特許第6007435号(P6007435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6007435-鋳造用塗型剤 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6007435
(24)【登録日】2016年9月23日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】鋳造用塗型剤
(51)【国際特許分類】
   B22C 3/00 20060101AFI20160929BHJP
   B22C 9/04 20060101ALI20160929BHJP
【FI】
   B22C3/00 D
   B22C9/04 L
   B22C9/04 A
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-220635(P2012-220635)
(22)【出願日】2012年10月2日
(65)【公開番号】特開2014-73504(P2014-73504A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】506199237
【氏名又は名称】岡崎ヒュッテナス・アルバータス化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−102826(JP,A)
【文献】 特開2002−336937(JP,A)
【文献】 特開平03−180244(JP,A)
【文献】 特開2010−131665(JP,A)
【文献】 特開昭62−144846(JP,A)
【文献】 特開平10−259329(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0108088(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 3/00, 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗型基材、有機粘結剤及び無機粘結剤の少なくとも一種、及び溶剤を含む鋳造用塗型剤であって、
前記塗型基材中に、塗型基材全質量に対しウォラストナイト(CaO・SiO2)を1〜15質量%含有することを特徴とする、鋳造用塗型剤。
【請求項2】
フルモールド鋳造法または消失模型鋳造法に使用する発泡模型に塗布するための請求項1に記載の鋳造用塗型剤。
【請求項3】
溶湯温度1300℃〜1400℃において使用する鋳造用塗型剤では、塗型基材全質量に対しウォラストナイトを2〜15質量%含み、1400℃〜1500℃において使用する鋳造用塗型剤では、ウォラストナイトを2〜10質量%含み、更に1500℃〜1600℃において使用する鋳造用塗型剤では、ウォラストナイトを1〜5質量%含むことを特徴とする、請求項1又は2記載の鋳造用塗型剤。
【請求項4】
塗型基材として、シリカ(石英、溶融シリカ)、ジルコン、ジルコニア、マグネシア、オリビン、スピネル、アルミナ、シャモット、ムライト、アンダルサイト、カイヤナイト、シリマナイト、タルク、クロマイト、雲母、陶石、黒曜石、パーライト、ガラス粉末、琺瑯フリット、珪藻土、蝋石、バーミキュライト、膨張頁岩、ばん土頁岩、黒鉛、炭素、ギルソナイト、酸化チタン、酸化鉄(Fe2O3、Fe3O4)、酸化マンガン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭化珪素、窒化珪素、及び窒化硼素からなる群より選択した1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳造用塗型剤。
【請求項5】
無機粘結剤として、モンモリロナイト系粘土、カオリナイト系粘土、セピオライト系粘土、アタパルジャイト、スメクタイト、有機ベントナイト、木節粘土、蛙目粘土、耐火粘土、水ガラス、珪酸カリウム、珪酸リチウム、重リン酸アルミニウム、リン酸ナトリウム、シリカゾル、アルミナゾル、及びジルコニアゾルからなる群より選択した1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の鋳造用塗型剤。
【請求項6】
有機粘結剤として、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコン樹脂、ブタジエン系合成ゴム、エポキシ樹脂及びそれらのエマルジョン、フッ素樹脂、ロジン、ロジン変性樹脂、マレイン酸樹脂、ダンマル樹脂、マスチック樹脂、ポリビニルアルコール、コーパル、セラック、デンプン、デキストリン、糖蜜、及び糖からなる群より選択した1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の鋳造用塗型剤。
【請求項7】
更に、シリコン、テルル、ビスマス、アルミ、マンガン、コバルト、銅、亜鉛等の金属粉末及びそれら金属を含む合金鉄、フェロシリコンマグネシウム等の黒鉛球状化剤、硫黄、耐火基材の湿潤剤、分散剤、鋳型浸透剤、消泡剤等の界面活性剤、増粘剤、防腐剤、顔料、及び染料かなる群より選択した1種以上の添加剤を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の鋳造用塗型剤。
【請求項8】
溶剤として、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール、トルエン、キシレン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ケトン、エステル、エーテル、ミネラルスピリット、及び水からなる群より選択した1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に鋳造用塗型剤。
【請求項9】
フルモールド鋳造法または消失模型鋳造法であって、請求項1〜8のいずれか一項に記載の鋳造用塗型剤を消失模型に塗布して塗型膜を作成し、1300℃以上の溶湯により消失模型を置換することを含む、上記鋳造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型を用いて鋳造を行う方法において、鋳型表面や模型表面等に塗布するための塗型剤に関する。本発明は、特にフルモールド法や消失模型鋳造法に用いられる発泡模型の表面に塗布される塗型剤に関し、優れた耐焼着性と共に、残渣欠陥も少なくするようにした鋳造用塗型剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳型を用いて行う鋳造方法として、フルモールド法及び消失模型鋳造法という、ポリスチレンやポリメタクリル酸メチル等の発泡模型に塗型剤を施し、乾燥後に砂中に埋没して注湯を行う方法が知られている。発泡模型は金属溶湯の熱で分解し、消失して溶湯と置換されるため、発泡模型と同形の鋳物が得られる。従来より、フルモールド法や消失模型鋳造法に用いられる発泡模型の表面には、鋳肌を保護したり、焼き付きを防止する目的で、塗型剤が塗布されている。
このとき、塗型の通気性が低いと焼着が少ないものの、発泡模型の分解生成物が鋳物に残った欠陥(以下、「残渣欠陥」という)が発生し易い。一方、塗型の通気性が高いと残渣欠陥は低減するが、焼着が発生し易くなる。
消失模型鋳造法に用いる発砲樹脂模型の塗型材として、例えば、鋳造欠陥発生の抑制を目的としてガラス繊維を添加した塗型材や(特許文献1)、鋳物の焼着を誘因する塗型膜のひび割れを防ぐことを目的として所定の粒子径のシリカゾルを添加した塗型膜(特許文献2)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願平02−007792号公報
【特許文献2】特開2002−321036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、フルモールド法はプレス金型だけでなく一般産業機械用鋳物にまで適用範囲が拡大し、残渣欠陥の低減が求められている。また、消失模型鋳造法においても、水道関連鋳物だけでなく、エンジン部品等の重要部品にまで適用され始めており、より欠陥が発生しにくい塗型剤が求められている。
しかし、上記したように塗型の通気性を単に向上させると、焼着の発生が多くなり、鋳物の仕上げ工数が多くなって生産性が悪くなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、塗型の通気性を高くして残渣欠陥を低減すると共に、焼着も防止可能な鋳造用塗型膜及びそれを製造するための鋳造用塗型剤を提供することである。
本発明の第1の態様は、塗型基材と、有機粘結剤及び無機粘結剤の少なくとも一種とを含む鋳造用塗型剤であって、
前記塗型基材中に、塗型基材全質量に対してウォラストナイト(和名:珪灰石、英名:Wollastonite、化学式:CaSiO3)を含有している鋳造用塗型剤である。
ウォラストナイトを添加することにより、残渣欠陥の低減と耐焼着性の双方が良好な塗型剤を得ることができることを見いだし、本発明は完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明は以下を提供する。
1.塗型基材、有機粘結剤及び無機粘結剤の少なくとも一種、及び溶剤を含む鋳造用塗型剤であって、前記塗型基材中に、塗型基材全質量に対しウォラストナイト(CaO・SiO2)を含有することを特徴とする、鋳造用塗型剤。
2.フルモールド鋳造法または消失模型鋳造法に使用する発泡模型に塗布するための上記1に記載の鋳造用塗型剤。
3.塗型基材全質量に対しウォラストナイト(CaO・SiO2)を1〜15質量%含有することを特徴とする、上記1又は2記載の鋳造用塗型剤。
4.塗型基材として、シリカ(石英、溶融シリカ)、ジルコン、ジルコニア、マグネシア、オリビン、スピネル、アルミナ、シャモット、ムライト、アンダルサイト、カイヤナイト、シリマナイト、タルク、クロマイト、雲母、陶石、黒曜石、パーライト、ガラス粉末、琺瑯フリット、珪藻土、蝋石、バーミキュライト、膨張頁岩、ばん土頁岩、黒鉛、炭素、ギルソナイト、酸化チタン、酸化鉄(Fe2O3、Fe3O4)、酸化マンガン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭化珪素、窒化珪素、及び窒化硼素からなる群より選択した1種以上を含有することを特徴とする上記1〜3のいずれか一に記載の鋳造用塗型剤。
5.無機粘結剤として、モンモリロナイト系粘土、カオリナイト系粘土、セピオライト系粘土、アタパルジャイト、スメクタイト、有機ベントナイト、木節粘土、蛙目粘土、耐火粘土、水ガラス、珪酸カリウム、珪酸リチウム、重リン酸アルミニウム、リン酸ナトリウム、シリカゾル、アルミナゾル、及びジルコニアゾルからなる群より選択した1種以上を含有することを特徴とする上記1〜4のいずれか一に記載の鋳造用塗型剤。
6.有機粘結剤として、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコン樹脂、ブタジエン系合成ゴム、エポキシ樹脂及びそれらのエマルジョン、フッ素樹脂、ロジン、ロジン変性樹脂、マレイン酸樹脂、ダンマル樹脂、マスチック樹脂、ポリビニルアルコール、コーパル、セラック、デンプン、デキストリン、糖蜜、及び糖からなる群より選択した1種以上を含有することを特徴とする上記1〜5のいずれか一に記載の鋳造用塗型剤。
7.更に、シリコン、テルル、ビスマス、アルミ、マンガン、コバルト、銅、亜鉛等の金属粉末及びそれら金属を含む合金鉄、フェロシリコンマグネシウム等の黒鉛球状化剤、硫黄、耐火基材の湿潤剤、分散剤、鋳型浸透剤、消泡剤等の界面活性剤、増粘剤、防腐剤、顔料、及び染料かなる群より選択した1種以上の添加剤を含有することを特徴とする上記1〜6のいずれか一に記載の鋳造用塗型剤。
8.溶剤として、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール、トルエン、キシレン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ケトン、エステル、エーテル、ミネラルスピリット、及び水からなる群より選択した1種以上を含有することを特徴とする上記1〜7のいずれか一に鋳造用塗型剤。
9.フルモールド鋳造法または消失模型鋳造法であって、上記1〜8のいずれか一に記載の鋳造用塗型剤を消失模型に塗布して塗型膜を作成し、1300℃以上の溶湯により消失模型を置換することを含む、上記鋳造法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の塗型剤により製造された塗型膜は、溶湯と接するまで高い通気性を保持して、発泡模型の分解生成物の排出に寄与し、その後、金属溶湯(1300℃以上)と接すると軟化して通気性を減じて、高通気性に起因する焼着を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】加熱時におけるウォラストナイトの形状保持率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
鋳造用塗型剤
本発明の鋳造用塗型剤は、(i)塗型基材及び(ii)有機粘結剤及び無機粘結剤の少なくとも一種、及び(iii)溶剤を含む。また、更に(iv)任意の添加剤を含んでいてもよい。
鋳造用塗型剤は、鋳型またはフルモールド鋳造法または消失模型鋳造法に使用する発泡模型(あるいは消失模型ともいう)に塗布することができ、特に後者の発泡模型に使用に適しており好ましい。
なお、本明細書では、発泡模型の周りにバインダーを含む鋳物砂を使用して鋳型を製造し、発泡模型を溶湯と置換する方法を「フルモールド法(Full Mold Casting)」と呼び、同様に発泡模型を使用するが、鋳物砂にバインダーを使用せず、減圧により鋳型を形成する方法を「消失模型鋳造法」と呼ぶ。
発泡模型は、当該技術分野において公知の製造方法により製造されるものであれば良い。例えば、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、又はこれらの共重合体等から製造される発泡体を用いることができる。
【0010】
(i) 塗型基材
本発明において、塗型基材は、ウォラストナイトを含むことを特徴とする。
ウォラストナイトとは、白色の繊維状、塊状をなして産出される珪灰石とも称される天然鉱石である。化学組成は、CaO・SiO2(CaO:46〜54質量%、SiO2:43〜50質量%)で、アスペクト比が3〜6(繊維径2〜20μm、繊維長8〜60μm)の短繊維ウォラストナイトと、アスペクト比が10〜20(繊維径4〜100μm、繊維長40〜1000μm)の長繊維ウォラストナイトがあるが、本発明の効果の観点から長繊維タイプの方が好ましい。
ウォラストナイトは、産業界にて、プラスチックス補強用フィラーや、石綿代替材料として用いられており、他の繊維と同様に、素形材の補強が主な目的として用いられている。
ここで、ウォラストナイトは1300℃まで耐熱性があり、形状をほぼ保持するが、1300℃以上で軟化する性質がある(図1参照)。
【0011】
フルモールド及び消失模型鋳造用塗型剤の基材中に、ウォラストナイトを1〜15質量%含有させることにより、塗膜の通気性が向上しかつ焼着を防ぐことができるため好ましい。
但し、ウォラストナイト配合量の増加と共に、塗型基材全体の耐火度が低下する傾向にある。金属溶湯温度が高くなると共に配合量を減じないと、低耐火度による焼着が発生して来る為、適切な配合量が重要となる。
例えば、溶湯温度が1300℃〜1400℃では、ウォラストナイトを塗型基材中に2〜15質量%含むことが好ましいが、1400℃〜1500℃では2〜10質量%、更に1500℃〜1600℃では1〜5質量%含むことが好ましい。
【0012】
ウォラストナイト以外の他の塗型基材としては、耐火性骨材として知られている材料が挙げられる。より詳細には、シリカ(石英、溶融シリカ)、ジルコン、ジルコニア、マグネシア、オリビン、スピネル、アルミナ、シャモット、ムライト、アンダルサイト、カイヤナイト、シリマナイト、タルク、クロマイト、雲母、陶石、黒曜石、パーライト、ガラス粉末、琺瑯フリット、珪藻土、蝋石、バーミキュライト、膨張頁岩、ばん土頁岩、黒鉛、炭素、ギルソナイト、酸化チタン、酸化鉄(Fe2O3、Fe3O4)、酸化マンガン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素から選択した1種以上の基材が挙げられる。
【0013】
(ii)有機粘結剤及び無機粘結剤
本発明の鋳造用塗型剤は、有機粘結剤及び無機粘結剤の少なくとも一種を含む。有機粘結剤及び無機粘結剤をそれぞれ単独で使用してもよいが、組み合わせて使用することが好ましい。
有機粘結剤及び無機粘結剤の少なくとも一種は、塗型基材100質量部に対し、1〜30質量部の範囲で含むことが好ましく、1〜15質量部で含むことがより好ましい。
【0014】
本発明の鋳造用塗型剤に用いる無機粘結剤として、モンモリロナイト系粘土、カオリナイト系粘土、セピオライト系粘土、アタパルジャイト、スメクタイト、有機ベントナイト、木節粘土、蛙目粘土、耐火粘土、水ガラス、珪酸カリウム、珪酸リチウム、重リン酸アルミニウム、リン酸ナトリウム、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾルから選択した1種以上が挙げられる。特に粘土を1種以上用いるのがより好ましい。
有機粘結剤として、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコン樹脂、ブタジエン系合成ゴム、エポキシ樹脂及びそれらのエマルジョン、フッ素樹脂、ロジン、ロジン変性樹脂、マレイン酸樹脂、ダンマル樹脂、マスチック樹脂、ポリビニルアルコール、コーパル、セラック、デンプン、デキストリン、糖蜜、糖から選択した1種以上が挙げられる。特に好ましくは、アクリル樹脂である。
【0015】
(iii)溶剤
本発明の鋳造用塗型剤は、溶剤を含み、溶液、スラリー、分散溶液等の形態である。溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール、トルエン、キシレン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ケトン、エステル、エーテル、ミネラルスピリット、水から選択した1種以上の溶剤を挙げることができる。環境上、溶剤として特に水が好ましい。
溶剤の添加量は、塗布方法、塗型基材、粘結剤、添加剤の種類等により適宜変更することが可能であるが、例えば、塗型基材100質量部に対して、20〜200質量部程度添加することが好ましく、20〜100質量部添加することがより好ましい。
【0016】
(iv)添加剤
本発明の鋳造用塗型剤には、(i)塗型基材及び(ii)有機粘結剤及び無機粘結剤の少なくとも一種及び(iii)溶剤に加えて、更に他の(iv)添加剤を加えてもよい。
他の添加剤としては、シリコン、テルル、ビスマス、アルミ、マンガン、コバルト、銅、亜鉛等の金属粉末及びそれら金属を含む合金鉄、フェロシリコンマグネシウム等の黒鉛球状化剤、硫黄、耐火基材の湿潤剤、分散剤、鋳型浸透剤、消泡剤等の界面活性剤、増粘剤、防腐剤、顔料、染料から選択した1種以上の添加剤が挙げられる。
他の添加剤の量は、添加剤の目的に応じて選択することができるが、塗型基材100質量部に対して、5質量部以下程度において添加することが好ましく、更に0.01〜3質量部添加することがより好ましい。
【0017】
本発明の鋳造用塗型剤は、鋳型あるいはフルモールド鋳造法または消失模型鋳造法に使用する発泡模型に塗布して使用する。塗布方法としては、本技術分野において知られている方法を適宜使用することができる。具体的には、浸漬、スプレー塗布、ブッカケ塗布、刷毛塗り等により塗布することができる。
塗布量は、塗布方法、発泡模型、塗型基材、粘結剤、添加剤の種類等により適宜変更することが可能であるが、通常、乾燥厚が0.5〜2mm程度となるように塗布する。
発泡模型は、合成樹脂を発泡させたものである。合成樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル又はこれらの共重合体が挙げられる。
【0018】
本発明の鋳造方法を説明する。
本発明の鋳造用塗型剤は各成分を混合して作成する。前記塗型剤は、鋳型または発泡模型に上述した方法により塗布し、その後乾燥して塗型膜を形成する。塗型膜を形成した鋳型に溶湯を注ぐことによって鋳物を得ることができる。また、発泡模型に塗型膜を形成した場合は、発泡模型の周囲に鋳型を作成し、発泡模型を置換するように溶湯を注ぐことによって鋳物を得ることができる。
【0019】
ウォラストナイトは、1300℃付近まで高い形状保持率を示すが、1300℃以上で形状保持率が急激に低下して軟化した状態となる。このウォラストナイトの性状により、本発明の塗型剤により製造された塗型膜は、溶湯と接するまで高い通気性を保持して、発泡模型の分解生成物の排出に寄与し、その後、金属溶湯(1300℃以上)と接すると軟化して通気性を減じて、高通気性に起因する焼着を防止することを可能とするものである。
【実施例1】
【0020】
表1の実験1〜6で示す配合の塗型剤を作成した。表1中、塗型基材の各数値は質量%であり、他成分の数値は、上記塗型基材を100質量部とした場合の質量部の値である。アクリル樹脂エマルジョンは固形分50質量%のものを使用した。
表1に示す配合を充分撹拌を行って、スラリー状の塗型剤を作製した。
上記塗型剤の液中に発泡模型を浸積して、塗型剤を塗布した。50℃の温風乾燥室内で乾燥して塗型膜を製造した。消失模型鋳造法にて、鋳鉄(鋳込質量100kg)を注湯した。鋳鉄溶湯の注湯温度は1380℃であった。
【0021】
鋳物は自然放置で冷却した。ショットブラストで鋳物表面をクリーニングした後、鋳物表面を目視で観察し、残渣欠陥(主に皺状の鋳物凹部)と焼着(主に砂含有の鋳物凸部)の程度を比較した。
表1の実験結果中、「残渣低減」とは、発泡模型の分解生成物の排出に優れ、残渣欠陥の発生し難さを示し、「耐焼着性」とは、鋳物表面と砂とが容易に離れ易い程度を示している。「残渣低減」の評価において「◎は残渣がほとんどない、○は残渣が少しあるが製品として問題ない、△は残渣があり機械加工後に問題になる場合がある、×は残渣が多くて製品として不良である」を示している。「耐焼着性」の評価において「◎は焼着がほとんどない、○は焼着が少しあるが仕上げ作業が容易、△は焼着があり仕上げ作業に時間がかかる、×は焼着が多くて仕上げ作業が困難」を示している。
【0022】
【表1】
【0023】
表1の実験結果によれば、ウォラストナイトを使用しない場合(実験1)では、耐焼着生は極めて良好であったが、残渣欠陥が発生した。実験2〜5のように、塗型基材としてウォラストナイトを2〜15質量%程度含有させると、「残渣低減」と「耐焼着性」とが両立し、良い結果が得られることがわかる。
【実施例2】
【0024】
発泡模型の表面に表2に示す配合の塗型剤をブッカケ塗布して乾燥し、塗型膜を作成した。フルモールド鋳造法にて、ダクタイル鋳鉄(鋳込質量1000kg)を注湯した、溶湯の注湯温度は1410℃であった。
表2における数値、実験結果の評価基準は、表1と同様である。
【0025】
【表2】
【0026】
表2の実験結果によれば、塗型基材としてウォラストナイトを2〜10質量%程度含有させれば、「残渣低減」と「耐焼着性」とが両立し、良い結果が得られることがわかる。
【実施例3】
【0027】
発泡模型の表面に上記塗型剤を塗布して乾燥後、消失模型鋳造法にて、鋳鋼(鋳込質量100kg)を注湯した。溶湯の注湯温度は1550℃であった。
表3における数値、実験結果の評価基準は、表1と同様である。
【0028】
【表3】
【0029】
表3の実験結果によれば、実験2〜4のように、塗型基材としてウォラストナイトを1〜5質量%含有させれば、「残渣低減」と「耐焼着性」とが両立し、良い結果が得られることがわかる。
図1