(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
レンズ等の回転対称形状を有する光学素子を研削又は研磨する場合、所望の曲率をなす球面状(凹球面状又は凸球面状)に形成された研磨用工具(砥石)の加工面を光学素子の被加工面に当接させ、研磨用工具を回転させると共に光学素子を揺動させることにより、被加工面を加工する。
【0003】
このような回転する研磨用工具においては、加工面の中心軸側よりも円周側の周速が速いため、単位時間当たりに被加工面と接触して擦られる距離は円周側の方が長くなる。その結果、中心軸側と比べて円周側における加工面の磨耗が早くなる。このように、研磨用工具の磨耗は加工面において均一でないため、研磨用工具を使用する過程で、加工面の形状が当初の球面形状から変化してしまい、光学素子の加工精度に影響を与えてしまう。
【0004】
加工面における磨耗量を均一にするため、特許文献1には、砥石の中心軸側と円周側とで気胞(気孔)の含有構成(含有率)を変えることにより、砥石自体の磨耗し易さに分布を持たせる技術が提案されている。具体的には、砥石内の気孔の含有構成を中心軸側よりも円周側で小さくしている。それにより、円周側が中心軸側と比べて磨耗し難くなるので、加工面を光学素子に当接させて回転させた場合に、砥石の磨耗を均一にすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1には、砥石内の気孔の含有率を径方向で変化させる具体的な方法は開示されていない。砥石に気孔を含有させる方法としては、例えば、成形前の原料の粉末(砥粒)に発泡剤を混入する方法が考えられるが、このような方法により気孔の含有率を径方向で変化させることは非常に困難であり、製造工程が複雑になってしまう。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、気孔の含有率が径方向で異なる研磨用工具を簡単な工程で製造することができる砥石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る研磨用工具の製造方法は、円筒状をなす粉体成形用のダイに下パンチを配置する下パンチ配置工程と、前記ダイ内に研磨材を含む原料の粉体を、前記ダイの中心軸から外周に向かって、前記下パンチの上面からの高さが高くなるように配置する粉体配置工程と、前記ダイに上パンチを配置する上パンチ配置工程と、前記上パンチ及び前記下パンチにより前記粉体に圧力を加えて圧縮成形を行う成形工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
上記研磨用工具の製造方法において、前記粉体配置工程は、前記ダイに前記粉体を投入し、前記中心軸を回転軸として前記ダイを回転させることを特徴とする。
【0010】
上記研磨用工具の製造方法において、前記下パンチは、前記ダイの中心軸を通って該中心軸方向に貫通する孔部が形成された外周部と、前記孔部に対して挿抜可能な抜き栓とを備え、前記粉体配置工程は、前記ダイに前記粉体を投入した後で前記抜き栓を抜き、前記孔部から前記粉体の一部を排出した後、前記抜き栓を前記孔部に挿入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ダイ内に原料の粉体を、ダイの中心軸から外周に向かって下パンチの上面からの高さが高くなる、所謂すり鉢状となるように配置して圧縮成形を行うので、気孔の含有率が径方向で異なる研磨用工具を簡単な工程で製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係る研磨用工具の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2A】
図2Aは、
図1に示す下パンチの配置工程及び原料の粉体の配置工程を説明する模式図である。
【
図2C】
図2Cは、原料の粉体がすり鉢状に配置された様子を示す模式図である。
【
図2D】
図2Dは、
図1に示す上パンチの配置工程及び圧縮成形工程を説明する模式図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す圧縮成形工程により得られた圧粉体と、該圧粉体における密度分布を示す図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す加熱工程により得られた円柱状の砥石部材を示す模式図である。
【
図5A】
図5Aは、実施の形態2に係る研磨用工具の製造方法のうち、原料の粉体の配置工程を示す模式図である。
【
図5B】
図5Bは、実施の形態2に係る研磨用工具の製造方法のうち、原料の粉体の配置工程を示す模式図である。
【
図5C】
図5Cは、実施の形態2に係る研磨用工具の製造方法のうち、圧縮成形工程を示す模式図である。
【
図6】
図6は、
図5Cに示す圧縮成形工程により得られた圧粉体と、該圧粉体における密度分布を示す図である。
【
図7】
図7は、実施の形態2の変形例1においてダイに与える回転パターンの一例を示すグラフである。
【
図8】
図8は、変形例2に係る研磨用工具の製造方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、これら実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。図面は模式的なものであり、各部の寸法の関係や比率は、現実と異なることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る研磨用工具の製造方法を示すフローチャートである。また、
図2A〜
図2Dは、実施の形態1に係る研磨用工具の製造方法を説明するための模式図である。
【0015】
工程S1において、原料の粉体を作製する。実施の形態1においては、研磨材が樹脂によって結着された複合粉体を原料として用いる。そのために、まず、粉末又はフレーク状の樹脂材料を溶媒に溶解させることにより、樹脂溶液を調整する。樹脂材料としては、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂等が用いられ、必要に応じて、シラン、チタンのカップリング剤、フッ化炭素、二硫化モリブデン、フッ化エチレン、強化樹脂等が添加される。また、溶媒としては、NMP系、モノグライム、ジグライム、ブチルラクトン、トルエン、アセトン、トリクレン等の有機溶剤が使用される。
【0016】
続いて、粉体状の研磨材(砥粒)を上記樹脂溶液に混合して攪拌することにより、研磨材泥(スラリー)を作製する。研磨材としては、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化クロム、ダイヤモンド等が使用される。そして、この研磨材泥を薄く引き伸ばし、溶媒を揮発させて乾燥させることにより、シート状の複合材を作製する。さらに、このシート状の複合材を粉砕してフレーク状にし、ミキサー、ボールミル、乳鉢等を用いて粉体状になるまで粉砕する。これを原料の粉体とする。なお、粉体の粒径は特に限定されず、好ましくは1μm程度から500μm程度の範囲にすると良い。
【0017】
続く工程S2において、
図2Aに示すように、粉体成形用のダイ10の下側開口に下パンチ11をセットする。ここで、ダイ10は粉体の圧縮成形加工において一般的に用いられる加工具であり、円筒状をなしている。一方、下パンチ11は、ダイ10の内周に嵌合可能なパンチであって、ダイ10の中心軸R1を通って該中心軸R1方向に貫通する孔部が形成された外周部11aと、外周部11aの孔部に対して挿抜可能な内周部11bとを備える。この下パンチ11をダイ10に嵌め込むことにより、ダイ10内に円柱状のキャビティが形成される。内周部11bは、下パンチ11によって閉じられるダイ10の底面の抜き栓として機能する。
【0018】
続く工程S3において、原料の粉体1をダイ10内に、すり鉢状に配置する。ここで、すり鉢状とは、ダイ10の中心軸R1近傍から外周に向かって、下パンチ11の上面から見た原料の粉体1の高さが高くなった状態のことである。
【0019】
そのために、まず、
図2Aに示すように、ダイ10内に粉体1を投入し、その後、
図2Bに示すように、下パンチ11の内周部11bを抜く。それにより、ダイ10の中心軸R1近傍の領域から粉体1の一部が排出され、ダイ10内に残った粉体1が、中心部が凹んだすり鉢状となる。その後、
図2Cに示すように、内周部11bを再び外周部11aに嵌め込み、栓をする。
【0020】
工程S4において、
図2Dに示すように、粉体1のすり鉢状態を維持しつつ、ダイ10及び下パンチ11を圧縮成形装置の台座13上に載置し、ダイ10の上側開口に上パンチ12を配置する。
【0021】
続く工程S5において、上パンチ12を降下させ、下パンチ11及び上パンチ12により粉体1に所定の圧力を加えることにより圧縮成形を行い、圧粉体を得る。
【0022】
続く工程S6において、ダイ10から圧粉体を取り出して加熱する。それにより、原料の粉体1に含まれる樹脂同士を溶着させる。なお、加熱温度や加熱時間等の加工条件については、樹脂の種類等に応じて適宜設定される。それにより、円柱状の砥石部材が得られる。
【0023】
ここで、
図3は、工程S5により得られた圧粉体を示す模式図である。また、
図4は、工程S6により得られた砥石部材を示す模式図である。なお、
図4においては、気孔率の違いをグレーの濃淡で表しており、グレーの濃い方が気孔率が低いことを示す。
【0024】
上述したように、
図3に示す圧粉体2は、ダイ10内にすり鉢状に配置された粉体1を、中心軸R1と平行な向きに押圧して得られたものである。このため、圧粉体2においては、中心軸R1近傍で粉体1の圧縮密度が低く、外周に向かうほど粉体1の圧縮密度が高くなる。従って、このような圧粉体2を熱処理した後の砥石部材3においては、中心軸R1近傍で気孔の含有率が高く、外周に向かうほど気孔の含有率が低くなる。
【0025】
さらに、工程S7において、円柱状の砥石部材3に対し、カーブジェネレータ加工等により球面を創成し、さらにラップ加工を行うことにより、所望の曲率の球面形状をなす加工面3aを形成する。それにより、実施の形態1に係る研磨用工具が完成する。
【0026】
以上説明したように、実施の形態1によれば、中心軸R1近傍において気孔の含有率が高く、外周に向かうほど気孔の含有率が低くなる研磨用工具を容易に製造することができる。このような研磨用工具においては、中心軸R1から外周に向かうほど磨耗し難くなる。従って、研磨用工具を回転させて使用した際に、周速が相対的に遅い中心軸R1側と、周速が相対的に早い円周側とにおいて、加工面における磨耗量を均一にすることが可能となる。
【0027】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る研磨用工具の製造方法について説明する。
実施の形態2に係る研磨用工具の製造方法は、全体として
図1に示すものと同様であり、主に工程S3における原料の粉体の配置方法が実施の形態1とは異なる。
図5A〜
図5Dは、実施の形態2に係る研磨用工具の製造方法を説明するための模式図である。
【0028】
実施の形態2においては、粉体1の圧縮成形用の型として、
図5Aに示すダイ20及び下パンチ21を用いる。ダイ20及び下パンチ21は、粉体の圧縮成形加工において一般的に用いられる加工具である。ダイ20は筒状をなし、下パンチ21をダイ20に嵌め込むことにより、ダイ20内に円柱状のキャビティが形成される。
【0029】
ダイ20に下パンチ21をセットした後(工程S2)、工程S3において、原料の粉体1をダイ20内に、すり鉢状に配置する。この際、実施の形態2においては、まず、
図5Aに示すように、ダイ20内に原料の粉体1を投入する。そして、
図5Bに示すように、ダイ20及び下パンチ21を回転モータ23が備えられた回転テーブル22上に載置し、所定の回転数(例えば、500rpm程度)となるまで回転させる。それにより、ダイ20内に配置された粉体1に遠心力が発生して外周方向に移動し、粉体1がすり鉢状となる。また、それと同時に、粉体1の密度が中心軸R2から外周に向かって高くなる。さらに、回転により粉体1が分級され、粉体1の中でも粒径が大きくて重い粉体1aが外周方向に移動し、粒径が小さくて軽い粉体1bは中心軸R2近傍に残留する。回転テーブル22が所定の回転数に至った後、回転モータ23を停止する。
【0030】
その後、
図5Cに示すように、ダイ20及び下パンチ21を圧縮成形装置の台座25上に載置して、上側開口に上パンチ24を配置する(工程S4)。そして、上パンチ24を降下させ、下パンチ21及び上パンチ24により粉体1に所定の圧力を加えることにより圧縮成形を行う(工程S5)。
【0031】
図6は、実施の形態2の工程S5において得られた圧粉体を示す模式図である。工程S5においては、上述したように、中心軸R2から外周に向かうほど高さ及び密度が高くなり、径も大きくなる粉体1を、中心軸R2と平行な向きに押圧する。このため、それによって得られた圧粉体4においては、中心軸R2近傍と比較して、円周側の圧縮密度が非常に高くなる。また、粒径が大きく、研磨能力の高い研磨材も円周側に多く存在することになる。
その後の工程S6以降については、実施の形態1と同様である。
【0032】
以上説明したように、実施の形態2によれば、ダイ20内において原料の粉体1に遠心力を生じさせるので、中心軸R2から外周に向かうほど粉体1の圧縮密度が高くなり、且つ、粒径が大きくて重い粉体1aが増加する圧粉体4を容易に形成することができる。このような圧粉体4にさらに熱処理を施して作製した研磨用工具においては、中心軸R2と比較して円周側における気孔の含有率が非常に低くなると共に、研磨材の平均粒径が大きくなる。即ち、中心軸R2から外周に向かうほど、磨耗し難くなると共に、研磨能力が高くなる。従って、研磨用工具を回転させて使用した際に、周速が相対的に遅い中心軸R2側と、周速が相対的に早い円周側とにおいて、加工面における磨耗量を均一にすることが可能となる。
【0033】
(変形例1)
次に、実施の形態2の変形例1について説明する。
図7は、実施の形態2の工程S3においてダイ20に与える回転のパターンの一例を示すグラフである。
工程S3においては、ダイ20に粉体1を投入した後、
図7に示すように回転モータ23の回転運動を制御して、ダイ20を間欠的に回転させても良い。具体的には、回転数をN
maxまで上げた後、すぐにN
minまで落とす間欠パターンを3回繰り返した後、再び回転数をN
maxまで上げて、所定時間回転させる。
【0034】
このように回転を間欠的に与えることにより、粉体1の流動が活発化するので、粉体1がすり鉢状になるまでの時間を短縮することができる。また、粒径が大きい粉体1aと粒径が小さい粉体1bとの分級度合いも高くなるため、圧粉体4の径方向における平均粒径の差がより大きくなる。従って、変形例1によれば、中心軸R2から外周に向かうほど圧縮密度が高くなり、且つ研磨能力の高い粒径の大きな粉体1aが増加する圧粉体4を、より効率的に作製することが可能となる。
【0035】
(変形例2)
次に、実施の形態2の変形例2について説明する。
図8は、変形例2に係る研磨用工具の製造方法を説明するための模式図である。
実施の形態2の工程S3においてダイ20を回転させる際には、ダイ20に対し、直接又は間接的に振動を与えても良い。例えば、
図8に示すように、回転モータ23に超音波発振装置26を取り付け、回転テーブル22及びダイ20を回転させながら、回転モータ23及び回転テーブル22を介してダイ20に超音波振動を与える。それにより、超音波振動が粉体1に伝達して流動が活発化し、粉体1がすり鉢状になるまでの時間を短縮することができる。また、粒径が大きい粉体1aと小さい粉体1bとの分級度合いも高くなるため、圧粉体4の径方向における平均粒径の差がより大きくなる。従って、変形例2によれば、中心軸R2から外周に向かうほど圧縮密度が高くなり、且つ研磨能力の高い粒径の大きな粉体1aが増加する圧粉体4を、より効率的に作製することが可能となる。
なお、超音波発振装置26は、回転モータ23に設ける他、回転テーブル22上に設置しても良いし、ダイ20の側面や上端部に直接設けても良い。