(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載のいずれの技術においても、射出成形によってリッド成形用金型に樹脂を充填する際に、リッドのどの部位から樹脂を流入しているのか、その射出部が設けられている位置について記載されておらず、成形されたリッドの構造上強度が必要とされる部位において、射出成形時に樹脂同士が会合して、いわゆるウェルドラインが発生する可能性がある。
【0008】
ここで一般に、ウェルドラインが発生する会合位置は、他の部分に比べて強度が低いため、成形後にかかる応力によって、この部位で亀裂や破断が生じる可能性がある。
【0009】
本発明は、強度が必要とされる部位(特に、インナパネルの中空部を跨ぐ補強フレーム部)における会合位置での強度低下を抑制することによって、リッド全体の強度確保と軽量化とを両立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、
アウタパネルと、
繊維含有樹
脂によって形成されるインナパネルと
を有する車両用樹脂製リッド構造において、
前記インナパネルは、
中空部を備えたインナパネル本体と、
前記インナパネル本体の前記中空部を跨ぐ補強フレーム部と、
前記補強フレーム部におけ
る両端部から流入する樹脂の会合位置に相当する部位から分岐する分岐部と、
を有
し、
前記インナパネル本体は、該本体の前端部又は後端部の左右両端に設けられて、車体に対して回動可能に連結するためのヒンジが取り付けられる左右のヒンジ取付部と、
前記ヒンジ取付部と前後方向の反対側に設けられ、車体に対してロックを行うためのロック部と、を有し、
前記左右のヒンジ取付部および前記ロック部には、前記樹脂の射出部がそれぞれ設けられており、
前記補強フレーム部は、前記中空部を跨いで前記左右のヒンジ取付部と前記ロック部との間をそれぞれ連結するものを含み、
前記分岐部は、前記補強フレーム部の途中から分岐する第1分岐部と第2分岐部を有しており、
前記第1分岐部は、前記補強フレーム部から外側に向かって分岐すると共に、
前記第2分岐部は、前記補強フレーム部から中心方向に向かって分岐し、
前記第1分岐部と前記補強フレーム部とのなす角度は、前記第2分岐部と前記補強フレーム部とのなす角度と異なる
ことを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、
請求項1に係る発明において、
前記ロック部は、ストライカ部であり、
該ストライカ部を構成する一方の脚部の基端部から略垂直上向きに連続して延びる縦壁部を有する
ことを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、
請求項
1又は2に係る発明において、
前記補強フレーム部は、前記左右のヒンジ取付部の中間点と前記ロック部とを連結するものを含み、
前記中空部において前記左右のヒンジ取付部と前記ロック部との間をそれぞれ連結する前記補強フレーム部の分岐部と、前記左右のヒンジ取付部の中間点と前記ロック部とを連結する前記補強フレーム部の分岐部とが連結されている
ことを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、
請求項1から3のいずれか1項に係る発明において、
前記分岐部は、前記補強フレーム部に対して鋭角をなして分岐されているものを含む
ことを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、
請求項1から4のいずれか1項に係る発明において、
前記分岐部は、互いにオフセットした状態で対向して前記補強フレーム部の両側に設けられているものを含む
ことを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明は、
請求項1から5のいずれか1項に係る発明において、
前記分岐部は、前記補強フレーム部よりも細い
ことを特徴とする。
【0016】
請求項7に係る発明は、
請求項1から6のいずれか1項に係る発明において、
前記繊維含有樹脂は、炭素繊維含有樹脂である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、補強フレーム部における射出成形時の樹脂の会合位置に相当する部位に、該部位から分岐させた分岐部を設けたことによって、射出成形時に、型の補強フレーム部形成部に流入してきた樹脂が互いに衝突しながらも流れを止めずに分岐部の方向へ逃げることになり、そのため、当該会合位置でウェルドラインが発生し難く、ウェルドラインよる強度低下を抑制できる。したがって、リッド全体の強度を確保しつつ軽量化を図ることが可能である。
【0018】
そして、強度を上げるため、射出成形時の材料として繊維が含有された繊維含有樹脂を用いているため、従来の金属製のリッドと同様に所望の強度を確保することができると共に、さらなる軽量化が可能である。
【0019】
また、請求項
1に係る発明によれば、射出部をヒンジ取付部とロック部に設けたことにより、リッドの開閉時に力がかかるこれらヒンジ取付部とロック部の周辺部において、異なる射出部から流入した樹脂同士が会合しないため、ヒンジ取付部およびロック部の周辺部の十分な強度が確保できる。また、左右のヒンジ取付部とロック部との間を連結する補強フレーム部は、その両端に射出部が設けられていることとなるが、補強フレーム部の会合位置に分岐部が設けられているため、この会合位置にウェルドラインが発生し難く、補強フレーム部についても十分な強度が確保できる。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、リッドの中央部にさらに、左右のヒンジ取付部の中間点とロック部とを連結する補強フレーム部を設けたため、さらにリッド全体の強度の向上ができる。また、分岐部は、異なる補強フレーム部の会合位置同士を結んでいるため、必要最小限の材料で軽量化に配慮しながら各補強フレーム部の会合位置での強度低下を抑制できる。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、補強フレームに対して垂直方向に延びていない分岐部では、補強フレーム部の一端から分岐部へ鋭角に方向転換して流れる樹脂と、補強フレーム部の他端から分岐部へ鈍角に方向転換して流れる樹脂とで流れ易さに差が生じるため、この会合位置における両端から流入してきた樹脂同士の混ざり合いが促進されて、当該会合位置でウェルドラインが発生し難く、ウェルドラインよる強度低下を抑制できる。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、請求項4に係る発明と同様に、補強フレーム部の両端から流入して分岐部へ方向転換して流れる樹脂の流れ易さに差が生じるため、会合位置での樹脂の混ざりがより促進されることで、ウェルドラインよる強度低下を抑制できる。
【0023】
請求項6に係る発明によれば、分岐部は補強フレーム部よりも細いため、リッド全体の強度に寄与せず、当該分岐部の途中でウェルドラインが発生してもリッド全体の強度に影響はほとんどなく、必要最小限の材料で軽量化に配慮しながらリッド全体の強度の確保が可能である。
【0024】
請求項7に係る発明によれば、繊維含有樹脂として、一般に鋼やガラス繊維含有樹脂に比べて高い強度と軽さを併せ持つ材料である炭素繊維含有樹脂を選択することにより、リッドの強度向上および軽量化の点でもっとも望ましい効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。各実施の形態の説明において、理解を容易にするために方向を示す用語(例えば、「上方」、「下方」、「右方」および「左方」など)を適宜用いるが、これは説明のためのものであって、これらの用語は本発明を限定するものではない。また以下の添付図面において、同様の構成部品については同様の符号を用いて参照する。
[本発明の第1の実施形態]
【0027】
まず、
図1から
図5を参照しながら、本発明に係るリッド構造の第1の実施形態について以下に詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る樹脂製リッド構造を備えたトランクリッドを搭載した車両の後部斜視図である。
図1では、2ドアタイプの車両1が示されており、車両1の車室2内には、運転席シート及び助手席シートからなる不図示のシートが配設される。そして、シートの後方には、トランクリッド10によって上方が覆われるトランクルーム3が配設されている。
【0029】
図2は、トランクリッド10の内部構造を車両斜め上後方から見た分解斜視図とその断面図である。なお、図中において矢印(FR)は車体前方、矢印(UP)は車体上方、矢印(LH)は車体左方をそれぞれ示している。
【0030】
図2に示すように、トランクリッド10は、車体外側のアウタパネル11と車体内側のインナパネル12とから構成されている。ここで、インナパネル12は、射出成形によって樹脂から形成されており、アウタパネル11も、インナパネル12と同様に射出成形によって樹脂から形成されている。ただし、アウタパネル11は、必ずしもインナパネル12と同じ材料である必要はなく、例えば、鋼板等で形成されていてもよい。そして、これらアウタパネル11とインナパネル12は、互いに一体になるように接合されている。
【0031】
インナパネル12は、アウタパネル11の外縁に沿って伸びる中央に中空部を備えたインナパネル本体23と、トランクリッド10を車体に対して回動可能に連結するための(図示しない)ヒンジを取り付けるヒンジ取付部22、22と、車体側の(図示しない)ラッチ機構を係合するストライカ部21とを有する。ここで、ヒンジ取付部22、22は、インナパネル本体23の前端部の左右方向(車幅方向)の両端にそれぞれ設けられており、また、ストライカ部21は、インナパネル本体23の後端部の左右方向の中間点に設けられている。
【0032】
なお、
図1のようにトランクリッド10が略水平でトランクルーム3が閉鎖されている状態のとき、トランクリッド10は、左右のヒンジ取付部22、22と、ストライカ部21およびラッチ機構により構成されるロック装置とにより3点で保持されている。
【0033】
そして、インナパネル12におけるストライカ部21の形成部と左右のヒンジ取付部22、22の形成部とには、射出成形時に金型内に樹脂を入射するための第1射出部31および第2射出部32、32がそれぞれ設けられている。
【0034】
また、インナパネル12は、トランクリッド10を補強するために、インナパネル本体23の中空部を跨ぐフレーム部を有している。当該フレーム部として、左右のヒンジ取付部22、22とストライカ部21との間をそれぞれ連結する左右補強フレーム部24、24と、左右のヒンジ取付部22、22の中間点とストライカ部21とを連結する中央補強フレーム部25とを有する。
【0035】
さらに、インナパネル12は、左右補強フレーム部24、24および中央補強フレーム部25の途中から分岐する第1分岐部26、26および第2分岐部27、27をそれぞれ備えている。ここで、第1分岐部26、26は、左右補強フレーム部24、24から外側に向かって分岐している、すなわち、射出成形時に左右補強フレーム部24、24の両端から流入する樹脂の会合位置に相当する部位に一端が連結すると共に、インナパネル本体23においてストライカ部21の形成部に設けられた第1射出部31とヒンジ取付部22、22の形成部に設けられた第2射出部32、32とから流入する樹脂の会合位置に相当する部位に他端が連結している。また、第2分岐部27、27は、左右補強フレーム部24、24から中心方向に向かって分岐している、すなわち、左右補強フレーム部24、24の両端から流入する樹脂の会合位置に相当する部位と、中央補強フレーム部25の両端から流入する樹脂の会合位置に相当する部位とを連結している。
【0036】
さらにまた、本発明の実施形態は、補強フレーム部24、25に対して鋭角をなして分岐している分岐部を含んでおり、具体的には、左右補強フレーム部24、24に対して、第1分岐部26、26は鋭角をなしているが、第2分岐部27、27は略垂直方向に延びている。なお、ここで言う「鋭角」とは、左右補強フレーム部24と第1分岐部26、26とのなす角が垂直をなしていないことを意味しており、第1分岐部26、26に対して左右のいずれの角が鋭角であってもよい。
【0037】
次に、
図2のA−A線、B−B線およびC−C線での矢視断面図を参照しながらインナパネル12の形状について、さらに詳細に説明する。
【0038】
A−A線矢視断面図からわかるように、ストライカ部21は、インナパネル本体23から略垂直下向きに突出している2本の脚部と、該脚部の先端同士を連結する連結部とから構成されており、側面視で略U字形状をなす部材である。また、一方の脚部の基端部には、インナパネル本体23から略垂直上向きに突出している、樹脂を金型内に入射するための第1射出部31が設けられている。
【0039】
そして、インナパネル本体23は、ストライカ部21の2本の脚部の基端部の間に、左右方向に横長の開口部28を有している。また、インナパネル本体23は、第1射出部31が設けられていない方のストライカ部21を構成する脚部の基端部から略垂直上向きに連続して延びる縦壁部29を有している。
【0040】
B−B、C−C線矢視断面図からわかるように、左右補強フレーム部24、24および中央補強フレーム部25は共に、略コ字形状の断面を有する。
【0041】
ここで、インナパネル12は射出成形による樹脂成形品であるが、この際に原料として用いられる樹脂は、マトリックス樹脂に炭素繊維を添加して、強度を向上させた炭素繊維含有樹脂である。
【0042】
マトリックス樹脂として使用可能な樹脂は、一般に射出成形の分野で使用される樹脂であれば特に制限はなく、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネイトとポリエチレンテレフタレートとのアロイ(PC/PET)、ポリカーボネイトとポリブチレンテレフタレートとのアロイ(PC/PBT)、ポリアミドとポリフェニレンエーテルとのアロイ(PA/PPE)等、或いはこれらを2種類以上ブレンドした樹脂であってもよい。
【0043】
なお、本発明の実施形態では、インナパネル12の強度向上および軽量化のため、一般に鋼やガラス繊維含有樹脂に比べて高い強度と軽さを併せ持ち、かつ、ストライカ部21と係合する車体側のラッチ機構の磨耗防止のため、潤滑性に優れる炭素繊維を添加した樹脂を用いているが、添加する繊維はこれに限るものではなく、トランクリッド10に求められる特性等を考慮して適宜選択し得るものであり、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維等であってもよい。また、炭素繊維を用いる場合も、その含有量、繊維径およびアスペクト比等を調整することにより、樹脂の特性を適宜変えることができる。
【0044】
図3は、
図2のインナパネル12の射出成形時に樹脂が時間と共に入射される様子を示す平面図である。なお、実際の射出成形時は金型内を樹脂が流れるが、当該図面は、この金型を描かずに成形後のインナパネル12自体のうちで、射出成形中に樹脂が充填された部分をハッチングで表現することで、金型内での樹脂の流れを模式的に表現したものである。
【0045】
また、以下の説明では、「射出成形時に成形品の所定部分を樹脂が流れる」というような表現を簡略化のために用いているが、実際には、射出成形時にはまだ成形品は形成されていないため、上記表現は正確には、射出成形時に成形品の所定部分を形成する金型の相当部分を樹脂が流れることを意味している。
【0046】
まず、
図3(a)において、射出成形時にまずストライカ部21の形成部に設けられた第1射出部31から樹脂を金型内に入射する。第1射出部31から入射された樹脂は、ストライカ部21の内部を通って前方(図のFR方向)に流れると共に、ストライカ部形成面部の内部を開口部28の周囲を左右に分岐して迂回しながら前方に流れる。これら三方から流れてきた樹脂は、縦壁部29で互いに会合する。
【0047】
次に、
図3(b)において、第1射出部31から樹脂の入射を開始してから所定時間を経過後、左右のヒンジ取付部22、22の端部に設けられた第2射出部32、32から樹脂を入射する。なお、ここでは、第1射出部31からの入射と第2射出部32、32からの入射のタイミングをずらしたが、各第1、2射出部31、32からどのようなタイミングで樹脂を入射するかは、金型の形状や所望の会合位置等を考慮して適宜決定するものである。
【0048】
次に、
図3(c)において、第1、2射出部31、32から入射した樹脂は、インナパネル本体23における中央の中空部の周囲に流れると共に、これら第1、2射出部31、32同士を結んだ左右補強フレーム部24、24にもその両端から流れる。さらに、第1射出部31から入射した樹脂は、中央補強フレーム部25にもその一端から流れる。
【0049】
次に、
図3(d)において、左右補強フレーム部24、24の両端から流入した樹脂は、左右補強フレーム部24、24の中央付近で会合し、この会合位置に相当する部位で分岐している第1分岐部26、26および第2分岐部27、27に流入する。またこの間、左右の第2射出部32、32から流入した樹脂が、インナパネル本体23におけるこれら第2射出部32、32の中間点で会合し、この会合位置に相当する部位に連結された中央補強フレーム部25の一方から流入し、さらに、中央補強フレーム部25の他方から流入した樹脂とその途中で会合して、この会合した位置で分岐する第2分岐部27、27に流入する。さらにこの間に、第1射出部31と第2射出部32、32から入射して、インナパネル本体23における中央の中空部の周囲に流れる樹脂が、インナパネル本体23において会合して、その会合した位置から分岐した第1分岐部26、26にその他端から樹脂が流入する。
【0050】
最後に、図示していないが、その後、第1分岐部26、26および第2分岐部27、27の両端から流入した樹脂は、各分岐部26、27の途中で会合する。
【0051】
なお、
図3において、射出成形時に金型内で樹脂同士が会合する位置である会合位置MLを細点線で示すと共に、この会合位置MLで樹脂が固まって成形品の表面にウェルドラインWLが発生する可能性が比較的高い場所を細実線で示している。
【0052】
以上のように、射出成形時に樹脂を入射する場合、補強フレーム部で互いに連結された左右のヒンジ取付部22、22とストライカ部21の各形成部に、射出部31、32をそれぞれ設けたことにより、トランクリッド10の開閉時や車両の振動時などに力がかかる、これらヒンジ取付部22、22とストライカ部21の形成部では、異なる射出部31、32から金型内に流入した樹脂同士が会合せず、ウェルドラインWLの発生を抑制できると共に、ストライカ部が補強フレーム部と一体構造であるため、ヒンジ取付部22、22とストライカ部21の形成部での十分な強度の確保が可能である。
【0053】
ここからは、本願発明の特徴である分岐部の具体的な構成とその効果について、
図4から
図7を参照しながら以下に詳細に説明する。なお、これら
図4から
図7についても、
図3と同様に、射出成形時に金型内で樹脂同士が会合する会合位置MLを細点線で示すと共に、この会合位置MLで樹脂が固まって成形品の表面にウェルドラインWLが発生する可能性が比較的高い場所を細実線で示している。
【0054】
図4は、
図3の左方にある左右補強フレーム部24における会合位置MLと第1分岐部26および第2分岐部27とでの樹脂の流れを示す拡大斜視図である。
【0055】
左右補強フレーム部24の両端から流入した樹脂は、会合位置MLで会合し、該会合位置MLから分岐する第1分岐部26および第2分岐部27へ逃げて流れていく。
【0056】
会合位置MLから分岐して流れた樹脂は、第1分岐部26および第2分岐部27の途中で、他方から流入してきた樹脂と会合する。なお、この会合位置MLでは、樹脂の逃げ場所がなく、互いに正面から会合して流れが止まるため、他の会合位置MLよりもウェルドラインWLが発生し易い。
【0057】
図5は、
図3の左右補強フレーム部24における会合位置ML周辺での樹脂の流れが時間と共に変化する様子を示す拡大平面図である。なお、繰り返しになるが、この第1の実施形態では、左右補強フレーム部24に対して第1分岐部26は鋭角をなして分岐している。なお、図中の矢印は、その場所での樹脂の流れる方向をそれぞれ示している。
【0058】
まず、
図5(a)において、左右補強フレーム部24の両端(図の上下)から樹脂が流入する。なお、樹脂の流れの最先端は、左右補強フレーム部24の途中にあり、まだ分岐部26,27が分岐している地点には達していない。
【0059】
次に、
図5(b)において、左右補強フレーム部24の両端から流入した樹脂同士が会合する。なお、樹脂の射出速度や金型温度、相対的な射出タイミング等を調整することによって、左右補強フレーム部25の中間部付近で樹脂同士を会合させることが可能であり、この会合位置MLに相当する部位に第1分岐部26および第2分岐部27を設けるように金型を設計することで、ちょうど第1分岐部26および第2分岐部27が分岐している地点で樹脂同士を会合させることが可能である。
【0060】
次に、
図5(c)において、互いに会合した樹脂は、第1分岐部26および第2分岐部27が樹脂の流れの逃げ道になるため、会合位置MLですぐに固まらずに第1分岐部26および第2分岐部27に流れ込む。さらに、第1分岐部26の分岐方向が左右補強フレーム部24に対して垂直ではないため、左右で樹脂の流れにアンバランスが生じており、このとき会合位置ML付近では、両端からの樹脂が互いに混ざり合いながら左右の分岐方向へ流れていく。
【0061】
次に、
図5(d)において、第1分岐部26および第2分岐部27にそれぞれ流入した両端からの樹脂は、その先端では互いにひとつの流れになって流れている。このときも、会合位置ML付近では、左右補強フレーム部24の両端から流入した樹脂が混ざり合いながら、第1分岐部26および第2分岐部27へ流れてゆくため、樹脂が常に流動的であり、ウェルドラインWLが発生し難い。
【0062】
最後に、図示していないが、その後、第1分岐部26および第2分岐部27に流入した樹脂は、各分岐部26、27の途中で他方から流入した樹脂と会合し、互いに行き場がないため、この会合位置MLで固まる。そして、この会合位置MLでは、他の会合位置MLに比べてウェルドラインWLが発生し易い。
【0063】
ここで、分岐部26、27は補強フレーム部24、25よりも細いため、リッド全体の強度に寄与せず、当該分岐部26、27の途中でウェルドラインWLが発生してもリッド全体の強度に影響はほとんどなく、必要最小限の材料で軽量化に配慮しながらリッド全体の強度の確保が可能である。
【0064】
ここで、
図7の比較例を参照しながら、
図6の他の実施形態について以下に詳細に説明する。
[比較例]
【0065】
図7は、比較例のリッド構造における左右補強フレーム部24の会合位置ML周辺での樹脂の流れを示す拡大平面図である。左右補強フレーム部24の会合位置MLに相当する部位には、第1の実施形態のような分岐部が設けられていない。
【0066】
比較例の場合、射出成形時に左右補強フレーム部24の両端から流入した樹脂は、互いに正面から会合し、会合した樹脂は分岐部26、27のような樹脂の逃げ場が無いため、この会合位置MLで樹脂の流れが止まって固まり、ウェルドラインWLが発生する。冒頭で述べたように、発生したウェルドラインWLは、成形品の他の部分に比べて強度が低い。
【0067】
次に、
図6(a)(b)は、本発明の第2および第3の実施形態のリッド構造における左右補強フレーム部24の会合位置ML周辺での樹脂の流れをそれぞれ示す拡大平面図である。
【0068】
これら第2及び第3の実施形態は、第1および第2分岐部26、27の左右補強フレーム部24に対する分岐位置および分岐方向の点で第1の実施形態と主に相違している。なお、以下で特段説明を行わない他の点については、第1の実施形態と同様の構造を有するものとする。
[本発明の第2の実施形態]
【0069】
まず、
図6(a)は、第2の実施形態として、左右補強フレーム部24の両側に設けられた2つの分岐部26、27が、互いにオフセットした状態で会合位置MLに相当する部位で対向したものを示している。すなわち、左右の分岐部26、27が分岐している位置が、左右補強フレーム部24の長手方向に所定長さだけ互いにオフセットしている。
【0070】
このオフセットにより、第1の実施形態と同様に、左右補強フレーム部24の両端からの樹脂の流れがアンバランスになって、会合位置ML付近での樹脂の混ざりが促進され、ウェルドラインWLの発生が抑制される。
【0071】
なお、オフセットの長さが長すぎると、会合位置MLでの樹脂の混ざりが逆に少なくなるため、左右補強フレーム部24の側方から見たときの分岐部26、27の分岐位置での断面が、少なくとも一部の範囲で互いに重なっていると共に、この重なった範囲に側方から見た会合位置MLが含まれるようなオフセットの長さが好ましい。
【0072】
また、この第2の実施形態は、分岐部26、27はいずれも左右補強フレーム部24に対して垂直方向に分岐しているが、分岐部26、27のいずれか一方または両方が左右補強フレーム部24に対して鋭角をなしていてもよい。
[本発明の第3の実施形態]
【0073】
さらに、
図6(b)は、第3の実施形態として、分岐部26、27が左右補強フレーム24に対して垂直方向に分岐しており、左右補強フレーム部24の両側に互いにオフセットさせずに対向して設けられたものを示している。
【0074】
この第3の実施形態は比較例に比べると、会合位置MLに分岐部26、27が設けられているため、会合位置MLで会合した樹脂の一部は分岐部26、27へ逃げるため、この会合位置MLでウェルドラインWLが発生するとしても、左右補強フレーム24の中央付近にのみ生じて、左右補強フレーム24の左右側方の分岐部26、27近くは樹脂の流れによってウェルドラインWLが発生しにくい。
【0075】
もっとも、この第3の実施形態は第1または第2の実施形態と比較すると、分岐部26、27が左右補強フレーム24に対して左右対称であるため、会合位置MLでの樹脂の流れにアンバランスが生じにくく、会合位置MLでの樹脂の混ざり合いが少なくなり、ウェルドラインWLが生じやすくなる。したがって、設計上許容されるのであれば、この第3の実施形態よりも第1または第2の実施形態の方が、ウェルドラインWLの発生の抑制の点では望ましい。
【0076】
以上のように、本発明により、トランクリッド10の強度を要する部分における樹脂の会合位置に相当する部位に分岐部26、27を設けることで、この会合位置で、強度を低下させるウェルドラインWLの発生を抑制して、トランクリッド10全体の強度を確保しつつ軽量化することができる。
【0077】
なお、上述の実施の形態においては、分岐部は補強フレームの左右両側に設けられているが、補強フレームの片側にしか設けられていない場合でも会合位置でのウェルドラインの発生を抑制する効果が得られる。
【0078】
また、上述の実施の形態においては、トランクリッドの場合について述べたが、本発明のリッド構造に関する技術をボンネットに適用してもよい。