(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6004145
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月5日
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20160923BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20160923BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20160923BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20160923BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20160923BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】15
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-535190(P2016-535190)
(86)(22)【出願日】2015年11月30日
(86)【国際出願番号】JP2015083560
【審査請求日】2016年5月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-244329(P2014-244329)
(32)【優先日】2014年12月2日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(72)【発明者】
【氏名】皆木 亮
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝義
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英樹
【審査官】
鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−189058(JP,A)
【文献】
特開2004−17881(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/162769(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵を補助するアシストトルクを車両のステアリングシステムに付与するモータを制御するモータ制御装置とを有する電動パワーステアリング装置において、
所定の切替え契機に従って、前記モータの制御方式を、モータ出力トルクを制御するトルク系のトルク制御方式と、前記操舵の舵角を制御する舵角系の位置/速度制御方式との間で切替える機能を具備し、
前記操舵トルクに感応して、前記トルク制御方式から前記位置/速度制御方式に移行するフェード処理1を可変することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵を補助するアシストトルクを車両のステアリングシステムに付与するモータを制御するモータ制御装置とを有する電動パワーステアリング装置において、
所定の切替え契機に従って、前記モータの制御方式を、モータ出力トルクを制御するトルク系のトルク制御方式と、前記操舵の舵角を制御する舵角系の位置/速度制御方式との間で切替える機能を具備し、
前記操舵トルクに感応して、前記位置/速度制御方式から前記トルク制御方式に移行するフェード処理2を可変することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記所定の切替え契機のON/OFF時に、前記操舵トルクに応じて、前記フェード処理1及びフェード処理2における前記トルク系のフェードゲインを付与するフェードゲイン信号F1と、前記フェード処理1及びフェード処理2における前記舵角系のフェードゲインを付与するフェードゲイン信号F2とを演算する特性演算部が設けられている請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記切替え契機がONしたとき、前記フェード処理1が開始され、前記フェードゲイン信号F2によって、位置/速度制御の徐変後舵角指令値を実舵角から徐々に舵角指令値へ変化させ、トルク制御は、前記フェードゲイン信号F1によって、前記アシストトルクレベルを100%から0%に徐々に変化させ、前記位置/速度制御方式で動作するようになっている請求項3に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記切替え契機がOFFされたとき、前記フェード処理2が開始され、前記フェードゲイン信号F2によって、位置/速度制御の徐変後舵角指令値を舵角指令値から徐々に実舵角へ変化させ、トルク制御は、前記フェードゲイン信号F1によって、前記アシストトルクレベルを0%から100%に徐々に変化させ、前記トルク制御方式で動作するようになっている請求項3に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
フェードゲインの過去値をFG(z−1)、指数ゲインをA1、フェードレートをFR1として、前記フェードゲイン信号F1をA1×FG(z−1)+FR1で算出する請求項4又は5に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
フェードゲインの過去値をFG(z−1)、指数ゲインをA2、フェードレートをFR2として、前記フェードゲイン信号F2をA2×FG(z−1)+FR2で算出する請求項4又は5に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
前記指数ゲインA1又はA2を前記操舵トルクに応じて変化させる請求項6又は7に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
前記指数ゲインA1が、前記操舵トルクの所定値T11まで一定値A12であり、前記所定値T11以上でかつ所定値T12(>T11)以下において徐々に値A11(<A12)まで減少し、前記所定値T12より大きい領域で一定値A11となっている請求項8に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項10】
前記指数ゲインA2が、前記操舵トルクの所定値T21まで一定値A21であり、前記所定値T21以上でかつ所定値T22(>T21)以下において徐々に値A22(>A21)まで増加し、前記所定値T22より大きい領域で一定値A22となっている請求項8に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項11】
前記所定の切替え契機を自動操舵実行判定部で行う請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項12】
前記自動操舵実行判定部が、
舵角指令値を入力して角速度及び角加速度を演算する演算部と、
前記舵角指令値、前記角速度及び前記角加速度をそれぞれ車速に対応する判定マップで判定するマップ判定部と、
前記マップ判定部の判定結果に基づいて診断する診断部と、
で構成されている請求項11に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項13】
ハンドルの慣性、摩擦を補償する外乱オブザーバが更に設けられている請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項14】
前記外乱オブザーバが、
前記ステアリングシステムの逆モデルと帯域制限を行うLPFの出力差から外乱推定トルクを推定するようになっている請求項13に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項15】
前記ステアリングシステムの慣性及び摩擦の値が、前記逆モデルの慣性及び摩擦の値以上となっている請求項14に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動操舵制御(自動運転モードや駐車支援モードなど)と手動操舵制御の機能を有し、車両のステアリングシステムにモータによるアシスト力を付与するようにした電動パワーステアリング装置に関し、特にモータの制御方式を、モータ出力トルクを制御するトルク制御方式と、操舵の舵角を制御する位置/速度制御方式との間で切替える機能を具備し、操舵トルクに応じてフェード処理(徐変時間、ゲイン)を可変する電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ制御装置を具備し、車両のステアリングシステムにモータの回転力で操舵補助力(アシスト力)を付与する電動パワーステアリング装置(EPS)は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、操舵補助力のトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、操舵補助指令値(電流指令値)とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデューティの調整で行っている。
【0003】
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を
図1に示して説明すると、ハンドル(ステアリングホイール)1のコラム軸(ステアリングシャフト)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、ハンドル(ステアリングホイール)1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)30には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTsと車速センサ12で検出された車速Vsとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の操舵補助指令値の演算を行い、操舵補助指令値に補償等を施した電圧制御値Vrefによってモータ20に供給する電流を制御する。なお、舵角センサ14は必須のものではなく、配設されていなくても良く、モータ20に連結された回転センサから得ることもできる。
【0004】
コントロールユニット30には、車両の各種情報を授受するCAN
(Controller Area Network)40が接続されており、車速VsはCAN40から受信することも可能である。また、コントロールユニット30には、CAN40以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN41も接続可能である。
【0005】
このような電動パワーステアリング装置において、コントロールユニット30は主としてCPU(MPUやMCU等を含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと、例えば
図2に示されるような構成となっている。
【0006】
図2を参照してコントロールユニット30の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10からの操舵トルクTs及び車速センサ12からの車速Vsは電流指令値演算部31に入力され、電流指令値演算部31は操舵トルクTs及び車速Vsに基づいてアシストマップ等を用いて電流指令値Iref1を演算する。演算された電流指令値Iref1は加算部32Aで、特性を改善するための補償部34からの補償信号CMと加算され、加算された電流指令値Iref2が電流制限部33で最大値を制限され、最大値を制限された電流指令値Irefmが減算部32Bに入力され、モータ電流検出値Imと減算される。
【0007】
減算部32Bでの減算結果I(=Irefm−Im)はPI制御部35でPI(比例積分)制御され、PI制御された電圧制御値VrefがPWM制御部36に入力されてデューティを演算され、デューティを演算されたPWM信号でインバータ37を介してモータ20をPWM駆動する。モータ20のモータ電流値Imはモータ電流検出手段38で検出され、減算部32Bに入力されてフィードバックされる。
【0008】
補償部34は、検出若しくは推定されたセルフアライニングトルク(SAT)34−3を加算部34−4で慣性補償値34−2と加算し、その加算結果に更に加算部34−5で収れん性制御値34−1を加算し、その加算結果を補償信号CMとして加算部32Aに入力し、特性改善する。
【0009】
このような電動パワーステアリング装置において、近年自動操舵支援機能(自動運転、パーキングアシスト等)を搭載し、自動操舵制御と手動操舵制御とを切替える車両が出現して来ており、自動操舵支援機能を搭載した車両にあってはカメラ(画像)や距離センサなどのデータを基に目標操舵角を設定し、目標操舵角に実操舵角を追従させる自動操舵制御が行われる。
【0010】
自動運転の場合は、レーダ、カメラ、超音波センサ等の情報を基に車両周辺の環境を認識し、車両を安全に誘導できる舵角指令値を出力する。電動パワーステアリング装置は舵角指令値に追従するように実舵角を位置制御することによって自動運転が可能となる。
【0011】
従来周知の自動操舵制御と手動操舵制御の機能を有する電動パワーステアリング装置では、予め記憶した車両の移動距離と転舵角との関係に基づいてアクチュエータ(モータ)を制御することにより、バック駐車や縦列駐車を自動で行うようになっている。即ち、自動操舵制御装置は、アラウンドビューモニタや超音波センサ等の測位センサから駐車スペースを認識し、EPS側に舵角指令値を出力する。EPSは舵角指令値に追従するように実舵角を位置制御することによって、車両は駐車スペースへと誘導されていく。
【0012】
図3は、自動操舵制御機能を有する電動パワーステアリング装置の制御系を示しており、自動操舵指令装置50にはカメラ、測位センサ(超音波センサ等)から各種データが入力され、自動操舵用舵角指令値θtcはCAN等を経てEPSアクチュエータ機能内の位置/速度制御部51に入力され、自動操舵実行指令はCAN等を経てEPSアクチュエータ機能内の自動操舵実行判定部52に入力される。自動操舵実行判定部52には操舵トルクTsも入力されている。EPSセンサからの実舵角θrは位置/速度制御部51に入力され、自動操舵実行判定部52の判定結果はトルク指令値徐変切替部54に入力される。また、EPSセンサの操舵トルクは、EPSパワーアシスト機能内のトルク制御部53に入力され、トルク制御部53からの操舵アシストトルク指令値がトルク指令値徐変切替部54に入力される。位置/速度制御部51からの位置/速度制御トルク指令値Tpもトルク指令値徐変切替部54に入力され、自動操舵実行判定部52の判定結果に従って操舵アシストトルク指令値Tcと位置/速度制御トルク指令値Tpとが切替えられ、モータトルク指令値として出力され、電流制御系を介してモータが駆動制御される。
【0013】
このように通常のパワーアシストはトルク制御系であるのに対し、駐車支援や自動運転の場合は舵角等の位置/速度制御系となる。トルク制御と位置/速度制御を互いに切替える際、制御トルクの変動が生じ、スムーズに切替わらない問題や切替え時のトルク変動がトリガとなって、意図しないセルフステアが生じる問題がある。
【0014】
このような問題に対し、従来はトルク変動を低減するために、互いの制御トルクを除々に変化させる(徐変)手法が用いられてきた。例えば特開2004−17881号公報(特許文献1)では、
図4に示すように時点t0において自動操舵モードが解除された場合、Sθ=OFFと再設定し、それ以降の所定時間ΔT内では、角度制御比μを単調に減少することにより、モータに通電すべき電流の指令値は、制御方式の切り換え時にも急変しなくなるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−17881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、トルク制御と位置/速度制御の切替えにおいては、効果が十分に発揮できない。その原因は、電動パワーステアリングのようなハンドルから外乱を入力できるシステムの場合、位置/速度制御は外乱を抑えるようにトルクアシストするため、通常のパワーアシスト制御に切替わった際、逆方向へアシストされるケースがある。
【0017】
このように、従来はトルク変動を低減するために、互いの制御トルクを徐々に変化させる(徐変)手法が用いられてきたが、トルク制御と位置/速度制御の切替えにおいては効果が十分に発揮できなかった。
【0018】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、制御方式を切替えるフェード処理(徐変処理)に際して、操舵トルクに感応して、トルク制御の制御トルクと位置/速度制御の指令値を徐変することにより、スムーズかつセルフステアレスで、制御方式を切替えることが可能な電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵を補助するアシストトルクを車両のステアリングシステムに付与するモータを制御するモータ制御装置とを有する電動パワーステアリング装置に関し、本発明の上記目的は、所定の切替え契機に従って、前記モータの制御方式を、モータ出力トルクを制御するトルク系のトルク制御方式と、前記操舵の舵角を制御する舵角系の位置/速度制御方式との間で切替える機能を具備し、前記操舵トルクに感応して、前記トルク制御方式から前記位置/速度制御方式に移行するフェード処理1を可変すること、或いは前記操舵トルクに感応して、前記位置/速度制御方式から前記トルク制御方式に移行するフェード処理2を可変することにより達成される。
【0020】
本発明の上記目的は、前記所定の切替え契機のON/OFF時に、前記操舵トルクに応じて、前記フェード処理1及びフェード処理2における前記トルク系のフェードゲインを付与するフェードゲイン信号F1と、前記フェード処理1及びフェード処理2における前記舵角系のフェードゲインを付与するフェードゲイン信号F2とを演算する特性演算部が設けられていることにより、或いは前記切替え契機がONしたとき、前記フェード処理1が開始され、前記フェードゲイン信号F2によって、位置/速度制御の徐変後舵角指令値を実舵角から徐々に舵角指令値へ変化させ、トルク制御は、前記フェードゲイン信号F1によって、前記アシストトルクレベルを100%から0%に徐々に変化させ、前記位置/速度制御方式で動作するようになっていることにより、或いは前記切替え契機がOFFされたとき、前記フェード処理2が開始され、前記フェードゲイン信号F2によって、位置/速度制御の徐変後舵角指令値を舵角指令値から徐々に実舵角へ変化させ、トルク制御は、前記フェードゲイン信号F1によって、前記アシストトルクレベルを0%から100%に徐々に変化させ、前記トルク制御方式で動作するようになっていることにより、或いはフェードゲインの過去値をFG(z
−1)、指数ゲインをA1、フェードレートをFR1として、前記フェードゲイン信号F1をA1×FG(z
−1)+FR1で算出することにより、或いはフェードゲインの過去値をFG(z
−1)、指数ゲインをA2、フェードレートをFR2として、前記フェードゲイン信号F2をA2×FG(z
−1)+FR2で算出することにより、或いは前記指数ゲインA1又はA2を前記操舵トルクに応じて変化させることにより、或いは前記指数ゲインA1が、前記操舵トルクの所定値T11まで一定値A12であり、前記所定値T11以上でかつ所定値T12(>T11)以下において徐々に値A11(<A12)まで減少し、前記所定値T12より大きい領域で一定値A11となっていることにより、或いは前記指数ゲインA2が、前記操舵トルクの所定値T21まで一定値A21であり、前記所定値T21以上でかつ所定値T22(>T21)以下において徐々に値A22(>A21)まで増加し、前記所定値T22より大きい領域で一定値A22となっていることにより、或いは前記所定の切替え契機を自動操舵実行判定部で行うことにより、或いは前記自動操舵実行判定部が、舵角指令値を入力して角速度及び角加速度を演算する演算部と、前記舵角指令値、前記角速度及び前記角加速度をそれぞれ車速に対応する判定マップで判定するマップ判定部と、前記マップ判定部の判定結果に基づいて診断する診断部とで構成されていることにより、或いはハンドルの慣性、摩擦を補償する外乱オブザーバが更に設けられていることにより、或いは前記外乱オブザーバが、前記ステアリングシステムの逆モデルと帯域制限を行うLPFの出力差から外乱推定トルクを推定するようになっていることにより、或いは前記ステアリングシステムの慣性及び摩擦の値が、前記逆モデルの慣性及び摩擦の値以上となっていることにより、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る電動パワーステアリング装置によれば、徐変後舵角指令値は、実舵角から舵角指令値へ徐変され、実舵角は、徐変後の舵角指令値に追従するように位置/速度制御されるため、位置/速度制御のトルク指令値を自動的に滑らかに変化させることができ、運転者にとって優しい手感となる。
【0022】
また、自動操舵からトルク制御に切替わるフェード処理の際、過大なトルク変動が生じても、操舵トルクに感応して、舵角指令を指令値から実舵角へ徐々に変化させるため、トルク制御による過大なパワーアシストを自動的に位置/速度制御が補償する。これにより、運転者がハンドルを取られるような不具合を抑制することができる。
【0023】
更に、本発明に係る電動パワーステアリング装置によれば、運転者の意思を尊重した自動操舵運転(位置/速度制御)とトルク制御による通常操舵の切替えをスムーズな動作で行うことができ、自動運転中に運転者が危険を感じてハンドルを強く操舵した場合、素早く自動運転を中断して、通常のトルク制御に切替えることができる。外乱オブザーバの設置により、一層効果を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】電動パワーステアリング装置の概要を示す構成図である。
【
図2】電動パワーステアリング装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
【
図3】自動操舵機能を有する電動パワーステアリング装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
【
図4】従来の電動パワーステアリング装置の動作系を示す特性図である。
【
図5】電動パワーステアリング装置(シングルピニオン方式)の概要を示す構成図である。
【
図6】電動パワーステアリング装置(デュアルピニオン方式)の概要を示す構成図である。
【
図7】電動パワーステアリング装置(デュアルピニオン方式(変形例))の概要を示す構成図である。
【
図8】電動パワーステアリング装置(ラック同軸方式)の概要を示す構成図である。
【
図9】電動パワーステアリング装置(ラックオフセット方式)の概要を示す構成図である。
【
図11】自動操舵実行判定部の構成例を示すブロック図である。
【
図12】判定マップ(舵角指令値、角速度、角加速度)の一例を示す特性図である。
【
図13】センサの装着例及び本発明で使用する実舵角の関係を示す図である。
【
図14】本発明の動作例を示すフローチャートである。
【
図15】自動操舵判定部の一部の動作例を示すフローチャートである。
【
図16】本発明の動作例を示すタイミングチャートである。
【
図19】本発明の効果(フェード処理)を説明するための特性図である。
【
図20】本発明の効果(フェード処理)を説明するための特性図である。
【
図21】外乱オブザーバの構成例を示すブロック図である。
【
図22】外乱オブザーバを設けたときの効果例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
電動パワーステアリング装置における従来のトルク徐変制御では、トルク制御と位置/速度制御を互いに切替える際、スムーズに制御が切替わらない問題や意図しないセルフステアが生じる問題がある。このため、本発明では、トルク制御の制御トルクと位置/速度制御の指令値を徐変(フェード処理)することにより、スムーズかつセルフステアレスで、制御を切替える処理を実現している。
【0026】
本発明では、所定の切替え契機(例えば自動操舵指令)に従って、モータの制御方式を、モータ出力トルクを制御するトルク制御方式と、操舵の舵角を制御する位置/速度制御方式との間で切替える機能を具備し、更にフェード処理(徐変時間、ゲイン)を操舵トルクに応じて可変し、スムーズかつセルフステアレスなフェード処理を実現している。
【0027】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
本発明は
図1に示すコラム方式の他に、
図5に概略構成を示すシングルピニオン方式、
図6に概略を示すデュアルピニオン方式、
図7に概略構成を示すデュアルピニオン方式(変形例)、
図8に概略を示すラック同軸方式、
図9に概略を示すラックオフセット方式にも適用することができるが、以下ではコラム方式について説明する。
【0029】
図10は本発明の構成例を示しており、操舵トルクTsはトルク制御部102に入力されると共に、自動操舵実行判定部120及び特性演算部140に入力され、トルク制御部102からの操舵アシストトルク指令値Tcはトルク系のトルク徐変部103に入力される。また、CAN等からの舵角指令値θtcは自動操舵実行判定部120に入力され、自動操舵実行判定部120での演算処理後の舵角指令値θtは、舵角系の舵角指令値徐変部100に実舵角θrと共に入力される。自動操舵実行判定部120からは、更に判定結果である自動操舵指令のON/OFFが出力され、自動操舵指令のON/OFFはトルク徐変部103、舵角指令値徐変部100及び特性演算部140に入力される。
【0030】
実舵角θrは舵角指令値徐変部100及び位置/速度制御部101に入力され、舵角指令値徐変部100からの徐変後舵角指令値θmは位置/速度制御部101に入力される。また、操舵トルクTsに基づいて、特性演算部140で演算されたトルク系のフェードゲイン信号F1はトルク徐変部103に入力され、舵角系のフェードゲイン信号F2は舵角指令値徐変部100に入力される。
【0031】
トルク徐変部103におけるトルク徐変後の操舵アシストトルク指令値Tgは加算部104に入力され、位置/速度制御部101からの位置/速度制御トルク指令値Tpも加算部104に入力され、加算部104の加算結果がモータトルク指令値として出力される。モータトルク指令値は電流制御系130に入力され、電流制御系130を経てモータ131が駆動制御される。
【0032】
特性演算部140は、自動操舵実行判定部120により自動操舵指令がONになったとき、或いは自動操舵指令がOFFになったときに、それぞれトルク徐変のためのフェードゲイン信号F1及び舵角指令値徐変のためのフェードゲイン信号F2を演算し、操舵トルクTsに応じた徐変(時間、ゲイン)を行うようになっている。
【0033】
また、自動操舵実行判定部120は
図11に示すような構成であり、舵角指令値θtcは演算部121に入力され、演算部121は舵角指令値θtcに基づいて角速度ωtc及び角加速度αtcを演算する。角速度ωtc及び角加速度αtcは判定マップを用いて判定するマップ判定部122に入力され、マップ判定部122には舵角指令値θtc及び車速Vsも入力されている。マップ判定部122は、
図12(A)のような特性A1又はB1を有する舵角指令値θtc用の判定マップ#1と、
図12(B)のような特性A2又はB2を有する角速度ωtc用の判定マップ#2と、
図12(C)のような特性A3又はB3を有する角加速度αtc用の判定マップ#3とを備えている。
【0034】
舵角指令値θtcに対する判定マップ#1の特性は、低速の車速Vs1まで一定値θtc
0であり、車速Vs1以上の範囲において特性A1又は特性B1のように減少する。角速度ωtcに対する判定マップ#2の特性は、低速の車速Vs2まで一定値ω
0であり、車速Vs2以上の範囲において特性A2又は特性B2のように減少する。また、角加速度αtcに対する判定マップ#3の特性は、低速の車速Vs3まで一定値αc
0であり、車速Vs3以上の範囲において特性A3又は特性B3のように減少する。判定マップ#1〜#3の特性はいずれもチュ−ニング可能であり、線形に減少する特性であっても良い。
【0035】
マップ判定部122は舵角指令値θtcが判定マップ#1の特性値範囲を超えているか否かを判定し、角速度ωtcが判定マップ#2の特性値範囲を超えているか否かを判定し、更に角加速度αtcが判定マップ#3の特性値範囲を超えているか否かを判定する。判定結果MDは診断部123に入力され、時間や回数による診断の結果に基づき、診断部123は自動操舵指令のON/OFFを出力すると共に、自動操舵指令のON/OFFは出力部124に入力される。出力部124は、自動操舵指令がONの時にのみ舵角指令値θtを出力する。
【0036】
舵角指令値θtは実舵角θrと共に、舵角指令値徐変部100に入力されるが、本発明では実舵角θrを以下のように算出している。
【0037】
トーションバー23を具備する機構については、例えば
図13に示すようなセンサがコラム軸2(2A(入力側),2B(出力側))に装着され、操舵角度が検出される。即ち、コラム軸2のハンドル1側の入力シャフト2Aには、角度センサとしてのホールICセンサ21及びトルクセンサ入力側ロータの20°ロータセンサ22が装着されている。ホールICセンサ21は296°周期のAS_IS角度θhを出力する。トーションバー23よりもハンドル1側に装着された20°ロータセンサ22は、20°周期のコラム入力側角度θsを出力し、コラム入力側角度θsは舵角演算部132に入力される。また、コラム軸2の出力シャフト2Bには、トルクセンサ出力側ロータの40°ロータセンサ24が装着されており、40°ロータセンサ24からコラム出力側角度θoが出力され、コラム出力側角度θoは舵角演算部132に入力される。コラム入力側角度θs及びコラム出力側角度信号θoは共に舵角演算部132で絶対角度に演算され、舵角演算部132から絶対角度のコラム入力側の舵角θr及びコラム出力側の舵角θr1が出力される。
【0038】
本発明ではコラム入力側の舵角θrを実舵角として説明しているが、コラム出力側の舵角θr1を実舵角として用いることも可能である。
【0039】
このような構成において、その動作例を
図14及び
図15のフローチャート並びに
図16のタイミングチャートを参照して説明する。
【0040】
自動操舵指令がONされない場合(ステップS1)には、アシストトルクレベルが100%の通常操舵、つまりトルク制御が実施される(ステップS15)。そして、自動操舵実行判定部120により、時点t2において自動操舵指令がONされると(ステップS1)、この時点t2よりEPSのフェード処理が開始される(ステップS2)。このとき、特性演算部140で、操舵トルクTsに基づいてフェードゲイン信号F1及びF2が演算され、フェードゲイン信号F1はトルク徐変部103に入力され、フェードゲイン信号F2は舵角指令値徐変部100に入力される(ステップS2A)。フェードゲイン信号F1及びF2によってそれぞれ、フェード処理時間及びフェードゲイン特性が設定される。特性演算部140は、下記数1に従ってフェードゲイン信号F1を算出し、下記数2に従ってフェードゲイン信号F2を算出する。
(数1)
F1=A1×FG(z
−1)+FR1
ただし、FR1は制御周期に変化するフェードの割合を決めるフェー
ドレート、A1は指数の傾きを決める指数ゲインであり、FG(z
−1
)はフェードゲインの過去値である。
(数2)
F2=A2×FG(z
−1)+FR2
ただし、FR2は制御周期に変化するフェードの割合を決めるフェー
ドレート、A2は指数の傾きを決める指数ゲインであり、FG(z
−1
)はフェードゲインの過去値である。
数1及び数2において、指数ゲインA1及びA2を“1.0”とした時、フェード特性は直線となる。また、操舵トルクTsに応じて指数ゲインA1、A2を可変させることにより、フェード処理の時間、ゲインを制御する。時点t2〜t3のフェード処理においては、指数ゲインA1はトルク徐変に関連し、例えば
図17に示すように、操舵トルクTsの所定値T11まで一定値A12であり、所定値T11以上でかつ所定値T12(>T11)以下において徐々に値A11(<A12)まで減少し、所定値T12より大きい領域で一定値A11となっている。また、指数ゲインA2は舵角指令値徐変に関連し、例えば
図18に示すように、操舵トルクの所定値T21まで一定値A21であり、所定値T21以上でかつ所定値T22(>T21)以下において徐々に値A22(<a2)まで増加し、所定値T22より大きい領域で一定値A22となっている。
【0041】
なお、
図17及び
図18における操舵トルクT11及びT21、操舵トルクT12及びT22は同一値であっても良く、また、減少特性及び増加特性は非線形や関数であっても良い。更に、手感に応じて自由にチューニングできるようにしても良い。
【0042】
舵角指令値徐変部100は、フェードゲイン信号F2に従って、位置/速度制御の徐変後舵角指令値θmを実舵角θrから徐々に舵角指令値θtへ変化させる(ステップS3)。また、トルク徐変部103は、フェードゲイン信号F1に従って、トルクレベルを100%から0%へ徐々に変化させる(ステップS4)。以後、フェード処理の終了(時点t3)となるまで上記動作が繰り返される(ステップS5)。
【0043】
なお、フェード区間(徐変時間)における位置/速度制御の指令値徐変とトルク制御のレベル徐変の順番は、任意である。また、
図16のタイミングチャートでは、操舵トルクTsに応じてフェード処理時間(時点t2〜t3)が可変することは示していない。
【0044】
このようなフェード処理の終了となる時点t3以降、トルク制御から自動操舵(位置/速度制御)へ切替わっていき、自動操舵が継続される(ステップS6)。
【0045】
その後、自動操舵実行判定部120により自動操舵指令がOFFされると(時点t4)、或いは自動操舵中に運転者がハンドルを操舵し、操舵トルクTsがある閾値を超え、自動操舵指令がOFFされると(時点t4)、自動操舵終了となり(ステップS10)、フェード処理が開始される(ステップS11)。
【0046】
この場合にも、特性演算部140で上記数1及び数2に従って、操舵トルクTsに基づいたフェードゲイン信号F1及びF2が演算され、フェードゲイン信号F2は舵角指令値徐変部100に入力され、フェードゲイン信号F1はトルク徐変部103に入力される(ステップS11A)。
【0047】
これにより、舵角指令値徐変部100は、位置/速度制御の徐変後舵角指令値θmを舵角指令値θtから徐々に実舵角θrへ変化させ(ステップS12)、トルク徐変部103はトルクレベルを0%から100%へ徐々に変化させる(ステップS13)。このフェード処理は時点t5まで継続され(ステップS14)、フェード処理終了となる時点t5以降、自動操舵から通常操舵のトルク制御へ切替わる(ステップS15)。
【0048】
この場合のフェード処理においても、上記数1及び数2によってフェードゲイン信号F2及びF1がそれぞれ演算される。つまり、今回のフェード処理では、下記数3及び数4の演算が行われる。
(数3)
F1=A2×FG(z
−1)+FR2
(数4)
F2=A1×FG(z
−1)+FR1
この場合のフェードゲイン信号F1の指数ゲインA2は
図18に示す特性となっており、フェードゲイン信号F2の指数ゲインA1は
図17に示す特性となっている。
【0049】
なお、
図16では、位置/速度制御の舵角指令値フェード特性を指数曲線、トルク制御のトルク徐変を直線(線形)としているが、非線形特性、関数特性であっても良く、更には手感に応じて自由にチューニングできるようにすることもできる。
図16の時点t3〜時点t4の間は自動操舵区間であり、偏差0となっていることを示している。
【0050】
自動操舵実行判定部120の動作例は
図15のフローチャートのようになっており、自動操舵実行判定部120内の演算部121はCAN等から舵角指令値θtcを入力し(ステップS20)、舵角指令値θtcに基づいて角速度ωtc及び角加速度αtcを演算する(ステップS21)。角速度ωtc及び角加速度αtcはマップ判定部122に入力され、車速Vsもマップ判定部122に入力され(ステップS22)、マップ判定部122は先ず車速Vsに対応して、舵角指令値θtcが
図12(A)に示す判定マップ#1の特性値範囲内、つまり
図12(A)の特性線の下側になっているか否かを判定し(ステップS23)、判定マップ#1の特性値範囲内であれば、次に車速Vsに対応して、角速度ωtcが
図12(B)に示す判定マップ#2の特性値範囲内、つまり
図12(B)の特性線の下側になっているか否かを判定する(ステップS24)。そして、判定マップ#2の特性値範囲内であれば、次に車速Vsに対応して、角加速度αtcが
図12(C)に示す判定マップ#3の特性値範囲内、つまり
図12(C)の特性線の下側になっているか否かを判定する(ステップS25)。全ての判定対象が特性範囲内であれば、自動操舵実行判定部120は自動操舵指令をONとし(ステップS31)、舵角指令値θtcを舵角指令値θtとして出力し、舵角指令値徐変部100に入力する(ステップS32)。
【0051】
また、上記ステップS23において、車速Vsに対応して、舵角指令値θtcが
図12(A)に示す判定マップ#1の特性値範囲内にないとき、上記ステップS24において、車速Vsに対応して、角速度ωtcが
図12(B)に示す判定マップ#2の特性値範囲内にないとき、上記ステップS25において、車速Vsに対応して、角加速度αtcが
図12(C)に示す判定マップ#3の特性値範囲内にないときは、診断部123はその範囲外となった回数を所定の回数閾値と比較し、或いはその範囲外となった時間を所定の時間閾値と比較する(ステップS30)。そして、閾値以下の場合には上記ステップS31に移行して自動操舵指令をONとする。また、回数や時間が閾値を超えた場合には、自動操舵指令をOFFとし(ステップS33)、舵角指令値θtを遮断して出力しない(ステップS34)。
【0052】
なお、上記ステップS23〜25の順番は適宜変更可能である。
【0053】
図19に示すように自動操舵指令がONしたとき(時点t10)、フェード処理が開始される。徐変後舵角指令値θmは、実舵角θrから舵角指令値θtへ徐変される。実舵角θrは、徐変後舵角指令値θmに追従するように位置/速度制御されるため、位置/速度制御のトルク指令値を自動的に滑らかに変化させることができ、運転者にとって優しい手感となる。なお、
図19(B)は、位置の偏差分がトルクに現れていることを示している。
【0054】
一方、
図20に示すように、自動操舵からトルク制御に切替わるフェード処理の際(時点t20)、時点t21以降において過大な操舵トルク変動が生じても、徐変後舵角指令値θmを舵角指令値θtから実舵角θrへ徐々に変化させるため、過大な操舵トルク変動を自動的に位置/速度制御が補償する。これによって、運転者がハンドルを取られるようなこともなくなる。即ち、本発明では、
図20(A)に示すように、実舵角θrが徐変後舵角指令値θmに追従するように位置/速度制御されるためピークの発生が遅れ、徐変後舵角指令値θmと実舵角θrの差分に応じて位置/速度制御トルク指令値Tpが発生され、滑らかに収束している。しかしながら、従来の制御では、
図20(A)の破線に示すように、トルクのピークから徐変が始まっているので滑らかに収束していない。また、トルク(加速度)を2回積分した位置θrは、
図20(A)に示す破線のような軌跡となり、ハンドルがより大きく動いてしまう。
【0055】
なお、上述では、トルク制御から位置/速度制御へのフェード処理及び位置/速度制御からトルク制御へのフェード処理の両方で、操舵トルクに基づいてフェードゲイン特性を演算し、フェード処理(時間、ゲイン)を可変しているが、少なくとも位置/速度制御からトルク制御へのフェード処理において実行すれば良い。
【0056】
本発明では更に
図21に示すように、位置/速度制御部101内において、運転者のハンドル手入力が妨げられないように、ハンドルの慣性や摩擦を補償する外乱オブザーバ150を設けている。また、外乱オブザーバ150は、運転者のトルク入力をモータの電流で推定し、手入力を高速度に検出するトルクセンサとしても機能する。
【0057】
図10の位置/速度制御部101は、
図21に示す位置/速度フィードバック制御部170及び外乱オブザーバ150で構成される。つまり、位置/速度制御部101の入力は徐変後舵角指令値θmであり、出力は位置/速度制御トルク指令値Tpであり、状態フィードバック変数は舵角θr及び舵角速度ωrとなる。位置/速度フィードバック制御部170は、徐変後舵角指令値θmと舵角θrの舵角偏差を求める減算部171と、舵角偏差を位置制御する位置制御器172と、位置制御器172からの角速度と舵角速度ωrの速度偏差を求める減算部173と、速度偏差を速度制御する速度制御器174とで構成されており、速度制御器174の出力は外乱オブザーバ150内の減算部154に加算入力されている。また、外乱オブザーバ150は、伝達関数“(J
2・s+B
2)/(τ・s+1)”で表わされる制御対象のステアリングの逆モデル151と、位置/速度制御トルク指令値Tpを入力して帯域制限する伝達関数“1/(τ・s+1)”のローパスフィルタ(LPF)152と、外乱推定トルクTd*を求める減算部153と、減算により位置/速度制御トルク指令値Tpを出力する減算部154とで構成されている。
【0058】
制御対象となるステアリングシステム160は、位置/速度制御トルク指令値Tpに未知の外乱トルクTdを加算する加算部161と、伝達関数“1/(J
1・s+B
1)”で表わされるステアリングシステム162と、ステアリングシステム162からの角速度ωrを積分(1/s)して舵角θrを出力する積分部163とで構成されている。舵角速度ωrは位置/速度フィードバック制御部170にフィードバックされると共に、積分部163に入力され、舵角θrは位置/速度フィードバック制御部170にフィードバックされる。
【0059】
伝達関数のJ
1はステアリングシステム162の慣性、B
1はテアリングシステム162の摩擦、J
2は逆モデル151の慣性、B
2は逆モデル151の摩擦、τは所定の時定数であり、下記数5及び数6の関係を有している。
(数5)
J
1≧J
2
(数6)
B
1≧B
2
外乱オブザーバ150は、ステアリングの逆モデル151とLPF152の出力差から、未知である外乱トルクTdを推定し、推定値として外乱推定トルクTd*を求める。外乱推定トルクTd*は減算部154に減算入力され、減算部154で速度制御器174の出力から減算されることにより、ロバストな位置/速度制御が可能としている。しかしながら、ロバストな位置/速度制御は運転者の介入に対して、ハンドルが止められない等の背反が生じる。これを改善するため、実際のステアリングシステム162が持つ慣性J
1、摩擦B
1以下の小さな慣性J
2と摩擦B
2をステアリングの逆モデル151として入力することにより、運転者が感じるハンドルの慣性や摩擦が見かけ上、小さくなる。これにより、運転者は自動操舵に対して容易に操舵介入が可能となる。
【0060】
また、外乱オブザーバ150の外乱推定トルクTd*をモニタすることにより、トルクセンサの代わりに運転者の操舵トルクを検出することが可能となる。特にトルクセンサがディジタル信号である場合は、通信遅れ等の影響により、運転者の操舵介入の検出が遅れる場合がある。トルクセンサと同様に外乱推定トルクTd*が一定時間、閾値より大きな値を示した場合、操舵介入が行われたと判断して、フェード処理を行うことが可能である。
【0061】
図22(A)及び(B)は外乱オブザーバ150を設けた場合の特性を、位置/速度制御からトルク制御へのフェード処理における角度及びトルクについて示している。運転者は、自動運転による舵角指令値θtの向きに対して反対方向へハンドルを切って、自動操舵OFF(フェード処理開始)となったら手を放す。
図22ではそのときの外乱オブザーバ150の特性について、慣性及び摩擦をJ
1>J
2かつB
1>B
2の場合と、J
1=J
2かつB
1=B
2の場合とを示している。
図22(A)は、外乱オブザーバ150を設けた場合の実舵角θrの変化例を示し、
図22(B)は外乱オブザーバ150を設けた場合の操舵トルクTs及び位置/速度制御トルク指令値Tpの変化例を示している。
【0062】
外乱オブザーバ150を設けることにより、より滑らかな操舵感が得られ、高速度な制御切替が可能となる。また、慣性と摩擦を小さくした方が、操舵介入を容易にできる。
【符号の説明】
【0063】
1 ハンドル(ステアリングホイール)
2 コラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)
10 トルクセンサ
12 車速センサ
20、131 モータ
30 コントロールユニット(ECU)
40 CAN
41 非CAN
50 自動操舵指令装置
51、101 位置/速度制御部
52、120 自動操舵実行判定部
53 トルク制御部
54 トルク指令値徐変切替部
100 舵角指令値徐変部
102 トルク制御部
103 トルク徐変部
130 電流制御系
140 特性演算部
【要約】
【課題】フェード処理に際して、トルク制御の制御トルクと位置/速度制御の指令値を徐変することにより、スムーズかつセルフステアレスで、制御を切替えることが可能な電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵を補助するアシストトルクを車両のステアリングシステムに付与するモータを制御するモータ制御装置とを有する電動パワーステアリング装置において、所定の切替え契機に従って、モータの制御方式を、モータ出力トルクを制御するトルク制御方式と、操舵の舵角を制御する位置/速度制御方式との間で切替える機能を具備し、操舵トルクに感応して、位置/速度制御方式からトルク制御方式への移行又はその逆への移行のフェード処理を可変する。
【選択図】
図10