特許第6008977号(P6008977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6008977質量分析を用いて試料を分析するためのシステム、装置、及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6008977
(24)【登録日】2016年9月23日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】質量分析を用いて試料を分析するためのシステム、装置、及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20161006BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20161006BHJP
   H01J 49/42 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   G01N27/62 101
   G01N27/62 E
   H01J49/26
   H01J49/42
【請求項の数】21
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-545386(P2014-545386)
(86)(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公表番号】特表2015-500991(P2015-500991A)
(43)【公表日】2015年1月8日
(86)【国際出願番号】IB2012002917
(87)【国際公開番号】WO2013084069
(87)【国際公開日】20130613
【審査請求日】2014年10月7日
(31)【優先権主張番号】61/566,932
(32)【優先日】2011年12月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513170164
【氏名又は名称】スミスズ ディテクション モントリオール インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100198568
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 絵美
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ヘンドリクス
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−544517(JP,A)
【文献】 特表2010−506150(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/077732(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0294647(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0158543(US,A1)
【文献】 長門 研吉,「イオン移動度/質量分析装置の開発」,エアロゾル研究,日本エアロゾル学会,2000年 6月20日,Vol.15, No. 2,pp. 110-115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/26
H01J 49/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析によって、1つ以上の被分析物について試料をスクリーニングする方法であって、
イオン化された試料を生成するために前記試料からイオンを発生させるステップと、
前記イオン化された試料のプレ質量分析スクリーニング行うステップと、
処理システムに、前記プレ質量分析スクリーニングの結果をメモリに格納されている被分析物データベースと比較させ、前記データベース内の被分析物に対する前記プレ質量分析スクリーニングの結果の相関が予備的な正の同定を成す、ステップと、
予備的な正の同定が成されたと前記処理システムが判断したとき、ゲートを開放させ、該ゲートの開放が前記イオン化された試料の一部を質量分析計に通過させる、ステップと、
予備的な正の同定が成されなかったと前記処理システムが判断したとき、前記ゲートを閉じたままにさせ、該ゲートの閉成によって前記イオン化された試料が前記質量分析計を通過するのを阻止する、ステップと、
を含む試料スクリーニング方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、さらに、
前記イオン化された試料の一部の質量スペクトルを取得するステップと、
前記処理システムに前記質量スペクトルを前記被分析物データベースと比較させ、前記データベース内の被分析物に対する前記質量スペクトルの相関が前記試料内の前記被分析物の存在に関しての正の同定を含む、ステップと、
を含む試料スクリーニング方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、さらに、
正の同定が成されたと前記処理システムが判断したときに前記ゲートを開かせ、該ゲートが開くことによって前記イオン化された試料の第2の部分が前記質量分析計を通過できるようにするステップと、
前記イオン化された試料の前記第2の部分の質量スペクトルを取得するステップと、
MS/MSスペクトルを生成するステップと、
前記処理システムに、前記MS/MSスペクトルを前記被分析物データベースと比較させ、前記MS/MSスペクトルと前記被分析物データベース内の被分析物との相関が、前記試料内に前記被分析物が存在することの正の同定を裏付けるステップと、
を含む試料スクリーニング方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、さらに
分離すべき親イオンの質量を選択するために前記プレ質量分析スクリーニングの結果を用いるステップと、
前記イオン化された試料の一部に対する1つ以上の質量スペクトルを取得するステップと、
前記分離すべき親イオン質量のMS/MSスペクトルを生成するステップと、
前記処理システムに、前記MS/MSスペクトルを前記被分析物データベースと比較させ、前記MS/MSスペクトルと、前記被分析物データベースにおける被分析物との相関が、前記試料内に前記被分析物が存在することの正の同定を裏付けるステップと、
を含む、試料スクリーニング方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
前記プレ質量分析スクリーニングは前記試料を異なるフラクションに分離する、試料スクリーニング方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
前記データベース内の被分析物に対するフラクションが前記質量分析計の方へ前記ゲートを通過する、試料スクリーニング方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、
前記プレ質量分析スクリーニングの結果はピークを含み、
前記処理システムは前記ピークが生じている時間に相当する期間、前記ゲートを開いたままにする、試料スクリーニング方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、
前記プレ質量分析スクリーニングは、イオン移動度分光分析(IMS)、ガスクロマトグラフィー(GC)、微分型移動度分析(DMA)、微分型移動度分光分析(DMS)、電界非対称性IMS(FAIMS)、又は進行波IMS(TWIMS)のうち1つ以上を含む、
試料スクリーニング方法。
【請求項9】
1つ以上の被分析物について試料を分析するように構成された質量分析システムであって、
イオン化された試料を生成するために試料からイオンを発生させ、前記試料の組成に相関する出力を発生させるために前記イオン化された試料をプレスクリーニングするよう構成されたプレ質量分析スクリーニング装置と、
前記イオン化された試料の少なくとも一部を受け取り、前記試料の質量スペクトルを生成するよう構成された質量分析計と、
前記プレ質量分析スクリーニング装置から前記質量分析計に前記イオン化された試料の少なくとも一部を流すために開き、且つ、前記プレ質量分析スクリーニング装置から前記質量分析計に前記イオン化された試料が流れるのを阻止するために閉じるように構成された試料ゲートと、
処理システムと、
を備え、
前記処理システムは、前記プレ質量分析スクリーニングの結果を被分析物データベースと比較し、前記プレ質量分析スクリーニングの結果と、前記被分析物データベース内の被分析物との相関が予備的な正の同定を成し、
予備的な正の同定が成されたと判断した際に、所定の期間、前記試料ゲートを開き、予備的な正の同定が成されなかったと判断したら、前記試料ゲートを閉じたままにさせるように動作可能である、質量分析システム。
【請求項10】
請求項9に記載の質量分析システムであって、
前記処理システムはさらに、
前記質量分析計に前記イオン化された試料の一部の質量スペクトルを取得させ、且つ、前記質量スペクトルを前記被分析物データベースと比較し、前記データベース内の被分析物に対する前記質量スペクトルの相関が前記試料内の前記分析物の存在について正の同定を含むように動作可能である、質量分析システム。
【請求項11】
請求項10に記載の質量分析システムであって、
前記処理システムはさらに、
正の同定が成されたと判断すると、前記試料ゲートを開き、該試料ゲートの開放によって前記イオン化された試料の第2の部分を前記質量分析計の方へ通過させ、前記イオン化された試料の第2の部分の質量スペクトルを取得し、
MS/MSスペクトルを生成し、且つ、
前記MS/MSスペクトルを前記被分析物データベースと比較し、前記被分析物データベースの被分析物と前記MS/MSスペクトルとの相関が前記試料内に前記被分析物が存在することの正の同定を裏付けるように動作可能である、質量分析システム。
【請求項12】
請求項9に記載の質量分析システムであって、
前記処理システムはさらに、
分離すべき親イオンの質量を選択するために前記プレ質量分析スクリーニングの結果を使用し、
前記質量分析計に前記イオン化された試料の一部に対する1つ以上の質量スペクトルを取得させ、
前記分離すべき親イオンの質量に対するMS/MSスペクトルを生成し、且つ
前記MS/MSスペクトルを前記被分析物データベースと比較し、前記MS/MSスペクトルと前記被分析物データベースにおける被分析物との相関が、前記試料内に前記被分析物が存在することの正の同定を裏付けるように動作可能である、質量分析システム。
【請求項13】
請求項11に記載の質量分析システムであって、
前記プレ質量分析スクリーニング装置は、前記試料を異なるフラクションに分離するように構成され、前記データベース内の被分析物に対するフラクションが前記試料ゲートを経て前記質量分析計へと通過する、質量分析システム。
【請求項14】
請求項9に記載の質量分析システムであって、
前記プレ質量分析スクリーニングの結果はピークを含み、前記処理システムは、前記ピークが生じている時間に相当する期間、前記試料ゲートを開いたままにする、質量分析システム。
【請求項15】
請求項9に記載の質量分析システムであって、
前記プレ質量分析スクリーニングは、イオン移動度分光分析(IMS)、ガスクロマトグラフィー(GC)、微分型移動度分析(DMS)、電界非対称性IMS(FAIMS)、又は進行波IMS(TWIMS)のうちの1つ以上を含む、質量分析システム。
【請求項16】
請求項9に記載の質量分析システムであって、
前記質量分析計は、飛行時間型質量分析計、単一の四重極質量分析計、三連四重極質量分析計、又は磁場型質量分析計のうち少なくとも一つを備える、質量分析システム。
【請求項17】
請求項9に記載の質量分析システムであって、
前記質量分析計はイオントラップを有し、前記イオントラップは、3D(ポール)イオントラップ、リニアイオントラップ、円筒型イオントラップ、トロイダルイオントラップ、又は直線型イオントラップを含む、質量分析システム。
【請求項18】
請求項9に記載の質量分析システムであって、
前記試料ゲートはイオンゲートを含む、質量分析システム。
【請求項19】
請求項18に記載の質量分析システムであって、
前記イオンゲートはブラッドベリー−ニールセン・シャッターを含む、質量分析システム。
【請求項20】
請求項9に記載の質量分析システムであって、
前記試料ゲートは高速切換弁を含む、質量分析システム。
【請求項21】
質量分析によって1つ以上の被分析物について試料をスクリーニングする方法であって、
イオン化された試料を生成するために前記試料からイオンを発生させるステップと、
前記イオン化された試料のイオン移動度分光分析(IMS)スクリーニングを行うステップと、
処理システムに、前記イオン移動度分光分析(IMS)スクリーニングの結果をメモリに格納されている被分析物データベースと比較させるステップであって、前記データベース内の被分析物に対する前記イオン移動度分光分析(IMS)スクリーニングの結果の相関が予備的な正の同定を成すステップと、
予備的な正の同定が成されたと前記処理システムが判断したとき、ゲートを開放させるステップであって、該ゲートの開放が、前記イオン化された試料の一部を質量分析計に通過させる、ステップと
予備的な正の同定が成されなかったと処理システムが判断したとき、前記ゲートを閉じたままに、前記イオン化された試料の一部が前記質量分析計に通過するのを阻止するステップと、
を含む、試料スクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析を用いて試料を分析するためのシステム、装置、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微量な物質の存在をスクリーニングするのにトレース検出技術が用いられている。トレース検出システムは、典型的には、爆発物、麻薬、その他の禁制品の存在を検出するためのセキュリティ設定において使用される。トレース検出技術は、関心のある物質及び/又はそれらの製造、輸送、隠蔽に用いられる材料から放出される微量の蒸気、及びその他の粒子を使用する。
【0003】
質量分析、例えばイオントラップ質量分析はトレース検出において実用の可能性があると認識されている。質量分析は、粒子の質量、ひいては試料の元素組成を決定するために試料からの荷電粒子の質量電荷比を測定する。質量分析の間に試料の成分はイオン化され、その結果、荷電粒子(イオン)が形成される。イオンは、電磁界により分析装置内でそれらの質量電荷比に応じて分離され、イオン信号を生成するために検出される。次いで、イオン信号は分析のために質量スペクトルに加工されてもよい。
【発明の概要】
【0004】
質量分析、特にイオントラップ質量分析等を用いて1つ以上の被分析物(analytes)の有無について試料をスクリーニングするための技術が記載される。1つ以上の実施形態において、スクリーニング技術は質量分析システムを用いて実装することができる。質量分析システムは、イオン化された試料を生成するために試料からイオンを生成し、イオン化された試料をプレスクリーニングして、試料の組成と相関がある出力を生成するよう構成されたプレ質量分析スクリーニング装置(pre-mass spectrometry screening apparatus)と、イオン化された試料の少なくとも一部を受け取り、その試料の質量スペクトルを生成するよう構成された質量分析計とを含む。質量分析システムは、さらに試料ゲートを含む。試料ゲートは、イオン化された試料の少なくとも一部をプレ質量分析スクリーニング装置から質量分析計に流すために開くように、また、イオン化された試料をプレ質量分析スクリーニング装置から質量分析計に流さないために閉じるように構成されている。処理システムはプレ質量分析スクリーニングの結果を被分析物に関するデータベースと比較する。ここで、被分析物データベース内の被分析物に対するプレ質量分析スクリーニングの結果の相関関係は予備的な正の同定を含む。予備的な正の同定がなされたと処理システムが判断すると、処理システムはある期間、試料ゲートを開放させる。しかし、予備的な正の同定がなされなかったと処理システムが判断すると、処理システムは試料ゲートを閉じたままにする。
【0005】
1つ以上の実施形態において、こうした技術は、質量分析によって1つ以上の被分析物について試料をスクリーニングする方法として実装することができる。この方法によると、イオンはイオン化された試料を生成するために試料から生成される。そして、イオン化された試料のプレ質量分析スクリーニングが行われる。処理システムはプレ質量分析スクリーニングの結果をメモリに格納されている被分析物データベースと比較する。ここで、データベース内の被分析物に対するプレ質量分析スクリーニングの結果の相関関係は予備的な正の同定を含む。予備的な正の同定がなされたと処理システムが判断すると、試料ゲートがある期間、開いて、イオン化された試料の一部を質量分析計のイオントラップに通すことができる。予備的な正の同定がなされなかったと処理システムが判断すると、試料ゲートは閉じたままであり、イオン化された試料を質量分析計のイオントラップに通すのを阻止する。
【0006】
この概要は、以下の発明を実施するための形態でさらに説明される概念の抜粋を簡略化された形態で紹介するために提供されるものである。この概要は、特許請求の範囲の主題のうち、必要とされる、又は必須とされる特徴を特定することを意図するものではないし、特許請求の範囲の主題の範囲を決定するにあたって補助として用いられるものでもない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の例示的な実装による試料分析システムの概略図である。
図2】例えば図1に示される、本開示の例示的な実装による試料分析システムを用いて試料を導入するための方法を示すフロー図である。
図3】例えば図1に示される、本開示の例示的な実装による試料分析システムを用いて試料を導入するための方法を示すフロー図である。
図4】実施例に係る試料分析タイミングの図解説明である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な説明は添付の図面を参照して説明される。図面において、参照番号の最も左の数字は、その参照番号が最初に現れる図面を特定する。明細書や図面の異なる例における参照番号の使用は、同様の又は同一のアイテムを示すこともある。
【0009】
質量分析は、特定の質量のイオンが選択され、フラグメント化され、そして、そのフラグメントの質量スペクトルが(例えば、MS/MS技術を用いて)分析される場合に最も選択的である。しかし、全ての収集された試料を十分にMS/MS分析するには非常に時間がかかり、従って、現実の環境におけるセキュリティスクリーニングでの使用には適していない。さらに、質量分析による試料の分析が繰り返されると、質量分析計のイオントラップが急速に汚されることになる。結果として、イオントラップをメンテナンスしなければならない頻度が一般に高くなってしまう。
【0010】
したがって、質量分析の解析に先だって試料を事前に分析するためのシステム及び方法が記載される。実装において、事前の分離又は分析ステップを実行するためのシステムは、初期の被分析物をプレスクリーニングし、その後のMS/MS分析を誘導、及び/又は管理するのにイオン移動度分光分析(IMS)を用いることができる。分析機器(例えば、質量分析計)におけるイオンの流入及び分析には時間がかかり、過剰のイオン流入は分析精度に影響を及ぼすこともあるため、事前分析により効率性が向上する。事前分離ステップで得られた情報は、さらなる分析のためのイオンの流入を許可又は却下するゲート機構を制御するために用いられる。
【0011】
図1は、本開示の例示的な実装による質量分析システム100を示す。図示されるように、質量分析システム100は、イオン源102と、プレMS(質量分析)スクリーニング装置からの試料の流入を阻止するよう構成され、ライブラリ126における1つ以上の被分析物に対するプレMSスクリーニング装置からの出力の相関時に、試料の一部を通すことを許可するように構成されている試料ゲート104,112と、時間内の移動度が異なるイオンを分離するためのドリフト管106,110と、イオン濃度を検出する検出器108,116と、IMS同定がなされている間、イオンパッケージを遅らせるための第二のドリフト管110と、イオントラップ114と、スペクトルのライブラリ126(例えば、被分析物データベース)と、生成されたスペクトルとライブラリのスペクトルとの高速の比較を(例えばソフトウェアを介して)可能にするように構成された処理システム(例えば、プロセッサ118)と、生成されたスペクトルを(例えば、前記プロセッサによって実行されるソフトウェアで具体化される)をライブラリのスペクトルと比較し、このスペクトルの比較に基づいて第2の試料ゲート112を開くか閉じるかを決定するように構成されたコンパレータアルゴリズム124とを含む。質量分析システム100は、イオン移動度分光計、ガスクロマトグラフ、微分型IMS、進行波IMS、及び高電界非対称波形IMSのようなプレ質量分析スクリーニング装置を含んでもよい。プレ質量分析スクリーニング装置は、イオン源102と、試料ゲート104と、ドリフト管106と、検出器108とを含むことができ、試料の組成に相関した出力を発生するよう構成することができる。
【0012】
質量分析システム100はイオン源102を含んでいる。イオン源102は荷電粒子を生成し、気相の試料分子をイオンに変換する装置を含んでもよい。幾つかの実装において、イオン源102は、イオンと荷電粒子を生成するために大気圧化学イオン化を利用するように構成された装置を含んでもよい。大気圧化学イオン化においては、ベータ放射線源が分子をイオン化する小型のドリフトチャンバ内に入る蒸気を発するように試料物質が加熱される。その結果、大きさ、質量、形状に応じて分離されたイオンはファラデーカップのような検出器108の方へ加速する。幾つかの実装において、試料の分子は、コロナ放電、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧光イオン化(APPI)及び/又は放射線源を利用するように構成された装置によってイオン化されてもよい。本明細書で用いられる「試料」という用語は、分析される、又は分析すべき物質を指す広い意味で用いられる。試料は、自然物、及び/又は合成物、生物物質、環境物質のいずれでもよく、また、試料は任意数及び任意の組み合わせの被分析物、物質、化合物、組成物、粒子等(例えば、爆発物、麻薬、密輸品)を含むことができる。
【0013】
幾つかの例では、イオン源102は、関心のある試料からの物質を多数のステップでイオン化することができる。例えば、イオン源102は後に試料をイオン化するのに用いられるガスをイオン化させるコロナを発生することができる。ガスの例には、窒素、水蒸気、空気中の気体等が含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0014】
実装において、イオン源102はポジティブモード、ネガティブモードで作動し、ポジティブモード及びネガティブモードに切り替えることができる。例えば、ポジティブモードでは、イオン源102は関心のある試料から陽イオンを発生させる。一方、ネガティブモードでは、イオン源102は陰イオンを発生させる。ポジティブモード、ネガティブモードでのイオン源102の作動又はポジティブモードとネガティブモードの切り替えは実装の好み、予測される試料の種類(例えば、爆発物、麻薬、有毒工業用化学薬品)等に依存する。さらに、イオン源102は(例えば、試料の導入、ゲートの開放、事象の発生等に基づいて)周期的にパルス化することができる。
【0015】
質量分析システム100は試料ゲート104,112を含む。試料ゲート104,112は試料または試料の一部がドリフト領域(例えば、第1のドリフト管106、第2のドリフト管110)を経て検出器(例えば、ファラデーカップ108、電子倍増管116)に流れるように短期間開閉するよう構成することができる。実装において、試料ゲート104,112は、イオンも中性ガス分子もブロックするように構成される高速切換ガス弁を含んでもよい。これは特に、質量分析計内の真空が限られた容量のポンプ系統によって維持される場合に有利である。他の実装において、試料ゲート104,112は高速空気弁を含んでもよい。幾つかの実装において、試料ゲート104,112は、電位差が印加、又は、除去されるワイヤのメッシュを含んでもよい。さらに、他の実装では、試料ゲート104,112は電子シャッターを含んでもよい。例えば、試料ゲート104,112はブラッドベリー−ニールセン・シャッターを含んでもよい。幾つかの実施形態では、試料ゲート104,112はイオンゲートを備える。
【0016】
質量分析システム100は、時間内に異なる移動度を有するイオンを分離するためのドリフト管106,110を含む。ドリフト管では、化学種がイオン移動度に基づいて分離する。ドリフト管106,110は、これらの管にそってイオンを引き付けるために、及び/又はドリフト管106,110の中で一般に試料ゲート104,112の反対側に配置されている検出器の方へイオンを向けるように、電界を印加するためにその長さに沿って間隔をあけた電極(例えば、1つ以上の導体トレースによって形成される集束リング)を有している。例えば、電極を含むドリフト管106,110はこれらのドリフト管内に実質的に均一の電界を印加することができる。試料イオンは、様々な試料イオンの飛行時間を分析するための分析器具に接続される検出器108または電子倍増管116に収集される。例えば、検出器108又はドリフト管106,110の遠端の電子倍増管116はドリフト管106,110に沿って通過するイオンを収集する。イオンは、検出器108又は電子倍増管116で、最も速いものから最も遅いものという順に記録され、測定された試料の化学成分に対する応答信号特性を生成する。
【0017】
実装において、ドリフトガスは一般に検出器108又は電子倍増管116へのイオンの走行経路とは反対の方向に、ドリフト管106,110を経て供給することができる。例えば、ドリフトガスは、検出器108又は電子倍増管116の近傍から試料ゲート104,112の方へ流すことができる。ドリフトガスの例には、窒素、ヘリウム、空気、再循環空気(例えば、洗浄及び/又は乾燥される空気)等が含まれるが、これに限定されるものではない。例えば、イオンの流れる方向に逆らって空気をドリフト管106,110に沿って循環させるためにポンプを用いることができる。空気は、例えばモレキュラーシーブパックを用いて乾燥及び洗浄することができる。
【0018】
質量分析システム100は、電荷に基づいてイオンを検出するように構成された検出器108を含む。幾つかの実装において、検出器108は簡易なファラデープレート又はファラデーカップを含んでもよい。ファラデーカップは、真空中で荷電粒子を捕捉するよう設計された金属(導電性)のカップである。ファラデーカップで得られた電流を測定し、且つ分析して、カップに当たったイオンや電子の数を決定することができる。他の実装においては、検出器108,116は電子増倍管を含んでもよい。電子増倍管は入射電荷を増幅させる真空管構造とすることができる。二次電子放出といわれる過程において、単一の電子は、二次電子放出物質に当たると、およそ1つから3つの電子を放出する。電位がこの金属プレートと他のもう1つの金属プレートとの間に印加される場合、放出電子は隣の金属プレートまで加速し、さらに多くの二次電子放出を引き起こすようになる。これは、多数回繰り返され、金属のアノードにより全て集められて大きな電子のシャワーになる。これらの電子は測定され、被分析物データベースに相関させることができる。
【0019】
質量分析システム100はプロセッサ118、ライブラリ126、及びコンパレータアルゴリズム124を含む。実装において、質量分析システム100の一部又は全部の構成要素は、コンピュータの制御下で動作する。例えば、プロセッサ118は、質量分析システム100と一体に、又はその中に含めて本明細書に記載される質量分析システム100の構成要素及び機能をソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア(例えば、固定ロジック回路)、手動プロセス、またはそれらの組み合わせを用いて制御することができる。本明細書で用いられる「コントローラ」、「機能性」、「サービス」、及び「ロジック」という用語は概して質量分析システム100を制御することに関連するソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア又はソフトウェアとファームウェア或いはハードウェアとの組み合わせを表す。ソフトウェア実装の場合、モジュール、機能性、ロジックは、プロセッサ(例えば、CPU)で実行される際の特定のタスクを実行するプログラムコードを表す。プログラムコードは一つ以上のコンピュータ可読メモリデバイス(例えばコンパレータアルゴリズム124、ライブラリ126、内部メモリ、及び/又は一つ以上の有形記憶媒体)等に格納することができる。本明細書で記載される構造、機能、アプローチ、及び技術は様々なプロセッサを有する様々な汎用のコンピュータプラットフォーム上に実装することができる。
【0020】
例えば、検出器108,116は、イオン源102に供給されるエネルギーを制御するためのプロセッサ118に結合させることができる。プロセッサ118は処理システム、通信モジュール、及びメモリを含んでもよい。処理システムはプロセッサ118の処理機能を提供するものであって、任意数のプロセッサ、マイクロコントローラ、その他の処理システム、及び、コントローラによってアクセスされ又は生成されるデータや他の情報を格納するための専用又は外部のメモリを含んでもよい。処理システムは、本明細書に記載されている技術を実装する1つ以上のソフトウェアプログラムを実行することができる。処理システムは、それが形成される材質、又はそれに用いられる処理メカニズムによって限定されることもないため、処理システムは半導体、及び/又はトランジスタ(例えば電子集積回路(IC)部品)等によって実装されてもよい。通信モジュールは、検出器108,116の構成要素と通信するように作動的に構成される。通信モジュールはまた、処理システム(例えば、検出器108,116からの入力を処理システムへ伝えるために)に通信可能に結合される。通信モジュール、及び/又は処理システムはまた、インターネット、携帯電話ネットワーク、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、ワイヤレスネットワーク、公衆電話回線網、イントラネット等を含むも、これらに限定されない様々な異なるネットワークと通信するように構成されてもよい。
【0021】
メモリは、ソフトウェアプログラム、及び/又はコードセグメントといったようなコントローラの動作に関連する様々なデータ、又は本明細書に記載されるステップを実行するために処理システム及び、場合によってはコントローラの他の構成要素に指示する他のデータを格納するためにストレージ機能を提供する有形のコンピュータ可読媒体の例である。したがって、メモリは、質量分析システム100(構成要素を含む)を作動させるための命令プログラムといったようなデータや、スペクトルデータ等を格納することができる。単一のメモリが示されているが、広く様々な種類のメモリ、及びメモリの組み合わせ(例えば有形のメモリ、非一時的メモリ)を用いてもよい。メモリは処理システムと一体としたり、スタンドアロンとしたり、双方のメモリの組み合わせとしたりすることができる。
【0022】
メモリは、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、フラッシュメモリ(例えば、セキュアディジタル(SD)メモリカード、ミニSDメモリカード、及び/又はマイクロSDメモリカード)、磁気メモリ、光学メモリ、ユニバーサルシリアルバス(USB)メモリデバイス、ハードディスクメモリ、外部メモリ、及び他の種類のコンピュータ可読媒体のような、リムーバブル及びノンリムーバブルのメモリの構成要素を含むことができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。実施形態において、メモリは、加入者識別モジュール(SIM)カード、汎用加入者識別モジュール(USIM)カード、汎用集積回路カード(UICC)等によって提供されるメモリのような、リムーバブル集積回路カード(ICC)メモリを含んでもよい。
【0023】
幾つかの実施形態において、システム、装置及び、方法はユーザインタフェースを含むプロセッサ118を備える。ユーザインタフェースは、ユーザが所望なシステムパラメータを選択し、その結果を観察し(例えば、アラームを発したり、化合物の同定をしたりし)、或いは、システム又は装置を作動させるために他の任意の機能を実行させることを可能にする。幾つかの実施形態において、ユーザインタフェースはデータベースを選択するようにユーザに問い合わせる。
【0024】
質量分析システム100はイオントラップ114を含む。イオントラップ質量分析は、均一の電界を通るイオンの移動度の差に基づいて、非常に低い濃度の化学物質を検出することができる化学物質の検出及び分析のための機器分析方法である。イオントラップは、真空のシステムまたは管の領域内にイオンを捕捉する電界又は磁界の組み合わせを含んでもよい。実装において、イオントラップ114はより大きい質量分析システムの一部とすることができる。イオンはその後、検出器116を用いて測定することができる。さらに、質量分析システム100はイオントラップ114及び、タンデム質量分析(MS/MS、MS、又はMS)をすることができる質量分析計を含んでもよい。タンデム質量分析は、ステージ間に生じる或る形態のフラグメンテーションで質量分析の選択に関わる多数のステップを含んでもよい。幾つかの実装において、MS/MSは時間に合わせたタンデム質量分析及び、空間に合わせたタンデム質量分析を含んでもよい。空間に合わせたタンデム質量分析は、器具の構成要素(例えば、QqQ又はQTOF)の物理的な分離を含む。一方、時間に合わせたタンデム質量分析はイオントラップの使用を含む。
【0025】
実装において、様々な分析装置は、本明細書に記載されている構造、技術、アプローチ等を使用することができる。したがって、質量分析システム100が本明細書に記載されているが、様々な分析機器は、本明細書に記載されている技術、アプローチ、構造等を使用することができる。これらの装置は限られた機能(例えば、薄型装置)、又は堅牢な機能(例えば、厚型装置)を有するように構成されてもよい。したがって、装置の機能は、その装置のソフトウェア又はハードウェアリソース、例えば、処理能力、メモリ(例えば、データ蓄積容量)、分析能力等に関係する。
【0026】
次に、質量分析の解析に先だって被分析物をプレスクリーニングための例示技術について説明する。図2は、上述した図1に示される例示の質量分析システム100のような、プレ質量分析スクリーニング装置及び質量分析計を用いて被分析物をトレース検出するための例示実装におけるプロセス200を示している。
【0027】
イオン及び化合物に関するデータのライブラリはプロセッサによってロードされる(ブロック202)。ライブラリ126はスペクトルのデータベース、特定のイオン及び/又は化合物についての様々な情報を含んでもよい。例えば、ライブラリ126はIMS、MS、及び/又はMS/MSスペクトルに関する情報を含んでもよい。幾つかの実施形態において、プロセッサは、データベースを選択すると適切なライブラリをロードし、適宜(使用されるアルゴリズム、事象のタイミング等に応じて)作動パラメータを設定する。
【0028】
次に、イオンが試料から生成され(ブロック204)。図1に示されているイオン源102は関心のある試料からイオンを生成する。実装において、大気圧化学イオン化を利用するように構成されたイオン源102は、蒸気を生成する試料物質を加熱するのに用いられる。この実装において、得られた蒸気はドリフト管106内に導入することができる。試料からイオンを発生させるために、コロナ放電、電子スプレーイオン化(ESI)、大気圧下の光イオン化(APPI)、及び/又は放射線源を用いることを含む他の方法を使用してもよい。
【0029】
IMSスペクトルはイオン化された試料から生成される(ブロック206)。例えば、イオンのパッケージは、ゲート104(例えば、ブラッドバリー−ニールセン・シャッター)を短期間開くことによって、図1に示されるドリフト管106内に向けられる。イオンの一部は検出器108(例えば、ファラデーカップ)に当たる。その後、プロセッサ118は検出器108に当たったイオンを計測してIMSスペクトルを生成させる。イオンの残りの部分は検出器108(例えば、ファラデーカップ)を通って、イオントラップ114の方向に移動するが、ドリフト管110とイオントラップ114との間に配置されている第2の閉じられたゲート112によって止められる。
【0030】
IMSスペクトルは分析され、被分析物データベースと比較される(ブロック208)。例えば、プロセッサ118、及び/又はコンパレータアルゴリズム124は、sIMSスペクトルをライブラリ126にある他のスペクトルと比較、及び/又は相関を取ることができる。プロセッサ118、及び/又はコンパレータアルゴリズム124が、得られたIMSスペクトルをライブラリ126にある他のスペクトルと正の相関を取る場合に、予備的な正の同定がなされる。実装において、p値が0.1より小さいときに同定が決定され、p値が0.9より大きいときに負の同定が決定される。負の同定の場合、試料分析は終了し、プロセッサは「ノーアラーム」状態を指示する(ブロック212)。幾つかの実装において、分析の多くは通常のIMS分析ほどの時間はかからない。ゲート112は閉じたままであるため、イオントラップ114はこの試料によっては汚れない。所要に応じ、ドリフト管110内の試料の余分な遅延ドリフト時間の量は適切な分析が行われるように設定することができる(時間のかかるアルゴリズム、及び/又は試料分析が多いほどドリフト時間は長い)。幾つかの実施形態では、ドリフト時間は使用される特定のアルゴリズムやデータベースに関連付けられたプリセット時間である。幾つかの実施形態では、ユーザがプリセット時間を選択又は調整できる。さらに、IMSスペクトルの分析及びライブラリ内の他のスペクトルとの比較を含む、又は先だって行われるステップはプレMSスクリーニングと見なすことができる。
【0031】
IMSスペクトルが正の同定を与えた場合には、第2のゲートが短期間パルス的に開いてイオンをイオントラップの中に入れる(ブロック210)。例えば、試料の小部分は、ゲート112をパルス的に開くことによってドラフト管110及び/又はイオントラップ114に入れられる。実施形態によっては、ゲート112はルックアップテーブルに対応するドリフト時間(他のドリフト時間と異なっていてもよい)が検出されると、ゲート112は短期間開く。そこで、この特定のドリフト時間を有するイオンがイオントラップ114に入る。スペクトル分析のための十分な時間をかけるために第2のドリフト管110を検出器108とゲート112との間に配置することができる。
【0032】
イオントラップに入るイオンはMSスペクトルを生成するために用いられる(ブロック214)。MSスペクトルはライブラリ126にある他のスペクトルと比較される。先に説明した処理手順を用いて被分析物の正の同定が得られる(ブロック216)。第2の正の同定がなされた場合に、ゲート112がパルス的に開き(ブロック218)、ライブラリ126にある既知のスペクトルと比較されるMS/MSスペクトルを生成する(ブロック220)ために試料の別の部分(例えば、イオンのパッケージ)をトラップに入れる。他の技術を実装でき、狭い質量範囲内のイオンのみがトラップされるようにイオントラップ114を動作させるのに用いることができるが、対応するイオンの質量はライブラリ126にあるルックアップテーブルから読み出される。これにより、さらにトラップの汚れがさらに減少し、結果として化学ノイズのほとんどない質量スペクトルをもたらす。第3の正の同定がされた場合(ブロック222)、アラームが発せられる(ブロック224)。このように、個々のステップが10%という比較的高いフォールスアラーム率(FAR)を有する場合であっても、総合FARは僅か0.1%である。
【0033】
MSスキャンを行う第2のステップは、選択性を失うことなくスキップしてもよい。親イオン質量がルックアップテーブルにおける親イオン質量に対応しない場合、イオンは分離の間に排出され、次のMS/MSスキャンでは質量スペクトルは記録されない。これは負のID(同定)を正しくもたらす。親イオンが期待した質量を有する場合、親イオンはフラグメント化されるようにトラップする。フラグメントイオンスペクトルは記録され、ライブラリ126におけるルックアップテーブルの質量と比較される。このように、正のIDだけが正確なドリフト時間(大きさ、及び形状)、前駆体イオン質量及びフラグメントイオン質量によって生じ、非常に高い選択性をもたらす。
【0034】
ゲーティング又は試料処理のメカニズムに制限はない。上記の基準を達成する任意の適切なメカニズムを採用することができる。幾つかの実施形態においては、弁が、検出器108とイオントラップ114との間に配置されて、試料(すなわち、気体)の全て、実質的に全て、又は、所望する一部をブロックする。さらに、ポンプ、真空、又は、他の任意の所望なメカニズムを用いて試料を管理することができる(Emary et al.,J.Am.Soc.Mass Spectrom.,1:308(1990);“イオントラップ内へのパルス化ガスの導入”を参照)。
【0035】
あらゆる場合に全てのステップを必要とするのではない。プレスクリーニングにIMSを用いるディシジョンツリーの例示的な概要が図3に示されている。例えば、IMFドリフト時間と関心のあるイオンの親イオン質量との間の関係が十分に信頼できる程度に知られている場合には、MSスペクトル生成ステップ(ブロック214)はスキップすることができる。この場合で、しかもIMSスペクトルを取得した(ブロック206,306)IMSドリフト時間の後に、パルス的に開いてから(ブロック210,312)、単一質量のMSスペクトル(ブロック314)及び/又はMS/MSスペクトル(ブロック316)を取得することができる。その後の正又は負の同定(ブロック318)は上記の処理手順と同様の処理手順で得ることができる。実装において、負の同定がMS/MSスペクトルから得られた場合(ブロック316)、予想されるイオン質量を有する前駆体イオン又は予想される前駆体イオンのフラグメンテーションに基づく相関関係正の同定を表す。このような決定は、メモリ120及び適切なアルゴリズム(例えば、コンパレータアルゴリズム124)を用いるプロセッサ118によって管理される。ここで、パラメータは予備設定プログラムによって、及び/又はユーザによって選択されてもよい。
【0036】
幾つかの実施形態において、IMSスペクトルとMSスペクトルを同時に記録することによって高い感度が実現される。図4に示されるIMS/MSのタイミング図は同時記録の例を示している。幾つかの実施形態において、IMSスキャンは約25ミリ秒かかり、一方、イオントラップMS/MSデューティーサイクルは約50ミリ秒かかる。実装において、2つのスキャン(例えば、IMSスキャン及びMS/MSスキャン)は、被分析物の正の同定、及びイオントラップ114を開始するか否かを決定するのに用いることができる。一のスキャンから次のスキャンまでにIMSのピークトリガ時間が変わる場合には、イオントラップ処理を終了せずに、一のIMSスキャンを待機する必要がある。この実装では、事象(例えば、信号の記録、ゲーティング等)のタイミングに制限はない。図4に示される図は、正の同定が単一の正のMS/MSの結果に基づいてなされると想定している。幾つかの実施形態では、全体として、又は、ほぼ全体として得られたデータセットを使用して、スキャンと分析が終わった後に最終同定をしてもよい。幾つかの実装では、質量分析システム100は極性を切り替えられるようにしてもよい。幾つかの実装では、1つ以上のIMSピークがルックアップテーブルにおけるドリフト時間に対応することがある。これらの実装において、イオントラップは、いくつかの別個の狭い質量範囲内のイオンが(例えば、格納波形逆フーリエ変換(SWIFT)法を用いることにより)トラップされるように設定することができる。
【0037】
このようなシステム、装置、及び、方法によって性能が改良される。MSを用いるイオントラップは、大きなライブラリ、及び/又はデータベースと比較することによって多重の混合物中の多数の化合物を同定することができる。しかしながら、その処理は、多くのアプリケーションにおいて遅すぎることがある(100ライブラリ@1秒/1分析>>10秒/1試料)。ここで提供されるシステム、装置、及び方法において、トラップは(例えばプレスクリーニング(例えば、IMSスペクトル)で正の同定があるときのような)少数のケースにおいてのみ用いられる。これによって、MS及びMS/MSスペクトルを生成するのに時間がかかる場合でも、平均分析時間を許容レベルに低減することができる。
【0038】
IMSで示されているように、質量分析システム100(例えば、IMSトラップ計器)は下の表1に示される分析のための時間を必要とする。表1に示されている時間は例であり、必ずしも最適な例を表すものではない。例えば、完全なIMS+MS+MS/MSのシーケンスには約15秒かかる(例えば、1スキャンあたり5秒、または5+5+5=15秒)。しかし、MS/MS段階の前に分析を中断することのできる時間の大部分は、全てのシーケンスにかかる平均時間が僅か0.1*(5+0.1*(5+0.9*5))=0.88秒となるようにする。下に示す例においては、平均分析時間はIMS測定だけの場合の5秒から、1つの機器がIMSからMS/MSまでのシーケンスを実施する場合の6.9秒までである。
【0039】
【表1】
【0040】
イオントラップは急速に汚れる傾向にある。洗浄とメンテナンスに要する頻度及び時間は、用途によっては(例えば、エアポートでのスクリーニング、又は大量の試料がある場合)容認できないことがある。汚れは時間をかけてトラップ内にもたらされる物質の量に比例すると想定するのが妥当である。正のIMSピークによって同定されたイオンだけがトラップに到着するため同定が不要であるときにイオン流動がトラップから偏向される場合に、物質の極めて少量部分がイオントラップに到達する。以下に記載の表2の例では、IMSにおける検出器108(例えば、ファラデーカップ)に到達する汚れの僅か1.3%だけがイオントラップ114に到達する。
【0041】
【表2】
【0042】
本明細書における質量分析システム100、及び方法は様々な形態で具体化することが可能である。実装において、システムは小さく(例えば、デスクトップサイズ)、軽く(例えば20kg以下)、するよう構成してもよい。幾つかの実施形態において、本明細書におけるシステム、装置、方法は、100以上の化合物のライブラリに対して例えば5%以下のフォールスアラーム率でスキャンするよう構成してもよい。幾つかの実施形態において、100以上の化合物のライブラリと比較したとき、一の試料にある分析物の検出を15秒以内の後にすることができる(例えば、10秒以内にすることもできる)。幾つかの実施形態において、システム、装置、そして方法は、1時間に50試料以上のスループット率で100以上の化合物ライブラリをスキャンするよう構成してもよい。
【0043】
スペクトルのデータベースは特定のイオン及び/又は化合物についての様々な種類の情報を提供することができる。幾つかの具体化において、データベースは化合物と、対応するドリフト時間、イオン質量、イオン質量の一部を記録しているルックアップテーブルを供給する(図3参照)。データベース及び/又はライブラリは1つ以上のサブデータベースに分割され、(例えば、第1のサブデータベースはバイオテロ化合物に関連するイオンを、第2のデータベースは環境有毒化合物に関連のあるイオンを含むというように)それぞれのサブデータベースは特定のタイプ又は特徴の化合物又はイオンを含むことができる。例えば、ユーザはユーザのニーズによって、及び/又は分析される試料についての知識に基づいて1つ以上のデータベースを選択することができる。
【0044】
いくつかの実施形態において、質量分析システム100および方法は、ユーザインタフェースを有するコンピューティング構成要素を備える。ユーザインタフェースによって、ユーザは所望のシステムパラメータを選択し、その結果を観察し(例えば、アラームを発したり、化合物の同定をしたり)、或いは、質量分析システム100が作動させる任意の他の機能を実行することができる。一例では、データベースを選択するためにユーザインタフェースはユーザに質問をする。実装においては、データベースを選択することができ、プロセッサは適切なライブラリをロードすることができ、適宜(使用されるアルゴリズム、事象のタイミング等に応じて)作動パラメータを設定することができる。
【0045】
本明細書で用いられているように、「プロセッサ」、「デジタルシグナルプロセッサ」、「DSP」、「中央演算ユニット」、「CPU」という用語は相互に変換可能であり、これらの用語はプログラムを読むことができ、プログラムに従って一連のステップを実行することができる装置を表している。
【0046】
本明細書で用いられているように「アルゴリズム」という用語は、機能を実現するための手続を表している。
【0047】
本明細書で用いられるように、「コンピュータ・メモリ」、「コンピュータ・メモリ・デバイス」という用語はコンピュータプロセッサによって読むことができる全ての記憶メディアを表す。コンピュータ・メモリの例には、RAM、ROM、コンピュータチップ、デジタルビデオディスク(DVD)、コンパクトディスク(CD)、ハードディスクドライブ(HDD)、フラッシュメモリ、及び磁気テープが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
本明細書で用いられるように、「コンピュータ可読媒体」は、情報(例えば、データ及び指示)を蓄積し、コンピュータプロセッサに提供する全ての装置又はシステムを表す。コンピュータ可読媒体の例にはDVD、CD、ハードディスクドライブ、磁気テープが含まれるが、これらに限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4