(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6007584
(24)【登録日】2016年9月23日
(45)【発行日】2016年10月12日
(54)【発明の名称】油分離装置
(51)【国際特許分類】
F25B 43/02 20060101AFI20160929BHJP
【FI】
F25B43/02 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-112391(P2012-112391)
(22)【出願日】2012年5月16日
(65)【公開番号】特開2013-238366(P2013-238366A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】松原 健
(72)【発明者】
【氏名】後藤 幹生
【審査官】
関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−277109(JP,A)
【文献】
特開2010−286193(JP,A)
【文献】
特開2009−74756(JP,A)
【文献】
特開2011−247575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴部を有し、かつ該胴部の上端開口及び下端開口が蓋部材により閉塞された装置本体と、
前記胴部の側面に自身の中心軸が該胴部の中心軸と水平方向にずれるよう接続され、該装置本体に油混合冷媒を導入する導入管と
を備え、
前記導入管を通じて導入した油混合冷媒を前記胴部の内部でその中心軸回りに旋回させることで冷媒とオイルとに遠心分離させ、前記胴部の上端開口を閉塞する蓋部材に接続された冷媒吐出管より冷媒を吐出させる一方、前記胴部の下端開口を閉塞する蓋部材に接続された油吐出管よりオイルを吐出させる油分離装置において、
前記導入管は、中心軸と直交する方向の縦断面形状が前記胴部の中心軸に近接する側の内壁面よりも該中心軸から離隔する側の内壁面の曲率が大きく形成されていることを特徴とする油分離装置。
【請求項2】
前記胴部の内面には、小径孔が多数形成されたシート状の捕捉部材が敷設してあることを特徴とする請求項1に記載の油分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油分離装置に関し、より詳細には、例えば冷媒を循環させる冷媒回路に適用され、かつ導入した油混合冷媒を冷媒とオイルとに分離させてそれぞれを別個に吐出させる油分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば冷媒を循環させる冷媒回路に適用され、かつ導入した油混合冷媒を冷媒とオイルとに分離させてそれぞれを別個に吐出させる油分離装置が知られている。
【0003】
このような油分離装置は、装置本体、導入管、冷媒吐出管及び油吐出管を備えて構成されている。
【0004】
装置本体は、円筒状の胴部を有しており、該胴部の上端開口及び下端開口がそれぞれ上蓋及び下蓋により閉塞されている。導入管は、潤滑油等のオイルが混合した冷媒(油混合冷媒)を導入するためのもので、装置本体の胴部の側面における所定の接続個所において接線方向に延在する態様で接続されている。冷媒吐出管は上蓋に接続されており、油吐出管は下蓋に接続されている。
【0005】
このような油分離装置では、導入管を通じて導入した油混合冷媒を装置本体の内部で中心軸回りに旋回させることで気相冷媒とオイルとに遠心分離させ、冷媒吐出管より気相冷媒を吐出させる一方、油吐出管よりオイルを吐出させるようにしている。
【0006】
ところで、上記導入管の断面形状が円形であるために、その内部においては、中心部に冷媒とオイルとの混合流体が流れ、内壁面には表面張力によりオイルが付着することで円環状のオイル層が形成されている。そして、混合流体とオイル層との界面では、摩擦力により液滴が剥離してオイルミストが生成することから、上記導入管では、内壁面全周に亘って一様にオイルミストが生成されることなる。
【0007】
そのため、上記油分離装置では、導入管から装置本体に油混合冷媒が流入する際、装置本体の内壁面に向けてオイルミストが飛散するだけでなく、装置本体の中心部に向けてもオイルミストが飛散することとなり、かかる中心部に飛散するオイルミストに対して作用する遠心力が小さいために遠心分離効果が低下してしまう。この結果、良好にオイルを分離できない虞れがあった。
【0008】
そこで、油分離効率の向上を図るべく、内側管と外側管との二重管構造とし、内側管の入口部分は外側管の略中心に位置し、内側管の出口部分は装置本体の中心よりに偏位して外側管に接するようにした導入管を備えた油分離装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−312438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上述したような特許文献1に提案されている油分離装置では、導入管を二重管構造としており、しかも内側管の位置を入口側と出口側とで変形させているために、導入管構成が複雑なものとなり、かかる導入管の製造に必要な材料や加工等にかかるコストが高いものとなり、コストの増大化を招来するものであった。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みて、コストの増大化を抑制しつつ油分離効率の向上を図ることができる油分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る油分離装置は、円筒状の胴部を有し、かつ該胴部の上端開口及び下端開口が蓋部材により閉塞された装置本体と、前記胴部の側面に自身の中心軸が該胴部の中心軸と水平方向にずれるよう接続され、該装置本体に油混合冷媒を導入する導入管とを備え、前記導入管を通じて導入した油混合冷媒を前記胴部の内部でその中心軸回りに旋回させることで冷媒とオイルとに遠心分離させ、前記胴部の上端開口を閉塞する蓋部材に接続された冷媒吐出管より冷媒を吐出させる一方、前記胴部の下端開口を閉塞する蓋部材に接続された油吐出管よりオイルを吐出させる油分離装置において、前記導入管は、
中心軸と直交する方向の縦断面形状が前記胴部の中心軸に近接する側の内壁面よりも該中心軸から離隔する側の内壁面の曲率が大きく形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記油分離装置において、前記胴部の内面には、小径孔が多数形成されたシート状の捕捉部材が敷設してあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の油分離装置によれば、導入管は、胴部の中心軸に近接する側の内壁面よりも該中心軸から離隔する側の内壁面の曲率が大きく形成されているので、オイルは表面張力により離隔する側の内壁面に多く集まる結果、離隔する側の内壁面に形成されるオイル層の方が中心軸に近接する側の内壁面に形成されるオイル層よりも厚みが大きいものとなる。これにより導入管より装置本体に流入する際に飛散するオイルミストは、胴部の内壁面側に多くなり、しかも遠心力は旋回半径に反比例することが知られているため、オイルミストに働く遠心力が増大することになる。この結果、装置本体の胴部の内壁面近傍におけるオイル濃度を増加させることができ、油分離効率の向上を図ることができる。しかも、導入管の内壁面の曲率を変化させればよいだけなので、従来のような二重管構造とする場合に比べてコストの増大化を抑制することができる。従って、コストの増大化を抑制しつつ油分離効率の向上を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態である油分離装置が適用された冷媒回路の概略図である。
【
図3】
図3は、
図2に示した油分離装置の要部の横断面と、この油分離装置を構成する導入管の縦断面とを示す説明図である。
【
図4】
図4は、
図3に示した油分離装置の要部を拡大して示す説明図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態である油分離装置の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る油分離装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態である油分離装置が適用された冷媒回路の概略図である。ここで例示する冷媒回路10は、例えば二酸化炭素を冷媒として封入したもので、圧縮機11、放熱器12、膨張機構13及び蒸発器14を配管にて順次接続して構成されたものである。
【0018】
圧縮機11は、吸引口を通じて冷媒を吸引し、吸引した冷媒を圧縮して高温高圧の状態(高圧冷媒)にして吐出口より吐出するものである。本実施の形態における圧縮機11は、2回に分けて圧縮動作を行う二段式圧縮機である。より詳細に説明すると、圧縮機11は、1回目の圧縮動作を行う第1圧縮要素111と、2回目の圧縮動作を行う第2圧縮要素112とを有し、これらの間に中間熱交換器113が設けられている。中間熱交換器113は、第1圧縮要素111による1回目の圧縮動作により圧縮された冷媒を放熱させて第2圧縮要素112に送出するものである。
【0019】
放熱器12は、圧縮機11で圧縮された冷媒が自身の流路を通過する場合に、該冷媒を周囲空気と熱交換させて放熱させるものである。膨張機構13は、例えばキャピラリーチューブや膨張弁等により構成されるもので、放熱器12で放熱した冷媒を減圧して断熱膨張させるものである。蒸発器14は、通過する冷媒、すなわち膨張機構13で断熱膨張された冷媒を蒸発させて周囲空気を冷却するものである。この蒸発器14で蒸発した冷媒は圧縮機11に吸引される。
【0020】
このような冷媒回路10には、上記構成の他、内部熱交換器15及び油分離装置20が設けられている。内部熱交換器15は、放熱器12を通過した高圧冷媒と、蒸発器14を通過した冷媒(低圧冷媒)とを熱交換させるものである。
【0021】
油分離装置20は、いわゆるオイルセパレータと称されるもので、圧縮機11を構成する第2圧縮要素112と放熱器12との間に設けられており、
図2に示すように、装置本体21、導入管22、冷媒吐出管23及び油吐出管24を備えて構成されている。
【0022】
装置本体21は、円筒状の胴部211と、この胴部211の上端開口を閉塞する上蓋(蓋部材)212と、該胴部211の下端開口を閉塞する下蓋(蓋部材)213とを備えている。
【0023】
導入管22は、入口側が圧縮機11の第2圧縮要素112の出口側に接続された配管に連通する態様で接続され、かつ出口側が装置本体21の内部に連通する態様で該装置本体21の胴部211の側面に接続されている。より詳細に説明すると、導入管22は、
図3に示すように、胴部211の側面に自身の中心軸L2が該胴部211の中心軸L1と水平方向にずれるよう出口側が接続されている。このような導入管22は、圧縮機11から吐出された冷媒、すなわち第2圧縮要素112から吐出された冷媒と潤滑油(オイル)との油混合冷媒を装置本体21に導入するためのものである。
【0024】
かかる導入管22は、管壁の厚みは一様なものであり、中心軸L2と直交する方向の縦断面形状が左右非対称となる形態を有している。より詳細には、導入管22は、胴部211の中心軸L1に近接する側(以下、中心側ともいう)内壁面221よりも該中心軸L1から離隔する側(以下、離隔側ともいう)内壁面222の曲率が大きくなるように形成されている。
【0025】
冷媒吐出管23は、入口側が装置本体21の内部に連通する態様で上蓋212に接続され、かつ出口側が放熱器12の入口側に接続された配管に連通する態様で接続されている。油吐出管24は、入口側が装置本体21の内部に連通する態様で下蓋213に接続され、かつ出口側が2つに分岐して一方が第1圧縮要素111に接続されるとともに他方が第2圧縮要素112に接続されている。
【0026】
上記構成を有する油分離装置20においては、圧縮機11で圧縮されて吐出された高温高圧の冷媒と、この高温高圧の冷媒とともに吐出されるオイルとの混合物である油混合冷媒が導入管22を通じて装置本体21(胴部211)の内部に導入されると、この油混合冷媒を胴部211の中心軸L1回りに旋回させることで冷媒(高温高圧の冷媒)とオイルとに遠心分離させる。
【0027】
この遠心分離により分離された冷媒(気相冷媒)は、冷媒吐出管23より吐出されて放熱器12に至り、該放熱器12で周囲空気と熱交換を行うことで放熱する。放熱器12で放熱した冷媒は、内部熱交換器15を通過した後に膨張機構13で断熱膨張し、低温低圧の冷媒として蒸発器14に至る。蒸発器14に至った冷媒は、周囲空気と熱交換して蒸発し、その後に内部熱交換器15を経て圧縮機11(第1圧縮要素111に)に吸引される。
【0028】
上記遠心分離により胴部211の内壁面に付着したオイルは、下方に向けて流れて油吐出管24より吐出される。油吐出管24から吐出されたオイルは、油吐出管24に従って2つに分岐し、一方が第1圧縮要素111に吸引され、他方が第2圧縮要素112に吸引される。
【0029】
ところで、導入管22の内部のおいては、中心部に冷媒とオイルとの混合流体が流れ、内壁面には表面張力によりオイルが付着することでオイル層が形成されている。上記導入管22は、中心側内壁面221よりも離隔側内壁面222の曲率が大きくなるように形成されているので、付着するオイルは表面張力により曲率の大きい方に集まり、これにより、
図4に示すように、離隔側内壁面222に形成されるオイル層OSの方が中心側内壁面221に形成されるオイル層OSよりも厚みが大きいものとなる。つまり、装置本体21の内部に導入する前の段階において、装置本体21の径方向外側のオイル濃度分布を径方向内側よりも大きくしている。
【0030】
これにより導入管22より装置本体21に流入する際に飛散するオイルミストOMは、装置本体21(胴部211)の内壁面側に多くなり、しかも遠心力は旋回半径に反比例することが知られているため、オイルミストOMに働く遠心力が増大することになる。この結果、装置本体21の胴部211の内壁面近傍におけるオイル濃度を増加させることができ、油分離効率の向上を図ることができる。しかも、導入管22を中心側内壁面221と離隔側内壁面222との曲率を変化させればよいだけなので、従来のような二重管構造とする場合に比べてコストの増大化を抑制することができる。
【0031】
従って、本発明の実施の形態である油分離装置20によれば、コストの増大化を抑制しつつ油分離効率の向上を図ることができる。
【0032】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
【0033】
例えば、
図5に示すように胴部211の内壁面に網目構造のメッシュ材や多数の小径孔が形成されたパンチングメタル等のシート状の捕捉部材30が敷設されても良い。このような構成によれば、装置本体21の内壁面に沿ってオイルミストOMとの接触面積を増大させることにより、装置本体21の内壁面におけるオイルの濃度を増加させることができ、油分離効率の向上を図ることができる。
【0034】
上述した実施の形態においては、導入管22は、管壁の厚みが一様なものであったが、本発明においては、胴部の中心軸に近接する側の内壁面よりも該中心軸から離隔する側の内壁面の曲率を大きくしてあれば、管壁の厚みが変化しても構わない。
【符号の説明】
【0035】
10 冷媒回路
11 圧縮機
111 第1圧縮要素
112 第2圧縮要素
113 中間熱交換器
12 放熱器
13 膨張機構
14 蒸発器
15 内部熱交換器
20 油分離装置
21 装置本体
211 胴部
212 上蓋(蓋部材)
213 下蓋(蓋部材)
22 導入管
221 中心側内壁面
222 離隔側内壁面
23 冷媒吐出管
24 油吐出管
30 捕捉部材
OM オイルミスト
OS オイル層