(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
インホイールモータユニットにより駆動する車輪を、サスペンション構造部材及びショックアブソーバを介して車体に懸架するインホイールモータ駆動車輪用サスペンション装置において、
前記サスペンション構造部材は、
前記車輪の車軸よりも車両上方位置に配置され、前記車軸よりも車両上方位置で、前記車体に対して前記車輪を揺動可能に支持するアッパーサスペンションアームと、
前記車輪の車軸よりも車両下方位置に配置され、前記車軸よりも車両下方位置で、前記車体に対して前記車輪を揺動可能に支持するロアサスペンションアームと、
前記アッパーサスペンションアームの車輪側端部を上下方向に揺動可能に連結するアーム連結部と、前記車輪を転舵方向に揺動可能に支持する車輪支持部と、前記ショックアブソーバの下端部に連結するショックアブソーバ連結部と、を有するリンク部材と、
を備え、
前記ショックアブソーバ連結部を、前記インホイールモータユニットの上端部よりも車両下方位置に配置する
ことを特徴とするインホイールモータ駆動車輪用サスペンション装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のインホイールモータ駆動車輪用サスペンション装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1〜実施例5に基づいて説明する。
【0010】
(実施例1)
まず、構成を説明する。
実施例1におけるインホイールモータ駆動車輪に搭載されたサスペンション装置(インホイールモータ駆動車輪用サスペンション装置)の構成を、「全体の構成」、「サスペンション構造部材の構成」、「サードリンクの構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体の構成]
図1は、実施例1のサスペンション装置が適用されたインホイールモータ駆動車輪を車両前方から見たときの正面図である。
図2は、実施例1のサスペンション装置が適用されたインホイールモータ駆動車輪を車両上方から見たときの平面図である。なお、
図1及び
図2は、車輪が転舵していない直進状態を示す。以下、
図1及び
図2に基づき、実施例1のサスペンション装置の全体構成を説明する。
【0012】
車体Sの前側・右側方に配置された車輪1は、タイヤ1aと、このタイヤ1aが外周部に装着されたホイール1bと、を備えた前輪操舵輪である。ここで、ホイール1bは、タイヤ1aを支持する円環状のリム1cと、リム1cの中心に設けられる円盤状のホイールディスク1dと、を有している。この車輪1は、ホイールディスク1dに取り付けられたハブ2を介し、インホイールモータユニット7の出力軸7bに回動可能に保持され、車軸Q回りに回転可能となっている。
【0013】
前記ハブ2には、ナックル3が取り付けられると共に、このハブ2とホイールディスク1dとの間にはブレーキディスク4が取り付けられている。このブレーキディスク4は、ナックル3に固定されたブレーキキャリパ4A(
図2参照)により車幅方向両側から挟圧されることで、車輪1に制動力を付与する。
【0014】
さらに、前記ナックル3は、車両上方に延在した上側ブラケット3a(
図1参照)と、車両下方に延在した下側ブラケット3b(
図1参照)と、上部から車両前方に延在した転舵ブラケット3c(
図2参照)と、を有している。
前記上側ブラケット3aは、先端部にキングピン回転部6aが形成され、このキングピン回転部6aは、サスペンション構造部材10によって転舵方向(キングピン軸P回り)に回動可能に支持されている。前記下側ブラケット3bは、先端部にロアアーム支持部6bが形成され、このロアアーム支持部6bは、サスペンション構造部材10によって転舵方向(キングピン軸P回り)に回動可能であって、且つ、車両上下方向に揺動可能に支持されている。前記転舵ブラケット3cは、先端部にロッド連結部6c(
図2参照)が形成され、このロッド連結部6cは、図外のステアリングホイルにより操作可能なラックアンドピニオン5から延びるタイロッド5Aの先端部が取り付けられている。これにより、ドライバーがステアリングホイルを回転させると、ナックル3がキングピン回転部6aとロアアーム支持部6bとを結んだ線上に位置するキングピン軸P回りに回転し、車輪1が転舵される。
すなわち、ステアリングホイルの回転がラックアンドピニオン5によって車幅方向のストロークに変換される。これにより、タイロッド5Aが車幅方向に出没する。そして、タイロッド5Aが車幅方向外側(
図2において右側)に突出したときには、ナックル3の前端部が車幅方向外側に向かって押し出され、車輪1が左方向に転舵される。また、タイロッド5Aが車幅方向内側(
図2において左側)に引き込まれたときには、ナックル3の前端部が車幅方向内側に向かって引っ張られ、車輪1が右方向に転舵される。
【0015】
そして、前記車輪1は、車輪1の位置決めを行うサスペンション構造部材10と、車輪1の上下動に応じて伸縮するショックアブソーバ15を介し、車体Sに対して車両上下方向にストローク可能に懸架されている。
なお、実施例1では、ショックアブソーバ15は、スプリング部16aと、ダンパー16bが同軸配置されて一体化した、いわゆるコイルオーバーである。このショックアブソーバ15は、上端部15bが車体Sに固定されている。
【0016】
[サスペンション構造部材の構成]
前記サスペンション構造部材10は、
図1に示すように、アッパーサスペンションアーム11(サスペンションアーム)と、ロアサスペンションアーム12と、サードリンク13(リンク部材)と、を備えている。
【0017】
前記アッパーサスペンションアーム11は、車軸Qよりも車両上方位置に配置され、
図2に示すように、ショックアブソーバ15よりも車両前方側に配置された前側アッパーアーム11aと、ショックアブソーバ15よりも車両後方側に配置された後側アッパーアーム11bと、前側アッパーアーム11aと後側アッパーアーム11bを連結する連結アッパーアーム11cと、を有している。
前記前側アッパーアーム11a及び前記後側アッパーアーム11bは、それぞれ車幅方向に延在され、車体側端部11dが車体Sに対して上下方向及び前後方向に揺動可能に支持されている。
前記連結アッパーアーム11cは、車両前後方向に延在され、前側アッパーアーム11aの車輪側端部11eと、サードリンク13の後述するアーム連結部13aと、後側アッパーアーム11bの車輪側端部11eを、車両前方から順に貫通している(
図2参照)。このとき、連結アッパーアーム11cと前側アッパーアーム11aの間、連結アッパーアーム11cとサードリンク13の間、連結アッパーアーム11cと後側アッパーアーム11bの間、のそれぞれには図示しないベアリングが介在されている。そして、連結アッパーアーム11cに対し、前側アッパーアーム11a、サードリンク13、後側アッパーアーム11bは、それぞれ上下方向に揺動可能に連結されている。
【0018】
前記ロアサスペンションアーム12は、車軸Qよりも車両下方位置に配置され、車体側端部12aが車体Sに対して上下方向及び前後方向に揺動可能に支持されると共に、車輪側端部12bがナックル3から下方に延在した下側ブラケット3bのロアアーム支持部6bに連結されている。
【0019】
[サードリンクの構成]
前記サードリンク13は、
図1に示すように、車輪1とアッパーサスペンションアーム11を連結すると共に、車輪1とショックアブソーバ15を連結するリンク部材である。
そして、このサードリンク13は、
図1に示すように、アーム連結部13aと、車輪支持部13bと、ショックアブソーバ連結部13cと、を有している。
【0020】
前記アーム連結部13aは、サードリンク13の上部に形成され、アッパーサスペンションアーム11の連結アッパーアーム11cが貫通している。ここで、連結アッパーアーム11cの両端部には、それぞれ前側アッパーアーム11aと後側アッパーアーム11bが連結され、アッパーサスペンションアーム11は、平面視した際に台形型になる。これにより、サードリンク13が車体Sに対して回転拘束され、アッパーサスペンションアーム11に対し上下方向にのみ揺動可能な状態で連結される。なお、実施例1では、このアーム連結部13aは、車輪1のタイヤ1aよりも車両上方位置に配置されると共に車幅方向外側に突出し、タイヤ1aの上方に張り出している。
【0021】
前記車輪支持部13bは、サードリンク13の中間部に形成され、アーム連結部13aよりも車両下方位置に配置されている。この車輪支持部13bには、ナックル3の上側ブラケット3aに形成されたキングピン回転部6aがキングピン軸P回りに回転可能に連結されている。これにより、車輪1をキングピン軸P回りに揺動可能に支持している。
さらに、この車輪支持部13bは、車幅方向外側に突出し、ショックアブソーバ連結部13cよりも車両外側位置に配置されると共に、リム1c及びホイールディスク1dによって囲まれる車輪1のホイール内側領域Rの内側に入り込んでいる(
図2参照)。
【0022】
前記ショックアブソーバ連結部13cは、サードリンク13の下部に形成され、ショックアブソーバ15の下端部15aに形成された取付けプレート(不図示)を挟み込み、ボルトを介して連結されている。すなわち、このショックアブソーバ連結部13cは、ショックアブソーバ15の下端部15aに対して上下方向に揺動可能に連結している。
さらに、このショックアブソーバ連結部13cは、
図1に示すように、インホイールモータユニット7の上端8a(上端部)よりも車両下方位置に配置されている。
また、実施例1では、ショックアブソーバ15とインホイールモータユニット7との干渉を避けるため、
図2に示すように、ショックアブソーバ連結部13cをインホイールモータユニット7の後端面8b(後端部)よりも車両後方位置に配置している。
ここで、「上端面8a」とは、インホイールモータユニット7のユニットケース7aの車両上方に臨む上面であり、ユニットケース7aのうち最も車両上方に位置する部分である。また、「後端面8b」とは、インホイールモータユニット7のユニットケース7aの車両後方に臨む後面であり、ユニットケース7aのうち最も車両後方に位置する部分である。なお、ユニットケース7aは、不図示の電動モータ(回転電機)と減速機(変速機)を内蔵するほぼ矩形の筐体である。
【0023】
次に、実施例1のインホイールモータ駆動車輪用サスペンション装置における作用を、「車輪からの入力荷重支持作用」、「ショックアブソーバ配置作用」、「サードリンク反力受け作用」に分けて説明する。
【0024】
[車輪からの入力荷重支持作用]
実施例1のサスペンション装置では、サードリンク13を介して、車輪1に対し、アッパーサスペンションアーム11と、ショックアブソーバ15を連結している。また、このサードリンク13は、車輪支持部13bにおいて、ナックル3の上側ブラケット3aに支持されている。このとき、車輪支持部13bは、キングピン回転部6aに点支持されており、サードリンク13とナックル3は、キングピン軸P回りに互いに相対回転可能となっている。
【0025】
そのため、車輪1が上下動すると、この上下動に追従してサードリンク13の全体が上下動する。すなわち、車輪1に作用する車両上下方向の荷重は、ナックル3のキングピン回転部6aを介して、サードリンク13の車輪支持部13bへ入力する。ここで、車輪支持部13bはキングピン軸P回りに回転可能ではあるが、車両上下方向には拘束されているので、車輪支持部13bから入力した車両上下方向の荷重によって、サードリンク13の全体が上下動することとなる。
【0026】
これにより、アーム連結部13aやショックアブソーバ連結部13cの設定位置に拘わらず、車輪1から入力した車両上下方向の荷重と、サードリンク13からアッパーサスペンションアーム11に作用する力と、サードリンク13からショックアブソーバ15に作用する力と、を同程度にすることができる。
【0027】
この結果、ショックアブソーバ15と車輪1との間にインホイールモータユニット7を配置するスペースを確保するために、ショックアブソーバ15の下端部15aを、車輪1から離間させて車体Sの近傍位置に配置した場合であっても、レバー比をほぼ1にすることができる。なお、「レバー比」とは、車輪1の上下ストロークに対するショックアブソーバ15のスプリング部16aの上下ストロークの比である。これにより、ショックアブソーバ15のレバー比を損なうことを防止できる。
【0028】
[ショックアブソーバ配置作用]
実施例1のサスペンション装置では、
図1に示すように、サードリンク13のショックアブソーバ連結部13cが、インホイールモータユニット7の上端面8aよりも車両下方位置に配置されている。すなわち、ショックアブソーバ連結部13cに連結したショックアブソーバ15の下端部15aと、インホイールモータユニット7とは、車両上下方向にオーバーラップ(重複)している。
【0029】
これにより、ショックアブソーバ15とインホイールモータユニット7との干渉を避けつつも、ショックアブソーバ15の下端部15aを比較的低い位置(路面に近い位置)に設定することができる。このため、ショックアブソーバ15の車体取付位置になる上端部15bの位置を高い位置に設定しなくても、ショックアブソーバ15の全長を、必要なストロークが確保できる長さに設定することができる。
【0030】
さらに、実施例1のサスペンション装置では、ショックアブソーバ15の上端部15bを高い位置に設定する必要がないため、車体Sに形成されるストラットハウジングが上方に突出することがない。このため、このストラットハウジングを覆うフードの高さも高くする必要がなくなる。
【0031】
なお、一般的なダブルウイッシュボーン式のサスペンション装置では、ショックアブソーバ15の取付自由度が非常に低くなっている。しかも、インホイールモータユニット7との干渉を避けつつ、モータ取付スペースを確保するためには、ショックアブソーバ15のレバー比を大きく損なったり、ショックアブソーバ15の下端部15aを比較的高い位置に設定する必要が生じたりする。
【0032】
これに対し、実施例1のサスペンション装置では、車輪1とアッパーサスペンションアーム11及びショックアブソーバ15の間にサードリンク13を介装することで、車輪1からの入力荷重とほぼ同程度の力をショックアブソーバ15に入力することができる。そのため、ショックアブソーバ15の上端部15bを高い位置に設定することなく、ショックアブソーバ15のレバー比及びストロークを確保することができる。
【0033】
[サードリンク反力受け作用]
図3は、実施例1のサスペンション装置においてサードリンクに作用する反力を示した説明図である。
図4は、比較例のサスペンション装置においてサードリンクに作用する反力を示した説明図である。以下、
図3及び
図4に基づき、サードリンク反力受け作用について説明する。
【0034】
実施例1のサスペンション装置では、サードリンク13の車輪支持部13bが、ショックアブソーバ連結部13cよりも車幅方向外側位置であって、アーム連結部13aよりも車両下方位置に配置されている。
つまり、
図3に示すように、車輪支持部13bとアーム連結部13aとの間に、車両上下方向の距離Xを確保し、車輪支持部13bとショックアブソーバ連結部13cとの間に、車幅方向の距離Yを確保している。
【0035】
一方、車輪1が上下動することで、サードリンク13には、
図3に矢印で示すように、アーム連結部13aにおいて反力Fが作用する。また、ショックアブソーバ連結部13cには反力Eが作用する。ここで、反力Fは車幅方向外側に向かって作用し、反力Eは車両下方に向かって作用する。そのため、この反力Fと反力Eは、キングピン軸P回りに回転する車輪支持部13bを中心に互いに相殺する向きに作用することとなる。
【0036】
これにより、車輪支持部13bにかかるキングピン軸P回りの曲げモーメントを低減することができ、ナックル3に形成されるキングピン回転部6aを小さくすることができる。この結果、インホイールモータユニット7の周囲スペースの拡大を図ることができ、このインホイールモータユニット7の設置に利用できるスペースを大きく確保することができる。
【0037】
なお、
図4に示すように、アッパーサスペンションアーム11の位置を、実施例1の場合よりも下方に設定し、サードリンク13のアーム連結部13aの高さを、車輪支持部13bとほぼ同程度にした場合を考える。この場合では、車輪支持部13bとアーム連結部13aとの間に、車両上下方向の距離Xを確保することができない。
そのため、
図4に示すように、車輪1が上下動しても、サードリンク13のアーム連結部13aには反力が作用せず、ショックアブソーバ連結部13cにおいてのみ車両下方に向かう反力Eが作用する。
これにより、反力Eを相殺することができず、車輪支持部13bにかかるキングピン軸P回りの曲げモーメントが過大になってしまう。このため、ナックル3に形成されるキングピン回転部6aにかかる負担が大きくなるので、このキングピン回転部6aを大きく形成する必要が生じる。この結果、インホイールモータユニット7の設置に利用できるスペースが縮小してしまうという問題が生じる。
【0038】
次に、効果を説明する。
実施例1のインホイールモータ駆動車輪用サスペンション装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0039】
(1) インホイールモータユニット7により駆動する車輪1を、サスペンション構造部材10、及び、ショックアブソーバ15を介して車体Sに懸架するインホイールモータ駆動車輪用サスペンション装置において、
前記サスペンション構造部材10は、車体Sに対して揺動可能に支持されるサスペンションアーム(アッパーサスペンションアーム11)と、
前記サスペンションアーム(アッパーサスペンションアーム11)に前記車輪1を揺動可能に連結すると共に、前記ショックアブソーバ15の下端部15aに連結するショックアブソーバ連結部13cを有するリンク部材(サードリンク13)と、
を備え、
前記ショックアブソーバ連結部13cを、前記インホイールモータユニット7の上端部(上端面8a)よりも車両下方位置に配置する構成とした。
これにより、ショックアブソーバ15の上端部15bを高い位置に設定することなく、ショックアブソーバ15のレバー比及びストロークを確保することができる。
【0040】
(2) 前記サスペンションアームは、前記車輪1の車軸Qよりも車両上方位置に配置され、前記車軸Qよりも車両上方位置で前記車輪1を揺動可能に支持するアッパーサスペンションアーム11であり、
前記リンク部材(サードリンク13)は、前記サスペンションアーム(アッパーサスペンションアーム11)を上下方向に揺動可能に連結するアーム連結部13aと、前記車輪1を転舵方向に揺動可能に支持する車輪支持部13bと、を有し、
前記車輪支持部13bを、前記ショックアブソーバ連結部13cよりも車幅方向外側位置であって、前記アーム連結部13aよりも車両下方位置に配置する構成とした。
これにより、車輪支持部13bに作用する曲げモーメントを低減し、インホイールモータユニット7の設置スペースの拡大を図ることができる。
【0041】
(実施例2)
実施例2は、サードリンクの車輪支持部及びショックアブソーバ連結部の配置を、実施例1とは異なる構成とした例である。
【0042】
図5は、実施例2のサスペンション装置が適用されたインホイールモータ駆動車輪を車両前方から見たときの正面図である。
図6は、実施例2のサスペンション装置が適用されたインホイールモータ駆動車輪を車両上方から見たときの平面図である。なお、実施例1と同等の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0043】
実施例2のサスペンション装置においても、実施例1と同様に、サードリンク23(リンク部材)を介し、車輪1がアッパーサスペンションアーム11と、ショックアブソーバ15に連結されている。そして、このサードリンク23は、アーム連結部23aと、車輪支持部23bと、ショックアブソーバ連結部23cと、を有している。
【0044】
そして、前記車輪支持部23bは、
図5に示すように、リム1c及びホイールディスク1dによって囲まれる車輪1のホイール内側領域Rの外側に配置され、ホイールディスク1dの車体側開放面(
図5において一点鎖線Aで示す)と車体Sとの間に配置されている。すなわち、実施例2の車輪支持部23bは、ホイール内側領域Rから外れた位置に配置されている。
【0045】
また、前記ショックアブソーバ連結部23cは、
図5に示すように、インホイールモータユニット7の上端面8a(上端部)よりも車両下方位置に配置されると共に、
図6に示すように、インホイールモータユニット7の車体側端面8c(車体側端部)よりも車幅方向内側位置に配置されている。つまり、このショックアブソーバ連結部23cは、車体Sと、インホイールモータユニット7の車体側端面8cと、の間の位置に配置される。
ここで、「車体側端面8c」とは、インホイールモータユニット7のユニットケース7aの車体Sに臨む側面であり、ユニットケース7aのうち最も車体Sに近接した部分である。
【0046】
そして、車輪支持部23bを、ホイール内側領域Rから外れた位置に配置することによって、ナックル3の上側ブラケット3aと連結する車輪支持部23bを、インホイールモータユニット7が配置されるホイール内側領域Rの外側に配置することができる。このため、ホイール内側領域Rにおけるインホイールモータユニット7の配置可能領域の拡大を図ることができ、モータ体積を増大することができる。
【0047】
特に、実施例2では、車輪支持部23bが車軸Qよりも車両上方に配置されているため、モータ体積を車軸Qより上側の径方向に拡大することができる。
【0048】
また、ショックアブソーバ連結部23cを、車体Sと、インホイールモータユニット7の車体側端面8cと、の間の位置に配置することによって、ショックアブソーバ連結部23cをインホイールモータユニット7の振れ回りに干渉しない位置に配置することができる。つまり、インホイールモータユニット7は、駆動時、車軸Q回り(径方向)に振れ回る。
【0049】
これに対し、ショックアブソーバ連結部23cを、車体Sと車体側端面8cの間に配置することで、このショックアブソーバ連結部23cを、インホイールモータユニット7の軸方向の側方に配置されることとなる。
そのため、インホイールモータユニット7の振れ回り時における、ショックアブソーバ連結部23cとインホイールモータユニット7との干渉を防止することができる。
そしてこれにより、ショックアブソーバ15の上端部15bを高い位置に設定することなく、インホイールモータユニット7のモータ体積を径方向に増大することができる。
【0050】
次に、効果を説明する。
実施例2のインホイールモータ駆動車輪用サスペンション装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0051】
(3) 前記車輪1は、タイヤ1aを支持するリム1cと、前記インホイールモータユニット7に連結されるホイールディスク1dと、を有し、
前記リンク部材(サードリンク23)は、前記車輪1を転舵方向に揺動可能に支持する車輪支持部23bを有し、
前記車輪支持部23bを、前記リム1c及び前記ホイールディスク1dで囲まれるホイール内側領域Rから外れた位置に配置する構成とした。
これにより、車輪支持部23bをインホイールモータユニット7が配置されるホイール内側領域Rの外側に配置することができ、モータ体積の増大を図ることができる。
【0052】
(4) 前記ショックアブソーバ連結部23cを、前記車体Sと、前記インホイールモータユニット7の車体側端部(車体側端面8c)と、の間の位置に配置する構成とした。
これにより、ショックアブソーバ連結部23cをインホイールモータユニット7の振れ回りに干渉しない位置に配置でき、モータ体積を径方向に増大することができる。
【0053】
(実施例3)
実施例3は、インホイールモータユニットの構成と、サードリンクの車輪支持部及びショックアブソーバ連結部の配置を、実施例1又は実施例2とは異なる構成とした例である。
【0054】
図7は、実施例3のサスペンション装置が適用されたインホイールモータ駆動車輪を車両前方から見たときの正面図である。
図8は、実施例3のサスペンション装置が適用されたインホイールモータ駆動車輪を車両上方から見たときの平面図である。なお、実施例1又は実施例2と同等の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0055】
実施例3のサスペンション装置において、
図7に示すように、インホイールモータユニット7´は、電動モータ71(回転電機)と、減速機72と、をユニットケース7aに内蔵している。そして、電動モータ71のモータ出力軸71aは、減速機出力軸であるインホイールモータユニット7´の出力軸7bに対してオフセットしている。ここで、インホイールモータユニット7´の出力軸7bは、車輪1の車軸Qに対して同軸に配置されるため、電動モータ71のモータ出力軸71aは、車輪1の車軸Qに対してオフセットした状態になる。なお、ここでは、
図7及び
図8に示すように、モータ出力軸71aは、車軸Qに対して、車両上下方向及び車両前後方向のそれぞれの方向にオフセットしており、モータ出力軸71aの方が車軸Qよりも車両上方に位置すると共に、車軸Qよりも車両前方に位置している。
【0056】
また、この実施例3のサスペンション装置においても、実施例1及び実施例2と同様に、サードリンク33(リンク部材)を介し、車輪1がアッパーサスペンションアーム11と、ショックアブソーバ15に連結されている。そして、このサードリンク33は、アーム連結部33aと、車輪支持部33bと、ショックアブソーバ連結部33cと、を有している。
【0057】
そして、前記車輪支持部33bは、
図8に示すように、リム1c及びホイールディスク1dによって囲まれる車輪1のホイール内側領域Rの外側、すなわち車体S側に配置されると共に、ショックアブソーバ連結部33cよりも車両前方位置であって、車幅方向外側位置に配置されている。また、ここでは、この車輪支持部33bは、インホイールモータユニット7´の後端面8b(後端部)よりも車両後方位置に配置されている。
つまり、車輪支持部33bは、車両前後方向において、インホイールモータユニット7´の後端面8bとショックアブソーバ連結部33cとの間に配置される。また、この車輪支持部33bは、車幅方向において、ホイールディスク1dの車体側開放面(
図8において一点鎖線Aで示す)とショックアブソーバ連結部33cの間の位置に配置される。
【0058】
さらに、この車輪支持部33bは、
図8に示すように、ユニットケース7aに内蔵された電動モータ71のモータ出力軸71aよりも、車両後方位置に配置されている。
すなわち、車両前方側から車両後方に向けて、電動モータ71のモータ出力軸71a、車輪支持部33b、ショックアブソーバ連結部33cの順に並ぶこととなる。
【0059】
また、前記ショックアブソーバ連結部33cは、
図7に示すように、インホイールモータユニット7´の上端面8a(上端部)よりも車両下方位置に配置されると共に、
図8に示すように、インホイールモータユニット7´の後端面8bよりも車両後方位置に配置されている。
なお、「後端面8bよりも車両後方位置」とは、車輪1の転舵に伴ってインホイールモータユニット7´が振れ回った状態でも、後端面8bよりも車両後方位置に配置されることを指す。
【0060】
そして、ショックアブソーバ連結部33cをインホイールモータユニット7´の後端面8bよりも車両後方位置に配置することで、車輪1の転舵に伴ってインホイールモータユニット7´が振れ回っても、ショックアブソーバ連結部33cと干渉することを防止できる。
【0061】
すなわち、インホイールモータユニット7´は、車輪1が転舵された際、ナックル3のキングピン回転部6aとロアアーム支持部6bを結んだ線上に位置するキングピン軸P回りに回転する車輪1と一体になって振れ回る。つまり、このインホイールモータユニット7´は、車輪支持部33bを通る軸(キングピン軸P)回りに回転する。
これに対し、後端面8bよりも車両後方位置となるようにショックアブソーバ連結部33cを配置しているので、このショックアブソーバ連結部33cをインホイールモータユニット7´の上端面8aよりも車両下方位置に配置しても、車輪支持部33b回りにインホイールモータユニット7´が振れ回ったときにユニットケース7aと干渉することはない。
【0062】
これにより、ショックアブソーバ連結部33cを、インホイールモータユニット7´との車軸Q方向の干渉を考慮することなく低い位置に配置することができる。この結果、ショックアブソーバ15の上端部15bを高い位置に設定することなく、インホイールモータユニット7´のモータ体積を軸方向に増大することができる。
【0063】
さらに、実施例3では、インホイールモータユニット7´の電動モータ71のモータ出力軸71aを車軸Qに対してオフセットすると共に、車輪支持部33bをショックアブソーバ連結部33cよりも車両前方位置、且つ、車幅方向外側位置に配置し、さらに、電動モータ71のモータ出力軸71aよりも車両後方位置に配置している。これにより、干渉条件が比較的厳しいインホイールモータユニット7´と、ショックアブソーバ15との間に適度な距離を確保することができる。
【0064】
つまり、サスペンション装置における操縦安定要件(ドライバーの意思通りに自動車を操縦できる性能、及び外乱に対する安定な走行性を満足する要件、以下「操安要件」という)を満足するために、キングピン軸Pの上側は、キャスタ角(キングピン軸Pの車両前後方向の傾き角度)を適度に確保する必要から車両後方に向けて傾斜させ、キングピン傾斜角(キングピン軸Pの車幅方向の傾き角度)を適度に確保する必要から車幅方向内側に傾斜させることが一般的に行われる。インホイールモータユニット7´とショックアブソーバ15との干渉・レイアウト要件だけを考慮するならば、例えば、車輪支持部33bをショックアブソーバ連結部33cよりも車両後方位置に配置することも可能である。しかしながら、その場合では、上記したような操安要件を満足するキングピン軸Pの傾斜角度とすることは困難になってしまう。
【0065】
すなわち、実施例3の構成にすることにより、操安要件の観点から適切なキングピン軸Pのジオメトリとしつつ、車輪1の転舵時にインホイールモータユニット7´が振れ回ってもショックアブソーバ連結部33cとの干渉を防止して、モータ振れ回り空間の拡大を図ることができる。この結果、インホイールモータユニット7´のモータ体積を径方向に増大することができる。
【0066】
次に、効果を説明する。
実施例3のインホイールモータ駆動車輪用サスペンション装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0067】
(5) 前記ショックアブソーバ連結部33cを、前記インホイールモータユニット7´の後端部(後端面8b)よりも車両後方位置に配置する構成とした。
これにより、インホイールモータユニット7´との車軸Q方向の干渉を考慮することなくショックアブソーバ連結部33cを低い位置に配置することができ、インホイールモータユニット7´のモータ体積を軸方向に増大することができる。
【0068】
(6) 前記インホイールモータユニット7´は、回転電機(電動モータ71)を有すると共に、前記回転電機(電動モータ71)の出力軸(モータ出力軸71a)を、前記車輪1の車軸Qに対してオフセットさせ、
前記リンク部材(サードリンク33)は、前記車輪1を転舵方向に揺動可能に支持する車輪支持部33bを有し、
前記車輪支持部33bを、前記ショックアブソーバ連結部33cよりも車両前方位置、且つ、車幅方向外側位置に配置すると共に、前記回転電機(電動モータ71)の出力軸(モータ出力軸71a)よりも車両後方位置に配置する構成とした。
これにより、操安要件の観点から適切なキングピン軸Pのジオメトリとしつつ、モータ振れ回り空間の拡大を図ることができ、インホイールモータユニット7´のモータ体積を径方向に増大することができる。
【0069】
(実施例4)
実施例4は、サードリンクの車輪支持部及びショックアブソーバ連結部の配置を、実施例1から実施例3とは異なる構成とした例である。
【0070】
図9は、実施例4のサスペンション装置が適用されたインホイールモータ駆動車輪を車両前方から見たときの正面図である。
図10は、実施例4のサスペンション装置が適用されたインホイールモータ駆動車輪を車両上方から見たときの平面図である。なお、実施例1〜実施例3のいずれかと同等の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0071】
実施例4のサスペンション装置においても、実施例3と同様に、インホイールモータユニット7´は、電動モータ71(回転電機)と、減速機72と、をユニットケース7aに内蔵している。そして、電動モータ71のモータ出力軸71aは、インホイールモータユニット7´の出力軸7bに対してオフセットしている。
【0072】
また、この実施例4のサスペンション装置においても、実施例1〜実施例3と同様に、サードリンク43(リンク部材)を介し、車輪1がアッパーサスペンションアーム11と、ショックアブソーバ15に連結されている。そして、このサードリンク43は、アーム連結部43aと、車輪支持部43bと、ショックアブソーバ連結部43cと、を有している。
【0073】
そして、前記車輪支持部43bは、
図9,
図10に示すように、リム1c及びホイールディスク1dによって囲まれる車輪1のホイール内側領域Rの外側に配置されると共に、ショックアブソーバ連結部43cよりも車両前方位置であって、車幅方向外側位置に配置されている。さらに、この車輪支持部43bは、電動モータ71のモータ出力軸71aよりも、車両後方位置に配置されている。
【0074】
さらに、この実施例4では、
図10に示すように、ショックアブソーバ連結部43cから車輪支持部43bまでの車両前後方向寸法αを、ショックアブソーバ連結部43cから車輪支持部43bまでの車幅方向寸法βよりも短くなるように設定している。
すなわち、ショックアブソーバ連結部43cと車輪支持部43bとの間の車両前後方向寸法αが、車幅方向寸法(車両左右方向寸法)βよりも短くなっている。
【0075】
ここで、ショックアブソーバ連結部43cから車輪支持部43bまでの車両前後方向寸法αは、
図11において一点鎖線で示すように、転舵した際に車輪1が外輪側となったときのインホイールモータユニット7´の車体側端面8cとショックアブソーバ15との干渉要件によって決まる。つまり、上記車両前後方向寸法αは、車輪1の外輪転舵時に、インホイールモータユニット7´の車体側端面8cとショックアブソーバ15が干渉しない状態で、最も近接する寸法に設定される。
【0076】
また、ショックアブソーバ連結部43cから車輪支持部43bまでの車幅方向寸法βは、
図11に二点鎖線で示すように、転舵した際に車輪1が内輪側となったときのホイール1bの車体側開放面(
図11においてAで示す)とショックアブソーバ15との干渉要件によって決まる。つまり、上記車幅方向寸法βは、車輪1の内輪転舵時に、ホイール1bの車体側開放面Aとショックアブソーバ15が干渉しない状態で、最も近接する寸法に設定される。
【0077】
車輪旋回時は、外輪旋回半径の方が内輪旋回半径よりも大きい。このため、一般的にアッカーマン率(内輪切れ角と外輪切れ角の差)がゼロ以上となるように、内輪転舵量(内輪の切れ角)が外輪転舵量(外輪の切れ角)よりも大きくなるように設定される。また、操舵復元力(ハンドルの戻り力)や旋回限界時の内輪・外輪間横力配分の観点からも、内輪転舵量が外輪転舵量よりも適度に大きくなるように設定されることが好ましい。
【0078】
このように、内輪転舵量は外輪転舵量よりも大きく設定されることが一般的である。そのため、内輪転舵時のホイール1bの車体側開放面Aとショックアブソーバ15との干渉要件の方が、外輪転舵時のインホイールモータユニット7´の車体側端面8cとショックアブソーバ15との干渉要件よりも厳しいものとなる。実施例4では、ショックアブソーバ連結部43cと車輪支持部43bとの間の車両前後方向寸法αを、車幅方向寸法(車両左右方向寸法)βよりも短くすることで、旋回時の車輪1とショックアブソーバ15との干渉を防止しつつ、インホイールモータユニット7´が振れ回ることが可能な空間を最大限確保することができる。これにより、インホイールモータユニット7´のモータ体積を径方向に増大することができる。
【0079】
次に効果を説明する。
実施例4のインホイールモータ駆動用サスペンション装置にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0080】
(7) 前記ショックアブソーバ連結部43cから前記車輪支持部43bまでの車両前後方向寸法αを、前記ショックアブソーバ連結部43cから前記車輪支持部43bまでの車幅方向寸法βよりも短く設定する構成とした。
これにより、旋回時の車輪1とショックアブソーバ15との干渉を防止しつつ、インホイールモータユニット7´の振れ回り可能空間を最大限確保でき、モータ体積を径方向に増大することができる。
【0081】
(実施例5)
実施例5は、キングピン軸の配置を、実施例1〜実施例4とは異なる構成にした例である。
【0082】
図12は、実施例5のサスペンション装置が適用されたインホイールモータ駆動車輪を車両前方から見たときの正面図である。
図13Aは、実施例5のサスペンション装置が適用されたインホイールモータ駆動車輪を車両上方から見たときの平面図であり、
図13Bは、スクラブ半径がゼロでない場合の比較例のインホイールモータ駆動車輪を車両上方から見たときの平面図である。なお、実施例1と同等の構成については、同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0083】
実施例5のサスペンション装置においても、実施例1と同様に、サスペンション構造部材10は、車軸Qよりも車両上方位置で車輪1を支持するアッパーサスペンションアーム11と、車軸Qよりも車両下方位置で車輪1を支持するロアサスペンションアーム12と、サードリンク53(リンク部材)と、を備えている。
【0084】
そして、前記サードリンク53は、アーム連結部53aと、車輪支持部53bと、ショックアブソーバ連結部53cと、を有し、このサードリンク53を介して、車輪1がアッパーサスペンションアーム11と、ショックアブソーバ15に連結されている。また、前記ショックアブソーバ連結部53cは、
図12に示すように、インホイールモータユニット7の上端面8aよりも車両下方位置に配置される。
【0085】
さらに、この実施例5のサスペンション装置では、ナックル3に形成されたキングピン回転部6aとロアアーム支持部6bとを結んだ線上に位置するキングピン軸Pが、スクラブ半径がゼロとなる位置に配置されている。
【0086】
ここで、キングピン回転部6aには、サードリンク53の車輪支持部53bが連結されている。また、ロアアーム支持部6bは、ロアサスペンションアーム12によって車輪1を支持する支持位置である。つまり、「キングピン軸P」は、車輪支持部53bと、ロアサスペンションアーム12によって車輪1を支持する支持位置と、によって設定されることとなる。
また、「スクラブ半径」とは、車両を正面から見たとき(
図12に示す状態)、キングピン軸Pが路面Gと交差する点から、タイヤ1aの接地中心までの距離である。なお、
図12では、このスクラブ半径がゼロであるため、このスクラブ半径を点Oによって示す。
なお、「スクラブ半径をゼロにする」とは、厳密にゼロとなる状態だけでなく、無視できる程度の誤差を含む。
【0087】
このように、実施例5のサスペンション装置ではスクラブ半径がゼロになるようにキングピン軸Pを配置するため、このキングピン軸P回りに発生するトルクを概ねゼロにすることができる。
すなわち、インホイールモータユニット7によって車輪1に付与される駆動力(制動力)Fは、
図13Aに示すタイヤ1aの接地点Wに入力する。一方、キングピン軸P回りに発生するトルクは、接地点入力駆動力(接地点入力制動力)とスクラブ半径との積で求められる。そのため、スクラブ半径をゼロにすれば、キングピン軸P回りに発生するトルクは概ねゼロになる。
【0088】
なお、
図13Bに示すように、キングピン軸Pが路面Gと交差する点とタイヤ1aの接地中心がずれており、スクラブ半径Oがゼロでなければ、キングピン軸P回りのトルクをゼロにすることができない。ここで、左右の車輪1を支持するサスペンション装置は左右対称であるため、左右の車輪1間に駆動力(制動力)差が生じていない場合(左右輪の制駆動力が厳密に等しい場合)には、左右の車輪1のそれぞれに発生するキングピン軸P回りのトルクが相殺され、ステアリングラック軸力への外乱はゼロとなる。
しかしながら、左右の車輪1間において、走行中に発生する左右の車輪1の輪荷重変動、左右独立のトラクション制御、アンチロックブレーキ制御、ヨーモーメント制御等の影響により、駆動力(制動力)差は多くの場面で存在する。そして、この駆動力(制動力)左右差によって、左右のキングピン軸P回りのトルクが異なり、ステアリングラック軸力への外乱やトルクステアが発生してしまう。そのため、制駆動力条件によってはステアリングラック軸力への外乱等が大きくなってしまうという問題が生じていた。
【0089】
これに対し、キングピン軸P回りのトルクをゼロにすることで、左右の車輪1間に駆動力(制動力)差が生じていても、ステアリングラック軸力への外乱やトルクステアを抑制することができる。
【0090】
次に、効果を説明する。
実施例5のインホイールモータ駆動車輪用サスペンション装置にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0091】
(8) 前記サスペンション構造部材10は、前記車体Sに対して揺動可能に支持されると共に、前記車輪1の車軸Qよりも車両下方位置に配置され、前記車軸Qよりも車両下方位置で前記車輪1を揺動可能に支持するロアサスペンションアーム12を備え、
前記車輪支持部53bを、前記車輪1の車軸Qよりも車両上方位置に配置すると共に、前記車輪支持部53b、及び、前記ロアサスペンションアーム12によって前記車輪1を支持する支持位置(ロアアーム支持部)6bによって設定されるキングピン軸Pを、スクラブ半径Oがゼロとなる位置に配置する構成とした。
これにより、キングピン軸P回りに発生するトルクを概ねゼロにすることができ、左右の車輪1に付与される制駆動力に差が生じた際のトルクステア等を抑制することができる。
【0092】
以上、本発明のインホイールモータ駆動車輪用サスペンション装置を実施例1〜実施例5に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0093】
上記各実施例のサスペンション装置は、いずれも前輪操舵輪に適用した例を示したがこれに限らない。車体Sの後側に配置された駆動輪であっても適用することができる。
ここで、後輪駆動のインホイールモータ駆動車において、ショックアブソーバの下端位置を路面から離れた高い位置に設定してしまうと、その分、ショックアブソーバの上端が車両後部に形成される荷室内に突出してしまい、荷室が狭くなるという問題が生じる。
これに対し、本発明のサスペンション装置を適用することで、荷室へのショックアブソーバの突出を防止しつつ、ショックアブソーバのストロークを確保することができる。
【0094】
また、上記各実施例のサスペンション装置は、いずれもダブルウイッシュボーン式であるが、これに限らず、トレーリングアーム式等の一軸アームのサスペンション装置であってもよい。
【0095】
また、上記各実施例では、インホイールモータユニット7,7´が電動モータ71と減速機(変速機)72をモータケース7aに一体的に内蔵する構成となっているが、電動モータと減速機(変速機)を別体にしてもよい。
【0096】
本出願は、2013年4月30日に日本国特許庁に出願された特願2013-95798に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。