(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
特に電気機械(14)を制御するために、空間ベクトル変調によってインバータ(10)を制御する方法であって、特に前記電気機械(14)に複数相により電流(IU,IV,IW)を供給するために、前記インバータ(10)が複数の制御可能なスイッチ(S)を備え、複数相の電流(IU,IV,IW)を供給するように構成されており、目標位相角(alpha1)および目標振幅(I1)を有する目標電流空間ベクトル(I1*)があらかじめ設定され、電流空間ベクトル(I2*)の形式で前記電流(IU,IV,IW)を供給するために、前記スイッチ(S)の連続した複数の異なる切換状態(V1〜V7)が設定されるように前記インバータ(10)が制御される方法において、
前記目標位相角(alpha1)とは異なる位相角(alpha2)を有する電流空間ベクトル(I2*)が供給されるように前記インバータ(10)を制御し、
前記位相角(alpha2)と前記目標位相角(alpha1)との差(delta_beta)を前記目標電流空間ベクトル(I1*)の回転速度(f)に応じて制限することを特徴とする方法。
特に電気機械(14)を制御するために、インバータ(10)を制御するための装置(18)であって、前記インバータ(10)が複数の制御可能なスイッチ(S)を備え、該スイッチ(S)が、特に前記電気機械(14)に複数相により電流を供給するために、制御器(18)によって目標位相角(alpha1)および目標振幅(I1)を有する目標電流空間ベクトル(I1*)に応じて複数相の電流(IU,IV,IW)を供給するように接続されており、前記制御器(18)が前記インバータ(10)を制御するように構成されており、これにより、電流空間ベクトル(I2*)の形式で電流(IU,IV,IW)を供給するために、前記インバータ(10)がスイッチ(S)の連続した複数の異なる切換状態(V0〜V7)をとる装置(18)において、
前記制御器(18)が、前記目標位相角(alpha1)とは異なる位相角(alpha2)を有する電流空間ベクトル(I2*)が供給されるように前記インバータ(10)を制御するように構成されており、前記位相角(alpha2)と前記目標位相角(alpha1)との差(delta_beta)が前記目標電流空間ベクトル(I1*)の回転速度(f)に応じて制限されることを特徴とする装置(18)。
駆動出力を供給するための少なくとも1つの電気機械(14)と、該電気機械(14)を制御するためのインバータ(10)と、請求項11に記載のインバータ(10)とを制御するための装置(18)とを備える自動車駆動系。
【発明の概要】
【0010】
本発明によれば、冒頭に挙げた方式の空間ベクトル変調によりインバータを制御する方法が提供され、インバータは、目標位相角とは異なる位相角を有する電流空間ベクトルが供給されるように制御され、位相角と目標位相角との差は目標電流空間ベクトルの回転速度に応じて制限される。
【0011】
さらに、本発明によれば、冒頭に挙げた形式のインバータを制御するための装置が提供され、制御器は、目標位相角とは異なる位相角を有する電流空間ベクトルが供給されるようにインバータを制御するように構成されており、位相角と目標位相角との差は目標電流空間ベクトルの回転速度に応じて制限される。
【0012】
さらに、本発明によれば、駆動出力を供給するための少なくとも1つの電気機械と、電気機械を制御するためのインバータと、上記形式のインバータを制御するための装置とを備える自動車駆動系が提供される。
【0013】
目標位相角とは異なる位相角を有する電流空間ベクトルが供給されることにより、特に熱により過負荷が加えられる状況または過負荷が加えられる恐れのある所定の状況においていずれか1つの制御可能なスイッチの負荷を低減することができ、この場合、過負荷を加えられる制御可能なスイッチの負荷を低減し、より大きい負荷を他の制御可能なスイッチに加える位相角を有する電流空間ベクトルが供給される。電流空間ベクトルの回転速度が増大し、所定値を超えた場合には、制御可能なスイッチは高い回転周波数および制御可能なスイッチの温度担体によっていずれの場合にも均一に負荷を加えられるので、他のスイッチに負荷が加えられることにより特定のスイッチの負荷が低減されることはむしろ不利である。したがって、本発明によれば、あらゆる制御状況においてインバータに適宜に均一に負荷を加えるために、制御状況および電流空間ベクトルの回転速度に応じてインバータを最適に制御することができる。これにより、全般的に負荷値がより小さくなるように制御可能なスイッチを設計することができ、全般的により少ない手間により、より安価にインバータを作製することができる。さらにスイッチの均一な負荷により、インバータの耐用寿命が全般的に延長される。
【0014】
好ましくは、回転速度の増大に伴い差が低減される。
【0015】
これにより、目標電流空間ベクトルの回転速度が極めて小さい場合にも個々のスイッチの大きい負荷を補正することができ、インバータの危険な負荷の位相を補正することができる。
【0016】
さらに好ましくは、電流空間ベクトルの目標位相角に応じて差が設定される。
【0017】
これにより、特定の危険な目標位相角について、個々の制御可能なスイッチの特別な負荷状態を補正することができる最適な電流空間ベクトルを個別に設定することができる。
【0018】
さらに好ましくは、差が差範囲内で変更され、差範囲が目標電流空間ベクトルの回転速度の増大に伴い減じられる。
【0019】
これにより、差に基づいて全体としてより大きい電気機械およびインバータの総負荷を、個々の制御可能スイッチの負荷を低減する必要性に適合させることができる。
【0020】
さらに好ましくは、あらかじめ規定された回転速度未満で、あらかじめ規定されたスイッチの負荷目標値に応じて位相角が設定される。
【0021】
これにより、電流空間ベクトルの危険な回転速度において、インバータの特定の負荷分布を設定することができる。
【0022】
この場合、特に好ましくは、電流空間ベクトルの位相角および振幅は、目標電流空間ベクトルの目標位相角および目標振幅に応じた出力と同一の出力が得られるように設定される。
【0023】
これにより、制御される負荷の制御が損なわれることなしに、位相角の差を設定することができる。
【0024】
さらに好ましくは、電流空間ベクトルと目標電流空間ベクトルとの最大差は30°である。
【0025】
これにより、インバータの総負荷を制限することができる。さもなければ、電流空間ベクトルの振幅は位相角と目標位相角との差の増大に伴って増大し、インバータの他の制御可能なスイッチに過度に負荷が加えられるからである。
【0026】
さらに好ましくは、目標電流空間ベクトルの第1所定回転速度と第2所定回転速度との差範囲が線形に減じられる。
【0027】
これにより、異なる制御方法の間の移行段階を制御技術的に簡単な手段で移行させることができ、2つの制御方法の相互作用を利用することができる。
【0028】
さらに好ましくは、インバータによって電気機械が制御され、電気機械のロータ角度に応じて目標電流ベクトルが決定される。
【0029】
これにより、制御技術的にわずかな手間により目標空間ベクトルを決定することができる。
【0030】
この場合、特に好ましくは、電気機械によって供給されるトルクが目標電流空間ベクトルによって供給されるトルクと同一となるように、あらかじめ規定された回転速度未満の電流空間ベクトルの位相角および振幅が決定される。
【0031】
これにより、位相角が目標位相角とは異なっている場合にもあらかじめ規定された目標値に応じて電気機械を制御することができ、位相角の変化は、電気機械の制御に影響を及ぼさない。
【0032】
結果として、本発明により、異なる制御状況において、特に電流空間ベクトルの回転周波数が異なる場合に、制御される負荷を最適に制御することができ、インバータに均一に負荷が加えられ、負荷の制御により電流利用率が最適となる。
【0033】
本発明による方法の特徴、特性、および利点は、本発明による装置にも当てはまるか、もしくは適用可能であることは自明である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1には、電気消費機器、特に電気機械を制御するためのインバータが概略的に示され、全体に符号10が付されている。
【0036】
インバータ10は直流電圧源12に接続されており、この場合には電気機械14として構成された電気消費機器14に三相式に電流を供給するために用いられる。インバータ10は3つのハーフブリッジを備え、これらのハーフブリッジは直流電圧源12に対して並行に接続され、それぞれ2つの制御可能なスイッチSを備える。スイッチSの間には、それぞれ電気機械14の相U,V,Wの相導体に接続されたそれぞれ1つのハーフブリッジタップ16が形成されている。
【0037】
スイッチSに対して並行に、逆方向の電流を可能にするそれぞれ1つのフリーホイールダイオードDが接続されている。
【0038】
図1には、スイッチにより供給される相U,V,W、および直流電圧源12の高電位または直流電圧源12の低電位への割り当てに応じて、スイッチSがSHA,SLA,SHB,SLB,SHC,SLCにより示されている。これに対応してフリーホイールダイオードがDHA,DLA,DHB,DLB,DHC,DLCにより示されている。
【0039】
スイッチSを交互に開閉することにより、相導体U,V,Wの間にそれぞれ制御電圧が印加され、これに応じて電気機械14を駆動する相電流IU,IV,IWがそれぞれ設定される。インバータ10は、好ましくは半導体スイッチにより形成されている。インバータ10のスイッチSは概略的に示された制御ユニット18によって交互に開閉され、これにより所定の経過を示す相電圧が供給され、電圧空間ベクトルが供給され、これに応じて電気機械14に相電流IU,IV,IWが適宜に供給される。この場合、電圧ベクトルはインバータ10によって供給され、これに続いて、制御される負荷に応じて電流空間ベクトルが適宜に設定される。
【0040】
図2には、三相電流消費機器14もしくは電気機械14を制御するための空間ベクトル変調を説明するための複合的なベクトル線図が示され、全体に符号20が付されている。
【0041】
このベクトル線
図20には、電気機械14の制御角Alphaを有する電圧ベクトルV
*が示されている。さらにベクトル線
図20には、インバータ10の1つまたは2つのスイッチSが閉じられ、これに応じて電気機械が制御された場合に生じる6つの地電圧ベクトルV1、V2,V3,V4,V5,V6が示されている。例えば、地電圧ベクトルV1およびV2の間の制御角Alphaを有する電圧ベクトルV
*の最長の設定が、地電圧ベクトルV1および地電圧ベクトルV2に対応してインバータ10を交互に制御することにより実現される。両方の地電圧ベクトルV1,V2は、所定の切換周波数により交互に設定され、地電圧ベクトルV1,V2のスイッチオン継続時間が等しい場合には30°の位相角を備える電圧ベクトルV
*が生じる。より大きい制御角Alphaを有する電圧ベクトルV
*を設定する必要がある場合には、適宜に地電圧ベクトルV2のスイッチオン継続時間が延長され、地電圧ベクトルV1のスイッチオン継続時間が短縮される。これにより、インバータ10のスイッチSの周期的な制御により任意の制御角Alphaを有する電圧空間ベクトルV
*を実現することができる。
【0042】
図2に示すように、地電圧空間ベクトルV1,V2よりも小さい値(小さい長さ)を有する電圧ベクトルV
*が設定されることが望ましい場合、インバータ10の上側のスイッチSHA,SHB,SHCもしくは下側のスイッチSLA,SLB,SLCが開かれているいずれか一方のゼロ電圧ベクトルV0,V7が適宜に設定される。それぞれ他のスイッチSは適宜に閉じられている。このように、電圧ベクトルV
*は地電圧空間ベクトルV1およびV2といずれか一方のゼロ電圧ベクトルV0,V7との組合せにより適宜に実現することができる。
【0043】
電圧空間ベクトルV
*に応じて、電流空間ベクトルI
*が設定される。電流空間ベクトルI
*は、制御される電気消費機器14に応じて設定される振幅および位相角を備える。電流空間ベクトルI
*の位相角は、電圧空間ベクトルV
*の位相角αと同位相であってもよいし位相ずれを有していてもよい。
【0044】
電気消費機器14もしくは電気機械14を通電するためには電圧空間ベクトルV
*が供給され、この場合、異なった地電圧空間ベクトルV1〜V6およびゼロ電圧ベクトルV0,V7が急速に連続して設定され、これにより電流空間ベクトルI
*が設定される。電圧空間ベクトルV
*が急速に回転した場合に、インバータ10の異なるスイッチSおよび異なるフリーホイールダイオードDに均一に負荷が加えられ、特に相に均一に負荷が加えられる。電圧空間ベクトルV
*の回転速度が極めて小さいか、またはゼロである場合、例えば電気機械10の回転数が小さい場合には、相U,V,Wのインバータ10の対応するスイッチSおよびフリーホイールダイオードDに長期間にわたって負荷が加えられ、これにより、対応するスイッチSおよびフリーホイールダイオードDの過負荷が生じる場合があり、インバータ10のスイッチSおよびフリーホイールダイオードDには全般的に不均一に、特に相に不均一に負荷が加えられる。スイッチSおよびフリーホイールダイオードDの過負荷を防止するために、異なるスイッチSおよびフリーホイールダイオードDに負荷を分配する措置を講じる必要がある。
【0045】
図3には、地電圧空間ベクトルV0,V1,V2,V7を順次に設定するために、パルス幅変調周期Tにおける三相U,V,Wの相電圧の経過が示されている。パルス幅変調周期Tにおいて、電圧空間ベクトルV
*を正確に設定することができるように、個々の地電圧空間ベクトルV0,V1,V2,V7のスイッチオン継続時間t0,t1,t2,t7を変更することができる。
【0046】
図4には、負荷目標値mの決定が原理的に示されており、全体に符号30により示されている。電圧源12の高い電圧電位に割り当てられたスイッチSHA,SHB,SHC、および電圧源12の低い電圧電位に割り当てられたスイッチSLA,SLB,SLCに、等しく、またはできるだけ同様に負荷を加えるという目標が負荷目標値mを用いて基本的に追及される。この場合、以下では、電圧源12の高い電圧電位に割り当てられたスイッチSHA,SHB,SHCを上方のスイッチSHと呼び、電圧源12の低い電圧電位に割り当てられたスイッチSLA,SLB,SLCを下方のスイッチSLと呼ぶ。
【0047】
入力値として、電圧空間ベクトルV
*の値V、電圧空間ベクトルV
*の位相角Alpha_V、電流空間ベクトルI
*の値I、および電流空間ベクトルI
*の位相角Alpha_Iが用いられる。
【0048】
まず、設定すべき電圧ベクトルV
*のための上側の最大損失を有するいずれか1つの上方のスイッチSHもしくはいずれか1つの上方のフリーホイールダイオードDHが選択される。このスイッチSHもしくはフリーホイールダイオードDHについては、設定すべき電圧空間ベクトルV
*のための最大可能損失P_Hmaxは、理論的には、V7のみがゼロ電圧ベクトルとして使用された場合のために決定される。さらに、設定すべき電圧空間ベクトルV
*のためのこのスイッチSHもしくはこのフリーホイールダイオードDHの最小可能損失P_Hminは、理論的には、32によって示すようにV0のみがゼロ電圧ベクトルとして使用された場合のために決定される。34では、設定すべき電圧空間ベクトルV
*のための下方のスイッチSLもしくは下方のフリーホイールダイオードDLの最大損失を有する下方のスイッチSLもしくは下方のフリーホイールダイオードDLが適宜に選択される。このスイッチSLもしくはこのフリーホイールダイオードDLについては、設定すべき電圧空間ベクトルV
*のための最大可能損失P_Lmaxおよび最小可能損失P_Lminは、V0もしくはV7のみがゼロ電圧ベクトルとして使用された場合のために決定される。これらの損失値から、36では新しい負荷値mが、次の式:
【数1】
により計算される。
【0049】
このようにして決定された負荷値mは、上側の損失と下側の損失とが同一になるように、インバータ10の熱負荷を上側と下側とに分配する。38では、選択された負荷値mを設定し、これに応じてスイッチSおよびフリーホイールダイオードDに均一に負荷を加えるために、スイッチオン時間t0〜t7が計算される。
【0050】
フリーホイールダイオードDおよびスイッチSは異なる負荷限度を有しているので、フリーホイールダイオードDおよびスイッチSの損失P
D,P
Sは、互いに比較することができるように互いに調整もしくは因数分解する必要がある。したがって、フリーホイールダイオードDについては比較出力損失P
DVが、次の式:
【数2】
により決定される。
【0051】
この場合、P
DVはフリーホイールダイオードの比較損失出力であり、P
Dはフリーホイールダイオード損失であり、係数cは定数である。特別な実施形態では、係数cはフリーホイールダイオードDの出力損失P
Dの関数であってもよい。
【0052】
さらに、スイッチSもしくはフリーホイールダイオードDの損失P
D,P
Sは、電圧空間ベクトルV
*の値V、位相角Alpha_V、電流空間ベクトルI
*の値I、および位相角Alpha_Iの関数であることが明らかである。
【0053】
方法30の代替的な実施形態では、負荷目標値mを決定するために、出力損失Pの代わりに、それぞれの構成部材S,Dの電流Iおよび/またはそれぞれの構成部材S,Dの電流の2乗I
2が使用される。
【0054】
図5には、スイッチSおよび/またはフリーホイールダイオードDの推定温度または測定温度T
D,T
Sに基づいて負荷値mを決定し、新しい負荷目標値mを求める方法が示されている。
図5では、この方法が全般的に符号40により示されている。
【0055】
方法40では、作動時にスイッチSもしくはフリーホイールダイオードDの温度に応じて負荷目標値mの決定が行われる。入力値として、スイッチSおよびフリーホイールダイオードDの温度T
D,T
Sが一般に用いられる。42では、最大に負荷を加えられる上方のスイッチSHの温度T
D,T
Sにより、最大に負荷を加えられる上方のフリーホイールダイオードDH、最大に負荷を加えられる下方のスイッチSL、および最大に負荷を加えられる下方のフリーホイールダイオードDLが決定される。換言すれば、最高温度を有するそれぞれの構成部材が決定される。これらの温度から、44および46において上方のスイッチおよび/または上方のフリーホイールダイオードの最高温度T_Hが決定され、下側の損失から下側の最高温度T_Lが決定される。この場合、48により示すように、スイッチSおよびフリーホイールダイオードDの温度を比較することができるように、フリーホイールダイオードDの温度T
Dが因数分解される。スイッチSおよびフリーホイールダイオードDの温度を比較することができるように、フリーホイールダイオードDの比較温度が式:
【数3】
により決定される。
【0056】
この場合、T
DVは比較温度であり、T
DはフリーホイールダイオードDの温度であり、係数cは定数である。特別な実施形態では、係数cはフリーホイールダイオードDの出力損失P
Dの関数であってもよい。合計点50では、上側の最高温度T_Hと下側の最高温度T_Lとの差dTが決定される。52では、温度差dTを適宜に補正するために、温度差dTに応じて、変更された負荷目標値mが決定される。温度差dT>0の場合には、負荷目標値m,Ismが減じられ、温度差dT<0の場合には、負荷目標値m,Ismが増大される。このようにして決定された負荷目標値m,Ismに応じて、54では後続のパルス幅変調周期Tにおける新しいスイッチオン継続時間t0〜t7が決定される。新しいパルス幅変調周期Tに応じて、56により示すようにスイッチSおよびフリーホイールダイオードDの変更温度がT
D,T
S決定され、フィードバック58により示すように、方法40における新しい入力値として供給される。これにより、それぞれのパルス幅変調周期TにおけるスイッチSおよび/またはフリーホイールダイオードDの測定温度または推定温度に基づいて新しい負荷目標値mを決定し、新しい負荷値m,IsmにしたがってそれぞれのスイッチSおよびフリーホイールダイオードDに均一に負荷を加えることができる。上側および下側の構成部材の温度を比較し、負荷値mを調整することにより、下側の構成部材に対して上側の構成部材に均一に負荷を加えることができる。
【0057】
方法40の代替的な実施形態では、負荷目標値m,Ismを決定するために構成部材S,Dの温度の代わりに損失値が用いられ、損失値は、所定時間にわたるそれぞれの構成部材S,Dの出力損失の積分またはそれぞれの構成部材S,Dにおける電流Iの積分および/またはそれぞれの構成部材S,Dにおける電流の2乗I
2の積分により決定される。
【0058】
方法40の別の実施形態では、負荷目標値m,Ismを決定するために構成部材S,Dの温度の代わりに、それぞれの構成部材S,Dにおける電力損失Pまたは電流Iおよび/またはそれぞれの構成部材S,Dにおける電流の2乗I
2が用いられ、それぞれローパスフィルタによってフィルタされる。
【0059】
図6には、電流空間ベクトルI1
*の複合的なベクトル線図が概略的に示されている。電流空間ベクトルI1
*は、値I1および位相角alpha1を有する。電流空間ベクトルI1
*を設定するインバータ10が電気機械14を制御するために使用された場合、電気機械14はトルクMを生成する。
図6に示した複合的なベクトル線図では、個々の相U,V,Wは互いに120°の角度で示されている。それぞれの相U,V,Wへの電流空間ベクトルI1
*の投影は、付属のスイッチSで設定される電流に対応している。点線により示唆されているこの投影により、個々のスイッチSもしくはフリーホイールダイオードDの負荷を直接に読み取ることができる。したがって、
図6に示した実施例では、スイッチSHAは相Uによって最大に負荷を加えられており、相WのスイッチSHCはスイッチSHAよりもわずかに負荷を加えられ、相VのスイッチSHBは極めてわずかに負荷を加えられる。
【0060】
図6には、接続された電気機械14に供給されるトルクMが曲線により示されている。この曲線は、同時に一定不変のトルクMの曲線でもある。電気機械14によって供給されるトルクMは、電流空間ベクトルI
*が電気機械14のロータ角度に先行する角度Theta、および電流空間ベクトルI
*の振幅Iの関数である:M=f(Theta,I)。これにより、電流空間ベクトルI1
*が
図6に示した一定不変のトルクMの線に追従している場合には、電気機械14により供給されるトルクMは一定不変であることがわかる。
【0061】
このように電流空間ベクトルI1
*は、電気機械14によってトルクMを供給するために電気機械14の電気的なロータ角度に先行するように設定される。電流空間ベクトルI1
*は、角度Thetaだけ電気機械14の電気的なロータ位置に先行する。これは、式:
【数4】
により明らかであり、Alpha_Iは電流空間ベクトルI1
*の位相角であり、Alpha_Rは電気機械14のロータの電気的な角度であり、Thetaは差角である。
【0062】
差角Thetaは、一般にモータ作動時に90度〜180度である。電流空間ベクトルI1
*は、インバータ10および電気機械14が電気的なロータ角度Alpha_Rのために最適な効率を有するように設定される。
【0063】
電流空間ベクトルの位相角alpha_Iの変化が、
図7の複合的なベクトル線図に概略的に示されている。
【0064】
図7に示す複合的なベクトル線図には、位相角alpha1および値I1を有する目標電流空間ベクトルI1
*、および位相角alpha2および値I2を有する電流空間ベクトルI2
*が示されている。この場合、電流空間ベクトルI1
*は、インバータ10および電気機械14が最適な効率を有する電流空間ベクトルである。両方の電流空間ベクトルI1
*,I2
*は、等しいトルクMの線上を経過するので、等しいトルクMを供給する。目標電流空間ベクトルI1
*は、
図6の電流ベクトルI
*と同一である。電流空間ベクトルI2
*は、電流空間ベクトルI1
*の位相角alpha1よりも大きい位相角alpha2を有する。位相角alpha1とalpha2との差が
図7にdelta_betaとして示されている。delta_betaは、位相角alpha1に応じて異なる大きさであってもよく、最大で+30°〜−30°の間で変動する。
図7に示した相U,V,Wの対応した相軸への電流空間ベクトルI2
*の投影から明らかなように、電流は相Uにおいて、すなわちスイッチSHAではI1
*に対して減じられており、電流は位相W、すなわちスイッチSHCおよびフリーホイールダイオードDLCにおいて増大されている。全体として、電流負荷は、電流空間ベクトルI2
*の値がより大きいことにより目標空間ベクトルI1
*の場合よりも大きいが、しかしながら、
図7に示すようにこの手段により、最大に負荷を加えられるスイッチSHAおよびフリーホイールダイオードDLAの負荷を減じることができる。これにより、最大に負荷を加えられるスイッチSおよび最大に負荷を加えられるフリーホイールダイオードDのピーク負荷を減じることができ、他のスイッチSまたはフリーホイールダイオードDに負荷を分配することができる。これにより、インバータ10の相に均一に負荷を加えることができる。電流ベクトルI2
*は、等しいトルクMの線に追従するので、同一のトルクMが電気機械14によって供給され、したがって、この手段は電気機械14のユーザにとって制限を意味することはなく、例えば、トルクMの変動または中断は生じない。目標電流空間ベクトルI1
*とは異なる電流空間ベクトルI2
*の設定により、損失を個々の相U,V,Wにおいて分配することができ、したがって、個々の相の個々の構成部材の過負荷を防止することができる。換言すれば、相U,V,Wのより均一な負荷を達成することができる。
【0065】
したがって、結果として、目標位相角alpha1とは異なる位相角alpha2を有する代替的な電流空間ベクトルI2
*を供給することにより、最大に負荷を加えられるスイッチSHAおよびフリーホイールダイオードDLAもしくは最大に負荷を加えられる相Uの負荷を減じることができ、これによりインバータ10に全般的に均一に負荷を加えることができる。
【0066】
フリーホイールダイオードDに大きい負荷を加えることができる場合には、個々のスイッチSの負荷を減じるために負の値を有するdelta_betaを設定してもよい。
図7に示す制御状況では、まずゼロ電圧ベクトルV0を選択することによりスイッチSHAの負荷が減じられ、これに伴いより大きい負荷がフリーホイールダイオードDLAに加えられる。これにより、スイッチSLBにもより大きい負荷を加えることができる。位相角alpha_1については、フリーホイールダイオードDLAに最大の負荷が加えられ、スイッチSLCにはこれよりも小さい負荷が加えられ、スイッチSLBには極めて小さい負荷が加えられる。この状況では、alpha_1よりも小さい位相角alpha_2により、すなわち負の偏向角delta_betaにより、より大きい負荷をフリーホイールダイオードDLAに加えることができ、これにより、もちろんスイッチSLCは負荷を減じられ、スイッチSLBにはより大きい負荷が加えられる。これにより、スイッチSLBおよびSLCに均一に負荷を分配することができる。これは、より大きい負荷をフリーホイールダイオードDLAに加えることにより行われる。
【0067】
換言すれば、まず上方のスイッチSHの負荷が、ゼロ電圧ベクトルV0,V7の適宜な経時的配分を選択することにより下方のフリーホイールダイオードDLに移動され、ゼロ電圧ベクトルV0,V7における負荷は偏向角delta_betaの設定により相U,V,Wに分配される。したがって、全般的にスイッチSおよびフリーホイールダイオードDの負荷を均一に設定することができる。
【0068】
好ましくは、
図5に示した方法40は、
図7に示した代替的な電流空間ベクトルI2
*の設定と組み合わされる。この場合、例えばインバータ10の制御前に、すなわち、例えば制御器18において目標電流空間ベクトルI1
*に基づいて方法30にしたがって最適な負荷値m、および同時に最適な電流空間ベクトルI2
*が決定される。これらの値は、特性マップに保存され、電気機械14は、特性マップの値に基づいて制御される。換言すれば、負荷目標値mおよび電流空間ベクトルI2
*はオフラインで決定され、これに応じて電気機械が制御される。
【0069】
代替的に、最適な電流空間ベクトルI2
*を特性マップから取り出し、方法30または40にしたがって測定値または推定値に基づいて電気機械14の作動時の負荷目標値mを決定し、これに応じて継続的に最適化することもできる。換言すれば、負荷目標値mはオンラインで決定および調整される。
【0070】
図8には、
図6および
図7に対応してゼロ度の目標電流空間ベクトルI1
*における複合的なベクトル線図が概略的に示されている。
図8には、さらに等しいトルクMの線が示されている。等しいトルクMの線は、異なる位相角を有する電流空間ベクトルI2
*を供給することにより相Uの負荷を低減するか、もしくは対応したスイッチSHAの負荷を低減することが可能ではない曲率を有する。反対に、より大きい、またはより小さい位相角alpha2により、スイッチSHAの負荷は等しく保持されるか、またはむしろ増大し、さらに相Wまたは相Vの他のスイッチに追加的に負荷が加えられる。等しいトルクの線のそれぞれの経過が、相U,V,Wの軸線に応じた位相角について、すなわち、角度0度、60度、120度、180度、240度、300度などについて生じる。これらの位相角alpha1については、異なる位相角alpha2を用いた制御は有意義ではない。30度、90度、150度などの範囲では位相角alpha1について異なる位相角alpha2を用いた制御が有意義である。
【0071】
制御技術的な手間を減じるために、所定の目標位相角alpha1については電流空間ベクトルI2
*のデータを特性マップに保存してもよい。特性マップでは、目標電流空間ベクトルI1
*の所定の周波数については、電流空間ベクトルI1
*の位相角と電圧空間ベクトルV
*の位相角とは互いに異なっていてもよいことを考慮することもできる。
【0072】
図9には、目標位相角alpha1に応じた電流空間ベクトルI2
*と目標電流空間ベクトルI1
*との位相角差delta_betaが示されている。
【0073】
目標位相角alpha1に応じて、差delta_betaの設定は異なり、−15°〜+15°の間を変動する。上述のように、目標位相角alpha1とは異なる位相角alpha2は所定の目標位相角alpha1のためには意味がない。なぜなら、スイッチSもしくはフリーホイールダイオードDの負荷の低減は達成されず、しかも他のスイッチSもしくは他のフリーホイールダイオードのさらなる負荷が生じるからである。このような理由から、目標位相角alpha1における差delta_betaは、
図9に示すように0に等しく、これに対して他の目標位相角alpha1、例えば、−150°、−90°、−60°、+60°、+90°,+150°については、最大に負荷を加えられた制御可能なスイッチSの負荷を低減するために差delta_betaは有意義である。このような理由から、
図9に示すように目標位相角alpha1に応じて差delta_betaのジグザグの経過が生じる。本発明によれば、差限界delta_beta_max,delta_beta_minを形成する+6°および−6°における破線により示すように、差delta_betaは制限される。適宜な目標位相角alpha1のための差delta_betaが所定の差限界delta_beta_max,delta_beta_minよりも大きいことが可能な場合、差delta_betaは差限界delta_beta_max,delta_beta_minに応じて設定される。これにより、インバータ10の総負荷、インバータ10および電気機械14の出力損失を低減するか、もしくはインバータ10および電気機械14の効率を高めることができる。
【0074】
図10には、目標電流空間ベクトルI1
*の回転周波数fに応じた最大差delta_beta_maxが概略的に示されている。この場合、周波数が第1所定回転周波数f1よりも小さい場合の最大差delta_beta_maxは一定不変である。目標電流空間ベクトルI1
*の回転周波数fが第1所定回転周波数f1を超えた場合には、最大差delta_beta_maxは回転周波数fの増大に応じて、または増大に伴い減じられる。目標電流空間ベクトルl1
*の第2所定回転周波数f2では、最大差delta_beta_maxはほぼ0に減じられる。第2所定回転周波数f2を超えると、回転周波数fは、インバータ10のスイッチSの熱負荷が等しく分配されるように制御可能なスイッチSに極めて短い時間にわたって負荷が加えられる程度の高さとなり、位相角alpha2と目標位相角alpha1との差delta_betaはいずれか1つのスイッチSの負荷低減をもたらさず、インバータ10の総負荷が高められる。したがって、回転周波数fが第2所定回転周波数f2よりも大きい場合には0に設定される。第1所定回転周波数f1と第2所定回転周波数f2との間では、最大差delta_beta_maxは回転周波数fに応じて線形に減じられる。これにより、異なる位相角を有する制御と異なる位相角のない制御との間で、すなわち、fがf1よりも小さい周波数範囲と、fがf2よりも大きい周波数範囲との間で制御技術的に簡単な移行が可能である。さらに、これにより回転周波数fが増大した場合に、差delta_betaを有する制御と差delta_betaなしの制御との間の突然の切換により生じる動的な作用を減じることができる。
【0075】
図10に示した最大差delta_beta_maxは、上限delta_beta_maxについても下限delta_beta_minについてもあてはまる値であるとみなされることは自明である。
【0076】
本発明は、好ましくは電気機械を制御するために使用され、最大限に可能な差delta_beta_maxは、電気機械のタイプに依存している。最大差は、30°までであってもよい。