特許第6006098号(P6006098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6006098
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】可変容量形ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 14/24 20060101AFI20160929BHJP
   F04C 14/22 20060101ALI20160929BHJP
   F04C 2/344 20060101ALI20160929BHJP
【FI】
   F04C14/24 B
   F04C14/22 D
   F04C2/344 331J
   F04C2/344 331C
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-258826(P2012-258826)
(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-105622(P2014-105622A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 浩二
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−070891(JP,A)
【文献】 特開昭56−143384(JP,A)
【文献】 特開2011−163194(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0194967(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 14/24
F04C 14/22
F04C 2/344
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動されるロータと、
前記ロータの外周側に出没自在に設けられた複数のベーンと、
前記ロータと前記複数のベーンとをその内周側に収容することで複数の作動油室を隔成すると共に、前記ロータの回転中心に対するその内周中心の偏心量が変化するように移動することで前記ロータの回転時における前記各作動油室の容積の増減量を変化させるカムリングと、
前記カムリングの軸方向両側に配置され、その少なくとも一方側に、前記複数の作動油室のうち前記ロータの回転に伴って容積が増大する作動油室に開口する吸入部と、前記複数の作動油室のうち前記ロータの回転に伴って容積が減少する作動油室に開口する吐出部とが設けられた側壁と、
セット荷重が付与された状態で設けられ、前記偏心量が増大する方向へ前記カムリングを付勢する付勢部材と、
前記吐出部から吐出された作動油が導かれることによって、その内圧をもって前記カムリングに対し前記偏心量が減少する方向へ付勢力を作用させる第1制御油室と、
前記吐出部から導入通路を介して作動油が導かれることによって、その内圧をもって前記カムリングに対し前記偏心量が増大する方向へ付勢力を作用させる第2制御油室と、
前記導入通路へと導かれる油圧に基づき前記偏心量が最小となる前に作動し、前記導入通路から導入される油圧が所定圧以下のときには絞りを介して当該油圧を前記第2制御油室へと導き、前記導入通路から導入される油圧が所定圧を超えると当該油圧に応じて前記第2制御油室内の作動油を排出させる制御機構と、
前記導入通路に導かれた作動油を、前記制御機構側へと導く状態と排出する状態とを切り替える切替機構と、
を備えたことを特徴とする可変容量形ポンプ。
【請求項2】
回転駆動されるロータと、
前記ロータの外周側に出没自在に設けられた複数のベーンと、
前記ロータと前記複数のベーンとをその内周側に収容することで複数の作動油室を隔成すると共に、前記ロータの回転中心に対するその内周中心の偏心量が変化するように移動することで前記ロータの回転時における前記各作動油室の容積の増減量を変化させるカムリングと、
前記カムリングの軸方向両側に配置され、その少なくとも一方側に、前記複数の作動油室のうち前記ロータの回転に伴って容積が増大する作動油室に開口する吸入部と、前記複数の作動油室のうち前記ロータの回転に伴って容積が減少する作動油室に開口する吐出部とが設けられた側壁と、
セット荷重が付与された状態で設けられ、前記偏心量が増大する方向へ前記カムリングを付勢する付勢部材と、
前記吐出部から吐出された作動油が導かれることによって、その内圧をもって前記カムリングに対し前記偏心量が減少する方向へ付勢力を作用させる第1制御油室と、
前記吐出部から導入通路を介して作動油が導かれることによって、その内圧をもって前記カムリングに対し前記偏心量が増大する方向へ付勢力を作用させる第2制御油室と、
軸方向一端側に開口することで前記導入通路の上流側と連通する上流側開口部と、前記導入通路の下流側と連通する下流側開口部と、ドレンと連通する切替ドレン開口部とを有する切替バルブボディと、該切替バルブボディ内にて軸方向移動可能に設けられ、該軸方向移動をもって前記上流側開口部と前記下流側開口部と前記切替ドレン開口部の相互の連通状態を切り替える弁体と、通電によって前記弁体を前記上流側開口部へと押圧することで当該上流側開口部を閉塞するソレノイドとを有する切替機構と、
軸方向一端側に開口することで前記導入通路と連通する導入通路開口部と、ドレンと連通する制御ドレン開口部と、前記第2制御油室と連通する制御油室開口部とを有する制御バルブボディと、該制御バルブボディの軸方向一端側に摺動自在に収容され、その軸方向位置に応じて前記導入通路開口部と前記制御ドレン開口部と前記制御油室開口部の相互の連通状態を切り替えるスプールと、前記バルブボディの軸方向他端側に収容配置され、前記スプールを軸方向一端側へと付勢する付勢部材とを有する制御機構と、
を備えたことを特徴とする可変容量形ポンプ。
【請求項3】
回転に伴い複数の作動油室の容積が変化するように構成され、回転駆動されることによって吸入部から導かれた作動油を吐出部から吐出するポンプ構成体と、
可動部材が移動することによって、前記吐出部に開口する前記各作動油室の容積変化量を可変にする可変機構と、
セット荷重が付与された状態で設けられ、前記吐出部に開口する前記作動油室の容積変化量が増大する方向に前記可動部材を付勢する付勢部材と、
前記吐出部から吐出された作動油が導かれ、その内圧に基づき前記可動部材に対し前記付勢部材の付勢力に抗する方向に付勢力を作用させる第1制御油室と、
前記吐出部と連通する導入通路より作動油が導かれ、その内圧に基づき前記可動部材に対し前記付勢部材による付勢方向と同方向に付勢力を作用させる第2制御油室と、
前記導入通路の途中に設けられ、前記導入通路から前記第2制御油室への作動油の流通を遮断して前記第2制御油室の作動油を排出する状態と、前記吐出部から吐出された作動油を前記第2制御油室へと導く状態と、を切り替える切替機構と、
前記導入通路上において前記切替機構と前記第2制御油室との間に設けられ、前記第1制御油室へと導かれる作動油の油圧に基づく前記可動部材の移動によって前記作動油室の容積変化量が最小となる前に作動し、前記吐出部から吐出される作動油の油圧が所定圧より小さいときには前記切替機構を介して前記吐出部と前記第2制御油室とを連通し前記吐出部から吐出される作動油の油圧が前記所定圧を超えると当該作動油の油圧に応じて前記第2制御油室内の作動油を排出させる制御機構と
を備えたことを特徴とする可変容量形ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用の内燃機関の各摺動部等に作動油を供給する油圧源に適用される可変容量形ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の内燃機関に適用される従来の可変容量形ポンプとしては、例えば以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
概略を説明すれば、この可変容量形ポンプは、ベーン式の可変容量形オイルポンプであって、ポンプハウジングとカムリングの間に隔成された2つの制御油室内に導入され、いずれもロータの回転中心に対してカムリングの偏心量が小さくなる方向(以下、「同心方向」と呼称する。)側へ当該カムリングを付勢するように作用する吐出圧による付勢力と、カムリングの偏心量が大きくなる方向(以下、「偏心方向」と呼称する。)側へ当該カムリングを付勢するスプリングによるばね力と、に基づいて、機関回転数に応じてカムリングの偏心量を2段階に制御することにより、要求吐出圧の異なる複数の機器にオイルを供給することを可能としている。
【0004】
具体的には、機関回転数が上昇すると、まず一方側の制御油室へと吐出圧が導入され、当該吐出圧が第1の平衡圧力である第1所定油圧に到達したところで、カムリングが前記スプリングのばね力に抗して同心方向へと若干移動し、その後、機関回転数がさらに上昇すると、前記一方側の制御油室に加えて他方側の制御油室にも吐出圧が導入され、当該吐出圧が第2の平衡圧力である第2所定油圧に到達したところで、カムリングが前記スプリングのばね力に抗してさらに同心方向へと移動する、といったように前記2段階制御が行われることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−524500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の可変容量形ポンプの場合、前記2つの制御油室の内圧に対抗し得る比較的大きなばね定数を有するスプリングを使用してカムリングを付勢する必要があることから、吐出圧の上昇に伴ってカムリングが移動しづらくなってしまうおそれがある。このため、特に機関回転数の比較的高い領域に係る前記第2所定油圧に維持しようとしたときは、機関回転数(ポンプ回転数)が上昇するにつれて吐出圧も大きく上昇してしまうこととなる結果、要求吐出圧特性を十分に確保できないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、前記従来の可変容量形ポンプの技術的課題に鑑みて案出されたものであり、所望の吐出圧に維持する要求に対し、回転数が上昇しても吐出圧の上昇を抑えて当該要求吐出圧を極力維持し得る可変容量形ポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、とりわけ、吐出圧が所定圧以下のときには絞り部を介して当該吐出圧を第2制御油室へ導き、吐出圧が所定圧を超えると当該吐出圧に応じて第2制御油室内の作動油を排出させるように構成した制御機構を設けると共に、該制御機構側への吐出油の導入を、所定の切替機構をもって切替制御するように構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本願発明によれば、所望の吐出圧に維持する要求に対し、回転数が上昇しても吐出圧の上昇を抑えて当該要求吐出圧を極力維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る可変容量形ポンプの構成を示す分解斜視図である。
図2図1に示す可変容量形ポンプの正面図である。
図3図2のA−A線に沿う断面図である。
図4図3のB−B線に沿う断面図である。
図5図3に示すポンプボディ単体をカバー部材との合わせ面側から見た図である。
図6図3に示すカバー部材単体をポンプボディとの合わせ面側から見た図である。
図7図2のC−C線に沿う断面図である。
図8】同実施形態に係る可変容量形ポンプの油圧特性を表すグラフである。
図9】同実施形態に係る可変容量形ポンプの油圧回路図であって、(a)は図8の区間a、(b)は図8の区間bにおけるポンプの状態を現した図である。
図10】同実施形態に係る可変容量形ポンプの油圧回路図であって、(a)は図8の時点c、(b)は図8の区間dにおけるポンプの状態を現した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る可変容量形ポンプの実施形態を、図面に基づいて詳述する。なお、下記実施形態では、この可変容量形ポンプを、自動車用内燃機関の摺動部や機関弁の開閉時期制御に供するバルブタイミング制御装置に対して機関の潤滑油を供給するためのオイルポンプとして適用した例を示している。
【0012】
このオイルポンプ10は、図示外の内燃機関のシリンダブロックやバランサ装置の各前端部に設けられ、図1図4に示すように、一端側が開口形成され内部にポンプ収容室13が設けられた縦断面ほぼコ字形状のポンプボディ11と当該ポンプボディ11の前記一端開口を閉塞するカバー部材12とからなるポンプハウジングと、該ポンプハウジングに回転自在に支持され、前記ポンプ収容室13のほぼ中心部を貫通して図示外のクランクシャフトないしバランサシャフト等により回転駆動される駆動軸14と、前記ポンプ収容室13内に移動(揺動)可能に収容された可動部材であって、後述する制御油室31,32やコイルスプリング33と協働して後記ポンプ室PRの容積変化量を変更する可変機構を構成するカムリング15と、該カムリング15の内周側に収容され、駆動軸14によって図4中の反時計方向に回転駆動されることで、前記カムリング15との間に形成される複数の作動油室であるポンプ室PRの容積を増減させることによってポンプ作用を行うポンプ構成体と、前記ポンプハウジング(カバー部材12)に付設され、後述する第2制御油室32への油圧の給排を制御する制御機構であるパイロット弁40と、該パイロット弁40と後述する吐出口22bとの間に構成される油通路(後述する第2導入通路72)上に設けられ、吐出されたオイルの前記パイロット弁40側への導入を切替制御する切替機構であるソレノイドバルブ60と、を備えている。
【0013】
ここで、前記ポンプ構成体は、カムリング15の内周側において回転自在に収容され、その中心部が駆動軸14外周に結合されたロータ16と、該ロータ16の外周部に放射状に切欠形成された複数のスリット16a内においてそれぞれ出没自在に収容されたベーン17と、前記ロータ16より小径に形成され、当該ロータ16の内周側両側部に配設された一対のリング部材18,18と、から構成されている。
【0014】
前記ポンプボディ11は、アルミニウム合金材により一体に形成されていて、ポンプ収容室13の一端壁を構成する端壁11aのほぼ中央位置には、駆動軸14の一端部を回転自在に支持する軸受孔11bが貫通形成されている。また、ポンプ収容室13の内周壁の所定位置には、棒状のピボットピン19を介してカムリング15を揺動自在に支持する横断面ほぼ半円状の支持溝11cが切欠形成されている。さらに、ポンプ収容室13の内周壁には、軸受孔11bの中心と支持溝11bの中心とを結ぶ直線(以下「カムリング基準線」という。)Mに対して図4中の上半側に、カムリング15の外周部に配設されるシール部材20が摺接するシール摺接面11dが形成されている。このシール摺接面11dは、支持溝11c中心から所定半径R1をもって構成される円弧面状に形成されると共に、カムリング15が偏心揺動する範囲においてシール部材20が常時摺接可能な周方向長さに設定されている。同様に、前記カムリング基準線Mに対して図4中の下半側にも、カムリング15の外周部に配設されるシール部材20が摺接するシール摺接面11eが形成されている。このシール摺接面11eは、支持溝11c中心から所定半径R2をもって構成される円弧面状に形成され、カムリング15が偏心揺動する範囲においてシール部材20が常時摺接可能な周方向長さに設定されている。
【0015】
また、前記ポンプボディ11の端壁11aの内側面には、特に図4図5に示すように、軸受孔11bの外周域に、前記ポンプ構成体によるポンプ作用に伴い前記各ポンプ室PRの容積が拡大する領域(以下「吸入領域」という。)に開口するようにほぼ円弧凹状の吸入部である吸入ポート21aが、また、前記各ポンプ室PRの容積が縮小する領域(以下「吐出領域」という。)に開口するようにほぼ円弧凹状の吐出部である吐出ポート22aが、それぞれ軸受孔11bを挟んでほぼ対向するように切欠形成されている。
【0016】
前記吸入ポート21aは、その周方向のほぼ中間位置に、後記のスプリング収容室28側へ膨出するように形成された導入部23が一体に設けられていて、該導入部23と吸入ポート21aの境界部近傍には、ポンプボディ11の端壁11aを貫通して外部へと開口する吸入口21bが貫通形成されている。このような構成により、内燃機関のオイルパン(図示外)に貯留されたオイルが、前記ポンプ構成体のポンプ作用に伴い発生する負圧に基づき吸入口21b及び吸入ポート21aを介して吸入領域に係る各ポンプ室PRに吸入されるようになっている。ここで、前記吸入口21aは、前記導入部23と共に、吸入領域のカムリング15外周域に形成される低圧室35と連通するように構成されていて、かかる低圧室35にも前記吸入圧である低圧のオイルが導かれるようになっている。
【0017】
前記吐出ポート22aは、その始端部に、ポンプボディ11の端壁11aを貫通して外部へと開口する吐出口22bが貫通形成されている。このような構成から、前記ポンプ構成体によるポンプ作用により加圧されて吐出ポート22aへと吐出されたオイルが、吐出口22bから前記シリンダブロックの内部に設けられる図示外のメインオイルギャラリを通じて機関内における各摺動部やバルブタイミング制御装置等(いずれも図示外)へと供給されることとなる。
【0018】
また、前記吐出ポート22aには、当該吐出ポート22aと軸受孔11bを連通する連通溝25aが切欠形成されていて、この連通溝25aを介して軸受孔11bにオイルを供給すると共に、ロータ16及び各ベーン17の側部にもオイルを供給することで、各摺動部位の良好な潤滑が確保されている。なお、かかる連通溝25aは、前記各ベーン17の出没方向と合致しないように形成されており、これら各ベーン17が出没する際の当該連通溝25aへの脱落が抑制されている。
【0019】
前記カバー部材12は、図3図6に示すように、ほぼ板状を呈し、複数のボルトB1によりポンプボディ11の開口端面に取り付けられるものであって、ポンプボディ11の軸受孔11bに対向する位置には、駆動軸14の他端側を回転自在に支持する軸受孔12aが貫通形成されている。そして、このカバー部材12の内側面にも、前記ポンプボディ11と同様に、吸入ポート21cや吐出ポート22c、連通溝25bが、ポンプボディ11の吸入ポート21aや吐出ポート22a、連通溝25aに対して対向配置されている。
【0020】
前記駆動軸14は、図3に示すように、ポンプボディ11の端壁11aを貫通して外部へと臨む軸方向一端部が前記クランクシャフト等に連係されていて、当該クランクシャフト等から伝達される回転力に基づきロータ16を図4中の時計方向へと回転させる。ここで、図4に示すように、この駆動軸14中心を通り、かつ、前記カムリング基準線Mと直交する直線(以下「カムリング偏心方向線」という。)Nが、吸入領域と吐出領域の境界となっている。
【0021】
前記ロータ16は、図1図4に示すように、その中心側から径方向外側へ放射状に形成された前記複数のスリット16aが切欠形成されていると共に、該各スリット16aの内側基端部には、それぞれ吐出油を導入する横断面ほぼ円形状の背圧室16bが設けられていて、当該ロータ16の回転に伴う遠心力と背圧室16b内の圧力とにより、前記各ベーン17が外方へと押し出されるようになっている。
【0022】
前記各ベーン17は、ロータ16の回転時において、各先端面がカムリング15の内周面に摺接すると共に、各基端面が前記各リング部材18,18の外周面にそれぞれ摺接するようになっている。すなわち、これらの各ベーン17は、前記各リング部材18,18によってロータ16の径方向外側へ押し上げられる構成となっており、機関回転数が低く、また、前記遠心力や背圧室16bの圧力が小さい場合であっても、各先端がそれぞれカムリング15の内周面と摺接して前記各ポンプ室PRが液密に隔成されるようになっている。
【0023】
前記カムリング15は、いわゆる燒結金属によりほぼ円筒状に一体形成され、その外周部の所定位置には、ピボットピン19に嵌合することで偏心揺動支点を構成するほぼ円弧凹溝状のピボット部15aが軸方向に沿って切欠形成されると共に、該ピボット部15aに対しカムリング15の中心を挟んで反対側の位置には、所定のばね定数に設定された付勢部材たるコイルスプリング33に連係するアーム部15bが径方向に沿って突設されている。なお、前記アーム部15bには、その移動(回動)方向の一側部に、ほぼ円弧凸状に形成された押圧突部15cが突設されていて、該押圧突部15cがコイルスプリング33の先端部に常時当接することにより、アーム部15bとコイルスプリング33とが連係するようになっている。
【0024】
また、このような構成から、前記ポンプボディ11の内部には、図4図5に示すように、前記支持溝11cと対向する位置に、コイルスプリング33を収容保持するスプリング収容室26が、図4中の前記カムリング偏心方向線Nに沿うようにポンプ収容室13に隣接して設けられていて、スプリング収容室26には、その一端壁とアーム部15b(押圧突部15c)との間に、所定のセット荷重W1をもってコイルスプリング33が弾装されている。なお、このスプリング収容室26の他端壁はカムリング15の偏心方向の移動範囲を規制する規制部28として構成され、当該規制部28にアーム部15bの他側部が当接することによって、カムリング15の偏心方向におけるそれ以上の移動が規制されるようになっている。
【0025】
このようにして、前記カムリング15については、コイルスプリング33の付勢力をもって、アーム部15bを介してその偏心量が増大する方向(図4中の時計方向)へと常時付勢され、非作動状態では、図4に示すように、アーム部15bの他側部が規制部28へと押し付けられた状態となって、その偏心量が最大となる位置に規制されるようになっている。
【0026】
また、前記カムリング15の外周部には、ポンプボディ11の内周壁により構成される第1、第2シール摺接面11d,11eと対向して設けられた当該各シール摺接面11dと同心円弧状の第1、第2シール面15g,15hを有する一対の第1、第2シール構成部15e,15fが突出形成されると共に、これらシール構成部15e,15fの各シール面15g,15hにはそれぞれシール保持溝15iが軸方向に沿って切欠形成されていて、これらシール保持溝15i内には、カムリング15の偏心揺動時に前記各シール摺接面11d,11eに摺接する第1、第2シール部材20a,20bがそれぞれ収容保持されている。
【0027】
ここで、前記第1、第2シール面15g,15hは、それぞれ前記各シール摺接面11d,11eを構成する半径R1,R2よりも僅かに小さい所定の半径r1,r2により構成されていて、これら各シール摺接面11d,11eと当該各シール面15g,15hとの間には、所定の微小なクリアランスが形成されるようになっている。一方、第1、第2シール部材20a,20bについては、いずれも例えば低摩擦特性を有するフッ素系樹脂材によってカムリング15の軸方向に沿って直線状に細長く形成され、各シール保持溝15iの底部にそれぞれ配設されたゴム製の弾性部材の弾性力をもって前記各シール摺接面11d,11eに押し付けられることで、当該各シール摺接面11d,11eと前記各シール面15g,15hとの間が液密に隔成されることとなる。
【0028】
さらに、前記カムリング15の外周域には、ピボットピン19と第1、第2シール部材20a,20bとによって一対の第1、第2制御油室31,32が隔成されている。当該各制御油室31,32には、前記メインオイルギャラリから分岐形成された制御圧導入通路70を介してポンプ吐出圧に相当する機関内油圧が導かれる構成となっている。具体的には、第1制御油室31には、前記制御圧導入通路70からさらに二股に分岐された一方の分岐通路である第1導入通路71を通じポンプ吐出圧が供給される一方、第2制御油室32には、他方の分岐通路である第2導入通路72を通じてパイロット弁40を経て減圧されたポンプ吐出圧(以下、「第2吐出圧」という。)が供給される。そして、これらの各油圧がそれぞれ第1、第2制御油室31,32に面するカムリング15の外周面により構成される受圧面15j,15kに作用することで、カムリング15に対し移動力(揺動力)が付与されることとなる。ここで、前記両受圧面15j,15kについては、第2受圧面15kと比べて第1受圧面15jの方が大きくなるように設定されていて、双方に同じ油圧が作用した場合には、全体としてその偏心量を減少させる方向(図4中の反時計方向)へとカムリング15を付勢する構成となっている。
【0029】
このような構成から、前記オイルポンプ10では、コイルスプリング33のセット荷重W1に対して両制御油室31,32の内圧に基づく付勢力が小さいときは、カムリング15は図4に示すような最大偏心状態となる一方、吐出圧の上昇に伴い両制御油室31,32の内圧に基づく付勢力がコイルスプリング33のセット荷重W1を上回ったときは、その吐出圧に応じてカムリング15が同心方向へ移動することとなる。
【0030】
前記パイロット弁40は、特に図7に示すように、カバー部材12と重合して設けられる軸方向一端側に対して当該カバー部材12の外側まで延設される他端側が拡径状に開口形成されたほぼ筒状のバルブボディ41(本発明に係る制御バルブボディに相当)と、該バルブボディ41の他端側開口部を閉塞するプラグ42と、前記バルブボディ41の内周側において軸方向へと摺動自在に収容され、当該バルブボディ41の内周面と摺接する1対の大径部である第1、第2ランド部43a,43bをもって第2制御油室32に対しての油圧の給排制御に供するスプール弁体43(本発明に係るスプールに相当)と、前記バルブボディ41の他端側内周においてプラグ42とスプール弁体43の間に所定のセット荷重W2をもって弾装され、スプール弁体43をバルブボディ41の一端側へ常時付勢するバルブスプリング44と、から主として構成されている。
【0031】
前記バルブボディ41には、軸方向両端部を除く範囲に、スプール弁体43の外径(前記各ランド部43a,43bの外径)とほぼ同じ内径によって構成される寸胴のバルブ収容部41aが穿設されていて、当該バルブ収容部41a内にスプール弁体43が収容配置される。そして、前記小径状の一端部には、第2導入通路72の下流側の通路(以下、単に「下流側通路」という。)72bを介してソレノイドバルブ60と接続される導入通路開口部である導入ポート51が開口形成される一方、前記大径状の他端部には、その内周部に有する雌ねじ部を介してプラグ42が螺着されている。
【0032】
さらに、前記バルブ収容部41aの周壁には、その軸方向中間位置に、一端側が第2制御油室32に接続されると共に他端側が後述する中継室57と常時接続されることで第2制御油室32に対する油圧の給排に供する制御油室開口部である給排ポート52が開口形成されると共に、その軸方向他端側の位置に、一端側が外部へ直接開口又は吸入側に接続され、後述する中継室57との接続を切り替えることによって当該中継室57を介して第2制御油室32内の油圧の排出に供する制御ドレン開口部である第1ドレンポート53が開口形成されている。なお、前記バルブボディ41の一端側周壁であって径方向に後述する背圧室58と重合する軸方向位置にも、前記第1ドレンポート53と同様に、外部へ直接開口又は吸入側に接続される第2ドレンポート54が開口形成されている。
【0033】
また、前記バルブボディ41の他端側周壁部には、ポンプボディ11と協働で、スプール弁体43が図7中の上端側の位置(図4参照)にある状態で導入ポート51と後述する中継室57を連通する連通油路55が構成されるようになっている。すなわち、前記バルブボディ41には、スプール弁体43が前記所定領域にあるときにそれぞれ導入ポート51ないし後述する中継室57に開口するように所定の軸方向位置において径方向に沿って設けられた径方向油路55a,55bと、カバー部材12の内側面に溝状に設けられ、該カバー部材12をポンプボディ11に接合させることでこれら両者11,12間に前記両径方向油路55a,55bを接続する油路として構成される接続油路55cと、が設けられている。
【0034】
前記スプール弁体43は、その軸方向の両端部に、前記第1、第2ランド部43a,43bが設けられると共に、当該両ランド部43a,43b間に、小径部である軸部43cが設けられている。そして、かかるスプール弁体43がバルブ収容部41a内に収容されることによって、バルブボディ41内には、第1ランド部43aの軸方向外側においてバルブボディ41の一端部との間に設けられ、導入ポート51から吐出圧が導かれる圧力室56と、前記両ランド部43a,43b間に設けられ、当該スプール弁体43の軸方向位置によって給排ポート52と導入ポート51(連通油路55)又は第1ドレンポート53とを中継する中継室57と、第2ランド部43bの軸方向外側においてプラグ42との間に設けられ、第2ランド部43bの外周側(微小隙間)を通じて中継室57より漏出したオイルの排出に供する背圧室58と、がそれぞれ隔成されることとなる。
【0035】
このような構成から、前記パイロット弁40は、導入ポート51より圧力室56に導かれる吐出圧が所定圧(後述するスプール作動油圧Ps)以下の状態では、前記セット荷重W2に基づくバルブスプリング44の付勢力をもって、スプール弁体43がバルブ収容部41aの一端側の所定領域である第1領域に位置することとなる(図4参照)。すなわち、スプール弁体43が前記第1領域に位置することにより、連通油路55を介して導入ポート51と中継室57が接続される一方、第2ランド部43bによって第1ドレンポート53と中継室57の接続が遮断されて、給排ポート52を介して第2制御油室32と中継室57が接続される結果、導入ポート51から連通油路55を通じて導かれる油圧が中継室57を介して第2制御油室32へと供給されることとなる。
【0036】
そして、前記圧力室56へと導かれる吐出圧が前記所定圧を超えると、前記バルブスプリング44の付勢力に抗してスプール弁体43が前記第1領域からバルブ収容部41aの他端側へと移動し、当該バルブ収容部41aの他端側の所定領域である第2領域に位置することとなる(図10(b)参照)。すなわち、スプール弁体43が前記第2領域に位置することによって、給排ポート52を介して第2制御油室32は中継室57との接続が維持される一方、第1ランド部43aによって連通油路55と中継室57の接続が遮断されて、第1ドレンポート53を介して中継室57とオイルパンT等が接続される結果、第2制御油室32内のオイルが中継室57を通じ第1ドレンポート53を介してオイルパンT等へと排出されることとなる。
【0037】
前記ソレノイドバルブ60は、図4に示すように、前記第2導入通路72の途中に介在する図示外のバルブ収容孔内に収容配置され、内部軸方向に沿って油通路65が貫通形成されてなるほぼ円筒状のバルブボディ61(本発明に係る切替バルブボディに相当)と、該バルブボディ61の一端部(同図中の左側端部)において油通路65を拡径形成してなる弁体収容部66の外端部に圧入固定され、その中央部に第2導入通路72の上流側の通路(以下、単に「上流側通路」という。)72aと接続される上流側開口部である導入ポート67を有するシート部材62と、該シート部材62の内端部開口縁に形成されるバルブシート62aに対して離着座自在に設けられ、前記導入ポート67の開閉に供するボール弁体63と、前記バルブボディ61の他端部(同図中の右側端部)に設けられたソレノイド64と、から主として構成されている。
【0038】
前記バルブボディ61は、その一端側内周部に、ボール弁体63を収容する前記弁体収容部66が油通路65に対し段差拡径状に設けられている。そして、この弁体収容部66の内端部開口縁にも、前記シート部材62に有するバルブシート62aと同様のバルブシート66aが形成されている。さらに、バルブボディ61の周壁のうち、その一端側となる前記弁体収容部66の外周部に、下流側通路72bと接続されてパイロット弁40に対する油圧の給排に供する下流側開口部である給排ポート68が径方向に沿って貫通形成されると共に、その他端側となる油通路65の外周部に、オイルパンTなどドレン側へと接続される切替ドレン開口部であるドレンポート69が径方向に沿って貫通形成されている。
【0039】
前記ソレノイド64は、ケーシング64a内部に収容されるコイル(図示外)に通電されることにより発生する電磁力をもって、当該コイルの内周側に配置されるアーマチュア(図示外)及びこれに固定されるロッド64bが図4中の左方向へと進出移動する構成となっている。なお、このソレノイド64には、内燃機関の油温や水温、機関回転数など所定のパラメータによって検出ないし算出された機関運転状態に基づいて車載のECU(図示外)から励磁電流が通電されることとなる。
【0040】
このような構成から、前記ソレノイド64への通電時には、ロッド64bが進出移動することによって当該ロッド64bの先端部に配置されるボール弁体63がシート部材62側のバルブシート62aへと押し付けられ、導入ポート67と給排ポート68の連通が遮断され、油通路65を通じ給排ポート68とドレンポート69が連通することとなる。一方、当該ソレノイド64の非通電時には、導入ポート67より導かれる吐出圧に基づいてボール弁体63が後退移動することにより当該ボール弁体63がバルブボディ61側のバルブシート66aへと押し付けられ、導入ポート67と給排ポート68が連通状態となると共に、給排ポート68とドレンポート69の連通が遮断されることとなる。
【0041】
以下に、本実施形態に係るオイルポンプ10の特徴的な作用について、図8図10に基づいて説明する。
【0042】
まず、前記オイルポンプ10の作用説明に入る前に、当該オイルポンプ10の吐出圧制御の基準となる内燃機関の必要油圧について、図8に基づいて説明すれば、図中のP1は、例えば燃費向上等に供するバルブタイミング制御装置を採用した場合の当該装置の要求油圧に相当する第1機関要求油圧を、図中のP2は、ピストンの冷却に供するオイルジェットを採用する場合の当該装置の要求油圧に相当する第2機関要求油圧を、図中のP3は、機関高回転時の前記クランクシャフトの軸受部潤滑に要する第3機関要求油圧を、それぞれ示し、これら点P1〜P3を一点鎖線により繋いだものが、内燃機関の機関回転数Rに応じた理想的な必要油圧(吐出圧)Pを表している。なお、同図中における実線は本願発明に係る前記オイルポンプ10の油圧特性を、破線は前記従来のポンプの油圧特性を、それぞれ表したものである。
【0043】
また、同図中におけるPcは前記セット荷重W1に基づくコイルスプリング33の付勢力に抗してカムリング15が同心方向へ移動を開始するカムリング作動油圧を、Psは前記セット荷重W2に基づくバルブスプリング44の付勢力に抗してスプール弁体43が第1位置から第2位置へと移動を開始するスプール作動油圧を、それぞれ示している。
【0044】
このような設定から、前記オイルポンプ10の場合、機関始動から低回転域までの回転域に相当する図8中の区間aでは、ソレノイド64に励磁電流が通電され、図9(a)に示すように、導入ポート67と給排ポート68の連通が遮断される一方、給排ポート68とドレンポート69が連通する。これにより、第2制御油室32(パイロット弁40)側には吐出圧Pが導入されず、パイロット弁40のスプール弁体43は第1領域に位置することとなる結果、第2制御油室32内のオイルは下流側通路72b及び油通路65を介してソレノイドバルブ60のドレンポート69より排出され、第1制御油室31のみに吐出圧Pが供給される。ここで、当該機関回転域では吐出圧(機関内油圧)Pがカムリング作動油圧Pcよりも低い状態となっているため、カムリング15が最大偏心状態で保持されて、吐出圧Pは機関回転数Rにほぼ比例するかたちで増大する特性となる。
【0045】
その後、機関回転数Rが上昇して吐出圧Pがカムリング作動油圧Pcに到達すると(図8参照)、図9(b)に示すように、ソレノイド64に対しては前記通電状態が維持され、引き続き第1制御油室31のみに吐出圧Pが供給される。これにより、第1制御油室31の内圧に基づく付勢力がコイルスプリング33の付勢力W1に打ち勝ち、カムリング15が同心方向へと移動を始める。その結果、吐出圧Pが減少することとなり、前述のカムリング15が最大偏心状態にあるときと比べて、当該吐出圧Pの増加量が小さくなる(図8中の区間b)。
【0046】
続いて、機関回転数Rがさらに上昇し、機関運転状態において第2機関要求油圧P2が必要になると(図8参照)、ソレノイド64に対する通電が遮断され、図10(a)に示すように、導入ポート67と給排ポート68が連通する一方、給排ポート68とドレンポート69の連通が遮断される結果、上流側通路72aから導入される吐出圧Pが下流側通路72bを介してパイロット弁40側へと導かれる。このとき、吐出圧Pは未だスプール作動油圧Psに達していないため、パイロット弁40のスプール弁体43は第1領域に位置することとなり、連通油路55を通じ導入ポート51と給排ポート52が連通すると共に、第2ランド部43bによって第1ドレンポート53が遮断されて、連通油路55のバルブ収容部41a側開口と第1ランド部43aとがオーバーラップすることによって形成される絞りを経て若干減圧された前記第2吐出圧が第2制御油室32へと供給される。これにより、コイルスプリング33の付勢力W1と第2制御油室32の内圧に基づく付勢力との合力からなる偏心方向の付勢力が第1制御油室31の内圧に基づく同心方向の付勢力を上回って、カムリング15が偏心方向へと押し戻され、吐出圧Pの増加量が再び大きくなる(図8中の時点c)。
【0047】
その後、かかる増大特性に基づき吐出圧Pが上昇してスプール作動油圧Psに到達すると(図8参照)、図10(b)に示すように、パイロット弁40にて、導入ポート51より圧力室56に導入される吐出圧Pに基づいてスプール弁体43がバルブスプリング44の付勢力W2に抗してプラグ42側へと移動し、その位置が第1領域から第2領域へと切り替わる。これにより、連通油路55のバルブ収容部41a側開口が第1ランド部43aによって遮断されると共に、中継室57を介して給排ポート52と第1ドレンポート53が連通することで、第2制御油室32内のオイルは排出されて、第1制御油室31のみに吐出圧Pが供給される。その結果、第1制御油室32の内圧に基づく同心方向の付勢力がコイルスプリング33の付勢力W1と第2制御油室32の内圧に基づく付勢力との合力からなる偏心方向の付勢力を上回って、カムリング15が同心方向へ移動することにより、吐出圧Pが減少する。
【0048】
すると、この吐出圧Pの減少によりスプール弁体43の一端に作用する油圧(吐出圧P)がスプール作動油圧Psを下回ると、図10(a)に示すように、当該吐出圧Pによる付勢力にバルブスプリング44の付勢力W2が打ち勝ち、スプール弁体43が導入ポート51側へと移動する。これにより、パイロット弁40の導入ポート51と給排ポート52が連通し、第2制御油室32に再び第2吐出圧が供給される結果、カムリング15は偏心方向へと押し戻されて、吐出圧Pが再び増大する。その後、この吐出圧Pの増大によって、スプール弁体43の一端に作用する油圧がスプール作動油圧Psを上回ると、図10(b)に示すように、当該スプール弁体43がバルブスプリング44の付勢力W2に抗して再び第2領域へと移動する。これにより、前述のごとく、第2制御油室32内のオイルは排出されて、第1制御油室31のみに吐出圧Pが供給される結果、第1制御油室32の内圧に基づく同心方向の付勢力がコイルスプリング33の付勢力W1と第2制御油室32の内圧に基づく付勢力との合力からなる前記偏心方向の付勢力を上回って、カムリング15が同心方向へ移動することにより、吐出圧Pが再び減少する。
【0049】
このように、前記オイルポンプ10では、パイロット弁40のスプール弁体43をもって、第2制御油室32に連通する給排ポート52と導入ポート51又は第1ドレンポート53との接続が連続的に交互に切り替わることにより、吐出圧Pがスプール作動油圧Psに維持されるように調整されることとなる。このとき、かかる調圧は、パイロット弁40における給排ポート52の切替によって行われるため、コイルスプリング33のばね定数による影響を受けることがない。また、前記調圧は、前記給排ポート52の切替に係るスプール弁体43の極狭いストロークの範囲で行われるため、バルブスプリング44のばね定数による影響を受けるおそれもない。その結果、本区間では、オイルポンプ10の吐出圧Pが図8中に破線で示した従来のポンプのように機関回転数Rの上昇に伴い比例的に増大するのではなくほぼフラットな特性となり、前記理想的な必要油圧(図8中の一点鎖線)に極力近づけることが可能となる。これにより、本実施形態に係るオイルポンプ10では、機関回転数Rの上昇に伴ってコイルスプリング33のばね定数分だけ吐出圧Pの増大を余儀なくされていた前記従来のオイルポンプに対し、当該吐出圧Pを無駄に増加させてしまうことにより生ずる動力損失(図8中にハッチングで示した範囲S)を削減することが可能となる(図8中の区間d)。
【0050】
以上のことから、本実施形態に係るオイルポンプ10では、前記パイロット弁40による調圧制御に基づき、少なくとも第2機関要求油圧P2よりも高い所定圧(スプール作動油圧Ps)に維持することが要請される機関回転域(図8中の区間d)において、吐出圧Pを当該所定圧に維持することができる。
【0051】
すなわち、本実施形態に係るオイルポンプ10の場合には、吐出圧Pがカムリング作動油圧Pcより大きく前記所定圧であるスプール作動油圧Ps以下となっている状態から、吐出圧Pがスプール作動油圧Psを超えたところでスプール弁体43が第1領域から第2領域へと移動し、当該移動に伴いカムリング15の偏心量が減少することで吐出圧Pが再びスプール作動油圧Psを下回りスプール弁体43が第1領域へと戻る、といったスプール弁体43による給排ポート52の接続切替が連続的に繰り返し行われる結果、吐出圧Pをスプール作動油圧Psに維持することが可能となる。
【0052】
そして、かかる調圧にあたり、当該調圧はパイロット弁40により行われることから、従来のようにコイルスプリング33のばね定数の影響を受けることがない。さらに、当該パイロット弁40においても、上記調圧はスプール弁体43の極狭いストロークの範囲でもって行われるため、バルブスプリング44のばね定数の影響を受けることもない。換言すれば、バルブスプリング44を含め、コイルスプリング33のばね定数の影響によって吐出圧Pを無駄に増加させてしまう不都合を招来することもなく、前記所望の吐出圧に維持することができる。
【0053】
また、本実施形態では、第2導入通路72の途中にソレノイドバルブ60を配置し、該ソレノイドバルブ60による開閉切替制御でもって吐出圧Pのパイロット弁40側への導入タイミングを制御する構成としているため、前記所定圧(スプール作動油圧Ps)が必要となる所望のタイミングで前記パイロット弁40の給排ポート52の接続切替による前記所望の吐出圧維持を図ることができる。
【0054】
すなわち、前記ソレノイドバルブ60を用いることなく、第1制御油室31と第2制御油室32(パイロット弁40)に等しく吐出圧Pを導入する構成とした場合には、特に高回転域(比較的高い回転数域)において、当該高回転に基づき、前記所定圧が必要になるよりも前にスプール弁体43が第1領域から第2領域へと移動を始めてしまう結果、前記所定圧が必要なタイミングで吐出圧Pが減少し当該所定圧を確保できないといった不都合を生じてしまうところ、本実施形態では、かかる不都合の招来を回避することができる。
【0055】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば前記機関要求油圧P1〜P3や前記カムリング作動油圧Pc及びスプール作動油圧Psについては、前記オイルポンプ10が搭載される車両の内燃機関やバルブタイミング制御装置等の仕様に応じて自由に変更することができる。
【0056】
また、前記実施形態では、前記カムリング15を揺動させることで吐出量を可変にする形態を例に説明しているが、当該吐出量を可変にする手段としては、上記揺動に係る手段のみならず、例えばカムリング15を径方向へと直線的に移動させることによって行うこととしてもよい。換言すれば、吐出量を変更し得る構成(前記ポンプ室PRの容積変化量を変更し得る構成)であれば、カムリング15の移動の態様は問わない。
【0057】
さらに、前記実施形態では、本発明に係る切替機構の弁体としてボール弁体63を採用した形態を例に説明しているが、当該切替機構の弁体としては上記ボール弁体63のほか、例えばスプールを用いることとしてもよい。換言すれば、前記各ポート67,68,69の相互の連通の切替を行い得る構成であれば、いかなる弁体も使用可能である。
【0058】
また、前記実施形態では、可変容量形ベーンポンプを例に説明したため、本発明に係る可変部材としてカムリング15を挙げ、この揺動自在に設けたカムリング15並びにその外周側に配置した両制御油室31,32及びコイルスプリング33によって可変機構を構成しているが、他の形式の可変容量形ポンプ、例えばトロコイド型ポンプに本発明を適用する場合には、外接歯車を構成するアウターロータが前記可動部材に該当する。そして、かかるアウターロータを前記カムリング15と同様に偏心移動自在に配置すると共にその外周側に前記制御油室やスプリングを配置することにより、前記可変機構が構成されることとなる。
【0059】
以下に、前記実施形態から把握される特許請求の範囲に記載した発明以外の技術的思想について説明する。
【0060】
(a)請求項1に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記切替機構は、電気的に切替制御される電磁制御弁により構成されていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0061】
(b)請求項1に記載の可変容量形ポンプにおいて、
吐出される作動油は、内燃機関の潤滑に用いられることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0062】
(c)前記(b)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記吐出される作動油は、可変動弁装置の駆動源及び内燃機関のピストンに作動油を供給するオイルジェットにも用いられることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0063】
(d)請求項2に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記制御機構には、前記スプール弁体と前記制御バルブボディとによって絞りが設けられていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0064】
(e)請求項2に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記下流側開口部及び制御ドレン開口部は、ともに前記切替バルブボディの周壁に設けられていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0065】
(f)請求項2に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記制御ドレン開口部及び制御油室開口部は、ともに前記制御バルブボディの周壁に設けられていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【符号の説明】
【0066】
10…オイルポンプ
11…ポンプボディ(側壁)
12…カバー部材(側壁)
15…カムリング
16…ロータ
17…ベーン
21a,21c…吸入ポート(吸入部)
22a,22c…吐出ポート(吐出部)
31…第1制御油室
32…第2制御油室
33…コイルスプリング(付勢部材)
40…パイロット弁(制御機構)
60…ソレノイドバルブ(切替機構)
PR…ポンプ室(作動油室)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10