(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
癌は、身体の一部の細胞が制御不能な増殖を経験する、最も生命を脅かす疾患のうちの1つである。アメリカ癌協会からの最新のデータによれば、癌は、米国における第2位の(心疾患に次いで第2位の)死因であり、2009年には550,000名の命が奪われた。実際に、米国に居住している全男性のうちの50%および全女性のうちの33%が、その生涯においていくつかの型の癌を発症すると推定される。したがって、癌は、米国において大きい健康保険負担となっており、かなりのコストに相当する。数十年にわたって、外科手術、化学療法および放射線が、種々の癌のための確立された治療であった。患者は、通常、自身の疾患の型および程度に応じて、これらの治療の組合せを受ける。しかし、化学療法は、外科治療が不可能である場合の、癌患者にとって最も重要な選択肢である。
【0003】
ナイトロジェンマスタードは、一種の古典的なDNAアルキル化剤であり、癌の治療に合理的に適用された最初の化学療法剤の1つであった。メクロレタミンは、マスタードガスの類似体であり、第二次世界大戦中の化学兵器研究から得られ、60年間にわたって癌の化学療法において使用されてきた。ナイトロジェンマスタードは、一般に、細胞内に存在する条件下でDNAの付加体またはDNA鎖間の架橋を形成することによって細胞毒性活性を発揮し、細胞の生殖周期に直接干渉する。以下は、よく知られたいくつかのナイトロジェンマスタードの構造である。
【0004】
【化1】
【0005】
メルファランは、多発性骨髄腫の治療に承認されているよく知られたDNAアルキル化ナイトロジェンマスタードである(Musto P,ら、Expert Opin Investig Drugs.2007、16(9):1467〜87)。メルファランは、プレドニゾンと組み合わせて(MP)、自己幹細胞移植に適さない高齢の多発性骨髄腫患者のための第一選択の標準療法として数十年間にわたって使用されてきた。現在、MPは、依然として、MP-サリドマイド(MPT)、MP-レナリドマイド(MPR)およびMP-ボルテゾミブ(MPV)などの新しい第一選択のMM化学療法レジメンを支えている。さらに、自己幹細胞移植のための前処置レジメンとしてのメルファランの単独使用は、多発性骨髄腫治療のための「ケアの標準」と考えられている。今日について言えば、メルファランは、多発性骨髄腫、白血病、リンパ腫、MDS、卵巣癌、乳癌および脳腫瘍などの種々の癌適応症に関する臨床試験196件が進行中である。
【0006】
ベンダムスチンは、1963年に最初に合成され、アルキル化ナイトロジェンマスタード部分と、示唆されたプリン-類似体効果を有するプリン様ベンゾイミダゾール部分とからなる(Barman Balfour JA,ら、Drugs 2001;61:631〜640)。ベンダムスチンは、低悪性度のリンパ腫(Herold M,ら、Blood、1999;94、Suppl 1:262a)、多発性骨髄腫(Poenisch W,ら、Blood 2000;96、Suppl 1:759a)およびいくつかの固形腫瘍(Kollmannsberger C,ら、Anticancer Drugs 2000;11:535〜539)に対してかなりの活性を有することが示されている。ベンダムスチンは、リンパ腫細胞において効果的にアポトーシスを誘導することも報告された(Chow KU,ら、Haematologica、2001;86:485〜493)。2008年3月に、FDAは、慢性リンパ性白血病(CLL)の治療のためのベンダムスチンの販売を承認した。2008年10月に、FDAは、リツキシマブまたはリツキシマブを含有するレジメンを用いた治療中または治療の6カ月以内に進行した無痛性B細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療のためのベンダムスチンの販売をさらに承認した。現在、ベンダムスチンは、白血病、リンパ腫、小細胞肺癌、多発性骨髄腫、MDS、卵巣癌、乳癌および脳腫瘍などの種々の癌適応症に関する臨床試験が進行中である。
【0007】
ナイトロジェンマスタードのシクロホスファミドは依然として、現代の癌療法において最も奏効する、広範に利用されている抗悪性腫瘍薬のうちの1つである(Emadi A,ら、Nat Rev Clin Oncol.2009 Nov;6(11):638〜47)。シクロホスファミドは、酵素的および化学的な活性化を必要とする不活性なプロドラッグであり、結果として得られるナイトロジェンマスタードは、その細胞毒性の主因となる鎖間及び鎖内のDNA架橋を生じる。FCR、FCE、ACおよびR-CHOPなどのシクロホスファミドに基づく化学療法レジメンは依然として、乳癌、リンパ腫、CLL、卵巣癌および軟部組織肉腫のための第一選択治療の基礎をなす。
【0008】
従来のDNAアルキル化ナイトロジェンマスタードは、癌治療に多大な貢献をしてきたが、大きな制限がある。言うまでもなく、従来のDNAアルキル化ナイトロジェンマスタードは、DNAを損傷し、その結果、細胞のDNA損傷応答経路が活性化されて、細胞周期の進行が阻止され、アポトーシスが誘導され、DNA損傷が修復される。しかし、従来のナイトロジェンマスタードで治療された癌細胞は、細胞周期停止およびアポトーシスから容易に逃れる場合もあるし、DNA損傷を効率的に修復する場合もあり、薬剤耐性の急速な獲得および治療の失敗をもたらす。したがって、この当技術分野において、著しく向上した抗癌活性を有する新世代のナイトロジェンマスタードを絶えず探索することは急務である。
【0009】
近年では、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)が、癌治療のための重要な疾患標的として最近浮かび上がってきている(Marcos Malumbresら、Nat Rev Cancer.2009 Mar;9(3):153〜66;Silvia Lapenna,ら、Nat Rev Drug Discovery、2009 Jul;8(7):547〜66)。CDKは、細胞周期進行およびRNA転写を含む、鍵となる細胞プロセスを制御するセリン/スレオニンキナーゼのファミリーである(Shapiro GI.J Clin Oncol.2006 Apr 10;24(11):1770〜83)。調節性サイクリンユニットとヘテロ二量体化されたCDKは一般に、それらの機能に基づいて2つのグループに分類できる。第1のグループは、コア細胞周期の構成要素からなり、細胞周期移行および細胞分裂を管理する:G1->S移行を制御するサイクリンD-依存性キナーゼ4/6およびサイクリンE依存性キナーゼ2;S期進行の決定的な制御因子であるサイクリンA-依存性キナーゼ1/2;G2->M移行に必要とされるサイクリンB-依存性CDK1;ならびにCDK活性化キナーゼであるサイクリンH/CDK7。第2のグループ、いわゆる転写CDKとしては、RNAポリメラーゼIIのC末端ドメイン(CTD)をリン酸化して転写の開始および伸長を促進する、サイクリンH/CDK7およびサイクリンT/CDK9が挙げられる。
【0010】
CDK活性の調節解除は、実質的にすべての型のヒトの癌において検出されており、サイクリンの過剰発現およびCDK阻害剤の発現欠失によることが最も多い(de Career Gら、Curr Med Chem.2007;14(9):969〜85)。CDK4/6の阻害は、インビトロでの強力なG1期停止およびインビボでの腫瘍退縮を誘導することが示されている(Lukas Jら、Nature.1995 Jun 8;375(6531):503〜6;Schreiber Mら、Oncogene.1999 Mar 4;18(9):1663〜76;Fry DWら、Mol Cancer Ther.2004 Nov;3(1 1):1427〜38)。CDK2/1を標的とすることを目的とした種々のアプローチが、S期停止およびG2期停止、次いでアポトーシスを誘導することが報告されている(Chen YNら、Proc Natl Acad Sci U S A.1999 Apr 13;96(8):4325〜9;Chen Wら、Cancer Res.2004 Jun 1;64(11):3949〜57;Mendoza Nら、Cancer Res.2003 Mar 1;63(5):1020〜4)。転写CDK7および9の阻害は、抗アポトーシスのファミリーのメンバー、細胞周期制御因子、ならびにp53およびNF-κB応答性遺伝子標的をコードしている転写産物の蓄積に影響を及ぼしうる(Lam LTら、Genome Biol.2001;2(10):RESEARCH0041)。これらのすべての作用は、アポトーシスの誘導およびさらに、多数の癌細胞型における種々の経路の破壊によって媒介される細胞毒性の増強にも寄与している(Chen Rら、Blood.2005 Oct 1;106(7):2513〜9;Pepper Cら。Leuk Lymphoma.2003 Feb;44(2):337〜42)。したがって、CDKは、癌細胞において特異的に結合してサイクリン依存性キナーゼ活性およびそのシグナル伝達経路を阻害することができる、したがって、治療剤として役立ちうる、化合物の設計および開発のための魅力的な標的として認識されている。今日の時点で、現在、癌の治療に関する臨床試験中のCDk阻害剤(例えば、AT-7519、AZD5438、フラボピリドール、P1446A-05、P276-00、CYC202、SCH727965、BAY1000394、LEE011など)のリストがある。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書中に記載する例示的な化合物としては、以下が挙げられるが、これらに限定するものではない:
【0033】
本発明の化合物は、1個または複数の不斉炭素原子を含有していてもよい。したがって、化合物は、ジアステレオマー、エナンチオマーまたはこれらの混合物として存在してもよい。化合物の合成は、出発原料としてまたは中間体としてラセミ体、ジアステレオマーまたはエナンチオマーを用いてもよい。ジアステレオマー化合物は、クロマトグラフィーまたは結晶化の方法によって分離しうる。同様に、エナンチオマーの混合物は、同一の技術または当技術分野において知られている他の技術を使用して分離しうる。不斉炭素原子のそれぞれは、RまたはSの立体配置であることができ、これらの立体配置はいずれも本発明の範囲内である。
【0034】
本発明の化合物が、インビボで本発明の化合物に変換される塩、溶媒和物およびプロドラッグの形態で存在しうること、および場合によっては投与しうることは理解されるべきである。例えば、本発明の化合物を、当技術分野においてよく知られている手順によって種々の有機および無機の酸および塩基から導かれる薬学的に許容されるそれらの塩の形態に変換して使用することは、本発明の範囲内である。本発明による化合物のプロドラッグ誘導体は、その後にインビボで異なる置換基に変換される本発明の化合物の置換基を改変することによって調製しうる。多くの場合、プロドラッグそれ自体も、本発明による化合物の範囲内に入ることに留意する。例えば、プロドラッグは、化合物をカルバミル化剤(例えば、1,1-アシルオキシアルキルカルバノクロリデート、パラ-ニトロフェニル炭酸塩など)またはアシル化剤と反応させることによって調製しうる。プロドラッグを作製する方法のさらなる例は、Saulnierら(1994)、Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters、第4巻、1985頁に記載されている。
【0035】
本発明は、本発明の化合物のあらゆる固体または液体の物理的形態を含む医薬組成物をさらに包含する。例えば、化合物は、結晶形態、非晶質形態にあってもよく、あらゆる粒径を有しうる。粒子は、微粒子化または凝集された、粒状顆粒、粉末、油、油性懸濁液または他のあらゆる固体もしくは液体の物理的形態であってもよい。
【0036】
本発明による化合物の溶解性が不十分である場合には、化合物を可溶化するための方法を使用してもよい。こうした方法は、当業者に知られており、pH調整および塩形成、例えばエタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)300、PEG400、DMA(10〜30%)、DMSO(10〜20%)、NMP(10〜20%)などの共溶媒の使用、例えばポリソルベート80、ポリソルベート20(1〜10%)、クレモホアEL、クレモホアRH40、クレモホアRH60(5〜10%)、プルロニックF68/ポロキサマー188(20〜50%)、ソルトールHS15(20〜50%)、ビタミンE TPGSおよびd-α-トコフェリルPEG1000コハク酸塩(20〜50%)などの界面活性剤の使用、例えばHPβCDおよびSBEβCD(10〜40%)などの錯体化の使用、ならびに、例えばミセル、ポリマーの添加、ナノ粒子懸濁液およびリポソーム形成などの先端の方法の使用が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0037】
さまざまな組成物を、本発明の化合物と併せて使用しうる。こうした組成物は、本発明の化合物に加えて、医薬添加剤および他の従来の薬学的に不活性な作用剤を含んでいてもよい。さらに、組成物は、本発明の化合物に加えて、活性剤を含んでいてもよい。これらのさらなる活性剤は、本発明によるさらなる化合物または1種もしくは複数の他の薬学的に活性な作用剤を含みうる。
【0038】
さらに、本発明の組成物は、放出制御製剤または即時放出製剤の形態であってもよい。
【0039】
さまざまな投与方法を、本発明の化合物と併せて使用しうる。本発明の化合物を含む組成物は、経口的に、非経口的に、腹膜内に、静脈内に、動脈内に、経皮的に、舌下的に、筋肉内に、直腸内に、経頬的に、鼻腔内に、リポソームに、吸入により、経膣的に、眼内に、局所送達により(例えば、カテーテルまたはステントによって)、皮下に、脂肪内に(intraadiposally)、関節内にまたはくも膜下腔内に投与または共投与しうる。本発明による化合物および/または組成物は、徐放性の剤形で投与または共投与してもよい。組成物は、使用される投与経路に好適な方法で製剤化された、気体、液体、半液体または固体の形態にあってもよい。経口投与の場合、好適な固形経口製剤としては、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、ペレット剤、分包剤および発泡剤、散剤などが挙げられる。好適な液体経口製剤としては、液剤、懸濁剤、分散製剤(dispersion)、乳剤、油などが挙げられる。非経口投与の場合、凍結乾燥された散剤の再構成が典型的に使用される。
【0040】
「併用療法」は、他の生物学的に活性な成分(例えば、これらに限定するものではないが、異なる第2選択の抗悪性腫瘍剤)および非薬物療法(例えば、これらに限定するものではないが、外科治療または放射線治療)とさらに組み合わせた、本発明の化合物の投与を含む。例えば、本発明の化合物は、他の薬学的に活性な化合物、好ましくは本発明の化合物の効果を増強することができる化合物と組み合わせて使用しうる。本発明の化合物は、他の薬物療法と同時に(単一調製物または別々の調製物として)または続いて投与しうる。一般に、併用療法は、療法の単一のサイクルまたはコースの間に2種以上の薬物を投与することを想定する。
【0041】
特定の好ましい実施形態において、本発明の化合物は、化学療法剤と組み合わせて投与する。化学療法剤は、腫瘍学の分野における広範囲の治療的処置を包含する。これらの作用剤は、腫瘍を縮小させること、外科手術後に残された残存癌細胞を破壊すること、寛解を誘導すること、寛解を維持することおよび/または癌もしくはその治療に関連する症状を軽減させることを目的として、疾患の種々の病期において投与する。こうした作用剤の例としては、アルキル化剤、例えば、マスタードガス誘導体(メクロレタミン、シクロホスファミド(cyclophospamide)、クロラムブシル、メルファラン、トロホスファミド)、エチレンイミン(チオテパ、ヘキサメチルメラニン)、アルキルスルホネート(ブスルファン)、ヒドラジンおよびトリアジン(アルトレタミン、プロカルバジン、ダカルバジンおよびテモゾロミド)、ニトロソウレア(Nitrosurea)(カルムスチン、ロムスチンおよびストレプトゾシン)、イホスファミドおよび金属塩(カルボプラチン、シスプラチンおよびオキサリプラチン);植物アルカロイド、例えば、ポドフィロトキシン(エトポシドおよびテニソピド)、タキサン(パクリタキセルおよびドセタキセル)、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチンおよびビノレルビン);抗腫瘍抗生物質、例えば、クロモマイシン(ダクチノマイシンおよびプリカマイシン)、アントラサイクリン(ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、ミトキサントロンおよびイダルビシン)、ならびにその他の抗生物質(例えばマイトマイシンおよびブレオマイシン);抗代謝薬、例えば、葉酸アンタゴニスト(メトトレキサート)、ピリミジンアンタゴニスト(5-フルオロウラシル、フロクスウリジン(Foxuridine)、シタラビン、カペシタビンおよびゲムシタビン)、プリンアンタゴニスト(6-メルカプトプリンおよび6-チオグアニン)およびアデノシンデアミナーゼ阻害剤(クラドリビン、フルダラビン、ネララビンおよびペントスタチン);トポイソメラーゼ阻害剤、例えば、トポイソメラーゼI阻害剤(イロノテカン、トポテカン)およびトポイソメラーゼII阻害剤(アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、テニポシド);モノクローナル抗体(アレムツズマブ、ゲムツズマブ オゾガマイシン、リツキシマブ、トラスツ
ズマブ、イブリツモマブ チウキセタン(Tioxetan));ならびに種々の抗悪性腫瘍薬、例えば、リボヌクレオチド還元酵素阻害剤(ヒドロキシウレア);副腎皮質ステロイド阻害剤(ミトタン);酵素(アスパラギナーゼおよびペグアスパラガーゼ);抗微小管剤(エストラムスチン);ならびにレチノイド(ベキサロテン、イソトレチノイン、トレチノイン(ATRA)が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0042】
特定の好ましい実施形態において、本発明の化合物は、標的化抗癌剤と組み合わせて投与する。標的化抗癌剤は、腫瘍学の分野における広範囲の治療的処置を包含する。こうした作用剤の例としては、チロシンキナーゼ、セリン(seronine)/スレオニンキナーゼ、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)、プロテアソームおよびヒートショックタンパク質(HSP)、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK/MEK)、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)、および哺乳動物のラパマイシン経路の標的-ホスファチジルイノシトール4,5-ビスホスフェート-AKT[PI3K-AKT(RAF、mTOR)]、マトリックスメタロプロテイナーゼ、ファルネシルトランスフェラーゼ、ならびにアポトーシスの活性を機能的に阻害できる化合物が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0043】
特定の好ましい実施形態において、本発明の化合物は、化学保護剤、免疫療法剤、ワクチンまたは抗体と組み合わせて投与する。化学保護剤は、身体を保護するまたは化学療法の副作用を最小限にする働きをする。こうした作用剤の例としては、アミフォスチン(amfostine)、メスナおよびデクスラゾキサンが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0044】
特定の好ましい実施形態において、本発明の化合物は、放射線療法と組み合わせて投与する。放射線は、一般的には、内部から(癌部位付近への放射性物質の埋め込み)または光子(x線またはガンマ線)もしくは粒子の照射を用いる装置から外部から送達される。併用療法が放射線治療をさらに含む場合、放射線治療は、治療剤と放射線治療との組合せの相互作用(co-action)により有益な効果が達成される限り、任意の好適な時点で行いうる。例えば、適切な場合には、一時的に放射線治療が治療剤の投与から除いても、おそらく数日またはさらに数週間、有益な効果が依然として達成される。
【0045】
本発明は、哺乳動物における新生物疾患の治療のための医薬組成物であって、式Iによって表される化合物または薬学的に許容されるその塩、水和物、溶媒和物、プロドラッグ、活性(antive)代謝物、対応するエナンチオマー、対応するラセミ体もしくは対応するジアステレオマーの治療有効量を含む医薬組成物にさらに関する。
【0046】
好ましい一実施形態において、前記新生物疾患は、肺癌、頭頸部癌、中枢神経系癌、前立腺癌、精巣癌、大腸癌、膵癌、肝癌、胃癌、胆道癌、食道癌、消化管間質腫瘍、乳癌、子宮頸癌、卵巣癌、子宮癌、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、黒色腫、基底細胞癌、扁平上皮癌、膀胱癌、腎癌、肉腫、中皮腫、胸腺腫、骨髄異形成症候群および骨髄増殖性疾患からなる群から選択される。
【0047】
免疫抑制が、ナイトロジェンマスタードなどの従来の化学療法剤の主な副作用の1つであることは、よく知られている。低用量において、化学療法剤は、多発性硬化症、関節リウマチおよび移植拒絶反応の抑制などの免疫疾患の治療に使用しうる。例えば、ナイトロジェンマスタードのシクロホスファミドは、きわめて強力な免疫抑制性剤であり(Emadi A,ら、Nat Rev Clin Oncol.2009 Nov;6(11):638〜47;Perini P,らNeurol Sci.2008 Sep;29 Suppl 2:S233〜4)、骨髄移植「前処置」および「動員」レジメンにおいて、ならびに難治性の重症の自己免疫状態、例えば、全身性紅斑性狼蒼(SLE)、微小変化群、重症の関節リウマチ、ウェゲナー肉芽腫症(商品名Cytoxanを用いる)、強皮症および多発性硬化症(商品名Revimmuneを用いる)の治療にも広範に使用される。さらに、CDK阻害剤は、新しいクラスの免疫抑制剤として浮かび上がってきている。例えば、CDK活性は、全身性紅斑性狼蒼の治療において有用な標的でありうることが見出された(Zoja C,らArthritis Rheum.2007 May;56(5):1629〜37)。T細胞およびB細胞におけるCDK阻害剤セリシクリブの直接的な免疫調節作用は、有益な効果の根底にある機序の1つでありうる。もう1つの論文(Sekine Cら、J Immunol.2008 Feb 1;180(3):1954〜61)では、小分子サイクリン依存性キナーゼ阻害剤による、関節リウマチの動物モデルの治療の成功が報告されている。したがって、式(I)によって表される二重機能性ナイトロジェンマスタード/CDK阻害剤を免疫疾患の治療に使用しうることを想像するのは難しくない。本発明はまた、哺乳動物における免疫疾患の治療のための医薬組成物であって、式Iの化合物または薬学的に許容されるその塩、水和物、溶媒和物、プロドラッグ、活性(antive)代謝物、対応するエナンチオマー、対応するラセミ体もしくは対応するジアステレオマーの治療有効量を含む医薬組成物に関する。
【0048】
好ましい一実施形態において、免疫疾患は、移植した臓器および組織の拒絶反応、移植片対宿主病、非自己免疫炎症性疾患および自己免疫疾患からなる群から選択され、ここで、前記自己免疫疾患は、急性散在性脳脊髄炎、アジソン病、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳疾患、水疱性類天疱瘡、セリアック病、シャーガス病、慢性閉塞性肺疾患、チャーグ-ストラウス症候群、皮膚筋炎、クローン病、1型糖尿病、子宮内膜症、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギラン-バレー症候群、橋本病、化膿性汗腺炎、特発性血小板減少性紫斑病、間質性膀胱炎、紅斑性狼蒼、斑状強皮症、多発性硬化症、重症筋無力症、ナルコレプシー、神経ミオトニー、尋常性天疱瘡、悪性貧血、多発性筋炎、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、関節リウマチ、統合失調症、強皮症、側頭動脈炎、血管炎、白斑およびウェゲナー肉芽腫症からなる群から選択される。
【0049】
本発は、本明細書中に示され記載される特定の実施形態に限定されず、特許請求の範囲によって定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなく種々の変更および改変をなしうることを理解すべきである。
【0050】
定義:
「アシル」とは、式-C(O)-R[式中、Rは、H、アルキル、炭素環、複素環、炭素環置換アルキルまたは複素環置換アルキル(アルキル、アルコキシ、炭素環および複素環は、本明細書中で定義されている通りである)である]によって表されるカルボニル含有置換基を意味する。アシル基としては、アルカノイル(例えば、アセチル)、アロイル(例えば、ベンゾイル)およびヘテロアロイルなどが挙げられる。
【0051】
「脂肪族」とは、構成炭素原子の直鎖または分枝鎖配置を特徴とする部分を意味し、飽和であっても、または1個もしくは複数の二重結合もしくは三重結合で部分的に不飽和であってもよい。
【0052】
「アルキル」という用語は、1〜20個の炭素原子(例えば、C
1〜C
10)を含有する直鎖または分枝炭化水素を指す。アルキルの例としては、メチル、メチレン、エチル、エチレン、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチルおよびt-ブチルなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。「アルケニル」という用語は、2〜20個の炭素原子(例えば、C
2〜C
10)および1個または複数の二重結合を含有する直鎖または分枝炭化水素を指す。アルケニルの例としては、エテニル、プロペニルおよびアリルなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。「アルキニル」という用語は、2〜20個の炭素原子(例えば、C
2〜C
10)および1個または複数の三重結合を含有する直鎖または分枝炭化水素を指す。アルキニルの例としては、エチニル、1-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニルおよび1-メチル-2-ブチニルなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。「アルキルアミノ」という用語は、-N(R)-アルキル[式中、Rは、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルケニル、アリールまたはヘテロアリールでありうる]を指す。「アルコキシ」とは、さらなるアルキル置換基を有する酸素部分を意味する。「アルコキシカルボニル」とは、カルボニル基に結合されたアルコキシ基を意味する。「オキソアルキル」とは、カルボニル基でさらに置換されたアルキルを意味する。このカルボニル基は、アルデヒド、ケトン、エステル、アミド、酸または酸塩化物であることができる。
【0053】
「シクロアルキル」という用語は、3〜30個の炭素原子(例えば、C
3〜C
12)を有する飽和炭化水素環系を指す。シクロアルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチルなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。「シクロアルケニル」という用語は、3〜30個の炭素(例えば、C
3〜C
12)および1個または複数の二重結合を有する非芳香族炭化水素環系を指す。例としては、シクロペンテニル、シクロヘキセニルおよびシクロヘプテニルなどが挙げられる。「ヘテロシクロアルキル」という用語は、1個または複数のヘテロ原子(例えば、O、N、S、PまたはSe)を有する、非芳香族の5〜8員の単環式、8〜12員の二環式または11〜14員の三環式環系を指す。ヘテロシクロアルキル基の例としては、ピペラジニル、ピロリジニル、ジオキサニル、モルホリニルおよびテトラヒドロフラニルなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。「ヘテロシクロアルケニル」という用語は、1個または複数のヘテロ原子(例えば、O、N、S、PまたはSe)および1個または複数の二重結合を有する、非芳香族の5〜8員の単環式、8〜12員の二環式または11〜14員の三環式環系を指す。
【0054】
「アリール」という用語は、6炭素単環式、10炭素二環式、14炭素三環式芳香環系を指す。アリール基の例としては、フェニル、ナフチルおよびアントラセニルなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。「ヘテロアリール」という用語は、1個または複数のヘテロ原子(例えば、O、N、S、PまたはSe)を有する、芳香族の5〜8員の単環式、8〜12員の二環式または11〜14員の三環式環系を指す。ヘテロアリール基の例としては、ピリジル、フリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ピリミジニル、チエニル、キノリニル、インドリルおよびチアゾリルなどが挙げられる。
【0055】
上述のアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルケニル、アルキルアミノ、アリールおよびヘテロアリールは、置換された部分および置換されていない部分の両方を含む。アルキルアミノ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルケニル、アリールおよびヘテロアリール上に可能な置換基としては、C
1-C
10アルキル、C
2-C
10アルケニル、C
2-C
10アルキニル、C
3-C
20シクロアルキル、C
3-C
20シクロアルケニル、C
1-C
20ヘテロシクロアルキル、C
1-C
20ヘテロシクロアルケニル、C
1-C
10アルコキシ、アリール、アリールオキシ、ヘテロアリール、ヘテロアリールオキシ、アミノ、C
1-C
10アルキルアミノ、アリールアミノ、ヒドロキシ、ハロ、オキソ(O=)、チオキソ(S=)、チオ、シリル、C
1-C
10アルキルチオ、アリールチオ、C
1-C
10アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アシルアミノ、アミノアシル、アミノチオアシル、アミジノ、メルカプト、アミド、チオウレイド、チオシアナト、スルホンアミド、グアニジン、ウレイド、シアノ、ニトロ、アシル、チオアシル、アシルオキシ、カルバミド、カルバミル、カルボキシルおよびカルボキシルエステルなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。他方では、アルキル、アルケニルまたはアルキニル上に可能な置換基としては、C
1-C
10アルキル以外の、上に挙げた置換基のすべてが挙げられる。シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルケニル、アリールおよびヘテロアリールは、互いに縮合されていてもよい。
【0056】
「アミノ」とは、2つのさらなる置換基を有する窒素部分を意味し、ここで、各置換基は、窒素にアルファ結合された水素原子または炭素原子を有する。特に示されない限り、アミノ部分を含有する本発明の化合物は、保護されたそれらの誘導体を含んでいてもよい。好適なアミノ部分の保護基としては、アセチル、tert-ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニルなどが挙げられる。
【0057】
「芳香族」とは、構成原子が不飽和環系を構成し、環系内の全原子がsp2混成であり、π電子の総数が4n+2に等しい部分を意味する。芳香環は、環原子が炭素原子のみであるようなものであってもよいし、または炭素原子および非炭素原子を含んでいてもよい(ヘテロアリールを参照されたい)。
【0058】
「カルバモイル」とは、基OC(O)NRaRb[式中、RaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子が窒素にアルファである2つのさらなる置換基である]を意味する。カルバモイル部分は、保護されたそれらの誘導体を含みうることに留意する。カルバモイル部分の好適な保護基の例としては、アセチル、tert-ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニルなどが挙げられる。保護されていない誘導体および保護された誘導体はいずれも本発明の範囲内に入ることに留意する。
【0059】
「カルボニル」とは、基C(O)-を意味する。カルボニル基は、種々の置換基でさらに置換されて、酸、酸ハロゲン化物、アミド、エステルおよびケトンを含む異なるカルボニル基を形成していてもよいことに留意する。
【0060】
「カルボキシ」とは、基C(O)O-を意味する。カルボキシ部分を含有する本発明の化合物は、保護されたそれらの誘導体、すなわち、酸素が保護基で置換されているものを含みうることに留意する。カルボキシ部分の好適な保護基としては、ベンジル、tert-ブチルなどが挙げられる。
【0062】
「ハロ」とは、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードを意味する。
【0063】
単離された基としてまたはより大きな基の部分として、「ハロ置換アルキル」とは、1個または複数の「ハロ」原子によって置換された「アルキル」を意味し、こうした用語は、本出願において定義されている通りである。ハロ置換アルキルとしては、ハロアルキル、ジハロアルキル、トリハロアルキル、ペルハロアルキルなどが挙げられる。
【0064】
「ヒドロキシ」とは、基OHを意味する。
【0065】
「イミン誘導体」とは、部分--C(NR)-- [式中、Rは、窒素に対してアルファである水素原子または炭素原子を含む]を含む誘導体を意味する。
【0066】
「異性体」とは、同一の分子式を有するが、それらの原子の結合の性質もしくは配列においてまたは空間内でのそれらの原子の配置が異なるあらゆる化合物を意味する。空間内でのそれらの原子の配置が異なる異性体は「立体異性体」と称する。互いに鏡像でない立体異性体は、「ジアステレオマー」と称し、重ねることができない鏡像である立体異性体は、「エナンチオマー」または時に「光学異性体」と称する。4つの同一でない置換基に結合された炭素原子は、「キラル中心」と称する。1つのキラル中心を有する化合物は、逆のキラリティーの2種のエナンチオマー型を有する。2種のエナンチオマー型の混合物は、「ラセミ混合物」と称する。
【0068】
「保護された誘導体」とは、反応部位(1つまたは複数)が保護基でブロックされている、阻害剤の誘導体を意味する。保護された誘導体は、阻害剤の調製において有用である、またはそれ自体が阻害剤として活性でありうる。好適な保護基の包括的なリストは、T. W. Greene、Protecting Groups in Organic Synthesis、第3版、John Wiley & Sons、1999の中に見出すことができる。
【0069】
「置換されたまたは置換されていない」とは、所与の部分が、利用可能な原子価を通して水素置換基のみからなっていてもよく(置換されていない)、または所与の部分の名前によって特に明記されていない利用可能な原子価を通して1つもしくは複数の非水素置換基をさらに含んでいてもよい(置換された)ことを意味する。
【0070】
「スルフィド」とは、-S-R[式中、Rは、H、アルキル、炭素環、複素環、カルボシクロアルキルまたはヘテロシクロアルキルである]を意味する。特定のスルフィド基は、メルカプト、アルキルスルフィド、例えば、メチルスルフィド(-S-Me);アリールスルフィド、例えば、フェニルスルフィド;アラルキルスルフィド、例えば、ベンジルスルフィドである。
【0071】
「スルフィニル」とは、基S(O)-を意味する。スルフィニル基は、種々の置換基でさらに置換されて、スルフィン酸、スルフィンアミド、スルフィニルエステルおよびスルホキシドなどの異なるスルフィニル基を形成していてもよいことに留意する。
【0072】
「スルホニル」とは、基S(O)(O)-を意味する。スルホニル基は、種々の置換基でさらに置換されて、スルホン酸、スルホンアミド、スルホン酸エステルおよびスルホンなどの異なるスルホニル基を形成していてもよいことに留意する。
【0073】
「チオカルボニル」とは、基C-を意味する。チオカルボニル基は、種々の置換基でさらに置換されて、チオ酸、チオアミド、チオエステルおよびチオケトンなどの異なるチオカルボニル基を形成していてもよいことに留意する。
【0074】
「動物」としては、ヒト、ヒト以外の哺乳動物(例えば、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、シカなど)および非哺乳動物(例えば、トリなど)が挙げられる。
【0075】
本明細書中で使用される場合、「バイオアベイラビリティ」は、無傷で体循環に達した薬物または医薬組成物の投与用量のうちの割合または百分率である。一般に、薬剤が静脈内に投与されるとき、そのバイオアベイラビリティは100%である。しかし、薬剤が他の経路を経て(例えば、経口で)投与されるとき、そのバイオアベイラビリティは減少する(例えば、不完全な吸収および初回通過代謝のため)。バイオアベイラビリティを向上させる方法としては、プロドラッグアプローチ、塩合成、粒径縮小、錯体化、物理的形態の変化、固体分散、噴霧乾燥および熱溶融押出しが挙げられる。
【0076】
「疾患」とは、詳細には、動物またはその部分のあらゆる不健康な状態を含み、その動物に適用される医学的もしくは獣医学的な療法によって引き起こされうるまたはそれに付随して起こる不健康な状態、すなわち、こうした療法の「副作用」を含む。
【0077】
「薬学的に許容される」とは、一般に安全で毒性がなく、生物学的にもそれ以外でも不所望でない、医薬組成物の調製において有用であるものを意味し、獣医学的使用ならびにヒトの医薬的使用に許容されるものを含む。
【0078】
「薬学的に許容される塩」とは、上に定義されているように、薬学的に許容され、所望の薬理学的活性を有する本発明の化合物の塩を意味する。こうした塩は、無機酸または有機酸で形成された酸付加塩を含む。薬学的に許容される塩としては、存在する酸の陽子が無機または有機の塩基と反応できる場合に形成されうる塩基付加塩も挙げられる。
【0079】
「プロドラッグ」とは、インビボで本発明による阻害剤に代謝的に変換されうる化合物を意味する。例えば、ヒドロキシル基を含む阻害剤は、インビボで加水分解によってヒドロキシル化合物に変換されるエステルとして投与しうる。
【0080】
「ファルマコフォア」とは、国際純正応用化学連合によって定義されているように、特異的な生物学的標的との最適な超分子相互作用を確実にさせて、その生物学的応答を誘発(またはブロック)するのに必要な立体化学的および電気的な特徴のアンサンブルである。例えば、カンプトテシンは、よく知られている薬物トポテカンおよびイリノテカンのファルマコフォアである。もう1つの例として、ナイトロジェンマスタードファルマコフォアは、-N(CH
2CH
2X)
2[式中、Xはハロなどの脱離基である]の典型的な式またはそのN-オキシド類似体を有する。ナイトロジェンマスタードファルマコフォアを含有する抗癌薬としては、メルファラン、ベンダムスチン、シクロホスファミド、PX-478、TH-302、PR-104、イホスファミド(Ifofamide)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
一般に、「安定性」とは、薬物が効力を失うことなくその特性を保持する時間の長さを指す。場合によっては、これは、貯蔵寿命と称される。薬剤安定性に影響を及ぼす因子としては、特に、薬物の化学構造、製剤中の不純物、pH、水分含有量、ならびに環境因子、例えば、温度、酸化、光および相対湿度が挙げられる。安定性は、好適な化学的改変および/または結晶の改変(例えば、水和の動態を変化させることができる表面の改変;異なる特性を有しうる異なる結晶)、添加剤(例えば、剤形中の活性物質以外のもの)、包装条件、保管条件などを提供することによって向上させることができる。
【0082】
本明細書中で使用される場合、「治療」という用語は、新生物疾患または免疫障害を有する対象またはその症状もしくはその素因を有する対象に、その障害、障害の症状もしくは障害の疾患障害の素因を治療、治癒、緩和、軽減、変更、修復、寛解、改善または影響する目的で化合物を投与することを指す。「有効量」という用語は、対象において意図された治療効果を与えるのに必要とされる活性剤の量を指す。有効量は、当業者によって理解されるように、投与の経路、添加剤の使用および他剤との併用の可能性に応じて変動しうる。「対象」とは、ヒトおよびヒト以外の動物を指す。ヒト以外の動物の例としては、すべての脊椎動物、例えば、哺乳動物、例えば、ヒト以外の霊長類(特に、高等霊長類)、イヌ、げっ歯動物(例えば、マウスまたはラット)、モルモット、ネコおよび非哺乳動物、例えば、鳥類、両生類、爬虫類などが挙げられる。好ましい一実施形態において、対象はヒトである。他の一実施形態において、対象は、実験動物または疾患モデルとして好適な動物である。
【0083】
[合成方法]
本発明の化合物は、当分野において知られている任意の方法によって調製しうる。必要な出発原料は、有機化学の標準的な手順によって得ることができる。本発明の化合物および方法は、以下の代表的な合成スキームおよび例に関連してより良好に理解され、これらは例としてのみ記載するものであって、本発明の範囲を制限するものではない。開示の実施形態に対する種々の変更および改変は、当業者に明らかであり、限定されるものではないが、本発明の化学構造、置換基、誘導体、製剤および/または方法に関するものを含むこうした変更および改変は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲の範囲から逸脱することなく行いうる。
【0086】
を有する化合物は、以下のスキーム1によって調製することができる[式中、X
1、X
2、Q、Z、R
1およびR
2は、上の発明の概要の節において記載されているものと同一である]。
【0088】
スキーム1に示すように、中間体Aを、カルボン酸尾部(1-1)を有する適切なナイトロジェンマスタードとカップリングさせて、式(I)を有する標的分子を得ることができる。いくつかのカップリング剤、例えば、DCC(N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド)、DIC(N,N'-ジイソプロピルカルボジイミド)、EDC(さらにEDACまたはEDCI、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドの頭字語)、HBTU(O-(ベンゾトリアゾル-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、TBTU(O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、HATU(O-(7-アザベンゾトリアゾル-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、HCTU(O-(6-クロロベンゾトリアゾル-1-イル)-N,N,N',N'-8テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)を、カップリング反応に使用しうるであろう。
【0089】
スキーム1中の中間体Aは、以下のスキーム2-Aおよび2-Bによって調製することができる[式中、R
1およびR
2、は、上の発明の概要の節において記載されているものと同一である]。
【0091】
スキーム2-Aに示しているように、出発原料2-1は、アジ化ナトリウムを用いた処理およびその後の接触水素化によって円滑に2-2に変換することができる。塩化クロロアセチルを用いた2-2のアシル化は、ケトアミド2-3をもたらし、これが、還流オキシ塩化リン中で中間体クロロメチルオキサゾール2-4に環化される。スキーム2-Bにおいて、チアゾールのコアの合成は、臭素およびチオシアン酸カリウムを用いて市販の2-アミノチアゾール(2-5)を処理することによって行い、低収率であるが適度に拡大縮小が可能な方法で2-6を得ることができる。メタノール中の水素化ホウ素ナトリウムへの曝露による2-6の還元およびその後のクロロメチルオキサゾール2-4を用いた得られたチオレートのアルキル化によって中間体Aが得られる。
【0092】
スキーム1中に示されているナイトロジェンマスタード1-1の調製は、当分野においてよく知られている。例えば、1-1のナイトロジェンマスタード[式中、X
1は、X
2と同一(例えば、Cl)である]は、以下のスキーム3によって調製することができる。
【0094】
出発原料(3-1)は、例えば、H
2、Pd/Cを用いて、アミノ置換中間体(3-2)に還元することができる。結果として生じる中間体(3-2)は、標準的な有機合成技術によって簡単に高収率で中間体(3-3)および次いで中間体(3-4)に変換することができる。LiOH中での中間体(3-4)の加水分解により、ナイトロジェンマスタード1-1を得ることができる。
【0095】
非対称のナイトロジェンマスタード1-1[式中、X
1はX
2と異なる(例えば、X
1はBrであり、X
2は-OSO
2CH
3である)]の場合、以下のスキーム4によって調製することができる。
【0097】
出発原料(4-1)は、例えば、H
2、Pd/Cを用いて、アミノ置換中間体(4-2)に還元することができる。結果として生じる中間体(4-2)は、標準的な有機合成技術によって簡単に高収率で中間体(4-3)および次いで中間体(4-4)に変換することができる。沸騰している3-メチル-2-ブタノン中で(4-4)の塩化物基をLiBrで置換することによって二臭化物(4-5)が得られ、これを、還流アセトニトリル中でメタンスルホン酸銀でさらに置換することにより、カラムクロマトグラフィーによって分離可能なモノメシレートおよびジメシレート(4-6-A)および(4-6-B)の混合物が得られる。LiOH中での中間体(4-6-A)の加水分解により、非対称のナイトロジェンマスタード1-1を得ることができる。
【実施例】
【0098】
(実施例)
(実施例1)
【0099】
中間体CY-200の調製
【0100】
【化10】
【0101】
【化11】
【0102】
ステップ1:機械式撹拌機を備えた2Lの三つ口丸底フラスコに、ブロモピナコロンA-1(134g、747mmol、1.0当量)、アセトン(1.2L)およびアジ化ナトリウム(63.2g、971mmol、1.3当量)を添加した。この反応混合物を、室温で一晩撹拌し、次いで、濾過して、その固体をアセトンで洗浄した(2×100mL)。濾液を真空中で濃縮し、油としてアジドピナコロン(105.0g、100%)を得た。この粗製物を、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0103】
ステップ2:機械式撹拌機を備えた2Lの三つ口丸底フラスコに、アジドピナコロン(28.6g、203mmol、1.0当量)、メタノール(1145mL)、濃HCl(18mL)および10%のPd/C(3.5g、50%水湿)を添加した。この反応混合物を水素下で20psiで2時間撹拌し、混合物をセライトのパッドを通して濾過し、残留物をメタノールですすいだ(2×50mL)。この濾液を40℃未満の温度で減圧下で濃縮した。結果として生じた湿った固体を2-プロパノールと共沸させ(2×100mL)、無水エーテル(100mL)を添加し、形成されたスラリーを5分間撹拌した。この固体生成物を濾過によって回収し、濾塊をジエチルエーテルで洗浄し(2×30mL)、次いで、真空中で乾燥させてアミノピナコロンヒドロクロリドA-2を得た。
【0104】
ステップ3:機械式撹拌機を備えた1Lの三つ口丸底フラスコに、アミノピナコロンヒドロクロリドA-2(15.2g、100mmol、1.0当量)およびCH
2Cl
2(350mL)を添加した。このスラリーを-5℃に冷却し、トリエチルアミン(35mL、250mmol、2.5当量)を添加した。結果として生じた混合物を撹拌し、-10℃に冷却した。CH
2Cl
2(20mL)中のクロロアセチルクロリド(8.8mL、110mmol、1.1当量)の溶液を、-5℃未満の反応温度を保ちながら15分間かけて滴加した。反応物を1時間撹拌し、次いで、1NのHCl水溶液(200mL)でクエンチした。これらの相を分離し、有機相を1NのHCl水溶液(200mL)および水(50mL)で洗浄し、乾燥させ(Na
2SO
4)、真空中で濃縮して、白色固体としてA-3(18.9g、98%)を得た。
【0105】
ステップ4:機械式撹拌機を備えた100mLの丸底フラスコに、A-3(18.9g、98.6mmol、1当量)およびPOCl
3(38mL、407mmol、4.1当量)を添加した。この反応混合物を105℃まで加熱して1時間撹拌した。室温まで冷却した後に、反応混合物を、氷(180g)中に注意深く注入した。この混合物をエーテルで抽出した(6×150mL)。有機抽出物を合わせ、飽和炭酸水素ナトリウム(〜700mL)でpH7〜8に中和した。有機相を分離し、飽和炭酸水素ナトリウム(100mL)、水(100mL)およびブライン(50mL)で連続的に洗浄し、乾燥させ(MgSO
4)、真空中で濃縮した。粗製物を減圧下で蒸留し、無色油状物としてA-4を得た。
【0106】
ステップ5:J. Heterocycl. Chem. 1984、21、401〜406の論文に従ってA-5からA-6を調製した。無水EtOH(600mL)中のチオシアネートA-6(10.0g、63.3mmol)の溶液に、室温でNaBH
4(4.8g、120mmol)を少しずつ添加した。この混合物を、1時間撹拌し、次いで、アセトン(300mL)をゆっくりと導入した。1時間後、EtOH(100mL)中の塩化オキサゾールA-4(12.0g、69mmol)の溶液を添加し、結果として生じた暗色反応混合物を1時間加熱還流した。得られた混合物を冷却し、真空中で濃縮し、次いで、EtOAcとブラインとの間で分配した。有機相を分離し、乾燥させ(MgSO
4)、真空中で濃縮して粗製固体を得た。ジエチルエーテル/ヘキサンを用いてこの粗製物を磨砕して、薄赤褐色固体として中間体CY-200(16.0g、94%)を得た。LC/MS:270.1[M+H]
+。
【0107】
(実施例2)
【0108】
CY-201の調製
【0109】
【化12】
【0110】
【化13】
【0111】
ステップ1:メチル2-(4-アミノフェニル)酢酸(B-2)の合成:メタノール(50mL)中の2-(4-アミノフェニル)酢酸(B-1)(10g、66.16mmol)の溶液に、SOCl
2(5mL)を滴加した。この混合物を60℃で6時間撹拌した。溶媒を蒸発させた後、残留物をEt
2Oで再結晶させ、黄色固体として生成物(10.9g、99%)を得た。LC-MS:(M+H)
+=166;
【0112】
ステップ2:メチル2-(4-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)フェニル)酢酸(B-3)の合成:水(100mL)中のメチル2-(4-アミノフェニル)酢酸(B-2)(10.9g、65.98mmol)の溶液に、0℃でオキシラン(25mL)を添加した。次いで、この濁った混合物を、2時間強く撹拌しながら70℃に加熱し、溶液を蒸発させ、EtOAc(150ml*3)で抽出し、有機相をNa
2SO
4で脱水した。濾過および真空中での濃縮により、粗製残留物を得た。残留物をヘキサンで再結晶させ、灰色固体として生成物(8.5g、51%)を得た。LC-MS:(M+H)
+=254;
【0113】
ステップ3:メチル2-(4-(ビス(2-クロロエチル)アミノ)フェニル)酢酸(B-4)の合成:トルエン(30ml)中のメチル2-(4-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)フェニル)酢酸(B-3)(6.0g、23.69mmol)の溶液に、0℃で塩化ホスホリル(6ml)を添加した。この混合物を80℃で1時間撹拌し、次いで、混合物を室温まで冷却し、炭酸水素ナトリウム水と共に撹拌し、CH
2Cl
2で抽出した(30ml*3)。有機層を分離し、水およびブラインで洗浄し、Na
2SO
4で脱水した。濾過および真空中での濃縮により、粗製残留物を得た。残留物を、PE対EtOAc=20:1で溶出するシリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、無色油状物として生成物(3.4g、49.8%)を得た。LC-MS:(M+H)
+=291;
【0114】
ステップ4:2-(4-(ビス(2-クロロエチル)アミノ)フェニル)酢酸(B-5)の合成。丸底フラスコにメチル2-(4-(ビス(2-クロロエチル)アミノ)フェニル)酢酸(B-4)(3.4g、11.68mmol)、LiOH(1.7g、70.83mmol)、H
2O(100mL)およびTHF(50mL)を添加した。この反応混合物を50℃で2時間撹拌した。室温まで冷却した後に、反応混合物をHCl(1N)でpH7に調整し、EtOAcで抽出し(100ml*2)、混合物をNa
2SO
4で脱水し、減圧下で濃縮した。この粗製生成物(2.8g)を、さらに精製することなく次のステップで使用した。LC-MS:(M+H)
+=277;
【0115】
ステップ5:2-(4-(ビス(2-クロロエチル)アミノ)フェニル)-N-(5-((5-tert-ブチルオキサゾール-2-イル)メチルチオ)チアゾール-2-イル)アセトアミド(CY-201)の合成。撹拌されている塩化メチレン溶液(20ml)に、DMAP(438mg、3.59mmol)および2-(4-(ビス(2-クロロエチル)アミノ)フェニル)酢酸(B-5)(906mg、3.27mmol)を添加した。次いで、反応混合物にDCC(690mg、3.35mmol)を添加し、その後、5-((5-tert-ブチルオキサゾール-2-イル)メチルチオ)チアゾール-2-アミン(中間体CY-200)(800mg、2.97mmol)を添加した。この混合物を、室温で24時間撹拌した。濾過によってジシクロヘキシルウレア(DCU)を除去した後に、濾液を真空中で濃縮し、Na
2SO
4で脱水した。残留物を、CH
2Cl
2:EtOAc=20:1で溶出するシリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、灰色固体として全生成物(1.2g、76%)を得た。
【0116】
LC-MS: (M+H)
+ = 528.
1H NMR (300MHz, CDCl
3) δ 10.17 (s, 1H), 7.28-7.30 (m, 1H), 7.17 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 6.69 (d, J = 8.7 Hz, 2H), 6.58 (s, 1H), 3.95 (s, 2H), 363-3.79 (m, 10H), 1.26 (s, 9H).
【0117】
[生物学的アッセイ]:
(a)CDK酵素活性の阻害
(a-1)材料:
CDK1/サイクリンB(受入番号 CDK1;GenBank NM001786、サイクリンB;EMBL M25753):C末端6Hisタグ付きヒト全長cdk1(MW=35kDa)およびN末端GSTタグ付きヒト全長サイクリンB(MW=75kDa)を、Sf21昆虫細胞においてバキュロウイルスシステムを用いて個別に発現させた。組換えタンパク質を、それぞれNi2+/NTA-アガロースおよびGST-アガロースを使用して精製した。次いで、CAKを使用してcdk1を活性化し、QセファロースおよびNi2+/NTA-アガロースによって再精製した。次いで、インビトロでこれらを混合してタンパク質複合体を形成させた。これらのタンパク質複合体の純度は、SDSPAGEおよびクマシーブルー染色によって80.5%であると推定された。組換え酵素の比活性は、1329U/mgと測定された。ここで、cdk1/サイクリンB活性の1ユニットは、30℃において100mMの最終ATP濃度で0.1mg/mlのヒストンH1中に1分間あたりに取り込まれる1nmolのホスフェートと定義する。酵素は、0.1mg/mlの濃度で、50mM Tris/HCl pH7.5、150mM NaCl、0.1mM EGTA、0.03% Brij-35、270mM スクロース、1mM ベンズアミジン、0.2mM PMSF、0.1% 2-メルカプトエタノール中に保管した。
【0118】
CDK2/サイクリンA(受入番号 CDK2;EMBL M68520、サイクリンA;EMBL X51688):C末端6Hisタグ付きヒト全長cdk2(MW=35kDa)およびN末端GSTタグ付きヒト全長サイクリンA(MW=75kDa)を、Sf21昆虫細胞においてバキュロウイルスシステムを用いて個別に発現させた。組換えcdk2タンパク質を、M2+/NTAアガロースで精製し、次いで、CAKを使用して活性化し、QセファロースおよびM2+/NTAアガロースによって再精製した。組換えサイクリンAは、グルタチオン-アガロースを使用して精製した。次いで、インビトロでこれらを混合してタンパク質複合体を形成させた。組換えタンパク質複合体は、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色で純度が67%と測定された。精製された酵素の比活性は、158U/mgであるとして測定された。ここで、cdk2/サイクリンA活性の1ユニットは、30℃において100mMの最終ATP濃度で0.1mg/mlのヒストンH1中に1分間あたりに取り込まれる1nmolのホスフェートと定義する。酵素は、0.1mg/mlの濃度で、50mM Tris/HCl pH7.5、150mM NaCl、0.1mM EGTA、0.03% Brij-35、270mM スクロース、1mM ベンズアミジン、0.2mM PMSF、0.1% 2-メルカプトエタノール中に保管した。凍結溶液。
【0119】
CDK2/サイクリンE(受入番号 CDK2;EMBL M68520、サイクリンE1;GenBank NM_001238):C末端6Hisタグ付き組換え全長CDK2(MW=34kDa)を、N末端GSTタグ付き組換え全長サイクリンE1(MW=74kDa)との複合体で、Sf21細胞においてバキュロウイルスシステムを用いて発現させた。組換えタンパク質を、M2+/NTAアガロースを使用して精製し、組換えタンパク質複合体の純度は、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色によって約76%と測定された。組換えCDK2/サイクリンEの比活性は、1336U/mgであった。ここで、CDK2/サイクリンE1活性の1ユニットは、30℃において100μMの最終ATP濃度で0.1mg/mlのヒストンH1中に1分間あたりに取り込まれる1nmolのホスフェートと定義する。酵素は、0.1mg/mlの濃度で、50mM Tris/HCl pH7.5、150mM NaCl、0.03% Brij-35、0.1mM EGTA、0.2mM PMSF、1mM ベンズアミジン、0.1% 2-メルカプトエタノール、270mM スクロース中に保管した。
【0120】
CDK3/サイクリンE(受入番号 CDK3;GenBank X66357、サイクリンE;GenBank NM001238):C末端6Hisタグ付き組換えヒト全長cdk3(MW=36kDa)を、N末端GSTタグ付き組換えヒト全長サイクリンE(MW=74kDa)と、Sf21昆虫細胞においてバキュロウイルスシステムを用いて共発現させた。組換えタンパク質複合体は、Ni2+/NTAアガロースを使用して精製し、SDS PAGEおよびクマシーブルー染色によって66%である純度で精製された。組換え酵素の比活性は、861U/mgと測定された。ここで、cdk3/サイクリンE活性の1ユニットは、30℃において100mMの最終ATP濃度で0.1mg/mlのヒストンH1中に1分間あたりに取り込まれる1nmolのホスフェートと定義する。酵素は、0.1mg/mlの濃度で、50mM Tris/HCl pH7.5、150mM NaCl、0.1mM EGTA、0.03% Brij 35、270mM スクロース、1mM ベンズアミジン、0.2mM PMSF、0.1% 2-メルカプトエタノール中に保管した。
【0121】
CDK4/サイクリンD1(受入番号 CDK4;NP000066、サイクリンD1;NP444284)組換えヒト全長GSTタグ付きCDK-4(MW=61.8kDa)およびサイクリンD1(MW=61.2kDa)を昆虫細胞において発現させた。組換え酵素は、30℃において1分間あたりに総タンパク質の1mgあたり190nmoleのホスフェートがRbINGペプチド基質(INGSPRTPRRGQNR)に移されたのと等しい比活性を有すると測定された。活性は、8.33μg/mLの最終タンパク質濃度で決定された。酵素は、0.4mg/mlの濃度で、50mM Tris(pH7.5)、150mM NaCl、0.5mM EDTA、0.02% Triton X-100、2mM DTT、50% グリセロール中に保管した。
【0122】
CDK6/サイクリンD3(受入番号 CDK6;GenBank X66365、サイクリンD3;EMBL M90814):N末端GSTタグ付き全長ヒトサイクリンD3(MW=59kDa)と複合体形成したN末端6Hisタグ付き全長ヒトcdk6(MW=38kDa)をSf21細胞において発現させた。組換えタンパク質複合体を、グルタチオン-アガロースを使用して精製し、CAKで活性化して、M2+/NTA-アガロースカラムで再精製した。純度は、少なくとも68%と測定された。比活性は、39U/mgと測定された。ここで、cdk6/サイクリンD3活性の1ユニットは、30℃において100μMの最終ATP濃度で0.1mg/mlのヒストンH1中に1分間あたりに取り込まれる1nmolのホスフェートと定義する。酵素は、0.1mg/mlの濃度で、50mM Tris-HCl、pH7.5、270mM スクロース、150mM NaCl、1mM ベンズアミジン、0.2mM PMSF、0.1% 2-メルカプトエタノール、0.1mM EGTA、0.03% Brij 35中に保管した。
【0123】
CDK7/サイクリンH1/MNAT1(受入番号 CDK7;NP001790、サイクリンH1;NP001230、MNAT1;NP002422.1):組換えヒト全長タンパク質、ヒスチジンタグ付きCDK7(MW=43.2kDa)、ヒスチジンタグ付きサイクリンH1(MW=42.6kDa)、ヒスチジンタグ付きMNAT1(MW=40.5kDa)を昆虫細胞において発現させた。組換え(recombinat)酵素複合体の比活性は、30℃において1分間あたりに総タンパク質の1mgあたり94nmoleのホスフェートがCDK7/9tide基質(YSPTSPSYSPTSPSYSPTSPSKKKK)に移されたのと等しいと測定された。活性は、3.33μg/mLの最終タンパク質濃度で決定された。酵素は、0.42mg/mlの濃度で、50mM Tris(pH7.5)、150mM NaCl、0.5mM EDTA、0.02% Triton X-100、2mM DTT、50% グリセロール中に保管した。
【0124】
CDK9/サイクリンT1(受入番号 CDK9;GenBank AF517840、サイクリンT1;GenBank NM001240)C末端6Hisタグ付き全長組換えヒトcdk9(MW=44kDa)を、タグなし全長ヒトサイクリンT1(MW=80.79kDa)と、Sf21昆虫細胞においてバキュロウイルスシステムを用いて共発現させた。組換えタンパク質複合体を、Ni
2+/NTAアガロースで精製した。組換えタンパク質の純度は、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色によって50%と測定された。精製された酵素の比活性は、186U/mgと測定された。ここで、cdk9/サイクリンT1活性の1ユニットは、30℃において100μMの最終ATP濃度で100μMのPDKtide(KTFCGTPEYLAPEVRREPRILSEEEQEMFRDFDYIADWC)中に1分間あたりに取り込まれる1nmolのホスフェートと定義する。酵素は、0.1mg/mlの濃度で、50mM Tris-HCl、pH7.5、300mM NaCl、0.1mM EGTA、0.03% Brij-35、270mM スクロース、1mM ベンズアミジン、0.1% 2-メルカプトエタノール、0.2mM PMSF中に保管した。ヒストンH1(CDK1、2、3、6および7の基質):ヒストンH1(Sigma カタログ# H4524)は、リシンの豊富な画分として仔ウシ胸腺から93%の純度で精製された(MW=21.5kDa)。精製タンパク質を、20mg/ml=930μMの濃度で蒸留水中に保管した。RBC-CTF(CDK4の基質):ヒトRBタンパク質(S773〜K928、MW=44.46kDa)、N末端GSTタグ付きを、精製し、その後、因子Xa切断を4mM濃度のグルタチオン中で行った。精製タンパク質を、0.67mg/mlの濃度で保管した。PDKtide(CDK9の基質):[KTFCGTPEYLAPEVRREPRILSEEEQEMFRDFDYIADWC]の配列を有する合成ペプチド基質、MW=4771.4
【0125】
(a-2)アッセイ条件:
CDK活性アッセイのために、p33 ATPトレーサーを、精製した組換え体特異的な、精製CDKキナーゼ、サイクリンおよび基質の組合せと共にインキュベートし、酵素活性をモニターした。これらのアッセイでは、個々の(individule)反応は、以下の反応緩衝液を用いて下記の特定の条件で行った:20mM HEPES(pH7.5)、10mM MgCl
2、1mM EGTA、0.02% Brij 35、0.02mg/ml BSA、0.1mM Na
3VO
4、2mM DTT。等量の25%のTCAを添加して反応を停止させ、標識されたペプチドを沈降させた。沈降したタンパク質をグラスファイバーBフィルタープレート上に捕捉し、過剰な非標識p33 ATPを洗い流した。プレートを、空気乾燥させ、その後、30uL/ウェルのPackard Microscint 20を添加した。取り込まれた同位体の量を、Perkin Elmer TopCountプレートリーダーを使用して測定した。PDGF-ベータキナーゼを阻害する化合物の活性を評価するために、異なる濃度の化合物を反応に添加した。IC50は、Prismソフトウェアを使用してシグモイド用量反応曲線フィッティングを用いて算出した。
【0126】
CDK1/サイクリンB:1nMのCDK1/サイクリンBおよび20μMのヒストンH1を、最終濃度の1μMのATPおよび1%のDMSOを含む反応緩衝液中で混合した。反応を室温で2時間行った。このとき、ATPの変換率は7.5%に等しい。
【0127】
CDK2/サイクリンE:0.5nMのCDK2/サイクリンEおよび5μMのヒストンH1を、最終濃度の1μMのATPおよび1%のDMSOを含む反応緩衝液中で混合した。反応物を室温で2時間インキュベートした。ATPの変換率は約4.5%である。
【0128】
CDK3/サイクリンE:0.5nMのCDK3/サイクリンEおよび20μMのヒストンH1を、最終濃度の1μMのATPおよび1%のDMSOを含む反応緩衝液中で混合した。反応物を室温で2時間インキュベートした。このとき、ATPの変換率は7.0%と測定された。
【0129】
CDK4/サイクリンD1:2nMのCDK4/サイクリンD1および1μMのRB-CTFを、最終濃度の1μMのATPおよび1%のDMSOを含む反応緩衝液中で混合した。反応物を室温で2時間インキュベートした。このとき、ATPの変換率は8.5%と測定された。
【0130】
CDK6/サイクリンD3:50nMのCDK6/サイクリンD3および5μMのヒストンH1を、最終濃度の1μMのATPおよび1%のDMSOを含む反応緩衝液中で混合した。反応物を室温で2時間インキュベートした。このとき、13%と測定されたATPの変換率であった。
【0131】
CDK7/サイクリンH1/MNAT1:100nMのCDK7/サイクリンH1/MNAT1および20μMのヒストンH1を、1μMのATPおよび1%のDMSOを含む反応緩衝液中で混合した。反応物を室温で2時間インキュベートした。ATPの変換率は5.5%と測定された。
【0132】
CDK9/サイクリンT1:2nMのCDK9/サイクリンT1および20μMのpdkTIDEを、最終濃度で1μMのATPおよび1%のDMSOを含む反応緩衝液中で混合した。反応物を室温で2時間インキュベートした。ATPの変換率は12%と測定された。
【0133】
スタウロスポリンを参照化合物として使用した。試験化合物の用量の範囲で行われる、こうしたアッセイは、およそのIC50値の決定を可能にする。本発明の化合物の阻害特性は、予想された通り、構造変化に伴って変化するが、これらの作用剤によって一般に示される活性は、IC50=0.1〜1000nMの範囲内にある。
【0134】
以下は、ナイトロジェンマスタード薬クロラムブシルおよびその対応するCDK阻害誘導体CY-201の構造である。クロラムブシルおよびCY-201はいずれも、DNAをアルキル化できるナイトロジェンマスタードファルマコフォアを有する。以下の表は、CY-201のCDK IC50値の一覧を示すものであり、これにより、CY-201がきわめて強力なCDK阻害剤であることが明らかに示される。したがって、CY-201は、我々が知る限り、画期的医薬品である二重機能性ナイトロジェンマスタード/CDK阻害剤である。
【0135】
【表2】
【0136】
(b)インビトロ抗増殖アッセイ:
ヒト腫瘍細胞株は、5%のウシ胎児血清および2mMのL-グルタミンを含有するRPMI1640培地で増殖する。典型的な実験では、細胞を、96ウェルマイクロタイタープレート中、100μL中に、個々の細胞株の倍加時間に依存して細胞5,000〜40,000個/ウェルまでの範囲に及ぶ播種密度で植え付ける。細胞を植え付けた後、マイクロタイタープレートを、37℃、5%のCO2、95%の空気および100%の相対湿度で、試験薬を添加する前に24時間インキュベートする。24時間後、それぞれの細胞株の2枚のプレートをその場でTCAで固定し、薬物添加時における各細胞株の細胞集団の測定値を表す(Tz)。試験薬を、所望の最終最高試験濃度の400倍でジメチルスルホキシド中に可溶化し、使用前は冷凍して保管する。薬物添加時に、凍結濃縮液のアリコートを解凍し、50μg/mlのゲンタマイシンを含有する完全培地で所望の最終最高試験濃度の2倍まで希釈する。さらに4種の10倍または1/2ログの連続希釈液を作製し、合計で5種の薬物濃度および対照を用意する。これらの異なる薬物希釈液のうちの100μlのアリコートを、すでに100μlの培地を含有する適切なマイクロタイターウェルに添加して、必要とされる最終薬物濃度を得る。
【0137】
薬物添加後、プレートを、37℃、5%のCO2、95%の空気および100%の相対湿度でさらに48時間インキュベートする。接着細胞の場合、このアッセイは、冷却したTCAを添加することによって終了される。細胞を、冷却した50μlの50%(w/v)のTCA(最終濃度、10% TCA)を穏やかに添加することによってその場で固定し、4℃で60分間インキュベートする。上清を捨て、プレートを、水道水で5回洗浄し、空気乾燥させる。1%の酢酸中の0.4%(w/v)のスルホローダミンB(SRB)溶液(100μl)を各ウェルに添加し、プレートを室温で10分間インキュベートする。染色後、1%の酢酸で5回洗浄することにより、結合していない色素を除去し、プレートを空気乾燥させる。次いで、結合した染料を、10mM trizma baseで可溶化し、自動プレートリーダー上で515nmの波長で吸光度を読み取る。懸濁細胞の場合には、方法論は、50μlの80%のTCA(最終濃度、16% TCA)を穏やかに添加することによってウェルの底に定着した細胞を固定することによってアッセイが終了すること以外は同一である。7種の吸光度測定値[時間ゼロ、(Tz)、対照増殖、(C)、および5種の濃度レベルにおける薬物存在下での試験増殖(Ti)]を使用して、薬剤濃度レベルのそれぞれにおいて百分率での増殖が算出される。百分率での増殖阻害は、以下のように算出される:
[(Ti-Tz)/(C-Tz)]×100 Ti≧Tzの濃度の場合
[(Ti-Tz)/Tz]×100 Ti<Tz濃度の場合。
【0138】
3つの用量応答パラメータを試験薬剤ごとに算出する。50%の増殖阻害(GI50)は、[(Ti-Tz)/(C-Tz)]×100=50から算出され、これは、薬物インキュベーション期間中の対照細胞における(SRB染色によって測定されるような)正味タンパク質増加を50%減少させる薬物濃度である。試験化合物の用量の範囲で行われる、こうしたアッセイは、癌細胞株のインビトロ細胞抗増殖アッセイのためのおよそのIC50値の決定を可能にする。本発明の化合物の阻害特性は、予想された通り、構造変化に伴って変化するが、これらの作用剤によって一般に示される活性は、IC50=0.001〜100uMの範囲である。
【0139】
以下の表は、細胞抗増殖性アッセイにおいてナイトロジェンマスタードのクロラムブシルおよびそのCDK阻害誘導体CY-201のIC50値の一覧を示すものである。本発明者らは、驚くべきことに、CDK阻害誘導体CY-201の抗腫瘍活性が、親薬物クロラムブシルと比較して劇的に向上されることを見出した。例えば、黒色腫細胞株MDA-MS-435において、CY-201は、親薬物クロラムブシルよりも1,500倍を超えてより強力である。
【0140】
【表3】
【0141】
言うまでもなく、CDK2は、DNA損傷シグナル伝達経路の最後のゲートキーパーである(DNA損傷=>ATM/ATR=>Chk=>p53=>p21=>CDK2/サイクリンE=>G1/S期停止)。CDK2の阻害は、G1/S移行を強力に停止させて、癌細胞の無制御な増殖を止める。さらに、近年の証拠より、CDK2は、DNA損傷修復のような独立した機能で細胞周期に関与していることが示唆されている。これにより、CDK2が、適切なDNA修復に必要であることが明らかにされる。したがって、CDK2の阻害は、DNA損傷修復を阻害する。さらに、アポトーシス(例えば、DNA損傷誘導性アポトーシス)からの逃避は、癌の特徴である。CDKの阻害によってDNA修復経路が損傷されるので、CDKの阻害は、細胞周期停止後、最終的に強力なアポトーシスをもたらす。統合すると、二重標的性のCY-201は、DNAを損傷させる、細胞周期進行を停止させる、DNA損傷修復を阻害する、および強力なアポトーシスを誘導するという、四重の能力があるので、単一機能性の親のDNAアルキル化ナイトロジェンマスタード薬のクロラムブシルと比較して劇的に増強された抗癌活性を有する。