(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被検体にX線を照射するX線源と、前記X線源に対向配置され前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線源と前記X線検出器を搭載し前記被検体の周囲を回転する回転円盤と、前記X線検出器により検出された透過X線量に基づき被検体の断層画像を再構成する画像再構成装置と、前記画像再構成装置により再構成された断層画像を表示する画像表示装置と、を備えたX線CT装置であって、
前記X線源は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のX線管装置であることを特徴とするX線CT装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に従って本発明に係るX線CT装置の好ましい実施形態について説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【0013】
図1を用いて本発明を適用したX線CT装置1の全体構成を説明する。X線CT装置1はスキャンガントリ部100と操作卓120とを備える。
【0014】
スキャンガントリ部100は、X線管装置101と、回転円盤102と、コリメータ103と、X線検出器106と、データ収集装置107と、寝台105と、ガントリ制御装置108と、寝台制御装置109と、X線制御装置110と、を備えている。X線管装置101は寝台105上に載置された被検体にX線を照射する装置である。コリメータ103はX線管装置101から照射されるX線の放射範囲を制限する装置である。回転円盤102は、寝台105上に載置された被検体が入る開口部104を備えるとともに、X線管装置101とX線検出器106を搭載し、被検体の周囲を回転するものである。X線検出器106は、X線管装置101と対向配置され被検体を透過したX線を検出することにより透過X線の空間的な分布を計測する装置であり、多数のX線検出素子を回転円盤102の回転方向に配列したもの、若しくは回転円盤102の回転方向と回転軸方向との2次元に配列したものである。データ収集装置107は、X線検出器106で検出されたX線量をデジタルデータとして収集する装置である。ガントリ制御装置108は回転円盤102の回転を制御する装置である。寝台制御装置109は、寝台105の上下前後左右動を制御する装置である。X線制御装置110はX線管装置101に入力される電力を制御する装置である。
【0015】
操作卓120は、入力装置121と、画像演算装置122と、表示装置125と、記憶装置123と、システム制御装置124とを備えている。入力装置121は、被検体氏名、検査日時、撮影条件などを入力するための装置であり、具体的にはキーボードやポインティングデバイスである。画像演算装置122は、データ収集装置107から送出される計測データを演算処理してCT画像再構成を行う装置である。表示装置125は、画像演算装置122で作成されたCT画像を表示する装置であり、具体的にはCRT(Cathode-Ray Tube)や液晶ディスプレイ等である。記憶装置123は、データ収集装置107で収集したデータ及び画像演算装置122で作成されたCT画像の画像データを記憶する装置であり、具体的にはHDD(Hard Disk Drive)等である。システム制御装置124は、これらの装置及びガントリ制御装置108と寝台制御装置109とX線制御装置110を制御する装置である。
【0016】
入力装置121から入力された撮影条件、特にX線管電圧やX線管電流などに基づきX線制御装置110がX線管装置101に入力される電力を制御することにより、X線管装置101は撮影条件に応じたX線を被検体に照射する。X線検出器106は、X線管装置101から照射され被検体を透過したX線を多数のX線検出素子で検出し、透過X線の分布を計測する。回転円盤102はガントリ制御装置108により制御され、入力装置121から入力された撮影条件、特に回転速度などに基づいて回転する。寝台105は寝台制御装置109によって制御され、入力装置121から入力された撮影条件、特にらせんピッチなどに基づいて動作する。
【0017】
X線管装置101からのX線照射とX線検出器106による透過X線分布の計測が回転円盤102の回転とともに繰り返されることにより、様々な角度からの投影データが取得される。取得された様々な角度からの投影データは画像演算装置122に送信される。画像演算装置122は送信された様々な角度からの投影データを逆投影処理することによりCT画像を再構成する。再構成して得られたCT画像は表示装置125に表示される。
【0018】
回転円盤102の開口部104の大きさ及びスキャンガントリ部100の厚さによっては、被検体に圧迫感を与えることがあるので、開口部104は大きく、スキャンガントリ部100は薄いことが望ましい。開口部104の大きさ及びスキャンガントリ部100の厚さは、回転円盤102の搭載物の大きさに依存するので、搭載物の一つであるX線管装置101はより小型であることが好ましい。
【0019】
図2を用いて、X線管装置101の構成について説明する。X線管装置101は、X線を発生するX線管210と、X線管210を収納する容器220とを備える。
【0020】
X線管210は、電子線を発生する陰極211と、陰極211に対し正の電位が印加される陽極212と、陰極211と陽極212を真空雰囲気中に保持する外囲器213とを備える。
【0021】
陰極211はフィラメントもしくは冷陰極と、集束電極とを備える。フィラメントはタングステンなどの高融点材料をコイル状に巻いたものであり、電流が流されることにより加熱され、熱電子を放出する。冷陰極はニッケルやモリブデンなどの金属材料を鋭利に尖らせてなるもので、陰極表面に電界が集中することで電界放出により電子を放出する。集束電極は、放出された電子を陽極212上のX線焦点へ向けて集束させるための集束電界を形成する。フィラメントもしくは冷陰極と、集束電極とは同電位である。
【0022】
陽極212はターゲットと陽極母材とを備える。ターゲットはタングステンなどの高融点で原子番号の大きい材質で構成される。ターゲット上のX線焦点に陰極211から放出された電子が衝突することにより、X線焦点からX線217が放射される。陽極母材はターゲットを保持し、銅などの熱伝導率の高い材質からなる。ターゲットと陽極母材とは同電位である。
【0023】
外囲器213は陰極211と陽極212の間を電気的に絶縁するために、陰極211と陽極212を真空雰囲気中に保持する。外囲器213にはX線217をX線管210外へ放射するための放射窓218が備えられる。放射窓218は、X線透過率が高いベリリウムなどの原子番号の小さい材質で構成される。放射窓218は後述する容器220にも備えられる。外囲器213の電位は接地電位である。
【0024】
陰極211から放出された電子は、陰極と陽極との間に印加される電圧により加速され電子線216となる。電子線216が集束電界により集束されてターゲット上のX線焦点に衝突すると、X線焦点からX線217が発生する。発生するX線のエネルギーは、陰極と陽極との間に印加される電圧、いわゆる管電圧によって決まる。発生するX線の線量は、陰極から放出される電子の量いわゆる管電流と、管電圧によって決まる。
【0025】
電子線216のエネルギーの内、X線に変換される割合は1%程度に過ぎず、残りのほとんどのエネルギーは熱となる。医療用のX線CT装置1に搭載されるX線管装置101では、管電圧は百数十kV、管電流は数百mAであるので、陽極212は数十kWの熱量で加熱される。このような加熱により陽極212が過熱溶融することを防止するため、陽極212は回転体支持機構215に接続されており、回転体支持機構215の駆動により、
図2中の1点鎖線219を回転軸として回転する。回転体支持機構215は、励磁コイル214が発生した磁界を回転駆動力として駆動する。陽極212を回転させることで、電子線216が衝突する部分であるX線焦点が常に移動するので、X線焦点の温度をターゲットの融点より低く保つことができ、陽極212が過熱溶融することを防止できる。
【0026】
X線管210と励磁コイル214とは、容器220の中に収納される。容器220の中には、冷却媒体である冷却水もしくはX線管210を電気的に絶縁するとともに冷却媒体となる絶縁油が充填される。容器220内に充填された冷却水もしくは絶縁油は、X線管装置101の容器220に接続された配管を通じて冷却器に導かれ、冷却器にて熱を放散した後、配管を通じて容器220内に戻される。
【0027】
X線焦点で発生した熱により陽極212は平均温度1000℃程度となる。発生した熱の大半は陽極212の表面から輻射により外囲器213へ放熱され、残りの熱は熱伝導により回転体支持機構215を通じて外囲器213へ流れる。回転体支持機構215へ流れた熱は様々な弊害の原因となるので、回転体支持機構215における熱対策を講じる必要がある。
【0028】
図3を用いて、陽極212に接続される回転体支持機構215について詳細に説明する。
図3は陽極212周辺の構造を示す図である。回転体支持機構215は、陽極212が陰極211と対向する面の裏側に接続され、固定部300と、陽極側玉軸受8と、端部側玉軸受9と、回転軸部7と、回転円筒部301と、を備えている。
【0029】
固定部300は、円筒形状を有しており、一端が外囲器213に支持される。固定部300の内面には陽極側玉軸受8と端部側玉軸受9とが保持される。
【0030】
陽極側玉軸受8と端部側玉軸受9とは、回転軸部7を固定部300に対して回転可能に支持するものであって、いわゆる転がり軸受である。陽極側玉軸受8と端部側玉軸受9との詳細については後述する。
【0031】
回転軸部7は、円柱形状を有しており、固定部300の内側に配置される。回転軸部7には回転円筒部301が接続され、回転円筒部301には陽極212が接続される。回転円筒部301と回転軸部7との間には、伝熱量を抑制するために熱伝導率の低い金属、例えばステンレス鋼を介在させても良い。
【0032】
回転円筒部301は円筒形状を有しており、回転円筒部301の内側には固定部300及び回転軸部7が配置される。回転円筒部301は、励磁コイル214が発生した磁界を受けることにより、1点鎖線219を回転軸として回転する。回転円筒部301の回転に伴い、回転円筒部301に接続される陽極212と回転軸部7も1点鎖線219を回転軸として回転する。以降の説明では、陽極212の回転軸を、符号219を用いて回転軸219と呼ぶ。
【0033】
図4を用いて、陽極側玉軸受8と端部側玉軸受9について詳細に説明する。陽極側玉軸受8は、回転軸方向において陽極212に近い側に配置され、陽極側内輪軌道溝8cと陽極側外輪軌道溝8aと陽極側玉82とを有する。端部側玉軸受9は、回転軸方向において陽極212から遠い側に配置され、陽極側玉軸受8と同様に、端部側内輪軌道溝9cと端部側外輪軌道溝9aと端部側玉92とを有する。陽極側玉軸受8と端部側玉軸受9とはインテグラル型の玉軸受であっても良い。
【0034】
陽極側内輪軌道溝8cと端部側内輪軌道溝9cは、回転軸部7の外周に形成された溝である。回転軸219と平行であって回転軸219を含む断面において、陽極側内輪軌道溝8cと端部側内輪軌道溝9cとは円弧形状を有する。
【0035】
陽極側外輪軌道溝8aと端部側外輪軌道溝9aは、円環形状を有する陽極側外輪81と端部側外輪91との内周面にそれぞれ形成される溝である。回転軸219と平行であって回転軸219を含む断面において、陽極側外輪軌道溝8aと端部側外輪軌道溝9aとは円弧形状を有する。
【0036】
陽極側外輪81と端部側外輪91は、回転軸部7と同心であって、陽極側内輪軌道溝8cと陽極側外輪軌道溝8aとが対向するように、また端部側内輪軌道溝9cと端部側外輪軌道溝9aとが対向するように、固定部300の内周面に配置される。陽極側外輪81と端部側外輪91とは、円筒型の間座11と断面がC型形状を有するCスペーサ12とによって、回転軸219方向に所定の間隔で配置される。
【0037】
陽極側玉82及び端部側玉92は球形状を有している。陽極側玉82は陽極側内輪軌道溝8cと陽極側外輪軌道溝8aとの間に、端部側玉92は端部側内輪軌道溝9cと端部側外輪軌道溝9aとの間に、回転軸219を中心とする円周方向にそれぞれ複数配置される。陽極側玉82の半径は陽極側内輪軌道溝8c及び陽極側外輪軌道溝8aの曲率半径よりも小さく設定され、端部側玉92の半径は端部側内輪軌道溝9c及び端部側外輪軌道溝9aの曲率半径よりも小さく設定される。
【0038】
陽極側内輪軌道溝8cと陽極側外輪軌道溝8aとの間で陽極側玉82が、また端部側内輪軌道溝9cと端部側外輪軌道溝9aとの間で端部側玉92がそれぞれ転動することで、回転軸部7が陽極側外輪81及び端部側外輪91に対して回転可能に支持される。すなわち、陽極側玉82と端部側玉92が転動体であり、陽極側内輪軌道溝8cと陽極側外輪軌道溝8aと端部側内輪軌道溝9cと端部側外輪軌道溝9aが軌道面であり、軌道面に転動体が接する。
【0039】
陽極側玉82及び端部側玉9が陽極側内輪軌道溝8c及び陽極側外輪軌道溝8aとの導電性を保ちつつ、真空雰囲気において円滑に転動可能とするために、陽極側玉82及び端部側玉92の表面、あるいは陽極側内輪軌道溝8cと陽極側外輪軌道溝8aと端部側内輪軌道溝9cと端部側外輪軌道溝9aの表面には、金属性の潤滑膜が形成される。金属性の潤滑膜に関しては、後で詳細に説明する。
【0040】
陽極側玉軸受8と端部側玉軸受9の組み立ての際には、回転軸部7の外周に形成された陽極側内輪軌道溝8c及び端部側内輪軌道溝9cに、陽極側玉82と陽極側外輪81及び端部側玉92と端部側外輪91を対向させ、陽極側外輪81と端部側外輪91との間に間座11を配置して組み付ける。その後、間座11と端部側外輪91との間にCスペーサ12が挿入される。
【0041】
X線管装置101が通常稼動するとき、すなわち、X線が照射されるとき、陽極側玉軸受8及び端部側玉軸受9は300℃程度の温度に達する。そこで、X線管装置101を製造する過程では、陽極側玉軸受8及び端部側玉軸受9の温度を通常稼動時よりも高温、例えば400℃以上にしながら、陽極212を回転させ、管内表面の吸蔵ガスを放出させなが真空排気をする。このような工程を実施することにより、X線管装置101が通常稼動するときのガス放出を防止し、その結果管内放電を抑制できる。
【0042】
(第1の実施形態)
図5を用いて、金属性の潤滑膜の第1の実施形態について詳細に説明する。なお、金属製の潤滑膜は、陽極側玉82及び端部側玉92の表面、あるいは陽極側内輪軌道溝8cと陽極側外輪軌道溝8aと端部側内輪軌道溝9cと端部側外輪軌道溝9aの表面の少なくとも一方に形成されるが、ここでは陽極側玉82及び端部側玉92の表面に形成された場合について説明する。
【0043】
図5は、金属製の潤滑膜が表面に形成された陽極側玉82または端部側玉92の断面図である。陽極側玉82または端部側玉92は、球形状を有する母材500と、母材500の上に形成される最下層膜501と、最下層膜501より上方に形成される中間層膜502と、中間層膜502より上方に形成される最上層膜503とを備えている。以下、各部について説明する。なお、陽極側内輪軌道溝8c等の表面に金属製の潤滑膜が形成される場合は、母材500の形状は異なるが、他の構成は同じである。
【0044】
母材500には、陽極212が回転するときに発生する荷重に十分耐えられるように、例えば高速度工具鋼(SKH材:Steel Kougu High-speed)が用いられる。高速度工具鋼は主成分がFeである。陽極212が回転するときに発生する荷重に十分耐えられるのであれば、母材500の材質は高速度工具鋼でなくても良いが、多くの場合、Feが主成分となる。
【0045】
最下層膜501には、母材500と中間層膜502とのバインダーとして、例えばNiが用いられる。Niは、Fe及びAgの両方と反応するため、両者をつなぎ合わせるバインダーの役割をはたす。最下層膜501としてのNiは、母材500と中間層膜502とのバインダーとして存在すれば良く、その膜厚は0.05〜0.1μm程度あれば良い。
【0046】
中間層膜502には、400℃以上においても十分な潤滑機能を維持できるように、例えばAgが用いられる。Agは融点が962℃であり、陽極側玉軸受8及び端部側玉軸受9の温度が400℃以上となったときでも溶解しないので、母体500を潤滑面に露出させずにすみ、十分な潤滑機能が維持される。なお、Agは高速度工具鋼の主成分であるFeと固溶しないので、母材500がFeを主成分とする場合に、母材500の表面にAg膜を直接形成するとAg膜が剥がれ易く、十分な潤滑機能を維持できない。本実施形態では、最下層501にNiを用いることにより、Ag膜の剥がれを防止できるので、陽極側玉軸受8及び端部側玉軸受9の温度が400℃以上となったときでも十分な潤滑機能を維持できる。中間層膜502としてのAgは、陽極側玉軸受8及び端部側玉軸受9の温度が400℃以上となったときに潤滑機能を維持できれば良く、その膜厚は0.05〜0.1μm程度あれば良い。
【0047】
最上層膜503には、300℃以下において潤滑機能を維持できるように、例えばPb が用いられる。Pbは融点が327℃であり、通常稼動時の陽極側玉軸受8及び端部側玉軸受9の温度が300℃程度であっても溶解せずに潤滑面上に存在するので、十分な潤滑機能が維持される。なお、X線管装置101を製造する過程で、陽極側玉軸受8及び端部側玉軸受9の温度が400℃以上となったときには、Pbの一部が溶融し潤滑面から剥がれるが、中間層膜502であるAg膜が母材500の表面を覆ったままでいるので、十分な潤滑機能が維持される。最上層膜503としてのPbは、陽極側玉軸受8及び端部側玉軸受9の温度が300℃程度のときに潤滑機能を維持でき、400℃以上のときに溶融したとしても一部が潤滑面に残れば良く、その膜厚は0.1〜0.2μm程度あれば良い。
【0048】
以上、述べたように本実施形態では、陽極側玉82及び端部側玉92の表面、あるいは陽極側内輪軌道溝8cと陽極側外輪軌道溝8aと端部側内輪軌道溝9cと端部側外輪軌道溝9aの表面の少なくとも一方に、最下層膜としてNi膜、前記Ni膜の上層膜としてAg膜、前記Ag膜の上層膜としてPb膜を有する多層潤滑膜を形成する。このような構成により、陽極の回転軸が400℃以上に達しても、玉軸受の潤滑機能の低下を抑制できる。
【0049】
(第2の実施形態)
図6を用いて、金属性の潤滑膜の第2の実施形態について詳細に説明する。第1の実施形態では金属性の潤滑膜が最下層膜501のNi膜、中間層膜502のAg膜、最上層膜503のPb膜の3層であったのに対し、本実施形態では最上層膜503が第1最上層膜503aと第2最上層膜503bとで形成される。本実施形態の他の構成は第1の実施形態と同様であるので、以降の説明では第1最上層膜503aと第2最上層膜503bについて詳説する。
【0050】
図6は、
図5と同様に、金属製の潤滑膜が表面に形成された陽極側玉82または端部側玉92の断面図である。本実施形態では、第1実施形態と同様に母材500と最下層膜501と中間層膜502とを備え、中間層膜502より上方に形成される第1最上層膜503aと、第1最上層膜503aより上方に形成される第2最上層膜503bとをさらに備える。
【0051】
第2最上層膜503bには、300℃以下において潤滑機能を維持できるように、例えばPb が用いられる。第2最上層膜503bにPbが用いられる理由は、第1の実施形態と同様である。
【0052】
第1最上層膜503aには、Fe及びPbと反応しやすい材質として、例えばSn が用いられる。Snは、潤滑膜が接する対向面の主成分であるFeと反応しやすくPbと合金化しやすいので、第2最上層膜503bであるPb膜が対向面に転着され、結果として十分な潤滑機能が維持されることになる。すなわち、陽極側玉82及び端部側玉92の表面に
図6に示したような金属製の潤滑膜が形成された場合は、潤滑膜の対向面である陽極側内輪軌道溝8c等の表面に、潤滑面から剥がれたPbが第1最上層膜503aであるSnをバインダーとして転着される。もちろん、金属製の潤滑膜が陽極側内輪軌道溝8c等の表面に形成された場合は、陽極側玉82及び端部側玉92の表面にPbがSnをバインダーとして転着される。
【0053】
なお、PbとSnの合金はSnの含有量が増えるにつれ融点が低くなるので、第1最上層膜503aとしてのSnは、第2最上層膜503bのPbより少量とするのが好ましく、例えばPbの膜厚が0.1〜0.2μm程度であれば、Snの膜厚は0.01〜0.03μm程度で良い。
【0054】
以上、述べたように本実施形態では、陽極側玉82及び端部側玉92の表面、あるいは陽極側内輪軌道溝8cと陽極側外輪軌道溝8aと端部側内輪軌道溝9cと端部側外輪軌道溝9aの表面の少なくとも一方に、最下層膜としてNi膜、前記Ni膜の上層膜としてAg膜、前記Ag膜の上層膜としてSn膜、前記Sn膜の上層膜としてPb膜を有する多層潤滑膜を形成する。このような構成により、陽極の回転軸が400℃以上に達しても、玉軸受の潤滑機能の低下を抑制できる。
【0055】
(第3の実施形態)
図7を用いて、金属性の潤滑膜の第3の実施形態について詳細に説明する。第1の実施形態では金属性の潤滑膜が最下層膜501のNi膜、中間層膜502のAg膜、最上層膜503のPb膜の3層であったのに対し、本実施形態では中間層膜502が第1中間層膜502aと第2中間層膜502bとで形成される。本実施形態の他の構成は第1の実施形態と同様であるので、以降の説明では第1中間層膜502aと第2中間層膜502bについて詳説する。
【0056】
図7は、
図5と同様に、金属製の潤滑膜が表面に形成された陽極側玉82または端部側玉92の断面図である。本実施形態では、第1実施形態と同様に母材500と最下層膜501と最上層膜503とを備え、最下層膜501より上方に形成される第1中間層膜502a と、第1中間層膜502aより上方に形成される第2中間層膜502bとをさらに備える。
【0057】
第2中間層膜502bには、400℃以上においても十分な潤滑機能を維持できるように、例えばAgが用いられる。第2中間層膜502bにAgが用いられる理由は、第1の実施形態と同様である。
【0058】
第1中間層膜502aには、NiとAgの密着性を向上させる材質として、例えばCu が用いられる。Cuは、Niと反応しやすくAgと合金化しやすいので、NiとAgの密着性を向上させ、第2中間層膜502bであるAgの剥がれを抑制する。すなわち、陽極側玉軸受8及び端部側玉軸受9の温度がより高温になったり、陽極212が回転するときに発生する荷重がより大きくなったりした場合でも、Agの剥がれが抑制されるので十分な潤滑機能を維持できる。なお第1中間層膜502aとしてのCuは、NiとAgとの密着性を向上させる材質として存在すれば良く、その膜厚は0.05〜0.1μm程度で良い。
【0059】
以上、述べたように本実施形態では、陽極側玉82及び端部側玉92の表面、あるいは陽極側内輪軌道溝8cと陽極側外輪軌道溝8aと端部側内輪軌道溝9cと端部側外輪軌道溝9aの表面の少なくとも一方に、最下層膜としてNi膜、前記Ni膜の上層膜としてCu膜、前記Cu膜の上層膜としてAg膜、前記Ag膜の上層膜としてPb膜を有する多層潤滑膜を形成する。このような構成により、陽極の回転軸が400℃以上に達しても、玉軸受の潤滑機能の低下を抑制できる。
【0060】
本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、陽極側玉軸受8及び端部側玉軸受9に同じ構成の潤滑膜を形成した場合について説明したが、陽極側玉軸受8と端部側玉軸受9に異なる構成の潤滑膜を形成しても良い。すなわち、端部側玉軸受9に比べ陽極側玉軸受8の温度がより高温になることを考慮し、陽極側玉軸受8に第2の実施形態もしくは第3の実施形態を用い、端部側玉軸受9に第1の実施形態を用いても良い。
【0061】
また、本発明は前記実施形態を適宜組み合わせて用いても良い。例えば、第2の実施形態と第3の実施形態を組み合せ、NiとCuとAgとSnとPbとの5層からなる潤滑膜を用いても良い。