【実施例】
【0030】
本発明を以下の実施例および比較例により説明するが、これらに限定されるものではない。
(使用材料)
・リン酸水溶液:日本化学工業株式会社製 オルトリン酸 85%燐酸
・有機酸(リンゴ酸):扶桑化学株式会社製 食品添加物リンゴ酸フソウ
・有機酸(酒石酸):昭和化工株式会社製 試薬
・有機酸(クエン酸):田辺製薬株式会社製 試薬
・リン酸亜鉛溶液:パルテック株式会社製 リン酸亜鉛系処理鋼板
・非イオン性フッ素系界面活性剤(パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物):DIC株式会社製 メガファックF−444
・非イオン性フッ素系界面活性剤(含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー):DIC株式会社製 メガファックF−444
・リン酸二水素ナトリウム水和物:日本化学工業株式会社製 試薬
・アニオン性フッ素界面活性剤:DIC株式会社製 メガファックF−114
・水:水道水
・鋼部材: JIS G3141 100×70×0.8mmt
・銅部材: JIS C1100 100×70×0.8mmt
・アルミ部材:JIS H4000、A1050 100×70×0.8mmt
・マグネシウム合金部材:JIS H4201、AZ31 100×70×0.8mmt
・ステンレス部材A:JIS G4305,SUS410 100×70×0.8mmt
・ステンレス部材B:JIS G4305、SUS304 100×70×0.8mmt
【0031】
実施例1
上記リン酸水溶液を10質量%、上記リンゴ酸を0.1質量%、上記パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物(非イオン性フッ素系界面活性剤)を0.03質量%、水を残分として配合し、これらを混合して皮膜形成液を調製した。
次いで、上記鋼部材でその表面に錆が発生している部材を、得られた皮膜形成液(40℃)に20分間浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
該皮膜を有する鋼部材の表面を、高分解能電解放出型走査電子顕微鏡Model ERA−8900(エリオニクス社製)を用いて3000倍、1万倍でSEM撮影し、その結果をそれぞれ
図1(a)および
図1(b)示す。
得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0032】
実施例2
前記パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物(非イオン性フッ素界面活性剤)の代わりに、上記含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー(非イオン性フッ素系界面活性剤)を用いた以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
該皮膜を有する鋼部材の表面を、高分解能電解放出型走査電子顕微鏡Model S―4800(日立製作所社製)を用いて3000倍、1万倍でSEM撮影し、その結果をそれぞれ
図2(a)および
図2(b)示す。
得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0033】
実施例3
前記リンゴ酸の代わりに、上記酒石酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ
図3(a)および
図3(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0034】
実施例4
前記リンゴ酸の代わりに、上記クエン酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ
図4(a)および
図4(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0035】
実施例5
上記鋼部材の代わりに、上記銅部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、該銅材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ
図5(a)および
図5(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0036】
実施例6
上記鋼部材の代わりに、上記アルミ部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、該アルミ部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ
図6(a)および
図6(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0037】
実施例7
上記鋼部材の代わりに、上記マグネシウム合金を用いた以外は、実施例1と同様にして、該マグネシウム合金部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ
図7(a)(但し、5000倍)および
図7(b)(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0038】
実施例8
上記鋼部材の代わりに、上記SUS410部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、該SUS410部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ
図8(a)および
図8(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0039】
実施例9
上記鋼部材の代わりに、上記SUS304部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、該SUS304部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ
図9(a)および
図9(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0040】
実施例10
実施例1の皮膜形成液に、さらに上記リン酸二水素ナトリウム二水和物を0.1質量%配合した以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を
図10(1万倍)に示す。得られた極微細構造は、約1μmの凹凸形状を有し、実施例1より微細な構造を有することがわかる。
【0041】
実施例11
実施例1の皮膜形成液を2液で構成した以外は実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
具体的には、実施例1の上記リン酸水溶液に非イオン性フッ素系界面活性剤を半分配合したリン酸水溶液と、実施例1の上記リンゴ酸に非イオン性フッ素系界面活性剤を半分配合したリン酸水溶液を配合したリンゴ酸液を別個に調製した。実施例1で用いたと同様の鋼部材を、まず、前記リン酸水溶液に20分浸漬した後、リンゴ酸に1分浸漬して、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を
図11(1万倍)に示す。得られた極微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0042】
実施例12
前記リン酸水溶液に20分浸漬した後、リンゴ酸に1分浸漬する代わりに、前記リンゴ酸に1分浸漬した後にリン酸水溶液に20分浸漬した以外は、実施例11と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を
図12(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有し、実施例11よりも微細な構造を有することがわかる。
【0043】
実施例13
前記リンゴ酸の配合割合を0.1質量%とする代わりに、0.02質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を
図13(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0044】
実施例14
前記リンゴ酸の配合割合を0.1質量%とする代わりに、0.05質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を
図14(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0045】
実施例15
前記リン酸の配合割合を20質量%とする代わりに、5質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を
図15(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0046】
実施例16
前記リン酸の配合割合を20質量%とする代わりに、10質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を
図16(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0047】
比較例1
上記リン酸亜鉛溶液を皮膜形成液として用い、錆びていない上記鋼部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、皮膜を鋼部材表面に形成させ、その表面をSEM撮影した。その結果をそれぞれ
図17(a)および
図17(b)に示す。
鋼部材表面に形成される構造の厚さは2〜8μmであり、構造の粒度がかなり大きいことがわかる。
なお、リン酸亜鉛処理液は、環境負荷の高い亜鉛イオンが多く含まれ、またリン酸亜鉛自体が急性毒性物質に相当するため、リン酸亜鉛を用いることは環境保護の観点からも問題がある。
【0048】
比較例2
上記パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物(非イオン性フッ素界面活性剤)の代わりに、アニオン性フッ素界面活性剤を用いた以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れた。また、該鋼部材表面には皮膜が形成された。
実施例2と同様にして、その表面をSEM撮影した。その結果をそれぞれ
図18(a)および
図18(b)に示す。鋼部材表面には、凹凸構造や結晶等の微細な構造を有する皮膜が形成されていないことがわかる。
【0049】
比較例3
前記リンゴ酸の配合割合を0.1質量%とする代わりに、0.01質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れた。また、該鋼部材表面には皮膜が形成された。
実施例2と同様にして、SEM写真を撮影し、その結果を
図19(1万倍)に示す。鋼部材表面に形成される結晶構造は、不明瞭であり、結晶は崩れて形成されており、微細な皮膜構造は得られないことがわかる。
【0050】
比較例4
前記リン酸の配合割合を20質量%とする代わりに、3質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れた。また、該鋼部材表面には皮膜が形成された。
実施例2と同様にして、SEM写真を撮影し、その結果を
図20(1万倍)に示す。鋼部材表面に結晶構造がうまく成長していないことがわかる。
【0051】
試験例
上記実施例1および比較例1で処理して得られた皮膜形成金属部材をそれぞれ用いて機械的性質の性能を評価した。また上記実施例1〜3及び比較例1で得られた皮膜形成金属部材をそれぞれ用いて、ヒートサイクルに対する性能を評価及び導電性性能を評価した。
(機械的性質評価試験)
実施例1及び比較例1で得られた鋼部材に、関西ペイント製のポリエステル樹脂粉体塗料(製品名ビリューシア)を、それぞれ1コートし、耐カッピング性能について、以下の表1の試験方法により、試験を行った。なお、各例について、鋼部材のサンプル数を2個とした。その結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
上記表1より、変形による付着性を評価する耐カッピング性について、実施例1による皮膜のほうが、比較例1より優れていることがわかる。従って、変形に対する耐性及び付着性(密着性)については、実施例1のほうが比較例1より優れていることは明らかである。
【0054】
(ヒートサイクルに対する耐性試験)
一般に、素地金属と塗膜では熱膨張率が異なるため、塗装下地皮膜に大きな負荷を強いることになり、塗装品が用いられる通常の環境では、必ず温度変化が伴う。塗装の性能を評価するにはヒートサイクルによるストレスが加わっても、金属表面に形成された皮膜は塗膜と良好な付着性を保持できるかが重要である。
従って、実施例1〜3及び比較例1で得られた鋼部材に、関西ペイント製のポリエステル樹脂粉体塗料(製品名ビリューシア)を、それぞれ1コートし、ヒートサイクル耐性性能について、以下の試験方法により、試験を行った。
【0055】
試験方法
(1)ステップ1:ヒートサイクル負荷
80℃ ⇔ −20℃×33サイクル192時間30分(板橋理化工業株式会社・プログラムヒートサイクル試験装置)
1サイクル350分:−20℃から80℃まで47分かけて温度を上昇させた。次いで80℃で165分保持した。その後80℃から−20℃まで13分で温度を下げた。その後−20℃で125分保持した。
上記1サイクルを33サイクル繰り返した。
(2)ステップ2:円筒屈曲試験
JIS K5600−5−1(ISO 1519) 耐屈曲性(円筒形マンドレル)に準じて試験を行った。試験結果を以下の表2及び
図21〜
図25に示す。
但し、使用機器はTQC製マンドレル屈曲試験器、No.KT−SP1800(ISO 1519/JIS K5600−5−1適合品)、使用円筒はφ20mm円筒マンドレルである(
図21〜24)。
また、使用円筒はφ25mm円筒マンドレルの場合を
図25に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例1の微細構造皮膜の耐ヒートサイクル性は、比較例1のものより優れていることがわかる。
【0058】
(導電性試験)
溶液中における各皮膜形成部材の導電性試験の条件は以下のとおりである。
溶液:硫酸ナトリウム7%溶液
皮膜形成部材の寸法:70×150mm
直径150mmで深さ80mmのガラス容器に上記溶液を深さ50mmまで入れる。次いで、大きさ100×200mmの銅板と、実施例1〜3及び比較例1の各皮膜形成部材(処理板)を該液中に垂直(立てた状態)て浸漬した。そのとき、該銅板と該皮膜形成部材(処理板)間の距離を30mmとした。
該銅板と各処理板間の抵抗値を測定し、その結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
微細な結晶構造を有するものは、液中での導電性が高い値を示し、上記表3より、本発明の微細構造形成皮膜は、液中での導電性が、比較例のものより高い値を示すことがわかる。
【0061】
本発明の微細構造皮膜形成液は、かかる微細構造によって、表面積が増え、不純物が結晶内に入り込みにくく、さらに金属素地の変形に皮膜が追随しやすいため、塗装する際にアンカー効果を発揮し、優れた塗装下地皮膜として活用できる。
【0062】
以上、本発明の実施例及びその効果について説明したが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。例えば、本実施例においては全ての原料を一液の中に配合することを前提としたが、リン酸と有機酸を別々の液にする等、二液以上に分離して使用することも可能である。