特許第6005250号(P6005250)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6005250
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】二次電池用ガスケットの製造法
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/08 20060101AFI20160929BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20160929BHJP
   C09K 3/10 20060101ALN20160929BHJP
【FI】
   H01M2/08 S
   F16J15/10 G
   !C09K3/10 M
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-501436(P2015-501436)
(86)(22)【出願日】2014年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2014053567
(87)【国際公開番号】WO2014129413
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2015年8月17日
(31)【優先権主張番号】特願2013-30501(P2013-30501)
(32)【優先日】2013年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591056097
【氏名又は名称】淀川ヒューテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087882
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 征郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 克己
(72)【発明者】
【氏名】粟井 功
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 博之
(72)【発明者】
【氏名】大野 伴博
(72)【発明者】
【氏名】阪下 真一
(72)【発明者】
【氏名】小門 幹政
【審査官】 大畑 通隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−016548(JP,A)
【文献】 特開昭55−142165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/08
F16J15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の絶縁シールに用いるガスケットを製造する方法であって、
その材質がテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)からなるブロック状の成形体を準備すること、
ここで、前記のブロック状の成形体は、PFA原料をトランスファー成形法により成形したものであること、
そして、前記のPFAのブロック状の成形体をスカイブしたスカイブシートをガスケット形状に熱圧成形したのち加圧下に冷圧することによりその形状を固定した熱圧−冷圧成形品を得ること、
を特徴とする二次電池用ガスケットの製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮復元特性のすぐれた二次電池(殊にリチウムイオン二次電池)用ガスケットの製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(二次電池用のガスケット)
−1−
リチウムイオン二次電池に代表される二次電池においては、シール材としてのガスケット(パッキンと同義)が不可欠である。
代表的なガスケットの形状は、平面視で円形、長円形、角を丸めた四角形などの形状を有し、かつその中央部に貫通孔を有するものである。
【0003】
−2−
二次電池用のガスケットの素材は、耐熱性、耐ヒートショック性、耐ストレスクラッキング性などの性能の点からフッ素系樹脂とすることが好ましく、またフッ素系樹脂の中でもテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が最適である。
【0004】
−3−
フッ素系樹脂(特にPFA)製の二次電池用ガスケットについては多くの提案がなされているが、本発明に関連する特許文献は、以下に詳述する特許文献1と特許文献2であると思われる。
【0005】
(特許文献1)
−1−
本出願人の出願にかかる特開平11−16548号公報(特許第3616728号)(特許文献1)の請求項1には、「フッ素系樹脂製の素材成形品1をその軟化温度以上にまで加熱して軟化させると共に、型により圧力を加えて立体形状の軟化立体成形品2に変形させ、ついでそれをその軟化温度以下にまで冷却して目的成形品3となすことを特徴とする二次電池用パッキンの製造法。」が示されている。
なお、その段落0001、0031には「パッキン(ガスケット)」とあり、パッキンとガスケットとが同義であることを念のために注記してある。
【0006】
−2−
その請求項3には「素材成形品1がフッ素系樹脂の押出成形品でできていること」が示されている。その段落0018にも、「素材成形品は、フッ素系樹脂の押出成形品でできていることが特に好ましい。」ことが記載されている。
【0007】
−3−
その実施例1にかかる段落0037においては、PFAを押出成形した厚み0.6mmのPFAシートを打ち抜くことにより、フラットな円形の素材成形品1を作製している。
その実施例2にかかる段落0044および実施例3にかかる段落0047においては、PFAを押出成形したPFAシートを打ち抜くことにより、フラットな四角形の素材成形品1を作製している。
実施例6にかかる段落0055においては、PFAを押出成形した厚み0.5mmのPFAシートからなる長尺の素材成形品1から加工している。
なお、実施例4,5においては、PFAではなく、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)を押出成形したFEPシートから素材成形品1を得ている。
【0008】
−4−
その段落0011には、「そして特に好ましい本発明の二次電池用パッキンの製造法は、圧締後の金型キャビティー容量と実質的に同一容量のフッ素系樹脂製の素材成形品1を金型内に供給する工程A、素材成形品1を、金型内においてまたは金型に供給する前にその軟化温度以上にまで加熱して軟化させると共に、金型内で圧力を加えて金型キャビティーに沿った立体形状の軟化立体成形品2に変形する工程B、その軟化立体成形品2を、加圧状態を保ちながらその軟化温度以下にまで冷却して目的成形品3となし、金型より取り出す工程C、からなることを特徴とするものである。」との説明がなされている。
【0009】
−5−
その段落0017には、「フッ素系樹脂としては、FEP、PTFE,フッ素系ゴムなども使用可能であるが、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が特に重要である」旨の記載がある。
その段落0022には、素材成形品を軟化温度以上にまで加熱して軟化させると共に、金型内で圧力を加えて金型キャビティーに沿った立体形状に変形する旨の説明がある。
その段落0036には、その用途に関して、「二次電池、殊にリチウム二次電池の絶縁シールに用いるフッ素系樹脂製のパッキン(ガスケット)として有用である。」との記載がある。
【0010】
(特許文献2)
−1−
本出願人の出願にかかる特開2001−71376号公報(特許文献2)の請求項1には、「フッ素系樹脂製のシートを、型を用いて冷間にて加圧することにより立体形状に塑性変形させること、および、その塑性変形と同時にあるいはその塑性変形の前または後に目的サイズに打ち抜くこと、を特徴とする二次電池用パッキンの製造法。」が示されている。
なお、その段落0001、0027には「パッキン(ガスケット)」とあり、パッキンとガスケットとが同義であることを注記してある。
ここで「冷間加工」とは、その段落0023に説明があるように、通常は5〜50℃程度の範囲、殊に10〜40℃、なかんずく15〜30℃で、たとえば50〜500kg/cm2程度の圧力で加圧を行うことを意味している。
【0011】
−2−
その段落0017には、「フッ素系樹脂製のシートは、任意の成形法により得られるが、たとえばPFAやFEPの場合には、直圧成形法により得られた円柱体を「かつら剥き(スカイブ)」する方法、すなわち円柱体の外周面から皮を剥ぐようにスライスしていく方法でシート化していく方法が、厚み精度や生産性の点で、特に好適に採用される。そのほか、押出成形によりシートを得る方法、丸棒をスライスしたパッキン状シートとする方法なども可能である。」との記載がある。
【0012】
−3−
実施例1にかかる段落0034には、「フッ素系樹脂製のシートSとして、320℃におけるメルトフローインデックスが2g/10minのPFAを直圧成形した円柱体をかつら剥き(スカイブ)することにより得た厚みdが0.5mmのPFAシート(わずかに乳白がかった透明シート)を準備した。」とある。
【0013】
−4−
そして、実施例1にかかるその段落0038には、「この製品パッキンの塑性変形により形成された段差部は、図3のように顕微鏡観察ではかつら剥き(スカイブ)によりフィルムを作製したときの筋状の模様が残っており、冷間加圧による塑性変形を行ったことが表われている。そしてこの段差部を含めてホットプレス品と同等の良好な強度を有していた。」とある。
【0014】
−5−
その実施例2にかかるその段落0040には、「フッ素系樹脂製のシート(S)として、320℃におけるメルトフローインデックスが2g/10minのPFAを直圧成形した円柱体をかつら剥き(スカイブ)することにより得た厚みdが0.4mmのPFAシートを準備し、実施例1の場合と同様の条件で製品パッキンを製造した。」とある。
【0015】
−6.1−
なお、実施例1にかかる段落0038、実施例2にかかる段落0041、および発明の効果にかかる段落0044においては、「ホットプレス品」または「ホットプレスによる方法」と対比してこの特許文献2の発明の冷間加圧品の利点を述べている。
しかしながら、この「ホットプレス品」とは、この特許文献2の段落0005および段落0009〜0010において言及してあるように、この特許文献2に先立つ従来法である特開平11−16548号公報(特許文献1のこと)に言う「素材成形品(押出成形によるシート)をその軟化温度以上にまで加熱して軟化させる工程を経る方法」についてのことであって、スカイブシートのホットプレス品のことではない。
−6.2−
そして、特許文献2の「実施例」の個所においては、直圧成形した円柱体をかつら剥き(スカイブ)することにより得たPFAシートから製品パッキンを得る手順については詳しく説明しているが、そのパッキンと対比している比較パッキンについては、単に「ホットプレス品」とあるのみであり、どのような条件下にそのパッキンを作製したかについては一切記載がない。
このことは、特許文献2の実施例において比較のために言及している「ホットプレス品」とは、スカイブシートのホットプレス成形品ではないことを意味している。下記に述べるように、特許文献2の発明者が、特許文献1における押出成形シートからの熱圧成形品である製品パッキン(ガスケット)を手元に有していたため、そのパッキンを比較のために用いたのである。
すなわち、特許文献1と特許文献2は同一出願人の出願にかかるものである上(なお本件の出願人は特許文献1,2の出願人が名称変更したものであり、出願人の識別番号も同じである)、特許文献1の筆頭発明者と特許文献2の筆頭発明者は共通しており、従って特許文献2の発明を見い出す過程においては特許文献1にかかる製品ガスケットを保有していたため、それを特許文献2の出願における比較例として使用していたという事情がある。
−6.3−
ちなみに、もし特許文献2の実施例において比較のために言及している「ホットプレス品」がスカイブシートのホットプレス成形品であると仮定したならば、本発明に極めて近いものとなるためすぐれた圧縮復元特性を示すはずであるところ、そのようなすぐれたパッキン(ガスケット)が得られることを特許文献2の「比較例」の箇所に記載するはずがない。このことからも、特許文献2の実施例において比較のために言及している「ホットプレス品」は、特許文献1における「押出成形シートからの熱圧成形品」のことであることがわかる。
−6.4−
特許文献2の出願は、審査未請求により取下げが擬制されている。その理由は、特許文献2の発明は、シートを冷間加圧することによりガスケットに加工する点で熱エネルギー的には好ましいが、その後、肝心の圧縮復元特性の点で特許文献1の発明に比し不利であることが判明したため、特許文献2の出願に対して審査請求を行わなかったという事情がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平11−16548号公報
【特許文献2】特開2001−71376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
(特許文献1について)
−1−
上記の特許文献1の発明は、フッ素系樹脂製の素材成形品1をその軟化温度以上にまで加熱して軟化させると共に、型により圧力を加えて立体形状の軟化立体成形品2に変形させ、ついでそれをその軟化温度以下にまで冷却して目的成形品3となすことを特徴とするものである。
ここで、フッ素系樹脂の代表例は「PFA」であり、素材成形品1として具体的に説明のあるものは「押出成形によるシート状の押出成形品」である。
PFAの場合を例にとると、押出成形は、PFAの融点よりも高い温度でPFAを溶融混練した状態でダイから吐出することによりなされる。
軟化立体成形品2(ガスケット)は、適当なサイズにした素材成形品1を、PFAの融点(310℃程度)よりも50〜0℃低い温度(たとえば260〜300℃程度)にて、たとえば50〜300kg/cm2の圧力にて金型内で加圧加熱(つまり「熱プレス」)した後、軟化温度以下にまで冷却することにより作製される。
【0018】
−2−
このようにして作製したガスケットは、二次電池用のガスケットとして耐ストレスクラック性が優れているため、市場で好評を得ている。
【0019】
−3−
しかしながら、二次電池用のガスケット(特にリチウムイオン二次電池用のガスケット)に対する市場の要求性能はさらに高度化しており、さらに長期間に渡り液漏れなどのトラブルを起こさない耐久性ある製品の登場を希望している。
【0020】
(特許文献2について)
−1−
本発明者らの検討によれば、特許文献1の製造法とは別の製造法により得られる特許文献2のガスケット(パッキン)は、特許文献1の製造法により得られるガスケットと対比すると、ガスケットそのものの機械的強度の点では同等であるということができる。
そして、ガスケットの製造に要する熱エネルギーの点、作業環境の点では、むしろ特許文献1の製造法を上回る利点がある。
【0021】
−2−
しかしながら、本発明者らの検討によれば、実際にガスケットを二次電池に組み込んで使用したときの圧縮復元性の点では、本発明のガスケットの圧縮復元性に比してはもとより、特許文献1のガスケットの圧縮復元性よりもかなり見劣りすることが判明した(後述の比較例2を参照)。
【0022】
(発明の目的)
−1−
本発明者らは、特許文献1や特許文献2の製造法により作製したガスケットの耐久性の限界は、長期の使用によるガスケットの「疲労」に基く液漏れにあると考え、ガスケットの圧縮復元特性を向上させるという観点から鋭意検討を重ねた。
−2−
そして、ガスケット素材として弾力性に富む材料を選択する方法、ガスケット素材にフッ素系ゴム粒子などの弾力性を有する添加物を配合する方法、ガスケットをPFAシートの2層構造にすると共にその層間に弾力性を有する層を介在配置させる方法、など種々の対策を試みた。
しかしながら、それらの方法は、所期の弾力性が得られなかったり、弾力性は得られても層間剥離などの他のトラブルが発生したりして、壁にぶつかる結果となった。
−3−
本発明は、このような状況下において、圧縮復元特性(つまり「圧縮反発復元特性」)を確実に向上させたPFA製のガスケットを製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の二次電池用ガスケットの製造法
二次電池の絶縁シールに用いるガスケットを製造する方法であって、
その材質がテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)からなるブロック状の成形体を準備すること、
ここで、前記のブロック状の成形体は、PFA原料をトランスファー成形法により成形したものであること、
そして、前記のPFAのブロック状の成形体をスカイブしたスカイブシートをガスケット形状に熱圧成形したのち冷圧することによりその形状を固定した熱圧−冷圧成形品を得ること、
を特徴とするものである。
【0024】
−1−
ここで、前記のブロック状の成形体は、熱した金型にPFA原料を投入して加圧し、さらに加圧下に冷却して得られる円柱状または円筒状の成形体であること、および、
前記の熱圧−冷圧成形品が、使用したPFAの融点よりも0〜80℃低い温度条件下にガスケット形状に熱圧した後、加圧下に冷却したものであること、
が特に好ましい。
−2−
ここで、上記のブロック状の成形体は、上記のようにPFA原料をトランスファー成形法により成形したものであることが必要である。
−3−
さらに、本発明の製造法により得られる二次電池用ガスケットGは、後に詳述するように、加圧圧縮した状態に1〜672時間保持したのち圧力を開放したときの圧縮復元率(台座部の圧縮復元率)R(%)に関して、特許文献1を想定した対比ガスケットMとの対比では圧縮復元率Rが0.5ポイント以上大きく、特許文献2を想定した対比ガスケットNとの対比では圧縮復元率Rが1.0ポイント以上大きいものであることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0025】
特許文献1の製造法により得られたPFA製のガスケットは、従来から汎用されている「PFA射出成形品からなるガスケット」との対比では、圧縮復元特性が顕著に向上している。そのため、特許文献1の製造法によるPFAガスケットは、市場で好評を博しているわけである。
しかしながら、リチウム二次電池が急速に普及していくにつれて、市場はさらに圧縮復元特性にすぐれた高性能のガスケットの開発を希望している。すなわち、車載用途や産業用途のリチウム二次電池のガスケットとしては、10年とかそれ以上の長期的な使用にも耐えられる信頼性が求められるようになってきているのである。
しかるに、本発明の製造法により得られるガスケットは、特許文献1の発明および特許文献2の発明により到達できた高水準の圧縮復元特性をさらに確実に超えており、未踏のレベルに達しているということができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施例1および比較例1において作製したガスケットG,Mの説明図であり、(A)は平面図、(B)は縦断面図である。
図2】比較例2において作製したガスケットNの説明図であり、(A)は平面図、(B)は縦断面図である。
図3】実施例1、比較例1および比較例2において作製したガスケットG,M,Nから切り出した圧縮復元特性の測定のための切り出し片(p)の縦断面図である。
図4図3の切り出し片(p)を用いて圧縮復元特性の測定するときのガスケット圧縮用の加圧治具(J)の模式的な説明図であり、下側はその加圧治具(J)の本体部(J1)(切り出し片(p)を載せてある)、上側はその加圧治具(J)の蓋部(J2)である。
図5】実施例1、比較例1および比較例2において作製したガスケットG,M,Nの圧縮復元特性の測定結果を示したグラフであり、横軸の対数目盛りは圧縮時間(hr)、縦軸の目盛りは復元の度合い(つまり圧縮復元率(%))である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
(ガスケットの材質とPFAの物性)
本発明におけるガスケットの材質は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)である。
PFAの代表的な物性は下記の如くである(括弧内は測定法)。
PFAは、ガスケット素材として非常にすぐれていることがわかる。
・比重:2.12〜2.17(D792)
・融点:302〜310℃程度
・メルトフローレート(MFR):1.5〜2.5g/10min
・硬度:ショア硬度でD60〜70(D636)
・アイゾット衝撃強度:破壊せず(D256)
・引張強度:19〜56Mpa(D638)
・伸び:250〜610%(D638)
・曲げ弾性率:640〜700Mpa
・連続使用温度:260℃
・線膨張係数:12×10のマイナス5乗/℃(D696)
・絶縁破壊電圧:20KV/mm(D149)
・体積抵抗率:>10の18乗Ω・cm(D257)
・燃焼性:V−0(UL−94)
・限界酸素指数:>95VOL%(D2863)
・吸水率:0.03%未満(D570)
・耐薬品性:酸、アルカリ、溶剤のいずれに対しても◎(D543)
【0029】
(本発明の製造法により得られるガスケット)
本発明の製造法により得られるガスケットは、PFAのブロック状の成形体をスカイブしたスカイブシートをガスケット形状に熱圧変形させたのち冷圧することによりその形状を固定した熱圧−冷圧成形品である。
【0030】
(ブロック状の成形体)
−1−
ここで、上記のブロック状の成形体は、熱した金型にPFA原料を投入して加圧し、さらに加圧下に冷却して得られる円柱状または円筒状の成形体であることが特に好ましい。(なお、金型にPFA原料を投入してから金型を熱することも可能であるが、生産性(製造効率)が劣ることになる。)
円柱状または円筒状の成形体であることが特に好ましい理由は、後の工程のスカイブ操作を容易にすると共に、そのスカイブ工程において材料を無駄なくシート化することができるからである。
【0031】
−2−
そして、このブロック状の成形体は、PFA原料をトランスファー成形法により成形したものである。
トランスファー成形法とは、シリンダー内で樹脂を溶融させながら、溶融した樹脂液を計量ポットに投入し、その計量ポットに貯えられた樹脂液を注入口を通して金型内に一気に押し込んでその金型内を充填し、冷却後に成形体を取り出す成形法である。
トランスファー成形後には内部応力を緩和ないし除去するために、熱処理ないしアニーリング(annealing)を行うのが通常である。
金型から取り出した冷却固化した成形体は、PFAの真重量と同等またはその真重量に近い比重を有する。
このようにして得られた成形体は、PFAの真比重と同等またはその真比重に近い比重を有する。
【0032】
(スカイブシートの作製)
上記のブロック状の成形体のスカイブは、その成形体が円柱状または円筒状であるときを代表例としてあげると、その円柱または円筒を回転させながら、その円柱または円筒の表面に刃を当接させることにより行う。すなわち、円柱または円筒の外周面から皮を剥ぐようにスライスしていく(つまり「かつら剥き」していく)。
これにより、均一な厚みのスカイブシートを連続的に作製することができる。
このときのスカイブシートの厚みは種々に設定できるが、リチウムイオン二次電池用の極小のガスケットを得る場合を例にとると、たとえば0.25〜1mm程度である。
【0033】
(ガスケットの作製)
−1−
このようにして準備したスカイブシートをガスケット形状に熱圧変形させたのち冷圧することにより、その形状を固定した熱圧−冷圧成形品である目的のガスケットを得ることができる。
より詳しく述べると、上記のようにして得られたスカイブシートを所定の寸法に打ち抜きまたは裁断することによりチップ状の小片(ブランク材と称することにする)にしてから、そのブランク材を金型に挿入する。そして、加熱および押圧下にそのブランク材をガスケット形状に変形させた後、押圧下に冷却する。
【0034】
−2−
この熱圧−冷圧成形品は、使用したPFAの融点よりも0〜80℃低い温度条件下にガスケット形状に熱圧した後、加圧下に冷却したものであることが特に好ましい。
温度条件の好ましい範囲は融点より10〜70℃低い温度範囲、さらに好ましい範囲は融点より20〜60℃低い温度範囲、特に好ましい範囲は融点より30〜50℃低い温度範囲である。
【0035】
−3−
ついで、圧力を解いて、孔あきの皿状その他の所定の形状を有する製品ガスケットを取り出す。なお、ブランク材が複数個取りのものであるときは、上記の成形後の任意の時点において、個々のガスケットへの打ち抜きまたは裁断を行って、製品ガスケットGとなす。
【0036】
(ガスケットの圧縮復元率)
−1−
まず圧縮復元率の定義について述べると、温度23℃、湿度65%の恒温恒湿条件下に、台座部の厚みd1の供試ガスケットをその厚みd1の60%の厚みにまで加圧圧縮した状態にt時間(hr)保持したのち圧力を開放したときの厚みをd2とし、「100×d2/d1」で表わされる圧縮復元率をR(%)とする。
【0037】
−2−
そして、(1)同じグレードのPFAの押出成形シートを加熱および押圧下にガスケット形状に変形したのち押圧下に冷却することにより得た台座部の厚みd1のガスケットを対比ガスケットMとする。
この対比ガスケットMは、特許文献1における代表的なガスケット(パッキン)に相当し、後述の比較例1のガスケットに対応する。
【0038】
−3−
また、(2)同じグレードのPFAを直圧成形した円柱体からのスカイブシートを常温での押圧下にガスケット形状に変形することにより得た台座部の厚みd1のガスケットを対比ガスケットNとする。この対比ガスケットNは、特許文献2における代表的なガスケット(パッキン)に相当し、後述の比較例2のガスケットに対応する。
【0039】
−4−
そして、請求項1,2または3からなる本発明の製造法により得られるガスケットをガスケットGとする。
このガスケットGは、後述の実施例1のガスケットに対応する。
【0040】
−5−
本発明の製造法により得られるガスケットGは、次のような圧縮復元率を示すものであることが特に好ましい。
すなわち、本発明の製造法により得られるガスケットGの圧縮復元率Rが、上に述べたt=1〜672(hr)の全範囲において、
・上記の(1)で述べた対比ガスケットMの圧縮復元率Rよりも0.5ポイント以上、好ましくは0.8ポイント以上、さらに好ましくは1.0ポイント以上大きく、かつ、
・上記の(2)で述べた対比ガスケットNの圧縮復元率Rよりも1.0ポイント以上、好ましくは2.0ポイント以上、さらに好ましくは3.0ポイント以上大きいものであること。
【実施例】
【0041】
次に実施例をあげて本発明をさらに説明する。
【0042】
(実施例1)
[円板状の成形体の作製とスカイブシートの作製]
−1−
融点が310℃、MFRが2.0のペレット状のPFA原料を用いて、トランスファー成形法により成形体を得た後、温度300℃にてアニーリングを行って、外径が300mm、内径が50mm、高さが15mmの直円筒状(円板状)の成形体の多数個を得た。
【0043】
−2−
次に、この円板状の成形体をその中心軸周りに回転させながら、その外周面側から刃を押し当ててスカイブ(かつら剥き)することにより、厚み0.98mmのスカイブシートを作製した。
【0044】
[製品ガスケットの作製]
−1−
このようにして得られたスカイブシートを所定の寸法に打ち抜き加工すると共に、製品ガスケットの中心箇所に形成する打ち抜き孔も同時に形成した。
【0045】
−2−
そして、得られた打ち抜き品を金型に供給し、温度270℃に加熱してから100kg/cm2の圧力条件にて加圧した後、その加圧条件を保ったまま冷却することにより、図1(A)に平面図、図1(B)に縦断面図を示した平面視で長方形の製品ガスケットGを多数個作製した。
【0046】
−3−
このガスケットGは、平面視では角を丸めた長方形の台座部から周壁が立ち上がった形状を有し、側面視では浅い漏斗状をしたものであって、台座部の中央部には貫通孔を設けてある。
【0047】
−4−
このガスケットGの寸法は図1(A),(B)に付記してあるが、図1(A)の平面視において、台座部の外幅は11.0mm×15.0mm、周壁の幅は0.5mmである。図1(B)の側面視において、台座部の上面の縁部から立ち上がる周壁の高さは1.0mm、台座部の厚みは0.8mm、台座部の漏斗状の部位の高さは1.8mmであり、従って、台座部の底面から下方に突き出た部分の漏斗状の部位の高さは1.0mmである。漏斗状の部位の内径(つまり図1(A)の実線の円の部分の径)は5.0mmで、漏斗状の部位の外径(つまり図1(A)の破線の円の部分の径)は6.0mmである。
【0048】
(比較例1)
[背景技術]の箇所で述べた特許文献1の方法に準じて、「押出成形により作製したPFAシートを打ち抜き加工」してから、得られた打ち抜き品を金型に供給し、温度270℃に加熱してから100kg/cm2の圧力条件にて加圧した後、その加圧条件を保ったまま冷却することにより、図1(A)に平面図、図1(B)に縦断面図を示した製品ガスケットMを作製した。
【0049】
(比較例2)
−1−
[背景技術]の箇所で述べた特許文献2の方法に準じて、実施例1と同じ条件にてスカイブシートを作製したが、今度は上記の実施例1とは異なり、このスカイブシートを「常温(20〜25℃)にて冷間加圧成形」することにより、図2(A)に平面図、図2(B)に縦断面図を示した製品ガスケットNを作製した。
【0050】
−2−
図2(A)の平面視における各部の寸法は、上述の図1(A)の場合と同じである(ただし、図1(A)の破線の円の部分は存在しない。)
図2(B)の側面視における各部の寸法は、台座部の上面から立ち上がる周壁の高さが0.4mm、台座部の厚みが0.8mmである。ただし、台座部の周壁下部の4周囲は図2(B)のように切り欠き形状になっており、その部位の台座部の厚みは0.4mmになっている。
【0051】
−3−
上述の実施例1や比較例1にかかる図1のガスケットが側面視で「漏斗状」をしているのに、この比較例2にかかるガスケットの形状を図2(B)のように側面視で「フラットに近い形状」としたのは、冷間加圧成形で漏斗状に成形しようとすると、得られる成形体に歪みが生ずることを免れず、ガスケット製品としての信頼性が損なわれるからである。
【0052】
−2−
[圧縮復元特性の試験
(試験に供したガスケット)
圧縮復元特性の試験には、上述の実施例1(図1)、比較例1(図1)、比較例2(図2)において作製したガスケットを使用した。
【0053】
(測定用の切り出し片(p)の準備、加圧用具(J)の準備)
−1−
図3は、実施例1において作製したガスケットG、比較例1において作製したガスケットM、および比較例2において作製したガスケットNの台座部より切り出した圧縮復元特性の測定のための切り出し片(p)の縦断面図である。
この切り出し片(p)は扁平なリング状を有しており、その外径は9.0mm、内径は6.0mm、厚みは0.8mmである。
−2−
図4は、圧縮復元特性の測定に使用した加圧用具(J)を示した模式的な説明図である。図4の下側の部材はその加圧用具(J)の本体部(J1)であり、図4の上側の部材はその加圧用具(J)の蓋部(J2)である。
【0054】
(測定試験の操作)
−1−
上記において準備した実施例1、比較例1、比較例2のそれぞれのガスケットG、M、Nから図3のように切り出した切り出し片(p)を試験片として用いて、圧縮復元特性の測定試験を行った。
−2−
この試験は、上記のそれぞれのガスケットG、M、Nの台座部より図3に示した試験片を切り出し、深さが0.48mmのスリットを設けた図4の加圧用具(J)の本体部(J1)に試験片を載置し、蓋部(J2)をボルトで絞めて所定時間押圧して圧縮状態にすることにより行った。
−3−
このときの押圧は、製品ガスケットG、M、Nの台座部を、その部位の厚み(0.8mm)が元の厚みの60%(0.48mm)になるまで所定時間(1時間〜672時間)押圧した後、圧力を解いてから30分後に測定したものである。
−4−
試験には、実施例1、比較例1、比較例2のそれぞれのガスケットG、M、Nの多数個を用いて圧縮を行い、所定時間(1時間、2時間、4時間、24時間(1日)、168時間(7日)、336時間(14日)、672時間(28日)を経過ごとに加圧用具(J)より試験片を取り出し、試験片の台座部の厚みを測定してから、再度加圧用具(J)に試験片を挟み込んで再圧縮する操作を繰り返すことにより行った。
【0055】
(測定結果)
−1−
圧縮復元特性の測定結果を示したグラフを図5に示す。
図5において、横軸は圧縮時間(hr)であり、対数目盛りにしてある。縦軸は復元の度合いを示したものであり、試験前の厚み(元の厚み)を100%とし、それを40%圧縮して元の厚みの60%にした状態に所定時間保ったときにどこまで復元したかを示してある。なお、図5の各プロットは、5個の測定値の平均を示したものである。
【0056】
−2−
図5には、「黒塗り四角印のプロットを結んだ上側の折れ線1」と、「黒塗りダイヤ印のプロットを結んだ中央の折れ線2」と、「黒塗り三角印のプロットを結んだ下側の折れ線3」との3本の線が描かれている。
【0057】
−3−
上側の折れ線1(黒塗り四角印のプロットを結んだもの)は本発明に対応するものであり、「スカイブシートを熱間プレス成形」してガスケット形状にしたものの圧縮復元特性を示したものである。
【0058】
−4−
中央の折れ線2(黒塗りダイヤ印を結んだもの)は特許文献1に対応するものであり、「溶融押出成形シートを熱間プレス成形」してガスケット形状にしたものの圧縮復元特性を示したものである。
【0059】
−5−
下側の折れ線3(黒塗り三角印を結んだもの)は特許文献2に対応するものであり、「スカイブシートを冷間プレス成形」してガスケット形状にしたものの圧縮復元特性を示したものである。
【0060】
−6−
図5から、ガスケットの圧縮復元特性は、好ましいものの順に、
1:「本発明のスカイブシートの熱間プレス成形品(折れ線1/黒塗り四角印)」
2:「特許文献1に対応する溶融押出成形シートの熱間プレス成形品(折れ線2/黒塗りダイヤ印)」
3:「特許文献2に対応するスカイブシートの冷間プレス成形品(折れ線3/黒塗り三角印)」
であることがわかる。
【0061】
[考察]
(特許文献2との関連において)
−1−
本発明の製造法により得られるガスケットG(折れ線1/黒塗り四角印)と特許文献2に対応するガスケットN(折れ線3/黒塗り三角印)とは、共にスカイブシートに由来するものであるので、「PFA原料を圧縮成形」→「その圧縮成形品のアニール」→「スカイブシートの作製」までの工程は共通している。
【0062】
−2−
しかるに、特許文献2においては、そのスカイブシートを常温程度の冷間で加圧成形することによりガスケットNを作製しているため、台座部に残る内部応力(復元しようとする力)の残り方に差があり、本発明の製造法により得られるガスケットGとの対比において、復元力が余り得られないのではないかと推測される。
【0063】
−3−
一方、本発明にかかる実施例1においては、そのスカイブシートをPFAの融点(310℃)よりも40℃低い270℃にて熱圧したのち加圧下に冷却してその形状を固定することによりガスケットGを作製しているため、台座部には相応の内部応力が残っている状態になり、充分な復元力が奏されるものと考えられる。
【0064】
(特許文献1との関連において)
−1−
特許文献1に対応する溶融押出成形シートの熱間プレス成形品(折れ線2/黒塗りダイヤ印)」は、「溶融押出成形シート」から出発しているためガスケットM内の分子の配向が水平方向に揃いすぎており、ガスケットMの台座部に垂直方向から加わる復元力が本発明ほどには期待できないものと思われる。
【0065】
−2−
一方、本発明にかかる実施例1においては、上述したように、そのスカイブシートをPFAの融点(310℃)よりも40℃低い270℃にて熱圧したのち加圧下に冷却してその形状を固定することによりガスケットGを作製しているため、台座部には相応の内部応力が残っている状態になり、充分な復元力が奏されるものと考えられる。
加えて、実施例1においては、トランスファー成形法(シリンダー内で樹脂を溶融させながら、溶融した樹脂液を計量ポットに投入、その計量ポットに貯えられた樹脂液を注入口を通して金型内に一気に押し込んでその金型内を充填し、冷却後に成形体を取り出す成形法)によりブロック状の成形体を得ると共に、その成形体をスカイブすることにより得たスカイブシートを用いて上記のようにしてガスケットGを得ているため、ガスケット内の分子の配向方向が水平方向のほかに上下方向にも混在するようになっており、このことも圧縮復元特性の向上に貢献しているものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の製造法により得られるガスケットは、上記のように好ましい圧縮復元特性を有するので、二次電池、殊にリチウム二次電池用のガスケットとして極めて有用である。
【符号の説明】
【0067】
G…本発明(実施例1)のガスケット、
M…特許文献1(比較例1)のガスケット、
N…特許文献2(比較例2)のガスケット、
(p) …切り出し片、
(J) …加圧治具、
(J1)…(加圧治具の)本体部、
(J2)…(加圧治具の)蓋部
図2
図1
図3
図4
図5