特許第6005909号(P6005909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6005909
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20160929BHJP
   B41J 2/205 20060101ALI20160929BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20160929BHJP
【FI】
   B41J2/01 107
   B41J2/01 213
   B41J2/205
   B41J2/21
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-109429(P2011-109429)
(22)【出願日】2011年5月16日
(65)【公開番号】特開2012-61841(P2012-61841A)
(43)【公開日】2012年3月29日
【審査請求日】2014年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2010-185357(P2010-185357)
(32)【優先日】2010年8月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】395003187
【氏名又は名称】株式会社OKIデータ・インフォテック
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【弁理士】
【氏名又は名称】川合 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100116207
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 俊明
(72)【発明者】
【氏名】竹内 節
【審査官】 有家 秀郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−052389(JP,A)
【文献】 特開2002−096455(JP,A)
【文献】 特開2002−361853(JP,A)
【文献】 特開平07−052390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体にインクを吐出する印字ヘッドと、前記記録媒体を搬送する搬送手段と、前記印字ヘッドを搭載し前記記録媒体の搬送方向に対して交差する方向に移動するキャリッジと、を有し、
前記印字ヘッドは複数のブロックに分割され、
前記ブロック数と同数以上の異なるマスクパターンを生成でき、前記ブロック毎に異なる前記マスクパターンを適用しかつスキャン毎に前記マスクパターンを変更して適用し、
前記印字ヘッドの両端側に配置されている2つの前記ブロックのノズルの使用される確率が他の前記ブロックの前記ノズルの使用される確率に比べて低くかつ均一な部分と非均一な部分とを有するプリントマスク関数によって生成された前記マスクパターンを適用することで作画動作を行い、
前記ブロックにより記録される副走査方向の幅は、前記記録媒体を搬送する際の搬送ピッチの幅と略合致し、前記印字ヘッドを走査させながら前記記録媒体に前記インクを吐出し、前記記録媒体に画像を形成する記録装置において、
前記マスクパターンは、前記ブロックに含まれる前記ノズルに対応する前記副走査方向の幅を有し、前記マスクパターンは、予めメモリ上に格納されている基本マスクパターンであって、前記プリントマスク関数によって生成された夫々の主走査方向のサイズが同一である複数の異なる前記基本マスクパターンを、予め決められた順番に従い前記ブロック毎に前記印字ヘッドの前記主走査方向に組み合わせてリング状に結合することによって構成され、
前記マスクパターンの内の前記2つの前記ブロックの間に配置されている前記ブロックの前記マスクパターンは、夫々の前記ブロックの前記ノズルの使用される確率が同じであり、かつ前記均一な部分に対応して生成されたものであり、
前記マスクパターンの内の前記2つの前記ブロックの前記マスクパターンは、夫々の前記ブロックの前記ノズルの使用される確率が前記2つの前記ブロックの間に配置されている前記ブロックの内の一つの前記ブロックの前記ノズルの使用される確率の半分の確率である前記プリントマスク関数の前記非均一な部分に対応して生成され、前記2つの前記ブロックの前記マスクパターンは夫々が補完しあうものであり、
前記スキャン毎に前記ブロックの前記マスクパターンを構成する前記基本マスクパターン同士の前記主走査方向の結合部分を前記主走査方向に所定ピッチシフトさせた位置にして結合することで、隣り合う前記ブロックの夫々の前記基本マスクパターンの位置が前記主走査方向にずれた前記マスクパターンが生成され、該生成された前記マスクパターンを適用して前記作画動作をすることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
1つの前記基本マスクパターンを回転または反転させることで複数の前記基本マスクパターンとすることを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印字ヘッドの動作を制御して印字する記録装置及び記録方法に関する。特にインクジェット方式の記録装置および記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタに代表される記録装置においては、高画質化は高印字速度化とともにその性能を左右する大きなポイントである。高画質を実現するためには、印字ヘッドから吐出する液滴を、決められた用紙上の位置に精度良く、均一に着弾させることが必要となる。特にカラープリンタの場合には、各色の着弾位置がずれることによって色相が変わってしまう、いわゆる色ズレの問題を防ぐ意味でも、着弾精度の向上は重要である。
【0003】
しかし、双方向印刷を行う場合には、印字ヘッドの並び順によって、往路と復路で各色印字ヘッドから吐出、着弾するドットの重ね順が入れ替わってしまうことから、そもそも着弾精度を上げたとしても色相が変わってしまう、いわゆる双方向色バンディングが発生してしまうという問題があった。
【0004】
例えば特開2003−226004号公報には、端部の周辺領域に対応するノズルの使用される確率を他のノズルに比べて低くする、非均一なプリントマスク関数を適用した色スワスに基づいて作画動作を行うことで、双方向色バンディングを目立ちにくくする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−226004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
双方向色バンディングの原因は前記のとおり、色の重ね順が往路と復路によって異なることと言えるが、その中でも、用紙上に最初に作画されるはじめのスキャン(第1スキャン)と最後のスキャン(最終スキャン)の寄与率は高い。前者は、用紙上に初めて吐出されたインクは短時間のうちに広がってしまい大きなドットを形成するし、後に吐出されたインクは、その広がったインクの上でやや小さなドットを形成することで説明できる。つまり、第1スキャンの中でも最初に吐出される色、キャリッジ進行方向の前方に位置する印字ヘッド色の影響が強くなる。後者については、最終スキャンの最後、すなわちキャリッジ進行方向の後方に位置する印字ヘッド色が印字面の一番上に存在するわけだから、この色の影響は強くなる。典型的な双方向色バンディングの一例を、図3(b)に示す。図3(a)は適正な画像を示す図である。図3(b)は双方向バンディングの一例を示す図である。双方向バンディングが生じた画像は縞模様が現れ、適正な画像に比べると品質が悪い。
【0007】
また、双方向色バンディングは、印字領域の左右端の間でも生じることがある。色の重ね順が等しい領域内でも、主走査方向(キャリッジが走査する方向)の原点付近では、往路から復路で作画される時間差は大きい。つまり、往路のはじめに作画し、復路の最後で作画するまでに間があく。これに対し、原点とは反対の端では往路から復路で作画される時間差は小さい。この時間差は、直前のスキャンによる用紙上のドットの乾燥状態に差異をもたらすから、その上に吐出したインクの素性は当然変わってくる。いうなれば、時間差による色バンディングが発生してしまうのである。
【0008】
大型のポスターや広告物を印刷したい場合、小さな印刷物を複数、横に並べて大きな印刷物とするタイリングと呼ばれる手法がある。前記左右端における色バンディングがあった場合、タイリングを行った場合に、印刷物のつなぎ目の色の差が目立ってしまい、画質を著しく低下してしまうことがある。
【0009】
特開2003−226004号公報では、暗インク色(たとえばシアン、マゼンタ、ブラック)では色スワスに非均一なプリントマスク関数を適用し、明インク色(たとえばイエロー)では均一なプリントマスク関数を適用することで、双方向色バンディングを目立ちにくくしている。
【0010】
しかし、非均一なプリントマスク関数を適用することによって、ある1スキャンに着目した場合、色スワスの非均一な端部付近においてノズル使用確率の差が大きくなってしまうことになる。これは、ある領域のドットを構成する作画のプロセスと、別の領域のドットを構成する作画のプロセスに差異を与えていることに他ならない。これは結局、前述左右端の時間差による色バンディングを生じさせる原因と同じである。またこれは、プリントマスク関数に、折れ線やS字形状のグラデーションカーブを用い、かつ0%から100%、もしくは100%から0%などといった、急峻な傾きを持たせた場合により顕著である。非均一なプリントマスク関数を構成するグラデーションカーブに応じた色バンディングが発生してしまうこととなってしまうのである。
【0011】
さらに、色スワス内において、プリントマスク関数の非均一な部分と、均一な部分による差異が色バンディングとして現れてしまうことがある。これは、プリントマスク関数の非均一な上下端領域は互いに補完しあって、従来の1スキャン分のドットを構成することから、均一なプリントマスク関数によってすべてのスキャンによって作画される領域よりもスキャン数が増えることになってしまう。つまり、画が完成するまでの時間に差が生じる。この差はまさに、ある領域のドットを構成する作画のプロセスと、別の領域のドットを構成する作画のプロセスに差異を与えていることであるから、色バンディングの原因に他ならない。
【0012】
双方向色バンディングに対しては、双方向印字にかわって、片方向印字をおこなうことで、インク色の重ね順と時間差を、作画領域の全部に対し統一することができる。これによって色バンディングは低減するのだが、印字速度は双方向印字に対して1/2倍に低下してしまうため、現実的ではない。また、片方向印字ではキャリッジの走行路上の特異な振動による画質不良が毎スキャン累積されるため、縦縞や色ムラなどの画質不良をまねいてしまう可能性もある。
【0013】
また、キャリッジ上に、左右対称に色が配置されるべく1色につき2個以上の印字ヘッドを搭載することで、往路と復路に関わらず色の重ね順を統一することも出来るが、通常の2倍以上のヘッドを必要としてしまうため、キャリッジの大型化、重量化、それを駆動するアクチュエータの大型化など、コストアップにつながってしまう。
【0014】
また、用紙搬送時の位置決め精度が悪かったり、用紙搬送量そのものが適正でない場合には、色スワスの上下端の位置に、色の濃くなる筋や薄くなる筋が現れることがある。これらは黒筋、白筋、などと呼ばれる境界バンディングである。この一例を図4(a)と図4(b)に示す。図4(a)は境界バンディングの1例である。図4(b)は境界バンディングの1例である。これらは、色スワスの上下端と他の部分の色の濃淡に差が生じ筋状になって現れている。これらを防止するためには、適宜用紙搬送量を調整する必要があるが、長期間安定的に搬送量を一定に保つことは難しい。
【0015】
境界バンディングは特定の用紙に対し、インクの着弾後の乾燥が遅いことでも起こり得る。色スワスの内部では、インクの周囲には高い確率でインクが存在することから、それらのインクが壁となって、インクの移動が妨げられる。しかし色スワスの端部、すなわちエッジにおいては、片側には何も存在しない空間があることから、インクが移動しやすい。いわゆる、モットリングと呼ばれる現象が起こり、結果的にこのエッジ部のみ、他の領域とは色相の変化をもたらしてしまう。この現象をビーディングと呼ぶこともある。
【0016】
さらに、特定の用紙に対しては、着弾後のドット径が小さくなってしまうことがある。この場合には、わずかな着弾のずれを伴うことで、容易に濃度ムラが発生してしまうことになる。一般的に、濃度の強弱は用紙送り方向に横筋として現れることが多い。これはべたかすれと呼ばれる現象である。この一例を図5に示す。図5はべたかすれの例を示す図である。着弾のずれが生じた部分に濃度ムラが生じ、白い筋として現れた例である。
【0017】
これらに対し、双方向印刷時における1スキャンで作画される色スワスの端部の周辺領域に対応するノズルの使用される確率が他のノズルに比べて低くかつ非均一なプリントマスク関数を適用し、前記周辺領域の幅は、前記記録媒体を搬送する際の搬送ピッチの正の整数倍の幅と略合致させることで、色の重ね順が往路と復路によって異なることに起因する双方向バンディングのほか、境界バンディングやビーディング、べたかすれなどの種々の印字不良に対して有効であることが知られている。このためには、あらかじめ生成しておいたマスクパターンをメモリ上に格納しておき、種々の印刷モード毎にそれらを読み出して、作画する色スワスに適用するのが一般的である。
【0018】
しかし、それらのマスクパターンはサイズが大きくなるとメモリ容量を圧迫する反面、サイズが小さいと、マスク模様と呼ばれる細かい周期的な色ムラや縞の原因となってしまう。この傾向は、ドット径の小さいメディアであるほど顕著である。すなわち、ドット径が小さいことによって元来、べたかすれや白筋といった印字不良が発生しやすいため、繰り返し適用しているマスクパターンの模様が目立ってしまうのである。
【0019】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、記録装置における双方向印刷時の色バンディングをはじめ、境界バンディングやビーディング、べたかすれなどを目立たなくすることができるとともに、マスクパターンのサイズに起因する細かいマスク模様として現れる周期的な色ムラや縞を目立たなくさせる記録装置及び記録方法を、マスクパターンを記憶するメモリが少ないメモリ容量のメモリで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の記録装置は、記録媒体にインクを吐出する印字ヘッドと、前記記録媒体を搬送する搬送手段と、前記印字ヘッドを搭載し前記記録媒体の搬送方向に対して交差する方向に移動するキャリッジと、を有し、前記印字ヘッドは複数のブロックに分割され、前記ブロック数と同数以上の異なるマスクパターンを生成でき、前記ブロック毎に異なる前記マスクパターンを適用しかつスキャン毎に前記マスクパターンを変更して適用し、前記印字ヘッドの両端側に配置されている2つの前記ブロックのノズルの使用される確率が他の前記ブロックの前記ノズルの使用される確率に比べて低くかつ均一な部分と非均一な部分とを有するプリントマスク関数によって生成された前記マスクパターンを適用することで作画動作を行い、前記ブロックにより記録される副走査方向の幅は、前記記録媒体を搬送する際の搬送ピッチの幅と略合致し、前記印字ヘッドを走査させながら前記記録媒体に前記インクを吐出し、前記記録媒体に画像を形成する記録装置において、前記マスクパターンは、前記ブロックに含まれる前記ノズルに対応する前記副走査方向の幅を有し、前記マスクパターンは、予めメモリ上に格納されている基本マスクパターンであって、前記プリントマスク関数によって生成された夫々の主走査方向のサイズが同一である複数の異なる前記基本マスクパターンを、予め決められた順番に従い前記ブロック毎に前記印字ヘッドの前記主走査方向に組み合わせてリング状に結合することによって構成され、前記マスクパターンの内の前記2つの前記ブロックの間に配置されている前記ブロックの前記マスクパターンは、夫々の前記ブロックの前記ノズルの使用される確率が同じであり、かつ前記均一な部分に対応して生成されたものであり、前記マスクパターンの内の前記2つの前記ブロックの前記マスクパターンは、夫々の前記ブロックの前記ノズルの使用される確率が前記2つの前記ブロックの間に配置されている前記ブロックの内の一つの前記ブロックの前記ノズルの使用される確率の半分の確率である前記プリントマスク関数の前記非均一な部分に対応して生成され、前記2つの前記ブロックの前記マスクパターンは夫々が補完しあうものであり、前記スキャン毎に前記ブロックの前記マスクパターンを構成する前記基本マスクパターン同士の前記主走査方向の結合部分を前記主走査方向に所定ピッチシフトさせた位置にして結合することで、隣り合う前記ブロックの夫々の前記基本マスクパターンの位置が前記主走査方向にずれた前記マスクパターンが生成され、該生成された前記マスクパターンを適用して前記作画動作をすることを特徴とする。
【0021】
非均一なプリンタマスク関数によって生成された複数の小さな基本マスクパターンを組み合わせ、より大きいサイズの組み合わせマスクパターンとして作画する色スワスに対して適用する。また、キャリッジの主走査方向の細かい周期性を低減するだけではなく、スキャン毎に異なるマスクパターンを適用することにもよって、副走査方向の細かい周期性を低減することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、色の重ね順が往路と復路によって異なることに起因する双方向バンディングのほか、境界バンディングやビーディング、べたかすれなどの印字不良を抑制することができ、かつ、マスク模様と呼ばれる細かいマスクパターンの周期性に起因する色ムラや縞などの印字不良をも低減でき、マスクパターンを格納し得るメモリの容量を削減することで実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の一実施形態の構成を示すブロック図である。
図2図2は、キャリッジ機構の概略図である。
図3図3(a)は、適正な画像を示す図である。図3(b)は、双方向色バンディングの一例を示す図である。
図4図4(a)は、境界バンディングの一例を示す図である。図4(b)は、境界バンディングの別の一例を示す図である。
図5図5は、べたかすれの一例を示す図である。
図6図6は、4パスと呼ばれる印刷モードの作画の原理を示す図である。
図7図7は、本発明の一実施の形態を適用した印刷モードの作画の原理を示す図である。
図8図8(a)は、非均一なプリントマスク関数を適用した、境界バンディングやビーディングの抑制効果が大きい色スワスの一例を示す図である。図8(b)は、非均一なプリントマスク関数を適用した、境界バンディングやビーディングの抑制効果が大きい色スワスの別の一例を示す図である。
図9図9は、印字率が固定されたプリントマスク関数を適用した、色バンディングの抑制効果が大きい色スワスの一例を示す図である。
図10図10(a)は、非均一なプリントマスク関数を適用した、色バンディングの抑制効果が大きい色スワスの一例を示す図である。図10(b)は、非均一なプリントマスク関数を適用した、色バンディングの抑制効果が大きい色スワスの別の一例を示す図である。図10(c)は、非均一なプリントマスク関数を適用した、色バンディングの抑制効果が大きい色スワスの別の一例を示す図である。
図11図11は、基本マスクパターンを並び替えて作った異なる組み合わせマスクパターンをスキャン毎に適用するマスクセットの一例を示す図である。
図12図12は、基本マスクパターンを並び替えて作った異なる組み合わせマスクパターンを主走査方向にずらしつつスキャン毎に適用することで、基本マスクの結合部分が一致することによる縦筋の顕在化を防ぐマスクセットの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態による記録装置及び記録方法について、図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、記録装置1はインクジェット方式のプリンタである。記録装置1は、装置全体の動作を制御する制御部20を有する。制御部20は、制御部20内の処理動作を統括して制御する制御手段のCPU21、印字動作を行うプログラム等が予め記憶された記憶手段のROM22、印字動作の実行中に各制御部が作業記憶領域として用いる記憶手段のRAM23、電源切断直前の設定値やデータを保存しておく不揮発性メモリで構成する記憶手段のEEPROM24、操作パネル44において操作された状態を読み取るとともに、操作パネル44が備える表示部に情報表示を行う操作パネル制御部25、印刷媒体に対して、印字ヘッド41によって印字動作を制御する制御手段である印字制御部26、キャリッジ機構42の動作を制御する制御手段であるキャリッジ制御部27、用紙を搬送するために、グリッドローラ等から構成する用紙搬送機構43の動作を制御する制御手段である用紙搬送制御部28、印字する画像を記憶する画像メモリ30、画像メモリ30に対して書き込み/読み出し制御をする画像メモリ書き込み/読み出し制御部31、ホストコンピュータと画像データや制御コマンドの入出力をするインターフェースであるホストI/F部29、を有する。
【0026】
印字制御部26とキャリッジ制御部27は、リニアエンコーダ45により読み取ったキャリッジの位置に基づいて、印字位置の連携を取りながら印字動作を制御する。
【0027】
図2は、キャリッジ機構を構成する一例の概略図である。キャリッジ機構42には印字ヘッド41の位置を検出する手段が備わっている。記録装置1において印字ヘッド41から液滴を吐出する際に、キャリッジ420に取り付けられたスケールセンサを内蔵するリニアエンコーダ45とキャリッジ420の走行路に沿って固定されたリニアスケール421とを利用し、キャリッジ420の往復動作中の現在位置を検知し、制御部20へ情報を入力する。制御部20では、印字ヘッド41の位置を認識し、インクの吐出タイミングを生成することで、用紙422上に着弾した液滴の位置精度を高めている。この例では用紙422の送り方向から見て左側、すなわち往路方向の先頭からK(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の順に4色の印字ヘッド41を搭載している。往路方向ではこの順序でインク色が用紙422上に構成され、復路方向では逆となる。
【0028】
これらの構成を用いるインクジェットプリンタにおいては、印字ヘッド41のノズルの偏向や欠落、駆動系の振動に起因する周期的な色ムラなどを抑制するために、複数スキャン、および双方向のキャリッジ走査を要して、一定の領域の作画を行うのが通常である。これは一般的にマルチパス方式と呼ばれている。n回スキャンで、ある領域の画が完成するマルチパス方式においては、一定領域を構成する総ドットに対し、1スキャンにおいて吐出するドット数は1/nである。例えば4スキャンで画を完成させる4パスと呼ばれる印刷モードでは、1スキャン毎に一定の領域を構成する1/4ずつのドットを吐出していき、都度、用紙422を搬送することで画を完成させていく。この場合、用紙422の搬送ピッチは、ほぼ印字ヘッド41の有するノズル総数で構成される色スワスの1/4の幅となる。この様子を、ある印字色だけに着目したものを図6に示す。用紙422の搬送ピッチは印字ヘッド41の使用ノズル範囲の1/4であり、1スキャンで作画する色スワスにより、画の1/4の構成ドットを吐出していく。各領域、4スキャンを要して画が完成される様子が分かる。
【0029】
本発明の一実施形態を適用した印刷モードの一例を図7で説明する。4パス印字時には、ヘッドの使用ノズル範囲の1/4を用紙搬送量としていたが、ここでは使用ノズル範囲の1/5をそれに充てる。また、プリントマスク関数の非均一な領域は、ヘッドの使用ノズル範囲の上下各1/5、とする。用紙搬送量とプリントマスク関数の非均一な領域を合致させることで、全作画領域において第1スキャンと最終スキャン(この場合では5スキャン目)が補完しあうことになる。これによって全スキャンにおいて均一なプリントマスク関数が適用される作画領域が存在せず、従来問題となっていた、プリントマスク関数の非均一な部分と、均一な部分による差異が色バンディングとして現れてしまう問題が起こらない。また、色バンディングに対して支配的である第1スキャンと最終スキャンの印字率が必ず低下することから、双方向色バンディングを抑制する効果がある。さらに、色スワスの端部の印字率も低下させるから、境界バンディングやビーディングに対する効果もある。図7の印刷モードで作画した場合、通常の4パスに比べると印刷ヘッドのノズル使用効率が4/5倍に低下することになる。これは、印字速度が4/5倍に低下することを意味する。
【0030】
ここで、あるスキャンにおける色スワスに対してプリントマスク関数を適用する際には、その都度計算によって求めるのではなく、あらかじめプリントマスク関数によって算出されたマスクパターンをROM23もしくはRAM24らのメモリ上に格納しておき、それらの値を直接作画時に適用することが一般的である。これによって、印字時間を遅延させることなく、高画質印字を可能としている。しかし、大きなマスクパターンを格納させようとすると、当然、大きなメモリサイズを必要としてしまう。大きなサイズのメモリは通常高価であり、コストアップを避けるためには、マスクパターンのサイズを小さくせざるを得ない。さらに、インクジェットプリンタは種々の印刷モードを有しており、それらについて異なるマスクパターンを必要とすることからも、ひとつひとつのマスクパターンのサイズは小さいことが望まれる。従来、マスクパターンは概ね印刷モードにつき1種類であるか、もしくは1ヘッドあたり1種類、すなわち4色ヘッドの場合は4種類というように限定的に使用していた。これらを、すべてのスキャンの色スワスに対して等しく適用するのである。これによって、主走査方向、副走査方向に、細かいマスクサイズ周期に起因するマスク模様が見えてしまうことがあった。
【0031】
本発明の実施の形態では、まず、従来4色分用意していたマスクパターンをそれぞれ基本マスクパターンとし、A、B、C、Dと呼ぶ。そして、これらの基本マスクパターンを以下のごとく並べて結合する。
1:ABCD
2:BCDA
3:CDAB
4:DABC
【0032】
こうしてできた1〜4の組み合わせマスクパターンは、それぞれ従来の4倍のサイズをもつマスクパターンとなる。すなわち、これらを改めて作画時に各色の色スワスに適用すれば、主走査方向の細かい周期性を4倍にまで拡張できることになるのだが、ここではさらに、1〜4の組み合わせマスクパターンを以下のごとく組み合わせ、結合する。
(イ):1234
(ロ):2341
(ハ):3412
(ニ):4123
【0033】
こうして得られた(イ)〜(ニ)の組み合わせマスクパターンは、従来の基本マスクパターンに対して16倍のサイズを有する。ここではこれらをマスクセットと呼ぶ。そして、これらマスクセットをスキャン毎に1/4ずつ適用していけば、それは、副走査方向の細かい周期性を4倍にまで拡張できることを意味する。たとえば図7で示される印字においては、あるヘッド色について、(イ)のマスクセットを用い、1スキャン目は組み合わせマスクパターン1を、2スキャン目は組み合わせマスクパターン2を、3スキャン目は組み合わせマスクパターン3を、4スキャン目は組み合わせマスクパターン4を適用するものとすれば良い。また、5スキャン目は組み合わせマスクパターン1を用いることで1スキャン目の補完ができるから、4スキャン周期で1〜4の組み合わせマスクパターンを繰り返し適用することで、適正に色スワスの前後ブロックは補完されることになる。
【0034】
これまでに説明した(イ)〜(ニ)のマスクセットは1〜4の組み合わせマスクパターンを並び替えたものであり、さらに突き詰めるとそれは基本マスクパターンA、B、C、Dを並べて結合したものである。そして、A〜Dの基本マスクパターンはそれぞれ別個のマスクパターン、例えばFMスクリーンマスクによって生成されているから、主走査方向に並べた際に、例えばAとBの結合部分はマスクパターンとしての不連続性が生じてしまう。この不連続性は印刷した際に、特異な縦筋として顕在化してしまうことがある。さらに、これら基本マスクパターンの結合部分は、組み合わせマスクパターン1〜4のすべてにおいて主走査方向の同じ位置に存在する。すなわち、印刷動作における複数スキャン相互の関係において、基本マスクパターンの並び替えで主走査方向の細かい周期性をなくしたとしても、基本マスクパターンの結合部に起因する特異な縦筋はスキャンのたびに重なることで、より顕著な縦筋として顕在化してしまう可能性がある。これは、周期的に縦筋が現れることを意味しているから、やはり、主走査方向の周期性として視認されてしまう可能性がある。
【0035】
これを防ぐために、基本マスクパターンの結合部の位置を、マスクセット毎にずらしていくことが考えられる。図11は、上記マスクセット(イ)に着目し、1〜4スキャンに対応する組み合わせマスクパターン1〜4の構成を示したものである。上段の数字はスキャン数を示し、下段のA〜Dは夫々基本マスクパターンA〜基本マスクパターンDを表す。前述したとおり、基本マスクパターンA〜Dの並び替えによって、スキャン毎に異なるマスクパターンが適用されるため、主走査方向の周期性については軽減できる。しかし、基本マスクパターンの結合部分はすべてのスキャンについて一致しており、縦筋の発生原因となりかねない。ここで、図12は、基本マスクパターンの結合部の位置を、マスクセット毎にずらした例である。組み合わせマスクパターン1に対して、組み合わせマスクパターン2は主走査方向に1/4基本マスクピッチだけずらしており、組み合わせマスクパターン3は2/4基本マスクピッチ、組み合わせマスクパターン4は3/4基本マスクピッチ、ずらしている。これによって、1〜4スキャンにおける基本マスクの結合部分は一致することがなくなる。このように、基本マスクの結合部分を分散させることで、より主走査方向の細かい周期性を軽減させることが出来る。
【0036】
もちろん、基本マスクパターンの数を多く持ち、これらの並び順を増やすことで、主走査方向に、さらに大きなマスクパターンとして色スワスに適用することができる。原理的には周期性が完全に皆無であればよく、マスクサイズを極力大きくすることが好ましい。このためには、前記のように規則正しく基本マスクパターンを並べるだけでなく、乱数的に組み合わせを決定することも考えられる。ただし、乱数的に発生した際に、隣どうしが同じ基本マスクパターンとならないように考慮することで、やはり細かいマスク模様が発生しないようにする工夫をすることが好ましい。
【0037】
たったひとつの基本マスクパターンでも、これを回転する、反転する、などの工夫をすることで、見かけ上基本マスクパターンの種類を増やすことが考えられる。これによって、より、メモリ容量の節約が可能となる。
【0038】
一方で、副走査方向の周期性は基本となる印刷モードのパス数に制約される。前記のように、図7の印刷モードは図6の4パスをベースとしており、非均一なプリントマスク関数を適用した上下ブロックの補完は1スキャン目と5スキャン目、2スキャン目と6スキャン目、というように4スキャン周期で行われる。すなわちマスクセットを作る際には、これら4スキャン周期毎に補完関係のあるマスクパターンを配置しなければならず、副走査方向の周期性は4倍まで拡張するが限界と言うことになってしまう。しかし、補完関係になければならないのは、図7からも1スキャン目の上ブロックと5スキャン目の下ブロックであることは明らかであり、5スキャン目の上ブロックは1スキャン目とは無関係に、9スキャン目の下ブロックと補完される。これらから、以下の手法が考えられる。
【0039】
従来の基本マスクパターンの上下ブロックを分割し、仮に上ブロックをA、下ブロックをaと呼ぶ。Aとaは従来のひとつの基本マスクパターンに包含されていたもので、分割によりサイズが大きくなるわけではない。ここで、上ブロック用基本マスクパターンA〜H、下ブロック用基本マスクパターンa〜hを用意し、1から8スキャンまでの色スワスに適用するマスクパターンを、以下に示す構成とする。
1スキャン目:上ブロックA、下ブロックe
2スキャン目:上ブロックB、下ブロックf
3スキャン目:上ブロックC、下ブロックg
4スキャン目:上ブロックD、下ブロックh
5スキャン目:上ブロックE、下ブロックa
6スキャン目:上ブロックF、下ブロックb
7スキャン目:上ブロックG、下ブロックc
8スキャン目:上ブロックH、下ブロックd
【0040】
これらを従来の2倍の周期である8スキャン周期で繰り返せば、1スキャン目の上ブロックAと5スキャン目の下ブロックaはもちろんのこと、補完関係にあるブロックどうしは必ず補完されることになる。ゆえに、従来と2倍の周期性を副走査方向に与えることが可能となる。この応用で、補完関係の法則性さえ維持しておけば、より大きなマスクセットを作ることも可能である。そして前述した主走査方向の周期性の拡張と組み合わせることで、主走査、副走査ともに大きな周期性を持つマスクパターンが適用されるから、マスク模様が目立たなくなるのである。
【0041】
以上説明したように、色スワスの端部の周辺領域に対応するノズルの使用される確率を他のノズルに比べて低くする、非均一なプリントマスク関数を適用することで作画動作を行い、この非均一な領域の幅を用紙搬送量とほぼ合致させることで、色の重ね順が往路と復路によって異なることに起因する双方向バンディングのほか、境界バンディングやビーディング、べたかすれなどの印字不良を抑制することができるが、その際に小さな基本マスクパターンを適宜組み合わせ、主走査および副走査方向の周期性を拡張することで、細かいマスク模様と呼ばれる色ムラや縞などをも抑制することが出来る。これにより、少ないメモリ容量に格納しておいたマスクパターンを用いたとしても、安定して高い印字画質を達成することを期待できる。
【符号の説明】
【0042】
1・・・記録装置、20・・・制御部、21・・・CPU、22・・・ROM、23・・・RAM、24・・・EEPROM、25・・・操作パネル制御部、26・・・印字制御部、27・・・キャリッジ制御部、28・・・用紙搬送制御部、29・・・ホストI/F部、30・・・画像メモリ、31・・・画像メモリ書き込み/読み出し制御部、41・・・印字ヘッド、42・・・キャリッジ機構、43・・・用紙搬送機構、44・・・操作パネル、45・・・リニアエンコーダ
図1
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図7