【文献】
Journal of Cellulose Science and Technology,Vol.19, No.1,p.13-18 (2011).
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の結合材樹脂組成物では単にオルガノソルブリグニン粉を摩擦材の原材料として配合しただけであり、フェノール樹脂と相溶しにくい。そのためリグニン置換量に限界があり、さらには成形時に熱流動性が悪く、結果として成形性が良くない等、改良の余地があった。また、特許文献2には摩擦材の結合材用途に関する記載はない。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、すなわち、バイオマス含有率を高くすることにより環境負荷を低減しつつ、強度を損なうことなく、摩擦性能(耐フェード性)が向上した摩擦材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、種々検討の結果、下記構成の摩擦材とすることにより、上記課題が解決されることを見出した。すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
<1> 重量平均分子量が5000以下であるカルダノール変性リグニンフェノール樹脂を結合材として含有する摩擦材。
<2> 前記カルダノール変性リグニンフェノール樹脂の軟化点が50〜150℃である前記<1>に記載の摩擦材。
<3> 前記カルダノール変性リグニンフェノール樹脂が、リグニンと、フェノール類と、カルダノールと、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて得られる、前記<1>又は<2>に記載の摩擦材。
<4> 前記リグニンが針葉樹リグニン、広葉樹リグニン、及び草本リグニンからなる群から選ばれる1種以上である、前記<3>に記載の摩擦材。
<5> 前記<1>に記載の摩擦材を製造する方法であって、重量平均分子量が5000以下のリグニンと、フェノール類と、カルダノールと、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させてカルダノール変性リグニンフェノール樹脂を得る工程を含む摩擦材の製造方法。
<6> メタノール、エタノール、アセトン、及びテトラヒドロフランからなる群から選ばれる1種以上の溶媒によりリグニンを精製し、重量平均分子量が5000以下であるリグニンを得る工程、及び前記精製したリグニンと、フェノール類と、カルダノールと、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させてカルダノール変性リグニンフェノール樹脂を得る工程を含む、前記<5>に記載の摩擦材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、植物由来材料を使用しても、強度を損ねることなく、摩擦性能(耐フェード性)が向上しうる摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<カルダノール変性リグニンフェノール樹脂>
本発明に係る摩擦材は、従来の結合材成分であるフェノール樹脂をカルダノール変性リグニンフェノール樹脂で代替しており、環境低負荷な摩擦材である。
本発明におけるカルダノール変性リグニンフェノール樹脂は、リグニン、フェノール類、カルダノール及びアルデヒド類を混合して反応させることにより得られる。フェノールとリグニンとカルダノールとを分子レベルで反応させて一体の樹脂としているので摩擦材成形時の熱流動性が良好であり、さらにリグニン及びカルダノールの含有率すなわちバイオマスの含有率を特許文献1よりも向上させることができる。
【0012】
リグニンとは、木材等の植物体中にセルロースやヘミセルロース等に伴って存在する植物細胞壁の主要成分であり、フェニルプロパンを基本単位として不定形に重合した高分子化合物である。リグニンは種々の方法により植物体から分離・抽出することができるが、通常、植物体中に存在するリグニンをそのままの形で取り出すことは困難であり、リグニン誘導体として抽出される。
【0013】
本発明において、リグニンを抽出する植物体や抽出方法は限定されない。
植物体としては、リグニンを含み木質部が形成される木材や草本類であればよく、スギ、マツ、ヒノキ等の針葉樹、ブナ、ケヤキ等の広葉樹、イネ、ムギ、トウモロコシ、タケ等のイネ科植物(草本類)が挙げられる。このようにリグニンは由来する植物体により、針葉樹リグニン、広葉樹リグニン、草本リグニンに大別され、本願発明ではこれらの1種または2種以上を用いることができる。
【0014】
また、リグニンの基本骨格には、下記式に示すように、基本単位であるフェニルプロパン構造に加え、特徴的な官能基であるメトキシル基の数によって、式(G)に示すグアイアシル型(G型)、式(S)に示すシリンギル型(S型)、式(H)に示すp−ヒドロキシフェニル型(H型)等が知られている。リグニンの基本骨格は、由来する植物体により異なり、針葉樹リグニンはG型、広葉樹リグニンはG型およびS型、草本類リグニンはG型、S型およびH型で構成されていることが知られている。
【0016】
抽出方法としては、植物体中のセルロースおよびヘミセルロースを加水分解し、リグニンを不溶性残留物として残す方法と、リグニンを可溶性にして溶出させる方法との二つに大別される。前者としては、例えば濃硫酸を木材の砕片に作用させて残る部分からリグニンを分離する酸加水分解法等が挙げられる。後者としては、例えば水酸化ナトリウムでリグニンを分離するソーダ蒸解法、フェノール類を溶媒に用いて分離する相分離系変換システム、有機溶媒を用いて分離するソルベント法、超臨界および亜臨界流体を用いた抽出方法等が挙げられる。
【0017】
上記植物体とリグニン抽出方法は適宜組み合わせることができる。
【0018】
また、カルダノール変性リグニンフェノール樹脂の原料に使用するリグニンの分子量(重量平均分子量)は好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下である。リグニンの分子量がかかる範囲であれば、合成したカルダノール変性リグニンフェノール樹脂の成形時における熱流動性が良好であるため好ましい。
【0019】
また、本発明でカルダノール変性リグニンフェノール樹脂の原料として使用するリグニンは、その軟化点が好ましくは70℃〜180℃、より好ましくは80℃〜160℃、さらに好ましくは90〜130℃である。軟化点がかかる範囲であれば、合成したカルダノール変性リグニンフェノール樹脂の成形時における熱流動性が良好であるため好ましい。なお、軟化点は、熱機械測定装置により測定した値である。
【0020】
リグニンの分子量(重量平均分子量)及び軟化点を上記範囲とするためには、リグニン粗抽出物のうち、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン等の溶媒に可溶なリグニンを精製する方法が挙げられる。かかる溶媒に可溶なリグニンは比較的分子量が低く、上記軟化点の範囲を満たす。例えば、イネ科植物からソーダ蒸解法で抽出したリグニン(ハリマ化成社製、製品名:高純度リグニン)を次の有機溶媒によってそれぞれ精製して得られたリグニンの軟化点測定を行ったところ、メタノール:126℃、エタノール:109℃、アセトン:107℃、テトラヒドロフラン:101℃、といった結果が得られた。この結果から、適切な有機溶媒を選択することで、摩擦材成形時に必要な適切な熱流動性を示す軟化点を有したカルダノール変性リグニンフェノール樹脂を得られることが分かった。ただし、粗抽出物そのものが既に上記分子量(重量平均分子量)及び軟化点範囲を満たしている場合は、精製操作は不要である。
なお、リグニンは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
本発明で用いるフェノール類とは、フェノールまたはフェノール誘導体を指す。フェノール誘導体は、フェノール骨格を有していれば特に制限されず、任意の置換基をベンゼン環上に有していても良い。かかる置換基としてはアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、及びカルボキシ基等が挙げられる。フェノール類としては具体的にはフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、2,3−ジメチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,5−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、3,4−ジメチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、ビスフェノールA、o−フルオロフェノール、m−フルオロフェノール、p−フルオロフェノール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール、o−ブロモフェノール、m−ブロモフェノール、p−ブロモフェノール、o−ヨードフェノール、m−ヨードフェノール、p−ヨードフェノール、o−アミノフェノール、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、o−ニトロフェノール、m−ニトロフェノール、p−ニトロフェノール、2,4−ジニトロフェノール、2,4,6−トリニトロフェノール、サリチル酸、p−ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。これらのうち、フェノール、クレゾールが特に好ましい。
上記フェノール類は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
本発明で用いるカルダノールとはカシューナッツの殻に含まれる成分であり、下記一般式で表されるフェノール誘導体である。一般式中、Rの構造は下記に示すように4種類存在し、カルダノールはその4種が組み合わさった混合物である。カルダノールとしては、カシューナッツ殻から抽出された通常のカルダノールでも、R部分の不飽和結合に水素が添加された水添カルダノールでもよい。
【0024】
本発明で用いるアルデヒド類としては、例えばホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド、パラキシレンジメチルエーテル等が挙げられる。好ましくは、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、ポリオキシメチレン、アセトアルデヒド、パラキシレンジメチルエーテルが挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて使用してもよく、特にホルムアルデヒドが好ましい。
【0025】
本発明で用いる酸触媒には塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。これらのうちシュウ酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が好ましい。
【0026】
カルダノール変性リグニンフェノール樹脂の合成条件は、リグニン100質量部に対して、フェノール類が20〜200質量部であることが好ましく、40〜150質量部であることがより好ましい。これにより、得られるカルダノール変性リグニンフェノール樹脂の軟化点を後述する好ましい範囲とすることができる。また、リグニン100質量部に対して、カルダノールが1〜50質量部であることが好ましく、10〜40質量部であることがより好ましい。これにより、摩擦材成形時の樹脂の熱流動性を向上させることができる。
【0027】
また、アルデヒド類の配合割合はリグニン100質量部に対して、1〜80質量部であることが好ましい。これにより、得られるカルダノール変性リグニンフェノール樹脂の軟化点を後述する好ましい範囲とすることができる。
【0028】
酸触媒はフェノール類に対して0.1〜10質量部であることが好ましい。
【0029】
なお、合成後のカルダノール変性リグニンフェノール樹脂におけるバイオマス含有率は摩擦材成形時の熱流動性の点から20〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは40〜85質量%である。ここで、バイオマスとはリグニンとカルダノールを意味し、バイオマス含有率とは、リグニンとカルダノールの質量が合成前後で変化しないと仮定し、(リグニン及びカルダノールの仕込み量)/(カルダノール変性リグニンフェノール樹脂の収量)×100によって算出することができる。バイオマスの含有率がかかる範囲であれば、摩擦材の成形が可能であり、従来と同等以上の摩擦係数を示すために好ましい。
【0030】
本発明におけるカルダノール変性リグニンフェノール樹脂は、リグニン、フェノール類、カルダノール及びアルデヒド類を酸触媒下で反応させることで得られる。フェノール類とリグニン及びカルダノールの混合方法は特に限定されないが、80〜120℃で30分〜2時間攪拌することが好ましい。さらに触媒添加後の重合反応は70〜130℃が好ましく、より好ましくは80〜120℃である。また、反応時間は10分〜6時間が好ましく、より好ましくは30分〜3時間である。
次いで、得られた反応混合物から水及び未反応フェノールを留去するが、常圧蒸留及び/又は減圧蒸留が好ましく、特に120〜200℃で減圧蒸留することが好ましい。
【0031】
上記方法により得られるカルダノール変性リグニンフェノール樹脂は、分子量(重量平均分子量)が5000以下であり、より好ましくは4000以下である。カルダノール変性リグニンフェノール樹脂の分子量がかかる範囲であれば、摩擦材成形時の熱流動性が良好であるため好ましい。なお、樹脂の分子量を上記範囲とするには、重量平均分子量が5000以下のリグニンを用いることや、リグニン、フェノール類、カルダノールに対するアルデヒド類の量を調整することが挙げられる。
【0032】
そして、本発明におけるカルダノール変性リグニンフェノール樹脂は、軟化点が好ましくは50〜150℃、より好ましくは50〜130℃である。カルダノール変性リグニンフェノール樹脂の軟化点がかかる範囲であれば樹脂の硬化反応が開始する前に熱流動するため好ましい。樹脂の軟化点を上記範囲とするには、例えば、必要に応じて溶媒でリグニンの精製を行い、上記好ましい軟化点範囲のリグニンを原料として用いることや、リグニン、フェノール類、カルダノールに対するアルデヒド類の量を調整することが挙げられる。
【0033】
<摩擦材>
本発明の摩擦材は、繊維基材、摩擦調整材及び結合材を含み、上記カルダノール変性リグニンフェノール樹脂が結合材として配合される。
【0034】
なお、結合材中におけるバイオマス含有率は環境負荷の低減と成形性の点から50〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは60〜90質量%である。
【0035】
本発明で用いられる繊維基材としては、特に限定されるものではなく、本分野で通常用いられるものが用いられる。例えば、芳香族ポリアミド繊維、耐炎化アクリル繊維等の有機繊維;銅繊維、真鍮繊維等の金属繊維;チタン酸カリウム繊維、Al
2O
3−SiO
2系セラミック繊維、生体溶解性セラミック繊維、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。繊維基材の長さは100〜2500μm、直径は3〜600μmであることが好ましい。
繊維基材の配合量は、摩擦材全体に対して、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは5〜15質量%である。
【0036】
本発明の摩擦材における結合材の配合量は特に限定的ではないが、摩擦材全体に対して、好ましくは5〜20質量%、より好ましくは5〜10質量%である。
【0037】
また、本発明の摩擦材には、結合材として、上記カルダノール変性リグニンフェノール樹脂の他に、必要に応じて、通常摩擦材の結合材に用いられる公知のものも併用することができる。例えば、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
本発明では、摩擦作用を与え且つその摩擦性能を調整するための摩擦調整材として、種々の目的に応じて種々の摩擦調整材を用いることができ、通常摩擦材に用いられる、研削材、充填材、固体潤滑材等と呼ばれる種々の固体粉末材料を使用することができる。
【0039】
例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、硫化鉄、硫化銅、酸化ケイ素、金属粉末(銅、アルミニウム、青銅、亜鉛等)、バーミキュライト、マイカ等の無機充填材、アルミナ、マグネシア、ジルコニア等の研削材、各種ゴム粉末(ゴムダスト、タイヤ粉末等)、カシューダスト、メラミンダスト等の有機充填材、黒鉛、二硫化モリブデン等の固体潤滑材等を挙げることができる。これらは、製品に要求される摩擦特性、例えば、摩擦係数、耐摩耗性、振動特性、鳴き特性等に応じて、単独でまたは2種以上を組み合わせて配合することができる。
これらの摩擦調整材の配合量は、摩擦材全体に対して、好ましくは50〜90質量%、より好ましくは70〜90質量%である。
【0040】
本発明の摩擦材を製造するには、上記の繊維基材、摩擦調整材および結合材の所定量を配合し、その配合物を通常の製法に従って予備成形し、熱成形、加熱、研摩等の処理を施すことにより製造することができる。
【0041】
上記摩擦材を備えたブレーキパッドは、板金プレスにより所定の形状に成形され、脱脂処理およびプライマー処理が施され、そして接着剤が塗布されたプレッシャプレートと、摩擦材の予備成形体とを、熱成形工程において成形温度140〜170℃、成形圧力30〜80MPaで2〜10分間熱成形して両部材を一体に固着し、得られた成形品を150〜300℃の温度で1〜4時間アフタキュアを行い、最終的に仕上げ処理を施す工程により製造することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0043】
<カルダノール変性リグニンフェノール樹脂の作製>
イネ科植物からソーダ蒸解法で抽出したリグニン(ハリマ化成(株)社製、軟化点:165℃)をメタノールで精製し、軟化点126℃のリグニン(重量平均分子量:1600)を得た。軟化点の測定方法は後述する。
三ッ口フラスコに、上記精製リグニンと、フェノール(和光純薬(株)社製)と、カルダノール(カシュー(株)社製)を表1に示す割合で加え、80℃で30分攪拌した。その後、37%ホルムアルデヒド水溶液及びシュウ酸(1.5モル%)を添加し、100℃で1時間攪拌した。次に、180℃まで昇温させながら減圧蒸留を行い、水および未反応フェノールを留去することで、カルダノール変性リグニンフェノール樹脂A〜Cを得た。
【0044】
<リグニンフェノール樹脂の作製>
カルダノールを配合せず、精製リグニンとフェノールを表1に示す割合とした以外は上記カルダノール変性リグニンフェノール樹脂と同様の合成条件で、リグニンフェノール樹脂D及びEを得た。
【0045】
カルダノール変性リグニンフェノール樹脂A〜C及びリグニンフェノール樹脂D及びEの各種物性評価を行い、市販のフェノール樹脂F(住友ベークライト社製、ランダムノボラック、重量平均分子量:7200)と比較した。
なお、熱流動性、耐熱性、曲げ強度の評価には、樹脂にヘキサメチレンテトラミン(和光純薬社製)を10phr添加して硬化した試料を用いた。
【0046】
<熱流動性評価(加圧フロー測定)>
150℃に熱した2枚の鋼板の間に試料0.3gを置き、5000kgfの荷重をかけて4分間保持した。荷重を解除し、円形に広がって固化した試料の平面積を測定した。
【0047】
<軟化点測定>
試料3mgをアルミ製容器に取り、熱機械測定装置(TMA−60:(株)島津製作所製)を用いて測定し、変曲点での接線交点を軟化点とした。測定条件は30〜250℃まで昇温速度5℃/分、荷重1kgf、窒素雰囲気下とした。
【0048】
<曲げ強度測定>
樹脂20体積%、炭酸カルシウム80体積%を混合し、硬化して成形体を作製し、JIS−K7171に準拠して曲げ強度を測定した。
【0049】
各種物性評価の結果を表1に示す。
ここで、バイオマス含有率とは、樹脂A〜Cについては(リグニン及びカルダノールの仕込み量)/(カルダノール変性リグニンフェノール樹脂の収量)×100で表される値であり、樹脂D、Eについては、リグニンの質量が合成前後で変化しないと仮定し、(リグニンの仕込み量)/(リグニンフェノール樹脂の収量)×100で表される値である。
【0050】
【表1】
【0051】
測定結果より、カルダノール変性リグニンフェノール樹脂A〜Cは、従来のフェノール樹脂Fと同等以上の熱流動性及び曲げ強度を有することが分かる。また、フェノール量が同量の樹脂AとD、樹脂B及びCとEを比較すると、カルダノール変性リグニンフェノール樹脂A〜Cは、リグニンを含むがカルダノールを含まないリグニンフェノール樹脂D、Eよりも軟化点が低く加圧フローが大きいことから、熱流動性に優れていることが分かる。これは、樹脂A〜Cには、リグニンよりも分子量が小さいカルダノールが含まれるため、熱流動性(軟化点及び加圧フロー)に有利に働いたことが考えられる。
また、樹脂B及び樹脂Cは、樹脂Aよりもカルダノール配合量が多い分、バイオマス含有率が高い。樹脂Cのようにホルムアルデヒド量を増加させると、樹脂Bよりも得られる樹脂の分子量や軟化点が増大する。これは、リグニン、フェノール類およびカルダノールに対するアルデヒド類量が大きくなると、リグニン、フェノール類およびカルダノール間での架橋密度が高まるためと考えられる。このように、アルデヒド類量を調整することで、カルダノール変性リグニンフェノール樹脂の分子量や軟化点を調整することもできる。
【0052】
<摩擦材の作製>
上記で得られた樹脂A、C及びFを、表2に示す配合割合で他材料とミキサーで混合し、原料混合物を調製した。この原料混合物を成形圧力50MPa、成形温度150℃で熱成形を行い、さらに250℃で3時間の加熱処理を行い、実施例1、2及び比較例1の摩擦材を得た。
【0053】
【表2】
【0054】
<摩擦特性試験>
作製した各摩擦材から13mm×35mm×10mmの試験片を切出し、JASO−C406に準拠して、摩擦特性試験を1/10スケールブレーキダイナモメーターで行った(実施例1、2及び比較例1)。第1フェードの最低摩擦係数(minμ)、第2・第3効力(130km/h,0.6G)の測定結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
測定結果から、実施例1及び2の摩擦材が、第1フェードの最低摩擦係数において比較例1の摩擦材よりも向上したことから、カルダノール変性リグニンフェノール樹脂を結合材として用いることで、従来のフェノール樹脂を使用した場合よりも摩擦性能(耐フェード性)において優れる摩擦材が得られることが分かる。