【実施例】
【0056】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、正極活物質としてのカーボンコートされたLiFePO
4粉末(宝泉株式会社製、商品名:SLFP−PD60)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(電気化学株式会社製、商品名:デンカブラックHS−100)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンと、溶媒としてのN−メチル−2−ピロリジノンとを混合し、自転・公転ミキサーで撹拌することにより、ペーストを調製した。
【0057】
次に、前記ペーストを、ドクターブレードを用いるキャスティング法により、ステンレス箔からなる正極集電体2a上に成膜し、乾燥させて溶媒を除去することにより正極2を形成した。
【0058】
次に、水酸化リチウム一水和物、酸化ランタン、酸化ジルコニウムを、Li:La:Zr=7.7:3:2のモル比となるように混合し、900℃に6時間保持した後、さらに1050℃に6時間保持して、化学式Li
7La
3Zr
2O
12で表されガーネット型構造を備える複合金属酸化物の粒子を得た。
【0059】
次に、前記Li
7La
3Zr
2O
12の粒子と、結着剤としてのカルボキシメチルセルロース水溶液とを、Li
7La
3Zr
2O
12:カルボキシメチルセルロース=98:2の質量比で混合し、自転・公転ミキサーで撹拌することにより、ペーストを調製した。
【0060】
次に、前記ペーストを、ドクターブレードを用いるキャスティング法により、正極2上に塗布し、乾燥させて、化学式Li
7La
3Zr
2O
12で表されガーネット型構造を備える複合金属酸化物からなる無機固体電解質層4を形成した。
【0061】
次に、原料モノマーとして、アクリロニトリルと、メタクリル酸メチルと、酢酸ビニルとを、50:25:25のモル比となるようにして混合し、原料混合液を得た。次に、前記原料混合液に、乳化剤としてのドデシル硫酸ナトリウム水溶液を加えてエマルジョンを調製し、該エマルジョンに重合開始剤としての過硫酸ナトリウム水溶液を加えて乳化重合によるラジカル重合を行い、前記原料モノマーを付加重合により共重合させた。
【0062】
この結果、8個の炭素原子が単結合により結合している主鎖を備え、該主鎖を構成する炭素原子のうち2個の炭素原子にそれぞれ1個ずつのアクリロニトリル由来のシアノ基(−CN)と水素原子とが結合し、他の1個の炭素原子にメタクリル酸メチル由来のエステル結合を含む有機基(−COOCH
3)とメチル基(−CH
3)とが結合し、さらに他の1個の炭素原子に酢酸ビニル由来のエステル結合を含む有機基(−OCOCH
3)と水素原子とが結合し、他の4個の炭素原子にそれぞれ2個ずつの水素原子が結合している構造を繰り返し単位とする高分子が得られた。前記繰り返し単位は、シアノ基を含む有機基とエステル結合を含む有機基との合計モル数に対するシアノ基を含む有機基の割合が50モル%となっている。
【0063】
前記高分子を構成する繰り返し単位として、例えば、次式(1)の構成を備えるものを挙げることができる。尚、式中nは50〜500である。
【0064】
【化1】
【0065】
次に、前記高分子をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解して高分子溶液を調製し、該高分子溶液を、ドクターブレードを用いるキャスティング法により、無機固体電解質層4上に塗布し、乾燥させて、高分子膜を形成した。
【0066】
次に、正極集電体2aと正極2と無機固体電解質層4と前記高分子膜とからなる積層体を直径16.5mmの円形に加工し、1軸プレスにより加圧して一体化した。そして、前記積層体を、前記高分子膜が上になるようにして有底筒状のコインセル部材内に収容した。
【0067】
次に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを3:7の体積比で混合した混合溶媒に、LiPF
6を溶解して調製した電解液を前記高分子膜上に滴下して、該高分子膜に該電解液が含浸された高分子層5を形成した。
【0068】
次に、負極集電体3aとしての直径15mmのステンレスメッシュ付きスペーサに、直径15mm、厚さ0.05mmのリチウム金属箔を貼り付けて負極3を形成した。
【0069】
次に、高分子層5上に、負極3を、負極集電体3aが上になるようにして配設し、前記コインセル部材の蓋部材で閉蓋し、該コインセル部材と該蓋部材とをかしめることによりリチウムイオン二次電池1を得た。
【0070】
次に、本実施例で得られたリチウムイオン二次電池1を多チャンネル充放電試験装置(東洋システム株式会社製、商品名:TOSCAT−3000)に装着した。次に、25℃において、正極2と負極3との間に0.2mA/cm
2の電流密度でセル電圧が3.9Vになるまで充電した後に、セル電圧が2.5Vになるまで放電する定電流充放電操作を5サイクル繰り返してエージングを行った。
【0071】
次に、電流密度を0.5mA/cm
2として、セル電圧が3.9Vになるまで充電した後に、セル電圧が2.5Vになるまで放電する定電流充放電操作を45サイクル繰り返し、初回からの合計で50サイクルの定電流充放電操作を行った。
【0072】
このとき、充放電挙動が安定した10サイクル目の放電容量に対する20サイクル目及び50サイクル目の放電容量維持率を算出して、サイクル性能を評価した。結果を表1に示す。
【0073】
〔実施例2〕
本実施例では、原料モノマーとして、アクリロニトリルと、メタクリル酸メチルと、酢酸ビニルとを、33:33:33のモル比となるようにして混合して、前記高分子膜を形成した以外は、実施例1と全く同一にしてリチウムイオン二次電池1を得た。
【0074】
前記高分子膜を構成する高分子は、6個の炭素原子が単結合により結合している主鎖を備え、該主鎖を構成する炭素原子のうち1個の炭素原子に1個ずつのアクリロニトリル由来のシアノ基(−CN)と水素原子とが結合し、他の1個の炭素原子にメタクリル酸メチル由来のエステル結合を含む有機基(−COOCH
3)とメチル基(−CH
3)とが結合し、さらに他の1個の炭素原子に酢酸ビニル由来のエステル結合を含む有機基(−OCOCH
3)と水素原子とが結合し、他の3個の炭素原子にそれぞれ2個ずつの水素原子が結合している構造を繰り返し単位とする。前記繰り返し単位は、シアノ基を含む有機基とエステル結合を含む有機基との合計モル数に対するシアノ基を含む有機基の割合が33モル%となっている。
【0075】
前記高分子を構成する繰り返し単位として、例えば、次式(2)の構成を備えるものを挙げることができる。尚、式中nは50〜500である。
【0076】
【化2】
【0077】
次に、本実施例で得られたリチウムイオン二次電池1を用いた以外は、実施例1と全く同一にしてサイクル性能を評価した。結果を表1に示す。
【0078】
〔実施例3〕
本実施例では、原料モノマーとして、アクリロニトリルと、メタクリル酸メチルと、酢酸ビニルとを、66:17:17のモル比となるようにして混合して、前記高分子膜を形成した以外は、実施例1と全く同一にしてリチウムイオン二次電池1を得た。
【0079】
前記高分子膜を構成する高分子は、12個の炭素原子が単結合により結合している主鎖を備え、該主鎖を構成する炭素原子のうち4個の炭素原子にそれぞれ1個ずつのアクリロニトリル由来のシアノ基(−CN)と水素原子とが結合し、他の1個の炭素原子にメタクリル酸メチル由来のエステル結合を含む有機基(−COOCH
3)とメチル基(−CH
3)とが結合し、さらに他の1個の炭素原子に酢酸ビニル由来のエステル結合を含む有機基(−OCOCH
3)と水素原子とが結合し、他の6個の炭素原子にそれぞれ2個ずつの水素原子が結合している構造を繰り返し単位とする。前記繰り返し単位は、シアノ基を含む有機基とエステル結合を含む有機基との合計モル数に対するシアノ基を含む有機基の割合が66モル%となっている。
【0080】
前記高分子を構成する繰り返し単位として、例えば、次式(3)の構成を備えるものを挙げることができる。尚、式中nは50〜500である。
【0081】
【化3】
【0082】
次に、本実施例で得られたリチウムイオン二次電池1を用いた以外は、実施例1と全く同一にしてサイクル性能を評価した。結果を表1に示す。
【0083】
〔実施例4〕
本実施例では、まず、実施例1と全く同一にして正極2と無機固体電解質層4とを形成し、正極集電体2aと正極2と無機固体電解質層4とからなる積層体を直径16.5mmの円形に加工し、1軸プレスにより加圧して一体化した。そして、前記積層体を、前記高分子膜が上になるようにして有底筒状のコインセル部材内に収容した。
【0084】
次に、実施例1と全く同一の高分子溶液を、ドクターブレードを用いるキャスティング法によりガラス基板上に塗布し乾燥させて高分子膜を形成し、該高分子膜を直径17mmの円形に加工して、正極2上に配設した。次に、実施例1と全く同一の電解液を前記高分子膜上に滴下して、該高分子膜に該電解液が含浸された高分子層5を形成した。
【0085】
次に、実施例1と全く同一にして負極3を形成し、高分子層5上に、負極3を、負極集電体3aが上になるようにして配設し、前記コインセル部材の蓋部材で閉蓋し、該コインセル部材と該蓋部材とをかしめることによりリチウムイオン二次電池1を得た。
【0086】
次に、本実施例で得られたリチウムイオン二次電池1を用いた以外は、実施例1と全く同一にしてサイクル性能を評価した。結果を表1に示す。
【0087】
〔比較例〕
本比較例では、無機固体電解質層4の上に高分子膜を配置せず、高分子層5を全く形成しなかった以外は実施例4と全く同一にしてリチウムイオン二次電池を形成した。
【0088】
次に、本比較例で得られたリチウムイオン二次電池を用いた以外は、実施例1と全く同一にしてサイクル性能を評価した。結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1から、負極3と無機固体電解質層4との間に電解液を含浸させた高分子層5を備える実施例1〜4のリチウムイオン二次電池によれば、放電容量維持率が20サイクル目では10サイクル目に対して99%、50サイクル目でも10サイクル目に対して73〜99%であり、高分子層5を全く備えていない比較例のリチウムイオン二次電池に比較して、優れたサイクル性能を備えていることが明らかである。
【0091】
また、高分子層5を構成する高分子の繰り返し単位において、シアノ基を含む有機基とエステル結合を含む有機基との合計モル数に対するシアノ基を含む有機基の割合が50モル%となっている実施例1及び実施例4のリチウムイオン二次電池1によれば、放電容量維持率が50サイクル目でも10サイクル目に対して99%であり、さらに優れたサイクル性能を備えていることが明らかである。