(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
血管内に留置して前記血管に弁機能を付与する弁付きステントであって、筒状のステント本体と、該ステント本体から半径内方向に突出して前記血管を血流方向に開閉可能な結合組織体からなる弁葉と、前記ステント本体を覆って血管壁に接触する結合組織体からなる接触部と、を備え、前記接触部は、その複数がステント本体の周方向に間隔を空けて血流方向に連続して形成され、前記ステント本体は、複数の前記接触部の間で露出して半径方向で内外に連通されたことを特徴とする弁付きステント。
血管のうちの血管壁が半径外方向に膨出する膨大部に留置可能とされ、前記ステント本体は、前記膨大部を血流方向に跨いで両側で保持可能な長さに設定されたことを特徴とする請求項1に記載の弁付きステント。
生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体を形成して、ステント本体から半径内方向に突出する弁葉を有する弁付きステントを形成するための基材であって、
柱状の基材本体と、該基材本体の外周面に形成された複数の凹部と、該凹部を覆って前記弁葉を形成する弁葉形成空間を構成する内カバーと、該内カバーの外面側にステント本体を介在させて配置される外カバーとを備えたことを特徴とする弁付きステント形成用基材。
生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体を形成して、ステント本体から半径内方向に突出する弁葉を有する弁付きステントの内外を裏返した形状の裏向き弁付きステントを形成するための基材であって、
柱状の基材本体と、該基材本体の外周側にステント本体を介在させて配置される基材カバーとを備えたことを特徴とする弁付きステント形成用基材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、血管の一部には、例えば大動脈の大動脈洞(バルサルバ洞)のように、血管壁が半径外方向に膨出した膨大部が存在し、その血流方向上流側の内部において、半径方向内側に突出する複数の弁葉が血流方向に開閉している。この膨大部は、弁が開く際には血液の逃げ道となり、閉じた時には血液の溜まり場として機能して、弁の開閉を行いやすくすると共に血液の逆流を防ぐ働きをしている。
【0006】
このような血管の膨大部に設ける人工弁が求められており、膨大部に特許文献4のステントを留置して弁機能を付与することが考えられる。
【0007】
しかしながら、大動脈の大動脈洞からは心臓に影響を与える冠動脈が分岐しており、大動脈洞に、大動脈弁として特許文献4のステントを留置すると、ステントの全体を覆う結合組織体層が冠動脈を塞いで心筋梗塞を起こすおそれがある。
【0008】
また、特許文献4のステントは、結合組織膜で被覆されている分、迅速に血管内皮を組織化再構築させることができるものの、場合によっては、ステント本体を被覆する結合組織膜がステント留置部の血管組織を覆うことにより、血管の血栓性を高めて治癒を遅らせるおそれがある。
【0009】
本発明は、分岐する血管を塞ぐことなく弁機能を付与することができ、しかも、ステント留置部の血管組織を極力覆うことなく弁機能を付与することのできる弁付きステント、弁付きステント形成用基材、及び弁付きステントの生産方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る弁付きステントは、血管内に留置して前記血管に弁機能を付与するものであり、筒状のステント本体と、このステント本体から半径内方向に突出して血管を血流方向に開閉可能な結合組織体からなる弁葉とを備え、そのステント本体を半径方向で内外に連通させたものである。
【0011】
上記構成によれば、ステント本体を半径方向で内外に連通させるので、冠動脈が分岐する大動脈の大動脈洞などにステントを留置する場合であっても、その分岐血管をステントで塞ぐことなく、例えば大動脈弁としての人工弁を設けて弁機能を付与することができる。しかも、ステント本体を半径方向で内外に連通させる分、ステントが覆う血管の面積を極力小さくして、ステント留置部の血管組織をほぼそのまま残すことができるので、大動脈や肺動脈に人工弁を設けつつ、血栓性を少なくして治癒を早めることができる。
【0012】
また、ステント本体としては、メッシュ状の金属部材を例示することができる。この構成によれば、ステントとして十分な強度を得つつ、ステント本体の内外の連通を阻害する面積を極力小さくすることができ、しかも、ステント本体を容易に拡径して所望の径に設定することができる。なお、ステント本体は、半径方向で内外が連通するものであればよく、メッシュ状の金属部材に限らず、連通孔を有する合成樹脂製の筒体など、どのようなものであってもよい。
【0013】
また、血管のうちの血管壁が半径外方向に膨出する膨大部に留置可能とし、そのステント本体を、膨大部を血流方向に跨いで両側で保持可能な長さに設定するのがよい。この構成によれば、血管の膨大部を跨いだ両側でステントを保持できるので、膨大部の血管壁とステントとの間に隙間を空けて、膨大部に直状のステントを留置することができる。このステント内の血液は、弁が閉じた際、ステントの筒壁の広い範囲を通って、一旦、膨大部の血管壁とステントとの間の隙間に流れ込み、この隙間から分岐血管に流れることになるので、分岐血管にスムーズに血液を送ることができる。
【0014】
また、弁葉の複数をステント本体の周方向に並設し、この複数の弁葉を基端部で一体化するのがよい。この構成によれば、複数の弁葉を周方向に並べると共に、その弁葉を基端部で一体化して人工弁を構成するので、3葉弁からなる大動脈弁や肺動脈弁とほぼ同じ構成にすることができる。
【0015】
また、ステント本体を覆って血管壁に接触する接触部を結合組織体により形成し、その接触部の複数をステント本体の周方向に間隔を空けて血流方向に連続して形成し、複数の接触部の間でステント本体を露出させるのがよい。
【0016】
この構成によれば、結合組織体により接触部を形成するので、ステント本体が異物として血管壁に直接接触するのを阻止することができ、しかも、複数の接触部の間でステント本体を露出させるので、このステント本体の露出部分で内外を十分に連通させることができる。なお、結合組織体で接触部を形成することなく、ステント本体に弁葉を設けただけの構造を採用することもできる。この場合、例えば、ステント本体をステンレスやチタン、タンタル、アルミニウム、タングステン、ニッケル・チタン合金、コバルトクローム合金、チタン・アルミニウム・バナジウム合金などの生体適合性のある金属や、生体内分解性のあるマグネシウム合金、ポリ乳酸などの加水分解性高分子から構成すればよい。
【0017】
また、接触部は、ステント本体の周方向における位置を複数の弁葉間の境界と合わせて形成するのがよい。この構成によれば、弁葉の両側部を接触部に連続させることができ、弁葉を基端部及び両側部の3方でステント本体と強固に一体化することができる。しかも、ステントの内外を連通させる露出部と弁葉の周方向の位置を合わせることができるので、弁葉と分岐血管の周方向の位置が合っている大動脈弁や肺動脈弁とほぼ同じ構成にすることができる。
【0018】
また、本発明は、生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体を形成して、ステント本体から半径内方向に突出する弁葉を有する弁付きステントを形成するための基材であって、柱状の基材本体と、該基材本体の外周面に形成された複数の凹部と、該凹部を覆って前記弁葉を形成する弁葉形成空間を構成する内カバーと、該内カバーの外面側にステント本体を介在させて配置される外カバーとを備えたことを特徴とする弁付きステント形成用基材を提供する。
【0019】
上記構成によれば、基材本体の凹部を内カバーで覆って弁葉形成空間を構成するので、基材の表面に膜状の組織体を形成する際、その組織体を弁葉形成空間に侵入させて弁葉を形成することができ、しかも、各弁葉形成部が個々の弁葉を形成するので、弁葉の切断作業を不要にすることができる。さらに、内カバーの外面側にステント本体を介在させて外カバーを配置するので、ステント本体のうちの内カバーと外カバーとで挟んだ部位に組織体が形成されるのを阻止して、内外に連通する露出部分を形成することができ、内カバーを弁葉及び露出部分の形成用部材として兼用することができる。なお、弁葉は、組織体が弁葉形成空間に侵入する部位において、ステント本体と一体化させればよい。
【0020】
ここで、「生体組織材料」とは、所望の生体由来組織を形成するうえで必要な物質のことであり、例えば、線維芽細胞、平滑筋細胞、内皮細胞、幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の動物細胞、各種たんぱく質類(コラーゲン、エラスチン)、ヒアルロン酸等の糖類、その他、細胞成長因子、サイトカイン等の生体内に存在する各種の生理活性物質が挙げられる。この「生体組織材料」には、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物に由来するもの、又はこれと同等の人工材料が含まれる。
【0021】
また、「生体組織材料の存在する環境下」とは、動物(ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物)の生体内(例えば、四肢部、腰部、背部又は腹部などの皮下、もしくは腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において、生体組織材料を含有する人工環境内を表す。また、動物へ埋入の方法をとる場合には低侵襲な方法で行うことと、動物愛護の精神を尊重し、十分な麻酔下で最小限の切開術で行うことが好ましい。
【0022】
また、内カバー及び外カバーに、ステント本体を介して基材本体の外周面のうちの複数の凹部間の境界部を露出させる開放部を形成するのがよい。この構成によれば、内カバー及び外カバーに開放部を形成するので、基材本体の凹部間の境界部表面にステント本体を覆う組織体を形成して、血管壁に接触する接触部とすると共に、この接触部に弁葉の両側部を連続させることができ、弁葉を基端部及び両側部の3方でステント本体と強固に一体化することができる。しかも、基材本体の凹部を内カバー及び外カバーで覆うので、内カバー及び外カバーでステント本体を挟んで露出部分を形成することができ、ステント本体の露出部分と弁葉の周方向の位置を合わせて、大動脈弁や肺動脈弁とほぼ同じ構成にすることができる。
【0023】
また、基材本体、内カバー及び外カバーを互いに周方向に位置決めする位置決め部を設けるのがよい。この構成によれば、基材本体、内カバー及び外カバーを位置決めすることができるので、これらの位置ずれを阻止して、弁葉及びステント本体の露出部分を確実に形成することができる。
【0024】
また、本発明は、上記の弁付きステント形成用基材をその内カバー及び外カバー間にステント本体を組み込んで組み立てる組立工程と、前記弁付きステント形成用基材を生体組織材料の存在する環境下におく設置工程と、前記弁付きステント形成用基材の周囲に膜状の組織体を形成する形成工程と、前記環境下から組織体で被覆された前記弁付きステント形成用基材を取り出す取り出し工程と、前記弁付きステント形成用基材から前記弁葉を含む組織体及び前記ステント本体を一体に剥離して弁付きステントとして取り出す分離工程とからなり、前記分離工程は、弁付きステント形成用基材の両端部及び外カバーの表面の組織体を除去して、外カバーを取り外した後、前記基材本体と内カバーとを中心軸方向に分解して、弁付きステントの内腔より取り出すことを特徴とする弁付きステントの生産方法を提供する。なお、本発明において、移植対象者に対して、自家移植、同種移植、異種移植のいずれでもよいが、拒絶反応を避ける観点からなるべく自家移植か同種移植が好ましい。また、異種移植の場合には、拒絶反応を避けるため公知の脱細胞化処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。
【0025】
また、本発明は、生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体を形成して、ステント本体から半径内方向に突出する弁葉を有する弁付きステントの内外を裏返した形状の裏向き弁付きステントを形成するための基材であって、柱状の基材本体と、該基材本体の外周側にステント本体を介在させて配置される基材カバーとを備えたことを特徴とする弁付きステント形成用基材を提供する。
【0026】
上記構成によれば、基材本体の外周側にステント本体を介在させて基材カバーを配置するので、基材の表面に膜状の組織体を形成することにより、ステント本体よりも外側の基材カバーの外面に弁葉を形成することができる。これにより、ステント本体を組織体で覆うことなく、ステント本体の外周側に弁葉を有する裏向き弁付きステントを形成することができ、この裏向き弁付きステントの内外を裏返すことによって弁付きステントを得ることができる。
【0027】
しかも、裏向き弁付きステントを形成する際、外周側に配置した基材カバーの外面に弁葉を形成するので、組織体を狭い空間の奥にまで侵入させて弁葉を形成する必要がなく、弁葉を薄く形成することができると共に、弁葉を短時間でかつ確実に形成することができる。なお、弁葉は、基材カバーから基材本体が露出した部位に形成される組織体、あるいは基材カバーと基材本体との隙間にわずかに侵入した組織体を介して、ステント本体と一体化させればよい。
【0028】
また、基材カバーに、ステント本体を介して基材本体の外周面を露出させる開放部を形成するのがよい。この構成によれば、基材カバーに開放部を形成するので、基材本体の表面に、ステント本体の一部を覆う組織体を形成し、この組織体を介して弁葉とステント本体とを一体化することができる。
【0029】
さらに、基材本体の外周面に、結合組織体を侵入させる侵入溝を形成し、この侵入溝と開放部の位置を合わせて基材カバーを配置するのがよい。この構成によれば、組織体が侵入溝に侵入してステント本体の一部を内外から覆うように形成されるので、この組織体を介して弁葉とステント本体とをより強固に一体化することができる。
【0030】
また、基材カバーに、外面側を膨出させてなる膨出部を形成するようにしてもよい。この構成によれば、血液などの逆流をより確実に阻止することのできるよう、弁葉を膨らませて十分な大きさに形成することができる。しかも、基材カバーに膨出部を形成することにより、基材カバーの表面に形成される組織体を薄くかつ十分な弾性率の組織体にすることができる。
【0031】
また、本発明は、上記の弁付きステント形成用基材をその基材本体及び基材カバー間にステント本体を組み込んで組み立てる組立工程と、前記弁付きステント形成用基材を生体組織材料の存在する環境下におく設置工程と、前記弁付きステント形成用基材の周囲に膜状の組織体を形成する形成工程と、前記環境下から組織体で被覆された前記弁付きステント形成用基材を取り出す取り出し工程と、前記弁付きステント形成用基材から前記弁葉を含む組織体及び前記ステント本体を一体に剥離して前記裏向き弁付きステントとして取り出す分離工程とを備え、前記分離工程は、弁付きステント形成用基材の両端部の組織体を除去した後、前記基材本体と基材カバーとを中心軸方向に分解して、基材カバーを弁葉とステント本体との間から取り出すと共に、基材本体を裏向き弁付きステントの内腔より取り出す工程とされ、前記分離工程の後に、前記裏向き弁付きステントの内外を裏返して弁付きステントとする裏返し工程が設けられたことを特徴とする弁付きステントの生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0032】
上記のとおり、本発明によると、ステント本体を半径方向で内外に連通させるので、冠動脈などの分岐血管を塞ぐことなく大動脈洞などに弁機能を付与することができる。しかも、ステント本体を連通させることにより、血管のうちのステントで覆われる面積を極力小さくして、ステント留置部の血管組織をほぼそのまま残すことができるので、大動脈や肺動脈に弁機能を付与しつつ、血栓性を少なくして治癒を早めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る弁付きステント、弁付きステント形成用基材、及び弁付きステントの生産方法の第1実施形態〜第5実施形態について、図面を用いて説明する。
【0035】
[第1実施形態]
図1〜
図8に示すように、弁付きステント1は、例えば、大動脈の大動脈洞など、血管壁が半径外方向に膨出する血管2の膨大部3の内部に留置して、血管2に弁機能を付与するためのものであり、筒状のステント本体4と、ステント本体4から半径内方向に突出して血管2を血流方向に開閉可能な結合組織体からなる弁葉5と、ステント本体4を覆って血管壁に接触する結合組織体からなる接触部6と、を備えている。
【0036】
ステント本体4は、例えば細い金属線を斜め格子状に配置した形状のメッシュ状の金属部材とされ、複数の接触部6の間の露出部分7で半径方向の内外が連通されると共に、膨大部3を血流方向に跨いで両側で保持可能な長さに設定される。ステント本体4を構成する金属としては、生体適合性のある金属が好適であり、ステンレスやチタン、タンタル、アルミニウム、タングステン、ニッケル・チタン合金、コバルトクローム合金、チタン・アルミニウム・バナジウム合金などを例示することができ、さらに、生体内分解性のあるマグネシウム合金や、ポリ乳酸などの加水分解性高分子を採用することもできる。
【0037】
図6〜
図8に示すように、ステント本体4は、露出部分7で内外に連通されることにより、大動脈洞から分岐する冠動脈などの分岐血管8を塞ぐことなく、膨大部3に留置可能とされ、かつ血管2の血管壁を覆う面積が極力小さくされる。また、ステント本体4が膨大部3を血流方向に跨ぐことにより、膨大部3の血管壁と弁付きステント1との間に隙間9が空き、閉弁時には、一旦、血液が露出部分7の広い範囲から隙間9に流れ出して、その後、分岐血管8に流れ込む。これにより、弁付きステント1の内部の血液をスムーズに分岐血管8に流すことができると共に、露出部分7の分岐血管8への正確な位置合わせを不要にすることができる。
【0038】
弁葉5は、その複数がステント本体4の周方向に並設され、半径外内方向へ往復動することにより、例えば、3葉の弁葉5を有して大動脈を血流方向に開閉する大動脈弁として機能する。複数の弁葉5は、基端部で一体化されて環状の弁葉基端部10を構成し、この弁葉基端部10がステント本体4の一端付近を覆うように形成されている。さらに、各弁葉5の両側部がステント本体4に接続部6を介して固着され、複数の弁葉5のそれぞれが基端部及び両側部の3方でステント本体4と一体化されている。なお、
図2において、2点鎖線は弁葉5が閉じた状態を示す仮想線である。
【0039】
接触部6は、ステント本体4の一端付近の弁葉基端部10からステント本体4の他端付近まで血流方向に連続して形成されている。この接触部6は、複数がステント本体4の周方向に間隔を空けると共に、ステント本体4の周方向における位置を複数の弁葉5の間の境界と合わせて形成され、各接触部6に弁葉5の両側部が連続している。複数の接触部6の間は、ステント本体4を露出させて内外を連通させる露出部分7とされる。
【0040】
次に、上記のような弁付きステント1を形成するための弁付きステント形成用基材11について説明する。
【0041】
図9〜
図13に示すように、弁付きステント形成用基材11は、生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体を形成して弁付きステント1を形成するためのものであり、柱状の基材本体12と、基材本体12の外周面に形成された複数の凹部13と、凹部13を覆って弁葉5を形成する弁葉形成空間14を構成する内カバー15と、内カバー15の外面側にステント本体4を介在させて配置される外カバー16とを備えている。
【0042】
基材本体12は、周面に複数の凹部13が形成された筒部18と、筒部18よりも大径で円盤状のフランジ17とからなり、筒部18の一端にフランジ17が設けられて、全体として柱状に形成されている。筒部18の先端には、小径部18a及び複数の突起19が形成され、小径部18a及び突起19を内カバー15のフランジ20に係合させて、内カバー15を取り付けるようになっている。フランジ17には、内カバー15を着脱する際に筒部18の内側から又は内側に空気を逃がすための空気孔21が形成されている。
【0043】
基材本体12の材料は、生体に埋入した際に大きく変形することが無い強度(硬度)を有しており、化学的安定性があり、滅菌などの負荷に耐性があり、生体を刺激する溶出物が無いまたは少ない樹脂が好ましく、例えばシリコーン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられるがこれに限定されるものではない。なお、筒部18の外径により弁付きステント1の太さが決定されるため、目的の太さによってその直径を変更可能である。
【0044】
凹部13は、その底面を含む円筒面が小径部18aよりもわずかに大径となる深さに設定され、筒部18のうちの略三角形状の境界部22を周方向に挟んで複数箇所に、小径部18aを除く全長に渡って形成されている。凹部13のうちのフランジ17の近傍には、テーパー23が形成され、弁葉5を形成する際に、弁葉形成空間14に結合組織体を侵入させやすくしている。
【0045】
内カバー15は、例えばアクリル樹脂製とされ、複数枚の略半楕円状のカバー片24と、基材本体12の筒部18と略同径のフランジ20とからなり、フランジ20の周縁部から一面側にカバー片24が突出している。
【0046】
カバー片24は、基材本体12の凹部13のうちの周縁部を除く部位を覆って、弁葉形成空間14を構成すると共に、テーパー23の付近に弁葉形成空間14への結合組織体の侵入口を形成する。弁葉形成空間14の先端面は、フランジ20の一面かつ周縁部によって構成され、このフランジ20の一面かつ周縁部に、弁葉5の先端形状を形成する溝25が形成されている。
【0047】
互いに隣接するカバー片24の間には、基材本体12の境界部22を露出させる開放部26が形成され、境界部22及びカバー片24の外面が共通の円筒面に含まれるように設定される。
【0048】
フランジ20の一面中央には、基材本体12の筒部18の小径部18aが嵌合する嵌合凹部27と、突起19が嵌合する嵌合孔28とが形成されている。このうち、小径部18a及び嵌合凹部27は、基材本体12に対して内カバー15を径方向に位置決めする径方向位置決め部を構成する。また、突起19及び嵌合孔28は、基材本体12に対して内カバー15を周方向に位置決めする周方向位置決め部を構成する。
【0049】
フランジ20の他面中央には、嵌合軸29が突出形成されると共に、嵌合軸29の基端部周囲に複数の突起30が形成され、嵌合軸29及び突起30を外カバー16に係合させて、内カバー15に外カバー16を取り付けるようになっている。
【0050】
外カバー16は、例えばアクリル樹脂製とされ、複数枚の略半楕円状のカバー片31と、基材本体12のフランジ17と略同径で内カバー15のフランジ20の外周側を覆う筒部32と、基材本体12のフランジ17と略同径のフランジ33とからなる。この外カバー16は、フランジ33の周縁部から一面側に筒部32が突出し、さらに、筒部32の一端からカバー片31が突出している。
【0051】
カバー片31は、内カバー15のカバー片24と略同一形状とされ、ステント4を介在させてカバー片24の外面を覆う。このカバー片31は、内カバー15のカバー片24との間への結合組織体の侵入を阻止して、ステント4のうちの両カバー片24、31に挟まれた部位に露出部分7を形成する。
【0052】
互いに隣接するカバー片31の間には、基材本体12の境界部22を露出させる開放部34が形成されている。内カバー15及び外カバー16の開放部26、34は、ステント本体4を介して基材本体12の境界部22を露出させ、境界部22の外面側に結合組織体を侵入させて、弁付きステント1の接触部6を形成するようになっている。
【0053】
フランジ33の中央には、内カバー15の嵌合軸29が嵌合する嵌合穴35が形成され、嵌合穴35の周囲に、内カバー15の突起30が嵌合する嵌合孔36が形成されている。このうち、嵌合軸29及び嵌合穴35は、内カバー15に対して外カバー16を径方向に位置決めする径方向位置決め部を構成する。また、突起30及び嵌合孔36は、内カバー15に対して外カバー16を周方向に位置決めする周方向位置決め部を構成する。
【0054】
次に、上記のような弁付きステント形成用基材11を用いて弁付きステント1を生産する方法について説明する。
【0055】
この生産方法は、弁付きステント形成用基材11をその内カバー15及び外カバー16間にステント本体4を組み込んで組み立てる「組立工程」と、弁付きステント形成用基材11を生体組織材料の存在する環境下におく「設置工程」と、弁付きステント形成用基材11の周囲に膜状の組織体37を形成する「形成工程」と、環境下から組織体37で被覆された弁付きステント形成用基材11を取り出す「取り出し工程」と、弁付きステント形成用基材11から弁葉5を含む組織体37及びステント本体4を一体に剥離して弁付きステント1として取り出す「分離工程」とからなる。
【0056】
<組立工程>
基材本体12に対して中心軸方向に内カバー15を被せ、基材本体12の先端の小径部18a及び突起19を内カバー15の嵌合凹部27及び嵌合孔28にそれぞれ嵌合させて、基材本体12に内カバー15を取り付ける(
図14(a)、(b))。これにより、基材本体12に対して内カバー15が径方向及び周方向に位置決めされ、基材本体12の凹部13が内カバー15のカバー片24で覆われて、弁葉形成空間14が構成される。
【0057】
次いで、内カバー15の外側にステント本体4を配置し(
図14(c))、さらに、その外側に外カバー16を被せて、内カバー15の嵌合軸29及び突起30を外カバー16の嵌合穴35及び嵌合孔36にそれぞれ嵌合させ、内カバー15に外カバー16を取り付ける(
図14(d))。これにより、内カバー15に対して外カバー16が径方向及び周方向に位置決めされて、内カバー15のカバー片24が外カバー16のカバー片31で覆われ、両カバー片24、31がステント本体4を挟むと共に、内カバー15及び外カバー16の開放部26、34がステント本体4を介して基材本体12の境界部22を露出させる。
【0058】
<設置工程>
弁付きステント形成用基材11を生体組織材料の存在する環境下へ置く(
図15(a))。生体組織材料の存在する環境下とは、動物の生体内(例えば、皮下や腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において生体組織材料が浮遊する溶液中等の人工環境内が挙げられる。生体組織材料としては、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ウサギ、ヒツジなどの他の哺乳類動物由来のものや、鳥類、魚類、その他の動物由来のもの、又は人工材料を用いることもできる。
【0059】
弁付きステント形成用基材11を動物に埋入する場合には、十分な麻酔下で最小限の切開術で行い、埋入後は傷口を縫合する。弁付きステント形成用基材11の埋入部位としては例えば、弁付きステント形成用基材11を受け入れる容積を有する腹腔内、あるいは四肢部、賢部又は背部、腹部などの皮下が好ましい。また、埋入には低侵襲な方法で行うことと動物愛護の精神を尊重し、十分な麻酔下で最小限の切開術で行うことが好ましい。
【0060】
また、弁付き人工血管形成用基材1を生体組織材料の存在する環境下へ置く場合には、種々の培養条件を整えてクリーンな環境下で公知の方法に従って細胞培養を行えばよい。
【0061】
<形成工程>
設置工程の後、所定時間が経過することにより、弁付きステント形成用基材11の周囲に膜状の組織体37が形成される(
図15(b))。組織体37は、繊維芽細胞とコラーゲンなどの細胞外マトリックスで構成される。
【0062】
組織体37の一部は、内カバー15のカバー片24の先端と凹部13のテーパー23との間の侵入口から、弁葉形成空間14に侵入して弁葉5を構成し、この弁葉5が、接触部6、及び侵入口に形成される弁葉基端部10を介してステント本体4と一体化される。また、組織体37の他の一部は、内カバー15及び外カバー16の開放部26、34から露出する境界部22を覆って、ステント本体4と一体化された接触部6を構成し、この接触部6と弁葉5の両側縁部とがカバー片24及び凹部13の両側部の間を通って連続する。
【0063】
<取り出し工程>
所定時間の形成工程を経て、組織体37が十分に形成された後、弁付きステント形成用基材11を生体組織材料の存在する環境下から取り出す取り出し工程を行う。生体組織材料の存在する環境下から取り出された弁付きステント形成用基材11は、全体を生体組織による膜に覆われている。しかし、内カバー15及び外カバー16のカバー片24、31の間には組織体37が侵入しておらず、ステント本体4のうちのカバー片24、31で挟まれた部位に露出部分7が形成されている。
【0064】
<分離工程>
弁付きステント形成用基材11の両端部及び外カバー16の表面の組織体37を除去して(
図15(c))、外カバー16を取り外し(
図15(d))、その後、基材本体12と内カバー15とを中心軸方向に分解して弁付きステント1の内腔より取り出し、弁付きステント1を得る(
図15(e))。
【0065】
生産された弁付きステント1を異種移植する場合には、移植後の拒絶反応を防ぐため、脱細胞処理、脱水処理、固定処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。脱細胞処理としては、超音波処理や界面活性剤処理、コラゲナーゼなどの酵素処理によって細胞外マトリックスを溶出させて洗浄する等の方法があり、脱水処理の方法としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶媒で洗浄する方法があり、固定処理する方法としては、グルタアルデヒドやホルムアルデヒドなどのアルデヒド化合物で処理する方法がある。
【0066】
なお、本実施形態は、上記形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、適宜変更を加えることができる。例えば、上記形態のように、ステント本体4の両端を弁葉5及び接触部6の両端と合わせる必要はなく、ステント本体4の一端及び/又は他端を血流方向に弁葉5及び接触部6よりも突出させるようにしてもよい。特に、ステント本体4の他端側を弁葉5及び接触部6の先端よりも突出させることにより、その分、血管壁と広い範囲で接触させることができ、弁付きステント1のずれをより生じにくくすることができる。さらに、ステント本体4のうちの突出させた部位を拡径することにより、弁付きステント1をより確実に血管2に留め付けることができる。
【0067】
また、弁付きステント1を大動脈洞に留置して大動脈弁として機能させるだけでなく、肺動脈に留置して肺動脈弁として機能させることもできる。
【0068】
[第2実施形態]
本実施形態は、第1実施形態とほぼ同じであるが、一旦、弁付きステント1の内外を裏返した形状の裏向き弁付きステント38を形成し、これを裏返して弁付きステント1とするようにしている。まず、弁付きステント形成用基材39について説明する。
【0069】
図16〜
図18に示すように、弁付きステント形成用基材39は、生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体37を形成して裏向き弁付きステント39を形成するためのものであり、柱状の基材本体40と、基材本体40の外周側にステント本体4を介在させて配置される基材カバー41とを備えている。
【0070】
基材本体40は、外周面に中止軸と平行な複数の侵入溝42が全長に渡って形成された円筒状の筒部43と、この筒部43と略同径の円盤状の基部44とからなり、筒部43の一端に周溝45を介して基部44が設けられ、全体として柱状に形成されている。
【0071】
基材カバー41は、複数枚の略半楕円状のカバー片46と、基材本体40の筒部43にステント本体4を介在させて外嵌される大きさの筒部47と、筒部47と略同径のフランジ48とからなる。この基材カバー41は、筒部47の一端にフランジ48が設けられると共に、筒部47の他端からカバー片46が突出して形成され、カバー片46と筒部47との合計長さが基材本体40の筒部43よりもわずかに短く設定される。
【0072】
互いに隣接するカバー片46の間には、ステント本体4を介して基材本体40の外周面を露出させる略三角形の開放部49が形成され、この開放部49と侵入溝45の位置を周方向で合わせるようにして、基材本体40の外側に基材カバー41が配置される。
【0073】
開放部49は、基材本体40と基材カバー41との間に介在するステント本体4を露出させると共に、ステント本体4を介して基材本体40の侵入溝45を露出させる。これにより、弁付きステント形成用基材39の周囲に形成される結合組織体が、カバー片46の外面側に弁葉5を構成しつつ、開放部49からステント本体4を通過して侵入溝45に侵入し、ステント本体4とその内外で一体化されて接触部6を構成する。なお、開放部49の形状に合わせて、侵入溝45の形状を略三角形に形成し、ステント本体4と接触部6とを広い範囲でより強固に一体化するようにしてもよい。
【0074】
次に、上記のような弁付きステント形成用基材39を用いて弁付きステント1を生産する方法について説明する。
【0075】
この生産方法は、第1実施形態とほぼ同じであり、「組立工程」、「設置工程」、「形成工程」、「取り出し工程」及び「分離工程」を備えているが、「組立工程」から「分離工程」に至る工程が裏向き弁付きステント38を形成する工程とされ、「分離工程」の後に、裏向き弁付きステント38から弁付きステント1を得る「裏返し工程」が設けられている。
【0076】
<組立工程>
基材本体40の筒部43の外側にステント本体4を配置して、ステント本体4が基材本体40の周溝45に掛からないよう中心軸方向に位置決めし、その外側に基材本体40の先端側から基材カバー41を被せて、基材本体40の侵入溝45と基材カバー41の開放部49の位置を周方向で合わせる。これにより、開放部49からステント本体4の一部を露出させると共に、ステント本体4を介して侵入溝45を露出させつつ、基材本体40及び基材カバー41間にステント本体4を組み込んだ弁付きステント形成用基材39が組み立てられる(
図19(a))。
【0077】
なお、ステント本体4を裏返した状態で弁付きステント形成用基材39に組み込むことにより、裏向き弁付きステント38を裏返して弁付きステント1を得た段階で、ステント本体4を元の状態に戻すことができる。
【0078】
<設置工程>
第1実施形態と同様、弁付きステント形成用基材39を生体組織材料の存在する環境下におく。
【0079】
<形成工程>
第1実施形態と同様、設置工程の後、所定時間が経過することにより、弁付きステント形成用基材39の周囲に膜状の組織体37が形成される(
図19(b))。
【0080】
組織体37は、基材カバー41の外面を覆って弁葉5を構成しつつ、基材本体40の筒部43のうちのカバー片46の先端から露出した部分を覆って弁葉基端部10を構成すると共に、開放部49から露出するステント本体4の外側を覆う。さらに、組織体37の一部がステント本体4を通過して侵入溝45に侵入し、ステント本体4と一体化された接触部6を構成し、この接触部6と弁葉基端部10とを介して弁葉5がステント本体4と一体化される。
【0081】
<取り出し工程>
第1実施形態と同様、組織体37が十分に形成された後、組織体37で被覆された弁付きステント形成用基材39を生体組織材料の存在する環境下から取り出す。
【0082】
<分離工程>
弁付きステント形成用基材39の両端部の表面の組織体37を除去する(
図19(c))。その際、一端側は、周溝45を露出させる分だけ組織体37を除去し、他端側は、弁葉5の先端を所定の形状に形成するよう組織体37を除去する。
【0083】
その後、基材本体40と基材カバー41とを中心軸方向に分解して、基材カバー41を弁葉5とステント本体4との間から取り出すと共に、基材本体40を裏向き弁付きステント38の内腔より取り出す。これにより、弁付きステント形成用基材39から弁葉5を含む組織体37及びステント本体4が一体に剥離され、ステント本体4の外周側に弁葉5を有する裏向き弁付きステント38が得られる(
図19(d))。
【0084】
<裏返し工程>
取り出した裏向き弁付きステント38の内外を裏返すことにより、ステント本体4の内周側に弁葉5を有する弁付きステント1が得られる(
図19(e))。その際、裏向き弁付きステント38を適度に冷やすことにより、ステント本体4の弾性を低下させて、裏向き弁付きステント38の裏返し作業を容易にすることができる。
【0085】
なお、他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0086】
[第3実施形態]
本実施形態は、第2実施形態とほぼ同じであるが、弁付きステント形成用基材39の基材カバー41に略三角形の開放部49を形成する代わりに、
図20〜
図22に示すように、弁付きステント形成用基材50の基材カバー51にスリット状の開放部52を形成したものである。
【0087】
基材本体53は、外周面に中止軸と平行な複数の侵入溝54が形成された円筒状の筒部55と、この筒部55と略同径の円盤状の基部56とからなり、筒部55の一端に周溝57を介して基部56が設けられ、全体として柱状に形成されている。この基材本体53の侵入溝54は、周溝57から筒部55の中央付近に至る範囲に形成されている。また、周溝57は、第2実施形態における周溝45よりも幅広に設定され、この周溝57に掛けるようにステント本体4を配置して、周溝57に結合組織体を侵入させて弁葉基端部10を形成するようになっている。
【0088】
基材カバー51は、筒部58の一端にフランジ59を設けると共に、筒部58の他端から中央付近に至る範囲にスリット状の開放部52を形成してなり、その開放部52が侵入溝54とほぼ同じ大きさに設定されている。基材カバー51の筒部58は、基材本体53の筒部55よりも長く設定され、基材本体53の筒部55に基材カバー51の筒部58を被せた状態で、基材カバー51の筒部58の先端部によって基材本体53の周溝57の一部が覆われるようになっている。
【0089】
略三角形の開放部49に代えてスリット状の開放部52を形成することにより、開放部52に形成される接触部6をステント本体4と一体化させる力が弱くなるものの、接触部6がステント本体4の縮径などの変形を阻害しにくく、血管などへの弁付きステント1の挿入が容易になる。なお、他の構成は、第2実施形態と同じである。
【0090】
[第4実施形態]
本実施形態は、第3実施形態とほぼ同じであるが、
図23〜
図25に示すように、弁付きステント形成用基材60の基材カバー61に、外面側を膨出させてなる膨出部62を形成したものである。
【0091】
膨出部62は、基材カバー61の筒部63のうちのスリット状の開放部64の間に形成され、周方向で両端部における外面が筒部63の外面と一致して、周方向で中央部における外面が筒部63の外面よりも径方向で外側に突出するよう、断面三日月状に膨出している。この膨出部62の筒部63の外面からの膨出高さは、基材カバー61の中心軸方向で基端側ほど大きく設定され、弁葉5をその先端ほど膨らんだ形状に形成するようになっている。
【0092】
基材カバー61に膨出部62を設けることにより、弁葉5を十分な大きさに膨らんだ形状に形成することができ、弁付きステント1の弁葉5が閉じたとき、弁葉5同士を十分な範囲で接触させて確実に閉弁することができる。また、膨出部62の表面には、十分な弾性率でかつ薄い組織体37が形成されるので、この組織体37で構成される弁付きステント1の弁葉5は、引き伸ばされて損傷することがなく、かつ流れに抵抗することなく容易に開閉する。
【0093】
次に、膨出部62の膨出高さが組織体に与える影響について説明する。
図26〜
図28は、膨出部62の表面に形成された組織体の断面写真であり、ヤギの皮下に直径17mmの弁付きステント形成用基材60を埋入して、1ヶ月が経過した時点で、膨出部62の表面に形成されている組織体を剥がして切断し、その断面を撮影したものである。図中、矢印で示した範囲が、弁葉5として用いられる組織体の厚さを示す。
【0094】
図26は、膨出部を設けない筒部の表面に形成された組織体の断面写真であり、組織が疎な厚い組織体が形成されていることがわかる。
図27は、膨出高さが2mmの膨出部の表面に形成された組織体の断面写真であり、組織が密な薄い組織体が形成されていることがわかる。
図28は、膨出高さが3mmの膨出部の表面に形成された組織体の断面写真であり、組織が密な組織体が
図27に示す組織体よりもさらに薄く形成されていることがわかる。
【0095】
これらの組織体の厚さを測定したところ、膨出高さ0mm(
図26)で356±105(μm)、膨出高さ2mm(
図27)で143±62(μm)、膨出高さ3mm(
図28)で72±34(μm)であった。
【0096】
また、組織体の弾性率を測定したところ、膨出高さ0mm(
図26)で2762±589(kPa)、膨出高さ2mm(
図27)で2055±329(kPa)、膨出高さ3mm(
図28)で1908±162(kPa)であり、いずれもヤギの大動脈の弾性率である494±169(kPa)や、ヤギの弁葉の弾性率である1097±389(kPa)を大幅に上回っていた。
【0097】
ここで、弾性率の測定方法について説明する。弾性率は、アクシオム社製精密計測システムを用いて測定した。具体的には、長方形のシート状の組織体を、中心に直径5mmの穴が開いた試料台に固定し、穴の中心位において、直径1mmの円柱プローブをサンプルが破断するまで秒速0.1mmで下方に押し下げた。さらに、その間のプローブの移動距離とプローブにかかる荷重を連続的に計測し、プローブの移動距離と荷重の関係から弾性率を求めた。
【0098】
1回の測定が終了するごとに試料の位置をずらして測定を繰り返し、計5回の測定を行って、各サンプルにおける弾性率を5回測定の平均値から算出した。この操作を6個の評価用サンプルで繰り返し行い、最終的に6サンプルの平均値(n=5)から平均を求め、これを「弾性率」の値とした。
【0099】
また、弾性率は、下記式(1)〜(4)を用いて算出し、5回の測定値の平均値を求めた。
k=P/δ …(1)
G=k(1−ν)/(4r
0) …(2)
E=2G(1+ν) …(3)
E=k(1−ν
2)/(2r
0)=P(1−ν
2)/(2δr
0) …(4)
なお、上記数式中の記号は、次のものを表わす。
ν:ポアソン比(0.5として計算)
r
0:プローブ半径(m)
P:荷重(g)
δ:プローブ進入量(m)
k:バネ定数
G:すれ弾性率
E:弾性率(kPa)
【0100】
上記の通り、膨出部62の膨出高さが高くなるほど、その表面に形成される組織体が薄くなり、しかも、組織体の弾性率が極端に低下することはなく、ヤギの大動脈やヤギの弁葉の弾性率と比較しても、十分な弾性率の組織体が得られる。なお、他の構成は、第3実施形態と同じである。
【0101】
[第5実施形態]
本実施形態は、第4実施形態とほぼ同じであるが、
図29〜
図31に示すように、弁付きステント形成用基材65の基材本体66に侵入溝67と交差する横溝68を形成し、基材カバー69に開放部70と交差する横開放部71を形成したものである。
【0102】
横溝68は、侵入溝67とほぼ同じ溝幅かつ溝深さで侵入溝67よりも短く設定され、基材本体66の筒部72のうちの中心軸方向で周溝73とは反対側の端部に、侵入溝67と直交して形成されている。
【0103】
横開放部71は、開放部70とほぼ同じ幅で開放部70よりも短く設定され、基材カバー69の筒部74の基端のフランジ75に隣接する部位に、開放部70と直交して形成されている。
【0104】
基材本体66に基材カバー69を被せた状態で、横溝68と横開放部71とが重なり、この横溝68及び横開放部71に結合組織体が侵入することにより、侵入溝67及び開放部70に形成される接触部6の先端にT字形の補強部が形成され、接触部6とステント本体4とがより強固に一体化される。なお、他の構成は、第4実施形態と同じである。