化物シートを平面サイズが12cm×15cmの矩形に切断し、これを20cm四方の0.8mm厚のFR4基板に、同心となるように載置し、各実施例及び比較例の条件と同じ条件でラミネート及び平滑化を行い、シミ出し長さにより流動性を評価した。ラミネートは、温度80℃にて30秒間真空吸引後、温度80℃、圧力7.0kg/cm
2の条件で、PETフィルム上から、耐熱ゴムを介して60秒間プレスすることによりラミネートし、平滑化は、大気圧下で、SUS鏡板を用いて、温度80℃、圧力5.5kg/cm
2の条件で90秒間プレスを行った。プレス後、四辺からはみ出す樹脂の最大シミだし長さを測定した。
なお、シミだし長さは、PETフィルムの端部(端辺)からはみ出した樹脂の該端部(端辺)に対する垂直方向への長さのことであり、CCD型顕微鏡((株)キーエンス製、VH6300)の測長ツールにより測定した。
【0087】
(ガラス転移温度の測定)
実施例及び比較例で得られた硬化物シートにおける熱硬化性樹脂組成物の硬化物層の小片をサンプルとし、熱機械分析装置(DMA)としてセイコーインスツルメンツ(株)製の型式DMS-6100を用い、「引っ張りモード」にて測定した。かかる測定は、2℃/分の昇温にて、25℃〜240℃の範囲で行った。測定で得られた貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E”)との比で求められる損失正接(tanδ)の最大値の小数点第一位を四捨五入した値をガラス転移温度とした。なお未硬化であって、測定できない場合は、測定不能とした。
【0088】
(最低溶融粘度の測定)
(株)ユービーエム製の型式Rheosol-G3000を用い、樹脂量は1gとした。また、直径18mmのパラレルプレートを使用し、測定開始温度60℃、昇温速度5℃/分、振動数1Hz/degにて測定した。最低の粘度値(η)を最低溶融粘度とした。
実施例及び比較例で用いたプリプレグ層の熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度は約1500poiseであった。また実施例の硬化物層の溶融粘度は500,000poise以上となり測定不可能であった。比較例2の熱硬化性樹脂組成物層の最低溶融粘度は約1600poiseであった。
【0089】
(絶縁樹脂シート、硬化物シート層、プリプレグの厚さの測定)
接触式膜厚計((株)ミツトヨ製、MCD-25MJ)を用いて測定した。
【0090】
(ガラスクロスの露出とめっき銅残り)
内層回路基板のPクーポン上のめっき皮膜を剥がして、CCD型顕微鏡(キーエンス社製、VH6300)を用いて、ガラスクロスの露出の有無を観察した。なお、ガラスクロスが露出していた場合は、銅めっき時に、そこにめっき銅が潜り込むため、めっき皮膜剥離後もめっき銅が残存する。
[評価]
○:ガラスクロスがPクーポンの樹脂表面に露出せず、かつ、めっき銅残りなし。
×:ガラスクロスがPクーポンの樹脂表面に露出、又は、その場所にめっき銅残りあり。
【0091】
(回路への埋め込み性)
回路基板中のPクーポン部分の段差部分の断面を削りだした積層板を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、回路間に樹脂が埋め込まれているか確認した。
[評価]
○:回路間に樹脂が埋め込まれている。
×:回路間にボイド残りがあり、埋め込み不十分。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示される結果から明らかなように、実施例1〜15のプリプレグと硬化物層からなる絶縁樹脂シートは、内層回路基板にラミネートし硬化させた後に粗化処理を施しても、ガラスクロスが樹脂表面に露出せず、めっき銅残りもなかった。一方、プリプレグを単独で使用した比較例1及びプリプレグと熱硬化性樹脂組成物層(未硬化)からなる絶縁樹脂シートを使用した比較例2では、いずれも粗化処理によるガラスクロスの露出が観察された。