特許第6006769号(P6006769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6006769
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/08 20060101AFI20160929BHJP
【FI】
   A61B8/08
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-211882(P2014-211882)
(22)【出願日】2014年10月16日
(65)【公開番号】特開2016-77534(P2016-77534A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2015年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】園山 輝幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 敬章
【審査官】 門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/052400(WO,A1)
【文献】 特開2014−000260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 − 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送信信号を出力して被検体から超音波の受信信号を得る送受信部と、
超音波の受信信号に基づいて被検体内の複数箇所における組織の変位を測定する測定部と、
前記複数箇所において測定された組織の変位に基づいて、前記複数箇所における組織の変位の中の周期的な組織の変位を検出する検出部と、
を有し、
被検体内にせん断波を発生させる超音波のプッシュ波を送波してから、当該被検体に超音波のトラッキング波を送波し、
前記測定部は、トラッキング波により得られる超音波の受信信号に基づいて、せん断波の発生後における前記複数箇所の組織の変位を測定し、
前記検出部は、せん断波の発生後における前記周期的な組織の変位を検出する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項に記載の超音波診断装置において、
前記測定部により測定されたせん断波の発生後における前記複数箇所の組織の変位の測定結果から、前記検出部により検出された前記周期的な組織の変位を低減または除去した修正後の測定結果に基づいて、被検体内におけるせん断波の速度情報を得る、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超音波診断装置において、
前記測定部は、被検体内の複数箇所について、前記各箇所の受信信号に基づいて当該箇所における組織の変位を測定することにより、前記複数箇所において測定された変位を複数時刻に亘って示した変位データを生成し、
前記検出部は、変位データに基づいて、前記複数箇所において測定された変位の中から前記周期的な変位を検出する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項に記載の超音波診断装置において、
前記測定部は、一方軸に時刻を示して他方軸に前記複数箇所の位置を示した変位データを生成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項またはに記載の超音波診断装置において、
前記検出部は、変位データに基づいて前記各箇所における変位の時間的な変化を周波数解析し、判定条件を満たす極大の周波数成分が含まれる場合に、当該箇所における変位が周期的であると判定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項からのいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記測定部により生成された変位データに基づいて、前記複数箇所における変位を複数時刻に亘って示した表示画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項からのいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記測定部により変位が測定された前記複数箇所のうち、前記検出部により周期的な変位が検出された前記各箇所を明示した表示画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に、組織の変位を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体内における組織の変位を測定してその被検体内から診断情報を得る超音波診断装置が知られている。例えば、超音波を送波して被検体内にせん断波を発生させ、せん断波の伝搬に伴う組織の変位を超音波で測定し、せん断波の伝搬速度等に基づいて被検体内における組織の硬さ等の診断情報を得ることができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、互いに異なる複数の位置においてせん断波の変位を測定し、各位置において最大変位が得られた時刻に基づいて、せん断波の伝搬速度を算出する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第8118744号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した背景技術に鑑み、本願の発明者は、超音波診断装置により組織の変位を測定する技術について研究開発を重ねてきた。その研究開発の過程において、本願の発明者は、被検体内における微小血管の動きや血流が、組織の変位の測定に影響を及ぼすことに注目した。
【0006】
例えば、せん断波の伝搬速度の測定において、微小血管の動きや血流により、組織の変位が周期的にゆらいでしまい、伝搬速度の測定に影響を及ぼすことが判明した。特に、カラードプラ等の機能により描画されない微小血管もあり、そのような微小血管を避けつつせん断波の測定を行うことは極めて難しい。
【0007】
本発明は、上述した研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、超音波を利用した組織の変位の測定において周期的な変位を検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的にかなう好適な超音波診断装置は、超音波の送信信号を出力して被検体から超音波の受信信号を得る送受信部と、超音波の受信信号に基づいて被検体内における組織の変位を測定する測定部と、測定された組織の変位に基づいて周期的な変位を検出する検出部と、を有することを特徴とする。
【0009】
上記装置によれば、測定された組織の変位に基づいて周期的な変位が検出される。そのため、例えば、微小血管の動きや血流により周期的にゆらいでしまう変位を特定すること等が可能になる。
【0010】
望ましい具体例において、前記超音波診断装置は、被検体内にせん断波を発生させる超音波のプッシュ波を送波してから、当該被検体に超音波のトラッキング波を送波し、前記測定部は、トラッキング波により得られる超音波の受信信号に基づいて、せん断波の発生後における組織の変位を測定し、前記検出部は、せん断波の発生後における周期的な変位を検出する、ことを特徴とする。
【0011】
望ましい具体例において、前記超音波診断装置は、前記測定部により測定されたせん断波の発生後における変位の測定結果から、前記検出部により検出された周期的な変位を低減または除去した修正後の測定結果に基づいて、被検体内におけるせん断波の速度情報を得る、ことを特徴とする。
【0012】
望ましい具体例において、前記測定部は、被検体内の複数箇所について、各箇所の受信信号に基づいて当該箇所における組織の変位を測定することにより、複数箇所において測定された変位を複数時刻に亘って示した変位データを生成し、前記検出部は、変位データに基づいて、複数箇所において測定された変位の中から周期的な変位を検出する、ことを特徴とする。
【0013】
望ましい具体例において、前記測定部は、一方軸に時刻を示して他方軸に複数箇所の位置を示した変位データを生成する、ことを特徴とする。
【0014】
望ましい具体例において、前記検出部は、変位データに基づいて各箇所における変位の時間的な変化を周波数解析し、判定条件を満たす極大の周波数成分が含まれる場合に、当該箇所における変位が周期的であると判定する、ことを特徴とする。
【0015】
望ましい具体例において、前記超音波診断装置は、前記測定部により生成された変位データに基づいて、複数箇所における変位を複数時刻に亘って示した表示画像を形成する、ことを特徴とする。
【0016】
望ましい具体例において、前記超音波診断装置は、前記測定部により変位が測定された複数箇所のうち、前記検出部により周期的な変位が検出された各箇所を明示した表示画像を形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、超音波を利用した組織の変位の測定において周期的な変位を検出することができる。例えば、本発明の好適な態様によれば、微小血管の動きや血流により周期的にゆらいでしまう変位を特定すること等が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。
図2】せん断波の発生と変位の測定に係る具体例を説明するための図である。
図3】時空間マップの具体例を示す図である。
図4】ゆらぎの具体例を示す図である。
図5】ゆらぎの検出の具体例を説明するための図である。
図6】せん断波の伝搬速度の算出例を説明するための図である。
図7】表示画像の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。プローブ10は、被検体(生体)内の組織、例えば臓器等の診断対象を含む領域に対して超音波を送受する超音波探触子である。プローブ10は、各々が超音波を送受または送波する複数の振動素子を備えており、複数の振動素子が送信部12により送信制御されて送信ビームが形成される。
【0020】
また、プローブ10が備える複数の振動素子が、診断対象を含む領域内から超音波を受波し、これにより得られた信号が受信部14へ出力され、受信部14が受信ビームを形成して受信ビームに沿って受信信号(エコーデータ)が収集される。なお、プローブ10は例えばコンベックス型が望ましいもののリニア型等であってもよい。
【0021】
プローブ10は、診断対象となる組織を含む領域内においてせん断波を発生させる超音波(プッシュ波)を送波する機能と、せん断波に伴う組織の変位を測定する超音波(トラッキング波)を送受する機能と、画像形成用の超音波を送受する機能を備えている。
【0022】
超音波の送波は、送信部12によって制御される。せん断波を発生させる場合、送信部12は、プッシュ波の送信信号をプローブ10が備える複数の振動素子へ出力し、これにより、プッシュ波の送信ビームが形成される。また、せん断波を測定する場合、送信部12は、トラッキング波の送信信号をプローブ10が備える複数の振動素子へ出力し、これによりトラッキング波の送信ビームが形成される。さらに、超音波画像を形成する場合、送信部12は、画像形成用の送信信号をプローブ10が備える複数の振動素子へ出力し、これにより、画像形成用の送信ビームが走査される。
【0023】
また、受信部14は、プローブ10がトラッキング波を送受することにより複数の振動素子から得られる受波信号に基づいて、トラッキング波の受信ビームを形成し、その受信ビームに対応した受信信号を得る。さらに、受信部14は、プローブ10が画像形成用の超音波を送受することにより複数の振動素子から得られる受波信号に基づいて、画像形成用の受信ビームを形成しその受信ビームに対応した受信信号を生成する。
【0024】
画像形成用の超音波ビーム(送信ビームと受信ビーム)は、診断対象を含む二次元平面内において走査され、二次元平面内から画像形成用の受信信号が収集される。もちろん、画像形成用の超音波ビームが三次元空間内において立体的に走査され、三次元空間内から画像形成用の受信信号が収集されてもよい。
【0025】
画像形成部20は、受信部14において収集された画像形成用の受信信号に基づいて、超音波の画像データを形成する。画像形成部20は、例えば診断対象である臓器等の組織を含む領域のBモード画像(断層画像)の画像データを形成する。なお、画像形成用の受信信号が三次元的に収集されている場合に、画像形成部20は、三次元超音波画像の画像データを形成してもよい。
【0026】
変位測定部30は、受信部14から得られるトラッキング波の受信ビームに対応した受信信号に基づいて、被検体内のせん断波発生後における組織の変位を測定する。ゆらぎ検出部40は、変位測定部30から得られる変位の測定結果に基づいて周期的な変位を検出する。せん断波速度算出部50は、変位測定部30から得られる測定結果と、ゆらぎ検出部40から得られる検出結果に基づいて、被検体内におけるせん断波の伝搬速度を算出する。変位測定部30とゆらぎ検出部40とせん断波速度算出部50における処理については後に詳述する。
【0027】
表示処理部60は、画像形成部20から得られる超音波画像の画像データと、せん断波速度算出部50において得られる速度情報と、変位測定部30から得られる測定結果と、ゆらぎ検出部40から得られる検出結果に基づいて表示画像を形成する。表示処理部60において形成された表示画像は表示部62に表示される。
【0028】
制御部70は、図1に示す超音波診断装置内を全体的に制御する。図1の超音波診断装置は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、タッチパネル、その他のスイッチ類等で構成される操作デバイスを備えていることが望ましい。そして、制御部70による全体的な制御には、操作デバイス等を介してユーザから受け付けた指示も反映される。
【0029】
図1に示す構成(符号を付された各機能ブロック)のうち、送信部12,受信部14,画像形成部20,変位測定部30,ゆらぎ検出部40,せん断波速度算出部50,表示処理部60の各部は、例えば電気電子回路やプロセッサ等のハードウェアを利用して実現することができ、その実現において必要に応じてメモリ等のデバイスが利用されてもよい。なお、上記各部に対応した機能が、CPUやプロセッサやメモリ等のハードウェアと、CPUやプロセッサの動作を規定するソフトウェア(プログラム)との協働により実現されてもよい。また、表示部62の好適な具体例は液晶ディスプレイ等である。そして、制御部70は、例えば、CPUやプロセッサやメモリ等のハードウェアと、CPUやプロセッサの動作を規定するソフトウェア(プログラム)との協働により実現することができる。
【0030】
図1の超音波診断装置の全体構成は以上のとおりである。次に、図1の超音波診断装置によるせん断波の発生と変位の測定等について詳述する。なお、図1に示した各構成(各機能ブロック)については、以下の説明において図1の符号を利用する。
【0031】
図2は、せん断波の発生と変位の測定に係る具体例を説明するための図である。図2(A)には、プローブ10を利用して形成されるプッシュ波の送信ビームPと、トラッキング波の超音波ビームT1,T2の具体例が図示されている。
【0032】
図2(A)において、プッシュ波の送信ビームPは、X方向の位置pを通るように深さY方向に沿って形成される。例えば、図2(A)に示すX軸上の位置pを焦点としてプッシュ波の送信ビームPが形成される。位置pは、例えば、表示部62に表示される生体内の診断対象に関する超音波画像を確認した医師等のユーザ(検査者)により、所望の位置に設定される。
【0033】
位置pを焦点として送信ビームPが形成されてプッシュ波が送波されると、生体内において、位置pとその近傍において比較的強いせん断波が発生する。図2(A)は、位置pにおいて発生するせん断のX方向における伝搬速度を測定する具体例を示している。
【0034】
図2(A)の具体例では、トラッキング波の2本の超音波ビームT1,T2が形成される。超音波ビーム(送信ビームと受信ビーム)T1は、例えば図2(A)に示すX軸上の位置x1を通るように形成され、超音波ビーム(送信ビームと受信ビーム)T2は、例えば図2(A)に示すX軸上の位置x2を通るように形成される。位置x1と位置x2は、例えば、表示部62に表示される診断対象の超音波画像を確認したユーザにより所望の位置に設定されてもよいし、図1の超音波診断装置が、位置pからX方向に沿って所定の距離だけ離れた個所に位置x1と位置x2を設定してもよい。
【0035】
図2(B)は、プッシュ波の送信ビームPとトラッキング波の超音波ビームT1,T2の生成タイミングの具体例を示している。図2(B)の横軸は時間軸tである。
【0036】
図2(B)において、期間Pは、プッシュ波の送信ビームPが形成される期間であり、期間T1,T2は、それぞれ、トラッキング波の超音波ビームT1,T2が形成される期間である。
【0037】
期間P内においては、多数波のプッシュ波が送波される。例えば、期間P内において連続波の超音波が送波される。そして、例えば期間Pが終了した直後から位置pにおいてせん断波が発生する。
【0038】
期間T1,T2においては、1波から数波程度のいわゆるパルス波のトラッキング波が送波され、そのパルス波に伴う反射波が受波される。例えば位置x1,x2を通る超音波ビームT1,T2が形成され、位置x1,x2を含む複数の深さにおいて受信信号が得られる。つまり、超音波ビームT1,T2の各々について、複数の深さから受信信号が得られる。
【0039】
トラッキング波の送受は、複数の期間に亘って繰り返し行われる。つまり、図2(B)に示すように、期間T1,T2が交互に、例えばせん断波に伴う組織の変位が確認されるまで繰り返される。
【0040】
変位測定部30は、トラッキング波の超音波ビームT1の受信信号に基づいて、超音波ビームT1に関する時空間マップを形成し、トラッキング波の超音波ビームT2の受信信号に基づいて、超音波ビームT2に関する時空間マップを形成する。
【0041】
図3は、時空間マップの具体例を示す図である。変位測定部30は、トラッキング波の超音波ビームT1の受信信号に基づいて、複数の深さ(深さ方向の複数箇所)において、受信信号の位相変位を算出する。変位測定部30は、各深さごとに複数の時刻に亘って受信信号の位相変位(位相の微分値)を算出する。そして、変位測定部30は、横軸を時刻(時間軸)とし縦軸を深さとして、受信信号の位相変位をマッピングした時空間マップを形成する。
【0042】
図3に示す時空間マップの具体例では、時空間マップ内の輝度により受信信号の位相変位が表現されている。例えば、位相変位が正方向で絶対値が大きいほど高輝度(白)として、位相変位が負方向で絶対値が大きいほど低輝度(黒)とする。図3の具体例では、時刻0(ゼロ)から10ms(ミリ秒)の期間において、位相変位が高輝度(白)から低輝度(黒)に比較的大きく変化しており、この期間にせん断波が通過している。
【0043】
なお、図3の時空間マップは、あくまでも具体例の一つに過ぎず、輝度以外の表示態様により、例えば色により受信信号の位相変位が表現されてもよい。例えば、位相変位が正方向で絶対値が大きいほど赤を基調とした色とし、位相変位がゼロに近いほど緑を基調とした色とし、位相変位が負方向で絶対値が大きいほど青を基調とした色としてもよい。
【0044】
このように、変位測定部30は、トラッキング波の超音波ビームT1の受信信号に基づいて、超音波ビームT1に関する時空間マップを形成する。さらに、変位測定部30は、トラッキング波の超音波ビームT2の受信信号に基づいて、複数の深さにおいて受信信号の位相変位を算出して、超音波ビームT2に関する時空間マップを形成する。
【0045】
図2に戻り、せん断波速度算出部50は、位置pにおいて発生したせん断波の影響により変化する位置x1と位置x2における位相変位に基づいてせん断波のX軸方向の伝搬速度Vsを算出する。例えば、位置x1における位相変位が最大となる時刻t1と、位置x2における位相変位が最大となる時刻t2と、位置x1と位置x2の距離Δxと、に基づいて、せん断波のX軸方向の伝搬速度Vs=Δx/(t2−t1)が算出される。なお、せん断波の伝搬速度は、他の公知の手法を利用して算出されてもよい。さらに、せん断波の伝搬速度に基づいて、せん断波が測定された組織の弾性値などの弾性情報が算出されてもよいし、組織の情報として、粘弾性パラメータ、減衰、周波数特性などが導出されてもよい。
【0046】
図2(B)に示す測定セットVsnは、プッシュ波の送波が開始されてから、せん断波の伝搬速度が算出されるまでの期間である。測定セットVsnの終了後には、プローブ10をクーリングするための休止期間を設けることが望ましい。また、休止期間の後に、さらに次の測定セットVsnが開始されてもよい。
【0047】
なお、図2の具体例においては、プッシュ波の送信ビームPに対して、X軸の正方向側に、トラッキング波の超音波ビームT1,T2を形成しているが、プッシュ波の送信ビームPに対して、X軸の負方向側にトラッキング波の超音波ビームT1,T2を形成して、X軸の負方向側に伝搬するせん断波を測定するようにしてもよい。もちろん、プッシュ波の送信ビームPの位置pや、トラッキング波の超音波ビームT1,T2の位置x1,x2は、診断対象や診断状況等に応じて適切に設定されることが望ましい。
【0048】
ところで、せん断波の伝搬速度の測定においては、測定領域(関心領域)内における微小血管の動きや血流により、組織の変位が周期的にゆらいでしまい、この周期的なゆらぎがせん断波の伝搬速度の測定に影響を及ぼす場合がある。
【0049】
図4は、ゆらぎの具体例を示す図である。図4には、ゆらぎが発生した場合に得られる時空間マップの具体例が図示されている。図3に示す時空間マップと比較して、図4に示す時空間マップにおいては、深さ45mm(ミリメートル)付近において、ゆらぎが発生している。つまり、深さ45mm付近において、比較的長い期間(0〜30ms以上)に亘り、受信信号の位相変位が低輝度(黒)と高輝度(白)を周期的に繰り返しており、位相変位が周期的にゆらいでいる。
【0050】
そのため、深さ45mm付近においては、せん断波の通過に伴う位相変位の変化を特定することが困難であり、せん断波の伝搬速度を測定することができない。仮に、ゆらぎが発生している領域(深さ)においてせん断波の伝搬速度が測定できたとしても、測定結果の信頼性が懸念される。
【0051】
そこで、ゆらぎ検出部40は、変位測定部30における変位の測定結果に基づいて、周期的な変位であるゆらぎを検出する。
【0052】
図5は、ゆらぎの検出の具体例を説明するための図である。ゆらぎ検出部40は、変位測定部30から得られる時空間マップに基づいて、各深さにおける位相変位の時間的な変化を周波数解析し、ゆらぎに相当する周波数成分があるかどうかを確認する。
【0053】
図5には、位相変位の時間的な変化を周波数解析した結果が図示されている。図5において、横軸は周波数(Hz:ヘルツ)であり、縦軸はパワースペクトルの強度、つまり各周波数成分の強度(dB:デシベル)である。
【0054】
図5には、ゆらぎが発生している深さにおける「位相ゆらぎ」の周波数スペクトル(実線)と、ゆらぎが発生していない深さにおける「せん断波」の周波数スペクトル(破線)が示されている。
【0055】
「位相ゆらぎ」の周波数スペクトルには、特定の周波数、図5の具体例では100Hz付近に、強度の突出したピーク(極大)が現れる。これに対し、ゆらぎを含んでいない「せん断波」の周波数スペクトルには「位相ゆらぎ」のような突出したピークは現れない。そこで、ゆらぎ検出部40は、各深さにおける位相変化の周波数スペクトル内に、強度の突出したピークが存在する場合に、その深さにおける変位が周期的であり、その深さにゆらぎが発生していると判定する。ゆらぎ検出部40は、例えば、各深さにおける位相変化の周波数スペクトル内に、閾値を超える強度のピークが存在する場合に、その深さにゆらぎが発生していると判定する。
【0056】
なお、ゆらぎ検出部40は、周波数解析とは異なる処理でゆらぎを検出してもよい。例えば、時空間マップ内において、各深さごとに複数時刻に亘って位相変位の絶対値を加算し、各深さごとに得られる加算結果に基づいて、ゆらぎが発生している深さを特定してもよい。図4に例示したように、ゆらぎが発生している深さでは、比較的長い期間に亘って受信信号の位相変位が周期的に変動しているため、位相変位の絶対値の加算結果が比較的大きくなり、逆に、ゆらぎが発生していない深さでは受信信号の位相変位が0(ゼロ)となる期間が支配的であるため、位相変位の絶対値の加算結果が比較的小さくなる。そこでゆらぎ検出部40は、例えば、各深さごとに複数時刻に亘って位相変位の絶対値を加算して、各深さごとに得られる加算結果が判定閾値を超える場合に、その深さにおいてゆらぎが発生していると判定してもよい。また、時空間マップに対する画像解析処理により、ゆらぎが発生している画像部分(深さ)が判定されてもよい。
【0057】
ゆらぎ検出部40は、超音波ビームT1の時空間マップと超音波ビームT2の時空間マップのそれぞれにおいて、ゆらぎが発生している深さを検出する。そして、せん断波速度算出部50は、変位測定部30から得られる測定結果である時空間マップから、ゆらぎ検出部40において検出された、周期的な変位のゆらぎを低減して、望ましくはゆらぎを完全に除去して、せん断波の伝搬速度を算出する。
【0058】
図6は、せん断波の伝搬速度の算出例を説明するための図である。図6には、超音波ビームT1の時空間マップ(T1)と超音波ビームT2の時空間マップ(T2)が図示されている。
【0059】
せん断波速度算出部50は、時空間マップ内において位相変位のピークを特定する。例えば、せん断波速度算出部50は、時空間マップ内において各深さごとに位相変位が最大となる時刻を特定し、複数の深さにおいて位相変位が最大となるピーク時刻を特定する。
【0060】
図6に示す具体例において、時空間マップ(T1)内における白い実線がピーク時刻を示したトレースラインであり、時空間マップ(T2)内における白い破線がピーク時刻を示したトレースラインである。
【0061】
そして、図6に示すピークマップは、時空間マップ(T1)のトレースライン(実線)と時空間マップ(T2)のトレースライン(破線)を互いに時間軸を揃えて重ねたものである。
【0062】
せん断波速度算出部50は、各深さごとに、時空間マップ(T1)内のピーク時刻と時空間マップ(T2)内のピーク時刻との時間差ΔTを算出し、そして、各深さごとに、時間差ΔTに基づいて、せん断波の伝搬速度Vs=Δx/ΔTを算出する。Δxは、各深さにおける超音波ビームT1と超音波ビームT2との間の距離である。
【0063】
図6に示す速度マップは、時空間マップ(T1)と時空間マップ(T2)に基づいて算出される複数の深さにおけるせん断波の伝搬速度Vsを示している。図6の速度マップにおいて、縦軸は深さであり横軸が伝搬速度Vsである。
【0064】
せん断波速度算出部50は、複数の深さにおける伝搬速度Vsに基づいて、時空間マップ内の統計的な伝搬速度Vsを算出する。例えば、統計的な伝搬速度Vsとして、複数の深さにおける「平均値±標準偏差」が算出される。図6の具体例では、ゆらぎバンドを含む全深さから得られる統計的な伝搬速度Vs=0.2±1.5(m/s)と、ゆらぎバンドを除外した残りの深さから得られる統計的な伝搬速度Vs=1.3±0.2(m/s)が算出される。
【0065】
ゆらぎバンドは、時空間マップ(T1)と時空間マップ(T2)の少なくとも一方においてゆらぎが検出された複数の深さからなる領域(ゆらぎ部分)である。ゆらぎバンドにおいては、位相変位がゆらぎの影響を受けており、せん断波に伴う位相変位のピークが的確に特定できていない。例えば、図6の具体例において、せん断波は、超音波ビームT1側から超音波ビームT2側に向かって伝搬するため、せん断波の伝搬速度Vsは正(+)となる筈であるにも関わらず、ゆらぎバンドにおいては、せん断波に伴う位相変位のピークが的確に特定できていないため、伝搬速度Vsが負(−)となる算出結果も得られてしまう。したがって、ゆらぎバンドを含む統計的な伝搬速度Vsには、ゆらぎバンドにおける不的確な算出結果も反映されてしまう。
【0066】
これに対し、ゆらぎバンドを除外した統計的な伝搬速度Vsには、ゆらぎバンドにおける不的確な算出結果が反映されず、せん断波に伴う位相変位のピークが的確に特定できた複数の深さにおける統計的な伝搬速度Vsを得ることができる。したがって、ゆらぎバンドを除外した統計的な伝搬速度Vsにより、高精度な且つ安定した測定結果を得ることが可能になる。
【0067】
図7は、表示画像の具体例を示す図である。図7には、表示処理部60において形成されて表示部62に表示される表示画像の具体例が図示されている。図7の表示画像は、画像形成部20において形成されたBモード画像(断層画像)と、変位測定部30において形成された2つの時空間マップ(T1,T2)に基づいて形成され、例えば、休止期間(図2参照)に表示部62に表示される。
【0068】
Bモード画像内には、関心領域(ROI)が表示されてもよい。例えば、図7に示す具体例のように、関心領域(ROI)を示す矩形のマークが表示される。関心領域(ROI)は、せん断波の測定が行われた領域、つまり、2つの時空間マップ(T1,T2)が得られた領域である。
【0069】
さらに、関心領域(ROI)内には、ゆらぎ検出部40において検出されたゆらぎ部分(図6のゆらぎバンド)に対応した領域が明示される。例えば、関心領域(ROI)内において、ゆらぎ部分が模様や輝度や色等の表示態様により強調表示される。これにより、例えば、関心領域(ROI)内においてゆらぎ部分が大きい(広い)場合に、ユーザが関心領域(ROI)の位置を再設定するようにしてもよい。
【0070】
また、図7の具体例では、Bモード画像上に2つの時空間マップ(T1,T2)が表示されているものの、2つの時空間マップ(T1,T2)は、Bモード画像に重ならないように表示されてもよいし、例えばユーザからの指示に応じて表示と非表示が切り替えられてもよい。さらに、せん断波速度算出部50において算出された伝搬速度Vs、例えば、ゆらぎバンドを除外した統計的な伝搬速度Vs(図6)の算出結果が数値で表示されてもよい。参考情報として、ゆらぎバンドを含む統計的な伝搬速度Vs(図6)の算出結果が表示されてもよい。
【0071】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0072】
10 プローブ、12 送信部、14 受信部、20 画像形成部、30 変位測定部、40 ゆらぎ検出部、50 せん断波速度算出部、60 表示処理部、62 表示部、70 制御部。
図1
図2
図5
図3
図4
図6
図7