【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・先端部材実用化研究開発/マイクロ波による金属薄膜の形成及びそのパターン化技術の研究開発」に係る業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電子部品を実装するプリント配線板の製造方法は銅箔をエッチングしてパターニングする方法が主流であるが、プリント配線板の製造プロセスの簡略化によるコストダウン、大面積化、および生産性の向上のため、導電性インクを用いた印刷法による開発が進められてきている。この方法によるプリント配線板は、メンブレンスイッチやタッチパネルなどで実用化されている。しかしながら、実用化されている導電性インクは通常導電性フィラーとして銀粒子を用いているため、インクのコストが高いという問題がある。また、銀はイオンマイグレーションを起こしやすいため、ファインパターンに適用することが困難である。一方、銅粒子は銀粒子より安価でイオンマイグレーションを起こしにくいものの、酸化されやすいため、十分な導電性を有する導電性インクを得ることが困難であった。
【0003】
銅粒子を用いた導電性インクでも、還元雰囲気下で熱処理を行うことにより銅粒子表面の酸化層を還元することは可能である。しかしながら、水素等の還元雰囲気下で銅を還元するためには、350〜400℃程度の高温が必要になるため、基材に高い耐熱性が要求され、安価な基材が使用できないという問題があった。
【0004】
また、従来これらの用途に用いられている導電性インクは、金属粒子の接触により導電性を発現しているものが主流であり、バルク金属と比べると導電性が劣り、使用できる用途が限定されていた。
【0005】
一方、ナノ粒子は、バルクサイズ粒子にはない特性を有しており、近年、ナノ粒子の合成法やその応用に関する研究が数多くなされている。その応用例としてプリント配線板の回路形成用の導電性インクが多方面で開発されてきている。
【0006】
ナノ粒子では、ナノサイズ効果により、融点が低下することが知られている。ナノ粒子を用いることで、低温でナノ粒子を焼結することができるため、フレキシブルプリント配線基板として既に使用されているポリイミドのみならず、PET(ポリエチレンテレフタレート)やポリプロピレンなどの耐熱性がポリイミドより低い、加工性が容易な各種のフィルム基材上で、高い導電性を有する回路を形成することが可能になった。
【0007】
しかしながら、ナノ粒子を用いた導電性インクにおいても銀ナノ粒子を用いた導電性インクの開発が中心であり、依然として銀を用いることに起因する課題は解決されていなかった。
【0008】
このような課題を解決するため、近年、合金、コア−シェル構造などの二元系の金属ナノ粒子を用いる研究・開発が進められている。特に、コア−シェル構造を有する金属ナノ粒子に関する研究が注目を集めている。
【0009】
例えば、非特許文献1には、アルコールまたはアセトン中に金属を入れ、レーザーアブレーションにより金属(銀、銅)を分解させることにより、銀−銅合金ナノ粒子を合成する方法が開示されている。
【0010】
また、非特許文献2には、真空蒸着法により銅コア−銀シェル構造の銅/銀ナノ粒子を物理的に合成する方法が開示されている。
【0011】
また、特許文献1には溶液中にて第1金属前駆体を還元反応させて第1金属コアを生成させ、それに続いて、第2金属前駆体を加えた同じ溶液内にて第2金属前駆体を還元反応させることで、第1金属コアの周囲に第2金属シェルを生成させる方法で、銀(コア)/銅(シェル)ナノ粒子を合成する方法が開示されている。
【0012】
また、特許文献2には、ポリオール法によって、銀と銅とからなる半球合体型の複合金属ナノ粒子を合成する方法が開示されている。
【0013】
また、特許文献3には、アルキルアミンを金属被着分子として用いることにより銀コア銀銅合金シェルナノ粒子を合成する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、レーザーアブレーション法や真空蒸着法によるナノ粒子合成は、容易にコア−シェル構造を有する金属ナノ粒子を得ることができないといった問題があった。
【0017】
また、特許文献1の銀コア/銅シェルナノ粒子では、銅がナノ粒子表面に露出しており、このようなナノ粒子では、表面に露出している銅が銀とナノレベルで近接しているため、銀により銅の酸化が抑制されている。しかしながら、銀による銅の酸化抑制効果は銀と近接している部分に限られるため、銅シェルの厚みを増やすことができず、高価でイオンマイグレーションに悪影響を及ぼす銀の比率を十分に低くすることができないという問題があった。
【0018】
また、特許文献2は銀/銅半球合体型の複合金属ナノ粒子であり、この金属ナノ粒子でも銅が表面に露出しているため、銅の酸化防止効果が不十分であった。
【0019】
また、特許文献3の銀コア銀銅合金シェルナノ粒子では、ナノ粒子表面のシェルは銀銅合金であるため、ナノ粒子表面が酸化されにくい特徴を有しているものの、ナノ粒子コアが銀であるうえ、表面のシェルにおいても銀銅合金であり、銀を多く含有する構造になっており、銀の量を低減するという観点においては不十分であった。
【0020】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、比較的少ない銀含有量においても酸化されにくい金属ナノ粒子の容易な製造方法を提供することであり、また、この製造方法によって得ることのできる金属ナノ粒子を提供することにある。また、本発明が解決しようとする課題は、この金属ナノ粒子を用いた導電性インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、第1金属で構成された中心部と、表面近傍に第2金属が第1金属に内包された外周部を有し、第1金属のイオン化傾向が第2金属のイオン化傾向より大であることを特徴とする金属ナノ粒子である。また、コアシェル構造を有する金属ナノ粒子であって、第1金属で構成されたコア粒子と、前記コア粒子の表面を覆い、前記コア粒子よりも小径のイオン化傾向が前記第1金属より小である第2金属粒子、及び前記第2金属粒子を内包する前記第1金属の層により構成され、前記コア粒子の表面を覆うシェルと、を備えることを特徴とする。
【0022】
上記第1金属は銅であり、上記第2金属は銀であるのがよい。
【0023】
また、本発明の他の実施形態は、導電性インクであって、上記金属ナノ粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含むことを特徴とする。
【0024】
また、本発明のさらに他の実施形態は、金属ナノ粒子の製造方法であって、第1金属前駆体と有機溶媒とを含む第1の液を加熱して前記第1金属のコア粒子を生成するコア生成工程と、前記第1金属のコア粒子を含む液に第1金属よりイオン化傾向が小である第2金属の前駆体を添加した第2の液を加熱することにより、前記コア粒子の表層を、前記第2金属により置換めっきして前記コア粒子表面に前記コア粒子よりも小径の第2金属粒子を析出させるとともに、前記置換めっきにより生成した前記第1金属のイオンを還元して前記第2金属粒子を内包する前記第1金属の層を生成し、前記コア粒子の表面を覆うシェルとするシェル生成工程と、を備えることを特徴とする。
【0025】
上記シェル形成工程は、前記シェル形成液を第1の温度で加熱して前記コア粒子よりも小径の第2金属粒子を析出させる第2金属粒子析出工程と、前記第1の温度より高温の第2の温度で前記置換めっきにより生成した前記第1金属のイオンを還元し、第2金属粒子を内包する前記第1金属の層を生成する第1金属層生成工程と、を備えることを特徴とする。
【0026】
また、上記第1金属前駆体は銅前駆体であり、上記第2金属前駆体は銀前駆体であるのがよい。
【0027】
また、上記第1の液及び第2の液は、マイクロ波により加熱するのがよい。
【0028】
また、上記有機溶媒が還元性の溶媒であり、上記還元性の溶媒は、炭素数3〜30の一価アルコールであるのがよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る金属ナノ粒子は、第1金属を銅、第2金属を銀とした場合に、少量の銀ナノ粒子により銅の酸化を防止できるので、金属ナノ粒子中の銀の含有量を低減することができる。
【0030】
本発明に係る金属ナノ粒子の製造方法によれば、レーザーアブレーション法や蒸着法のような物理的方法で合成する場合に比べて容易な工程で、第2金属が第1金属層中に分散したシェルが第1金属のコアを覆っているナノ構造を生成させることができる。また、この場合の粒径制御も比較的容易に行うことができる。
【0031】
また、本発明に係る金属ナノ粒子を用いたインクは低温焼結が可能であり、良好な導電性を示す焼結物を得ることができる。また、還元雰囲気における焼成においても、従来の粒径が200nmより大きいバルクサイズ粒子を用いた導電性インクより低い温度で還元焼成が可能である。
【0032】
本発明により、銀に比べて安価であり、また、イオンマイグレーションを起こしにくい銅を含む銅/銀ナノ粒子インクを作製することが可能になり、また、その低温焼結により、PETのような耐熱性の低いプラスチック基板にもその導電膜、導電配線を形成させることが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を説明する。
【0035】
本実施形態に係る金属ナノ粒子の製造方法(以下、「本製法」ということがある。)は、溶液還元法により、金属ナノ粒子を製造する方法であり、コア生成工程と、シェル生成工程とを有している。本製法では、同じ溶液中にて異なる金属前駆体が段階的に還元されることにより、コアが生成され、引き続き、シェルが生成される。本明細書において「金属前駆体」とは還元されると金属となる化合物を意味する。また、「金属ナノ粒子」とはSEM観察による粒径が1〜200nmである金属粒子を意味する。
【0036】
(コア生成工程)
コア生成工程は、第1金属前駆体と有機溶媒とを含む第1の液(コア形成液)を加熱攪拌することにより、第1金属前駆体を還元させ、第1金属のコア粒子を生成させる工程である。第1金属前駆体は、例えば銅前駆体(還元されると銅となる化合物)であり、具体的には銅の有機酢酸塩、銅の脂肪酸塩、銅のアルキルホスホン酸塩、銅のアルキルスルホン酸塩、銅の硫酸塩、銅アルコキシド(銅イソプロポキシド、銅エトキシドなど)、銅のアセチルアセトン錯塩(銅アセチルアセトネートなど)などの有機金属化合物を例示することができる。
【0037】
上記銅前駆体を溶解させる溶媒または分散させる溶媒としては、例えばジオール類、グリコール類、ポリオール類などのアルコール類、アミン類、炭化水素類、ケトン類、エーテル類、エステル類などの有機溶媒を例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0038】
これら有機溶媒のうち、好ましくは、上記銅前駆体及び後述する銀前駆体に対して還元性を示す還元性有機溶媒を好適に用いることができる。また、還元性有機溶媒は、水に対する溶解性が比較的低いものが良い。
【0039】
このような還元性有機溶媒としては、例えばプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールなどの炭素数3以上の一価アルコールを例示することができる。特に、炭素数3〜30、好ましくは炭素数3〜20、より好ましくは炭素数3〜10の一価アルコールなどを好適なものとして例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0040】
炭素数が上記範囲内にある場合には、上記各前駆体中の金属イオンが急激に還元され難く、適度の還元力で金属イオンを還元することができる。
【0041】
なお、上記銅前駆体が有機溶媒中に溶解するか分散するかについては、銅前駆体と有機溶媒との組み合わせ、有機溶媒に対する銅前駆体の量などによる。また、銅前駆体の量は、後述する銀前駆体の量、金属ナノ粒子の生産性などを考慮して調整することができる。
【0042】
本製法では、上記溶液または分散液(以後、まとめて「溶液」と表記する)を加熱するが、加熱方法としては、溶液中の銅前駆体を還元させられる熱を与えられれば、特に限定されるものではない。例えば、ヒーターなどによる電熱、熱せられたオイル、水などの熱媒体、バーナ火炎、熱風などの外部熱源により溶液を熱伝導などで加熱する方法、マイクロ波などの電磁波、高周波、レーザー光、電子線などを照射することにより溶液を加熱する方法などを例示することができる。なお、これら加熱方法は、単独で用いても良いし、2以上の手法を組み合わせて用いても良い。
【0043】
溶液の加熱温度は、用いた銅前駆体や有機溶媒の種類などにより異なる。また、上記加熱は、生成した銅コアを酸化させないため、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気に溶液を存在させた状態で行うことが好ましい。
【0044】
上記加熱方法のうち、好ましくは、外部熱源により溶液を加熱する方法、マイクロ波を照射することにより溶液を加熱する方法を用いることが好ましい。より好ましくは、後者を用いると良い。急速かつ均一な加熱により、比較的迅速にコア−シェル構造を有する金属ナノ粒子を得ることができるからである。また、急速に昇温させ、高温の状態を短時間保持しやすいので、コア−シェル構造を有する金属ナノ粒子を生成させやすい利点もあるからである。また、粒径のばらつきを小さくできる利点もある。
【0045】
以上の方法により溶液の加熱を行うには、より具体的には、以下のようにすることができる。前者(外部熱源)の場合、溶液中の銅前駆体を還元させることが可能な温度に加熱された液体(例えば、オイル、水など)などの熱媒体に、溶液を入れた反応容器を接触させまたは近接させる、あるいはヒーターやバーナ火炎などにより反応容器を加熱する等が挙げられる。
【0046】
一方、後者(マイクロ波)の場合、用いるマイクロ波は、特に限定されるものでない。例えば、通常日本国内で多用されている周波数2.45GHzのマイクロ波を利用することができる。以下、マイクロ波の照射条件については、この周波数2.45GHzのマイクロ波を選択した場合を前提としたものであるが、他のマイクロ波を選択した場合には、これに準じて適宜照射条件を変更することができる。
【0047】
マイクロ波の照射強度は、銅前駆体、有機溶媒の種類などにより異なるが、粒径分布を制御しやすい、加熱時間が適度であるなどの観点から、下記の範囲を選択することが好ましい。上記マイクロ波の照射強度の上限値としては、好ましくは40W/cm
3以下、より好ましくは、24W/cm
3以下である。
【0048】
一方、上記マイクロ波の照射強度の下限値としては、好ましくは、1W/cm
3以上、より好ましくは、2W/cm
3以上、さらにより好ましくは、3W/cm
3以上である。なお、これらマイクロ波の照射強度は、マイクロ波出力(W)/反応溶液の体積(cm
3)で表される値である。
【0049】
また、上述した何れの加熱手法とも、加熱時間は、銅前駆体、有機溶媒の種類、加熱温度などにより異なるが、十分に銅のコア粒子を生成させることができ、また、生産性を向上させるなどの観点から、下記の範囲を選択することが好ましい。
【0050】
上記加熱時間の上限値としては、好ましくは、60分以下、より好ましくは、30分以下、さらにより好ましくは、15分以下である。
【0051】
一方、上記加熱時間の下限値としては、好ましくは、30秒以上、より好ましくは、1分以上、さらにより好ましくは、2分以上である。なお、マイクロ波加熱の場合には、反応温度までの昇温時間を、外部加熱に比較して短時間で行うことが可能である。
【0052】
また、上述した何れの加熱手法とも、加熱温度は、ほぼ一定となるように制御することが好ましい。
【0053】
上記加熱温度の上限値は、生産性及び合成反応の制御のしやすさなどの観点から、好ましくは、300℃以下、より好ましくは、275℃以下、さらにより好ましくは、250℃以下である。一方、上記加熱温度の下限値は、銅前駆体の分散性を確保するなどの観点から、好ましくは、80℃以上、より好ましくは、100℃以上、さらにより好ましくは、120℃以上である。
【0054】
なお、マイクロ波加熱を行う場合、加熱温度の制御は、例えば、上記溶液中に温度センサーを漬け、溶液の温度が一定になるように、マイクロ波の照射のオン/オフを繰り返すことなどにより行うことができる。また、マイクロ波の照射は、公知のマイクロ波照射装置を用いて行うことができる。
【0055】
(シェル生成工程)
シェル生成工程は、上記コア生成工程を経た後、生成した銅等の第1金属のコア粒子を含む液に第1金属よりイオン化傾向が小である第2金属の前駆体を加えて第2の液(シェル形成液)とし、この液を加熱することにより、第2金属を置換めっきにてコア粒子の表面に、コア粒子より小径のナノ粒子として析出させ、さらに、置換めっきにより生成した第1金属イオン(銅イオン等)をアルコール還元することで第2金属のナノ粒子が第1金属層に分散し内包されたシェルを生成し、このシェルによりコア粒子が覆われたナノ構造を形成させる工程である。
【0056】
上記第2金属の前駆体は、例えば銀前駆体(還元されると銀となる化合物)であり、銀前駆体としては、具体的には、銀の有機酢酸塩、銀の脂肪酸塩、銀のアルキルホスホン酸塩、銀のアルキルスルホン酸塩、銀の硫酸塩、銀アルコキシド(銀イソプロポキシド、銀エトキシドなど)、銀のアセチルアセトン錯塩(銀アセチルアセトネートなど)などの有機金属化合物を例示することができる。
【0057】
ここで、このシェル生成工程において、第1金属である銅のコア粒子を含む溶液に銀前駆体を加える方法としては、種々の方法を選択することができる。
【0058】
例えば、銅のコア粒子を含む溶液に銀前駆体を直接加えても良いし、上述した有機溶媒に予め銀前駆体を溶解させた溶液または分散させた分散液と、コア粒子を含む溶液とを混合するなどしても良い。十分に両者を混合させやすいなどの観点からは、後者を好適に選択することができる。
【0059】
なお、銀前駆体の混合量は、銅前駆体中の銅成分と、銀前駆体中の銀成分との比率などを考慮して選択することできる。
【0060】
銅成分1に対して、銀成分の比率(モル比)の上限値は、好ましくは、2.0以下、より好ましくは、1.0以下である。一方、銅成分1に対して、銀成分の比率の下限値は、好ましくは、0.05以上、より好ましくは、0.15以上である。
【0061】
銀前駆体を加えた後の混合溶液の加熱は、上述したコア生成工程における加熱方法と同じ方法を用いることができ、好ましくは、マイクロ波照射による加熱である。マイクロ波照射は、短時間加熱に適しており、コア−シェル構造を有する金属ナノ粒子を生成させやすいからである。
【0062】
この場合、マイクロ波照射強度、加熱温度は、例えば、上述した範囲内で選択することができる。もっとも、過度に加熱温度を高くすると、粒成長が生じやすくなる傾向が見られるため、この点には留意する必要がある。
【0063】
また、加熱時間は、コア粒子とシェルを構成する金属の種類などを考慮して異ならせることができる。例えば、銅コア/銀シェル(銀ナノ粒子を内包する銅層のシェル)構造の銅/銀ナノ粒子を製造する場合、加熱時間の上限値は、粒子が凝集して粗大になることを回避するなどの観点から、好ましくは、90分未満、より好ましくは、80分以下、さらにより好ましくは、70分以下、最も好ましくは、60分以下である。
【0064】
一方、加熱時間の下限値は、銅/銀ナノ粒子を生成させやすいなどの観点から、好ましくは、1分以上、より好ましくは、2分以上、さらにより好ましくは、3分以上、最も好ましくは、4分以上である。
【0065】
(金属ナノ粒子)
本製法により得られる金属ナノ粒子は、第1金属(銅)からなる粒子の表面近傍にのみ第2金属(銀)が存在(但し、表面には露出されていない)する構造を有する。すなわち、本発明の金属ナノ粒子は第1金属(銅)で構成された中心部と、表面近傍に第2金属(銀)が第1金属(銅)に内包(点在あるいは層状に埋設)された外周部を有している。中心部と外周部の間には明確な界面がある場合もない場合も含む。第2金属(銀)が第1金属(銅)中に点在する場合中心部を構成する第1金属(銅)と外周部を構成する第1金属(銅)とは連続している部分を有することになり、両者間に明瞭な界面を確認できないこともある。本製法により得られる金属ナノ粒子の粒径は、SEM観察による粒径が1〜200nmである。
【0066】
金属ナノ粒子を構成する金属成分については、例えば、X線回折法などにより確認することができる。また、金属ナノ粒子に含有される金属前駆体等に由来する被覆有機成分の種類や量は、例えば、NMR(核磁気共鳴法)、GC/MS(ガスクロマトグラフィ/質量分析法)、TG(熱重量分析)などにより確認することができる。
【0067】
(導電性インク)
本実施形態にかかる導電性インクは、必須の構成成分として、上記の方法によって合成された金属ナノ粒子、バインダ樹脂、および溶媒を含む。また、必要に応じて、還元剤、分散剤、消泡剤、その他各種添加剤類を配合することができる。
【0068】
上記バインダ樹脂は、有機溶剤に溶解し、導電性インクに適度な粘性を与えて金属ナノ粒子を分散させ、二次凝集を抑制させるために配合されるものであり、特に限定されない。このようなバインダー樹脂としては、エチルセルロースやヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂類、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、およびこれらの共重合体類、ポリビニルアルコール、ポリビニルプチラール、ポリビニルピロリドン、架橋型および非架橋型アクリルポリマー類などを挙げることができる。また、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、メラミン樹脂、ビニル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アセタール樹脂、尿素樹脂、酢酸ビニルエマルジョン、アルキド樹脂類、ポリアミド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、ロジン、ロジンエステル、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリウレタン樹脂等を用いることもできる。
【0069】
バインダ樹脂の配合量は、金属ナノ粒子100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲であることが好ましい。
【0070】
また、上記溶媒としては、バインダ樹脂を溶解するものが用いられる。また、後述するパターン形成方法により、適切な蒸気圧や沸点を有する溶媒を用いることが好ましい。
【0071】
例えば、スクリーン印刷によってパターン形成を行う場合は、導電性インクが印刷版上で乾燥して固まらないよう、比較的低い蒸気圧、高い沸点の溶剤が用いられる。逆に、インクジェット印刷のように瞬時の蒸発乾燥が求められるような印刷方法でパターン形成を行う場合には、比較的高い蒸気圧、低い沸点の溶剤が用いられる。
【0072】
本実施形態に好適に用いられる溶媒としては、水:メタノール、エタノール、n−プロパノール、ベンジルアルコール、α−テルピネオール、エチレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセチルアセトン、プロピレンカーボネート等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルセロソルブ、ジグライム、メトキシプロパノール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、炭酸ジエチル、TXIB(1−イソプロピル−2,2−ジメチルトリメチレンジイソブチレート)、酢酸カルビトール、酢酸ブチルカルビトール等のエステル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド及びスルホン類;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,2−トリクロロエタン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族類等が挙げられる。
【0073】
本実施形態の導電性インクには必要に応じて各種還元剤を配合することができる。還元剤は還元性を有する溶媒を用いても良いし、溶媒以外に別途還元剤を配合しても良い。
【0074】
好適に用いられる還元剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、2−ブタノール、2−ヘキサノールなどの脂肪族モノアルコール、エチレングリコール(1,2−エタンジオール)、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオール、グリセリン(1,2,3−プロパントリオール)、1,2−ブタンジオールなどの脂肪族多価アルコール、ベンジルアルコール、1−フェニルエタノール、ジフェニルカルビトール(ジフェニルメタノール)、ベンゾイン(2−ヒドロキシ−1,2−ジフェニルエタノン)などの芳香族モノアルコール、ヒドロベンゾイン(1,2−ジフェニル−1,2−エタンジオール)などの芳香族多価アルコール、グルコース、マルトース、フルクトースなどの糖類、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール(EVOH)などの高分子アルコールなどが挙げられる。
【0075】
アルコール類以外でも、例えば、ジメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、フェニドン(1−フェニル−3−ピラゾリドン)、ヒドラジン等のアミン化合物;水酸化ホウ素ナトリウム、ヨウ化水素、水素ガス等の水素化合物;一酸化炭素、亜硫酸等の酸化物;硫酸第一鉄、塩化鉄、フマル酸鉄、乳酸鉄、シュウ酸鉄、硫化鉄、酢酸錫、塩化錫、二リン酸錫、シュウ酸錫、酸化錫、硫酸錫等の低原子価金属塩;ホルムアルデヒド、ハイドロキノン、ピロガロール、タンニン、タンニン酸、サリチル酸等の有機化合物等を挙げることができる。
【0076】
本実施形態にかかる導電性インクには、必要に応じて各種分散剤を添加してもよい。好適に用いられる分散剤としては、スチレン系樹脂(スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体など)、アクリル系樹脂((メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸などの(メタ)アクリル酸系樹脂など)、水溶性ウレタン樹脂、水溶性アクリルウレタン樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(ニトロセルロース;エチルセルロースなどのアルキルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロースなどのアルキル−ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエーテル類など)、ポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール(液状のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)、天然高分子(ゼラチン、デキストリン、アラビヤゴム、カゼインなど)、ポリエチレンスルホン酸又はその塩、ポリスチレンスルホン酸又はその塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、窒素原子含有高分子化合物などが挙げられる。
【0077】
また、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、ノナンチオール、デカンチオール、ウンデカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等のアルカンチオール類、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン等のアルキルアミン類、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、ヘキサデカン酸、ナフテン酸、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等のカルボン酸も好適に用いられる。
【0078】
また、本実施形態にかかる導電性インクには、必要に応じて各種消泡剤、着色剤、表面調整剤等各種添加剤類を添加することができる。
【0079】
(導電性インク作製方法)
本実施形態にかかる導電性インクは、公知の方法によって作製することができる。例えば、3本ロールミル、ビーズミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、ディスパーなどを用いて、上記の導電性インク材料を混合して導電性インクを作製することができる。
【0080】
(パターン形成方法)
本実施形態にかかるパターン形成方法は、公知の各種方法を用いることができる。例えば、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、凸版印刷法、パッド印刷法、インクジェット印刷法などを用いることができる。このうち、スクリーン印刷法はメンブレンスイッチやタッチパネルなど、導電性インクを用いた用途のパターン形成に実績が豊富な印刷方法であり、本発明の導電性インクのパターン形成においても適している。また、大面積や高生産性が求められる用途ではグラビア印刷法が好適である。半導体分野など、高精細が求められる分野や、オンデマンド印刷などの用途ではインクジェット印刷法が適する。
【0081】
(焼成方法)
本実施形態にかかる導電性インクを印刷したパターンの焼成方法は公知の各種焼成方法を使用することができ、特に限定されない。例えば、加熱炉による外部加熱、マイクロ波加熱や電流によるジュール熱による加熱、誘導加熱遠赤外線加熱、光加熱等による内部加熱によって焼成することができる。
【0082】
また、焼成雰囲気は大気下で焼成することもできるが、還元雰囲気下で焼成することで、銅/銀ナノ粒子中の銀配合量を大幅に低減することができる。還元雰囲気に用いる還元剤としては、水素ガスのほか、ぎ酸などのカルボン酸類、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類等を挙げることができる。これらのうち、常温で気体状のものは気体として供給すればよく、常温で液体状のものは加熱して蒸気を供給すればよい。また、液体を還元炉中に供給して還元炉中で蒸気を発生させることもできる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0084】
1.銀前駆体、銅前駆体の準備
初めに、原料に用いる銅前駆体、銀前駆体を以下の手順により合成した。
【0085】
(ミリスチン酸銅)
脱イオン水200mlにミリスチン酸ナトリウム(C
13H
27COONa)(和光純薬工業(株)製、純度98%以上)51mmolを80℃にて溶解した。その後、この液に、脱イオン水100mlに硝酸銅(II)25mmolを溶解した液を加えることにより、沈殿物を得た。
【0086】
次いで、この沈澱物に対して、濾過および脱イオン水による洗浄を繰り返し、さらに、濾過およびメタノールによる洗浄を行った後、70℃で12時間減圧乾燥することにより、ミリスチン酸銅((C
13H
27COO)
2Cu)を得た。
【0087】
(ミリスチン酸銀)
脱イオン水200mlにミリスチン酸ナトリウム(C
13H
27COONa)40mmolを60℃にて溶解した。その後、この液に、脱イオン水20mlに硝酸銀40mmolを溶解した液を加えることにより、沈殿物を得た。
【0088】
次いで、この沈澱物に対して、濾過ならびに脱イオン水およびエタノールによる洗浄を繰り返し、さらに、濾過およびメタノールによる洗浄を行った後、70℃で12時間減圧乾燥することにより、ミリスチン酸銀(C
13H
27COOAg)を得た。
【0089】
2.銀前駆体含有溶液、銅前駆体含有溶液の準備
上記1にて準備した各金属前駆体を含む溶液を以下の手順により調製した。
【0090】
(ミリスチン酸銅含有溶液)
上記合成したミリスチン酸銅4.8mmolを、1−ヘプタノール90mL中に混合し、超音波を用いてミリスチン酸銅を1−ヘプタノールに分散させ、ミリスチン酸銅含有溶液を調製した。なお、使用した超音波照射装置は、ヤマト科学(株)製BRANSONIC 2510である。
【0091】
(ミリスチン酸銀含有溶液)
上記合成したミリスチン酸銀1.6mmolを用いた以外は、上記ミリスチン酸銅含有溶液の調製と同様にして、ミリスチン酸銀含有溶液を調製した。
【0092】
3.金属ナノ粒子の製造(銅ナノ粒子)
マイクロ波加熱装置(マイルストーン(株)製、「Microsynth」)を用い、窒素雰囲気下、20W/cm
3の照射強度でマイクロ波(周波数2.45GHz)をミリスチン酸銅含有溶液に照射し、室温から180℃まで3分間かけて昇温した。マイクロ波の出力を制御しながら温度を180℃に維持し、25分間加熱を継続してミリスチン酸銅を還元し、銅ナノ粒子(銅のコア粒子)を得た。なお、加熱温度の制御は、装置に付属している光ファイバー温度計を用いて温度を測定しながら、マイクロ波照射強度を変化させることにより行った。合成した銅のコア粒子は以下の銅/銀ナノ粒子合成に用いた。
【0093】
(銅/銀ナノ粒子)
次いで、上記銅のコア粒子を含む溶液を氷浴に入れ3℃に冷却した後、この溶液に室温のミリスチン酸銀含有溶液を混合した。ミリスチン酸銀含有溶液の投入量は、目的とする銅/銀ナノ粒子(金属ナノ粒子)の銅/銀比率に応じて決定した。銅/銀の比率(前駆体の仕込みモル比)は1/2、1/1、3/1、10/1で行った。
【0094】
その後、この混合溶液に、さらに上記と同様に、20W/cm
3の照射強度でマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、室温から120℃まで2分間かけて昇温した。マイクロ波の出力を制御しながら温度を120℃に維持し、5分間加熱を継続することにより、銅のコア粒子の表層を銀ナノ粒子により置換めっきしてコア粒子の表面にコア粒子より小径の銀ナノ粒子を析出させた。その後、加熱温度を180℃に上げて15分間この温度を継続した。これにより、置換めっきで生成した銅イオンを還元し、銀ナノ粒子を内包する銅層を生成してコア粒子を覆うシェルとして銅/銀ナノ粒子を形成し、銅/銀ナノ粒子を含む合成液を得た。
【0095】
(銀コア/銅シェルナノ粒子)
比較例としての銀/銅ナノ粒子の合成は、まず、ミリスチン酸銀1.6mmolを1−ヘプタノール90mlに混合した溶液を調整し、マイクロ波加熱により120℃で2分間反応させ銀ナノ粒子を合成した。続いてミリスチン酸銅4.8mmolを90mlの1−ヘプタノールに混合した溶液を銀ナノ粒子調整溶液に加え、160℃で15分間反応させ、銀コア/銅シェルナノ粒子を調整した。
【0096】
4.遠心分離および洗浄
調整した銅/銀ナノ粒子及び銀/銅ナノ粒子は、冷却遠心機(久保田商事社製)を用いて、回転速度24000rpmで30分遠心分離し、上澄みを除去することで回収した。回収した両ナノ粒子は、メタノール150mlに分散させ、遠心分離させることで、洗浄した。
【0097】
5.TEM観察およびXPS測定
得られた銅/銀ナノ粒子及び銀/銅ナノ粒子の構造を、透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、「JEM−2010」)にて観察した。
【0098】
また、X線光電子分光測定はアルバックファイ(株)製MT−5500を用いてナノ粒子の酸化状態を評価した。
【0099】
<TEM観察結果>
上記方法によって合成した銅/銀ナノ粒子の透過電子顕微鏡像を
図1に示す。得られた銅/銀ナノ粒子は、直径100nm程度の大きさであることが確認された。粒子外周部にコントラストの濃い10nmの粒子が観測され、電子密度の違いから10nmの粒子が銀であることが確認された。また、その10nmの粒子の周りをコントラストの薄いシェル部が確認され、電子密度の違いから銅であることが確認された。
【0100】
<XPS観察結果>
上記方法によって合成した銅/銀ナノ粒子のX線光電子分光測定結果およびオージェ電子分光結果を
図2に示す。実線は銅/銀ナノ粒子を合成したまま測定した結果(スパッタ前)であり、破線は銅/銀ナノ粒子をアルゴンでスパッタし、銅/銀ナノ粒子表面を削った試料の測定結果(スパッタ後)である。Ag3d軌道、銅2p軌道、酸素1s軌道の結合エネルギーおよび銅LMM遷移に由来するスペクトルをそれぞれ
図2(a),(b),(c),(d)に示す。
【0101】
ナノ粒子を合成したまま測定したスパッタ前の試料では、銀および銅のピーク(
図2(a),(b))に加え、酸素のピーク(
図2(c))を観測した。この酸素は、銅/銀ナノ粒子の最外表面の一部に存在する酸化銅に由来(オージェスペクトルの酸化銅に帰属される569.5eVのピーク(
図2(d))の存在による)するものとミリスチン酸に由来(別途測定した水素気流下でのTG測定における重量減少による)するものであることが確認された。一方でスパッタ後の測定結果では、銅および銀のピークは残存していたのに対し、酸素のピークは消失していることが確認された。このことから、銅/銀ナノ粒子の最外表面以外は銅および銀は酸化されていないことが確認された。
【0102】
6.導電性インク作製
上記で得られた銅/銀ナノ粒子を用い、バインダー樹脂としてエチルセルロース(関東化学製、試薬1級)、溶媒としてα―テルピネオールを用いて導電性インクを作製した。銅/銀ナノ粒子は実施例として、銅/銀の比率(前駆体の仕込みモル比)が3/1、1/1、1/2のものを用いた。また、比較例として銀/銅の比率が1/3の銀コア銅シェルナノ粒子を用いた。
【0103】
α−テルピネオールにエチルセルロースが10質量%になるように混合した後、室温で12時間攪拌してバインダー溶液を作製した。このバインダー溶液と、上記で作製した実施例及び比較例のナノ粒子を表1に記載した比率になるように各々配合し、ヘラを用いて攪拌した。次いで、3本ロールミルでナノ粒子をバインダー溶液中に分散させた後、α−テルピネオールを加えてスクリーン印刷に適した粘性になるように調整して導電性インクとした。
【0104】
7.パターン形成
上記で得られた導電性インクをスクリーン印刷法を用いてポリイミド基材上に印刷した。ポリイミド基材は東レ・デュポン社製カプトン500Hを用いた。印刷パターンは#250のステンレス製メッシュを用い、幅1mmの線を含む配線パターンを印刷した。印刷したパターンを窒素雰囲気下、100℃で1時間乾燥した。
【0105】
8.焼成(加熱炉焼成)
上記で得られた印刷パターンを加熱炉を用い、窒素雰囲気下で150℃および250℃で1時間焼成を行った。
【0106】
(還元焼成)
上記で得られた印刷パターンを還元炉で、還元雰囲気化で100℃、150℃、および250℃で各々1時間還元焼成を行った。液状還元剤はエタノールとエチレングリコールを用いた。還元炉は液状の還元剤を投入する投入口と、内部で発生した気体を排出する排出口を供えている。還元剤が蒸発しきれなかった場合に印刷パターンが液状還元剤に浸らないように、還元剤蒸発パンより高い位置に印刷パターンを設置し、また、液状還元剤が所定の液面高さ以上にならないように、ドレイン排出口を設けた。液状の還元剤はシリンジポンプを用いて1ml/分の流量で還元炉中に投入した。還元焼成完了後、還元炉の温度が100℃以下になるまで液状還元剤の投入を継続した。
【0107】
9.導電性測定
上記で焼成された幅1mmの導電性インク印刷パターンをソースメーター(ケースレー2601型)を用いて導電性を測定した。電極は4端子電極を用い、電極間距離は2cmで測定を行った。スクリーン印刷された印刷パターンは断面形状が矩形でなく、幅方向の位置により厚みが異なるため、導電性測定後、印刷パターンを削り取り、その重量と導電性インクの配合、導電性インク原材料の比重から厚みを逆算して、体積抵抗率を計算した。
【0108】
<導電性>
上記の方法によって作製された導電性インクの配合、導電性インク印刷パターンの導電性を表1に記載した。
【0109】
銅/銀ナノ粒子は銅/銀比率が1/2の場合、非還元雰囲気(窒素雰囲気)中でも導電性を示すことが確認された。また、銅/銀比率が3/1〜1/2の範囲において、銅ナノ粒子や銀コア銅シェルナノ粒子より低い温度で還元され、また、エタノールのような比較的還元性の低い還元剤蒸気によっても還元されることが確認された。
【0110】
【表1】
【0111】
以上、本実施例に係る金属ナノ粒子の製造方法により、銀ナノ粒子が銅層に分散されて内包されたシェルに銅ナノ粒子が覆われたナノ構造を有する銅/銀ナノ粒子を作製することができ、これを用いた導電性インクをパターニング、焼成することにより、良好な導電性を示す導電性パターンを得ることができた。還元雰囲気における焼成においても、銅ナノ粒子や銀コア銅シェルナノ粒子を用いた導電性インクより低い温度で還元焼成が可能であった。
【0112】
本実施例により、銀に比べて安価であり、また、イオンマイグレーションを起こしにくい銅を含む銅/銀ナノ粒子インクを作製することが可能になり、また、その低温焼結により、PETのような耐熱性の低いプラスチック基板にもその導電膜、導電配線を形成させることが可能となった。