【実施例】
【0041】
次に実施例をあげて本発明をさらに説明する。
【0042】
(実施例1)
[円板状の成形体の作製とスカイブシートの作製]
−1−
融点が310℃、MFRが2.0のペレット状のPFA原料を用いて、トランスファー成形法により成形体を得た後、温度300℃にてアニーリングを行って、外径が300mm、内径が50mm、高さが15mmの直円筒状(円板状)の成形体の多数個を得た。
【0043】
−2−
次に、この円板状の成形体をその中心軸周りに回転させながら、その外周面側から刃を押し当ててスカイブ(かつら剥き)することにより、厚み0.98mmのスカイブシートを作製した。
【0044】
[製品ガスケットの作製]
−1−
このようにして得られたスカイブシートを所定の寸法に打ち抜き加工すると共に、製品ガスケットの中心箇所に形成する打ち抜き孔も同時に形成した。
【0045】
−2−
そして、得られた打ち抜き品を金型に供給し、温度270℃に加熱してから100kg/cm2の圧力条件にて加圧した後、その加圧条件を保ったまま冷却することにより、
図1(A)に平面図、
図1(B)に縦断面図を示した平面視で長方形の製品ガスケットGを多数個作製した。
【0046】
−3−
このガスケットGは、平面視では角を丸めた長方形の台座部から周壁が立ち上がった形状を有し、側面視では浅い漏斗状をしたものであって、台座部の中央部には貫通孔を設けてある。
【0047】
−4−
このガスケットGの寸法は
図1(A),(B)に付記してあるが、
図1(A)の平面視において、台座部の外幅は11.0mm×15.0mm、周壁の幅は0.5mmである。
図1(B)の側面視において、台座部の上面の縁部から立ち上がる周壁の高さは1.0mm、台座部の厚みは0.8mm、台座部の漏斗状の部位の高さは1.8mmであり、従って、台座部の底面から下方に突き出た部分の漏斗状の部位の高さは1.0mmである。漏斗状の部位の内径(つまり
図1(A)の実線の円の部分の径)は5.0mmで、漏斗状の部位の外径(つまり
図1(A)の破線の円の部分の径)は6.0mmである。
【0048】
(比較例1)
[背景技術]の箇所で述べた特許文献1の方法に準じて、「押出成形により作製したPFAシートを打ち抜き加工」してから、得られた打ち抜き品を金型に供給し、温度270℃に加熱してから100kg/cm2の圧力条件にて加圧した後、その加圧条件を保ったまま冷却することにより、
図1(A)に平面図、
図1(B)に縦断面図を示した製品ガスケットMを作製した。
【0049】
(比較例2)
−1−
[背景技術]の箇所で述べた特許文献2の方法に準じて、実施例1と同じ条件にてスカイブシートを作製したが、今度は上記の実施例1とは異なり、このスカイブシートを「常温(20〜25℃)にて冷間加圧成形」することにより、
図2(A)に平面図、
図2(B)に縦断面図を示した製品ガスケットNを作製した。
【0050】
−2−
図2(A)の平面視における各部の寸法は、上述の
図1(A)の場合と同じである(ただし、
図1(A)の破線の円の部分は存在しない。)
図2(B)の側面視における各部の寸法は、台座部の上面から立ち上がる周壁の高さが0.4mm、台座部の厚みが0.8mmである。ただし、台座部の周壁下部の4周囲は
図2(B)のように切り欠き形状になっており、その部位の台座部の厚みは0.4mmになっている。
【0051】
−3−
上述の実施例1や比較例1にかかる
図1のガスケットが側面視で「漏斗状」をしているのに、この比較例2にかかるガスケットの形状を
図2(B)のように側面視で「フラットに近い形状」としたのは、冷間加圧成形で漏斗状に成形しようとすると、得られる成形体に歪みが生ずることを免れず、ガスケット製品としての信頼性が損なわれるからである。
【0052】
−2−
[圧縮復元特性の
試験]
(試験に供したガスケット)
圧縮復元特性の試験には、上述の実施例1(
図1)、比較例1(
図1)、比較例2(
図2)において作製したガスケットを使用した。
【0053】
(測定用の切り出し片(p)の準備、加圧用具(J)の準備)
−1−
図3は、実施例1において作製したガスケットG、比較例1において作製したガスケットM、および比較例2において作製したガスケットNの台座部より切り出した圧縮復元特性の測定のための切り出し片(p)の縦断面図である。
この切り出し片(p)は扁平なリング状を有しており、その外径は9.0mm、内径は6.0mm、厚みは0.8mmである。
−2−
図4は、圧縮復元特性の測定に使用した加圧用具(J)を示した模式的な説明図である。
図4の下側の部材はその加圧用具(J)の本体部(J1)であり、
図4の上側の部材はその加圧用具(J)の蓋部(J2)である。
【0054】
(測定試験の操作)
−1−
上記において準備した実施例1、比較例1、比較例2のそれぞれのガスケットG、M、Nから
図3のように切り出した切り出し片(p)を試験片として用いて、圧縮復元特性の測定試験を行った。
−2−
この試験は、上記のそれぞれのガスケットG、M、Nの台座部より
図3に示した試験片を切り出し、深さが0.48mmのスリットを設けた
図4の加圧用具(J)の本体部(J1)に試験片を載置し、蓋部(J2)をボルトで絞めて所定時間押圧して圧縮状態にすることにより行った。
−3−
このときの押圧は、製品ガスケットG、M、Nの台座部を、その部位の厚み(0.8mm)が元の厚みの60%(0.48mm)になるまで所定時間(1時間〜672時間)押圧した後、圧力を解いてから30分後に測定したものである。
−4−
試験には、実施例1、比較例1、比較例2のそれぞれのガスケットG、M、Nの多数個を用いて圧縮を行い、所定時間(1時間、2時間、4時間、24時間(1日)、168時間(7日)、336時間(14日)、672時間(28日)を経過ごとに加圧用具(J)より試験片を取り出し、試験片の台座部の厚みを測定してから、再度加圧用具(J)に試験片を挟み込んで再圧縮する操作を繰り返すことにより行った。
【0055】
(測定結果)
−1−
圧縮復元特性の測定結果を示したグラフを
図5に示す。
図5において、横軸は圧縮時間(hr)であり、対数目盛りにしてある。縦軸は復元の度合いを示したものであり、試験前の厚み(元の厚み)を100%とし、それを40%圧縮して元の厚みの60%にした状態に所定時間保ったときにどこまで復元したかを示してある。なお、
図5の各プロットは、5個の測定値の平均を示したものである。
【0056】
−2−
図5には、「黒塗り四角印のプロットを結んだ上側の折れ線1」と、「黒塗りダイヤ印のプロットを結んだ中央の折れ線2」と、「黒塗り三角印のプロットを結んだ下側の折れ線3」との3本の線が描かれている。
【0057】
−3−
上側の折れ線1(黒塗り四角印のプロットを結んだもの)は本発明に対応するものであり、「スカイブシートを熱間プレス成形」してガスケット形状にしたものの圧縮復元特性を示したものである。
【0058】
−4−
中央の折れ線2(黒塗りダイヤ印を結んだもの)は特許文献1に対応するものであり、「溶融押出成形シートを熱間プレス成形」してガスケット形状にしたものの圧縮復元特性を示したものである。
【0059】
−5−
下側の折れ線3(黒塗り三角印を結んだもの)は特許文献2に対応するものであり、「スカイブシートを冷間プレス成形」してガスケット形状にしたものの圧縮復元特性を示したものである。
【0060】
−6−
図5から、ガスケットの圧縮復元特性は、好ましいものの順に、
1:「本発明のスカイブシートの熱間プレス成形品(折れ線1/黒塗り四角印)」
2:「特許文献1に対応する溶融押出成形シートの熱間プレス成形品(折れ線2/黒塗りダイヤ印)」
3:「特許文献2に対応するスカイブシートの冷間プレス成形品(折れ線3/黒塗り三角印)」
であることがわかる。
【0061】
[考察]
(特許文献2との関連において)
−1−
本発明の
製造法により得られるガスケットG(折れ線1/黒塗り四角印)と特許文献2に対応するガスケットN(折れ線3/黒塗り三角印)とは、共にスカイブシートに由来するものであるので、「PFA原料を圧縮成形」→「その圧縮成形品のアニール」→「スカイブシートの作製」までの工程は共通している。
【0062】
−2−
しかるに、特許文献2においては、そのスカイブシートを常温程度の冷間で加圧成形することによりガスケットNを作製しているため、台座部に残る内部応力(復元しようとする力)の残り方に差があり、本発明の
製造法により得られるガスケットGとの対比において、復元力が余り得られないのではないかと推測される。
【0063】
−3−
一方、本発明にかかる実施例1においては、そのスカイブシートをPFAの融点(310℃)よりも40℃低い270℃にて熱圧したのち加圧下に冷却してその形状を固定することによりガスケットGを作製しているため、台座部には相応の内部応力が残っている状態になり、充分な復元力が奏されるものと考えられる。
【0064】
(特許文献1との関連において)
−1−
特許文献1に対応する溶融押出成形シートの熱間プレス成形品(折れ線2/黒塗りダイヤ印)」は、「溶融押出成形シート」から出発しているためガスケットM内の分子の配向が水平方向に揃いすぎており、ガスケットMの台座部に垂直方向から加わる復元力が本発明ほどには期待できないものと思われる。
【0065】
−2−
一方、本発明にかかる実施例1においては、上述したように、そのスカイブシートをPFAの融点(310℃)よりも40℃低い270℃にて熱圧したのち加圧下に冷却してその形状を固定することによりガスケットGを作製しているため、台座部には相応の内部応力が残っている状態になり、充分な復元力が奏されるものと考えられる。
加えて、実施例1においては、トランスファー成形法(シリンダー内で樹脂を溶融させながら、溶融した樹脂液を計量ポットに投入、その計量ポットに貯えられた樹脂液を注入口を通して金型内に一気に押し込んでその金型内を充填し、冷却後に成形体を取り出す成形法)によりブロック状の成形体を得ると共に、その成形体をスカイブすることにより得たスカイブシートを用いて上記のようにしてガスケットGを得ているため、ガスケット内の分子の配向方向が水平方向のほかに上下方向にも混在するようになっており、このことも圧縮復元特性の向上に貢献しているものと思われる。