(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6005965
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】合成樹脂製キャップ
(51)【国際特許分類】
B65D 41/34 20060101AFI20160929BHJP
【FI】
B65D41/34
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-72830(P2012-72830)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-203416(P2013-203416A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(72)【発明者】
【氏名】高原 誠治
(72)【発明者】
【氏名】藤本 淳
【審査官】
種子島 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−272645(JP,A)
【文献】
実開平03−032055(JP,U)
【文献】
特開2004−284670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 41/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天壁と、該天壁の外周部から垂下するスカート壁とが設けられ、容器口部に螺着される合成樹脂製キャップであって、
前記天壁の内面には、前記容器口部の内周面に密着する環状の中足が連設され、該中足は、中央部において外径が最大となるように構成され、かつ、該中足の上部には内方に膨出する膨出部が形成され、前記中足において前記膨出部よりも上方の部位は、上側ほど肉厚が大となっており、
前記中足の上部の外周面は下方に向かって拡径し、かつ、該中足の下部の外周面は下方に向かって縮径し、該中足の中央部の外周面がシール面となり、該中足の上部及び下部は前記容器口部に密着せず、
また、前記膨出部を前記中足の中央部及び下部には設けず、
さらに、前記天壁において前記中足のすぐ内側に連なる部分の下面が、前記中足のすぐ外側を占める部分の下面よりも低くなるようにしてあることを特徴とする合成樹脂製キャップ。
【請求項2】
前記中足の前記中央部の外周面は、垂下するか、あるいは前記下部の外周面よりも小さい度合で下方に向かって縮径する請求項1に記載の合成樹脂製キャップ。
【請求項3】
前記中足の内周面において前記膨出部の下面を形成する部位が下方に向かって拡径する度合は、該中足の内周面において前記膨出部の下面の上側及び下側に連なる部位の同度合よりも大きい請求項1または2に記載の合成樹脂製キャップ。
【請求項4】
前記中央部の肉厚は0.85〜0.95mmである請求項1に記載の合成樹脂製キャップ。
【請求項5】
前記膨出部の膨出方向の幅は0.1mm以上である請求項1に記載の合成樹脂製キャップ。
【請求項6】
前記中足の上部の最小外径は前記容器口部の内径以下であり、前記中央部の最大外径と前記上部の最小外径との半径差は0.8mm以下である請求項1に記載の合成樹脂製キャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、容器口部を密封するための合成樹脂製キャップに関する。
【背景技術】
【0002】
ペットボトル等の容器の口部を密封するための合成樹脂製キャップとして、キャップ天壁の内面から垂下し容器口部の内側に差し込まれる中足を有するものが周知である。斯かるキャップでは、容器の気密のために、閉栓状態下で中足が容器口部の内周面の全周にわたって密着(シール)していることが肝要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−29498号公報(特に
図7、[0041])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記キャップのシール性能を上げるための一手法として、特許文献1に開示されているように、自然状態において中足の中央部がその上部(基部)及び下部(先端部)よりも外方に迫り出すようにすることが考えられる。この場合、容器口部内に差し込まれた中足の中央部は、容器口部に対して強力に当接することになる。しかし、中足中央部の迫り出し幅が大きくなる程、シール性能は向上する反面、所謂アンダーカット量が大となり、製造工程における金型からの中足の抜き取り(離型)が困難化する。
【0005】
過大なアンダーカットに伴う無理抜きの問題を回避することのみを考慮すれば、キャップの成形に用いる金型を適宜分割し、型抜きの際に中足の内側に位置する金型を先に抜く、といったことはできるが、このような金型は構造の複雑化に起因して高価になり過ぎるので、斯かる対処は現実的ではない。
【0006】
勿論、離型不良を確実に防止するために中足中央部の外方への迫り出し量を抑えると、シール性能が十分に確保されなくなる恐れがある。
【0007】
つまり、上記キャップのシール性能の向上と離型不良の防止とコスト面の制限とは、いわばトリレンマの関係にある。そして、本発明者らは、鋭意研究の結果、このトリレンマを打破する画期的なキャップを発明するに至った。
【0008】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、離型不良及びコストアップを回避しつつ、シール性能の向上を図ることができる合成樹脂製キャップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る合成樹脂製キャップは、天壁と、該天壁の外周部から垂下するスカート壁とが設けられ、容器口部に螺着される合成樹脂製キャップであって、前記天壁の内面には、前記容器口部の内周面に密着する環状の中足が連設され、該中足は、中央部において外径が最大となるように構成され、かつ、該中足の上部には内方に膨出する膨出部が形成され、前記中足において前記膨出部よりも上方の部位は、上側ほど肉厚が大となって
おり、前記中足の上部の外周面は下方に向かって拡径し、かつ、該中足の下部の外周面は下方に向かって縮径し、該中足の中央部の外周面がシール面となり、該中足の上部及び下部は前記容器口部に密着せず、また、前記膨出部を前記中足の中央部及び下部には設けず、さらに、前記天壁において前記中足のすぐ内側に連なる部分の下面が、前記中足のすぐ外側を占める部分の下面よりも低くなるようにしてあることを特徴としている(請求項1)。
【0010】
上記合成樹脂製キャップにおいて、前記中足
の前記中央部の外周面は、垂下するか、あるいは前記下部の外周面よりも小さい度合で下方に向かって縮径してもよい(請求項2)。
【0011】
上記合成樹脂製キャップにおいて、前記中足の内周面において前記膨出部の下面を形成する部位が下方に向かって拡径する度合は、該中足の内周面において前記膨出部の下面の上側及び下側に連なる部位の同度合よりも大きいとすることができる(請求項3)。
【0012】
上記合成樹脂製キャップにおいて、前記中央部の肉厚は0.85〜0.95mmであるとすることができる(請求項4)。
【0013】
上記合成樹脂製キャップにおいて、前記膨出部の膨出方向の幅は0.1mm以上であるとすることができる(請求項5)。
【0014】
上記合成樹脂製キャップにおいて、前記中足の上部の最小外径は前記容器口部の内径以下であり、前記中央部の最大外径と前記上部の最小外径との半径差は0.8mm以下とすることができる(請求項6)。
【発明の効果】
【0015】
本願発明では、離型不良及びコストアップを回避しつつ、シール性能の向上を図ることができる合成樹脂製キャップが得られる。
【0016】
すなわち、本願の各請求項に係る発明の合成樹脂製キャップでは、中足の上部(根元部)に膨出部を設けることにより、中足の上部において膨出部が設けられた部位はそれより下方の部位よりも膨出している分だけ肉厚かつ高剛性となり、特に中足の肉厚が全体として下側ほど小となっていれば、結果として中足の中央部及び下部の金型内における離型時の変形スペース及び上部よりも高い可撓性は確保されるので、離型性が良好となる。また、冷却固化後の中足の上部は膨出部によって撓み難くなるので、シール性能の向上を図ることができる。そのため、シール性能を向上させるためにアンダーカット量をそれほど大きくする必要はなく、また、ある程度大きなアンダーカット量であっても上述のように優れた離型性により、成形のための金型を余分に分割する必要はないので、低コストで本キャップを成形・製造することができる。
【0017】
請求項2に係る発明の合成樹脂製キャップでは、外周面が下方に向かって縮径する中足下部により、閉栓時に中足を容器口部にスムーズに差し込むことができると共に、中足の中央部の外周面によって容器口部の内周面に良好に密着するシール面が得られる。
【0018】
請求項3、5に係る発明の合成樹脂製キャップでは、膨出部を中足の内側に大きく突出させることにより、離型性の一層の向上を図ることができ、また、膨出部を大きく突出させることによる特段の弊害は生じることなく、他に用途の無い中足の内側空間を有効に利用することができる。
【0019】
請求項4に係る発明の合成樹脂製キャップでは、容器口部に密着する中央部の薄肉化を図って、この薄肉化によってキャップ本体の開栓トルクを小として操作性を向上させることができる。
【0020】
請求項6に係る発明の合成樹脂製キャップでは、容器口部に対するキャップの巻締め完了時に大きな抵抗が発生することがなく、閉栓トルク及び開栓トルクの増大を防止することができると共に、アンダーカット量を抑えることにより、離型が困難となるのを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る合成樹脂製キャップの構成を概略的に示す断面図である。
【
図3】容器口部に嵌合した状態の前記合成樹脂製キャップの構成を概略的に示す断面図である。
【
図4】自然状態の前記合成樹脂製キャップを容器口部に重ねて示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら以下に説明する。
【0023】
本発明の一実施の形態に係るキャップは、ペットボトル等の容器の口部M(
図3、
図4参照)に螺着されるキャップ本体1の下端に複数のブリッジ2を介して環状のバンド(タンパーエビデンスバンド)3が連結された合成樹脂製のピルファープルーフキャップであり、また、キャップ本体1とバンド3とが一体成形されてなり、他にパッキン等を有していない所謂1ピースキャップである(
図1参照)。
【0024】
容器口部Mからキャップ本体1を離脱(螺脱)させる開栓の際にバンド3が容器口部Mから離脱しないようにするために、バンド3の内側には容器口部Mの環状突起M1に係合するフラップ4が設けられている。従って、開栓の際に、容器口部Mから離脱するキャップ本体1と離脱しないバンド3とをつなぐブリッジ2は破断する。尚、ブリッジ2の破断が適切に行われるようにするために、キャップ本体1とバンド3との境界の外周部分にはスリット(図示していない)が設けられている。
【0025】
キャップ本体1は、平面視略円形状の天壁5を有し、この天壁5の外周部から略円筒状のスカート壁6が垂下する。また、天壁5の内面には、キャップ本体1を容器口部Mに螺着したときに、容器口部M内に差し込まれ容器口部Mの内周面に密着する環状の中足7と、容器口部Mの環状の上端面に密着する環状リブ8と、容器口部Mの外周面に密着する環状の外足9とが連設されている(
図3、
図4参照)。
【0026】
図2において斜線で示す部分(天壁5の下面より下方に突出する部位のうち、容器口部Mの内周面に密着する一繋ぎまたは一塊の部分)が中足7であり、自然(無負荷)状態では中足7の外径が中央部10において最大となるように、中足7の上部11の外周面は下方に向かって拡径し、かつ、中足7の下部12の外周面は下方に向かって縮径している。また、この中央部10の上端から下端までの外径は同一となっており、中央部10の外周面がシール面となる。斯かるシール面を設けたことによりシール性能を上げることができ、しかも、中足7の上部11及び下部12は容器口部Mに密着しないので開栓トルク(開栓時にキャップ本体1を回動するのに必要なトルク)が過剰に増大することもなく、さらに、閉栓時にキャップ本体1が閉まった感触も得られる。
【0027】
尚、中央部10の上下方向の幅(長さ)wは例えば0.5mm〜2.0mmとすることができ、本例では1mmである。また、中足7の上端から中央部10の上端までの距離hは、0.8mm〜2.5mmとすることができ、本例では1.6mmである。一方、容器口部Mの内径が21.74mmのとき、中央部10の外径(最大外径)D1は例えば22.0mm〜22.5mmとすることができ、本例では22.2mmである。
【0028】
中足7の上部11の外周面は、上部11の下端からその上側にある上部11の最小外径部位に向けて漸次縮径するように構成され、上部11の上側にある最小外径D2は容器口部Mの内径より小さくしている。そして、上部11の最小外径D2と中央部10の外径(最大外径)D1との半径差dが0.8mm以下(好ましくは0.2mm〜0.5mm)となるようにしてある。上記半径差dが0.8mm超となると、容器口部Mに対するキャップ本体1の巻締め完了時に大きな抵抗が発生して閉栓トルク及び開栓トルクが増大化し、かつ、過大なアンダーカットとなって離型が困難化する傾向が顕著となるためである。尚、上部11の上下方向の幅は、例えば1.6mmとすることができる。また、容器口部Mの内径が21.74mmのとき、上部11の最小外径D2は例えば21.4mm〜21.7mmとすることができ、本例では21.6mmである。
【0029】
中足7の下部12の外周面は、閉栓時に中足7が容器口部Mにスムーズに差し込まれるように、下方に向かって縮径している。尚、下部12の上下方向の幅は、例えば1.4mmとすることができる。
【0030】
一方、中足7の上部11には内方に膨出する膨出部13が形成されている。ここで、中央部10及び上部11における膨出部13よりも下方の部分の肉厚は0.85〜0.95mm(本例では0.85mm)とすることができ、これに対して、膨出部13の膨出方向の幅eは0.1mm〜0.4mm(本例では0.4mm)とすることができる。また、中足7において膨出部13(あるいは膨出部13の下面13a)よりも上方の部位は、上側ほど肉厚が大となっている。
【0031】
そして、中足7の内周面は、膨出部13の下面13aを除き、下方に向かって漸次拡径するのであり、中足7の内周面において膨出部13の下面13aを形成する部位が下方に向かって拡径する度合は、中足7の内周面において膨出部13の下面13aの上側及び下側に連なる部位の同度合よりも大きく、本例では、膨出部13の下面13aに水平に延びる領域が含まれている。
【0032】
斯かる膨出部13を設けることにより、中足7の上部11において膨出部13が設けられた部位はそれより下方の部位よりも膨出している分だけ肉厚かつ高剛性となり、特に中足7の肉厚が全体として下側ほど小となっているので、結果として中足7の中央部10及び下部12の金型内における離型時の変形スペース及び上部11よりも高い可撓性は確保され、離型性が良好となる。また、冷却固化後の中足7の上部11は膨出部13によって撓み難くなるので、シール性能の向上を図ることができる。そのため、シール性能を向上させるためにアンダーカット量をそれほど大きくする必要はなく、また、ある程度大きなアンダーカット量であっても上述のように優れた離型性により、成形のための金型を余分に分割する必要はないので、低コストで本キャップを成形・製造することができる。
【0033】
また、本キャップでは、容器口部Mに密着する中央部10の薄肉化を図り、この薄肉化によって中央部10の可撓性を上げ、キャップ本体1の開栓トルクを小として操作性を向上させることも可能である。
【0034】
また、閉栓状態下では、中足7には自身の弾性復元力により強いストレスがかかるが、中足7のシール面を形成する中央部10は、断面がストレートとなる外周面と下方に向かって漸次縮径する内周面とを有し、その肉厚が上下にわたって大きく変化しないので、歪みの力が全体に略均一に分散してシール面(外周面)の全面で容器口部Mを良好に密封することができる。
【0035】
本キャップは上記の各機能(作用)を発揮するように構成されていればよいのであり、斯かる本キャップは、例えば、柔軟性に優れると共に摩擦抵抗が小さい合成樹脂としてのポリプロピレン(ホモ、ブロック、ランダム等)、ポリエチレン(高密度(HD)、LL(Linear Low Density)、低密度(LD)等)をベース樹脂として、通常のインジェクション成形またはコンプレッション成形により成形することができる。
【0036】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0037】
上記実施の形態のキャップは、中足7と環状リブ8と外足9とによる3点シール構造を具備しているが、これに限らず、例えば環状リブ8または外足9の何れか一方または両方を設けないようにしてもよい。
【0038】
上記実施の形態では、中足7の中央部10の外周面は垂下しているが、これに限らず、例えば、中足7の上部11の外周面よりも緩やかな(小さい)度合で下方に向かって拡径していてもよいし、中足7の下部12の外周面よりも緩やかな(小さい)度合で下方に向かって縮径していてもよい。
【0039】
上記実施の形態では、中足7の上部11の中央部分に膨出部13を設けているが、これに限らず、例えば、中足7の上部11の下端部に膨出部13を設けてもよい。また、中足7の上部11に、膨出部13を二段以上設けてもよく、この場合も、上部11の内周面は上方に向かって縮径するようにしてあることが離型性の点から好ましい。
【0040】
上記実施の形態では、シール性能の向上を図る目的で、冷却固化後の中足7が内側に撓み難くなるようにするために、中足7の内側に連なる天壁5の内面(下面)が、中足7と環状リブ8との間を占める天壁5の内面(下面)よりも例えば0.1mm程低くなるようにして(換言すれば天壁5において中足7の内側を占める部分の肉厚を中足7のすぐ外側を占める部分の肉厚よりも0.1mm程度厚くするようにして)いるが、これに限らず、例えば上記のような高低差(肉厚差)を設けなくてもよい。
【0041】
上記実施の形態では、中足7の上部11及び下部12の肉厚は下方に向かって小さくなるのに対して、中央部10の肉厚は、上部11及び下部12の肉厚よりも緩やかな度合で下方に向かって小さくなるようにしてあるが、これに限らず、中央部10の肉厚が上下にわたって同一となるようにしてあってもよい。
【0042】
なお、上記変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0043】
1 キャップ本体
2 ブリッジ
3 バンド
4 フラップ
5 天壁
6 スカート壁
7 中足
8 環状リブ
9 外足
10 中央部
11 上部
12 下部
13 膨出部
13a 下面
d 半径差
e 幅
M 容器口部
M1 環状突起
w 幅