特許第6006179号(P6006179)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社パスコの特許一覧

特許6006179データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム
<>
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000003
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000004
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000005
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000006
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000007
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000008
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000009
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000010
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000011
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000012
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000013
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000014
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000015
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000016
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000017
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000018
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000019
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000020
  • 特許6006179-データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム 図000021
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6006179
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】データ解析装置、データ解析方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 17/05 20110101AFI20160929BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20160929BHJP
   G01B 11/24 20060101ALI20160929BHJP
【FI】
   G06T17/05
   G01B11/00 A
   G01B11/24 A
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-130059(P2013-130059)
(22)【出願日】2013年6月20日
(65)【公開番号】特開2015-5143(P2015-5143A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2015年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャタクリ スバス
(72)【発明者】
【氏名】島村 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】朱 林
【審査官】 千葉 久博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−92403(JP,A)
【文献】 特開2011−233165(JP,A)
【文献】 特開2008−82707(JP,A)
【文献】 特開2007−268164(JP,A)
【文献】 特開2004−294152(JP,A)
【文献】 特開2002−54912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 17/05
G01B 11/00−11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間における地物表面から計測された複数の計測点を要素点とする点群の3次元座標データに基づいて、前記地物表面に形成された穴を検出するデータ解析装置であって、
前記点群における前記要素点間のうち予め定めた相互距離以下の箇所を選択的に補間し、補間点を新たな要素点として前記点群に追加して疎密差が強調された増強点群を生成する増強点群生成手段と、
前記増強点群を前記地物表面に沿った面に投影して2値画像を生成する2値画像生成手段と、
前記2値画像に対しモルフォロジー演算を行い、前記増強点群の投影像の密領域に対応した領域と前記投影像の疎領域に対応した穴候補領域とに前記2値画像を領域分割する画像処理手段と、
検出対象とする穴の前記穴候補領域における幾何条件を予め記憶する記憶手段と、
前記検出対象の穴として前記穴候補領域のうち前記幾何条件に該当する部分を抽出する穴抽出手段と、
を有することを特徴とするデータ解析装置。
【請求項2】
対象空間における地物表面から計測された複数の計測点を要素点とする点群の3次元座標データに基づいて、前記地物表面に形成された穴を検出するデータ解析方法であって、
前記点群における前記要素点間のうち予め定めた相互距離以下の箇所を選択的に補間し、補間点を新たな要素点として前記点群に追加して疎密差が強調された増強点群を生成する増強点群生成ステップと、
前記増強点群を前記地物表面に沿った面に投影して2値画像を生成する2値画像生成ステップと、
前記2値画像に対しモルフォロジー演算を行い、前記増強点群の投影像の密領域に対応した領域と前記投影像の疎領域に対応した穴候補領域とに前記2値画像を領域分割する画像処理ステップと、
検出対象とする穴の前記穴候補領域における予め定められた幾何条件に基づいて、前記穴候補領域のうち前記検出対象の穴に当たる部分を抽出する穴抽出ステップと、
を有することを特徴とするデータ解析方法。
【請求項3】
コンピュータに、対象空間における地物表面から計測された複数の計測点を要素点とする点群の3次元座標データに基づいて、前記地物表面に形成された穴を検出する処理を行わせるためのプログラムであって、当該コンピュータを、
前記点群における前記要素点間のうち予め定めた相互距離以下の箇所を選択的に補間し、補間点を新たな要素点として前記点群に追加して疎密差が強調された増強点群を生成する増強点群生成手段、
前記増強点群を前記地物表面に沿った面に投影して2値画像を生成する2値画像生成手段、
前記2値画像に対しモルフォロジー演算を行い、前記増強点群の投影像の密領域に対応した領域と前記投影像の疎領域に対応した穴候補領域とに前記2値画像を領域分割する画像処理手段、及び、
検出対象とする穴の前記穴候補領域における予め定められた幾何条件に基づいて、前記穴候補領域のうち前記検出対象の穴に当たる部分を抽出する穴抽出手段、として機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地物表面から計測された点群の3次元座標データに基づいて、地物表面の穴を検出するデータ解析装置、データ解析方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
地物のうち河川や道路などのように公共に利用されるものについては安全確保のために行政により維持管理が行われている。維持管理のためには、まず対象地物の変状を検出することが必要であり、検出された変状に対して補強や補修等の対策が講じられる。
【0003】
例えば、河川には地域住民の生命と資産を洪水から防御する極めて重要な防災構造物として河川堤防が設けられる。河川堤防の安全性の確保においてもまず上述した変状検出が重要であり、そのため点検等を行い、安全性に影響を与える箇所を確実に検出する。例えば、河川堤防の点検にて検出すべき変状には、モグラ等の小動物が掘った穴や、土砂が崩れて形成された亀裂、段差などがある。
【0004】
これまで、河川堤防の点検は、目視観察を基本とし、草刈り後の堤防に点検者を複数配置し徒歩により点検を行う。国管理の堤防では点検はその全延長にわたり例えば数年ごとに行われている。ここで、点検対象は広大な河川と多数の施設に及ぶため、限られた人員、予算の中で河川堤防の点検を確実に行うには効率化が望まれる。例えば、徒歩点検に代えて堤防の天端の河川管理用道路から車上にて行う一般巡視という点検方法とすれば広範囲を移動することが容易となる。また、航空機や車両などを利用して堤防の写真を広範囲で取得し当該写真上にて目視判読や自動解析で変状の検出を行うことで作業効率の向上を図ることが考えられる。
【0005】
一方、車両を用いる技術として、車両に搭載したレーザスキャナを用い道路に沿って地物の形状を表す3次元点群データを取得するモービルマッピングシステムが近年開発された。当該システムでは、自動車に搭載されたレーザスキャナは車体の上部から斜め下方向や斜め上方向にレーザを照射する。レーザの光軸は横方向に走査され、走査角度範囲内にて微小角度ごとにレーザパルスが発射され、レーザパルスを反射した点までの距離が計測される。またその際、レーザの発射方向、時刻、及び車体の位置・姿勢などが計測される。それら計測データから、レーザパルスの反射点の3次元座標を表す点群データが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−294152号公報
【特許文献2】特開2013−92403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
目視や写真撮影は必ずしも地物表面の変状の検出が容易である角度から地物表面を捉えることができないという問題があった。例えば、堤防の天端からの一般巡視や写真撮影は、変状の点検対象となる法面が天端からは下り斜面となることから、法面の表面における上述の変状を発見、判読することが難しい。また、航空写真は上述の変状を検出するために十分な解像度を得ることが容易ではない。
【0008】
一方、点群データをもとに地物を判読するには従来、人手を要しており、3次元CADで編集ツール等を利用して手作業で地物の抽出作業が行われていた。そのため、堤防等の地物から点群データを取得し、それに基づいて変状を検出しようとすると手間がかかるという問題があった。
【0009】
本発明は、地物表面から計測された点群の3次元座標データに基づいて地物表面に生じた変状である穴を検出する作業の自動化を可能とするデータ解析装置、データ解析方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るデータ解析装置は、対象空間における地物表面から計測された複数の計測点を要素点とする点群の3次元座標データに基づいて、前記地物表面に形成された穴を検出するものであって、前記点群における前記要素点間のうち予め定めた相互距離以下の箇所を選択的に補間し、補間点を新たな要素点として前記点群に追加して疎密差が強調された増強点群を生成する増強点群生成手段と、前記増強点群を前記地物表面に沿った面に投影して2値画像を生成する2値画像生成手段と、前記2値画像に対しモルフォロジー演算を行い、前記増強点群の投影像の密領域に対応した領域と前記投影像の疎領域に対応した穴候補領域とに前記2値画像を領域分割する画像処理手段と、検出対象とする穴の前記穴候補領域における幾何条件を予め記憶する記憶手段と、前記検出対象の穴として前記穴候補領域のうち前記幾何条件に該当する部分を抽出する穴抽出手段と、を有する。
【0011】
本発明に係るデータ解析方法は、対象空間における地物表面から計測された複数の計測点を要素点とする点群の3次元座標データに基づいて、前記地物表面に形成された穴を検出する方法であって、前記点群における前記要素点間のうち予め定めた相互距離以下の箇所を選択的に補間し、補間点を新たな要素点として前記点群に追加して疎密差が強調された増強点群を生成する増強点群生成ステップと、前記増強点群を前記地物表面に沿った面に投影して2値画像を生成する2値画像生成ステップと、前記2値画像に対しモルフォロジー演算を行い、前記増強点群の投影像の密領域に対応した領域と前記投影像の疎領域に対応した穴候補領域とに前記2値画像を領域分割する画像処理ステップと、検出対象とする穴の前記穴候補領域における予め定められた幾何条件に基づいて、前記穴候補領域のうち前記検出対象の穴に当たる部分を抽出する穴抽出ステップと、を有する。
【0012】
本発明に係るプログラムは、コンピュータに、対象空間における地物表面から計測された複数の計測点を要素点とする点群の3次元座標データに基づいて、前記地物表面に形成された穴を検出する処理を行わせるためのプログラムであって、当該コンピュータを、前記点群における前記要素点間のうち予め定めた相互距離以下の箇所を選択的に補間し、補間点を新たな要素点として前記点群に追加して疎密差が強調された増強点群を生成する増強点群生成手段、前記増強点群を前記地物表面に沿った面に投影して2値画像を生成する2値画像生成手段、前記2値画像に対しモルフォロジー演算を行い、前記増強点群の投影像の密領域に対応した領域と前記投影像の疎領域に対応した穴候補領域とに前記2値画像を領域分割する画像処理手段、及び、検出対象とする穴の前記穴候補領域における予め定められた幾何条件に基づいて、前記穴候補領域のうち前記検出対象の穴に当たる部分を抽出する穴抽出手段、として機能させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、地物表面から計測された点群の3次元座標データに基づいて地物表面に生じた変状である穴を精度良く自動的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る地物表面変状検出システムの概略の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る地物表面変状検出システムによる変状抽出処理の概略のフロー図である。
図3】模擬物体の平面図である。
図4】堤防から得たレーザ点群の3次元空間における位置を示す図である。
図5】穴の自動検出処理の概略のフロー図である。
図6】模擬物体及びその近傍にて得られたレーザ点群を堤防法面に沿った面に投影した様子を示す図である。
図7図6に対応する領域の増強点群を堤防法面に沿った面に投影した様子を示す図である。
図8図7に対応する領域について2値画像生成手段により生成された2値画像である。
図9図8に対応する領域について画像処理手段により生成された2値画像である。
図10図9に示す2値画像から穴抽出手段により抽出された輪郭線の画像である。
図11図9に示す2値画像に対して幾何条件を適用して抽出された穴領域を示す画像である。
図12図11に示す穴領域を図6に重ねて表示した画像である。
図13】亀裂の自動検出処理の概略のフロー図である。
図14】模擬物体及びその近傍にて得られたレーザ点群の分布を示す斜視図である。
図15図14に示すレーザ点群から3次元空間フィルタリング手段により抽出された特徴点群の分布を示す斜視図である。
図16】円形の平面フィルタ内に存在する複数の投影特徴点の例を示す模式図であり、投影特徴点が近似的に直線に沿って並ぶ場合の図である。
図17】円形の平面フィルタ内に存在する複数の投影特徴点の他の例を示す模式図であり、当該投影特徴点の間に直線的な位置関係が認められない場合の図である。
図18図15に示す特徴点群から2次元空間フィルタリング手段により抽出された特徴点群の分布を示す斜視図である。
図19】表示画像生成手段により生成される画像例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)である地物表面変状検出システム2について、図面に基づいて説明する。本システムは、地物表面の3次元形状を表す点群データに基づいて、例えば河川堤防の法面等の地物表面にて、モグラ等の小動物が掘った穴や、土砂が崩れて形成された亀裂などの段差を変状として検出するデータ解析装置である。点群データは例えば、上述のモービルマッピングシステムのように地上を走行する車両に搭載されたレーザスキャナにより取得される。また、レーザスキャナを地上に設置して計測を行っても良い。なお、点群データは検出対象とする地物表面の穴や段差の形状を捉えることができる密度である必要がある。この点、地上の車両等からのレーザスキャンは、航空機や衛星等からのレーザスキャンと比較してレーザスキャナと走査対象物との距離を近距離とすることができるので、堤防の点検に必要な走査密度を実現することが容易である。
【0016】
図1は、地物表面変状検出システム2の概略の構成を示すブロック図である。本システムは、演算処理装置4、記憶装置6、入力装置8及び出力装置10を含んで構成される。演算処理装置4として、本システムの各種演算処理を行う専用のハードウェアを作ることも可能であるが、本実施形態では演算処理装置4は、コンピュータ及び、当該コンピュータ上で実行されるプログラムを用いて構築される。
【0017】
当該コンピュータのCPU(Central Processing Unit)が演算処理装置4を構成し、後述する増強点群生成手段20、2値画像生成手段22、画像処理手段24、穴抽出手段26、近傍空間設定手段30、3次元空間フィルタリング手段32、周辺領域設定手段34、2次元空間フィルタリング手段36、亀裂検出手段38、及び表示画像生成手段40として機能する。これら演算処理装置4の各手段については演算処理装置4の処理に沿って後述する。
【0018】
記憶装置6はコンピュータに内蔵されるハードディスクなどで構成される。記憶装置6は演算処理装置4を増強点群生成手段20、2値画像生成手段22、画像処理手段24、穴抽出手段26、近傍空間設定手段30、3次元空間フィルタリング手段32、周辺領域設定手段34、2次元空間フィルタリング手段36、亀裂検出手段38、及び表示画像生成手段40として機能させるためのプログラム及びその他のプログラムや、本システムの処理に必要な各種データを記憶する。例えば、記憶装置6は、処理対象データとして解析の対象空間にて取得されたレーザ点群データ50を格納される。本実施形態では堤防における変状を抽出する例を説明する。これに対応して、堤防が存在する空間が解析対象空間とされ、レーザ点群データ50はレーザスキャナにより堤防の表面から取得される。また、記憶装置6は抽出対象とする穴に関する幾何条件52を予め格納される。
【0019】
入力装置8は、キーボード、マウスなどであり、ユーザが本システムへの操作を行うために用いる。
【0020】
出力装置10は、ディスプレイ、プリンタなどであり、本システムにより求められた穴や亀裂の位置・形状を画面表示、印刷等によりユーザに示す等のために用いられる。
【0021】
図2は、地物表面変状検出システム2による変状抽出処理の概略のフロー図である。演算処理装置4は記憶装置6からレーザ点群データ50を読み込み、レーザ点群データ50に対して穴の自動検出処理S2及び亀裂の自動検出処理S4をそれぞれ行い、検出した穴及び亀裂箇所に関する情報をそれぞれファイルに出力する(S6)。穴及び亀裂箇所が得られると、演算処理装置4は、それらを地図上に重ね合わせた表示画像を生成し、出力装置10へ出力する(S8)。
【0022】
以下、具体例を用いて処理S2〜S8をさらに詳細に説明する。具体例で用いるレーザ点群データ50は、河川堤防の法面に穴や亀裂を模擬した物体を置いてモービルマッピングシステムで取得した。穴や亀裂の模擬物体は5cm程度の厚みを有する板からなり、図3は当該模擬物体の平面図である。図3(a)に示す模擬物体60には、矩形の板に直径が異なる複数種類の穴62が形成されている。また図3(b)に示す模擬物体64には5cm程度の厚みを有する板の表面に複数の溝66が形成されている。
【0023】
図4は模擬物体60,64を置いて取得した堤防のレーザ点群データ50であり、3次元空間での点群の位置を表している。ちなみに図4の点群における部分70が堤防の天端に対応し、部分72が法面に対応する。
【0024】
図5は穴の自動検出処理S2の概略のフロー図である。演算処理装置4はレーザ点群データ50に対して局所内挿処理を行い、疎密差が強調された点群(増強点群)を生成する(S10)。この処理は増強点群生成手段20により行われる。
【0025】
増強点群生成手段20はレーザ点群データ50により与えられる点群の構成要素である点(要素点)同士の間隔のうち、当該間隔の距離λが予め定めた相互距離λth以下である箇所を選択的に補間し、補間点を新たな要素点として点群に追加して増強点群を生成する。すなわち、増強点群生成手段20は、点群の要素点の対ごとにλがしきい値λth以下であるか否かを判定し、λ≦λthであればその要素点対を構成する2つの要素点P,Pの間を例えば等分するような1個又は複数個の補間点を算出し、点群に追加する。一方、λ>λthである要素点同士の間には補間による要素点の追加は行わない。
【0026】
増強点群生成手段20は補間点を点群に追加する処理を1回だけ行ってもよいし、複数回反復して行ってもよい。当該処理を反復して行う場合は、2回目以降の処理は前回の処理で生成された増強点群の要素点対に対して行われる。つまり、2回目以降の処理では、2つの要素点P,Pの一方又は両方はレーザスキャナにより取得された計測点ではなく、先行する回で算出された補間点であり得る。
【0027】
穴の自動検出処理S2は、穴にはレーザの反射点が生じず、点群が疎になることを利用する。そのため、しきい値λthは基本的に、検出対象とする穴において点群が疎である状態に保たれるように設定され、堤防法面のうち変状が存在しない部分でのレーザスキャナの点間隔λ0、検出対象とする穴の寸法の下限値φminなどに応じて予め定められる。定性的には、λthはλ0より大きく、かつφminより小さい範囲内にて設定される。なお、補間による点群の追加処理の反復回数が多くなると、穴に対応した点群の疎の領域とその周辺の点群が密な領域が明確になる一方、この影響はλthを大きくすることで緩和され得る。そこで、しきい値λth及び反復回数を定めるに際してこの関係に配慮することが好適である。
【0028】
図6は模擬物体60,64及びその近傍でのレーザ点群データ50の点群(レーザ点群80)の分布を示しており、3次元空間にて分布する点群を堤防法面に沿った面に投影した様子を示している。図7は増強点群生成手段20による上述の処理S10により生成された増強点群82を表しており、図6に対応する部分の増強点群を図6と同様に投影した様子を示している。
【0029】
図5の処理S10にて上述のように増強点群82の点群データが生成されると、演算処理装置4はそれを2値画像化する(S12)。この処理は2値画像生成手段22により行われる。
【0030】
2値画像生成手段22は、増強点群82を地物表面に沿った面に投影して2値画像を生成する。例えば、図7に示す増強点群82は堤防法面に沿った面に投影される。図8は2値画像生成手段22による処理S12で生成された2値画像84であり、図7に対応する部分を示している。ここで、図7図8とは白黒が反転したものとなっているが、そのことは本質的な違いではない。ここで本質的であることは、図7では図示の都合上、画像として示している増強点群82は実際には各点が3次元座標で表された点群データであり、一方、図8の2値画像84は2次元のデータであるということである。例えば、2値画像生成手段22はまず、増強点群82を投影面に投影してベクタからラスタに変換することにより2値画像を生成する。
【0031】
演算処理装置4は2値画像84に対しモルフォロジー演算を行い、増強点群82の投影像の密領域に対応した領域と疎領域に対応した領域とに2値画像84を領域分割し、投影像の疎領域(図8ではほぼ黒で塗りつぶされた領域)に対応した領域を穴候補領域として抽出する(S14)。この処理は画像処理手段24により行われる。
【0032】
具体的には、画像処理手段24は、例えば図8に示す2値画像84にて黒画素領域を膨張・収縮させる処理を行う。図9は画像処理手段24による処理S14で生成された2値画像86であり、図8に対応する部分を示している。モルフォロジー演算の膨張・収縮処理により、図8の2値画像84に存在した、検出対象である穴と比べて細かい黒領域及び白領域が図9の2値画像86からは除去されている。なお、上述したように2値画像86では黒画素領域が穴が存在し得る領域(穴候補領域)である。
【0033】
なお、処理S10にてレーザ点群80での疎の領域と密の領域とでの点群の密度差を拡大した増強点群82を生成したことによって、処理S14でのモルフォロジー演算にて穴が存在し得る領域と存在しない領域とを精度良く分離しやすい2値画像84が得られている。つまり、穴候補領域を高精度に抽出する上で処理S10は重要である。
【0034】
演算処理装置4は幾何条件52を用いて2値画像86にて穴に対応する領域を特定する(S16)。この処理は穴抽出手段26により行われる。
【0035】
穴抽出手段26は記憶装置6から幾何条件52を読み出す。幾何条件52は検出対象とする穴の大きさ、形状を規定し、穴抽出手段26は2値画像86の穴候補領域のうち幾何条件52に該当する部分を検出対象の穴として抽出する。
【0036】
幾何条件52において例えば、大きさは穴の径(短径や長径)、面積で規定することができ、幾何条件52としてそれらの上限若しくは下限、又は範囲が設定される。また、形状は例えば、コンパクトネス(Compactness)やスムースネス(Smoothness)といったパラメータで表され、それらを用いて、穴候補領域のうち穴として想定される以上に複雑な形状のものを除外することができる。
【0037】
例えば、穴抽出手段26は2値画像86から黒画素領域の輪郭線(黒画素領域と白画素領域との境界線)を抽出し、輪郭線により表される図形から形状や大きさに関するパラメータを抽出することができる。図10は穴抽出手段26により図9に示す2値画像86から抽出された輪郭線88の画像である。
【0038】
図11図12は穴抽出手段26により特定された穴領域の例を示す画像である。図11図9に示す2値画像86に対して幾何条件52を適用して抽出された穴領域90を示している。なお、同図において穴領域90は輪郭線88で囲まれた領域である。また、図12図11に示す穴領域90を図6に重ねて表示した画像である。
【0039】
以上、穴の自動検出処理S2を説明した。次に亀裂の自動検出処理S4を説明する。図13は亀裂の自動検出処理S4の概略のフロー図である。演算処理装置4はレーザ点群データ50に対して例えば、球形等の比較的小さい3次元的な空間フィルタ(立体フィルタ)を用いて後述するフィルタリングを行い、立体フィルタ内に密集する点群を連続点列として抽出する(S20)。この処理は近傍空間設定手段30及び3次元空間フィルタリング手段32により行われる。
【0040】
近傍空間設定手段30はレーザ点群データ50により与えられる点群の各点(要素点)を注目点とし、当該注目点を包含し予め定められた3次元形状及び大きさを有する立体フィルタ(要素点近傍空間)を設定する。
【0041】
立体フィルタの形状は本実施形態では球形に設定される。なお、立体フィルタの形状は基本的には3次元空間を定義する直交座標系の各軸方向に大体同じ寸法に設定するのが好適であり、例えば、立方体などの他の形状とすることもできる。
【0042】
立体フィルタの寸法は基本的にはレーザ点群の平均間隔の数倍程度に設定することができ、例えば、3倍〜5倍程度に設定することができる。また、当該寸法を決めるに際しては、レーザスキャナから見た検出対象とする亀裂の段差の高さを考慮することができる。例えば、立体フィルタの寸法は当該段差程度に設定することができる。
【0043】
近傍空間設定手段30は例えば、注目点とする要素点を中心として球形の立体フィルタを設定する。
【0044】
3次元空間フィルタリング手段32は空間フィルタ処理として、各立体フィルタにおいて、レーザ点群の要素点が予め設定した複数個ρth以上包含される場合に、当該要素点を検出対象である段差又は亀裂に由来する特徴点として抽出する。
【0045】
しきい値ρthは立体フィルタの大きさ及び対象空間でのレーザ点群の平均密度に応じて設定される。堤防の法面に生じる亀裂の数は一般に多くはないので、対象空間に存在するレーザ点群の平均密度は亀裂が存在しない法面での密度と大体同じとなる。一方、亀裂が存在する箇所に設定された立体フィルタ内の点群の数はそれより多くなり易い。これは直感的には、立体フィルタ内に包含される地物の形状が平面より立体面である場合の方が表面積が大きくなることで説明できる。したがって段差が存在する箇所と存在しない箇所とを弁別可能にしきい値ρthを設定することが可能である。
【0046】
図14は模擬物体60,64及びその近傍でのレーザ点群データ50の点群(レーザ点群80)の分布を示している。図14図6とは同じ範囲のレーザ点群80を示しているが、両図の視点は相違しており、図14は斜視図、つまり堤防法面の法線に対して傾斜した方向からレーザ点群80を見た図である。図15は3次元空間フィルタリング手段32による上述の処理S20で抽出された点群(特徴点群100)を表しており、図14に対応する部分の特徴点群100を図14のレーザ点群80と同様に投影した様子を示している。
【0047】
以上、図13の処理S20が完了すると、次に演算処理装置4は上述のように抽出された特徴点群100に対して例えば、立体フィルタより大きい2次元的な空間フィルタを用いて後述するフィルタリングを行い、フィルタ内にて亀裂方向に沿う点列を抽出する(S22)。この処理は周辺領域設定手段34及び2次元空間フィルタリング手段36により行われる。
【0048】
周辺領域設定手段34は特徴点群100を地物表面に沿った投影面に投影した各投影特徴点を注目点とし、投影面における領域として当該注目点を包含する特徴点周辺領域を、予め定められた2次元形状、かつ立体フィルタの投影像より大きな予め定められた大きさで設定する。
【0049】
本実施形態において亀裂等の段差を検出しようとする地物表面である堤防法面は概ね平面であるとして、投影面は平面に設定することができる。なお、例えば、横断面が円弧状となるトンネルの内壁面における亀裂を検出しようとする場合などは、投影面は曲面に設定され得る。
【0050】
投影面を平面とすることに対応して、2次元的な空間フィルタとして用いる特徴点周辺領域も平面となる。そこで本実施形態では特徴点周辺領域を平面フィルタと称する。平面フィルタの形状は本実施形態では円形に設定される。なお、特徴点周辺領域の形状は基本的には投影面内の各方向に大体同じ寸法に設定するのが好適であり、例えば、平面フィルタは正方形などの他の形状とすることもできる。
【0051】
平面フィルタの寸法は上述したように立体フィルタの投影像より大きく設定される。これは、立体フィルタが段差の有無という比較的に局所的な構造上の特徴を捉えることを目的とするのに対し、平面フィルタは段差が線状に延びるという、より大きな構造上の特徴を捉えることを目的としていることによる。ここで亀裂による段差は大きなスケールでは必ずしも直線的にはならず途切れたり屈曲したりし得るが、小さなスケールでは近似的には直線となる部分が存在することが期待できる。そこで、本実施形態では平面フィルタのサイズは段差が近似的に直線となり得るスケール程度に設定する。これにより、段差が線状であるか否かの判定は段差が直線状であるか否かを判定するという比較的単純な処理とすることができる。
【0052】
2次元空間フィルタリング手段36は空間フィルタ処理として、各注目点にて平面フィルタとして設定した領域において、当該領域に存在する投影特徴点の配置を近似する直線の誤差が予め定められた許容値以下である場合に、当該投影特徴点を検出対象である亀裂に由来するものとして抽出する。
【0053】
図16図17は本実施形態での投影特徴点の配置が直線的であるか否かの判定手法を説明する模式図であり、それぞれ円形の平面フィルタ110内に存在する複数の投影特徴点112(○印)とそれらの重心114(×印)とを示している。なお、平面フィルタ110は投影特徴点112のうち注目点である点112cを中心として設定されている。図16に示す例は亀裂の箇所に対応しており、投影特徴点112は近似的に直線に沿って並んでいる。この場合の重心114aはフィルタの中心に位置する投影特徴点112cからの距離が小さくなりやすい。一方、図17に示す例は亀裂ではない箇所に対応しており、投影特徴点112の間には直線的な位置関係が認められない。この場合の重心114bはフィルタの中心に位置する投影特徴点112cからの距離が大きくなりやすい。
【0054】
そこで、2次元空間フィルタリング手段36は、平面フィルタ110内に存在する投影特徴点112の個数をN、座標を(X,Y)(jは1からNまでの自然数である。)とし、次式により中心(投影特徴点112c)を原点とした重心114の座標(C,C)を算出し、ξ=C+Cで定義される中心から重心までの距離ξをしきい値ξthと比較する。なお、次式において、(X,Y)は投影特徴点112cの座標であり、iは1からNまでの自然数のいずれかである。
【0055】
【数1】
【0056】
そして、2次元空間フィルタリング手段36は、ξ≦ξthであれば、投影特徴点112の配置は直線的であると推定し、投影特徴点112は亀裂に由来するものと判定する。一方、ξ>ξthであれば、投影特徴点112の配置は直線的ではないと推定し、投影特徴点112は亀裂に由来するものではないと判定する。しきい値ξthは基本的には亀裂箇所とそれ以外の箇所とを弁別可能な値に設定される。なお、ξthを小さく設定すれば亀裂の誤検出を抑制でき、大きく設定すれば亀裂の検出漏れを抑制でき、ユーザが調査目的などに応じて調整することができる。
【0057】
本実施形態では平面フィルタ110内での投影特徴点112の配置が直線的か否かを重心114により推定する手法としたが、直線的か否かは他の手法を用いて判定してもよく、例えば、平面フィルタ110内の投影特徴点112の座標が直線を表す1次式に従うか否かを回帰分析してもよい。
【0058】
図18は2次元空間フィルタリング手段36による上述の処理S22によって、図15に示す特徴点群100から抽出された点群(特徴点群120)を表しており、特徴点群120は図15での特徴点群100と同様に投影している。図18には矩形の板状の模擬物体60,64の縁に板の厚みで生じる段差に対応する点群が、立体フィルタ及び平面フィルタにより抽出されている。ちなみに、図18において直線状に並ぶ特徴点群120aが模擬物体60の一辺に対応し、直線状に並ぶ特徴点群120b,120cがそれぞれ模擬物体64の辺に対応する。
【0059】
上述した図13における処理S22が完了すると、演算処理装置4は亀裂検出手段38により、特徴点群120の対象空間内での配置から亀裂により生じる段差の箇所を検出する(S24)。本実施形態では立体フィルタを用いた処理S20に加え平面フィルタを用いた処理S22を行うことで、模擬物体60,64に起因する段差以外の点群(ノイズ点群)は好適に除去される。そこで例えば、亀裂検出手段38は特徴点群120自体を亀裂の位置を特定するデータとすることができる。一方、亀裂検出手段38は平面フィルタ110より大きなスケールで特徴点群120における線状の配列を検出し、亀裂の箇所を特定しても良い。
【0060】
なお、レーザ点群データ50を示す図14と処理S20の結果である図15とを見比べれば、模擬物体60,64に起因する段差以外の点群(ノイズ点群)は処理S20だけでかなりの割合除去できる。よって、亀裂検出手段38は処理S20の抽出結果に基づいて亀裂を検出する簡易な構成とすることも可能である。
【0061】
以上のように穴の自動検出処理S2及び亀裂の自動検出処理S4により穴、亀裂が検出される。穴抽出手段26及び亀裂検出手段38はそれぞれ検出した穴、亀裂の箇所をファイルに出力する(S6)。
【0062】
表示画像生成手段40は地図などを背景とし、その上に重ねて、穴抽出手段26により抽出された穴の領域と、亀裂検出手段38により検出された亀裂(段差)の位置とを表示する画像を生成し、出力装置10へ出力し、印刷、表示させる。図19は表示画像生成手段40により生成される画像例の模式図であり、レーザ点群データ50の投影図の上に、図11に示す穴の抽出結果である穴領域90と、図18に示す亀裂位置の検出結果である特徴点群120とを重ねて表示している。ちなみに図18において特徴点群120は、レーザ点群データ50を投影した点よりも強調した黒点で示されている。背景は地図、レーザ点群データ50の投影図のほか、上空から撮影した画像であってもよい。
【0063】
上述した地物表面変状検出システム2を用いれば、例えば、堤防の点検作業において、従来の目視観察による手法に比べ、データの取得及び必要な情報抽出において、点検時間の短縮、そして、人員及び予算の削減が可能となり、堤防点検と堤防管理をより効率的に行うことができる。
【0064】
なお、上記実施形態では地物表面変状検出システム2を、堤防における変状を抽出する例にして説明したが、地物表面変状検出システム2は堤防以外の地物表面における穴の検出、また亀裂・段差の検出に用いることもできる。例えば、道路の路面や法面、崖、トンネルの内壁面における変状検出に用いることができる。
【0065】
また、レーザ点群データ50は、検出対象とする穴、亀裂の大きさより小さい間隔で計測されるものであれば、必ずしもモービルマッピングシステムや地上設置のレーザスキャナによって取得されるものでなくてもよい。例えば、航空機等の飛行体により空中から照射するレーザで取得されたレーザ点群データ50を用いることもできる。
【符号の説明】
【0066】
2 地物表面変状検出システム、4 演算処理装置、6 記憶装置、8 入力装置、10 出力装置、20 増強点群生成手段、22 2値画像生成手段、24 画像処理手段、26 穴抽出手段、30 近傍空間設定手段、32 3次元空間フィルタリング手段、34 周辺領域設定手段、36 2次元空間フィルタリング手段、38 亀裂検出手段、40 表示画像生成手段、50 レーザ点群データ、52 幾何条件、60,64 模擬物体、62 穴、80 レーザ点群、82 増強点群、84,86 2値画像、88 輪郭線、90 穴領域、100 特徴点群、110 平面フィルタ、112 投影特徴点、114 重心。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19