(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記車両は、前記モータに連結されるリングギヤと、前記ジェネレータに連結されるサンギヤと、前記サンギヤおよび前記リングギヤと係合するピニオンギヤと、前記エンジンに連結され前記ピニオンギヤを自転可能に支持するキャリアとを含む遊星歯車装置をさらに備える、請求項1または2に記載の車両。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
[実施の形態1]
図1は、本実施の形態に従う車両1の全体ブロック図である。車両1は、エンジン100と、第1MG(Motor Generator)200と、動力分割機構300と、第2MG400と、変速機500と、プロペラ軸(出力軸)560と、PCU(Power Control Unit)600と、バッテリ700と、SMR(System Main Relay)710と、ECU(Electronic Control Unit)1000と、を備える。
【0015】
エンジン100は、燃料を燃焼させて動力を出力する内燃機関である。エンジン100の動力は動力分割機構300に入力される。
【0016】
動力分割機構300は、エンジン100から入力された動力を、出力軸560への動力と第1MG200への動力とに分割する。
【0017】
動力分割機構300は、サンギヤ(S)310と、リングギヤ(R)320と、サンギヤ(S)310とリングギヤ(R)320とに噛合するピニオンギヤ(P)340と、ピニオンギヤ(P)340を自転かつ公転自在に保持しているキャリア(C)330とを有する遊星歯車機構である。
【0018】
キャリア(C)330はエンジン100のクランクシャフトに連結される。サンギヤ(S)310は第1MG200のロータに連結される。リングギヤ(R)320は出力軸560に連結される。
【0019】
第1MG200および第2MG400は、交流の回転電機であって、電動機(モータ)としても発電機(ジェネレータ)としても機能する。第2MG400の動力は変速機500に入力される。
【0020】
変速機500は、第2MG400の回転速度を変速して出力軸560に伝達する。
変速機500は、一組のラビニョ型遊星歯車機構によって構成されている。すなわち、変速機500は、第1サンギヤ(S1)510と、第2サンギヤ(S2)520と、第1サンギヤ(S1)510に噛合する第1ピニオン(P1)531と、第1ピニオン(P1)531および第2サンギヤ(S2)520に噛合する第2ピニオン(P2)532と、第2ピニオン(P2)532に噛合するリングギヤ(R1)540と、各ピニオン531,532を自転かつ公転自在に保持しているキャリア(C1)550とを有する。したがって、第1サンギヤ(S1)510とリングギヤ(R1)540とは、各ピニオン531,532と共にダブルピニオン型遊星歯車機構に相当する機構を構成し、また第2サンギヤ(S2)520とリングギヤ(R1)540とは、第2ピニオン(P2)532と共にシングルピニオン型遊星歯車機構に相当する機構を構成している。
【0021】
キャリア(C1)550は、出力軸560に連結される。第2サンギヤ(S)520は、第2MG400のロータに連結される。
【0022】
さらに、変速機500には、第1サンギヤ(S1)510を選択的に固定するB1ブレーキ561と、リングギヤ(R1)540を選択的に固定するB2ブレーキ562とが設けられている。
【0023】
B1ブレーキ561は、変速機500のケース側に固定された摩擦材と第1サンギヤ(S1)510側に固定された摩擦材との摩擦力によって係合力を生じる。B2ブレーキ562は、変速機500のケース側に固定された摩擦材とリングギヤ(R1)540側に固定された摩擦材との摩擦力によって係合力を生じる。これらのブレーキ561,562は、ECU1000からの制御信号に応じた油圧を出力する変速用油圧回路(図示せず)に接続されており、この変速用油圧回路から出力される油圧によって係合されたり解放されたりする。
【0024】
B1ブレーキ561を係合して第1サンギヤ(S1)510を固定するとともに、B2ブレーキ562を解放してリングギヤ(R1)540を固定しない場合には、変速機500の変速段が高速段Hiとなる。一方、B2ブレーキ562を係合してリングギヤ(R1)540を固定するとともに、B1ブレーキ561を解放して第1サンギヤ(S1)510を固定しない場合には、変速機500の変速段が高速段Hiより変速比の大きい低速段Loとなる。なお、変速比は、変速機500の出力軸回転速度(=出力軸560の回転速度Np)に対する入力軸回転速度(=第2MG回転速度Nm2)の比である。
【0025】
出力軸560は、動力分割機構300を介して伝達されるエンジン100の動力および変速機500を介して伝達される第2MG400の動力の少なくともいずれかの動力によって回転する。出力軸560の回転力は減速機を介して左右の駆動輪82に伝達される。これにより、車両1が走行される。
【0026】
図2は、動力分割機構300および変速機500の共線図を示す。
動力分割機構300が上述のように構成されることによって、サンギヤ(S)310の回転速度(=第1MG回転速度Nm1)、キャリア(C)330の回転速度(=エンジン回転速度Ne)、リングギヤ(R)320の回転速度は、動力分割機構300の共線図上で直線で結ばれる関係(いずれか2つの回転速度が決まれば残りの回転速度も決まる関係)になる。
【0027】
また、変速機500が上述のように構成されることによって、第1サンギヤ(S1)510の回転速度、リングギヤ(R1)540の回転速度、キャリア(C1)550の回転速度、第2サンギヤ(S2)520の回転速度(=第2MG回転速度Nm2)は、変速機500の共線図上で直線で結ばれる関係(いずれか2つの回転速度が決まれば残りの2つの回転速度も決まる関係)になる。
【0028】
変速機500のキャリア(C1)550は出力軸560に接続されているため、キャリア(C1)550の回転速度は出力軸560の回転速度(すなわち車速V)と一致する。また、動力分割機構300のリングギヤ(R)320も出力軸560に接続されているため、リングギヤ(R)320の回転速度も出力軸560の回転速度(すなわち車速V)と一致する。
【0029】
低速段Loでは、B2ブレーキ562が係合されてリングギヤ(R1)540が固定されるので、リングギヤ(R1)540の回転速度が0となる。また、高速段Hiでは、B1ブレーキ561が係合されて第1サンギヤ(S1)510が固定されるので、第1サンギヤ(S1)510の回転速度が0となる。したがって、第2MG回転速度Nm2が同じである場合には、
図2に示すように、高速段Hiの共線(一点鎖線)と低速段Loの共線(実線)との関係により、高速段Hi形成時の車速Vは低速段Lo形成時の車速Vよりも高くなる。逆に、車速Vが同じである場合には、
図2に示すように、高速段Hiの共線(二点鎖線)と低速段Loの共線(実線)との関係により、高速段Hi形成時の第2MG回転速度Nm2は低速段Lo形成時の第2MG回転速度Nm2よりも低くなる。
【0030】
図1に戻って、PCU600は、バッテリ700から供給される高電圧の直流電力を交流電力に変換して第1MG200および/または第2MG400に出力する。これにより、第1MG200および/または第2MG400が駆動される。また、PCU600は、第1MG200および/または第2MG400によって発電される交流電力を直流電力に変換してバッテリ700へ出力する。これにより、バッテリ700が充電される。
【0031】
バッテリ700は、第1MG200および/または第2MG400を駆動するための高電圧(たとえば200V程度)の直流電力を蓄える二次電池である。バッテリ700は、代表的にはニッケル水素やリチウムイオンを含んで構成される。なお、バッテリ700に代えて、大容量のキャパシタも採用可能である。
【0032】
SMR710は、バッテリ700とPCU600を含む電気システムとの接続状態を切り替えるためのリレーである。
【0033】
ECU1000には、エンジン回転速度センサ10、出力軸回転速度センサ15、レゾルバ21,22、アクセルポジションセンサ31などが接続される。エンジン回転速度センサ10は、エンジン回転速度Ne(エンジン100のの回転速度)を検出する。出力軸回転速度センサ15は、出力軸560の回転速度Npを車速Vとして検出する。レゾルバ21,22は、それぞれ第1MG回転速度Nm1(第1MG200の回転速度)、第2MG回転速度Nm2(第2MG400の回転速度)を検出する。アクセルポジションセンサ31は、アクセルペダル操作量A(ユーザによるアクセルペダルの操作量)を検出する。これらの各センサは検出結果をECU1000に出力する。
【0034】
ECU1000は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵し、当該メモリに記憶された情報や各センサからの情報に基づいて所定の演算処理を実行する。ECU1000は、演算処理の結果に基づいて車両1に搭載される各機器を制御する。
【0035】
図3は、第1MG200,第2MG400を駆動制御するための電気システムの回路図である。この電気システムは、第1MG200、第2MG400、PCU600、バッテリ700、SMR710、ECU1000で構成される。
【0036】
SMR710がオフ状態であると、バッテリ700は電気システムから切り離される。SMR710がオン状態であると、バッテリ700が電気システムに接続される。SMR710は、ECU1000からの制御信号に応じて制御(オンオフ)される。たとえば、ユーザが運転開始のための操作を行なうことによって電気システムの起動を要求すると、ECU1000は、SMR710をオンさせる。
【0037】
PCU600は、コンバータ610、インバータ620,630を含む。
コンバータ610は、リアクトルおよび2つのスイッチング素子によって構成される、一般的な昇圧チョッパ回路の構成を有する。各スイッチング素子には、逆並列ダイオードが接続される。
【0038】
インバータ620,630は、コンバータ610に対して互いに並列に接続される。
インバータ620は、コンバータ610と第1MG200との間に接続される。インバータ620は、U相アーム、V相アームおよびW相アームを含む。U相アーム、V相アームおよびW相アームは並列に接続される。U相アーム、V相アームおよびW相アームは、それぞれ、直列に接続された2つスイッチング素子(上アームおよび下アーム)を有する。各スイッチング素子には逆並列ダイオードが設けられている。
【0039】
インバータ630は、コンバータ610と第2MG400との間に接続される。インバータ630は、インバータ620と同様に、一般的な三相インバータの構成を有する。すなわち、インバータ630は、3相(U相、V相、W相)分の上下アームと、各アームに設けられる逆並列ダイオードとを含む。
【0040】
コンバータ610とインバータ620,630との間の電力線54上の直流電圧(以下、「システム電圧VH」ともいう)は、電圧センサ180により検出される。電圧センサ180の検出結果は、ECU1000に出力される。
【0041】
コンバータ610は、システム電圧VHと、バッテリ700の電圧Vbとの間で、双方向の直流電圧変換を実行する。バッテリ700から放電された電力を第1MG200もしくは第2MG400に供給する際、電圧がコンバータ610により昇圧される。逆に、第1MG200もしくは第2MG400により発電された電力をバッテリ700に充電する際、電圧がコンバータ610により降圧される。
【0042】
インバータ620は、システム電圧VHをスイッチング素子のオンオフにより交流電圧に変換する。変換された交流電圧は、第1MG200に供給される。また、インバータ620は、第1MG200が発電した交流電力を直流電力に変換する。
【0043】
同様に、インバータ630は、システム電圧VHを交流電圧に変換して、第2MG400に供給する。また、インバータ630は、第2MG400が発電した交流電力を直流電力に変換する。
【0044】
このように、コンバータ610とインバータ620,630とを電気的に接続する電力線54は、各インバータ620,630が共用する正極母線および負極母線として構成される。電力線54は、第1MG200および第2MG400の双方と電気的に接続されるので、第1MG200,第2MG400の一方で発電される電力を他方で消費することができる。
【0045】
したがって、SMR710がオン状態となりバッテリ700が電気システムに接続された状態では、バッテリ700は、第1MG200,第2MG400のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。逆に、SMR710がオフ状態となりバッテリ700が電気システムから切り離された状態では、バッテリ700を電力バッファとして用いることができないため、第1MG200,第2MG400により電力収支のバランスをとる必要がある。
【0046】
ECU1000は、インバータ620,630のスイッチング動作を制御することによって、それぞれ第1MG200,第2MG400を駆動制御する。具体的には、ECU1000は、アクセルペダル操作量Aや車速Vに応じて第1MGトルク指令値T1comおよび第2MGトルク指令値T2comを設定し、第1MG200の実トルクおよび第2MG400の実トルクがそれぞれ第1MGトルク指令値T1com、第2MGトルク指令値T2comに合致するように、インバータ620,630へのスイッチング制御信号を出力する。
【0047】
図4は、第2MG400の制御モード(すなわちインバータ630の制御モード)を概略的に説明する図である。本実施の形態による車両1では、インバータ630の制御モードを、PWM制御モードおよび
矩形波制御モードのいずれかに切り替える。
【0048】
PWM制御モードでは、正弦波PWM制御および過変調PWM制御のいずれかの制御が行なわれる。
【0049】
正弦波PWM制御は、一般的なPWM制御方式として用いられるものであり、各相アームにおけるスイッチング素子の開閉を、正弦波状の電圧指令値と搬送波(キャリア信号)との電圧比較に従って制御する。この結果、一定期間内でインバータ630から第2MG400へ出力される線間電圧(以下、単に「インバータ出力電圧」ともいう)の基本波成分が擬似的な正弦波となる。周知のように、正弦波PWM制御では、この基本波成分振幅をインバータ入力電圧の0.61倍程度までしか高めることができない(変調率を0.61までしか高めることができない)。
【0050】
過変調PWM制御は、搬送波の振幅を縮小するように歪ませた上で上記正弦波PWM制御と同様のPWM制御を行なうものである。この結果、変調率を0.61〜0.78の範囲まで高めることができる。したがって、PWM制御が行なわれる領域において、車速が比較的低い場合に正弦波PWM制御が行なわれ、車速が比較的高い場合に過変調PWM制御が行なわれる。
【0051】
一方、
矩形波制御モードでは、
矩形波制御が行なわれる。
矩形波制御では、上記一定期間内に1回のペースでスイッチング動作が行われる。その結果、上記一定期間内のインバータ出力電圧は1パルス分の矩形波電圧となる。これにより、
矩形波制御は、PWM制御に比べて、制御精度(制御応答性)が劣る一方、変調率を0.78まで高めることができモータ出力を高めることが可能である。
【0052】
これらの制御モードの特性の相違を考慮し、ECU1000は、車両駆動トルク(出力軸560の駆動トルク)および車速V(出力軸560の回転速度Np、すなわち第2MG回転速度Nm2)で決まる車両動作点が属する領域に応じて制御モードを選択する。
【0053】
図5は、車両動作点と第2MG400(インバータ630)の制御モードとの対応関係を示す図である。概略的には、制御境界ラインLよりも低回転速度側の領域A1ではトルク変動を小さくするために比較的制御性のよいPWM制御モードが選択され、制御境界ラインLよりも高回転速度側の領域A2では第2MG400の出力を向上させるために
矩形波制御モードが選択される。
【0054】
本実施の形態においては、制御境界ラインLが高速段Hi形成時と低速段Lo形成時とで異なる値に設定される。すなわち、上述の
図2に示したように、車速Vが同じである場合には、高速段Hi形成時のほうが低速段Lo形成時よりも第2MG回転速度Nm2が低くなる。この点を考慮し、ECU1000は、低速段Lo形成時の制御境界ラインL1よりも高速段Hi形成時の制御境界ラインL2を高車速側に設定する。これにより、低速段Lo形成時よりも高速段Hi形成時のほうが
矩形波制御モードに移行され難くなる。
【0055】
次に、バッテリレス走行制御について説明する。ECU1000は、バッテリ700に異常が発生して充放電が禁止されると、SMR710をオフ状態としてバッテリ700を電気システムから切り離した状態で車両1を走行させるフェールセーフ制御を行なう。このフェールセーフ制御が「バッテリレス走行制御」である。
【0056】
バッテリレス走行制御時には、バッテリ700を電力バッファとして使用することができないため、第1MG200,第2MG400により電力収支のバランスをとる必要がある。すなわち、バッテリレス走行制御での走行時には、第1MG200で発電した電力で第2MG400を駆動させる必要があり、第1MG200の発電量と第2MG400の消費電力量とを同じ値に制御する必要がある。
【0057】
図6は、バッテリレス走行制御時のECU1000の処理手順を示すフローチャートである。
【0058】
S10にて、ECU1000は、アクセルペダル操作量Aおよび車速Vに応じて、車両要求トルクTreqを算出する。たとえば、ECU1000は、アクセルペダル操作量Aおよび車速Vと車両要求トルクTreqとの対応関係を定めたマップを予め記憶しておき、このマップを用いて実際のアクセルペダル操作量Aおよび車速Vに対応する車両要求トルクTreqを算出する。
【0059】
S11にて、ECU1000は、車両要求トルクTreqからエンジン要求パワーPereqを算出する。より具体的には、ECU1000は、車両要求トルクTreqと出力軸回転速度Npとの積(=車両要求パワー)をエンジン要求パワーPereqとして算出する。
【0060】
S12にて、ECU1000は、エンジン要求パワーPereqを満たすエンジン回転速度目標値Nereqおよびエンジントルク目標値Tereqを算出する。たとえば、ECU1000は、エンジン回転速度NeおよびエンジントルクTeで決まる最適エンジン動作ラインを予め設定しておき、この最適エンジン動作ラインを用いて、エンジン要求パワーPereqを満たすエンジン回転速度目標値Nereqおよびエンジントルク目標値Tereqを算出する。
【0061】
S13にて、ECU1000は、エンジン要求パワーPereqおよびエンジン回転速度目標値NereqからエンジントルクTeの反力を受け持つ第1MGトルク目標値T1reqを算出する。動力分割機構300のプラネタリギヤ比を「ρ」とすると、第1MGトルクT1とエンジントルクTeとの間には力学的関係からT1=ρ/(1+ρ)×Teで示す関係式が成立する。エンジントルクTeはエンジンパワーPeをエンジン回転速度Neで割った値であるため、ECU1000は、下記の式(1)を用いて第1MGトルク目標値T1reqを算出する。
【0062】
T1req=ρ/(1+ρ)×Tereq=ρ/(1+ρ)×(Pereq/Nereq) ・・・(1)
なお、バッテリレス走行制御中は、第1MG200を発電状態とするために、第1MGトルク目標値T1reqは負(T1req<0)の値にされる。第1MGトルク目標値T1reqが小さいほど、第1MG200が発電によって発生するトルク(以下「第1MG200の負トルク」ともいう)が増加し、第1MG200の発電量が増加することになる。
【0063】
S14にて、ECU1000は、第1MG目標パワー(=第1MG200の発電量の目標値)と第2MG目標パワー(=第2MG400の電力消費量の目標値)とが同じ値となるように、第2MGトルク目標値T2reqを算出する。具体的には、ECU1000は、下記の式(2)を用いて第2MGトルク目標値T2reqを算出する。
【0064】
T2req=(T1req×Nm1)/Nm2 ・・・(2)
S15にて、ECU1000は、算出されたエンジントルク目標値Tereq、第1MGトルク目標値T1req、第2MGトルク目標値T2reqをそれぞれエンジントルク指令値Tecom、第1MGトルク指令値T1com、第2MGトルク指令値T2comに設定する。
【0065】
このように、バッテリレス走行制御時には、第1MG200、第2MG400により電力収支のバランスをとるため、第1MG200の発電量と第2MG400の電力消費量とが同じ値となるように各トルク指令値が設定される。しかし、第2MG400の制御モードが比較的制御性の劣る
矩形波制御モードに切り替えられると、第2MGトルクT2の制御精度が悪化し、結果的に第1MG200の発電量と第2MG400電力消費量とが一致せず、インバータ出力電圧が不安定となってしまうおそれがある。
【0066】
特に、インバータ出力電圧が不安定となるのは、車両要求パワーが急に変化するようなパターン、代表的には高車速でアクセルオン(アクセルペダル操作量A>0)とアクセルオフ(アクセルペダル操作量A=0)とが繰り返されるようなパターンである。アクセルがオンされると、第1MG200の発電量(=第2MG400の出力パワー)を増加させるために第1MG200の負トルクが増加される。この第1MG200の負トルク増加によるエンジン回転速度Neの低下を防止すべくエンジントルクTeが増加されるが、実際にはエンジン100の制御遅れによって一時的にエンジン回転速度Neが低下してしまう。このエンジン回転速度Neの一時的な低下に伴って第1MG回転速度Nm1も一時的に低下してしまう(
図2の共線図参照)。これにより第1MG200の発電量が低下するため、電力収支のバランスを図るためには第1MG200の発電量が低下した分だけ第2MG400の出力パワーを低下させる必要が生じるが、比較的制御性の劣る
矩形波制御モードでは第2MG400の出力パワーの低下に遅れが生じてシステム電圧VHが低下してしまい、その結果、インバータ出力電圧が低下してしまう。したがって、高車速でアクセルオンとアクセルオフとが繰り返されると、インバータ出力電圧の低下が繰り返されて不安定となる。システム電圧VHが所定値以下となるとインバータ620,630をシャットダウン状態(停止状態)にするフェールセーフが実施される車両においては、システム電圧VHの低下によって車両走行が継続できなくなってしまうおそれがある。
【0067】
そこで、本実施の形態では、バッテリレス走行制御中の高車速時には、インバータ出力電圧を安定させるための処理(具体的には後述するアクセルペダル操作量Aのフィルタ処理)を行なうことによって、第1MG200と第2MG400との間の電力収支の崩れを抑制する。これにより、仮に
矩形波制御に移行されたとしても、インバータ出力電圧の安定化を図ることができる。この点が本実施の形態の最も特徴的な点である。
【0068】
図7は、インバータ出力電圧の安定化を図る際のECU1000の機能ブロック図である。
図7に示した各機能ブロックは、ハードウェアによって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0069】
ECU1000は、第1判定部1010、第2判定部1020、フィルタ処理部1030、切替部1040を含む。
【0070】
第1判定部1010は、バッテリレス走行制御中であるか否かを判定する。
切替部1040は、変速機500で形成されている変速段(変速機500の変速比)に応じて、第2判定部1020の判定に用いられる制限車速Vshを切り替える。切替部1040は、低速段Lo形成時は制限車速Vshを「Vsh1」とし、低速段Loよりも変速比が小さい高速段Hi形成時は制限車速VshをVsh1よりも高い「Vsh2」とする。本実施の形態では、低速段Lo形成時の制限車速Vsh1は、低速段Lo形成時の制御境界ラインL1の最も低速側の値に設定される。また、高速段Hi形成時の制限車速Vsh2は、高速段Hi形成時の制御境界ラインL2の最も低速側の値に設定される(
図5参照)。
【0071】
なお、本実施の形態に従う車両1は変速機500を備えるため切替部1040の機能が有効であるが、変速機を備えない車両においては切替部1040の機能(低速段Loか高速段Hiかに応じて制限車速Vshを切り替える機能)は不要である。
【0072】
第2判定部1020は、切替部1040で設定された制限車速Vshを車速Vが越えたか否かを判定する。
【0073】
フィルタ処理部1030は、バッテリレス走行制御中に車速Vが制限車速Vshを越えると、アクセルペダル操作量Aのフィルタ処理(なまし処理)を行なう。具体的には、フィルタ処理部1030は、アクセルポジションセンサ31で検出された実際のアクセルペダル操作量Aにフィルタ処理を施す。このフィルタ処理後のアクセルペダル操作量Aが、バッテリレス走行制御時の車両要求トルクTreqの算出(
図6のS10の処理)のパラメータとして用いられることになる。
【0074】
ここで、「フィルタ処理」としては、たとえば、一次遅れ処理、二次遅れ処理、移動平均処理などを用いることができる。いずれの処理であっても、フィルタ処理後のアクセルペダル操作量Aは、実際のアクセルペダル操作量Aよりも緩やかに変化することになる。このようにフィルタ処理によってアクセルペダル操作量Aを緩やかに変化させる(アクセルペダル操作量Aの変化レートを制限する)ことで、第1MGトルク目標値T1reqの急変(すなわち第1MG200の発電量の急変)が抑制される。そのため、インバータ出力電圧が不安定となるきっかけが排除され電圧安定化が図られる。
【0075】
一方、バッテリレス走行制御中ではあるが車速Vが制限車速Vsh未満である場合(すなわち
矩形波制御ではなくPWM制御が行なわれている場合)、フィルタ処理部1030は、アクセルペダル操作量Aのフィルタ処理を行なわない。これにより、PWM制御中での動力性能の維持が図られる。なお、フィルタ処理部1030は、バッテリレス走行制御中でない場合も、アクセルペダル操作量Aのフィルタ処理を行なわない。
【0076】
図8は、上述の機能を実現するためのECU1000の処理手順を示すフローチャートである。
【0077】
S20にて、ECU1000は、バッテリレス走行制御中であるか否かを判定する。
S21にて、ECU1000は、変速機500で形成されている変速段が低速段Loであるか否かを判定する。
【0078】
低速段Loが形成されている場合(S21にてYES)、ECU1000は、S22にて制限車速Vshを「Vsh1」(
図5参照)とし、処理をS24に移す。一方、高速段Hiが形成されている場合(S21にてNO)、ECU1000は、S23にて制限車速Vshを「Vsh2」(
図5参照)とし、処理をS24に移す。なお、上述したように、変速機を備えない車両においてはS21〜S23の機能は不要である。
【0079】
S24にて、ECU1000は、車速Vが制限車速Vshを越えているか否かを判定する。
【0080】
車速Vが制限車速Vshを超えている場合(S24にてYES)、ECU1000は、S25にて上述のアクセルペダル操作量Aのフィルタ処理を行なう。
【0081】
一方、車速Vが制限車速Vsh未満である場合(S24にてNO)、ECU1000は、アクセルペダル操作量Aのフィルタ処理を行なうことなく、処理を終了させる。
【0082】
以上のように、本実施の形態においては、バッテリレス走行制御を行なう際、車速Vが制限車速Vshを超える場合には、アクセルペダル操作量Aのフィルタ処理を行なうことによって、第1MG200と第2MG400との間の電力収支の崩れを抑制する。これにより、仮に
矩形波制御に移行されたとしても、インバータ出力電圧の安定化を図ることができる。
【0083】
また、本実施の形態においては、車速Vが制限車速Vsh未満である場合はアクセルペダル操作量Aのフィルタ処理を行なわないことによって、PWM制御中における動力性能も確保できる。したがって、PWM制御中における動力性能維持と
矩形波制御中における電圧安定化との両方を実現することができる。
【0084】
なお、本実施の形態では、車速Vを条件としてフィルタ処理を実行したが、より直接的に、「
矩形波制御中」であることを条件としてフィルタ処理を実行するようにしてもよい。すなわち、
図8のS24において、「車速Vが制限車速Vshを越えているか否か」を判定するのに代えて、「
矩形波制御中であるか否か」を判定するようにしてもよい。
【0085】
制御性が悪くインバータ出力電圧が不安定となりやすい「
矩形波制御中」であることを条件としてフィルタ処理を実行するほうが、
矩形波制御中の電力収支の崩れをより直接的に防止できる。
【0086】
一方、本実施の形態のように、車速Vを条件としてフィルタ処理を実行することによって、
矩形波制御中に加えて過変調PWM制御中においても電圧安定性を確保することができるというメリットがある。すなわち、車速Vが高くなるにつれて、正弦波PWM制御、過変調PWM制御、
矩形波制御へと制御性が劣る制御モードへ徐々に切り替わるが、過変調PWM制御でも正弦波PWM制御に比べればインバータ出力電圧(システム電圧VH)の安定制御性が劣る。そのため、車速Vを条件としてフィルタ処理を実行することによって、
矩形波制御領域のみならず過変調PWM制御領域においてもフィルタ処理を実行することで双方の領域で電圧安定化を図ることができる。
【0087】
図9は、本実施の形態によるECU1000の処理手順を示すフローチャートである。なお、
図9に示したステップのうち、前述の
図8に示したステップと同じ番号を付しているステップについては、既に説明したため詳細な説明はここでは繰り返さない。
【0088】
車速Vが制限車速Vshを超えている場合(S24にてYES)、ECU1000は、S30にて、車両要求トルクTreqのフィルタ処理(なまし処理)を行なう。具体的には、ECU1000は、上述の
図6のS10の処理で算出された「車両要求トルクTreq」にフィルタ処理を施す。これにより、フィルタ処理後の車両要求トルクTreqは、フィルタ処理前の車両要求トルクTreqよりも緩やかに変化することになる。このフィルタ処理後の車両要求トルクTreqが、バッテリレス走行制御時のエンジン要求パワーPereqの算出(
図6のS11の処理)のパラメータとして用いられる。このようにフィルタ処理によって車両要求トルクTreqを緩やかに変化させる(車両要求トルクTreqの変化レートを制限する)ことで、第1MGトルク目標値T1reqの急変(すなわち第1MG200の発電量の急変)が抑制される。そのため、インバータ出力電圧が不安定となるきっかけが排除され電圧安定化が図られる。
【0089】
一方、車速Vが制限車速Vsh未満である場合(S24にてNO)、ECU1000は、車両要求トルクTreqのフィルタ処理を行なうことなく、処理を終了させる。これにより、PWM制御中での動力性能の維持が図られる。
【0090】
以上のように、本実施の形態においては、「車両要求トルクTreq」のフィルタ処理を行なうことによって、上述の実施の形態1と同様、
矩形波制御中におけるインバータ出力電圧の安定化を図ることができる。
【0091】
なお、本実施の形態においても、上述の実施の形態1と同様、変速機を備えない車両においては
図9のS21〜S23の機能は不要である。
【0092】
また、本実施の形態においても、上述の実施の形態1と同様、車速Vを条件としてフィルタ処理を実行したが、より直接的に「
矩形波制御中」であることを条件としてフィルタ処理を実行するようにしてもよい。
[実施の形態3]
実施の形態1、2ではフィルタ処理によってアクセルペダル操作量Aあるいは車両要求トルクTreqの変化を緩やかにすることで
矩形波制御中における電圧安定化を実現した。
【0093】
これに対し、本実施の形態3では、第1MGトルクT1を制限することによって電圧安定化を実現する。その他の構造は、前述の実施の形態1、2と同じであるため、ここでの詳細な説明は繰り返さない。
【0094】
図10は、本実施の形態によるECU1000Aの機能ブロック図である。ECU1000Aは、第1判定部1010、第2判定部1020、ガード処理部1030A、切替部1040を含む。なお、第1判定部1010、第2判定部1020、切替部1040の機能については前述の
図7にて既に説明したため、ここでの詳細な説明は繰り返さない。
【0095】
ガード処理部1030Aは、バッテリレス走行制御中に車速Vが制限車速Vshを越えると、第1MGトルクT1のガード処理を行なう。具体的には、ガード処理部1030Aは、バッテリレス走行制御中の第1MG200の負トルク(第1MG200が発電によって発生するトルク)の増加を抑制するために、バッテリレス走行制御中の第1MGトルク目標値T1req(<0)が所定の下限トルクTmin(<0)よりも低下しないようにする。これにより、第1MG200の負トルク増加が抑制されてエンジン回転速度Neの一時的な低下が抑制されるので、第1MG200の発電量の一時的な低下も抑制される。そのため、
矩形波制御で第2MG400の出力パワーの低下に遅れが生じても、システム電圧VHが低下することを抑制することができ、インバータ出力電圧が不安定となるきっかけが排除され電圧安定化が図られる。
【0096】
一方、バッテリレス走行制御中ではあるが車速Vが制限車速Vsh未満である場合(すなわち
矩形波制御ではなくPWM制御が行なわれている場合)、ガード処理部1030Aは、第1MGトルクT1のガード処理を行なわない。これにより、PWM制御中での動力性能の維持が図られる。なお、ガード処理部1030Aは、バッテリレス走行制御中でない場合も、第1MGトルクT1のガード処理を行なわない。
【0097】
図11は、上述の機能を実現するためのECU1000Aの処理手順を示すフローチャートである。なお、
図11に示したステップのうち、前述の
図8に示したステップと同じ番号を付しているステップについては、既に説明したため詳細な説明はここでは繰り返さない。
【0098】
車速Vが制限車速Vshを超えている場合(S24にてYES)、ECU1000は、S40にて、上述の第1MGトルクT1のガード処理を行なう。
【0099】
一方、車速Vが制限車速Vsh未満である場合(S24にてNO)、ECU1000は、第1MGトルクT1のガード処理を行なうことなく、処理を終了させる。
【0100】
以上のように、本実施の形態においては、第1MGトルクT1のガード処理を行なうことによって、上述の実施の形態1、2と同様、
矩形波制御中におけるインバータ出力電圧の安定化を図ることができる。
【0101】
なお、上述の実施の形態1、2と同様、変速機を備えない車両においては
図11のS21〜S23の機能は不要である。
【0102】
また、本実施の形態においても、上述の実施の形態1、2と同様、車速Vを条件として第1MGトルクT1のガード処理を実行したが、より直接的に「
矩形波制御中」であることを条件として第1MGトルクT1のガード処理を実行するようにしてもよい。
【0103】
また、実施の形態1〜3を適宜組合せることも可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。