(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両に搭載された内燃機関のクランクシャフトから回転駆動力の伝達を受けて回転する冷媒圧縮用のコンプレッサ、当該冷媒を通過させるエバポレータ、及び冷媒冷却用のファンを備えるエアコンディショナの制御を司るものであって、
前記エアコンディショナのコンプレッサの作動時に、前記エバポレータの温度が所定値以下である場合において、
車速が所定値以下であれば前記冷媒冷却用のファンを稼働させ、また冷媒圧が所定値を超えて高ければ冷媒冷却用のファンを稼働させる一方、
車速が所定値を超えておりかつ冷媒圧が所定値以下であるならば、冷媒冷却用のファンを停止させる車速の条件を冷媒圧が高まるほど高く設定する制御装置。
【背景技術】
【0002】
一般に自動車では、内燃機関のクランクシャフトから回転駆動力の伝達を受ける発電機であるオルタネータによって発電を行い、その発電した電力をバッテリに充電するとともに、電子制御装置(Electronic Control Unit)、照明灯、エアコンディショナのコンプレッサやラジエタを空冷するファンのモータ、ヒータ、デフォッガ、オーディオ機器、カーナビゲーションシステムといった種々の電気負荷(電装系)に供給している。
【0003】
そして従来、エアコンディショナのコンプレッサを冷却するためのファンを冷却水温、車速、エアコンプレッサ容量により、ファンの回転速度を最適に制御することで、動力の無駄を低減しようとしている技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながらファンの回転速度を調整するためには、駆動電圧を調整するための回路等が別途必要となり、そのために部品点数の増加を招来してしまう。またファンの回転速度を最適なものとするためには別途複雑な制御を要してしまう。さらに回転速度を調整可能に構成されているモータ自体も複雑なものに限られ、そのために製造コストの高騰をも招来してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような不具合に着目したものであり、簡素な構成であっても動力の無駄を有効に削減し得るエアコンディショナの制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0008】
すなわち本発明に係る制御装置は、車両に搭載された内燃機関のクランクシャフトから回転駆動力の伝達を受けて回転する冷媒圧縮用のコンプレッサ、当該冷媒を通過させるエバポレータ、及び冷媒冷却用のファンを備えるエアコンディショナの制御を司るものであって、前記エアコンディショナ
のコンプレッサの作動時に、
前記エバポレータの温度が所定値以下である場合において、車速が所定値以下であれば前記冷媒冷却用のファンを稼働させ、また冷媒圧が所定値を超えて高ければ冷媒冷却用のファンを稼働させる一方、車速が所定値を超えておりかつ冷媒圧が所定値以下であるならば、冷媒冷却用のファンを停止させる車速の条件を冷媒圧が高まるほど高く設定することを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、エアコンディショナ作動時であってもエバポレータ温度及び冷媒圧力の値から冷房能力に余裕がある場合には適宜ファンを停止することで、動力を無駄なく有効に利用することができる。またファンを駆動させる総時間も節約することとなるのでファンの耐久性を有効に向上させることができる。その結果、耐久性を見越したファンの選定により製造コストの低減にも資する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エアコンディショナ作動時であってもエバポレータ温度及び冷媒圧力の値から冷房能力に余裕がある場合には適宜冷媒冷却用のファンを停止することで、動力を無駄なく有効に利用することができる制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。
【0013】
本実施形態における内燃機関は、火花点火式ガソリンエンジンであり、複数の気筒1(
図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子であるイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0014】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0015】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0016】
図2に、本実施形態における発電システムの等価回路を示す。オルタネータ110は、ベルト及びプーリを要素とする巻掛伝動機構等を介して内燃機関のクランクシャフトに接続しており、クランクシャフトの回転に従動して回転し発電する。オルタネータ110は、ステータに巻回されたステータコイル111と、ステータの内側に配置され回転するロータに巻回されたフィールドコイル112とを有する。ステータコイル111は三相コイルであり、三相交流の誘起電流を発電する。この誘起電流は、レクティファイヤ(整流器)113によって直流電流とした上でバッテリ120に蓄電する。
【0017】
オルタネータ110が発電し出力する電圧の大きさは、レギュレータ130を介して制御される。レギュレータ130は、オルタネータ110に付帯するIC式の既知のものであり、オルタネータ110の出力電圧を少なくとも二段階に切り替えることが可能である。
【0018】
オルタネータ110は上記の通り、内燃機関のクランクシャフトから回転駆動力の供給を受けて回転し発電する。そのため、内燃機関から見ればオルタネータ110は機械負荷となる。その機械負荷は、オルタネータ110による発電量が大きいほど大きくなる。
【0019】
本実施形態では内燃機関により駆動される補機として、エアコンディショナを具備している。当該エアコンディショナは、図示はしないが、主に、内燃機関にマグネットクラッチ5を介して駆動連結されて冷媒を圧縮するコンプレッサと、前記コンプレッサにより圧縮された冷媒を冷却し液化させるためのコンデンサと、エンジンルーム内から仕切られる車室内に配され液体状態の冷媒が通過するエバポレータとを有し、ファンモータ6により駆動されるラジエータファンを冷媒冷却用のファンとして用いている周知の構成のものである。冷媒は、前記エバポレータを通過する際に、車室内の熱を奪って気体となり、気体となった冷媒は前記コンプレッサで圧縮される。
【0020】
内燃機関の運転及び補機の制御を司るECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0021】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるクランク角信号(N信号)b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、ブレーキペダルの踏込量を検出するセンサから出力されるブレーキ踏量信号d、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、変速機を作動させる作動油の油温を検出する油温センサから出力される作動油温信号g、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号(G信号)h、バッテリ120の充電状態(バッテリ電圧、バッテリ電流、バッテリ温度)を検出するセンサから出力されるバッテリ信号n、オルタネータ110の出力電圧を検出するセンサから出力される出力電圧信号p、並びに、照明灯、エアコンディショナ、ヒータ、デフォッガ、オーディオ機器、カーナビゲーションシステム等を稼働させることを要望するユーザの手によって操作される操作入力デバイス(操作スイッチ、ボタン、タッチパネル等)から与えられる信号o等が入力される。特に本実施形態では上記の各信号に加え、エアコンディショナをの状態を把握するためにエバポレータに取り付けられた温度センサから出力されるエバポレータ温度信号q、冷媒圧を検知するセンサから出力される冷媒圧信号r等が入力される。
【0022】
出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、レギュレータ130に対して出力電圧指令信号l、並びに、照明灯、エアコンディショナ、ヒータ、オーディオ機器、カーナビゲーションシステム等を稼働させるための制御信号等を出力する。制御信号には、内燃機関のクランクシャフトから冷媒圧縮用のコンプレッサへの回転駆動力の伝達を媒介するマグネットクラッチ5を断接切換するためのクラッチ接続信号m1や、ラジエタを冷却するためのファンモータ6を駆動するファン駆動信号m2の他、照明灯、ファンモータ6、ヒータ、デフォッガ、オーディオ機器、カーナビゲーションシステム等の各々への通電をON/OFFするための信号が含まれる。
【0023】
本実施形態ではエアコンディショナを冷房のために稼働させる際に冷媒圧縮用のコンプレッサを冷却するためのファンを、上述の通りラジエタを冷却するためのラジエータファンと共用してなる。すなわちエアコンディショナによって冷房を行う際、上記制御信号のうちクラッチ接続信号m1が少なくともECU0より出力されるとともに、後述の通り断続的にファン駆動信号m2がECU0より出力される。
【0024】
具体的には
図3に示すように、内燃機関のクランクシャフトとエアコンディショナのコンプレッサとの間を断接切換するグネットクラッチ5に対してクラッチ接続信号m1が出力されると、クラッチ接続信号m1は、マグネットクラッチ5に通電する電気回路を短絡/遮断するリレースイッチ51に入力され、このスイッチを短絡側に駆動する。その結果エアコンディショナがONとなる。同じくファン駆動信号m2が出力されると、ファンモータ6に通電する電気回路を短絡/遮断するリレースイッチ61に入力され、このスイッチを短絡側に駆動する。その結果ラジエータファンがONとなる。
【0025】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、h、n、o、p、q、rを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。また、バッテリ120の充電状態や、エアコンディショナ、照明灯その他の電気負荷の稼働状況を知得するとともに、オルタネータ110において供給するべき発電量を推算する。そして、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、オルタネータ110の出力電圧といった運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能である。ECU0は、運転パラメータ及びユーザの操作に対応した各種制御信号i、j、k、l、m1、m2を出力インタフェースを介して印加する。
【0026】
しかして本実施形態に係る制御装置たるECU0は、マグネットクラッチ5の接続によるエアコンディショナ作動時に、エバポレータの温度及び冷媒圧力が所定値以下であり、且つ車両の速度が所定値以上の場合、前記冷媒冷却用のファンを停止、換言すればファンモータ6への通電を遮断することを特徴とする。
【0027】
図4では、冷媒圧及び車速との関係から冷媒冷却用のファンすなわちラジエータファンの作動/停止すなわちON/OFFを行う境界をグラフとして示している。同図に示すように、車両の速度すなわち車速が低い状態では冷媒圧に拘わらずラジエータファンをONとする。これは、ラジエータファンをOFFとするとコンデンサの放熱量が足りなくなり、燃費が悪化してしまうからである。一方、所定の車速を超えるとラジエータファンをOFFとし、一定の冷媒圧まではラジエータファンをOFFとする車速及び冷媒圧を共に高くしていくよう設定している。これは一定の車速を超えるとコンデンサを走行風により冷やせるからである。ここで、グラフでは一部右肩上がりの傾斜を示すのは、車速が高い程コンデンサの冷却能力が高いからである。そして冷媒圧がさらに高い値を示すようになると、車速に拘わらずラジエータファンをONとする。これによりグラフでは右側に平坦な直線が描かれる。これはエアコンディショナ自体を保護するためである。
【0028】
図5では、ラジエータファンの作動/作動停止を決定するフローチャートである。まず冷却水温が所定温度よりも高い場合(ステップS1)は冷却水を冷却すべくエアコンディショナのON/OFFに拘わらずファンモータ6が作動、すなわちラジエータファンがONとなる(ステップS2)。そして冷却水温が所定温度よりも低い場合(ステップS1)且つマグネットクラッチ5がOFFの場合(ステップS3)は勿論ラジエータファンはOFFとなる(ステップS7)。他方、マグネットクラッチ5がONであり(ステップS3)、エバポレータの温度が低く(ステップS4)、車速が所定値以上で(ステップS5)、さらに冷媒圧が所定値よりも低い場合(ステップS6)のみ、ラジエータファンがOFF(ステップS7)となるようにしている。他方エバポレータ温度(ステップS4)、車速(ステップS5)、冷媒圧(ステップS6)の何れかが上記の条件を満たさないと、ラジエータファンがONとなる(ステップS2)。
【0029】
そして
図6では、本実施形態に係るラジエータファンの制御と、エバポレータ温度の挙動との関係をグラフとして示している。まずラジエータファンをONとした状態でエアコンディショナをONとすると、エバポレータの温度は降下してゆきエアコンディショナカットの指標となる温度以下となる。このとき、エアコンディショナがOFFとなり、ラジエータファンもOFFとする。そうするとエバポレータの温度が徐々に上昇する。そしてエアコンディショナ復帰の指標となる温度となると、エアコンディショナが復帰し、それに伴いエバポレータ温度は少しのタイムラグを経てピークq1まで上昇した後、再び降下を始める。このとき、ラジエータファンはOFFのままとしている。すなわちラジエータファンをOFFとした状態でエアコンディショナはONとしているため、このとき冷媒の余力が徐々に失われる。その結果、エバポレータの温度は再び上昇に転じる。そしてエバポレータの温度が前記ピークq1の値まで上昇すると、冷媒の余力が無いと判断し、ラジエータファンをONとする。このようにラジエータファンがONである状態でエアコンディショナをONとすると、エバポレータ温度は少しのタイムラグを経た後下降を始める。そして再度、エアコンディショナカットの指標となる温度まで下降すると再びラジエータファンをOFFとし、同時にエアコンディショナをOFFとする。
【0030】
このように本実施形態では、冷媒の余力を有効に利用しつつ、ラジエータファンの稼働時間を節約し、ラジエータファンの耐久性の向上に寄与するとともに、ラジエータファン作動に要する電力引いては内燃機関の動力を有効に削減している。
【0031】
以上のような構成とすることにより、本実施形態に係る制御装置たるECU0は、マグネットクラッチ5の接続によるエアコンディショナ作動時であってもエバポレータ温度及び冷媒圧力の値から冷房能力に余裕がある場合には適宜ファンモータ6を停止することで、内燃機関より発生する動力を無駄なく有効に利用することができる。またファンを駆動させる総時間も節約することとなるのでファンの耐久性を有効に向上させることができる。その結果、必要十分な耐久性を見越したファンの選定により製造コストの低減にも寄与し得る。
【0032】
特に本実施形態では、ラジエータファンを再びONとする際の指標となるエバポレータ温度をエアコンディショナの挙動から得られた値として記憶し設定するものとしている。具体的には、エアコンディショナ復帰の指標となる温度からエアコンディショナ作動により再度温度の降下を始める温度に設定している。これにより、冷媒の余力の有効活用とラジエータファンの作動時間の節約とを両立させている。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0034】
例えば、上記実施形態では冷媒冷却用のファンをラジエータファンと共用している態様を開示したが、勿論、別異のファンを用いたものであってもよい。またエアコンディショナの構成要素やオルタネータの具体的な態様は上記実施形態のものに限定されることはなく、既存のものを含め、種々の態様のものを適用することができる。
【0035】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。