特許第6010071号(P6010071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6010071
(24)【登録日】2016年9月23日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】モータ制御装置及び冷凍・空調装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20160101AFI20161006BHJP
【FI】
   H02P29/00
【請求項の数】4
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-143419(P2014-143419)
(22)【出願日】2014年7月11日
(65)【公開番号】特開2016-21785(P2016-21785A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2015年7月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今出 雅士
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−050244(JP,A)
【文献】 特開2013−046424(JP,A)
【文献】 特開2013−230060(JP,A)
【文献】 特開2013−198243(JP,A)
【文献】 米国特許第06429610(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的な負荷トルク変動を有する負荷要素を駆動するモータを制御する装置であって、
前記モータを駆動する電流の振幅を検出する検出部と、
前記モータを駆動するモータ駆動電圧を補正する補正部とを備え、
前記補正部は、
前記モータの回転数が所定の回転数のときに、前記負荷要素の1周期に相当する前記モータの全電気角範囲から、前記検出部によって検出されたモータ駆動電流の振幅が最大値となる第1の電気角を推定し、
前記モータの回転数が前記所定の回転数である状態から前記モータが加速するときに、前記全電気角範囲を、前記第1の電気角の前後を含む一の連続した電気角範囲と、前記全電気角範囲から前記一の連続した電気角範囲を除いた他の電気角範囲とに区分し、前記一の連続した電気角範囲では前記他の電気角範囲よりもモータ駆動電圧を低減する第1の補正を行うことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記モータが起動開始後に加速し回転数フィードバック制御に移行した後の前記モータ駆動電流に基づいてモータ駆動電圧の補正を行うことを特徴とする、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記負荷要素の1周期に相当する電圧補正パターンを記憶する電圧補正パターン記憶部を備え、
前記補正部は、
前記第1の補正を解除した後に補正係数の値を離散的に変更し、
離散的に変更する前記補正係数の値毎に第1の処理及び第2の処理を実行し、
前記第1の処理は、前記電圧補正パターンに補正係数を与えることで、前記電圧補正パターンの位相を前記補正係数の値に応じた角度分シフトさせる処理であり、
前記第2の処理は、前記補正係数が与えられた前記電圧補正パターンの最大補正部分が、前記第1の補正で区分された前記一の連続した電気角範囲に入っているか否かを判定する処理であり、
さらに前記補正部は、
離散的に変更する前記補正係数の値であって、尚且つ、前記補正係数が与えられた前記電圧補正パターンの最大補正部分が、前記第1の補正で区分された前記一の連続した電気角範囲に入っていないという条件を満たす限定値毎に、前記補正係数が与えられた前記電圧補正パターンにより補正された前記モータ駆動電圧で前記モータを駆動した際の前記モータ駆動電流の変動量を求め、
その求めた結果に基づいて前記補正係数を特定値に固定し、
前記補正係数を前記特定値に固定した状態において、前記補正係数が与えられた前記電圧補正パターンによって前記モータ駆動電圧を補正する第2の補正を行うことを特徴とする、請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置によって駆動される同期モータと、
前記同期モータが駆動する圧縮機とを備えることを特徴とする冷凍・空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを制御するモータ制御装置に関し、特にインバータ回路を有するモータ制御装置に関する。また、本発明は、モータ制御装置を搭載した冷凍装置、空調装置(これらを総称して冷凍・空調装置とする)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、負荷トルク変動を伴う負荷要素を駆動する同期モータの可変速制御にはインバータが用いられている。周期的な負荷トルク変動を有する負荷要素を備えるものとして、シングルロータ型圧縮機あるいはレシプロ型圧縮機などが挙げられる。シングルロータ型圧縮機あるいはレシプロ型圧縮機などは、空気調和機や冷蔵庫などの家電製品に搭載される圧縮機として広く使用されているものである。
【0003】
図1Aはシングルロータ型圧縮機の負荷トルク特性を示す図であり、図1Bはレシプロ型圧縮機の負荷トルク特性を示す図である。シングルロータ型圧縮機やレシプロ型圧縮機では、作動媒体の吸入工程、圧縮工程、吐出工程からなる圧縮サイクルが1回転につき1回行われる。吐出直前は作動媒体が圧縮されているため、負荷トルクが大きくなり、吐出直後は作動媒体が抜けているため、負荷トルクが小さくなる。すなわち、ロータの機械的位置によって負荷トルクが変わる。
【0004】
ロータの機械的位置を検出する位置センサを用いずに同期モータを駆動する駆動方式においては、モータ制御装置がロータの機械的位置を判定できないため、同期モータを回転させるために必要なトルクを判定できない。このため、位置センサレスで同期モータを駆動する駆動方式においては、作動媒体の圧力が高い条件下であっても圧縮機が駆動できるようにモータの駆動電圧を高めに設定しモータトルクを高くして圧縮機を起動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5385557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した通りロータの機械的位置によって負荷トルクが変わるためロータの角速度が変動し、これに伴いモータ駆動電流が変動する。
【0007】
ところで、モータ制御装置はインバータの素子保護や同期モータに設けられている磁石の減磁防止のために過電流保護回路を備えているのが一般的であり、当該過電流保護回路に設定された過電流閾値を超える電流が流れるとモータの駆動を停止する。したがって、圧縮機が高負荷の条件下などモータ駆動電流の変動が大きい場合ではモータ駆動電流が上記の過電流閾値に達し、圧縮機が停止してしまうおそれがあった。
【0008】
特許文献1に記載のモータ制御装置では、トルク制御部が同期モータのロータの機械的位置(機械角)に応じたトルク補正量を記憶しており、例えば4極の同期モータのように電気角2回転が機械角1回転に相当する場合は、現在の電気角が、機械角0度〜機械角180度の範囲にあるのか、または機械角180度〜機械角360度の範囲にあるのか、の判別さえ行えば同期モータのロータの機械的位置を判定でき、適正なトルク補正を行うことができる。
【0009】
しかしながら、モータ制御装置が同期モータのロータの機械的位置(機械角)に応じたトルク補正データを持っていない場合がある。たとえば、同期モータのロータと圧縮機などの負荷要素のロータとが直結されない場合や、同期モータのロータと負荷要素のロータとを、角度の位置合わせを行わずに結合した場合などが考えられる。この場合は、同期モータの機械角を判別しても負荷要素のロータの機械的位置は未だ不明であり、適正なトルク補正を掛けることが出来ない。
【0010】
本発明は、上記の状況に鑑み、モータのロータの機械角と負荷要素のロータの機械角との角度差が任意の場合であっても、モータ駆動電流の過電流を防止するモータ制御装置及び当該モータ制御装置を搭載した冷凍・空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係るモータ制御装置は、周期的な負荷トルク変動を有する負荷要素を駆動するモータを制御する装置であって、前記モータを駆動する電流の振幅を検出する検出部と、前記モータを駆動するモータ駆動電圧を補正する補正部とを備え、前記補正部は、前記負荷要素の1周期に相当する前記モータの全電気角範囲から、前記検出部によって検出されたモータ駆動電流が最大ピークとなる第1の電気角を推定し、前記全電気角範囲を、第1の電気角を含む一の電気角範囲と、前記一の電気角範囲を除いた他の電気角範囲とに区分し、前記一の電気角範囲では前記他の電気角範囲よりもモータ駆動電圧を低減する第1の補正を行う構成(第1の構成)とする。
【0012】
上記第1の構成のモータ制御装置において、前記一の電気角範囲は、第1の電気角の直前および直後の少なくとも一方に隣接した前記モータ駆動電流がピークとなる電気角を含む構成(第2の構成)としてもよい。
【0013】
上記第1または第2の構成のモータ制御装置において、前記補正部は、前記モータが起動開始後に加速する間の前記モータ駆動電流に基づいてモータ駆動電圧の補正を行う構成(第3の構成)としてもよい。
【0014】
上記第1〜第3のいずれかの構成のモータ制御装置において、前記負荷要素の1周期に相当する電圧補正パターンを記憶する電圧補正パターン記憶部を備え、前記補正部は、前記電圧補正パターンの位相を所定の角度分シフトする補正係数を与えた前記電圧補正パターンにより補正された前記モータ駆動電圧で前記モータを駆動した際の前記モータ駆動電流の変動量を、2つ以上の前記補正係数の設定値に対して比較した結果に基づいて、前記補正係数を決定する第2の補正を行い、前記第2の補正は前記第1の補正を解除した後に行い、前記第2の補正における前記電圧補正パターンの最大補正部分が、前記第1の補正で区分された前記一の電気角範囲に入らないように、前記補正係数の設定値が定められる構成(第4の構成)とする。
【0015】
上記第4の構成のモータ制御装置において、前記補正係数は、前記電圧補正パターンのゲインを含み、前記ゲインを異なる値として前記モータを駆動した際の前記モータ駆動電流の変動量を比較した結果を指標として、前記ゲインを決定する構成(第5の構成)としてもよい。
【0016】
上記第4または第5の構成のモータ制御装置において、前記電圧補正パターンの形状は、前記負荷要素の角度ごとの負荷トルク値を前記負荷要素の前記1周期分の負荷トルクの平均値から差し引いた値を、前記負荷要素の角度で積分した関数に基づく形状である構成(第6の構成)としてもよい。
【0017】
上記第4〜第6のいずれかの構成のモータ制御装置において、前記電圧補正パターンの形状は、前記負荷要素を一定のトルクで回転させたときの、負荷トルク変動1周期分の角速度変化を測定し、その変動パターンに基づく形状とする構成(第7の構成)としてもよい。
【0018】
上記第6又は第7の構成のモータ制御装置において、前記電圧補正パターンの形状は、基となる前記関数または前記変動パターンに比べて、補正量を小さくした形状である構成(第8の構成)としてもよい。
【0019】
本発明に係る冷凍・空調装置は、上記第1〜第8のいずれかの構成のモータ制御装置と、前記モータ制御装置によって駆動される同期モータと、前記同期モータが駆動する圧縮機とを備える構成(第9の構成)とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、負荷要素のロータの機械角とモータの機械角との対応が不明である場合でも、モータ駆動電流の過電流を防止でき、また、モータ駆動電流の変動量を抑制するモータ制御装置及び当該モータ制御装置を搭載した冷凍・空調装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】シングルロータ型圧縮機の負荷トルク特性を示す図である。
図1B】レシプロ型圧縮機の負荷トルク特性を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置の概略構成を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態におけるモータ駆動電圧波形補正部の動作を示すフローチャートである。
図4】本発明の第2実施形態におけるモータ駆動電圧波形補正部の動作を示すフローチャートである。
図5A】本発明の第3実施形態における補正範囲を説明するためのモータ駆動電流波形図である。
図5B】電圧補正パターンを用いた補正を行った後のモータ駆動電圧波形の一例を示す図である。
図6】本発明の第3実施形態の変形例における補正範囲を説明するためのモータ駆動電流波形図である。
図7】本発明の第3実施形態の他の変形例における補正範囲を説明するためのモータ駆動電流波形図である。
図8】本発明の第4実施形態に係るモータ制御装置の概略構成を示す図である。
図9】電圧補正パターンの一例を示す図である。
図10A】本発明の第4実施形態におけるモータ駆動電圧波形補正部の動作を示すフローチャートである。
図10B】本発明の第4実施形態におけるモータ駆動電圧波形補正部の動作を示すフローチャートである。
図11】各相のモータ駆動電流波形の複数の例を示す図である。
図12】モータ駆動電流の脈動量と電圧補正パターンの位相ずれ量との関係の一例を示す図である。
図13】モータ駆動電流の脈動量と電圧補正パターンの補正ゲインとの関係の一例を示す図である。
図14A】本発明の第5実施形態におけるモータ駆動電圧波形補正部の動作を示すフローチャートである。
図14B】本発明の第5実施形態におけるモータ駆動電圧波形補正部の動作を示すフローチャートである。
図15】本発明の第8実施形態における電圧補正パターンの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0023】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置の概略構成を図2に示す。本実施形態に係るモータ制御装置は、コンバータ回路2と、インバータ回路3と、電流検出抵抗(シャント抵抗)R1と、電流検出回路5と、マイクロコンピュータM1とを備えている。コンバータ回路2の入力側には交流電源1が接続され、インバータ回路3の出力側には同期モータ4が接続される。同期モータ4は、周期的な負荷トルク変動を伴う負荷要素を駆動する。
【0024】
コンバータ回路2は、交流電源1からの交流電圧を直流電圧に変換してインバータ回路3に供給する。インバータ回路3は、コンバータ回路2からの直流電圧を3相交流電圧に変換して同期モータ4に供給する。コンバータ回路2の出力側とインバータ回路3の入力側とは正極直流ライン及び負極直流ラインによって接続されており、当該負極直流ライン上に電流検出抵抗R1が設けられている。電流検出回路5は、電流検出抵抗R1の両端に発生する電圧に基づいてインバータ回路3に流れる電流を検出し、その検出した電流を増幅して、電流信号としてマイクロコンピュータM1に出力する。すなわち、電流検出回路5は、インバータ回路3に流れる電流を検出する電流検出手段として機能している。
【0025】
マイクロコンピュータM1は、同期モータ4を駆動制御するための回路であり、モータ駆動電流推定部6と、モータ駆動電流記憶部7と、回転数設定部8と、モータ駆動電圧波形作成部9と、モータ駆動電圧波形補正部10と、PWM波形作成部11とを有しており、以下で説明する処理をプログラムにしたがって行っている。
【0026】
モータ駆動電流推定部6は、電流変化分演算手段(不図示)及び分配演算手段(不図示)を有し、入力された電流信号から電流変化分演算手段により電流の変化分を求め、電流信号の変化分から分配演算手段によりモータ駆動電流を推定演算する。ここで、電流変化分演算手段および分配演算手段は、例えば特開平8−19263号公報に記載されているものを用いることができる。特開平8−19263号公報に記載されているものを用いた場合、電流変化分演算手段は、インバータ回路3の各相駆動素子のスイッチング直前と直後の直流電流信号(電流検出回路5の出力信号)からその変化分を求め、分配演算手段は、インバータ回路3の各相駆動素子のスイッチングタイミングに応じて電流信号(電流検出回路5の出力信号)の変化分を各相別に分配して相別のモータ駆動電流を推定演算する。モータ駆動電流推定部6を設けることにより、コイルおよびホール素子で構成された電流センサ、カレントトランスといったモータ駆動電流を検出するための電流センサを使用せずに、モータ駆動電流を推定演算することができるため、コストを削減することができる。
【0027】
モータ駆動電流記憶部7は、モータ駆動電流推定部6によって推定演算された相別のモータ駆動電流から、少なくとも1相の電流振幅値と電気角とを少なくとも負荷要素における負荷トルク変動1周期分記憶する。
【0028】
回転数設定部8は、目標とする回転数指令値に対応する強制励磁角周波数を決定し、その決定した強制励磁角周波数をモータ駆動電圧波形作成部9に出力する。なお、目標とする回転数指令値は、例えば、本実施形態に係るモータ制御装置と、同期モータ4と、同期モータ4が駆動する周期的な負荷トルク変動を伴う負荷要素とを備える機器に搭載されて当該機器全体を制御する制御部から回転数設定部8に伝達される。
【0029】
モータ駆動電圧波形作成部9は、所定のデータ個数で構成された正弦波データテーブルを予め記憶しており、強制励磁角周波数に基づいて、同期モータ4のモータ巻線端子の各相に対応したモータ駆動基本電圧波形データ(3相の場合は電気角で120度ずつずらした正弦波データ)を正弦波データテーブルから読み出して、モータ駆動電圧波形補正部10に出力する。なお、本実施形態では、正弦波データテーブルを用いてモータ駆動基本電圧波形を作成したが、本発明はこれに限定されることはなく、例えば、正弦波以外であってもよく、また、演算によってモータ駆動基本電圧波形を作成しても構わない。
【0030】
モータ駆動電圧波形補正部10は、モータ駆動電流に基づいてモータ駆動基本電圧波形を補正する。モータ駆動電圧波形補正部10の詳細な動作については後述する。
【0031】
PWM波形作成部11は、モータ駆動電圧波形補正部10から出力される補正後の各相モータ駆動電圧波形データを各相PWM波形信号に変換し、その変換した各相PWM波形信号をインバータ回路3の対応する各駆動素子(U相上側駆動素子QU、U相下側駆動素子Qx、V相上側駆動素子QV、V相下側駆動素子Qy、W相上側駆動素子QW、W相下側駆動素子Qz)に出力する。例えば、PWM波形作成部11は、PWMキャリア周期で三角波を発生させ、この三角波と補正後の各相モータ駆動電圧波形とを比較し、その比較結果に基づいてHigh/Low出力することで、各相のPWM波形信号を出力する。インバータ回路3は、コンバータ回路2からの直流電圧を、各相のPWM波形信号に基づいて各相のモータ駆動波形に変換し、その各相のモータ駆動波形を同期モータ4の各相のモータ巻線に印加する。これにより、同期モータ4のロータが回転する。
【0032】
次に、モータ駆動電圧波形補正部10の詳細な動作について説明する。ここでは、同期モータ4が3相6極のモータである場合について説明する。また、負荷要素における負荷トルク変動1周期分は、同期モータ4の1回転分であるとする。モータ駆動電圧波形補正部10は、同期モータ4を起動する際に図3に示すフロー動作を開始する。同期モータ4の起動が開始すると、負荷要素の起動も開始され、負荷要素が安定して起動を完了するために必要なモータ回転数である安定回転数(例えば1600rpm)まで所定の加速度で加速される。
【0033】
まず、モータ駆動電圧波形補正部10は、所定の加速度で加速を開始する(ステップ#10)。
【0034】
なお、本実施形態に係るモータ制御装置は、加速を開始する前に、同期モータ4に指定電気角が励磁される電圧を印加してロータの初期位置を指定電気角とする、相固定動作をおこない、次に、電気角を所定の速度で順次更新して、ロータの回転を維持しながらフィードバック開始回転数まで加速する(初期加速)。初期加速の段階ではまだモータ駆動電流が小さくロータの位置検出が困難であることから、実際のロータの回転状態を回転数設定部8などにフィードバックすることが難しい。したがって、初期加速ではフィードバックによる回転数補正を行わずに電気角の更新速度でロータを加速することになり、回転数の変動が比較的大きくなる。
【0035】
フィードバック開始回転数まで加速すると、同期モータ4の実際の回転状態が把握できるようになるので、回転数フィードバックによって同期モータ4の実際の回転数と指令回転数の偏差を補正できる駆動制御(回転数フィードバック駆動制御)が可能となり、回転数の変動が少ない加速を実施できる。
【0036】
したがって、上記の通り初期加速時はモータ駆動電流が小さいことと、モータ駆動指令信号と実際のロータ動作とのずれが大きいことから、モータ駆動電流がピークとなる振幅および電気角を精度よく求め難いため、本実施形態に係るモータ制御装置では、ステップ#20の処理を実行して、初期加速から回転数フィードバック駆動制御による加速に切り替わってからモータ駆動電流の脈動検出を開始するようにした。
【0037】
ステップ#20において、モータ駆動電圧波形補正部10は、同期モータ4の回転数が脈動検出開始回転数以上であるか否かを判定する。同期モータ4の回転数が脈動検出開始回転数以上でなければ(ステップ#20のNO)、当該判定を継続する。同期モータ4の回転数が脈動検出開始回転数以上であれば(ステップ#20のYES)、ステップ#30に移行する。
【0038】
脈動検出開始回転数は、同期モータ4の駆動制御が回転数フィードバック駆動制御に移行する回転数よりも高い回転数とすることができる。また、脈動検出開始回転数による判別に代えて、同期モータ4の駆動制御が回転数フィードバック駆動制御に移行したことを判別材料としてもよい。これにより、モータ駆動電流がピークとなる振幅および電気角を精度よく検出でき、さらには、起動完了または通常運転時と同じ同期モータ4の駆動制御でのモータ駆動電流を検出することになるので、後述する補正電気角範囲の判定がそのまま利用できる。なお、回転数フィードバック駆動制御に移行した直後はまだ回転数フィードバックによる補正制御が収束しておらず回転が安定していない場合があるため、ステップ#20でYESとする条件は、回転数フィードバック駆動制御に移行してから回転数フィードバックによる補正制御が収束して回転が安定した後、たとえば、少なくともロータが1回転した後であることが好ましい。
【0039】
また、ステップ#30以降の補正電気角範囲の判定および補正の設定は、同期モータ4の回転数ができるだけ低いうちに完了することが好ましく、例えば、負荷要素が圧縮機の場合は、圧縮機の性能を維持する最低回転数よりも低い回転数までに完了することが好ましい。同期モータは回転数の上昇に伴って駆動電圧も上げるのが一般的であり、回転数が高くなるとモータ駆動電流が過電流保護回路に設定された過電流閾値を超えるリスクが高くなる。さらに、圧縮機に設定された最低回転数以上の回転数では、圧縮機としての性能を出そうとするために周期的な負荷トルク変動が大きくなるおそれがあり、当該最低回転数よりも低い回転数までに、補正電気角範囲を判定して電流振幅が最大値となった電気角を含む電気角範囲のモータ駆動電圧を減少させる補正を行うことが好ましい。
【0040】
ステップ#30において、モータ駆動電圧波形補正部10は、電気周期毎にU相上側の電流振幅(U相に正電圧が印加されている区間でのモータ駆動電流の最大値)およびU相下側の電流振幅(U相に負電圧が印加されている区間でのモータ駆動電流の最大値)を検出し、電気角とともに記憶する。
【0041】
その後、モータ駆動電圧波形補正部10は、ステップ#30での検出開始から同期モータ4のロータが1回転したか否か、言い換えれば、ステップ#30での検出開始から電気角3周期が経過したか否かを判定する(ステップ#40)。ステップ#30での検出開始から同期モータ4のロータが1回転していなければ(ステップ#40のNO)、当該判定を継続する。ステップ#30での検出開始から同期モータ4のロータが1回転していれば(ステップ#40のYES)、ステップ#50に移行する。
【0042】
ステップ#50において、モータ駆動電圧波形補正部10は、検出して記憶している電流振幅の中から最大値をとる電流振幅を抽出し、最大値をとる電流振幅とそれ以外の電流振幅との差が閾値以上であるか否かを判定する。例えば、2周期目のU相下側の電流振幅が最大値をとる電流振幅である場合には、2周期目のU相下側の電流振幅と1周期目のU相下側の電流振幅との差が閾値以上であり且つ2周期目のU相下側の電流振幅と3周期目のU相下側の電流振幅との差が閾値以上であるか否かが判定される。
【0043】
最大値をとる電流振幅とそれ以外の電流振幅との差が閾値未満であれば(ステップ#50のNO)、モータ駆動電圧波形補正部10は同期モータ4の回転数が安定回転数に到達したか否かを判定する(ステップ#60)。同期モータ4の回転数が安定回転数に到達していなければ(ステップ#60のNO)、ステップ#30に戻る。一方、同期モータ4の回転数が安定回転数に到達していれば(ステップ#60のYES)、脈動検出開始回転数から安定回転数に達するまで終始モータ駆動電流の脈動が小さかったため、後述するステップ#70の処理が実行されることなく、同期モータ4の起動が完了する。同期モータ4の起動が完了すると、負荷要素の起動も完了する。同期モータ4および負荷要素は起動完了後にそれぞれ通常運転に移行する。
【0044】
最大値をとる電流振幅とそれ以外の電流振幅との差が閾値以上であれば(ステップ#50のYES)、ステップ#70に移行する。
【0045】
ステップ#70において、モータ駆動電圧波形補正部10は、電流振幅が最大値となった電気角に応じて電圧指令値を補正し、補正した電圧指令値によってモータ駆動基本電圧波形を補正する。具体例としては、最大値をとる電流振幅を検出した電気角を中心とした電気角120度の範囲において電圧指令値を所定量(例えば10%)減少させる補正を行い、残りの電気角960度の範囲において電圧指令値を補正しない。これにより、最大値をとる電流振幅を検出した電気角を中心とした電気角120度の範囲では、残りの電気角960度の範囲と比べてモータ駆動電圧が所定量(例えば10%)減少する。なお、最大値をとる電流振幅を検出した電気角を中心とした電気角120度の範囲において補正を行う理由は、正弦波の半波に該当する電気角180度の範囲のうち最初の30度と最後の30度の各範囲では電流値が電流振幅の半分以下であるため、補正をかけなくても補正後の電流振幅よりも大きくなる可能性が非常に低いためである。
【0046】
この補正により、電流振幅が最大値となる電気角におけるモータ駆動電圧を所定量減少させるので、当該電気角での電流振幅を減少させることができる。つまり、周期的な負荷トルク変動を有する負荷要素に起因する電流振幅の周期的変動に対して、電流振幅が突出する位相(電気角)を検出してその位相領域(電気角範囲)での電流が減少するようにモータ駆動電圧を減少させるものである。したがって、モータ駆動電流の最大値を抑制し、モータ駆動電流が過電流になることを抑制することができる。
【0047】
モータ駆動電圧を減少させるとモータトルクが低下するため、モータの加速が鈍ることになるが、モータ駆動電圧を減少させる電気角範囲以外の電気角範囲(上記の例では残りの電気角960度の範囲)では、モータ駆動電圧を減少させないので、モータトルクはほとんど減少しない。したがって、設定された加速レートを大きく損なうことなく、モータ駆動電流が過電流になることを抑制することができ、同期モータ4および負荷要素を迅速かつ確実に起動完了させることができる。
【0048】
ステップ#70に続くステップ#80において、モータ駆動電圧波形補正部10は同期モータ4の回転数が安定回転数に到達したか否かを判定する(ステップ#80)。同期モータ4の回転数が安定回転数に到達していなければ(ステップ#80のNO)、ステップ#70での補正を維持して加速を継続する。同期モータ4の回転数が安定回転数に到達していれば(ステップ#80のYES)、同期モータ4の起動が完了する。同期モータ4の起動が完了すると、負荷要素の起動も完了する。同期モータ4および負荷要素は起動完了後にそれぞれ通常運転に移行する。
【0049】
本実施形態の変形例として、ステップ#50の代わりに、最大値をとる電流振幅とそれに対応する他の電気角周期の2番目に大きい電流振幅との差が閾値以上であるか否かを判定するステップ、最大値をとる電流振幅とそれに対応する他の電気角周期の最小値をとる電流振幅との差が閾値以上であるか否かを判定するステップ、最大値をとる電流振幅が閾値以上であるか否かを判定するステップのいずれかを採用してもよい。
【0050】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係るモータ制御装置の概略構成は、本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置の概略構成と同一である。
【0051】
本実施形態においてモータ駆動電圧波形補正部10は図4に示すフローチャートの動作を行う。図4に示すフローチャートは、図3に示すフローチャートに対して、ステップ#51〜ステップ#55を追加したものである。モータ駆動電圧波形補正部10が図4に示すフローチャートの動作を行うことにより、本実施形態に係るモータ制御装置は、本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置と同様の効果を奏する。さらに、ノイズなどの影響によって誤ってステップ#70の補正処理を実行してしまうことを抑制することができる。
【0052】
以下、本発明の第1実施形態との相違点について説明し、本発明の第1実施形態との一致点については説明を省略する。
【0053】
ステップ#50において最大値をとる電流振幅とそれ以外の電流振幅との差が閾値以上であると判定されれば(ステップ#50のYES)、モータ駆動電圧波形補正部10は、ロータ1回転目の最大電流振幅電気角を既に記憶しているか否かを判定する(ステップ#51)。
【0054】
ロータ1回転目の最大電流振幅電気角をまだ記憶していなければ(ステップ#51のNO)、モータ駆動電圧波形補正部10は、電流振幅が最大値となった電気角をロータ1回転目の最大電流振幅電気角として記憶し(ステップ#52)、ステップ#60に移行する。
【0055】
一方、ロータ1回転目の最大電流振幅電気角を既に記憶していれば(ステップ#51のYES)、モータ駆動電圧波形補正部10は、電流振幅が最大値となった電気角をロータ2回転目の最大電流振幅電気角として記憶し(ステップ#53)、ステップ#54に移行する。
【0056】
ステップ#54において、モータ駆動電圧波形補正部10は、ロータ1回転目の最大電流振幅電気角とロータ2回転目の最大電流振幅電気角とが同一または略同一(例えば±α度の範囲:αは任意の正の数)の電気角であるか否かを判定する。
【0057】
ロータ1回転目の最大電流振幅電気角とロータ2回転目の最大電流振幅電気角とが同一または略同一の電気角でなければ(ステップ#54のNO)、モータ駆動電圧波形補正部10は、ロータ2回転目の最大電流振幅電気角を新たなロータ1回転目の最大電流振幅電気角として記憶し(ステップ#55)、ステップ#60に移行する。一方、ロータ1回転目の最大電流振幅電気角とロータ2回転目の最大電流振幅電気角とが同一または略同一の電気角であれば(ステップ#54のYES)、ステップ#70に移行する。
【0058】
上述した第1実施形態の変形例は、本実施形態の変形例としても実施することができる。また、ステップ#54において、ロータ1回転目の最大電流振幅電気角とロータ2回転目の最大電流振幅電気角とが同一または略同一の電気角でなかった場合(ステップ#54のNO)は、さらにステップ#60に戻ってロータ3回転目の最大電流振幅電気角を同様に判別し、ステップ#54において、ロータ1回転目の最大電流振幅電気角とロータ3回転目の最大電流振幅電気角とが同一または略同一の電気角であるか否かを判定し、ロータ1回転目の最大電流振幅電気角とロータ3回転目の最大電流振幅電気角とが同一または略同一の電気角であれば、ステップ#70に移行するようにしてもよい。このようにすれば、電流振幅が最大値となる電気角をより早期に判別することができる。なお、ロータ1回転ごとの最大電流振幅電気角が同一または略同一となる個数は、2個だけでなく2個以上の任意の数とすることもできる。
【0059】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係るモータ制御装置は、本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置に対してステップ#70の補正処理内容を変更したものである。なお、本発明の第2実施形態に係るモータ制御装置に対して同様の変更を施すことも可能である。
【0060】
本実施形態では、同期モータ4が3相6極のモータであって、ステップ#30において電気周期毎にU相上側の電流振幅およびU相下側の電流振幅を検出している。このため、電流振幅検出間隔は電気角180度となり、ロータの機械角360度は図5Aに示すように、電気角180度の範囲となる6つの区間、具体的には、1周期目のU相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間I、1周期目のU相下側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間II、2周期目のU相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間III、2周期目のU相下側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間IV、3周期目のU相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間V、3周期目のU相下側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間VIに区分される。
【0061】
ステップ#50において抽出した最大値をとる電流振幅A0は真の最大値ではなく、その周囲の検出対象でないV相又はW相の電流振幅A1〜A4が真の最大値である可能性があり、更にモータ駆動電流が最大値になるであろうロータの機械角に相当する電気角が上記の区間の境界に近い場合には隣接する検出対象であるU相の電流振幅A5もしくはA6の方が電流振幅A0よりも大きい可能性がある。このため、電流振幅A1〜A4が真の最大値であったり、また、電流振幅A5又は電流振幅A6が抽出すべき最大値であったとしても、電流振幅が真の最大値をとる電気角を中心とした電気角120度の範囲において電圧指令値の補正が行えるようにする。これにより、モータ駆動電流の脈動をより確実に抑制することができる。具体的には、ステップ#50において抽出した最大値をとる電流振幅A0を中心とした電気角120度の範囲の前後それぞれに、電流振幅検出間隔、すなわち、各区間の範囲である電気角180度の範囲を加える。したがって、本実施形態での電圧指令値の補正範囲は、ステップ#50において抽出した最大値をとる電流振幅A0を中心とした電気角480度の範囲となる。この補正範囲(電気角480度の範囲)はロータ1回転(電気角1080度の範囲)の44.4%に相当する。
【0062】
同期モータ4を3相6極のモータから3相4極のモータに変更した場合、電流振幅検出間隔は3相6極のモータを用いる場合と同様に電気角180度であるが、ロータ1回転は電気角2周期分となるため、補正範囲(電気角480度の範囲)はロータ1回転(電気角720度の範囲)の66.7%に相当する。
【0063】
また、同期モータ4を3相6極のモータのままで、ステップ#30において電気周期毎にU相上側の電流振幅、V相上側の電流振幅、およびW相上側の電流振幅を検出するように変更した場合について説明する。この場合、電流振幅検出間隔は電気角120度となり、ロータの機械角360度は図6に示すように、電気角120度の範囲となる9つの区間、具体的には、1周期目のU相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間I、1周期目のV相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間II、1周期目のW相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間III、2周期目のU相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間IV、2周期目のV相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間V、2周期目のW相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間VI、3周期目のU相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間VII、3周期目のV相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間VIII、3周期目のW相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間IXに区分される。
【0064】
ステップ#50において抽出した最大値をとる電流振幅A0は真の最大値ではなく、その周囲の検出対象でない下側の電流振幅A1、A2が真の最大値である可能性があり、更にモータ駆動電流が最大値になるであろうロータの機械角に相当する電気角が上記の区間の境界に近い場合には隣接する検出対象である上側の電流振幅A3もしくはA4の方が電流振幅A0よりも大きい可能性がある。このため、電流振幅A1やA2が真の最大値であったり、また、電流振幅A3又は電流振幅A4が抽出すべき最大値であったとしても、電流振幅が真の最大値をとる電気角を中心とした電気角120度の範囲において電圧指令値の補正が行えるようにする。これにより、モータ駆動電流の脈動をより確実に抑制することができる。具体的には、ステップ#50において抽出した最大値をとる電流振幅A0を中心とした電気角120度の範囲の前後それぞれに、電流振幅検出間隔、すなわち、各区間の範囲である電気角120度の範囲を加える。したがって、本実施形態での電圧指令値の補正範囲は、ステップ#50において抽出した最大値をとる電流振幅A0を中心とした電気角360度の範囲となる。この補正範囲(電気角360度の範囲)はロータ1回転(電気角1080度の範囲)の33.3%に相当する。
【0065】
上記のようにステップ#30において電気周期毎にU相上側の電流振幅、V相上側の電流振幅、およびW相上側の電流振幅を検出する仕様において、同期モータ4を3相6極のモータから3相4極のモータに変更した場合、電流振幅検出間隔は3相6極のモータを用いる場合と同様であるが、ロータ1回転は電気角2周期分となるため、補正範囲(電気角360度の範囲)はロータ1回転(電気角720度の範囲)の50.0%に相当する。
【0066】
また、同期モータ4を3相6極のモータのままで、ステップ#30において電気周期毎にU相上側の電流振幅、U相下側の電流振幅、V相上側の電流振幅、V相下側の電流振幅、W相上側の電流振幅、およびW相下側の電流振幅を検出するように変更した場合について説明する。この場合、電流振幅検出間隔は電気角60度となり、ロータの機械角360度は図7に示すように、電気角60度の範囲となる18つの区間、具体的には、1周期目のU相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間I、1周期目のW相下側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間II、1周期目のV相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間III、1周期目のU相下側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間IV、1周期目のW相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間V、1周期目のV相下側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間VI、2周期目のU相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間VII、2周期目のW相下側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間VIII、2周期目のV相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間IX、2周期目のU相下側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間X、2周期目のW相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間XI、2周期目のV相下側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間XII、3周期目のU相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間XIII、3周期目のW相下側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間XIV、3周期目のV相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間XV、3周期目のU相下側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間XVI、3周期目のW相上側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間XVII、3周期目のV相下側の電流振幅を検出した電気角を中心とする区間XVIIIに区分される。
【0067】
モータ駆動電流が最大値になるであろうロータの機械角に相当する電気角が上記の区間の境界に近い場合には、ステップ#50において抽出した最大値をとる電流振幅A0は真の最大値ではなく、隣接する検出対象である電流振幅A1、A2が真の最大値である可能性がある。このため、電流振幅A1又は電流振幅A2が真の最大値であったとしても、電流振幅が真の最大値をとる電気角を中心とした電気角120度の範囲において電圧指令値の補正が行えるようにする。これにより、モータ駆動電流の脈動をより確実に抑制することができる。具体的には、ステップ#50において抽出した最大値をとる電流振幅A0を中心とした電気角120度の範囲の前後それぞれに、電流振幅検出間隔、すなわち、各区間の範囲である電気角60度の範囲を加える。したがって、本実施形態での電圧指令値の補正範囲は、ステップ#50において抽出した最大値をとる電流振幅A0を中心とした電気角240度の範囲となる。この補正範囲(電気角240度の範囲)はロータ1回転(電気角1080度の範囲)の22.2%に相当する。
【0068】
上記のようにステップ#30において電気周期毎にU相上側の電流振幅、U相下側の電流振幅、V相上側の電流振幅、V相下側の電流振幅、W相上側の電流振幅、およびW相下側の電流振幅を検出する仕様において、同期モータ4を3相6極のモータから3相4極のモータに変更した場合、電流振幅検出間隔は3相6極のモータを用いる場合と同様であるが、ロータ1回転は電気角2周期分となるため、補正範囲(電気角240度の範囲)はロータ1回転(電気角720度の範囲)の33.3%に相当する。
【0069】
第1実施形態で述べたように、補正範囲(モータ駆動電圧を減少させる電気角範囲)ができるだけ狭い方がモータトルクの低下を防ぎ、設定された加速レートを大きく損なわない。したがって、補正範囲のロータ1回転における割合は低いほうが好ましく、例えば、50%以下とすれば、モータトルクを低下させない範囲のほうがモータトルクを低下させる範囲よりも広くなるので、加速不足になり難くすることができる。つまり、補正の適用によって低下する加速分を加味しても所定の加速完了時間内に加速が完了するように、モータ駆動電圧の補正量および電流振幅検出間隔を設定すれば良い。
【0070】
<第4実施形態>
本発明の第1〜第3実施形態に係るモータ制御装置はモータの起動完了後の制御について特に限定されないが、本発明の第4実施形態に係るモータ制御装置は、モータの起動中に本発明の第1〜第3実施形態のいずれかと同様の制御を実施し、更にモータの起動完了後に以下で説明する制御を行う。
【0071】
本実施形態に係るモータ制御装置は、図8に示すように電圧補正パターン記憶部12を備えている。
【0072】
電圧補正パターン記憶部12は、負荷要素における負荷トルク変動1周期分の角度に対応する電圧補正パターンを記憶する。電圧補正パターンは、例えば、角度と補正値との対応関係を示すデータテーブルの形式で記憶されていてもよく、角度と補正値との対応関係を示す関数の形式で記憶されていてもよい。
【0073】
電圧補正パターンは、負荷要素における負荷トルク特性に応じて設定される。電圧補正パターンの一例を図9に示す。
【0074】
電圧補正パターンは、同期モータ4が駆動する負荷要素の、各々の角度における負荷トルクの値を、負荷要素の負荷トルク1周期分の平均値から差し引いた値を、負荷要素の角度で積分した関数に基づいて定めることができる。このように定めることで、負荷トルクの値が平均値よりも小さい角度においては同期モータ4の駆動電圧が上昇するように補正して加速させることで同期モータ4の駆動電流が低下しないように、また、負荷トルクの値が平均値よりも大きい角度においては同期モータ4の駆動電圧が低下するように補正して減速させることで同期モータ4の駆動電流が上昇しないようにすることができ、負荷要素の周期的な負荷トルク変動による同期モータ4の駆動電流変動を抑えることができる。
【0075】
図9の例では、図1Bに示すレシプロ型圧縮機のような負荷トルク特性を有した負荷要素に対応する電圧補正パターンを示している。図9(a)は図1Bと同様の負荷要素について、負荷トルク曲線Aを2周期分示している。図9(a)において、負荷トルク平均値Bは、負荷トルク曲線Aの1周期分の負荷トルク値を平均した値である。
【0076】
図9(b)の曲線Cは、図9(a)の曲線において、各々の角度における(負荷トルク平均値B)−(負荷トルクA)の値を求めて、角度で積分した曲線である。このような曲線Cを電圧補正パターンとしてモータを駆動し、負荷トルク特性曲線Aを有する負荷要素を駆動すると、モータの駆動電流変動を抑えることができる。その際、負荷トルク曲線Aと電圧補正パターンCとの位相が合っていることが望ましく、さらには、電圧補正パターンCによる電圧補正量が負荷トルク特性曲線Aに対して適正量であることが望ましい。
【0077】
このため、図9(b)の曲線Cを電圧補正パターンとして電圧補正パターン記憶部8に記憶させる際に、角度、補正値を絶対値ではなく相対値として記憶させておき、通常運転においてモータ駆動電圧波形補正部10によってモータ駆動電圧波形を補正する際に、電圧補正パターン記憶部12に記憶された電圧補正パターンに所定の補正係数を与えた補正データによってモータ駆動電圧波形を補正することが好ましい。図9(b)では一例として、点線で挟まれる負荷要素の負荷トルク変動周期1周期分を電圧補正パターンとして、角度軸(横軸)については左端を0度、右端を360度とし、補正量(縦軸)は1周期分の補正量の平均を1とした正規化データとして、電圧補正パターン記憶部12に記憶している。
【0078】
なお、電圧補正パターンは、図9(c)のように図9(b)の曲線Cを近似した形状とすることもできる。図9(a)に示す負荷トルク曲線Aは負荷状況や回転数などによって形状が変化すること、また、量産品の場合は個体差が生じることから、図9(b)のように厳密に電圧補正パターンを定めても特定の条件でしか合致しない。したがって、図9(c)のように近似した形状を用いても、実際には図9(b)の電圧補正パターンを用いた場合と大差ない効果が得られることが多い。一方、図9(c)のように近似形状とすることで、電圧補正パターンデータとして大量のテーブルデータを記憶しなくとも、関数式を記憶するだけでよく、また、所定の補正係数を与える際も関数式そのものを補正できるので、電圧補正パターン記憶部12の小容量化およびモータ駆動電圧波形補正部10における補正処理の高速化が期待できる。以後の説明では、図9(c)の電圧補正パターンを基にした図9(d)に示す補正パターンが電圧補正パターン記憶部12に記憶されているものとする。
【0079】
次に、モータ駆動電圧波形補正部10の通常運転における詳細な動作について説明する。以下、同期モータ4が3相6極のモータである場合について説明する。また、負荷要素における負荷トルク変動1周期分は、同期モータ4の1回転分であるとする。モータ駆動電圧波形補正部10は、同期モータ4の起動完了後に図10A及び図10Bに示すフロー動作を開始する。
【0080】
まず、回転数設定部8は、同期モータ4が所定の回転数となるように指令を出し、所定の回転数になったことを確認する(ステップS2)。この所定の回転数は、モータ駆動電圧を補正しなくてもモータ駆動電流が過電流保護回路に設定された過電流閾値を超えないような回転数を設定する。たとえば上述した安定回転数などが好ましい。
【0081】
次に、モータ駆動電圧波形補正部10は、第1〜第3実施形態で述べたモータ駆動基本電圧波形の補正を解除する(ステップS4)。これにより、モータ駆動電流波形の脈動量(変動量)が出やすい状態となる。
【0082】
次に、モータ駆動電圧波形補正部10は、電圧補正パターンの補正量が最大となる位相角を把握する(ステップS6)。たとえば、図9(d)に示す補正パターンが電圧補正パターン記憶部12に記憶されている場合は、電圧補正パターンの位相角約260度が、補正量が最大である。
【0083】
次に、モータ駆動電圧波形補正部10は、第1〜第3実施形態で述べたモータ駆動基本電圧波形の補正を行った電気角範囲(加速時補正電気角範囲)を把握する(ステップS8)。なお、ステップS6およびステップS8は、図10Aに示す順で行わなくてもよく、予め所定の記憶領域に記憶しておき、後のステップで必要に応じて呼び出してもよい。
【0084】
次に、モータ駆動電圧波形補正部10は、位相ずれ量θの初期値を0に、補正ゲインMの初期値を1に設定する(ステップS10)。その後、モータ駆動電圧波形補正部10は、電圧補正パターン記憶部8から電圧補正パターンを読み込む(ステップS20)。
【0085】
次に、モータ駆動電圧波形補正部10は、電圧補正パターンのそれぞれの角度ごとの補正量に補正ゲインMを掛ける(ステップS30)。そして、電圧補正パターンの位相を、モータ駆動基本電圧波形の位相に対してθ°ずらす(ステップS40)。
【0086】
次に、モータ駆動電圧波形補正部10は、θ°ずらした電圧補正パターンの補正量が最大となる位相角が、加速時補正電気角範囲の中に入っているか否かを判別する(ステップS41)。たとえば、図9(d)に示す補正パターンでは位相角約260度が補正量が最大となる位相角である。本実施形態においては、同期モータ4が3相6極のモータであるため、θ°ずらした電圧補正パターンは、電気角に換算すると、(θ°+260°)×3の電気角で補正量が最大となる。この電気角が加速時補正電気角範囲の中に入っている場合は、電流振幅が最大となる可能性が高い電気角に、電圧を上げる補正をかけることとなり、モータ駆動電流波形の脈動量(変動量)が大きく出る可能性が高い。したがって、このようにモータ駆動電流波形の脈動量(変動量)が大きく出る可能性が高い電気角範囲が判っている場合は、その範囲に電圧補正パターンの補正量が最大となる位相角が入らないようにすることで、モータ駆動電流波形の脈動量(変動量)を抑えながら、電圧補正パターンの位相シフト補正係数を求めることができる。
【0087】
例えば、第1実施形態(図5A)に示す補正範囲が、同期モータ4の起動加速時にモータ駆動電圧を減少させる補正範囲であった場合は、加速時補正電気角範囲は、電気角210度〜690度となっている。したがって、図9(d)に示す補正パターンを位相ずれ量θ度ずらした場合の電気角が上記の加速時補正電気角範囲に入っていれば(ステップS41のYES)、モータ駆動電流波形の脈動量の検出を行わない。つまり、θが−190度から−30度の位相角、すなわち、θが170度〜330度の場合は、後述するステップS50及びステップS60をスキップし、後述するステップS70に移行する。
【0088】
次に、モータ駆動電圧波形補正部10は、負荷要素1回転分のそれぞれの角度(それぞれの角度は離散的な値であってもよく、連続的な値であってもよい。)で電圧補正パターンの補正値に応じてモータ駆動基本電圧波形の振幅および角速度を補正し、電圧補正パターンの補正値が大きいほどモータ駆動基本電圧波形の振幅が大きくなり且つモータ駆動基本電圧波形の角速度が大きくなるように、電圧補正パターンの補正値が小さいほどモータ駆動基本電圧波形の振幅が小さくなり且つモータ駆動基本電圧波形の角速度が小さくなるようにする(ステップS50)。
【0089】
ここで、第1実施形態(図5A)によって起動してからステップS50の補正を行った後の各相のモータ駆動電圧波形を図5Bに示す。図5Bでは、補正後の各相のモータ駆動電圧波形Vu、Vv、Vwとともに、電圧補正パターンPも示している。図5Bに示す補正後の各相のモータ駆動電圧波形Vu、Vv、Vwは、それぞれの角度で電圧補正パターンPの補正値に応じてモータ駆動電圧波形の振幅のみを補正した波形である。それぞれの角度で電圧補正パターンの補正値に応じてモータ駆動電圧波形の振幅を補正することで、図5Bに示すように、モータ駆動電圧波形において縦軸方向に拡大している区間と縮小している区間とができる。また、それぞれの角度で電圧補正パターンの補正値に応じてモータ駆動電圧波形の角速度を補正することで、図示は省略しているが、モータ駆動電圧波形において横軸方向に拡大している区間と縮小している区間とができる。
【0090】
ステップS50に続くステップS60において、モータ駆動電圧波形補正部10は、ステップS50の処理で補正された各相のモータ駆動電圧波形に基づいて同期モータ4が駆動している状態における各相のモータ駆動電流をモータ駆動電流記憶部7からモータ1回転分、すなわち負荷要素における負荷トルク変動1周期分読み込み、モータ駆動電流波形の脈動量(変動量)を算出する。各相のモータ駆動電流値は、モータ駆動電流推定部6によって推定された相別のモータ駆動電流から各相における所定の角度での値を読み取ることで得られる。所定の角度とは、モータ駆動電圧波形に基づいてモータ駆動電流が最大になると推定される角度であり、たとえば、モータ駆動電流の値を読み取る角度は、各相のモータ駆動基本電圧波形がピークとなる角度としてもよい。また、モータ駆動電圧波形に対するモータ駆動電流の位相遅れ量が判っている、または推定できる場合には、モータ駆動電流の値を読み取る角度は、各相のモータ駆動基本電圧波形がピークとなる角度に、上記位相遅れ量を加算した角度とすることができる。これにより、モータ駆動電流波形がピークとなる角度により近い角度でモータ駆動電流の値を読み取ることができ、モータ駆動電流波形の脈動量をより精度高く求めることができる。
【0091】
なお、モータ駆動電流波形の読み取りは上記に限らず、例えば、上述した実施形態のように各相の電流振幅を検出してもよい。例えば図7に示すように3相のモータ駆動電流波形の値18点のデータから、最大と最小の値を選んで差をとることで、モータ駆動電流波形の脈動量とすることができる。また、読み取りをする角度も各相のモータ駆動電圧波形に基づく角度で決めるだけでなく、モータ駆動電流のゼロクロスやピークとなる角度を基準として定めることもできる。
【0092】
図11(a)は、図9(d)に示した補正パターンに、位相ずれ量θ=0°、補正ゲインM=1を与えた電圧補正パターンによってモータ駆動電圧波形を補正した場合のモータ駆動電流の例である。なお、図11に示す例では、同期モータに3相4極のモータを使用した場合を示しており、ロータ1回転は同期モータの電気角2周期分となっている。図11にて駆動されるモータおよび負荷要素は、予め電圧補正パターンを求めた際の図9のモータおよび負荷要素とは、異なる個体であることから、図11(a)の例では、モータ駆動電流波形の最大値(Iw2の絶対値)とモータ駆動電流波形の最小値(Iu4の絶対値)との間に大きな差があり、モータ駆動電流は大きく脈動している。ステップS60では、モータ駆動電流波形の最大値(この場合はIw2の絶対値)とモータ駆動電流波形の最小値(この場合はIu4の絶対値)との差の値と、位相ずれ量θ(この場合はθ=0°)とを記憶する。
【0093】
次に、モータ駆動電圧波形補正部10は、(θ+Δθ)が360°以上であるかを判定する(ステップS70)。ここで、Δθとは、電圧補正パターンの位相シフト幅であり、この値を小さくすれば、電圧補正パターンの位相補正係数をより精度よく求めることができる。また、この値を大きくすれば、電圧補正パターンの位相シフト補正係数を求めるための試行回数(ステップS40〜S80の実行回数)を少なくすることができる。本実施例では、Δθ=2°としているので、ステップS40〜S80を最大180回実行することになる。
【0094】
(θ+Δθ)が360°以上でなければ(ステップS70のNO)、モータ駆動電圧波形補正部10は、現在のθの値にΔθを加えた値を新たなθの値として設定し(ステップS80)、その後ステップS40に戻る。一方、(θ+Δθ)が360°以上であれば(ステップS70のYES)、例えば図12に示すようなモータ駆動電流の脈動量と電圧補正パターンの位相ずれ量との関係が得られているので、モータ駆動電圧波形補正部10は、モータ駆動電流の脈動量が最小となる電圧補正パターンの位相ずれ量を、電圧補正パターンの位相補正係数θ0に設定する(ステップS90)。図12に示す例では、θ=60°の場合にモータ駆動電流の脈動量が最小となるので、電圧補正パターンの位相補正係数θ0を60°に設定する。
【0095】
本実施形態では、位相ずれ量をθ度ずらした場合の電圧補正パターンの補正量が最大となる位相角が、加速時補正電気角範囲に入っている場合には(ステップS41のYES)、モータ駆動電流の脈動量の検出を行わない。したがって、図12の例では、θが0°〜20°の範囲および260°〜360°の範囲はモータ駆動電流の脈動量の検出がスキップされておりデータが無い。しかしながら、求めたいのはモータ駆動電流の脈動量が最小となる電圧補正パターンの位相ずれ量であるのに対し、ステップS41でスキップされたθの範囲では、モータ駆動電流の脈動量が大きくなることが判っており有用ではない。図12に示す例では、位相ずれ量θが0°〜20°の範囲および260°〜360°の範囲ではモータ駆動電流の脈動量の検出がスキップされデータが無いが、残りの位相ずれ量θが20°〜260°の範囲のデータによって、θ=60°の場合にモータ駆動電流の脈動量が最小となることが十分判別できる。したがって、モータ駆動電流の脈動量が最小となる電圧補正パターンの位相ずれ量を検出するために有用となり難いと予測される位相ずれ量の範囲では、モータ駆動電流の脈動量の検出を行わないことで、モータ駆動電流波形の脈動量(変動量)を抑えながら、また、モータ駆動電流の脈動量の検出回数を削減して効率よく、電圧補正パターンの位相シフト補正係数を求めることができる。
【0096】
同期モータ4の駆動が継続している限りモータ駆動電流の脈動量が最小となる電圧補正パターンの位相ずれ量の値は大きく変わらない事が多い。このため、ステップS90で確定した電圧補正パターンの位相補正係数は、同期モータ4の回転駆動が継続している間は再設定しなくてもよい。したがって、図10A及び図10Bのフローチャートでは、ステップS90の処理を1回のみ実施している。負荷要素によっては、負荷トルク量や回転数によってモータ駆動電流の脈動量が最小となる電圧補正パターンの位相ずれ量の値が変わる場合もあるので、その場合には、当該条件下で再度ステップS10から始まる電圧補正パターンの位相補正係数設定処理を行えばよい。
【0097】
ステップS90に続くステップS100において、モータ駆動電圧波形補正部10は、電圧補正パターンの位相を、モータ駆動基本電圧波形の位相に対して、ステップS90で求めた位相補正係数θ0だけずらす。
【0098】
次に、モータ駆動電圧波形補正部10は、電圧補正パターンのそれぞれの角度ごとの補正量に補正ゲインMを掛ける(ステップS110)。そして、モータ駆動電圧波形補正部10は、それぞれの角度(それぞれの角度は離散的な値であってもよく、連続的な値であってもよい。)で補正ゲインMが乗算され、位相を位相補正係数θ0だけずらされた電圧補正パターンの補正値に応じてモータ駆動電圧波形の振幅および角速度を補正し、それぞれの角度における電圧補正パターンの補正値が大きいほどモータ駆動電圧波形の振幅が大きくなり且つモータ駆動電圧波形の角速度が大きくなるように、電圧補正パターンの補正値が小さいほどモータ駆動電圧波形の振幅が小さくなり且つモータ駆動電圧波形の角速度が小さくなるようにする(ステップS120)。
【0099】
ステップS120に続くステップS130において、モータ駆動電圧波形補正部10は、ステップS120の処理で補正された各相のモータ駆動電圧波形に基づいて同期モータ4が駆動している状態における各相のモータ駆動電流をモータ駆動電流記憶部7からモータ1回転分、すなわち負荷要素における負荷トルク変動1周期分読み込み、モータ駆動電流波形の脈動量(変動量)を算出する。
【0100】
次に、モータ駆動電圧波形補正部10は、今回のモータ駆動電流波形の脈動量と前回のモータ駆動電流波形の脈動量とを比較し、その差が所定値以下かどうかを判定する(ステップS140)。差が所定値以下でなければ(ステップS140のNO)、モータ駆動電流波形の脈動量の最小値が見つけられていないと判断し、ステップS150に進む。一方、差が所定値以下であれば(ステップS140のYES)、モータ駆動電流波形の脈動量の最小値が見つかったと判断し、ステップS200に進む。
【0101】
ステップS150では、今回のモータ駆動電流波形の脈動量と前回のモータ駆動電流波形の脈動量とを比較し、その差が所定値以下かどうかを判定する。ここで、ステップS150の判定で用いる所定値は、ステップS140の判定で用いる所定値よりも大きい値に設定する。差が所定値以下であれば(ステップS150のYES)、モータ駆動電流波形の脈動量が最小値となるゲイン補正係数M0に対し、現在の補正ゲインMが近づいていると判定して、補正ゲインMの刻み幅ΔMの量を半分にし(ステップS160)、その後ステップS170に移行する。一方、差が所定値以下になっていなければ(ステップS150のNO)、現在の補正ゲインMがまだ離れていると判定して、補正ゲインMの刻み幅ΔMの量を維持したままステップS170に移行する。
【0102】
ステップS170において、今回のモータ駆動電流波形の脈動量が、前回のモータ駆動電流波形の脈動量よりも小さいかどうかを判定する。今回の電流脈動量が前回の電流脈動量よりも大きければ(ステップS170のNO)、次回の補正ゲインMの増減方向を前回と逆方向として(ステップS180)ステップS190に移行する。一方、今回の電流脈動量が前回の電流脈動量よりも小さければ(ステップS170のYES)、次回の補正ゲインMの増減方向は前回と同方向のままステップS190に移行する。ステップS190では、補正ゲインMの刻み幅ΔMだけMを変化させて、ステップS110に戻る。
【0103】
ステップS200では、補正ゲインMを電圧補正パターンのゲイン補正係数M0に設定する。図13に示す例では、M=2の場合にモータ駆動電流の脈動量が最小となるので、電圧補正パターンのゲイン補正係数M0を2に設定する。
【0104】
図11(b)は、図9(d)に示した補正パターンに、位相ずれ量θ=60°、補正ゲインM=2を与えた電圧補正パターンによってモータ駆動電圧波形を補正した場合のモータ駆動電流の例である。図11(b)の例では、モータ駆動電流波形の波高値が全て揃っており、モータ駆動電流は脈動していないことになる(図13で脈動量=0となっている)。
【0105】
ステップS200に続くステップS210において、モータ駆動電圧波形補正部10は、位相補正係数θ0、ゲイン補正係数M0を与えた電圧補正パターンで補正された各相のモータ駆動電圧波形に基づいて同期モータ4が駆動している状態における各相のモータ駆動電流をモータ駆動電流記憶部7からモータ1回転分、すなわち負荷要素における負荷トルク変動1周期分読み込み、モータ駆動電流の最大振幅値から最小振幅値を引いた値をモータ駆動電流波形の脈動量(変動量)として算出する。続けてステップS220において、算出されたモータ駆動電流波形の脈動量が所定値以下かどうかを判定する。脈動量が所定値以下であれば(ステップS220のYES)、モータ駆動電圧波形は最適に補正されていると判断し、ステップS210に戻る。脈動量が所定値以下でなければ(ステップS220のNO)、モータ駆動電圧波形は最適に補正されていないと判断し、ゲイン補正係数M0を補正ゲインMに代入し(ステップS230)、ステップS110に戻って、ゲイン補正係数M0の再探査を行う。
【0106】
なお、ステップS210〜S230の代わりに、または加えて、例えば、所定時間の経過ごとに強制的にゲイン補正係数M0の再探査を行うステップを設けてもよい。また、ステップS210は随時行っても良いし、所定の時間ごとに間欠的に行っても良い。
【0107】
また、負荷要素によっては、負荷トルク量や回転数によってモータ駆動電流の脈動量が最小となる電圧補正パターンの位相ずれ量の値が変わる場合もあるので、その場合には、ステップS220のNOの場合に、ステップS10に戻っても良い。
【0108】
モータ駆動電圧波形補正部10が上述した図10A及び図10Bに示すフローチャートの動作を行うことにより、位置センサレスで且つ同期モータ4と同期モータ4が駆動する負荷要素との接続位置に関する情報すなわち同期モータ4の電気角と同期モータ4が駆動する負荷要素の機械角との関係に関する情報がなくても、モータ駆動電流の脈動量を小さく(理想的には零に)することができ、同期モータ4を高効率で駆動することができる。
【0109】
また、モータ駆動電圧波形補正部10が上述した図10A及び図10Bに示すフローチャートの動作を行うことにより、負荷トルク量の変動に関する情報がなくても、負荷トルク量の変動に対応してモータ駆動電流の脈動量を小さく(理想的には零に)することができ、同期モータ4を高効率で駆動することができる。
【0110】
また、モータ駆動電圧波形補正部10が上述した図10A及び図10Bに示すフローチャートの動作を行うことにより、1つの電圧補正パターンを2つの補正係数(位相補正係数、ゲイン補正係数)で補正して、同期モータ4のモータトルクを制御することができるので、モータ制を簡便に、且つ、連続的に制御することができる。
【0111】
<第5実施形態>
本発明の第5実施形態に係るモータ制御装置の概略構成は、本発明の第4実施形態に係るモータ制御装置の概略構成と同一である。本実施形態に係るモータ制御装置は、モータの起動中に本発明の第1〜第3実施形態のいずれかと同様の制御を実施し、更にモータの起動完了後に以下で説明する制御を行う。
【0112】
本実施形態においてモータ駆動電圧波形補正部10は同期モータ4の起動完了後に図14A及び図14Bに示すフローチャートの動作を行う。図14A及び図14Bに示すフローチャートは、図10A及び図10Bに示すフローチャートに対して、ステップS6及びS10をステップS7及びステップS11に置換する第1の変更と、ステップS40〜S90をステップS40〜S91に置換する第2の変更とを施したものである。モータ駆動電圧波形補正部10が図14A及び図14Bに示すフローチャートの動作を行うことにより、本実施形態に係るモータ制御装置は、本発明の第4実施形態に係るモータ制御装置と同様の効果を奏する。
【0113】
以下、第1〜第2の変更に関するモータ駆動電圧波形補正部10の動作について説明し、第1〜第2の変更以外に関するモータ駆動電圧波形補正部10の動作については本発明の第4実施形態と同一であるため説明を省略する。
【0114】
ステップS4の処理が終わると、モータ駆動電圧波形補正部10は、電圧補正パターンの補正量が最小となる位相角を把握する(ステップS7)。たとえば、図9(d)に示す補正パターンが電圧補正パターン記憶部12に記憶されている場合は、電圧補正パターンの位相角約0度で補正量が最小になっている。
【0115】
続くステップS8で把握した加速時補正電気角範囲に基づいて、次のステップS11では位相ずれ量θの初期値を設定する。加速時補正電気角範囲が第1実施形態と同様に、電気角210度〜690度となっている場合は、例えば加速時補正電気角範囲の中央値である電気角450度に電圧補正パターンの最小値がくるように位相ずれ量θの初期値を設定する。つまり、第4実施形態と同様に同期モータ4が3相6極のモータである場合は、電気角に換算した式、(θ°+0°)×3=450°となる位相ずれ量θ=150度とすれば、加速時補正電気角範囲の中央値である電気角に、電圧補正パターンの補正量が最小値となる位相角が来るので、この位相ずれ量θを初期値として設定する。また、ステップS11では、モータ駆動電圧波形補正部10は、補正ゲインMの初期値を1に設定する。
【0116】
ステップS61において、モータ駆動電圧波形補正部10は、今回のモータ駆動電流波形の脈動量と前回のモータ駆動電流波形の脈動量とを比較し、その差が所定値以下かどうかを判定する。差が所定値以下でなければ(ステップS61のNO)、モータ駆動電流波形の脈動量の最小値が見つけられていないと判断し、ステップS62に進む。一方、差が所定値以下であれば(ステップS61のYES)、モータ駆動電流波形の脈動量の最小値が見つかったと判断し、ステップS91に進む。
【0117】
ステップS62では、今回のモータ駆動電流波形の脈動量と前回のモータ駆動電流波形の脈動量とを比較し、その差が所定値以下かどうかを判定する。ここで、ステップS62の判定で用いる所定値は、ステップS61の判定で用いる所定値よりも大きい値に設定する。差が所定値以下であれば(ステップS62のYES)、モータ駆動電流波形の脈動量が最小値となる位相ずれ量θ0に対し、現在の位相ずれ量θが近づいていると判定して、位相ずれ量θの刻み幅Δθの量を半分にし(ステップS63)、その後ステップS64に移行する。一方、差が所定値以下になっていなければ(ステップS62のNO)、現在の位相ずれ量θがまだ離れていると判定して、位相ずれ量θの刻み幅Δθの量を維持したままステップS64に移行する。
【0118】
ステップS64において、今回のモータ駆動電流波形の脈動量が、前回のモータ駆動電流波形の脈動量よりも小さいかどうかを判定する。今回の電流脈動量が前回の電流脈動量よりも大きければ(ステップ64のNO)、次回の位相ずれ量θの増減方向を前回と逆方向として(ステップS65)ステップS66に移行する。一方、今回の電流脈動量が前回の電流脈動量よりも小さければ(ステップS64のYES)、次回の位相ずれ量θの増減方向は前回と同方向のままステップS66に移行する。ステップS66では、位相ずれ量θの刻み幅Δθだけθを変化させて、ステップS40に戻る。これにより、今回のモータ駆動電流波形の脈動量と前回のモータ駆動電流波形の脈動量との差がステップS61で設定された所定値以下あれば、ステップS40〜ステップS66のルーチンがモータ1回転分、すなわち負荷要素における負荷トルク変動1周期分完了していなくても、ステップS40〜ステップS66のルーチンから抜けることができ、処理時間の短縮を図ることができる。
【0119】
さらに、本実施形態では、電圧補正パターンの補正量が最小となる位相角が、加速時補正電気角範囲に入るように、位相ずれ量θの初期値を設定する。すなわち、モータ駆動電流が大きいことが判明している電気角範囲に電圧補正パターンの補正量が最小となる位相角が来るようにしているため、モータ駆動電流の脈動量が既に抑えられている状態から電圧補正パターンの位相シフト補正係数を求めるルーチンを開始することができ、モータ駆動電流波形の脈動量(変動量)を抑えながら、また、モータ駆動電流の脈動量の検出回数を削減して効率よく、電圧補正パターンの位相シフト補正係数を求めることができる。
【0120】
ステップS91において、モータ駆動電圧波形補正部10は、位相ずれ量θを電圧補正パターンの位相補正係数θ0に設定する。
【0121】
<第6実施形態>
本発明の第6実施形態は、電圧補正パターンの定義方法が本発明の第4実施形態と異なっており、それ以外に関しては本発明の第4実施形態と同一である。
【0122】
本実施形態では、負荷要素を一定のトルク(モータトルク一定)で回転させたときの、負荷トルク変動1周期分の角速度変化を測定し、その変動パターンに基づいて電圧補正パターンを定めている。
【0123】
一定のトルクで負荷要素を駆動した場合、負荷トルクが平均負荷トルクより小さくなる機械角では角速度が増速し、負荷トルクが平均負荷トルクより大きくなる機械角では角速度が減速する。力を積分すると速度エネルギーになるので、本実施形態における定義方法によって定義した電圧補正パターンであっても、本発明の第1実施形態での電圧補正パターンと同様のものが得られる。したがって、本実施形態に係るモータ制御装置は、本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置と同様の効果を奏するとともに、負荷トルク曲線を計測しなくても補正パターンが得られるため本発明の第1実施形態よりも簡便に電圧補正パターンを定義できるという利点を有している。
【0124】
<第7実施形態>
本発明の第7実施形態は、電圧補正パターンの定義方法が本発明の第4実施形態及び第6実施形態と異なっており、それ以外に関しては本発明の第4実施形態及び第6実施形態と同一である。
【0125】
本実施形態では、本発明の第4実施形態又は第6実施形態において定義した電圧補正パターンよりも、電圧補正パターン自体の補正量(補正ゲイン量M=1のときの補正量)が小さくなる電圧補正パターンを定義する。例えば、本発明の第1実施形態において定義した電圧補正パターンに0より大きく1より小さい所定の補正ゲイン量を掛けたものを本実施形態の電圧補正パターンとしてもよく、本発明の第3実施形態において定義した電圧補正パターンに0より大きく1より小さい所定の補正ゲイン量を掛けたものを本実施形態の電圧補正パターンとしてもよい。
【0126】
これにより、M=1で位相補正係数を探査する(第4実施形態ではステップS10〜S90)際に、電圧補正量が大きすぎてモータ駆動が不安定となり、最悪の場合は脱調に至ってしまうことを防止することができる。また、ゲイン補正係数を探査する(第4実施形態ではステップS100〜S200)際に、ゲイン補正係数が1以上であることはほぼ確実となるので、ステップS170及びS180を省くことも可能となり、より早くゲイン補正係数を得られる利点もある。なお、電圧補正パターンの定義を本発明の第4実施形態又は第6実施形態から変更するのではなく、位相補正係数及びゲイン補正係数探査時の最初の補正ゲイン量Mを1より小さくすることによっても、上記と同様の効果を得ることができる。
【0127】
本実施形態において定義した電圧補正パターン自体の補正量(補正ゲイン量M=1のときの補正量)は、本発明の第1実施形態又は第3実施形態において定義した電圧補正パターン自体の補正量(補正ゲイン量M=1のときの補正量)の半分以下とすることが好ましい。この場合は、ゲイン補正係数が2以上となることが予測できるので、ゲイン補正係数を探査する(ステップS100〜S200)際の判断材料の1つとして使用することもできる。
【0128】
<第8実施形態>
本発明の第4実施形態では、電圧補正パターンの一例として図9に示すレシプロ型圧縮機のような負荷トルク特性を有した負荷要素に対応する電圧補正パターンを挙げたが、本発明の第9実施形態では、図1Aに示すシングルロータ型圧縮機のような負荷トルク特性を有した負荷要素に対応する電圧補正パターンを用いることにする。
【0129】
図15(a)は図1Aに示すシングルロータ型圧縮機のような負荷トルク特性を有した負荷要素について、1周期分の負荷トルク特性を示している。図15(a)において、負荷トルク平均値Bは、負荷トルク曲線Aの1周期分の負荷トルク値を平均した値である。
【0130】
図15(b)の曲線Cは、図15(a)の曲線において、各々の角度における(負荷トルク平均値B)−(負荷トルクA)の値を求めて、角度で積分した曲線である。負荷トルク曲線Aが正弦波に近い形状であるため、負荷トルク曲線を正弦波(sinθ)で近似できれば、曲線Cを近似した図15(c)の曲線は余弦波形状(=cosθ)とすることができる。
【0131】
本実施形態に係るモータ制御装置の概略構成は、本発明の第4実施形態に係るモータ制御装置の概略構成と同一であり、同期モータ4の起動完了後のモータ駆動電圧波形補正部10の動作も本発明の第4実施形態〜第7実施形態のいずれかと同様にすれば良いので、ここでは説明を省略する。
【0132】
<圧縮機駆動装置及び冷凍・空調装置>
冷凍・空調装置などで使用される圧縮機では、内部が高温状態になり、ホールICなどのロータ位置を検出する位置センサを設けることが困難であるため、位置センサレスで同期モータを駆動する必要がある。そこで、本発明に係るモータ制御装置を圧縮機駆動装置の同期モータを駆動するために使用する。これによって、コイルおよびホール素子で構成された電流センサ、カレントトランスといった交流電流を検出するための電流センサが不要となるとともに、位置センサも不要となる。このことはすなわち、圧縮機の上死点などの機械角情報が不明で、かつ、機械角を知るのに必要な上記センサを有さないような圧縮機などの負荷要素であっても、任意の同期モータと接続して本発明に係るモータ制御装置で制御することで、高効率な同期モータ駆動を可能にする、とも言える。
【0133】
そして、この本発明に係るモータ制御装置を備えた圧縮機駆動装置を冷凍・空調装置に搭載する。これによって、冷蔵庫、冷凍庫、空気調和機といった冷凍・空調装置を運転することが可能となる。例えば、空気調和機の場合、少なくとも圧縮機、室外熱交換器、膨張装置、及び室内熱交換器を冷媒配管により接続した冷媒回路を設け、本発明に係るモータ制御装置を備えた圧縮機駆動装置によって圧縮機を駆動し、四方弁の切り替えにより、冷房運転を行うときに冷媒回路の冷媒の流れ方向を圧縮機→室外熱交換器→膨張装置→室内熱交換器→圧縮機の方向とし、暖房運転を行うときに冷媒回路の冷媒の流れ方向を圧縮機→室内熱交換器→膨張装置→室外熱交換器→圧縮機の方向とする。
【0134】
なお、本発明に係るモータ制御装置の用途は、冷凍・空調装置等で使用される圧縮機のモータ駆動に限定されることはなく、周期的な負荷トルク変動を伴う負荷要素を駆動する同期モータの可変速制御全般に本発明に係るモータ制御装置を使用することができる。本発明に係るモータ制御装置を用いることによって、高効率で安定した駆動を実現することができる。
【0135】
<まとめ>
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。例えば、マイクロコンピュータM1と同一の機能を複数のマイクロコンピュータによって実現してもよく、マイクロコンピュータM1の一部または全部の機能を、専用の電気回路などによって実現してもよい。また、複数の実施形態を組み合わせて実施するようにしてもよい。例えば、第2実施形態と第3実施形態とを組み合わせて実施することが可能である。
【0136】
以上説明したモータ制御装置は、周期的な負荷トルク変動を有する負荷要素を駆動するモータ(4)を制御する装置であって、前記モータ(4)を駆動する電流の振幅を検出する検出部(6、7)と、前記モータ(4)を駆動するモータ駆動電圧を補正する補正部(10)とを備え、前記補正部(10)は、前記負荷要素の1周期に相当する前記モータの全電気角範囲から、前記検出部(6、7)によって検出されたモータ駆動電流が最大ピークとなる第1の電気角を推定し、前記全電気角範囲を、第1の電気角を含む一の電気角範囲と、前記一の電気角範囲を除いた他の電気角範囲とに区分し、前記一の電気角範囲では前記他の電気角範囲よりもモータ駆動電圧を低減する第1の補正を行う構成(第1の構成)とする。
【0137】
このような構成によると、前記一の電気角範囲では前記他の電気角範囲よりもモータ駆動電圧を低減する補正を行うことにより、モータ駆動電流の脈動を抑制し、モータ駆動電流の最大値が過電流になることを抑制することができる。また、前記他の電気角範囲では、モータトルクの減少が抑制されるので、所定の加速度での加速を維持することが可能となる。
【0138】
上記第1の構成のモータ制御装置において、前記一の電気角範囲は、第1の電気角の直前および直後の少なくとも一方に隣接した前記モータ駆動電流がピークとなる電気角を含む構成(第2の構成)としてもよい。
【0139】
このような構成によると、モータ駆動電流が最大ピークとなる電気角が、推定した第1の電気角と異なっている場合でも、高確度でモータ駆動電流の脈動を抑制し、モータ駆動電流の最大値が過電流になることを抑制することができる。
【0140】
上記第1または第2の構成のモータ制御装置において、前記補正部(10)は、前記モータ(4)が起動開始後に加速する間の前記モータ駆動電流に基づいてモータ駆動電圧の補正を行う構成(第3の構成)としてもよい。
【0141】
このような構成によると、過電流によって前記モータの起動が完了することなく停止することを防止することができる。
【0142】
上記第1〜第3のいずれかの構成のモータ制御装置において、前記負荷要素の1周期に相当する電圧補正パターンを記憶する電圧補正パターン記憶部(12)を備え、前記補正部(10)は、前記電圧補正パターンの位相を所定の角度分シフトする補正係数を与えた前記電圧補正パターンにより補正された前記モータ駆動電圧で前記モータを駆動した際の前記モータ駆動電流の変動量を、2つ以上の前記補正係数の設定値に対して比較した結果に基づいて、前記補正係数を決定する第2の補正を行い、前記第2の補正は前記第1の補正を解除した後に行い、前記第2の補正における前記電圧補正パターンの最大補正部分が、前記第1の補正で区分された前記一の電気角範囲に入らないように、前記補正係数の設定値が定められる構成(第4の構成)としてもよい。
【0143】
このような構成によると、モータ駆動電流波形の脈動量(変動量)を抑えながら、また、効率よく前記補正係数の設定を定めることができる。
【0144】
上記第4の構成のモータ制御装置において、前記補正係数は、前記電圧補正パターンのゲインを含み、前記ゲインを異なる値として前記モータを駆動した際の前記モータ駆動電流の変動量を比較した結果を指標として、前記ゲインを決定する構成(第5の構成)としてもよい。
【0145】
このような構成によると、負荷トルク量の変動に関する情報がなくても、負荷トルク量の変動に対応してモータ駆動電流の脈動量を小さく(理想的には零に)することができ、モータを高効率で駆動することができる。
【0146】
上記第4または第5の構成のモータ制御装置において、前記電圧補正パターンの形状は、前記負荷要素の角度ごとの負荷トルク値を前記負荷要素の前記1周期分の負荷トルクの平均値から差し引いた値を、前記負荷要素の角度で積分した関数に基づく形状である構成(第6の構成)としてもよい。
【0147】
このような構成によると、電圧補正パターンの概形をモータのロータの速度変動パターンの正確な概形に相似させることができるので、モータトルク制御の高精度化が期待できる。
【0148】
上記第4〜第6のいずれかの構成のモータ制御装置において、前記電圧補正パターンの形状は、前記負荷要素を一定のトルクで回転させたときの、負荷トルク変動1周期分の角速度変化を測定し、その変動パターンに基づく形状とする構成(第7の構成)としてもよい。
【0149】
このような構成によると、負荷トルク曲線を計測しなくても補正パターンが得られるため簡便に電圧補正パターンを定義できる。
【0150】
上記第6又は第7の構成のモータ制御装置において、前記電圧補正パターンの形状は、基となる前記関数または前記変動パターンに比べて、補正量を小さくした形状である構成(第8の構成)としてもよい。
【0151】
このような構成によると、電圧補正量が大きすぎてモータ駆動が不安定となり、最悪の場合は脱調に至ってしまうことを防止することができる。
【0152】
以上説明した冷凍・空調装置は、上記第1〜第8のいずれかの構成のモータ制御装置と、前記モータ制御装置によって駆動される同期モータ(4)と、前記同期モータ(4)が駆動する圧縮機とを備える構成(第9の構成)とする。
【符号の説明】
【0153】
1 交流電源
2 コンバータ回路
3 インバータ回路
4 同期モータ
5 電流検出回路
6 モータ駆動電流推定部
7 モータ駆動電流記憶部
8 回転数設定部
9 モータ駆動電圧波形作成部
10 モータ駆動電圧波形補正部
11 PWM波形作成部
12 電圧補正パターン記憶部
M1 マイクロコンピュータ
R1 電流検出抵抗(シャント抵抗)
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15