(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に従うモータ制御装置10の構成を示すブロック図である。
【0020】
図1を参照して、モータ制御装置10は、商用交流電源11と、リアクトル12と、全波整流回路13と、平滑回路14と、インバータ15と、ベースドライバ16と、シャント抵抗17と、電流検出器18と、マイクロプロセッサ20とを備える。
【0021】
モータ制御装置10は、圧縮機40を駆動するモータ30の動作(トルク・回転速度)を制御する。モータ30は、代表的には、3相ブラシレスモータによって構成される。圧縮機40は、周期的に回転駆動のための負荷トルクが変動する負荷の一例であり、代表的には、冷蔵庫等に使用されるレシプロ型圧縮機によって構成される。すなわち、モータ30は、たとえば、冷蔵庫に用いられる。
【0022】
図2に示すように、レシプロ型圧縮機は、回転角度に対する負荷トルクの変動特性が急峻な領域と、トルク変動が生じない領域とが存在するという特徴を有する。
【0023】
図2を参照して、圧縮機40は、モータ30の1回転(機械角360°)に対応して、負荷トルクが周期的に変動する。圧縮機40の製造工程において、ロータ磁石、ステータ巻線、シリンダ、ローラ、シャフトおよびバランサの位置関係が常に同じになるように製造すれば、ロータ機械的位置(すなわち、機械角θm)に対する負荷トルクの特性は、1つのパターン(以下、トルクパターンと称する)に共通化できる。
【0024】
図2のトルクパターンに示される様に、圧縮機40の負荷トルクは、モータ30の機械角θmに応じて周期的に変動する。特に、本実施の形態において、モータ制御装置10によって制御されるモータ30の負荷(代表的には、レシプロ型圧縮機)は、機械角θm(回転角度)に応じて負荷トルクが比較的に急峻に変化する角度区間P1(0≦θm≦θ1)と、機械角θmの変化に対して負荷トルクが一定である角度区間P2(θ1<θm<360°)とが存在するような、トルクパターンを有する。
【0025】
再び
図1を参照して、商用交流電源11、リアクトル12、全波整流回路13および、平滑回路14は、インバータ15に対して直流電力を供給するための直流電源を構成する。リアクトル12は、インバータ15に対する突入電流の防止や力率の改善のために設けられる。全波整流回路13は、たとえばダイオードブリッジなどによって構成され、商用交流電源11から供給される交流電圧を全波整流する。平滑回路14は、電解コンデンサなどによって構成され、全波整流された直流電圧のリップル成分を軽減する。
【0026】
インバータ15は、3相バイポーラ接続された電力用スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する)および、各スイッチング素子に逆並列接続されたフライホイール・ダイオードにより構成される。具体的には、U相上側アームおよびU相下側アームにそれぞれ対応して、スイッチング素子15uおよび15xがそれぞれ接続され、V相上側アームおよびV相下側アームにそれぞれ対応して、スイッチング素子15vおよび15yがそれぞれ接続され、W相上側アームおよびW相下側アームにそれぞれ対応して、スイッチング素子15wおよび15zがそれぞれ接続される。スイッチング素子としては、たとえば、電力用半導体素子であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が用いられる。
【0027】
ベースドライバ16は、電圧レベル変換IC(Integrated Circuit)などによって構成される。ベースドライバ16は、マイクロプロセッサ20から出力された各相アームのPWM電圧波形(パルスパターン)を、スイッチング素子15u〜15w,15x〜15zの駆動電圧に変換して、各スイッチング素子の制御電極(ゲート)に出力する。
【0028】
シャント抵抗17は、インバータ15の母線に介挿接続される。シャント抵抗17には、インバータ15の直流母線電流Idc(以下、単に直流電流Idcと称する)が流れる。電流検出器18は、シャント抵抗17を流れる直流母線電流Idcを検出する。電流検出器18によって検出された直流電流Idcは、マイクロプロセッサ20へ入力される。
【0029】
マイクロプロセッサ20は、メモリ領域21および、図示しない演算処理ユニット、A/D変換器および入出力バッファ等を有する。マイクロプロセッサ20は、基本的には、メモリ領域21に予め記憶されたプログラムおよびデータを用いたソフトウェア処理によって、モータ制御のための所定の演算処理を実行するように構成される。あるいは、マイクロプロセッサ20は、演算処理の少なくとも一部について電子回路等の専用のハードウェアによって実行するように、構成されてもよい。
【0030】
次に、モータ制御装置10の動作を簡単に説明する。
負荷である圧縮機40を運転するための電力は、たとえば商用交流電源11から供給される。その交流入力電圧は、全波整流回路13および平滑回路14により直流電圧に変換され、インバータ15へ入力される。なお、インバータ15へ直流電圧を供給するための回路構成については、
図1の例に限定されず任意の構成を採用することができる。
【0031】
マイクロプロセッサ20は、電流検出器18によって検出された、インバータ15からモータ30へ供給された電流に基づいて、モータ30の動作(回転数・トルク)を制御する。具体的には、マイクロプロセッサ20は、インバータ15からモータ30への印加される疑似交流電圧を定める、PWM電圧波形(パルスパターン)を演算する。
【0032】
ベースドライバ16は、マイクロプロセッサ20からのPWMパルスパターンを各スイッチング素子の駆動電圧に変換して、スイッチング素子15u〜15w,15x〜15zのスイッチング(オンオフ)を制御する。このようにして、インバータ15からモータ30へ交流電力が供給されることにより、負荷が駆動される。
【0033】
図3は、
図1に示したマイクロプロセッサ20によって実現される本実施の形態に従うモータ制御の機能ブロック図である。
図3に記載された各機能ブロックは、マイクロプロセッサ20に予め記憶されたプログラムに従う演算処理(ソフトウェア処理)および/またはや、専用の電子回路によるハードウェア処理によって実現されるものとする。
【0034】
図3を参照して、電流検出部110は、電流検出器18によって検出された直流電流Idcに基づいてモータ30に流れる三相電流、すなわちU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを推定する。特許文献2の
図5に示されるように、PWMによる各相の通電パターンと直流電流Idcとの対応関係は予め定まっているため、スイッチング素子のオンオフの組み合わせに従って、直流電流Idcを各相に分配することができる。さらに、三相電流の瞬時値の和は零である(すなわちIu+Iv+Iw=0)ことから、PWMのパルスパターンと直流電流Idcとから、三相電流Iu,Iv,Iwを推定することができる。
【0035】
角度推定部120は、電流検出部110によって推定された三相電流Iu,Iv,Iwと、各相電圧指令Vu,Vv,Vwとに基づいて、モータ30の電気角θeおよび機械角θmを推定する。一般的に、三相電流Iu,Iv,Iwの1周期に相当する電気角(θe)360°の整数倍が、モータ30の機械角360°(1回転)に相当する。本実施の形態では、モータ30が4極のブラシレスモータによって構成されているものとする。このため、モータ30において、機械角360°は電気角720°に対応する。
【0036】
このように、
図1の構成例では、シャント抵抗17、電流検出器18、ならびに、マイクロプロセッサ20による電流検出部110および角度推定部120によって、モータ30の回転角度(機械角θm)を検出するための「検出手段」の機能が実現される。
【0037】
速度推定部130は、角度推定部120で推定された機械角θmに基づいて、モータ30の機械角360°分の平均回転速度ωm(以下、単に回転速度ωmとも称する)を推定する。これにより、周期的なトルク変動による速度変動が直接フィードバックされることを防止できる。
【0038】
制御演算部200は、モータ30の回転速度基準値ωm*に従って、モータ30の平均回転速度ωmをフィードバック制御する。具体的には、制御演算部200は、回転速度基準値ωm*に対する平均回転速度ωmの偏差に応じて、モータ30の出力トルクを増減するための三相電圧指令値Vu,Vv,Vwを算出する。たとえば、三相/二相変換を伴うベクトル制御に従って、モータ30の三相電流Iu,Iv,Iwおよび電気角θeに基づいて、各相電圧指令値Vu,Vv,VwがPWM制御周期毎に更新される。各相電圧指令値Vu,Vv,Vwは、電気角360°に同期した交流電圧波形の各回転角度における瞬時値に相当する。
【0039】
PWM処理部160は、各相電圧指令値Vu,Vv,Vwと、所定周波数のキャリア信号(たとえば三角波)との比較に基づいて、当該制御周期におけるPWMパルスパターンを生成する。インバータ15を構成するスイッチング素子15u〜15w,15x〜15zは、当該PWMパルスパターンに従ってオンオフ制御される。
【0040】
ここで、負荷である圧縮機40を駆動する際に、
図2に示したトルクパターンを考慮せずに、モータ30の出力を制御すると、機械角θmに対応したトルク変動により振動や騒音が発生することが懸念される。
【0041】
したがって、本実施の形態に従うモータ制御では、上記の回転速度フィードバック制御に、周期的なトルク変動を補償するためのトルクパターン補正制御が組み合わされる。
【0042】
トルクパターン補正部140は、メモリ領域21(
図1)に予め記憶された補正データに基づいて、現在の機械角θmに応じたトルクパターン補正制御のための補正データを設定する。そして、制御演算部200は、トルクパターン補正部140による補正データを反映して、モータ30の動作を制御する。具体的には、モータ30の回転速度ωmを回転速度基準値ωm*に近付けるとともに、負荷トルク変動に起因する周期的なトルク変動を補償するように、モータの出力トルクが制御される。
【0043】
本実施の形態では、トルクパターン補正部140は、補正データとして、トルク補正係数Tpを設定するものとする。トルク補正係数Tpは、回転速度フィードバック制御に基づく電圧指令値に乗算される係数である。したがって、回転速度フィードバック制御によって算出される各相電圧指令値をVu*,Vv*,Vw*とすると、Vu=Tp×Vu*,Vv=Tp×Vv*,Vw=Tp×Vw*で示される。すなわち、各機械角θmにおいて、各相電圧指令値Vu,Vv,Vwの値は、回転速度フィードバック制御に基づく本来の値に対して、機械角θmに応じてTp倍される。
【0044】
トルクパターン補正部140は、少なくとも、機械角θmに応じて補正データ(トルク補正係数Tp)を設定する。したがって、メモリ領域21には、モータ30の機械角θmに対して、トルクパターン補正制御のための補正データを予め記憶する必要がある。
【0045】
図4には、トルクパターン補正制御のための補正データを設定する態様の比較例が示される。
【0046】
図4を参照して、比較例では、機械角θmの全角度区間に対して一律に、機械角θmに対応させて補正データ(たとえば、トルク補正係数Tp)が設定される。すなわち、
図4に示す各特性点150に対応させて、機械角θmおよびトルク補正係数Tpの組み合わせを決定するテーブルデータが、メモリ領域21に記憶される。特に、角度区間P1では、機械角θmに対するトルク変動が急峻であるため、特性点150をある程度細かく設ける必要がある。この角度刻みに従って特性点150を設けることにより、機械角360°の範囲に対応した全体の補正データの記憶量が増大する。
【0047】
図5は、本実施の形態に従うモータ制御におけるトルクパターン補正制御のための補正データを記憶する態様が示される。
【0048】
図5を
図4と比較して、本実施の形態に従うモータ制御では、圧縮機40のトルクパターンに鑑み、角度区間P2において、機械角θmに対して共通の補正データを設定する。一方で、角度区間P1においては、
図4の比較例と同様に、一定の角度刻みで特性点150を設定する。
【0049】
たとえば、各特性点150のデータは、メモリ領域210に記憶される。すなわち、メモリ領域210は「記憶手段」に対応する。角度区間P1に対しては、一定間隔の機械角θpに対応する補正データ(トルク補正係数Tp)を設定するテーブルデータが、メモリ領域210の一部(「第1の手段」に対応)に記憶される。一方で、角度区間P2に対しては、機械角θmに共通の単一の補正データ(トルク補正係数Tp)が、メモリ領域210の一部(「第2の手段」に対応)に記憶される。
【0050】
このように、
図5に示された補正データの設定態様によれば、トルク変動が急峻な角度区間P1での補正データについては比較例と同様の精度で設定できるとともに、全体の補正データの記憶量を削減できることが理解される。この結果、メモリ領域21における記憶容量を削減することができる。
【0051】
図6は、本発明の実施の形態に従うモータ制御の処理手順を示すフローチャートである。
図6に示す一連のフローチャートは、マイクロプロセッサ20によるハードウェア処理および/またはソフトウェア処理によって実行される。
図6に示す一連の処理は、PWM制御周期毎(たとえば、200μs毎)に繰り返し実行される。なお、公知のように、PWM制御周期は、モータ30の回転速度に応じて変化させてもよい。
【0052】
図6を参照して、マイクロプロセッサ20は、ステップS100により、モータ30の電流を検出する。具体的には、シャント抵抗17(
図1)を流れる直流電流Idc(シャント電流)に基づいて、三相電流Iu,Iv,Iwが検出される。ステップS100の処理は、
図3の電流検出部110の機能に相当する。
【0053】
さらに、マイクロプロセッサ20は、ステップS110により、検出された三相電流Iu,Iv,Iwに基づいて、モータ30の電気角および機械角θmを推定する。これらの処理によって、モータ30の回転角度(機械角θm)が検出される。ステップS110による処理は、
図3の角度推定部120の機能に相当する。
【0054】
マイクロプロセッサ20は、ステップS120により、推定された回転角度(機械角θm)から、モータ30の平均回転速度ωmを推定する。たとえば、機械角θmの1回転(360°)経過の所要時間に基づいて、1回転の平均回転速度ωmが算出される。ステップS120による処理は、
図3の速度推定部130の機能に相当する。
【0055】
引き続き、マイクロプロセッサ20は、ステップS130では、回転速度ωmのフィードバック制御により、回転速度ωmを目標回転速度ωm*に一致させるための制御演算を実行する。たとえば、上述のように、回転速度基準値ωm*に対する平均回転速度ωmの偏差に応じて、モータ30の出力トルクを増減するための、ベースとなる各相電圧指令をVu*,Vv*,Vw*が算出される。
【0056】
マイクロプロセッサ20は、さらにステップS140により、トルクパターン補正制御を実行する。ステップS140による処理は、
図3のトルクパターン補正部140の機能に対応する。
【0057】
図7は、
図6のステップS140におけるトルクパターン補正制御の処理の詳細を示すフローチャートである。
【0058】
図7を参照して、マイクロプロセッサ20は、ステップS141により、ステップS110で推定された機械角θmが角度区間P2に含まれるか否かを判定する。マイクロプロセッサ20は、機械角θmが角度区間P2に含まれるときには(S141のYES判定時)、ステップS142に処理を進めて、現在の機械角θmによらずトルク補正係数Tp1を所定の一定値(たとえば、Tp1=1.0)に設定する。
【0059】
これに対して、マイクロプロセッサ20は、機械角θmが角度区間P2に含まれないとき(S141のNO判定時)、すなわち、θmが角度区間P1に含まれるときには、ステップS143に処理を進めて、
図4に示した角度区間P1内の特性点150から、現在の機械角θmに対応した補正データを読み出す。これにより、現在の機械角θmに対応したトルク補正係数Tp1が設定される。
【0060】
このように、ステップS141によって現在の機械角θmが角度区間P1およびP2のいずれに含まれるかが判定される。すなわち、ステップS141による処理によって「判定手段」の機能が実現される。さらに、ステップS142(角度区間P2)またはS143(角度区間P1)により、機械角θm(回転角度)に応じたトルク補正係数Tp1が設定される。
【0061】
好ましくは、マイクロプロセッサ20は、さらにステップS146により、回転速度ωmに応じたトルク補正係数Tp2を設定する。
図2に示したトルク特性において、機械角θmに応じた負荷トルク変動の度合いが回転速度ωmに応じて変化する場合には、トルク補正係数Tp2を設定することにより、トルクパターン補正制御をさらに高精度に実行することができる。たとえば、基本となるトルクパターン(
図4)に対する補正係数Tp2を回転速度領域毎に予め記憶することによって、ステップS146による処理を実現することができる。
【0062】
さらに、マイクロプロセッサ20は、ステップS148により、回転角度(機械角θm)に応じたトルク補正係数Tp1と、回転速度ωmに応じたトルク補正係数Tp2との乗算によって、トータルのトルク補正係数Tpを設定する(Tp=Tp1×Tp2)。なお、トルク補正係数Tp1およびTp2を別個に設定する方式に代えて、機械角θmおよび回転速度ωmの組み合わせに応じてトルク補正係数Tpを直接設定するための二次元のテーブルを予めメモリ領域21に記憶することも可能である。この場合にも、角度区間P2に対応する機械角θmの領域では、回転角度に対するテーブル値(Tp)を共通化できるため、回転速度ωmに対する区分のみを設ければよい。この結果、当該二次元テーブルを構成するための記憶容量を削減することが可能である。
【0063】
再び
図6を参照して、マイクロプロセッサ20は、ステップS150により、トルクパターン補正制御を反映した、最終的な各相電圧指令値(
図2のVu,Vv,Vw)を設定する。たとえば、ステップS130で求められた、ベースとなる各相電圧指令値(Vu*,Vv*,Vw*)をTp倍することによって、最終的な電圧指令値が設定される。ステップS130およびS150による処理は、
図3の制御演算部200の機能に対応する。
【0064】
マイクロプロセッサ20は、ステップS160により、ステップS150で設定された最終的な各相電圧指令値Vu,Vv,Vwと所定周波数のキャリア信号との比較に基づくPWM処理演算によって、各相のPWMパルスターンを生成する。インバータ15の各スイッチング素子Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Szのオンオフは、PWMパルスターンに従って制御される。これにより、周期的なトルク変動を補償するためのトルクパターン補正制御が反映された、モータ30のフィードバック制御(トルクおよび/または回転速度制御)が実現される。ステップS160による処理は、
図3のPWM処理部160の機能に対応する。
【0065】
このように本実施の形態によれば、周期的な負荷トルク変動を有する負荷を駆動するモータ制御において、周期的なトルク変動を補償するための補正データの記憶容量を削減することができる。
【0066】
[変形例]
本実施の形態の変形例では、回転角度に応じた補正データ(トルク補正係数Tp1)の設定の他の例を説明する。
【0067】
図8は、本発明の実施の形態の変形例に従うモータ制御が適用される負荷のトルク変動を説明するための特性図である。
【0068】
図8を参照して、圧縮機40は、
図2の特性と同様に、機械角θm(回転角度)に応じて負荷トルクが比較的に急峻に変化する角度区間P1(0≦<θm≦θ2)と、機械角θmの変化に対して負荷トルクが一定である角度区間P2(θ2<θm<360°)とが存在するような、周期的なトルクパターンを有する。
【0069】
さらに、
図8では、P1内で角度区間をさらに分割することによって、機械角θmに対する負荷トルクの変化を線形近似可能な特性となっている。
【0070】
したがって、本発明の実施の形態の変形例に従うモータ制御では、
図9に示すように、角度区間P1におけるトルク補正係数Tp1を、線形補間処理に基づいて実行する。
【0071】
図9を参照して、本発明の実施の形態の変形例に従うモータ制御では、線形近似における変曲点に対応する機械角θmのみに対応させて、特性点150がメモリ領域21(
図1)に記憶される。
【0072】
そして、特性点150の間の機械角では、前後の特性点150の間での線形補完によって、トルク補正係数Tp1が設定される。たとえば、機械角θmおよびトルク補正係数Tp1について、(θa,T1)および(θb,T2)の特性点150が記憶されている場合、θaおよびθbの間の機械角θmに対応するトルク補正係数Tp1(θm)は、下記(1)式に従って算出することができる。
【0073】
Tp1(θm)=T1+(T2−T1)/(θb−θa)×(θm−θa) …(1)
一方で、角度区間P2では、
図5の場合と同様に、機械角θmに対して共通の補正データが設定される。
【0074】
したがって、
図9に示された補正データの設定態様によれば、トルク変動が急峻な角度区間P1での特性点150について、
図5の場合よりも削減することができる。
【0075】
図10は、本発明の実施の形態の変形例によるモータ制御における、トルクパターン補正制御の処理手順の詳細を説明するためのフローチャートである。実施の形態の変形例では、トルクパターン補正制御(
図6のS140)以外については、実施の形態(
図6)と同様の処理手順によってモータ制御が実行される。
【0076】
図10を参照して、マイクロプロセッサ20は、
図7と同様のステップS141により、現在の機械角θmが角度区間P1およびP2のいずれに含まれるかを判定する。
【0077】
マイクロプロセッサ20は、機械角θmが角度区間P2に含まれるとき(S141のYES判定時)には、
図7のステップS142と同様に、現在の機械角θmによらずトルク補正係数Tp1を所定の一定値(たとえば、Tp1=1.0)に設定する。
【0078】
一方、マイクロプロセッサ20は、機械角θmが角度区間P1に含まれるとき(S141のNO判定時)には、ステップS144に処理を進めて、現在の機械角θmの前後の特性点150の機械角およびトルク補正係数を読み出す。
【0079】
さらに、マイクロプロセッサ20は、ステップS145により、読み出した補正データについて上記(1)に従った線形補完により、現在の機械角θmに対応したトルク補正係数Tp1を設定する。
【0080】
ステップS142またはS145によって、機械角θm(回転角度)に応じたトルク補正係数Tp1が設定された後の処理(S146,S148)は、
図7と同一であるので詳細な説明は繰返さない。
【0081】
このように、実施の形態の変形例によるモータ制御においては、周期的な負荷トルク変動を有する負荷を駆動するモータ制御において、周期的なトルク変動を補償するための補正データの記憶容量をさらに削減することができる。
【0082】
なお、本実施の形態およびその変形例では、シャント電流に基づいてモータ30の回転角度(機械角θm)を検出する手法を例示したが、モータ30の回転角度検出については、公知の任意の手法を適用することが可能である。たとえば、特許文献2に示されるように、モータ30の各相巻線への誘起電圧に基づいて回転角度を検出することが可能である。あるいは、レイアウト上可能であれば、モータ30に回転角センサ(たとえば、レゾルバ)を配置して、当該センサの出力に基づいて、回転角度(機械角)を検出する構成とすることも可能である。
【0083】
また、トルクパターン補正制御のための補正データは、トルク補正係数Tpに限定されるものではない。たとえば、トルクパターン補正部140によってトルク補償量(増減すべきトルク量)を設定するとともに、平均回転速度の偏差に基づくトルク増減と、当該トルク補償量との和に従った出力トルクが得られるように、各相電圧指令値Vu,Vv,Vwを設定することができる。
【0084】
あるいは、トルクパターン補正制御のための補正データとして、PWMデューティの補償量を直接設定することも可能である。この場合には、PWM処理部160において、回転速度フィードバック制御による各相電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づくPWM処理に対して、上記補償量を反映することによって、各相のPWMパルスパターンが生成される。このように、本実施の形態で例示するトルク補正係数Tpとは異なる補正データを設定することによって、周期的なトルク変動を補償するためのトルクパターン補正制御を反映してモータ30の出力トルクを制御する場合でも、角度区間P1,P2に区分した補正データの設定について、本実施の形態およびその変形例を同様に適用することができる。
【0085】
さらに、本実施の形態およびその変形例に従って制御されるモータの負荷についても、例示した圧縮機40に限定されるものではない。すなわち、周期的な負荷トルク変動に従ったトルクパターンを予め作成可能な負荷であれば、本実施の形態およびその変形例に従って制御されるモータによって駆動することで、本発明を適用することができる。
【0086】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。