【実施例】
【0049】
以下に、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
本実施例では、まず顔料分散体を作製し、作製した顔料分散体を用いてインクを作製した。詳しくは、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、Bk(ブラック)の4色について、互いに異なる数平均粒子径の被覆粒子を含むインクを作製した。そして、プリンター100(
図1〜
図4参照)の各ヘッド(ラインヘッド20a、20b、20c、20d)で使用するインクを変えて、各条件での印刷品質を評価した。
【0051】
[顔料分散体の樹脂]
本実施例の顔料分散体は、顔料と、樹脂と、界面活性剤と、水とから構成される。以下、顔料分散体の樹脂について説明する。
【0052】
本実施例では、顔料分散体の樹脂として、KOHで等量中和した水溶性樹脂(アルカリ可溶性樹脂)を使用した。
【0053】
顔料分散体の樹脂の酸価は150〜300の範囲にあることが好ましい。酸価が150よりも低い場合には顔料分散性が悪くなり、被覆粒子の微粒子化が困難になると考えられる。一方、酸価が300よりも高い場合にはインクの保存安定性が低下すると考えられる。
【0054】
また、印刷の品質を高めるためには、顔料粒子が数万の分子量をもつ樹脂に被覆されることが望ましい。
【0055】
また、高品質の画像を形成するためには、被覆粒子が微粒子であることが好ましい。被覆粒子を微粒子化すると、発色又は着色が良くなる傾向にある。
【0056】
上記の観点から、顔料分散体の樹脂としては、例えばスチレンアクリル樹脂が好ましい。そこで、本実施例ではスチレンアクリル樹脂を使用した。
【0057】
本実施例では、マクロモノマー合成法によりスチレンアクリル樹脂を作製した。マクロモノマー合成法は、容易かつ安定的な重合方法として知られている。本実施例では、以下のような手順でスチレンアクリル樹脂を作製した。
【0058】
東亞合成株式会社製のAS−6を用意し、樹脂の比率に合うようにAS−6にその他のモノマーを添加した。AS−6は、ポリスチレンの分子末端の1個に(メタ)アクリロイル基が結合した数平均分子量(Mn)6000のオリゴマーである。
【0059】
続けて、上記モノマーをメチルエチルケトン(MEK)中で開始剤と共に重合反応させた。そして、反応終了後、溶媒を減圧留去した。開始剤としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、又は2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物を用いることができる。
【0060】
続けて、上記のようにして得られた樹脂について、重量平均分子量(Mw)をゲルろ過クロマトグラフィーにより測定し、酸価を電位差自動滴定装置により測定した。
【0061】
本実施例では、上記方法により、重量平均分子量(Mw)が約50000、酸価が約150であるスチレンアクリル樹脂を作製した。
【0062】
[顔料分散体の作製方法]
本実施例では、上記のようにして得た樹脂(スチレンアクリル樹脂)を用いて顔料分散体を作製した。以下、主に
図5を参照して、本実施例に係る顔料分散体の作製方法について説明する。
図5は本実施例に係る顔料分散体の配合表である。
【0063】
本実施例では、
図5に示すような比率で、顔料と、樹脂と、オレフィンE1010(界面活性剤)と、水とを混合した。混合比(単位wt%、合計100)を以下に示す。
・顔料:15
・樹脂:6〜9
・オレフィンE1010:0.5
・水:残量(75.5〜78.5)
本実施例では、顔料に対する樹脂の比率(樹脂の量/顔料の量)を0.4〜0.6に調整している。しかしこれに限られず、顔料に対する樹脂の比率は任意である。
【0064】
続けて、上記混合物(
図5参照)についてメディア型分散機(湿式分散機)にて混練を行った。これにより、顔料分散体が形成される。顔料分散体は被覆粒子を含む。分散機としては、ナノグレンミル(浅田鉄工株式会社製)、MSCミル(三井鉱山株式会社製)、又はダイノーミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製)などを用いることができる。
【0065】
混練(分散)に際しては、0.5〜1.0mmのジルコニアビーズ(小径ビーズ)を分散機のベッセル(粉砕容器)内にセットした。小径ビーズを使用すると、微粒子化が容易になる。また、小径ビーズを使用すると、被覆粒子において顔料粒子に対する樹脂の被覆が強くなる。
【0066】
分散機で用いるビーズの径を変えることで、被覆粒子の分散度合、遊離樹脂量、又は粒子径などを変化させることができる。本実施例では、分散機で用いるビーズの径を変えることにより被覆粒子の数平均粒子径を制御し、インクごとに被覆粒子の数平均粒子径が異なるようにした(後述の
図7参照)。また、本実施例では、分散時間を変えることにより被覆粒子の分散度合を制御した。分散時間が長くなるほど分散性が高くなる。
【0067】
[インクの作製方法]
本実施例では、上記のようにして得た顔料分散体を用いてインクを作製した。以下、主に
図6を参照して、本実施例に係るインクの作製方法について説明する。
図6は本実施例に係るインクの配合表である。
【0068】
本実施例では、
図6に示すような比率で、顔料分散体(顔料15%)と、オレフィンE1010(界面活性剤)と、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと、2−ピロリドンと、1,2−オクタンジオールと、グリセリンと、イオン交換水とを混合した。混合比(単位wt%、合計100)を以下に示す。
・顔料分散体:26.6〜60.0
・オレフィンE1010:0.5
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル:5.0
・2−ピロリドン:5.0
・1,2−オクタンジオール:0.5
・グリセリン:15.0〜30.0
・イオン交換水:残量
ここで、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、2−ピロリドン、1,2−オクタンジオール、及びグリセリンは、湿潤剤又は浸透促進剤(有機溶媒)に相当する。また、顔料分散体の比率は、顔料の比率が4〜9%になるように調整した。また、グリセリン及びイオン交換水の比率は、インクの粘度が6mPa・sになるように調整した。
【0069】
続けて、上記混合物(
図6参照)を十分に攪拌した後、フィルターにて加圧濾過することにより、インク(記録液)を得た。
【0070】
[評価に用いたインク]
以下、主に
図7を参照して、本実施例の評価に用いたインクについて説明する。
図7は、本実施例の評価に用いたインクについて、被覆粒子の数平均粒子径、顔料分散体作製時の分散時間、及び被覆粒子の粒度分布データD10、D50、D90を示す表である。
【0071】
図7に示すように、本実施例では、上述の方法により作製した8種類のインク(Y−1、Y−2、M−1、M−2、C−1、C−2、Bk−1、Bk−2)を評価に用いた。インクY−1、Y−2はそれぞれY(イエロー)インクであり、インクM−1、M−2はそれぞれM(マゼンタ)インクであり、インクC−1、C−2はそれぞれC(シアン)インクであり、インクBk−1、Bk−2はそれぞれBk(ブラック)インクである。
【0072】
なお、数平均粒子径は、粒子数に対する粒子径の平均値である。また、
図7において、粒度分布データD10、D50、D90はそれぞれ、粒度分布(累積分布)における重量積算10%、50%、90%の粒子径に相当する。粒度分布データD10、D50、D90は分散性の指標となる。本実施例では、マルバーン社製のゼータサイザーナノZS(粒子径測定装置)を用いて、インクをイオン交換水で300倍に希釈した溶液について被覆粒子の数平均粒子径及び粒度分布データD10、D50、D90を測定した。
【0073】
[評価方法]
以下、主に
図8を参照して、本実施例の評価方法について説明する。
【0074】
本実施例の評価では、上記インク(
図7参照)をプリンター100(
図1〜
図4参照)の画像形成部200(ラインヘッド20a、20b、20c、20d)に充填した。そして、
図8に示すように、画像形成部200により、150mmの幅D0を有する矩形状のパターンP10(評価画像)を形成した。パターンP10を形成する際には、カラーインク(Y、M、C)の吐出量をそれぞれ100%(最大)に設定した。評価に用いた紙Pは王子製紙株式会社製のA4サイズIJWである。
【0075】
上記のようにして15000枚の紙PにパターンP10を形成(印刷)した後、15000枚目の紙Pの汚れ濃度を測定した。詳しくは、紙Pの白紙部分(パターンP10以外の部分)のうち搬送ローラー(プリンター100のローラー103a、103b)が通る4箇所の部分には、
図8に示すように、インクの再付着により4本のラインL1、L2、L3、L4が形成される。汚れ濃度の測定においては、ラインL1、L2、L3、L4の各々の反射濃度を濃度測定機(サカタインクスエンジニアリング株式会社製「SpectroEye LT」)により測定し、その中で最も高い値をオフセット濃度(評価の指標)とした。なお、印刷が終わってからある程度時間が経てば、搬送ローラーに付着したインクは乾燥して固形分になり、搬送ローラーから剥離すると考えられる。このことから、反射濃度(オフセット濃度)が0.05未満であれば、搬送ローラーの表面にインクが堆積することはないと推察できる。
【0076】
[評価結果]
以下、主に
図9(a)〜
図12(c)を参照して、本実施例の評価方法について説明する。
図9(a)〜
図12(c)はそれぞれ、評価結果を示す表である。
図9(a)〜
図12(c)では、反射濃度(オフセット濃度)が0.04未満の場合の判定を「◎」と記載し、反射濃度(オフセット濃度)が0.04以上0.08未満の場合の判定を「○」と記載し、反射濃度(オフセット濃度)が0.08以上の場合の判定を「×」と記載した。「◎」(0.04未満)の場合は、目視で確認できるような不具合が出る可能性がほとんどない場合に相当する。「○」(0.04〜0.08)の場合は、印画が継続的に行われた場合にのみ画質低下が見られる場合に相当する。「×」(0.08以上)の場合は、印画頻度にもよるが、見てわかるレベルの画質低下が生じる可能性が高い場合に相当する。なお、ラインL1〜L4の各々において、ライン内での画質(汚れ濃度)のばらつきはほとんどなかった。
【0077】
(評価1)
以下、主に
図9(a)を参照して、評価1の条件と結果(汚れ濃度など)について説明する。
図9(a)に示すように、評価1(インクセットA)では、ラインヘッド20aでインクC−1、ラインヘッド20bでインクM−1、ラインヘッド20cでインクY−1、ラインヘッド20dでインクBk−1を吐出するようにした。こうした条件で測定された汚れ濃度(オフセット濃度)は0.01であった。判定は「◎」である。
【0078】
(評価2)
以下、主に
図9(b)を参照して、評価2の条件と結果(汚れ濃度など)について説明する。
図9(b)に示すように、評価2の条件は概ね評価1と同じである。ただし、評価2(インクセットB)ではラインヘッド20dでインクBk−2を使用した。こうした条件で測定された汚れ濃度(オフセット濃度)は0.03であった。判定は「◎」である。
【0079】
(評価3)
以下、主に
図10(a)を参照して、評価3の条件と結果(汚れ濃度など)について説明する。
図10(a)に示すように、評価3(インクセットC)では、ラインヘッド20aでインクBk−1、ラインヘッド20bでインクC−1、ラインヘッド20cでインクM−1、ラインヘッド20dでインクY−1を吐出するようにした。こうした条件で測定された汚れ濃度(オフセット濃度)は0.02であった。判定は「◎」である。
【0080】
(評価4)
以下、主に
図10(b)を参照して、評価4の条件と結果(汚れ濃度など)について説明する。
図10(b)に示すように、評価4の条件は概ね評価3と同じである。ただし、評価4(インクセットD)ではラインヘッド20aでインクBk−2を使用した。こうした条件で測定された汚れ濃度(オフセット濃度)は0.02であった。判定は「◎」である。
【0081】
(評価5)
以下、主に
図11(a)を参照して、評価5の条件と結果(汚れ濃度など)について説明する。
図11(a)に示すように、評価5(インクセットE)では、ラインヘッド20aでインクBk−1、ラインヘッド20bでインクM−1、ラインヘッド20cでインクC−1、ラインヘッド20dでインクY−1を吐出するようにした。こうした条件で測定された汚れ濃度(オフセット濃度)は0.06であった。判定は「○」である。
【0082】
(評価6)
以下、主に
図11(b)を参照して、評価6の条件と結果(汚れ濃度など)について説明する。
図11(b)に示すように、評価6(インクセットF)では、ラインヘッド20aでインクBk−1、ラインヘッド20bでインクM−2、ラインヘッド20cでインクY−2、ラインヘッド20dでインクC−2を吐出するようにした。こうした条件で測定された汚れ濃度(オフセット濃度)は0.02であった。判定は「◎」である。
【0083】
(評価7)
以下、主に
図12(a)を参照して、評価7の条件と結果(汚れ濃度など)について説明する。
図12(a)に示すように、評価7(インクセットG)では、ラインヘッド20aでインクBk−1、ラインヘッド20bでインクY−1、ラインヘッド20cでインクM−1、ラインヘッド20dでインクC−1を吐出するようにした。こうした条件で測定された汚れ濃度(オフセット濃度)は0.12であった。判定は「×」である。
【0084】
(評価8)
以下、主に
図12(b)を参照して、評価8の条件と結果(汚れ濃度など)について説明する。
図12(b)に示すように、評価8(インクセットH)では、ラインヘッド20aでインクBk−1、ラインヘッド20bでインクY−1、ラインヘッド20cでインクC−1、ラインヘッド20dでインクM−1を吐出するようにした。こうした条件で測定された汚れ濃度(オフセット濃度)は0.10であった。判定は「×」である。
【0085】
(評価9)
以下、主に
図12(c)を参照して、評価9の条件と結果(汚れ濃度など)について説明する。
図12(c)に示すように、評価9(インクセットI)では、ラインヘッド20aでインクBk−1、ラインヘッド20bでインクM−1、ラインヘッド20cでインクY−1、ラインヘッド20dでインクC−1を吐出するようにした。こうした条件で測定された汚れ濃度(オフセット濃度)は0.13であった。判定は「×」である。
【0086】
(評価1〜9の考察)
以下、主に
図9(a)〜
図12(c)を参照して、評価1〜9の結果について考察する。
【0087】
評価1〜6では、プリンター100のカラーインクジェットヘッドのうち、被覆粒子(樹脂で包まれた顔料粒子)の数平均粒子径が最も大きいインクを吐出するカラーインクジェットヘッド(以下、最大ヘッドと記載する)が搬送方向の最も下流に配置されている。一方、評価7〜9では、カラーインクジェットヘッドがこのような配置になっていない。
【0088】
例えば評価1では、
図9(a)に示されるように、ラインヘッド20a、20b、20cがカラーインクジェットヘッドに相当する。そして、数平均粒子径141のインクY−1を吐出するラインヘッド20cが最大ヘッドに相当し、ラインヘッド20a、20bよりも下流(
図1参照)に位置する。
【0089】
また、例えば評価6では、
図11(b)に示されるように、ラインヘッド20b、20c、20dがカラーインクジェットヘッドに相当する。そして、数平均粒子径144のインクC−2を吐出するラインヘッド20dが最大ヘッドに相当し、ラインヘッド20b、20cよりも下流(
図1参照)に位置する。
【0090】
評価2〜5については詳しい説明を割愛するが、評価2〜5においても、
図9(b)〜
図11(a)に示されるように、カラーインクジェットヘッドのうち最大ヘッドは最も下流に位置する。
【0091】
他方、例えば評価7では、
図12(a)に示されるように、ラインヘッド20b、20c、20dがカラーインクジェットヘッドに相当する。そして、数平均粒子径141のインクY−1を吐出するラインヘッド20bが最大ヘッドに相当し、ラインヘッド20c、20dよりも上流(
図1参照)に位置する。
【0092】
評価8、9については詳しい説明を割愛するが、評価8、9においても、
図12(b)、
図12(c)に示されるように、カラーインクジェットヘッドのうち最大ヘッドは最下流に位置しない。
【0093】
本実施例では、
図9(a)〜
図11(b)に示されるように、評価1〜6の判定は「○」又は「◎」であった。一方、評価7〜9の判定は、
図12(a)〜
図12(c)に示されるように「×」であった。このように、評価1〜6では評価7〜9よりも高い画質が得られた。これは、浸透又は乾燥が不十分になり易い搬送方向下流のインクが最も径の大きい被覆粒子を含むことで、搬送ローラーへのインクの付着、ひいては搬送ローラーを介した紙Pへのインクの再付着が抑制されたためであると考えられる。
【0094】
本実施例では、
図9(a)〜
図11(b)に示されるように、評価1〜4、6の判定は「◎」であり、評価5の判定は「○」であった。以下、このことについて考察する。
【0095】
評価1〜4では、
図9(a)〜
図10(b)に示されるように、カラーインクが、インクC−1、M−1、Y−1(数平均粒子径103、118、141nm)の順で吐出されるようになっている。また、評価6では、
図11(b)に示されるように、カラーインクが、インクM−2、Y−2、C−2(数平均粒子径99、120、144nm)の順で吐出されるようになっている。このように、評価1〜4、6では、プリンター100のカラーインクジェットヘッドが、被覆粒子(樹脂で包まれた顔料粒子)の数平均粒子径が大きいインクを吐出するインクジェットヘッドほど搬送方向の下流に配置されている。そのため、吐出されるカラーインクは、搬送方向の下流に向かうにしたがって、被覆粒子の数平均粒子径が大きくなる。一方、評価5では、カラーインクジェットヘッドが上記のような配置になっていない。こうした構成の相違により、評価1〜4、6では、評価5よりも、インクの再付着に起因した印刷品質の低下が抑制されたと考えられる。
【0096】
本実施例では、
図9(a)〜
図10(b)に示されるように、ブラックインクジェットヘッド(ブラックインクを吐出するヘッド)の位置が上流にあっても下流にあっても、カラーインクジェットヘッド(黒以外の色のインクを吐出するヘッド)のうち最大ヘッドが最も下流に位置していれば、高い画質が得られた。これは、以下の理由によるものと考えられる。
【0097】
ブラックインクは、単独で使用されることが多い。このため、ドット(単位面積)あたりのインク量は100%(1つのヘッドの最大吐出量)以下になることが多い。一方、カラーインクは、他の色のインクと一緒に所定の色を作成(混色による色作成)するために使用されることが多い。このため、ドット(単位面積)あたりのインク量が100%(1つのヘッドの最大吐出量)を超えることが多くなる。上記のように、ブラックインクは、ドット(単位面積)あたりのインク量が少ないため、カラーインクよりも搬送ローラーに付着する量が少ないと考えられる。このため、インクの再付着に起因した印刷品質の低下は、主にカラーインクによって引き起こされる。こうした理由から、ブラックインクジェットヘッドよりもカラーインクジェットヘッドの配置が画質に大きく影響すると考えられる。
【0098】
インクセットにおいて、カラーインクにおける被覆粒子(樹脂で包まれた顔料粒子)の数平均粒子径の差は、最大となるインクの組み合わせで30nm以上であることが好ましい。こうしたインクセットを用いることで、上述したカラーインクジェットヘッドの配置による画質向上(インクの再付着に起因した印刷品質低下の抑制)の効果が顕著になる。例えばインクセットA〜E(評価1〜5)では、
図9(a)〜
図11(a)に示されるように、カラーインクにおける被覆粒子の数平均粒子径の差が最大となるインクの組み合わせはインクC−1(数平均粒子径103nm)とインクY−1(数平均粒子径141nm)であり、両者の数平均粒子径の差は38nmである。また、インクセットF(評価6)では、
図11(b)に示されるように、カラーインクにおける被覆粒子の数平均粒子径の差が最大となるインクの組み合わせはインクM−2(数平均粒子径99nm)とインクC−2(数平均粒子径144nm)であり、両者の数平均粒子径の差は45nmである。
【0099】
なお、上記実施例では、各ヘッドで使用するインクの色を変えるようにしたが、実際の製品(商品)では、各ヘッドが常に同じ色のインクを吐出することが望ましい。ユーザーにより各ヘッドで使用するインクの色を変更できるようにすると、混色により画質の低下が生じ易くなる。このため、例えばインクカートリッジの収容部の形状をヘッドごと(インクの色ごと)に変えて、各ヘッドに決められた色以外のインクカートリッジをセット(装填)できないようにすることが望ましい。
【0100】
本発明は、上記実施形態に限定されない。例えば以下のように変形して実施することもできる。
【0101】
上記実施形態において、プリンター100の構成(構成要素、寸法、材質、形状、又は配置等)は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意に変更又は割愛することができる。
【0102】
インクジェットヘッドはラインヘッドに限られず任意である。例えばインクジェットヘッドは、紙の搬送方向とは直交する方向に往復移動運動(シャトル運動)しながらインクを吐出するシリアルヘッドであってもよい。
【0103】
必要がなければブラックインクジェットヘッドを割愛して、画像形成部200をカラーインクジェットヘッドのみで構成するようにしてもよい。
【0104】
本発明のインクジェット記録装置は、カラープリンターに限られない。例えばスキャナー、複写機、プリンター、及びファクシミリ等の機能を有する複合機(複合的な画像形成装置)であってもよい。また、本発明のインクジェット記録装置は、画像形成以外の用途に用いてもよい。
【0105】
上記実施形態及び変形例は、任意に組み合わせることができる。