特許第6007211号(P6007211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6007211-リチウムイオン二次電池 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6007211
(24)【登録日】2016年9月16日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20160929BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20160929BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20160929BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20160929BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20160929BHJP
【FI】
   H01M10/058
   H01M10/0585
   H01M10/0562
   H01M10/052
   H01M10/0565
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-138695(P2014-138695)
(22)【出願日】2014年7月4日
(65)【公開番号】特開2016-18606(P2016-18606A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2015年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】出野 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優基
(72)【発明者】
【氏名】西面 和希
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 勇人
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−214494(JP,A)
【文献】 特開2012−014892(JP,A)
【文献】 特開昭60−001768(JP,A)
【文献】 特開平11−273452(JP,A)
【文献】 特開2008−156629(JP,A)
【文献】 特開2000−021449(JP,A)
【文献】 特開平10−247417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極と、該正極と該負極との間に配設されたリチウムイオン伝導性を備える無機固体電解質層とを備えるリチウムイオン二次電池において、
該負極と該無機固体電解質層との間に、リチウム塩と該リチウム塩を溶解することができる有機溶媒とからなる電解液が含浸された高分子層を備え、
該高分子層を構成する高分子は、33〜66モル%の範囲のアクリロニトリルと、17〜33モル%の範囲のメタクリル酸メチルと、17〜33モル%の範囲の酢酸ビニルとを共重合した高分子であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
請求項1記載のリチウムイオン二次電池において、前記リチウム塩を溶解することができる有機溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒であることを特徴とするリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンが電気伝導を担うリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含む正極と、金属リチウム又はリチウム合金からなりリチウムイオンを活物質とする負極とを備え、該正極と該負極との間に電解質層を備えるリチウムイオン二次電池が知られている。前記従来のリチウムイオン二次電池は、前記電解質層に、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた有機系電解液等の電解液が用いられるが、該電解液は電池から漏洩する虞がある。
【0003】
そこで、前記電解質層として硫化物系固体電解質等のリチウムイオン伝導性を有する固体電解質を用いることが考えられる。前記リチウムイオン二次電池は、前記電解質層として前記固体電解質を用いることにより前記電解液の漏洩を避けることができる。
【0004】
しかし、前記リチウムイオン二次電池は、前記負極と前記固体電解質との界面が固体と固体との界面であるため、リチウムイオン伝導に対する接触抵抗が大きく、このため充放電を繰り返したときに初期の放電容量を維持するサイクル性能に乏しいという問題がある。
【0005】
前記問題を解決するために、前記負極と前記固体電解質からなる前記電解質層との間に、リチウムイオン伝導性高分子からなるバッファー層を介在させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1記載のリチウムイオン二次電池によれば、前記リチウムイオン伝導性高分子として、ポリオキシエチレン鎖を主鎖とするポリエーテルを用いることにより、サイクル性能を向上させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−129316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載のリチウムイオン二次電池は、1回目の放電容量に対する10回目の放電容量の維持率を80%以上とすることができるに過ぎず、さらにサイクル性能を向上させることが望まれる。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑み、優れたサイクル性能を備えるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
特許文献1記載のリチウムイオン二次電池において、十分にサイクル性能を向上させることができない理由としては、前記負極と前記バッファー層との界面又は、該バッファー層と前記固体電解質との界面が、依然としていずれも固体と固体との界面であるため、リチウムイオン伝導に対する接触抵抗が大きくなるものと考えられる。
【0011】
そこで、前記バッファー層を構成する前記リチウムイオン伝導性高分子に前記電解液を含浸させることが考えられる。ところが、前記リチウムイオン伝導性高分子は、前記電解液に溶解してしまうとの不都合がある。
【0012】
本発明者は、前記不都合を解消するために検討を進めた結果、互いに単結合により結合された複数の炭素原子の少なくとも1つの炭素原子にシアノ基を含む有機基が結合している構造を繰り返し単位とする高分子によれば、前記電解液に溶解することがないことを見い出し、本発明に到達した。
【0013】
そこで、本発明は前記目的を達成するために、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極と、該正極と該負極との間に配設されたリチウムイオン伝導性を備える無機固体電解質層とを備えるリチウムイオン二次電池において、該負極と該無機固体電解質層との間に、リチウム塩と該リチウム塩を溶解することができる有機溶媒とからなる電解液が含浸された高分子層を備え、該高分子層を構成する高分子は、33〜66モル%の範囲のアクリロニトリルと、17〜33モル%の範囲のメタクリル酸メチルと、17〜33モル%の範囲の酢酸ビニルとを共重合した高分子であることを特徴とする。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池によれば、33〜66モル%の範囲のアクリロニトリルと、17〜33モル%の範囲のメタクリル酸メチルと、17〜33モル%の範囲の酢酸ビニルとを共重合した高分子により前記高分子層を構成しているので、該高分子層に前記電解液を含浸させることができる。そこで、本発明のリチウムイオン二次電池では、前記負極と前記高分子層との界面及び、該高分子層と前記無機固体電解質層との界面に前記電解液を存在させることができ、該電解液により両界面におけるリチウムイオン伝導に対する接触抵抗を低減することができる。
【0015】
この結果、本発明のリチウムイオン二次電池によれば、充放電を繰り返したときにも初期の放電容量を維持することができ、優れたサイクル性能を得ることができる。
【0022】
また、本発明のリチウムイオン二次電池において、前記リチウム塩を溶解することができる有機溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒であることが好ましい。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記高分子に前記有機溶媒を含む電解液を含浸させたときに、該高分子が該電解液に溶解することがないので、優れたサイクル性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のリチウムイオン二次電池の構成を示す概略的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含む正極2と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極3と、正極2と負極3との間に配設された無機固体電解質層4とを備える。また、負極3と無機固体電解質層4との間には高分子層5が配設されており、高分子層5には電解液が含浸されている。
【0027】
さらに、正極2の外側には正極集電体2aが配設されており、負極3の外側には負極集電体3aが配設されている。
【0028】
正極2は、前記正極活物質と、導電助剤と、結着剤と、溶媒とを混合して調製したペーストを、ドクターブレードを用いるキャスティング法により正極集電体2a上に成膜した後、乾燥させて該溶媒を除去することにより形成することができる。
【0029】
前記正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO等のリチウム含有複合金属酸化物、LiFePO、LiMnPO等のリチウム含有リン酸化合物、LiFeBO等のリチウム含有ホウ酸化合物、CuS、LiS等の硫化物、FeF等のハロゲン化金属等を挙げることができる。
【0030】
前記導電助剤としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、フレーク状の銅粉末などを挙げることができ、前記結着剤としては、例えば、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム等を挙げることができる。また、前記溶媒としては、例えば、蒸留水、N−メチル−2−ピロリジノン等を挙げることができる。
【0031】
正極集電体2aとしては、例えば、アルミニウム箔又はステンレス箔を挙げることができる。
【0032】
負極3は、負極活物質としての金属リチウムの薄膜を負極集電体3aに圧着させることにより形成することができる。また、負極3は、金属リチウム以外の負極活物質と、導電助剤と、結着剤と、溶媒とを混合して調製したペーストを、ドクターブレードを用いるキャスティング法により負極集電体3a上に成膜した後、乾燥させて該溶媒を除去することにより形成することもできる。
【0033】
前記金属リチウム以外の負極活物質としては、例えば、リチウム合金、シリコン、スズ、シリコン又はスズを含む酸化物、シリコン又はスズの合金、カーボン等を挙げることができる。
【0034】
前記導電助剤としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、フレーク状の銅粉末などを挙げることができ、前記結着剤としては、例えば、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム等を挙げることができる。また、前記溶媒としては、例えば、蒸留水、N−メチル−2−ピロリジノン等を挙げることができる。
【0035】
負極集電体3aとしては、例えば、銅、ステンレス等からなる箔又は板を挙げることができる。
【0036】
無機固体電解質層4は、リチウムイオン伝導性を有する無機粒子と、結着剤と、溶媒とを混合して調製したペーストを、正極2上に塗布した後、乾燥させて該溶媒を除去することにより形成することができる。
【0037】
前記リチウムイオン伝導性を有する無機粒子としては、例えば、化学式Li7−yLa3−xZr2−y12(式中、0≦x<3、0≦y<2であり、MはNb又はTaである)で表され、ガーネット型構造を備える複合金属酸化物を挙げることができる。
【0038】
前記結着剤としては、リチウムイオン二次電池1の作動電圧において安定な、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ポリイミド、アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。前記結着剤は、単独で又は、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0039】
また、前記溶媒としては、例えば、蒸留水、N−メチル−2−ピロリジノン等を挙げることができる。
【0040】
高分子層5は、互いに単結合により結合された複数の炭素原子の少なくとも1つの炭素原子にシアノ基(−CN)を含む有機基が結合し、且つ該複数の炭素原子の少なくとも1つの炭素原子にエステル結合(−COO−又は−OCO−)を含む有機基が結合している構造を繰り返し単位とする高分子により構成されている
【0044】
前記高分子は、ビニル基にシアノ基を含む有機基が結合している構造を備えるモノマーと、ビニル基にエステル基を含む有機基が結合している構造を備えるモノマーとを付加重合により共重合させることにより得ることができる。前記付加重合は、ラジカル重合により行うことができ、該ラジカル重合は液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等により行うことができるが、重合反応物の均一性や取り扱いが容易である点から乳化重合により行うことが好ましい。
【0045】
前記高分子において、前記繰り返し単位中で主鎖を形成する炭素原子数は4〜20であればよく、繰り返し回数は50〜500であればよい。
【0046】
また、前記高分子において、前記繰り返し単位は、シアノ基を含む有機基とエステル結合を含む有機基との合計モル数に対するシアノ基を含む有機基の割合は33〜66モル%の範囲である。
【0047】
前記ビニル基にシアノ基を含む有機基が結合している構造を備えるモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、2−ブテンニトリル、3−ブテンニトリル、2−ペンテンニトリル、3−ペンテンニトリル、4−ペンテンニトリル等を挙げることができる。
【0048】
また、前記ビニル基にエステル基を含む有機基が結合している構造を備えるモノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル等を挙げることができる。
【0049】
高分子層5は、前記高分子を有機溶媒に溶解して調製した高分子溶液を、ドクターブレードを用いるキャスティング法により平滑な板上に成膜した後、乾燥させて該溶媒を除去することにより高分子膜とし、該高分子膜に電解液を含浸させることにより形成することができる。
【0050】
前記高分子膜は、前記高分子溶液を無機固体電解質層4に塗布した後、乾燥させて該溶媒を除去することにより形成してもよい。この場合には、前記高分子膜と無機固体電解質層4とが一体化した積層体を得ることができる。
【0051】
記高分子を溶解する有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等を挙げることができる。
【0052】
前記電解液は、リチウム塩と、該リチウム塩を溶解できる有機溶媒とからなる。
【0053】
前記リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiCFSO、LiN(CFSO等を挙げることができる。
【0054】
また、前記リチウム塩を溶解できる有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等の環状エステル、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の鎖状エステルを挙げることができる。前記リチウム塩を溶解できる有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0055】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0056】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、正極活物質としてのカーボンコートされたLiFePO粉末(宝泉株式会社製、商品名:SLFP−PD60)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(電気化学株式会社製、商品名:デンカブラックHS−100)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンと、溶媒としてのN−メチル−2−ピロリジノンとを混合し、自転・公転ミキサーで撹拌することにより、ペーストを調製した。
【0057】
次に、前記ペーストを、ドクターブレードを用いるキャスティング法により、ステンレス箔からなる正極集電体2a上に成膜し、乾燥させて溶媒を除去することにより正極2を形成した。
【0058】
次に、水酸化リチウム一水和物、酸化ランタン、酸化ジルコニウムを、Li:La:Zr=7.7:3:2のモル比となるように混合し、900℃に6時間保持した後、さらに1050℃に6時間保持して、化学式LiLaZr12で表されガーネット型構造を備える複合金属酸化物の粒子を得た。
【0059】
次に、前記LiLaZr12の粒子と、結着剤としてのカルボキシメチルセルロース水溶液とを、LiLaZr12:カルボキシメチルセルロース=98:2の質量比で混合し、自転・公転ミキサーで撹拌することにより、ペーストを調製した。
【0060】
次に、前記ペーストを、ドクターブレードを用いるキャスティング法により、正極2上に塗布し、乾燥させて、化学式LiLaZr12で表されガーネット型構造を備える複合金属酸化物からなる無機固体電解質層4を形成した。
【0061】
次に、原料モノマーとして、アクリロニトリルと、メタクリル酸メチルと、酢酸ビニルとを、50:25:25のモル比となるようにして混合し、原料混合液を得た。次に、前記原料混合液に、乳化剤としてのドデシル硫酸ナトリウム水溶液を加えてエマルジョンを調製し、該エマルジョンに重合開始剤としての過硫酸ナトリウム水溶液を加えて乳化重合によるラジカル重合を行い、前記原料モノマーを付加重合により共重合させた。
【0062】
この結果、8個の炭素原子が単結合により結合している主鎖を備え、該主鎖を構成する炭素原子のうち2個の炭素原子にそれぞれ1個ずつのアクリロニトリル由来のシアノ基(−CN)と水素原子とが結合し、他の1個の炭素原子にメタクリル酸メチル由来のエステル結合を含む有機基(−COOCH)とメチル基(−CH)とが結合し、さらに他の1個の炭素原子に酢酸ビニル由来のエステル結合を含む有機基(−OCOCH)と水素原子とが結合し、他の4個の炭素原子にそれぞれ2個ずつの水素原子が結合している構造を繰り返し単位とする高分子が得られた。前記繰り返し単位は、シアノ基を含む有機基とエステル結合を含む有機基との合計モル数に対するシアノ基を含む有機基の割合が50モル%となっている。
【0063】
前記高分子を構成する繰り返し単位として、例えば、次式(1)の構成を備えるものを挙げることができる。尚、式中nは50〜500である。
【0064】
【化1】
【0065】
次に、前記高分子をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解して高分子溶液を調製し、該高分子溶液を、ドクターブレードを用いるキャスティング法により、無機固体電解質層4上に塗布し、乾燥させて、高分子膜を形成した。
【0066】
次に、正極集電体2aと正極2と無機固体電解質層4と前記高分子膜とからなる積層体を直径16.5mmの円形に加工し、1軸プレスにより加圧して一体化した。そして、前記積層体を、前記高分子膜が上になるようにして有底筒状のコインセル部材内に収容した。
【0067】
次に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを3:7の体積比で混合した混合溶媒に、LiPFを溶解して調製した電解液を前記高分子膜上に滴下して、該高分子膜に該電解液が含浸された高分子層5を形成した。
【0068】
次に、負極集電体3aとしての直径15mmのステンレスメッシュ付きスペーサに、直径15mm、厚さ0.05mmのリチウム金属箔を貼り付けて負極3を形成した。
【0069】
次に、高分子層5上に、負極3を、負極集電体3aが上になるようにして配設し、前記コインセル部材の蓋部材で閉蓋し、該コインセル部材と該蓋部材とをかしめることによりリチウムイオン二次電池1を得た。
【0070】
次に、本実施例で得られたリチウムイオン二次電池1を多チャンネル充放電試験装置(東洋システム株式会社製、商品名:TOSCAT−3000)に装着した。次に、25℃において、正極2と負極3との間に0.2mA/cmの電流密度でセル電圧が3.9Vになるまで充電した後に、セル電圧が2.5Vになるまで放電する定電流充放電操作を5サイクル繰り返してエージングを行った。
【0071】
次に、電流密度を0.5mA/cmとして、セル電圧が3.9Vになるまで充電した後に、セル電圧が2.5Vになるまで放電する定電流充放電操作を45サイクル繰り返し、初回からの合計で50サイクルの定電流充放電操作を行った。
【0072】
このとき、充放電挙動が安定した10サイクル目の放電容量に対する20サイクル目及び50サイクル目の放電容量維持率を算出して、サイクル性能を評価した。結果を表1に示す。
【0073】
〔実施例2〕
本実施例では、原料モノマーとして、アクリロニトリルと、メタクリル酸メチルと、酢酸ビニルとを、33:33:33のモル比となるようにして混合して、前記高分子膜を形成した以外は、実施例1と全く同一にしてリチウムイオン二次電池1を得た。
【0074】
前記高分子膜を構成する高分子は、6個の炭素原子が単結合により結合している主鎖を備え、該主鎖を構成する炭素原子のうち1個の炭素原子に1個ずつのアクリロニトリル由来のシアノ基(−CN)と水素原子とが結合し、他の1個の炭素原子にメタクリル酸メチル由来のエステル結合を含む有機基(−COOCH)とメチル基(−CH)とが結合し、さらに他の1個の炭素原子に酢酸ビニル由来のエステル結合を含む有機基(−OCOCH)と水素原子とが結合し、他の3個の炭素原子にそれぞれ2個ずつの水素原子が結合している構造を繰り返し単位とする。前記繰り返し単位は、シアノ基を含む有機基とエステル結合を含む有機基との合計モル数に対するシアノ基を含む有機基の割合が33モル%となっている。
【0075】
前記高分子を構成する繰り返し単位として、例えば、次式(2)の構成を備えるものを挙げることができる。尚、式中nは50〜500である。
【0076】
【化2】
【0077】
次に、本実施例で得られたリチウムイオン二次電池1を用いた以外は、実施例1と全く同一にしてサイクル性能を評価した。結果を表1に示す。
【0078】
〔実施例3〕
本実施例では、原料モノマーとして、アクリロニトリルと、メタクリル酸メチルと、酢酸ビニルとを、66:17:17のモル比となるようにして混合して、前記高分子膜を形成した以外は、実施例1と全く同一にしてリチウムイオン二次電池1を得た。
【0079】
前記高分子膜を構成する高分子は、12個の炭素原子が単結合により結合している主鎖を備え、該主鎖を構成する炭素原子のうち4個の炭素原子にそれぞれ1個ずつのアクリロニトリル由来のシアノ基(−CN)と水素原子とが結合し、他の1個の炭素原子にメタクリル酸メチル由来のエステル結合を含む有機基(−COOCH)とメチル基(−CH)とが結合し、さらに他の1個の炭素原子に酢酸ビニル由来のエステル結合を含む有機基(−OCOCH)と水素原子とが結合し、他の6個の炭素原子にそれぞれ2個ずつの水素原子が結合している構造を繰り返し単位とする。前記繰り返し単位は、シアノ基を含む有機基とエステル結合を含む有機基との合計モル数に対するシアノ基を含む有機基の割合が66モル%となっている。
【0080】
前記高分子を構成する繰り返し単位として、例えば、次式(3)の構成を備えるものを挙げることができる。尚、式中nは50〜500である。
【0081】
【化3】
【0082】
次に、本実施例で得られたリチウムイオン二次電池1を用いた以外は、実施例1と全く同一にしてサイクル性能を評価した。結果を表1に示す。
【0083】
〔実施例4〕
本実施例では、まず、実施例1と全く同一にして正極2と無機固体電解質層4とを形成し、正極集電体2aと正極2と無機固体電解質層4とからなる積層体を直径16.5mmの円形に加工し、1軸プレスにより加圧して一体化した。そして、前記積層体を、前記高分子膜が上になるようにして有底筒状のコインセル部材内に収容した。
【0084】
次に、実施例1と全く同一の高分子溶液を、ドクターブレードを用いるキャスティング法によりガラス基板上に塗布し乾燥させて高分子膜を形成し、該高分子膜を直径17mmの円形に加工して、正極2上に配設した。次に、実施例1と全く同一の電解液を前記高分子膜上に滴下して、該高分子膜に該電解液が含浸された高分子層5を形成した。
【0085】
次に、実施例1と全く同一にして負極3を形成し、高分子層5上に、負極3を、負極集電体3aが上になるようにして配設し、前記コインセル部材の蓋部材で閉蓋し、該コインセル部材と該蓋部材とをかしめることによりリチウムイオン二次電池1を得た。
【0086】
次に、本実施例で得られたリチウムイオン二次電池1を用いた以外は、実施例1と全く同一にしてサイクル性能を評価した。結果を表1に示す。
【0087】
〔比較例〕
本比較例では、無機固体電解質層4の上に高分子膜を配置せず、高分子層5を全く形成しなかった以外は実施例4と全く同一にしてリチウムイオン二次電池を形成した。
【0088】
次に、本比較例で得られたリチウムイオン二次電池を用いた以外は、実施例1と全く同一にしてサイクル性能を評価した。結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1から、負極3と無機固体電解質層4との間に電解液を含浸させた高分子層5を備える実施例1〜4のリチウムイオン二次電池によれば、放電容量維持率が20サイクル目では10サイクル目に対して99%、50サイクル目でも10サイクル目に対して73〜99%であり、高分子層5を全く備えていない比較例のリチウムイオン二次電池に比較して、優れたサイクル性能を備えていることが明らかである。
【0091】
また、高分子層5を構成する高分子の繰り返し単位において、シアノ基を含む有機基とエステル結合を含む有機基との合計モル数に対するシアノ基を含む有機基の割合が50モル%となっている実施例1及び実施例4のリチウムイオン二次電池1によれば、放電容量維持率が50サイクル目でも10サイクル目に対して99%であり、さらに優れたサイクル性能を備えていることが明らかである。
【符号の説明】
【0092】
1…リチウムイオン二次電池、 2…正極、 3…負極、 4…無機固体電解質層、 5…高分子層。
図1