(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
LEDや半導体レーザといった半導体発光素子の製造プロセスでは、透光性及び良好な絶縁性を持つサファイア基板がしばしば使用され、サファイア基板上に結晶成長等により材料層が造り込まれる。最終的にはサファイア基板は不要になる場合が多く、光の取り出し効率を向上させたり導通構造をコンパクトにしたりする観点から、サファイア基板を材料層から剥離させて取り除くリフトオフ工程が行われることが多くなってきている。サファイア基板のリフトオフは、下地である材料層に損傷与えることなく行う必要があるため、レーザ光照射によるリフトオフ(レーザリフトオフ、LLO)の技術が採用されている。
【0003】
特許文献1には、このようなレーザリフトオフを行う装置(レーザリフトオフ装置)の一例が開示されている。
図6は、このような従来例のレーザリフトオフ装置の正面概略図である。従来例のレーザリフト装置は、レーザ源1、レーザ源1からのレーザ光の照射位置にワークWを保持するステージ(以下、ワークステージ)4、ワークステージ4について設定された照射位置にレーザ源1からのレーザ光を導くレーザ光学系20などを備えている。
レーザ光学系20は、ワークWに対して所望のパターンでレーザ光を照射するため、マスク21と投影レンズ2とを含んでいる。投影レンズ2は、ワークWに対してマスク21のパターンを投影するものである。
【0004】
特許文献1では、例えば窒化ガリウム(GaN)系半導体により形成される半導体発光素子の製造プロセスにおいてレーザリフトオフを行う点が開示されている。このプロセスでは、
図6に示すように、サファイア基板S1とサファイア基板S1に形成された材料層Mとから成るものがワークWとなっている。材料層とは、発光作用を為す又は発光に関与する半導体層のことであり、GaN系であれば、p−GaN層、n−GaN層及びそれらに挟まれた活性層(発光層)等から成る。
【0005】
図7は、従来のレーザリフトオフ工程を含むプロセスの概略について示した図である。
図7において、同様にGaN系半導体発光素子の製造プロセスを例にすると、まず、サファイア基板S1上にGaN層を含む材料層Mや電極(不図示)等を形成する(
図7(1))。そして、その上にサポート基板S2を被せて接合する(
図7(2))。次に、全体を裏返してサファイア基板S1を上側にした状態でレーザ光Lを照射する(
図7(3))。ワークを移動させながらレーザ光Lが順次照射され、レーザ光Lは、サファイア基板S1と材料層Mの界面の全面に照射される。レーザ光Lの照射により、界面において材料層MのGaNが分解する。GaNの分解により窒素ガスが発生するとともに、材料層Mの表面には薄いGaの層が形成される。
【0006】
レーザ光照射後、ワークWを30℃程度に加熱してGa層を融解させ、サファイア基板S1を材料層Mから剥離させて引き離す(
図7(4))。尚、
図7に示すように、従来例のレーザリフトオフでは、サファイア基板S1と材料層Mとから成るものがワークである。
レーザリフトオフ工程の後、切断工程が行われる。切断工程は、材料層Mとサポート基板S2とから成るワークを切断してチップ状とする。その後、組み立て工程でパッケージングがされ、最終的な製品となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
周知のように、LEDや半導体レーザといった半導体発光素子のチップサイズは、数百μm程度から数mm程度まで様々であるが、いずれにしても微小なものである。このような微小なチップサイズの発光素子を製造する場合、通常、比較的大きな基板上に素子構造を造り込んだ後、切断(ダイシング)工程を行って個々のチップを得る。
【0009】
上述したように、従来のレーザリフトオフ工程は、切断工程よりも前の工程として実施されており、例えば直径100〜200mmといった大きさのサファイア基板を含むワークに対してリフトオフを行っている。しかしながら、プロセス上の都合から、切断工程の後にレーザリフト工程が行われる場合がある。発明者の研究によると、切断工程の後にレーザリフト工程を行うと、予測できなかった新たな問題が発生することが判明した。以下、この点について
図8を使用して説明する。
図8は、従来例のレーザリフト装置における問題について示した正面図である。
【0010】
切断工程を行ってからリフトオフ工程を行う場合には、ワークはチップのものということになる。即ち、
図8に示すように、各々チップ状のワーク(以下、チップ状ワークという)Wについてリフトオフを行う。各チップ状ワークWは、サポート基板S2の上に貼り付けられ、装置に投入される。そして、各チップ状ワークWにレーザ光が照射され、各々サファイア基板S1が材料層Mから剥離されて除去される。
【0011】
発明者の研究によると、
図8に示すようなチップ状ワークWにレーザ光を照射してリフトオフを行うと、切断前のワークに対してレーザ光を照射してリフトオフを行う場合には考えられなかった問題が生じることが判明した。以下、この点について説明する。
図8に示すようなチップ状ワークWにレーザ光を照射する場合、照射対象物が小さいことから、1回のパルスでワークWの全面(界面の全面)をカバーすることが可能で、1回のパルスでリフトオフを完了させることも可能である。しかしながら、発明者の実験によると、小さいチップ状ワークWに対して1回のパルスでリフトオフを完了するようにすると、剥離するサファイア基板S1も小さいため、剥離によってサファイア基板S1が飛び出してくる。これは、ワークWにおいて界面の全面で窒素ガスが発生し、サファイア基板S1が全面で窒素ガスの蒸発圧力を受けるからである。
【0012】
このように空中に飛び出したサファイア基板S1は、次のチップ状ワークWに対するリフトオフ処理の障害となり得る。
図8に示すようにサポート基板S2上に各チップ状ワークWが配列されている場合には、ワークステージ4を逐次移動させて各チップ状ワークWを順次照射位置に位置させてリフトオフを行う。この場合、あるチップ状ワークWのリフトオフにおいて飛び出したサファイア基板S1が別のチップ状ワークWの上に落下して被さってしまうと、その別のチップ状ワークWに対するリフトオフの障害となる。即ち、被さったものはサファイア基板S1であり、透光性ではあるが、レーザ光を散乱させてしまうので、下側のチップ状ワークWに対して十分な強度の均一なレーザ光が照射されなくなってしまう。この結果、当該チップ状ワークWについてリフトオフが不十分となったり、不均一なレーザ光照射により材料層にクラック等の損傷が生じたりする恐れがある。
【0013】
また、パルスの周期によっては、サファイア基板S1が真下に飛行(落下)しているタイミングで次のパルスのレーザ光が照射されることもあり得る。この場合、光路上に(即ちレーザ光のビーム内に)サファイア基板S1が位置するため、サファイア基板S1によってレーザ光が散乱される。この結果、同様にレーザ光の照度が不足したり不均一になったりして、次のチップ状ワークWについてのリフトオフが不良となる恐れがある。
【0014】
この出願の発明は、上記のような課題を解決するために為されたものであって、チップ状ワークのような小さなワークについてリフトオフを行う場合にも、リフトオフが不十分となったりワークにおいて損傷が発生したりすることがないようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、
レーザ源と、
レーザ源からのレーザ光を照射位置に導くレーザ光学系と、
照射位置にワークを保持するワークステージとを備えたレーザリフトオフ装置であって、
レーザ光学系の光軸に対して垂直な面内で互いに直交する方向にワークステージを移動させる移動機構が設けられ、
ワークは、レーザ光を透過するサファイア基板を有しており、レーザ源及びレーザ光学系は、サファイア基板をワークから剥離させ、ワークからサファイア基板が飛び出す程度の強度でレーザ光をワークに照射するものであり、
ワークから飛び出した
サファイア基板を照射位置とレーザ光学系との間の光路上から退避させる退避手段が設けられて
おり、
退避手段は、照射位置とレーザ光学系との間の光路上に当該光路に交差する向きの気流を発生させる整流部材及びブロアを備えており、整流部材は、気流取り込み孔と、気流によりサファイア基板が排出される基板排出口とを有しており、
レーザ光学系の出射側の光路上には、ワークから飛び出してきたサファイア基板が衝突する受け部材が設けられており、受け部材は、レーザ光に対して透光性の部材であって光路を横断する状態で設けられている
という構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
2記載の発明は、前記請求項
1の構成において、前記受け部材の前記照射位置に近い側の面は、前記レーザ光学系の光軸に垂直な面に対して前記気流の下流側に向けて傾けられた面となっているこという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
3記載の発明は、前記請求項
2の構成において、前記受け部材の前記照射位置に近い側の面は、前記レーザ光の光軸に垂直な面に対して10度以上60度以下の角度であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項
4記載の発明は、前記請求項
1乃至3いずれかの構成において、前記受け部材は、
サファイア製であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項5記載の発明は、前記請求項1乃至4いずれかの構成において、前記ワークステージは水平な姿勢でワークを保持するものであって、前記レーザ源及びレーザ光学系は、上側からワークにレーザ光を照射するものであり、
前記受け部材は、ワークから真上に飛び出したサファイア基板が衝突した際に当該サファイア基板が前記基板排出口に向けて跳ね返る姿勢で配置されているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項6記載の発明は、前記請求項1乃至5いずれかの構成において、前記受け部材は、ビームスプリッタではないという構成を有する。
【発明の効果】
【0016】
以下に説明する通り、この出願の請求項1記載の発明によれば、リフトオフによりワークから飛び出した
サファイア基板は光路から退避させられるので、次のワークに対するレーザ光照射の障害となることはない。このため、各ワークに対して十分な強度の均一なレーザ光が照射され、各ワークに対して安定して良質なリフトオフ処理が行われる。
また、飛び出した部材を気流により光路から退避させるので、構造的にシンプルになり、コストも安価にできる。
また、ワークから飛び出したサファイア基板が受け部材に衝突することはあってもレーザ光学系の構成部材に衝突することはないので、レーザ光学系の構成部材が保護される。
また、請求項
2記載の発明によれば、上記効果に加え、受け部材の照射位置に近い側の面が気流の下流側に向けて傾けられた面となっているので、ワークから飛び出した部材が受け部材に衝突した際、この部材は気流に下流側に向けて跳ね返り易い。このため、当該部材をより確実に光路から退避させることができる。
また、請求項
4記載の発明によれば、上記効果に加え、受け部材がレーザ光に対して透明な
サファイア製であるので、レーザ光照射時にも受け部材を退避させる必要がなく、この点で構造的にシンプルになり、またコストも安価にできる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、この出願の発明を実施するための形態(以下、実施形態)について説明する。
図1は、第一の実施形態であるレーザリフトオフ装置の概略図である。
図1に示すレーザリフト装置は、前述した従来例の装置と同様、基板S1と基板S1に形成された材料層Mとから成るワークWに対して当該基板S1を透過するレーザ光を照射して当該基板S1を材料層Mから剥離させる装置となっている。典型的には、基板S1はサファイア基板であり、材料層Mは、サファイア基板S1に形成されたGaN層を含む層である。そして、実施形態の装置は、切断工程の
後にリフトオフ工程が行われることを前提としており、従ってワークWはチップ状ワークである。
【0019】
図1に示すように、実施形態のレーザリフトオフ装置は、レーザ源1と、当該レーザ源1から出射されたレーザ光を照射位置に導くレーザ光学系20と、照射位置を相対的に移動させる移動機構3とを備えている。
レーザ源1には、この実施形態ではKrFエキシマレーザが使用されている。発振波長は248nmで、1〜4000Hz程度のパルス発振のものとなっている。
【0020】
レーザ光学系20は、レーザ光を所望のパターンで照射するためのマスク21と、マスク21に照射するレーザ光のビームを適宜拡大したり整形したりするシリンドリカルレンズ群22,23と、ミラー24と、マスク21の像を照射面に投影する投影レンズ2とを備えている。
マスク21は、照射パターンの形状の開口を有するもので、アパーチャと呼び得るものである。この実施形態では照射パターンは方形であるので、マスク21の開口も方形である。
投影レンズ2は、鮮鋭なパターンでレーザ光を照射するためのものである。鮮鋭なパターンとすることは、エネルギー密度を高くすること、周辺に対して不必要に照射しないこと、パターン内での照度分布の均一性を高めることといった観点から必要となる。この実施形態では、投影レンズ2の倍率は1未満であり、レーザ光を集光して照射するものとなっている。
【0021】
実施形態の装置は、上記投影レンズ2による照射位置(マスク21の像の投影位置)にチップ状ワークWを保持するワークステージ4を備えている。移動機構3は、ワークステージ4に対して相対的に照射位置を移動させる機構となっている。ワークステージ4は、上面においてチップ状ワークWを保持する台状の部材であり、チップ状ワークWを真空吸着して保持する機構が必要に応じて設けられる。尚、
図1に示すように、ワークステージ4に直接載置されるのはサポート基板S2であり、各チップ状ワークWはサポート基板S2の上に接合されている。
【0022】
移動機構3は、ワークステージ4をXY方向に移動させる機構(XY移動機構)となっている。XY方向は、レーザ光学系20の光軸に対して垂直な面内で互いに直交する方向である。照射位置は光軸上であるので、移動機構3は、ワークステージ4について照射位置を相対的にXY方向に移動させる機構となっている。「相対的に」とは、静止したレーザ光学系20に対してワークステージ4が移動することでワークステージ4上の照射位置が移動しても良いし、静止したワークステージ4に対してレーザ光学系20が移動することで照射位置が移動しても良いという意味である。レーザ光学系20が移動する構成とは、レーザ光学系20全体が移動する場合の他、例えばミラー24に駆動機構が付設されていてミラー24の角度が適宜変更されることで照射位置が移動する場合もあり得る。
【0023】
この実施形態の装置は、チップ状ワークWを対象としたリフトオフを最適化した構成を備えており、その一つが、レーザ光の照射パターンのサイズであり、照射エネルギーの制御である。この点について、
図2を使用して説明する。
図2は、実施形態の装置におけるレーザ光の照射パターンについて示した斜視概略図である。
図2に示すように、実施形態の装置では、照射パターンIはチップ状ワークWよりも少し大きいほぼ方形のパターンとなっている。例えば、チップ状ワークWが0.1mm角〜1.0mm角であるとすると、照射パターンIは、0.2mm角〜1.1mm角程度とされる。
【0024】
また、
図1に示すように、実施形態の装置は、レーザ源1から発振されるレーザ光のエネルギーを計測するエネルギー計測器5と、装置の各部を制御する主制御部6とを備えている。主制御部6は、エネルギー計測器5からの出力に従ってレーザ源1を制御するものとなっている。エネルギー計測器5としては、Siフォトダイオード又はパイロエレクトリックセンサ等を使用することができる。レーザ源1からの光路上には、ビームスプリッタ25が挿入されており、ここから取り出した一部のレーザ光が入射する位置にエネルギー計測器5が配置されている。
【0025】
主制御部6は、チップ状ワークWに対する1パルスのみのレーザ光照射でリフトオフが完了するよう照射エネルギーを制御するものとなっている。周知のように、KrFエキシマレーザは、KrとFの混合ガス中で放電を生じさせ、放電によって生成されるKrFエキシマが基底状態に落ちる際の発光を利用して誘導放出を行うものである。従って、
図1に示すように、レーザ源1は、KrとFの混合ガスを封入したチャンバ11と、チャンバ11内で放電を生じさせるためのレーザ電源12と、レーザ電源12を制御するコントローラ13と含んでいる。
【0026】
主制御部6は、エネルギー計測器5からの出力に従ってレーザ源1のコントローラ13に信号を送り、出力を制御する。この際、最適な1パルスのエネルギー値が予め定められており、このエネルギー値になるようコントローラに送られる。最適な1パルスのエネルギー値とは、一つのチップ状ワークWに対する1パルスのレーザ光照射によりリフトオフが完了する(1個のサファイア基板S1が取り去られる)のに必要なエネルギーということである。
【0027】
LEDや半導体レーザといった半導体発光素子の製造プロセスでは、前述したようにチップ状ワークWのサイズは0.1mm角〜1.0mm角程度であり、1パルスでリフトオフを完了する最適なエネルギーは600mJ/cm2〜900mJ/cm2程度である。この場合の照射パターンは
0.2mm角〜
1.1mm角程度であるから、1パルスの全体の最適エネルギーは0.2mJ〜11mJ程度ということになる。この範囲で最適エネルギー値が選定され、このエネルギーとなるようマスク21の開口サイズが変更される。
【0028】
移動機構3について補足すると、移動機構3は、
図1及び
図2に示す各チップ状ワークWについて1パルスのレーザ光が順次照射されるように照射位置を移動させる機構となっている。主制御部6は、レーザ源1のパルス周期に従って移動機構3に制御信号を送り、各パルスの合間(インターバル)においてワークステージ4をX方向又はY方向に所定距離移動させる。移動距離は、
図2に示す各チップ状ワークWの配置に応じたものである。
【0029】
即ち、
図2に示すように、各チップ状ワークWは、サポート基板S2上において縦横に並んで配列されている。サポート基板S2は、各チップ状ワークWの縦横の配列方向が移動機構3におけるXY方向に一致するよう精度良くワークステージ4に載置され、真空吸着等の方法によりワークステージ4に保持されるようになっている。移動機構3は、あるチップ状ワークWに対する1パルスのレーザ光照射が終了した後、ワークステージ4をX方向又はY方向に移動させ、縦又は横に隣接する次のチップ状ワークWが照射位置に位置するようにする。従って、移動距離は、各チップ状ワークWの離間距離ということになる。尚、移動機構3は、各チップ状ワークWの中心(方形の輪郭における中心)が光軸A上に位置するようワークステージ4の位置制御(アライメント)をする。そして、上記移動後には、次のチップ状ワークWの中心が光軸A上に位置した状態となる。
【0030】
レーザ源1のパルス周期は、制御データとして主制御部6に予め入力されている。主制御部6は、レーザ源1のパルス動作に同期した形で移動機構3が動作するよう移動機構3に制御信号を送る。即ち、主制御部6は、各パルスの合間に上記移動を行うよう移動機構3を制御するものとなっている。
【0031】
一方、実施形態の装置は、前述したリフトオフ時のサファイア基板S1の飛び出しに起因した問題を解決するための構造を有している。具体的には、
図1に示すように、実施形態の装置は、レーザ光照射により剥離してワークWから飛び出した部材を退避させる退避手段7を備えている。この実施形態では、ワークWはチップ状ワークであり、除去する対象はサファイア基板S1であるので、退避手段7はサファイア基板S1を退避させるものとなっている。
図3は、
図1に示す実施形態の装置における退避手段7の構成及び作用について示した正面断面概略図である。
【0032】
退避手段
7は、飛び出したサファイア基板S1が次のチップ状ワークWのリフトオフの障害にならないように退避させるものである。即ち、退避手段7は、飛び出したサファイア基板S1を、レーザ光学系2と照射位置との間の光路上から退避させるものである。
退避手段7としては、この実施形態では、サファイア基板S1が軽量であることを考慮し、気流を発生させて退避させる手段が採用されている。発生する気流の向きは、レーザ光学系2と照射位置との間の光路の方向に交差する向きである。
【0033】
具体的に説明すると、退避手段7は、ブロア71と、ブロア71が動作した際に光路に交差する向きに気流が形成されるようにする整流部材72等から構成されている。整流部材72は、ワークステージ4とレーザ光学系20の間の光路を取り囲むほぼ筒状の部材である。
図3に示すように、整流部材72には、気流取り込み孔721と、基板排出口722とが形成されている。
気流取り込み孔721は、ワークステージ4に近い側に形成されており、比較的小さい孔である。基板排出口722は、サファイア基板S1を排出するための開口であり、気流取り込み孔721に比べて大きい。基板排出口722は、気流取り込み孔721に比べてレーザ光学系20に近い位置にある。
【0034】
図3に示すように、整流部材72はダクト部723を有しており、ブロア71はダクト部723を通して吸引する状態で配置されている。ブロア71が動作すると、気流取り込み孔721から整流部材72内に周囲の空気が進入し、
図1中矢印Fで示す向きの気流が発生する。気流Fは、
図3に示すように、光路に交差する向きであり、且つワークステージ3からレーザ光学系20に近づく向きである。チップ状ワークWから飛び出したサファイア基板S1は、この気流Fにより押し流されて光路から退避し、基板排出口722を通って排出されるようになっている。
【0035】
尚、
図1に示すように、ワークステージ4上のサポート基板S2は、整流部材72の下端から離間しており、隙間が形成されている。ブロア71が動作した際、この隙間からも風が流れ込み、気流Fと合流する。この下方からの風は、ワークステージ4上のサポート基板S2に落下しようとするサファイア基板S1を押し上げ、気流Fに乗せて排出させる効果がある。尚、ワークステージ4がサポートS2を真空吸着する機構を備える場合、気流Fによってサポート基板S2が移動しないよう通常よりも吸着力を高く設定する場合があり得る。
【0036】
図1に示すように、この実施形態では、整流部材72はワークステージ3に近くなるに従って徐々に断面積が小さくなる形状となっている。この点は、より下方において流速が高くなるようにするためであり、サファイア基板S1の押し上げ効果を確実にしている。尚、整流部材72の徐々に断面積が小さくなる部分は、光軸Aに対して非対称であり、一方の側が光軸Aに沿った面で、他方の側がテーパ面となっている。他方の側はブロア71が動作して吸引した際、気流Fがスムーズに形成されるのにテーパ面は寄与している。
【0037】
また、この実施形態では、投影レンズ2の出射側の光路上に受け部材73が設けられている。受け部材73は、光路を横断する状態で設けられており、レーザ光学系20のうち最も出射側に位置する部材である投影レンズ2とワークステージ4との間に配置されている。
受け部材73の機能の一つは、投影レンズ2の保護である。発明者が実験により確認したところでは、リフトオフの際、サファイア基板S1はかなりの勢いで飛び出し、1mはゆうに越える高さに達する。
図1に示すように、ワークステージ4の上方にはレーザ光学系20の投影レンズ2が配置されており、何も配置されていない状態では、飛び出してきたサファイア基板S1が投影レンズ2に衝突してしまう。発明者らは、このサファイア基板S1の衝突により投影レンズ2が傷ついてしまうのを確認している。
【0038】
このような点を考慮し、実施形態の装置は、投影レンズ2の出射側に受け部材73を配置している。受け部材73は、投影レンズ2を覆っているので、飛び出してきたサファイア基板S1は受け部材73に衝突するものの投影レンズ2には衝突しない。このため、投影レンズ2の損傷が防止される。投影レンズ2は高価な光学部品であるので、損傷により交換が余儀なくされるとコスト上の問題が生じるし、交換の際の手間(位置合わせ等)により生産性が低下する問題もある。実施形態の装置では、このような問題はない。
【0039】
受け部材73は、この他、補助的な機能として、整流部材72とともに気流Fを整える作用を有する。整流部材72の上端は、投影レンズ2から離間しており、両者の間の比較的大きな隙間が形成されている。このままの状態であると、ブロア71が動作した際、この上側の隙間から風が大きく流れ込み、気流Fを乱したり弱めたりしてしまう。実施形態の装置では、受け部材73がこの部分を遮蔽しているため、気流Fがよりスムーズに形成される。受け部材73は、整流部材72の上端に接触していても良く、小さな隙間で離間していてもよい。
この実施形態では、受け部材73ではレーザ光に対して透光性である必要があり、このため、サファイア製となっている。サファイアは高硬度であるので、サファイア基板S1が衝突しても傷つきにくいメリットがある。
【0040】
上記のように、実施形態の装置では、リフトオフにより飛び出したサファイア基板S1は光路から退避させられるので、次のチップ状ワークWに対するレーザ光照射の障害となることはない。このため、各チップ状ワークWに対して十分な強度の均一なレーザ光が照射され、各チップ状ワークWに対して安定して良質なリフトオフ処理が行われる。
尚、気流Fの流速について一例を説明すると、例えばサファイア基板S1が0.1mm角〜2.0mm角の大きさで、厚さが100〜500μm程度であるとすると、20m/s〜50m/s程度の流速で良い。
【0041】
次に、第二の実施形態のレーザリフトオフ装置について説明する。
図4は、第二の実施形態のレーザリフトオフ装置の主要部の正面概略図である。第二の実施形態の装置は、受け部材73の配置が第一の実施形態と異なっている。即ち、
図4に示すように、第二の実施形態では、受け部材73は、光軸Aに対して垂直ではなく斜めに配置されている。
第二の実施形態においても、受け部材73はサファイア製の平板状の部材である。そして、
図4に示すように、光軸Aに垂直な面に対して角度θを成すように傾けられている。角度θは、10〜60度程度の範囲で適宜選定される。
【0042】
このように受け部材73を傾けて配置することは、受け部材73に衝突したサファイア基板S1が、退避手段7が形成する気流Fの下流側に向けて跳ね返るようにするためである。この実施形態では、ブロア71は正面視で右側から吸引するよう配置されており、気流Fは左側から右側に流れる。従って、受け部材73は、ワークステージ4と対向した面が、気流Fの下流側(右側)に向けて傾くよう配置されている。
【0043】
この実施形態においても、レーザ光照射により剥離したサファイア基板S1はチップ状ワークWから飛び出して受け部材73に衝突するが、受け部材73が上記のように傾けて配置されているため、
図4に示すように基板排出口722に向けて跳ね返り易くなり、より確実に基板排出口722から排出される。このため、サポート基板S2に向けてサファイア基板S1が落下して次のチップ状ワークWのリフトオフ処理の障害となる問題がより少なくなる。
【0044】
次に、第三の実施形態のレーザリフトオフ装置について説明する。
図5は、第三の実施形態のレーザリフトオフ装置の主要部の斜視概略図である。第三の実施形態の装置も、受け部材73の構成が第一の実施形態と異なっている。第三の実施形態では、受け部材73は、光路上に常時配置されたものではなく、必要な時に配置され、必要でない場合には光路から退避するものとなっている。
具体的に説明すると、
図5に示すように、受け部材73はフレーム74に嵌め込まれた二つの部材となっている。フレーム74は、
図4に示すように円環部741と、円環部741の中心を通る十の字状のリブ部742とから成る。二つの受け部材73は、45度の扇形の板状であり、中心対称となるようにフレーム74に嵌め込まれている。
【0045】
受け部材73には、不図示の駆動機構が設けられている。駆動機構は、中心位置でフレーム74に連結された出力軸を有する回転機構となっている。駆動機構が動作すると、フレーム74は中心を貫く回転軸Rの回りに回転する。回転に伴い、二つの受け部材73は、順次、光路上に位置したり光路から退避したりする状態を繰り返す。尚、各受け部材73の回転位置は、各受け部材73が光路上に位置した際、整流部材72の上端との間で僅かな隙間が形成される位置となっている。
【0046】
不図示の駆動機構は、主制御部6によって制御されるようになっている。主制御部6は、レーザ源1のパルス発振に同期して駆動機構を制御する。具体的には、あるパルスのレーザ発振の際、フレーム74のうち受け部材73が嵌め込まれていない開口(以下、フレーム開口という)743が光路上に位置し、次のパルスまでの合間に一方の受け部材73が光路上に位置し、さらに次のパルス発振の際、他方のフレーム開口743が光路上に位置し、さらに次のパルス発振までの合間において他方のフレーム開口743が光路上に位置するようフレーム74の回転速度及び位相が制御される。
【0047】
この実施形態の装置でも、1パルスのレーザ光照射により一つのチップ状ワークWについてリフトオフが完了するよう1パルスのエネルギーが制御される。そして、1パルスのレーザ光照射の後、サファイア基板S1が飛び出してくるが、サファイア基板S1が飛び出すタイミングでは光路上には受け部材73が位置しているので、サファイア基板S1は受け部材73に衝突する。このため、サファイア基板S1は受け部材73で跳ね返って基板排出口722から排出される。このため、サファイア基板S1が投影レンズ2に衝突することはない。尚、1パルスのレーザ光の照射後にサファイア基板S1が飛び出してくる速度はチップに照射されるレーザ光照度に依存し、5m/s〜20m/s程度である。従って、同一照度でチップ状ワークWをリフトオフしていくことで保護部材7に衝突するまでのタイムラグは一定となり、このタイムラグに応じてフレーム71の回転速度は適宜定められる。回転速度は、例えば1000〜4000RPM程度とされる。
【0048】
第三の実施形態においても、各受け部材73は、第二の実施形態のように斜めに配置されるとより好ましい。このための構造としては、フレーム74及び各受け部材73を全体に斜めに配置し、斜めの回転軸の回りにフレーム74を回転させる構造が採用できる。もしくは、フレーム74は水平として回転軸を垂直としつつも、フレーム74に斜めの姿勢で各受け部材73が保持される構造であっても良い。
【0049】
いずれにしても、第三の実施形態でも、除去されたサファイア基板S1が投影レンズ2に衝突することがないので、投影レンズ2が損傷して交換が余儀なくされることはなく、コスト上及び生産性上の問題は生じない。そして、受け部材73によって気流Fの形成がより強化されるので、より確実にサファイア基板S1が基板排出口722から排出される。
【0050】
尚、第三の実施形態では、レーザ光照射時には受け部材73は光路上から退避しているので、受け部材73は透光性である必要はない。このため、サファイア以外の任意の安価で硬質な材料を選定することができるというメリットがある。
一方、第一第二の実施形態では、受け部材73が透光性であるので、レーザ照射時にも光路上に配置したままとすることができ、第三の実施形態のような駆動機構は不要である。このため、構造的にシンプルになり、コストも安価にできる。
【0051】
上記第三の実施形態では、受け部材73を保持したフレーム74を回転させることでレーザパルスに同期させて間欠的に受け部材73を光路上に配置したが、他の機構が採用されることもあり得る。例えば、カメラ等で広く採用されている複数のシャッター羽根で光路を開閉する機構(スクエア型シャッター)と同様の機構を採用しても良い。この場合は、シャッター羽根が受け部材73ということになる。
【0052】
上述した各実施形態において、退避手段7は気流Fによりサファイア基板S1を光路から退避させる手段であったが、他の構成もあり得る。例えば、回転板によりサファイア基板S1を退避させるような機構的な手段であっても良い。具体的には、光軸に対して平行な姿勢の板を光軸と平行な回転軸の回りに回転させ、その回転の過程で回転板が光路を通過するようにする。この通過のタイミングと、サファイア基板S1が飛び出してくるタイミングとを同期させれば、サファイア基板S1を回転板が叩き出すようにすることができ、サファイア基板1を光路から退避させることができる。
但し、上記のような機構的手段は、大がかりで複雑になり易い。これと比較すると、上記気流による手段は、構造的にシンプルで、コストも安価にできるメリットがある。
【0053】
尚、上述した各実施形態において、退避された各サファイア基板S1は、不図示の容器に溜められる。溜められた各サファイア基板S1はそのまま廃棄されるが、再利用される場合もある。
【0054】
上述した各実施形態において、リフトオフ処理されるチップ状ワークWは、GaNの他、AlN、BN、InNのような他の窒化物である場合でもよい。レーザの照射によって、常温で気体となる窒素のような物質が発生するからである。したがって、リフトオフの対象はGaNに限られない。
また、GaN系その他の半導体レーザの製造においても、リフトオフ工程が存在し且つ微小なチップ状ワークWを対象とする限り、実施形態の装置が利用できる。また、除去される基板S1はサファイア基板が典型的であるが、サファイア以外であってもリフトオフ用のレーザ光を透過する材料の基板が使用される場合、対象とされることがあり得る。
【0055】
尚、前述したように、サファイア基板S1の飛び出しは、1パルスのみのレーザ光照射でリフトオフを行おうとする場合に発生する。従って、理論的には、切断工程の前にリフトオフ工程を行う場合にも、ワーク(材料層付きのサファイア基板)に対して一括して1パルスのみのレーザ光照射によりリフトオフを行うのであれば、サファイア基板は勢い良く飛び出してくる。界面の全面で窒素ガスの蒸発圧力を受けることになるからである。したがって、実施形態の装置が使用されることがあり得る。