(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加工機の周囲であって該加工機の加工軸に直交する平面上に4つ以上配置されると共に、各々の測定軸と前記加工軸とが交差し、加工物の加工面までの距離を測定する距離測定手段と、
各前記距離測定手段による測定値及び各前記距離測定手段の前記加工軸に対する角度に基づいて前記加工面の近似面を算出し、該近似面の法線を前記加工面の法線として求める演算手段と、
を備え、
前記演算手段は、前記近似面と前記距離測定手段との距離が所定範囲から外れる前記距離測定手段による前記測定値を、前記近似面の算出に適さない前記測定値と判定する法線検出装置。
前記加工軸に対する角度は、前記距離測定手段の測定軸と前記加工軸との交差角度、前記平面を構成する所定軸を基準とした前記距離測定手段までの方位角度である請求項1から請求項3の何れか1項記載の法線検出装置。
前記加工軸の軸線を前記加工面の法線に倣わせた後に、前記加工機の先端を前記加工物に対する加工点に接触させた状態で、前記距離測定手段によって距離の測定を行い、前記近似面の算出に適さない前記測定値を除外した前記距離測定手段の測定値のばらつきが予め定められた許容範囲内に含まれている場合に、前記加工機による加工を行う請求項5記載の加工装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の方法は、距離センサーを回転させるための機構や回転中心近辺に距離センサーを配置する必要があり、加工機を配置するためのスペースを確保できないという問題がある。また、特許文献2に記載の方法を加工機に適用したとしても、検出した法線へ加工機の加工軸の軸線を位置合わせするために十分な制御情報を得ることができないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、加工面に凹凸があっても加工面の法線方向を検出でき、かつ加工機を設置するためのスペースを確保し、加工軸の軸線を加工面の法線に倣わせることができる、法線検出装置、加工装置、及び法線検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の法線検出装置、加工装置、及び法線検出方法は以下の手段を採用する。
【0009】
本発明の第一態様に係る法線検出装置、加工機の周囲であって該加工機の加工軸に直交する平面上に4つ以上配置されると共に、各々の測定軸と前記加工軸とが交差し、加工物の加工面までの距離を測定する距離測定手段と、各前記距離測定手段による測定値及び各前記距離測定手段の前記加工軸に対する角度に基づいて前記加工面の近似面を算出し、該近似面の法線を前記加工面の法線として求める演算手段と、を備える。
【0010】
本構成に係る法線検出装置は、加工機の周囲に4つ以上の距離測定手段が配置される。各距離測定手段は、加工機の加工軸に直交する平面上に4つ以上配置されると共に、各々の測定軸と加工軸とが交差して配置される。なお、加工軸は例えばz軸に平行な軸であり、上記平面を構成する軸はx軸及びy軸である。
【0011】
そして、演算手段は、各距離測定手段による測定値及び各距離測定手段の加工軸に対する角度に基づいて加工面の近似面を算出する。加工軸に対する角度とは、例えば距離測定手段の測定軸と加工軸との交差角度、加工軸に直交する平面上における距離測定手段の配置角度である。配置角度は、詳述すると、該平面上の所定軸(例えばx軸)を基準とした距離測定手段までの方位角度である。
【0012】
これにより、少なくとも距離測定手段による3点の測定値があれば、演算手段は、正確に加工面の近似面を求めることができる。そして、近似面の法線が加工面の法線とされる。
【0013】
また、3点の測定値があれば加工面の近似面を算出できるが、本構成は4つ以上の距離測定手段を備える。このため、加工面に段差又は突起等の凹凸があり、近似面の算出に適しない凹凸までの距離を測定した距離測定手段があったとしても、4つ以上の距離測定手段を備える本構成は、その測定値を除外して近似面を算出できる。
さらに、4つ以上の距離測定手段は、加工機の周囲に配置されるので、加工機を設置するためのスペースを確保し、加工軸の軸線を法線に倣わせることができる。
【0014】
以上のように、本構成は、加工面に凹凸があっても加工面の法線方向を検出でき、かつ加工機を設置するためのスペースを確保し、加工軸の軸線を加工面の法線に倣わせることができる。
【0015】
上記第一態様では、前記演算手段が、前記近似面と前記距離測定手段との距離が所定範囲から外れる前記距離測定手段による前記測定値を、前記近似面の算出に適さない前記測定値と判定することが好ましい。
【0016】
本構成は、簡易に近似面の算出に適さない測定値を判定できる。
【0017】
上記第一態様では、前記所定範囲が、前記加工物の曲率が大きいほど大きく設定されることが好ましい。
【0018】
本構成は、近似面の算出に適さない測定値の誤判定を抑制できるので、近似面をより精度高く算出できる。
【0019】
上記第一態様では、前記演算手段が、前記近似面の算出に適さない前記測定値を除外して再び近似面を求めることが好ましい。
【0020】
本構成は、加工面の凹凸の影響のないより正確な近似面を算出できる。
【0021】
上記第一態様では、前記加工軸に対する角度が、前記距離測定手段の測定軸と前記加工軸との交差角度、前記平面を構成する所定軸を基準とした前記距離測定手段までの方位角度であることが好ましい。
【0022】
本構成は、近似面を簡易に精度高く算出できる。
【0023】
本発明の第二態様に係る加工装置は、加工物を加工する加工機と、上記記載の法線検出装置と、を備え、前記法線検出装置によって検出された法線に前記加工機の加工軸が倣うように、前記加工機と前記加工物とを相対的に移動させる。
【0024】
上記第二態様では、前記加工軸の軸線を前記加工面の法線に倣わせた後に、前記加工機の先端を前記加工物に対する加工点に接触させた状態で、前記距離測定手段によって距離の測定を行い、前記近似面の算出に適さない前記測定値を除外した前記距離測定手段の測定値のばらつきが予め定められた許容範囲内に含まれている場合に、前記加工機による加工を行うことが好ましい。
【0025】
本構成は、より精度の高い加工が可能となる。
【0026】
本発明の第三態様に係る法線検出方法は、加工機の周囲であって該加工機の軸線に直交する平面上に4つ以上配置されると共に、各々の測定軸と前記加工軸とが交差し、加工物の加工面までの距離を測定する第1工程と、各前記距離測定手段による測定値及び各前記距離測定手段の前記加工軸に対する角度に基づいて前記加工面の近似面を算出し、該近似面の法線を前記加工面の法線として求める第2工程と、を含む。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、加工面に凹凸があっても加工面の法線方向を検出でき、かつ加工機を設置するためのスペースを確保し、加工軸の軸線を加工面の法線に倣わせることができる、という優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0030】
図1は、本実施形態に係る加工装置1の斜視図である。この加工装置1は、例えば航空機の翼や胴体等を形成する湾曲した板材状の加工物2にドリルで穴開けを施すものであるが、穴開けに限らず、研削やリベットの打鋲といった他種の加工や、これらの加工の後の検査等に適用してもよい。
図2は、加工装置1の側面図である。
図2(A)は治具枠3と加工機支持体5とが分離した状態を示し、
図2(B)は治具枠3と加工機支持体5とが連結された状態を示す。
【0031】
図1及び
図2(A),(B)に示されるように、加工装置1は、加工物2を固定するための治具枠3と、ドリルユニット4を支持する加工機支持体5とを備えている。また、治具枠3と加工機支持体5とを切り離し可能に連結する連結部6を備えている。加工物2は、単曲面(シングルコンター)であっても、複合曲面(ダブルコンター)であってもよい。
【0032】
治具枠3は、例えば角パイプなどから構成されており、平面視でH字形状をなす脚部3aと、この脚部3aの中央部から鉛直に起立する枠体3bとを備えている。脚部3aには例えば6つのキャスター輪7が設けられていて、これにより治具枠3全体が、加工装置1の設置される工場フロア等の設置面10上を自由に移動可能である。なお、説明の便宜上、治具枠3の幅方向をx軸方向、鉛直方向をy軸方向、そしてx軸方向に直交する水平方向をz軸方向と呼ぶ。また、x軸方向回りの動方向をA方向、y軸回りの動方向をB方向と呼ぶ。
【0033】
治具枠3の枠体3bは、加工物2を囲むようなサイズであり、加工物2は図示しないロケーター(保持具)を介して、その湾曲面がz軸方向を向き、且つその湾曲の弦がy軸方向に沿う姿勢で枠体3bに据え付けられている。なお、治具枠3による加工物2の支持形態や加工物2の面方向は、この例のみに限定されない。なお、実際には、枠体3b同士の間隔は
図1に描かれているより広いスパンとなっている。
【0034】
一方、加工機支持体5は、治具枠3と同様にキャスター輪12によって設置面10上を自由に移動可能な台座部13の上に、x軸スライダ14を介して主柱部15が鉛直に立設され、この主柱部15にy軸スライダ17(座標位置調整部)を介してz軸スライダ18(座標位置調整部)が設置され、z軸スライダ18の下にドリルユニット4が取り付けられている。
【0035】
また、主柱部15の上端付近から水平梁部材19がz軸方向に延び、その自由端に前述の連結部6が設置されている。連結部6の具体的な構造としては、治具枠3の枠体3b上部との間に形成された図示しない凹凸形状をインロー嵌合させる方式や、強力な電磁石により吸着させる方式等が考えられる。
【0036】
図1及び
図2(B)に示されるように、加工機支持体5は治具枠3の脚部3aのH字形状の間に入り込んだ位置で、連結部6を治具枠3の枠体3b上部に連結させて正確に位置決めされ、固定される。治具枠3の枠体3bのスパンは、加工機支持体5の台座部13の幅よりも十分に広いため、加工機支持体5は治具枠3の枠体3bの間でx軸方向に移動でき、治具枠3に取り付けられる加工物2の長手方向(x軸方向)に沿って連結部6の連結位置を変えながら加工物2の加工を行うようになっている。
なお、キャスター輪7,12には転動を止める制動手段が付いているが、その制動を解除することにより、治具枠3と加工機支持体5とが一体に連結された状態で設置面10上を移動することができる。
【0037】
ドリルユニット4の座標位置調整部であるx軸スライダ14、y軸スライダ17、及びz軸スライダ18は、治具枠3と加工機支持体5とが連結部6により連結された状態で、ドリルユニット4の加工軸(後述するドリル軸24)の軸線を加工物2に指向させる。そして、ドリルユニット4は、台座部13に対してx軸方向、y軸方向、z軸方向の3方向に位置を調整可能とされる。
【0038】
図3に示されるように、ドリルユニット4は、x軸方向視で略L字形をなすアーム部材21に加工機であるドリル本体22が、その後端側をy方向に上下できるように取り付けられている。ドリル本体22は、略円筒状であり、その内部に、ドリル軸24(加工軸)と、このドリル軸24を回転駆動するとともに、ドリル本体22の先端面に固定されたエンドピース25から外部に出没させる加工軸アクチュエータ(不図示)とを具備している。加工軸アクチュエータは、ドリル軸24を回転させる回転アクチュエータと、ドリル軸24を加工物2側に送る(突き出す)送りアクチュエータとが一体化されたものであるが、両者が別体であってもよい。エンドピース25は、加工物2に接触した際に加工物2を傷付けることがないように、硬質ゴムや樹脂材料等で形成されている。
なお、加工装置1の形態については、ヘッド(本実施形態ではドリルユニット4)とワーク(本実施形態では加工物2)が相対的に移動できる方式であれば、ヘッドがガントリー式の加工装置1や、ワークが載置されたワークテーブルが移動する方式の加工装置1等であってもよく、
図1等に示される形態に限定されるものではない。
【0039】
図3に示されるようにアーム部材21の縦壁の内面には一対の弧型レール28(リニアレールを湾曲させたもの;通称ゴニオウエイ)を介してドリル本体22が取り付けられている。
図3に示されるように、側面視では、弧型レール28によるドリル本体22の回動中心が、エンドピース25の先端部の接触点Sに一致している。エンドピース25は、ドリル軸24の軸線CLを、加工物2の加工点を貫通する法線NL(
図5参照)に沿わせる際に、加工物2の加工点に当接する当接部となる点である。このため、ドリル本体22は、エンドピース25の接触点Sを中心に、A方向及びB方向に回動可能となっている。このように、
図3に示される弧型レール28は、ドリル本体22をA方向に回動させるためのものである。ドリル本体22をB方向に回動させるための弧型レール28(不図示)は、
図3に示される弧型レール28に対して直交して設ける。
【0040】
また、加工装置1は、ドリル本体22の角度を固定するブレーキ部35を備える。ブレーキ部35は、ドリル本体22の角度を堅固に固定できるものであれば、特にその構造が限定されるものではない。
【0041】
加工装置1には、法線検出装置50を構成する機器として、ドリル本体22の周囲に4つ以上の非接触式距離センサー31が配置される。非接触式距離センサー31は、加工物2の加工面56までの距離を測定する。このように、非接触式距離センサー31は、ドリル本体22の周囲に配置されるので、ドリル本体22を設置するためのスペースが確保される。
なお、非接触式距離センサー31としては、例えばレーザー光Laの反射を受光して加工物2の加工面56までの距離を測定するレーザー距離センサーが好適である。
【0042】
図4は、本実施形態に係る法線検出装置50の電気的構成を示すブロック図である。
【0043】
図4に示されるように、法線検出装置50は、例えばPLC(programmable logic controller)である制御部51を備える。
【0044】
制御部51は、非接触式距離センサー31による測定値が入力され、該測定値をPC(Personal computer)52へ出力する。PC52は、入力された測定値に基づいて、加工物2の加工点を貫通する加工面56の法線NLを算出する。さらに、PC52は、ドリル軸24の軸線CLが法線NLに倣うように、ドリル軸24のA方向及びB方向に対する倣い角度α,βを算出する。なお、法線検出装置50は、PC52を備えず、制御部51がPC52で実行される倣い角度α,βの算出機能を有してもよい。
【0045】
PC52によって算出された倣い角度α,βは、制御部51へ出力される。
制御部51に入力された倣い角度αは、ドリル本体22を弧型レール28に沿ってA方向へ回動させるためのモータ53Aのコントローラ54Aへ出力される。また、制御部51に入力された倣い角度βは、ドリル本体22を弧型レール28に沿ってB方向へ回動させるためのモータ53Bのコントローラ54Bへ出力される。
【0046】
コントローラ54A,54Bは、各々倣い角度α,βが入力されると、倣い角度α,βに応じてモータ53A,53Bを駆動させる。これによって、ドリル軸24の軸線CLの角度が変更され、法線NLに倣うこととなる。
【0047】
また、制御部51は、x軸スライダ14、y軸スライダ17、及びz軸スライダ18を移動させるための各アクチュエータ(不図示)と接続され、各種の制御信号が入出力されるようになっている。
【0048】
図5は、本実施形態に係る法線検出方法の概要を示す模式図である。
【0049】
図5では一例として法線検出装置50が、非接触式距離センサー31を8つ備えている場合を図示しており、P
nで示される位置が非接触式距離センサー31の配置位置(光源点)を示している。また、非接触式距離センサー31による測定位置は、P’
nで示される。そして、非接触式距離センサー31は、加工物2の加工面56までの距離ΔL
nを測定する。なお、nは非接触式距離センサー31を特定するための番号であり、
図5の例では1から8の何れかである。
【0050】
法線検出装置50が備えるPC52は、非接触式距離センサー31による測定値ΔL
nを用いて、加工面56の近似面を算出し、近似面の法線NLを加工面56の法線として求める。
【0051】
しかしながら、例えば測定位置P’
6のように、加工面56の段差又は突起までの距離を測定する可能性がある。なお、段差又は突起は、例えば治具、治具ピン、及び加工面56に既に開けられている孔等である。この段差又は突起のような凹凸までの測定値は、非接触式距離センサー31の光軸が凹凸に干渉した測定値であるため、近似面の算出に適さない。
そこで、本実施形態に係る法線検出方法では、近似面の算出に適さない測定値(以下「干渉ポイント」という。)を除外して近似面を算出する。
【0052】
図6は、非接触式距離センサー31の配置位置P
nの詳細を示した模式図である。
非接触式距離センサー31は、ドリル本体22の周囲であってドリル本体22の軸線CLに直交する平面(以下「配置平面」という。)J上に配置される。
なお、以下の説明では簡略化のため、軸線CLがz軸に平行な状態であり、配置平面Jを構成する軸がx軸及びy軸にそれぞれ平行な場合を例として説明する。
【0053】
そして、非接触式距離センサー31は、各々の距離測定軸MLと軸線CLとが交差角度θ
nで交差するように配置される。なお、各非接触式距離センサー31の距離測定軸MLは、加工点Gよりも奥の収束点O’で収束することが好ましい。
また、配置平面J上における非接触式距離センサー31の配置角度γ
nは、配置平面Jを構成する所定軸(例えばx軸)を基準とした非接触式距離センサー31までの方位角度で定義される。
【0054】
図7は、本実施形態に係る法線検出処理の流れを示すフローチャートである。なお、法線検出処理は、加工物2に対して加工を行う毎に法線検出装置50によって実行される。
【0055】
まず、ステップ100では、制御部51が各非接触式距離センサー31に対して、加工面56までの距離の測定を行わせるための制御信号を出力する。そして、制御部51は、非接触式距離センサー31からの測定値をPC52へ出力する。
【0056】
次のステップ102では、PC52が測定値を用いて近似面の算出を行う。
より具体的には、PC52は、各非接触式距離センサー31による測定値、及び各非接触式距離センサー31の軸線CLに対する角度に基づいて加工面56の近似面を算出する。なお、軸線CLに対する角度とは、各非接触式距離センサー31の交差角度θ
n及び配置角度γ
nである。以下に説明するように、交差角度θ
n及び方位角度γ
nを用いて測定位置P’
nの座標を求め、近似面を算出することによって、簡易により精度高く近似面を算出することができる。
【0057】
下記(1)式は、非接触式距離センサー31による測定値を用いて、加工面56における測定位置P’
nの座標(x
’n,y’
n,z’
n)を求めるための式である。なお、(1)式においてx
n,y
n,z
nは、n個目の非接触式距離センサー31の光源点、すなわち配置位置P
nを示す座標である。
【数1】
【0058】
次に(1)式によって算出された加工面56の座標(x
’n,y’
n,z’
n)を用いて、加工面56の近似面を算出する方法の一例について説明する。なお、本実施形態では、一例として平面近似を行うが、これに限らず、直線近似、円近似、球面近似、及び自由曲面近似等、加工面56を他の方法を用いて近似してもよい。
なお、干渉ポイントが加工面56より大きく外れる場合、近似面の精度が著しく悪化する場合がある。このため、そういったケースではロバスト推定法などの方法を用いて近似面を算出することが好ましい。
【0059】
下記(2)式は、平面の一般式として定義した式である。なお、(2)式においてa,b,cは未知数である。
【数2】
【0060】
そして、各z
iからの2乗の和を最小にするように偏差平方和Sが、下記(3)式のように定義される。すなわち、偏差平方和Sが最小となる条件が最も誤差が無く、加工面56に近似した平面となる。
【数3】
【0061】
偏差平方和Sに対して、未知数a,b,cで偏微分が行われると、下記(4)式に示される連立方程式が得られる。
【数4】
【0062】
未知数a,b,cに対して、方程式が3つ求まっているので、(4)式を下記(5)式に示されるように解くことで、未知数a,b,cが求まり、近似平面が定義される。
【数5】
【0063】
次のステップ104では、PC52が干渉ポイントの有無を判定し、肯定判定の場合はステップ106へ移行する。一方、否定判定の場合は近似面が確定するので、ステップ112へ移行する。
なお、本実施形態に係るPC52は、近似面と非接触式距離センサー31の配置位置P
nとの距離が所定範囲(以下「非干渉範囲」という。)から外れる非接触式距離センサー31による測定値を干渉ポイントと判定する。
【0064】
具体的な干渉ポイントの判定方法の一例について以下で説明する。
近似面を平面とした場合、近似平面の一般式は上記(2)式を変形して下記(6)式のように定義される。
【数6】
【0065】
従って、近似平面の法線方向における、近似平面と非接触式距離センサー31の配置位置(x
n,y
n,z
n)との距離h
nは下記(7)式で定義される。
【数7】
【0066】
そして、距離h
nが予め設定されている非干渉範囲から外れる測定値が、干渉ポイントと判定される。
なお、非干渉範囲は、加工物2の曲率が大きいほど大きく設定される。
この理由を、加工物2の曲率と測定位置P
’nとの関係を示した
図8を参照して説明する。
図8(A)は、曲率の小さい加工物2の測定位置P
’nを示し、
図8(B)は、曲率の大きい加工物2の測定位置P
’nを示す。
【0067】
測定位置P
’2における距離ΔL
2のように、非接触式距離センサー31の配置位置P
nが同じであっても、
図8(B)に示されるように曲率が大きいほど各距離ΔL
nの差が大きくなる場合がある。
このため、加工物2の曲率が大きいにもかかわらず曲率が小さい場合と同じ非干渉範囲を用いると、加工面56までの距離を測定している測定値が、干渉ポイントと判定される可能性がある。
【0068】
そこで、本実施形態では、加工物2の曲率が大きいほど非干渉範囲が大きく設定される。これにより、近似面の算出に適さない測定値の誤判定が抑制されるので、近似面をより精度高く算出できる。
【0069】
例えば、基準となる非干渉範囲は、予め入力された加工物2の曲率半径を基準に算出され、計測された加工物2との距離、加工物2の角度、入力された加工物2の表面性状等の少なくとも何れか一つに基づく重み付けを行うことで算出されてもよい。
【0070】
さらに、加工点Gと非接触式距離センサー31との距離が大きい場合、曲率が同じであっても各非接触式距離センサー31毎の計測距離の差が大きくなるため、非干渉範囲が大きく設定される必要がある。
また、非接触式距離センサー31の計測精度が悪い場合も非干渉範囲が大きく設定される必要がある。例えば、加工面56が光沢面の場合や、非接触式距離センサー31の光軸と加工面56のなす角度が大きい場合、計測精度が悪くなることがあるため非干渉範囲が大きく設定され、これにより干渉ポイントの誤検知が防止される。
しかしながら、非干渉範囲の設定にあたっては上記の条件に加え、所定の角度精度が満たされることも重要である。すなわち干渉ポイントの誤検知が防止しされ、かつ所定の角度精度が満たされるように種々の最適な条件が設定される。
【0071】
ステップ106では、非接触式距離センサー31による測定値から、干渉ポイントを除外する。
【0072】
次のステップ108では、干渉ポイントを除外後の測定値が3つ以上であるか否かを判定する。2点の測定値では面を特定できないため、正確に加工面56の近似面を求めるためには、少なくとも3点の測定値を必要とするためである。ステップ108において、肯定判定の場合はステップ110へ移行し、否定判定の場合は近似面を算出できないため本法線検出処理を終了して、エラー処理を行う。
【0073】
ステップ110では、干渉ポイントを除外した測定値を用いて、再び近似面を算出する。
3点の測定値があれば加工面56の近似面を算出できるが、本実施形態に係る加工装置1は、4つ以上の非接触式距離センサー31を備える。このため、加工面56に段差又は突起等の凹凸があり、近似面の算出に適しない凹凸までの距離を測定した非接触式距離センサー31があったとしても、4つ以上の非接触式距離センサー31を備える本実施形態に係る加工装置1は、その測定値を除外して近似面を算出できる。
これにより、法線検出処理は、加工面56の凹凸の影響のないより正確な近似面を算出できる。
【0074】
法線検出処理は、ステップ110で近似面を算出した後、ステップ104へ戻り、再び干渉ポイントの有無を判定する。
【0075】
ステップ104で否定判定となった場合に移行するステップ112では、PC52が倣い角度α,βを算出し、算出した倣い角度α,βを制御部51へ出力する。そして、制御部51は、倣い角度α,βを各々コントローラ54A,54Bへ出力する。
コントローラ54A,54Bは、倣い角度α、βに応じた移動量でドリル本体22が移動するようにモータ53A,53Bを駆動させ、ドリル軸24の軸線CLを法線NLに倣わせる。
【0076】
具体的な倣い角度α,βの算出方法は、以下の通りである。
【0077】
近似面の法線ベクトルは、下記(8)式で定義される。
【数8】
このため、
図9の模式図に示されるように、A方向の倣い角度α及びB方向の倣い角度βは、下記(9)式のように定義される。
【数9】
【0078】
次のステップ114では、制御部51が、ドリル本体22を加工面56に近接させるために、z軸方向の送り量を測定値に基づいて算出し、z軸スライダ18を駆動させる。z軸スライダ18が駆動すると、加工物2の加工点Gに、ドリル本体22の先端に設けられたエンドピース25の接触点Sが突き当てられる。この時には、z軸スライダ18が駆動されてエンドピース25が適度な突き当て力で加工物2に押し付けられる。この時の突き当て力の大きさは、加工物2の加工反力を上回り、且つ加工物2を変形させない程度の力に設定するのが望ましい。これにより、加工物2の加工接触点Pに対してエンドピース25の接触点Sがずれることを防止できる。このように、z軸スライダ18を駆動して力支配により、ドリル本体22の先端の接触点Sが加工点Gに押し当てられる。
【0079】
そして、軸線CLが法線NLに倣わされたドリル軸24によって、加工点Gに対する加工が行われる。
【0080】
なお、ドリル本体22の先端の接触点Sが加工点Gに接触した状態で、再度、非接触式距離センサー31によって距離の測定が行われ、干渉ポイントを除いた各非接触式距離センサー31の測定値のばらつきが予め定められた許容範囲内に含まれている場合に、加工が行われることが好ましい。これにより、より精度の高い加工が可能となる。
【0081】
以上説明したように、本実施形態に係る法線検出装置50は、ドリル本体22の周囲であってドリル本体22の軸線CLに直交する配置平面J上に4つ以上配置されると共に、各々の距離測定軸MLと軸線CLとが交差し、加工物2の加工面56までの距離を測定する非接触式距離センサー31と、各非接触式距離センサー31による測定値及び各非接触式距離センサー31の軸線CLに対する角度に基づいて加工面56の近似面を算出し、該近似面の法線を加工面56の法線として求めるPC52と、を備える。
【0082】
従って本実施形態に係る法線検出装置50は、加工面56に凹凸があっても加工面56の法線方向を検出でき、かつドリル本体22を設置するためのスペースを確保し、ドリル本体22の軸線CLを加工面56の法線に倣わせることができる。
【0083】
以上、本発明を、上記各実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記各実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0084】
例えば、上記各実施形態では、加工物2の加工面56までの距離を測定する距離測定手段を非接触式距離センサー31とする形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、距離測定手段を接触点先端にタッチセンサを配置した接触式距離センサー等、他のセンサーとする形態としてもよい。
【0085】
また、上記各実施形態では、法線検出装置50によって検出された法線NLにドリル本体22の軸線CLが倣うように、ドリル本体22を加工物2へ移動させる形態について説明した。しかし、本発明は、これに限定されるものではなく、ドリル本体22と加工物2とが相対的に移動すればよく、加工物2をドリル本体22へ移動させる形態、又はドリル本体22と加工物2とが共に移動する形態としてもよい。
【0086】
また、上記各実施形態では、モータ53A,53Bを駆動させことによって、ドリル軸24の軸線CLの角度を変更する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、ドリル軸24の軸線CLの角度をエアシリンダ等、他のアクチュエータを用いて変更する形態としてもよい。
【0087】
また、上記各実施形態で説明した法線検出処理の流れも一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。