(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
燃費向上、二酸化炭素排出量低減などを目的として、自動車用部材にアルミニウム、プラスチックなどのより軽量な材料を用いてこれらの部材を軽量化することが常に要求されている。例えば、自動車の天井部分(ルーフ)は一般に鉄で作られており、ルーフをアルミニウム製とすることが試みられている。一方、ルーフが取り付けられるボディパーツは鉄で作られているため、アルミニウム製ルーフと鉄製ボディパーツを直接接触させて、リベット、ボルト/ナットなどの機械的接合により固定すると、アルミニウムと鉄の間で生じる電蝕によりアルミニウムが腐食してしまう。そのため、アルミニウムと鉄を連結する場合には、アルミニウムと鉄の間にゴムシートなどのスペーサを配置して、これらの材料を電気的に絶縁する必要がある。
【0003】
自動車用部材の製造に構造接着剤とも呼ばれる熱硬化性1液型接着剤が使用されている。ルーフとボディパーツを連結するために、リベットまたはボルト/ナットに加えてこのような接着剤を用いると、ルーフとボディパーツをより強固に連結することができる。接着剤は通常絶縁性であるため、接着剤を機械的接合と併用してアルミニウム製ルーフと鉄製ボディパーツを連結した場合、これらの材料は互いに絶縁され電蝕によるアルミニウムの腐食が防止される。接着剤は、ルーフおよび/またはボディパーツに接着剤を塗布し、ルーフとボディパーツをリベットまたはボルト/ナットにより固定してから電着塗装および加熱乾燥を行うことにより、加熱乾燥時の熱を用いて硬化することができる。しかしながら、アルミニウム製ルーフと鉄製ボディパーツを連結する場合、アルミニウムと鉄の線膨張係数の違いにより、加熱乾燥中、高温(例えば約170〜200℃)になったアルミニウムと鉄の間にこれらの材料の歪みによるギャップが生じて、硬化した接着剤の層の内部、または接着剤の層とアルミニウムもしくは鉄との間に空隙(ボイド)が形成される。ボイドを通ってアルミニウムと鉄の間に侵入した水分は、アルミニウムおよび/または鉄を腐食させるおそれがある。
【0004】
特許文献1(特開2002−284045号公報)には、「異種金属からなる車輌用部材の接合方法において、一方の部材と他方の部材との接合面に、一方の接合面に接着し、他方の接合面に弱接着乃至非接着の電気絶縁性シール剤を塗布し、両部材を機械的に接合する車輌用部材の接合方法」が記載されている。
【0005】
特許文献2(特開2004−323639号公報)には、「熱膨張差を有する被着体相互が接着剤層を介して接着された接着構造において、前記接着剤層は2層構造とされ、かつそのうちの少なくとも一方の層が、エポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂を主成分とし且つ硬化状態で可撓性を有する可撓性エポキシ組成物により形成されている、ことを特徴とする熱膨張差を有する被着体間の接着構造」が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、アルミニウムと鉄のように、線膨張係数の異なる2つの材料をより少ない歪みで材料間に空隙を形成せずに接着することが可能な熱硬化性接着剤を提供することにある。また、本開示の別の目的は、当該熱硬化性接着剤によって接着された異種材料を含む自動車用部材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施態様によれば、エポキシ樹脂、コアシェルゴム、熱膨張性微粒子、および硬化剤を含む熱硬化性接着剤であって、前記熱膨張性微粒子の平均粒径が9〜19μmであり、膨張開始温度が70〜100℃であり、かつ最大膨張温度が110〜135℃である、熱硬化性接着剤が提供される。
【0009】
本開示の別の実施態様によれば、第一の板状材および第二の板状材を用意し、エポキシ樹脂、コアシェルゴム、熱膨張性微粒子、および硬化剤を含む熱硬化性接着剤であって、前記熱膨張性微粒子の平均粒径が9〜19μmであり、膨張開始温度が70〜100℃であり、かつ最大膨張温度が110〜135℃である、熱硬化性接着剤を前記第一の板状材、前記第二の板状材またはそれら両方の表面に適用し、前記第一の板状材、前記熱硬化性接着剤、および前記第二の板状材をこの順で積層し、加熱して前記熱硬化性接着剤を硬化させて、前記第一の板状材および前記第二の板状材を硬化した前記熱硬化性接着剤を介して接着することを含み、前記第一の板状材の線膨張係数が前記第二の板状材の線膨張係数と異なる、自動車用部材の製造方法が提供される。
【0010】
本開示のさらに別の実施態様によれば、第一の板状材と、第二の板状材と、前記第一の板状材と前記第二の板状材の間に配置されて前記第一の板状材と前記第二の板状材を接着する、硬化した上記熱硬化性接着剤とを含み、前記第一の板状材の線膨張係数が前記第二の板状材の線膨張係数と異なる、自動車用部材が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一実施態様の熱硬化性接着剤に含まれる熱膨張性微粒子は、線膨張係数の異なる異種材料を加熱処理する場合に、これらの材料の線膨張係数の違いにより生じる材料間のギャップが大きくなる前の比較的低い温度で接着剤を膨張させ、膨張した接着剤は加熱処理の最高温度に到達する前に硬化してこれらの材料を接着することができる。そのため、加熱処理中にこれらの材料間に生じるギャップを膨張した接着剤によって充填し、これらの材料を少ない歪みで材料間に空隙を形成せずに接着することができる。
【0012】
別の実施形態では、このような熱硬化性接着剤を用いて異種材料が少ない歪みで材料間に空隙を形成せずに接着された自動車用部材を製造することができる。本開示の熱硬化性接着剤は、自動車用部材の製造において、アルミニウムを含む部材と鉄を含む部材を連結するために特に好適に使用することができる。
【0013】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様および本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0015】
本開示の一実施態様の熱硬化性接着剤は、エポキシ樹脂、コアシェルゴム、熱膨張性微粒子、および硬化剤を含む。熱膨張性微粒子の平均粒径は9〜19μmであり、膨張開始温度は70〜100℃であり、最大膨張温度は110〜135℃である。
【0016】
エポキシ樹脂は熱硬化性成分として熱硬化性接着剤に含まれる。エポキシ樹脂は、常温(25℃)で液体、半固体または固体であり、反応性希釈剤または反応性可塑剤とも呼ばれる低粘度のエポキシ化合物も包含する。エポキシ樹脂として、一般に、ジ−もしくはポリ−フェノール、または脂肪族ヒドロキシル化合物もしくは脂環式ヒドロキシル化合物のジ−またはポリ−グリシジルエーテル、脂肪族、脂環式または芳香族カルボン酸のグリシジルエステルなどを使用できる。エポキシ樹脂として、2種以上のエポキシ樹脂の混合物を使用してもよい。
【0017】
エポキシ樹脂として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ダイマー酸変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノールエポキシ樹脂、ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどの脂肪族骨格を有するエポキシ樹脂、p−アミノフェノールトリグリシジルエーテルなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂などのノボラックエポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテルなどのエポキシ化ポリエーテル、グリシジルネオデカノエートなどのグリシジルエステル、およびこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、一般に、約100g/当量以上、約150g/当量以上、または約170g/当量以上、約250g/当量以下、約230g/当量以下、または約220g/当量以下とすることができる。2種以上のエポキシ樹脂の混合物を使用する場合、上記エポキシ当量は混合物の値を意味する。
【0019】
エポキシ樹脂の数平均分子量は、標準ポリスチレン換算で、一般に、約100以上、または約200以上であり、約2000以下、約1000以下、または約700以下とすることができる。反応性希釈剤および反応性可塑剤以外のエポキシ樹脂の平均エポキシ官能性、すなわち一分子あたりの重合性エポキシ基の平均数は、少なくとも2であり、この好ましくは2〜4である。反応性希釈剤および反応性可塑剤は、通常一分子あたり重合性エポキシ基を1つ有する。
【0020】
エポキシ樹脂は、熱硬化性接着剤において約20質量%以上、約25質量%以上、または約30質量%以上、約60質量%以下、約55質量%以下、または約50質量%以下の量で使用することができる。
【0021】
コアシェルゴムは、内側のコア部分と外側のシェル部分にそれぞれ異なる材料を含む複合材料であり、強化剤として熱硬化性接着剤に含まれる。本開示において、シェル部分のガラス転移温度(Tg)がコア部分のTgよりも高いコアシェルゴムを使用することができ、例えば、コア部分のTgが約−110℃以上、約−30℃以下であり、かつシェル部分のTgが約0℃以上、約200℃以下となるように、コア部分およびシェル部分の材料を選択することができる。本開示において、コア部分の材料およびシェル部分の材料のTgは、動的粘弾性測定におけるtanδのピーク値の温度として定義される。コアシェルゴムを熱硬化性接着剤に使用すると、低Tgのコア部分が応力の集中点として働くことにより、硬化した熱硬化性接着剤に可撓性を付与する一方で、シェル部分がコアシェルゴム同士の望ましくない凝集を制御してコアシェルゴムを接着剤中に均一に分散させることができる。
【0022】
コアシェルゴムは、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどの共役ジエン、1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネンなどの非共役ジエンの重合体;これらの共役または非共役ジエンと、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル化合物、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレートなどの(メタ)アクリレートなどとの共重合体;ポリブチルアクリレートなどのアクリルゴム;シリコーンゴム;シリコーンとポリアルキルアクリレートとからなるIPN型複合ゴムなどのゴム成分を含むコア部分と、コア部分の周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル部分とを有する、コアシェル型のグラフト共重合体であってよい。コア部分として、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体およびアクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体が有利に使用でき、シェル部分としてメチル(メタ)アクリレートをグラフト共重合して形成したものが有利に使用できる。シェル部分は層状であってよく、一層または複数の層からシェル部分が構成されていてもよい。コアシェルゴムとして、2種以上のコアシェルゴムを組み合わせて使用してもよい。
【0023】
このようなコアシェルゴムとして、例えば、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−アクリルゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。コアシェルゴムとして、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体が有利に使用できる。
【0024】
コアシェルゴムは通常微粒子の形状であり、その1次粒径の平均値(質量平均粒径)は、一般に約0.05μm以上または約0.1μm以上、約5μm以下または約1μm以下である。本開示において、コアシェルゴムの1次粒径の平均値は、ゼータ電位粒度分布測定によって得られた値から決定される。
【0025】
コアシェルゴムは、熱硬化性接着剤において約1質量%以上、約2質量%以上、または約5質量%以上、約20質量%以下、約15質量%以下、または約10質量%以下の量で使用することができる。
【0026】
熱膨張性微粒子は、ガスバリアー性を有する熱可塑性樹脂、例えばアクリロニトリル系共重合体などをシェルとし、シェルの内部に熱膨張剤を内包させたマイクロカプセルである。熱膨張性微粒子を加熱すると、シェルの熱可塑性樹脂が軟化し、熱膨張剤の体積が増大することにより、熱硬化性接着剤の体積が増加する。熱膨張剤として低沸点物質、例えばトリクロロフルオロメタン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、ブタン、イソブタンなどがシェルの内部に封入され、この低沸点物質の気化が熱膨張性微粒子の膨張に利用される。熱硬化性接着剤を硬化させるために加熱すると、熱膨張性微粒子が膨張して接着剤の体積を増加させる。膨張した接着剤は、線膨張係数の異なる2つの材料が加熱により歪む結果これらの材料の間に生じるギャップを充填しながらこれらの材料を接着する。
【0027】
熱膨張性微粒子の膨張開始温度は、熱硬化性接着剤の発熱開始温度よりも低いことが望ましい。このようにすることで、熱硬化性接着剤が十分に膨張する前に硬化してしまうことを防止することができる。熱膨張性微粒子の膨張開始温度とは、熱膨張性微粒子の体積変化が生じる温度である。熱膨張性微粒子の膨張開始温度は、約70℃以上、約75℃以上、または約80℃以上、約110℃以下、約105℃以下、または約100℃以下である。熱膨張性微粒子の膨張開始温度は、熱硬化性接着剤の発熱開始温度、熱硬化性接着剤を硬化させるときの加熱プロファイルなどに応じて選択される。例えば、膨張開始温度は、発熱開始温度より約5℃以上低い温度とすることができる。
【0028】
熱膨張性微粒子の最大膨張温度は、約110℃以上、約135℃以下である。例えば、最大膨張温度を約110℃〜約120℃、あるいは約125℃〜約135℃の範囲内であるように選択することができる。熱膨張性微粒子は、最大膨張温度を越えて加熱を続けると、膨張により薄くなったシェルを熱膨張剤の気体が透過して外部へ拡散し、シェルの張力および外圧により収縮するため、熱膨張性微粒子の最大膨張温度は、熱硬化性接着剤の発熱開始温度、熱硬化性接着剤を硬化させるときの加熱プロファイルなどに応じて選択される。例えば、最大膨張温度は、熱硬化性接着剤の発熱開始温度±約40℃の範囲にあるように選択することができる。
【0029】
熱膨張性微粒子の平均粒径は、約9μm以上、約10μm以上、または約13μm以上、約19μm以下、約16μm以下、または約15μm以下である。本開示において、熱膨張性微粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置による測定によって決定される。
【0030】
硬化した接着剤に要求される強度および接着力、熱硬化性接着剤に要求される膨張率などに応じて、熱膨張性微粒子の体積膨張率および量を適宜決定することができる。例えば、熱膨張性微粒子の体積膨張率は、約2倍以上、約3倍以上、または約5倍以上、約20倍以下、約15倍以下、または約10倍以下とすることができる。熱膨張性微粒子は、熱硬化性接着剤において約0.3質量%以上、約0.5質量%以上、または約1質量%以上、約20質量%以下、約15質量%以下、または約12質量%以下の量で使用することができる。
【0031】
熱硬化性接着剤の硬化剤として、一般に、エポキシ樹脂を硬化させるために使用される公知の潜在性硬化剤を使用する。潜在性硬化剤は、常温ではエポキシ樹脂を硬化する活性をもたないが、加熱によって活性化し、エポキシ樹脂を硬化することができる硬化剤である。例えば、従来知られている微粒状の潜在性硬化剤は、常温ではエポキシ樹脂に不溶であり、加熱すると可溶化してエポキシ樹脂を硬化することができる。これらの硬化剤は、エポキシ樹脂の種類、硬化物の特性に応じて、単独でまたは2種類以上組み合わせて使用することができる。本開示における硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化に関与する化合物、例えば、硬化促進剤、架橋剤などを包含する。
【0032】
潜在性硬化剤として、例えば、ジシアンジアミド(DICY)およびその誘導体、有機酸ジヒドラジドなどのポリアミン化合物、これらのポリアミン化合物と4,4’−メチレン−ビス(フェニルジメチルウレア)などの尿素化合物との組み合わせ、N−(2−メチルフェニル)−イミドジカルボンイミド酸ジアミド、ヒドラジド化合物、三フッ化ホウ素−アミン錯体、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールなどの常温で微粒状のイミダゾール化合物、ポリアミン化合物とエポキシ化合物との反応生成物(ポリアミン−エポキシ付加物)などの修飾ポリアミン化合物、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物などのアミン化合物とイソシアネート化合物または尿素化合物との反応生成物(尿素付加物)などが使用できる。
【0033】
硬化剤は、熱硬化性接着剤の硬化性、硬化物の耐熱性および耐湿性などを考慮して、エポキシ樹脂100質量部を基準として、約1質量部以上、約2質量部以上、または約5質量部以上、約20質量部以下、約15質量部以下、または約12質量部以下の量で使用することができる。
【0034】
熱硬化性接着剤は、任意成分として、ヒュームドシリカなどのレオロジー調整剤、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、ガラスビーズなどの無機フィラー、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などの酸化防止剤、エポキシ変性アルコキシシランなどのシランカップリング剤、難燃剤、着色剤、レベリング剤、消泡剤、溶剤などをさらに含んでもよい。これらの添加剤の配合量は、本発明の効果を損なわない範囲において適宜決定することができる。例えば、レオロジー調整剤は、熱硬化性接着剤において約0.1質量%以上、約0.2質量%以上、または約0.5質量%以上、約5質量%以下、約3質量%以下、または約2質量%以下の量で使用することができる。例えば、無機フィラーは、熱硬化性接着剤において約10質量%以上、約20質量%以上、または約30質量%以上、約70質量%以下、約60質量%以下、または約50質量%以下の量で使用することができる。
【0035】
熱硬化性接着剤は、例えば、上記成分を必要に応じて加熱しながらミキサーで混合し、必要に応じて脱泡することにより調製することができる。熱硬化性接着剤の粘度は、25℃において、一般に約10Pa・s以上、または約50Pa・s以上、約1000Pa・s以下、または約800Pa・s以下である。粘度は回転式粘度計を用い、25℃、せん断速度15.5s
−1の条件で測定される。
【0036】
熱硬化性接着剤の発熱開始温度は、上述したように、熱膨張性微粒子の膨張開始温度および/または最大膨張温度に応じて選択することができる。ここで、発熱開始温度とは、示差走査熱量測定(DSC)により、熱硬化性接着剤を室温から温度勾配10℃/分で昇温させた時に得られるDSC曲線において、発熱量がピークの1/2となる低温側の温度での接線がベースラインと交わる点の温度と定義される。熱硬化性接着剤の発熱開始温度は、温度勾配10℃/分で示差走査熱量測定を行ったときに、約80℃以上、または約90℃以上、約150℃以下、または約140℃以下とすることができる。また、熱硬化性接着剤の発熱最大温度は、温度勾配10℃/分で示差走査熱量測定を行ったときに、約110℃以上、または約120℃以上、約155℃以下、または約150℃以下とすることができる。発熱開始温度および発熱最大温度は、エポキシ樹脂のエポキシ当量、硬化剤の種類および量などによって調節することができる。
【0037】
本開示の熱硬化性接着剤は、木、金属、コーティングされた金属、プラスチックおよび充填プラスチック基材、ガラス繊維などを含む様々な基材を互いに結合させることができる。熱硬化性接着剤は、必要に応じて加熱しながら、コーキングガンなどを用いて接着する2つの基材の一方または両方に適用することができる。次に、熱硬化性接着剤が両方の基材と接触するように2つの基材を配置する。その後、加熱することにより、熱硬化性接着剤は膨張しながら硬化して2つの基材を接着する。
【0038】
接着する2つの基材は線膨張係数が互いに異なる板状材であってよい。この場合、熱硬化性接着剤を2つの板状材のいずれか一方または両方の表面に適用し、一方の板状材、熱硬化性接着剤、もう一方の板状材をこの順で積層し、その後加熱して熱硬化性接着剤を硬化させて、2つの板状材を硬化した熱硬化性接着剤を介して接着する。加熱時に2つの板状材の間に生じたギャップは膨張した熱硬化性接着剤によって充填され、板状材の間に空隙を形成せずにこれらの2つの板状材を接着することができる。
【0039】
ある実施態様では、一方の板状材はアルミニウムを含む。別の実施態様では、もう一方の板状材は鉄を含む。鉄を含む板状材として、例えば鋼板、コーティングされた鋼板、亜鉛めっき鋼板(電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、ガルバニール鋼板など)が挙げられる。さらに別の実施態様では、一方の板状材はカーボンFRPを含む。
【0040】
本開示の熱硬化性接着剤は、例えば、自動車用部材の接着、特にアルミニウムを含む部材と鉄を含む部材の接着に好適に使用される。本開示の熱硬化性接着剤と合わせて、リベット、ボルト/ナットなどの機械的接合を併用してもよい。本開示の熱硬化性接着剤が特に有利に使用できる態様として、アルミニウムを含む自動車用部材として自動車用の天井部分(ルーフ)と、鉄を含む部材としてルーフが取り付けられるボディパーツとの接合が挙げられる。本開示の熱硬化性接着剤は、電着塗装を硬化または乾燥するときの加熱プロファイルに合わせて設計することができ、自動車用のルーフとボディパーツの塗装と接着を同時に行うことができる。
【実施例】
【0041】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。部およびパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
【0042】
本実施例で使用した試薬、原料などを以下の表1に示す。
【0043】
【表1-1】
【表1-2】
【0044】
熱硬化性接着剤を表2の配合に従って以下のとおり調製した。最初にKaneAce(登録商標)B−564(コアシェルゴム)を、YD128およびAraldite(登録商標)DY3601またはCardura(登録商標)E10P(エポキシ樹脂)のいずれかと広口瓶の中で混合し、その広口瓶をオーブンに入れて95℃に加熱した。95℃で広口瓶の内容物をミキサーで混合して均一な分散物を調製した。分散物を室温まで冷却した後、表2に示すCAB−O−SIL(登録商標)TS720またはAerosil(登録商標)RX−200(レオロジー調整剤)以外の残りの成分を添加して、ミキサーで攪拌した。分散物が均一になった後、CAB−O−SIL(登録商標)TS720またはAerosil(登録商標)RX−200(レオロジー調整剤)を添加して再度攪拌した。その後、分散物を30分間真空下に置いて脱泡して熱硬化性接着剤を得た。得られた熱硬化性接着剤は以下の性能評価試験に用いた。
【0045】
【表2-1】
【表2-2】
【0046】
<性能評価試験>
本開示の熱硬化性接着剤の性能を以下の方法に従って評価した。
【0047】
1.パネル歪みおよび接着層の均一性
ボルト/ナット止めのための2つの穴を間隔100mmで有するアルミニウム(Al)試験パネル(A6061P−T6、日本軽金属株式会社製、厚さ1.0mm×幅25mm×長さ150mm)、および同様の2つの穴を有するガルバニール鋼(GA)試験パネル(JFEスチール株式会社製、厚さ0.8mm×幅25mm×長さ150mm)を、メチルエチルケトン(MEK)を用いて拭いた後、Preton(登録商標)R303−PX2に浸漬し、垂直に立てた状態で24時間置いて防錆処理を行う。熱硬化性接着剤をAl試験パネルにスパチュラを用いて塗布して接着層を形成し、次にGA試験パネルを接着層の上に配置して、ボルトとナットを用いてAl試験パネルとGA試験パネルを2箇所で固定する。本実施例では別個のスペーサを接着層に用いなかったため、接着層の厚さは0.1mm(配合したフィラーの最大粒径に対応)であった。
【0048】
上記のとおり作成した試験片を、「高速ベーク」および「低速ベーク」の条件下、オーブン中で加熱する。「高速ベーク」では、試験片を30℃から190℃まで6.4℃/分で25分かけて昇温し、190℃で15分保持した後に放冷する。「低速ベーク」では、試験片を30℃から70℃まで10分かけて昇温し、75〜78℃で10分保持したあと、185℃まで20分かけて5.4℃/分で昇温し、185℃で10分保持した後放冷する。これらはいずれも自動車製造における電着塗装の乾燥条件(温度プロファイル)を模擬したものである。接着層が硬化した後、Al試験パネルとGA試験パネルの最大ギャップを各試験片について測定する。最大ギャップは2つのボルト/ナット止めのほぼ中間点で観察される。その後、Al試験パネルからGA試験パネルを引き剥がして、接着層の均一性を目視で観察し、試験パネルのギャップが空隙なく完全に充填されていたものをA、一部充填されていない部分があったが許容されるものをB、使用不可であるものをCとして3段階で評価する。
【0049】
2.重なりせん断(OLS)試験
Al試験パネル(A6061P−T6、日本軽金属株式会社製、厚さ1.0mm×幅25mm×長さ150mm)の先端(端から10mm)を、メチルエチルケトン(MEK)を用いて拭いた後、Preton(登録商標)R303−PX2に浸漬し、垂直に立てた状態で24時間置いて防錆処理を行う。熱硬化性接着剤をAl試験パネルにスパチュラを用いて塗布して接着層を形成し、Preton(登録商標)R303−PX2で防錆処理した別のAl試験パネルを重なりが10mmになるように接着層の上に配置して、クリップで挟んで固定する。本実施例では別個のスペーサを接着層に用いなかったため、接着層の厚さは0.1mm(配合したフィラーの最大粒径に対応)であった。上記のとおり作製した試験片を、「高速ベーク」および「低速ベーク」の条件下、オーブン中で加熱する。接着層が硬化した後、Tensilon試験装置を用い、クロスヘッド速度5mm/分、引張モードで試験する。
【0050】
3.Tピール試験
Al試験パネル(A6061P−T6、日本軽金属株式会社製、厚さ1.0mm×幅25mm×長さ150mm)を、メチルエチルケトン(MEK)を用いて拭いた後、Preton(登録商標)R303−PX2に浸漬し、垂直に立てた状態で24時間置いて防錆処理を行う。熱硬化性接着剤をAl試験パネルにスパチュラを用いて塗布して接着層を形成し、Preton(登録商標)R303−PX2で防錆処理した別のAl試験パネルを接着層の上に配置して、クリップで挟んで固定する。本実施例では別個のスペーサを接着層に用いなかったため、接着層の厚さは0.1mm(配合したフィラーの最大粒径に対応)であった。上記のとおり作製した試験片を、「高速ベーク」および「低速ベーク」の条件下、オーブン中で加熱する。接着層が硬化した後、Tensilon試験装置を用い、剥離速度200mm/分、Tピールモードで試験する。
【0051】
4.DSC(示差走査熱量測定)
熱硬化性接着剤の試料をアルミニウムパンの中に約2〜10mg入れ、Perkin Elmer製Pyris 1 Differential Scanning Calorimeterを用いて測定し、発熱開始温度および発熱最大温度を決定した。
【0052】
試験結果を表3にまとめて示す。
【0053】
【表3-1】
【表3-2】
本発明の実施態様の一部を以下に記載する。
[項目1]
エポキシ樹脂、コアシェルゴム、熱膨張性微粒子、および硬化剤を含む熱硬化性接着剤であって、前記熱膨張性微粒子の平均粒径が9〜19μmであり、膨張開始温度が70〜100℃であり、かつ最大膨張温度が110〜135℃である、熱硬化性接着剤。
[項目2]
温度勾配10℃/分で示差走査熱量測定を行ったときに、前記熱硬化性接着剤の発熱開始温度が150℃以下であり、かつ発熱最大温度が155℃以下である、項目1に記載の熱硬化性接着剤。
[項目3]
前記熱膨張性微粒子が0.3質量%以上含まれる、項目1または2のいずれかに記載の熱硬化性接着剤。
[項目4]
第一の板状材および第二の板状材を用意し、
エポキシ樹脂、コアシェルゴム、熱膨張性微粒子、および硬化剤を含む熱硬化性接着剤であって、前記熱膨張性微粒子の平均粒径が9〜19μmであり、膨張開始温度が70〜100℃であり、かつ最大膨張温度が110〜135℃である、熱硬化性接着剤を前記第一の板状材、前記第二の板状材またはそれら両方の表面に適用し、
前記第一の板状材、前記熱硬化性接着剤、および前記第二の板状材をこの順で積層し、
加熱して前記熱硬化性接着剤を硬化させて、前記第一の板状材および前記第二の板状材を硬化した前記熱硬化性接着剤を介して接着することを含み、前記第一の板状材の線膨張係数が前記第二の板状材の線膨張係数と異なる、自動車用部材の製造方法。
[項目5]
第一の板状材と、第二の板状材と、前記第一の板状材と前記第二の板状材の間に配置されて前記第一の板状材と前記第二の板状材を接着する、硬化した項目1〜3のいずれか一項に記載の熱硬化性接着剤とを含み、前記第一の板状材の線膨張係数が前記第二の板状材の線膨張係数と異なる、自動車用部材。
[項目6]
前記第一の板状材がアルミニウムを含む、項目5に記載の自動車用部材。
[項目7]
前記第二の板状材が鉄を含む、項目5または6のいずれかに記載の自動車用部材。