特許第6004938号(P6004938)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6004938カロテノイド色素の容器への付着防止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6004938
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】カロテノイド色素の容器への付着防止方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/25 20160101AFI20160929BHJP
   A23L 5/44 20160101ALI20160929BHJP
   A23L 2/58 20060101ALI20160929BHJP
【FI】
   A23L29/25
   A23L5/44
   A23L2/00 M
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-519417(P2012-519417)
(86)(22)【出願日】2011年6月8日
(86)【国際出願番号】JP2011063159
(87)【国際公開番号】WO2011155535
(87)【国際公開日】20111215
【審査請求日】2014年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2010-130740(P2010-130740)
(32)【優先日】2010年6月8日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三内 剛
(72)【発明者】
【氏名】西野 雅之
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/005107(WO,A1)
【文献】 特開2009−219416(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/046333(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/147158(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/25
A23L 2/58
A23L 5/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
AGRICOLA/FSTA/Foodline/FoodsAdlibra(DIALOG)
食品関連文献情報(食ネット)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カロテノイド色素が存在する系にガティガムを添加すること(但し、以下の(1)、および(2)のことにおいてカロテノイド色素が存在する系にガティガムを添加することを除く。
(1)下記の性質(a)を有するデキストリンを含有することを特徴とする、油脂を含まない非乳化、またはノンオイルのマヨネーズ様調味料を製造すること;
(a)下記条件で測定された青価が0.4〜1.2の範囲である:
(a-1)80℃の蒸留水でデキストリン1w/v%水溶液を調製して、これを25℃に冷却する、
(a-2)上記デキストリン1w/v%水溶液(25℃)10mlを、ヨウ素20mgおよびヨウ化カリウム200mgを含む水溶液10mlと混合して、蒸留水で100mlとなるように調整する、
(a-3)上記調製液を遮光した状態で、25℃で30分間振盪した後、25℃条件下で、反応液の680nmにおける吸光度を、分光光度計を用いて測定し、これを青価とする。(2)ガティガムの溶液に加工デンプンを添加し、および当該溶液にカロテノイド色素、油および有機溶媒を含有する有機相を添加して、その後有機溶媒を蒸発させて、カロテノイド色素、及びガティガムを含有するエマルション乾燥物を製造すること。)を特徴とする、液状物におけるカロテノイド色素の容器への付着(但し、リンギングによる付着を除く)を防止する方法。
【請求項2】
カロテノイド色素がα−カロチン、β−カロチン、リコピン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、フコキサンチン、カプサンチン、カプソルビン、アポカロテナール、ビキシン、ノルビキシン、クロセチンのいずれか1種以上である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カロテノイド色素1質量部に対する、ガティガムの添加量が0. 01〜100質量部である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
カロテノイド色素及びガティガムを含有し、且つガティガムの含有量が、カロテノイド色素1質量部に対して、5〜30質量部であることを特徴とする、液状状態で容器への付着(但し、リンギングによる付着を除く)が防止されたカロテノイド色素含有製剤(但し、以下の(1)、及び(2)の製剤を除く。
(1)アラビアガム10重量部に対してガティガムを少なくとも0.5重量部の割合で含有する製剤。
(2)ガティガムの溶液に加工デンプンを添加し、および当該溶液にカロテノイド色素、油および有機溶媒を含有する有機相を添加して、その後有機溶媒を蒸発させて、カロテノイド色素、及びガティガムを含有するエマルション乾燥物を製造する工程を含む方法によって製造された製剤。)。
【請求項5】
カロテノイド色素が、α−カロチン、β−カロチン、リコピン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、フコキサンチン、カプサンチン、カプソルビン、アポカロテナール、ビキシン、ノルビキシン、クロセチンのいずれか1種以上である請求項4記載の、カロテノイド色素含有製剤。
【請求項6】
ガティガムを含有し、且つガティガムの含有量が、カロテノイド色素1質量部に対して、0質量部であることを特徴とする、液状状態で容器への付着(但し、リンギングによる付着を除く)が防止されたカロテノイド色素含有食品(但し、以下の(1)、及び(2)の食品を除く。
(1)下記の性質(a)を有するデキストリンを含有することを特徴とする、油脂を含まない非乳化、またはノンオイルのマヨネーズ様調味料;
(a)下記条件で測定された青価が0.4〜1.2の範囲である:
(a-1)80℃の蒸留水でデキストリン1w/v%水溶液を調製して、これを25℃に冷却する、
(a-2)上記デキストリン1w/v%水溶液(25℃)10mlを、ヨウ素20mgおよびヨウ化カリウム200mgを含む水溶液10mlと混合して、蒸留水で100mlとなるように調整する、
(a-3)上記調製液を遮光した状態で、25℃で30分間振盪した後、25℃条件下で、反応液の680nmにおける吸光度を、分光光度計を用いて測定し、これを青価とする。(2)ガティガムの溶液に加工デンプンを添加し、および当該溶液にカロテノイド色素、油および有機溶媒を含有する有機相を添加して、その後有機溶媒を蒸発させて、カロテノイド色素、及びガティガムを含有するエマルション乾燥物を製造する工程を含む方法によって製造された食品)。
【請求項7】
カロテノイド色素が、α−カロチン、β−カロチン、リコピン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、フコキサンチン、カプサンチン、カプソルビン、アポカロテナール、ビキシン、ノルビキシン、クロセチンのいずれか1種以上である請求項7記載の、カロテノイド色素含有食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロテノイド色素の容器への付着を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品の着色にカロテノイド色素が利用されている。カロテノイド色素は油溶性であり、水溶性原料が多く使われる食品ではそのまま添加せず、界面活性剤を用いて乳化したり、微細な固形分散状態で添加する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、乳化した製剤は熱やpHの影響を受けて乳化が壊れ、油分の浮遊や色調の変化が生じることがある。具体的には、乳化したカロテノイド色素を使用した飲料を調製する場合、飲料の製造工程における加熱殺菌やホット充填、容器充填後の加温(ホット飲料)を行った際に乳化が壊れ、油溶性であるカロテノイド色素が飲料中に溶出して分離層や沈殿を生じ、飲料の商品としての価値を低下させる事態を生じていた。
【0004】
このような問題を解決するために、飲料にカロテノイド色素を添加する際に、熱やpHへの耐性を付与した乳化製剤を調製したり、乳化せずにカロテノイド色素をそのまま微粒子化し、飲料中に分散させるといった方法が開発された。
【0005】
具体的には、油溶性のカロチノイド系色素を微細化した後、水性原料に分散させるか、または水性原料に分散させた後に微細化する赤色着色料(特許文献1)、油溶性のカロチノイド系色素を微細化した後、水性原料に分散させるか、または水性原料に分散させた後に微細化する赤橙色着色料で着色する飲料の製造方法(特許文献2)が開示されている。
【0006】
これらは、いずれもカロテノイド色素を分散させるために乳化剤、増粘安定剤及び乳化安定効果のある食品素材、例えばショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、大豆サポニンなどの乳化剤又は活性剤、アラビアガム、グァーガム、キサンタンガムなどの増粘安定剤、デキストリン、加工澱粉などの澱粉類、カゼイン、ゼラチンなどの蛋白質類および大豆食物繊維などの乳化安定効果を有する食品素材が使用されている。
【0007】
また、カロテノイド色素だけでなく、飲料等の液状食品には果汁やさのう、微細なゼリー、マイクロゲル等が均一に分散されたものが提案されている。これらの液状食品についても、含まれる成分の沈降・浮遊が問題となるため、様々な界面活性剤、乳化剤やゲル化剤を添加し、固形成分を溶媒中に均一に分散させ、微細化する方法がとられている。
【0008】
例えば、不溶性固形物を含む液状食品において、寒天を0.001〜0.5重量%添加する方法(特許文献3)、カロテノイド色素と大豆抽出繊維を有効成分とする分散安定剤とを含有する水分散性カロテノイド色素製剤(特許文献4)、プロピレングリコールとアラビアガムと含む微細化固形物分散製剤(特許文献5)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−90188号公報
【特許文献2】特開平9−84566号公報
【特許文献3】特開平7−123934号公報
【特許文献4】特開平11−60980号公報
【特許文献5】特開2004−267041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、従来、カロテノイド色素を含む飲料等の液状食品を製造する際に、製造用のタンクや配管といった製造設備にカロテノイド色素が付着する、或いは、ペットボトル等の容器に充填し販売され、飲み終わった後に容器を見ると、容器内部にカロテノイド色素が付着していることがあった。製造設備への付着は、その後の洗浄に手数がかかるため産業上好ましくなく、またペットボトルなどの容器への付着は外観上好ましいものではなく、さらにカロテノイド色素の摂取量の減少といった問題を生じていた。
【0011】
本発明は、液状物におけるカロテノイド色素の容器への付着防止方法等を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記カロテノイド色素の分散安定化に関する研究を重ねていたところ、意外なことにカロテノイド色素の分散安定化剤としてガティガムを使用した際に、カロテノイド色素の容器への付着が顕著に抑制されていることを見出した。
【0013】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、以下の態様を有するカロテノイド色素の容器への付着を防止する方法に関する。
項1:
カロテノイド色素が存在する系にガティガムを添加することを特徴とする、液状物におけるカロテノイド色素の容器への付着防止方法。
項2:
カロテノイド色素がα−カロチン、β−カロチン、リコピン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、フコキサンチン、カプサンチン、カプソルビン、アポカロテナール、ビキシン、ノルビキシン、クロセチンのいずれか1種以上である項1記載のカロテノイド色素の容器への付着防止方法。
項3:
カロテノイド色素1質量部に対する、ガティガムの添加量が0.0 1〜100質量部である項1又は2に記載の、カロテノイド色素の容器への付着防止方法。
項4:
カロテノイド色素及びガティガムを含有することを特徴とする、液状状態で容器への付着が防止されたカロテノイド色素含有製剤。
項5:
カロテノイド色素が、α−カロチン、β−カロチン、リコピン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、フコキサンチン、カプサンチン、カプソルビン、アポカロテナール、ビキシン、ノルビキシン、クロセチンのいずれか1種以上である項4記載の、カロテノイド色素含有製剤。
項6:
ガティガムの含有量が、カロテノイド色素1質量部に対して、0.01〜100質量部である項4又は5に記載の、カロテノイド色素含有製剤。
項7:
ガティガムを含有することを特徴とする、液状状態で容器への付着が防止されたカロテノイド色素含有食品。
項8:
カロテノイド色素が、α−カロチン、β−カロチン、リコピン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、フコキサンチン、カプサンチン、カプソルビン、アポカロテナール、ビキシン、ノルビキシン、クロセチンのいずれか1種以上である項7記載の、容器への付着が防止されたカロテノイド色素含有食品。
項9:
ガティガムの含有量が、カロテノイド色素1質量部に対して0.01〜100質量部である項7又は8に記載の、容器への付着が防止されたカロテノイド色素含有食品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、カロテノイド色素を飲料や調味液等の液状食品へ添加する際に生じる、タンクや配管などの製造設備や飲料用容器への付着を防止することができる。即ち、本発明によれば、例えばカロテノイド色素を含有する飲料において、容器へ付着するカロテノイド色素量を減じることにより、摂取できる量を増加させることができる。また、当該飲料の製造ラインにおいてもカロテノイド色素の付着防止効果が見込めるため、歩留まり向上だけでなく、設備洗浄の負担軽減にも有用である。さらには、ペットボトルのような透明容器に充填した場合、容器内面への付着が生じないので、製品の見栄えが向上する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のカロテノイド色素の付着防止方法は、カロテノイド色素が存在する系に、ガティガムを添加することを特徴とする。
【0016】
本発明で用いられるカロテノイド色素としては、α−カロチン、β−カロチン、リコピン(トマト色素)、アスタキサンチン(ヘマトコッカス藻色素)、カンタキサンチン、ルテイン(マリーゴールド色素)、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、フコキサンチン、カプサンチン(パプリカ色素)、カプソルビン、アポカロテナール、ビキシン、ノルビキシン、クロセチン等が挙げられる。本発明で用いられるカロテノイド色素は、天然品、合成品及び半合成品のいずれであってもよい。カロテノイド色素は、単独で、又は複数を組み合わせて使用することができる。カロテノイド色素は、カロテノイド色素以外の固形色素成分であるカルミン、クルクミン等と併用することも出来る。
【0017】
本発明で用いられるカロテノイド色素の形態は、特に限定されず、例えば、常法により乳化物であってもよく、固形状態のカロテノイド色素を微細化して得た粉末であってもよい。微細化後のカロテノイド色素の粒子径は、0.01〜2μm程度が好ましい。
【0018】
カロテノイド色素の添加量は、製造する液状食品に応じて適宜調整すればよく、また、添加する目的に応じて増減可能である。カロテノイド色素の純度にもよるが、具体的には、飲料の着色目的であれば0.00001〜1質量部、好ましくは0.0001〜0.3質量部程度が例示できる。
【0019】
本発明で用いるガティガムは、シクンシ科ガティノキ(Anogeissus Latifolia WALL.)の幹の分泌液を乾燥して得られる多糖類を主成分とするものであり、増粘安定剤(食品添加物)として公知のガム質である。本発明で使用するガティガムは商業的に入手可能であり、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のガティガムRDを挙げることができる。
【0020】
本発明におけるガティガムの量は、カロテノイド色素の濃度(または、純度、純品としての量)に応じて適宜調節することができる。ガティガムの量としては、例えば、純品としてのカロテノイド色素1質量部に対して0.01〜100質量部が好ましく、0.1〜50質量部がより好ましく、5〜30質量部が更に好ましい。ガティガムの量が0.01質量部以下になると、十分な付着防止効果が得られない。一方、ガティガムの量が100質量部であれば付着防止効果は十分に発揮されており、この量を超えても、同効果の更なる向上は見られない。
【0021】
また、本発明におけるカロテノイド色素含有製剤におけるガティガムの含量は、製剤全体に対して、1〜50質量%、好ましくは1〜35質量%さらに好ましくは1〜20質量%である。
【0022】
カロテノイド色素が存在する系にガティガムを添加する方法としては、例えば、まず、カロテノイド色素及びガティガムを含有するカロテノイド色素含有製剤を調製し、当該カロテノイド色素含有製剤をカロテノイド色素が存在する系に添加する方法が挙げられる。
【0023】
カロテノイド色素含有製剤を調製する方法としては、例えば、ガティガムを予め溶媒に溶解させてガティガム溶液を調製し、ガティガム溶液を当該粉末のカロテノイド色素と混合する方法が好ましい。ガティガムを溶解させる溶媒としては、生体に用いられる溶媒(例えば、食品製造、医薬品製造、または化粧品製造で用いられる溶媒)であってカロテノイド色素が溶解しない溶媒であれば特に限定されないが、例えば水などを挙げることができる。
【0024】
この場合のカロテノイド色素の形態もまた、特に限定されず、常法により溶解し乳化製剤としたものを使用してもよく、水性溶媒を分散媒として含む溶液中で固形状態のカロテノイド色素を微細化したものを使用してもよく、或いは予め微細化したカロテノイド色素を分散媒に添加したものを用いてもよい。前記分散媒としては水(イオン交換水)、プロピレングリコール、グリセリン、エタノール等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。また、固形状態のカロテノイド色素の微細化には、従来公知の粉砕器、乳化器を利用すればよく、結果として、微細化後の粒子径が0.01〜2μm程度になるものが好ましい。
【0025】
カロテノイドが存在する系としては、カロテノイド色素をその原料として含み、最終として、又は製造段階で(すなわち、中間製品として)液状状態(例、水溶液、懸濁液等の液状物)であるものであれば特に限定されず、例えばカロテノイド色素をその原料(例、食品添加物、添加剤)として含む各種の液状の食品、栄養補助食品、医薬品、医薬部外品、化粧品(着色製品)が挙げられる。
【0026】
液状の食品(液状食品)の例として、具体的には、果汁飲料、野菜飲料、炭酸飲料等の飲料類;キムチ用調味液、漬物用調味液、焼き肉のタレ、ハム・ソーセージ等の畜肉加工品用調味液、米菓用調味液等の調味液;その他ゼリー、シロップ、塩辛、中華まんの皮または具等の食品、或いは液剤、シロップ剤、液状で混合し粉末化して得られる顆粒剤や散剤などの医薬品;化粧水、クリーム、乳液などの化粧料が例示できる。好ましくは飲料、調味液である。
【0027】
なお、本発明の効果を奏する限りにおいて、カロテノイド色素とガティガムに加え、製品の種類に応じて慣用の添加剤等を用いることができる。例えば、液状食品の場合、増粘多糖類、香料、色素、酸化防止剤、日持ち向上剤、保存料、糖類等の添加物の他、果汁やさのう、微細化したゼリーやマイクロゲル等を併用することができる。これらを併用することによりカロテノイド色素を含む液状食品の味質や香り、テクスチャーに変化を与えることができ、より嗜好性の高い液状食品を調製することができる。
【0028】
カロテノイド色素が存在する系にガティガムを添加する方法は、上記液状食品等の調製において、ガティガム、カロテノイド色素を製造原料として配合するだけでよく、特別な装置も条件も必要としないので、産業上も有益である。
【0029】
本発明により、飲料や調味液といった液状食品の製造時におけるカロテノイド色素のタンクや配管等の製造装置への付着が抑制され、歩留まり向上、製造装置の洗浄負担の軽減、さらにはペットボトル等容器へ充填後も容器内面に付着が生じないので、見栄えの良い飲料等を提供できることとなる。
【0030】
ここで、カロテノイド色素の付着が防止される対象物として、飲食品の最終形態として用いられる容器の他、カロテノイド色素を含有する先述の飲食品等を製造する際に用いる設備全般が対象と成りうる。具体的には、混合用の容器やタンク、配管パイプ、攪拌層や攪拌機(プロペラ等)、計量用の容器、殺菌機器、充填用機具のノズルなど多岐にわたる。これらの対象物の素材は、ガラス、ステンレス、スチール、アルミ、プラスチック(PET、PE、PP)のいずれでもよく、飲料用容器として利用される紙パックにおいても付着防止効果を享受することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、処方中、特に記載がない限り単位は「質量%」とする。
【0032】
下記の処方に基づき、本発明にかかるカロテノイド色素含有製剤を調製した(実施例1〜7)。処方中、実施例に用いたガティガム、並びに比較例に用いた界面活性剤、アラビアガム、加工澱粉、ゼラチン、ジェランガムを「付着防止剤」と称する。添加量などの詳細については、表1に示す。
【0033】
<カロテノイド色素含有製剤の調製>
・リコピン
調製方法1
結晶のリコピン25gをエタノール225gに添加混合し、湿式摩砕機ダイノミル(WAB社製ダイノミル)を用い2時間粉砕しリコピン結晶粉砕物を調製した。
【0034】
調製方法2
下記表1に従い、水にガティガムRD(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を配合して90℃に過熱溶解後冷却したものにリコピン結晶粉砕物を添加し、高圧ホモジナイザーにて圧力350kg/cmで分散均一化処理して、カロテノイド色素含有製剤を調製した。カロテノイド色素含有製剤の粒度分布をレーザー解析式粒度分布計(SALD−2100 島津製作所社製)にて測定した。
【0035】
【表1】
【0036】
比較例1:
着色料製剤「リコピンベースNO.34824(三栄源エフ・エフ・アイ社製)」(リコピン結晶をアラビアガムで分散した製剤。リコピン含有量1質量%)
【0037】
比較例2:
着色料製剤「リコピンベースNO.35153(三栄源エフ・エフ・アイ社製)」(リコピン結晶をグリセリン脂肪酸エステルで分散した製剤。リコピン含有量2.5質量%)
【0038】
比較例3:
上述のリコピン結晶粉砕物100gを水700gに加工澱粉(NSC社製、ピュリティBE)200gを配合して溶解したものに添加し、高圧ホモジナイザーにて圧力350kg/cmで分散均一化処理して、比較例3の製剤を調製した。比較例3の製剤の粒度分布をレーザー解析式粒度分布計(SALD−2100 島津製作所社製)にて測定したところ0.50μmであった。リコピン含量は1質量%であった。
【0039】
比較例4:
上述のリコピン結晶粉砕物50gを水900gにゼラチン(ゼライス株式会社、ゼラチンF−3578)50gを配合して溶解したものに添加し、高圧ホモジナイザーにて圧力350kg/cmで分散均一化処理して、比較例4の製剤を調製した。比較例4の製剤の粒度分布をレーザー解析式粒度分布計(SALD−2100 島津製作所社製)にて測定したところ0.55μmであった。リコピン含量は0.5質量%であった。
【0040】
比較例5:
上述のリコピン結晶粉砕物10gを水988gにジェランガム(CP KELCO社製、ケルコゲルLT−100)2gを配合して溶解したものに添加し、高圧ホモジナイザーにて圧力350kg/cmで分散均一化処理して、比較例5の製剤を調製した。比較例5の製剤の粒度分布をレーザー解析式粒度分布計(SALD−2100 島津製作所社製)にて測定したところ0.65μmであった。リコピン含量は0.1質量%であった。
【0041】
・β−カロチン
実施例8:
結晶のβ−カロチン25gをプロピレングリコール225gに添加混合し、湿式摩砕機ダイノミル(WAB社製ダイノミル)を用い1時間粉砕し、カロチン結晶粉砕物を調製した。水750gにガティガムRD(三栄源エフ・エフ・アイ社製)150gを配合して90℃に過熱溶解後冷却したものにカロチン結晶粉砕物100g、を添加し、高圧ホモジナイザーにて圧力350kg/cmで分散均一化処理して、実施例8の製剤を調製した。得られた実施例8の製剤の粒度分布を、レーザー解析式粒度分布計(SALD−2100 島津製作所社製)にて測定したところ0.45μmであった。β−カロチン含量は1質量%であった。
【0042】
比較例6:
水740gにアラビアガム250gを配合して溶解した。ここにβ-カロチン結晶10gを添加混合し、湿式摩砕機ダイノミル(WAB社製ダイノミル)を用い1時間粉砕し、比較例6の製剤を調製した。比較例6の製剤の粒度分布をレーザー解析式粒度分布計(SALD−2100 島津製作所社製)にて測定したところ0.48μmであった。β−カロチン含量は1質量%であった。
【0043】
・アスタキサンチン
実施例9:
水700gにガティガムRD(三栄源エフ・エフ・アイ社製)150gを配合して90℃に過熱溶解後冷却したものにヘマトコッカス藻色素(アスタキサンチン含量10質量%)50g、中鎖トリグリセライド100gを混合したものを添加し、撹拌機にて5000rpmで5分間混合した。この液を高圧ホモジナイザーにて圧力350kg/cmで3回乳化し、乳化組成物(実施例9)を調製した。この実施例9の製剤の粒度分布をレーザー回折式粒度分布測定装置マイクロトラックMT−3000II(MicrotoracINC.製)にて測定したところ、0.55μmであった。またアスタキンサンチン含量は0.5質量%であった。
【0044】
比較例7:
水650gにアラビアガム(三栄源エフ・エフ・アイ社製、スーパーガムEM2)200gを配合して90℃に過熱溶解後冷却したものにヘマトコッカス藻色素(アスタキサンチン含量10質量%)50g、中鎖トリグリセライド100gを混合したものを添加し、撹拌機にて5000rpmで5分間混合した。この液を高圧ホモジナイザーにて圧力350kg/cmで3回乳化し、乳化組成物(比較例7)を調製した。この比較例7の製剤の粒度分布をレーザー回折式粒度分布測定装置マイクロトラックMT-3000II(Microtorac INC.製)にて測定したところ、0.53μmであった。アスタキサンチン含量は0.5質量%であった。
【0045】
比較例8:
水650gにデカグリセリンオレイン酸エステル150gを配合して90℃に過熱溶解後冷却したものにヘマトコッカス藻色素(アスタキサンチン含量10質量%)50g、中鎖トリグリセライド100gを混合したものを添加し、撹拌機にて5000rpmで5分間混合した。この液を高圧ホモジナイザーにて圧力350kg/cmで3回乳化し、乳化組成物(比較例8)を調製した。この比較例8の粒度分布をレーザー回折式粒度分布測定装置マイクロトラックMT-3000II(Microtorac INC.製)にて測定したところ、0.15μmであった。アスタキサンチン含量は0.5質量%であった。
【0046】
<飲料の調製方法>
先に調製した実施例1〜9および比較例1〜8のカロテノイド色素含有製剤を、カロテノイド含量が0.1質量%となるように希釈し、下記の組成の飲料を調製した。
【0047】
(組成)
果糖ブドウ糖液糖(Brix75) 13.3(g)
クエン酸(無水) 0.2
クエン酸三ナトリウム 0.08
ビタミンC 0.02
カロテノイド色素含有製剤 1.15
イオン交換水 85.25
合計 100
【0048】
イオン交換水にクエン酸(無水)、クエン酸三ナトリウム、ビタミンCを加え、撹拌溶解し、果糖ブドウ糖液糖、カロテノイド色素含有製剤を添加した。93℃達温にて殺菌し、500mlペットボトルに500gホットパック充填した。
【0049】
<評価方法>
実際の飲料が製造され市場に流通する状況を想定し、次の条件による試験を行ってカロテノイド色素の付着の程度を測定した。
(1)振とう試験:調製した飲料を縦置き、140ストローク、12時間振とうした。
(2)輸送試験:調製した飲料をトラック輸送にて大阪−東京間を往復した。
(3)通気試験:3Lステンレスジョッキに2L飲料を充填し、93℃達温後87℃まで温度を下げ、通気量1.8L/Min、1時間通気した。
【0050】
<付着量測定>
上記試験を経た各飲料を容器から排出し、水20mlですすぎ洗いをした後、60℃にて乾燥した。ヘキサンを添加しながら付着したカロテノイド色素を溶解し、硫酸ナトリウムを加えて脱水後、綿栓ろ過し、エバポレーターにて濃縮した。
【0051】
<リコピンの測定>
得られた濃縮物をヘキサンにて10mlにメスアップした液を、ヘキサンを対照として、470nm付近の極大吸収波長における吸光度を測定し、次式によりリコピンの付着量を算出した(リコピン吸光係数(1%、1cm)=3450)。その結果を表2に示す。
【0052】
リコピン付着量(μg/1本)=(吸光度A×104×メスアップ量(ml)/3450)
【0053】
<β−カロチンの測定>
得られた濃縮物をシクロヘキサンにて10mlにメスアップした液を、シクロヘキサンを対照として、450nm付近の極大吸収波長における吸光度を測定し、次式によりβ−カロチンの付着量を算出した(β−カロチン吸光係数(1%、1cm)=2500)。その結果を表2に示す。
【0054】
β−カロチン付着量(μg/1本)=(吸光度A×104×メスアップ量(ml)/2500)
【0055】
<アスタキサンチンの測定>
得られた濃縮物をアセトンにて10mlにメスアップした液を、478nm付近の極大吸収波長における吸光度を測定し、次式によりアスタキサンチン付着量を算出した(アスタキサンチン吸光係数(1%、1cm)=2100)。その結果を表2に示す。
【0056】
アスタキサンチン付着量(μg/1本)=(吸光度A×104×メスアップ量(ml)/2100)
【0057】
【表2】
【0058】
<結果>
上記処方及び調製方法に基づき飲料を調製したところ、表2に示すように、ガティガムを付着防止剤として使用したもの(実施例1〜4)は、比較例1〜8に比べ付着量が明らかに低い結果が得られた。視覚的にも、調製時に使用したステンレスジョッキや、ペットボトルまたはステンレスジョッキへ充填した際にカロテノイド色素が付着することもなかったが、一般的な界面活性剤(比較例2、8)、多糖類(比較例1、3〜7)を使用して調製した飲料では、容易に視認できる程度に付着が発生していた。
【0059】
一般に、比較例2や8で使用した界面活性剤(グリセリン脂肪酸エステル等)は、乳化剤として飲料等で広く利用されているものであり、乳化力や乳化安定性に優れていることが知られている。同様に、比較例1のアラビアガムや加工澱粉、ゼラチン、ジェランガムは、乳化や増粘目的で使用されているが、これらは本発明の目的とする容器へのカロテノイド色素の付着を抑制するという観点においては、全くその効果が得られていなかった。このことから、乳化力や乳化安定性に優れているということと、容器への付着防止効果があることは相関関係になく、示唆すらされるものではないことが示された。
【0060】
<容器への充填試験>
先に調製したカロテノイド色素含有製剤の比較例1および実施例4を、10質量%濃度になるよう水にて希釈し下記の通り試験液を調製した。
【0061】
果糖ブドウ糖液糖 13.3(g)
クエン酸(無水) 0.2
クエン酸三ナトリウム 0.08
ビタミンC 0.02
10質量%カロテノイド色素含有製剤 1.15
イオン交換水 85.25
合計 100
【0062】
上記試験液を10kg調製しUHT殺菌機を用いて120℃ 30秒間殺菌し、2Lペットボトル、ステンレスジョッキ2L、1L紙パック、2Lビーカーに移した。25℃以下に冷却し、試験液を容器から排出し、前述の付着量測定方法に基づき色素の付着量を測定した。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3より、本願発明に係る飲料においてのみ、容器の素材に影響を受けず色素の付着が顕著に抑えられていることが明らかとなった。比較例1を充填したペットボトル容器の写真を図1に、実施例4を充填したペットボトル容器の写真を図2に示す。
【0065】
以下に、本発明にかかる液状食品の例をあげるが、本発明はこれらの限定されるものではない。
【0066】
実施例10 調味液の調製
カロテノイド色素含有製剤
調製方法:パプリカ色素(パプリカオレオレジンNO.44489(三栄源エフ・エフ・アイ社製)300gを、水550gにガティガム(ガティガムRD(三栄源エフ・エフ・アイ社製)150gを配合して溶解したものに添加混合し、高圧ホモジナイザーにて圧力350kg/cmで乳化処理してカロテノイド色素含有製剤を調製した。カロテノイド色素含有製剤の粒度分布をレーザー回折式粒度分布測定装置マイクロトラックMT-3000II(Microtorac INC.製)にて測定したところ0.85μmであった。色濃度は30000CVであった。
【0067】
比較例9
着色料製剤「パプリカベースNO.34007(三栄源エフ・エフ・アイ社製)」(パプリカ色素をグリセリン脂肪酸エステルで乳化した製剤。30000CV)
【0068】
調味液方法:
濃口醤油 55
加工澱粉(スタビローズK 松谷化学社製) 6
水 38.3
カロテノイド色素含有製剤 0.7
合計 100
【0069】
濃口醤油と水に加工澱粉(スタビローズK)を90℃に加熱し、次いで60℃に冷却後カロテノイド色素含有製剤を添加し、200mlペットボトルに充填した。
【0070】
6時間静置後調味液を排出し、ペットボトルを水50mlにて軽くすすぎ洗浄した後、付着した色素をアセトンにて回収し、アセトンを対照として、458nm付近の極大吸収波長における吸光度Aから色濃度を算出した。
【0071】
結果を表4に、調味液を取り出した後のペットボトルの様子を図3に示す。
【0072】
【表4】
表4の結果より、実施例10におけるパプリカ色素の付着が顕著に抑制されていた。これは図3の写真からも明らかである。
実施例11 焼き肉のタレ
A:水 62
グアーガム 0.3
B:濃口醤油 15
クッキングワイン 5
ジンジャーペースト 1
ガーリックペースト 1.5
トマトペースト 9
オニオンエキス 3
アミノ酸系調味料 2.5
スクラロース 0.008
カロテノイド色素含有製剤(実施例10) 0.05
【0073】
Aの各成分を混合して80℃で10分間加熱した。そこにBの全成分を添加して80℃で5分間加熱後、全量を水にて100部に調製した。透明ビン容器に充填し、90℃で30分間殺菌して焼き肉のタレを調製した。中身を排出し水洗いすると、色素の付着が抑制されていた。
【0074】
実施例12 キムチ調味液
調味料(アミシン淡口 株式会社新進社製) 12 (g)
果糖ブドウ糖液糖 12
醸造酢(酸度10%) 2.8
トウガラシ粉末(株式会社ケー・アイ・エス社製) 2.2
L−グルタミン酸ナトリウム 5.5
食塩 3.5
キサンタンガム製剤(サンエース 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
0.3
カロテノイド色素含有製剤(実施例10) 0.6
水にて合計 100
【0075】
白菜を下準備として外側の枯れ葉を除き、1cm程度の大きさに裁断し、水洗いして半切りし、食塩6重量%の水溶液に1晩漬けておいたものに、上記キムチ調味液を添加後、透明ポリ容器に充填、密閉し、冷蔵にて10日間漬け込んだ。このポリ容器を開封し、中身を排出し水洗いすると、色素の付着が抑制されていた。
【図面の簡単な説明】
【0076】
図1】比較例1を充填し、内容物を排出した後のペットボトル
図2】実施例4を充填し、内容物を排出した後のペットボトル
図3】左からブランク容器、実施例10を充填した容器、比較例9を充填した容器
図1
図2
図3