(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外輪と、その外輪の円筒形内面との間でくさび空間を形成するカム面を外周に有する複数の切欠部が外周の周方向に間隔をおいて形成された内輪と、前記切欠部のそれぞれ内部に収容された円筒ころと、その円筒ころを保持するポケットを有する保持器と、前記くさび空間の狭小部内に挿入される押圧片が設けられたインプットリングと、前記円筒ころをくさび空間の狭小部に向けて付勢する弾性部材とからなり、前記押圧片が円筒ころをくさび空間の広幅部に向けて直接押圧する方向の回転を順方向とした際、前記インプットリングの順方向および逆方向の2方向の回転を内輪に伝達可能とし、内輪からインプットリングへは、逆方向の回転のみ伝達可能として、順方向への回転伝達は、くさび空間の狭小部に対するローラの噛み込みにより内輪をロックして遮断するようにしたクラッチにおいて、前記保持器を前記内輪に対して軸方向に抜止めする抜止め手段を設けたことを特徴とするクラッチ。
前記抜止め手段が、内輪の隣接する切欠部間に形成された膨出部の外周における軸方向の両端部に前記切欠部から周方向に延びる一対の円弧状の凹段部を設け、保持器には前記切欠部内からそれぞれの凹段部内に挿入可能な一対の切り起こし片を設け、その切り起こし片を前記凹段部の軸方向側面に係合させた構成からなる請求項1に記載のクラッチ。
ねじ軸の外周に形成された螺旋状のボール転走溝とナット部材の内周に形成された螺旋状のボール転走溝間にボールを組み込んだボールねじと、そのボールねじのナット部材に入力部材からの回転を伝達し、ナット部材から入力部材への回転伝達を遮断する逆入力遮断機能付きクラッチとを有し、そのクラッチが請求項1乃至4のいずれか1項に記載のクラッチとされ、そのクラッチの内輪が前記ナット部材に嵌合されて一体化され、前記入力部材がナット部材に対して相対的に回転自在とされたボールねじモジュール。
ドライビングプーリと、そのドライビングプーリに対して軸方向に相対的に移動自在に設けられたドリブンプーリと、入力部材により回転駆動されるナット部材およびそのナット部材の回転により軸方向に移動するねじ軸を有し、そのねじ軸の軸方向への移動によって前記ドリブンプーリを軸方向に移動させるボールねじとを備え、前記ドリブンプーリの軸方向への移動により、ドライビングプーリとドリブンプーリの対向部間に掛かるベルトの巻径を調整するようにした無段変速機におけるベルト巻径調整装置において、前記ボールねじが請求項5に記載のボールねじモジュールからなることを特徴とする無段変速機におけるベルト巻径調整装置。
車輪を操舵自在に支持する支持部材にボールねじのねじ軸を連結し、電動モータのロータの回転を前記ボールねじのナット部材に伝達する回転伝達系に前記車輪に働く外力によって前記電動モータのロータが回転するのを防止するクラッチを組み込んだ車輪操舵装置において、前記ねじ軸およびクラッチが、請求項5に記載のボールねじモジュールからなることを特徴とする車輪操舵装置。
内輪と、その内輪の円筒形外面との間にくさび空間を形成するカム面を有する複数の切欠部が内周の周方向に間隔をおいて形成された外輪と、その外輪のそれぞれの切欠部内に収容された円筒ころと、その円筒ころが収容されるポケットを有する保持器と、前記くさび空間のそれぞれの狭小部内に挿入される押圧片が設けられたインプットリングとからなり、前記ポケットの周方向の一端部に前記円筒ころをくさび空間の狭小部に向けて付勢する弾性片が折り曲げにより形成されたクラッチにおいて、前記保持器を前記外輪に対して軸方向に抜止めする抜止め手段を設けたことを特徴とするクラッチ。
【背景技術】
【0002】
外輪と、その内側に組み込まれた内輪の相互間において回転の伝達と遮断とを行なうクラッチとして、特許文献1に記載されたものが知られている。この特許文献1に記載されたクラッチにおいては、一方向の回転のみを伝達するものであるため、順方向の回転のみならず必要に応じて逆方向の回転をも伝達したいトルク伝達系に組み込んで使用することはできない。
【0003】
例えば、特許文献2に記載されているように、電動モータによってボールねじを形成するナット部材を回転し、そのナット部材の回転によりねじ軸を軸方向に移動させて車輪を操舵する車輪操舵装置のトルク伝達系に採用すると、ねじ軸を往復運動させることができず、車輪を操舵することができない。このように、特許文献1に記載されたクラッチにおいては、順方向のみの回転を伝達する一方向クラッチであるため、使用に制限を受けることが多いという不都合がある。
【0004】
そこで、特許文献2に記載された車輪操舵装置においては、電動モータのロータとボールねじのねじ軸間に順方向および逆方向の2方向の回転伝達が可能であって、逆入力を遮断することができるクラッチ機構の採用により、ボールねじの往復運動を可能とし、かつ、車輪からの一方向の逆入力を遮断して車輪を操舵できるようにしている。
【0005】
また、特許文献3においては、ボールねじの往復運動と一方向の逆入力を遮断することができるようにした特殊なクラッチ機構を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2や特許文献3に記載されたクラッチ機構においては、特定の用途に限ってのみ使用できるようにしたものであってクラッチモジュールとしての体をなしていないため、クラッチ機構を必要とする装置の組立てに手間がかかり、また、取り扱いが困難である。
【0008】
つまり、特許文献3では、電動ブレーキユニットを構成する部品の一部がクラッチを形成している。このため、クラッチの外輪がハウジングを兼ねている、歯車の一部が保持器の役割をしていることから、ユニットの組立が完了して初めてクラッチが形成されるため、クラッチとして単体で成立する構造ではない。このように、クラッチとしてモジュール化されていないため、単独で分解・運搬できないとの課題がある。また、外輪がハウジングの一部となっていることから、軸貫通タイプでは使用できない。
【0009】
この発明の課題は、入力側から出力側へは順方向および逆方向の2方向の回転伝達を可能とし、出力側から入力側へは一方向の逆入力を遮断することができる単体部品としての組付け性に優れた取り扱いの容易なクラッチを提供することである。
【0010】
また、この発明においては、そのクラッチを用いたボールねじモジュールおよびそのボールねじモジュールを用いた無段変速機におけるベルト巻径調整装置ならびに車輪操舵装置を提供することを第2の課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明に係るクラッチにおいては、外輪と、その外輪の円筒形内面との間でくさび空間を形成するカム面を外周に有する複数の切欠部が外周の周方向に間隔をおいて形成された内輪と、前記切欠部のそれぞれ内部に収容された円筒ころと、その円筒ころを保持するポケットを有する保持器と、前記くさび空間の狭小部内に挿入される押圧片が設けられたインプットリングと、前記円筒ころをくさび空間の狭小部に向けて付勢する弾性部材とからなり、前記押圧片が円筒ころをくさび空間の広幅部に向けて直接押圧する方向の回転を順方向とした際、前記インプットリングの順方向および逆方向の2方向の回転を内輪に伝達可能とし、内輪からインプットリングへは、逆方向の回転のみ伝達可能として、順方向への回転伝達は、くさび空間の狭小部に対するローラの噛み込みにより内輪をロックして遮断するようにした構成を採用したのである。
【0012】
上記の構成からなるクラッチにおいて、外輪を固定する使用において、インプットリングを順方向に回転させると、押圧片が円筒ころを押圧する。その押圧により、円筒ころがくさび空間の広幅部に向けて移動すると共に、弾性片が弾性変形し、その円筒ころおよび弾性片を介して内輪の隣接する切欠部間に設けられた膨出部が押圧され、内輪がインプットリングと同方向に回転する。
【0013】
一方、インプットリングを順方向と逆の方向に回転させると、押圧片がその回転方向前側に位置する膨出部の周方向端面を直接押圧し、その押圧により内輪が逆方向に回転する。
【0014】
ここで、内輪がインプットリングの順方向と同方向に回転しようとすると、くさび空間の狭小部にローラが噛み込み、その噛み込みにより内輪がロックされて逆入力は遮断される。
【0015】
このように、この発明に係るクラッチにおいては、インプットリングの順方向および逆方向の2方向の回転を内輪に伝達することができると共に、内輪からインプットリングへの逆入力を遮断することができる。
【0016】
この発明に係るクラッチにおいて、保持器を軸方向に非分離とする抜止め手段を設けておくと、内輪、保持器、ローラを組立てユニットとすることができるため、各種部品のバラケを防止し、取り扱いの容易なクラッチを得ることができる。
【0017】
上記抜止め手段として、内輪の隣接する切欠部間に形成された膨出部の外周における軸方向の両端部に前記切欠部から周方向に延びる一対の円弧状の凹段部を設け、保持器には前記切欠部内からそれぞれの凹段部に挿入可能な一対の切り起こし片を設けた構成からなるものを採用することにより、保持器に設けられた切り起こし片を内輪の切欠部に対向させた状態から、内輪の外周に保持器を嵌合し、一対の切り起こし片が切欠部内に配置される状態から保持器を回転させることにより、凹段部内に切り起こし片が侵入して、その凹段部の軸方向の側面に切り起こし片が係合することになり、保持器を簡単に軸方向に非分離とすることができる。
【0018】
ここで、外輪の開口端部に内向きの折曲げ片を形成すると、外輪、内輪、円筒ころおよび保持器を組立ユニットとすることができるため、各種部品のバラケを防止し、取り扱いをより容易とすることができる。
【0019】
また、保持器に形成されたポケットの周方向の一端部を内向きに折り曲げ、その折曲げ片をローラ押圧用の弾性部材とすることにより、部品点数の低減化を図り、クラッチの組立性を向上させることができる。
【0020】
上記の課題を解決するため、この発明に係るボールねじモジュールにおいては、ねじ軸の外周に形成された螺旋状のボール転走溝とナット部材の内周に形成された螺旋状のボール転走溝間にボールを組み込んだボールねじと、そのボールねじのナット部材に入力部材からの回転を伝達し、ナット部材から入力部材への回転伝達を遮断する逆入力遮断機能付きクラッチとを有し、そのクラッチがこの発明に係る上記クラッチとされ、そのクラッチの内輪を前記ナット部材に嵌合して一体化し、前記入力部材をナット部材に対して相対的に回転自在とした構成を採用したのである。
【0021】
上記のように、ボールねじとクラッチとを組み合わせることによって、効率的な動力変換機能とブレーキング機能を持つボールねじモジュールを得ることができ、ボールねじを必要とする装置への組付性が向上し、しかも、容易に取り外すこともできるため、メンテナンスの向上も図ることができる。
【0022】
上記の課題を解決するため、この発明に係る無段変速機におけるベルト巻径調整装置においては、ドライビングプーリと、そのドライビングプーリに対して軸方向に相対的に移動自在に設けられたドリブンプーリと、入力部材により回転駆動されるナット部材およびそのナット部材の回転により軸方向に移動するねじ軸を有し、そのねじ軸の軸方向への移動によって前記ドリブンプーリを軸方向に移動させるボールねじとを備え、前記ドリブンプーリの軸方向への移動により、ドライビングプーリとドリブンプーリの対向部間に掛かるベルトの巻径を調整するようにした無段変速機におけるベルト巻径調整装置おいて、上記ボールねじをこの発明に係る前述のボールねじモジュールとした構成を採用したのである。
【0023】
上記のように、この発明に係るボールねじモジュールを無段変速機のベルト巻径調整装置として採用することによって、その無段変速機を容易に組立ることができ、また、取外しも容易であるため、メンテナンスも容易とすることができる。
【0024】
また、ドリブンプーリからボールねじのねじ軸に負荷される逆入力をクラッチにより遮断することができるため、ドリブンプーリを巻径調整位置において確実に停止保持することができる。
【0025】
また、この発明に係る車輪操舵装置においては、車輪を操舵自在に支持する支持部材にボールねじのねじ軸を連結し、電動モータのロータの回転を前記ボールねじのナット部材に伝達する回転伝達系に前記車輪に働く外力によって前記電動モータのロータが回転するのを防止するクラッチを組み込んだ車輪操舵装置において、前記ねじ軸およびクラッチをこの発明に係る前述のボールねじモジュールとした構成を採用したのである。
【0026】
上記のように、この発明に係るボールねじモジュールを車輪操舵装置に採用することによって、その車輪操舵装置を容易に組立ることができ、また、取外しも容易であるため、メンテナンスも容易とすることができる。
【0027】
また、車輪からボールねじのねじ軸に負荷される外力をクラッチにより遮断することができるため、電動モータのロータに上記外力が伝達されず、車両の走行安定性を改善することができる。また、車輪からの外力が電動モータに伝達されることがないため、電動モータの制御システムを簡略化することができる
【発明の効果】
【0028】
この発明に係るクラッチにおいては、上記のように、インプットリングの順方向および逆方向の2方向の回転を内輪に伝達することができると共に、内輪からインプットリングへの逆入力を遮断することができるため、特定の用途に限らず種々な用途に適用可能な汎用性の高いクラッチとすることができる。
【0029】
また、クラッチが部品単体として体をなすため、取り扱いが容易であり、しかも、各種装置に対しての組付け性に優れ、各種装置の組立て性を高めることができると共に、取外しも容易であるため、メンテナンスも容易とすることができる。
【0030】
さらに、ボールねじとクラッチとを組み合わせボールねじモジュールとしたことにより、効率的な動力変換機能とブレーキング機能を持つボールねじモジュールを得ることができ、無段変速機のベルト巻径調整装置や車輪操舵装置等の装置類に採用することができる。また、その装置類への採用により、その装置類を容易に組立ることができ、しかも、取外しも容易であるため、メンテナンスも容易とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1乃至
図4は、この発明に係るクラッチの実施の形態を示す。図示のように、クラッチCは、外輪1と、その内側に組み込まれた内輪2と、その内輪2と外輪1間に組み込まれた円筒ころ3と、その円筒ころ3を保持する保持器4および上記内輪2に回転を伝達するインプットリング5とからなる。
【0033】
外輪1は、鋼板のプレス成形品からなり、その内面1aは円筒形をなし、軸方向の両端には折曲げ片としての内向きのフランジ1b、1cが設けられている。ここで、一対の内向きフランジ1b、1cのうち、一方のフランンジはクラッチCの組立て前において形成され、他方のフランジは、クラッチCの組立て後における端部の加締めにより形成される。
【0034】
内輪2には、円筒ころ3が収容される複数の切欠部2aが周方向に間隔をおいて形成され、それぞれの切欠部2aに円筒ころ3が一つずつ組み込まれている。また、切欠部2aのそれぞれには、外輪1の円筒形内面1aとの間でくさび空間を形成するカム面2bが設けられている。
【0035】
保持器4は、薄鋼板のプレス成形品からなっている。この保持器4は、円筒状をなし、内輪2の外周に嵌合され、内輪2の切欠部2aのそれぞれと対向する位置には円筒ころ3を収容するポケット4aが設けられている。
【0036】
また、保持器4には、ポケット4aの周方向の一端に内向きに折り曲げられた弾性部材としての弾性片4bが設けられ、その弾性片4bは円筒ころ3をくさび空間の狭小部に向けて付勢している。
【0037】
保持器4は、内輪2との間に設けられた抜止め手段10によって軸方向に非分離とされている。抜止め手段10は、内輪2の隣接する切欠部2a間に形成された膨出部2cの外周における軸方向の両端部に上記切欠部2aから周方向に延びる一対の円弧状の凹段部11を設け、保持器4には上記切欠部2a内からそれぞれの凹段部11内に挿入可能な一対の切り起こし片12を設け、その切り起こし片12を凹段部11の軸方向側面に係合させるようにしている。
【0038】
インプットリング5は、内輪2の軸方向の一端部に対向する配置とされ、その内輪2に対する対向面にはそれぞれのくさび空間の狭小部内に挿入される押圧片5aが設けられている。
【0039】
実施の形態で示すクラッチCは上記の構造からなり、そのクラッチCの組立てに際しては、内輪2の外周に保持器4を嵌合する。その嵌合に際し、保持器4に設けられた切り起こし片12を内輪2の切欠部2aに対向するようにして保持器4を位置決めし、その位置決め状態から内輪2の外周に保持器4を嵌合し、切り起こし片12を切欠部2a内に位置させた状態から保持器4を内輪2に対して相対回転させる。
【0040】
上記のような内輪2に対する保持器4の相対回転により、保持器4に形成された切り起こし片12が凹段部11内に侵入して、その凹段部11の軸方向の側面に切り起こし片12が係合し、その係合によって保持器4は軸方向に非分離とされる。
【0041】
また、保持器4の相対回転により、その保持器4に設けられた弾性片4bの折曲げ基端が膨出部2cの周方向の一端面に係合し、その係合により保持器4は一方向に回り止めされて、保持器4は組付け状態とされる。
【0042】
上記のような保持器4の組付け状態において、保持器4のポケット4aから切欠部2a内に円筒ころ3を組込む。
図6は円筒ころ3の組付け状態を示し、その円筒ころ3の組付け後、その組立て品の外側に外輪1を嵌合し、その嵌合方向の端部を内向きに加締めて内向きフランジ1cを形成することにより、
図7に示すように、外輪1、内輪2、円筒ころ3および保持器4は組立て状態とされて組立ユニットUが形成される。
【0043】
組立ユニットUの形成後、インプットリング5の押圧片5aを内輪2の軸方向の一端面に対向して、そのインプットリング5を内輪2に向けて移動させることにより、
図1および
図2に示すように、押圧片5aが内輪2の切欠部2a内に進入してクラッチCの組立てが完了する。
【0044】
クラッチCの組立て状態において、外輪1を固定し、インプットリング5を
図1および
図2に示す矢印イの方向に回転させると、
図5に示すように、インプットリング5の押圧片5aが円筒ころ3を押圧する。その押圧により、円筒ころ3がくさび空間の広幅部に向けて移動し、また、その移動する円筒ころ3の押圧により弾性片4bが弾性変形し、上記弾性片4bおよび円筒ころ3を介してインプットリング5の回転が内輪2に伝達され、内輪2がインプットリング5と同方向に回転する。
【0045】
また、インプットリング5を
図1および
図2に示す矢印ロの方向に回転させると、インプットリング5の押圧片5aが内輪2の膨出部2cの周方向の端面を押圧し、その押圧によって内輪2がインプットリング5と同方向に回転する。
【0046】
ここで、内輪2を
図2に示す矢印ハの方向に回転させると、外輪1の円筒面1aと内輪2のカム面2bで形成されるくさび空間の狭小部に円筒ころ3が噛み込んで内輪2がロックし、内輪2からインプットリング5への逆入力は遮断される。
【0047】
上記のように、逆入力の遮断機能が作動する状態において、インプットリング5を回転させると、円筒ころ3または内輪2の膨出部2cが押圧片5aで押圧されるため、逆入力の遮断機能を解除することができる。
【0048】
なお、内輪2を
図2に示す矢印ニの方向に回転させると、円筒ころ3はインプットリング5の押圧片5aに接触して、内輪2の回転をインプットリング5に伝達し、インプットリング5が内輪2と同方向に回転する。
【0049】
実施の形態示すクラッチCにおいては、上記のように、インプットリング5の矢印イで示す方向および矢印ロで示す方向の2方向の回転を内輪2に伝達することができると共に、内輪2が
図2の矢印ハで示す方向に回転しようとした際には、その内輪2をロックしてインプットリング5への逆入力を遮断するため、特定の用途に限らず種々な用途に適用可能な汎用性の高いクラッチとすることができる。
【0050】
また、クラッチCが部品単体として体をなすため、取り扱いが容易であり、しかも、各種装置に対しての組付け性に優れ、各種装置の組立て性を高めることができると共に、取外しも容易であるため、メンテナンスも容易とすることができる。
【0051】
図8は、
図1に示すクラッチCを用いたボールねじモジュールMを示す。このボールねじモジュールMは、ボールねじ20と、
図1に示す逆入力遮断機能付きクラッチCからなっている。
【0052】
ボールねじ20は、ねじ軸21の外周に形成された螺旋状のボール転走溝22とナット部材23の内周に形成された螺旋状のボール転走溝24間にボール25を組み込んだ構成とされ、上記ナット部材23の外周には軸方向中央部から一方の端部側に片寄った位置に環状突出部26が設けられ、その環状突出部26の軸方向一側における外周にクラッチCの内輪2と、ナット部材23の回転支持用軸受27が嵌合されている。
【0053】
ここで、内輪2は、ナット部材23の外周に嵌合されてキー止めにより回り止めされ、環状突出部26によって軸方向に位置決めされている。
【0054】
また、ナット部材23の外周には、環状突出部26の軸方向他側に軸受28が嵌合され、その軸受28によってクラッチCのインプットリング5が回転自在に支持されている。
【0055】
インプットリング5の外周にはトルク入力リング29と、インプットリング5の回転支持用軸受30とが嵌合され、上記トルク入力リング29はインプットリング5に対して一体化されている。
【0056】
トルク入力リング29として、ここでは、ギヤを示しているが、ギヤに限定されるものではない。例えば、プーリであってもよく、スプロケットであってもよい。
【0057】
上記の構成からなるボールねじモジュールMにおいて、クラッチCの外輪1を固定する状態でトルク入力リング29に回転トルクを入力すると、インプットリング5が回転し、その回転はクラッチCを介してナット部材23に伝達される。このため、ナット部材23が回転し、その回転によりねじ軸21が軸方向に移動する。
【0058】
このとき、クラッチCは、順方向および逆方向の2方向の回転をナット部材23に伝達することができるため、ねじ軸21を軸方向に往復動させることができる。ねじ軸21が軸方向に移動して、その軸力により仕事をし、その反力がねじ軸21に作用すると、ナット部材23が回転しようとする。このとき、クラッチCの円筒ころ3は外輪1の円筒形内面1aと内輪2のカム面2bで形成されるくさび空間の狭小部に噛み込むため、ナット部材23がロックされ、ナット部材23からインプットリング5への逆入力が遮断される。
【0059】
図8に示すように、ボールねじ20とクラッチCとを組み合わせることによって、効率的な動力変換機能とブレーキング機能を持つボールねじモジュールMを得ることができ、しかも、軸受27、28、30の嵌め合いにより各種の構成部品が一体化されて一つの機能部品としての体をなすため、ボールねじ20を必要とする装置への組付性が向上し、輸送や保管に伴う取り扱いを容易とし、さらに、取外しも容易とすることができるため、メンテナンスを容易とすることができる。
【0060】
ここで、ボールねじモジュールMを構成するすべての構成部品を鉄を主とする材料で形成することにより、リサイクルや廃棄を容易とすることができる。
【0061】
図9乃至
図11は、
図8に示すボールねじモジュールMの使用例を示し、
図9においては、ベルト式無段変速機のベルト巻径調整装置として使用した例を示す。このベルト式無段変速機のベルト巻径調整装置においては、ドライビングプーリ41の軸心上に設けられたガイド軸42によってドリブンプーリ43をスライド自在に支持し、そのドライビングプーリ41とドリブンプーリ43の対向面間に形成されたV形ベルト案内溝44に両側面がテーパ面とされたベルト45を掛け渡し、上記ドリブンプーリ43をコネクティングロッド46の軸端部に嵌合された軸受47で回転自在に支持し、上記コネクティングロッド46の軸方向への移動により、ドリブンプーリ43をドライビングプーリ41に対して相対的に移動させてベルト45の巻き径を調整するようにしている。
【0062】
そして、コネクティングロッド46を軸方向に移動させるために、そのコネクティングロッド46をスライド自在に支持するハウジング48と、そのハウジング48にボルト止めされるカバー49によって
図8に示すボールねじモジュールMを支持して、ボールねじモジュールMのねじ軸21をコネクティングロッド46に接続し、上記カバー49に支持された電動モータ50の出力軸にトルク入力リング29に噛合する駆動ギヤ51を設けている。
【0063】
ボールねじモジュールMの支持に際し、ハウジング48に嵌合凹部52を形成し、その嵌合凹部52にボールねじモジュールMの軸受30を嵌合し、また、カバー49にも上記嵌合凹部52と同軸上に嵌合凹部53を設け、その嵌合凹部53にクラッチCの外輪1および軸受27を嵌合するようにしている。
【0064】
上記の構成からなるベルト式無段変速機のベルト巻径調整装置において、電動モータ50を駆動して駆動ギヤ51を回転させると、その回転はボールねじモジュールMのトルク入力リング29からクラッチCのインプットリング5に伝達されて、インプットリング5が回転する。
【0065】
また、インプットリング5の回転はナット部材23に伝達されるため、ねじ軸21が軸方向に移動する。そのねじ軸21にはドリブンプーリ43を回転自在に支持するコネクティングロッド46が接続されているため、ねじ軸21の軸方向への移動により、ドリブンプーリ43がドライビングプーリ41に対して相対的に移動し、ベルト45の巻き径が調整される。
【0066】
ベルト45の巻き径の調整後、電動モータ50を停止すると、ドリブンプーリ43からコネクティングロッド46を介してボールねじモジュールMのねじ軸21に軸力が負荷され、ナット部材23が回転しようとする。このとき、クラッチCは係合してナット部材23をロックするため、ねじ軸21からナット部材23への逆入力は遮断される。
【0067】
ベルト式無段変速機のベルト巻径調整装置においては、上記のように、
図8に示すボールねじモジュールMを使用し、そのボールねじモジュールMは、ハウジング48に形成された嵌合凹部52にボールねじモジュールMの軸受30を嵌合し、また、カバー49に設けられた嵌合凹部53にクラッチCの外輪1および軸受27を嵌合する組込みであるため、組み付けが容易であり、ベルト式無段変速機のベルト巻径調整装置を簡単に組み立てることができる。
【0068】
ここで、ボールねじモジュールMのトルク入力リング29は必要に応じて取付けるものであり、
図10および
図11は、トルク入力リング29を取り除き、クラッチCと軸受27の位置を左右逆の配置としたボールねじモジュールMを車輪操舵装置に用いた使用例を示す。
【0069】
図10および
図11に示す車輪操舵装置においては、左右一対の車輪60、60のそれぞれを操舵可能に支持する一対の支持部材61にボールねじモジュールMのねじ軸21の端部を連結し、上記ねじ軸21と同軸上に設けられた電動モータ62のモータケース63内にステータ64を固定し、そのステータ64の内側に設けられた回転可能なロータ65の内側に筒状の入力軸66を挿通して、ロータ65に固定し、上記モータケース63の端部に接続された軸受ハウジング67の内径面にクラッチCの外輪1および軸受27、28を圧入し、上記クラッチCのインプットリング5を上記入力軸66の軸端部に嵌合して一体化している。
【0070】
上記の構成からなる車輪操舵装置において、電動モータ62を駆動してロータ65と共に入力軸66を回転させると、クラッチCのインプットリング5が回転し、そのインプットリング5の回転によりナット部材23がインプットリング5と同方向に回転し、ねじ軸21が軸方向に移動して車輪60が操舵される。
【0071】
上記のように、
図8に示すボールねじモジュールMを使用し、そのボールねじモジュールMは、軸受ハウジング67の内径面にクラッチCの外輪1および軸受27、28を圧入する組込みであるため、組み付けが容易であり、車輪操舵装置を簡単に組み立てることができる。
【0072】
また、車輪60からボールねじ20のねじ軸21に負荷される外力はクラッチCにより遮断されるため、電動モータ62のロータ65に上記外力が伝達されず、車両の走行安定性を改善することができる。また、車輪60からの外力が電動モータ62に伝達されることがないため、電動モータ62の制御システムを簡略化することができる
【0073】
図1乃至
図7に示すクラッチCにおいては、外輪1の内面1aを円筒形とし、内輪2の内周に切欠部2aを設けたが、
図12に示すように、内輪2の外面2eを円筒形とし、外輪1の内周に切欠部1dを設けてもよい。この場合、切欠部1dに内輪2の円筒形外面2eとの間でくさび空間を形成するカム面1eを設ける。
【0074】
また、外輪1の内周に保持器4を嵌合し、その保持器4と外輪1の隣接する切欠部1d間に形成された膨出部1fの相互間に凹段部11と切り起こし片12からなる抜止め手段10を設けるようにする。
【0075】
さらに、保持器4に形成されたポケット4aの周方向の一端に外向きの弾性片4bを折曲げにより形成し、その弾性片4bにより円筒ころ3をくさび空間の狭小部に向けて付勢すると共に、インプットリング5に設けられた押圧片5aを切欠部1d内に挿入する。
【0076】
図12に示すクラッチCにおいては、内輪2を固定し、インプットリング5の回転により外輪1を順方向または逆方向に回転させると共に、外輪1の一方向(
図12の矢印ホで示す方向)の回転時に円筒ころ3をくさび空間の狭小部に噛み込ませて外輪1からインプットリング5への逆入力を遮断する。