【発明が解決しようとする課題】
【0006】
双方向色バンディングの原因は前記のとおり、色の重ね順が往路と復路によって異なることと言えるが、その中でも、用紙上に最初に作画されるはじめのスキャン(第1スキャン)と最後のスキャン(最終スキャン)の寄与率は高い。前者は、用紙上に初めて吐出されたインクは短時間のうちに広がってしまい大きなドットを形成するし、後に吐出されたインクは、その広がったインクの上でやや小さなドットを形成することで説明できる。つまり、第1スキャンの中でも最初に吐出される色、キャリッジ進行方向の前方に位置する印字ヘッド色の影響が強くなる。後者については、最終スキャンの最後、すなわちキャリッジ進行方向の後方に位置する印字ヘッド色が印字面の一番上に存在するわけだから、この色の影響は強くなる。典型的な双方向色バンディングの一例を、
図3(b)に示す。
図3(a)は適正な画像を示す図である。
図3(b)は双方向バンディングの一例を示す図である。双方向バンディングが生じた画像は縞模様が現れ、適正な画像に比べると品質が悪い。
【0007】
また、双方向色バンディングは、印字領域の左右端の間でも生じることがある。色の重ね順が等しい領域内でも、主走査方向(キャリッジが走査する方向)の原点付近では、往路から復路で作画される時間差は大きい。つまり、往路のはじめに作画し、復路の最後で作画するまでに間があく。これに対し、原点とは反対の端では往路から復路で作画される時間差は小さい。この時間差は、直前のスキャンによる用紙上のドットの乾燥状態に差異をもたらすから、その上に吐出したインクの素性は当然変わってくる。いうなれば、時間差による色バンディングが発生してしまうのである。
【0008】
大型のポスターや広告物を印刷したい場合、小さな印刷物を複数、横に並べて大きな印刷物とするタイリングと呼ばれる手法がある。前記左右端における色バンディングがあった場合、タイリングを行った場合に、印刷物のつなぎ目の色の差が目立ってしまい、画質を著しく低下してしまうことがある。
【0009】
特開2003−226004号公報では、暗インク色(たとえばシアン、マゼンタ、ブラック)では色スワスに非均一なプリントマスク関数を適用し、明インク色(たとえばイエロー)では均一なプリントマスク関数を適用することで、双方向色バンディングを目立ちにくくしている。
【0010】
しかし、非均一なプリントマスク関数を適用することによって、ある1スキャンに着目した場合、色スワスの非均一な端部付近においてノズル使用確率の差が大きくなってしまうことになる。これは、ある領域のドットを構成する作画のプロセスと、別の領域のドットを構成する作画のプロセスに差異を与えていることに他ならない。これは結局、前述左右端の時間差による色バンディングを生じさせる原因と同じである。またこれは、プリントマスク関数に、折れ線やS字形状のグラデーションカーブを用い、かつ0%から100%、もしくは100%から0%などといった、急峻な傾きを持たせた場合により顕著である。非均一なプリントマスク関数を構成するグラデーションカーブに応じた色バンディングが発生してしまうこととなってしまうのである。
【0011】
さらに、色スワス内において、プリントマスク関数の非均一な部分と、均一な部分による差異が色バンディングとして現れてしまうことがある。これは、プリントマスク関数の非均一な上下端領域は互いに補完しあって、従来の1スキャン分のドットを構成することから、均一なプリントマスク関数によってすべてのスキャンによって作画される領域よりもスキャン数が増えることになってしまう。つまり、画が完成するまでの時間に差が生じる。この差はまさに、ある領域のドットを構成する作画のプロセスと、別の領域のドットを構成する作画のプロセスに差異を与えていることであるから、色バンディングの原因に他ならない。
【0012】
双方向色バンディングに対しては、双方向印字にかわって、片方向印字をおこなうことで、インク色の重ね順と時間差を、作画領域の全部に対し統一することができる。これによって色バンディングは低減するのだが、印字速度は双方向印字に対して1/2倍に低下してしまうため、現実的ではない。また、片方向印字ではキャリッジの走行路上の特異な振動による画質不良が毎スキャン累積されるため、縦縞や色ムラなどの画質不良をまねいてしまう可能性もある。
【0013】
また、キャリッジ上に、左右対称に色が配置されるべく1色につき2個以上の印字ヘッドを搭載することで、往路と復路に関わらず色の重ね順を統一することも出来るが、通常の2倍以上のヘッドを必要としてしまうため、キャリッジの大型化、重量化、それを駆動するアクチュエータの大型化など、コストアップにつながってしまう。
【0014】
また、用紙搬送時の位置決め精度が悪かったり、用紙搬送量そのものが適正でない場合には、色スワスの上下端の位置に、色の濃くなる筋や薄くなる筋が現れることがある。これらは黒筋、白筋、などと呼ばれる境界バンディングである。この一例を
図4(a)と
図4(b)に示す。
図4(a)は境界バンディングの1例である。
図4(b)は境界バンディングの1例である。これらは、色スワスの上下端と他の部分の色の濃淡に差が生じ筋状になって現れている。これらを防止するためには、適宜用紙搬送量を調整する必要があるが、長期間安定的に搬送量を一定に保つことは難しい。
【0015】
境界バンディングは特定の用紙に対し、インクの着弾後の乾燥が遅いことでも起こり得る。色スワスの内部では、インクの周囲には高い確率でインクが存在することから、それらのインクが壁となって、インクの移動が妨げられる。しかし色スワスの端部、すなわちエッジにおいては、片側には何も存在しない空間があることから、インクが移動しやすい。いわゆる、モットリングと呼ばれる現象が起こり、結果的にこのエッジ部のみ、他の領域とは色相の変化をもたらしてしまう。この現象をビーディングと呼ぶこともある。
【0016】
さらに、特定の用紙に対しては、着弾後のドット径が小さくなってしまうことがある。この場合には、わずかな着弾のずれを伴うことで、容易に濃度ムラが発生してしまうことになる。一般的に、濃度の強弱は用紙送り方向に横筋として現れることが多い。これはべたかすれと呼ばれる現象である。この一例を
図5に示す。
図5はべたかすれの例を示す図である。着弾のずれが生じた部分に濃度ムラが生じ、白い筋として現れた例である。
【0017】
これらに対し、双方向印刷時における1スキャンで作画される色スワスの端部の周辺領域に対応するノズルの使用される確率が他のノズルに比べて低くかつ非均一なプリントマスク関数を適用し、前記周辺領域の幅は、前記記録媒体を搬送する際の搬送ピッチの正の整数倍の幅と略合致させることで、色の重ね順が往路と復路によって異なることに起因する双方向バンディングのほか、境界バンディングやビーディング、べたかすれなどの種々の印字不良に対して有効であることが知られている。このためには、あらかじめ生成しておいたマスクパターンをメモリ上に格納しておき、種々の印刷モード毎にそれらを読み出して、作画する色スワスに適用するのが一般的である。
【0018】
しかし、それらのマスクパターンはサイズが大きくなるとメモリ容量を圧迫する反面、サイズが小さいと、マスク模様と呼ばれる細かい周期的な色ムラや縞の原因となってしまう。この傾向は、ドット径の小さいメディアであるほど顕著である。すなわち、ドット径が小さいことによって元来、べたかすれや白筋といった印字不良が発生しやすいため、繰り返し適用しているマスクパターンの模様が目立ってしまうのである。
【0019】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、記録装置における双方向印刷時の色バンディングをはじめ、境界バンディングやビーディング、べたかすれなどを目立たなくすることができるとともに、マスクパターンのサイズに起因する細かいマスク模様として現れる周期的な色ムラや縞を目立たなくさせる記録装置及び記録方法を、マスクパターンを記憶するメモリが少ないメモリ容量のメモリで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の記録装置は、記録媒体にインクを吐出する印字ヘッドと、前記記録媒体を搬送する搬送手段と、前記印字ヘッドを搭載し前記記録媒体の搬送方向に対して交差する方向に移動するキャリッジと、を有し、前記印字ヘッドは複数のブロックに分割され、前記ブロック数と同数以上の異なるマスクパターンを生成でき、前記ブロック毎に異なる前記マスクパターンを適用しかつスキャン毎に前記マスクパターンを変更して適用し、前記印字ヘッドの両端側に配置されている2つの前記ブロックのノズルの使用される確率が他の前記ブロックの前記ノズルの使用される確率に比べて低くかつ
均一な部分と非均一な部分とを有するプリントマスク関数によって生成された前記マスクパターンを適用することで作画動作を行い、前記ブロックにより記録される副走査方向の幅は、前記記録媒体を搬送する際の搬送ピッチの幅と略合致し、前記印字ヘッドを走査させながら前記記録媒体に前記インクを吐出し、前記記録媒体に画像を形成する記録装置において、前記マスクパターンは、前記ブロックに含まれる前記ノズルに対応する前記副走査方向の幅を有し、前記マスクパターンは、予めメモリ上に格納されている基本マスクパターンであって、前記プリントマスク関数によって生成された夫々の主走査方向のサイズが同一である複数の異なる前記基本マスクパターンを、予め決められた順番に従い前記ブロック毎に前記印字ヘッドの前記主走査方向に組み合わせてリング状に結合することによって構成され、前記マスクパターンの内の前記2つの前記ブロックの間に配置されている前記ブロックの前記マスクパターンは、夫々の前記ブロックの前記ノズルの使用される確率が同じであり、かつ前記均一
な部分に対応して生成されたものであり、前記マスクパターンの内の前記2つの前記ブロックの前記マスクパターンは、夫々の前記ブロックの前記ノズルの使用される確率が前記2つの前記ブロックの間に配置されている前記ブロックの内の一つの前記ブロックの前記ノズルの使用される確率の半分の確率である前記プリントマスク関数の前記非均一な部分に対応して生成され、前記2つの前記ブロックの前記マスクパターンは夫々が補完しあうものであり、前記スキャン毎に前記ブロックの前記マスクパターンを構成する前記基本マスクパターン同士の前記主走査方向の結合部分を前記主走査方向に所定ピッチシフトさせた位置にして結合することで、隣り合う前記ブロックの夫々の前記基本マスクパターンの位置が前記主走査方向にずれた前記マスクパターンが生成され、該生成された前記マスクパターンを適用して前記作画動作をすることを特徴とする。
【0021】
非均一なプリンタマスク関数によって生成された複数の小さな基本マスクパターンを組み合わせ、より大きいサイズの組み合わせマスクパターンとして作画する色スワスに対して適用する。また、キャリッジの主走査方向の細かい周期性を低減するだけではなく、スキャン毎に異なるマスクパターンを適用することにもよって、副走査方向の細かい周期性を低減することができる。