(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記A/D変換部は、前記モータ駆動回路を構成するスイッチング素子を制御するパルス幅変調信号の一周期中の制御に必要な上側アームの一相オン状態および二相オン状態を検出する主サンプリング区間と、前記主サンプリング区間でオンとならないアームのスイッチング素子のオン区間を検出する補助サンプリング区間とが設定されている請求項5又は6に記載のモータ制御装置。
前記下側電流検出用抵抗の端子間電圧を検出する電流検出部は、前記オペアンプの出力電圧のピークホールドを行うピークホールド回路を備え、該ピークホールド回路のピークホールド信号を前記過電流判定部に供給する請求項5から7の何れか1項に記載のモータ制御装置。
前記制御演算装置は、前記異常検出部で、複数のモータ駆動回路の何れかで上側アームおよび下側アームのオープン故障およびショート故障の少なくとも一方を検出したときに、異常を検出したモータ駆動回路側のモータ電流遮断部で多相モータ電流を遮断し、正常なモータ駆動回路の多相モータ電流の制御態様を変化させるように構成されている請求項1から8の何れか1項に記載のモータ制御装置。
前記異常検出部は、前記多相電動モータの多相モータ巻線を構成するコイル部の断線異常を、モータ相電圧検出値、モータ相抵抗、モータ相電流検出値、モータ逆起電圧定数、およびモータ回転速度に基づいてモータ相抵抗値の変化量を検出し、検出したモータ相抵抗値の変化量が閾値以上となったときに、コイル部の断線異常として判断する請求項11又は12に記載のモータ制御装置。
前記異常検出部は、上側アームが接続される正極側電源ラインに介挿した上側電流検出用抵抗と、下側アームが接続される負極側電源ラインに介挿した下側電流検出用抵抗と、前記上側電流検出用抵抗および下側電流検出用抵抗の端子間電圧を個別に検出する複数の電流検出部とを備え、
前記モータ電流遮断診断部は、前記電流検出部で非通電状態を検出しているときに前記モータ電流遮断部が正常であると判断し、前記電流検出部で通電状態を検出しているときに前記モータ電流遮断部にショート故障が生じていると判断する請求項15又は16に記載のモータ制御装置。
前記異常検出部は、上側アームが接続される正極側電源ラインに介挿した上側電流検出用抵抗と、下側アームが接続される負極側電源ラインに介挿した下側電流検出用抵抗と、前記上側電流検出用抵抗および下側電流検出用抵抗の端子間電圧を個別に検出する複数の電流検出部とを備え、
前記第1の診断部は、前記上側電流検出用抵抗及び下側電流検出用抵抗の端子間電圧を個別に検出する電流検出部で非通電状態を検出しているときに前記モータ電流遮断部が正常であると判断し、前記電流検出部で通電状態を検出しているときに前記モータ電流遮断部にショート故障が生じていると判断する請求項18又は19に記載のモータ制御装置。
前記異常検出部は、上側アームが接続される正極側電源ラインに介挿した上側電流検出用抵抗と、下側アームが接続される負極側電源ラインに介挿した下側電流検出用抵抗と、前記上側電流検出用抵抗および下側電流検出用抵抗の端子間電圧を個別に検出する複数の電流検出部とを備え、
前記第2の診断部は、前記上側電流検出用抵抗及び下側電流検出用抵抗の端子間電圧を個別に検出する電流検出部で非通電状態を検出しているときに前記電源遮断部が正常であると判断し、前記電流検出部で通電状態を検出しているときに前記電源遮断部にショート故障が生じていると判断する請求項20に記載のモータ制御装置。
前記第3の診断部は、前記モータ駆動回路の前記電源遮断部側の入力電圧を検出する入力電圧検出部を有し、前記モータ電流遮断部及び前記電源遮断部の遮断状態で、前記入力電圧検出部で検出した入力電圧が低下したときに前記モータ電流遮断部及び前記電源遮断部が正常であると判断し、前記入力電圧検出部で検出した入力電圧が低下しないときに、前記モータ電流遮断部及び電源遮断部の何れか一方にショート故障が生じたものと判断する請求項20に記載のモータ制御装置。
前記状態変化量演算部は、前記複数のモータ駆動回路で検出される検出値の差又は前記複数のモータ駆動回路で検出される検出値と閾値との差から前記モータ駆動回路の状態変化量を算出する請求項1から22の何れか1項に記載のモータ制御装置。
前記制御演算装置は、前記モータ駆動回路の状態変化量が所定値未満であるときにはバラツキの範囲内であると判定し、前記モータ駆動回路の状態変化量が所定値以上であるときに当該モータ駆動回路の状態変化量に応じて前記複数のモータ駆動回路に対する制御パラメータを変更するように構成されている請求項1から22の何れか1項に記載のモータ制御装置。
前記多相電動モータのモータ回転角を検出するモータ角検出部を有し、前記制御演算装置は、前記多相電動モータを駆動する指令値を出力する指令値演算部と、該指令値演算部から出力される指令値と前記モータ角検出部で検出したモータ回転角とに基づいて多相電流指令値を算出する多相電流指令値演算部とを備えている請求項1から24の何れか1項に記載のモータ制御装置。
操舵系に介挿されたトーションバーの入出力側の回転角を検出して操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、前記電動モータのモータ回転角を検出するレゾルバを含むモータ回転角検出部と、該モータ回転角検出部の異常を検出するモータ角度異常検出部と、前記電動モータのモータ電流検出値およびモータ電圧検出値および前記操舵トルク検出部の前記トーションバーの出力側回転角に基づいて逆起電圧によるモータ回転角を推定するモータ回転角推定部と、前記モータ角度異常検出部でモータ回転角検出部の異常を検出したときに、当該モータ回転角検出部のモータ回転角検出値に代えて前記モータ回転角推定部のモータ回転角推定値を選択するモータ回転角選択部とを備えている請求項26に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図面を伴って説明する。
図1は、本発明のモータ制御装置を、車両に搭載した電動パワーステアリング装置に適用した場合の第1の実施形態を示す全体構成図である。
図中、符号1は、ステアリングホイールであり、このステアリングホイール1に運転者から作用される操舵力がステアリングシャフト2に伝達される。このステアリングシャフト2は、入力軸2aと出力軸2bとを有する。入力軸2aの一端はステアリングホイール1に連結され、他端は操舵トルクセンサ3を介して出力軸2bの一端に連結されている。
そして、出力軸2bに伝達された操舵力は、ユニバーサルジョイント4を介してロアシャフト5に伝達され、さらに、ユニバーサルジョイント6を介してピニオンシャフト7に伝達される。このピニオンシャフト7に伝達された操舵力はステアリングギヤ8を介してタイロッド9に伝達され、図示しない転舵輪を転舵させる。ここで、ステアリングギヤ8は、ピニオンシャフト7に連結されたピニオン8aとこのピニオン8aに噛合するラック8bとを有するラックアンドピニオン形式に構成され、ピニオン8aに伝達された回転運動をラック8bで車幅方向の直進運動に変換している。
【0009】
ステアリングシャフト2の出力軸2bには、操舵補助力を出力軸2bに伝達する操舵補助機構10が連結されている。この操舵補助機構10は、出力軸2bに連結した例えばウォームギヤ機構で構成される減速ギヤ11と、この減速ギヤ11に連結された操舵補助力を発生する例えば3相ブラシレスモータで構成される電動モータとしての3相電動モータ12とを備えている。
操舵トルクセンサ3は、ステアリングホイール1に付与されて入力軸2aに伝達された操舵トルクを検出するもので、例えば、
図2に示すように、操舵トルクを入力軸2aおよび出力軸2b間に介挿したトーションバー3aの捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位を入力軸2a側に配置した入力側回転角センサ3bと出力軸2b側に配置した出力側回転角センサ3cとの角度差に変換して検出するように構成されている。
【0010】
また、3相電動モータ12は、
図3に示すように、内周面に内方に突出形成されてスロットSLを形成する磁極となる例えば9本のティースTeを有するステータ12Sと、このステータ12Sの内周側にティースTeと対向して回転自在に配置された例えば6極の表面磁石型のロータ12Rとを有する表面磁石型(SPM)モータの構成を有する。
そして、ステータ12SのスロットSLに、3相を構成するA相、B相およびC相の多相モータ巻線La、LbおよびLcが巻装されている。これら多相モータ巻線La、LbおよびLcのそれぞれは、
図4に示すように、例えば3つのコイル部L1、L2およびL3が並列に接続された構成を有し、これらコイル部L1〜L3がスロットSLに3層に巻装されている。各相モータ巻線La、LbおよびLcは、一端が互いに接続されてスター結線とされ、各相コイルLa、LbおよびLcの他端がモータ制御装置20に接続されて個別にモータ駆動電流Ia、IbおよびIcが供給されている。
【0011】
さらに、3相電動モータ12は、
図5に示すように、モータの回転位置を検出するレゾルバなどの回転位置センサ13aを備えている。この回転位置センサ13aからの検出値がモータ回転角検出回路13に供給されてこのモータ回転角検出回路13でモータ回転角θmを検出する。
モータ制御装置20には、操舵トルクセンサ3で検出された操舵トルクTsおよび車速センサ21で検出された車速Vsが入力されるとともに、モータ回転角検出回路13から出力されるモータ回転角θmが入力される。
また、モータ制御装置20には、直流電圧源としてのバッテリー22から直流電流が入力されている。
モータ制御装置20の具体的構成は、
図5に示すように構成されている。すなわち、モータ制御装置20は、モータ電流指令値を演算する制御演算装置31と、この制御演算装置31から出力される3相のモータ電圧指令値V1
*およびV2
*が個別に入力されるハードウェアを構成する第1および第2のモータ駆動回路32Aおよび32Bと、これら第1および第2のモータ駆動回路32Aおよび32Bの出力側と3相電動モータ12の第1および第2の多相モータ巻線La〜Lcとの間に介挿された第1および第2のモータ電流遮断部33Aおよび33Bとを備えている。
【0012】
制御演算装置31には、
図5には図示を省略しているが、
図1に示す操舵トルクセンサ3で検出した操舵トルクTsおよび車速センサ21で検出した車速Vsが入力されているとともに、
図5に示すように、モータ回転角検出回路13から出力されるモータ回転角θmとが入力され、さらに後述する電流検出回路39Aおよび39Bから出力される3相電動モータ12の多相モータ巻線La〜Lcの各相のコイル部L1〜L3に通電するモータ電流Iad〜Icdが入力されている。
この制御演算装置31は、
図6に示すように、操舵補助電流指令値I
*を算出する操舵補助電流指令値演算部34と、この操舵補助電流指令値演算部34で算出した操舵補助電流指令値I
*に対して入力される角速度ωeおよび角加速度αに基づいて補償を行う補償制御演算部35と、この補償制御演算部35で補償された補償後トルク指令値I
*′に基づいてd−q軸電流指令値を算出し、これを3相電流指令値に変換するd−q軸電流指令値演算部37とを有する。
【0013】
操舵補助電流指令値演算部34は、操舵トルクTsおよび車速Vsをもとに
図7に示す操舵補助電流指令値算出マップを参照して電流指令値でなる操舵補助電流指令値I
*を算出する。この操舵補助電流指令値算出マップは、同図に示すように、横軸に操舵トルクTsをとり、縦軸に操舵補助電流指令値I
*をとる放物線状の曲線で表される特性線図で構成されている。
そして、モータ駆動回路32Aおよび32Bの正常時には操舵トルクTsおよび車速Vsをもとに予め設定された
図7で実線図示の正常時電流指令値算出曲線Lnoを参照して操舵補助電流指令値I
*を算出する。また、操舵補助電流指令値演算部34は、3相電動モータ12のコイルの断線異常時に操舵トルクTsおよび車速Vsをもとに予め設定された
図7で点線図示の異常時電流指令値算出曲線Labを参照して操舵補助電流指令値I
*を算出する。
【0014】
ここで、異常時電流指令値算出曲線Labは、正常時電流指令値算出曲線Lnoで算出される操舵補助電流指令値I
*に対してゲインを上げたものとなっている。
補償制御演算部35は、例えばモータ角速度ωeに基づいてヨーレートの収斂性を補償する収斂性補償値、モータ角加速度αに基づいて電動モータ12の慣性により発生するトルク相当分を補償して慣性感又は制御応答性の悪化を防止するトルク補償値およびセルフアライニングトルク(SAT)を推定して補償するセルフアライニングトルク補償値を算出し、これらを足し合わせて指令値補償値Icomを算出する。
そして、補償制御演算部35は算出した指令値補償値Icomを操舵補助電流指令値演算部34から出力される操舵補助電流指令値I
*に加算器36で加算することにより、補償後操舵補助電流指令値I
*′を算出し、この補償後操舵補助電流指令値I
*′をd−q軸電流指令値演算部37に出力する。
【0015】
また、d−q軸電流指令値演算部37は、d軸目標電流算出部37a、誘起電圧モデル算出部37b、q軸目標電流算出部37c及び2相/3相変換部37dを備えている。
d軸目標電流算出部37aは、補償後操舵補助電流指令値I
*′とモータ角速度ωeとに基づいてd軸目標電流Id
*を算出する。
誘起電圧モデル算出部37bは、モータ回転角θおよびモータ角速度ωeに基づいてd−q軸誘起電圧モデルEMF(Electro Magnetic Force)のd軸EMF成分ed(θ)およびq軸EMF成分eq(θ)を算出する。
q軸目標電流算出部37cは、誘起電圧モデル算出部37bから出力されるd軸EMF成分ed(θ)およびq軸EMF成分eq(θ)とd軸目標電流算出部37aから出力されるd軸目標電流Id
*と補償後操舵補助電流指令値I
*′とモータ角速度ωeとに基づいてq軸目標電流Iq
*を算出する。
2相/3相変換部37dは、d軸目標電流算出部37aから出力されるd軸目標電流Id
*とq軸目標電流算出部37cから出力されるq軸目標電流Iq
*とを3相電流指令値Ia
*、Ib
*およびIc
*に変換する。
【0016】
また、制御演算装置31では、算出したA相電流指令値Ia
*、B相電流指令値Ib
*およびC相電流指令値Ic
*と電流検出回路39Aおよび39Bで検出した電流検出値Iad,IbdおよびIcdとに基づいてモータ駆動回路32Aおよび32Bに対する電圧指令値V1
*およびV2
*を算出する電圧指令値演算部38を備えている。この電圧指令値演算部38は、A相電流指令値Ia
*、B相電流指令値Ib
*およびC相電流指令値Ic
*から電流検出値Iad、IbdおよびIcdを減算して電流偏差ΔIa、ΔIbおよびΔIcを算出し、これら電流偏差ΔIa、ΔIbおよびΔIcについて例えばPI制御演算又はPID制御演算を行って第1および第2のモータ駆動回路32Aおよび32Bに対する3相の電圧指令値V1
*およびV2
*を算出し、算出した3相の電圧指令値V1
*およびV2
*を第1および第2のモータ駆動回路32Aおよび32Bに出力する。ここで、3相の電圧指令値V1
*およびV2
*は、後述する異常検出部31aで異常を検出していない正常状態で互いに同一の値として出力される。
【0017】
また、制御演算装置31には、
図5及び
図8に示すように、モータ駆動回路32Aおよび32Bと第1および第2のモータ電流遮断部33Aおよび33Bとの間に設けられたモータ電圧検出回路40Aおよび40Bで検出した各モータ相電圧V1ma、V1mb、V1mcおよびV2ma、V2mb、V2mcが入力されている。
さらに、制御演算装置31には、
図5に示すように、第1および第2のモータ駆動回路32Aおよび32Bのインバータ回路42Aおよび42Bに供給される直流電流を検出する電流検出回路39A1および39B1から出力される上側電流検出値IA1dおよびIB1dと、インバータ回路42Aおよび42Bから接地に流れる直流電流を検出する電流検出回路39A2および39B2から出力される下側電流検出値IA2dおよびIB2dとが入力されている。
【0018】
そして、制御演算装置31は、各モータ相電圧Vm1a、Vm1b、Vm1cおよびVm2a、Vm2b、Vm2cと、上側電流検出値IA1d,IB1d、下側電流検出値IA2d,IB2dとがA/D変換部31cに入力されて、後述する第1および第2のインバータ回路42Aおよび42Bを構成するスイッチング素子としての電界効果トランジスタ(FET)Q1〜Q6の上側アームのオープン故障および下側アームのショート故障、3相電動モータ12の各相モータ巻線La、LbおよびLcのコイル部L1〜L3の断線異常等を検出する異常検出部31aを有する異常診断部31bを備えている。
【0019】
異常検出部31aでは、以下のようにして異常検出を行う。
すなわち、
図10に示すように、時点t1でモータ駆動回路32Aの例えばA相の上アームのオープン故障を生じたときには、
図10に示すように、オープン故障を生じたアームのモータ駆動電流Iaが正となったときに、モータ駆動回路32Aの上側電流検出値IA1dが減少し、これを補うようにモータ駆動回路32Bの上側電流検出値IB1dが増加することになる。
そして、検出した上側電流検出値IA1dおよびIB1dを比較することにより、オープン故障となっているモータ駆動回路32A又は32Bを特定することができ、オープン故障が生じているモータ駆動回路32A又は32Bに対して論理値“1”の異常検出信号SAa又はSAbを出力する。
なお、上側アームにオープン故障を生じた場合には、
図10に示すように、モータ駆動電流の3相波形に特段の変化はなく、操舵補助制御を継続することができる。
【0020】
また、
図11に示すように、時点t2で、モータ駆動回路32Aの上段アームの例えばA相の上側アームにショート故障が発生した場合には、モータ駆動回路32Aの上側電流検出値IA1dが急激に増加し、モータ駆動回路32Bの上側電流検出値IB1dの増加量は僅かであることから、上側電流検出値IA1dの瞬間値が所定閾値以上となったときに上側アームのショート故障であると判断することができる。
この場合には、モータ電流も
図11に示すように大幅に乱れることになるが、時点t3でモータ駆動回路32Aのモータ電流遮断部33Aを遮断することにより、モータ駆動回路32Bからのみモータ駆動電流が3相電動モータ12の各相モータ巻線La〜Lcに供給されるので、モータ駆動電流が安定した正弦波状に復帰する。このため、3相電動モータ12の駆動を継続することができる。
このとき、後述するように、インバータ回路42Aおよび42Bの電界効果トランジスタ(FET)のゲートにパルス幅変調(PWM)信号が入力されることから、インバータ回路42Aおよび42Bから出力されるモータ駆動電流Ia〜Icはデューティ比が制御される矩形波信号となる。このため、単純にモータ駆動電流Ia〜Icの瞬時値を検出したときに矩形波信号がオフとなっているときに検出すると正規のモータ電流値を表さないことになる。
【0021】
このため、上側電流検出値IA1dおよびIB1dを正確に検出するためには、上側電流検出値IA1dおよびIB1dを、ピーク値をパルス幅変調信号の1周期程度の時間以上保持するピークホールド回路に供給して、ピーク値を保持することにより、上側電流検出値IA1dおよびIB1dのピーク(最大)値を素早く正確に検出することができる。
一方、3相電動モータ12の各相モータ巻線La〜Lcにおけるコイル部L1〜L3の何れか1つに断線異常が発生した場合のコイル部断線検出は、コイル部L1〜L3の断線によって抵抗値が変化することから、モータ相抵抗値の変化を監視することにより、コイル部断線を検出することができる。すなわち、例えば
図4におけるA相モータ巻線Laのコイル部L3に断線が発生した場合には、コイル部L1〜L3の一本当たりの抵抗値Reとすると、モータ相抵抗Rは、(1/3)*Rcから(1/2)*Rcに増加する。この作用を断線異常検出に利用する。
【0022】
この断線異常の検出の一例は、各相モータ電圧検出回路40Aおよび40Bで検出した値にて算出できるモータ相電圧Vmは、下記のように表される。
Vm=R*i+Ke*ω …………(1)
ここで、Rはモータ相抵抗(定数)、iはモータ相電流(検出値)、Keはモータ逆起電圧定数、ωはモータ回転速度(検出値/演算値)である。
上記(1)式において、モータ相抵抗変化量をΔRとすると、上記(1)式は下記(2)で表される。
Vm=(R+ΔR)*i+Ke*ω …………(2)
したがって、モータ相抵抗値変化量ΔRは、
ΔR=(Vm−Ke*ω)/i−R …………(3)
で表すことができる。この(3)式にモータ相電圧(検出値)とモータ回転速度ω(検出値/演算値)を代入することにより、モータ相抵抗値Rの変化量ΔRを算出することができる。そして、算出した変化量ΔRが所定閾値未満であるときにはバラツキの範囲内であると判断し、変化量ΔRが所定閾値以上のときに相モータ巻線La〜Lcのコイル部L1〜L3の断線異常であると判断することができる。
【0023】
また、異常検出部31aで、3相電動モータ12の各相モータ巻線La,LbおよびLcのうちの1つの相モータ巻線Lj(j=a,b,c)のコイル部L1〜L3の1つLk(k=1,2,3)に断線異常を検出したときには、1つのコイル部Lkの断線異常によって、相モータ巻線Ljの逆起電圧Ejが正常時の2/3に変化する。このため、断線異常を検出した相モータ巻線Ljに供給しているモータ電流指令値Ij
*に対するゲインKjを通常時の“1”から“3/2”に増加させる。
すなわち、3相電動モータ12の入出力のエネルギー関係式は、
T*ω=Ea*Ia+Eb*Ib+Ec*Ic …………(4)
で表される。ここで、Tはモータトルク、ωはモータ角周波数、Ea,EbおよびEcはA,B,C相の逆起電圧、Ia,IbおよびIcはA,B,C相のモータ電流である。
【0024】
例えば、コイル部L1〜L3の並列結線で、ある相の1つのコイル部Lkに断線異常が発生した場合には、逆起電圧Ejが正常時の2/3に変化する。このため、相モータ巻線Ljのモータ電流Ijを生じさせる電流指令値Ij
*に対するゲインKjを正常時の“1”から“3/2”に増加させることにより、Ej*Ijが正常な相モータ巻線の場合と等しい値となり、トルク変動を抑制してトルク一定制御を行うことができる。
【0025】
第1および第2のモータ駆動回路32Aおよび32Bのそれぞれは、制御演算装置31から出力される3相の電圧指令値V1
*およびV2
*が入力されてゲート信号を形成するゲート駆動回路41Aおよび41Bと、これらゲート駆動回路41Aおよび41Bから出力されるゲート信号が入力される第1および第2のインバータ回路42Aおよび42Bとを備えている。
ゲート駆動回路41Aおよび41Bのそれぞれは、制御演算装置31から電圧指令値V1
*およびV2
*が入力されると、これら電圧指令値V1
*およびV2
*と三角波のキャリア信号Scとをもとにパルス幅変調(PWM)した6つのゲート信号を形成し、これらゲート信号をインバータ回路42Aおよび42Bに出力する。
なお、6つのPWMゲート信号を制御演算装置31で共通生成してインバータ回路42Aおよび42Bに入力する構成としてもよい。
【0026】
また、ゲート駆動回路41Aは、制御演算装置31から入力される異常検出信号SAaが論理値“0”(正常)であるときには、モータ電流遮断部33Aに対してハイレベルの3つのゲート信号を出力するとともに、電源遮断部44Aに対してハイレベルのゲート信号を出力する。また、ゲート駆動回路41Aは、異常検出信号SAaが論理値“1”(異常)であるときにはモータ電流遮断部33Aに対してローレベルの3つのゲート信号を同時に出力し、モータ電流を遮断するとともに、電源遮断部44Aに対してローレベルのゲート信号を出力し、バッテリー電力を遮断する。
同様に、ゲート駆動回路41Bは、制御演算装置31から入力される異常検出信号SAbが論理値“0”(正常)であるときには、モータ電流遮断部33Bに対してハイレベルの3つのゲート信号を出力するとともに、電源遮断部44Bに対してハイレベルゲート信号を出力する。また、ゲート駆動回路41Bは、異常検出信号SAbが論理値“1”(異常)であるときにはモータ電流遮断部33Bに対してローレベルの3つのゲート信号を同時に出力し、モータ電流を遮断するとともに、電源遮断部44Bに対してローレベルのゲート信号を出力し、バッテリー電力を遮断する。
【0027】
第1および第2のインバータ回路42Aおよび42Bのそれぞれは、ノイズフィルタ43と、電源遮断部44Aおよび44Bと、電流検出回路39A1および39B1とを介してバッテリー22のバッテリー電流が入力され、入力側に平滑用の電解コンデンサCAおよびCBが接続されている。
これら第1および第2のインバータ回路42Aおよび42Bは、6個のスイッチング素子としての電界効果トランジスタ(FET)Q1〜Q6を有し、2つの電界効果トランジスタを直列に接続した3つのスイッチングアームSWAa、SWAb、SWAcおよびSWBa、SWBb、SWBcを並列に接続した構成を有する。
これら第1および第2のインバータ回路42Aおよび42Bは、各電界効果トランジスタQ1〜Q6のゲートにゲート駆動回路41Aおよび41Bから出力されるゲート信号が入力されることにより、各スイッチングアームSWAa、SWAb、SWAcおよびSWBa、SWBb、SWBcの電界効果トランジスタ間の接続点からA相電流Ia、B相電流Ib、C相電流Icがモータ電流遮断部33Aおよび33Bを介して3相電動モータ12の3相モータ巻線La、LbおよびLcに通電される。
【0028】
また、インバータ回路42Aおよび42Bの各スイッチングアームSWAa、SWAb、SWAcおよびSWBa、SWBb、SWBcは、下アームとなる電界効果トランジスタQ2、Q4およびQ6のソースが互いに接続されて電流検出回路39A2および39B2を介して接地され、これら電流検出回路39Aおよび39Bでモータ電流I1a〜I1cおよびI2a〜I2cが検出される。
電流検出回路39A1,39A2および39B1,39B2のそれぞれは、
図8に示すように構成されている。すなわち、電流検出回路39A1および39B1は、
図9に示すように、各スイッチングアームSWAa〜SWAcおよびSWBa〜SWBcの電源側と電源遮断部44Aおよび44Bとの間に介挿された電流検出用のシャント抵抗51Aおよび51Bを有する。電流検出回路39A1および39B1のそれぞれは、
図8(a)に示すように、シャント抵抗51Aおよび51Bの両端電圧が抵抗R2およびR3を介して入力されるオペアンプ39aと、このオペアンプ39aの出力信号が供給される主にノイズフィルタで構成されるサンプルホールド回路39sとで構成されている。
【0029】
そして、サンプルホールド回路39sから出力される電流検出信号IA1dおよびIB1dが制御演算装置31のA/D変換部31cに供給される。
また、電流検出回路39A2および39B2は、
図9に示すように、各スイッチングアームSWAa〜SWAcおよびSWBa〜SWBcの接地側と接地との間に介挿された電流検出用のシャント抵抗52Aおよび52Bを有する。これら電流検出回路39A2および39B2のそれぞれは、
図8(b)に示すように、シャント抵抗52Aおよび52Bの両端電圧が抵抗R2およびR3を介して入力されるオペアンプ39aと、このオペアンプ39aの出力信号が供給されるノイズフィルタを含むピークホールド回路39pと、オペアンプ39aの出力信号が供給される主にノイズフィルタで構成されるサンプルホールド回路39sとで構成されている。
そして、サンプルホールド回路39sから出力される電流検出信号IA2dおよびIB2dが制御演算装置31のA/D変換部31cに供給される。また、ピークホールド回路39pから出力される電流検出値のピークホールド信号IA3dおよびIB3dがA/D変換部31cと後述する過電流時遮断回路70Aおよび70Bと電流側路回路80Aおよび80Bとに供給される。
【0030】
モータ電流遮断部33Aは、3つの電流遮断用の電界効果トランジスタQA1、QA2およびQA3を有する。電界効果トランジスタQA1のソースがモータ電圧検出回路40Aを介して第1のインバータ回路42AのスイッチングアームSWAaのトランジスタQ1およびQ2の接続点に接続され、ドレインが3相モータ巻線のA相モータ巻線Laに接続されている。
また、電界効果トランジスタQA2のソースがモータ電圧検出回路40Aを介して第1のインバータ回路42AのスイッチングアームSWAbのトランジスタQ3およびQ4の接続点に接続され、ドレインが3相モータ巻線のB相モータ巻線Lbに接続されている。
さらに、電界効果トランジスタQA3のソースがモータ電圧検出回路40Aを介して第1のインバータ回路42AのスイッチングアームSWAcのトランジスタQ5およびQ6の接続点に接続され、ドレインが3相モータ巻線のC相モータ巻線Lcに接続されている。
【0031】
また、モータ電流遮断部33Bは、3つの電流遮断用の電界効果トランジスタQB1、QB2およびQB3を有する。ここで、電界効果トランジスタQB1のソースがモータ電圧検出回路40Bを介して第2のインバータ回路42BのスイッチングアームSWBaのトランジスタQ1およびQ2の接続点に接続され、ドレインが3相モータ巻線Laに接続されている。また、電界効果トランジスタQB2のソースがモータ電圧検出回路40Bを介して第2のインバータ回路42BのスイッチングアームSWBbのトランジスタQ3およびQ4の接続点に接続され、ドレインが3相モータ巻線Lbに接続されている。さらに、電界効果トランジスタQB3のソースがモータ電圧検出回路40Bを介して第2のインバータ回路42BのスイッチングアームSWBcのトランジスタQ5およびQ6の接続点に接続され、ドレインが3相モータ巻線Lcに接続されている。
【0032】
そして、モータ電流遮断部33Aおよび33Bの電界効果トランジスタQA1〜QA3およびQB1〜QB3は寄生ダイオードDのアノードをインバータ回路42Aおよび42B側として各々が同一向きに接続されている。
また、電源遮断部44Aおよび44Bのそれぞれは、1つの電界効果トランジスタ(FET)QCおよびQDと寄生ダイオードとの並列回路で構成され、電界効果トランジスタQCおよびQDのドレインがノイズフィルタ43を介してバッテリー22に接続され、ソースがインバータ回路42Aおよび42Bに接続されている。なお、これら電源遮断部44Aおよび44Bは上記構成に限らず、
図9に示すように、寄生ダイオードが逆向きとなるように2つの電源遮断部44A,44A′および44B,44B′を直列に接続するようにしてもよい。
【0033】
次に、上記実施形態の動作を説明する。
図示しないイグニッションスイッチがオフ状態であって車両が停止していると共に、操舵補助制御処理も停止している作動停止状態であるときには、モータ制御装置20の制御演算装置31が非作動状態となっている。このため、制御演算装置31で実行される操舵補助制御処理および異常監視処理は停止されている。したがって、電動モータ12は作動を停止しており、操舵補助機構10への操舵補助力の出力を停止している。
この作動停止状態からイグニッションスイッチをオン状態とすると、制御演算装置31が作動状態となり、操舵補助制御処理および異常監視処理を開始する。このとき、各モータ駆動回路32Aおよび32Bのインバータ回路42Aおよび42Bにおける各電界効果トランジスタQ1〜Q6にオープン故障およびショート故障が発生していない正常状態であるものとする。このときには、ステアリングホイール1を操舵していない非操舵状態では、制御演算装置31で実行する操舵補助制御処理で操舵トルクTsが“0”であり、車速Vsも“0”であるので、
図7の電流指令値算出マップにおける実線図示の正常時電流指令値算出曲線Lnoを参照して操舵補助電流指令値を算出する。
【0034】
そして、算出された操舵補助電流指令値I
*とモータ回転角検出回路13から入力されるモータ電気角θeとに基づいてd軸電流指令値Id
*およびq軸電流指令値Iq
*を算出し、算出したd軸電流指令値Id
*およびq軸電流指令値Iq
*をdq二相−三相変換処理を行ってA相電流指令値Ia
*、B相電流指令値Ib
*およびC相電流指令値Ic
*を算出する。
さらに、各相電流指令値Ia
*、Ib
*およびIc
*と、電流検出回路39Aおよび39Bで検出した各相電流検出値IA1dおよびIB1dからその加算を含む演算にて算出される各相電流検出値Iad、IbdおよびIbcとの電流偏差ΔIa、ΔIbおよびΔIcを算出し、算出した電流偏差ΔIa、ΔIbおよびΔIcをPI制御処理又はPID制御処理を行って目標電圧指令値Va
*、Vb
*およびVc
*を算出する。
【0035】
そして、算出した目標電圧指令値Va
*、Vb
*およびVc
*を電圧指令値V1
*およびV2
*として第1および第2のモータ駆動回路32Aおよび32Bのゲート駆動回路41Aおよび41Bに出力する。また、制御演算装置31は、インバータ回路42Aおよび42Bが正常であるので、論理値“0”の異常検出信号SAaおよびSAbをゲート駆動回路41Aおよび41Bに出力する。
このため、ゲート駆動回路41Aおよび41Bでは、モータ電流遮断部33Aおよび33Bに対してハイレベルの3つのゲート信号を出力する。したがって、モータ電流遮断部33Aおよび33Bの電界効果トランジスタQA1〜QA3およびQB1〜QB3がオン状態となって、インバータ回路42Aおよび42Bと3相電動モータ12の3相モータ巻線L1およびL2との間が導通状態となって、3相電動モータ12に対する通電制御が可能な状態となる。
【0036】
これと同時に、ゲート駆動回路41Aおよび41Bから電源遮断部44Aおよび44Bに対してハイレベルのゲート信号を出力する。このため、電源遮断部44Aおよび44Bの電界効果トランジスタQCおよびQDがオン状態となってバッテリー22からの直流電流がノイズフィルタ43を介してインバータ回路42Aおよび42Bに供給される。
さらに、ゲート駆動回路41Aおよび41Bでは、制御演算装置31から入力される電圧指令値V1
*およびV2
*に基づいてパルス幅変調を行ってゲート信号を形成し、形成したゲート信号をインバータ回路42Aおよび42Bの各電界効果トランジスタQ1〜Q6のゲートに供給する。
したがって、車両が停止状態で、ステアリングホイール1を操舵していない状態では、操舵トルクTsが“0”であるので、操舵補助電流指令値も“0”となって電動モータ12は停止状態を維持する。
【0037】
しかしながら、車両の停止状態または車両の走行開始状態でステアリングホイール1を操舵して所謂据え切りを行うと、操舵トルクTsが大きくなることにより、
図7を参照して、大きな操舵補助電流指令値I
*が算出され、これに応じた大きな電圧指令値V1
*およびV2
*がゲート駆動回路41Aおよび41Bに供給される。このため、ゲート駆動回路41Aおよび41Bから大きな電圧指令値V1
*およびV2
*に応じたデューティ比のゲート信号がインバータ回路42Aおよび42Bに出力される。
したがって、インバータ回路42Aおよび42Bから操舵補助電流指令値I
*に応じた120度の位相差を有するA相電流I1a、B相電流I1b、C相電流I1cおよびI2a、I2bおよびI3cが出力され、これらがモータ電流遮断部33Aおよび33Bの各相に対応する電界効果トランジスタQA1〜QA3およびQB1〜QB3を通って3相電動モータ12の3相モータ巻線La〜Lcに供給される。
【0038】
これにより、電動モータ12が回転駆動されて、操舵トルクTsに応じた目標操舵補助電流値I
*に対応する大きな操舵補助力を発生し、この操舵補助力が減速ギヤ11を介して出力軸2bに伝達される。このため、ステアリングホイール1を軽い操舵力で操舵することができる。
その後、車速Vsが増加すると、これに応じて算出される操舵補助電流指令値が据え切り時に比較して低下して電動モータ12で操舵トルクTsおよび車速Vsに応じて適度に減少させた操舵補助力を発生する。
このように、インバータ回路42Aおよび42Bが正常で、3相電動モータ12に供給されるモータ電流Ia、IbおよびIcが正常である場合には、操舵トルクTsおよび車速Vsに最適なモータ電流が3相電動モータ12に供給される。
【0039】
この正常状態から、第1および第2のモータ駆動回路32Aおよび32Bの第1および第2のインバータ回路42Aおよび42Bの一方例えばインバータ回路42Bの例えば下アーム側の電界効果トランジスタQ2、Q4およびQ6の何れか1つ又は複数にショート故障が発生すると、ショート故障を生じたスイッチングアームSWBj(j=a,b,c)からモータ電流遮断部33Aに出力されるモータ電流Ijが流れなくなることから、異常検出部31aで各相電流指令値Ij
*と比較したときに、ショート故障の発生による異常を検出することができる。また、
図9のモータ電圧検出回路40A,40Bでの電圧検出値が所定の電圧とならず異常を検出することができる。
【0040】
このように、モータ駆動回路32Bのインバータ回路42Bにショート故障が発生すると、異常検出信号SAaは論理値“0”に維持されるが、異常検出信号SAbが論理値“1”となる。このため、インバータ回路42Bの6個のゲート駆動を全てオフすると共に、モータ駆動回路32Bのゲート駆動回路41Bからモータ電流遮断部33Bに対してローレベルの3つのゲート信号を同時に出力し、さらに電源遮断部44Bに対してローレベルのゲート信号を出力する。
このため、モータ電流遮断部33Bでは、各相の電界効果トランジスタQB1〜QB3がオフ状態となり、3相電動モータ12の3相モータ巻線La〜Lcに対する通電が遮断される。
これと同時に、電源遮断部44Bでも、電界効果トランジスタQDがオフ状態に制御され、バッテリー22および第2のインバータ回路42Bとの間の通電路が遮断される。
【0041】
しかしながら、モータ駆動回路32Aは正常に動作しており、このモータ駆動回路32Aへの電圧指令値V1
*は変化することがないので、このモータ駆動回路32Aによる3相電動モータ12の各相モータ巻線La〜Lcへの電流制御が継続される。
このため、3相電動モータ12で正常時と同様の操舵補助トルクを発生して、これが減速ギヤ11を介して出力軸2bに伝達されることにより、正常時と遜色のない操舵補助特性を発揮することができる。このとき、モータ駆動回路32Bの異常が検出された段階で、警報回路50に警報信号Swaが出力されることにより、運転者にモータ駆動回路32Bの異常を報知して、最寄りの修理点検ステーションへの立ち寄りを促すことができる。
【0042】
また、第1および第2のモータ駆動回路32Aおよび32Bの第1および第2のインバータ回路42Aおよび42Bの一方例えばインバータ回路42Aの例えば上アーム側の電界効果トランジスタQ1、Q3およびQ5の何れか1つにオープン故障が発生すると、
図10に基づいて前述したように、オープン故障を生じたアームのモータ駆動電流Iaが正となったときに、モータ駆動回路32Aの上側電流検出値IA1dが減少し、これを補うようにモータ駆動回路32Bの上側電流検出値IB1dが増加する。このため、上側電流検出値IA1dと上側電流検出値IB1dとに差が生じることになり、上側電流検出値の減少側にオープン故障が生じていると判断することができる。
【0043】
逆に、モータ駆動回路32Aの上段アームの例えばA相の上側アームにショート故障が発生した場合には、
図11で前述したように、モータ駆動回路32Aの上側電流検出値IA1dが急激に増加し、モータ駆動回路32Bの上側電流検出値IB1dの増加量は僅かである。この上側電流検出値IA1dの急激な増加および上側電流検出値IB1dの僅かな増加がピークホールド回路で少なくともパルス幅変調(PWM)信号の1周期分程度の時間以上ピークホールドされる。したがって、上側電流検出値IA1dの瞬間値が所定閾値以上となったときに上側アームのショート故障であると確実に判断することができる。
このため、モータ駆動回路32Aのモータ電流遮断部33Aの各相スイッチQA1〜QA3がオフ状態に制御されるとともに、電源遮断部44Aがオフ状態に制御されて、モータ駆動回路32Aの駆動が停止され、上記と同様に正常なモータ駆動回路32Bによる単独の3相電動モータ12の制御が継続されて、正常時と遜色ない操舵補助制御を継続することができる。このとき、運転者には警報を発して修理点検ステーションへの立ち寄りを促すことができる。
【0044】
さらに、制御演算装置31の異常検出部31aは、モータ駆動回路32Aおよび32Bの出力側に設けたモータ電圧検出回路40Aおよび40Bで検出した各モータ相電圧Vm1a〜Vm1cおよびVm2a〜Vm2cと、モータ回転角検出回路13で検出したモータ回転角θmを微分演算して算出するか又は別途モータ回転速度検出回路を設けて検出したモータ回転速度ωと、電流検出回路39Aおよび39Bで検出した各モータ相電流i1a〜i1cおよびi2a〜i2cを相別に加算したモータ相電流ia〜icに基づいて前記(3)式の演算を行って各相のモータ相抵抗値変化量ΔRを算出する。
そして、算出した各相のモータ相抵抗値変化量ΔRが所定閾値ΔRn未満であるときには、バラツキの範囲内であるものと判断するが、モータ相抵抗値変化量ΔRが所定閾値ΔRn以上であるときには3相電動モータ12のモータ巻線La〜Lcを構成するコイル部L1〜L3の何れかの断線異常を正確に検出することができる。
【0045】
このように、モータ巻線La〜Lcのコイル部L1〜L3の何れかに断線異常が発生したことを検出したときには、操舵補助電流指令値演算部34で参照する操舵補助電流指令値算出マップの特性曲線が正常時の特性曲線Lnoから異常発生時の特性曲線Labに変更される。
このため、操舵トルクセンサ3で検出した操舵トルクTsの値に対する操舵補助電流指令値I
*の値が正常時の特性曲線Lnoの倍程度となり、この操舵補助電流指令値I
*が補償制御演算部35での補償値Icomによって補償された補償後操舵補助電流指令値I
*′がd−q軸電流指令値演算部37に供給されてd−q軸電流指令値に変換された後2相/3相変換されて目標電流指令値Ia
*、Ib
*およびIc
*が算出される。
【0046】
これら目標電流指令値Ia
*、Ib
*およびIc
*が電圧指令値演算部38でモータ駆動回路32Aおよび32Bのゲート駆動回路41Aおよび41Bに対する電圧指令値V1
*およびV2
*として出力される。
このため、モータ駆動回路32Aおよび32Bで、相モータ巻線Ljのコイル部Lkの断線によるトルク減少分を補うモータ駆動電流Ia、IbおよびIcが3相電動モータ12の各相モータ巻線La、LbおよびLcに供給されるとともに、高くなった操舵トルクの変動抑制効果により、操舵違和感を抑えることができる。
また、モータ巻線La〜Lcのコイル部L1〜L3の何れかに断線異常が発生したことを検出したときには、1つのコイル部Lkの断線異常によって、相モータ巻線Ljの逆起電圧Ejが正常時の2/3に変化する。このため、断線異常を検出した相モータ巻線Ljに供給しているモータ電流指令値Ij
*に対するゲインKjを通常時の“1”から“3/2”に増加させる。
【0047】
これによって、前述した3相電動モータ12の入出力のエネルギー関係式を表す(4)式におけるEj*Ijが正常な相モータ巻線の場合と等しい値となり、トルク変動を抑制してトルク一定制御を行うことができる。この場合も警報回路50で警報を発して運転者に3相電動モータ12のコイル部断線異常を報知する。
このように、上記実施形態によると、正常状態において2系統以上の機能するハードウェアをモータ駆動回路32Aおよび32Bで構成し、2系統以上のハードウェアのうち1系統(あるいは系統総数以下の系統)の故障が起こった状態においても、制御演算装置の変更なく、或いは制御演算装置のパラメータ変更のみの範囲で機能継続することができ、ロバスト設計を実現することができる。
【0048】
また、多相電動モータにモータ電流を供給するモータ電流供給系統となるモータ駆動回路を多重化するとともに、多相電動モータの各モータ巻線を複数のコイル部を並列に接続した構成とすることにより、多重化したモータ電流供給系統となるモータ駆動回路の何れかに異常が発生した場合や多相電動モータの一部のコイル部に断線異常が発生した場合に、異常態様に応じた駆動態様に変更する。このため、モータ電流供給系統となるモータ駆動回路にオープン故障やショート故障が発生した場合や多相駆動モータの一部の駆動コイル部で断線異常が発生した場合でも多相電動モータの駆動を継続することができる。
なお、上記実施形態においては、3相電動モータ12の相モータ巻線Ljを構成する各コイル部Lkに断線異常が発生したときに、逆起電圧Ejの変化に応じて相モータ電流ijを変化させる場合について説明した。しかしながら、本発明は上記構成に限定されるものではなく、
図12に示すように、モータ逆起電圧(EMF)の減少に応じて逆起電圧補償値を算出するゲインを低減するようにしてもよい。
【0049】
すなわち、3相電動モータ12の1相分のモータ制御系が、
図12に示すように、電流指令値i
*と相モータ電流iとの偏差を演算する減算器61と、この減算器61から出力される電流偏差Δiが供給される電流フィードバック制御器62とを備えている。そして、電流フィードバック制御器62から出力されるモータ電圧を加算器63に供給し、この加算器63の出力を3相電動モータ12に供給することにより、モータ電流iが出力され、これが前記減算器61に供給される。
一方、モータ回転速度ωとモータ位相角(電気角)θeとが逆起電圧(EMF)補償器64に供給され、この逆起電圧(EMF)補償器64で、モータ回転速度ωとモータ位相角θeとに基づいて逆起電圧EMFを算出し、算出した逆起電圧EMFに補償ゲインKcを乗算して逆起電圧補償値EMFcを算出し、この逆起電圧補償値EMFcをモータ逆起電圧EMFが供給された減算器65に供給し、この減算器65の減算出力が加算器63に供給される。ここで、減算器65によるモータ逆起電圧(EMF)の減算は、実際上は、モータ内で生じる物理現象であり、実際に減算器65が存在するものではない。
【0050】
逆起電圧補償器64は、前述した異常検出部31aで該当相のコイル部L1〜L3の何れかの断線異常を検出する異常検出信号SAcが異常無しを表す例えば論理値“0”であるときにゲインKcを“1”に設定し、異常検出信号SAcが異常有りを表す論理値“1”であるときにはゲインKcを“2/3”に設定する。
この構成によると、該当するモータ巻線Lkのコイル部L1〜L3が正常である場合には、異常検出部31aから逆起電圧補償器64に入力される異常検出信号SAcが論理値“0”であるので、ゲインKcが“1”に設定される。このため、逆起電圧補償器64でモータ回転速度ωおよびモータ位相角θeとで算出される逆起電圧EMFがそのまま逆起電圧補償値EMFcとして減算器65に出力される。
【0051】
したがって、3相電動モータ12のモータ巻線Lkで発生する逆起電圧EMFが逆起電圧補償値EMFcで相殺されて、3相電動モータ12のモータ電流iが電流指令値i
*に応じた値となるように制御される。
この状態から、該当するモータ巻線Lkのコイル部L1〜L3に断線異常が発生し、これが異常検出部31aで検出されると、この異常検出部31aから論理値“1”の異常検出信号SAcが逆起電圧補償器64に供給される。このため、逆起電圧補償器64でゲインKcが“2/3”に設定されることにより、逆起電圧補償値EMFcが正常時の逆起電圧補償値EMFcの2/3となる。
【0052】
一方、3相電動モータ12では該当するモータ巻線Lkのコイル部L1〜L3の1つが断線異常となっているので、発生する逆起電圧EMFは正常時の2/3となっており、この逆起電圧EMFが減算器65において逆起電圧補償値EMFcで相殺される。したがって、トルク変動を抑制してトルク一定制御を継続することができる。この場合も警報回路50で警報を発して運転者に3相電動モータ12のコイル部断線異常を報知する。
さらには、3相電動モータ12の相モータ巻線Ljを構成する各コイル部Lkに断線異常が発生したときに、逆起電圧Ejの変化に応じて相モータ電流ijを変化させるとともに、モータ逆起電圧(EMF)の減少に応じて逆起電圧補償値EMFcを算出するゲインを低減させるようにしてもよく、この場合にはより良い効果を得ることができる。
【0053】
また、上記実施形態においては、異常検出部31aでモータ駆動回路32Aおよび32Bの下アームのショート異常を検出し、ショート異常が発生したモータ駆動回路32A又は32Bのモータ電流遮断部33A又は33Bでモータ電流を遮断する場合について説明した。しかしながら、ショート異常を検出した後にモータ電流遮断部33A又は33Bの遮断制御を制御演算装置31のソフトウェア処理によって行うので、ショート異常を検出してからモータ電流遮断部33A又は33Bを遮断動作させるまでに時間が掛かることになり、モータ電流遮断部33A又は33Bの遮断動作を短時間で行うには限度がある。
そこで、本発明では、過電流状態をハードウェアで検出して前述した実施形態におけるモータ電流遮断部33Aおよび33Bと電源遮断部44Aおよび44Bをハードウェア的に遮断動作させるようにしている。
【0054】
すなわち、
図13に示すように、電流検出回路39Aおよび39Bのピークホールド回路39pで検出した電流検出値IA3dおよびIB3dがハードウェアで構成される過電流時遮断回路70Aおよび70Bに供給され、これら過電流時遮断回路70Aおよび70Bでモータ電流遮断部33Aおよび33Bと電源遮断部44Aおよび44Bを遮断動作させる。
ここで、過電流時遮断回路70Aおよび70Bのそれぞれは、
図14に示すように構成されている。すなわち、例えばモータ駆動回路32Aについて説明すると、前述したゲート駆動回路41Aとモータ電流遮断部33Aとの間のゲート信号供給ラインLgに、アンド回路71が介挿されている。また、電流検出回路39A2のピークホールド回路39pから出力される電流検出値IA3dが最大値選択回路72の一方の入力側に供給され、この最大値選択回路72の他方の入力側に制御演算装置31から出力される診断信号Sd1が増幅器73を介して入力されている。この最大値選択回路72では、診断信号Sd1が入力されていないときには、電流検出値IA3dを選択し、診断信号Sd1が入力されているときには診断信号Sd1を選択する。ここで、制御演算装置31では、所定時間例えば1分毎に例えばタイマ割込処理によって診断信号Sd1およびS2dを交互に出力する。あるいは、モータによる操舵補助がされていない状態を検出して診断信号Sd1およびSd2を出力する。
【0055】
最大値選択回路72から出力される選択信号Ssは、過電流状態であるか否かを判定する過電流判定回路74に供給され、この過電流判定回路74で入力される選択信号Ssが過電流閾値Voct以上であるときにローレベルとなり、選択信号Ssが過電流閾値Voct未満であるときにハイレベルとなる過電流判定信号Socが出力され、この過電流判定信号Socがアンド回路71の他方の入力側に供給される。ここで、過電流閾値Voctは、過電流閾値Ioctに電流検出用抵抗(シャント抵抗)52Aおよび52Bの抵抗値Rsを乗算した値(Voct=Ioct×Rs)に設定され、例えば過電流閾値Ioctとして150A、電流検出用抵抗52Aおよび52Bの抵抗Rsとして1mΩが設定されている。
【0056】
このように過電流時遮断回路70Aおよび70Bを構成することにより、制御演算装置31から診断信号Sd1が出力されていない状態では、最大値選択回路72で電流検出回路39A2のピークホールド回路39pで検出された電流検出値IA3dが選択されて選択信号Ssとして過電流判定回路74に供給される。
このため、モータ駆動回路32Aの下アームの電界効果トランジスタQ2、Q4、Q6にショート異常が発生していない状態では、電流検出回路39A2のピークホールド回路39pで検出される電流検出値IA3dが過電流閾値Voct以上となることがなく、過電流判定回路74からはハイレベルの過電流判定信号Socがアンド回路71に出力されている。
【0057】
一方、制御演算装置31では、電源投入状態となったときに、異常検出部31aでモータ駆動回路32Aの異常を検出していないときには、ハイレベルのゲート信号Sgをアンド回路71に出力しており、モータ駆動回路32Aの異常を検出したときにはローレベルのゲート信号Sgを出力する。
したがって、モータ駆動回路32Aが正常状態であるときには、制御演算装置31からハイレベルのゲート信号Sgが出力されるとともに、電流検出回路39A2のピークホールド回路39pで検出される電流検出値IA3dが過電流閾値Voct以上となることはなく、過電流判定回路74からハイレベルの過電流判定信号Socがアンド回路71に出力される。
このため、アンド回路71の出力信号はハイレベルとなってモータ電流遮断部33Aの電界効果トランジスタQA1〜QA3がオン状態に制御され、モータ駆動回路32Aから出力されるモータ電流Ia〜Icが3相電動モータ12の相モータ巻線La〜Lcに供給される。3相電動モータ12で操舵トルクに応じた操舵補助力を発生する。
【0058】
このモータ駆動回路32Aの正常状態からモータ駆動回路32Aの下側アームとなる電界効果トランジスタQ2、Q4およびQ6の何れか1つにショート故障が発生したときには、ショート故障が発生した相アームの上アームとなる電界効果トランジスタQ1、Q3およびQ5がオン状態となったときに、短絡電流が流れる。この短絡電流が電流検出回路39Aで検出され、最大値選択回路72を介して過電流判定回路74に供給される。このとき、過電流判定回路74に入力される電流検出値IA3dが過電流閾値Voct以上となるので、過電流判定回路74からローレベルの過電流判定信号Socがアンド回路71に出力される。このため、アンド回路71の出力はローレベルとなり、モータ電流遮断部33Aの電流遮断用の電界効果トランジスタQA1〜QA3および電源遮断部44Aの電界効果トランジスタQCがオフ状態に制御され、モータ駆動回路32Aから3相電動モータ12に出力されるモータ電流Ia〜Icが遮断される。
【0059】
さらに、これにより、ピークホールド回路39pで保持されている間、遮断状態が続き、電流検出回路39A1での電流検出値IA1dおよび電流検出回路39A2での電流検出値IA2dが零となるため、異常検出部31aでモータ駆動回路32Aの異常として検出できる。
このように、モータ駆動回路32Aが過電流状態となると、ハードウェアで構成される過電流時遮断回路70Aおよび70Bで過電流状態を即座に検出することができ、過電流状態を検出したときには、モータ電流遮断部33A又は33Bを即座に遮断動作させるとともに、電源遮断部44A又は44Bも即座に遮断動作させることができ、過電流状態となったことにより、モータ駆動回路32A又は32Bの電界効果トランジスタQ1〜Q6が過電流によって損傷することを確実に防止できる。
【0060】
一方、過電流時遮断回路70Aおよび70Bが正常に動作しているか否かを診断するは、電源投入後に制御演算装置31の異常診断部31bから所定時間毎あるいはモータによる操舵補助がされていない状態が検出されたタイミングにより増幅器73を介して過電流閾値Ioctより大きな値となる診断信号Sd1およびSd2からなる診断信号Sdがモータ駆動回路32Aおよび32Bに交互に出力される。
この診断信号Sdが制御演算装置31から出力されると、最大値選択回路72で診断信号Sdが選択されて過電流判定回路74に供給される。この過電流判定回路74では、入力される診断信号Sdが過電流閾値Ioctより大きいので、ローレベルの過電流判定信号Socがアンド回路71に出力される。このため、アンド回路71の出力がローレベルとなり、モータ電流遮断部33A又は33Bが遮断状態に制御されるとともに、電源遮断部44A又は44Bが遮断状態に制御される。このため、モータ電圧検出回路40A又は40Bのモータ相電圧V1ma〜V1mc又はV2ma〜V2mcあるいは電流検出回路39A1および39A2又は39B1および39B2の電流検出値IA1dおよびIA2d又はIB1dおよびIB2dが零となっているかを確認することにより、過電流時遮断回路70Aおよび70Bが正常に動作するか否かを診断することができる。
【0061】
このとき、制御演算装置31から診断信号Sdがモータ駆動回路32Aおよび32Bに対して所定時間毎に交互に供給されるので、診断信号Sdが供給されていないモータ駆動回路32A又は32Bでは、正常な操舵補助制御を継続することができ、診断中に運転者に違和感を与えることを防止できる。あるいは、モータによる操舵補助がされていない状態で診断信号Sdを供給することによっても、運転者に違和感を与えることを防止できる。
この他、モータ駆動回路32Aおよび32Bの下アームのショート異常による過電流状態からモータ駆動回路32Aおよび32Bの各電界効果トランジスタQ1〜Q6を保護するには、
図15に示すように、電源供給ラインおよび接地間に電流側路回路80Aおよび80Bを設けるようにしてもよい。
【0062】
この電流側路回路80Aおよび80Bのそれぞれは、
図16に示すように、モータ駆動回路32Aおよび32Bのバッテリー22からの電力が供給される電源ラインLpと接地との間に電界効果トランジスタ81および保護抵抗82の直列回路が介挿されている。ここで、保護抵抗82の抵抗値は、電界効果トランジスタ81がオン状態となって過電流が流れるときに、電界効果トランジスタ81が損傷しない程度の電流となるように設定されている。
そして、電界効果トランジスタ81のゲートに、上述した
図14と同様の構成を有する過電流判定回路74の過電流判定信号Socが入力されている。ここで、過電流判定回路74は、過電流状態と判定した場合にハイレベルの過電流判定信号Socを電界効果トランジスタ81のベースに供給して、この電界効果トランジスタ81をオン状態とし、過電流状態ではないと判定した場合にローレベルの過電流判定信号Socを電界効果トランジスタ81のベースに供給して、この電界効果トランジスタ81をオフ状態とする。
【0063】
したがって、電流側路回路80Aおよび80Bでは、過電流判定回路74で過電流状態ではないと判定されたときには、ローレベルの過電流判定信号Socを出力して、電界効果トランジスタ81をオフ状態とするので、バッテリー22から供給されるバッテリー電流が側路されて低減されることなくモータ駆動回路32Aおよび32Bに供給される。
一方、過電流判定回路74で過電流状態と判定されたときには、ハイレベルの過電流判定信号Socを出力して、電界効果トランジスタをオン状態に出力するので、バッテリー22から供給される電流が電流側路回路80Aおよび80Bを通じて、電流保護抵抗83を介して接地に流れることになり、モータ駆動回路32A又は32Bに供給される電流量が低下されて、過電流による電界効果トランジスタ81およびモータ駆動回路32A又は32Bの電界効果トランジスタQ1〜Q6の損傷を確実に防止することができる。
【0064】
さらに、上記
図13および
図15の構成では、スイッチ部を利用して過電流状態を抑制するようにしているが、
図17に示すように、モータ駆動回路32Aおよび32Bにおけるモータ電流遮断部33Aおよび33Bの3相電動モータ12側に保護抵抗又は保護コイルで構成される過電流抑制部85Aおよび85Bを配置するようにしてもよい。ここで、過電流抑制部85Aおよび85Bは、
図17に示すように、モータ駆動回路32Aおよび32Bの双方に配置するようにしてもよく、
図18に示すように、モータ電流遮断部33Aおよび33B間に1組の過電流抑制部85Cを配置するようにしてもよい。
【0065】
このように、過電流抑制部85Aおよび85Bを設けることにより、一方のモータ駆動回路32A又は32Bでショート異常が発生したときに、正常なモータ駆動回路32A(又は32B)からショート異常が発生したモータ駆動回路32B(又は32A)にモータ電流Ia〜Icが回り込んで3相電動モータ12へ供給するモータ電流に影響を与えることを確実に防止することができる。ここで、モータ駆動回路32Aおよび32Bに個別に過電流抑制部85Aおよび85Bを設ける場合には、モータ駆動回路32A及び32Bの回路定数を一致させることができ、モータ駆動回路32A及び32Bの設計時に回路定数のアンバランスを考慮する必要がなく、回路設計を容易に行うことができる。
【0066】
また、上記実施形態においては、電流検出回路39Aおよび39Bの電流検出部を各スイッチングアームSWAa〜SWAc及びSWBa〜SWBcの接地側の接続部と接地との間に介挿した1つのシャント抵抗52Aおよび52Bで構成し、各シャント抵抗52Aおよび52Bの両端電圧をオペアンプ39aに供給し、このオペアンプ39aの出力信号をサンプルホールド回路39sでサンプルホールドし、このサンプルホールド信号をA/D変換部31cでデジタル信号に変換するようにしている。このとき、A/D変換部31cでのサンプリング区間とモータ駆動回路32Aおよび32Bを構成する各電界効果トランジスタQ1〜Q6のパルス幅変調信号との関係の一例を
図19に示す。この
図19では、例えばスイッチングアームSWAa及びSWBaが最大デューティ相で、スイッチングアームSWAbおよびSWBbが中間デューティ相であり、スイッチングアームSWAcおよびSWBcが最小デューティ相であるものとする。
【0067】
この場合には、最大デューティ相となるスイッチングアームSWAaおよびSWBaでは、パルス幅変調信号の1周期(例えば50μsec)の開始時点t0で上アームとなる電界効果トランジスタQ1がオフ状態からオン状態に反転し、その後時点t2で中間デューティ相となるスイッチングアームSWAbおよびSWBbの上アームとなる電界効果トランジスタQ3がオフ状態からオン状態に反転し、その後時点t3で最小デューティ相となるスイッチングアームSWAcおよびSWBcの上アームとなる電界効果トランジスタQ5がオフ状態からオン状態に反転する。
【0068】
その後、時点t4で電界効果トランジスタQ5がオン状態からオフ状態に反転し、時点t4およびt5間で電界効果トランジスタQ3がオン状態からオフ状態に反転し、時点t5で電界効果トランジスタQ1がオン状態からオフ状態に反転する。
このそして、モータ駆動回路32A及び32Bの各電界効果トランジスタQ1〜Q6のゲート信号を形成するためには、一相の上アーム側の電界効果トランジスタ例えばQ1のみがオン状態となる時点t0〜t1間のサンプリング区間SP1と、二相の上アーム側の電界効果トランジスタのみがオン状態となる時点t2およびt3間のサンプリング区間SP3でサンプルホールド回路39sから出力される電流検出値IA2dおよびIB2dをサンプリングしてデジタル信号に変換する。
【0069】
そして、制御演算装置31で、モータ電流の総和が零すなわちIa+Ib+Ic=0となることを利用して各相モータ電流Ia、IbおよびIcを検出することができる。このため、
図6で前述した電圧指令値演算部38でモータ電流指令値Ia
*、Ib
*およびIc
*と検出した各相モータ電流Ia、IbおよびIcとに基づいて電流偏差ΔIa、ΔIbおよびΔIcを算出し、これらに対してPI制御処理を施して電圧指令値V1
*およびV2
*を算出することができる。
【0070】
また、モータ駆動回路32Aおよび32Bを構成する各電界効果トランジスタQ1〜Q6の全てについてのオープン故障を制御演算装置31内に設けられたA/D変換部31cでA/D変換したデジタル電流検出信号から検出する場合に、ステアリングホイール1が操舵されて3相電動モータ12が回転駆動されているときには、パルス幅変調信号の1周期の間の最大デューティ相、中間デューティ相及び最小デューティ相となるスイッチングアームSWAa〜SWAcおよびSWBa〜SWBcが順次変化するので、A/D変換部31cから出力されるサンプリング区間SP1及びSP3でサンプリングしたサンプルホールド出力に基づくデジタル電流検出値IA1dおよびIB1dさらにIA2dおよびIB2dを比較することにより、各電界効果トランジスタQ1〜Q6のオープン故障を検出することができる。
【0071】
しかしながら、ステアリングホイール1が保舵状態にあるときには、3相電動モータ12で操舵補助トルクを発生しているが、3相電動モータ12自体は回転しないので、パルス幅変調信号の1周期の間の最大デューティ相、中間デューティ相及び最小デューティ相が例えば
図19の状態で固定されてしまう。したがって、
図19の状態では、最大デューティ相となるスイッチングアームSWAa及びSWBaの下アームとなる電界効果トランジスタQ2の何れかにオープン故障が発生した場合や、最小デューティ相となるスイッチングアームSWAcおよびSWBcの上アームとなる電界効果トランジスタQ5の何れかにオープン故障が発生した場合には、A/D変換回路のサンプリング区間SP1及びSP3内にオン状態となることがないので、オープン故障を検出できないことになる。
【0072】
このため、本実施形態では、A/D変換部31cでのサンプリング区間SP1およびSP3に、時点t3〜t4間のサンプリング区間SP4と時点t5〜t6間のサンプリング区間SP6とを加えることにより、最大デューティ相の下アームとなる電界効果トランジスタのオン状態、最小デューティ相の上アームとなる電界効果トランジスタのオン状態でのデジタル電流検出値を得ることが可能となる。
したがって、電流検出回路39A1および39B1又は39A2および39B2で検出した電流検出値IA1dおよびIB1d又はIA2dおよびIB2dのデジタル電流検出値を比較することにより、最大デューティ相の下アームとなる電界効果トランジスタ及び最小デューティ相の上アームとなる電界効果トランジスタのオープンの故障を確実に検出することができる。このA/D変換部31cでのサンプリング区間SP4およびSP6の追加は、ステアリングホイール1が保舵状態となっている状態すなわち回転位置センサ13aからの回転位置検出値の変化がないとき又は変化が僅かであるときに行えばよい。
【0073】
上記の理由から、A/D変換部31cのサンプリング区間を増加させる場合に代えて、回転位置センサ13aからの回転位置検出値の変化がないときに又は変化が僅かである場合に、運転者に違和感を抱かせない程度に3相電動モータ12を時計方向及び反時計方向に微動させるように例えば
図20に示す指令値補正部75で微動補正値を加算器36に出力するようにして、保舵による3相電動モータ12の回転停止状態が生じないようにするようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、異常診断部31bの異常検出部31aでモータ駆動回路32Aおよび32Bのスイッチング素子Q1〜Q6のオープン故障およびショート故障を検出する場合について説明したが、これに限定されるものではない。異常診断部31bでモータ駆動回路32Aおよび32Bのモータ電流遮断部33Aおよび33Bと電源遮断部44A,44A′および44B,44B′の動作異常を検出することもできる。
【0074】
この場合には、モータ駆動回路32Aに、
図21に示すように、シャント抵抗51Aと電界効果トランジスタQ1、Q3およびQ5間に入力電圧VR1を検出する入力電圧検出回路100Aを介挿する。同様に、モータ駆動回路32Bに、
図21に示すように、シャント抵抗51Bと電界効果トランジスタQ1、Q3およびQ5間に入力電圧VR2を検出する入力電圧検出回路100Bを介挿する。
そして、制御演算装置31の異常診断部31bは、
図22に示すように、電流遮断診断部101と、駆動状態判定部102とを備えている。そして、電流遮断診断部101は、
【0075】
第1の診断部101a、第2の診断部101b及び第3の診断部101cを備えている。
第1の診断部101aは、モータ電流遮断診断部を兼ねており、モータ電流遮断部33A又は33Bを一時的に遮断状態としてモータ電流遮断部33A又は33Bの動作状態を診断する。
第2の診断部101bは、電源遮断部44A,44A′又は44B,44B′を一時的に遮断状態として電源遮断部の44A,44A′又は44B,44B′の動作状態を診断する。
第3の診断部101cは、モータ電流遮断部33A又は33Bと電源遮断部44A,44A′又は44B,44B′を一時的に遮断状態としてモータ電流遮断部33A又は33Bと電源遮断部44A,44A′又は44B,44B′の動作状態を診断する。
【0076】
そして、制御演算装置31の異常診断部31bは、
図23で示すように、3相電動モータの駆動制御中に、
図23に示す電流遮断診断処理を所定時間(例えば1秒)毎のタイマ割込処理として実行する。
この電流遮断診断処理は、先ず、ステップS1で、前回の診断時点から所定時間(例えば1分)が経過したか否かを判定し、所定時間が経過していないときにはそのまま電流遮断診断処理を終了し、所定時間が経過したときにはステップS2に移行する。
このステップS2では、3相電動モータ12にモータ電流Ia〜Icが流れて高トルク状態であるかモータ電流が“0”に近い状態の低トルク状態であるかを判定する。この判定は、電流指令値I
*の絶対値が所定値以上、相電流指令値Ia
*〜Ic
*の最大値の絶対値が所定値以上および電流検出値Iad〜Icdが所定値以上であるときに、高トルク状態と判定し、そうでないときに低トルク状態と判定する。
【0077】
このステップS2の判定結果が、モータ電流Ia〜Icが流れて高トルク状態であるときには、ステップS3に移行して、モータ駆動回路32Aにおけるモータ電流遮断部の動作状態を上側電流検出値IA1d及び下側電流検出値IA2dに基づいて診断するモータ電流遮断部電流診断処理を実行してからステップS4に移行する。
このステップS4では、モータ駆動回路32Aにおける電源遮断部44A,44A′の動作状態を上側電流検出値IA1d及び下側電流検出値IA2dに基づいて診断する電源遮断部電流診断処理を実行してからステップS5に移行する。
このステップS5では、モータ駆動回路32Bにおけるモータ電流遮断部の動作状態上側電流検出値IB1d及び下側電流検出値IB2dに基づいて診断するモータ電流遮断部電流診断処理を実行してからステップS6に移行する。
このステップS6では、モータ駆動回路32Bにおける電源遮断部44B,44B′の動作状態を上側電流検出値IB1d及び下側電流検出値IB2dに基づいて診断する電源遮断部電流診断処理を実行してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
【0078】
また、前記ステップS2の判定結果が、モータ電流が流れていないか少ない低トルク状態であるときには、ステップS7に移行して、モータ駆動回路32Aにおけるモータ電流遮断部33Aおよび電源遮断部44A,44A′の動作状態を入力電圧検出回路100Aで検出する入力電圧VR1に基づいて診断する電流遮断部電圧診断処理を実行してからステップS8に移行する。
このステップS8では、モータ駆動回路32Bにおけるモータ電流遮断部33Bおよび電源遮断部44B,44B′の動作状態を入力電圧検出回路100Bで検出する入力電圧VR2に基づいて診断する電流遮断部電圧診断処理を実行してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
【0079】
ここで、
図23におけるステップS3のモータ電流遮断部電流診断処理は、
図24に示すように、先ず、ステップS11で、モータ駆動回路32Aのモータ電流遮断部33Aの各電界効果トランジスタをQA1〜QA3をオフ状態に制御してからステップS12に移行する。
このステップS12では、電流検出回路39A1および39A2の上側電流検出値IA1dおよびIA2dを読込んで電流が流れている通電状態であるか非通電状態であるかを判定する。
このステップS12の判定結果が、非通電状態であるときには、ステップS13に移行して、モータ電流遮断部33Aの電界効果トランジスタQA1〜QA3が正常であるものと判断してからステップS14に移行して、モータ電流遮断部33Aの各電界効果トランジスタQA1〜QA3をオン状態に復帰させてから
図23のステップS4に移行する。
【0080】
一方、ステップS12の判定結果が、通電状態であるときには、ステップS15に移行して、モータ電流遮断部33Aの電界効果トランジスタQA1〜QA3の何れか1つ又は複数にショート故障が生じているものと判断してからステップS16に移行する。
このステップS16では、論理値“1”の異常検出信号SAaをゲート駆動回路41Aに出力する異常時処理を実行し、インバータ回路42Aの電界効果トランジスタQ1〜Q6をオフ状態とし、且つモータ電流遮断部33Aの各電界効果トランジスタQA1〜QA3をオフ状態とするとともに、電源遮断部44Aおよび44A′を構成する電界効果トランジスタをオフ状態としてから
図23のステップS4に移行する。
したがって、前述した実施形態におけるモータ駆動回路32Aに異常が検出された場合と同様の正常なモータ駆動回路32Bを使用して、正常時と遜色のない操舵補助特性を発揮することができる。
【0081】
この
図24の処理において、ステップS12の判定は、上記に限定されるものではなく、上側電流検出値IA1dと下側電流検出値IA2dとが不一致であるか否かを判定するようにしてもよい。
なお、この
図24の処理が第1の診断部101aに対応している。
また、
図23におけるステップS4の電源遮断部電流診断処理は、
図25に示すように、先ず、ステップS21で、モータ駆動回路32Aの電源遮断部44Aおよび44A′をオフ状態に制御してからステップS22に移行する。
このステップS22では、電流検出回路39A1および39A2の上側電流検出値IA1dおよびIA2dを読込んで電流が流れている通電状態であるか非通電状態であるかを判定する。
【0082】
このステップS22の判定結果が、非通電状態であるときには、ステップS23に移行して、電源遮断部44Aおよび44A′を構成する電界効果トランジスタが正常であるものと判断してからステップS24に移行して、電源遮断部44Aおよび44A′を構成する各電界効果トランジスタをオン状態に復帰させてから
図23のステップS5に移行する。
一方、ステップS22の判定結果が、通電状態であるときには、ステップS25に移行して、電源遮断部44Aおよび44A′の電界効果トランジスタの何れか1つ又は双方にショート故障が生じているものと判断してからステップS26に移行する。
【0083】
このステップS26では、論理値“1”の異常検出信号SAaをゲート駆動回路41Aに出力して、ゲート駆動回路41Aに出力する異常時処理を実行し、インバータ回路42Aの電界効果トランジスタQ1〜Q6をオフ状態とし、且つモータ電流遮断部33Aの各電界効果トランジスタQA1〜QA3をオフ状態とするとともに、電源遮断部44Aおよび44A′を構成する電界効果トランジスタをオフ状態としてから
図23のステップS5に移行する。
したがって、前述した実施形態におけるモータ駆動回路32Aに異常が検出された場合と同様の正常なモータ駆動回路32Bを使用して、正常時と遜色のない操舵補助特性を発揮することができる。
この
図25の処理において、ステップS22の判定は、上記に限定されるものではなく、上側電流検出値IA1dと下側電流検出値IA2dとが不一致であるか否かを判定するようにしてもよい。
なお、この
図25の処理が第2の診断部101bに対応している。
【0084】
また、
図23のステップS5のモータ電流遮断部電流診断処理及びS6の電源遮断部電流診断処理は上述した
図24および
図25の処理において、モータ駆動回路32Aに対する動作をモータ駆動回路32Bに対する動作に置換すれば良いので、図示及び詳細説明は省略する。
さらに、
図23におけるステップS7の電流遮断部電圧診断処理は、
図26に示すように、先ず、ステップS31で、モータ駆動回路32Aのモータ電流遮断部33Aの各電界効果トランジスタQA1〜QA3をオフ状態とするとともに、電源遮断部44Aおよび44A′を構成する電界効果トランジスタをオフ状態としてからステップS32に移行する。
【0085】
このステップS32では、入力電圧検出回路100Aで検出した入力電圧VR1を読込み、この入力電圧VR1が低下しているか否かを判定する。
このステップS32の判定結果が、入力電圧VR1が低下しているときには、ステップS33に移行して、モータ電流遮断部33Aの各電界効果トランジスタQA1〜QA3が正常であるとともに、電源遮断部44Aおよび44A′を構成する電界効果トランジスタが正常であると判断してステップS34に移行する。
このステップS34では、モータ駆動回路32Aのモータ電流遮断部33Aの各電界効果トランジスタQA1〜QA3と電源遮断部44Aおよび44A′を構成する電界効果トランジスタとをともにオン状態に復帰させてから
図23のステップS8に移行する。
【0086】
一方、ステップS32の判定結果が、入力電圧VR1が低下しない場合には、ステップS35に移行して、モータ電流遮断部33Aの電界効果トランジスタQA1〜QA3の何れか1つ又は複数にショート故障が発生したか又は電源遮断部44Aにショート故障が発生したものと判断してステップS36に移行する。
このステップS36では、前述した
図24のステップS16と同様に、論理値“1”の異常検出信号SAaをゲート駆動回路41Aに出力して、ゲート駆動回路41Aに出力する異常時処理を実行し、インバータ回路42Aの電界効果トランジスタQ1〜Q6をオフ状態とし、且つモータ電流遮断部33Aの各電界効果トランジスタQA1〜QA3をオフ状態とするともに、電源遮断部44Aおよび44A′を構成する電界効果トランジスタをオフ状態としてから
図23のステップS8に移行する。
したがって、前述した実施形態におけるモータ駆動回路32Aに異常が検出された場合と同様の正常なモータ駆動回路32Bを使用して、正常時と遜色のない操舵補助特性を発揮することができる。
【0087】
この
図26の処理において、ステップS32の判定処理は、入力電圧VR1の低下を判定する場合に限らず、入力電圧VR1がモータ駆動回路32Bの入力電圧VR2より低いか又はバッテリー22の電源電圧より低いかを判定するようにしてもよい。
この
図26の処理が第3の診断部101cに対応している。
また、
図23のステップS8の電流遮断部電圧診断処理は上述した
図26の処理において、モータ駆動回路32Aに対する動作をモータ駆動回路32Bに対する動作に置換すれば良いので、図示及び詳細説明は省略する。
【0088】
このように、モータ電流遮断部33Aおよび33Bと電源遮断部44A,44A′及び44B,44B′との何れかにショート故障が発生した場合には、異常診断部31bで実行する電流遮断異常診断処理で、該当するモータ駆動回路32A又は32Bのモータ電流遮断部33A又は33Bと電源遮断部44A,44A′又は44B,44B′とを遮断することができる。したがって、
図21〜
図26の構成によると、前述した実施形態におけるモータ駆動回路32Aに異常が検出された場合と同様の正常なモータ駆動回路32Bを使用して、正常時と遜色のない操舵補助特性を発揮することができる。このとき、モータ駆動回路32Aの異常が検出された段階で、警報回路50に警報信号Swaが出力されることにより、運転者にモータ駆動回路32Aの異常を報知して、最寄りの修理点検ステーションへの立ち寄りを促すことができる。
【0089】
なお、
図21〜
図26の異常診断処理では、モータ電流遮断部電流診断処理、電源遮断部電流診断処理、電流遮断部電圧診断処理を行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、各モータ駆動回路32Aおよび32Bのそれぞれに対して、モータ電流遮断部電流診断処理、電源遮断部電流診断処理、電流遮断部電圧診断処理のうちの1つ又は2つを実行するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、電流検出回路39Aおよび39Bを各インバータ回路毎に2つのシャント抵抗51A,52Aおよび51B,52Bを使用してモータ電流の検出を行う場合について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、本発明では、モータ駆動回路32Aおよび32Bの各相スイッチングアームSWAa〜SWAc及びSWBa〜SWBcの接地側に個別にシャント抵抗を介挿して、各相のモータ電流を検出したり、3つのシャント抵抗のうち一つを省略して省略した相のモータ電流を演算で算出したりするようにしてもよい。
【0090】
また、上記実施形態においては、制御演算装置31がA/D変換部31cを内蔵している場合について説明したが、これに限定されるものではなく、電流検出回路39A1,39A2および39B1,39B2の出力側にA/D変換部を設けるようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、モータ回転角検出回路13がレゾルバを使用した構成である場合について説明したが、このモータ回転角検出回路13についても、
図27に示すように、バックアップ制御を行っている。
すなわち、モータ回転角検出回路13の具体的構成は、
図27に示すように、メインモータ回転角検出回路86と、サブモータ回転角検出回路87と、これらメインモータ回転角検出回路86およびサブモータ回転角検出回路87から出力されるモータ回転角θm1およびθm2を選択する回転角選択部88とを備えている。
【0091】
メインモータ回転角検出回路86は、3相電動モータ12の回転角を検出するレゾルバ86Aと、このレゾルバ86Aから出力される3相電動モータ12の回転角に応じたsin信号およびcos信号に基づいてモータ回転角θmを演算する角度演算部86Bと、レゾルバ86Aおよび角度演算部86Bの異常を検出し、異常検出信号SArを出力する異常検出部86Cとを備えている。
また、サブモータ回転角検出回路87は、モータ電流検出値Imと、モータ電圧検出値Vmと、前述した
図2における出力側回転角センサ3cから出力される出力軸角度検出信号θosが入力されている。
このサブモータ回転角検出回路87は、モータ電流検出値Imおよびモータ電圧検出値Vmに基づいて逆起電圧EMFを算出し、算出した逆起電圧EMFに基づいてモータ回転角θmを推定する第1のモータ回転角推定部87Aと、出力軸角度検出信号θosに基づいてモータ回転角θmを推定する第2のモータ回転角推定部87Bと、第1のモータ回転角推定部87Aおよび第2のモータ回転角推定部87Bのモータ回転角推定値θme1およびθme2を選択する選択部87Cとを備えている。
【0092】
ここで、選択部87Cは、第1のモータ回転角推定部87Aで算出した逆起電圧EMFが入力され、逆起電圧EMFが所定閾値以上であるときには第1のモータ回転角推定部87Aで推定したモータ回転角推定値θme1を選択し、逆起電圧EMFが所定閾値未満であるときには第2のモータ回転角推定部87Bで推定したモータ回転角推定値θme2を選択してモータ回転角θm2として出力する。
また、回転角選択部88は、メインモータ回転角検出回路86の異常検出部86Cから出力される異常検出信号SArが異常なしを表す論理値“0”であるときに、メインモータ回転角検出回路86から出力されるモータ回転角θm1を選択してモータ回転角θmとして前述した制御演算装置31に出力し、異常検出信号SArが異常ありを表す論理値“1”であるときに、サブモータ回転角検出回路87から出力されるモータ回転角θm2を選択してモータ回転角θmとして制御演算装置31に出力する。
【0093】
このように、モータ回転角検出回路13をメインモータ回転角検出回路86とサブモータ回転角検出回路87と、回転角選択部88とで構成することにより、メインモータ回転角検出回路86が正常であるときには、このメインモータ回転角検出回路86から出力される高精度のモータ回転角θm1をモータ回転角θmとして制御演算装置31に出力する。そして、メインモータ回転角検出回路86に異常が発生した場合には、サブモータ回転角検出回路87で推定したモータ回転角推定値θme1又はθme2をモータ回転角θmとして制御演算装置31に出力する。
【0094】
さらに、サブモータ回転角検出回路87では、3相電動モータ12のモータ巻線La〜Lcで発生する逆起電圧EMFが所定閾値以上となるモータ回転速度が高い状態では、逆起電圧EMFに基づいてモータ回転角を推定する第1のモータ回転角推定部87Aで推定したモータ回転角推定値θme1を選択し、逆起電圧EMFが所定閾値未満となるモータ回転速度が低い領域では、逆起電圧EMFに基づいて推定するモータ回転角推定値θme1の推定精度が低下するので、第2のモータ回転角推定部87Bで出力軸角度検出信号θosに基づいて推定したモータ回転角推定値θme2を選択する。
【0095】
これにより、メインモータ回転角検出回路86に異常が生じたときに、サブモータ回転角検出回路87で最低限必要な精度を確保しながらモータ回転角を求めることができる。
また、上記実施形態では、操舵トルクセンサ3が
図2に示すように入力側回転角センサ3bと出力側回転角センサ3cとを備えているので、
図2に示すように入力軸2a側に操舵角センサ91を設けることにより、この操舵角センサ91の操舵角検出信号θsと、出力側回転角センサ3cで検出される出力軸角度検出信号θosとに基づいて絶対操舵角θabを検出することができる。
【0096】
すなわち、操舵角センサ91で、
図28(a)に示すように、ステアリングホイール1の296deg周期の鋸歯状波でなる操舵角検出信号θsを出力させ、出力側回転角センサ3cで検出される出力軸2bの40deg周期の鋸歯状波でなる出力軸角度検出信号θosを出力させる。これら操舵角検出信号θsと、出力軸角度検出信号θosとが一致する操舵角は1480degとなる。そして、出力軸角度検出信号θosが操舵角検出信号θs=1480deg内のどの位置(1個目〜37個目)にあるのかをバーニア演算することにより、
図28(b)に示すように、絶対操舵角θabを求めることができる。
【0097】
このためには、
図29に示すように、2系統のトルクセンサ3Aおよび3Bを配置し、両トルクセンサ3Aおよび3Bから出力される入力軸回転角検出信号θisおよび出力軸角度検出信号θosをバーニア演算部92に供給するとともに、操舵角センサ91で検出した操舵角検出信号θsをバーニア演算部92に供給し、このバーニア演算部92でイグニッションスイッチがオン状態となった直後に1回バーニア演算を行って初期操舵角θinitを算出する。さらに、トルクセンサ3Aおよび3Bから出力される出力軸角度検出信号θosを平均化回路93で平均値を算出し、この平均値の変化量を積算回路94で積算して積算値を算出し、算出した積算値をバーニア演算部92で算出した初期操舵角θinitに加算することにより、絶対値操舵角θabを算出する。
【0098】
また、上記実施形態においては、電動モータが3相電動モータである場合について説明したが、これに限定されるものではなく、4相以上の多相電動モータにも本発明を適用することができる。
また、上記各実施形態においては、本発明によるモータ制御装置を電動パワーステアリング装置に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、電動ブレーキ装置、ステアバイワイヤシステム、車両走行用のモータ駆動装置等の電動モータを使用する任意のシステムに本発明を適用することができる。