(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様は、基板を準備する工程と、前記基板上にゲート電極を形成する工程と、前記ゲート電極上にゲート絶縁層を形成する工程と、前記ゲート絶縁層上に半導体膜を形成する工程と、前記半導体膜上に有機材料を含むエッチストッパ層を形成する工程と、前記エッチストッパ層上に少なくとも一部が位置するように、ソース電極及びドレイン電極を互いに対向配置して形成する工程と、前記半導体膜をドライエッチングして、区画された半導体層を形成する工程と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極から露出した領域における前記エッチストッパ層の表面層が前記ドライエッチングにより変質した変質層のうち、前記半導体層と接触する領域の少なくとも一部を除去する工程と、前記変質層が除去された領域において前記半導体層と接触するように、前記エッチストッパ層と同じ主成分を有するパッシベーション層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、半導体膜のドライエッチング時にエッチストッパ層の表面付近に形成される変質層のうち半導体層と接触する領域の少なくとも一部を除去するとともに、当該変質層が除去された領域において露出した半導体層と接するようにエッチストッパ層と同じ主成分を有するパッシベーション層を形成する。これにより、変質層に起因する寄生トランジスタの発生を抑制することができるので、ハンプ現象が抑制された薄膜トランジスタを製造することができる。
【0019】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記変質層の密度は、前記エッチストッパ層のうち前記ドライエッチングにより変質しなかった部分の密度よりも高い。
【0020】
本態様によれば、変質層は、エッチストッパ層の母体よりも密度が高くなっている領域である。これにより、半導体層の保護膜であるエッチストッパ層と除去すべき変質層とを区別することができ、変質層を特定することができる。また、このような変質層は、固定電荷を多く含み、ハンプ現象の原因となる。したがって、ハンプ現象の原因となる変質層を除去することによって寄生トランジスタの発生を抑制することができるので、優れたトランジスタ特性を有する薄膜トランジスタを実現することができる。
【0021】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記変質層は、膜厚が30nm以上である。さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記変質層に含まれる塩素の濃度は、前記エッチストッパ層に含まれる塩素の濃度の少なくとも10倍以上である。さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記変質層に含まれる炭素の濃度は、前記エッチストッパ層に含まれる炭素の濃度の少なくとも1/100以下である。但し、炭素濃度は、物質によって大きく異なる場合があるため、変質層に含まれる炭素濃度は、エッチストッパ層に含まれる炭素濃度の1/100を超えてもよい。
【0022】
これらの構成により、半導体層の保護膜であるエッチストッパ層と除去すべき変質層とを区別することができ、変質層を明確に特定することができる。また、このような変質層は、固定電荷を多く含み、ハンプ現象の原因となる。したがって、ハンプ現象の原因となる変質層のみを除去することできるので、優れたトランジスタ特性を有する薄膜トランジスタ実現することができる。
【0023】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記変質層を除去する工程では、希フッ酸によって前記変質層を除去する、としてもよい。
【0024】
これにより、ドライエッチングのダメージにより形成された変質層を選択的に容易に除去することができる。
【0025】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記希フッ酸の濃度は0.5%以上であり、前記変質層を除去する工程では、前記希フッ酸にて10秒以上の洗浄を行うことで前記変質層を除去してもよい。
【0026】
これにより、ドライエッチングのダメージにより形成された変質層全てを確実に除去することができる。
【0027】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記パッシベーション層は、前記エッチストッパ層と同じ材料である、としてもよい。
【0028】
これにより、パッシベーション層をエッチストッパ層と同じ有機材料で構成することができる。
【0029】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記パッシベーション層は、無機材料からなる、としてもよい。この場合、前記エッチストッパ層は、主成分としてシリコンを含み、前記パッシベーション層は、酸化シリコンからなる、とすることができる。
【0030】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記パッシベーション層の膜厚は、20nm以上1000nm以下であることが好ましい。
【0031】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記パッシベーション層の上に、前記パッシベーション層よりも酸素透過率が低い物質からなる封止層を形成する工程を含む、とすることができる。この場合、前記封止層は、窒化シリコンからなる、としてもよい。
【0032】
これにより、パッシベーション層の材料としてハンプ現象を抑制するための材料に選定したとしても、封止層によって酸素の透過を抑制することができる。すなわち、封止層によってパッシベーション膜としての機能を持たせることができる。これにより、信頼性に優れた薄膜トランジスタを実現することができる。
【0033】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの一態様は、基板上に位置するゲート電極と、前記ゲート電極上に位置するゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層を間に介して、前記ゲート電極と対向する半導体層と、前記半導体層上に位置する、有機材料を含むエッチストッパ層と、互いに対向して配置され、前記エッチストッパ層上に少なくとも一部が位置するソース電極及びドレイン電極と、前記エッチストッパ層上に形成されたパッシベーション層と、を有し、前記エッチストッパ層は、表面部分における組成と前記表面部分よりも内側の部分の組成が等しく、前記パッシベーション層は、前記エッチストッパ層の表面が前記半導体層と接する境界と、前記半導体層の表面であって前記エッチストッパ層が位置する領域に対して前記境界よりも外側に位置する外周領域とを、前記境界及び前記外周領域と接するように覆い、かつ、前記エッチストッパ層と同じ主成分を有することを特徴とする。
【0034】
本態様によれば、エッチストッパ層は表面部分と内側部分とが同じ組成であり、かつ、エッチストッパ層とパッシベーション層との主成分が同じである。そして、パッシベーション層は、エッチストッパ層の表面のうち半導体層と接する境界部分と、半導体層の表面であってエッチストッパ層が位置する領域に対して前記境界よりも外側に位置する外周領域とに接触させて、前記境界部分と前記外周領域とを覆っている。これにより、ハンプ現象が抑制された優れたトランジスタ特性を有する薄膜トランジスタを実現することができる。
【0035】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの一態様において、前記エッチストッパ層は、層全体において組成が同じである、としてもよい。
【0036】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの一態様において、前記半導体層は、ゲート幅方向に向かって前記エッチストッパ層から突出する突出部を有し、前記突出部の上面は、前記パッシベーション層によって被覆されている、としてもよい。
【0037】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの一態様において、前記パッシベーション層は、無機材料からなる、としてもよい。この場合、前記エッチストッパ層は、主成分としてシリコンを含み、前記パッシベーション層は、酸化シリコンからなる、とすることができる。
【0038】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの一態様において、前記パッシベーション層の膜厚は、20nm以上1000nm以下であることが好ましい。
【0039】
さらに、本発明に係る薄膜トランジスタの一態様において、前記パッシベーション層の上に、前記パッシベーション層よりも酸素透過率が低い物質からなる封止層を有する、とすることができる。この場合、前記封止層は、窒化シリコンからなる、としてもよい。
【0040】
(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタ及びその製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であって本発明を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、本発明の課題を達成するのに必ずしも必要ではないが、より好ましい形態を構成するものとして説明される。
【0041】
また、各図において、実質的に同一の構成部材については同一の符号を付す。なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示したものではない。
【0042】
図1は、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタの構成を模式的に示した図であり、(a)は(b)のA−A’線の断面図、(b)は透過平面図、(c)は(b)のB−B’線の拡大断面図である。
【0043】
図1に示すように、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10は、チャネル保護型でボトムゲート型の薄膜トランジスタであって、基板1上に位置するゲート電極2と、ゲート電極2上に位置するゲート絶縁層3と、ゲート絶縁層3を間に介してゲート電極2と対向する半導体層40と、半導体層40上に位置する保護層6と、保護層6上に少なくとも各々の一部が位置するソース電極8S及びドレイン電極8Dと、保護層6上に形成されたパッシベーション層9と、を有する。
【0044】
本実施の形態における薄膜トランジスタ10は、さらに、一対のコンタクト層7を有する。一対のコンタクト層7の各々は、保護層6上に少なくとも各々の一部が位置し、かつ、ソース電極8S又はドレイン電極8Dと半導体層40との間に形成されている。
【0045】
また、半導体層40は、基板1上において島状に区画されており、下層の第1半導体層である結晶質シリコン半導体層4と上層の第2半導体層である非晶質シリコン半導体層5との積層膜によって構成されている。半導体層40は、ゲート絶縁層3を間に介して、ゲート電極2と対向するように形成されている。
【0046】
なお、本実施の形態における薄膜トランジスタ10は、nチャネル型TFTである。以下、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10の各構成部材について詳述する。
【0047】
基板1は、例えば、石英ガラス、無アルカリガラスおよび高耐熱性ガラス等のガラス材料からなるガラス基板である。なお、ガラス基板の中に含まれるナトリウムやリン等の不純物が半導体層40に侵入することを防止するために、表面に窒化シリコン(SiN
x)、酸化シリコン(SiO
y)又はシリコン酸窒化(SiO
yN
x)等からなるアンダーコート層が形成された基板を用いてもよい。また、アンダーコート層は、レーザアニール等の高温熱処理プロセスにおいて、基板1への熱の影響を緩和させる役割も担う。アンダーコート層の膜厚は、例えば、100nm〜2000nm程度である。
【0048】
ゲート電極2は、基板1の上に所定形状で形成される。ゲート電極2は、シリコンの融点温度に耐えられる導電性材料又はその合金等の単層構造又は多層構造からなり、例えば、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ni(ニッケル)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、またはモリブデンタングステン(MoW)等を用いることができる。ゲート電極2の膜厚は、例えば、20nm〜500nm程度である。
【0049】
ゲート絶縁層3(ゲート絶縁膜)は、基板1の上方に形成される。本実施の形態において、ゲート絶縁層3は、ゲート電極2を覆うように基板1上の全面に形成されている。ゲート絶縁層3は、例えば、酸化シリコン(SiO
y)、窒化シリコン(SiN
x)、シリコン酸窒化(SiO
yN
x)、酸化アルミニウム(AlO
z)、酸化タンタル(TaO
w)又はその積層膜等を用いて形成することができる。ゲート絶縁層3の膜厚は、例えば、50nm〜300nm程度である。
【0050】
なお、本実施の形態では半導体層40として結晶質シリコン半導体層4を用いているので、ゲート絶縁層3としては少なくとも酸化シリコンを用いるとよい。これは、TFTにおける良好な閾値電圧特性を維持するためには半導体層40とゲート絶縁層3との界面状態を良好なものにすることが好ましく、これには酸化シリコンが適しているからである。
【0051】
結晶質シリコン半導体層4は、ゲート絶縁層3上に形成される半導体薄膜であって、ゲート電極2に印加される電圧によってキャリアの移動が制御される領域である所定のチャネル領域を有するチャネル層である。チャネル領域は、ゲート電極2の上方の領域であり、チャネル領域の電荷移動方向の長さはゲート長に対応する。結晶質シリコン半導体層4は、例えば、非結晶性の非晶質シリコン(アモルファスシリコン)を結晶化することによって形成することができる。
【0052】
結晶質シリコン半導体層4における結晶シリコンの結晶粒径は、例えば、5nm〜1000nm程度である。この場合、結晶質シリコン半導体層4は、平均結晶粒径が100nm以上の多結晶シリコンのみによって構成されるだけではなく、当該多結晶シリコンと、平均結晶粒径が20nm以上40nm未満のマイクロクリスタルと呼ばれる微結晶シリコンとの混晶構造とすることもできるし、あるいは、アモルファスシリコン(非結晶性シリコン)と結晶性シリコンとの混晶構造とすることもできる。なお、優れたオン特性を得るためには、少なくとも結晶質シリコン半導体層4のチャネル領域については、結晶性シリコンの割合が多い膜で構成するとよい。結晶質シリコン半導体層4の膜厚は、例えば、10nm〜90nm程度である。
【0053】
非晶質シリコン半導体層5は、結晶質シリコン半導体層4上に形成される半導体薄膜であって、例えば真性アモルファスシリコン膜である。非晶質シリコン半導体層5の膜厚は、例えば、10nm〜60nm程度である。
【0054】
また、
図1の(b)及び(c)に示すように、結晶質シリコン半導体層4及び非晶質シリコン半導体層5からなる半導体層40は、ソース電極8S及びドレイン電極8Dから露出する部分において、ゲート幅方向(チャネル方向に垂直な方向)に向かって保護層6から突出する突出部41を有する。言い換えると、ソース電極8S及びドレイン電極8Dから露出する部分において保護層6の側面は半導体層40の側面よりも後退するように形成されており、保護層6と半導体層40との間には段差部が存在する。本実施の形態において、半導体層40の突出部41は、ゲート長方向(チャネル方向)にも形成されている。後述するように、突出部41の上面及び側面は、パッシベーション層9によって被覆されている。
【0055】
なお、本実施の形態における半導体層40は、結晶質シリコン半導体層4と非晶質シリコン半導体層5との積層構造としたが、これに限らない。半導体層40は、結晶質シリコン半導体層及び非晶質シリコン半導体層のどちらか一方であるシリコン半導体層の単体でもよい。また、半導体層40としては、シリコン半導体層に限らず、金属酸化物半導体層又は有機物半導体層を用いても構わない。
【0056】
保護層6は、半導体層40の上に形成されるエッチストッパ層であり、チャネル層となる半導体層40を保護するためのチャネル保護膜である。すなわち、保護層6は、一対のコンタクト層7及び半導体層40をパターニングするときのエッチング処理時において、半導体層40のチャネル領域がエッチングされてしまうことを防止するためのチャネルエッチングストッパ(CES)層として機能する。本実施の形態における保護層6は、非晶質シリコン半導体層5の上に形成される。本実施の形態において、ソース電極8S又はドレイン電極8Dと重なる領域における保護層6の膜厚は、例えば、300nm〜1μmである。さらに、保護層6の膜厚は、500nm以上1μm以下であることが好ましい。保護層6の膜厚の下限は、エッチングによるマージン及び保護層6中の固定電荷の影響を抑制する観点で決定され、保護層6の膜厚の上限は、非晶質シリコン半導体層5との段差増大に伴うコンタクト層7等の段差切れによるプロセスの信頼性低下を抑制する観点で決定される。
【0057】
また、保護層6は、主成分としてシリコン(Si)及び酸素(O)を含有する。本実施の形態における保護層6は、シリコン、酸素、及び、炭素(C)を含む有機材料を主として含有する有機材料膜である。この場合、保護層6は、例えばポリシロキサンによって形成することができる。ポリシロキサンは、主鎖としてシリカ結合を有し、これにメチル基等の炭素を有する有機成分が結合したものである。このような保護層6は、有機系塗布材料をスピンコート法等により塗布することによって形成することができる。また、スピンコート法等の塗布法以外に、液滴吐出法、又は、スクリーン印刷やオフセット印刷等の所定のパターンを形成することができる印刷法等によっても形成することができる。
【0058】
保護層6は、表面部分における組成と表面部分よりも内側の部分である内側部分の組成とが等しくなっており、層全体において組成が同じである。本実施の形態において、保護層6は、当該保護層6に含まれる元素成分の各濃度が層全体において略均一になっている。なお、保護層6は、絶縁性を有しており、一対のコンタクト層7同士は電気的に接続されていない。
【0059】
一対のコンタクト層7は、不純物を高濃度に含む非晶質半導体層、又は、不純物を高濃度に含む多結晶半導体層からなる。一対のコンタクト層7は、例えば、アモルファスシリコンにn型不純物としてリン(P)がドープされたn型半導体層とし、1×10
19[atm/cm
3]以上の高濃度の不純物を含むn
+層とすることができる。
【0060】
一対のコンタクト層7は、保護層6上において所定の間隔をあけて対向配置されており、一対のコンタクト層7のそれぞれは、保護層6の上面から非晶質シリコン半導体層5までを跨るようにして形成されている。なお、各コンタクト層7の膜厚は、例えば、5nm〜100nmとすることができる。
【0061】
本実施の形態における一対のコンタクト層7は、非晶質シリコン半導体層5とソース電極8S及びドレイン電極8Dとの間に形成されているが、半導体層40の側面(非晶質シリコン半導体層5の側面及び結晶質シリコン半導体層4の側面)には形成されていない。すなわち、一対のコンタクト層7は、半導体層40(非晶質シリコン半導体層5及び結晶質シリコン半導体層4)と面一に形成されている。
【0062】
なお、コンタクト層7は、単層で構成したが、下層を低濃度の電界緩和層(n
−層)とし、上層を高濃度のコンタクト層(n
+層)とする2層によって構成してもよい。この場合、低濃度の電界緩和層には、例えば、1×10
17[atm/cm
3]程度のリンがドープされている。
【0063】
一対のソース電極8S及びドレイン電極8Dは、所定の間隔をあけて互いに対向するように配置されるとともに、一対のコンタクト層7上に当該一対のコンタクト層7と面一に形成されている。
【0064】
ソース電極8Sは、一方のコンタクト層7を介して、保護層6の一方の端部及び半導体層40(非晶質シリコン半導体層5)に跨るようにして形成されている。一方、ドレイン電極8Dは、他方のコンタクト層7を介して、保護層6の他方の端部及び半導体層40(非晶質シリコン半導体層5)に跨るようにして形成されている。
【0065】
本実施の形態において、ソース電極8S及びドレイン電極8Dは、それぞれ導電性材料又はこれらの合金等からなる単層構造又は多層構造とすることができ、例えば、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、チタン(Ti)又はクロム(Cr)等の材料により構成される。本実施の形態では、ソース電極8S及びドレイン電極8Dは、MoW/Al/MoWの三層構造によって形成されている。なお、ソース電極8S及びドレイン電極8Dの膜厚は、例えば、100nm〜500nm程度とすることができる。
【0066】
パッシベーション層9は、ソース電極8S及びドレイン電極8Dと、ソース電極8S及びドレイン電極8Dの間から露出する保護層6とを覆うようにして形成される。パッシベーション層9の膜厚は、例えば、20nm以上1000nm以下とすることができる。
【0067】
パッシベーション層9は、保護層6と主成分が同じとなるように構成されている。本実施の形態では、保護層6が主成分としてシリコン及び酸素を含むので、パッシベーション層9も主成分としてシリコン及び酸素を含む。また、保護層6は有機材料によって構成したが、パッシベーション層9は無機材料で構成している。例えば、パッシベーション層9は、酸化シリコンによって形成することができる。なお、パッシベーション層9は、保護層6の有機材料と同じ有機材料によって構成することもできる。
【0068】
また、
図1の(c)に示すように、パッシベーション層9は、保護層6の表面(側面)が半導体層40(非晶質シリコン半導体層5)と接する部分を少なくとも覆うように形成されている。すなわち、パッシベーション層9は、保護層6の表面が半導体層40と接する境界と、半導体層40の表面であって保護層6が位置する領域に対して前記境界よりも外側に位置する外周領域とに接触するようにして、前記境界及び外周領域とを覆っている。具体的に、パッシベーション層9は、半導体層40の突出部41の上面及び側面を覆うように形成されている。
【0069】
なお、パッシベーション層9は、薄膜トランジスタ10を構成する半導体層材料に外部から酸素や水分等の不純物が侵入することを防止すること等を目的として用いられる。
【0070】
次に、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタ10の製造方法について、
図2及び
図3A〜
図3Lを用いて説明する。
図2は、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタの製造方法のフローチャートである。
図3A〜
図3Lは、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタの製造方法における各工程を模式的に示した断面図及び平面図である。なお、
図3A〜
図3Lの各図において、(a)は、(b)のA−A’線に沿って切断した同薄膜トランジスタの断面図であり、(b)は、同薄膜トランジスタの平面図である。また、各平面図に示される構成部材については、理解しやすいように、各断面図に示される構成部材と同じハッチングが施されている。
【0071】
図2に示すように、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10の製造方法は、基板1を準備する基板準備工程(S10)と、ゲート電極2を形成するゲート電極形成工程(S20)と、ゲート絶縁層3を形成するゲート絶縁層形成工程(S30)と、半導体膜40Fを形成する半導体膜形成工程(S40)と、保護層6(エッチストッパ層)を形成する保護層形成工程(S50)と、ソース電極8S及びドレイン電極8Dを形成するソースドレイン電極形成工程(S60)と、半導体膜40Fをドライエッチングによりパターニングして半導体膜40Fを区画する半導体膜パターニング工程(S70)と、保護層6の一部が変質した層である変質層6aを除去する変質層除去工程(S80)と、パッシベーション層9を形成するパッシベーション層形成工程(S90)と、を含む。なお、本実施の形態における半導体膜形成工程(S40)は、第1半導体膜を形成する第1半導体膜形成工程と第2半導体膜を形成する第2半導体膜形成工程とを含む。以下、本実施の形態の製造方法における各工程について詳細に説明する。
【0072】
まず、
図3Aに示すように、基板1を準備する(基板準備工程)。基板1として、例えば、ガラス基板を準備する。なお、ゲート電極2を形成する前に、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)等によって基板1の表面にアンダーコート層を形成してもよい。また、基板1を準備する工程には、アンダーコート層を形成する工程の他に、基板1を洗浄する工程等も含まれる。
【0073】
次に、
図3Bに示すように、基板1の上方に所定形状のゲート電極2をパターン形成する(ゲート電極形成工程)。例えば、基板1上の全面にモリブデンタングステン(MoW)等からなるゲート金属膜をスパッタによって成膜し、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングを施すことにより、ゲート金属膜をパターニングして矩形のゲート電極2を形成する。
【0074】
次に、
図3Cに示すように、基板1の上方にゲート絶縁層3を形成する(ゲート絶縁層形成工程)。例えば、ゲート電極2を覆うようにして基板1の上方の全面に、プラズマCVD等によってゲート絶縁層3を成膜する。本実施の形態では、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜との2層構造のゲート絶縁層3を形成した。
【0075】
次に、
図3Dに示すように、第1半導体膜として、ゲート絶縁層3の上に結晶質シリコン半導体膜4Fを形成する(第1半導体膜形成工程)。この場合、まず、ゲート絶縁層3上に、例えばアモルファスシリコン膜からなる非結晶シリコン薄膜をプラズマCVD等によって成膜する。アモルファスシリコン膜は、例えば、シランガス(SiH
4)と水素ガス(H
2)とを所定の濃度比で導入し、所定の成膜条件にて成膜することができる。その後、脱水素アニール処理を行った後、所定の温度で非晶質シリコン薄膜をアニールすることにより非結晶シリコン薄膜を結晶化する。これにより、ゲート絶縁層3上に、結晶質シリコン半導体膜4Fを形成することができる。
【0076】
なお、本実施の形態において、非結晶シリコン薄膜の結晶化は、レーザ光を非結晶シリコン薄膜に照射させることによるレーザアニールによって行った。レーザアニールは、波長190nm〜350nm程度のエキシマレーザを用いたレーザアニール(ELA)の他に、波長370nm〜900nm程度のパルスレーザを用いたレーザアニール、又は、波長370nm〜900nm程度の連続発振型のレーザ(CWレーザ)を用いたレーザアニールを用いることができる。また、レーザアニール以外に、急速熱処理(RTP)や急速熱アニール(RTA)によって結晶化してもよい。あるいは、非結晶シリコン薄膜を結晶化して結晶質シリコン半導体膜を形成するのではなく、CVDによる直接成長によって結晶質シリコン半導体膜4Fを形成しても構わない。
【0077】
次に、
図3Eに示すように、第2半導体膜として、結晶質シリコン半導体膜4F上に非晶質シリコン半導体膜5Fを形成する(第2半導体膜形成工程)。例えば、非晶質シリコン半導体膜5Fとしてアモルファスシリコン膜を成膜することができる。アモルファスシリコン膜は、シランガス(SiH
4)、ジシランガス(Si
2H
6)及びトリシランガス(Si
3H
8)のいずれかを含む原料ガスを用いてプラズマCVD等によって所定の成膜条件にて成膜することができる。また、原料ガスとともに導入する不活性ガスとして、水素ガス(H
2)以外に、アルゴンガス(Ar)又はヘリウムガス(He)を所定の濃度比で導入して成膜することができる。
【0078】
これにより、ゲート絶縁層3上に、結晶質シリコン半導体膜4Fと非晶質シリコン半導体膜5Fとの積層膜である半導体膜40Fを成膜することができる。
【0079】
なお、半導体膜40Fを形成した後は、半導体膜40Fに対して水素プラズマ処理を行って、結晶質シリコン半導体膜4Fのシリコン原子に対して水素化処理を行うとよい。水素プラズマ処理は、例えば、H
2、H
2/アルゴン(Ar)等の水素ガスを含むガスを原料として高周波(RF)電力により水素プラズマを発生させて、当該水素プラズマを半導体膜40Fに照射することにより行われる。この水素プラズマ処理は、プラズマ雰囲気中に水素イオン(H
+)と水素ラジカル(H
*)を含む水素プラズマを発生させるものである。発生させた水素イオンと水素ラジカルとが結晶質シリコン半導体膜4F内に入り込んでいくことにより、結晶質シリコン半導体膜4Fを構成するシリコン原子のダングリングボンドが水素終端される。つまり、シリコン原子のダングリングボンドが水素と結合する。これにより、結晶質シリコン半導体膜4Fの結晶欠陥密度を低減させることができるので、結晶質シリコン半導体膜4Fの結晶性が向上する。この水素プラズマ処理は、半導体膜40Fが酸化物半導体や有機物半導体等であってシリコン半導体以外の場合には、必ずしも行う必要はない。
【0080】
次に、
図3Fに示すように、半導体膜40F上にエッチストッパ層となる保護層6を形成する(保護層形成工程)。例えば、所定の塗布方法によって半導体膜40F上に所定の有機材料を塗布して焼成することによって有機保護膜からなる保護層6を形成することができる。
【0081】
本実施の形態では、まず、ポリシロキサンからなる有機材料を非晶質シリコン半導体膜5F上に塗布してスピンコートして、非晶質シリコン半導体膜5F上の全面に保護層6を形成する。その後、保護層6をプリベーク(仮焼成)した後に、フォトマスクを用いて露光及び現像して所定形状の保護層6を形成する。その後、保護層6をポストベーク(本焼成)する。これにより、所定形状の保護層6を形成することができる。
【0082】
次に、
図3Gに示すように、保護層6を覆うようにして半導体膜40F(非晶質シリコン半導体膜5F)上にコンタクト層用膜7Fを形成する(コンタクト層用膜形成工程)。例えば、プラズマCVDによって、リン等の5価元素の不純物をドープしたアモルファスシリコンからなるコンタクト層用膜7Fを成膜する。
【0083】
次に、同図に示すように、コンタクト層用膜7F上に、ソース電極8S及びドレイン電極8Dとなるソースドレイン金属膜8Fを形成する。例えば、スパッタによって、MoW/Al/MoWの三層構造のソースドレイン金属膜8Fを成膜する(ソースドレイン金属膜形成工程)。
【0084】
次に、
図3Hに示すように、ソースドレイン金属膜8Fをパターニングすることで、非晶質シリコン半導体膜5F上に、保護層6を挟んで一対のソース電極8S及びドレイン電極8Dを形成する。具体的には、ソースドレイン金属膜8Fを所定形状にパターニングするために、ソースドレイン金属膜8F上にレジストを塗布し、露光及び現像を行うことによって、当該レジストを、ソース電極8S及びドレイン電極8Dの形状に対応した形状にパターニングする。次に、このレジストをマスクとしてウェットエッチング等のエッチング処理を施すことによって、ソースドレイン金属膜8Fをパターニングする。これにより、同図に示すように、分離された所定形状の一対のソース電極8S及びドレイン電極8Dを形成することができる。なお、このとき、コンタクト層用膜7Fがエッチングストッパとして機能する。
【0085】
その後、ソース電極8S及びドレイン電極8D上のレジストを除去し、ソース電極8S及びドレイン電極8Dをマスクとしてドライエッチングを施すことにより、コンタクト層用膜7Fをパターニングするとともに、これと同時に、半導体膜40F(非晶質シリコン半導体膜5F及び結晶質シリコン半導体膜4F)を島状にパターニングする(半導体膜パターニング工程)。これにより、
図3Iに示すように、所定形状の一対のコンタクト層7を形成するとともに、島状にパターニングされた非晶質シリコン半導体層5及び結晶質シリコン半導体層4を形成することができる。なお、このとき、保護層6がエッチストッパ層として機能する。
【0086】
本実施の形態において、半導体膜40Fをパターニングする際のドライエッチング装置のエッチング条件は、エッチングガスをCl
2ガスとし、圧力を2Paとし、ICP(Inductive Coupled Plasma)パワーを300Wとした。なお、半導体膜40Fをドライエッチングする際、本実施の形態では、ソース電極8S及びドレイン電極8D上のレジストを除去して行ったが、当該レジストを残したままドライエッチングを行っても構わない。
【0087】
このとき、
図3Iの(b)に示すように、半導体膜40Fをパターニングする際のドライエッチングによって、保護層6のソース電極8S及びドレイン電極8Dから露出した領域において、保護層6の表面付近に変質層6aが生成される。すなわち、変質層6aは、ソース電極8S及びドレイン電極8Dから露出した保護層6の表面層がドライエッチングのエッチングガスによって変質した層である。また、変質層6aは、同図に示すように、特に、露出する保護層6の側面部分にあらわれる。このように、半導体膜40Fをドライエッチングした後における保護層6は、ドライエッチングによって変質された部分である変質層6aと、ドライエッチングによって変質されなかった部分であるバルク層とを有することになる。
【0088】
次に、ドライエッチングを施した際に生成した変質層6aを除去するために、例えば、DHF(希フッ酸)によるウェットエッチング又はCF
4やO
2によるドライエッチングを施す(変質層除去工程)。
【0089】
本実施の形態においては、
図3Jに示すように、希釈率0.5%のDHF(希フッ酸)を用いて10秒以上の洗浄を行うことで、保護層6に形成された変質層6aを選択的に除去した。
【0090】
このように変質層6aを除去することによって保護層6の側面が後退し、
図3Kの(b)に示すように、変質層6aの下に存在する半導体層40(非晶質シリコン半導体層5)の周辺部が露出する。
【0091】
最後に、
図3Lに示すように、少なくとも変質層6aが除去されて露出した半導体層40と接触するようにして、パッシベーション層9を形成する(パッシベーション層形成工程)。本実施の形態では、露出する全ての部材(ソース電極8S及びドレイン電極8D、保護層6、非晶質シリコン半導体層5)を覆うようにして、パッシベーション層9を形成した。
【0092】
パッシベーション層9の材料は、保護層6と同じ主成分を有するものが用いられる。本実施の形態では、酸化シリコン(SiO
x)からなるパッシベーション層9を、平行平板電極型のRFプラズマCVD装置を用いて成膜した。この場合、上記装置内に設置した基板1の温度(成長温度)を400℃とし、圧力を3Torrとし、RFパワーを180Wとし、平行平板電極の間隔を550mmとし、シラン及び亜酸化窒素のガス流量をそれぞれ20sccm及び1500sccmとした成膜条件によって、膜厚が20nmの酸化シリコン(SiO
x)を成膜した。
【0093】
以上のようにして、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10を製造することができる。
【0094】
次に、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10の作用効果について、本発明に至った経緯も含めて詳細に説明する。
【0095】
図4は、従来の薄膜トランジスタの構成を模式的に示した図であり、(a)は(b)のA−A’線の断面図、(b)は透過平面図、(c)は(b)のB−B’線の拡大断面図である。
図5A及び
図5Bは、従来の薄膜トランジスタの電流電圧特性(Ids−Vgs特性)を示す図である。
【0096】
図4の(a)に示すように、従来の薄膜トランジスタ100は、基板1上に、ゲート電極2と、ゲート絶縁層3と、結晶質シリコン半導体層4と、非晶質シリコン半導体層5と、保護層6と、一対のコンタクト層7と、ソース電極8S及びドレイン電極8Dと、パッシベーション層900とが形成されることで構成されている。なお、パッシベーション層900は、酸素透過率が低い窒化シリコンによって構成されている。
【0097】
エッチストッパ層(保護層6)が有機系塗布材料によって形成された従来の薄膜トランジスタ100は、所望のトランジスタ特性(電流電圧特性)を得ることが難しいという問題がある。このような薄膜トランジスタ100において電流電圧特性を測定すると、
図5Aに示すように、電流が急激に増加する領域においてハンプ現象と呼ばれるコブが生じることが分かった。なお、
図5Aは、膜厚が460nmのパッシベーション層900を成膜したときにおける薄膜トランジスタ100の電流電圧特性を示している。
【0098】
ここで、ハンプ現象について、
図5Bを用いて説明する。ハンプ現象とは、
図5Bに示すように、一つの薄膜トランジスタではあるが、メイントランジスタの他に寄生トランジスタが存在することに起因すると考えられ、メイントランジスタの電流電圧特性にその寄生トランジスタの電流電圧特性が合わさることで、一つの薄膜トランジスタ100の電流電圧特性上に不自然なコブが現れる現象のことである。なお、本明細書において、有機系塗布材料とは、炭素を含む有機物からなる物質であり、またインクジェット等による印刷工程やスピンコート等による塗布工程により形成可能な材料とする。
【0099】
本願発明者は、このハンプ現象が発生する原因について鋭意解析及び検討した結果、エッチストッパ層(保護層)として有機系塗布材料を用いた場合、半導体膜をパターニングして区画(島化)する時に、露出するエッチストッパ層がダメージを受けて、エッチストッパ層の母材である有機系塗布材料が変質してなる変質層がエッチストッパ層の表面に現れることが分かった。このとき、さらに、露出するエッチストッパ層の外周端部ではエッチングによりエッチストッパ層の膜厚が薄くなることも分かった。この結果、新たに生成された変質層と半導体層とが接することで寄生トランジスタが形成され、ハンプ現象が発生するということが判明した。
【0100】
この寄生トランジスタの発生について、
図6を用いて、さらに詳細に説明する。
図6は、
図4に示す従来の薄膜トランジスタにおいて、保護層6がソース電極(ドレイン電極)からゲート幅方向にはみ出した長さ(d)を複数異ならせたときに得られる各々の電流電圧特性を重ね合わせた図である。
【0101】
図6に示すように、はみ出し長さdが異なる各々の薄膜トランジスタの電流電圧特性において、メイントランジスタの飽和電流値には変化がみられないのに対して、寄生トランジスタの飽和電流値については、はみ出し長さdの長さに応じて変化していることが分かる。具体的には、はみ出し長さdが長くなればなるほど、寄生トランジスタの飽和電流値が減少していることが分かる。これは、寄生トランジスタの原因となる部分、すなわち変質層6aが保護層6の外周端部に存在していることを示している。
【0102】
また、変質層6aによって、ハンプ現象が発生するという点について、
図4の(c)に戻って詳細に説明する。
図4の(c)は、従来の薄膜トランジスタ100における保護層(エッチストッパ層)の外周端部周辺の断面図であり、同図には、半導体層のバックチャネル側の固定電荷量が模式的に図示されている。
【0103】
本来、半導体層40のバックチャネル側の全面は、組成元素及びその濃度が均一な保護層6で覆われており、バックチャネル側の固定電荷量は面内均一になっているはずである。つまり、この場合、薄膜トランジスタの電流電圧特性上にはハンプ現象は現れない。
【0104】
しかし、上述のとおり、保護層6の材料として有機系塗布材料を用いると、半導体層40をパターン形成する際のドライエッチングにより、保護層6を構成する有機系塗布材料が変質して変質層6aが出現すると共に、半導体層40の側面が後退しながらエッチングが行われるために、保護層6の外周端部において半導体層40と変質層6aとが接する状況が生じる。このため、
図4の(c)に示すように、半導体層40のバックチャネル側部分が、ドライエッチングによって保護層6が変質された層である変質層6aと接するとともに、ドライエッチングによって保護層6が変質されなかった層である無変質層(バルク層)と接する状態となる。この場合、変質層6aと無変質層とでは固定電荷が異なり、ダメージを受けた変質層6aの方により多くの固定電荷が発生する。このように、半導体層40と固定電荷が多い変質層6aとが接するために寄生トランジスタが発生し、
図5A及び
図5Bに示すように、電流電圧特性上にハンプ現象が発生すると考えられる。
【0105】
実際に、
図4に示す構成の従来の薄膜トランジスタ100を作製して、
図4の(c)に相当する部分について、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)にて断面観察した。
図7は、
図4に示す従来の薄膜トランジスタの保護層の外周端部周辺における断面TEM像である。
【0106】
図7に示す断面TEM像によれば、保護層6の表面(傾斜側面)上に膜厚30nm程度の変質層6aが存在し、保護層6の外周端部で半導体層40と接していることが確認できる。また、TEM像における色の濃さは密度(体積密度)の違いを表すことから、保護層6の表面上には、明らかに保護層6とは異なる層(変質層6a)が現れていることが確認できる。そして、変質層6aは、母体となる保護層6よりも色が濃いことから、変質層6aの密度(体積密度)は、母体となる保護層6(変質しなかった部分)の密度(体積密度)よりも高いことが分かる。
【0107】
ここで、従来の薄膜トランジスタ100における塩素(Cl)及び炭素(C)の濃度分布について、
図8A及び
図8Bを用いて説明する。
図8Aは、
図4に示す従来の薄膜トランジスタを構成する膜中に含まれる塩素の濃度分布を示す図である。また、
図8Bは、
図4に示す従来の薄膜トランジスタを構成する膜中に含まれる炭素の濃度分布を示す図である。なお、
図8A及び
図8Bは、単膜にて二次イオン分析計(Secondary Ion−microprobe Mass Spectrometer:SIMS)を用いて分析した結果を示している。なお、
図8A及び
図8Bでは、複数のサンプルを分析した結果を図示している。
【0108】
図8Aに示すように、パッシベーション層900と保護層6との間には、他よりも塩素元素が多く検出される層が存在することが分かる。また、
図8Bに示すように、パッシベーション層900と保護層6との間には、パッシベーション層900よりも炭素の濃度が大きく、保護層6よりも炭素の濃度が小さい層が存在することが分かる。パッシベーション層900と保護層6との間に現れる層が変質層6aであり、保護層6の有機系塗布材料の組成以外に、ドライエッチングに使用する原料ガスである塩素元素を多く含む。つまり、変質層6aは、保護層6がドライエッチングの原料ガスによって変質された層である。また、変質層6aは、保護層6よりも炭素の濃度が低くなっていることから、変質層6aは保護層6の炭素が変質したと考えられる。このように、
図8A及び
図8Bに示す結果から、変質層6aは、保護層6の母材である有機系塗布材料とドライエッチングの原料ガスとが結びついた層であると考えられる。
【0109】
なお、
図8Aに示すように、変質層6aに含まれる塩素の濃度は、保護層6に含まれる塩素の濃度の少なくとも10倍以上であることが分かる。また、
図8Bに示すように、変質層6aに含まれる炭素の濃度は、保護層6に含まれる炭素の濃度の少なくとも1/100以下であることが分かる。
【0110】
以上により、本願発明者は、この変質層6aの存在によってハンプ現象が発生するという知見を得て、この変質層6aをフッ酸処理にて除去すれば、ハンプ現象の発生を抑制できると考えた。
【0111】
そこで、本願発明者は、この知見に基づいて以下の実験を行った。この実験結果について、
図9を用いて説明する。
図9は、フッ酸処理を施した比較例に係る薄膜トランジスタの構成を模式的に示した図であり、(a)は(b)のA−A’線の断面図、(b)は過平面図、(c)は(b)のB−B’線の拡大断面図である。
【0112】
図9に示す比較例に係る薄膜トランジスタ100Aは、
図4に示す従来の薄膜トランジスタに対してフッ酸処理を施して変質層6aを除去したものである。なお、フッ酸処理は、0.5%のDHFを用いて、窒化シリコンからなるパッシベーション層900を形成する前に行った。
【0113】
図9の(b)及び(c)に示すように、フッ酸によって変質層6aを除去することで、半導体層40の端部の上面が保護層6から露出するように構成される。これにより、変質層6aが存在しなくなるので、ハンプ現象の発生を抑制することができるはずであった。
【0114】
しかしながら、実際に、変質層6aをフッ酸で除去した薄膜トランジスタ100Aを作製して、電流電圧特性を測定してみると、ハンプ現象がなくなるどころか、さらにハンプ現象が顕著に現れることが判明した。
図10は、
図9に示す比較例に係る薄膜トランジスタの電流電圧特性(Ids−Vgs特性)を示す図であって、フッ酸によって変質層6aを除去した後に、膜厚が460nmのパッシベーション層900(SiN)を成膜したときにおける薄膜トランジスタ100Aの電流電圧特性を示している。
【0115】
フッ酸処理を行った場合の比較例に係る薄膜トランジスタ100Aの電流電圧特性(
図10)と、フッ酸処理をしなかった場合の従来の薄膜トランジスタ100の電流電圧特性(
図5A)とを比較すると、フッ酸処理を行った場合の比較例に係る薄膜トランジスタ100Aの方が、フッ酸処理をしなかった場合の従来の薄膜トランジスタよりも、ハンプ現象が顕著に現れることが分かる。
【0116】
そこで、本願発明者は、このことについてさらに鋭意検討した結果、ハンプ現象の発生は、保護層に生成される変質層だけではなく、パッシベーション層の材料にも関係するという新たな知見を得ることができた。以下、この点について、
図9の(c)に戻ってさらに説明する。
図9の(c)は、比較例に係る薄膜トランジスタ100Aにおける保護層(エッチストッパ層)の外周端部周辺の断面図であり、同図には、半導体層のバックチャネル側の固定電荷量が模式的に図示されている。
【0117】
変質層6aを除去することで、
図9の(c)に示すように、保護層6の外周端部の側面及び突出する半導体層40の上面は直接パッシベーション層900と接することになる。ここで、パッシベーション層900の材料としては、酸素や水に対して封止効果が高い窒化シリコンを用いている。この窒化シリコンの固定電荷量と、有機系塗布材料からなる保護層6の固定電荷量とが異なっているために、ハンプ現象が顕著に現れたと考えることができる。すなわち、保護層6と固定電荷量の異なる変質層6aを除去したものの、その除去した領域において、さらに固定電荷量の異なるパッシベーション層900が存在することになったがために、ハンプ現象が顕著に現れたと考えられる。
【0118】
そこで、本願発明者は、変質層6aを除去した上で、保護層6と固定電荷量が等しい材料を用いてパッシベーション層を成膜すれば良いと考えた。このようにして、本願発明者は、変質層を除去して保護層の組成を層全体で均一にするとともに、保護層の主成分と当該保護層に接するパッシベーション層の主成分とを同じにすることで、ハンプ現象を抑制することができるという着想を得ることができた。以下、この点について、
図11を用いて具体的に説明する。
図11は、本実施の形態に係る薄膜トランジスタにおける保護層の外周端部周辺の拡大断面図であり、
図1の(c)に対応する図である。なお、
図11においては、半導体層のバックチャネル側の固定電荷量が模式的に図示されている。
【0119】
本実施の形態では、薄膜トランジスタ10の保護層6を構成する有機系塗布材料の主成分は、シリコン及び酸素であって、酸化シリコンと近い材料である。そこで、パッシベーション層9の材料は、保護層6の主成分と合わせて酸化シリコンを用いた。
【0120】
すなわち、
図11に示すように、ドライエッチングによって保護層6の表面付近に生成した変質層6aを除去して保護層6の組成元素及びその濃度を層全体で均一にするとともに、変質層6aが除去された領域における半導体層40の突出部41の表面と接触するようにして保護層6と同じ主成分を有するパッシベーション層9を形成している。
【0121】
その結果、
図11に示すように、半導体層40のバックチャネル側の固定電荷量を面内均一にすることができる。これにより、薄膜トランジスタ10の電流電圧特性上にハンプ現象が発生することを抑制することができる。
【0122】
実際に、
図1に示す構成の薄膜トランジスタ10を作製して、
図11に相当する部分について、TEMにて断面観察した。
図12は、
図11に示す本実施の形態に係る薄膜トランジスタの保護層の外周端部周辺における断面TEM像である。なお、
図11に示す薄膜トランジスタにおいて、変質層6aは希フッ酸によって除去している。
【0123】
図12に示すTEM像を見ると、パッシベーション層9と保護層6との間に存在していた変質層6aが全て除去されており、保護層6の表面(側面)と半導体層40の突出部41の表面(上面及び側面)とに接触するようにして、パッシベーション層9が形成されていることが分かる。
【0124】
以上、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタ10によれば、半導体層40のドライエッチング時に保護層6の表面付近に生成される変質層6aを除去して保護層6全体の組成を均一にするとともに、当該変質層6aが除去された領域において露出した半導体層40と接するように保護層6と同じ主成分を有するパッシベーション層9を形成している。これにより、変質層6aに起因する寄生トランジスタの発生を抑制することができるので、ハンプ現象が抑制された薄膜トランジスタを得ることができる。
【0125】
さらに、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10によれば、従来の薄膜トランジスタ100に対して信頼性も向上する。以下、この点について、
図13A及び
図13Bを用いて説明する。
図13Aは、従来の薄膜トランジスタの信頼性評価を行った際の電流電圧特性を示す図である。
図13Bは、本実施の形態に係る薄膜トランジスタの信頼性評価を行った際の電流電圧特性を示す図である。
【0126】
図13A及び
図13Bでは、ゲート電極にストレス電圧として負バイアス(−20V)を印加して、0秒、100秒、200秒、500秒、1000秒、2000秒毎に薄膜トランジスタの電流電圧特性を測定した結果を示すとともに、各薄膜トランジスタの電流電圧特性の経時変化を示している。
【0127】
図13Aに示すように、変質層6aが存在する薄膜トランジスタ100は、初期の電流電圧特性に少し現れているハンプ現象が、時間経過と共に顕著に現れてくることがわかる。一方、
図13Bに示すように、変質層6aを除去して保護層6と同じ主成分を有するパッシベーション層9を有する薄膜トランジスタ10は、初期の電流電圧特性にハンプ現象は現れず、時間が経過してもハンプ現象が現れなかった。
【0128】
以上のように、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10は、電流電圧特性にハンプ現象が発生することを抑制することができる。しかも、ゲート電極に負バイアスのストレス電圧を印加する状況下でもハンプ現象の発生を抑制することができるので、高い信頼性を有する。これにより、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10を有機ELディスプレイの駆動トランジスタとして用いた場合、表示装置における低階調領域(黒表示領域)の特性を向上させることができる。
【0129】
また、本実施の形態において、変質層6aの除去は、希フッ酸によって行うことができる。この場合、濃度が0.5%以上の希フッ酸にて10秒以上の洗浄を行うことが好ましい。この点について、
図14を用いて説明する。
図14は、本実施の形態に係る薄膜トランジスタにおいて、フッ酸による変質層の削れ量(エッチング量)の時間依存性を示す図である。なお、
図14では、0.5%の希フッ酸を用いて洗浄処理した時における変質層6aと保護層6との削れ量に対する時間依存性を示している。
【0130】
図14に示すように、保護層6の表面付近の変質層6aは、フッ酸処理を施すと10秒程度で削られ、それ以降、保護層6はほとんど削れないということが分かる。つまり、希フッ酸処理によって、変質層6aを選択的に除去することが可能であることが分かる。しかも、フッ酸処理に対する変質層6aのエッチングレートが非常に速いことも分かる。したがって、保護層6の膜厚に依らず、0.5%以上のフッ酸にて10秒以上の洗浄を行うことにより、変質層6a全てを確実に除去することができる。これにより、さらに寄生トランジスタの発生を抑制することができるので、優れたトランジスタ特性を有する薄膜トランジスタを実現することができる。
【0131】
(変形例1)
次に、本発明の実施の形態の変形例1に係る薄膜トランジスタ10Aについて、
図15を用いて説明する。
図15は、本発明の実施の形態の変形例1に係る薄膜トランジスタの構成を示す断面図である。
【0132】
図15に示すように、本変形例に係る薄膜トランジスタ10Aは、上記実施の形態に係る薄膜トランジスタ10に対して、さらに、パッシベーション層9の上に形成された封止層9Aを備えるものである。封止層9Aは、第2のパッシベーション層であって、第1のパッシベーション層であるパッシベーション層9よりも酸素透過率が低い物質によって構成されており、本変形例は、水や酸素に対して封止能力の高い膜が積層された構成となっている。なお、本変形例において、パッシベーション層9は酸化シリコンで構成されているので、封止層9Aは窒化シリコンによって構成した。
【0133】
また、本変形例に係る薄膜トランジスタ10Aの製造方法は、上記実施の形態に係る薄膜トランジスタ10の製造方法に対して、
図3Lに示すパッシベーション層形成工程の後に、さらに、パッシベーション層9を覆うようにして封止層9Aを形成する工程を含むものである。
【0134】
パッシベーション層9及び封止層9Aは、平行平板電極型のRFプラズマCVD装置を用いて成膜することができる。この場合、例えば、上記装置内に設置した基板1の温度(成長温度)を400℃とし、圧力を3Torrとし、RFパワーを180Wとし、平行平板電極の間隔を550mmとし、シラン及び亜酸化窒素のガス流量をそれぞれ20sccm及び1500sccmとした成膜条件によって、膜厚が20nmの酸化シリコンを成膜する。これに引き続き、成長温度を320℃とし、圧力を3Torrとし、RFパワーを150Wとしとし、平行平板電極の間隔を550mmとし、シラン、アンモニア及び窒素のガス流量をそれぞれ30sccm、100sccm及び2000sccmとした成膜条件によって、膜厚が440nmの窒化シリコンを連続成膜する。
【0135】
図16Aは、このようにして作製した本変形例に係る薄膜トランジスタの電流電圧特性を示す図である。すなわち、変質層6aを除去した後に、膜厚20nmの酸化シリコンからなるパッシベーション層9と膜厚440nmの窒化シリコンからなる封止層9Aとを連続成膜したときの特性を示している。
【0136】
また、
図16Bは、本変形例に係る薄膜トランジスタの電流電圧特性を示す図であって、変質層6aを除去した後に、膜厚220nmの酸化シリコンからなるパッシベーション層9と膜厚260nmの窒化シリコンからなる封止層9Aとを連続成膜したときの特性を示している。
【0137】
図16A及び
図16Bに示すように、いずれの場合であっても、電流電圧特性上にハンプ現象は発生しなかった。したがって、変質層6aを除去した保護層6の外周端部は、保護層6と同じ主成分を有する材料を用いてパッシベーション層9を形成することで、ハンプ現象を抑制できることが分かった。また、保護層6と同じ主成分を含むパッシベーション層9を少なくとも20nm以上成膜すれば、十分にハンプ現象を抑制する効果があることも分かる。さらに、そのパッシベーション層9の上に、酸素透過性が低くて封止能力が高い窒化シリコン膜等からなる封止層(第2のパッシベーション層)をさらに成膜してもハンプ現象への影響が見られないことも分かった。このように、2つのパッシベーション層を積層して構成できることは、例えば、膜密着性の改善や封止能力の向上といったように異なる機能を持たせた膜を選択することができ、パッシベーション層に使用する材料の選択の幅が広がる。また、パッシベーション層の膜厚を薄くすることも可能となるので、プロセス時間の短縮や低コスト化の面でメリットがある。
【0138】
以上、本変形例に係る薄膜トランジスタ10Aによれば、パッシベーション層9の上に酸素透過率が低い封止層9Aを形成することによって、外部からの水や酸素が半導体層40内に侵入することを抑制することができる。したがって、トランジスタ特性の変動が少なく、信頼性の高い薄膜トランジスタを実現することができる。
【0139】
また、パッシベーション層のトータル膜厚が一定の場合、封止層9Aを厚く成膜することによって、パッシベーション層9の膜厚を薄くすることもできる。すなわち、酸化シリコンからなるパッシベーション層9は、固定電荷量の均一化を図ってハンプ現象の発生を抑制することを目的とするものであり、パッシベーション層9が窒化シリコンである薄膜トランジスタと比べて、水や酸素に対する信頼性が低い。したがって、パッシベーション層9と封止層9Aとの2層で封止する場合、酸化シリコンからなるパッシベーション層9を薄くするとともに、酸素透過率が低い窒化シリコンからなる封止層9Aを厚くすることで、ハンプ現象発生の抑制と水や酸素の侵入の抑制との両立を図ることができる。
【0140】
(変形例2)
次に、本発明の実施の形態の変形例2に係る薄膜トランジスタ10Bについて、
図17を用いて説明する。
図17は、本発明の実施の形態の変形例2に係る薄膜トランジスタの構成を模式的に示した図であり、(a)は(b)のA−A’線の断面図、(b)は透過平面図、(c)は(b)のB−B’線の拡大断面図である。
【0141】
図17に示すように、本変形例に係る薄膜トランジスタ10Bは、保護層6Bがゲート幅方向においてソース電極8S及びドレイン電極8Dからはみ出さない構成となっている。すなわち、上記実施の形態に係る薄膜トランジスタ10では、保護層6はソース電極8S及びドレイン電極8Dからはみ出すように形成されていたが、本変形例に係る薄膜トランジスタ10Bでは、保護層6Bがソース電極8S及びドレイン電極8Dからはみ出さない構成となっており、保護層6Bのゲート幅方向の側面が、ソース電極8S及びドレイン電極8Dのゲート幅方向の側面よりも後退している。なお、それ以外の構成は、
図1に示す実施の形態と同様である。
【0142】
以上、本変形例に係る薄膜トランジスタ10Bによれば、上記実施の形態に係る薄膜トランジスタ10と同様の効果を奏する。なお、本変形例においても、変形例1の構成を適用することができる。
【0143】
(その他)
以上、本発明に係る薄膜トランジスタ及び薄膜トランジスタの製造方法について、実施の形態及び変形例に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態及び変形例に限定されるものではない。
【0144】
例えば、
図4、
図9及び
図11においては、固定電荷として正の固定電荷を示しているが、固定電荷としては負の固定電荷でもよい。また、固定電荷は、層のバルクと層間の界面とのどちらに存在してもよい。本発明において、固定電荷は、半導体層40からみたバックチャネル側の固定電荷量が、保護層6の外周端部と中央部とで等しくなっていることが重要である。
【0145】
また、上記の実施の形態では、変質層6aを除去する工程において、変質層6aの全てを除去するように構成したが、これに限らない。変質層6aを除去する工程では、変質層6aのうち半導体層40と接触する領域の少なくとも一部を除去するように行えばよい。このように、変質層6aのうち半導体層40に接触している領域の少なくとも一部を除去することによって、ハンプ現象の発生を抑制することができる。なお、逆に、半導体層40と接触していない部分を除去したとしても、ハンプ現象の抑制にはほとんど寄与しないと考えられる。変質層6aの全てを除去しない態様としては、例えば、厚みが薄くなるように変質層6aを除去したり、半導体層40と接触している部分のみの変質層6aを除去したりすることが考えられる。
【0146】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態及び変形例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【0147】
また、本実施の形態に係る薄膜トランジスタは、有機EL表示装置又は液晶表示装置等の表示装置に用いることができる。例えば、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10を有機EL表示装置に適用した場合について、
図18を用いて説明する。
図18は、本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置の一部切り欠き斜視図である。
【0148】
図18に示すように、本実施の形態に係る有機EL表示装置20は、アクティブマトリクス基板21と、アクティブマトリクス基板21上にマトリクス状に配置された複数の画素22と、複数の画素22のそれぞれに対応して形成された有機EL素子23と、画素22の行方向に沿って形成された複数のゲート線27と、画素22の列方向に沿って形成された複数のソース線28と、ソース線28と並行して形成された電源線29(不図示)とを備える。有機EL素子23は、アクティブマトリクス基板21上に順次積層された、陽極24、有機EL層25及び陰極26(透明電極)を有する。また、有機EL層25は、電子輸送層、発光層、正孔輸送層等の各層が積層されて構成されている。
【0149】
なお、本実施の形態において、薄膜トランジスタ10は、画素22を選択するためのスイッチングトランジスタとして設けられているが、駆動トランジスタとして用いることもできる。
【0150】
次に、上記有機EL表示装置20における画素22の回路構成について、
図19を用いて説明する。
図19は、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタを用いた画素の回路構成を示す図である。
【0151】
図19に示すように、各画素22は、直交するゲート線27とソース線28とによって区画されており、駆動トランジスタ31と、スイッチングトランジスタ32と、有機EL素子23と、コンデンサ33とを備える。駆動トランジスタ31は、有機EL素子23を駆動するトランジスタであり、また、スイッチングトランジスタ32は、画素22を選択するためのトランジスタである。
【0152】
駆動トランジスタ31において、ゲート電極31Gがスイッチングトランジスタ32のドレイン電極32Dに接続され、ソース電極31Sが中継電極(不図示)を介して有機EL素子23のアノードに接続され、ドレイン電極31Dが電源線29に接続される。
【0153】
また、スイッチングトランジスタ32において、ゲート電極32Gはゲート27に接続され、ソース電極32Sはソース線28に接続され、ドレイン電極32Dはコンデンサ33及び駆動トランジスタ31のゲート電極31Gに接続されている。
【0154】
この構成において、ゲート線27にゲート信号が入力されて、スイッチングトランジスタ32がオン状態になると、ソース線28を介して供給された映像信号電圧がコンデンサ33に書き込まれる。そして、コンデンサ33に書き込まれた映像信号電圧は、1フレーム期間を通じて保持される。この保持された映像信号電圧により、駆動トランジスタ31のコンダクタンスがアナログ的に変化し、発光階調に対応した駆動電流が、有機EL素子23のアノードからカソードへと流れて有機EL素子23が発光する。これにより、所定の画像を表示することができる。
【0155】
なお、本実施の形態に係る有機EL表示装置等の表示装置については、フラットパネルディスプレイとして利用することができ、テレビジョンセット、パーソナルコンピュータ又は携帯電話などの電子機器に適用することができる。