特許第6005692号(P6005692)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6005692
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】歯列矯正用ブラケットセット
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/28 20060101AFI20160929BHJP
【FI】
   A61C7/28
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-128906(P2014-128906)
(22)【出願日】2014年6月24日
(62)【分割の表示】特願2012-515379(P2012-515379)の分割
【原出願日】2010年6月11日
(65)【公開番号】特開2014-205057(P2014-205057A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2014年7月22日
(31)【優先権主張番号】102009029834.7
(32)【優先日】2009年6月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】511307580
【氏名又は名称】ベルンハルト フェースター ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】フェースター,ロルフ
【審査官】 胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−253579(JP,A)
【文献】 特表2001−503305(JP,A)
【文献】 特開2007−319693(JP,A)
【文献】 特表2005−505310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯列矯正用セルフライゲーションブラケットセットであって、ブラケット(40、41)が
ベース部(1)と、
該ベース部(1)上に配置されたブロック部(4)と、
該ブロック部(4)から延び、かつ咬合側結紮ウィング(9)を少なくとも1つ有する咬合側壁(6)と、
該ブロック部(4)から延び、かつ歯肉側結紮ウィング(8)を少なくとも1つ有する歯肉側壁(5)と、
該咬合側壁(6)と歯肉側壁(5)とを隔て、セット内のブラケット(40、41)において同一の最小内幅を有し、近心から遠心方向へ連続的に延び、かつ歯列矯正治療中はアーチワイヤー(10)がその上を通るベース領域(11)を有するスロット(7)と、
ブロック(4)内を歯肉側‐咬合側方向に延び、舌側に位置する面(19)および唇側に位置する面によって区切られている通路(18)と、
咬合側に配置されている部分(28)により相互に接続されている唇側脚部(27)および舌側脚部(26)を有する弾性クリップ(25)と、
を有し、
舌側脚部(26)が通路(18)に挿入可能で、クリップ(25)の閉位置と開位置との間で歯肉側‐咬合側方向にのみ変位させることができ、
閉位置ではクリップの唇側脚部(27)が歯肉側壁(5)の凹部(24)に入り込んだ状態にあり、
該凹部が、少なくとも舌側にクリップの唇側脚部(27)用受止部(37)を有し、
開位置では唇側脚部(27)の先端が咬合側壁(6)より上に位置し、
スロット(7)のベース領域(11)から舌側受止部(37)までの距離が、ブラケット(40、41)において異なり、
第1のブラケット(41)の前記スロット(7)の深さは、前記アーチワイヤー(10)が前記スロット(7)のベース領域(11)上にある限り閉位置にある前記クリップ(25)による圧力を受けない程度に深くなるよう選択され、
第2のブラケット(40)の前記スロット(7)の深さは、前記アーチワイヤー(10)がスロット(7)のベース領域(11)上にある限り閉位置にある前記クリップ(25)による圧力を受ける程度に、前記第1のブラケット(41)のスロット(7)の深さよりも浅くなるように選択され、
同一のクリップ(25)を有するブラケット(40、41)の組を含み、組になるブラケット(40、41)がスロット(7)の深さにおいてのみ異なり、
能動型ブラケットである第2のブラケット(40)はベース領域(11)とクリップ(25)の組み合わせによって得られ、ベース領域(11)はブラケット(40、41)と一体であることを特徴とする、歯列矯正用セルフライゲーションブラケットセット。
【請求項2】
歯列矯正用セルフライゲーションブラケットセットであって、ブラケット(40、41)が
ベース部(1)と、
該ベース部(1)上に配置されたブロック部(4)と、
該ブロック部(4)から延び、かつ咬合側結紮ウィング(9)を少なくとも1つ有する咬合側壁(6)と、
該ブロック部(4)から延び、かつ歯肉側結紮ウィング(8)を少なくとも1つ有する歯肉側壁(5)と、
該咬合側壁(6)と歯肉側壁(5)とを隔て、セット内のブラケット(40、41)において同一の最小内幅を有し、近心から遠心方向へ連続的に延び、かつ歯列矯正治療中はアーチワイヤー(10)がその上を通るベース領域(11)を有するスロット(7)と、
ブロック(4)内を歯肉側‐咬合側方向に延び、舌側に位置する面(19)および唇側に位置する面によって区切られている通路(18)と、
歯肉側に配置されている部分(28)により相互に接続されている唇側脚部(27)および舌側脚部(26)を有する弾性クリップ(25)と、
を有し、
舌側脚部(26)が通路(18)に挿入可能で、クリップ(25)の閉位置と開位置との間で歯肉側‐咬合側方向にのみ変位させることができ、
閉位置ではクリップの唇側脚部(27)が咬合側壁(6)の凹部(24)に入り込んだ状態にあり、
該凹部が、少なくとも舌側にクリップの唇側脚部(27)用受止部(37)を有し、
開位置では唇側脚部(27)の先端が歯肉側壁(5)より上に位置し、
スロット(7)のベース領域(11)から舌側受止部(37)までの距離が、ブラケット(40、41)において異なり、
第1のブラケット(41)の前記スロット(7)の深さは、前記アーチワイヤー(10)が前記スロット(7)のベース領域(11)上にある限り閉位置にある前記クリップ(25)による圧力を受けない程度に深くなるよう選択され、
第2のブラケット(40)の前記スロット(7)の深さは、前記アーチワイヤー(10)がスロット(7)のベース領域(11)上にある限り閉位置にある前記クリップ(25)による圧力を受ける程度に、前記第1のブラケット(41)のスロット(7)の深さよりも浅くなるように選択され、
同一のクリップ(25)を有するブラケット(40、41)の組を含み、組になるブラケット(40、41)がスロット(7)の深さにおいてのみ異なり、
能動型ブラケットである第2のブラケット(40)はベース領域(11)とクリップ(25)の組み合わせによって得られ、ベース領域(11)はブラケット(40、41)と一体であることを特徴とする、歯列矯正用セルフライゲーションブラケットセット。
【請求項3】
最大断面が0.56mm×0.64mm(0.022インチ×0.025インチ)のアーチワイヤー(10)を受けるために、スロット(7)の最小内幅が0.56mm(0.022インチ)であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の歯列矯正用セルフライゲーションブラケットセット。
【請求項4】
歯列矯正用のアーチワイヤー(10)を含むことを特徴とする、請求項1から3の何れか1つに記載の歯列矯正用セルフライゲーションブラケットセット。
【請求項5】
セットに含まれる歯列矯正用アーチワイヤー(10)の最大断面が0.56mm×0.64mm(0.022インチ×0.025インチ)であることを特徴とする、請求項4に記載の歯列矯正用セルフライゲーションブラケットセット。
【請求項6】
スロット(7)のベース領域(11)からクリップ(25)の唇側脚部(27)用受止部(37)までの距離が、第1のブラケット(41)で0.64mm(0.025インチ)であり、第2のブラケット(40)で0.3mm〜0.5mmであることを特徴とする、請求項1から5の何れか1つに記載の歯列矯正用セルフライゲーションブラケットセット。
【請求項7】
ブラケット(40、41)がクリップ(25)の唇側脚部(27)用受止部(35)を有し、該受止部がクリップ(25)の唇側脚部(27)用舌側受止部(37)とは逆の唇側方向に有効であることを特徴とする、請求項1から6の何れか1つに記載の歯列矯正用セルフライゲーションブラケットセット。
【請求項8】
ブラケット(40、41)の歯肉側壁(5)または咬合側壁(6)の凹部(24)が、スロット(7)のベース領域(11)と平行なリムを有する窓部(21)もしくは溝であるか、または該窓部(21)もしくは溝を含むことを特徴とする、請求項1から7の何れか1つに記載の歯列矯正用セルフライゲーションブラケットセット。
【請求項9】
最大断面積が0.46mm×0.64mm(0.018インチ×0.025インチ)のアーチワイヤー(10)を受けるために、スロット(7)の最小内幅が0.46mm(0.018インチ)であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の歯列矯正用セルフライゲーションブラケットセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯列矯正用ブラケットセットに関する。
【背景技術】
【0002】
独国特許出願公開第102006027130(A1)号明細書には、
ベース部と、
該ベース部上に配置されたブロック部と、
該ブロック部から延び、かつ咬合側結紮ウィングを少なくとも1つ有する咬合側壁と、
該ブロック部から延び、かつ歯肉側結紮ウィングを少なくとも1つ有する歯肉側壁と、
該咬合側壁と歯肉側壁とを隔て、近心から遠心方向へ連続的に延び、かつ歯列矯正治療中はアーチワイヤーがその上を通るベース領域を有するスロットと、
ブロック内を歯肉側‐咬合側方向に延び、舌側に位置する面および唇側に位置する面によって区切られている通路と、
咬合側または歯肉側に配置されている部分により相互に接続されている唇側脚部および舌側脚部を有する交換可能な2個の異なる弾性クリップと
を有する歯列矯正用ブラケットセットが開示されている。
前記舌側脚部は通路に挿入可能であり、クリップの唇側脚部が歯肉側壁または咬合側壁の凹部に入り込んだ状態にある閉位置と、開位置との間で歯肉側‐咬合側方向にのみ変位させることができる。
歯肉側壁または咬合側壁の凹部は、少なくとも唇側にクリップの唇側脚部用受止部を有する。開位置にあるクリップの唇側脚部の先端は、ブラケットにおけるクリップの配向によってブラケットの咬合側壁上または歯肉側壁上のいずれかにあり、歯列矯正用のアーチワイヤーを唇側から舌側の方向に向けてスロットに挿入することができる。クリップが閉位置にある場合には、クリップによってアーチワイヤーが固定される。このクリップによって、ブラケットはセルフライゲーションブラケットとなる。
【0003】
独国特許出願公開第102006027130(A1)号明細書で開示されたセットは、同一ブラケット用の別のクリップを含むものである。クリップを別のクリップと交換することにより、能動型セルフライゲーションブラケットを受動型セルフライゲーションブラケットに変えることができる。受動型ブラケットとは、歯列矯正治療を目的としてブラケットのスロットに挿入されているアーチワイヤーが、スロットのベース領域上にある限り、クリップの唇側脚部による圧力を受けることのないブラケットを意味する。能動型ブラケットとは、少なくとも歯列矯正治療で使用され得る最も断面の大きなアーチワイヤーが、スロットのベース領域上にある場合にも、弾性クリップの唇側脚部による圧力を受けるブラケットを意味する。これは、このような場合、クリップを弾力的に曲げただけで閉位置への移動が起こり得ることを意味する。
【0004】
受動型ブラケットも能動型ブラケットも、歯の位置異常の矯正治療において、存在する意義がある。能動型ブラケットは、ある種の位置異常や、位置異常を矯正する処置の段階で選択されるが、受動型ブラケットが選択される場合もある。より詳しい情報は、独国特許出願公開第102006027130(A1)号明細書に記載されている。
【0005】
セルフライゲーションブラケット用のクリップは、弾性および寸法が再現されるように製造することができ、ブラケットと弾性クリップとが非常に小さいということを除けば、その製造は格別困難ではない。これは、独国特許出願公開第102006027130(A1)号明細書に開示されている種類のセルフライゲーションブラケットにも言える。受動型ブラケットは、弾性クリップの開口幅が能動型ブラケット用のクリップよりもやや大きくなるよう製造することが重要である。また、受動型ブラケットの弾性クリップは、独国特許出願公開第102006027130(A1)号明細書に開示された能動型セルフライゲーションブラケットほどスロットをしっかりと閉じた状態に保つわけではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、セルフライゲーションブラケットの製造をより困難なものとすることなく、前記欠点の改善策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1および請求項2で規定する特徴を有するセットにより達成される。本発明に有利に変更を加えたものが、従属請求項に記載されている。請求項1と請求項2の唯一の違いは、請求項1の弾性クリップの場合、ブラケットの咬合側壁から突き出た唇側脚部がブラケットの歯肉側壁の凹部へ入っていることである。請求項2の場合、これと逆に、弾性クリップの唇側脚部は、ブラケットの歯肉側壁から突き出てブラケットの咬合側壁の凹部へ入っている。請求項1に規定される変化形は、請求項2に記載の実施形態と比べ、咀嚼の際に生じる圧力にクリップがよく耐え、また閉位置においてより確実に保持されることから好まれる。
【0008】
本発明は、以下に述べる顕著な利点を有する。
・ 弾性クリップはセット内のすべてのブラケットにおいて同一にすることができ、セット内のすべてのブラケットにおいて同一であることが好ましい。これにより、繊細な弾性クリップの製造を大幅に単純化することができる。
・ 同一の弾性クリップを使用しながら能動型と受動型のブラケットを製造可能にするために、本発明は、ブラケットの1箇所のみに変更を加えるという驚くべき単純な方法を提案している。すなわち、セットにおいてブラケットのスロットの深さを変えることにより、スロットが第1の深さを有する能動型ブラケット、およびスロットが第2の深さを有する受動型ブラケットを得るものである。深いほうが受動型ブラケット、浅いほうが能動型ブラケットとなる。その他の点では、この2つのブラケットは同一であってよく、同一であることが好ましい。
・ 本発明は、たとえばスロットの深さが浅く、所定のクリップを接続すると能動型ブラケットとなるようなブラケットを構成することにより実現してもよい。前記スロットの深さは、スロットのベース部から材料の一部を切削または研磨によって削り取ることで深くすることができ、それによって、受動型ブラケットを得ることができる。
・ しかしながら、本発明は、射出成形法によってブラケットを製造する場合に特に費用効率高く実現することができる。これは、プラスチック製ブラケットだけでなく、セラミック射出成形(CIM法)を使用したセラミックブラケット、さらに金属射出成形(MIM法)を使用した金属ブラケットにおいても可能である。CIM法、MIM法のいずれにおいても、粉体スラリーを射出成形金型に注入し、圧縮し、次いで焼結が行われる。成形は、射出成形金型内で部分的にスライダを使用して行われる。これは、特にスロットの成形過程に有効である。能動型ブラケットではなく受動型ブラケットを成形する場合、スロットの成形過程に必要なスライダを少し長いものに交換するだけで十分である。金型の他の構成要素はすべてそのままにしておいてもよい。本発明のブラケットは、セットのいずれの実施形態であっても、非常に効率良く低コストで製造することができる。
【0009】
現時点で歯列矯正治療用アーチワイヤーとして存在する最大断面は、0.022インチ×0.025インチまたは0.018インチ×0.025インチである。ここで0.025インチは、ブラケットにおけるスロットのベース領域からのアーチワイヤーの高さである。したがって、スロットの最小内幅は、0.022インチすなわち0.56mm、または0.018インチすなわち0.46mmであることが好ましい。スロットの幅は、いくつかの箇所、たとえばスロットの両端部等では、これより大きい場合もある。しかし、幅0.022インチまたは0.018インチのアーチワイヤーを挿入するためには、スロットはどの場所においても、少なくとも0.022インチまたは0.018インチという内幅をそれぞれ有していることが必要である。とは言え、矩形または正方形の断面を有するアーチワイヤーによって歯にトルクを伝えるためには、スロットの内幅は、それぞれ0.022インチまたは0.018インチよりも大き過ぎてはならない。
【0010】
セットの第1のブラケットにおいて、スロットのベース領域からクリップの唇側脚部用受止部までの距離は、歯列矯正治療で使用され得る最も断面の大きなアーチワイヤーがスロットのベース領域上にある場合に、閉位置にあるクリップによる圧力を受けないように選択されることが好ましい。歯列矯正治療で使用され得る最も断面の大きなアーチワイヤーの代わりに、それよりも背の低いアーチワイヤーが第1のブラケットに挿入される場合、この低いアーチワイヤーがスロットのベース領域上にある限り、弾性クリップによるいかなる圧力も受け得ないことは明らかである。セットの第2のブラケットにおいては、スロットのベース領域からクリップの唇側脚部用受止部までの距離は、第1のブラケットの場合よりも短くなるよう選択されることが好ましい。こうすることにより、少なくとも歯列矯正治療で使用され得る最も断面の大きなアーチワイヤーがクリップの唇側脚部による圧力を常に受けるようになり、あらゆる場合に受動的に機能する第1のブラケットとは対照的に、能動的に機能するようになる。
【0011】
スロットのベース領域からクリップの唇側脚部用受止部までの距離は、受動型ブラケットとして使用される第1のブラケットの場合、0.025インチすなわち0.64mmであることが有利である。この距離はこれよりも大きくなるよう選択することもできるが、ブラケットの高さを不必要に大きくすることになるため、有利ではない。セットの第2のブラケットにおいては、スロットのベース領域からクリップの唇側脚部用舌側受止部までの距離は、0.3〜0.5mmが好ましく、とりわけ0.38〜0.42mmが好ましい。歯列矯正治療用としては、クリップの唇側脚部用舌側受止部からスロットのベース領域までを測定した能動型ブラケットのスロット深さに関して、これは実によい妥協案である。
【0012】
本発明のセットにおけるブラケットは、クリップの唇側脚部がブラケットのスロットに侵入する深さを効果的に制限するために、クリップの唇側脚部用舌側受止部を少なくとも1つ有している。本発明のセットにおけるブラケットはさらに、歯列矯正治療中にアーチワイヤーがクリップの唇側脚部を押し上げることによってスロットからアーチワイヤーがはずれることを防ぐために、唇側方向に効果的な、クリップの唇側脚部用受止部を有していることが好ましい。このような唇側方向に効果を発揮する受止部を設けるためには、ブラケットの歯肉側壁、または(クリップが逆向きの場合)咬合側壁の凹部は、スロットのベース領域と平行なリムを有する窓部または溝であることが必要である。
【0013】
セットは、スロットの深さのみが異なるブラケットを含むことが好ましい。このセットは特に、同一のクリップを備えたブラケットの組を含み、組になるブラケットはスロットの深さにおいてのみ異なるものである。種々のブラケットは、異なる歯への取り付けに使用できる。種々のブラケットとしては、たとえば付属品の異なるもの、角度の異なるもの、異なるトルクを伝えるためのもの等がある。これらの異なる実施形態の各々に、能動型ブラケットと受動型ブラケットとがあり得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
添付の図面は本発明をよりよく説明するものであり、能動型ブラケットおよび受動型ブラケットを示している。ブラケット内の同一または対応する部分は、同じ参照番号で示される。
受動型ブラケットの図においては、能動型ブラケットと異なる部分のみ参照番号にて示している。
図1】ブラケットのスロットを長手方向から見た能動型ブラケットの側面図である。
図2図1に対応する、受動型ブラケットの側面図である。
図3図1の能動型ブラケットをスロットに対して垂直方向に切断した中心断面図である。
図4図3に対応する、図2の受動型ブラケットの断面図である。
図5図4の「X」部分の拡大詳細図である。
図6】弾性クリップが開位置にある図1の能動型ブラケットの立面図である。
図7図6に対応する、図2の受動型ブラケットの図である。
図8】弾性クリップが閉位置にある図1の能動型ブラケットの立面図である。
図9図8に対応する、図2の受動型ブラケットの図である。
図10図1の能動型ブラケットの斜景図である。
図11図2の受動型ブラケットの斜景図である。
【0015】
能動型ブラケット40、受動型ブラケット41のいずれも、そのベース部1は歯の前側に近い反りを有している。ベース部1は、ブラケット40、41の舌側面を形成している下面2に、列状に配置されている突出部3を有し、これらはアンダーカットされている。突出部3の、図3および4に示す断面は菱形であり、下面2と平行な断面は矩形である。下面2には、ブラケット40、41を歯の前側に接着するための接着剤をコートすることができる。突出部3と接着剤との組合せにより、十分な接着力を得ることができる。各列において、突出部3とアンダーカットの方向は一致する。しかしながら、その方向は列ごとに逆向きになっている。これにより、ブラケット40、41の歯肉側から咬合側への力が働く場合も、咬合側から歯肉側への場合と同じ接着力を得ることができる。
【0016】
図7において、歯の上のブラケットの位置は、歯肉側‐咬合側および遠心‐近心という2つの方向に関して指定される。
【0017】
ベース部1は、歯肉側壁5および咬合側壁6が立ち上がるブロック部4へと続いている。壁5および6は互いに平行であり、溝7によって隔てられている。溝7はスロットと呼ばれ、遠心から近心方向へ続き、唇側に開いている。
【0018】
歯肉側壁5上には、歯肉側へ突き出した2つの結紮ウィング8が設けられている。咬合側壁6上には、咬合側へ突き出した2つの結紮ウィング9が設けられている。結紮ウィングには、当業者に知られた方法で結紮線を固定することができる。
【0019】
スロット7はアーチワイヤー10を受ける役割を果たし、断面は特に矩形となっている。アーチワイヤー10にあらかじめ引っ張る力をかけることにより、スロットのベース領域11に圧力をかけ、またブラケットの壁5および6にトルクを働かせることができる。この目的のために、スロット7の内断面は実質上矩形となっている。この例では、歯肉側壁5上の薄く低いリブ12、および咬合側壁6上の薄く低いリブ13によってわずかに狭められている。リブ12および13は、スロット7内でのアーチワイヤー10の摩擦を小さくするために使用される。スロット7のベース領域11は、以下でより詳細に説明するが、スロット7の長さ全体にわたって同じ高さで形成されているのではなく、分断されている。これによってさらに、スロット7内でのアーチワイヤー10の摩擦が小さくなる。スロット7の端部において、スロット7のベース領域は傾斜面14、歯肉側壁5の傾斜面15および咬合側壁6の傾斜面16を含んでいる。これらはスロット7の入口を広げるとともに、スロット7内に位置するアーチワイヤー10の摩擦を小さくするために使用される。これは特に、歯の位置異常の程度が大きいためにアーチワイヤー10の経路が特に不規則になる場合に有利であることがわかっている。
【0020】
咬合側壁の近心から遠心方向に向かって連続したチャネル17が設けられ、歯の位置を矯正するための補助的要素、たとえば、ばね、フック、補助ワイヤー等を収容することができる。
【0021】
スリット状の通路18は、スロット7のベース領域11の下にこれと平行に延びている。この通路の舌側は、スロット7のベース領域11と平行かつ平らな面19によって限定されている。面19は、咬合側壁6から、まずブロック部4を通り、ブラケット40、41を横切って延び、最終的にベース部1にあるブラケットの歯肉側領域へと達している。結紮ウィング8、9の近傍において、通路18は、互いに平行でありかつ舌側面19に対し直角である側面20によって範囲を定められる。咬合側壁6は、スロット7に向いていない側の、通路18の上方に、シリンダケーシング形状をした面6aを有する。これによって、ブラケット40、41の咬合側において、通路18は漏斗状の入口を備えることになる。スロット7の底部は、側壁20の間ではベース領域11よりも低い位置にあり、すなわち通路18の舌側面19に達している。
【0022】
歯肉側壁5には、凹部21が設けられる。この凹部は舌側面19、側壁20、互いに向き合いかつ側壁20に隣接し、間に歯肉側壁5の間隙が位置する突出部22(図10、11参照)、側壁20に平行な2つのリム34、および唇側に位置するリム35によって囲まれている。突出部22の舌側リム38はクリップ25の舌側脚部26をガイドするために使用される。突出部22と同様にリム34および35は凹部21の構成要素として、実質上矩形をした窓部24を定義する。窓部の遠心‐近心方向の長さは、突出部22間の距離よりも長いが、歯肉側結紮ウィング8間の距離よりは短く、さらにリブ12および13の間の距離(ここでは側壁20間の距離と一致する)よりも小さい。歯肉側壁5上に設けられたリブ12は、同時に突出部22の唇側リムでもある窓部24の舌側リムの高さで終わっている。
【0023】
ブラケット40、41は、弾性材料で作られたクリップ25を補うことによってセルフライゲーションブラケットとなる。クリップ25には直線的な舌側脚部26と、それよりは短くほぼ直線状である唇側脚部27を有する。脚部26および27は、咬合側に位置する円弧に近い形状をした部分28を介して接続されている。前記部分の幅は舌側脚部26の幅と正確に一致し、通路18内に隙間がほとんどない状態で適合する。唇側脚部27の幅は、スロット7の長さにほぼ一致する。唇側脚部は、舌側脚部26に対し、平行ではなく鋭角で咬合側部分28から近づいている。唇側脚部27はその歯肉側端部に歯肉側に延びる延長部29を有し、これは唇側に角度がついている。延長部29の幅は唇側脚部27より狭く、また舌側脚部26よりも狭い。この延長部は、歯肉側壁5の凹部21における不可欠な部分である窓部24内に(スロット7の長手方向に関して)隙間がほとんどない状態で適合している。
【0024】
舌状凸部30は舌側脚部26の歯肉側端部の近傍から切り出され、舌側脚部26と鋭角を成すように咬合側部分28に向かって持ち上げられた形状となっている。
【0025】
クリップ25は、舌側脚部26を咬合側から通路18に挿入することによってブラケット40、41に接続される。通路18の入口が狭くなっていることにより、舌状凸部30は舌側脚部26(舌状凸部30はこの脚部から切り出されている)の切り出し部分に徐々に押し込まれる。咬合側壁6を通り抜けると、舌状凸部30は跳ね上がって咬合側壁6に当たり、結果としてクリップ25は外れなくなる。この位置に到達するまで、クリップ25が前方へ押されている間、延長部29は咬合側壁6のシリンダケーシング形状をした面6aに接した状態で咬合側壁6の唇側上面までスライドする。このときクリップ25は、弾性復元力に逆らって広げられている。クリップ25がさらに前方へ押されると、クリップ25の唇側脚部27は、咬合側壁6の唇側上面から下方へスライドし、スロット7に落ち込む。アーチワイヤーの高さが、クリップ25の唇側脚部27用舌側受止部を形成している窓部24の舌側リム37より上に出るほど高い場合、能動型ブラケットにおいては、唇側脚部27は、弾性力によってアーチワイヤー10にもたれかかった状態になる(図1、3、6、8、10)。咬合側壁6を超えたクリップ25は、弾性復元力により、その延長部29が歯肉側壁5の窓部24にはめ込まれるまでさらに進む。このように、アーチワイヤー10がクリップ25の唇側脚部27を持ち上げることができるのは、最大でも延長部29が窓部24の唇側リム35に当たるまでの範囲であるので、クリップ25によってアーチワイヤー10はスロット7内に固定される。窓部24の舌側リム37は、突出部22の唇側リムでもあり、これらによって、スロット7のベース領域11からクリップ25の唇側脚部27までの最小の距離が決まる。
【0026】
受動型ブラケット41(図2、4、5、7、9、11)の場合、能動型ブラケット40と比較して、ベース領域11はより深い位置にある。すなわち、能動型のブラケット40と比較して、ベース領域からクリップ25の唇側脚部27用舌側受止部37までの距離はより大きくなる。受動型ブラケット41の場合、スロット7のベース領域11上のアーチワイヤーは、クリップ25によって固定されているわけではない。このようにして、歯の位置の矯正を促進することができる。受動型ブラケット41は、能動型ブラケット40との識別を容易にするためのマーキング39を有する。
【0027】
能動型ブラケット40において、アーチワイヤー10とクリップ25との摩擦を小さくするために、クリップ25の唇側脚部27の遠心リムおよび近心リムは、丸められているかまたは傾斜面を有することが好ましい。
【0028】
クリップ25を閉位置(図1〜5、8〜11)から開位置(図6、7)へ移動させるために、たとえばスケーラー等の器具を、クリップ25の舌側脚部26の歯肉側リムにあてがって使用してもよい。通路18を舌側で区切る面19が、歯肉側の方向へ延びてクリップ25の舌側脚部26の歯肉側端部よりも出ているために、その位置は、目視せずとも手探りで確認することができる。舌側面19はさらに、歯肉側端部から延びてクリップ25の舌側脚部26へと続く溝32を含む。溝32は、器具を用いてその位置を探ることができ、位置確認の助けとなる。溝32が捉えられれば、該器具の先端でクリップ25を歯肉側から咬合側へ押す。このとき、器具の先端は、さらに溝32によって正しい方向へガイドされる。クリップ25が開位置にある場合、クリップ25の唇側脚部27は咬合側壁6上で安定位置にあり、スロット7の唇側からの入口は開放されている。
【0029】
クリップ25は、舌状凸部30が咬合側壁6に当たるまで、咬合側へ押すことができる。したがって、閉位置(図1〜5、8〜11)から開位置(図6、7)へ移動する間にクリップ25を紛失する心配はない。ブラケット40、41からクリップ25を完全に外すには、舌状凸部30を、それが切り出された元の場所であるクリップ25の舌側脚部26中の切り出し部分へと器具を用いて押し戻し、該舌状凸部30を押し下げたままクリップ25をさらに咬合側へ押す必要がある。
【0030】
図1、3、6、8、10の能動型ブラケット40と図2、4、5、7、9、11の受動型ブラケット41との比較により、2つのブラケット間の顕著な差異、すなわち受動型ブラケット41における舌側受止部37とベース領域11との距離が、能動型ブラケット40におけるそれよりも大きく、アーチワイヤー10の断面が歯列矯正治療で使用され得る最も大きなものであっても、アーチワイヤー10がスロット7のベース領域11上にある限り、クリップ25による圧力は受けない(図5参照)という事実が明確に示される。
【0031】
受動型ブラケット41では、舌側受止部37とベース領域11との距離が大きくなっている結果、傾斜面15、16が長く、スロット7の端部にある傾斜面14は短い。マーキング39を除けば、受動型ブラケット41には、能動型ブラケット40からのさらなる変更点はない。
【符号の説明】
【0032】
参照番号
1.ベース部
2.1の下面
3.突出部
4.ブロック部
5.歯肉側壁
6.咬合側壁
6a.シリンダケーシング形状をした面
7.スロット
8.歯肉側結紮ウィング
9.咬合側結紮ウィング
10.アーチワイヤー
11.7のベース領域
12.5の上のリブ
13.6の上のリブ
14.11の傾斜面
15.5の傾斜面
16.6の傾斜面
17.チャネル
18.通路
19.舌側面
20.側壁
21.5の凹部
22.5の突出部
23.−−
24.窓部
25.クリップ
26.舌側脚部
27.唇側脚部
28.25の咬合側部分
29.27の延長部
30.舌状凸部
31.−−
32.溝
33.−−
34.24のリム
35.24の唇側に位置するリム、唇側受止部
36.−−
37.24の舌側に位置するリム、舌側受止部
38.22の舌側リム
39.40の上のマーキング
40.能動型ブラケット
41.受動型ブラケット
図1
図2
図3
図4
図5
図6-7】
図8
図9
図10
図11