【実施例1】
【0021】
以下、
図1〜5を用いて、本発明の実施例1によるギヤポンプ1を説明する。なお、
図1は本発明の実施例1によるシール部材を備えたギヤポンプ1の基本構成を示す図であり、駆動軸に直角な方向の断面図である。
図2は
図1に示すギヤポンプのA−A断面図、
図3は
図2に示すギヤポンプのE−E断面図、
図4は
図1に示すギヤポンプのB−B断面図、
図5は
図1に示すギヤポンプのC−C断面図である。なお、
図1は
図2に示すギヤポンプのD−D断面図に相当する。
【0022】
図1及び
図2に示すように、ギヤポンプ1は、ポンプ組立体10を備える。ポンプ組立体10は、ドライブシャフト(駆動軸)2と、ドリブンシャフト(従動軸)3と、一対のギヤ4,4’と、駆動ピン5と、一対の側板6,6’と、シールブロック7とを備える。
【0023】
ドライブシャフト2は、外部の電動モータ等の駆動源(図示省略)に接続され、回転駆動する。ドリブンシャフト3は、一対のギヤ4,4’を介して、ドライブシャフト2から回転力が与えられて回転する。一対のギヤ4,4’は、
図2に示すように、それぞれドライブシャフト2とドリブンシャフト3に支持され、歯先同士が互いに噛み合う。駆動ピン5は、
図3に示すように、ドライブシャフト2、ドリブンシャフト3とギヤ4,4’がそれぞれ一体となって回るように、両シャフト2,3に挿入される。一対の側板6,6’は、
図2及び
図4に示すように、ギヤ4,4’の両側面に隣接して配置され、
図1及び
図3に示すように、シールブロック7と接触する接触面21を有する。シールブロック7は、
図1及び
図3に示すように、側板6,6’と接触面21で接触し、
図3に示すように、ギヤ4,4’の円周方向の一部を覆う(吸入ポート近傍における歯先に対向して配置される)。すなわち、シールブロック7は、ギヤ4,4’の円周方向の一定範囲において、ギヤ4,4’の歯先に近接する。
【0024】
図2に示すように、側板6は、ギヤ4の側面4b及びギヤ4’の側面4b’と隣接して配置されており、側板6’は、ギヤ4の側面4a及びギヤ4’の側面4a’と隣接して配置されている。ギヤ4,4’の側面4b、4b’が側板6に対して摺動可能に接触し、ギヤ4,4’の側面4a、4a’が側板6’に対して摺動可能に接触する。これにより、側板6,6’は、ギヤ4,4’の両側面をシールする。
【0025】
なお、側板6,6’は、それぞれ2つの貫通穴を有する。側板6,6’の貫通穴にドライブシャフト2とドリブンシャフト3を通すことによって、ドライブシャフト2とドリブンシャフト3の双方の軸が平行かつ所定の間隔をおいて支持される。
【0026】
側板6,6’は、部品の共通化が図れるように同一形状に形成されており、また、
図1に示すように、吸込用流通孔となる吸入ポート19を有する。また、
図3に示すように、吸入ポート19の近傍における側板6,6’の外縁の形状は、ギヤ4,4’の歯先で形成される円の外径とほぼ等しい円弧形状である。
【0027】
また、
図3に示すように、シールブロック7の側板6,6’との接触面は、側板6,6’の円弧形状の部分とほぼ同一の形状を有している。上述したように、シールブロック7と側板6,6’は、側板6,6’の接触面21にて密着する。
【0028】
ポンプ組立体10は、
図2に示すように、フロントケース11とリアケース12とからなるケース13に収容される。フロントケース11とリアケース12は、シールブロック7とは異なる部材で構成される。リアケース12は、
図1〜5に示すように、凹部12aを有している。
図2、
図4及び
図5に示すように、凹部12aの解放端部にフロントケース11が取り付けられることで、液を密封するための空間が形成される。
【0029】
ポンプ組立体10は、
図2、
図4及び
図5に示すように、ドライブシャフト2の延伸方向の両端面の側板の段差6a,6a’とシールブロックの段差7b,7b’にシール部材8,8’が設置され、シール部材8,8’を介してフロントケース11とリアケース12に挟まれ支持される。フロントケース11とリアケース12は、
図1に示すノックピン9によって互いの位置が合わされ、ボルト23によって締結される。なお、段差6a,6a’、段差7b,7b’は、側板6,6’の外周部、シールブロック7の内周部に形成された切り欠き部である。本実施例では、切り欠き部として、段差6a,6a’、段差7b,7b’を形成しているが、段差に代えて側板やシールブロックに溝を形成し、溝にシール部材8,8’を設置するようにしても良い。また、シール部材8,8’はゴムなどの弾性体で形成されている。
【0030】
リアケース12の凹部12aは、例えば
図1、
図3に示す形状を有し、
図1〜5に示すように、ポンプ組立体10とシール部材8,8’とを収納する。
【0031】
図1、
図3に示すように、リアケース12の凹部12aのシールブロック7と対向する面12bは、円筒面(ドライブシャフトの延伸方向に延びる円筒の内周面)の一部を形成している。シールブロック7のリアケース12の凹部12aと対向する面7aも円筒面(ドライブシャフトの延伸方向に延びる円筒の外周面)の一部を形成している。そのため、ポンプ組立体10は、円筒面であるリアケース凹部の対向面12bの円弧中心を通りドライブシャフト2に平行な直線を回転軸とし、この回転軸の回りに回転可能に拘束される。
【0032】
リアケース12の凹部12aには、
図1、
図3に示すように、内壁の一か所に突出部12cを設ける。
図1、
図3では、突出部12cは、ドライブシャフト2とドリブンシャフト3とを結ぶ方向(
図1、
図3の左右方向)において、ドライブシャフト2に対して、ポンプ組立体10の回転軸とは反対側にある部分、すなわち、ドライブシャフト2の左方で且つ下方に設けられている。但し、
図1、
図3に示す突出部12cを設けた位置は一例であり、これに限定されるものではない。
【0033】
突出部12cは、
図4に示すように、2枚の側板6,6’のうち一方(
図4ではフロントケース11から遠い方にある側板6’)と接触し、ポンプ組立体10が上述した回転軸の回りに回転するのを抑止する。本実施例では、側板6’は、ドライブシャフト2とドリブンシャフト3とを結ぶ方向(
図1、
図3の左右方向)において、ドライブシャフト2に対して、ポンプ組立体10の回転軸とは反対側にある部分が、リアケース12の凹部12aに設けた突出部12cと接触する。
【0034】
また、
図1、
図3及び
図5に示すように、シールブロック7が位置する方向へ側板6,6’を押圧するために、付勢機構14a,14bが設けられる。付勢機構14a,14bは、弾性体であり、例えばバネとピンにより構成される。付勢機構14a,14bは、
図1、
図3及び
図5に示すように、側板6,6’とリアケース凹部12aの内壁との間に配置される。
【0035】
付勢機構14aは、
図3に示すように、ドライブシャフト2とギヤ4の回転方向R1と同じ方向にポンプ組立体10を回転させるように配置され、側板6’を押圧する。すなわち、付勢機構14aは、ドライブシャフト2とドリブンシャフト3とを結ぶ方向(
図3の左右方向)において、ポンプ組立体10の回転軸に対して、突出部12cの位置(
図3の左側)とは反対側の位置(
図3の右側)に配置され、側板6’を押圧する。側板6’は、上述したように、リアケース12の凹部12aの突出部12cによって支えられる。
【0036】
付勢機構14bは、
図1に示すように、ドライブシャフト2とドリブンシャフト3とを結ぶ方向とドライブシャフト2の延伸方向とに垂直な方向(
図3の上下方向)において、ポンプ組立体10の回転軸に対して、シールブロック7の位置(
図3の上側)とは反対側の位置(
図3の下側)に配置され、側板6を押圧する。
【0037】
図1〜5に示す構成によって、ポンプ組立体10は、リアケース12の凹部12aの内部に、回転軸の回りに回転可能に収められる。ポンプ組立体10の回転は、付勢機構14aが側板6’をリアケース12の凹部12aの突出部12cに押圧することで、抑止される。これにより、ポンプ組立体10は、リアケース12の凹部12aの内部での位置が決められる。また、側板6は、リアケース12の凹部12aに接触せず、付勢機構14bによって押圧されて、接触面21でシールブロック7と密着した状態で位置が固定される。
【0038】
上記の構成によって、一方の側板6’は、ポンプ組立体10の位置を固定する役割を担い、他方の側板6は、リアケース12の凹部12aの対向面12bに保持されたシールブロック7に接触することで固定される。このため、加工誤差により、シールブロック7との接触面21の形状が2枚の側板6,6’の間でわずかに異なる場合でも、一方の側板が、他方の側板とシールブロック7との密着を阻害することがない。
【0039】
また、
図2、
図4及び
図5に示すように、フロントケース11は、リアケース12との接触面に溝15を有する。溝15には、ケースシール16が配置される。ケースシール16は、フロントケース11とリアケース12とを組み合わせた際に双方の間に生じ得る隙間をシールして、リアケース12内の液体が外部へ漏れるのを防止する。
【0040】
また、
図2、
図4及び
図5に示すように、フロントケース11には、リアケース12との接触面とは反対側の面(例えば、
図2における下面)に、凹部17が設けられる。凹部17には、オイルシール18が配設される。オイルシール18は、フロントケース11の凹部17に圧入され、外周面が凹部17の壁面と密着し、内周面に対してドライブシャフト2の外周面が摺動可能に接する。これにより、オイルシール18は、ドライブシャフト2とフロントケース11との間にできる隙間をシールし、ギヤポンプの駆動時に、ポンプ室内部の液体が外部に漏れ出さないようにしている。
【0041】
図5に示すように、吸入ポート19は、側板6,6’とシールブロック7とリアケース12とで形成される。また、リアケース12に形成された流路により、吐出ポート20が形成される。吐出ポート20は、
図1、
図3及び
図5に示すように、リアケース12の凹部12aと連通している。
【0042】
なお、吸入ポート19の上流には、ギヤポンプ1へ液体を供給するタンク(図示省略)等が接続される。吐出ポート20の下流には、バルブやシリンダ(図示省略)等が接続され、ポンプ吐出圧が調整される。また、ドライブシャフト2には、モータ等の駆動源(図示省略)が接続される。
【0043】
ギヤポンプ1を駆動した際には、リアケース12の凹部12aに、高圧領域と低圧領域とが形成される。この高圧領域と低圧領域は、以下に述べる各部品によって区画される。この各部品によるシールについて説明する。ギヤポンプ1は、ギヤ4,4’の噛み合い部、ギヤ4,4’の歯先とシールブロック7との近接面、ギヤ4,4’の側面4a,4b,4a’,4b’と側板6,6’との摺動接触面、シールブロック7と側板6,6’との接触面、並びにポンプ組立体10の端面とフロントケース11及びリアケース12との接触面をシールするためシール部材8,8’を設置する。このシール部材8,8’によって、吸入ポート19の周辺と吐出ポート20の周辺に差圧ができたときに液が連通しないように区画される。シール部材8,8’の内側が低圧領域となり、外側が高圧領域となる。
【0044】
次に、本実施例で用いるシール部材8,8’について説明する。シール部材8,8’はギヤポンプ1を組み立てた際に側板6,6’やケース13(フロントケース11またはリアケース12)の内面に密着させるため、側板の段差6a,6a’とフロントケース11またはリアケース12との隙間(
図2の上下方向)よりもシール部材8,8’の高さの方を大きくする。これによってギヤポンプ1を組立後、シール部材8,8’は駆動軸方向につぶされ、側板6,6’、フロントケース11、リアケース12と接触面圧を発生しながら密着する。
【0045】
本実施例で用いるシール部材8は、
図1に示す方向から見ると、ギヤ4,4’が噛合う部分に対応する位置を通過する部分81と、側板6,6’とシールブロック7が接触してシールを行う区間よりもギヤ回転中心寄りで、吸入ポート19の液を高圧領域に送り出す位置を通過する部分82の断面形状は、他の部分(圧力変動のない或いは少ない部分83や部分84)に比べて、側板6,6’の段差6a,6a’、シールブロックの段差7b,7b’の外側に向けて広くする。ここで、ギヤ4,4’噛合い部分に相当する位置は
図1に示すように実際に噛合っている部分だけではなく、ギヤ4,4’歯先が回転に伴って次第に近くなってくる領域もシール部材8の幅を広くするようにしてもよい。また、シール部材8の部分82は
図1のシール部材8の幅が広い部分に示すように、シールブロック7と側板6,6’の接触部からギヤ回転中心寄りの位置をシール部材8の輪郭方向にある程度の長さで幅を広くすることにしてもよい。
【0046】
シール部材8の部分83や部分84では、
図6(
図2のシール部材8の点線で囲った部分F、シール部材8の部分84の断面に相当)に示すように、例えばL形状の断面を有しており、シール部材を薄くする部分85を設け、つぶされた時にシール部材8が発生する側板6をギヤ4,4’へ押す力を低減する。本実施例では、シール部材の幅を薄くした部分を側板6側に形成し、厚くした部分86をフロントケース11側に形成しているが、シール部材の幅を厚くした部分を側板6側に形成し、薄くした部分86をフロントケース11側に形成しても良い。
【0047】
一方、シール部材8の部分81や部分82では、
図7(
図5のシール部材8の点線で囲った部分G、シール部材8の部分81の断面に相当)に示すようにシール部材8は段差6aの外側(
図7の下方)に広がった構造とする。これによってこの部分81は側板6をギヤ4,4’方向へ押す力が、部分83や部分84に比べて大きくなる。言い換えれば、本実施例では、圧力変動の大きい部分に相当する位置(領域)にあるシール部材が側板6をギヤ4,4’方向へ押す力が他の部分(圧力変動のない或いは少ない部分)に相当する位置(領域)にあるシール部材のそれよりも大きくするものであり、これをシール部材の幅を部分的に変えることにより実現している。本実施例ではシール部材の幅を部分的に変えて側板6をギヤ4,4’方向へ押す力を大きくする部分を設けることが重要なポイントであり、部分的に幅を大きくする範囲は圧力変動の大きさに応じて適宜決定される。また、本実施例では、
図1に示すように、例えば、シール部材の幅が部分81から部分84に移行する従って漸次幅が小さくなるように形成されているが、これに限定されるものではない。
【0048】
次に、本実施例に示すシール部材8,8’を有するギヤポンプ1の動作について説明する。ドライブシャフト2は、前記したようにモータ等の駆動源(図示省略)によって駆動される。ギヤ4は、ドライブシャフト2と一体となって回転するように支持されている。このため、ドライブシャフト2が
図3に示す回転方向R1へ回転すると、ギヤ4も回転方向R1へ回転する。ギヤ4’は、ギヤ4と歯先同士が噛み合っており、ドリブンシャフト3と一体となって回転する。このため、ギヤ4が回転方向R1へ回転すると、ギヤ4’は、回転方向R2へドリブンシャフト3と一体となって回転する。
【0049】
回転によりギヤ4,4’の噛合った歯が離れることで、吸入ポート19の周りの空間の体積が増え、これに伴って吸入ポート19から液が吸入される。吸入ポート19の周りの液は、ギヤ4,4’の回転によって、ギヤ4,4’の歯溝に収容されてギヤ4,4’の回転方向R1,R2に沿って搬送される。搬送された液は、ギヤ4,4’の回転に伴い、歯溝から流れ出る。
【0050】
前記したように、ギヤポンプ1の吸入ポート19の周辺と吐出ポート20の周辺は、各部品のシールにより液が連通しないようになっている。このため、歯溝から流れ出た液により吐出ポート20の周辺では圧力が上昇し、吐出ポート20から液が吐出される。
【0051】
このような動作を連続して行うことで、ギヤポンプ1は、シール部材8,8’の内側のみが低圧となり、それ以外の部分は高圧になる。
【0052】
ギヤ4,4’の噛合い部分では回転角度によってギヤ同士が2点で接触した状態なる場合がある。この状態では2枚のギヤ4,4’の歯溝と側板6,6’によって囲まれた領域(閉じ込み領域)ができ、ギヤ4,4’の回転により、容積が減少して、その後増加する。この閉じ込み領域の容積は小さいため、微小な容積変化で大きな圧力変動が引き起こされ、この圧力を受ける側板6,6’はギヤ4,4’の側面から引きはがされる方向(
図2の上下方向)に大きな力を受ける。また、噛合い部で圧力変化が起きる箇所は、側板の重心からずれた位置にあり、シール部材8は
図1に示すようにドライブシャフト2とドリブンシャフト3の中心を通る直線に対して非対称な輪郭を持つ。そのため、シール部材8が全体で同じ断面形状を持ち、軽い力で側板6,6’をギヤ4,4’方向へ押すように構成した場合、側板6,6’は噛合い部での圧力によって傾きながらギヤ4,4’の側面から離れ、ギヤポンプ1の低圧領域と高圧領域が連通し、容積効率が低下する可能性がある。
【0053】
また、ギヤ4,4’の歯先はシールブロック7によって一部区間がシールされるが、
図3に示すようにギヤ4,4’の角度によっては、より吸入ポート19に近い位置まで高圧の液体が入り込む。この場合も、側板6,6’がギヤ4,4’の側面から引きはがされる方向に力を受け、先のギヤ4,4’噛合い部と同じように側板6,6’とギヤ4,4’の間に隙間ができて高圧領域と低圧領域が連通する可能性がある。
【0054】
これらの課題に対して、本実施例の構成は、ギヤが噛合う部分に対応する位置(圧力変化が起こる箇所の直上に相当する位置)にあるシール部材8の一部(部分81)を他の部分(部分83,84)に比べて側板6の段差6aの外側に広げた構造としている。
【0055】
この部分81が側板6を押す力は他の部分(部分83,84)と比べて大きくなる。例えば部分81のシール部材8が発生する力を、ギヤ4,4’の噛合い部の閉じ込み領域における圧力上昇による力よりも大きくなるように設計することで、側板6,6’がギヤ4,4’から引きはがされないため、容積効率が低下しない。
【0056】
また、例えばシール部材8の全体を側板6の段差の外側に広げた形状とした場合にも大きな押付力が側板6に作用し、側板6とギヤ4,4’の間に隙間ができることがないが、本実施例の構成のようにシール部材8による押付力を部分的に大きくした方が、ギヤ4,4’に全体作用する力が小さく抑えられ、トルクの増加を最小に抑えることができる。
【0057】
また、先に述べたように側板6はギヤ4,4’の噛合い部での圧力上昇を受けて傾きながら浮き上がると予想される。このため、浮き上がろうとする力が作用している箇所を押さえつける方が、より効果的にギヤ4,4’と側板6の隙間ができないようにできる。
【0058】
また、側板6、シールブロック7とケース13(フロントケース11またはリアケース12)の製造誤差によって側板6あるいはシールブロック7の段差とケース13(フロントケース11またはリアケース12)の間の隙間が個体によって変化するため、シール部材8全体で押付力が大きくなるように全輪郭でシール部材8の幅を広げると、ギヤポンプ1の駆動トルクが個体によって大きくばらつく可能性がある。しかし、本実施例の構成によればシール部材8の一部の幅のみを広げるため、ギヤポンプ1の駆動トルクのばらつきは小さい。
【0059】
さらに、側板6,6’が樹脂などの弾性率の低い材料で形成されている場合、シール部材8全輪郭の幅を広げて押付力を大きくした場合、側板6,6’が変形し、歯車4,4’噛合い部に対して十分な力が作用しない可能性がある。しかし、本実施例の構成によれば、噛合い部分の近くを押さえるため効果的に力を作用させることができる。
【0060】
また、噛合い部分と同様に、
図1に示すように、側板6,6’とシールブロック7が接触している区間よりもギヤ4,4’の回転中心寄りの領域を通過するシール部材8の一部(部分82)についても側板6,6’段差の外側方向に断面を広げた形状としている。ここで、側板6,6’とシールブロック7が接触している区間よりもギヤ4,4’の回転中心寄りの領域とするのは、高圧液がギヤ4,4’の歯溝に入るためであり、歯先から歯底の間に相当する部分である回転中心寄りの領域に押付力を作用させた方がより効果的に側板6,6’の浮き上がりを阻止できる。
【0061】
この構成によって先に説明した歯車4,4’噛合い部の場合と同様に側板6,6’を引きはがす力が作用する場所についてシール部材8が側板を押す力を強くすることができる。これによって、ポンプ駆動中に側板が引きはがされなくなるため、容積効率が低下せず、トルクの上昇についても先のギヤ4,4’閉じ込み部と同様に最小にとどめることが可能である。
【0062】
また、シール部材8の部分81,82を側板6の溝の外側に広げた構成とするのは、側板6を引きはがそうとする力は面で作用するため、シール部材8の部分81,82も同様に面で押さえるためである。これにより、側板6の浮き上がりを確実に阻止できる。
【0063】
なお、本実施例では、ギヤ4,4’の噛合い部分に相当する部分81と歯先シール部分に相当する部分82の両方について、シール部材8の断面形状が側板6,6’の段差の外側に広がるようにしているが、どちらか一方の断面形状のみ幅を変える(大きくする)構成としても良い。例えば、より大きな圧力変動が生じる部分に相当する部分のみ幅を大きくすることにより、駆動トルクの増大を抑制しながら容積効率の低下を抑制することができる。
【0064】
また、シール部材8の幅を広げる部分の断面形状を、
図7に示すように側板6、フロントケース11側で同じだけ広げるのではなく、
図8や
図9(左側)のように側板6,6’の段差からフロントケース11間で一部の幅が広くなるようにしてもほぼ同等の効果を得ることができる。
【0065】
また、
図9の左側はフロントケース11とリアケース12が組み立てられる前のシール部材8の断面の状態で、右側はフロントケース11とリアケース12がケース13として組み立てられた後の状態を示す。
図9に示すようにシール部材8を側板6の段差の外側に広げるのは側板6の段差とケース13の隙間の高さ分(
図9の寸法A)だけとする。このような構成とすることで、側板6を引きはがす力が作用する箇所で、微小に側板6がギヤ4,4’から浮き上がった瞬間にシール部材8の幅を広げた部分87が力を発生するので、浮き上がる量を最小限に抑えることができる。そのため、先に説明した構成とほぼ同等の効果を得ることができる。また、
図9の構成の場合、駆動トルクの増大をより抑制することができる
また、本実施例ではシール部材8を同一の材料で形成する場合を説明したが、一部の材料を変更することにより、押付力を部分的に変更(大きく)するようにしてもよい。例えば、本実施例で説明した側板6,6’の段差の外側に広げる部分81,82を弾性率の高い材料で形成することにより、この部分で大きな力を発生させ、側板6,6’をギヤ4,4’に大きな力で押し付ける構成としてもほぼ同じ効果を得ることができる。
【実施例6】
【0097】
図20、
図21を用いて本発明のギヤポンプ1を適用したアクチュエータに関する実施例6について説明する。
【0098】
本発明のギヤポンプ1は例えば
図20に示すロボットなどの車輪601を操舵するためのアクチュエータの油圧源として用いることができる。ロボットの車輪601の操舵部600は、
図20に示すように、油圧力によってロッド602を伸縮させて車輪601の舵角を調整するシリンダ603と、シリンダ603へ油圧力を供給する油圧コントロール部604、それを制御するコントロールユニット605、入力装置606、センサ607を備える。また、油圧コントロール部604は、
図21に示すように、電動モータ608とギヤポンプ1、ポンプへ油を供給するタンク609、バルブユニット610から構成される。
【0099】
この構成を持つ操舵部600は、操作者の入力やセンサ607の情報に基づいてコントロールユニット605で制御指令値を生成し、その指令値により電動モータ608を駆動してギヤポンプ1により作動油を昇圧する。そして、バルブユニット610を動作させ、作動油をシリンダ603へ供給するルートを決めることで、シリンダ603を伸縮し、ロッド602の先に取り付けられた車輪601の舵角を操作する。
【0100】
本発明のギヤポンプ1を用いれば実施例5と同様に大型の電動モータを用いる必要がない。そのため、シリンダ603に取り付けられる油圧コントロール部604が小型になり、設置が容易となる。
【0101】
本発明のギヤポンプ1を用いた構成は、ロボット、建設機械、自動車など様々な機械のアクチュエータの油圧源として利用することができる。
【0102】
以上説明したように、本発明は、いろいろな解決手段を含んでいるが、本発明をギヤポンプに適用した構成例は次のように纏めることができる。
(1) 互いに噛み合い、駆動源によって回転駆動されるギヤ、前記ギヤの側面に隣接して配置される側板、前記側板と接触し、前記ギヤの円周方向の一部と接触するシールブロックを備えるポンプ組立体と、前記ポンプ組立体を収容するケースと、前記側板と前記シールブロックの前記ギヤとは反対側に形成された切り欠き部(段差または溝)に沿って設置され、ケースとの間で密着し、ケース内部の高圧部分と低圧部分を区画するシール部材とを備え、前記ポンプ組立体が前記ケース内に組み込まれた時に、前記シール部材の一部は、シール部材の輪郭の法線方向、かつ、対向する前記ケースと前記側板に垂直な面の断面形状が、前記シール部材の他の部分の断面形状と異なる。
(2) (1)において、前記シール部材の前記断面形状が異なる部分は、前記ギヤの噛合う部分に対応する位置である。
(3) (1)において、前記シール部材の前記断面形状が異なる部分は、前記シールブロックが前記側板と接触している区間(前記シールブロックが前記ギヤの円周方向の一部を覆う区間でもある)の前記ギヤ回転中心寄りの領域を通過する部分である。
(4) (1)において、前記シール部材の前記断面形状が異なる部分は、前記側面の反りなどに起因して、前記ギヤ側面と前記側板間で生じた隙間に対応する位置である。
(5) (1)〜(4)の何れかにおいて、前記シール部材の断面形状が異なる部分は、他の部分よりも前記側板或いは前記シールブロックの溝又は段差の外側に広がった断面形状を有する。
(6) (1)〜(4)の何れかにおいて、前記シール部材の断面形状が異なる部分は、他の部分よりも前記側板の溝の深さ又は段差の高さ方向の高さが大きい断面形状を有する。
(7) (1)〜(4)の何れかにおいて、前記シール部材の一部は、前記シール部材の前記断面形状が異なる部分に代えて、弾性率の異なる材料を用いて形成される。または、前記シール部材の一部は、前記シール部材の断面形状が異なる部分が、さらに弾性率の異なる材料を用いて形成される。
(8) (1)〜(4)の何れかにおいて、前記シール部材に代えて、実質的に全体を一様に形成したシール部材を用い、前記シール部材の前記断面形状が異なる部分に対応する前記側板の溝又は段差が他の部分に比べて浅く形成される。
【0103】
また、本発明の構成例の効果を纏めると次のようになる。
(1) ポンプ駆動中に側板をギヤ側面から引きはがそうとする力が作用する場所に対して、シール部材の一部が大きな荷重を発生するため、側板がギヤ側面から引きはがされることがなく、ポンプの容積効率が低下することがない。また、局所的なポンプの圧力変動の影響に対して必要な箇所に限定してシール部材が発生する力を大きくするため、側板の浮き上がりを防止するために側板に作用させる力が必要最低限でよい。また、シールブロックまたは側板の切り欠き部(段差または溝)の高さが製造誤差によって異なる場合、シール部材の全輪郭で断面形状の幅を変更して力を大きくする場合と比較して、シール部材が発生する側板を押しつける力の差が小さく、ギヤポンプ毎の駆動トルク個体差が少ない
(2) 小さな隙間が大きな容積効率低下の原因となる小型ポンプや、側板が樹脂などの剛性の低い部材で構成されるギヤポンプに対して、特に効果を発揮し、高効率なギヤポンプを実現できる。本発明を適用したギヤポンプは、小型モータで高応答かつ高圧力で駆動することができるため、ギヤポンプを搭載したアクチュエータを含むシステム全体を小型化することが可能となる。
【0104】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加,削除,置換をすることが可能である。
【0105】
例えば、実施例1〜実施例4に記載のシール部材の形状に加えて、圧力変動が大きい箇所などに対応する部分を弾性率の高い材料で形成することにより、部分的に押し付け力をより大きくするようにしても良い。また、実施例1と実施例2に記載のシール部材の形状を併せ持つようにしても良い。また、実施例1,2,4に記載にシール部材の形状と、実施例3に記載の側板などの段差の形状を組み合わせるようにしても良い。
【0106】
また、例えば、液体の流れから逆にギヤを動かすギヤモータにも同様に本発明が適用される。また、上述の実施例では、二つの外歯ギヤを組み合わせた外接型のギヤポンプについて説明したが、内歯ギヤと外歯ギヤを組み合わせた内接型ギヤポンプにも同様に適用できる。これらの場合においても、圧力変動が起きる箇所、すなわち、ギヤの噛み合わせ部分などに相当する部分のシール部材の幅などを大きくして側板をギヤ側に押す力を部分的に大きくするようにすることにより、上述の実施例と同様な効果が得られる。