(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記押圧力制御手段が、前記第2のロールに相対しつつ前記金属ストリップの搬送方向に直角な方向で前記第2のロールの長手方向に沿って並べて設けられた複数の第3のロールと、前記複数の第3のロールのそれぞれに連結しつつ前記第2のロールに対する前記複数の第3のロールの押し込み量をそれぞれ制御可能に構成された複数のシリンダーとを有することを特徴とする請求項1に記載の金属ストリップの処理装置。
前記第2のロールが、円筒状のスリーブと軸芯となるアーバとを有しているとともに、前記スリーブと前記アーバとの間に前記スリーブの径を拡縮可能に構成された流体圧を用いた機構または機械的な機構が設けられ、前記押圧力制御手段によって前記金属ストリップの板幅方向に沿った位置ごとに独立して前記スリーブの径を変更可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属ストリップの処理装置。
コイル状に巻かれた前記金属ストリップを払い出す巻出手段と、コイル単位で払い出される前記金属ストリップの先行材の尾端と後行材の先端とを溶接する溶接手段と、前記金属ストリップを洗浄する洗浄手段と、レジストを塗布する前記印刷手段と、前記金属ストリップの表面に対してエッチングを行うエッチング手段と、前記金属ストリップの表面に印刷されたレジストを剥離する剥離手段と、前記金属ストリップをコイル単位で切断する切断手段と、前記金属ストリップをコイル状に巻き取る巻取手段とが、順次配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属ストリップの処理装置。
【背景技術】
【0002】
従来、方向性電磁鋼板の鉄損を低減するための方法として、磁区細分化処理が用いられている。特許文献1には、インヒビターを含む珪素鋼素材に熱間圧延を施し、次に、1回又は中間焼鈍を挟んで2回の冷間圧延を施した後、最終仕上げ焼鈍を施すまでの間に局所的なエッチング処理を行って溝を形成する、方向性電磁鋼板の磁区細分化処理方法が記載されている。このようなエッチング処理方法としては化学的エッチングおよび電解エッチングが知られており、電流による溝深さのコントロールが容易である点からは電解エッチングが有利である。
【0003】
特許文献2には、最終冷間圧延後、鋼板表面にエッチングレジストを塗布し焼き付けて、連続又は非連続の線状の非塗布部領域を残存させ、電解エッチングを施して鋼板表面に線状溝を形成する方法が記載されている。この電解エッチングにおいては、あらかじめ鋼板表面にエッチングレジスト材(エッチングマスク)としてインキなどの絶縁材を塗布し焼付けて電解エッチングを行った後に、絶縁材(レジスト材)を除去する工程が一般的であり、工業的にも実施されている。
【0004】
この方法において良好な磁気特性を得るためには、溝深さや溝幅などの溝の断面形状(溝形状)を適切に制御することが重要である。溝の断面形状における溝深さが小さく、溝が浅いと、磁区細分化の効果が不足してしまう。逆に、溝深さが大きく溝が深くなり過ぎると、磁束の流れが妨げられ、B
8で表される磁束密度が低下してしまう。そのため、この溝形状を適切に制御する方法が種々提案されている(特許文献3,4)。
【0005】
特許文献3には、電解エッチング槽内の電極を板幅方向に多分割して、エッチング槽の出側で板幅方向の溝深さを測定し、その測定値に基づいて板幅方向における溝深さを均一化するように、分割した各電極に通電する電流値を制御して溝深さを均一化する、方向性電磁鋼板の製造方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献4には、電解エッチング時の鋼帯の電気抵抗、電解液の電気抵抗などの変化によるエッチング溝深さのばらつきを低減するために、鋼帯の電気抵抗や電解液の電気抵抗に応じて設定電圧を補正して電解エッチングを行う、方向性電磁鋼板の製造方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献3,4に記載された方法では、電解エッチングの過程によって生じるばらつきを低減するには、不十分である。その理由は、溝形状の不良は、電解エッチング過程のみで発生するのではなく、レジスト塗布過程における塗布状態も大きく影響するためである。
【0009】
図5は、冷延板1に対してエッチングレジストを塗布するグラビアオフセット印刷機を示す。
図5に示すように、グラビアオフセット印刷機におけるレジストの塗布部分は、バックアップロール2、グラビアロール3、オフセットロール4、およびドクターナイフ5,6を備える。
【0010】
グラビアロール3は、一定量のレジスト液を特定パターンでピックアップして、オフセットロール4の表面に転写する。オフセットロール4とバックアップロール2とは、冷延板1を挟持して一定のニップ圧で押圧することによって、オフセットロール4の表面に転写されたレジスト液を冷延板1の表面に転写する。この時、冷延板1の表面におけるレジスト液の濡れ広がりはニップ圧によって変化し、ニップ圧が高い部分では、圧延方向に沿ったより広い領域にまでレジスト液が広がる。そのため、ニップ圧が高い部分では、溝形成のためのレジストパターン自体の溝が狭くなるため、冷延板1の表面に形成される線状溝の溝幅が小さくなりやすい。特に、冷間圧延後の冷延板1は、圧延中の圧延機やロールの弾性変形に起因して、圧延方向に直交する板幅方向に沿って不均一な板厚分布が生じている。通常、冷延板1は、エッジ部(板幅方向の両側端部)が薄くなり板厚が小さくなるので、このエッジ部の近傍においては板幅方向に沿った中央に比してニップ圧が小さくなる。そのため、レジストパターンにおける板幅方向に沿った溝幅が変化して不均一になる。
【0011】
そこで、本発明者は、実際にグラビアオフセット印刷によるレジスト塗布を行った後、電解エッチングで線状溝を形成した方向性電磁鋼板の板幅方向に沿った溝形状(溝幅、溝深さ)を測定した。
図6Aおよび
図6Bはそれぞれ、溝形状における溝幅(μm)および溝深さ(μm)の、冷延板1の板幅方向に沿った中央(板幅中央)からの距離依存性を示すグラフである。ここで、この冷延板1の板幅は1160mmである。また、
図6Aおよび
図6Bのグラフは、線状溝ごとに、冷延板1の板幅方向に沿った中央の位置と板幅方向に沿った中央からエッジ部に向かってそれぞれ275mmおよび550mm離れた位置との、合計5箇所で溝幅および溝深さを計測し、それぞれ計測した30個の線状溝の溝幅および溝深さの平均値を算出した結果である。
【0012】
図6Aから、冷延板1の板幅中央ほど線状溝の溝幅が小さく、エッジ部に近いほど溝幅が大きくなり、線状溝がエッジ部に向かって広がっていることが分かる。一方、
図6Bから、冷延板1の板幅中央ほど線状溝の溝深さが大きく、エッジ部に近いほど溝深さが小さくなり、線状溝がエッジ部に向かって浅くなっていることが分かる。本発明者の知見によれば、線状溝の溝幅が冷延板1のエッジ部に向かって大きくなるのは、次のような理由による。すなわち、冷延板1は、エッジ部の近傍において板厚が小さくなることから、オフセットロール4とバックアップロール2との間のニップ圧が板幅中央に比して相対的に小さくなる。これにより、エッジ部の近傍におけるレジスト液の濡れ広がりが板幅中央に比して相対的に小さくなるためである。
【0013】
さらに、冷延板1の表面に溝幅が異なるレジストパターンが形成された場合、同じ電流値で電解エッチングを行うと、レジストパターンの溝幅が小さいほど形成される線状溝は溝深さが大きく深くなり、レジストパターンの溝幅が大きいほど形成される線状溝は溝深さが小さく浅くなる。その結果、冷延板1の表面に形成される線状溝の溝深さは、板幅方向に沿って不均一になって溝深さのばらつきが生じる。
【0014】
このような問題を解決するために特許文献3に記載されている技術を採用すると、次のように対処することになる。まず、電解エッチング槽内の電極を幅方向に多分割して、エッチング槽の出側において板幅方向の溝深さを測定する。そして、それらの測定値に基づいて板幅方向における溝深さが均一化するように、多分割したそれぞれの電極に通電する電流値を制御する。これにより、線状溝を、溝深さが幅方向に沿って均一になるように形成できる。しかしながら、この特許文献3に記載された技術では、レジストを塗布した時点でレジストパターンにおける溝幅が大きい領域では、エッチングによって電解される地鉄の体積が大きくなるため、磁束密度B
8の劣化が問題になる。
【0015】
また、特許文献4に記載されている技術では、上述の問題を解決しようとしても、レジストを塗布した時点の溝幅のばらつきに起因した溝形状の変動を抑制することは、原理的に極めて困難である。
【0016】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、方向性電磁鋼板などの金属ストリップに対して電解エッチングを行う場合に、金属ストリップの長手方向および板幅方向において安定した形状の線状溝を形成でき、ばらつきが小さく安定した品質を有する金属ストリップを、工業的に安定して製造可能な金属ストリップの処理装置および金属ストリップの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決し、上記目的を達成するために、本発明に係る金属ストリップの処理装置は、搬送される金属ストリップの表面にレジストを塗布する印刷手段を備えた金属ストリップの処理装置において、印刷手段が、金属ストリップの表面にレジストを塗布する第1のロールと、第1のロールのロール面に相対して設けられ、第1のロールと金属ストリップを挟持しつつ金属ストリップを押圧する第2のロールと、第2のロールによる金属ストリップへの押圧力を、金属ストリップの板幅方向に沿った位置ごとに独立して制御可能に構成された押圧力制御手段と、を有することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る金属ストリップの処理装置は、上記の発明において、押圧力制御手段が、第2のロールに相対しつつ金属ストリップの搬送方向に直角な方向で第2のロールの長手方向に沿って並べて設けられた複数の第3のロールと、複数の第3のロールのそれぞれに連結しつつ第2のロールに対する複数の第3のロールの押し込み量をそれぞれ制御可能に構成された複数のシリンダーとを有することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る金属ストリップの処理装置は、上記の発明において、第2のロールが、円筒状のスリーブと軸芯となるアーバとを有しているとともに、スリーブとアーバとの間にスリーブの径を拡縮可能に構成された流体圧を用いた機構または機械的な機構が設けられ、押圧力制御手段によって金属ストリップの板幅方向に沿った位置ごとに独立してスリーブの径を変更可能に構成されていることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る金属ストリップの処理装置は、上記の発明において、コイル状に巻かれた金属ストリップを払い出す巻出手段と、コイル単位で払い出される金属ストリップの先行材の尾端と後行材の先端とを溶接する溶接手段と、金属ストリップを洗浄する洗浄手段と、レジストを塗布する印刷手段と、金属ストリップの表面に対してエッチングを行うエッチング手段と、金属ストリップの表面に印刷されたレジストを剥離する剥離手段と、金属ストリップをコイル単位で切断する切断手段と、金属ストリップをコイル状に巻き取る巻取手段とが、順次配置されていることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る金属ストリップの処理装置は、上記の発明において、金属ストリップが最終製品の板厚に圧延された方向性電磁鋼板用冷延板であることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る金属ストリップの製造方法は、金属ストリップの板幅方向に沿った板厚分布を計測する板厚計測ステップと、金属ストリップの表面にレジストを塗布する第1のロールと、第1のロールのロール面に相対して設けられ、第1のロールと金属ストリップを挟持しつつ金属ストリップを押圧する第2のロールと、第2のロールによる金属ストリップへの押圧力を、金属ストリップの板幅方向に沿った位置ごとに独立して制御可能に構成された押圧力制御手段と、を有する印刷手段に対して、板厚計測ステップにおいて計測された板厚分布の計測値に基づいて、金属ストリップの板幅方向に沿ったレジストの溝パターンの溝幅が互いに均一になるように、押圧力制御手段により、第2のロールの金属ストリップへの押圧力を金属ストリップの板幅方向に沿った位置ごとに制御する押圧力制御ステップと、印刷手段により、金属ストリップの表面に所定の溝幅の溝パターンを有するレジストを塗布するレジスト塗布ステップと、を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明に係る金属ストリップの製造方法は、金属ストリップの表面にレジストを塗布する第1のロールと、第1のロールのロール面に相対して設けられ、第1のロールと金属ストリップを挟持しつつ金属ストリップを押圧する第2のロールと、第2のロールによる金属ストリップへの押圧力を、金属ストリップの板幅方向に沿った位置ごとに独立して制御可能に構成された押圧力制御手段と、を有する印刷手段を用いて、金属ストリップの表面にレジストを塗布するレジスト塗布ステップと、金属ストリップの表面をレジストをマスクとしてエッチングすることにより、金属ストリップの表面に溝を形成する溝形成ステップと、溝形成ステップ後に、金属ストリップに形成された溝の溝幅を金属ストリップの板幅方向に沿って複数の位置で計測する溝幅計測ステップと、計測された複数の溝幅の計測値に基づいて、押圧力制御手段により、金属ストリップの板幅方向に沿った複数の溝における溝幅が互いに均一になるように、第2のロールの金属ストリップへの押圧力を金属ストリップの板幅方向に沿った位置ごとで制御する押圧力制御ステップと、を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明に係る金属ストリップの製造方法は、上記の発明において、金属ストリップが最終製品の板厚に圧延された方向性電磁鋼板用冷延板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る金属ストリップの処理装置および金属ストリップの製造方法によれば、電解エッチング工程において、金属ストリップの長手方向および板幅方向において安定した形状の線状溝を形成でき、ばらつきが小さく安定した品質を有する方向性電磁鋼板などの金属ストリップを、工業的に安定して製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の一実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する一実施形態によって限定されるものではない。
【0028】
(エッチング処理装置)
まず、本発明の一実施形態による金属ストリップの処理装置である方向性電磁鋼板に対するエッチング処理について説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるエッチング処理装置の模式図を示す。
【0029】
図1に示すように、この一実施形態によるエッチング処理装置は、入側の方向性電磁鋼板コイル8が設置される巻出手段としてのペイオフリール7、シャー10、溶接手段としての溶接機11、入側ルーパー設備12、洗浄手段としての電解脱脂設備13、印刷手段としての印刷設備14、乾燥焼付け手段としての熱風乾燥炉15、エッチング手段としての電解エッチング設備16、剥離手段としてのレジスト剥離設備17、金属ストリップ9表面の溝形状を測定する溝形状計測センサー18、出側ルーパー設備19、切断手段としての切断機20、および出側の方向性電磁鋼板コイル22が設置される巻取手段としてのコイラー21が順次設けられている。なお、電解脱脂設備13からレジスト剥離設備17までを中央設備23と称する。
【0030】
(エッチング方法)
次に、このエッチング処理装置における金属ストリップ9に対する処理方法としてのエッチング方法について説明する。なお、鋼板などの金属ストリップ9は、例えば最終製品板厚まで冷間圧延が施された方向性電磁鋼板用冷延板などである。
【0031】
図1に示すように、まず、方向性電磁鋼板コイル8に巻かれた状態の方向性電磁鋼板の金属ストリップ9はペイオフリール7から払い出される。金属ストリップ9は、シャー10において先行材とともに接合端部が切り揃えられ、後行材の先端と先行材の末端とが溶接機11によって接合される。このとき、入側の金属ストリップ9の搬送が停止する一方で、入側ルーパー設備12に蓄えられている金属ストリップ9が払い出される。これによって、中央設備23において金属ストリップ9の速度が一定に維持されつつ運転が継続されるので、ラインの速度変化に起因する印刷不良の発生は抑制される。
【0032】
金属ストリップ9は、前の工程で付着した圧延油などが電解脱脂設備13によって洗浄されて除去された後、印刷設備14に供給される。印刷設備14においては、金属ストリップ9の表面に溶剤または水を含有するインキによってレジストを塗布し印刷する。この際、金属ストリップ9の表面は電解脱脂設備13において洗浄されているので、油脂などの残留物質に起因した印刷不良の発生は抑制される。なお、この印刷設備14の詳細については後述する。
【0033】
続いて、印刷設備14に対して、金属ストリップ9の搬送方向に沿った下流側に配置された熱風乾燥炉15において、金属ストリップ9の表面のレジストが連続的に固化される。これにより、固化不全のレジストによって懸念される、金属ストリップ9と各種搬送用ロールとの擦過などに起因するレジストの剥離が抑制される。
【0034】
次に、金属ストリップ9は、表面に形成されたレジストパターンをマスクとして電解エッチング設備16においてエッチングされる。これにより、金属ストリップ9の表面に線状溝が形成される。なお、電解エッチング設備16においては、電解エッチング槽(図示せず)内に設けた電極に通電しつつ、その内部に金属ストリップ9を通過させて電解エッチング処理を行う。これによって、金属ストリップ9の表面に、例えば方向性電磁鋼板における磁区細分化処理のための、線状溝が形成される。なお、このようにして形成される線状溝は、例えば、金属ストリップ9の搬送方向(圧延方向)と直交する板幅方向に対して±30°以内の方向に延伸した形状になる。
【0035】
続いて、金属ストリップ9はレジスト剥離設備17に搬送される。レジスト剥離設備17においては、下流工程に悪影響を及ぼすエッチング後の不要レジストが除去され、金属ストリップ9が洗浄される。レジスト剥離設備17の出側にはエッチングによって形成された線状溝における溝幅および溝深さを計測する溝形状計測センサー18が設置されている。溝形状計測センサー18は、板幅方向に沿った複数の位置での溝幅および溝深さを測定可能に構成されている。この溝形状計測センサー18は、例えば搬送方向に対して直角方向の板幅方向に沿ってレーザー距離計を複数台設置して構成され、金属ストリップ9の溝形状を非接触で測定する。
【0036】
その後、金属ストリップ9は、溝形状計測センサー18の下流側の出側ルーパー設備19を経由した後、コイラー21に巻き取られる。また、溝形状計測センサー18の出側においては、コイラー21に巻き取られた金属ストリップ9の長さが所定の長さになり、方向性電磁鋼板コイル22が所望の大きさになった時点で、金属ストリップ9の搬送が停止される。そして、切断機20によって金属ストリップ9が切断されて、コイル切り離しが行われる。このとき、金属ストリップ9の搬送が停止する一方で、出側ルーパー設備19が金属ストリップ9を蓄える。これによって、中央設備23において金属ストリップ9の速度が一定に維持されつつ運転が継続され、一定速度で金属ストリップ9を搬送し続けることが可能となる。切断後、方向性電磁鋼板コイル22はコイラー21から抜き出される。その後、金属ストリップ9に対して脱炭焼鈍した後、最終仕上げ焼鈍を施すことによって、方向性電磁鋼板などが製造される。
【0037】
(印刷設備)
次に、本発明の一実施形態による印刷設備14の構造について説明する。
図2Aおよび
図2Bはそれぞれ、印刷設備14の塗布部における側面図および正面図である。
【0038】
図2Aに示すように、この一実施形態による、例えばグラビアオフセット印刷機などの印刷設備14の塗布部分は、バックアップロール2、グラビアロール3、オフセットロール4、ドクターナイフ5,6、押さえロール24、流体圧シリンダー25、および制御部26を有する。グラビアロール3は、レジスト液を特定のパターンで一定量ピックアップする。第1のロールとしてのオフセットロール4は、グラビアロール3によってピックアップされたレジスト液がその表面に転写される。オフセットロール4は、第2のロールとしてのバックアップロール2との間で金属ストリップ9を所定の押圧力、すなわちニップ圧で挟み込み、表面に転写されたレジスト液を金属ストリップ9の表面に転写する。
【0039】
また、
図2Bに示すように、第3のロールとしての押さえロール24は、バックアップロール2の幅方向に沿って分割した複数の押さえロール24−1,24−2,24−3,…,24−nを備える。この一実施形態による印刷設備14において、押さえロール24は、バックアップロール2に相対した位置に設けられる。また、流体圧シリンダー25は、制御部26によって互いに独立制御可能な複数の流体圧シリンダー25−1,25−2,25−3,…,25−nからなる。各流体圧シリンダー25−1〜25−nは、幅方向に沿って複数並べられた各押さえロール24−1〜24−nにそれぞれ対応した位置で、押さえロール24を押し込み可能に連結されている。この押さえロール24の押し込み量を、押圧力制御手段としての流体圧シリンダー25および制御部26によって制御する。これにより、金属ストリップ9に対する押圧力であるオフセットロール4とバックアップロール2とのニップ圧が、金属ストリップ9の板幅方向であってバックアップロール2の長手方向に沿った位置ごとに制御される。
【0040】
具体的には、制御部26が、各流体圧シリンダー25−1〜25−nごとに押さえロール24−1〜24−nに対する押し込み量を制御し、各押さえロール24−1〜24−nをそれぞれ独立にバックアップロール2に押し込み、そのたわみを制御する。これにより、バックアップロール2とオフセットロール4との間のニップ圧を幅方向に沿って位置ごとに独立して調整して制御できる。このように、バックアップロール2とオフセットロール4とによる金属ストリップ9へのニップ圧を、板幅方向に沿った位置ごとに独立して制御できる。そのため、金属ストリップ9表面における圧延方向へのレジスト液の濡れ広がりを板厚方向に沿って制御できるので、線状溝を形成するためのレジストパターンの溝幅を調整することが可能になる。
【0041】
(印刷設備の変形例)
次に、本発明の一実施形態による印刷設備14の変形例による構造について説明する。
図2Cおよび
図2Dはそれぞれ、印刷設備14の塗布部における側面図および正面図である。
【0042】
図2Cおよび
図2Dに示すように、印刷設備14の変形例においては、第2のロールとしてのバックアップロール2は、円筒状を有するスリーブ27とバックアップロール2の軸芯となるアーバ28とから構成される。これらのスリーブ27とアーバ28との間には、スリーブ27の径を拡大および縮小(以下、拡縮)可能に構成されたアクチュエータ30が設けられている。この変形例による印刷設備14においてアクチュエータ30は、制御部26によって互いに独立して制御可能な複数の流体圧シリンダー(図示しない)から構成されている。
【0043】
それぞれの流体圧シリンダーは、配管31を介して流体圧ポンプ32に接続されている。なお、ロータリージョイント29は、バックアップロール2の回転する位置において、内外の配管31を接続するジョイントである。そして、押圧力制御手段としてのアクチュエータ30および制御部26が、流体圧ポンプ32からそれぞれの流体圧シリンダーに供給される流体の吐出量を制御することによって、スリーブ27の径の拡縮を行う。このスリーブ27の拡縮によって、バックアップロール2による金属ストリップ9に作用させる押圧力が変更される。これにより、金属ストリップ9に対する押圧力であるオフセットロール4とバックアップロール2との間のニップ圧が、金属ストリップ9の板幅方向であってバックアップロール2の長手方向に沿った位置ごとに制御される。
【0044】
具体的には、制御部26が、流体圧ポンプ32を介して、アクチュエータ30のそれぞれの流体圧シリンダーごとにその対応する位置におけるスリーブ27の径の拡縮を制御する。これにより、バックアップロール2とオフセットロール4との間のニップ圧が、幅方向に沿って位置ごとに独立して調整して制御される。このように、制御部26によって、バックアップロール2とオフセットロール4とによる金属ストリップ9へのニップ圧を、板幅方向に沿った位置ごとに独立して制御できる。そのため、金属ストリップ9表面における圧延方向へのレジスト液の濡れ広がりを板厚方向に沿って制御できるので、線状溝を形成するためのレジストパターンの溝幅を調整することが可能になる。
【0045】
印刷設備14が上述した機構を有することによって、板幅方向に沿って板厚偏差を有する板厚分布の金属ストリップ9の表面に対して、レジストを均一に塗布することが可能となる。これにより、線状溝を形成するためのレジストパターンにおける溝幅を、金属ストリップ9の板幅方向に沿って均一化することができる。
【0046】
(押さえロールの押し込み量のFF制御)
次に、バックアップロール2のニップ圧の制御方法について具体的に説明する。
図3は、この一実施形態によるニップ圧の制御をフィードフォワード制御(FF制御)によって行う制御方法を示すフローチャートである。なお、以下の説明においては、
図2Aおよび
図2Bに示す、この一実施形態による印刷設備14における制御部26が、流体圧シリンダー25の圧力および押さえロール24の押し込み量の制御を行うことによって、バックアップロール2のニップ圧を制御する方法について説明する。
【0047】
図3に示すように、この一実施形態によるバックアップロール2のニップ圧の制御においては、まず、板厚分布計測手段(図示せず)などを用いて、金属ストリップ9の幅方向に沿った板厚分布を測定する(ステップST1)。次に、例えば制御部26や外部のプロセスコンピュータ(図示せず)が、測定された板厚分布に応じて変化するオフセットロール4とバックアップロール2との間のニップ圧を、弾性解析に基づいて算出する(ステップST2)。なお、必要に応じて、これらの板厚分布およびニップ圧の弾性解析の結果については、制御部26や外部のプロセスコンピュータにおける記憶領域に、データテーブルとしてデータ抽出可能に格納しておくことが望ましい。
【0048】
そして、制御部26は、オフセットロール4とバックアップロール2との間のニップ圧の不均一性を補償するように、各流体圧シリンダー25−1〜25−nの圧力をそれぞれ独立に調整して、各押さえロール24−1〜24−nの押し込み量をそれぞれ独立に制御する(ステップST3)。その後、ニップ圧の不均一性を補償するように押さえロール24の押し込み量を調整した状態で、上述したように、金属ストリップ9の表面にレジストを塗布する(ステップST4)。そして、このレジストを固定した後、電解エッチング設備16においてレジストパターンをマスクとしてエッチングすることにより、金属ストリップ9の表面に線状溝を形成する(ステップST5)。以上の一連の動作(ステップST1〜ST5)を繰り返し実行することにより、金属ストリップ9の表面に複数の線状溝を連続して形成する。
【0049】
以上のフィードフォワード制御によるニップ圧の制御によれば、金属ストリップ9の板幅方向に沿った板厚分布に応じて、制御部26が流体圧シリンダー25の圧力を制御することで、押さえロール24の押し込み量を制御できるので、金属ストリップ9の板幅方向に沿って、所望の領域において線状溝の溝幅を均一化することができる。また、必要に応じて、金属ストリップ9の表面に、搬送方向(圧延方向)に沿って所望の溝幅の線状溝を形成することもできる。
【0050】
(押さえロールの押し込み量のFB制御)
次に、この印刷設備14における制御部26によるバックアップロール2のニップ圧の制御を、フィードバック制御(FB制御)により行う制御方法について具体的に説明する。
図4は、この一実施形態によるニップ圧の制御をFB制御によって行う制御方法を示すフローチャートである。
【0051】
すなわち、
図4に示すように、まず、上述したように、金属ストリップ9の表面にレジストを塗布する(ステップST11)。このレジストを固定した後、電解エッチング設備16においてレジストパターンをマスクとしてエッチングを行うことにより、金属ストリップ9の表面に線状溝を形成する(ステップST12)。
【0052】
次に、溝形状計測センサー18によって、板幅方向に沿った複数の位置で金属ストリップ9の表面の線状溝の溝幅を計測する(ステップST13)。これらの複数の溝幅の計測値は、制御部26や外部のプロセスコンピュータ(
図1中、図示せず)に供給される。そして、それらの線状溝の溝幅の計測値に基づいて、制御部26が、幅方向に沿って溝幅が均一になるように、各流体圧シリンダー25−1〜25−nの圧力をそれぞれ独立に調整して、各押さえロール24−1〜24−nの押し込み量をそれぞれ独立に制御する(ステップST14)。これによって、バックアップロール2のニップ圧を、その長手方向に沿った位置ごとに制御する。
【0053】
その後、ステップST11に復帰して、ニップ圧を補償するように押さえロール24の押し込み量が調整された状態で、金属ストリップ9の表面にレジストを塗布する(ステップST11)。このレジストを固定した後にレジストパターンをマスクとしてエッチングを行って金属ストリップ9の表面に線状溝を形成する(ステップST12)。以上の一連の動作(ステップST11〜ST14)を繰り返し実行することにより、金属ストリップ9の表面に複数の線状溝を連続して形成する。
【0054】
以上のフィードバック制御によるニップ圧制御によれば、実際にエッチングされた金属ストリップ9の表面の線状溝の形状に応じて、制御部26が流体圧シリンダー25の圧力を制御することで、押さえロール24の押し込み量を制御できるので、金属ストリップ9の板幅方向に沿って、所望の領域において線状溝の溝幅を均一化することができる。また、必要に応じて、金属ストリップ9の表面に、搬送方向(圧延方向)に沿って所望の溝幅の線状溝を形成することもできる。
【0055】
(実施例および比較例)
次に、上述の一実施形態に基づいた実施例および従来技術に基づいた比較例によって形成された線状溝を有する方向性電磁鋼板について説明する。この実施例および比較例においては、インヒビターとして窒化アルミニウム(AlN)およびセレン化マンガン(MnSe)を含み、珪素(Si)を3.2%含む珪素鋼に対してエッチングを行う。すなわち、まず、熱間圧延板から中間焼鈍を挟んだ2回の冷間圧延によって、この珪素鋼を板厚が0.22mmになるまで圧延する。そして、
図1に示すエッチング処理装置において、珪素鋼の表面に、エッチングレジストを塗布した後に電解エッチングを行って、線状溝を形成する。
【0056】
また、エッチングレジストインキとしてはエポキシ系樹脂を主成分とするインキを用いた。さらに、電解エッチング設備16においては、塩化ナトリウム(NaCl)電解浴中で電流密度を10A/dm
2とし、30秒間の電解エッチングを行う。以上のエッチング処理により珪素鋼の表面に形成される線状溝は、圧延方向に対して80°(板幅方向に対して10°)の傾きで、圧延方向に沿った溝の間隔を3mmとし、溝幅および溝深さの目標値をそれぞれ0.1mmおよび20μmとした。
【0057】
そして、実施例1においては、珪素鋼の表面に、レジスト塗布時のニップ圧制御としてFF制御を採用してレジストパターンを形成した後、電解エッチングによって線状溝を形成した。すなわち、前工程における圧延機の出側に設置した幅方向走査型のX線板厚計(いずれも図示せず)によって、珪素鋼の板厚分布を測定し、この板厚分布に基づいて印刷設備14の各押さえロール24−1〜24−nの押し込み量を制御しつつレジストを印刷した後、電解エッチングを行った。
【0058】
また、実施例2においては、珪素鋼の表面に、レジスト塗布時のニップ圧制御としてFB制御を採用してレジストパターンを形成した後、電解エッチングによって線状溝を形成した。すなわち、レジスト剥離設備17の後方に配置された溝形状計測センサー18による線状溝の溝幅の計測結果に基づいて、板幅方向の溝幅が均一となるように印刷設備14の各押さえロール24−1〜24−nの押し込み量を制御しつつレジストを印刷した後、電解エッチングを行った。
【0059】
また、以上の実施例1,2の効果を検証するための比較例として、珪素鋼の表面に、印刷設備14における押さえロール24の押し込み量をバックアップロール2の長手方向の全ての位置で同一にしてレジストパターンを形成後、エッチングによって線状溝を形成した。
【0060】
そして、実施例1,2および比較例において、エッチング処理後の珪素鋼に対しては、アルカリ液中に浸漬することによりレジストパターンを除去して、脱炭焼鈍および最終仕上げ焼鈍を順次行い、さらに上塗りコーティングを施した。このような処理によって得られた製品における方向性電磁鋼板コイル22の長手方向に沿った先端部、中間部、および尾端部の3箇所において、板幅方向に沿って約200mmピッチで5分割した位置でエプスタイン試片を採取し、歪取焼鈍の後で磁気特性を測定して、その平均値およびばらつきを実施例1,2および比較例の条件で比較した。それらの結果を表1に示す。表1は、実施例1,2および比較例によって製造された方向性電磁鋼板の鉄損W
17/50の結果を示す。
【0062】
表1から、上述した一実施形態に基づく実施例1,2によれば、従来技術に基づく比較例に比して、鉄損W
17/50の平均値および鉄損の標準偏差σで示されるばらつきがいずれも小さくなっていることが分かる。
【0063】
以上説明したように、この一実施形態によるエッチング処理装置によれば、方向性電磁鋼板の金属ストリップ9の表面に形成されるレジストパターンにおける溝形成領域での溝幅を、金属ストリップ9の板幅方向に沿って均一にすることができるので、この金属ストリップ9に対して電解エッチングを行って線状溝を形成した場合に、金属ストリップ9の長手方向および板幅方向に沿って安定した形状の線状溝を形成することができ、鉄損のばらつきが小さく安定した品質を有する方向性電磁鋼板を工業的に製造することが可能になる。
【0064】
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。
【0065】
上述の一実施形態においては、洗浄設備として電解脱脂設備13を採用したが、例えば浸漬脱脂設備などの他の設備を採用することも可能である。
【0066】
また、上述の一実施形態においては、乾燥焼付け設備を熱風乾燥炉15としたが、例えば電気炉などの他の設備を採用しても良い。
【0067】
また、上述の一実施形態においては、入側ルーパー設備12および出側ルーパー設備19を縦型に記載したが、例えば横型または同軸型などの他の形式のルーパー設備を採用しても良い。
【0068】
また、上述の一実施形態においては、金属ストリップ9の溝形状を測定する溝形状計測センサー18を、レーザー距離計を用いた非接触型の溝形状センサーとしたが、その他の接触式や渦電流型の距離測定原理を採用したセンサーを用いることも可能である。
【0069】
また、上述の一実施形態においては、複数の流体圧シリンダー25−1〜25−nの圧力を互いに独立に制御することによって、押さえロール24−1〜24−nの押し込み量を制御しているが、押さえロール24−1〜24−nの内部に押し込み動作を行う押し込み機構を設け、押さえロール24−1〜24−n自体がバックアップロール2の長手方向に沿った位置ごとに制御可能に押し込むように構成することも可能である。また、バックアップロール2を円筒状のロールから構成し、その円筒状のロールの内部に押さえロール24−1〜24−nと同様の複数の押さえロールを別途設け、バックアップロール2の内部からニップ圧を位置ごとに調整可能に構成してもよい。
【0070】
また、上述の一実施形態の変形例において、円筒状のスリーブ27と軸芯となるアーバ28とを有するバックアップロール2において、スリーブ27とアーバ28との間に、スリーブ27の径を拡縮可能に構成された流体圧を用いた機構または機械的な機構を設置して、このような機構によってスリーブ27の径を板幅方向に沿った位置ごとに独立して拡縮させることによるバックアップロール2の内部からの作用によって、バックアップロール2の長手方向に沿った位置ごとにニップ圧を調整可能に構成してもよい。