(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水系バインダーは、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム、およびメタクリル酸メチルゴムからなる群から選択される少なくとも1つのゴム系バインダーを含む、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、正極集電体の表面に正極活物質層が形成されてなる正極と、負極集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる負極と、セパレータと、を含む発電要素を有する平板積層型の非水電解質二次電池であって、前記負極活物質層が、前記負極活物質層の総質量に対して2〜4質量%の水系バインダーを含み、前記負極活物質層が長方形状であり、前記長方形の長辺と短辺との長さの比(長辺/短辺)が1〜1.25である、非水電解質二次電池である。
【0014】
本発明によれば、平板積層型の電池とすることで負極活物質層の膨張・収縮に対して集電体が追随し、残留応力が発生しにくく、電極を正方形に近い形状とすることで応力を周辺に逃がしやすい。また、水系バインダーの含有量を特定の値にすることで、高い結着性が確保できる。そのため、負極集電体と負極活物質層との剥離強度が改善され、高い耐振動性を有する電池が得られうる。
【0015】
上述したように水系バインダーは活物質層を製造する際の溶媒として水を用いることができるため、種々の利点が存在し、また、有機溶媒系バインダーと比較して少ない量で活物質を結着させることができる。
【0016】
しかしながら、車両のモータ駆動用電源として用いられる非水電解質二次電池には強い振動が与えられるため、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用非水電解質二次電池よりも耐振動性および長期のサイクル寿命が厳しく求められる。
【0017】
耐振動性を高めるために負極活物質層中の水系バインダーの量を増加させると、負極活物質層の結着性を高め、負極集電体と負極活物質層との間の剥離強度を高めることができる。しかしながら、水系バインダーの量を多くしすぎると電極が硬く脆くなってしまい、耐振動性が低下してしまう。特に巻回型の電池では、電池の充放電に伴う負極活物質層の膨張、収縮に対して大きな残留応力が発生しやすく、電極が変形して破壊される場合がある。
【0018】
しかしながら、本実施形態の電池では、平板積層型の電池とすることで、電池の充放電に伴う負極活物質層の膨潤・収縮に対して集電体が追随しやすく、電極が変形しにくいため、電極に残留応力が発生しにくい。また、電極の形状を正方形に近い形とすることで、応力を周辺に逃げやすくすることが可能である。そのため、負極活物質と集電体との高い剥離強度が得られうる。さらに、水系バインダーの量を特定の値に制御することで、結着力を確保しつつ、電極の破壊を抑制することができる。その結果、負極の結着性が高く、強い振動を受ける車両用の電池として適用できる、高性能の非水電解質二次電池が得られうる。
【0019】
以下、非水電解質二次電池の好ましい実施形態として、非水電解質リチウムイオン二次電池について説明するが、以下の実施形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0020】
図1は、扁平型(積層型)の双極型ではない非水電解質リチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の基本構成を模式的に表した断面概略図である。
図1に示すように、本実施形態の積層型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装体である電池外装材29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、セパレータ17と、負極とを積層した構成を有している。なお、セパレータ17は、非水電解質(例えば、液体電解質)を内蔵している。正極は、正極集電体12の両面に正極活物質層15が配置された構造を有する。負極は、負極集電体11の両面に負極活物質層13が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層15とこれに隣接する負極活物質層13とが、セパレータ17を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、
図1に示す積層型電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
【0021】
なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層負極集電体には、いずれも片面のみに負極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、
図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層正極集電体が位置するようにし、該最外層正極集電体の片面または両面に正極活物質層が配置されているようにしてもよい。
【0022】
正極集電体12および負極集電体11は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板(タブ)27および負極集電板(タブ)25がそれぞれ取り付けられ、電池外装材29の端部に挟まれるようにして電池外装材29の外部に導出される構造を有している。正極集電板27および負極集電板25はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体12および負極集電体11に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0023】
なお、
図1では、扁平型(積層型)の双極型ではない積層型電池を示したが、集電体の一方の面に電気的に結合した正極活物質層と、集電体の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層と、を有する双極型電極を含む双極型電池であってもよい。この場合、一方の集電体が正極集電体および負極集電体を兼ねることとなる。
【0024】
以下、各部材について、さらに詳細に説明する。
【0025】
[負極]
負極は、負極集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる。本実施形態の非水電解質二次電池に用いられる負極は、
図2のように、負極集電体11の表面に負極活物質層13が長さaの長辺と長さbの短辺とを有する矩形の形状に形成される。
【0026】
本実施形態の非水電解質二次電池は、それぞれの負極活物質層の短辺の長さbが、100mm以上であることが好ましい。かような大型の電池は高容量、高出力を達成することができ、車両用途に用いることができる。本実施形態の電池は、電池の充放電に伴う負極活物質層の膨張・収縮に伴う残留応力に対する剥離強度を確保するものであるが、電極のサイズが大きくなるほど電極が曲げの影響を受けやすくなるため、大型の電池において特に顕著な効果が得られうる。負極活物質層の短辺の長さの上限は特に限定されるものではないが、通常400mm以下である。
【0027】
また、本実施形態の電池は、それぞれの負極活物質層の長辺と短辺との長さの比(a/b)が、1〜1.25である。長辺と短辺との長さの比が1.25より大きいと、長軸方向に残留応力が発生し、結着性が低下しうる。また、これによってセル抵抗が増加し、電池の初期容量が低下しうる。負極活物質層の長辺と短辺との長さの比は1に近いほどよく、好ましくは1〜1.1であり、より好ましくは1〜1.05である。
【0028】
好ましくは、それぞれの負極のヤング率が1.0〜1.4GPaであり、より好ましくは1.1〜1.3GPaである。負極のヤング率を1.0GPa以上にすることで、負極のひずみに対する強度を確保できる。そのため、剥離強度が向上し、強い振動を受ける条件下でも使用できる高性能の電池が得られうる。また、負極のヤング率が1.4GPa以下であれば、容量が高く、高性能の電池が得られうる。負極のヤング率は、水系バインダーの種類または量を調節することで制御することができる。例えば、ゴム系バインダーのような架橋点の多いバインダーを用いることで、負極が外力によって伸長した場合も元に戻ることができる。なお、負極のヤング率は、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0029】
好ましくは、それぞれの負極における負極集電体の負極活物質層からの90°剥離強度が30N/m以上であり、より好ましくは50N/m以上である。上記範囲であれば、高い耐振動性を有する電池が得られ、強い振動を受ける車両用の電池として好適に用いられうる。負極における90°剥離強度の上限は特に限定されないが、例えば、70N/m以下である。
【0030】
以下、各部材について、さらに詳細に説明する。
【0031】
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば、グラファイト(黒鉛)、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム−遷移金属複合酸化物(例えば、Li
4Ti
5O
12)、金属材料、リチウム合金系負極材料などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、炭素材料またはリチウム−遷移金属複合酸化物が、負極活物質として用いられる。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0032】
負極活物質層に含まれるそれぞれの活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜30μmである。
【0033】
負極活物質層は、少なくとも水系バインダーを含む。水系バインダーは、原料としての水の調達が容易であることに加え、乾燥時に発生するのは水蒸気であるため、製造ラインへの設備投資が大幅に抑制でき、環境負荷の低減を図ることができるという利点がある。また、バインダーを溶解または分散させるために高価な有機溶媒を用いる必要がなく、低コスト化を図ることができる。
【0034】
本実施形態の電池の負極活物質層中に含まれる水系バインダーの量は、負極活物質層の総質量に対して、2〜4質量%である。水系バインダーの量が2質量%よりも少ないと十分な結着性を確保できないため、高い耐振動性が得られない。4質量%を超えると、特にSBRのような架橋性高分子のバインダーを含む場合、電極全体が硬く脆くなってしまい、耐振動性が低下する。また、電池性能が低下してしまう。より好ましくは、負極活物質層中の水系バインダーの量は2.5〜3.5質量%である。
【0035】
負極活物質層に用いられるバインダーのうち、水系バインダーの含有量は80〜100質量%であることが好ましく、90〜100質量%であることが好ましく、100質量%であることが好ましい。水系バインダー以外のバインダーとしては、下記正極活物質層に用いられるバインダーが挙げられる。
【0036】
水系バインダーとは水を溶媒もしくは分散媒体とするバインダーをいい、具体的には熱可塑性樹脂、ゴム弾性を有するポリマー、水溶性高分子など、またはこれらの混合物が該当する。ここで、水を分散媒体とするバインダーとは、ラテックスまたはエマルジョンと表現される全てを含み、水と乳化または水に懸濁したポリマーを指し、例えば自己乳化するような系で乳化重合したポリマーラテックス類が挙げられる。
【0037】
水系バインダーとしては、具体的にはスチレン系高分子(スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−アクリル共重合体等)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム、(メタ)アクリル系高分子(ポリエチルアクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリプロピルアクリレート、ポリメチルメタクリレート(メタクリル酸メチルゴム)、ポリプロピルメタクリレート、ポリイソプロピルアクリレート、ポリイソプロピルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリヘキシルアクリレート、ポリヘキシルメタクリレート、ポリエチルヘキシルアクリレート、ポリエチルヘキシルメタクリレート、ポリラウリルアクリレート、ポリラウリルメタクリレート等)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブタジエン、ブチルゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンオキシド、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、ポリビニルピリジン、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂;ポリビニルアルコール(平均重合度は、好適には200〜4000、より好適には、1000〜3000、ケン化度は好適には80モル%以上、より好適には90モル%以上)及びその変性体(エチレン/酢酸ビニル=2/98〜30/70モル比の共重合体の酢酸ビニル単位のうちの1〜80モル%ケン化物、ポリビニルアルコールの1〜50モル%部分アセタール化物等)、デンプン及びその変性体(酸化デンプン、リン酸エステル化デンプン、カチオン化デンプン等)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびこれらの塩等)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸(塩)、ポリエチレングリコール、(メタ)アクリルアミドおよび/または(メタ)アクリル酸塩の共重合体[(メタ)アクリルアミド重合体、(メタ)アクリルアミド−(メタ)アクリル酸塩共重合体、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜4)エステル−(メタ)アクリル酸塩共重合体など]、スチレン−マレイン酸塩共重合体、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性体、ホルマリン縮合型樹脂(尿素−ホルマリン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂等)、ポリアミドポリアミンもしくはジアルキルアミン−エピクロルヒドリン共重合体、ポリエチレンイミン、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白、並びに
ガラクトマンナン誘導体等の水溶性高分子などが挙げられる。これらの水系バインダーは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用して用いてもよい。
【0038】
上記水系バインダーは、結着性の観点から、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム、およびメタクリル酸メチルゴムからなる群から選択される少なくとも1つのゴム系バインダーを含むことが好ましい。さらに、結着性が良好であることから、水系バインダーはスチレン−ブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0039】
水系バインダーとしてスチレン−ブタジエンゴムなどのゴム系バインダーを用いる場合、塗工性向上の観点から、上記水溶性高分子を併用することが好ましい。スチレン−ブタジエンゴムと併用することが好適な水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール及びその変性体、デンプン及びその変性体、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびこれらの塩等)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸(塩)、またはポリエチレングリコールが挙げられる。本実施形態の電池においては、セルロース誘導体が負極製造工程での適当な増粘効果を与え、平坦で滑らかな表面の負極活物質層を形成できるため好ましく用いられうる。中でも、バインダーとして、スチレン−ブタジエンゴムと、カルボキシメチルセルロースとを組み合わせることが好ましい。
【0040】
本実施形態の電池の負極活物質層に含まれるゴム系バインダーの量は、特に制限されないが、好ましくは負極活物質層の総質量に対して0.5〜3.5質量%であり、より好ましくは1.5〜2.5質量%である。ゴム系バインダーの含有量が1質量%以上であれば、負極活物質層において高い結着性が得られ、負極集電体と負極活物質層との高い剥離強度が得られうる。また、ゴム系バインダーの量が4質量%以下であれば、電極が硬く脆くなってしまうことを防ぐことができる。
【0041】
本実施形態の電池の負極活物質層中に含まれる水溶性高分子の量は、特に制限されないが、例えば、負極活物質層の総質量に対して0.5〜3.5質量%であり、より好ましくは1〜2質量%である。セルロース誘導体の含有量が上記範囲であれば負極の製造工程で優れた増粘効果が得られ、負極活物質スラリーの粘度を適当に調節することができる。
【0042】
ゴム系バインダー(例えばスチレン−ブタジエンゴム)と、水溶性高分子(例えばセルロース誘導体)との含有質量比は、特に制限されるものではないが、ゴム系バインダー:水溶性高分子=1:0.3〜1.6であることが好ましく、1:0.2〜0.8であることがより好ましく、1:0.4〜0.6であることがさらに好ましい。上記範囲であれば、バインダーの分散性や結着力の確保の観点から好適である。
【0043】
負極活物質層は、必要に応じて、導電助剤、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるためのリチウム塩などのその他の添加剤をさらに含む。
【0044】
導電助剤とは、正極活物質層または負極活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
【0045】
電解質塩(リチウム塩)としては、Li(C
2F
5SO
2)
2N、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3等が挙げられる。
【0046】
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
【0047】
上記の水系バインダー以外の負極活物質層中に含まれる成分の配合比は、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0048】
負極活物質層の密度は特に制限されないが、1.4〜1.6g/cm
3であることが好ましい。負極活物質層の密度が1.4g/cm
3以上であれば、負極の剥離強度が向上するため抵抗が増加しにくく、高性能の電池が得られうる。また、負極活物質層の密度が1.6g/cm
3以下であれば、負極活物質の十分な連通性が得られ、電解液が浸透しやすいため、初期容量およびサイクル耐久性などの電池性能が向上しうる。負極活物質層の密度は、本発明の効果がより発揮されることから、1.45〜1.55g/cm
3であることが好ましい。なお、負極活物質層の密度は、単位体積あたりの活物質層質量を表す。具体的には、電池から負極活物質層を取り出し、電解液中などに存在する溶媒等を除去後、活物質層体積を長辺、短辺、高さから求め、活物質層の重量を測定後、重量を体積で除することによって求めることができる。
【0049】
[集電体(負極集電体)]
集電体を構成する材料に特に制限はないが、好適には金属が用いられる。
【0050】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅、その他合金等などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅が好ましい。
【0051】
集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。本実施形態の電池は、好ましくは、負極活物質層の短辺の長さが100mm以上であるため、短辺の長さは100mm以上である集電体が用いられる。集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。
【0052】
負極の製造方法は特に制限されない。例えば、負極活物質および水系バインダーを含む負極活物質層を構成する成分と、スラリー粘度調整溶媒である水系溶媒を混合して負極活物質スラリーを調製し、これを集電体の表面に塗布した後、乾燥し、プレスする方法が用いられうる。
【0053】
スラリー粘度調整溶媒としての水系溶媒としては、特に制限されるものではなく、従来公知の水系溶媒を用いることができるものである。例えば、水(純水、超純水、蒸留水、イオン交換水、地下水、井戸水、上水(水道水)など)、水とアルコール(例えばエチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコールなど)との混合溶媒などを用いることができる。ただし、本実施形態では、これらに制限されるものではなく、本実施形態の作用効果を損なわない範囲であれば、従来公知の水系溶媒を適宜選択して用いることができる。
【0054】
水系溶媒の配合量についても特に制限されず、負極活物質スラリーが所望の粘度の範囲内になるように適量を配合すればよい。
【0055】
集電体に負極活物質スラリーを塗布する際の目付けは特に制限されないが、好ましくは0.5〜20g/m
2であり、より好ましくは1〜10g/m
2である。上記範囲であれば、適当な厚さを有する負極活物質層が得られうる。塗工方法も特に制限はなく、例えば、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、ワイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。
【0056】
塗布した後の負極活物質スラリーを乾燥させる方法も特に制限されないが、例えば、温風乾燥などの方法が用いられうる。乾燥温度は、例えば、30〜100℃であり、乾燥時間は、例えば、2秒〜1時間である。
【0057】
このようにして得られた負極活物質層の厚さは特に制限されないが、例えば、2〜100μmである。
【0058】
[正極]
本実施形態の非水電解質二次電池に用いられる正極は、正極集電体の表面に正極活物質層が形成されてなる。正極の形状や大きさは特に制限されないが、正極活物質層が、短辺が100mm以上であり、アスペクト比が1〜1.25の形状に形成されることが好ましい。
【0059】
[正極活物質層]
正極活物質層は正極活物質を含み、必要に応じて、導電助剤、バインダー、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるためのリチウム塩などのその他の添加剤をさらに含む。
【0060】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、LiMn
2O
4、LiCoO
2、LiNiO
2、Li(Ni−Mn−Co)O
2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。より好ましくは、Li(Ni−Mn−Co)O
2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)が用いられる。NMC複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、NiおよびCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。
【0061】
NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくは、Ti、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくは、Ti、Zr、Al、Mg、Crである。
【0062】
NMC複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):Li
aNi
bMn
cCo
dM
xO
2(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.9≦a≦1.2、0<b<1、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0≦x≦0.3、b+c+d=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる元素で少なくとも1種類である)で表される組成を有する。ここで、aは、Liの原子比を表し、bは、Niの原子比を表し、cは、Mnの原子比を表し、dは、Coの原子比を表し、xは、Mの原子比を表す。サイクル特性の観点からは、一般式(1)において、0.4≦b≦0.6であることが好ましい。なお、各元素の組成は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定できる。
【0063】
一般に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)は、材料の純度向上および電子伝導性向上という観点から、容量および出力特性に寄与することが知られている。Ti等は、結晶格子中の遷移金属を一部置換するものである。サイクル特性の観点からは、遷移元素の一部が他の金属元素により置換されていることが好ましく、特に一般式(1)において0<x≦0.3であることが好ましい。Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、SrおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種が固溶することにより結晶構造が安定化されるため、その結果、充放電を繰り返しても電池の容量低下が防止でき、優れたサイクル特性が実現し得ると考えられる。
【0064】
より好ましい実施形態としては、一般式(1)において、b、cおよびdが、0.44≦b≦0.51、0.27≦c≦0.31、0.19≦d≦0.26であることが、容量と耐久性とのバランスに優れる点で好ましい。
【0065】
なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0066】
正極活物質層に含まれる正極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。
【0067】
正極活物質層に用いられるバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその塩、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのバインダーは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0068】
正極活物質層中に含まれるバインダー量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは活物質層に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
【0069】
バインダー以外のその他の添加剤については、上記負極活物質層の欄と同様のものを用いることができる。
【0070】
[集電体(正極集電体)]
正極集電体については負極の構成要素である負極集電体として説明したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0071】
[セパレータ(電解質層)]
セパレータは、電解質を保持して正極と負極との間のリチウムイオン伝導性を確保する機能、および正極と負極との間の隔壁としての機能を有する。
【0072】
セパレータの形態としては、例えば、上記電解質を吸収保持するポリマーや繊維からなる多孔性シートのセパレータや不織布セパレータ等を挙げることができる。セパレータの空孔率は40〜65%であることが好ましい。
【0073】
ポリマーないし繊維からなる多孔性シートのセパレータとしては、例えば、微多孔質(微多孔膜)を用いることができる。該ポリマーないし繊維からなる多孔性シートの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;これらを複数積層した積層体(例えば、PP/PE/PPの3層構造をした積層体など)、ポリイミド、アラミド、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素系樹脂、ガラス繊維などからなる微多孔質(微多孔膜)セパレータが挙げられる。
【0074】
微多孔質(微多孔膜)セパレータの厚みとして、使用用途により異なることから一義的に規定することはできない。1例を示せば、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)、燃料電池自動車(FCV)などのモータ駆動用二次電池などの用途においては、単層あるいは多層で4〜60μmであることが望ましい。前記微多孔質(微多孔膜)セパレータの微細孔径は、最大で1μm以下(通常、数十nm程度の孔径である)であることが望ましい。
【0075】
不織布セパレータとしては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものを、単独または混合して用いる。また、不織布のかさ密度は、含浸させた高分子ゲル電解質により十分な電池特性が得られるものであればよく、特に制限されるべきものではない。さらに、不織布セパレータの厚さは、電解質層と同じであればよく、好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。
【0076】
本実施形態による電池は、セパレータの部分に電解質を保持させて電解質層を形成することによって、
図1に示す電池10における単電池層を構成することができる。電解質層を構成する電解質に特に制限はなく、液体電解質、ならびに高分子ゲル電解質等のポリマー電解質を適宜用いることができる。セパレータの部分に電解質を保持させる手段は特に制限されず、例えば、含浸、塗布、スプレーなどの手段が適用されうる。
【0077】
液体電解質は、リチウムイオンのキャリヤーとしての機能を有する。電解液層を構成する液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。用いられる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類が例示される。また、リチウム塩としては、Li(CF
3SO
2)
2N、Li(C
2F
5SO
2)
2N、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiTaF
6、LiCF
3SO
3等の電極の活物質層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。液体電解質は、上述した成分以外の添加剤をさらに含んでもよい。かような化合物の具体例としては、例えば、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1,2−ジビニルエチレンカーボネート、1−メチル−1−ビニルエチレンカーボネート、1−メチル−2−ビニルエチレンカーボネート、1−エチル−1−ビニルエチレンカーボネート、1−エチル−2−ビニルエチレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、ビニルオキシメチルエチレンカーボネート、アリルオキシメチルエチレンカーボネート、アクリルオキシメチルエチレンカーボネート、メタクリルオキシメチルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート、エチニルオキシメチルエチレンカーボネート、プロパルギルオキシエチレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、1,1−ジメチル−2−メチレンエチレンカーボネートなどが挙げられる。なかでも、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートが好ましく、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートがより好ましい。これらの環式炭酸エステルは、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0078】
ポリマー電解質は、電解液を含むゲルポリマー電解質(ゲル電解質)が好ましく用いられうる。
【0079】
ゲルポリマー電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマー(ホストポリマー)に、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導性を遮断することで容易になる点で優れている。マトリックスポリマー(ホストポリマー)として用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系ポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0080】
ゲル電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0081】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0082】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11、12と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0083】
[電池外装体]
電池外装体29としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。
【0084】
自動車用途などにおいては、昨今、大型化された電池が求められている。耐振動性を高めるという本発明の効果は、大面積電池の場合に、より効果的にその効果が発揮される。したがって、本発明において、発電要素を外装体で覆った電池構造体が大型であることが本発明の効果がより発揮されるという意味で好ましい。具体的には、負極活物質層が長方形状であり、当該長方形の短辺の長さが100mm以上であることが好ましい。かような大型の電池は、車両用途に用いることができる。ここで、負極活物質層の短辺の長さとは、各電極の中で最も長さが短い辺を指す。電池構造体の短辺の長さの上限は特に限定されるものではないが、通常250mm以下である。
【0085】
また、電極の物理的な大きさの観点とは異なる、大型化電池の観点として、電池面積や電池容量の関係から電池の大型化を規定することもできる。例えば、扁平積層型ラミネート電池の場合には、定格容量に対する電池面積(電池外装体まで含めた電池の投影面積の最大値)の比の値が5cm
2/Ah以上であり、かつ、定格容量が3Ah以上である電池においては、単位容量当たりの電池面積が大きいため、やはり電池の充放電に伴う負極活物質層の膨張・収縮に伴う残留応力の影響を受けやすい。このため、SBR等の水系バインダーを負極活物質層の形成に用いた電池における電池性能(特に、耐振動性)の低下という課題がよりいっそう顕在化しやすい。したがって、本形態に係る非水電解質二次電池は、上述したような大型化された電池であることが、本発明の作用効果の発現によるメリットがより大きいという点で、好ましい。
【0086】
さらに、矩形状の電極のアスペクト比は1〜1.25であることが好ましく、1〜1.1であることがより好ましい。なお、電極のアスペクト比は矩形状の正極活物質層の縦横比として定義される。アスペクト比をかような範囲とすることで、面方向に均一に応力を逃がすことが可能となり、応力の影響をよりいっそう抑制することができるという利点がある。
【0087】
[発電要素に掛かる群圧]
本実施形態において、平板積層型の電池の発電要素に掛かる群圧は、0.07〜0.7kgf/cm
2(6.86〜68.6kPa)であることが好ましい。平板積層型の電池とすることで巻回型の電池と比較して電極の膨張・収縮に対して残留応力が発生しにくいが、上記範囲であれば、負極活物質層の膨張・収縮に集電体がより追随しやすく、電極が変形しにくい。そのため、集電体と負極活物質層との結着性が確保でき、耐振動性が高い電池が得られうる。より好適には、発電要素に掛かる群圧が0.1〜0.7kgf/cm
2(9.80〜68.6kPa)である。ここで、群圧とは、発電要素に付加された外力を指し、発電要素にかかる群圧は、フィルム式圧力分布計測システムを用いて容易に測定することができ、本明細書においてはtekscan社製フィルム式圧力分布計測システムを用いて測定する値を採用する。
【0088】
群圧の制御は特に限定されるものではないが、発電要素に物理的に直接または間接的に外力を付加し、該外力を制御することで制御できる。かような外力の付加方法としては、外装体に圧力を付加させる加圧部材を用いることが好ましい。
【0089】
図3Aは本発明の他の好適な一実施形態である非水電解質二次電池の平面図、
図3Bは
図3AにおけるAからの矢視図である。発電要素を封入した外装体1は長方形状の扁平な形状を有しており、その側部からは電力を取り出すための電極タブ4が引き出されている。発電要素は、電池外装体によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素は、電極タブ4を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素は、先に説明した
図1に示すリチウムイオン二次電池10の発電要素21に相当するものである。
図3において、2は加圧部材であるSUS板、3は固定部材である固定治具、4は電極タブ(負極タブまたは正極タブ)を表す。加圧部材は、発電要素に掛かる群圧を0.07〜0.7kgf/cm
2となるように制御する目的で配置されるものである。加圧部材としては、ウレタンゴムシートなどのゴム材、アルミニウム、SUSなどの金属板、PPなどの樹脂フィルム、ポリイミドなどの耐熱性樹脂シートなどが挙げられる。また、加圧部材が発電要素に対して一定の圧力を継続的に付与できることから、加圧部材を固定するための固定部材をさらに有することが好ましい。また、固定治具の加圧部材への固定を調節することで、発電要素に掛かる群圧を容易に制御できる。
【0090】
なお、
図3に示すタブの取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブと負極タブとを両側部から引き出すようにしてもよいし、正極タブと負極タブをそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、
図3に示すものに制限されるものではない。
【0091】
なお、上記の非水電解質二次電池は、従来公知の製造方法により製造することができる。
【0092】
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
【0093】
電池が複数、直列に又は並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列に又は並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0094】
[車両]
上記非水電解質二次電池またはこれを用いた組電池は、出力特性に優れ、また長期使用しても放電容量が維持され、サイクル特性が良好である。電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの車両用途においては、電気・携帯電子機器用途と比較して、高容量、大型化が求められるとともに、長寿命化が必要となる。したがって、上記非水電解質二次電池またはこれを用いた組電池は、車両用の電源として、例えば、車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
【0095】
具体的には、電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性及び出力特性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリット車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【実施例】
【0096】
以下、実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに何ら限定されるわけではない。
【0097】
1.電池の作製
(正極の作製)
正極活物質としてLiMn
2O
4(平均粒子径:15μm)85質量%、導電助剤としてアセチレンブラック 5質量%、およびバインダーとしてPVdF 10質量%からなる固形分を用意した。この固形分に対し、スラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量添加して、正極活物質スラリーを作製した。次に、正極活物質スラリーを、集電体であるアルミニウム箔(20μm)の両面に塗布し乾燥させた。その後、片面の正極活物質層の厚さが60μmになるようにプレスを行い、正極を作製した。ここで、片面塗工量(目付)は25mg/cm
2とした。
【0098】
(負極の作製)
負極活物質としてハードカーボン(平均粒子径:10μm)90質量%、バインダーとしてSBR2質量%、CMC1質量%からなる固形分を用意した。この固形分に対し、スラリー粘度調整溶媒である水を適量添加して、負極活物質スラリーを作製した。次に、負極スラリーを、集電体である銅箔(200mm×200mm、厚さ20μm)の両面に塗布し乾燥させた。ここで、片面塗工量(目付)は8mg/cm
2とした。その後、片面の負極活物質層の厚さが50μmになるようにプレスを行い、負極を作製した。得られた負極活物質層の密度は、1.45g/cm
3であった。
【0099】
(電解液の作製)
エチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを体積比1:1の配合比で混合した混合溶媒を溶媒とした。また1.0MのLiPF
6をリチウム塩とした。さらに上記溶媒と上記リチウム塩との合計100質量%に対して2.0質量%のビニレンカーボネートを添加して電解液を作製した。なお、「1.0MのLiPF
6」とは、当該混合溶媒およびリチウム塩の混合物におけるリチウム塩(LiPF
6)濃度が1.0Mであるという意味である。
【0100】
(電池の完成工程)
上記で得られた正極および負極をそれぞれ所定の大きさに切断した。この正極と負極をセパレータ(微多孔ポリエチレンフィルム、厚さ15μm)を介して積層し、15層の積層体を作製した。正極および負極それぞれにタブを溶接し、積層体をアルミラミネートフィルムからなる外装材に内包し、積層体の四方の一辺を開放し、その一辺から電解液を注入し、その後真空引きして電解液を注入した一辺を封止した。
【0101】
2.電池の評価
(充放電性能試験)
充放電性能試験は、45℃に保持した恒温槽において、電池温度を45℃とした後、性能試験を行った。充電は1Cの電流レートで4.2Vまで定電流充電(CC)し、その後定電圧(CV)で、あわせて2.5時間充電した。その後、10分間休止時間を設けた後、1Cの電流レートで2.5Vまで放電を行い、その後に10分間の休止時間を設けた。これらを1サイクルとし、充放電試験を実施し、初回の放電容量(初期容量)を求めた。
【0102】
(電池の内部抵抗)
電池の内部抵抗は以下のように測定した。
【0103】
初回充放電後、定電流(電流:220mA(1CA))で30分間充電したところで直流抵抗を測定した。直流抵抗の測定は30秒間放電し、セル電圧変化ΔVと電流値から抵抗値を計算した。
【0104】
(剥離強度)
剥離強度はJISK6854−1(接着剤−はく離接着強さ試験方法−第1部:90度はく離)に準じて測定した。試料は、負極活物質層を塗工し、乾燥、プレスした後の負極を20mm×100mmの大きさに切断して用いた。
【0105】
(ヤング率)
負極活物質層を集電体の両面に塗工し、乾燥、プレスした後の負極を用いて、150mm×10mmの大きさの試料を作製した。JIS2280(金属材料の高温ヤング率試験方法)に準じて引張試験機によりヤング率を測定した。
【0106】
(実施例1)
負極活物質層の長辺と短辺との長さの比(長辺/短辺)を下記表1のように変化させて電池を作製し、負極における負極集電体からの負極活物質層の90°剥離強度および直流抵抗を測定した。結果を下記表1および
図4に示す。90°剥離強度および直流抵抗の値は、それぞれ実施例1−1および実施例1−3で得られた値を1としたときの相対値として表した。
【0107】
実施例1において作製した電池の負極活物質層は、短辺および長辺の長さを下記表1の長辺/短辺の比になるように調製した。水系バインダーの含有量、負極活物質層の密度、負極のヤング率はそれぞれ以下の通りであった。
【0108】
負極活物質中のバインダー含有量:3.0質量%(SBR:CMC=2:1(質量比))
活物質層の密度:1.45g/cm
3
負極のヤング率:1.2GPa。
【0109】
このように作製された電池の定格容量(セル容量、初期容量)、定格容量に対する電池面積(電池外装体まで含めた電池の投影面積)の比は、表1の通りであった。
【0110】
【表1】
【0111】
上記表1および
図4の結果から、負極活物質層の長辺と短辺との長さの比が1〜1.25の範囲であれば、高い剥離強度が得られ、抵抗が小さいことがわかった。これは、負極活物質層の長辺と短辺との長さの比を1〜1.25にすることで、応力が周辺に逃げやすくなり、残留応力の発生による剥離強度の低下を抑えることができるためであると考えられる。また、残留応力の発生による抵抗の増加を抑えることができる。
【0112】
(実施例2)
負極活物質層の水系バインダー含有量を下記のように変化させて電池を作製し、90°剥離強度、直流抵抗および初期容量を測定した。いずれも、水系バインダー中、SBR:CMCの比は2:1(質量比)とした。結果を下記表2および
図5に示す。90°剥離強度および初期容量の値は、それぞれ実施例2−2で得られた値を1としたときの相対値として表した。直流抵抗の値は、実施例2−6で得られた値を1としたときの相対値で表した。
【0113】
実施例2において作製した電池の負極活物質層の長辺および短辺の長さ、負極活物質層の密度、負極のヤング率はそれぞれ以下の通りであった。その他の条件は、同様にした。
【0114】
負極活物質層の長辺および短辺の長さ:200×200mm
負極活物質中のバインダー含有量:3.0質量%
活物質層の密度:1.45g/cm
3
負極のヤング率:1.2GPa。
【0115】
このように作製された電池の定格容量(セル容量、初期容量)、定格容量に対する電池面積(電池外装体まで含めた電池の投影面積)の比は、表2の通りであった。
【0116】
【表2】
【0117】
上記表2および
図5の結果から、負極活物質層の水系バインダーの含有量を2質量%以上にすることによって剥離強度が高く、抵抗が低くなっており、負極の結着性が確保できることがわかった。また、水系バインダーの含有量を4質量%以下とすることで、高い容量の電池が得られ、電池性能が維持されることがわかった。
【0118】
(実施例3)
負極のヤング率を下記のように変化させて電池を作製し、90°剥離強度、直流抵抗および初期容量を測定した。結果を下記表3および
図6に示す。90°剥離強度および初期容量の値は、それぞれ実施例3−2で得られた値を1としたときの相対値として表した。
直流抵抗の値は相対値で表した。
【0119】
実施例3において作製した電池の負極活物質層の長辺および短辺の長さ、負極活物質層の密度、負極のヤング率はそれぞれ以下の通りであった。また、ヤング率は、電極の断面積を変えることで調整した。
【0120】
負極活物質層の長辺および短辺の長さ:下記表3の通り;
負極活物質中のバインダー含有量:3.0質量%(SBR:CMC=2:1(質量比))
活物質層の密度:1.45g/cm
3。
【0121】
その他の条件は、同様にした。
【0122】
このように作製された電池の定格容量(セル容量、初期容量)、定格容量に対する電池面積(電池外装体まで含めた電池の投影面積)の比は、表3の通りであった。
【0123】
【表3】
【0124】
上記表3および
図6の結果から、負極のヤング率を1.0GPa以上とすることで、剥離強度の低下が抑えられ、抵抗の増加が抑制される。また、負極のヤング率を1.4GPa以下とすることで、水系バインダーの架橋点が多くなることによる電解液の浸透性の低下が抑えられ、初期容量の高い電池が得られる。
【0125】
(実施例4)
負極の密度を下記のように変化させて電池を作製し、90°剥離強度、直流抵抗および初期容量を測定した。結果を下記表4および
図7に示す。90°剥離強度、直流抵抗、および初期容量の値は、それぞれ、実施例4−4、実施例4−5、および実施例4−2で得られた値を1としたときの相対値として表した。
【0126】
実施例4において作製した電池の負極活物質層の長辺および短辺の長さ、負極活物質層の密度、負極のヤング率はそれぞれ以下の通りであった。
【0127】
負極活物質層の長辺および短辺の長さ:200×200mm
負極活物質中のバインダー含有量:3.0質量%(SBR:CMC=2:1(質量比))
負極のヤング率:1.2GPa。
【0128】
その他の条件は、同様にした。
【0129】
このように作製された電池の定格容量(セル容量、初期容量)、定格容量に対する電池面積(電池外装体まで含めた電池の投影面積)の比は、表4の通りであった。
【0130】
【表4】
【0131】
上記表4および
図7の結果から、負極活物質層の密度を1.4g/cm
3以上とすることで、剥離強度の低下が抑えられ、抵抗の増加が抑制される。また、負極活物質層の密度を1.6g/cm
3以下とすることで、電解液の浸透性の低下が抑えられ、初期容量の高い電池が得られる。
【0132】
本出願は、2013年3月26日に出願された日本国特許出願第2013−065019号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。