特許第6005002号(P6005002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6005002
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 43/00 20060101AFI20160929BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20160929BHJP
   F25B 1/04 20060101ALI20160929BHJP
【FI】
   F25B43/00 D
   F25B1/00 396B
   F25B1/04 Y
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-143379(P2013-143379)
(22)【出願日】2013年7月9日
(65)【公開番号】特開2015-17720(P2015-17720A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2015年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】515294031
【氏名又は名称】ジョンソンコントロールズ ヒタチ エア コンディショニング テクノロジー(ホンコン)リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多田 修平
(72)【発明者】
【氏名】横関 敦彦
(72)【発明者】
【氏名】坪江 宏明
【審査官】 安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−278045(JP,A)
【文献】 特開2001−227822(JP,A)
【文献】 特開2001−248941(JP,A)
【文献】 特開2005−164209(JP,A)
【文献】 特開2008−209059(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0120120(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 43/00
F25B 1/00
F25B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒としてR32を70重量%以上含む冷媒を用い、ガス冷媒を吐出する圧縮機と、冷媒を開口部から吸入して前記圧縮機に供給する供給配管を有するアキュムレータとを備える空気調和機であって、
定格冷房能力をQ[kW]としたときに、前記供給配管の内径Du[m]が、
0.7×10−3×Q≦Du≦1.6×10−3×Q
の範囲内に設定され、
前記供給配管には、前記アキュムレータに溜められた液冷媒を含む液を前記供給配管内に導入する第1の導入穴が形成され、
前記第1の導入穴から前記開口部までの高さを前記アキュムレータの有効高さH[m]とし、前記有効高さHが0.5mより小さい場合、前記第1の導入穴の内径Do[m]が、
Do=−1.79×10−6×Q+1.02×10−4×Q+1.25×10−3
で算出される値に対して±1.0×10−3mの範囲内に設定されている空気調和機。
【請求項2】
冷媒としてR32を70重量%以上含む冷媒を用い、ガス冷媒を吐出する圧縮機と、冷媒を開口部から吸入して前記圧縮機に供給する供給配管を有するアキュムレータとを備える空気調和機であって、
定格冷房能力をQ[kW]としたときに、前記供給配管の内径Du[m]が、
0.7×10−3×Q≦Du≦1.6×10−3×Q
の範囲内に設定され、
前記供給配管には、前記アキュムレータに溜められた液冷媒を含む液を前記供給配管内に導入する第1の導入穴が形成され、
前記第1の導入穴から前記開口部までの高さを前記アキュムレータの有効高さH[m]とし、前記有効高さHが0.5m以上の場合、前記第1の導入穴の内径Do[m]が、
Do=−1.79×10−6×Q+1.02×10−4×Q+1.25×10−3
で算出される値に対して+0〜−1.0×10−3mの範囲内に設定されている空気調和機。
【請求項3】
前記圧縮機の吸入乾き度が0.85より高い請求項1に記載の空気調和機。
【請求項4】
前記供給配管には、前記第1の導入穴よりも上側の位置に第2の導入穴が形成され、
前記アキュムレータ内の前記液の液面高さが、前記第2の導入穴の位置に達した状態において、前記圧縮機の吸入乾き度が、0.58以上かつ0.65以下となる請求項2に記載の空気調和機。
【請求項5】
暖房運転時に前記アキュムレータに溜まる前記液の質量をWraH[kg]、
除霜運転時に 前記暖房運転時に溜まった前記液に加え、さらに前記アキュムレータに溜まる液の質量をWraD[kg]、
前記液の密度をρL[kg/m]、
前記アキュムレータの横断面積をA[m]とした場合、
前記第1の導入穴から前記第2の導入穴までの高さho[m]は、
WraH/(ρL・A)<ho<(WraH+WraD)/(ρL・A)
に設定される請求項4に記載の空気調和機。
【請求項6】
開閉弁を有し、前記アキュムレータ内の前記液を導入して前記供給配管の出口側に導くバイパス回路を更に備え、
前記開閉弁を開状態にすることにより、前記圧縮機の吸入乾き度を、0.58以上かつ0.65以下にする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の空気調和機。
【請求項7】
前記圧縮機は、高圧チャンバ方式の圧縮機である請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の空気調和機。
【請求項8】
定格冷房能力が7.1kW〜30.0kWである請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の空気調和機。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキュムレータを備えた空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の空気調和機では、HFC系冷媒のR32を用いたことにより、圧縮機の吐出温度が冷媒R410Aより10〜15℃高くなることを抑制するため、圧縮機の吸入側での冷媒かわき度を0.65以上かつ0.85以下にしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3956589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地球温暖化係数が比較的小さい冷媒として知られるR32は、R410Aと比較し吐出温度が上昇する傾向がある。吐出温度の上昇を回避するために特許文献1では、圧縮機の吸入側の冷媒乾き度を小さくしている。これにより、吐出温度の過昇による圧縮機の信頼性低下を抑制している。
【0005】
しかし、非常に低い外気温度の暖房運転時など、運転条件によっては、圧縮機の吸入乾き度の過剰な低下によって、液圧縮や冷凍機油の粘度の低下による圧縮機の摺動部の潤滑性悪化など、圧縮機の信頼性が悪化する課題があった。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、冷媒としてR32を用いて非常に低い外気温度条件において暖房運転したとしても、圧縮機の信頼性を確保可能な空気調和機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明の一態様である空気調和機は、冷媒としてR32を70重量%以上含む冷媒を用い、ガス冷媒を吐出する圧縮機と、冷媒を開口部から吸入して前記圧縮機に供給する供給配管を有するアキュムレータとを備える空気調和機であって、定格冷房能力をQ[kW]としたときに、前記供給配管の内径Du[m]が、
0.7×10−3×Q≦Du≦1.6×10−3×Q
の範囲内に設定され、
前記供給配管には、前記アキュムレータに溜められた液冷媒を含む液を前記供給配管内に導入する第1の導入穴が形成され、前記第1の導入穴から前記開口部までの高さを前記アキュムレータの有効高さH[m]とし、前記有効高さHが0.5mより小さい場合、前記第1の導入穴の内径Do[m]が、
Do=−1.79×10−6×Q+1.02×10−4×Q+1.25×10−3
で算出される値に対して±1.0×10−3mの範囲内に設定されている。
【0008】
また、本発明の他の一態様である空気調和機は、冷媒としてR32を70重量%以上含む冷媒を用い、ガス冷媒を吐出する圧縮機と、冷媒を開口部から吸入して前記圧縮機に供給する供給配管を有するアキュムレータとを備える空気調和機であって、定格冷房能力をQ[kW]としたときに、前記供給配管の内径Du[m]が、
0.7×10−3×Q≦Du≦1.6×10−3×Q
の範囲内に設定され、
前記供給配管には、前記アキュムレータに溜められた液冷媒を含む液を前記供給配管内に導入する導入穴が形成され、前記導入穴から前記開口部までの高さを前記アキュムレータの有効高さH[m]とし、前記有効高さHが0.5m以上の場合、前記導入穴の内径Do[m]が、
Do=−1.79×10−6×Q+1.02×10−4×Q+1.25×10−3
で算出される値に対して+0〜−1.0×10−3mの範囲内に設定されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷媒としてR32を用いて非常に低い外気温度条件において暖房運転したとしても、圧縮機の信頼性を確保可能な空気調和機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施の形態による空気調和機の冷凍サイクル系統図である。
図2】本発明の第1の実施の形態によるアキュムレータの内部構造を示す図である。
図3】アキュムレータのU字管の内径と定格冷房能力との関係を示す図である。
図4】アキュムレータのU字管の内径と圧力損失との関係を示す図である。
図5】アキュムレータの返油穴の内径の範囲についての説明図である。
図6】冷媒循環量と圧縮機の吸入乾き度との関係を示す図である。
図7】本発明の第2の実施の形態によるアキュムレータの内部構造を示す図である。
図8】アキュムレータ内の液面高さと圧縮機の吸入乾き度との関係を示す図である。
図9】空気調和機における(a)吸入乾き度Xsが0.65の場合、(b)吸入乾き度Xsが0.9の場合のモリエル線図(P−h線図)である。
図10】除霜運転時の吸入乾き度と除霜時間との関係を示す図である。
図11】スクロール型の圧縮機の内部構造を示す図である。
図12】本発明の第3の実施の形態によるアキュムレータの内部構造を示す図である。
図13】冷媒循環量と圧縮機の吸入乾き度との関係を示す図である。
図14】本発明の第3の実施の形態によるアキュムレータの内部構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の第1の実施の形態の空気調和機1について、図面に基づいて説明する。図1は、第1の実施の形態による空気調和機1の冷凍サイクル系統図である。本実施の形態の空気調和装置1で使用する冷媒は、R32冷媒、もしくは、R32を70重量%以上含む混合冷媒である。
【0012】
空気調和機1は、室外機10と室内機30とを備えている。室外機10と室内機30とは、ガス接続配管2および液接続配管3により接続される。本実施の形態では、室外機10と室内機30とを1対1で接続しているが、一台の室内機に対し複数台の室外機を接続しても良いし、一台の室外機に対し複数台の室内機を接続しても良い。
【0013】
室外機10は、圧縮機11と、四方弁12と、室外熱交換器13と、室外送風機14と、室外膨張弁15と、アキュムレータ20と、圧縮機吸入配管16と、ガス冷媒配管17とを有している。
【0014】
圧縮機11とアキュムレータ20とは圧縮機吸入配管16により接続され、四方弁12とアキュムレータ20とは冷媒配管17により接続されている。
【0015】
圧縮機11は、冷媒を圧縮して配管に吐出する。四方弁12を切り替えることで、冷媒の流れが変化し、冷房運転と暖房運転が切り替わる。室外熱交換器13は、冷媒と外気の間で熱交換させる。室外送風機14は、室外熱交換器13に対し外気を供給する。室外膨張弁15は、冷媒を減圧して低温にする。アキュムレータ20は、過渡時の液戻りを貯留するために設けられており、冷媒を適度な乾き度に調整する。
【0016】
室内機30は、室内熱交換器31と、室外送風機32と、室内膨張弁33とを備える。室内熱交換器31は、冷媒と内気の間で熱交換させる。室外送風機32は、室外熱交換器31に対し外気を供給する。室内膨張弁33は、その絞り量を変化させることにより室内熱交換器31を流れる冷媒の流量を変化させることが可能である。
【0017】
次に、空気調和機1における冷房運転について説明する。図1における実線の矢印は、空気調和機1の冷房運転における冷媒の流れを示している。冷房運転において四方弁12は、実線で示すように、圧縮機11の吐出側と室外熱交換器13とを連通させ、アキュムレータ20とガス接続配管2とを連通させる。
【0018】
そして、圧縮機11より圧縮され吐出された高温高圧のガス冷媒は、四方弁12を経由して、室外熱交換器13に流入し、室外送風機14により送風された室外空気により冷却されて凝縮される。凝縮した液冷媒は、室外膨張弁15および液接続配管3を通過して、室内機30へ送られる。室内機30に流入した液冷媒は、室内膨張弁33で減圧され、低圧低温の気液二相冷媒になり室内熱交換器31に流入する。室内熱交換器31において、気液二層液冷媒は、室内送風機32によって送風される室内空気により加熱されて蒸発し、ガス冷媒となる。この際に、室内空気が冷媒の蒸発潜熱により冷却され、冷風が室内に送られる。その後、ガス冷媒は、ガス接続配管2を通って、室外機10に戻される。
【0019】
室外機10に戻ったガス冷媒は、四方弁12およびガス冷媒配管17を通過し、アキュムレータ20へと流入する。アキュムレータ20で所定の冷媒かわき度に調整され、圧縮機吸入配管16を介して圧縮機11に吸入され、再度圧縮機11で圧縮されることにより、一連の冷凍サイクルが形成される。
【0020】
次に、空気調和機1における暖房運転について説明する。図1における点線の矢印は、空気調和機100の暖房運転における冷媒の流れを示している。暖房運転において四方弁12は、点線で示すように、圧縮機11の吐出側とガス接続配管2とを連通させ、アキュムレータ20と室外熱交換器13とを連通させる。
【0021】
そして、圧縮機11より圧縮され吐出された高温高圧のガス冷媒は、ガス接続配管2および四方弁12を通過して、室内機30へ送られる。室内機30に流入したガス冷媒は、室内熱交換器31に流入し、室内送風機32により送風された室内空気によって冷媒が冷却されて凝縮し、高圧の液冷媒となる。この際に、室内空気は冷媒によって加熱され、温風が室内に送られる。その後、液化した冷媒は、室内膨張弁33および液接続配管3を通過して、室外機10へと戻される。
【0022】
室外機10へ戻った液冷媒は、室外膨張弁15で所定量減圧されて、低温の気液二相状態となり、室外熱交換器13に流入する。室外熱交換器13に流入した冷媒は、室外送風機14により送風された室外空気と熱交換し、低圧のガス冷媒となる。室外熱交換器13から流出したガス冷媒は、四方弁12およびガス冷媒配管17を通って、アキュムレータ20に流入し、アキュムレータ20で所定の冷媒かわき度に調整され、圧縮機11に吸入され、再度圧縮機11圧縮されることにより一連の冷凍サイクルが形成される。
【0023】
次に、本実施の形態の空気調和機1のアキュムレータ20の構造および動作について、図2を参照して説明する。図2は、第1の実施の形態におけるアキュムレータ20の内部構造を示す図である。
【0024】
図2に示すように、アキュムレータ20は、本体部21と、入口配管22と、U字管23とを備える。本体部21は、有蓋有底円筒状であり、液冷媒を含む液Fを貯留可能に構成される。例えば、定格冷房能力が14kWの場合では、本体部21の円筒部の径が約10cm、本体部21の高さが約55cmであるアキュムレータ20が使用される。入口配管22は、冷媒を流入させるための配管であり、一端部がガス冷媒配管17に接続され、他端部が本体部21内の上部において水平方向に向かって開口している。U字管23は、冷媒を圧縮機11へ流出させるための配管であり、略U字状をなし、一端部が圧縮機吸入配管16に接続され、他端部が本体部21内の上部において上方に向かって開口している。なお、U字管23は供給配管に相当する。
【0025】
U字管23の下部(曲管部)には、第1の導入穴に相当する返油穴23aが形成されている。また、U字管23の圧縮機吸入配管16側の上部には均圧穴23bが形成されている。均圧穴23bは、液面高さhL(返油穴23aの中心部から液面FLまでの高さ)が高い状態において、圧縮機11が起動された際に、アキュムレータ20の上部空間にあるガス冷媒を吸い込んで、圧縮機11の吸入乾き度を高くし、圧縮機11が液圧縮で損傷するのを防止する。
【0026】
アキュムレータ20へ流入する冷媒が気液二相状態の場合には、本体部21に流入した冷媒は一旦、気液の密度差によって気液分離され、アキュムレータ20の下部には液、上部にはガス冷媒が溜められる。その後、アキュムレータ20の上部に溜められたガス冷媒は、U字管23の開口部(他端部)と均圧穴23bから吸入され、下部に溜められる液は返油穴23aから吸い上げられる。
【0027】
ここで、返油穴23aより吸い込まれる液冷媒の循環量(質量流量)GL[kg/s]は、返油穴23a近傍におけるU字管23の内部とU字管23の外部(開口部)との差圧をΔPo[Pa]、返油穴23aの内径をDo[m]として以下の数式1のように表される。
[数式1]
ここで、aは流量係数を表し、返油穴23aの穴径が小さいほど小さくなる特性を有しているが、ここではその特性を省略してa=f(Do)と表記しており、a=f(Do)とは、aがDoの関数であることを示している。
【0028】
また、返油穴23a近傍におけるU字管23の内部とU字管23の外部との差圧をΔPoは、U字管23内のガス冷媒の流速U[m/s]および、ガス冷媒密度ρ[kg/m]、液面高さhL[m]などを用いて以下の数式2のように表される。
[数式2]
ΔPo=(1+ζ+λ×Lo/Du)U×ρ/2+ρL×g×hL
ここで、ζはU字管23の入口部の縮流損失係数、λは管摩擦係数、Lo[m]はU字管入口から返油穴23aまでの相当長、Du[m]はU字管23の内径、ρL[kg/m]は液密度、g[m/s]は重力加速度である。
【0029】
数式2によれば、ΔPoは、U字管23の内径Duが大きいほど小さくなり、液面高さhLが低いほど小さくなることが分かる。更に数式2を数式1に代入すると、返油穴23aの内径Doが小さい、またはU字管の内径Duが大きい、または液面高さhLが低いほど、返油穴23aから吸い込まれる液冷媒量GLは少なくなる。その結果、冷媒の圧縮機11における吸入乾き度Xsが高くなることが分かる。
【0030】
また、U字管23の内径Duは小さいほど、乾き度が小さくなる一方、U字管23内の圧力損失は増大する。そして、本実施の形態では、U字管23の内径Duは、定格冷房能力Q[kW]との関係において、図3の直線L1と直線L2との間の範囲R1、すなわち数式3を満たす範囲に設定されている。
[数式3]
0.7×10−3×Q≦Du≦1.6×10−3×Q
【0031】
図3のL1は、Du=0.7×10−3×Qに対応し、L2は、Du=1.6×10−3×Qに対応している。U字管23の内径Duが、図3の直線L1よりも下側の値であるとU字管23の圧力損失が増加し、消費電力の増加につながり、空気調和機1の成績係数(Coefficient of Performance:COP)が低下する。
【0032】
例えば、空気調和機1の定格冷房能力Qが14kWの場合、U字管23の内径DuとU字管23の圧力損失、成績係数との関係は、図4の曲線C、曲線Caのようになる。曲線CaはU字管の内径Duが1.7×10−2mの成績係数を100%としたときの成績係数の低下割合を示す。図4の曲線Cに示すように、U字管23の内径Duが小さくなると圧力損失が大きくなる。アキュムレータ20のU字管23の圧力損失が増加すると、圧縮機11の吸入側の冷媒圧力が低下する。このため、空気調和機1として一定の空調能力を発生させるためには、圧縮機11の回転数の増加を必要とし、消費電力の増加につながり、空気調和機1の成績係数が曲線Caのように低下する。実際の空気調和機1では、U字管23の圧力損失が35kPa以下であれば、成績係数の低下が1%以内となり許容可能な値となる。
【0033】
図4において圧力損失が35kPa以下となるのは、U字管23の内径Duが9.8×10−3m以上の場合である。そして、図3の直線L1上の点A1において、定格冷房能力Qが14kWであり、U字管23の内径Duが9.8×10−3mとなる。
【0034】
一方、U字管23の内径Duが、図3の直線L2よりも上側の値であるとアキュムレータ20の寸法が大きくなる。具体的には、U字管23の内径Duが大きいほど曲げ加工が可能な最小半径が大きくなるため、U字管23を収納するアキュムレータ20の本体部21の胴径は大きくなり、室外機10内への設置スペースの増大を招く。このため、室外機10をコンパクトにすることができない。
【0035】
なお、定格冷房能力Qが14kWのときに、U字管23の内径Duが2.24×10−2mより大きくなると、一般的に定格冷房能力Qが14kWで使用されるアキュムレータのサイズよりも大きくなってしまう。そして、図3の直線L2上の点A2において、定格冷房能力Qが14kWであり、U字管23の内径Duが2.24×10−2mとなる。よって、定格冷房能力Qが14kWの空気調和機の場合には、U字管の内径Duは9.8×10−3〜2.24×10−2mの範囲内で選択され、例えば、図3の点A3である1.705×10−2mが選択される。
【0036】
以上のように、U字管23の内径Duを、定格冷房能力Qとの関係において、数式3を満たすように設定すれば、アキュムレータ20の小型化を図ることができ、R32からなる冷媒を圧縮機11において適度な吸入乾き度にすることができる。
【0037】
次に、図5を用いて、数式3を満たすU字管23の返油穴23aの内径Do[m]について説明する。返油穴23aの内径Doの大きさは圧縮機11の吸入乾き度に影響を及ぼす。まず、乾き度について詳細に説明する。吸入乾き度Xsとは、冷媒の全循環量に占めるガス冷媒の質量流量割合であり、数式4で表される。
[数式4]
Xs=1−GL/Gr
ここで、Grは冷媒の全質量流量[kg/s]、GL[kg/s]は液冷媒の質量流量であり、吸入乾き度Xの添え字sは圧縮機11の吸入部を表している。
【0038】
なお、アキュムレータ20と圧縮機11とを接続する圧縮機吸入配管16が比較的短く、それらの間の圧力損失や、吸熱量などが少ない場合には、圧縮機11の吸入乾き度Xsは、アキュムレータ20の出口での乾き度にほぼ等しくなる。したがって、アキュムレータ20の出口側において乾き度が設定できれば、圧縮機11の吸入乾き度を所望の値にコントロールすることは容易である。
【0039】
そして、本実施の形態では、圧縮機11の吸入乾き度が、0.85より大きくなるように、返油穴23aの内径Doを設定している。具体的には、返油穴23aの内径Doは、アキュムレータの有効高さHが0.5mより小さい場合、定格冷房能力Qとの関係において、下記の数式5から算出される値に対して、±1.0×10−3mを満たすように設定している。
[数式5]
Do=−1.79×10−6×Q+1.02×10−4×Q+1.25×10−3
すなわち、返油穴23aの内径Doは、図5(a)における曲線B1と曲線B2との間の範囲R2内に入るように設定されている。なお、アキュムレータ20の有効高さとは、図2に示すように返油穴23aの中心部からU字管23の開口部までの高さである。
【0040】
返油穴23aの内径Doが、曲線B1よりも大きくなると、吸入乾き度Xsが0.85よりも小さくなってしまう。一方、曲線B2よりも小さくなると、酸化スケールやスラッジなどのサイクル内に混入する異物により返油穴23aが閉塞してしまう。
【0041】
図5における曲線B1は、Do=−1.79×10−6×Q+1.02×10−4×Q+2.25×10−3に対応し、曲線B2は、Do=−1.79×10−6×Q+1.02×10−4×Q+0.25×10−3に対応し、曲線B3は数式5に対応する。
【0042】
また、返油穴23aの内径Doは、アキュムレータ20の有効高さHが0.5m以上の場合、定格冷房能力Qとの関係において、数式5から算出される値に対して、+0〜−1.0×10−3mを満たすように設定している。すなわち、返油穴23aの内径Doは、図5(b)における曲線B2と曲線B3との間の範囲R3内に入るように設定されている。
【0043】
返油穴23aの内径Doが、曲線B3よりも大きくなると、吸入乾き度Xsが0.85よりも低くなってしまう。一方、曲線B2よりも小さくなると、酸化スケールやスラッジなどのサイクル内に混入する異物により返油穴23aが閉塞してしまう。
【0044】
アキュムレータ20の有効高さHに応じて、返油穴23aの内径Doの設定範囲を変更する理由を以下に示す。
【0045】
アキュムレータ20の有効高さHが低い場合、すなわちアキュムレータ20の有効高さHが0.5mより小さい場合、想定される最大の液面FLの高さが低い。よって、アキュムレータ20内に溜まる液冷媒の絶対量が少なく、液面FLの高さは低くなり、液冷媒の液ヘッド(液面と返油穴23aとの差)は小さくなる。したがって、返油穴23aの内径Doの範囲R2を広めに設定したとしても、吸入乾き度Xsが0.85より高くなることはない。
【0046】
これに対し、アキュムレータ有効高さHが高い場合、すなわちアキュムレータ20の有効高さHが0.5m以上の場合、アキュムレータ20に過渡的に多くの液冷媒が溜まることが想定される。そして、溜まった液冷媒の液ヘッドにより、有効高さHが低い場合よりも多くの液冷媒が返油穴23aから吸い込まれる可能性がある。その結果、液戻り過多により、吸入乾き度が小さくなり、圧縮機11の信頼性が低下する。これを防止するために、返油穴23aの内径Doの範囲R3を、アキュムレータ20の有効高さHが0.5mより小さい場合の範囲R2の返油穴23aの内径Doが小さい側に設定し、返油穴23aからの吸い込まれる液冷媒の量が過度に増加しないようにしている。
【0047】
一例として、定格冷房能力が14kWである空気調和機1の場合について説明を行う。例えば、U字管の内径Duを数式3で算出される値は、Du=9.8×10−3〜2.24×10−2mであり、ここでは、図3の点Aで示されるDu=1.705×10−2mに設定する。次に、返油穴径Doは数式5により算出され、0.0023±0.001mの範囲に設定すると良い。ここでは、Do=0.0023[m]に設定した場合を点Bで示している。
【0048】
冷媒R32のような吐出温度が上昇しやすい特性を有する冷媒を用いた場合、吐出温度を抑制するように室外膨張弁15を制御すると、過剰な液戻りが生じやすい。しかし、上記のように、アキュムレータ20のU字管23の内径Du、Doの寸法を設定することにより、圧縮機11の吸入乾き度を確実に0.85よりも高くすることができる。よって、暖房運転時の−25℃という非常に低い外気温条件においても、液圧縮や冷凍機油の粘度の低下による圧縮機11の摺動部の潤滑性悪化を防止することができ、圧縮機11の信頼性を確保することができる。
【0049】
図6は、空気調和機1の定格冷房能力が14kWの時の圧縮機11の吸入乾き度Xsと冷媒循環量Grとの関係を示している。なお、空気調和機1の圧縮機11は、その回転数(周波数)を変更可能な可変速型圧縮機を用いた場合を示しており、圧縮機回転数N[s−1]が変化することで、横軸に示される冷媒循環量Gr[kg/s]が変化する。縦軸にはアキュムレータ20の特性(形状)から決定される吸入乾き度Xsを示している。そして、冷媒循環量GrのGr1とGr2との間の範囲R4が、空気調和機1の冷媒循環量の可変範囲である。すなわち、Gr1が、定格冷房能力が14kWである空気調和機1の冷媒循環量の下限値であり、Gr2がその上限値である。例えば、Gr1の値は、0.01kg/sであり、Gr2の値は、0.06kg/sである。
【0050】
図6において、実線で示す曲線C1は、定格冷房能力が14kWであって、Du=0.01705m、Do=0.0023m、液面高さhL=0.05mの場合の圧縮機11の吸入乾き度Xsの特性を示している。図6に示すように、本実施の形態のアキュムレータ20を備える空気調和機1においては、空気調和機1の運転範囲(冷媒循環量の可変範囲)の全領域で吸入乾き度を0.85より大きくすることができる。
【0051】
一方、図6において、破線で示す曲線C2は、定格冷房能力が14kWであって、Du=0.01705m、Do=0.0035m、液面高さhL=0.05mの場合の圧縮機11の吸入乾き度Xsの特性を示している。よって、曲線C2における返油穴23aの内径Doは、本実施の形態の内径Doの範囲外に設定されている。
【0052】
図6に示すように、曲線C2の特性では、冷媒循環量が少ない領域で吸入乾き度が0.85以下になっている。つまり、曲線C2の特性においては圧縮機11の信頼性の悪化につながる過剰な液戻り運転が生じることになる。
【0053】
以上のように、本実施の形態におけるアキュムレータ20の寸法に設定することによって、空気調和機1の冷媒循環量の可変範囲内において圧縮機11の吸入乾き度Xsを0.85より大きくすることができる。その結果、圧縮機11への過度な液戻りを抑えて、確実に圧縮機11の信頼性低下を防止できる。
【0054】
なお、定格冷房能力Qの範囲が7.1〜30.0kWである場合には、特に吸入乾き度を0.85より大きく設定する効果が顕著である。その理由は、7.1〜30.0kWの定格冷房能力の空気調和機1においては、室内機30の接続台数が多く、接続配管の長さも長くなる傾向があるため、室内機30の稼働台数の増減が生じた際にアキュムレータ20に過渡的に貯留される余剰冷媒の量が多くなるためである。すなわち、アキュムレータ20において適正な乾き度に設定しなければ、過剰な液戻りが生じて圧縮機11の損傷が生じ易くなる。
【0055】
また、定格冷房能力Qが7.1kWより小さい定格冷房能力の空気調和機においては、配管長が短く、封入冷媒量が少ないため、余剰冷媒が生じにくく、アキュムレータに溜まる冷媒量が極めて少ないため、液戻りによる信頼性悪化が生じにくい。
【0056】
一方、30.0kW以上の定格冷房能力Qを有する比較的大型の空気調和機においては、一般的に室外機の筐体寸法に余裕のある、いわゆるビル用マルチ型の形態を使用することが多く、アキュムレータだけでなく、高圧の液冷媒を保有するレシーバや、その他付属のバイパス回路等により、余剰冷媒量のコントロールが行ないやすいため、圧縮機への液戻りが容易に調整できるためである。
【0057】
次に、本発明の第2の実施の形態における空気調和機について、図面に基づいて説明する。本実施の形態の空気調和機と、第1の実施の形態の空気調和機1とでは、アキュムレータのみが異なるので、アキュムレータについてのみ説明する。図7は、本実施の形態におけるアキュムレータ40を示している。また、第1の実施の形態と同一の部材については同一の参照番号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0058】
アキュムレータ40のU字管23には、第2の導入穴に相当する上側返油穴23cが形成されている。上側返油穴23cは、冷媒の流れる方向において、返油穴23bの下流側に形成され、返油穴23aと均圧穴23bとの間に位置している。よって、上側返油穴23cは返油穴23aよりも高い位置ho[m]に設置されており、液面高さhL[m]が上側返油穴23cまで達した場合に、アキュムレータ40から液を多く流出させる、つまり乾き度を小さくする機能がある。
【0059】
次に、本実施の形態における空気調和機の除霜運転について説明する。第1の実施の形態において説明したように、空気調和機1は、冷房運転および暖房運転を行い、その運転動作の切り替えは四方弁12による冷媒の流れる方向の切り替えにより行われる。
【0060】
空気調和機において、暖房運転時に外気温度が所定温度以下になった場合には、蒸発器として作用している室外熱交換器13の表面には霜が付着することがある。このようなときに暖房運転が所定時間継続されると、霜により風路が閉塞されて風量が次第に低下し、暖房能力が低下する。
【0061】
そのため、一定の着霜量となった時点にて、室外熱交換器13に付着した霜を融解させる、いわゆる除霜運転が行われる。ここでは、暖房運転時の冷媒のサイクルと逆となる逆サイクル(冷房サイクル)除霜運転での除霜について説明する。
【0062】
除霜運転時には、室外送風機14は停止し、外気への放熱を避け、霜の融解に利用される熱量を確保する。また、室内送風機32も停止し、室内機30の吹出口から冷風が吹き出して室内にいる人へ不快感を与えることを防止する。
【0063】
除霜運転中の冷媒循環は冷房運転時の冷媒循環と同一方向であり、四方弁12は冷房モードに切り替えられる。すなわち、除霜運転中、冷媒は図1の実線の矢印で示す方向に沿って流れる。このため、圧縮機11から圧縮された高温高圧のガス冷媒は、四方弁12を経由し、室外熱交換器13へ流入する。室内熱交換器13へ流入した高温高圧のガス冷媒は、室外熱交換器13に付着する霜を冷媒の凝縮熱により加熱して融解する。
【0064】
室外熱交換器13にて霜の融解に使用され比エンタルピが小さくなった冷媒は、室外膨張弁15および液接続配管3を通過して、室内機30へ送られる。室内機30に流入した液冷媒は、室内膨張弁33にて所定量減圧され、送風をされていない室内熱交換器31を通過する際に暖房時に暖められていた熱交換器の熱容量を消費して加熱され、ガス接続配管2を通って、室外機10へと戻される。
【0065】
室外機10に戻った冷媒は、四方弁12およびガス冷媒配管17を通過し、アキュムレータ20へ流入する。冷媒が気液二相状態であれば、アキュムレータ20の下部に液冷媒を分離して貯留し、乾き度を所定値に調整した上で圧縮機11へと戻されて再度圧縮され、一連の冷凍サイクルが形成される。
【0066】
上記のように除霜運転時には、空気調和機は暖房運転とは逆サイクル(冷房サイクル)で動作する。よって、室内熱交換器31は、蒸発器として機能する。そして、室内熱交換器31に対する送風が止められているので、暖房運転時に室内熱交換器31に貯められていた熱容量が、次第に消費される。その結果、蒸発器として機能する室内熱交換器31における冷媒の蒸発が不十分となり、アキュムレータ40に乾き度の小さい冷媒、つまり液冷媒が多く流入する。
【0067】
このため、暖房運転時に溜まった液に加え、除霜運転時に液が流入するので、アキュムレータ40の下部には液が多く溜まり、液面高さhLが上昇する。液面高さhLが、上側返油穴23cの位置よりも上昇した際には、返油穴23aからの液流量に加えて、上側返油穴23cからの液流量が加わり、アキュムレータ40から流出する乾き度は低下する。
【0068】
次に、上側返油穴23cの高さho[m]の位置について説明する。なお、上側返油穴23cの高さhoは、返油穴23aの中心部から上側返油穴23cの中央部までの高さに相当する。
【0069】
除霜運転時にアキュムレータ40に貯留される液Fの質量WraD[kg]は、数式6で表される。
[数式6]
0.4Wrt≦WraD≦0.45Wrt
ここで、Wrt[kg]は、全冷媒封入量である。
【0070】
すなわち、数式6に示すように、除霜運転時には、全冷媒封入量の40〜45%の冷媒がアキュムレータ40に貯留される。また、暖房運転時にアキュムレータ40に貯留される液Fの質量WraH[kg]は、数式1および数式2により、液面高さhLを算出することにより求めることができる。
【0071】
そして、上側返油穴23cの高さhoは、以下の数式7を満たす範囲に設定される。
[数式7]
WraH/(ρL・A)<ho<(WraH+WraD)/(ρL・A)
ここで、ρLは液密度[kg/m]、A[m]はアキュムレータ40の本体部21の円筒部の水平断面積(横断面積)を示す。
【0072】
数式7に示すように、上側返油穴23cは、暖房運転時に溜まる液の液面FLより高い位置であって、暖房運転時に溜まった液に加えさらに除霜運転時に溜まる液の液面FLよりも低い位置に形成される。
【0073】
このような位置に上側返油穴23cを形成することにより、除霜運転時に圧縮機11の吸入乾き度Xsを0.58≦Xs≦0.65となるようにしている。図8に液面高さhLと吸入乾き度Xsとの関係を示している。図8に示すように、液面高さhLが、上側返油穴23cの高さhoよりも低い位置にある場合には、吸入乾き度Xsは0.85よりも高いが、液面高さhLが上側返油穴23cの高さhoよりも高くなると、図8の実線Sで示すように、吸入乾き度Xsは0.65よりも低くなる。なお、上側返油穴23cがない場合には、図8の点線Dで示すように、液面高さhLが上側返油穴23cの高さhoより高くなっても、吸入乾き度Xsは0.85よりも高いままである。
【0074】
図9は、空気調和機1におけるモリエル線図(P−h線図)を示しており、(a)は圧縮機11の吸入側の乾き度を比較的低くした場合(Xs=0.65)、(b)は圧縮機11の吸入側の乾き度を比較的高くした場合(Xs=0.9)を示している。なお、図9(a)は、空気調和機1の除霜運転時におけるモリエル線図を示しており、図9(b)は空気調和機1の除霜運転前の暖房運転時におけるモリエル線図を示している。
【0075】
図中の状態1a、1bは圧縮機11の入口での状態、状態2a、2bは圧縮機11の出口での状態、状態2a’、2b’は、圧縮機11の圧縮過程にて、圧縮機11の動力分のみを考慮した出口側の比エンタルピを示したものである。つまり、圧縮機11内部での熱影響を考慮しない圧縮機11の吐出状態である。さらに、状態3a、3bは室外熱交換器13の出口、状態4a、4bは室内熱交換器31の入口の状態を表す。曲線TaおよびTbは、各図における圧縮機吐出温度の等温線である。
【0076】
また、曲線C65(図9(a))およびC90(図9(b))は、それぞれ乾き度0.65および0.90の等乾き度線を表している。
【0077】
状態2a→3aおよび状態2b→3bの比エンタルピ変化Δh23aおよびΔh23bは、室外熱交換器13のおける放熱、つまり除霜に利用される熱量を示している。さらに、状態4a→1aおよび状態4b→1bの比エンタルピの変化は、室内熱交換器31およびガス接続配管2からの吸熱量を示している。
【0078】
図9(a)の吸入乾き度の低い(X=0.65)場合のくみ上げ側吸熱量に相当する比エンタルピ差Δh41と、図9(b)の吸入乾き度の高い(Xs=0.9)場合の比エンタルピ差Δh41とは等しい。つまり、ここでの吸熱量は暖房運転時に暖められた室内熱交換器31およびガス接続配管2の熱容量に依存するため、暖房運転時の吐出温度や運転圧力等が同等であれば吸熱量も等しくなるためである。
【0079】
また、図9(a)の状態1a→2aは、圧縮機11の入口および出口における比エンタルピ変化を示している。圧縮機11での圧縮過程において、圧縮機11の動力分のみでは、状態1a→2a’となる。しかし、図9(a)の状態1aでは吸入乾き度Xsが0.65であるため、気液二層状態をより長い時間経ることとなる。このため、暖房運転時に高温で運転されていた圧縮機11の熱容量より多く吸熱することができ、比エンタルピの変化は状態1a→2aとなる。このように、吸入乾き度Xsが0.65では、圧縮機11での圧縮過程における状態1a→2aの比エンタルピ変化を、状態1a→2a’の圧縮機11の動力分のみによる比エンタルピ変化と比較して大きくすることができる。
【0080】
これに対し、図9(b)の圧縮機11での圧縮過程における状態1b→2bの比エンタルピ変化は、状態1b→2b’の圧縮機11の動力分のみによる比エンタルピ変化と比較して、あまり大きくならない。これは、図9(b)の状態1bでは吸入乾き度Xsが0.9と比較的大きな値であるため、冷媒がすぐにガス状態となり、圧縮機11の熱容量をそれほど吸熱できないからである。
【0081】
その結果、吸入乾き度Xsが0.65の場合の、除霜に利用される加熱量に相当する比エンタルピ差Δh23aは、吸入乾き度Xsが0.9の場合の比エンタルピ差Δh23bに比べて大きくすることができる。よって、除霜運転時に吸入乾き度Xsを0.65にすれば、室外熱交換器13に付着した霜を効率的に融解することができる。すなわち、除霜運転で圧縮機11の吸入乾き度Xsを低く設定すれば、除霜運転を効率的に行なえることにつながる。
【0082】
次に、本実施の形態において、除霜運転時に圧縮機11の吸入乾き度Xsを0.58以上かつ0.65以下となるようにした理由について説明する。
【0083】
図10は、空気調和機1の除霜運転時の吸入乾き度Xs(横軸)と除霜時間(縦軸)との関係を示している。図10に示すように、吸入乾き度Xsが低くなると除霜時間が短くなる。なお、除霜時間は、暖房運転の停止時間に相当する。
【0084】
そして、吸入乾き度Xsが0.65では、除霜時間は約3分15秒であり、これ以上暖房の停止時間が長くなると、室温が下がるため、在室者が不快を感じる可能性が高くなる。よって、本実施の形態では、吸入乾き度Xsを0.65以下とし、空気調和機1の快適な運転を確保している。
【0085】
また、吸入乾き度Xsが0.58より低くなると、除霜運転時に液戻り運転となり、圧縮機11内の異常な圧力上昇や潤滑不良により摺動部摩耗が発生し、圧縮機11の信頼性を確保することができない。すなわち、吸入乾き度Xsが0.58よりも低い場合には、吸入冷媒に含まれる液冷媒量が多くなり急激な圧力上昇が生じやすくなる。さらに、吐出温度の上昇に伴い、冷凍機油の粘度が低下し圧縮機11の摺動部の潤滑が低下し、かじりや摩耗といった圧縮機11の信頼性が極端に低下する。
【0086】
したがって、除霜時間を短縮し、且つ圧縮機11の信頼性を担保するために、圧縮機11の吸入乾き度Xsを除霜運転時には0.58以上かつ0.65以下になるようにし、空気調和機1の信頼性を確保している。
【0087】
また、本実施の形態では、圧縮機11として高圧チャンバ方式のスクロール型の圧縮機を用いている。図11は、スクロール型の圧縮機11の内部構造を示す図である。図11に示すように、スクロール型の圧縮機11は、吸入パイプ101と吐出パイプ102とが設けられた圧力容器103を備える。圧力容器103により吐出圧室103aが形成される。圧力容器103内には、電動機104と圧縮機構部105とが収容され、下部には冷凍機油が貯留されている。
【0088】
圧縮機構105は、渦巻状のガス通路を有する固定スクロール106と、渦巻状ラップ107を有する旋回スクロール108とを備える。旋回スクロール107は、固定スクロール106に対して相対的に移動可能に配置され、固定スクロール106と旋回スクロール107とが互いにかみ合わさることにより圧縮室109が形成される。旋回スクロール107は、その自転を阻止しながら、公転運動させるオルダムリングに連結されるとともに、電動機104により回転駆動されるクランク軸110の偏心部分111に連結される。また、固定スクロール106には吐出口106aが形成されている。
【0089】
電動機104の駆動により、クランク軸110を回転させ、旋回スクロール108を旋回させながら、吸入パイプ101から吸込んだ冷媒を圧縮室109に導入し、順次圧縮する。圧縮された冷媒は、固定スクロール106の吐出口106aから吐出圧室103aに排出される。
【0090】
このように、スクロール型の圧縮機11では、冷媒が吐出されるまでに、圧縮機11が数回回転するように構成されている。よって、圧縮室109内での冷媒の滞在時間を長く、冷媒が接する圧縮室109の表面積が大きい。
【0091】
このため1回転で圧縮工程が完了するロータリ型やレシプロ型といった他の方式の圧縮機よりも圧縮過程における冷媒の圧縮室109での滞在時間が長く、圧縮途中の冷媒が接している圧縮室109の表面積も広いため、除霜運転時において圧縮機11内部での高温部からの吸熱量を増大させることができる。
【0092】
また、本実施の形態の圧縮機11は、高圧チャンバ方式の圧縮機であるので、冷凍サイクルが通常運転時に、吐出ガスによって他の方式の圧縮機に比べ、多くの熱量を蓄えることができる。したがって、圧縮機11として高圧チャンバ方式の圧縮機を用いることにより、除霜運転時に利用できる圧縮機11の熱容量が大きくなり、除霜に利用する加熱量を増加させることができる。
【0093】
また、除霜運転時に吸入乾き度の比較的小さな冷媒(気液二相状態の冷媒)を吸入した場合であっても、圧縮機11の熱容量が大きいので、全ての冷媒をガス冷媒にすることができる。その結果、液圧縮のリスクを減らせるとともに、湿り運転による油の希釈から生じる潤滑性悪化を緩和する効果が得られるため、除霜運転時の圧縮機11へのダメージを回避することが可能である。
【0094】
次に、本発明の第3の実施の形態における空気調和機について、図面に基づいて説明する。本実施の形態の空気調和機と、第1の実施の形態の空気調和機1とでは、アキュムレータのみが異なるので、アキュムレータについてのみ説明する。図12は、本実施の形態におけるアキュムレータ50を示している。また、第1の実施の形態と同一の部材については同一の参照番号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0095】
図12に示すように、U字管23の出口側には、開閉弁24を有する液バイパス回路25が接続されている。液バイパス回路25の下部は、液面FLより下側に位置している。そして、開閉弁24を開状態にすることにより、液バイパス回路25の下端から液を導入し、アキュムレータ50の流出側に導き、吸入乾き度を低下させる。
【0096】
つまり、本実施の形態では、冷房・暖房運転時においては、開閉弁24を閉状態にして、吸入乾き度Xsを0.85より高く保ち、除霜運転時においては、開閉弁24を閉状態にして、液をU字管23に導入し、冷媒の吸入乾き度Xsを0.58以上かつ0.65以下となるようにしている。なお、液の流出量、つまり乾き度の低下量(吸入乾き度)は、U字管23の圧力損失による差圧ΔPu[Pa]と、液面とのヘッド差hLb[m]、および液バイパス回路25の圧力損失に依存する。よって、除霜運転時の液面上昇を考慮して、除霜運転時の吸入乾き度が0.58以上かつ0.65以下になるように液バイパス回路25の寸法が設定される。
【0097】
図13は、圧縮機11の吸入乾き度Xsと冷媒循環量Grとの関係を示している。冷媒循環量GrのGr3とGr4との間の範囲R5が、空気調和機の除霜運転時の冷媒循環量の可変範囲である。開閉弁24を開状態にした時には、図13の実線Sで示すように、吸入乾き度Xsが0.58以上かつ0.65以下に低下する。一方、開閉弁24を閉状態にした時には、図13の点線Cで示すように吸入乾き度Xsは、0.85よりも高くなる。
【0098】
すなわち、除霜運転時には、開閉弁24を開状態にして吸入乾き度Xsを0.58以上かつ0.65以下とすることができ、暖房運転時には、開閉弁24を閉状態にして吸入乾き度Xsを0.85よりも高くすることができる。このような構成によれば、任意のタイミングにて吸入乾き度Xsの設定を変更することが可能となり、運転状態に応じた最適な吸入乾き度の制御が実施され、圧縮機11の信頼性をより高めることが可能となる。
【0099】
なお、上述した本発明の実施形態および実施例は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態あるいは実施例のみに限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【0100】
例えば、第3の実施の形態のアキュムレータ50の変形例として、図14に示すアキュムレータ60のように、開閉弁26を有する液バイパス回路27の一端部を本体部21の下部に貫通させ、他端部をU字管23の出口側に接続するようにしても良い。そして、開閉弁26を開閉することにより、吸入乾き度Xsを制御するようにしても良い。
【0101】
かかる構成によれば、第3の実施の形態のアキュムレータ50よりも、液ヘッド差hLb[m]の違いにより液バイパス量を多くすることができる。これにより、より広い運転範囲で吸入乾き度の調整を行なうことが可能になる。
【符号の説明】
【0102】
1:空気調和機、11:圧縮機、20、40、50:アキュムレータ、23:U字管、23a:返油穴、23c:上側返油穴、24、26:開閉弁、25、27:液バイパス回路
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