特許第6009292号(P6009292)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6009292医療用積層編地及びこれを用いた医療用シーツ。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6009292
(24)【登録日】2016年9月23日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】医療用積層編地及びこれを用いた医療用シーツ。
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/40 20060101AFI20161006BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20161006BHJP
   D04B 1/02 20060101ALI20161006BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20161006BHJP
   D06M 15/507 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   B32B27/40
   B32B27/12
   D04B1/02
   D04B21/16
   D06M15/507
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-207066(P2012-207066)
(22)【出願日】2012年9月20日
(65)【公開番号】特開2014-61621(P2014-61621A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】副島 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】西山 武史
(72)【発明者】
【氏名】中川 清
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−006664(JP,A)
【文献】 特開2004−353155(JP,A)
【文献】 特開2012−076273(JP,A)
【文献】 特開2002−266249(JP,A)
【文献】 特開2011−026727(JP,A)
【文献】 特開2009−240448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
D04B 1/00− 1/28
D04B 21/00−21/20
D06M 13/00−15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなるフィルムの両面に、ポリエステルフィラメント糸からなる編地がポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなる硬化型接着剤により貼り合わされた積層編地であって、前記編地の少なくとも一方が、ポリエステル仮撚加工糸からなるパイル組織の丸編地であり、且つ、吸水加工を施したものであり、並びに前記積層編地が下記(1)及び(2)を満足することを特徴とする医療用積層編地。
(1)濡れ戻り率50%以下。
(2)JIS L1096 F−2法に基づく洗濯を10回繰り返した後、60分間の
タンブル乾燥する工程を1サイクルとし、これを10サイクル繰り返した後のJIS
L1092 6.1B法(高耐水圧法)に基づく耐水圧が150kPa以上。
【請求項2】
前記丸編地のパイル部に使用されるポリエステル仮撚加工糸の単繊維繊度が1.2dtex〜4.0dtexであることを特徴とする請求項1記載の医療用積層編地。
【請求項3】
前記丸編地のパイルの高さが0.5mm以上、パイル密度が100〜200個/cm
2であることを特徴とする請求項1又は2記載の医療用積層編地。
【請求項4】
前記編地のうち、吸水加工を施していない他方の編地が撥水加工されたものであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の医療用積層編地。
【請求項5】
前記編地と前記フィルムとの貼り合わせにおいて、少なくとも片面が全面状に貼り合わせてなることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の医療用積層編地。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の医療用積層編地を用いてなることを特徴とする医療用シーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用積層編地及びこれを用いた医療用シーツに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、目覚しい勢いで進歩している高度医療においては、患部からの感染を防ぐために十分注意を払う必要があり、特に、患部がむき出しとなる手術時には細心の注意が必要となる。例えば、手術時に患部から体外に流出した体液・血液が再び患部に戻るようなことがあると、患部周辺の皮膚等についた異物・雑菌が体内に侵入する懸念があり、二次感染の危険性が非常に高くなる。これら二次感染に対する防護策の一つとして、手術の際に患者を覆うドレープ(包布)や手術台に敷くシーツ等により、流出した血液や体液を十分に吸収・保持し、患部へ再度流入することを防ぐ態様が挙げられる。
【0003】
前記手術等において用いられる医療用シーツは、現在はコーティング層やラミネート層を備えていない織編物を使用するのが一般的であるが、吸収した体液や血液が裏側に浸透し、手術台に付着するため、感染が拡大する可能性があるという問題がある。また、十分な吸水性・保水性も有していない。
【0004】
このような問題を解決する手段として、耐久性のあるコーティング層やラミネート層を有する積層布帛を用い、洗濯・滅菌処理によって繰り返し使用が可能なリユースタイプのシーツやドレープが提案されている。これらを採用すれば、感染拡大を抑制するばかりでなく、ゴミの減量になることができる。
【0005】
例えば、特許文献1〜3には、洗濯・滅菌によって繰り返しの使用が可能である医療用積層生地が提案されている。また、特許文献4、5には、保水性に優れた医療用積層布帛が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−78464号公報
【特許文献2】特開2000−316694号公報
【特許文献3】特開2005−194633号公報
【特許文献4】特開2009−240448号公報
【特許文献5】特許第4464146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3記載の医療用積層布帛には、バクテリアバリア性を有する耐湿熱性フィルムと織編物生地が使用されているため、当該布帛にあっては、バクテリアバリア性や耐久性などの点についてはある程度満足できるものの、手術時に患者の手術部位周辺の血液・体液を吸収することについては、改善の余地がある。
【0008】
特許文献4記載の医療用積層布帛は、片面のトリコット編地に単糸繊度が0.5デシテックス以下のポリエステルフィラメント糸が使用されており、保水性には優れるが、保水部に触れた際に、触れた側へ血液や体液が移行するという濡れ戻りや、積層布帛表面のヌメリ感が強く、肌触り性について改善の余地がある。また、単糸繊度が細いため、繰り返し洗濯により毛羽や糸切れが発生しやすい。
【0009】
特許文献5記載の吸水保水性積層シートは、表面にポリエステル仮撚加工糸、裏面に綿コーマ糸を用いた織物であって、表面にパイルにより形成された凸部を有する編物が使用されているため、保水性、濡れ戻り性、肌触りは優れるが、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなるフィルムを用いていないため、工業洗濯を繰り返すとフィルムの劣化が発生しやすく、さらに、編地を貼り合わせる接着剤の耐熱性が低いため、工業洗濯を繰り返すと編地とフィルム間に剥離が発生しやすく、耐久性が不十分であった。
【0010】
本発明は上述した問題点を解決し、手術時に患者の血液・体液の吸収に優れ、かつ濡れ戻りを抑制する性能を有し、加えてバクテリアバリア性も兼ね備えており、工業洗濯を繰り返してもこれらの性能が低減し難い、耐久性に優れ、編地表面の風合いがソフトで肌触りが良く快適な使用感が得られる医療用積層編地及びこれを用いた医療用シーツを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究の結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)を要旨とするものである。
(1)ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなるフィルムの両面に、ポリエステルフィラメント糸からなる編地がポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなる硬化型接着剤により貼り合わされた積層編地であって、前記編地の少なくとも一方が、ポリエステル仮撚加工糸からなるパイル組織の丸編地であり、且つ、吸水加工を施したものであり、並びに前記積層編地が下記(i)及び(ii)を満足することを特徴とする医療用積層編地。
(i)濡れ戻り率50%以下。
(ii)JIS L1096 F−2法に基づく洗濯を10回繰り返した後、60分間 のタンブル乾燥する工程を1サイクルとし、これを10サイクル繰り返した後のJI S L1092 6.1B法(高耐水圧法)に基づく耐水圧が150kPa以上。
(2)前記丸編地のパイル部に使用されるポリエステル仮撚加工糸の単繊維繊度が1.2dtex〜4.0dtexであることを特徴とする(1)記載の医療用積層編地。
(3)前記丸編地のパイルの高さが0.5mm以上、パイル密度が100〜200個/cm2であることを特徴とする(1)又は(2)記載の医療用積層編地。
(4)少なくとも一方の編地が撥水加工されたものであることを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載の医療用積層編地。
(5)前記編地と前記フィルムとの貼り合わせにおいて、少なくとも片面が全面状に貼り合わせてなることを特徴とする(1)〜(4)いずれかに記載の医療用積層編地。
(6)(1)〜(5)いずれかに記載の医療用積層編地を用いてなることを特徴とする医療用シーツ。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医療用積層編地は、特定フィルムの両面の少なくとも一方にパイル組織の丸編地を積層した特定の積層編地としているため、患部より流出した血液や体液を効率よく吸収・拡散することができる。また、パイル組織の丸編地特有の肌触りの良さから使用時の快適性に優れると共に、吸収部に触れた場合でも濡れ戻りによる感染を抑制することが可能になる。さらに、工業洗濯を繰り返しても、該耐水圧性の低下が抑えられたものであるため、長期間の使用が可能であり、使い捨て製品とは異なり環境への負荷も小さいものとなる。加えて、ポリカーボネート系ウレタン樹脂からなるフィルムといった、バクテリアバリア性を具備するフィルムを使用しているため、感染防御性の点でも有効である。以上より、本発明の医療用積層編地は、医療用シーツに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明におけるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とは、ジオール成分とジイソシアネート成分からなるポリウレタンであって、ジオール成分がポリカーボネートポリオールからなるものをいう。イソシアネート成分としては特に限定されないが、芳香族系ジフェニルメタンジイソシアアネートが挙げられる。特にポリカーボネートポリオール及び芳香族系ジフェニルメタンジイソシアアネートからなるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、バクテリアバリア性、耐熱性、高圧湿熱処理性において、優れた耐性を有しているため特に好ましい。
【0015】
本発明における前記フィルムの作成方法としては、該ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が熱可塑性を示すものであれば、Tダイ等を用いてフィルム状に押出成形し、所定の厚みにて直接トリコット編地上に形成したり、或いは、一旦フィルムを形成した後に接着剤にてトリコット編地に貼合することができる。溶液タイプであれば、コーティング法等により、トリコット編地上に直接塗布、乾燥して形成したり、或いは、離型紙等の離型材に一旦フィルムを形成した後、接着剤にてトリコット編地に貼合した後に離型材を剥離する等、公知の方法で形成すればよい。
【0016】
なお、フィルム中には、目的に応じて、顔料、フィラーなどの各種添加剤、滑剤、耐光剤、難燃剤などの各種機能材を含有させてもよい。
【0017】
フィルムの厚みは特に限定されないが、耐水圧性、柔軟性などの観点から、5〜50μmが好ましく、9〜30μmがより好ましい。5〜50μmとすることにより、バクテリアバリア性、柔軟性、風合いを損ねることなく、さらには該積層編地の耐久性がより良好となるため、洗濯などを繰り返しても使用において破れが生じやすくならないという利点がある。
【0018】
本発明の編地は、ポリエステルフィラメント糸からなる編地とすることが必要である。ポリエステルフィラメント糸とすることで、紡績糸を用いた場合に比べ、糸の毛羽が着用時及び工業洗濯時に遊離し術中に患部へ付着することを抑制できる。また、本発明の積層編地にはポリエステル仮撚加工糸からなるパイル組織の丸編地が用いられるが、パイル部をポリエステル仮撚加工糸とすることで、得られる医療用積層編地の吸水性、保水量がより向上し、加えて、フィルムとの積層加工時に接着樹脂の浸透がより強くなり、剥離強力が向上する。
【0019】
前記ポリエステル仮撚加工糸は、繊維形成性のポリエステルポリマーからなるポリエステルフィラメント糸を仮撚加工することにより得られる。繊維形成性のポリエステルポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が用いられる。中でも滅菌処理時の耐熱性や色相維持の観点からポリエチレンテレフタレートが好ましく、伸縮性や耐アルカリ加水分解性の観点からポリブチレンテレフタレートが好ましい。また、本発明の編地の用途である医療用途を考慮して、より耐アルカリ加水分解性に優れたポリマーを用いることが好ましく、具体的には、高重合度のものや末端基封鎖等が使用されたものが好適である。
【0020】
前記ポリエステル仮撚加工糸の単繊維繊度は、良好な濡れ戻り性及び剥離強力の観点から、1.2dtex〜4dtexが好ましく、1.5dtex〜3dtexがより好ましく、1.5dtex〜2.2dtexが特に好ましい。特にパイル部に用いられるポリエステル仮撚加工糸の単繊維繊度を適度なものとすることにより、繊維間に適度な空隙を多く形成し濡れ戻り性を向上するとともに、前記フィルムとの接着性を向上することにより剥離強力を向上することができる。
【0021】
本発明の積層編地おいては、編地を用いることが必要である。編地は、その構造に起因して、伸縮性や柔軟性に優れており、これを用いることにより、医療用シーツなどに要求される性能を満足させることができる。また、積層後の布帛が硬くなると、シーツとして使用時に手術台の形状への追随性が損なわれることから、織物ではなく編地とする必要がある。編地としては、丸編地に比べトリコット等の経編地が滅菌処理に対する寸法安定性に優れるが、医療用シーツについては、滅菌処理は行われず、工業洗濯だけであるため、少量ロットの生産対応に適応しやすい丸編地でも十分に使用可能である。
【0022】
フィルムの両面に積層接着する編地の少なくとも一方(以下、編地Aと略す場合がある。)は、パイル組織の丸編地であることが必要である。これは、血液等を吸収・保持し、濡れ戻りを抑制するために立体構造とすることが必要であり、そのために、少なくとも一方の編地をパイル構造にする必要がある。また、パイル組織の丸編地は、パイル組織でない丸編地に比べ、編地表面の肌触りが非常にソフトで快適なものとなる。
【0023】
前記パイル組織の例としては、1.2mmシンカーパイル、1.5mmシンカーパイル等が挙げられる。このような組織とすることにより、目的とする濡れ戻り性および肌触りが得られやすくなる。
【0024】
パイル密度は100〜200個/cm2が好ましく、130〜170個/cm2がより好ましい。パイル密度を100〜200個/cm2とすることにより、濡れ戻り性および肌触りに特に優れた医療用積層編地とすることができる。
【0025】
さらに、染色および積層後のパイルの高さが0.5mm以上であることが、目的とする濡れ戻り性を得るために好ましい。
【0026】
また、編地Aは吸水加工が施されていることが必要である。吸水加工を施すことにより、目的とする吸水拡散性、および濡れ戻り性がより得られやすくなる。該吸水加工に使用する吸水加工剤としては、アニオン性ポリエステル系樹脂、ノニオン性ポリアミド系樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアミン第4級アンモニウム塩などを含む加工剤があげられるが、良好な濡れ戻り率、耐久性などの観点から、アニオン性ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0027】
吸水加工の方法としては、従来公知の方法であればどのような方法でも採用しうる。例えば、プリント法、グラビアコーテイング法、スプレー法、パディング法、吸尽法などがあげられる。この他にも、親水基、特に酸性基を有するビニル系モノマーをグラフト重合する方法などが採用しうる。
【0028】
フィルムの両面に積層接着する他方の編地(以下,編地Bと略す場合がある。)は、特に限定されるものではないが、2枚筬以上の組織で形成されたトリコット編地が好ましく、例として、ハーフ組織、逆ハーフ組織、サテン組織等が挙げられ、これらを応用した変化編組織等でもよい。
【0029】
トリコット編地Bは、撥水加工されたものであることが好ましい。これにより、編地A側で吸収した血液や体液が再び手術台や患者に付着することをより抑制することができる。撥水処理に用いる撥水剤としては、パラフィン系撥水剤、ポリシロキサン系撥水剤、フッ素系撥水剤など公知のものが使用できる。撥水処理の方法もスプレー法、パディング法、コーティング法など公知の方法が採用できる。特に良好な撥水性を所望する場合には、フッ素系撥水剤を2〜10質量%含有する水分散液に繊維布帛をピックアップ率30〜100%でパディングし、これを80〜130℃で乾燥した後、150〜180℃で20秒〜2分間熱処理すればよい。
【0030】
本発明の積層編地は、前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなるフィルムの両面に前記編地を積層した3層積層編地であることが必要である。該3層積層編地とすることにより、汗・血液・体液などを所定量保持するとともに、工業洗濯・滅菌を繰り返しても耐水圧が低下しないようにポリカーボネート系ポリウレタンフィルムを保護することができる。
【0031】
前記フィルムと前記編地の貼り合わせる手段としては、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を用いて接着させることが必要である。該接着樹脂は、耐久性の観点から、硬化型樹脂、すなわち架橋している樹脂であることが必要であり、ポリカーボ−ネート系ポリウレタン樹脂からなる硬化型接着樹脂が、耐熱性などの耐久性に非常に優れる。
【0032】
硬化型接着樹脂としては、水酸基、イソシアネート基、アミノ基、カルボキシル基等の反応基を持ついわゆる架橋性を有したポリカーボネート系ポリウレタン系樹脂が、自己架橋するか或いはイソシアネート系、エポキシ系等の架橋剤と架橋し、硬化型となるものが挙げられる。その中でも、ポリカーボネートポリオール及び芳香族系ジフェニルメタンジイソシアアネートからなるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が、バクテリアバリア性、耐熱性、高圧湿熱処理性において、優れた耐性を有しているため特に好ましい。
【0033】
硬化型接着樹脂の形状としては、特に限定されるものでないが、実用上の観点から、溶液型又はホットメルト型であることが好ましい。溶液型の接着剤を使用するときは、好ましくは25℃下の粘度が500〜5000mPa・sのものを選び、例えば、グラビアロールやコンマコータなどを使用して、エラストマー膜もしくは繊維布帛上に接着剤を塗布する。その後は、例えば、ラミネート機などを用いて、繊維布帛とエラストマー膜とを圧着する。
【0034】
ホットメルト型の接着樹脂を使用するときは、まず、接着樹脂の融点や溶融時の粘性などを考慮しつつこれを溶融させる。この場合、80〜200℃程度の温度域で接着樹脂を溶融させるのが、実用上好ましい。そして、エラストマー膜もしくはトリコット編地上に溶融した接着樹脂を塗布し、その後は、必要に応じて冷却しつつ、例えば、ラミネート機などを用いて、トリコット編地とエラストマー膜とを圧着する。
【0035】
接着樹脂の厚みとしては、塗布の形態が全面状、部分的のいずれでも、片面につき10〜100μm程度が好ましく、25〜70μmがより好ましい。接着樹脂の厚みを片面につき10〜100μm程度とすることで、洗濯・滅菌処理におけるフィルムとトリコット編地の剥離を抑制しつつ、積層編地により柔軟性を付与することができるため好ましい。
【0036】
本発明の積層編地においては、フィルムとトリコット編地の貼り合わせにおける剥離強力および工業洗濯等に対する耐久性の観点から、少なくとも片面が全面状に接着することが好ましい。積層編地に柔軟性が求められる場合は、片面の接着を部分的接着にすることにより、耐久性を低下させずに柔軟性を向上させることが可能になる。この場合、点状、線状、市松模様、亀甲模様などの模様を描くがごとくに塗布すれば、フィルム又はトリコット編地の表面に接着剤を均一に配置できるので好ましい。
【0037】
本発明においては、前記3層積層編地とすることにより、フィルムの片面のみに編地を積層した場合に比べ、積層していない側のフィルム面が使用時や工業洗濯時等に傷ついた結果患部の血液等が進入する恐れがなく、加えて、工業洗濯時にフィルム面同士が貼り付き、破れや剥離を引き起こす懸念が抑えられる。さらに、該パイル組織にて構成された編地は、その構造に起因して、伸縮性や柔軟性に優れていることから、医療用シーツに好適に用いることができる。
【0038】
なお、3層積層すると該積層編地の重量が重くなりやすく、また工業洗濯時の処理効率の観点から、積層編地の目付としては、350g/m2以下が好ましく、320g/m2以下がより好ましい。
【0039】
本発明の医療用積層編地は、パイル編地面の濡れ戻り率50%以下であることが必要であり、40%以下であることが好ましい。濡れ戻り率とは、本発明の医療用積層編地のパイル組織の丸編地(編地A)側の表面に、水1ml(W0)を滴下し、30秒後の拡散範囲と同じ面積にカットした濾紙(あらかじめ重量を測定;W1)を乗せ、その上にアクリル板を乗せ、荷重50gf/cm2を掛けて水分を濾紙に吸収させ、その1分後に濾紙の重量(W2)を測定し、下記式により算出した値である。濡れ戻り率が50%を超えた場合は、手術時に患部から出る体液や血液を吸収しても、吸収部に触れることにより濡れ戻りが起こりやすく、感染が起こりやすくなる。
濡れ戻り率(%)=[(W2−W1)/W0]×100
【0040】
前記濡れ戻り率は、編地に使用する構成糸の選択、吸水加工条件、丸編地条件などを適宜選択することにより、達成することができる。特に、単繊維繊度が1.0dtex〜3.0dtexのポリエステル仮撚加工糸からなるパイル組織の丸編地を用い、アニオン系ポリエステル系吸水加工剤に吸水加工を施すことにより、より良好な濡れ戻り性を示すことができる。
【0041】
さらに、本発明の医療用積層編地は、拡散面積10cm2以上であることが好ましい。ここで言う拡散面積とは、本発明の医療用積層編地のパイル組織の丸編地(編地A)側の表面に、水1mlを滴下し、30秒後の拡散範囲をマーキングし、その面積を算出した値である。拡散面積が10cm2以上とすることにより、目的とする濡れ戻り率がより得られやすくなる。
【0042】
本発明の医療用積層編地は、JIS L1096 F−2法に基づく洗濯を10回繰り返した後60分間タンブル乾燥する工程を1サイクルとし、これを10サイクル繰り返した後のJIS L1092 6.1B法(高耐水圧法)に基づく耐水圧が150kPa以上である必要があり、200kPa以上が好ましい。耐水圧が150kPa未満の場合は、バクテリアバリア性が維持できないことが懸念され、患部の血液や体液等による感染が生じる可能性がある。
【0043】
本発明の医療用積層編地においては、特定のポリカーボネート系ポリウレタンフィルムの両面に、ポリエステルフィラメント糸からなる編地が、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなる硬化型接着剤により貼り合わされた積層編地とすることで、該積層編地の工業洗濯処理による耐久性を向上させることができる。特にポリカーボネートポリオール及び芳香族系ジフェニルメタンジイソシアアネートからなるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなるフィルムを用いることで、該積層編地の工業洗濯処理による耐久性を顕著に向上させることができる。
【0044】
本発明の医療用積層編地を用いてシーツを作製する場合に、該積層編地を全面に用いてもよいが、例えば患部周辺に本発明の医療用積層編地を用い、患部から離れた部分には耐久撥水加工を施した高密度織物等を用いてもよい。
【実施例】
【0045】
次に実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本願発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例、比較例における各種性能の評価は、下記の方法で行った。
【0046】
1.濡れ戻り性
積層編地の表面(パイル組織の丸編地側)に、水1ml(W0)を滴下し、30秒後の拡散範囲と同じ面積にカットした濾紙(あらかじめ重量を測定;W1)を乗せる。その上にアクリル板を乗せ、荷重50gf/cm2を掛けて水分を濾紙に吸収させる。1分後に濾紙の重量(W2)を測定し、下記式により濡れ戻り率を算出した。
濡れ戻り率(%)=[(W2−W1)/W0]×100
【0047】
2.工業洗濯耐久性
JIS L1096 F−2法に基づく洗濯を10回繰り返した後60分間タンブル乾燥する工程を1サイクルとし、これを10サイクル繰り返した。その後、JIS L1092 6.1B法(高耐水圧法)に基づく耐水圧を測定した。また、剥離・破れの有無を目視で確認した。
【0048】
3.肌触り性
積層編地表面の肌触りを触感により、下記の基準により判定を行った。
○:肌触りがソフトで快適である。
△:肌触りが普通である。
×:肌触りが硬く、快適性が不十分である。
【0049】
〔実施例1〕
(パイル丸編地A)
26インチ×24Gのシングルパイル丸編機を用い、グランド部にはポリエチレンテレフタレートフィラメント仮撚加工糸84デシテックス36フィラメント(単繊維繊度:2.33dtex)を、パイル部にはポリエチレンテレフタレートフィラメント仮撚加工糸167デシテックス96フィラメント(単繊維繊度:1.74dtex)を用いて、1.2mmパイル組織の丸編地を編製した。次に、得られた編地を、ノニオン系活性剤を1g/Lを使用して液流染色機にて80℃で20分間精練した。そして、シュリンクサーファー型乾燥機にて150℃で乾燥させた後、180℃で1分間プレセットした。さらに、上記染色機を用いて下記処方1にて、130℃で30分間吸水処理を兼ねた染色を行なった。その後、上記乾燥機にて150℃で乾燥し、170℃で1分間仕上げセットして、生地密度30ウエール/2.54cm×38コース/2.54cmのパイル丸編地Aを作製した。
(処方1)
分散染料 0.05%omf(Dianix Blue AC−E:ダイスタージャ パン株式会社製)
分散均染剤 0.5g/L(ニッカサンソルト SN−130:日華化学株式会社製)
酢酸(濃度48質量%) 0.2cc/L
吸水加工剤 2.0%omf(高松油脂株式会社製、商品名SR−1000(アニオン 性ポリエステル系樹脂)
(編地B)
同様に、32ゲージトリコット編機を用い、ポリエチレンテレフタレートフィラメント56デシテックス36フィラメントを用いて、フロント筬組織1−0/2−3,バック筬組織1−2/1−0のトリコットハーフ編地を製編した。次いで、得られたトリコットハーフ編地を用い吸水加工剤を使用しないこと以外は同じ方法で、生地密度37ウエール/2.54cm×43コース/2.54cmのトリコット編地Bを作製した。
(医療用積層編地)
そして、ポリプロピレン製押出ラミネート離型紙を用いて膜厚20μmのポリカーボネートポリウレタンフィルム(ポリオール:ポリカーボネートポリオール、イソシアネート:芳香族系ジフェニルメタンジイソシアアネート)を調整し、このフィルムに上述のトリコット編地Bのアンダーラップ側を、ポリカーボネートポリオール樹脂に芳香族系ポリイソシアネート架橋剤とアミン系促進剤を加えた接着樹脂を用いて、温度100℃×線圧1.5kg/cmの条件で全面状に加圧接着し、常温下で48時間放置・熟成して2層積層編地を作成した。この2層積層編地の離型紙を剥離した。次に、2層積層編地のフィルム面に上述のパイル組織の丸編地Aの裏側を、同様の接着樹脂を用いて同条件にて加圧接着を行い、常温下で48時間放置・熟成して3層積層編地を作成した。この3層積層編地の両耳端をカットして巾を揃えた後、目付305g/m2、パイルの高さ0.7mm、パイル密度154個/cm2の本発明の医療用積層編地を得た。
【0050】
実施例2
編地とフィルムとの加圧接着を、42メッシュのドット状グラビアロールを用いて部分的接着に変更する以外は、実施例1と同様の方法で、目付300g/m2、パイルの高さ0.7mm、パイル密度154個/cm2本発明の医療用積層編地を得た。
【0051】
比較例1
接着樹脂をポリウレタン系接着剤(セイコー化成(株)製「UD−108」)のみに変更する以外は実施例1と同様の製法で、目付305g/m2、パイルの高さ0.7mm、パイル密度154個/cm2の積層編地を得た。
【0052】
比較例2
実施例1のパイル組織の丸編地Aを実施例1のトリコット編地Bに代えた以外は、実施例1と同様の方法で目付210g/m2の積層編地を得た。
【0053】
比較例3
ウォータージェットルーム織機を用い、経糸・緯糸共に、ポリエチレンテレフタレートフィラメント84デシテックス72フィラメントを用いて、平織物を製織し、実施例1と同様の方法で染色・吸水加工した生地密度 経120本/吋×緯100/吋の織物を作製した。この織物をトリコット編地Aの代わりに用いて実施例1と同様の方法で目付240g/m2の積層生地を得た。
【0054】
実施例1、2及び比較例1〜3の積層生地について、前述した諸性能を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示す通り、実施例1については、濡れ戻りが少なく、肌触りが良く快適な使用感であり、かつ工業洗濯耐久性にも優れ、医療用シーツとして好適であることが実証された。実施例2については、接着方法が部分的であったため洗濯・滅菌処理により部分的に小さな剥離が見られたものの、濡れ戻りが少なく、肌触りが良く快適な使用感を示し、医療用ドレープ、シーツとして実用上問題のないことが実証された。
一方、比較例1は、接着剤として耐熱性が不十分なポリウレタン樹脂を用いたため、得られた積層編地の工業洗濯耐久性が不十分であった。比較例2については、表面がトリコット編地であるため、濡れ戻り率が悪化し、さらに肌触り性が悪いため、医療用シーツ用には不適であった。比較例3は、織物を使用しているため、濡れ戻り性が悪化し、さらに肌触り性が悪く、かつ洗濯・滅菌により、大きな剥離が全面に剥離が発生し、十分な耐久性が維持出来ていないものであった。これは、表地として使用している織物と裏地として使用しているトリコット編地のハリコシ感や収縮率が大きく異なるため、積層編地としては、表裏洗濯・滅菌後に表裏のひずみが大きくなり、剥離が生じやすくなったためであると推測する。