特許第6004975号(P6004975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6004975医療用積層編地、これを用いた医療用ドレープ、これを用いた医療用シーツ。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6004975
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】医療用積層編地、これを用いた医療用ドレープ、これを用いた医療用シーツ。
(51)【国際特許分類】
   A61B 46/00 20160101AFI20160929BHJP
【FI】
   A61B46/00
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-55169(P2013-55169)
(22)【出願日】2013年3月18日
(65)【公開番号】特開2014-180316(P2014-180316A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2015年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】副島 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】西山 武史
(72)【発明者】
【氏名】中川 清
【審査官】 木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−78464(JP,A)
【文献】 特開2000−316694(JP,A)
【文献】 特開2008−6664(JP,A)
【文献】 特開2009−240448(JP,A)
【文献】 特開2012−76273(JP,A)
【文献】 特開2013−14089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 46/00 ― 46/27
B32B 27/00 ― 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなるフィルムの一方の面にポリエステル仮撚加工糸からなるトリコット編地Aが、他方の面にポリエステルフィラメントのフラットヤーンからなるトリコット編地Bが、貼り合わされた積層編地であって、前記トリコット編地Aが2枚筬以上の組織を有し且つ吸水加工が施されたものであり、並びに前記積層編地が下記(1)及び(2)を満足することを特徴とする医療用積層編地。
(1)濡れ戻り率60%以下。
(2)JIS L1096 F−2法に基づく洗濯を10回繰り返した後、135℃×80分のオートクレーブ処理及び60分間のタンブル乾燥工程を1サイクルとし、これを10サイクル繰り返した後のJIS L1092 6.1B法(高耐水圧法)に基づく耐水圧が150kPa以上。
【請求項2】
前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が、ポリカーボネートポリオール及び芳香族系ジフェニルメタンジイソシアアネートからなるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の医療用積層編地。
【請求項3】
前記ポリエステル仮撚加工糸の単繊維繊度が0.6dtex〜4.0dtexであることを特徴とする請求項1又は2記載の医療用積層編地。
【請求項4】
前記トリコット編地Aがメッシュ組織であり、且つ、メッシュ組織の凹部の深度が400〜500μmであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の医療用積層編地。
【請求項5】
前記吸水加工が、アニオン系ポリエステル系樹脂を用いたものであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の医療用積層編地。
【請求項6】
前記トリコット編地Bが撥水加工されたものであることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の医療用積層編地。
【請求項7】
前記トリコット編地A、トリコット編地B及びフィルムが、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなる硬化型接着剤により貼り合わせてなることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載の医療用積層編地。
【請求項8】
前記トリコット編地A及びトリコット編地Bの少なくとも一方とフィルムが全面状に貼り合わせてなることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項に記載の医療用積層編地。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項に記載の医療用積層編地を用いてなることを特徴とする医療用ドレープ。
【請求項10】
請求項1〜8いずれか1項に記載の医療用積層編地を用いてなることを特徴とする医療用シーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用積層編地、これを用いた医療用ドレープ、これを用いた医療用シーツに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、目覚しい勢いで進歩している高度医療においては、患部からの感染を防ぐために注意を払う必要があり、特に、患部がむき出しとなる手術時には細心の注意が必要となる。例えば、手術時に患部から体外に流出した体液・血液が再び患部に戻るようなことがあると、患部周辺の皮膚等についた異物・雑菌が体内に侵入する懸念があり、二次感染の危険性が非常に高くなる。これら二次感染に対する防護策の一つとして、手術の際に患者を覆うドレープ(包布)や手術台に敷くシーツ等により、流出した血液や体液を十分に吸収・保持し、患部へ再度流入することを防ぐ態様が挙げられる。
【0003】
この様な場合に用いられる医療用ドレープにおいては、不織布やフィルムからなる使い捨てのドレープが一般的に用いられているが、十分な吸水性・保水性を有しておらず、上述した問題点をいまだ解決できていない。加えて、使い捨てである為、当然、医療用廃棄物としての処理問題が残り、万が一、不適切な方法で廃棄された場合には、感染が拡大することがある。
【0004】
また、医療用シーツにおいては、コーティング層やラミネート層を備えていない織編物が一般的に用いられているが、吸収した体液や血液が裏側に浸透し、手術台に付着するという問題がある。
【0005】
このような問題を解決する手段として、耐久性のあるコーティング層やラミネート層を有する積層布帛を用い、洗濯・滅菌処理によって繰り返し使用が可能なリユースタイプのドレープやシーツが提案されている。これを採用すれば、ゴミの減量になるばかりでなく、使用後の消毒滅菌を前提に取り扱われることから、感染拡大を抑制することができる。
【0006】
例えば、特許文献1〜3には、洗濯・滅菌にも耐え得る繰り返しの使用が可能なリユースタイプの医療用積層生地が提案されている。また、特許文献4には、保水性に優れた医療用積層布帛が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−78464号公報
【特許文献2】特開2000−316694号公報
【特許文献3】特開2005−194633号公報
【特許文献4】特開2009−240448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3記載の医療用積層布帛は、バクテリアバリア性を有する耐湿熱性フィルムと織編物生地が使用されている。しかしながら、当該布帛にあっては、バクテリアバリア性や耐久性などの点については満足できるものの、手術時に患者の手術部位周辺の血液・体液を吸収することについては、改善の余地がある。
【0009】
また、特許文献4記載の医療用積層布帛は、片面のトリコット編地に単糸繊度が0.5デシテックス以下のポリエステルフィラメント糸が使用されており、保水性には優れるが、保水部に触れた際に、触れた側へ血液や体液が移行するという濡れ戻りについては、改善の余地がある。また、該単糸繊度が0.5デシテックス以下と小さいため、繰り返し洗濯や滅菌処理により毛羽や糸切れが発生しやすいとい問題点がある。
【0010】
本発明は上述した問題点を解決し、手術時に患者の手術部位周辺の血液・体液の吸収に優れ、かつ濡れ戻りを抑制する性能を有し、加えてバクテリアバリア性も兼ね備えており、洗濯・滅菌処理を繰り返してもこれらの性能が低減し難い、耐久性に優れた医療用積層編地及びこれを用いた医療用ドレープ、医療用シーツを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究の結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(10)を要旨とするものである。
(1)ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなるフィルムの一方の面にポリエステル仮撚加工糸からなるトリコット編地Aが、他方の面にポリエステルフィラメントのフラットヤーンからなるトリコット編地Bが、貼り合わされた積層編地であって、前記トリコット編地Aが2枚筬以上の組織を有し且つ吸水加工が施されたものであり、並びに前記積層編地が下記(i)及び(ii)を満足することを特徴とする医療用積層編地。
(i)濡れ戻り率60%以下。
(ii)JIS L1096 F−2法に基づく洗濯を10回繰り返した後、135℃×80分のオートクレーブ処理及び60分間のタンブル乾燥工程を1サイクルとし、これを10サイクル繰り返した後のJIS L1092 6.1B法(高耐水圧法)に基づく耐水圧が150kPa以上。
(2)前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が、ポリカーボネートポリオール及び芳香族系ジフェニルメタンジイソシアアネートからなるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂であることを特徴とする(1)記載の医療用積層編地。
(3)前記ポリエステル仮撚加工糸の単繊維繊度が0.6dtex〜4.0dtexであることを特徴とする(1)又は(2)記載の医療用積層編地。
(4)前記トリコット編地Aがメッシュ組織であり、且つ、メッシュ組織の凹部の深度が400〜500μmであることを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載の医療用積層編地。
(5)前記吸水加工が、アニオン系ポリエステル系樹脂を用いたものであることを特徴とする(1)〜(4)いずれかに記載の医療用積層編地。
(6)前記トリコット編地Bが撥水加工されたものであることを特徴とする(1)〜(5)いずれかに記載の医療用積層編地。
(7)前記トリコット編地A、トリコット編地B及びフィルムが、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなる硬化型接着剤により貼り合わせてなることを特徴とする(1)〜(6)いずれかに記載の医療用積層編地。
(8)前記トリコット編地A及びトリコット編地Bの少なくとも一方とフィルムが全面状に貼り合わせてなることを特徴とする(1)〜(7)いずれかに記載の医療用積層編地。
(9)(1)〜(8)いずれかに記載の医療用積層編地を用いてなることを特徴とする医療用ドレープ。
(10)(1)〜(8)いずれかに記載の医療用積層編地を用いてなることを特徴とする医療用シーツ。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医療用積層編地は、特定フィルムの両面に特定の編地を積層したものであって、特定の特性を有する積層編地としているため、患部より流出した血液や体液を効率よく吸収・拡散することができ、吸収部に触れた場合でも濡れ戻りによる感染を抑制することが可能となる。さらには、洗濯・滅菌を繰り返しても、該耐水圧性の低下が抑えられたものである。そのため、長期間の使用が可能であり、使い捨て製品とは異なり環境への負荷も小さいものとなる。加えて、本発明は、ポリカーボネート系ウレタン樹脂からなるフィルムといった、バクテリアバリア性を具備するフィルムを使用しているため、感染防御性の点でも有効である。以上より、本発明の医療用積層編地は、医療用ドレープや医療用シーツに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明におけるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とは、ジオール成分とジイソシアネート成分からなるポリウレタンであって、ジオール成分がポリカーボネートポリオールからなるものをいう。イソシアネート成分としては特に限定されないが、芳香族系ジフェニルメタンジイソシアアネートが挙げられる。特にポリカーボネートポリオール及び芳香族系ジフェニルメタンジイソシアアネートからなるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、バクテリアバリア性、耐熱性、高圧湿熱処理性において、優れた耐性を有しているため特に好ましい。
【0015】
本発明における前記フィルムの作成方法としては、該ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が熱可塑性を示すものであれば、Tダイ等を用いてフィルム状に押出成形し、所定の厚みにて直接トリコット編地上に形成したり、或いは、一旦フィルムを形成した後に接着剤にてトリコット編地に貼合することができる。溶液タイプであれば、コーティング法等により、トリコット編地上に直接塗布、乾燥して形成したり、或いは、離型紙等の離型材に一旦フィルムを形成した後、接着剤にてトリコット編地に貼合した後に離型材を剥離する等、公知の方法で形成すればよい。
【0016】
なお、フィルム中には、目的に応じて、顔料、フィラーなどの各種添加剤、滑剤、耐光剤、難燃剤などの各種機能材を含有させてもよい。
【0017】
フィルムの厚みは特に限定されないが、耐水圧性、柔軟性などの観点から、5〜50μmが好ましく、9〜30μmがより好ましい。5〜50μmとすることにより、柔軟性、風合いを損ねることなく、さらには該積層編地の耐久性がより良好となるため、洗濯・滅菌を繰り返しても使用において破れが生じやすくならないという利点がある。
【0018】
本発明の積層編地おいては、該フィルムの両面にトリコット編地を貼り合わせることが必要である。トリコット編地を用いることにより、織物とした場合に比べ、濡れ戻り性が良好となる。さらには積層後の硬い風合いによる洗濯・滅菌後の大きな剥離が発生することも抑えられるとともに、ドレープとして使用時の患部への密着性等が損なわれたり、シーツとして使用時に手術台の形状への追随性が損なわれたりすることが抑えられる。加えて、丸編に比べ、使用後の洗濯・滅菌による寸法変化、積層編地の剥離及びカーリングが抑えられる利点がある。
【0019】
前記フィルムの一方の面に貼り合わせるトリコット編地を、ポリエステル仮撚加工糸からなるトリコット編地(以下、トリコット編地Aと称する場合がある)とすることが必要である。該トリコット編地Aをポリエステル仮撚加工糸からなるトリコット編地とすることで、紡糸のみ又は紡糸及び延伸にて作成されるフラット糸や紡績糸を用いた場合に比べ、糸の毛羽が着用時及び洗濯・滅菌時に遊離し術中に患部へ付着することを抑制するとともに、得られる医療用積層編地の保水量がより向上し、加えて、フィルムとの積層加工時に接着樹脂の浸透がより強くなり、剥離強力が向上する。
【0020】
前記ポリエステル仮撚加工糸は、繊維形成性のポリエステルポリマーからなる糸を仮撚加工することにより得られる。繊維形成性のポリエステルポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が用いられる。中でも滅菌処理時の耐熱性や色相維持の観点からポリエチレンテレフタレートが好ましく、伸縮性や耐アルカリ加水分解性の観点からポリブチレンテレフタレートが好ましい。また、本発明の編地の用途である医療用途を考慮して、より耐アルカリ加水分解性に優れたポリマーを用いることが好ましく、具体的には、高重合度のものや末端基封鎖等が使用されたものが好適である。
【0021】
前記ポリエステル仮撚加工糸の単繊維繊度は、良好な濡れ戻り性の観点から、0.6dtex〜4dtexが好ましく、0.6dtex〜3dtexがより好ましく、0.6dtex〜1.5dtexが特に好ましい。濡れ戻り率を低く抑えるためには、ポリエステル繊維間の空隙において吸収した血液、体液、汗等を保持する必要があり、その為にはポリエステル仮撚加工糸の単繊維繊度を適度なものとし、繊維間に適度な空隙を多く形成する必要があるためである。
【0022】
該トリコット編地Aは、2枚筬以上の組織で形成されていることが必要である。2枚筬以上の組織で少なくとも一方のトリコット編地を形成することにより編地中に一定の空隙を形成することができ、それによって血液等を吸収・保持することがより容易となる。さらには、本発明において必要となる濡れ戻り性がより得られやすくなる。
【0023】
トリコット編地Aの具体的な組織は、メッシュ組織が好ましい。メッシュ組織の例としては、フロント筬組織として1―0/1―2,ミドル筬組織として1−0/1−2/2−3/2−1,バック筬組織として、2−3/2−1/1−0/1−2や、フロント筬組織として1―0/1―2,ミドル筬組織として2−3/2−1/1−0/1−2,バック筬組織として、2−1/2−3/3−4/3−2等が挙げられる。このような組織にすることにより、目的とする吸水拡散性、および濡れ戻り性が得られやすくなる。
【0024】
前記メッシュ組織の場合、メッシュ組織の凹部が深度400〜500μmであることが好ましい。該凹部の深度をこの範囲とすることにより、さらに良好な濡れ戻り性を得ることができる。前記深度は、メッシュ組織の中でも、フロント筬組織として1―0/1―2,ミドル筬組織として1−0/1−2/2−3/2−1,バック筬組織として、2−3/2−1/1−0/1−2を選択し、または使用する構成糸の選択、トリコット編地条件などを適宜選択することにより、達成することができる。
【0025】
メッシュ組織の凹部の深度とは、積層編地をミクロトーム用かみそり刃を用い、ウエール方向に最も広い部分をカットし、カットした積層編地の厚み方向の断面をマイクロスコープ(キーエンス社製 VHX−900)を用いて拡大写真を撮影し、編組織の最も高い部分と最も低い部分の厚さの差を算出した値である。凹部の深度が400〜500μmであると、使用時や洗濯時の擦れ等による引掛りや糸切れが抑えられるとともに、目的とする濡れ戻り性がより得られやすくなるので好ましい。
【0026】
さらにメッシュ組織の凹部は、コース方向の長さが500〜1900μm、ウエール方向の長さが250〜450μmが好ましい。ここでいう凹部の長さとは、凹部の内側を測定した値であり、積層編地のトリコット編地Aの表面を、マイクロスコープ(キーエンス社製 VHX−900)を用いて拡大写真を撮影し、編組織のコース方向およびウエール方向の内側の最も広い部分の長さを測定した値である。凹部の長さは、メッシュ組織の中でも、フロント筬組織として1―0/1―2,ミドル筬組織として1−0/1−2/2−3/2−1,バック筬組織として、2−3/2−1/1−0/1−2を選択し、または使用する構成糸の選択、トリコット編地条件などを適宜選択することにより、達成することができる。
【0027】
また、トリコット編地Aは吸水加工が施されていることが必要である。吸水加工を施すことにより、目的とする吸水拡散性、および濡れ戻り性がより得られやすくなる。該吸水加工に使用する吸水加工剤としては、アニオン性ポリエステル系樹脂、ノニオン性ポリアミド系樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアミン第4級アンモニウム塩などを含む加工剤があげられるが、良好な濡れ戻り率、耐久性などの観点から、アニオン性ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0028】
吸水加工の方法としては、従来公知の方法であればどのような方法でも採用しうる。例えば、プリント法、グラビアコーテイング法、スプレー法、パディング法、吸尽法などがあげられる。この他にも、親水基、特に酸性基を有するビニル系モノマーをグラフト重合する方法などが採用しうる。
【0029】
前記フィルムの他方の面に貼り合わせるトリコット編地を、ポリエステルフィラメントのフラットヤーンからなるトリコット編地(以下、トリコット編地Bと称する場合がある。)とすることが必要である。該フラットヤーンとは、仮撚加工等による捲縮を付与していない糸をいう。例えば、積層編地をドレープとして用いる場合など、切開用の穴を開けたり、その周囲にホズレ防止の目的で縁取り縫い等を施すため、該フラットヤーンを用いることにより、積層編地としての伸長性が抑制され、可縫性が向上する。また、該トリコット編地Bの組織は、特に限定されるものではないが、2枚筬以上の組織で形成されていることが好ましく、例として、ハーフ組織、逆ハーフ組織、サテン組織等が挙げられ、これらを応用した変化編組織等でもよい。これらの中でも、特にサテン組織は、積層編地の伸長性を抑制し、可縫性の向上効果が大きいため好ましい。
【0030】
積層編地としては、JIS L1096 A法(定速伸長法)による伸長率が20%未満であることが好ましく、15%未満がより好ましい。伸長率を20%未満とすることで積層編地の伸長性が適度なものとなり、可縫性がより優れたものとなり好ましい。
【0031】
トリコット編地Bは、撥水加工されたものであることが好ましい。これは、医療用ドレープとして使用する場合は、撥水加工された編地を患者側に向けて使用するため、トリコット編地A側で吸収した血液や体液が再び患者に付着することを抑制できる。撥水処理に用いる撥水剤としては、パラフィン系撥水剤、ポリシロキサン系撥水剤、フッ素系撥水剤など公知のものが使用できる。撥水処理の方法もスプレー法、パディング法、コーティング法など公知の方法が採用できる。特に良好な撥水性を所望する場合には、フッ素系撥水剤を2〜10質量%含有する水分散液に繊維布帛をピックアップ率30〜100%でパディングし、これを80〜150℃で乾燥した後、150〜180℃で20秒〜2分間熱処理すればよい。
【0032】
本発明の積層編地は、前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなるフィルムの
一方の面に、ポリエステル仮撚加工糸からなるトリコット編地Aが、他方の面にポリエステルフィラメントのフラットヤーンからなるトリコット編地Bが貼り合わされた3層積層編地であることが必要である。該3層積層編地とすることにより、汗・血液・体液などを所定量保持するとともに、洗濯・滅菌を繰り返しても耐水圧が低下しないようにポリカーボネート系ポリウレタンフィルムを保護することができる。
【0033】
該フィルム、該トリコット編地Aおよび該トリコット編地Bの貼り合せ方法は特に限定されないが、例えば、接着樹脂を用いた貼り合せ方法が挙げられる。該接着樹脂としては、ホットメルト型、硬化型の樹脂が挙げられ、耐久性の観点から、硬化型が好ましい。
【0034】
硬化型接着樹脂としては、水酸基、イソシアネート基、アミノ基、カルボキシル基等の反応基を持ついわゆる架橋性を有したポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン−酢酸ビニル系樹脂等が、自己架橋するか或いはイソシアネート系、エポキシ系等の架橋剤と架橋し、硬化型となるものである。その中でも、ポリウレタン系接着樹脂が柔軟性に富むので好ましく、特にポリカーボ−ネート系ポリウレタン樹脂からなる硬化型接着樹脂が、耐熱性並びに高圧湿熱滅菌に対する耐性が非常に優れるため、好ましい。
【0035】
硬化型接着樹脂の形状としては、特に限定されるものでないが、実用上の観点から、溶液型又はホットメルト型であることが好ましい。溶液型の接着剤を使用するときは、好ましくは25℃での粘度が500〜5000mPa・sのものを選び、例えば、グラビアロールやコンマコータなどを使用して、エラストマー膜もしくは繊維布帛上に接着剤を塗布する。その後は、例えば、ラミネート機などを用いて、繊維布帛とエラストマー膜とを圧着する。
【0036】
ホットメルト型の接着樹脂を使用するときは、まず、接着樹脂の融点や溶融時の粘性などを考慮しつつこれを溶融させる。この場合、80〜200℃程度の温度域で接着樹脂を溶融させるのが、実用上好ましい。そして、エラストマー膜もしくはトリコット編地上に溶融した接着樹脂を塗布し、その後は、必要に応じて冷却しつつ、例えば、ラミネート機などを用いて、トリコット編地とエラストマー膜とを圧着する。
【0037】
接着樹脂の厚みとしては、塗布の形態が全面状、部分的のいずれでも、片面につき10〜100μm程度が好ましく、25〜70μmがより好ましい。接着樹脂の厚みを片面につき10〜100μm程度とすることで、洗濯・滅菌処理におけるフィルムとトリコット編地の剥離を抑制しつつ、積層編地により柔軟性を付与することができるため好ましい。
【0038】
本発明の積層編地においては、フィルム、トリコット編地Aおよびトリコット編地Bとの貼り合わせにおける剥離強力および洗濯・滅菌処理に対する耐久性の観点から、少なくとも片面が全面状に接着することが好ましい。積層編地に柔軟性が求められる場合は、片面の接着を部分接着にすることにより、耐久性を低下させずに柔軟性を向上させることが可能になる。この場合、点状、線状、市松模様、亀甲模様などの模様を描くがごとくに塗布すれば、フィルム又はトリコット編地の表面に接着剤を均一に配置できるので好ましい。
【0039】
本発明においては、前記3層積層編地とすることにより、フィルムの片面のみにトリコット編地を積層した場合に比べ、積層していない側のフィルム面が使用時や洗濯・滅菌時に傷ついた結果患部の血液等が進入する恐れがなく、加えて、加熱滅菌時にフィルム面同士が貼り付き、破れや剥離を引き起こす懸念が抑えられる。さらに、該トリコット編地は、その構造に起因して、伸縮性や柔軟性に優れていることから、医療用ドレープ、医療用シーツに好適に用いることができる。
【0040】
なお、3層積層すると該積層編地の重量が重くなりやすいため、積層編地の目付としては、350g/m以下であることが好ましく、300g/m以下であればなおよい。
【0041】
本発明の医療用積層編地は、濡れ戻り率60%以下であることが必要であり、55%以下であることがより好ましい。濡れ戻り率とは、本発明の医療用積層編地のトリコット編地A側の表面に、水1ml(W0)を滴下し、30秒後の拡散範囲と同じ面積にカットした濾紙(あらかじめ重量を測定;W1)を乗せ、その上にアクリル板を乗せ、荷重50gf/cmを掛けて水分を濾紙に吸収させ、その1分後に濾紙の重量(W2)を測定し、下記式により算出した値である。濡れ戻り率が60%を超えた場合は、手術時に患部から出る体液や血液を吸収しても、吸収部に触れることにより濡れ戻りが起こりやすく、感染が起こりやすくなる。
濡れ戻り率(%)=[(W2−W1)/W0]×100
【0042】
前記濡れ戻り率は、使用する構成糸の選択、吸水加工条件、トリコット編地条件などを適宜選択することにより、達成することができる。特に、単繊維繊度が0.6dtex〜1.5texのポリエステル仮撚加工糸からなるメッシュ組織のトリコット編地を用い、アニオン系ポリエステル系吸水加工剤に吸水加工を施すことにより、より良好な濡れ戻り性を示すことができる。加えて、該トリコット編地のメッシュ組織の凹部の深度を400〜500μmとすることにより、さらに良好な濡れ戻り性を示すことができる。
【0043】
さらに、本発明の医療用積層編地は、拡散面積が20cm以上であることが好ましい。ここで言う拡散面積とは、本発明の医療用積層編地のトリコット編地A側の表面に、水1mlを滴下し、30秒後の拡散範囲をマーキングし、その面積を算出した値である。拡散面積が20cm以上とすることにより、目的とする濡れ戻り率がより得られやすくなる。
【0044】
本発明の医療用積層編地は、JIS L1096 F−2法に基づく洗濯を10回繰り返した後、135℃×80分のオートクレーブ処理及び60分間タンブル乾燥工程を1サイクルとし、これを10サイクル繰り返した後のJIS L1092 6.1B法(高耐水圧法)に基づく耐水圧が150kPa以上である必要があり、200kPa以上が好ましい。耐水圧が150kPa未満の場合は、バクテリアバリア性が維持できないことが懸念され、患部の血液や体液等による感染が生じる可能性がある。
【0045】
本発明の医療用積層編地においては、特定のポリカーボネート系ポリウレタンフィルムの両面に特定のトリコット編地が貼り合わされた積層編地とすることで、該積層編地の洗濯・滅菌処理による耐久性を向上させることができる。特にポリカーボネートポリオール及び芳香族系ジフェニルメタンジイソシアアネートからなるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなるフィルムを用いることで、該積層編地の洗濯・滅菌処理による耐久性を顕著に向上させることができる。
【0046】
本発明の医療用積層編地を用いてドレープやシーツを作製する場合に、積層編地を全面に用いてもよいが、例えばドレープの場合には、患部周辺に本発明の医療用積層編地を用い、患部から離れた部分には耐久撥水加工を施した高密度織物等を用いたものを例示することが出来る。
【0047】
次に実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例、比較例における各種性能の評価は、下記の方法で行った。
【0048】
1.濡れ戻り性
前述の方法により測定した。
【0049】
2.洗濯・滅菌耐久性
JIS L1096 F−2法に基づく洗濯を10回繰り返した後、135℃×80分のオートクレーブ処理及び60分間タンブル乾燥工程を1サイクルとし、これを10サイクル繰り返した。その後、IS L1092 6.1B法(高耐水圧法)に基づく耐水圧を測定した。また、剥離・破れの有無を目視で確認した。
【0050】
3.積層編地の凹部の深度
前述の方法により測定した。
【0051】
4.伸長性
JIS L1096 A法(定速伸長法)に準じ、積層編地のタテ、ヨコの伸長率を測定した。
【0052】
実施例1
(トリコット編地A)
28ゲージトリコット編機を用い、ポリエチレンテレフタレートフィラメント仮撚加工糸84デシテックス72フィラメント(単繊維繊度:1.17dtex)を用いて、フロント筬組織として1―0/1―2,ミドル筬組織として1−0/1−2/2−3/2−1,バック筬組織として、2−3/2−1/1−0/1−2のトリコットメッシュ編地を製編した。次に、得られた編地を、ノニオン系活性剤を1g/Lを使用して液流染色機にて80℃で20分間精練した。そして、シュリンクサーファー型乾燥機にて150℃で乾燥させた後、180℃で1分間プレセットした。さらに、上記染色機を用いて下記処方1にて、130℃で30分間吸水処理を兼ねた染色を行なった。その後、上記乾燥機にて150℃で乾燥し、170℃で1分間仕上げセットして、生地密度35ウエール/2.54cm×43コース/2.54cmのトリコット編地Aを作製した。
(処方1)
分散染料 0.05%omf(Dianix Blue AC−E:ダイスタージャ パン株式会社製)
分散均染剤 0.5g/L(ニッカサンソルト SN−130:日華化学株式会社製)
酢酸(濃度48質量%) 0.2cc/L
吸水加工剤 2.0%omf(高松油脂株式会社製、商品名SR− 1000(アニオン性ポリエステル系樹脂))
(トリコット編地B)
同様に、28ゲージトリコット編機を用い、ポリエチレンテレフタレートフィラメントのフラットヤーン56デシテックス24フィラメントを用いて、フロント筬組織1−2/1−0,バック筬組織1−0/4−5のトリコットサテン編地を製編した。得られたトリコットサテン編地を用い吸水加工剤を使用しないこと以外は、トリコット編地Aと同じ方法で、生地密度32ウエール/2.54cm×35コース/2.54cmのトリコット編地Bを作製した。
(医療用積層編地)
そして、ポリプロピレン製押出ラミネート離型紙を用いて膜厚20μmのポリカーボネート系ポリウレタンフィルム(ポリオール:ポリカーボネートポリオール、イソシアネート:芳香族系ジフェニルメタンジイソシアアネート)を調整し、このフィルムに上述したトリコット編地Bのアンダーラップ側を、ポリカーボネートポリオール樹脂に芳香族系ポリイソシアネート架橋剤とアミン系促進剤を加えた接着樹脂を用いて、温度100℃×線圧1.5kg/cmの条件で全面状に加圧接着し、常温下で48時間放置・熟成して2層積層編地を作成した。この2層積層編地の離型紙を剥離し、市販のフッ素系撥水剤エマルジョン(旭硝子(株)製「アサヒガードAG−E061」、固形分20質量%)を用いて有効成分5質量%の水分散液にパディング法に準じて2層積層編地に水分散液をピックアップ率30%の割合で付与した。次に、フィルム面に上述のトリコット編地Aのアンダーラップ側を、同様の接着樹脂を用いて同条件にて加圧接着を行い、常温下で48時間放置・熟成して3層積層編地を作成した。この3層積層編地の両耳端をカットして巾を揃えた後、目付265g/mの本発明の医療用積層編地を得た。
【0053】
実施例2
トリコット編地Bとフィルムとの加圧接着を、42メッシュのドット状グラビアロールを用いて部分的接着に変更する以外は、実施例1と同様の方法で、目付260g/m本発明の医療用積層編地を得た。
【0054】
実施例3
トリコット編地Aに用いたポリエチレンテレフタレートフィラメント仮撚加工糸84デシテックス72フィラメント(単繊維繊度:1.17dtex)をポリエチレンテレフタレートフィラメント仮撚加工糸84デシテックス36フィラメント(単繊維繊度:2.33dtex)に変更する以外は、実施例1と同様の方法で本発明の医療用積層編地を得た。
【0055】
比較例1
28ゲージトリコット編機を用い、ポリエチレンテレフタレートフィラメント仮撚加工糸84デシテックス72フィラメント(単繊維繊度:1.17dtex)を用いて、組織1−0/1−2/2−3/2−1のトリコットシングルアトラス編地を製編し、実施例1と同様の方法で染色・吸水加工した生地密度40ウエール/2.54cm×70コース/2.54cmのトリコット編地Cを作製した。この編地Cをトリコット編地Aの代わりに用いて実施例1と同様の方法で目付200g/mの積層編地を得た。
【0056】
比較例2
28ゲージ両面丸編機を用い、表面、裏面ともにポリエチレンテレフタレートフィラメント仮撚加工糸84デシテックス72フィラメント用いて、2層構造のメッシュ丸編地Dを製編し、実施例1と同様の方法で染色・吸水加工した生地密度40ウエール/2.54cm×58コース/2.54cmの丸編地を作製した。この丸編地をトリコット編地Aの代わりに用いて実施例1と同様の方法で目付290g/mの積層編地を得た。
【0057】
比較例3
ウォータージェットルーム織機を用い、経糸・緯糸共に、ポリエチレンテレフタレートフィラメント仮撚加工糸84デシテックス72フィラメントを用いて、平織物を製織し、実施例1と同様の方法で染色・吸水加工した生地密度 経120本/吋×緯100/吋の織物を作製した。この織物をトリコット編地Aの代わりに用いて実施例1と同様の方法で目付260g/mの積層生地を得た。
【0058】
比較例4
ポリカーボネート系ポリウレタンフィルムの代わりにエステル系ポリウレタンフィルムを用いる以外は実施例1と同様の方法で、比較例4の積層編地を得た。
【0059】
実施例1〜3及び比較例1〜4の積層生地について、前述した諸性能を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示す通り、実施例1については、濡れ戻りが少なく、洗濯・滅菌耐久性にも優れ、医療用ドレープ、シーツとして好適であることが実証された。実施例2については、接着方法が部分的であったため洗濯・滅菌処理により部分的に小さな剥離が見られたものの、濡れ戻り率は低く、耐水圧は150kPa以上を維持しており、医療用ドレープ、シーツとして実用上問題のないことが実証された。実施例3については、トリコット編地Aに用いたポリエチレンテレフタレートフィラメント仮撚加工糸の単繊維繊度が比較的大きいものであったため、やや濡れ戻り率は大きくなったが、医療用ドレープ、シーツとして実用上問題のないことが実証された。一方、比較例1は、使用しているトリコット編地Aが1枚筬の組織で構成されているため、濡れ戻り率が大きく、医療用ドレープ、シーツ用には不適であった。比較例2については、使用している編地が丸編地であるため、滅菌による寸法変化が大きく全面に剥離が発生し、十分な耐久性が維持出来ていないものであった。比較例3は、織物を使用しているため、濡れ戻り性が大きく、さらに風合いが硬いため、洗濯・滅菌により大きな剥離が全面に剥離が発生し、十分な耐久性が維持出来ていないものであった。比較例4は、フィルムとしてエステル系ポリウレタンフィルムを使用しているため、耐水圧が低く、さらに洗濯・滅菌によりフィルムの劣化が発生した。