特許第6006557号(P6006557)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6006557高温高濃度過酸化水素ガスの濃度測定方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6006557
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】高温高濃度過酸化水素ガスの濃度測定方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20160929BHJP
   G01N 31/10 20060101ALI20160929BHJP
【FI】
   G01N31/00 M
   G01N31/10
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-157493(P2012-157493)
(22)【出願日】2012年7月13日
(65)【公開番号】特開2014-20826(P2014-20826A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180298
【氏名又は名称】四国化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(72)【発明者】
【氏名】阿部 和生
(72)【発明者】
【氏名】片山 和幸
(72)【発明者】
【氏名】和田 由夏
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−104418(JP,A)
【文献】 特開平02−220663(JP,A)
【文献】 特開昭50−073697(JP,A)
【文献】 実開昭58−109048(JP,U)
【文献】 特開昭60−225029(JP,A)
【文献】 特開平05−262332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
G01N 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度100〜200℃で濃度5,000〜20,000ppmの高温・高濃度の過酸化水素ガス流体における過酸化水素ガス濃度の連続的測定方法であって、過酸化水素ガス流体の内圧により、過酸化水素ガス流体の一部を、過酸化水素分解触媒層を通過させ、過酸化水素分解触媒層のガス入口側及び出口側の温度を測定し、ガス入口側及び出口側の温度差により、過酸化水素ガス流体中の過酸化水素ガス濃度をリアルタイムで検出し、過酸化水素ガス流体の内圧と大気圧との差圧が、30Pa以上であることを特徴とする過酸化水素ガス濃度の測定方法。
【請求項2】
過酸化水素ガス流体の一部が、過酸化水素ガス流体総量の1〜5容量%であることを特徴とする請求項1記載の過酸化水素ガス濃度の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛乳、ジュース、ヨーグルト等の液体飲料を容器へ充填するための液体充填機械に搭載される、過酸化水素ガスを利用する容器殺菌装置に備えられる過酸化水素ガス濃度の測定装置や測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素の検出は、一般的には、分光光度的方法、電気化学的方法、又は化学反応による方法などが用いられている。例えば、1420nm近傍での過酸化水素の近赤外線吸光度に、過酸化水素の吸収のない他の波長領域において測定した水及び他の有機物蒸気の吸光度を所定の方法で補正して過酸化水素濃度を算出する、水蒸気の存在下でも過酸化水素蒸気濃度を正確に分析する方法が提案されている(特許文献1)。また、過酸化水素蒸気またはガスの吸光度を200nmから400nmの間の紫外領域波長において決定し、過酸化水素がこの領域における光を吸収するが、水蒸気は吸収しないことを利用して、滅菌処理室内の過酸化水素蒸気またはガスの濃度を決定する方法が開示されている(特許文献2)。
【0003】
電気化学的過酸化水素の検出方法としては、少なくとも水酸化物と過酸化水素の水溶液を含む漂白浴における水酸化物イオンと過酸化水素濃度([OH]および[H])を測定するため、これらのイオンに関する導電率G,pHおよび温度Tのパラメータを測定する方法(特許文献3)や、電気化学センサと、該電気化学センサの感応部を被覆するカタラーゼ固定化膜からなる過酸化水素ガス用センサと、ポテンシオスタット等の電流測定器と、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、該A/Dコンバータからの信号にて過酸化水素ガスの応答性をパソコンに表示させうる過酸化水素ガスセンサシステム(特許文献4)が開示されている。
【0004】
化学反応を用いた過酸化水素の検出方法としては、過酸化水素溶液流出液を過マンガン酸カリウムで滴定する方法が知られている(特許文献5)他、過酸化水素分解前後のチャンバ内の気体の湿度を測定し、予め実験的に求めた反応係数を含む反応式を用いて、チャンバ内の過酸化水素蒸気を含んだ気体中の過酸化水素濃度を算出する方法が開示されている(特許文献6)。
【0005】
また、過酸化水素分解触媒を用いて、過酸化水素ガスの分解前後の温度上昇を測定し、この温度上昇と過酸化水素の濃度とが正確に相関することを利用して、過酸化水素の濃度を測定することも知られている(特許文献7)。しかし、この過酸化水素分解触媒を用いる方法においては、過酸化水素ガスのサンプリングに真空ポンプと流量計に加えて、サンプリングライン用加温ヒータが必要とされ、装置の大型化と複雑化を招き、実用化が困難であるという問題点を抱えていた。
【0006】
しかしながら、上記の化学反応による方法をはじめ、多くの過酸化水素測定方法は、過酸化水素溶液における過酸化水素濃度を測定するものであり、過酸化水素ガスを一度水溶液中に溶解する必要があった。また、過マンガン酸カリウムを用いた滴定方法は煩雑であり、滴定作業を自動で連続的に実施するためには機械の大型化、複雑化を要し実用性が低いという問題があった。また、分光光度的方法においては紫外光供給源や適切な光路の設置、選択的な光フィルター、光放射検出装置などが必要であり、電気化学的方法においても電気化学センサなどの耐熱性や耐薬品性を備えた測定機器や解析装置が必要であり、さらに複数のパラメータを監視する必要があるという問題があった。さらに、上記特許文献7の過酸化水素分解触媒を用いる方法においては、過酸化水素ガスのサンプリングに真空ポンプと流量計が必要とされ、装置の大型化と複雑化を招くという問題点を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−334460号公報
【特許文献2】特開平11−230899号公報
【特許文献3】特公平7−53947号公報
【特許文献4】特開2004−257900号公報
【特許文献5】特開2002−29712号公報
【特許文献6】特開2001−183326号公報
【特許文献7】特開平9−104418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高濃度の過酸化水素ガスは容易に凝縮が生じるため、特に8000ppm以上の高濃度ガスを直接濃度測定する手段は一般的でなく、通常は、吸収瓶法によりガス濃度を測定している。しかし、この場合、短時間のガス濃度変化を捉えることや、連続的にガス濃度を監視する手段にはなりえないという問題があった。また、多くの場合、殺菌装置のガス品質を連続監視する手段としては、ガスを生成するための熱風と過酸化水素水の供給状態(温度、量、圧力等)を複合的に監視し、ガス品質の良否判定を行うのが一般的で、複雑で信頼性に乏しいものであった。本発明の課題は、液体充填機械等における殺菌装置の大型化や複雑化をできる限り避けて、過酸化水素ガス流体中の過酸化水素ガス濃度をリアルタイムで精確に検出することができる過酸化水素ガス濃度の測定装置や測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、以下に示される過酸化水素が分解する際の発熱反応を利用することに着目した。
→HO+1/2O+98.05KJ/mol (式1)
具体的には、測定する過酸化水素ガスを、ガス計量計と吸引ポンプを備えたサンプリング経路内に少量吸引サンプリングし、そのガスをハニカム状の過酸化水素分解触媒に通して過酸化水素ガス濃度ゼロまで分解し、過酸化水素ガスの分解前後の温度上昇を測定し、この温度上昇と過酸化水素濃度との相関を調べ、過酸化水素ガスの分解熱を利用したガス濃度測定の可能性について検証を行った結果、吸引サンプリングして触媒層を通過するガス量を計測することで、ガス濃度と触媒前後の温度差に良好な比例関係があることを確認した。例えば、ガス温度160℃、ガス濃度約15000ppmでサンプリングガス量を15L/分にした場合の触媒による分解熱は、触媒前後のガス温度上昇値として32℃となった。
【0010】
しかし、この種の殺菌装置を備えた液体充填機械には、容器組み立て装置、充填装置、癖折り装置、シール装置など多くの装置が搭載され、できる限りのコンパクト化が要求されている。そこで、過酸化水素ガス濃度の測定装置の簡素化について検討し、サンプリング経路内の搬送パイプ側の直近に過酸化水素分解触媒を配置させ、過酸化水素ガス流体の内圧と大気圧との差圧により、過酸化水素ガス流体の一部を過酸化水素分解触媒に接触・通過させ、触媒の入出口でのガス温度を測定し、入出口でのガス温度差を連続的に求めることにより、過酸化水素ガス流体の内圧や流速の変化や、過酸化水素のガス化装置から発生するガス量の変化等にかかわらず、ガス濃度の連続した経時変化がリアルタイムで算出可能となること、すなわち内圧によるサンプリングだけでも、意外にもリアルタイムで十分測定可能であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、(1)温度100〜200℃で濃度5,000〜20,000ppmの高温・高濃度の過酸化水素ガス流体における過酸化水素ガス濃度の連続的測定方法であって、過酸化水素ガス流体の内圧により、過酸化水素ガス流体の一部を、過酸化水素分解触媒層を通過させ、過酸化水素分解触媒層のガス入口側及び出口側の温度を測定し、ガス入口側及び出口側の温度差により、過酸化水素ガス流体中の過酸化水素ガス濃度をリアルタイムで検出することを特徴とする過酸化水素ガス濃度の測定方法や、(2)過酸化水素ガス流体の内圧と大気圧との差圧が、30Pa以上であることを特徴とする上記(1)記載の過酸化水素ガス濃度の測定方法や、(3)過酸化水素ガス流体の一部が、過酸化水素ガス流体総量の1〜5容量%であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の過酸化水素ガス濃度の測定方法に関する。
【0012】
また本発明は、(4)過酸化水素ガスの搬送パイプから分岐するサンプリング経路と;該サンプリング経路内の搬送パイプ側の直近に配置された過酸化水素分解触媒層を収納した触媒ケースと;該触媒ケースのガス入口側及び出口側に配設されたガス温度測定器と;ガス入口側及び出口側の温度差から過酸化水素ガス濃度を算出する演算装置と;を備えた、過酸化水素ガス濃度をリアルタイムで検出することができる過酸化水素ガス濃度の測定装置や、(5)さらに、触媒ケース表面からの放熱を抑制するためのケース外周カバーが設けられていることを特徴とする上記(4)記載の過酸化水素ガス濃度の測定装置や、(6)さらに、触媒ケースのガス出口側からの排出ガスを触媒ケース外周カバー内に導く導管が設けられていることを特徴とする上記(5)記載の過酸化水素ガス濃度の測定装置や、(7)さらに、搬送パイプ内の過酸化水素ガスを攪拌し、搬送パイプ中心部から過酸化水素ガスをサンプリング経路内へ導入するためのガス導入兼攪拌用プレート(バッフル板)が設けられていることを特徴とする上記(4)〜(6)のいずれか記載の過酸化水素ガス濃度の測定装置や、(8)過酸化水素のガス化装置と;該ガス化装置に接続されている過酸化水素ガスの搬送パイプと;発生した過酸化水素ガスを搬送パイプへ搬送するガス搬送手段と;上記(4)〜(7)のいずれか記載の過酸化水素ガス濃度の測定装置と;を備えたことを特徴とする容器殺菌装置に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、特別なガスの吸引装置や加温手段、及びガスの処理装置を必要とすることなく、高濃度ガスの安定したサンプリングとその後の大気放出が可能であって、コンパクトかつ安価で、容易に後付け可能である過酸化水素ガス濃度の測定装置を提供することができる。したがって、従来困難とされていた高温・高濃度過酸化水素ガスの実用的な濃度測定手段を提供することができ、本来、殺菌装置の性能評価の直接監視対象となるべきガス濃度を連続的にリアルタイムで測定可能とすることで、殺菌装置の運転状態評価手段の信頼性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の容器殺菌装置の縦断面図である。ガス濃度測定触媒ケースを備えた装置の例の全体図を示す。
図2】本発明の過酸化水素ガス濃度の測定装置の縦断面図である。
図3図2の(A−A)における断面図を示す。
図4】吸収瓶法による過酸化水素ガス濃度の実測値と触媒前後の温度差の実測値との関係を示す図である。
図5】触媒反応熱によるガス濃度計の実測データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の過酸化水素ガス濃度の測定方法としては、温度100〜200℃で濃度5,000〜20,000ppmの高温・高濃度の過酸化水素ガス流体における過酸化水素ガス濃度の連続的測定方法であって、搬送パイプ内の過酸化水素ガス流体の内圧により、過酸化水素ガス流体の一部を、過酸化水素分解触媒層を通過させ、過酸化水素分解触媒層のガス入口側及び出口側の温度を測定し、その温度差に基づいて、過酸化水素ガス流体中の過酸化水素ガス濃度をリアルタイムで検出する方法であれば特に制限されず、上記高温・高濃度の過酸化水素ガスとしては、温度140〜170℃で濃度10,000〜15,000ppmの高温・高濃度の過酸化水素ガスを実用面から好適に例示することができる。
【0016】
本発明の過酸化水素ガス濃度をリアルタイムで検出することができる測定装置としては、過酸化水素ガスの搬送パイプから分岐するサンプリング経路と;該サンプリング経路内の搬送パイプ側の直近に配置された過酸化水素分解触媒層を収納した触媒ケースと;該触媒ケースのガス入口側及び出口側に配設されたガス温度測定器と;ガス入口側及び出口側の温度差から過酸化水素ガス濃度を算出する演算装置と;を備えた装置であれば特に制限されず、測定対象の過酸化水素ガスとしては、温度100〜200℃で濃度5,000〜20,000ppm、好ましくは温度140〜170℃で濃度10,000〜15,000ppmの高温・高濃度の過酸化水素ガスを例示することができる。
【0017】
また本発明の容器殺菌装置としては、上記本発明の過酸化水素ガス濃度の測定装置と;過酸化水素のガス化装置と;該ガス化装置に接続されている過酸化水素ガスの搬送パイプと;発生した過酸化水素ガスを搬送パイプへ搬送するガス搬送手段とを備えた装置であればよく、かかる本発明の容器殺菌装置は液体充填機械に搭載され、通常紙カートン内部の殺菌に供される。
【0018】
過酸化水素ガス分解触媒としては、低圧損、高効率分解能、高ライフの触媒が好ましく、その種類としては、白金などの貴金属触媒、二酸化マンガン触媒、熱可塑性樹脂を炭素化することにより得られる炭素触媒(特開2010−274169号公報)等を挙げることができるが、白金触媒が好ましい。また、本発明において「過酸化水素ガス触媒層」とは、過酸化水素ガスが接触・通過することにより、過酸化水素がすべて分解され、熱損失がなければ分解熱がすべてガスの温度上昇に寄与することになる触媒の形状を意味し、具体的には、ハニカム形状、フィルター形状を例示することができる。
【0019】
上記測定方法における「過酸化水素ガス流体の一部」は過酸化水素分解触媒層を通過することから、サンプリングガスということもできる。本発明は、サンプリング用吸引ポンプ、流量計、及びサンプリングライン用加温ヒータを必要とせず、サンプリングガスを過酸化水素ガス流体の内圧により採取する点に大きな特徴を有するが、サンプリング量は過酸化水素ガス流体の内圧と大気圧との差圧、より正確には、過酸化水素分解触媒層前後の圧力差と、触媒層構造体から触媒ケースと外周カバー間の隙間の圧損によって決まる。
【0020】
また、過酸化水素ガス流体の内圧は、過酸化水素ガスの搬送パイプの触媒部位の下流以降ガス噴射ノズルまでの圧損で決まり、一般に圧損はガス流速の2乗に比例することから、搬送エア量が変化すると、過酸化水素ガス流体の内圧が変わり、その結果サンプリングガス量も変化するが、濃度が一定の場合は、ガス入口側及び出口側の温度差は変わらない。例えばサンプリングガス量が2倍に変化した場合、時間当たりの触媒を通過するH分子数は2倍となり式1の過酸化水素分解発熱量は2倍になるが、この発熱がすべて触媒を通過するサンプルガスの温度上昇に変換される場合その熱を受け取るガス量も2倍存在することから、ガス入口側及び出口側の温度差(上昇温度)は同じとなる。このように、本発明は流量管理を必要としない点を大きな特徴とする。過酸化水素ガス流体の内圧、すなわち触媒層の入口付近の内圧は、30Pa以上、好ましくは70〜200Paである。
【0021】
かかるサンプリングガスのサンプリング量としては、サンプリングガスが容器の殺菌に供されないことから少ないほど好ましいが、反面過酸化水素ガス濃度の測定の正確さからすると所定量が必要となり、例えば、過酸化水素ガス流体総量の0.5〜10容量%、好ましくは1〜5容量%、より好ましくは2〜4容量%である。
【0022】
過酸化水素分解触媒層を収納した触媒ケースは、過酸化水素ガスの搬送パイプから分岐するサンプリング経路内の搬送パイプ側の直近に配置することにより、すなわち、搬送パイプ自体の伝熱を利用し、触媒層入口部の触媒温度を高温に保ち、凝縮を防ぐ「触媒直付け構造」とすることにより、触媒自体が搬送パイプ内のガス温度程度になり、触媒ケースも搬送パイプからの熱伝導により、十分な温度に達することから、サンプリングによるガスの温度低下、これに伴う凝縮を防ぐための特別な加熱手段はふつう必要としない。このように、搬送パイプの周壁面に一端が開口したサンプリング経路より、ガス自体の内圧により漏出したサンプリングガスは、触媒による過酸化水素の分解発熱により昇温するが、触媒の入出口でガス温度を測定し、その昇温値を採れば、それがガス濃度に比例した値となり、温度差を連続的に求めることにより、通常の演算プログラムを備えたコンピュータ(演算装置)により、ガス濃度の連続した経時変化も算定可能となる。
【0023】
触媒ケースのガス入口側及び出口側に配設されたガス温度測定器としては、ガス温度測定用の市販の温度測定用熱電対や温度センサを用いることができる。サンプリングガスの温度測定用熱電対や温度センサは、測定温度が最高になる挿入位置で固定することが好ましい。
【0024】
触媒ケース表面からの放熱を抑制し、過酸化水素の分解発熱を、損失なくより正確に測定するために、触媒ケースに外周カバーを設けることが好ましく、触媒ケースのガス出口側からの排出ガスを触媒ケース外周カバー内に導く導管を設けることがより好ましい。触媒出口から排出されたガスは触媒ケースの外周に流れ(U形ガスフロー)、ケース外表面を加温することができる。
【0025】
サンプリング経路内にサンプリングガスをスムーズに導くために、搬送パイプ内の過酸化水素ガスを攪拌し、搬送パイプ中心部から過酸化水素ガスをサンプリング経路内へ導入するためのガス導入兼攪拌用プレート(バッフル板)を設けることもできる。
【0026】
本発明の容器殺菌装置における過酸化水素のガス化装置としては、過酸化水素をガス化して温度100〜200℃で濃度5,000〜20,000ppmの高温・高濃度の過酸化水素ガスを発生することができる装置であれば特に制限されず、例えば、特開2001−224669号公報や、特開2001−276189号公報や、特開2007−20744号公報に記載のガス化装置の他、一端に熱風入口と他端に熱風出口とを有する熱風管と、熱風入口に過酸化水素水をガス化しうる温度の熱風を供給する熱風源と、熱風出口から噴出する熱風の流れと逆向きに過酸化水素水を噴霧し、噴霧され微粒子化した過酸化水素水を熱風と衝突させるための噴霧ノズルと、少なくとも熱風管の熱風出口及び噴霧ノズルの先端の噴出部を取り囲んでいる密閉状のガス化タンクとを備えており、ガス化タンクにおける熱風出口を挟んで噴霧ノズルの先端の噴出部と反対側にガス排出口が形成されている殺菌液ガス化装置を用いることができる。
【0027】
本発明の過酸化水素ガス濃度の測定装置を備えた本発明の容器殺菌装置の一態様を図1に示す。殺菌液ガス化装置1は、ガス化タンク11と、ガス化タンク11内に熱風発生機(図示せず)に連通状態で連結され、熱風を供給する熱風管12と、熱風管12内に過酸化水素水を噴霧する噴霧ノズル13とを備えている。ガス化タンク11は、垂直短筒状大径ロアタンク14と、これの頂壁に直立状に設けられている垂直筒状小径アッパタンク15とよりなり、ロアタンク14の底面にはプレートヒータ(図示せず)が備えられている。アッパタンク15の周壁上端には過酸化水素ガスの排出口17が形成されている。排出口17には搬送パイプ2の入口端が接続され、搬送パイプ2の出口端は、容器Cの上方に配置されたガスノズル21に接続されている。熱風管12は、アッパタンク15の頂板を貫通してアッパタンク15内に垂設され、その下端はロアタンク14のプレートヒータの近くまで達しており、そこに出口を開口している。熱風管12に、熱風発生機から熱風を送り込み、同時に、噴霧ノズル13から過酸化水素水のミストを送り込むと、送り込まれたミスト状の過酸化水素は、まず、熱風管12内を通過する間に、熱風により1段目ガス化される。ガス化された過酸化水素は、熱風管12より流出し、プレートヒータに衝突し、これにより、過酸化水素が2段目ガス化される。こうして、ほぼ完全にガス化された過酸化水素は、プレートヒータに衝突した後、反転上昇させられ、排出口17を通じてガス化タンク11から排出されるが、この間にも、過酸化水素のガス化は継続して進行させられる。熱風管12が線状ヒータ(図示せず)によって加熱されていると、熱風管12を常に高温に保つことができるので、過酸化水素の大きな粒子も全てガス化することや、過酸化水素ガスを高温のままガス化タンク11から排出することに有効である。排出口17から排出された過酸化水素ガスは、搬送パイプ2によって容器Cのところまで導かれ、ノズル21によって容器Cに噴射される。
【0028】
過酸化水素のガス化装置1から発生した過酸化水素ガスは、ガス搬送手段(熱風発生機等)により搬送パイプ2内へ搬送される。搬送パイプ2には一端が開口したサンプリング経路3が分岐しており、該サンプリング経路内の搬送パイプ2側の直近に過酸化水素分解触媒層4を収納した触媒ケース5が配置されている。該触媒ケース5のガス入口側51及び出口側52にはガス温度測定器機(6,7)が配設されている(図3)。触媒ケース5には外周カバー8が設けられ、触媒ケース5のガス出口側52からの排出ガスを触媒ケース外周カバー8内に導く導管9が設けられている(図2,3)。なお、ガス入口側及び出口側の温度差から過酸化水素ガス濃度を算出する演算装置は図示されていない。搬送パイプ2のサンプリング経路3上流側にはバッフル板31が設けられている。バッフル板31は、搬送パイプ3下部から搬送パイプ3下流側上方(サンプリング経路3)に向けて設けられている。
【0029】
次に、容器殺菌装置に搭載したガス濃度測定装置による過酸化水素ガス濃度をリアルタイムで連続的に測定する方法として、例えば、吸収瓶法等により濃度既知となった過酸化水素ガスによる検量線を作成する以下の方法を挙げることができる。
1)濃度監視範囲内で最低濃度程度の過酸化水素ガスを、充填機搭載のガス発生装置から内圧によりサンプリング経路に供給し、触媒前後の温度差を記録する。同時に、吸収瓶法により供給ガス濃度を実測する。
2)同様に、最高濃度程度の過酸化水素ガスをサンプリング経路に供給し、触媒前後の温度差と実測ガス濃度を記録する。
3)この2組の「ガス濃度−温度差」データにて直線近似を行い、この式を濃度測定用検量線とし、演算装置に記憶させる。
4)更に正確な濃度表示が必要な場合は、供試ガス濃度を変え、近似線算出用データ数を増やす。
なお、検量線は、測定装置1個体に対し、1本作成となる。長期間使用で特性が変化(主には触媒が劣化)した場合は、検量線を校正することが好ましい。
【0030】
以下実施例により本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。なお、過酸化水素ガス濃度の実測は吸収瓶法により行い、吸収瓶法による過酸化水素ガス濃度の測定は、JIS K0095[吸収瓶法(試料ガス採取量をガスメータで計測する場合)]及びJIS K0115[吸光光度法]記載の方法に準じて行った。吸光光度法には、過酸化水素水が吸収する波長(210nm)を使用し、あらかじめ作成した検量線に基づき吸収液における濃度を測定し、この吸収液濃度結果とサンプリングガス量から計算により過酸化水素ガス濃度を算定した。
【0031】
(予備テスト)
予備テストとして、過酸化水素分解触媒を通すことにより生じる過酸化水素ガスの分解熱を利用したガス濃度測定が可能かの原理検証を行い、吸引サンプリングして、フロートメータ流量計により触媒に通すガス量を一定にする条件下で、ガス濃度と触媒前後の温度差に良い相関関係が有ることを確認した。一例として、ガス温度160℃、ガス濃度約15000ppmで、サンプリングガス量を15L/minにした場合の触媒による分解発熱は、触媒前後のガス温度上昇値として32℃になった。試作触媒ケースでの過酸化水素ガス濃度D(ppm)と昇温値ΔT(℃)の関係は、D=424×ΔT+1265となっている。検出温度差Δ1℃がガス濃度差424ppmに相当することから、温度計測の精度を考慮しても十分な分解能が期待できる値である。
【実施例1】
【0032】
(本テスト1)
予備テストを受け、本テスト1では、過酸化水素ガス化装置出口への取付を想定したガス濃度測定用触媒ケースを試作し、ガス濃度モニタとしての性能評価を行った。その結果、内圧により触媒ケースへガスを導入するというサンプリングガス吸引ポンプなしの簡素化された構成でも、過酸化水素ガス濃度と触媒前後の温度差に良い相関関係が再確認され、基本性能的には、実用レベルと判断できる結果を得た。
【0033】
触媒ケースには、メタルハニカム触媒D3PT2S50C(田中貴金属工業社製)を1個用いた。過酸化水素のガス化装置の設定は、ガス温度160℃;プレートヒータ温度400℃;搬送エア風量328〜495L/min(室温、微細化エア含む;段階的に変更);過酸化水素供給量7.7〜23.7mL/min(室温;段階的に変更)とした。
【0034】
吸収瓶法による過酸化水素ガス濃度の実測値と触媒前後の温度差の実測値との関係を図4に示す。図4からもわかるように、過酸化水素ガス濃度の実測値と触媒前後の温度差の実測値とは良好な比例関係にあり、取得全データによるR値は0.971となった。この値には吸収瓶法によるガス濃度実測値由来のバラツキも含まれており、過酸化水素分解反応熱式ガス濃度計としての精度はさらに高く、実機用ガスモニタとして十分実用化可能であることがわかった。過酸化水素ガス濃度D(ppm)と昇温値ΔT(℃)の関係は、D=487×ΔT+1348となり、熱電対の温度表示器の分解能を0.1℃とすると、1表示単位は50ppmとなり、高濃度ガス用測定器としては十分使用可能であることがわかった。
【実施例2】
【0035】
(本テスト2)
図1に示す過酸化水素ガス化装置、過酸化水素ガス濃度の測定装置等を備えた容器殺菌装置を用いて、過酸化水素ガス濃度と触媒前後の温度差との関係を調べた。過酸化水素ガス濃度は吸収瓶法で測定した。
【0036】
(過酸化水素ガス濃度の測定装置)
触媒としては、図2と3に示されるように、メタルハニカム触媒D3PT2S50C(田中貴金属工業社製)を3個直結して用いた。また、触媒ケース表面からの放熱を抑えるため、触媒ケース外周カバーを配置し、触媒層を通過したサンプリングガスが触媒ケースの外周を流れた後に排気されるようにした。
【0037】
(テスト条件)
過酸化水素のガス化装置の設定は、搬送ガス温度160℃;プレートヒータ温度400℃;搬送エア風量303〜453L/min(室温、微細化エア含む;段階的に変更);過酸化水素供給量7.7〜23.7mL/min(室温;段階的に変更)とした。また、殺菌装置の標準設定は、過酸化水素供給量15mL/min;搬送エア風量310L/min;計算ガス濃度13100ppmとした。
【0038】
(テスト結果)
テスト結果を[表1]に示す。また、触媒反応熱によるガス濃度計の実測データを図5に示す。計算ガス濃度に対する触媒前後の温度差データの回帰直線は、y=0.0027x+9.7[式中、xは計算ガス濃度(ppm)、yは触媒前後の温度差(℃)]となり、直線の傾き、すなわち昇温率は、0.0027(℃/ppm)となり、理論昇温率0.0042(℃/ppm)の64%まで達成することができた。また、切片9.7(℃)は、ガス濃度が0ppmのときの触媒前後の温度差を示し、テストデータでは、これが8.7〜9.2℃となっており、ほぼ一致することも確認した。搬送エア量の異なる条件でのテストデータであるが、図5では一本の直線上にあり流量管理を必要としないことを示している。また、昇温率の算出に、吸収瓶法による実測値を採用すると、昇温率は0.0029(℃/ppm)となり、69%まで改善される。これは吸収瓶法による実測値が理論ガス濃度より約10%少ない値を示すことによる。
【0039】
【表1】
【0040】
なお、メタルハニカム触媒D3PT2S50C(田中貴金属工業社製)を1個用い、触媒ケース外周カバーがない実施例1における場合、回帰直線はy=0.0019x−4.1639となり、昇温率は0.0019(℃/ppm)で理論昇温率の45%に留まった。
【0041】
(サンプリングガス量の確認)
実機用に試作したガス濃度測定用触媒ケースのサンプリングガス量を確認し、濃度計のスペックをより明確にすることを目的とする。
実機用ガス濃度測定用触媒ケースの外周カバーを外し、排気ガス出口穴(Rc1/8)より漏出するガスの流速を測定し、これにより、排気ガス量=サンプリングガス量を算出する。排気ガス出口穴には、排気ガスの流速測定を容易にするよう、かつ、排気ガスの温度を風速計の測定温度範囲まで降温(放熱)する目的で、サニタリーパイプ(1・1/2S×590L)を直結した。排気ガス風速は、このパイプ末端直近で、熱線式風速計(アネモマスター風速計「モデル6114」;日本カノマックス)により測定した。
【0042】
サンプリングガス量の算出式
Qs=0.82×{π/4×(d/1000)2}×{v×60×1000}×{293/(273+t)}
[Qsはサンプリングガス量(L/min;20℃,大気圧);dは風速測定直管内径(35.7mm);vは排気ガス最大風速(m/sec);tは排気ガス温度]注)テストデータの排ガス流れは層流で、平均/最大流量比には0.5を使用するところだが、本式では安全方向に0.82を用いた。その結果、サンプリングガス量は搬送エア量の3%程度となった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、充填包装機械における過酸化水素ガスを利用する容器殺菌装置に適用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 殺菌液ガス化装置
11 ガス化タンク
12 熱風管
13 噴霧ノズル
14 垂直短筒状大径ロアタンク
15 垂直筒状小径アッパタンク
17 過酸化水素ガスの排出口
2 搬送パイプ
21 ノズル
3 サンプリング経路
31 バッフル板
4 過酸化水素分解触媒層
5 触媒ケース
51 触媒ケースのガス入口側
52 触媒ケースのガス出口側
6 ガス温度測定器(触媒ケースのガス入口側)
7 ガス温度測定器(触媒ケースのガス出口側)
8 触媒ケースの外周カバー
9 外周カバー内の導管
図1
図2
図3
図4
図5