特許第6009775号(P6009775)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6009775
(24)【登録日】2016年9月23日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/93 20060101AFI20161006BHJP
【FI】
   G01S13/93 220
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-28568(P2012-28568)
(22)【出願日】2012年2月13日
(65)【公開番号】特開2013-164392(P2013-164392A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年6月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】水谷 玲義
(72)【発明者】
【氏名】松岡 圭司
(72)【発明者】
【氏名】清水 耕司
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 晴樹
【審査官】 中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−249743(JP,A)
【文献】 特開2008−003662(JP,A)
【文献】 特開平08−058503(JP,A)
【文献】 特開2008−170385(JP,A)
【文献】 特開2010−156567(JP,A)
【文献】 特開2013−164795(JP,A)
【文献】 特開2013−164391(JP,A)
【文献】 特開2013−164390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00−51
G01S13/00−95
G01S17/00−95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、前記車両の外部に向けて送信したレーダ波の反射波を受信することによって、前記レーダ波を反射した物体に関する情報を検出するレーダ装置であって、
前記レーダ波を送受信して、前記レーダ波を反射した物標の位置を検出する物標検出手段と、
前記物標検出手段により検出された物標の位置に基づいて、前記レーダ波を反射した物体の位置である物体位置を決定する反射物体位置決定手段と、
前記物標検出手段により検出された物標のうち、前記レーダ波を反射した物体を代表する物標であることを示す予め設定された代表物標特定条件を満たす物標を選択する代表物標選択手段と、
前記物標検出手段により検出された物標のうち、前記代表物標選択手段により選択された物標である代表物標と同一の物体に起因した物標であるか否かを判定するために予め設定された選択判定条件を満たす物標を選択する同一物体選択手段と、
前記同一物体選択手段により選択された物標が位置する範囲である同一物体範囲の大きさが、大型車であることを示す予め設定された大型車判定値以上であるか否かを判断する大型車判定手段とを備え、
前記同一物体範囲の大きさが前記大型車判定値以上であると前記大型車判定手段が判断した場合に、前記物体が大型車であると判定し、
前記同一物体範囲の大きさが前記大型車判定値以上であると前記大型車判定手段が判断することにより、前記物体が大型車であると判定した場合には、前記反射物体位置決定手段により決定される前記物体位置を大型車用に補正し、前記同一物体範囲の大きさが前記大型車判定値未満であると前記大型車判定手段が判断することにより、前記物体が大型車でないと判定した場合には、前記反射物体位置決定手段により決定される前記物体位置を非大型車用に補正する位置補正手段を備え、
前記反射物体位置決定手段は、
前記物標検出手段により検出された物標が、検出された物体が存在する範囲を示すために予め設定された物体存在範囲内に包含されるように、物体存在範囲の位置を設定することによって、前記物体位置を決定し、
前記位置補正手段は、
前記同一物体範囲の大きさが前記大型車判定値以上であると前記大型車判定手段が判断した場合に、前記同一物体範囲の大きさが前記大型車判定値未満であるときよりも前記物体存在範囲が大きくなるように、前記物体存在範囲を変更することによって、前記物体位置を補正し、
前記選択判定条件は、少なくとも、前記物標検出手段により検出された物標と前記代表物標との距離が予め設定された距離選択判定値以下であり、且つ、前記物標検出手段により検出された物標と前記代表物標との相対速度の差が予め設定された相対速度選択判定値以下であること
を特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記同一物体範囲の大きさが前記大型車判定値未満であると前記大型車判定手段が判断した場合に、前記物体が大型車でないと判定することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ波を送受信することにより、レーダ波を反射した物体を検出するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両周囲の所定角度に渡り、一定期間ごとにレーダ波(レーザー波、ミリ波など)を送信波として照射し、反射波を受信することによって、車両周囲の物体を検出する車載用レーダ装置が知られている。
【0003】
この種の車載用レーダ装置は、自車両の進行方向の前方において自車両と同じ車線を走行する車両(先行車両)を検出し、先行車両との車間距離を一定に保つように車速を制御する、いわゆるオートクルーズコントロールなどに適用されている。
【0004】
そして、オートクルーズコントロールを実行する車両において、自車両のカーブ走行中に、他車線で走行中の車両を先行車両として誤検出してしまう事態の発生を抑制するために、自車両が走行している車線のカーブ半径と先行車両の相対位置とに基づいて、先行車両が自車両と同一車線上に位置する確率を求め、この確率に基づいて、車間距離を一定に保つ対象とすべき先行車両(すなわち、同一車線上の先行車両)を選択する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−27909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、先行車両でレーダ波が反射する点(以下、先行車両反射点という)は、例えば図4(a)に示すように、先行車両の背面部の他に先行車両の内部にも存在している。そして一般的に、これらの先行車両反射点のうち、先行車両の背面部における先行車両反射点を抽出して、抽出した先行車両反射点を用いて、先行車両の位置を決定する。
そして、先行車両の背面における先行車両反射点の横位置(すなわち、自車両の車幅方向に沿った位置)は、先行車両が直進している場合であっても、図4(b)に示すように、先行車両の背面中央部から外れることがある。これは、先行車両が完全に真っ直ぐに走行することができないことや、自車、先行車とのアスペクト角度が変化したり、ピッチングによる揺れなどの影響により、ミリ波の特性上、反射点がばらつくためである。
また、先行車両がカーブすると、先行車両の背面部における先行車両反射点の横位置は、カーブする前と比較して、カーブする方向(すなわち、左カーブのときには左方向、右カーブのときには右方向)にずれる。これは、先行車両が直進している場合には、主に先行車両の背面中央部での反射波を自車両が検出する一方、図4(c)に示すように、先行車両が左(右)にカーブしている場合には、主に先行車両の背面左(右)端部での反射波を自車両が検出するためである。
従って、先行車両の直進中およびカーブ中において、先行車両位置の検出結果が変動し、自車両が走行している車線で走行中の先行車両を、他車線で走行中の車両として誤検出してしまうおそれがある。
【0007】
特に、先行車両がトラックなどの大型車である場合には、普通車と比較して、その車幅が大きいために、背面中央部と背面左(右)端部との間が長くなり、先行車両位置の検出精度の低下が更に大きくなってしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、先行車両が大型車であることに起因した先行車両位置の検出精度の低下を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載のレーダ装置は、車両の外部に向けて送信したレーダ波の反射波を受信することによって、レーダ波を反射した物体に関する情報を検出するレーダ装置であって、物標検出手段が、レーダ波を送受信して、レーダ波を反射した物標の位置を検出し、反射物体位置決定手段が、物標検出手段により検出された物標の位置に基づいて、レーダ波を反射した物体の位置である物体位置を決定する。
【0010】
なお物標とは、物体においてレーダ波を反射したポイントを表すものであり、1つの物体から複数検出されることがある。
また代表物標選択手段が、物標検出手段により検出された物標のうち、レーダ波を反射した物体を代表する物標であることを示す予め設定された代表物標特定条件を満たす物標を選択し、同一物体選択手段が、物標検出手段により検出された物標のうち、代表物標選択手段により選択された物標である代表物標と同一の物体に起因した物標であるか否かを判定するために予め設定された選択判定条件を満たす物標を選択する。
【0011】
なお、代表物標特定条件として、例えば、「自車両から最も近い位置に存在している物標である」ことが挙げられる。
さらに大型車判定手段が、同一物体選択手段により選択された物標が位置する範囲である同一物体範囲の大きさが、大型車であることを示す予め設定された大型車判定値以上であるか否かを判断する。なお、同一物体範囲の大きさを示す指標として、同一物体範囲の縦方向長さ、または同一物体範囲の横方向長さを採用してもよい。上記の縦方向は、自車両を起点として自車両の進行方向に沿った方向であり、上記の横方向は、自車両を起点として自車両の車幅方向に沿った方向である。
【0012】
すなわち、大型車の場合には、大型車より小さい車両(例えば、普通車)と比較して、上記の選択判定条件を満たす物標が位置する範囲が大きくなり、その大きさが大型車判定値以上である場合には、先行車両が大型車であると認識することができる。
【0013】
そして、同一物体範囲の大きさが大型車判定値以上であると大型車判定手段が判断した場合に、物体が大型車であると判定する。
このように構成されたレーダ装置によれば、先行車両が大型車であるか否かを認識した上で、レーダ波を反射した物体の位置(物体位置)を決定することができる。
【0014】
また、請求項1に記載のレーダ装置では、位置補正手段が、同一物体範囲の大きさが大型車判定値以上であると大型車判定手段が判断することにより、物体が大型車であると判定した場合には、反射物体位置決定手段により決定される物体位置を大型車用に補正し、同一物体範囲の大きさが大型車判定値未満であると大型車判定手段が判断することにより、物体が大型車でないと判定した場合には、反射物体位置決定手段により決定される物体位置を非大型車用に補正する
【0015】
このため、先行車両が大型車であることに起因した先行車両位置の検出精度の低下を抑制することができる。例えば、先行車両が大型車である場合には、普通車と比較して、位置変化が大きいことを考慮して、先行車両位置を決定することができるため、大型車であることに起因した先行車両位置の検出精度の低下を抑制することができる。
【0016】
また、請求項1に記載のレーダ装置では、反射物体位置決定手段が、物標検出手段により検出された物標が、検出された物体が存在する範囲を示すために予め設定された物体存在範囲内に包含されるように、物体存在範囲の位置を設定することによって、物体位置を決定する場合には、位置補正手段が、同一物体範囲の大きさが大型車判定値以上であると大型車判定手段が判断した場合に、同一物体範囲の大きさが大型車判定値未満であるときよりも物体存在範囲が大きくなるように、物体存在範囲を変更することによって、物体位置を補正する。そして、選択判定条件は、少なくとも、物標検出手段により検出された物標と代表物標との距離が予め設定された距離選択判定値以下であり、且つ、物標検出手段により検出された物標と代表物標との相対速度の差が予め設定された相対速度選択判定値以下であることである。
【0017】
このように構成されたレーダ装置によれば、先行車両が大型車である場合において、先行車両として、大型車より小さい車両(例えば、普通車)が2台存在すると誤検出してしまうという状況の発生を抑制することができる。
【0019】
また請求項1に記載のレーダ装置において、請求項2に記載のように、同一物体範囲の大きさが大型車判定値未満であると大型車判定手段が判断した場合に、物体が大型車でないと判定するようにするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】クルーズ制御システム1の概略構成を示すブロック図である。
図2】ターゲット情報生成処理を示すフローチャートである。
図3】ビート信号BTのパワースペクトルと同一物体選択条件を示す図である。
図4】先行車両の直進時およびカーブ時に検出される反射点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施形態について図面とともに説明する。
図1は、本発明が適用されたクルーズ制御システム1の概略構成を示すブロック図である。
クルーズ制御システム1は、車両に搭載され、図1に示すように、レーダ装置2と、車間制御電子制御装置(以下、車間制御ECUという)3と、エンジン電子制御装置(以下、エンジンECUという)4と、ブレーキ電子制御装置(以下、ブレーキECUという)5とを備えている。なおECU3,4,5は、車内LAN6を介して互いにデータ入出力可能に接続されている。
【0022】
これらのうちレーダ装置2は、FMCW方式のいわゆる「ミリ波レーダ」として構成されたものであり、周波数変調されたミリ波帯のレーダ波を送受信することにより、先行車両や路側物などの物体を認識し、これらの認識結果に基づいて、自車両の前方を走行する先行車両に関するターゲット情報を作成して、車間制御ECU3に送信する。なお、ターゲット情報には、少なくとも先行車両との相対速度、および先行車両の位置(距離、方位)が含まれている。
【0023】
またブレーキECU5は、図示しないステアリングセンサ、ヨーレートセンサからの検出情報(操舵角、ヨーレート)に加え、図示しないM/C圧センサからの情報に基づいて判断したブレーキペダル状態を車間制御ECU3に送信するとともに、車間制御ECU3から目標加速度およびブレーキ要求などを受信し、これら受信した情報や判断したブレーキ状態に従って、ブレーキ油圧回路に備えられた増圧制御弁・減圧制御弁を開閉するブレーキアクチュエータを駆動することでブレーキ力を制御するように構成されている。
【0024】
またエンジンEC4は、図示しない車速センサ、スロットル開度センサ、アクセルペダル開度センサからの検出情報(車速、エンジン制御状態、アクセル操作状態)を車間制御ECU3に送信するとともに、車間制御ECU3からは目標加速度、フューエルカット要求などを受信し、これら受信した情報から特定される運転状態に応じて、内燃機関のスロットル開度を調整するスロットルアクチュエータなどに対して駆動命令を出力するように構成されている。
【0025】
また車間制御ECU3は、エンジンECU4から車速やエンジン制御状態、ブレーキECU5から操舵角、ヨーレート、ブレーキ制御状態などを受信する。また車間制御ECU3は、図示しないクルーズコントロールスイッチ、目標車間設定スイッチなどによる設定値、およびレーダ装置2から受信したターゲット情報に基づいて、先行車両との車間距離を適切な距離に調節するための制御指令として、エンジンECU4に対しては、目標加速度、フューエルカット要求などを送信し、ブレーキECU5に対しては、目標加速度、ブレーキ要求などを送信する。
【0026】
ここで、レーダ装置2の詳細について説明する。
レーダ装置2は、時間に対して周波数が直線的に増加する上り区間および周波数が直線的に減少する下り区間を有するように変調されたミリ波帯の高周波信号を生成する発振器21と、発振器21が生成する高周波信号を増幅する増幅器22と、増幅器22の出力を送信信号Ssとローカル信号Lとに電力分配する分配器23と、送信信号Ssに応じたレーダ波を放射する送信アンテナ24と、レーダ波を受信するn個の受信アンテナからなる受信アンテナ部31とを備えている。
【0027】
またレーダ装置2は、受信アンテナ部31を構成するアンテナのいずれかを順次選択し、選択されたアンテナからの受信信号Srを後段に供給する受信スイッチ32と、受信スイッチ32から供給される受信信号Srを増幅する増幅器33と、増幅器33にて増幅された受信信号Srおよびローカル信号Lを混合してビート信号BTを生成するミキサ34と、ミキサ34が生成したビート信号BTから不要な信号成分を除去するフィルタ35と、フィルタ35の出力をサンプリングしデジタルデータに変換するA/D変換器36と、発振器21の起動または停止やA/D変換器36を介したビート信号BTのサンプリングを制御するとともに、そのサンプリングデータを用いた信号処理や、車間制御ECU3との通信を行い、信号処理に必要な情報(車速情報)、およびその信号処理の結果として得られる情報(ターゲット情報など)を送受信する処理などを行う信号処理部37とを備えている。
【0028】
このうち、受信アンテナ部31を構成する各アンテナは、そのビーム幅がいずれも送信アンテナ24のビーム幅全体を含むように設定されている。そして、各アンテナがそれぞれCH1〜CHnに割り当てられている。
【0029】
また信号処理部37は、周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、更に、A/D変換器36を介して取り込んだデータについて、高速フーリエ変換(FFT)処理などを実行するための演算処理装置(例えばDSP)を備えている。
【0030】
このように構成された本実施形態のレーダ装置2では、信号処理部37からの指令に従って発振器21が起動すると、まず発振器21が高周波信号を生成し、この高周波信号を増幅器22が増幅する。さらに分配器23が、この高周波信号を電力分配することにより、送信信号Ssおよびローカル信号Lを生成する。これらのうち送信信号Ssが、送信アンテナ24を介してレーダ波として送出される。
【0031】
そして、送信アンテナ24から送出され物体に反射して戻ってきた反射波は、受信アンテナ部31を構成する全ての受信アンテナにて受信され、受信スイッチ32によって選択されている受信チャンネルCHi(i=1〜n)の受信信号Srのみが増幅器33で増幅された後にミキサ34に供給される。するとミキサ34は、この受信信号Srに、分配器23からのローカル信号Lを混合することによりビート信号BTを生成する。このビート信号BTは、フィルタ35にて不要な信号成分が除去された後、A/D変換器36にてサンプリングされ、信号処理部37に取り込まれる。
【0032】
なお受信スイッチ32は、レーダ波の一変調周期の間に、すべてのチャンネルCH1〜CHnが所定の回(例えば512回)ずつ選択されるよう切り替えられ、また、A/D変換器36は、この切り替えのタイミングに同期してサンプリングを行う。つまり、レーダ波の一変調周期の間に、チャンネルCH1〜CHn毎かつレーダ波の上り/下り区間毎にサンプリングデータが蓄積されることになる。
【0033】
そして、レーダ装置2の信号処理部37では、一変調周期が経過する毎に、その間に蓄積されたサンプリングデータを、各チャンネルCH1〜CHn毎かつレーダ波の上り/下り各区間毎にFFT処理を施す信号解析処理、信号解析処理での解析結果に従って、先行車両を検出してターゲット情報を生成するターゲット情報生成処理などを実行する。
【0034】
なお、信号解析処理は周知の技術であることから、ここでの説明は省略する。
次に、信号処理部37が実行するターゲット情報生成処理の手順を図2を用いて説明する。図2はターゲット情報生成処理を示すフローチャートである。このターゲット情報生成処理は、信号解析処理において一変調周期分のサンプリングデータに基づくFFT処理結果が算出される毎に起動する。
【0035】
本処理が起動すると、信号処理部37は、まずS10にて、発振器21を起動してレーダ波の送信を開始する。その後S20にて、周波数が漸増する上り区間および周波数が漸減する下り区間からなる一周期が経過するまで、A/D変換器36から出力されるビート信号BTをサンプリングして取り込む。そして、上り区間および下り区間からなる一周期が経過すると、S30にて、発振器21を停止してレーダ波の送信を停止する。
【0036】
次にS40にて、S20の処理で取り込んだサンプリングデータについて周波数解析処理(ここではFFT処理)を実行して、受信チャンネルCH1〜CHn毎かつ上り/下り区間毎にビート信号BTのパワースペクトルを求める。このパワースペクトルは、ビート信号BTに含まれる周波数と、各周波数における強度とを表したものである。
【0037】
そしてS50にて、上り区間について、パワースペクトル上に存在する各周波数ピークfbu1〜mを検出するとともに、下り区間について、パワースペクトル上に存在する各周波数ピークfbd1〜mを検出する。なお、検出された周波数ピークfbu,fbdの各々は、認識した物標の候補(以下、物標候補という)が存在する可能性があることを意味する。また、本実施形態における物標とは、物体において、レーダ波を反射したポイントを表すものであり、1つの物体から複数検出されることがある(図3(a)を参照)。また、レーダ波の反射は、先行車両と自車両との対向面(例えば、先行車両の背面)からだけではなく、他の面(例えば、先行車両の下部や下側から見える内部構造物)からの場合もある。
【0038】
具体的にS50では、受信チャンネルCH毎に求められたパワースペクトルを、全ての受信チャンネルで相加平均した平均スペクトルを導出する。そして、その平均スペクトルの中で、強度が予め設定された設定閾値を超える周波数のピーク点に対応する(すなわち、平均スペクトルにおける強度が極大となる)周波数を周波数ピークfbu,fbdとして検出する。
【0039】
さらにS60にて、周波数ピークfbu,fbdの各々について、複数チャンネルCH1〜CHnから取得した同一ピーク周波数の信号成分間の位相差情報などに基づいて、そのピーク周波数で特定される物標が存在する方位(以下、ピーク方位という)を、例えばデジタルビームフォーミングの手法を用いて算出する。
【0040】
そしてS70にて、同一物標に基づく周波数ピークfbuと周波数ピークfbdとを組み合わせるペアマッチングを実行する。具体的には、上り区間の周波数ピークfbuと下り区間の周波数ピークfbdとの組合せについて、ピーク強度の差、およびピーク方位の角度差が予め設定された許容範囲内であるか否かを判定する。その判定の結果、ピーク強度の差およびピーク方位の角度差がともに、許容範囲内であれば、対応する周波数ピークの組をピークペアとして登録する。
【0041】
その後S80にて、登録されたピークペアについて、FMCW方式のレーダ装置における周知の手法により、レーダ装置2から物標候補までの距離、物標候補と自車両との相対速度を算出する。そしてS90にて、登録されたピークペアについて、S80で算出された距離と、S60で算出されたピーク方位とに基づいて、縦位置と横位置を算出する。なお、縦位置は、自車両を起点として自車両の進行方向に沿った位置であり、横位置は、自車両を起点として自車両の車幅方向に沿った位置である。これにより、登録されたピークペアについて、縦位置と横位置と相対速度が特定される。
【0042】
さらにS100にて、今回の測定サイクルで登録されたピークペア(以下、今サイクルペアという)毎に、これら今サイクルペアが、前回の測定サイクルで登録されたペア(以下、前サイクルペアという)と同一の物標を表すものであるか(履歴接続があるか)を判定する履歴追尾処理を実行する。
【0043】
具体的には、前サイクルペアの情報に基づいて、前サイクルペアに対応する今サイクルペアの予測位置および予測速度を算出し、その予測位置および予測速度と、今サイクルペアから求めた検出位置および検出速度との差分が(位置差分および速度差分)が予め設定された上限値(上限位置差および上限速度差)より小さい場合には、履歴接続があるものと判断し、複数の測定サイクル(例えば5サイクル)に渡って履歴接続があると判断されたピークペアを物標であると認識する。
【0044】
次にS110にて、S90で算出された縦位置と横位置に基づいて、S100の処理で物標であると認識されたピークペアのうち、予め設定された代表ペア特定条件を満たすピークペアを代表ピークペアとして特定する。なお、本実施形態における代表ペア特定条件は、「自車両から最も近い位置に存在している物標のピークペアであること」である。
【0045】
その後S120にて、S70の処理で登録されたピークペアのうち、S110の処理で特定された代表ピークペアと同一の物体に起因したピークペアを選択するために予め設定された同一物体選択条件を満たすピークペア(以下、同一物体ペアという)を選択する。なお、本実施形態における同一物体選択条件は、「代表ピークペアとの間で、縦位置の差が予め設定された縦位置選択判定値(本実施形態では20m)以下あり、且つ、横位置の差が予め設定された横位置選択判定値(本実施形態では3.6m)以下であり、且つ、相対速度の差が相対速度選択判定値(本実施形態では5km/h)以下であること」である(図3(b)を参照)。
【0046】
そしてS130にて、S120で選択された同一物体ペアのうち、自車両から最も遠い位置に存在している物標のピークペア(以下、最遠ピークペアという)と、自車両から最も近い位置に存在している物標のピークペア(以下、最近ピークペアという)を選択し、最遠ピークペアの縦位置と最近ピークペアの縦位置との差(以下、同一物体縦方向長という)を算出する。
【0047】
その後S140にて、同一物体縦方向長が、予め設定された大型車判定縦方向長(本実施形態では7m)以上であるか否かを判断する。ここで、同一物体縦方向長が大型車判定縦方向長以上である場合には(S140:YES)、S150にて、自車両の前方に大型車が存在すると認識し、S160にて、反射点包括範囲を大型車用に変更して、S190に移行する。反射点包括範囲は、S70の処理で登録されたピークペアのうち、代表ピークペアと同一の物体に起因したピークペアであるか否かを判定するために設定される範囲である。本実施形態では、大型車用と非大型車用の2種類が設けられている。そして本実施形態では、大型車用の反射点包括範囲は、例えば縦10m×横3.6mの矩形、非大型車用の反射点包括範囲は、例えば縦5m×横1.8mの矩形に設定されている。
【0048】
一方、S140にて、同一物体縦方向長が大型車判定縦方向長未満である場合には(S140:NO)、S170にて、自車両の前方に、大型車より小さい車両が存在すると認識し、S180にて、反射点包括範囲を非大型車用に変更して、S190に移行する。
【0049】
そしてS190に移行すると、S70の処理で登録されたピークペアの位置と、S160またはS180で設定された反射点包括範囲とに基づいて、先行車両が存在する範囲を決定する。具体的には、S70の処理で登録されたピークペアが反射点包括範囲内に含まれるように、反射点包括範囲の位置を設定し、この位置に設定された反射点包括範囲を、先行車両が存在する位置(以下、先行車両位置ともいう)として決定する。
【0050】
そしてS200にて、少なくとも、S150またはS170での認識結果(すなわち、先行車両が、大型車であるか、大型車より小さい車両であるか)を示す先行車両識別情報と、先行車両との相対速度を示す速度情報と、先行車両が存在する範囲を示す位置情報とから構成されるターゲット情報を生成して、生成したターゲット情報を車間制御ECU3に送信し、ターゲット情報生成処理を一旦終了する。
【0051】
このように構成されたレーダ装置2では、レーダ波を送受信して、レーダ波を反射した物標(ピークペア)の位置を検出し(S90)、検出された物標の位置に基づいて、レーダ波を反射した物体の位置(先行車両位置)を決定する(S190)。
【0052】
また、検出された物標(ピークペア)のうち、代表ペア特定条件を満たすピークペアを代表ピークペアとして特定し(S110)、特定された代表ピークペアと同一の物体に起因したピークペアを選択するために予め設定された同一物体選択条件を満たすピークペア(以下、同一物体ペアという)を選択する(S120)。
【0053】
さらに、選択された同一物体ペアが位置する範囲の大きさを示す指標として、最遠ピークペアの縦位置と最近ピークペアの縦位置との差(同一物体縦方向長)を算出し(S130)、この同一物体縦方向長が、大型車判定値以上であるか否かを判断する(S140)。
【0054】
すなわち、大型車の場合には、大型車より小さい車両(例えば、普通車)と比較して、同一物体縦方向長が長くなり、その長さが大型車判定値以上である場合には、先行車両が大型車であると認識することができる。
【0055】
そして、同一物体縦方向長が大型車判定値以上である場合に(S140:YES)、反射点包括範囲を大型車用に変更することにより、S190の処理で決定される先行車両位置を補正する(S160)。
【0056】
このように構成されたレーダ装置2によれば、先行車両が大型車であるか否かを認識した上で、レーダ波を反射した物体の位置(先行車両位置)を決定することができるため、先行車両が大型車であることに起因した先行車両位置の検出精度の低下を抑制することができる。
【0057】
また、反射点包括範囲の位置を設定し、この位置に設定された反射点包括範囲を、先行車両が存在する位置(先行車両位置)として決定しており(S190)、自車両の前方に大型車が存在すると認識した場合に、反射点包括範囲を大型車用に変更する(S160)。そして、大型車用の反射点包括範囲は、非大型車用の反射点包括範囲よりもが大きい。このため、先行車両が大型車である場合において、先行車両として、大型車より小さい車両(例えば、普通車)が2台存在すると誤検出してしまうという状況の発生を抑制することができる。
【0058】
以上説明した実施形態において、S90の処理は本発明における物標検出手段、S190の処理は本発明における反射物体位置決定手段、S110の処理は本発明における代表物標選択手段、S120の処理は本発明における同一物体選択手段、S140の処理は本発明における大型車判定手段、S160の処理は本発明における位置補正手段である。
【0059】
また、代表ペア特定条件は本発明における代表物標特定条件、同一物体選択条件は本発明における選択判定条件、同一物体縦方向長は本発明における同一物体範囲の大きさ、反射点包括範囲は本発明における物体存在範囲である。
【0060】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採ることができる。
例えば上記実施形態においては、最遠ピークペアの縦位置と最近ピークペアの縦位置との差(同一物体縦方向長)が、大型車判定縦方向長以上である場合に(S140:YES)、自車両の前方に大型車が存在すると認識する(S150)ものを示した。しかし、S120で選択された同一物体ペアが位置する範囲の大きさを示すことができるものであれば、これに限定されるものではなく、例えば、自車両に対して最も左に位置している物標のピークペアの横位置と、自車両に対して最も右に位置している物標のピークペアの横位置との差(以下、同一物体横方向長という)が、予め設定された大型車判定横方向長以上であるか否かを判断し、同一物体横方向長が大型車判定横方向長以上である場合に、自車両の前方に大型車が存在すると認識するようにしてもよい。
【0061】
または、S120で選択された同一物体ペアのうち、予め設定された基準ペア選択条件に基づいて選択された同一物体ペアを基準ペアとして、この基準ペアとの距離が、予め設定された大型車判定距離以上である同一物体ペアが存在する場合に、自車両の前方に大型車が存在すると認識するようにしてもよい。上記の基準ペアとしては、例えば、S120で選択された同一物体ペアが位置する範囲内において最も中央に位置する同一物体ペアを採用することができる。
【0062】
また上記実施形態においては、「自車両から最も近い位置に存在している物標のピークペア」を代表ピークペアとして特定するものを示したが、「周波数ピークの強度が最大であるピークペア」を代表ピークペアとして特定するようにしてもよい。
【0063】
また上記実施形態においては、同一物体選択条件が、「代表ピークペアとの間で、縦位置の差が予め設定された縦位置選択判定値以下あり、且つ、横位置の差が予め設定された横位置選択判定値以下であり、且つ、相対速度の差が相対速度選択判定値以下であること」であるものを示した。しかし、これに限定されるものではなく、例えば、同一物体選択条件が、「代表ピークペアと類似する特性(電力、距離など)を有すること」としてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1…クルーズ制御システム、2…レーダ装置、3…車間制御ECU、4…エンジンECU、5…ブレーキECU、21…発振器、22…増幅器、23…分配器、24…送信アンテナ、31…受信アンテナ部、32…受信スイッチ、33…増幅器、34…ミキサ、35…フィルタ、36…A/D変換器、37…信号処理部
図1
図2
図3
図4