【文献】
五十嵐英昭,“GPSとIMUを融合した高精度車速計”,自動車技術,日本,公益社団法人自動車技術会,2011年 7月 1日,Vol.65,No.7,p.108-112
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態である計測装置1の構成を示すブロック図である。計測装置1は、相対位置算出部12と、姿勢角計測部13と、キャリブレーション部14と、移動体速度計測部15と、加速度・角速度計測部16と、速度・姿勢角算出部17と、指定位置座標速度算出部18と、横速度・横滑り角算出部19とを備える。
【0014】
相対位置算出部12は、移動体2の進行方向の軸線上に、GPS衛星から出力される信号を受信する第1のアンテナ10と第2のアンテナ11が所定の距離置いて配置されており、第1のアンテナ10及び第2のアンテナ11により受信した信号に基づいてそれぞれのアンテナ地点における搬送波位相を計測し、計測した搬送波位相に基づいて、第1のアンテナ10と第2のアンテナ11の相対位置を算出する。なお、移動体2とは、例えば、車両のことである。
【0015】
具体的には、相対位置算出部12は、第1のアンテナ10及び第2のアンテナ11によってGPS衛星から出力される電波を受信し、搬送波位相をそれぞれ計測する。相対位置算出部12は、計測したそれぞれの搬送波位相に基づいて、リアルタイムキネマティクス(RTK)測位を実施する。これにより、相対位置算出部12は、第1のアンテナ10と第2のアンテナ11の間の相対位置関係を計測することができる。
【0016】
また、本実施例では、第1のアンテナ10(マスター側アンテナ)は、移動体2の進行方向において、第2のアンテナ11(スレーブ側アンテナ)よりも後方に配置されているものとする。また、第1のアンテナ10と第2のアンテナ11は、
図2に示すように、移動体2の屋根の上等に配置されるものとするが、GPS衛星からの電波を受信できる位置であれば、外側に限られない。
【0017】
姿勢角計測部13は、相対位置算出部12により算出した相対位置に基づいて、移動体2の絶対姿勢角を計測する。
また、姿勢角計測部13は、最終的に第1のアンテナ10と第2のアンテナ11との間の基線ベクトルが決まるので、地球座標系に対する姿勢角φ
nGPS[rad]を求めることができる。姿勢角は、アンテナ間の距離を大きくとることで精度は向上する。参考値として、1mで0.15°RMS、2mで0.1°RMSの精度を得ることができる。姿勢角計測部13は、GPS衛星の搬送波を使用して姿勢角を計測するため、移動体速度計測部15と同期して、5〜100Hz程度のサンプリング周波数で計測する。
【0018】
キャリブレーション部14は、姿勢角計測部13で計測した絶対姿勢角と、移動体2の進行方向とのずれ量を計算し、当該ずれ量に基づいて絶対姿勢角を調整する。
【0019】
以下に、キャリブレーション部14の具体的な処理について
図3を参照しながら説明する。
移動体2の正確な姿勢角を計測するためには、第1のアンテナ10と第2のアンテナ11を移動体2の車両センターラインにあわせること(軸あわせ)が必要である。
手作業であわせることが精度上難しいので、キャリブレーション部14により、以下の手順で、キャリブレーション(校正)を計測前に行って、軸あわせを行う。
【0021】
このようにして、キャリブレーション部14は、平均取り付け角度誤差を使用することで、姿勢角を車両センターラインに合わせることができる。なお、第1のアンテナ10と第2のアンテナ11が移動体2の車両センターラインにあっていれば、キャリブレーション部14による処理は不要となる。この場合には、姿勢角計測部13により計測された絶対姿勢角は、調整されずに速度・姿勢角算出部17に供給される。
【0022】
移動体速度計測部15は、第1のアンテナ10により受信した信号に基づいて、GPS衛星から出力される搬送波の周波数のドップラーシフト量から地球座標上における移動体2の速度(ドップラー速度)を算出する。具体的には、移動体速度計測部15は、第1のアンテナ10により受信した信号に基づいて、GPS衛星からの搬送波のドップラーシフト周波数を使用して移動体2の速度(NED座標系速度:北、東、下座標)を高精度に計測する。また、移動体速度計測部15は、5〜100Hz程度のサンプリング周波数で移動体2の速度を計測する。また、移動体速度計測部15は、緯度、経度、標高についても、5〜100Hz程度のサンプリング周波数で同期して計測する。なお、第1のアンテナ10とGPS衛星との距離が、遠ざかる又は近づくと、第1のアンテナ10が受信する搬送波の位相は、連続的に変化し、周波数が低くなったり高くなったりする。移動体速度計測部15は、この周波数の変化量から第1のアンテナ10が出力する速度を取得する。
【0023】
加速度・角速度計測部16は、第1のアンテナ10から所定の距離置いて配置されているモーションセンサ20により3軸方向の加速度と角速度を計測する。また、加速度・角速度計測部16は、モーションセンサ20の設置地点の3軸方向の加速度・角速度を100〜1kHz程度のサンプリング周波数で計測する。なお、モーションセンサ20は、例えば、3軸方向の加速度及び角速度を計測することができるIMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)により構成される。以下では、モーションセンサ20をIMU20という。
【0024】
また、IMU20は、
図2に示すように、移動体2の進行方向(
図2中のX軸方向)に対して、第2のアンテナが配置されている方向に向けて、ルーフ上にマグネット等で取り付ける。また、第1のアンテナ10及び第2のアンテナ11も同様に、マグネット等でルーフ上に取り付ける。また、第1のアンテナ10と第2のアンテナ間の距離を大きくするほど、精度は向上するが、運用上の観点から1m又は2m程度で使用するものとする。
【0025】
速度・姿勢角算出部17は、キャリブレーション部14により調整された絶対姿勢角と、移動体速度計測部15により算出された移動体2の速度と、加速度・角速度計測部16により計測された加速度及び角速度を利用して、ストラップダウン演算を行うことにより、リアルタイムな移動体2の姿勢角及び速度を算出する。
【0026】
指定位置座標速度算出部18は、速度・姿勢角算出部17により算出されたリアルタイムな移動体2の姿勢角及び速度に基づいて、移動体2内において指定された位置座標における速度を算出する。ここで、指定された位置座標とは、例えば、
図2に示すように、移動体2の重心(C.O.G、Center Of Gravity)のことである。
【0027】
横速度・横滑り角算出部19は、速度・姿勢角算出部17で算出した姿勢角と、指定位置座標速度算出部18により算出された速度に基づいて、移動体2内において指定された位置座標における横速度及び横滑り角をリアルタイムに算出する。
【0028】
このようにして、計測装置1は、移動体2内において任意に指定された位置における横速度と横滑り角をリアルタイムに正確に算出することができる。
【0029】
<第1の実施例>
つぎに、速度・姿勢角算出部17の構成について、
図4を参照しながら説明する。
速度・姿勢角算出部17は、
図4に示すように、ストラップダウンナビゲータ部100と、良否判定部101と、同期化処理部102と、乗算部103と、状態推定部104と、遅延処理部105を備え、リアルタイムな高精度の速度と姿勢角を演算する。
【0030】
ストラップダウンナビゲータ部100(自律航法アルゴリズム)は、加速度・角速度計測部16により計測された加速度及び角速度に基づいて、ストラップダウン演算を行い、算出値として補正速度(NED方向)、補正位置(緯度、経度、標高)、補正姿勢角、補正3軸加速度及び補正3軸角速度を算出する。詳細には、ストラップダウンナビゲータ部100は、加速度・角速度計測部16により計測された加速度及び角速度に対してストラップダウン演算を行い位置、速度、姿勢角等を算出し、さらに状態推定部104によって推定演算された調整量でストラップダウン演算によって得られた位置、速度、姿勢角等を補正して出力する。
【0031】
良否判定部101は、移動体速度計測部15により算出された移動体2の速度に基づく加速度と、加速度・角速度計測部16により計測された加速度との差分を算出し、当該差分に基づく係数を算出する。
【0032】
ここで、良否判定部101の詳細について説明する。良否判定部101は、移動体速度計測部15によって測定されたドップラー速度から算出した加速度と、加速度・角速度計測部16によって計測された加速度との差分を算出し、算出した差分に基づいて係数αを算出する。
【0033】
例えば、良否判定部101は、ドップラー速度を微分した加速度と、IMU20が計測した加速度との差分を算出し、算出した差分を二乗し、二乗した差分についてエンベロープ処理を行う。そして、良否判定部101は、エンベロープ処理を行った後の差分を示す関数の逆関数を求め、求めた逆関数に基づいて、係数αを算出する。
【0034】
すなわち、良否判定部101は、求めた逆関数に基づいて、ドップラー速度がノイズを含んでいないと判断した場合に良判定を行い、ノイズを含んでいると判断した場合に否判定を行って、それぞれの判定を数値化した係数αを算出する。
【0035】
また、良否判定部101は、姿勢角計測部13より計測された(絶対)姿勢角と、ストラップダウンナビゲータ部100により演算される補正姿勢角の差分を算出し、上述した良否判定方法を適用することにより、姿勢角計測部13より計測された姿勢角の良否をリアルタイムに良否判定することができる。
【0036】
同期化処理部102は、ストラップダウンナビゲータ部100によるストラップダウン演算により得られた補正速度(リアルタイム補間速度)、補正位置、補正姿勢角と、移動体速度計測部15から得られたNED方向の速度(ドップラー速度)、位置(緯度、経度、標高)、キャリブレーション部14から得られた姿勢角の同期化処理を行うために、一定時間分これらを遅延させる。
【0037】
遅延処理部105は、移動体速度計測部15により算出されたGPS衛星のドップラー速度、位置及びキャリブレーション部14により調整された絶対姿勢角を遅延処理する。
具体的には、遅延処理部105は、良否判定部101によって係数αが算出されるための時間だけ、移動体速度計測部15から得られたNED方向の速度(ドップラー速度)、位置(緯度、経度、標高)、キャリブレーション部14から得られた絶対姿勢角を良否判定演算に用いる時間分だけ遅延させる。
【0038】
減算部108は、遅延処理部105で遅延させた移動体2の速度、姿勢角、位置と、同期化処理部102で遅延させたリアルタイム補間速度、補正位置、補正姿勢角とを減算して誤差量δxを求める。
乗算部103は、良否判定部101により算出された係数αと、減算部108により遅延処理部105と同期化処理部102とを減算して得られた誤差量δxを乗算する。
【0039】
状態推定部104は、乗算部103によって係数αが乗算された誤差量δxから補正速度、補正位置、補正姿勢角、補正3軸加速度、補正3軸角速度に対する調整量を推定演算する。詳細には、状態推定部104は、第1のアンテナ10とIMU20の角度オフセット誤差変数と、取り付け位置誤差変数が加えられた状態方程式を用いて、乗算部103によって係数αが乗算された誤差量δxから補正速度、補正位置、補正姿勢角、補正3軸加速度、補正3軸角速度に対する調整量を正確に推定演算する。
【0040】
また、以下に、状態推定部104の具体的な処理について説明する。
状態推定部104は、いわゆる拡張カルマンフィルタにより構成されている。
拡張カルマンフィルタは、状態方程式((3)式)と観測方程式((4)式)を離散化した(5)式と(6)式により導くことができる。
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
なお、Δtは、サンプリング時間であり、δxは、状態変数であり、(8)式で表わされる19×1の状態変数行列である。
【数7】
【数8】
【数9】
【0041】
これにより、状態推定部104は、高精度にIMU20の位置地点の速度・姿勢角を算出することができる。取り付け位置関係は、例えば、0.50[m]、取り付け角度誤差は、例えば、5°程度まで推定して補正可能である。
【0043】
つぎに、指定位置座標速度算出部18による指定位置における速度の算出について説明する。
IMU20が設置されている場所から、指定位置(例えば、移動体2の重心点)までの距離をζ
b[rad]とすると、指定位置座標速度算出部18は、重心点のNED座標系速度ベクトルは、(9)式により算出する。
【数11】
【0044】
また、横速度・横滑り角算出部19による演算について説明する。
横速度・横滑り角算出部19は、横滑り角β[rad]を(10)式により算出する。
【数12】
【0045】
また、横速度・横滑り角算出部19は、横速度V
L[m/s]を(11)式により算出する。
【数13】
【0046】
ここで、
図6は、横滑り角の精度評価結果を示したものである。横軸に直進速度、縦軸に横滑り角精度を示している。また、
図6は、直進速度が10,20,40,60,80,100[km/h]の時の横滑り角の精度を各5回計測した結果である。
【0047】
また、比較対象として光学式検出器の精度も同試験において検証した。計測装置1は、横滑り角を直進速度30[km/h]以上において、0.15°RMS以内という高い精度を達成している。また、出力遅れ時間は、5[ms]以内であり、高い応答性も有していることも確認している。これらの結果から、光学式検出器と比較して、本実施例に係る計測装置1の方がより精度が高いことが分かる。
【0048】
よって、計測装置1は、ESC(横滑り防止装置)評価用計測器として使用できる利点がある。また、計測装置1は、リアルタイム出力(5ms以下)を行えるため、ユーザに後処理を強いることがなく使用することができるという利点がある。
【0049】
<第2の実施例>
つぎに、加速度・角速度計測部16で使用するサンプリング周波数と、移動体速度計測部15及び姿勢角計測部13で使用するサンプリング周波数が異なる場合について説明する。具体的には、加速度・角速度計測部16で使用するサンプリング周波数を100[Hz]とし、移動体速度計測部15及び姿勢角計測部13で使用するサンプリング周波数を20[Hz]とする。
【0050】
ここで、加速度・角速度計測部16と、移動体速度計測部15及び姿勢角計測部13で時間同期ができていないと、精度が向上せず、正確な応答時間にならない問題がある。
移動体速度計測部15及び姿勢角計測部13は、実時間を基準にデータを20[Hz]でサンプリングする。この20[Hz]という周期は、絶対時間に対して正確なものである。しかし、第1のアンテナ10及び第2のアンテナ11で構成されるGPS受信機の出力I/FがUARTを採用しているため、メッセージ長の違いにより、50[ms]±2〜3[ms]程度のジッタが生じてしまう。
【0051】
一方、加速度・角速度計測部16は、水晶発振器の精度を基準に100[Hz]でサンプリングする。この100[Hz]という周期は、水晶発振器に依存している(60[ppm]程度)。よって、周期は、絶対時間に対して正確ではない。具体的には、数百秒で数[ms]程度の累積誤差が生じる。
【0052】
よって、単に従来技術を利用して、同期あわせを行っても、加速度・角速度計測部16と、移動体速度計測部15及び姿勢角計測部13を同期させることが困難になる。
本実施例に係る計測装置1は、同期のための特別なハードウェア等を使用せずに、簡易なアルゴリズムで解決することを1つの目的にしている。
【0053】
具体的には、計測装置1の速度・姿勢角算出部17は、
図7に示すように、ストラップダウンナビゲータ部100と、良否判定部101と、同期化処理部102と、乗算部103と、状態推定部104と、補間処理部106と、同期ずれ補正部107を備えることにより、異なるサンプリングレートを有する加速度・角速度計測部16と姿勢角計測部13の速度計測値を時間同期させ、速度精度と、積算距離精度と、実時間応答性を向上させる。
なお、ストラップダウンナビゲータ部100と、良否判定部101と、同期化処理部102と、乗算部103と、状態推定部104の基本的な動作については、第1の実施例と同様である。また、以下では、第1のアンテナ10と第2のアンテナ11で構成される受信機をGPS受信機と呼ぶ。
【0054】
ストラップダウンナビゲータ部100(自律航法アルゴリズム)は、加速度・角速度計測部16により計測された加速度及び角速度に基づいて、ストラップダウン演算を行い、算出値として補正速度(NED方向)、補正位置(緯度、経度、標高)、補正姿勢角、補正3軸加速度及び補正3軸角速度を算出する。詳細には、ストラップダウンナビゲータ部100は、加速度・角速度計測部16により計測された加速度及び角速度に状態推定部104によって推定演算された調整量を融合して、ストラップダウン演算を行う。
【0055】
補間処理部106は、GPS受信機側のサンプリング周波数がIMU20側のサンプリング周波数に一致するように、移動体速度計測部15により計測した移動体の速度の波形を線形補間処理する。具体的には、補間処理部106は、加速度・角速度計測部16のサンプリング周波数と、移動体速度計測部15及び姿勢角計測部13のサンプリング周波数を合わせるため、移動体速度計測部15及び姿勢角計測部13の現在の計測値と過去のサンプリングから線形補間処理を行い、加速度・角速度計測部16と同じサンプリング周波数にする処理を行う。
【0056】
なお、本実施例では、移動体速度計測部15及び姿勢角計測部13のサンプリング周波数を、加速度・角速度計測部16の高いサンプリング周波数に合わせる、いわゆるアップサンプリングを行うものとして説明するが、これに限られない。例えば、加速度・角速度計測部16のサンプリング周波数を、移動体速度計測部15及び姿勢角計測部13の低いサンプリング周波数に合わせる、いわゆるダウンサンプリングを行っても良い。この構成の場合には、補間処理部106は、ストラップダウンナビゲータ部100の前段に配置される。
【0057】
ここで、移動体速度計測部15及び姿勢角計測部13から入力された信号(デジタル信号)の波形を、
図8に示す。サンプリング周波数が20[Hz]なので、1サンプルあたり50[ms]になる。
【0058】
補間処理部106は、移動体速度計測部15及び姿勢角計測部13から入力された信号(20[Hz]RAWデータ)を100[Hz]でリサンプル処理を行う(
図9を参照)。なお、実時間で線形補間処理を行う場合は、因果性により必ず処理による時間遅れ(25[ms])が生じるが(
図9中に示すA)、この時間遅れは一定値なので、同期化処理部102で補正を行う。
【0059】
また、加速度・角速度計測部16のサンプリング時間は、10[ms]である。このサンプリング時間の精度は、水晶発振器に依存する。また、移動体速度計測部15のサンプリング時間は、50[ms]±2〜3[ms]である。このサンプリング時間は、絶対時間に対して正確である。
【0060】
このようにして、加速度・角速度計測部16の計測時間と、移動体速度計測部15(及び姿勢角計測部13)の計測時間との間には、0〜10[ms]のずれが生じてしまう。また、このずれ量は、加速度・角速度計測部16の計測タイミングの精度と、移動体速度計測部15(及び姿勢角計測部13)のジッタにより変動してしまう(
図10を参照)。
なお、補間処理部106は、補間精度をさらに向上させるために、n次関数補間、スプライン補間、ラグランジュ補間、又はマルチレートフィルタを用いても良い。
【0061】
良否判定部101は、補間処理部106により線形補間処理された移動体2の速度に基づいて、加速度を算出し、算出した加速度と、加速度・角速度計測部16により計測された加速度との差分を算出し、当該差分に基づく係数αを算出する。
【0062】
同期ずれ補正部107は、GPS受信機側とIMU20側の計測タイミングのずれ時間の分だけ、補間処理部106により線形補間処理された移動体2の速度の位相を進ませる補正を行う。具体的には、同期ずれ補正部107は、ストラップダウンナビゲータ部100の出力と、補間処理部106により補間処理された速度及び姿勢角との間の同期ずれ(数[ms])を、線形補間処理された速度及び姿勢角の予測処理を行うことで、1[ms]以内のレベルまで同期させる。これにより、同期ずれ補正部107は、状態推定部104(拡張カルマンフィルタ)に入力する誤差量δxを同じタイミングの計測値で実施することができる。
【0063】
また、同期ずれ補正部107は、
図11に示すように、微分処理部107aと、LPF107bと、ずれ時間調整部107cと、加算器107dとを備える。
微分処理部107aは、入力されたGPS速度v(NED方向の速度)を微分して、加速度aを算出する。
LPF107bは、微分処理部107aで算出した加速度aに対してフィルタリング処理を行う。
ずれ時間調整部107cは、LPF107bでフィルタリング処理された加速度にずれ時間を加算処理する。
加算器107dは、GPS速度にずれ時間調整部107cで調整された値を加算する((12)式を参照)。
【数14】
【0064】
このようにして、同期ずれ補正部107は、ずれ時間Δt分、GPS受信機の速度の位相を進ませる処理を行う。
なお、同期ずれ補正部107は、遅延処理部105と同様に、良否判定部101によって係数αが算出されるための時間だけ、移動体速度計測部15によって測定されたドップラー速度を演算に用いる時間を遅延させる処理も行っている。すなわち、同期ずれ補正部107は、ドップラー速度による誤差量を算出するための演算を、良否判定部101によって係数αが算出される時間だけ遅延させる。
【0065】
ここで、
図12に、移動体速度計測部15及び姿勢角計測部13から入力された信号(20[Hz]RAWデータ)と、補間処理部106による処理後の信号(100[Hz]線形補間データ)と、同期ずれ補正部107による処理後の信号(100[Hz]同期ずれ補正データ)を比較して示す。
同期ずれ補正部107は、
図12に示すように、1サンプルごとにずれ量が変動する移動体速度計測部15(及び姿勢角計測部13)の計測時間と加速度・角速度計測部16の計測時間の差を確実に補正することができる。
【0066】
同期化処理部102は、ストラップダウンナビゲータ部100によるストラップダウン演算により得られた補正速度(リアルタイム補間速度)、補正位置、補正姿勢角と、移動体速度計測部15から得られたNED方向の速度(ドップラー速度)、位置(緯度、経度、標高)、キャリブレーション部14から得られた姿勢角の同期化処理を行うために、一定時間分これらを遅延させる。
減算部108は、同期ずれ補正部107で同期補正及び遅延させた移動体2の速度、姿勢角、位置と、同期化処理部102で同期遅延させたリアルタイム補間速度、補正位置、補正姿勢角とを減算して誤差量δxを算出する。
乗算部103は、良否判定部101により算出された係数αと、減算部108により同期ずれ補正部107と同期化処理部102との減算処理により得られた誤差量δxを乗算する。
【0067】
状態推定部104は、乗算部103によって係数が乗算された誤差量から補正速度、補正位置、補正姿勢角、補正3軸加速度、補正3軸角速度に対する調整量を推定演算する。具体的には、状態推定部104は、GPS受信機とIMU20の角度オフセット誤差変数と、取り付け位置誤差変数が加えられた状態方程式を用いて、乗算部103によって係数αが乗算された誤差量δxから補正速度、補正位置、補正姿勢角、補正3軸加速度、補正3軸角速度に対する調整量(−kαδx)を推定演算する。
【0068】
また、移動体2を正確に校正された100m間を10[km/h]から40[km/h]まで加速し、40[km/h]から10[km/h]に減速した場合(加減速試験)における、従来技術(リアルタイム同期補正がないもの)と、本実施例に係る計測装置1(リアルタイム同期補正があるもの)を比較した精度結果を
図13に示す。本実施例に係る計測装置1の方が、明らかに精度が高いことが分かる。
【0069】
また、
図14は、計測装置1によって出力されるリアルタイム補間速度と、第1のアンテナ10及び第2のアンテナ11により構成されるGPS受信機によるドップラー速度とを示す図である。
図14(a)は、縦軸を速度とし横軸を時間としたグラフに、GPS受信機によるドップラー速度を表した図である。同様に、
図14(b)は、縦軸を速度とし横軸を時間としたグラフに、計測装置1によって出力されるリアルタイム補間速度を表した図である。
【0070】
図14(a)に示すように、木々やビル群等によってGPS衛星からの信号が反射されてマルチパスが発生する場合、GPS受信機によるドップラー速度は、マルチパスによるノイズによる速度を含んで出力される。一方、
図14(b)に示すように、GPS受信機によるドップラー速度がマルチパスによるノイズを含んでいても、計測装置1は、ノイズの影響を小さくし、非常に滑らかな波形によって移動体2の速度を出力する。
【0071】
図15は、計測装置1によって出力されるリアルタイム補間速度の立ち上がりと、GPS受信機から出力されるドップラー速度の立ち上がりとを示す図である。
図15(a)は、計測装置1が出力した速度と、GPS受信機によるドップラー速度と、ドップラー速度を1Hzのローパス処理をした速度との比較を示す図である。
図15(b)は、
図15(a)の一部(破線による円によって囲まれた部分)を拡大した図である。
【0072】
図15(b)に示すように、マルチパスによるノイズを含むドップラー速度と、マルチパスによるノイズを含むドップラー速度をローパス処理によってノイズ除去した速度とに比較して、計測装置1が出力する速度は、ノイズ除去のための演算による出力遅れを小さくして、リアルタイム性を実現している。
【0073】
図16は、計測装置1によって出力されるリアルタイム補間速度と、GPS受信機から出力されるドップラー速度と、光学式速度計測装置から出力される速度とを示す図である。ここで、光学式速度計測装置は、路面の不規則な模様から、特定の間隔(例えば、2.3[mm])によるクシ型構造の特殊受光素子によって特定の間隔の反射ムラだけを抽出し、抽出した反射ムラの計数値に特定の間隔をかけて算出した高精度の速度を出力する。
【0074】
図16が示すように、計測装置1は、マルチパスによるノイズを含むドップラー速度におけるノイズの影響を小さくし、リアルタイムに移動体2の速度を出力し、出力した速度は、光学式速度計測装置による高精度の速度と同様である。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限るものではない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。