(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような車両用変速機において、車両がニュートラル状態、すなわち、各クラッチが切断状態であれば、車両は、前進又は後進することができない。しかしながら、各クラッチ内部には残留オイルがあるため、各クラッチが切断状態であっても、当該残留オイルによってクラッチ容量が発生する。これにより、各クラッチは擬似的に接続状態となり、出力側のプレートの連れ回りによって、メイン軸内軸及びメイン軸外軸が僅かに回転する場合がある。
【0008】
この結果、例えば、メイン軸内軸及びメイン軸外軸が1000rpmでそれぞれ回転している場合、メイン軸内軸の回転は、メイン軸内軸→1速用の駆動ギヤ→1速用の被動ギヤ→カウンタ軸側スプロケット→リバース走行用チェーン→メイン軸側スプロケットの順に伝達される。この場合、1速用の駆動ギヤと1速用の被動ギヤとのギヤ比が2で、且つ、各スプロケットのギヤ比が1であれば、メイン軸側スプロケットは、メイン軸内軸及びメイン軸外軸に対して反対方向に500rpm(−500rpm)だけ回転する。
【0009】
すなわち、メイン軸側スプロケットとメイン軸内軸及びメイン軸外軸との回転数差は、1500rpm(1000rpm−(−500rpm)=1500rpm)となる。
【0010】
従って、低速走行モードにおいて、メイン軸側スプロケットに対してメイン軸外軸を係合させ、一体的に回転させて、車両を低速で前進又は後進させようとすれば、1500rpmの回転数差で、メイン軸側スプロケットとメイン軸外軸とを係合させなければならない。これにより、メイン軸側スプロケット及びメイン軸外軸の係合時のショックが大きくなると共に、当該ショックに伴って大きな音が発生する。
【0011】
そこで、本発明は、低速走行モードにおいて、メイン軸側スプロケットとメイン軸外軸とを係合させる場合に、回転数差を小さくして係合させることが可能となる車両用変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る車両用変速機(40)は、メイン軸(110)、カウンタ軸(112)、メイン軸側スプロケット(mB)、カウンタ軸側スプロケット(nB)、リバース走行用チェーン(182)、メイン軸内軸(110i)、メイン軸外軸(110o)、第1のクラッチ(108A)及び第2のクラッチ(108B)を備えている。
【0013】
前記メイン軸(110)は、複数の駆動ギヤ(m1〜m7)の列(111)が設けられると共に、内燃機関(100)からの回転が入力される。前記カウンタ軸(112)は、前記複数の駆動ギヤ(m1〜m7)の列(111)と噛み合う複数の被動ギヤ(n1〜n7)の列(113)が設けられると共に、前記メイン軸(110)に平行に配置される。前記メイン軸側スプロケット(mB)は、前記メイン軸(110)に対して相対回転可能に設けられる。前記カウンタ軸側スプロケット(nB)は、前記カウンタ軸(112)に対して相対回転可能に設けられる。前記リバース走行用チェーン(182)は、前記メイン軸側スプロケット(mB)と前記カウンタ軸側スプロケット(nB)との間に巻き掛けられる。
【0014】
前記メイン軸内軸(110i)は、前記メイン軸(110)を構成し、前記メイン軸側スプロケット(mB)を相対回転可能に備えている。前記メイン軸外軸(110o)は、前記メイン軸(110)を構成し、前記メイン軸内軸(110i)に対して同軸且つ径方向外側に配置され、前記メイン軸側スプロケット(mB)と一体的に回転するか、又は、前記メイン軸側スプロケット(mB)から分離可能である。前記第1のクラッチ(108A)は、前記メイン軸内軸(110i)の一端側に接続されると共に、前記第2のクラッチ(108B)は、前記メイン軸外軸(110o)の一端側に接続される。
【0015】
そして、本発明に係る車両用変速機(40)は、以下の特徴を有する。
【0016】
第1の特徴;前記カウンタ軸側スプロケット(nB)は、前記カウンタ軸(112)に相対回転可能に設けられた1速用の被動ギヤ(n1)と一体に回転するように構成される。また、前記車両用変速機(40)は、一端側が前記メイン軸側スプロケット(mB)と一体的に回転するか、又は、分離可能であり、且つ、他端側が前記メイン軸外軸(110o)に相対回転不能に支持される駆動ギヤとしてのリバース用ドグクラッチ(m6)と、前記カウンタ軸(112)に設けられ且つ前記1速用の被動ギヤ(n1)と係合可能な1速用のドグクラッチ(n5)とをさらに備える。この場合、
低速走行モードにおいて、前記車両用変速機(40)が1速からニュートラルに変速する際に、前記リバース用ドグクラッチ(m6)を前記メイン軸側スプロケット(mB)と係合させた後に、前記1速用のドグクラッチ(n5)と前記1速用の被動ギヤ(n1)との係合を解除する。また、前記ニュートラルでは、前記リバース用ドグクラッチ(m6)と前記メイン軸側スプロケット(mB)とを係合させた状態で、前記第1のクラッチ(108A)及び前記第2のクラッチ(108B)を切断する。
【0017】
第2の特徴;2速用の駆動ギヤ(m2)が前記メイン軸外軸(110o)に設けられると共に、前記2速用の駆動ギヤ(m2)と噛み合う2速用の被動ギヤ(n2)が前記カウンタ軸(112)に設けられる。この場合、前記リバース用ドグクラッチ(m6)は、前記メイン軸側スプロケット(mB)からの前記メイン軸内軸(110i)の駆動力を前記メイン軸外軸(110o)に伝達する。また、前記2速用の駆動ギヤ(m2)は、前記駆動力を前記2速用の被動ギヤ(n2)を介して前記カウンタ軸(112)に伝達する。
【0018】
第3の特徴;前記メイン軸内軸(110i)には、前記1速用の被動ギヤ(n1)と噛み合う1速用の駆動ギヤ(m1)が、前記メイン軸側スプロケット(mB)に隣接して配置されている。
【0019】
第4の特徴;前記カウンタ軸側スプロケット(nB)は、前記1速用の被動ギヤ(n1)と一体成形されて前記カウンタ軸(112)に配置される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の特徴によれば、1速段では、1速用の被動ギヤと1速用のドグクラッチとが係合している。そこで、
低速走行モードにおいて、1速段からニュートラルに変速しても、当該係合を維持すれば、第1のクラッチ及び第2のクラッチの残留オイルに起因してメイン軸内軸及びメイン軸外軸が回転しても、前記メイン軸内軸→前記1速用の被動ギヤ→前記1速用のドグクラッチ→カウンタ軸の順に伝達されるトルクは、前記カウンタ軸を介して車輪に伝達される。しかしながら、伝達される前記トルクは、前記車輪を駆動させる程の大きさではない。そのため、前記1速用の被動ギヤ→カウンタ軸側スプロケット→リバース走行用チェーン→メイン軸側スプロケットの順に接続されていても、車両は停止し、前記メイン軸側スプロケットの回転は止まっている。
【0021】
この状態でリバース用ドグクラッチを前記メイン軸側スプロケットに係合させると、回転数差を小さくした状態で係合することになるので、係合時の音やショックを小さくすることができる。従って、第1の特徴では、前記リバース用ドグクラッチと前記メイン軸側スプロケットとを係合させた後に、前記1速用のドグクラッチと前記1速用の被動ギヤとの係合を解除し、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを切断すればよい。
【0022】
このように、第1の特徴では、
低速走行モードにおいて、1速段からニュートラル段に変速する際に、前記リバース用ドグクラッチが前記メイン軸側スプロケットと係合するので、ニュートラル段からリバース段に変速する際に、シフタである前記リバース用ドグクラッチが作動することはない。これにより、低速走行モードにおいて、変速時の音やショックを生じさせないようにすることができる。
【0023】
本発明の第2の特徴によれば、メイン軸内軸及びメイン軸外軸のトルクを、2速用の駆動ギヤ→2速用の被動ギヤ→カウンタ軸の順に伝達することにより、第1のクラッチ及び第2のクラッチの容量のバランスに基づき、低速走行モードでの極低速走行に適した速度制御が可能となる。すなわち、2速段を使用することにより、より少ないトルクで車両をスムーズに低速走行させることができる。
【0024】
本発明の第3の特徴によれば、1速用の駆動ギヤとメイン軸側スプロケットとがメイン軸内軸で隣接して配置されている。これにより、小さなスペースであっても、前記1速用の駆動ギヤと1速用の被動ギヤとの回転スペースと、前記メイン軸側スプロケット、リバース走行用チェーン及びカウンタ軸側スプロケットの回転スペースとを確保することができる。
【0025】
本発明の第4の特徴によれば、カウンタ軸側スプロケットと1速用の被動ギヤとを一体成形することにより、低速走行モードを実施するための機構を小型化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る車両用変速機を、車両である自動二輪車に適用した好適な実施の形態例について、
図1〜
図6を参照しながら説明する。
【0028】
自動二輪車10は、
図1及び
図2に示すように、運転席12及び同乗者席14を備えるタンデム車両(縦二人乗り車両)である。運転席12及び同乗者席14は、遠隔操作で解錠される図示しないシートロックを備えている。
【0029】
自動二輪車10の車体フレームは、ヘッドパイプ16と、該ヘッドパイプ16から下後方に延びるダウンチューブ18と、該ダウンチューブ18からさらに後上方に延びるメインチューブ20とを備えている。
【0030】
ヘッドパイプ16には、フロントフォーク22がハンドル軸23によって回動自在に取り付けられている。ハンドル軸23の上部には、車体左右に延びたハンドルバー24が取り付けられている。このハンドルバー24の右端部には、右グリップ26が設けられ、左端部には左グリップ28が設けられている。また、ハンドルバー24には、右グリップ26に隣接して右スイッチケース30が配置され、左グリップ28に隣接して左スイッチケース32が配置されている。さらに、ハンドルバー24には、左ミラー34及び右ミラー36が装着されている。フロントフォーク22の下端には前輪38が軸支されている。
【0031】
車体フレームを構成するメインチューブ20には、後述するエンジン100(
図4参照)が懸架され、このエンジン100の出力(出力トルク、駆動トルク)が、本実施の形態に係る変速機40と減速機42とを介して、駆動輪としての後輪44に伝達される。なお、ハンドルバー24の周りには計器45等が配置されている。
【0032】
車体は、フロントカバー46、レッグシールド48、フロントサイドカバー50、フロアセンタカバー52、リアサイドカバー54、リアセンタカバー56、ボディサイドカバー58及びフロアサイドカバー60で覆われている。車体は、メインスタンド62やサイドスタンド64により自立できるように構成されている。
【0033】
車体両側のフロアサイドカバー60には、運転者用のステップ66が設けられている。また、メインチューブ20から左右に張り出した状態で、同乗者用ステップ68が設けられている。リアセンタカバー56及びリアサイドカバー54の間には、テールランプユニット70が設けられている。この場合、テールランプユニット70には、ポジションランプ、ストップランプ、ウィンカランプ等が収容されている。
【0034】
そして、本実施の形態においては、
図3に示すように、左スイッチケース32に、少なくともシフトアップスイッチ72及びシフトダウンスイッチ74を有するハンドルスイッチ75が設けられている。
【0035】
具体的に、左スイッチケース32は、二つ割りの前方ハウジング部分76及び後方ハウジング部分78を備え、前方ハウジング部分76及び後方ハウジング部分78によってハンドルバー24の左グリップ28近傍を前後から挟んだ状態で自動二輪車10に取り付けられる。つまり、ハンドルの軸線Laを挟んで前方側に前方ハウジング部分76が設置され、後方側に後方ハウジング部分78が設置されている。後方ハウジング部分78は運転者側に向いている。
【0036】
シフトアップスイッチ72は、前方ハウジング部分76に設置され、シフトダウンスイッチ74は、後方ハウジング部分78に設置される。すなわち、シフトアップスイッチ72は、左グリップ28を左手で掴んだ状態で、主に人差し指で運転者が操作するのに通した位置に配置され、シフトダウンスイッチ74は、主に親指で運転者が操作するのに通した位置に配置される。好ましくは、運転者によってシフトアップスイッチ72とシフトダウンスイッチ74とを同時に操作することが可能な位置に配置される。
【0037】
また、本実施の形態では、通常走行モードのほか、例えば、駐車等の際に、運転者が自動二輪車10を前進あるいは後進させながら押し歩いたりする低速走行モードを実施できるようになっている。ここで、低速走行モードとは、後進のみが可能なモードの意味ではなく、前進のほか、後進も可能なモードの意味である。
【0038】
低速走行モードは、予め設定された所定の条件(低速走行モード移行条件)下において、シフトアップスイッチ72とシフトダウンスイッチ74とを同時に操作することで移行する。
【0039】
低速走行モード中に、シフトダウンスイッチ74を操作することで前進が行われる。シフトダウンスイッチ74に対する操作は、例えば、親指で前方に押すことから、直感的に前進を想起させることとなり、効果的に誤操作を防止することができる。従って、以下の説明では、シフトダウンスイッチ74を前進スイッチ74と記す場合がある。
【0040】
同様に、低速走行モード中に、シフトアップスイッチ72を操作することで後進が行われる。シフトアップスイッチ72に対する操作は、例えば、人差し指で後方に押すことから、直感的に後進を想起させることとなり、効果的に誤操作を防止することができる。従って、以下の説明では、シフトアップスイッチ72を後進スイッチ72と記す場合がある。
【0041】
なお、予め設定された所定の条件(通常走行モード移行条件)下において、シフトアップスイッチ72とシフトダウンスイッチ74とを同時に操作することで通常走行モードに移行する。
【0042】
つまり、シフトアップスイッチ72及びシフトダウンスイッチ74の組み合わせは、自動二輪車10の後進駆動を許容する低速走行モード設定入力部80(
図4参照)を構成する。
【0043】
ここで、低速走行モードを主体に
図4〜
図6を参照しながら説明する。
【0044】
図4は、制御装置106を含む自動二輪車10の制御系の要部を示すブロック図である。
【0045】
先ず、自動二輪車10は、クランクシャフトを回転駆動するエンジン100と、スロットルを電子制御するスロットル制御装置102(スロットルバイワイヤー:TBW)と、クランクシャフトの出力トルクを駆動シャフトに伝える、本実施の形態に係る変速機40と、バッテリ104からの電力を受けて自動二輪車10を制御する制御装置106(ECU)とを有する。
【0046】
本実施の形態に係る変速機40は、
図5に示すように、クラッチ装置108を有する。クラッチ装置108としては、例えば、第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bを有し、油圧方式で駆動するデュアルクラッチ装置(DCT)が好ましく採用される。これについては後述する。
【0047】
また、変速機40は、クランクシャフトと平行に配置されたメインシャフト(メイン軸)110及びカウンタシャフト(カウンタ軸)112と、シフトモータ114(
図4参照)にて回転駆動する図示しないシフトスピンドルと、シフトスピンドルの回転角に応じて変速ギヤを択一的にドグインさせて駆動力を連動させる図示しないシフトドラムとを有する。通常、カウンタシャフト112は、一方向に回転(前進のための回転)するが、本実施の形態では、逆回転(後進のための回転)も行う。これについては後述する。
【0048】
メインシャフト110には、例えば、7速分の駆動ギヤm1〜m7の駆動ギヤ列111が設けられ、カウンタシャフト112には、7速分の被動ギヤn1〜n7の被動ギヤ列113が設けられ、各駆動ギヤm1〜m7及び各被動ギヤn1〜n7は、対応する変速段同士で互いに噛み合い、それぞれ各変速段に対応する変速歯車対を構成する。
【0049】
図4に示すように、上述のエンジン100、スロットル制御装置102及び変速機40には、各種センサが取り付けられている。
【0050】
例えば、エンジン100には、クランクシャフトの回転数を検知するクランク回転センサ116が取り付けられ、スロットル制御装置102には、右グリップ26のスロットル回転角度(アクセル開度)を検知するアクセル開度センサ118と、エンジン100のスロットル弁の開度(スロットル開度)を検知するスロットル開度センサ120とが取り付けられている。
【0051】
変速機40には、メインシャフト110の回転数及びカウンタシャフト112の回転数を検知するメインシャフト回転センサ122及びカウンタシャフト回転センサ124と、クラッチ装置108への油圧経路の油圧を検知するライン油圧センサ126と、第1クラッチ108Aの油圧を検知する第1クラッチ油圧センサ128Aと、第2クラッチ108Bの油圧を検知する第2クラッチ油圧センサ128Bと、オイルパン130(
図6参照)内のオイル132の温度を検知する油温センサ134と、シフトスピンドルの回転角を検知するスピンドルアングルセンサ136と、シフトドラムの位置を検知するドラムポジションセンサ138とを有する。
【0052】
上述した各種センサの検知信号は、制御装置106に入力される。制御装置106には、これらの検知信号に加えて、シフトアップスイッチ72、シフトダウンスイッチ74、ブレーキスイッチ140、及び、サイドスタンドスイッチ142からの各種信号が入力される。
【0053】
例えば、シフトアップスイッチ72及びシフトダウンスイッチ74は、それぞれスイッチが操作されている期間にわたってオン信号を出力し、操作されていない期間ではオフ信号を出力する。ブレーキスイッチ140も、ブレーキレバーが操作されている期間にわたってオン信号を出力し、操作されていない期間ではオフ信号を出力する。サイドスタンドスイッチ142は、サイドスタンド64(
図1参照)が下がっている状態のときに例えばオン信号を出力し、上がっている状態のときにオフ信号を出力する。
【0054】
制御装置106は、各種センサからの検知信号及び各種スイッチからの信号に基づいて、スロットル制御装置102のモータ144(TBWモータ)、エンジン100の燃料噴射装置146及び点火コイル148、変速機40のシフトモータ114、第1クラッチ108Aの油圧制御のための第1電磁弁150A及び第2クラッチ108Bの油圧制御のための第2電磁弁150Bを制御する。さらに、制御装置106は、該制御装置106内での演算結果を計器45に出力する。計器45は、入力された演算結果をアナログ表示(指針による表示)、デジタル表示、ランプ表示等によって出力する。
【0055】
さらに、制御装置106は、上述した低速走行モードを実現するための判定部及び制御部を有する。
【0056】
具体的には、車速演算部152、前後回転判定部154、低速走行モード移行判定部156、通常走行モード移行判定部158、エンジン回転一定制御部160、前進後進クラッチ油圧制御部162、ドラム動作制御部164等である。
【0057】
車速演算部152は、メインシャフト回転センサ122からの検知信号に基づいて車速を演算する。前後回転判定部154は、カウンタシャフト回転センサ124からの検知信号に基づいて前進か後進かを判定する。
【0058】
低速走行モード移行判定部156は、各種センサ及び各種スイッチからの信号に基づいて、低速走行モードに移行するか否かを判定する。低速走行モードに移行した場合は、例えば、低速走行モードフラグ166に「1」をセットする。通常走行モード移行判定部158は、各種センサ及び各種スイッチからの信号に基づいて、通常走行モードに移行するか否かを判定する。通常走行モードに移行した場合は、例えば、低速走行モードフラグ166の「1」をリセットして「0」にする。
【0059】
エンジン回転一定制御部160は、運転者による右グリップ26のスロットル操作を無効とし、エンジン回転数及びスロットル開度を一定に制御する。例えば、アイドル状態に制御する。
【0060】
前進後進クラッチ油圧制御部162は、第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bの断接を制御するコントローラとして機能し、車速演算部152からの車速情報、前後回転判定部154からの判定結果、並びに、各種油圧センサ(126、128A、128B)及び油温センサ134からの検知信号に基づいて、停車のためのブレーキ制御、前進のためのクラッチ油圧制御及び後進のためのクラッチ制御を行う。
【0061】
ドラム動作制御部164は、通常走行モードから低速走行モードに移行する際に、シフトドラムの位置が予め設定された低速走行モードの位置になるようにシフトモータ114を駆動する。また、低速走行モードから通常走行モードに移行する際に、シフトドラムの位置がニュートラルの位置になるようにシフトモータ114を駆動する。シフトモータ114の駆動は、スピンドルアングルセンサ136及びドラムポジションセンサ138からの検知信号に基づいてフィードバック制御する。
【0062】
ここで、変速機40のクラッチ装置108、メインシャフト110及びカウンタシャフト112の構成並びに動作について、
図5を参照しながら説明する。
【0063】
クラッチ装置108は、互いに同軸に隣接配置される油圧式の奇数段側のディスククラッチ(第1クラッチ108A)及び偶数段側のディスククラッチ(第2クラッチ108B)を有する。メインシャフト110は、内シャフト(メイン軸内軸)110i及び外シャフト(メイン軸外軸)110oを有し、これら内シャフト110i及び外シャフト110oが同軸に設けられている。第1クラッチ108Aは、内シャフト110iの一端部に設けられ、第2クラッチ108Bは、外シャフト110oの一端部に設けられている。
【0064】
第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bが共有するクラッチアウタ168には、クランクシャフトのクランク側駆動歯車170に噛み合うメイン側被動歯車172が同軸に設けられ、これらクランク側駆動歯車170及びメイン側被動歯車172を介して、クラッチアウタ168にクランクシャフトからの回転駆動力(出力トルク、駆動トルク)が入力される。クラッチアウタ168に入力された回転駆動力は、第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bの接続状態に応じて、エンジン100からの出力トルク(駆動トルク)として、内シャフト110i及び外シャフト110oに個別に伝達される。
【0065】
第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bの接続状態は、
図6に示す油圧供給装置174からの油圧供給の有無により個別に制御される。
【0066】
油圧供給装置174は、
図6に示すように、クラッチ制御装置176と、オイルパン130内のオイル132をくみ上げてクラッチ装置108に供給するオイルポンプ178とを有する。クラッチ制御装置176は、第1電磁弁150Aと第2電磁弁150Bとを有する。
【0067】
第1電磁弁150Aは、制御装置106からの指示に基づいて、第1クラッチ108Aに対する油圧を制御する。すなわち、第1クラッチ108Aに油圧を加えることで、メインシャフト110の内シャフト110iとクランクシャフトとが接続される。反対に、第1クラッチ108Aへの油圧を低下させることで、上記接続が切断される。
【0068】
第2電磁弁150Bは、制御装置106からの指示に基づいて、第2クラッチ108Bに対する油圧を制御する。すなわち、第2クラッチ108Bに油圧を加えることで、メインシャフト110の外シャフト110oとクランクシャフトとが接続される。反対に、第2クラッチ108Bへの油圧を低下させることで、上記接続が切断される。
【0069】
通常、第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bのうち、一方を接続状態にすると共に他方を切断状態とする。内シャフト110i及び外シャフト110oに連結されたいずれかの変速ギヤ対を用いて、変速機40内の動力伝達を行う。シフトアップスイッチ72又はシフトダウンスイッチ74への操作に従って、内シャフト110i及び外シャフト110oに連結された変速ギヤ対の中から次に用いるものが選定される。この選定に伴って、第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bにおいて、接続状態の一方のクラッチが切断状態、切断状態であった他方のクラッチが接続状態となる。これにより、変速機40の動力伝達が予め選定した変速ギヤ対を用いたものに切り替わり、これにより、変速機40のシフトアップ又はシフトダウンがなされる。
【0070】
詳細には、1速、3速、5速及び7速では第1クラッチ108Aが接続され、2速、4速及び6速では第2クラッチ108Bが接続される。すなわち、クラッチ装置108では、1速から7速まで1段毎に交互に第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bを断接して変速を行う。
【0071】
図5に示すように、変速機40は、各変速段に対応する駆動ギヤm1〜m7と被動ギヤn1〜n7とが常に噛み合った常時噛み合い式である。
【0072】
各ギヤm1〜m7、n1〜n7は、その支持シャフト(メインシャフト110、カウンタシャフト112)に対して一体回転可能な固定ギヤと、支持シャフトに対して相対回転可能、且つ、軸方向で移動不能なフリーギヤと、支持シャフトに対して一体回転可能、且つ、軸方向で移動可能なスライドギヤとに大別される。
【0073】
具体的には、駆動ギヤm1及びm2は固定ギヤとされ、駆動ギヤm3及びm6はスライドギヤとされ、駆動ギヤm4、m5及びm7はフリーギヤとされている。
【0074】
また、被動ギヤn7は固定ギヤとされ、被動ギヤn1〜n3及びn6はフリーギヤとされ、被動ギヤn4及びn5はスライドギヤとされている。
【0075】
なお、各スライドギヤは、その支持軸に対してスプライン嵌合されている。
【0076】
すなわち、内シャフト110iでのギヤの配列は、クラッチ装置108に近い位置から遠い位置に向かって、1速用の駆動ギヤとしての固定ギヤm1、フリーギヤm5、スライドギヤm3、フリーギヤm7が配列し、カウンタシャフト112では、これらのギヤに対応して、1速用の被動ギヤとしてのフリーギヤn1、1速用のドグクラッチとしてのスライドギヤn5、フリーギヤn3、固定ギヤn7が配列している。
【0077】
外シャフト110oでのギヤの配列は、クラッチ装置108に近い位置から遠い位置に向かって、2速用の駆動ギヤとしての固定ギヤm2、フリーギヤm4、リバース用ドグクラッチとしてのスライドギヤm6が配列し、カウンタシャフト112では、これらのギヤに対応して、2速用の被動ギヤとしてのフリーギヤn2、スライドギヤn4、フリーギヤn6が配列している。
【0078】
つまり、メインシャフト110の固定ギヤ又はスライドギヤに対応してカウンタシャフト112のフリーギヤが噛み合い、メインシャフト110のフリーギヤに対応してカウンタシャフト112のスライドギヤ又は固定ギヤが噛み合う関係となっている。
【0079】
駆動ギヤm3の両側面には、軸方向にそれぞれ突出するドグd3a及びd3bが設けられている。駆動ギヤm3が中立位置から軸方向一方向(
図5上、右側:以下、軸方向右側と記す)にスライドすることで、一方のドグd3aが駆動ギヤm7のドグ穴d7に係合される。同様に、駆動ギヤm3が中立位置から軸方向他方向(
図5上、左側:以下、軸方向左側と記す)にスライドすることで、他方のドグd3bが駆動ギヤm5のドグ穴d5に係合される。
【0080】
駆動ギヤm4の一方の側面には、軸方向に突出するドグd4が設けられている。駆動ギヤm6の両側面にも、軸方向にそれぞれ突出するドグd6a及びd6bが設けられている。駆動ギヤm6が中立位置から軸方向左側にスライドすることで、他方のドグd6bが駆動ギヤm4のドグd4に係合される。
【0081】
被動ギヤn5の両側面には、軸方向にそれぞれ突出するドグe5a及びe5bが設けられている。被動ギヤn5が中立位置から軸方向右側にスライドすることで、一方のドグe5aが被動ギヤn3のドグ穴e3に係合される。同様に、被動ギヤn5が中立位置から軸方向左側にスライドすることで、他方のドグe5bが被動ギヤn1のドグ穴e1に係合される。
【0082】
被動ギヤn6の他方の側面には、軸方向に突出するドグe6が設けられている。被動ギヤn4の両側面にも、軸方向にそれぞれ突出するドグe4a及びe4bが設けられている。被動ギヤn4が中立位置から軸方向右側にスライドすることで、一方のドグe4aが被動ギヤn6のドグe6に係合される。同様に、被動ギヤn4が中立位置から軸方向他方向左側にスライドすることで、他方のドグe4bが被動ギヤn2のドグ穴e2に係合される。
【0083】
次に、例えば、第1クラッチ108Aによって内シャフト110iが回転駆動している通常走行モード状態で、ニュートラル状態から1速〜7速にシフトアップしていく状態を説明する。通常走行モードでのシフトアップ動作では、カウンタシャフト112は、メインシャフト110の回転方向とは逆方向の回転、すなわち、全て正回転で行われる。この正回転の回転力が図示しない駆動シャフトに伝わり、自動二輪車10が前進することとなる。
【0084】
シフトスピンドルの回転角がニュートラル状態を示す場合は、駆動ギヤm3、m6及び被動ギヤn4、n5がそれぞれ中立位置にあり、メインシャフト110の回転力は、カウンタシャフト112に伝達されない。
【0085】
シフトスピンドルの回転角がニュートラル状態から1速に変更されると、被動ギヤn5が軸方向左側に移動する。これにより、内シャフト110iの回転力(出力トルク、駆動トルク)が、駆動ギヤm1→被動ギヤn1→被動ギヤn5を介して、カウンタシャフト112に伝達される。
【0086】
シフトスピンドルの回転角が1速から2速に変更されると、第1クラッチ108Aが切断されて第2クラッチ108Bによる外シャフト110oの回転駆動に移行し、被動ギヤn4が軸方向左側に移動する。これにより、外シャフト110oの回転力(出力トルク、駆動トルク)が、駆動ギヤm2→被動ギヤn2→被動ギヤn4を介して、カウンタシャフト112に伝達される。
【0087】
シフトスピンドルの回転角が2速から3速に変更されると、第2クラッチ108Bが切断されて第1クラッチ108Aによる内シャフト110iの回転駆動に移行し、被動ギヤn5が軸方向右側に移動する。これにより、内シャフト110iの回転力が、駆動ギヤm3→被動ギヤn3→被動ギヤn5を介して、カウンタシャフト112に伝達される。
【0088】
シフトスピンドルの回転角が3速から4速に変更されると、第1クラッチ108Aが切断されて第2クラッチ108Bによる外シャフト110oの回転駆動に移行し、駆動ギヤm6が軸方向左側に移動する。これにより、外シャフト110oの回転力が、駆動ギヤm6→駆動ギヤm4→被動ギヤn4を介して、カウンタシャフト112に伝達される。
【0089】
シフトスピンドルの回転角が4速から5速に変更されると、第2クラッチ108Bが切断されて第1クラッチ108Aによる内シャフト110iの回転駆動に移行し、駆動ギヤm3が軸方向左側に移動する。これにより、内シャフト110iの回転力が、駆動ギヤm3→駆動ギヤm5→被動ギヤn5を介して、カウンタシャフト112に伝達される。
【0090】
シフトスピンドルの回転角が5速から6速に変更されると、第1クラッチ108Aが切断されて第2クラッチ108Bによる外シャフト110oの回転駆動に移行し、駆動ギヤm6が中立位置に戻ると共に、被動ギヤn4が軸方向右側に移動する。これにより、外シャフト110oの回転力が、駆動ギヤm6→被動ギヤn6→被動ギヤn4を介して、カウンタシャフト112に伝達される。
【0091】
シフトスピンドルの回転角が6速から7速に変更されると、第2クラッチ108Bが切断されて第1クラッチ108Aによる内シャフト110iの回転駆動に移行し、駆動ギヤm3が軸方向右側に移動する。これにより、内シャフト110iの回転力が、駆動ギヤm3→駆動ギヤm7→被動ギヤn7を介して、カウンタシャフト112に伝達される。
【0092】
シフトダウン動作は、上述したシフトアップ動作とは反対であるため、その説明を省略する。なお、シフトダウン動作においても、カウンタシャフト112は全て正回転で行われる。
【0093】
そして、本実施の形態では、後進を行うための後進ギヤ列180を有する。後進ギヤ列180は、内シャフト110iの駆動ギヤm1と外シャフト110oの駆動ギヤm6との間に設置された、メインシャフト110側のスプロケットであるメイン軸側スプロケットmBと、カウンタシャフト112の被動ギヤn1、n6間に設置された、カウンタシャフト112側のスプロケットであるカウンタ軸側スプロケットnBとを有する。メイン軸側スプロケットmBはフリーギヤであり、カウンタ軸側スプロケットnBは被動ギヤn1と一体化され、被動ギヤn1と共に回転するフリーギヤである。また、メイン軸側スプロケットmBとカウンタ軸側スプロケットnBとは、リバース走行用チェーン182によって同方向に回転する。
【0094】
さらに、シフトスピンドルの回転角が予め設定された低速走行モードに対応した角度に変更されると、シフトドラムの位置が予め設定された低速走行モードの位置に設定され、駆動ギヤm6が中立位置から軸方向右側にスライドし、被動ギヤn4が中立位置から軸方向左側にスライドする。これにより、駆動ギヤm6の一方のドグd6aがメイン軸側スプロケットmBのドグ穴dbに係合され、被動ギヤn4の他方のドグe4bが被動ギヤn2のドグ穴e2に係合される。
【0095】
低速走行モードに移行した後、前進スイッチ74を操作することで、低速走行モードでの前進動作が行われる。すなわち、第2クラッチ108Bが接続され、第1クラッチ108Aが切断される。これにより、アイドル状態でのクランクシャフトの回転力が第2クラッチ108Bを介して外シャフト110oに伝達する。これにより、外シャフト110oの回転力が、駆動ギヤm2→被動ギヤn2→被動ギヤn4を介して、カウンタシャフト112に伝達され、カウンタシャフト112は正回転する。この正回転の回転力が駆動シャフトに伝わり、自動二輪車10が前進することとなる。なお、外シャフト110oの回転力が、駆動ギヤm6→メイン軸側スプロケットmB→リバース走行用チェーン182→カウンタ軸側スプロケットnB→被動ギヤn1→駆動ギヤm1を介して、内シャフト110iに伝達するが、奇数段はニュートラル状態にあることから、内シャフト110iは空回りするだけとなる。
【0096】
低速走行モードに移行した後、後進スイッチ72を操作することで、低速走行モードでの後進動作が行われる。すなわち、第1クラッチ108Aが接続され、第2クラッチ108Bが切断される。これにより、アイドル状態でのクランクシャフトの回転力が第1クラッチ108Aを介して内シャフト110iに伝達する。これにより、内シャフト110iの回転力が、駆動ギヤm1→被動ギヤn1→カウンタ軸側スプロケットnB→リバース走行用チェーン182→メイン軸側スプロケットmB→駆動ギヤm6を介して、外シャフト110oに伝達される。この場合、外シャフト110oは、内シャフト110iの回転方向とは逆の回転となる。そして、この外シャフト110oの回転力が、駆動ギヤm2→被動ギヤn2→被動ギヤn4を介して、カウンタシャフト112に伝達される。この場合、カウンタシャフト112は、外シャフト110oの回転方向とは逆方向の回転(内シャフト110iと同じ方向の回転)、すなわち、逆回転となる。この逆回転の回転力が駆動シャフトに伝わり、自動二輪車10は後進することとなる。
【0097】
ところで、変速機40において、自動二輪車10がニュートラル状態、すなわち、第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bが切断状態であれば、自動二輪車10は、前進又は後進することができない。しかしながら、第1クラッチ108A及び第2クラッチ108B内部には残留オイルがあるため、第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bが切断状態であっても、当該残留オイルによってクラッチ容量が発生する。これにより、第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bは擬似的に接続状態となり、出力側のプレートの連れ回りによって、内シャフト110i及び外シャフト110oが僅かに回転する場合がある。
【0098】
ここで、第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bの擬似的な接続状態に起因して、残留オイルを介して、内シャフト110i及び外シャフト110oが、例えば、1000rpmでそれぞれ回転している場合における変速機40の問題点について説明する。
【0099】
この場合、内シャフト110iの回転は、内シャフト110i→1速用の駆動ギヤm1→被動ギヤn1→カウンタ軸側スプロケットnB→リバース走行用チェーン182→メイン軸側スプロケットmBの順に伝達される。駆動ギヤm1と被動ギヤn1とのギヤ比が2で、且つ、カウンタ軸側スプロケットnBとメイン軸側スプロケットmBとのギヤ比が1であれば、メイン軸側スプロケットmBは、内シャフト110i及び外シャフト110oに対して反対方向に500rpm(−500rpm)だけ回転する。
【0100】
すなわち、メイン軸側スプロケットmBと内シャフト110i及び外シャフト110oとの回転数差は、1500rpm(1000rpm−(−500rpm)=1500rpm)となる。
【0101】
一方、駆動ギヤm6は、外シャフト110oと一体的に1000rpmで回転している。そのため、自動二輪車10を後進させるために、メイン軸側スプロケットmBのドグ穴dbに駆動ギヤm6のドグd6aを係合させる場合、1500rpmの回転数差で、ドグ穴dbにドグd6aを係合させなければならない。これにより、メイン軸側スプロケットmBと駆動ギヤm6との係合時のショックが大きくなると共に、当該ショックに伴って大きな音が発生する。
【0102】
そこで、本実施の形態では、低速走行モードにおいて、1速段→ニュートラル段→リバース段に変速する場合に、メイン軸側スプロケットmBと駆動ギヤm6とを係合させる際、回転数差を小さくして係合させるために、変速機40は、下記のように構成され且つ動作する。
【0103】
すなわち、変速機40において、カウンタ軸側スプロケットnBは、カウンタシャフト112に相対回転可能に設けられた1速用の被動ギヤn1と一体成形され、且つ、一体的に回転するように構成されている。また、カウンタシャフト112には、被動ギヤn1と係合可能であり、且つ、カウンタシャフト112と一体的に回転する被動ギヤn5が設けられている。
【0104】
一方、駆動ギヤm6は、一端側のドグd6aがメイン軸側スプロケットmBのドグ穴dbと係合することにより一体的に回転可能、又は、メイン軸側スプロケットmBから分離可能である。また、駆動ギヤm6は、外シャフト110oに対して一体的に回転する。すなわち、駆動ギヤm6は、外シャフト110oに対して相対回転不能に支持される。
【0105】
そして、本実施の形態では、
低速走行モードにおいて、変速機40が1速段からニュートラル段に変速する際、先ず、駆動ギヤm6のドグd6aをドグ穴dbに係合させて、駆動ギヤm6とメイン軸側スプロケットmBとを係合させる。次に、被動ギヤn5のドグe5bと被動ギヤn1のドグ穴e1との係合を解除することにより、被動ギヤn5と被動ギヤn1との係合を解除する。そして、駆動ギヤm6とメイン軸側スプロケットmBとを係合した状態で、第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bを切断状態にする。
【0106】
次に、ニュートラル段からリバース段に変速する際、変速機40では、被動ギヤn4のドグe4bと被動ギヤn2のドグ穴e2とを係合する。
【0107】
このように、本実施の形態では、自動二輪車10を停止させ、
低速走行モードにおいて、1速段からニュートラル段に変速する際、1速用の被動ギヤn1と被動ギヤn5との係合状態を維持する。これにより、第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bの残留オイルに起因して内シャフト110i及び外シャフト110oが回転しても、内シャフト110i→駆動ギヤm1→被動ギヤn1→被動ギヤn5→カウンタシャフト112の順に伝達される駆動トルクは、カウンタシャフト112及び駆動シャフトを介して後輪44に伝達される。しかしながら、伝達される駆動トルクは、後輪44を駆動させる程の大きさではない。そのため、被動ギヤn1→カウンタ軸側スプロケットnB→リバース走行用チェーン182→メイン軸側スプロケットmBの順に接続されていても、自動二輪車10は停止し、メイン軸側スプロケットmBの回転は止まっている。
【0108】
この状態で駆動ギヤm6のドグd6aをメイン軸側スプロケットmBのドグ穴dbに係合させると、外シャフト110oと一体的に回転する駆動ギヤm6と、メイン軸側スプロケットmBとの回転数差を小さくした状態で係合することができる。これにより、係合時の音やショックを小さくすることができる。例えば、外シャフト110o及び駆動ギヤm6が1000rpmで回転している場合、[発明が解決しようとする課題]の項目で例示した回転数差1500rpmと比較して、本実施の形態では、回転数差を1000rpmまで低下させた状態で、駆動ギヤm6とメイン軸側スプロケットmBとを係合させることができる。
【0109】
従って、本実施の形態では、駆動ギヤm6とメイン軸側スプロケットmBとを係合させた後に、1速用の被動ギヤn1と被動ギヤn5との係合を解除し、第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bを切断状態とすれば、
低速走行モードにおいて、1速段からニュートラル段に変速することができる。
【0110】
このように、
低速走行モードにおいて、1速段からニュートラル段に変速することで、駆動ギヤm6とメイン軸側スプロケットmBとが係合するので、ニュートラル段からリバース段(後進動作)に変速する際、シフタである駆動ギヤm6が作動することはない。これにより、低速走行モードにおける変速時の音やショックを生じさせないようにすることができる。
【0111】
また、本実施の形態では、2速用の駆動ギヤm2が外シャフト110oに設けられると共に、当該駆動ギヤm2と噛み合う2速用の被動ギヤn2がカウンタシャフト112に設けられている。この場合、駆動ギヤm6は、メイン軸側スプロケットmBからの内シャフト110iの駆動力を外シャフト110oに伝達する。これにより、外シャフト110oと一体に回転する駆動ギヤm2は、当該駆動力を被動ギヤn2及び被動ギヤn4を介してカウンタシャフト112に伝達する。
【0112】
このように、内シャフト110i及び外シャフト110oの駆動トルクが、2速用の駆動ギヤm2→2速用の被動ギヤn2→被動ギヤn4→カウンタシャフト112の順に伝達されるので、第1クラッチ108A及び第2クラッチ108Bの容量のバランスに基づき、低速走行モードでの極低速走行に適した速度制御が可能となる。すなわち、2速段を使用することにより、より少ないトルクで自動二輪車10をスムーズに低速走行させることができる。
【0113】
さらに、本実施の形態では、内シャフト110iにおいて、1速用の駆動ギヤm1とメイン軸側スプロケットmBとが隣接して配置されている。これにより、小さなスペースであっても、1速用の駆動ギヤm1及び被動ギヤn1との回転スペースと、メイン軸側スプロケットmB、リバース走行用チェーン182及びカウンタ軸側スプロケットnBの回転スペースとをそれぞれ確保することができる。
【0114】
さらにまた、本実施の形態によれば、カウンタ軸側スプロケットnBと1速用の被動ギヤn1とが一体成形されているので、低速走行モードを実施するための機構を小型化することができる。
【0115】
なお、本発明に係る車両用変速機は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。