特許第6010112号(P6010112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6010112不死化幹細胞及びその産生物を有効成分とする医薬組成物並びに医薬製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6010112
(24)【登録日】2016年9月23日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】不死化幹細胞及びその産生物を有効成分とする医薬組成物並びに医薬製剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20161006BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20161006BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20161006BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20161006BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20161006BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20161006BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20161006BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20161006BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20161006BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20161006BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20161006BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20161006BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20161006BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20161006BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20161006BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20161006BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20161006BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161006BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20161006BHJP
【FI】
   C12N5/10
   C12N5/0775
   A61K35/12
   A61P17/02
   A61P19/00
   A61P25/28
   A61P25/16
   A61P25/00
   A61P9/00
   A61P25/08
   A61P31/00
   A61P31/14
   A61K9/08
   A61K9/06
   A61K9/12
   A61K9/70 405
   A61P17/00
   A61P43/00 107
   !C12N15/00 A
【請求項の数】16
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-508058(P2014-508058)
(86)(22)【出願日】2013年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2013059376
(87)【国際公開番号】WO2013147082
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2014年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2012-73594(P2012-73594)
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-187321(P2012-187321)
(32)【優先日】2012年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-275169(P2012-275169)
(32)【優先日】2012年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-26886(P2013-26886)
(32)【優先日】2013年2月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512139205
【氏名又は名称】株式会社Quarrymen&Co.
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】特許業務法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100134153
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 富士子
(72)【発明者】
【氏名】上田 実
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/009291(WO,A1)
【文献】 特開2010−046019(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/057831(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/105311(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/105257(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/118795(WO,A1)
【文献】 特開2004−000497(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/033088(WO,A1)
【文献】 YANG X. et al.,,Journal of Tissue Engineering and Regenerative Medicine, 2007, Vol.1, pp.128-135
【文献】 MORI T. et al.,,Molecular and Cellular Biology,2005, Vol.25, No.12, pp.5183-5195
【文献】 Nature,2007, Vol.448, pp.313-317
【文献】 YANG X. et al.,,Tissue Engineering. PartA, 2009, Vol.15, No.2, pp.367-375
【文献】 YANG X. et al.,,Tissue Engineering, 2007, Vol.13, No.11, pp.2803-2812
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯髄幹細胞、臍帯幹細胞、及び脂肪幹細胞からなる群から選ばれる哺乳類の細胞群から幹細胞を単離し、前記幹細胞を初期培養して得られた初代培養細胞に、hTERT、bmi-1、E6、及びE7という4種類の遺伝子を導入して遺伝子導入細胞を作成した不死化幹細胞であって、
個体倍加回数20回の時点において、細胞個体数の少なくとも40%以上がSTRO-1発現細胞であり、かつ、初代培養細胞と同等の新生骨量産生能を有すること、
テロメア修復能を有し、
少なくとも200回以上分裂することができる分裂能を有すること、
を指標として選択される、不死化幹細胞。
【請求項2】
前記歯髄幹細胞は、脱落した乳歯、脱落した永久歯、抜歯された乳歯、及び抜歯された永久歯からなる群から選ばれるいずれかの歯から得られた幹細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の不死化幹細胞。
【請求項3】
前記哺乳類は、ヒト、ブタ、ウマ、及びサルからなる群から選ばれるものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の不死化幹細胞。
【請求項4】
前記不死化幹細胞は、少なくとも、IGF-1、VEGF、TGF-β1及びHGFを培養上清中に分泌するものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の不死化幹細胞。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の不死化幹細胞の培養上清を含有する医薬組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の医薬組成物を含有する、損傷組織復元用医薬製剤。
【請求項7】
前記損傷組織復元用医薬製剤の剤形は、粉末、液剤、ゲル剤、スプレー剤及び経皮吸収システムからなる群から選ばれるいずれかのものであることを特徴とする、請求項6に記載の損傷組織復元用医薬製剤。
【請求項8】
前記損傷組織は、潰瘍又は褥瘡が形成された組織、細胞の変性によって損傷した脳組織、外科的な操作によって欠損した脳組織、外傷性脳疾患によって損傷した脳組織、炎症性脳疾患によって損傷した脳組織、損傷した骨組織、損傷した歯周組織、及び難治性皮膚炎によって損傷した組織からなる群から選ばれる組織であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の損傷組織復元用医薬製剤。
【請求項9】
前記細胞の変性は、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、低酸素脳症、筋萎縮性側索硬化症、脳梗塞、小脳変性症、糖尿病、及び肝炎からなる群から選ばれる疾患によって生じたものであることを特徴とする、請求項8に記載の損傷組織復元用医薬製剤。
【請求項10】
前記外傷性脳疾患が、交通事故又は転落事故によって生じるものであることを特徴とする、請求項8に記載の損傷組織復元用医薬製剤。
【請求項11】
前記炎症性脳疾患は、脳炎脳症、てんかん、ヤコブ病、及びポリオからなる群から選ばれるものであることを特徴とする、請求項8に記載の損傷組織復元用医薬製剤。
【請求項12】
前記難治性皮膚炎は、アトピー性皮膚炎であることを特徴とする、請求項8に記載の損傷組織復元用医薬製剤。
【請求項13】
前記損傷組織復元用医薬製剤中の培養上清の含有量は、不死化幹細胞が産生する培養上清を100%としたときに、50〜500%(w/v)であることを特徴とする、損傷組織復元用医薬製剤であって、
前記不死化幹細胞は、歯髄幹細胞、臍帯幹細胞、及び脂肪幹細胞からなる群から選ばれる哺乳類の細胞群から単離され、初期培養して得られた初代培養細胞に、
hTERT、bmi-1、E6、及びE7という4種類の遺伝子を導入して遺伝子導入細胞を作成した不死化幹細胞であって、
個体倍加回数20回の時点において、細胞個体数の少なくとも40%以上がSTRO-1発現細胞であり、かつ、初代培養細胞と同等の新生骨量産生能を有すること、
テロメア修復能を有し、
少なくとも200回以上分裂することができる分裂能を有すること、
を指標として選択される、ことを特徴とする、請求項6〜12のいずれかに記載の損傷組織復元用医薬製剤。
【請求項14】
歯髄幹細胞、臍帯幹細胞、及び脂肪幹細胞からなる群から選ばれる哺乳類の細胞群から幹細胞を単離する単離工程と;
前記幹細胞を初期培養し、初期培養細胞を得る培養工程と;
前記初期培養細胞に、hTERT、bmi-1、E6、及びE7という4種類の遺伝子を導入し、遺伝子導入細胞を作成する遺伝子導入工程と;
前記遺伝子導入細胞から、個体倍加回数20回の時点において、細胞個体数の少なくとも40%以上がSTRO-1発現細胞であり、かつ、初代培養細胞と同等の新生骨量産生能とテロメア修復能を有し、少なくとも200回以上分裂することができる分裂能を有する幹細胞を選択する選択工程と;
を備える不死化幹細胞の産生方法。
【請求項15】
前記歯髄細胞は、脱落した乳歯、脱落した永久歯、抜歯された乳歯、及び抜歯された永久歯からなる群から選ばれるいずれかの歯から得られた細胞であることを特徴とする、請求項14に記載の不死化幹細胞の産生方法。
【請求項16】
前記哺乳類は、ヒト、ブタ、ウマ、及びサルからなる群から選ばれるものであることを特徴とする、請求項14又は15に記載の不死化幹細胞の産生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯髄由来の不死化幹細胞及びその産生物を有効成分とする医薬組成物並びに医薬製剤に関する。より詳細には、自然に脱落したか又は抜歯したヒトの乳歯もしくは永久歯の歯髄から得た幹細胞を改変した不死化幹細胞、その細胞が産生する各種の生体因子を有効成分とする医薬組成物、並びに医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
いろいろな理由で損傷を受けた生体の機能を復元する方法には、大きく分けて、移植医療と再生医療とがある。移植医療は、ドナーから臓器の提供を受け、これを移植することによって生体の機能を復元させようとするものである。
これに対し、再生医療は、本人を含む何人かの細胞又は組織を培養し、これを加工することによって、障害のある臓器に替えることにより、失われた組織や臓器を修復又は再生する医療といわれ、幹細胞等が用いられる。
現在、再生医療に応用されているか、または応用可能とされているのは、ヒト体性幹細胞、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)、及びヒト人工多能性幹(iPS)細胞の3種類である。
【0003】
ここで、ヒト体性幹細胞は既に研究で使用されており、成人の組織中に存在し、特定の組織、器官や臓器にしか分化しないという特性を有する。なお、骨髄や脂肪組織中に存在する「間葉系幹細胞」は、例外的に、骨、軟骨、血管等の多様な組織に分化し得る。こうした体性幹細胞を使用する場合、自己細胞を利用すれば免疫拒絶はなく、また、生着も良い。さらに、これらの幹細胞の長期培養で腫瘍化したとされる報告はない。
一方で、分化させることができる細胞がある程度限定されていること、ヒトの組織から採取する際に侵襲を伴うこと、また、分化させられる組織の種類が限定されること、及び培養継代可能数が四十数回、日数にして100〜200日間という制限があることが知られている。
【0004】
ヒト胚性幹細胞(ES細胞)は、生殖医療などで生じた余剰胚(胚盤胞)中の「内部細胞塊」を取り出し、これを培養した幹細胞である。分化万能性を有することの指標となる奇形腫を形成するため、三胚葉いずれにも分化できると考えられている。心筋、神経、網膜へ分化させたという報告もある。胚性幹(ES)細胞は、不死化した株化細胞であるため、一つの細胞株を無限に培養し続けることができる。そして、適当な培養条件下で、細胞として均質な製品を大量製造することができる。
一方で、受精卵を利用することとなるため、提供時には倫理的な問題が生じないよう、厳密な対応が必要とされる。また、基本的に他家移植となるため、免疫応答による拒絶反応への対処が必要となる。さらに、細胞培養に際しては、異種細胞や血清を用いる必要があること、移植した再生組織に、少しでも未分化細胞が混在していると奇形腫(良性腫瘍)を形成しやすいということが知られている。
【0005】
ヒト人工多能性幹(iPS)細胞は、成人の細胞(皮膚など)に、ES細胞に特異的に発現している遺伝子の一部を導入することで樹立される細胞である。自己由来のiPS細胞を使えば免疫拒絶の問題は生じず、ES細胞の分化技術をそのまま利用可能できる。
最後に、人工多能性幹(iPS)細胞は、ES細胞のように受精卵を利用するものではなく、成人の組織を用いて胚性幹細胞とほぼ同質の細胞を作製でき、自己由来のiPS細胞を利用すれば、免疫反応による拒絶反応の問題もない。
一方で、良性腫瘍のみならず、悪性腫瘍(胚細胞癌)化しやすいこと、及び遺伝子を導入した全細胞の中から、形態的にES細胞と類似した細胞を選別するため、iPS細胞として樹立される細胞の割合は低いことが知られている。
【0006】
幹細胞自体を再生医療に使用するに当たっては、以上のような問題点があるため、種々の幹細胞自体を使用するのではなく、それらが産生する種々の生体因子、例えば、各種の成長因子を使用する方法が模索されてきた(WO 2011/118795号、以下、「従来技術1」という)。
そして、従来技術1には、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子−ベータ(TGF-β)等の成長因子を含む、ヒト脱落乳歯歯髄幹細胞等の幹細胞の培養上清を含む損傷部治療用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 2011/118795号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術1は、皮膚の光加齢による損傷の回復、骨再生等に効果がある上記の損傷部治療用組成物を提供したという点では優れた技術である。
一方で、使用されている歯髄由来の幹細胞が株化細胞ではないため、この幹細胞を要時調整するか、凍結保存した試料を融解させて細胞を増殖させなければ、目的とする培養上清を入手することができず、培養上清の入手までに時間がかかるという問題があった。
一般的には、培養細胞のうち、正常細胞から樹立された株化細胞の場合、50〜60回の継代後には細胞が分裂しなくなり、その細胞は死を迎える。当然のことながら、培養細胞が産生する生体因子の組成も時間の経過とともに変化するため、無限増殖が可能な株化細胞を使用できないと、一定した組成の培養上清を入手することが難しいという問題がある。
【0009】
一方で、代表的な無限増殖が可能な細胞としては、癌細胞が挙げられる。これは、癌細胞が、通常であれば生体による制御の下で適切に分裂や増殖が制御されている細胞が、その制御からはずれて無制限に増殖するようになったものであることによるものである。このため、無限増殖できる細胞であっても、癌化したものは、生体にとって有害な生体因子を産生することもあることから、使用することはできない。
以上から、無限増殖可能であるが、癌化していない不死化幹細胞の樹立に対する、強い社会的要請がある。
また、培養上清を医薬組成物として使用するためには、上記の不死化幹細胞は、一定の生体因子を長期間に渡って産生し続けることができるものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、上記のような事情のもとで完成されたものである。
すなわち、本願発明の第1の態様は、歯髄幹細胞、骨髄幹細胞、臍帯幹細胞、脂肪幹細胞、及び初期発生胚、並びに間葉系細胞を除く体細胞からなる群から選ばれる哺乳類の細胞群から幹細胞を単離し、前記幹細胞を初期培養して得られた初期培養細胞に、hTERT、bmi−1、E6、E7、Oct3/4、Sox2、Klf4、c−Myc、及びp16INK4aからなる群から選ばれる4種類の遺伝子を導入して遺伝子導入細胞を作成し、前記遺伝子導入細胞からSTRO−1の発現を指標として選択された、テロメア修復能と少なくとも200回以上分裂することができる分裂能とを有する、不死化幹細胞である。また、前記歯髄幹細胞は、脱落した乳歯、脱落した永久歯、抜歯された乳歯、及び抜歯された永久歯からなる群から選ばれる、いずれかの歯の歯髄から得られる細胞であることが好ましい。
前記発生胚は、胚盤期の胚であることが好ましい。また、前記哺乳類は、ヒト、ブタ、ウマ、及びサルからなる群から選ばれるものであることが好ましい。前記骨髄幹細胞は、骨をつくる骨芽細胞や軟骨細胞、脂肪幹細胞など間葉系と非間葉系両方ともに分化する能力を持った細胞であることが好ましい。また、前記臍帯細胞は、胎児と胎盤とをつないでいる臍帯血中に含まれる造血幹細胞及び間葉系細胞をいい、これらを多く含むものであることが好ましい。前記骨髄幹細胞は、骨をつくる骨芽細胞や軟骨細胞、脂肪細胞など間葉系と非間葉系両方ともに分化する能力を持った細胞であることが好ましい。また、前記臍帯細胞は、Warton’s jellyから得られる細胞であることが好ましい。前記脂肪幹細胞は、あらゆる幹細胞に分化できる未分化細胞であることが好ましい。
【0011】
前記4種類の遺伝子を間葉系細胞に導入する場合には、hTERT、bmi−1、E6及びE7であることが好ましい。また、体細胞に導入する場合には、Oct3/4、Sox2、Klf4、c−Myc、及びp16INK4aからなる群から選ばれる4種類であることが好ましい。
また、個体倍加回数20回の時点において、細胞個体数の少なくとも40%以上がSTRO−1発現細胞であり、かつ、初代培養細胞と同等の新生骨量産生能を有することが好ましい。
さらに、前記不死化幹細胞は、少なくとも、IGF−1、VEGF、TGF−β1及びHGFを培養上清中に分泌するものであることが好ましい。
【0012】
本発明の第2の態様は、上述した特性を有する不死化幹細胞の培養上清を含有する医薬組成物である。
また、本発明の第3の態様は、上記の医薬組成物を含有する損傷組織復元用医薬製剤である。ここで、前記損傷組織復元用医薬製剤の剤形が、粉末、液剤、ゲル剤、スプレー剤及び経皮吸収システムからなる群から選ばれるいずれかのものであることが好ましい。また、前記損傷組織は、潰瘍又は褥瘡が形成された組織、細胞の変性によって損傷した脳組織、外科的な操作によって欠損した脳組織、外傷性脳疾患によって損傷した脳組織、炎症性脳疾患によって損傷した脳組織、損傷した骨組織、損傷した歯周組織、中枢神経系疾患によって損傷した組織、及び難治性皮膚炎によって損傷した組織からなる群から選ばれる組織であることが好ましい。
【0013】
ここで、前記細胞の変性は、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、統合失調症、うつ病、低酸素脳症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳梗塞、小脳変性症、糖尿病、及び肝炎からなる群から選ばれる疾患によって生じたものであることが好ましい。また、前記外傷性脳疾患は、交通事故又は転落事故によって生じたものであることが好ましい。また、前記炎症性脳疾患は、脳炎脳症、てんかん、ヤコブ病、及びポリオからなる群から選ばれるものであることが好ましい。さらに、前記中枢神経系疾患は、脊髄損傷及び脊髄症からなる群から選ばれるものであることが好ましい。前記難治性皮膚炎は、アトピー性皮膚炎であることが好ましい。
さらに、前記損傷組織復元用医薬製剤中の培養上清の含有量が、上記いずれかの不死化幹細胞が産生する培養上清を100%としたときに、50〜500%(w/v)であることが好ましい。
【0014】
本発明の第4の態様は、哺乳類の間葉系細胞、初期発生胚及び間葉系細胞を除く体細胞からなる群から選ばれる細胞群から幹細胞を単離する単離工程と;前記幹細胞を初期培養し、初期培養細胞を得る培養工程と;前記初期培養細胞に、4種類の遺伝子を導入し、遺伝子導入細胞を作成する遺伝子導入工程と;前記遺伝子導入細胞から、個体倍加回数20回の時点におけるSTRO-1の発現量と骨再生能とを指標として細胞を選択する選択工程と;を備える不死化幹細胞の産生方法である。
ここで、前記間葉系細胞は、歯髄細胞、骨髄細胞、臍帯細胞、及び脂肪細胞からなる群から選ばれるものであることが好ましい。前記歯髄細胞は、前記初期発生胚、前記骨髄幹細胞、及び前記臍帯細胞は、上述した通りである。前記哺乳類も上述した通りである。
【0015】
さらに、前記4種類の遺伝子は、hTERT、bmi-1、E6、E7、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、及びp16INK4aからなる群から選ばれる4種類であることが好ましい。ここで、間葉系細胞に導入する場合には、hTERT、bmi-1、E6及びE7であることが好ましい。また、体細胞に導入する場合には、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、及びp16INK4aからなる群から選ばれる4種類であることが好ましい。
上記hTERTは、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素の遺伝子であり、bmi-1は幹細胞の自己複製や分化制御に関わっているポリコーム群遺伝子である。E6及びE7は、ヒトパピローマウイルスが自己複製のために使用する初期遺伝子をコードするオープンリーディングフレーム中に存在する遺伝子である。
【0016】
本発明の第5の態様は、上述した医薬製剤を、シート状の保湿性の部材に吸収させてシート形の製剤とする剤形調製工程と、前記シート形の製剤で損傷された部位を被覆する損傷部位被覆工程と、プラスに帯電した電極を所望の部位に接触させる電極接触工程とを備えることを特徴とする、経皮吸収方法である。
本発明の不死化幹細胞は、40回分裂後でも、細胞個体数の少なくとも40%以上のSTRO-1発現細胞を含有している。また、テロメア修復能を有しているため、少なくとも200回以上分裂することができる。また、上述した各種の生体因子を、長期間、培養上清中に分泌することができる。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、このため、長期間に渡って、一定の生体因子を長期間に渡って産生し続けることができる不死化幹細胞を提供することができる。
また、本願発明の別の態様によれば、幅広い損傷組織の修復に使用することができる医薬組成物及び医薬製剤を提供することができる。
さらに、損傷部位からの有効成分の吸収効率を高めることができる、新たな経皮吸収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、上述した歯髄細胞から選択された不死化幹細胞と、不死化幹細胞ではない細胞の個体倍化数(population doubling time、以下、「PD」という。)と培養期間との関係を表すグラフである。図1中、SHED-Tは不死化幹細胞を表し、SHED-Cは不死化幹細胞ではない細胞を表す。
図2図2は、SHED-C及びSHED-TでのSTRO-1発現の結果を示すグラフである(図2(A)〜(D))。図中、PD20は個体数倍化回数=20回、PD30は個体数倍化回数=30回、及びPD40は個体数倍化回数=40回を表す。
図3図3は、皮膚の潰瘍を治療した時の回復状況を示す写真である。(A)は治療前、(B)は治療後の皮膚の状態を示す。
【0019】
図4図4は、個体倍加時間(回数)と新生骨量との関係を示すグラフであり、図中、**はp<0.05、***はp<0.01を表わす。新生骨量は、以下の算出式で求めた。 新生骨量=新生骨面積/視野面積×100
図5図5は、図4に示す各個体倍加時間のときのSHED-CとSHED-Tとを移植したときの組織染色像を示す図である。
図6図6は、褥瘡の潰瘍を治療した時の回復状況を示す写真である。(A)は治療前、(B)は治療後の皮膚の状態を示す。
図7図7は、インプラント手術の際に、上記医薬製剤を使用したときの、1〜6月経過後のリモデリングの進行状況を示すCTスキャンによる図である。(A)〜(C)は正面からの撮影像、及び(D)〜(F)は水平方向からの撮影像である。
【0020】
図8図8は、歯周病患者の歯槽骨の状態を示す写真である。(A)は治療開始時(術前)、(B)は術後3ヶ月の歯槽骨の状態を示す。
図9図9は、β-TCPを足場にした抜歯窩の骨形成を観察した結果を示す写真である。(A)は抜歯後3ヶ月、(B)抜歯後6月でインプラントを行った結果を示す。
図10図10は、足場としてβ-TCP(βリン酸三カルシウム、3CaO・P2O5)を使用したときのβ-TCPの骨への置換等を示す図である。(A)は、摘出物を示す写真であり、(B)は、組織染色の結果を示す写真である。(C)及び(D)は撮影像を部分的に拡大したものである。図中、NBは新生骨を、またTCPはβ-TCPを表す。また、BVは血管を表し、SFは、摘出物の底部を示す。
【0021】
図11図11は、嗅球を介した幹細胞由来の培養上清の経鼻投与を行う場合の適用部位を示す図である。
図12図12は、経鼻投与を行っているときの写真である。
図13図13は、脳卒中患者の血管の閉塞部を示すMRAの画像である。
図14図14は、脳卒中患者の脳の損傷部位を示すCTスキャン画像である。
【0022】
図15図15は、脳卒中患者の脳の損傷部位の血流量を示すMRI画像である。(A)は脳卒中直後画像であり、(B)は治療後の画像である。
図16図16は、治療期間中の患者の状態を示すスコア(NIHSS)の変遷を示すグラフである。
図17図17は、患者の機能の回復状況を示す写真である。(A)手の機能の回復状況を示す写真、(B)は足腰の回復状況を示す写真である。
図18図18は、投与群と非投与群とにおけるミニメンタルステート検査(Mini Mental State : MMS)及び長谷川式試験のいずれかを行った結果の経時変化を示す図である。図18(A)は非投与群、図18(B)は投与群の結果を示す。
図19図19は、難治性皮膚炎に対する治療効果を示す写真である。図19(A)は治療開始前、図19(B)は治療終了時の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本願発明をさらに詳細に説明する。
本願発明の不死化幹細胞を得るには、まず、哺乳類の間葉系細胞、初期発生胚及び間葉系細胞以外の体細胞からなる細胞群から幹細胞を単離する。上記哺乳類としては、ヒト、ブタ、ウマ、及びサルからなる群から選ばれるものであることが、ヒト細胞との遺伝的類似性が高いこと、及び感染の危険性が低いことから好ましい。
本明細書中、「間葉系細胞」とは、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞等、間葉系に属する細胞への分化能を持つとされる細胞をいう。具体的な間葉系細胞としては、上記の動物の歯髄細胞、骨髄細胞、臍帯細胞及び脂肪細胞等を挙げることができる。また、「初期発生胚」とは、ES細胞を樹立するために必要な、受精卵よりも発生が進んだ胚盤胞までの初期段階の胚をいう。「体細胞」とは、生物体を構成している細胞のうち、生殖細胞以外の細胞を総称したものをいう。
【0024】
さらに、「歯髄細胞」とは、再生能を有する歯の神経に含まれる幹細胞の一種をいう。歯という硬質の材料に保護されているため紫外線や放射線を通さず、遺伝子も傷つきにくいという特性を有する。「骨髄細胞」とは、骨髄の穿刺液中に得られる細胞の総称であり、骨髄芽球等の白血球系の細胞、赤芽球系の細胞、骨髄巨核球、及び形質細胞等が含まれる。
本明細書中で臍帯細胞とは、胎児と胎盤とを結ぶ臍帯中に存在する細胞であり、臍帯中に含まれ、造血幹細胞を豊富に含有する臍帯血も含む。
【0025】
また、上述した幹細胞中に導入する遺伝子としては、hTERT、bmi-1、E6、E7、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、及びp16INK4a等を挙げることができる。hTERTはテロメア修復酵素の遺伝子であり、bmi-1はポリコーム複合体を構成するたんぱく質の1つであるBmi-1の遺伝子である。ここで、Bmi-1は造血幹細胞の維持に必要であり、活性増強により造血幹細胞を増やすことができるという作用を有する。
E6及びE7はHPV-16又はHPV-18の初期遺伝子である。また、Oct3/4はSox2と協調して標的遺伝子の転写を活性化する遺伝子である。Klf4(Kruppel型転写因子4)は細胞分裂と胚発生にかかわる遺伝子を調節し、消化器系の癌の癌抑制因子としてかかわっている。
Sox2はSRY-related HMG box遺伝子ファミリーに属しており、機能の未分化性(多能性)維持に関与することが知られる遺伝子である。c-Mycは発癌遺伝子であり、c-Mycで誘導された腫瘍内で細胞の生存と死の両方を促進する遺伝子である。p16INK4aは癌細胞の細胞周期をコントロールするのに重要な役割を果たす遺伝子である。
【0026】
以下に、ヒトの脱落乳歯から歯髄細胞を用いた不死化幹細胞を作製する場合を例に挙げて説明する。
まず、脱落乳歯を、例えば、クロロヘキシジン、イソジン溶液その他の消毒薬で消毒した後、歯冠部を分割し、歯科用リーマーにて歯髄組織を回収する。
採取した歯髄組織を、基本培地、例えば、5〜15%のウシ血清(calf serum、以下、「CS」ということがある。)及び50〜150ユニット/mLの抗生物質を含有するダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle's Medium、以下、「DMEM」という。)に懸濁する。ついで、1〜5mg/mLのコラゲナーゼ及び1〜5mg/mLのディスパーゼを用いて、37℃で、0.5〜2時間処理する。
【0027】
上記基本培地としては、DMEMの他、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO社製等)、ハムF12培地(HamF12)(SIGMA社製、GIBCO社製等)、RPMI1640培地等を用いることができる。二種以上の基本培地を併用することにしてもよい。混合培地の一例として、IMDMとHamF12を等量混合した培地(例えば商品名:IMDM/HamF12(GIBCO社)として市販される)を挙げることができる。
また、基本培地に添加するものとしては、ウシ胎仔血清(fetal bovine serum又はfetal calf serum、以下、「FBS」又は「FCS」という。)、ヒト血清、羊血清その他の血清、血清代替物(Knockout serum replacement (KSR)など)、ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin、以下、「BSA」ということがある。)、ペニシリン、ストレプトマイシンその他の抗生物質、各種ビタミン、各種ミネラルを挙げることができる。
上記の基本培地は、後述する細胞選別用の培養、及び選別後の細胞の培養に使用することもできる。
【0028】
酵素処理の後、3〜10分間の遠心操作(3,000〜7,000回転/分)を行い、歯髄細胞を回収する。必要に応じて、セルストレーナーを用いて細胞の選別を行う。選別された細胞を、例えば、3〜6mLの上記基本培地で再懸濁し、直径4〜8cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種する。
次いで、培養液、例えば、10%FCSを含有するDMEMを添加した後、5%CO2インキュベータにて、37℃で2週間程度培養する。上記培養液を除去した後、PBS等で細胞を1〜数回洗浄する。培養液の除去及び細胞の洗浄に代えて、コロニーを形成した接着性の歯髄幹細胞を回収することもできる。接着性の歯髄幹細胞は、例えば、0.025〜0.1%のトリプシンと0.3〜1mMのEDTAにて、数分間、37℃で処理してディッシュから剥離させ、次いで細胞を回収する。
【0029】
酵素処理の後、3〜10分間の遠心操作(3,000〜7,000回転/分)を行い、歯髄細胞を回収する。必要に応じて、セルストレーナーを用いて細胞の選別を行う。選別された細胞を、例えば、3〜6mLの上記基本培地で再懸濁し、直径4〜8cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種する。
次いで、培養液、例えば、10%FCSを含有するDMEMを添加した後、5%CO2インキュベータにて、37℃で2週間程度培養する。上記培養液を除去した後、PBS等で細胞を1〜数回洗浄する。培養液の除去及び細胞の洗浄に代えて、コロニーを形成した接着性の歯髄幹細胞を回収することもできる。接着性の歯髄幹細胞は、例えば、0.025〜0.1%のトリプシンと0.3〜1mMのEDTAにて、数分間、37℃で処理してディッシュから剥離させ、次いで細胞を回収する。
【0030】
次に、上記のように選別された接着性細胞を培養する。例えば、上記のようにして得た歯髄幹細胞を付着性細胞培養用ディッシュに播種し、5%CO2、37℃の条件でインキュベータにて培養する。以上のようにして、ヒト脱落乳歯幹細胞の初代培養細胞(SHED-P)を得ることができる。
継代培養は、例えば、肉眼で観察してサブコンフレント又はコンフレントに達したときに、上述のように、トリプシンとEDTAとを用いて細胞を培養容器から剥離させて回収し、再度、培養液を入れた培養容器に播種する。
ここで、サブコンフレントとは、培養容器中の細胞付着面の約70%に細胞が付着した状態をいう。例えば、継代培養を1〜8回行い、選別された細胞を、必要な細胞数、例えば約1×107個/mLまで増殖させる。以上のように培養した後に、細胞を回収して液体窒素中にて保存する。様々なドナーから回収した細胞を歯髄幹細胞バンクの形態で保存することにしてもよい。
【0031】
次いで、前記幹細胞を初期培養して得られた初代培養細胞に、4種類の遺伝子を導入して遺伝子導入細胞を作成する。ここへ導入する遺伝子は、hTERT、bmi-1、E6、E7、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、及びp16INK4aからなる群から選ばれる4種類であることが好ましい。hTERT、bmi-1、E6、E7を導入することにより、より個体数倍化回数の多い不死化幹細胞を得ることができる。ここで、hTERTは、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素の遺伝子であり、bmi-1は幹細胞の自己複製や分化制御に関わっているポリコーム群遺伝子である。E6及びE7は、ヒトパピローマウイルスが自己複製のために使用する初期遺伝子をコードするオープンリーディングフレーム中に存在する遺伝子である。
こうした遺伝子の導入は、以下のようにして行うことができる。
【0032】
目的とする上記の遺伝子を組み込むためのプラスミドを調製し、これをシャトルベクター、例えば、pShuttle2に組み込んで、上記の遺伝子をクローニングする。このシャトルベクターで大腸菌を形質転換し、カナマイシン耐性形質転換体を選択する。選択したカナマイシン耐性形質転換体のプラスミドDNAを精製し、制限酵素部位を解析して組換え体を同定する。
次に、制限酵素、例えば、PI-Sce I及びI-Cue Iを使用して発現カセットを上記のシャトルベクターから切り出し、これをアデノウイルスベクター、例えば、Adeno-X viral DNAにライゲーションする。得られたライゲーション産物をSwa Iで切断し、これを用いて大腸菌をトランスフォーメーションする。
【0033】
得られた形質転換体の中からアンピシリン耐性形質転換体を選択する。上記の遺伝子が組み込まれた組換えアデノウイルスDNAを精製し、制限酵素部位を解析して組換え体を同定する。
次いで、Pac Iで組換えアデノウイルスを消化し、これをHEK293細胞にトランスフェクトする。組換えアデノウイルスを増殖させ、これを集めてウイルスの力価を測定する。常法に従ってウイルスを精製し、標的細胞であるSHED-Pに感染させる。
ウイルス感染後の細胞群を、常法に従ってFITCで染色し、フローサイトメーターを用いて、STRO-1陽性細胞を検出する。ここで、STRO-1は、骨髄における多分化能を有する間葉系幹細胞のマーカーの1つとして考えられており、細胞の不死化の指標となる。
以上の手順によって、歯髄由来の不死化幹細胞を得ることができる。
【0034】
次に、得られた不死化幹細胞を、上述した基本培地、例えば、10%FBSを加えたDMEMを用いて、5%CO2、37℃の条件下に、24〜48時間培養し、培養上清を得る。培養上清の回収には、例えば、コマゴメピペット等を使用することができる。回収した培養上清は、そのまま本発明の医薬組成物の有効成分として使用してもよく、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結乾燥、希釈その他の処理の後に、本発明の医薬組成物の有効成分として使用してもよい。
また、後述するように、上記のようにして得られた不死化幹細胞の培養上清は、種々の成長因子を含み、高度な精製をしなくとも、種々の作用を示す。すなわち、各種の疾病の治療に使用できる本発明の医薬組成物を、簡易な工程で製造できるため、高度精製に伴う各種成長因子の生理活性の低下を回避することができる。
【0035】
なお、本発明で使用する「不死化幹細胞の培養上清」は、不死化幹細胞を培養して得られる、種々の生体因子を含有する培養上清をいい、不死化幹細胞その他の細胞を含まない溶液をいう。血清を含まない培養上清を調製する場合には、初期培養から継代までのすべての過程において無血清培地を使用するか、又は、細胞を回収する前の数回の継代の際に無血清培地を使用するとよい。
【0036】
上記の方法で選抜・培養した歯髄幹細胞は、生体から採取した組織や細胞であって、最初に播種された初代培養細胞と同様の性質を有する。一般に、初代培養細胞は、そのソースとなった臓器と類似した性質を有し、正常細胞に近いという点で重要である。しかし、株化細胞に比べて増殖が遅く、また、培養を継続するうちに脱分化を起こす場合もあり、その性質を保ったまま維持することが難しい。
しかし、本発明の不死化幹細胞は、細胞倍加回数が20回又は40回の時点で、細胞の未分化度のマーカーとなるSTRO-1の発現率が、不死化幹細胞ではない歯髄幹細胞よりも有意に高く、約1.5〜3倍という高い割合を示すものであることが好ましい。STRO-1の発現率の高さは、初代培養細胞と同様の性質を示すことの指標となるからである。
【0037】
また、本発明の不死化幹細胞は、インスリン様成長因子(IGF-1)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、及び肝細胞増殖因子であるHGFからなる群から選ばれる、少なくとも2以上の成長因子を培養上清中に分泌する。ここで、「成長因子」とは、細分裂を促進させたり、形態の変化や肥大をもたらすポリペプチドの総称である。成長因子を産生する細胞の種類によって因子は異なり、上皮成長因子(EGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、神経成長因子(NGF)、腫瘍増殖因子(TGF)などに大別される。
さらに、各細胞の細胞膜にある受容体はチロシンキナーゼ活性をもち、成長因子が結合すると、たんぱく質のチロシン残基がリン酸化され、細胞の増殖や分化を引き起こす。成長因子が個体発生において中胚葉誘導物質となっている例がいくつか知られている。また、免疫系を調節するリンホカイン個体発生において中胚葉誘導物質となっている例がいくつか知られている。こうした成長因子は、公知のELISA法、マイクロアレイ法等で定量することができる。
【0038】
上記IGF-1は、インスリンと配列が高度に類似したポリペプチドであり、細胞培養でインスリンと同様に有糸分裂誘発等の反応を引き起こす。神経細胞の成長にも影響することが知られている。また、上記VEGFは、胚の形成期に、血管がないところに新たな血管を形成する脈管形成及び既存の血管から分枝伸長して血管を形成する血管新生に関与する一群の糖タンパクである。上記TGF-βはまた、多くの細胞に対する強力な増殖抑制因子となり、細胞の分化・遊走・接着にも密接に関与し、個体発生や組織再構築、創傷治癒、炎症・免疫、癌の浸潤・転移などの幅広い領域に重要な役割を担っている。さらに、HGFは、肝細胞のみならず様々な細胞に対して、細胞増殖促進、細胞運動促進、抗アポトーシス(細胞死)、形態形成誘導、血管新生その他の組織・臓器の再生と保護を担う多才な生理活性を有している。
【0039】
上述した各種幹細胞を、例えば、15%FCSを添加したDMEM中で、37℃にて所定の期間、培養することにより、上記の成長因子を含む培養上清を得ることができる。なお、上記幹細胞の培養上清には、IGF-1、VEGF、TGF-β、及びHG以外にも、約70種類のタンパクが含まれる。
得られた培養上清のうち15mLを、Amicon Ultra Centrifugal Filter Units-10K(ミリポア社製)に入れ、×4,000gで約60分間遠心し、約200μlまで濃縮する。次いで、このチューブに培養上清と同量の滅菌PBSを投入し、再度、×4,000gで約60分間遠心し、溶媒をPBSに置換する。得られた200μLの溶液をマイクロテストチューブへ回収し、濃縮幹細胞培養上清とする。
【0040】
上記のAmiconを使用する方法に代えて、エタノール沈殿法で濃縮することもできる。例えば、5mLの培養上清に対して、45mLの100%エタノールを加えて混和し、-20℃で60分間放置する。その後、×15,000gで15分間、4℃にて、遠心して、上澄みを除去する。
次いで、例えば、10mLの90%エタノールを加えてよく攪拌し、再び、×15,000gで5分間、4℃にて遠心する。上澄みを除去し、得られたペレットを、例えば、500μLの滅菌水に溶解することができる。溶解後、全量をマイクロテストチューブに回収し、濃縮幹細胞培養上清とする。
以上のようにして得られた培養上清はまた、常法に従って凍結乾燥し、用時調整の医薬組成物とすることができる。
【0041】
この医薬製剤に含まれる培養上清中の成長因子の量は、その全乾燥重量に対して約50〜500重量%であることが好ましい。50重量%未満では効果が発揮されず、500重量%を越えても効果の改善は見込めないからである。
この医薬組成物の剤形としては、粉末、液剤、ゲル剤、スプレー剤及び経皮吸収システム等を挙げることができる。例えば、充填剤、賦形剤、pH調整剤等の添加物を加えて、滅菌済みのガラスアンプル、セラムチューブその他の小型の容器に入れ、医薬製剤とすることができる。使用時に、生理食塩水や、滅菌済注射用で溶解し、経鼻投与してもよく、また、ガーゼに浸潤させて患部に貼付するようにしてもよい。歯槽骨その他の骨の再形成に使用する場合には、足場材として、コラーゲンやβ-TCP等を使用し、これらを上記溶解液に浸漬させて埋め込んでもよい。
【0042】
本願発明の医薬製剤を適用できる損傷組織としては、潰瘍又は褥瘡が形成された組織、血管の閉塞によって損傷した脳組織、骨、歯周組織及び中枢神経系疾患によって損傷した組織等を挙げることができる。
ここで、「潰瘍」とは、壊死をおこした組織が融解又は剥離したあとに、臓器の表面にできた組織欠損部をいい、上皮、真皮、粘膜等に形成される。真皮に到達していないものはびらんといわれる。具体的には、皮膚、鼻口腔粘膜、角膜その他の体表に接する場所や、消化管、気道、尿路、血管その他の管腔臓器の内腔面に潰瘍が形成される。
「褥瘡」とは、臨床的には、患者が長期にわたって同じ体勢で寝返りが打てない状態になった場合に、体と支持面(多くはベッド)とが接触している箇所で、局所的に血行不全となって、周辺組織に壊死を起こした状態いう。
「外科的な操作によって欠損した」とは、脳腫瘍の摘出その他の外科手術によって欠損したことをいう。
【0043】
「血管の閉塞」とは、血管が以下の何らかの理由によって閉塞された状態をいう。例えば、動脈硬化によって血管が狭窄を起こし、そこから先に血液が流れなくなった状態、心臓近傍の血管の動脈硬化部位に、その血管内の栓子(血液や脂肪などの固まり)が血管内壁から剥がれて血管を塞ぎ、そこから先に血液が流れなくなった状態、炎症や痙攣又は血液成分や血流に変化が起きて、血液の供給が途絶えることをいう。
「脳」は、記憶、情動、意志決定などの機能を有する。脳や脊髄は脳脊髄液とよばれる液体によって包まれている。脳脊髄液(cerebrospinal fluid、CSF)は、脳の保護や、栄養・代謝物を運ぶ役割を有する。脳脊髄液は脊椎穿刺によって採取できるが、その性状は疾患等によって変化する。
【0044】
ここで、「脊髄」は、脊椎動物が有する神経幹をいう。また、「中枢神経系」とは、脊髄と脳とをあわせた組織を指す。中枢神経系は、末梢からの刺激による反射中枢として働いたり、刺激を統合する機能を有する。
中枢神経系の損傷は、脊髄損傷等によって生じる。ここで、「脊髄損傷」は、外部からの衝撃、脊髄腫瘍、ヘルニアその他の内的要因によって脊髄が損傷した状態をいう。損傷の度合によって、脊髄が途中で完全に切断された完全型と、脊髄が損傷又は圧迫を受けているものの脊髄の機能が部分的に維持されている不完全型とに分けられる。
また、「脊髄症」は、加齢変化による頚椎症(椎間板の膨隆・骨のとげの形成)の変化によって、頚椎の脊柱管の中にある脊髄が圧迫されて発症する。
【0045】
上記の医薬製剤は、液剤やゲル剤として創傷部位に適用してもよいが、シート状製剤として適用してもよい。まず、保湿性の部材、例えば、ガーゼ、医療用保湿シート等に吸収させてシート状の製剤とする。次に、このシート状の製剤で損傷された部位を被覆する。損傷部位を被覆したシートの上を、−に帯電した棒状の電極静かに回転させながら移動させ、創傷部位とは離れた所望の部位をプラスに帯電した電極に接触させる。
以上のようにして創傷部位上に適用された電極と、他の部位に適用された電極との間に流れる電流を利用して、上記医薬製剤中の有効成分を効率良く投与することができる。
以上のような損傷組織に本願発明の医薬製剤を適用することにより、組織の速やかな回復を図ることができる。
【実施例1】
【0046】
(不死化SHEDの作出及び培養方法)
(1)抽出用試薬、プラスミド等
(1−1)試薬等
カナマイシン(Kan)、アンピシリン(Amp)、LB液体培地及びLB寒天培地、グリコーゲン、アガロース、滅菌水、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム及びRNase Aを使用した。50mg/mLのカナマイシン(Kan)及びアンピシリン(Amp)を調製し、ストック溶液として−20℃で保存した。グリコーゲンは20mg/mlに調製した。10mg/mlのRNase Aを調製し−20℃で保存した。10M(飽和)酢酸アンモニウム(NH4OAc)、3Mの酢酸ナトリウム(NaOAc;pH5.2)を調製した。
【0047】
(1−2)制限酵素等
大腸菌コンピテントセル(Supercharge EZ10 Electrocompetent Cells、製品コード 636756)、Swa I(製品コード 1111A、Smi Iが同等品)、Xho I(製品コード 1094A)、T4 DNA Ligase(製品コード 2011A)、NucleoBond Xtra Midi(製品コード 740410.10/.50/.100)、NucleoSpin Plasmid(製品コード 740588 10/50/250)は、いずれもタカラバイオより購入した。Pac IはNew England Biolabsより購入した。
【0048】
(1−3)バッファー等
1×TE Buffer(1mMのEDTAを含む10mM Tris-HCl [pH8.0])、100 mM Tris-HCl(pH8.0)で飽和したフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1、以下、「PCI混液」という。)を調製した。エタノールは、100%及び70%で使用した。ミニスケールでの組換えで使用するpAdeno-X プラスミドDNAの精製用に、以下のバッファー1〜4を調製した。
【0049】
バッファー1:10mM EDTA及び50mM グルコースを含む25mM Tris-HCl
(pH8.0)(オートクレーブ後、4℃で保存)
バッファー2:1%SDSを含む0.2M NaOH(使用直前に用時調製、密封し、
室温保存)
バッファー3:5M KOAc(オートクレーブ後、4℃で保存)
バッファー4:1mM EDTA、20μg/ml RNaseを含む10 mM Tris-HCl(pH8.0)
(使用直前にRNaseを添加する。−20℃で保存)
【0050】
(2)アデノウイルス精製及びβ-galアッセイ用試薬
ヒト5型アデノウイルスで形質転換したヒトHEK293細胞(ATCC #CRL1573)を使用した。HEK293細胞は完全培地で培養した。完全培地の組成は、100 unit/mlのペニシリンGナトリウムと100μg/mlのストレプトマイシン、4 mMのグルタミン及び10%FBSを添加したDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium、基本培地)とした。ペニシリンGナトリウム溶液は10,000 units/ml、硫酸ストレプトマイシン溶液は10,000μg/mlで調製し、ストック溶液として保存した。
培養には、60 mmプレート、100 mmプレート、6−ウェルプレート、T75及びT175フラスコを使用した。
【0051】
トリプシン-EDTA(製品コード CC-5012)はタカラバイオより購入した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS、Ca2+及びMg2+不含)及びDulbecco's リン酸緩衝生理食塩水(DPBS、Ca2+及びMg2+含有)を調製した。また、0.33%のニュートラルレッド染色液、0.4%トリパンブルー染色液を使用した。
β-galアッセイには、X-Gal (5-bromo-4-chloro-3-indolyl-β-D-galactopyranoside (25mg/ml))ジメチルホルムアミド(DMF)溶液は−20℃で遮光保存した。Luminescent β-gal Detection Kit II(製品コード 631712、タカラバイオ製)を使用した。
【0052】
(3)予備試験
(3−1)lacZ を含む組換えアデノウイルス(pAdeno-X-lacZ)の構築
10mLの上述した完全培地に、解凍後、DMSOを除去したHEK293細胞を再懸濁し、全量を100 mmの培養プレートに移した。HEK293細胞が付着した後に培養液を除去し、細胞を滅菌PBSで1度洗浄し、1mlのトリプシン-EDTA溶液を加えて約2分間処理した。
次に、10mlの完全培地を加えてトリプシンの反応を止め、穏やかに懸濁した。バイアブルカウントを行って、培養液10 mlを入れた100 mmのプレートに105個の細胞を移し、均一に拡げた。
pShuttle2-lacZ(Adeno-X Expression System 1に含まれている陽性対照ベクター)とキットに含まれているAdeno-X Viral DNA(PI-Sce I及びI-Ceu I digested)とを使用し、キットに添付されているプロトコルに従って、lacZを含む組換えアデノウイルスを構築した。標的細胞であるSHEDに感染させ、β-ガラクトシダーゼの発現をアッセイし、ベクターが構築されていることを確認した。
【0053】
(3−2)組換えpShuttle2プラスミドの構築
組換えpShuttle2 Vector(以下、「rpShuttle2 Vector」という。)の構築前に、キットに含まれているpShuttle2 Vector及びpShuttle2-lacZ VectorでDH5α大腸菌を形質転換した。50μg/mlのカナマイシンを含有するLB寒天プレート(以下、「LB/Kan」という。)上で形質転換体を選択し、単一コロニーからとった菌体を新しいLB/Kanに画線し、37℃で一晩インキュベートした。
次いで、hTERT、bmi-1、E6、E7を、pShuttle2へ以下の手順でクローニングした。これらの遺伝子に適した制限酵素でpShuttle2 Vectorを切断した。
次いで、上記のキットに添付されているpShuttle2 Vector Information Packet(PT3416-5)を参照し、挿入するDNAに合致するマルチクローニングサイトを決定した。制限酵素処理済みの上記プラスミドをアルカリホスファターゼで処理して精製した。
【0054】
常法に従って、標的DNA断片を調製し精製した。上記の制限酵素で消化したベクターと上記の遺伝子断片とをライゲーションし、DH5α細胞(コンピテント細胞)を、ライゲーション産物で形質転換した。上記コンピテント細胞の一部をとり、キットに含まれている対照ベクターpShuttle2-lacZ Vectorで形質転換して陽性対照とした。
形質転換した大腸菌を含む混合液を、LB/Kan寒天プレートに接種し、カナマイシン耐性(Kanr)の形質転換体(コロニー)を選択した。5〜10個のKan耐性クローンを選択し、少量の液体培地に接種して増幅した。これらのクローンがrpShuttle2 Vectorを有していることを確認した後に、一晩インキュベートした。その後、市販のシリカ吸着カラムを用いて、常法に従い、構築されたプラスミドDNAを精製した。
【0055】
このプラスミドDNAを制限酵素で処理して、1%アガロースゲル電気泳動を行い、目的の組換えプラスミドを同定した。シーケンシングによって、挿入した断片の方向と挿入部位を確認し、ポジティブクローンを同定した。
組換えpShuttle2プラスミドDNA(以下、「rpShuttle2プラスミドDNA」という。)をターゲット細胞に直接にトランスフェクトし、ウエスタンブロットを行って目的タンパク質の発現を予備的にチェックした。
【0056】
(3−3)rpShuttle2プラスミドDNAのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化
上記のようにして作製したrpShuttle2プラスミドDNAから、導入した遺伝子の発現カセットをPI-Sce I及びI-Ceu Iで切り出した。キットに添付されたプロトコルに記載されたin vitroライゲーション方に従って、切り出した発現カセットをAdeno-X Viral DNAに組み込んだ。rpShuttle2プラスミドDNAのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化液を30μl調製し、下記の表1に記載した試薬を1.5mlの滅菌済みマイクロ遠心チューブに入れて混合した。
【0057】
【表1】
【0058】
次いで、十分に混和した後にマイクロ遠心チューブに入れて軽く遠心し、その後、37℃にて3時間インキュベートした。
1 kbラダー(DNA サイズマーカー)と共に上記二重消化後の反応液(5μl)を1%アガロース/EtBrゲルで泳動した。
(3−4)フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール抽出
遠心チューブに、上述した二重消化液の残り(25μl)に、70μLの1×TE Buffer(pH8.0)と100μLのPCI混液とを添加し、ボルテックスで十分に撹拌した。次いで、微量遠心機を用いて、4℃にて14,000 rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5 mlのマイクロ遠心チューブ移した。ここに、400μLの95%エタノール、25μLの10M 酢酸アンモニウム、及び1μLのグリコーゲン(20 mg/ml)を添加し、ボルテックスで十分に撹拌した。
【0059】
次いで、4℃にて14,000 rpmで5分間遠心し、上清を吸引して除去し、ペレットを得た。このペレットに300μLの70%エタノールを加え、室温にて14,000 rpmで2分間遠心した。上清を注意深く吸引して除去し、ペレットを室温にておよそ15分間風乾した。
ペレットが乾燥した後に、これを10μLの滅菌した1×TE Buffer(pH8.0)に溶解し、使用するまで−20℃にて保存した。
(4)組換えAdeno-X プラスミドDNAの構築
(4−1)Adeno-X ウイルスゲノムへの発現カセットのサブクローニング
下記の表2に示す試薬を、順番通りに1.5 mlの滅菌済マイクロ遠心チューブに入れ、穏やかに混和し、軽く遠心した後に、16℃にて一晩インキュベートした。
【0060】
【表2】
【0061】
各サンプルに、90μLの1×TE Buffer(pH8.0)と100μLのPCI混液とを加えて、ボルテックスで穏やかに撹拌した。4℃にて14,000 rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5 mlのマイクロ遠心チューブに移し、ここに400μLの95%エタノール、25μLの10M酢酸アンモニウム溶液、及び1μLのグリコーゲン(20 mg/ml)を加えてボルテックスで穏やかに撹拌した。
4℃にて5分間、14,000 rpmで遠心し、上清を吸引により除去してペレットを得た。以下のエタノール沈殿操作は、上記(3−4)と同様に行った。
ペレットが乾燥した後に、これを15μLの滅菌脱イオン水に溶解した。
(4−2)組換えAdeno-X プラスミドDNAのSwa I消化
下記表3に示す消化液を調製し、遠心チューブに入れた各サンプルに加えて、2時間、25℃にて、インキュベートした。
【0062】
【表3】
【0063】
各サンプルに、80μLの1×TE Buffer(pH8.0)と100μLのPCI混液とを加え、ボルテックスで穏やかに撹拌した。マイクロ遠心チューブ、4℃にて5分間、14,000 rpmで遠心した。以下のエタノール沈殿の操作は、上記(3−4)と同様に行い、ペレットの溶解液は使用まで−20℃にて保存した。
(4−3)組換えAdeno-XプラスミドDNAによる大腸菌の形質転換の確認
エレクトロポレーション用コンピテントセル(大腸菌)を、Supercharge EZ10Electrocompetent Cell(製品コード 636756)を使用して、上記(4−2)で得たSwa I消化産物で形質転換した。
形質転換混合液を、LB培地にアンピシリン(終濃度100μg/mL)を加えた寒天プレート(以下、「LB/Amp寒天プレート」という。)に接種し、37℃で一晩インキュベートした。アンピシリン耐性(Ampr)形質転換体として、約106個のコロニーを得た。得られたコロニーを、製品に付属のAdeno-X System PCR Screening Primer Setでチェックした。
【0064】
5mLの新鮮なLB/Amp液体培地に単一のコロニーからの菌体を接種し、一晩培養した。翌日、後述するミニスケール法に従って、Adeno-X プラスミドDNAを精製した。
(4−4)組換えAdeno-XプラスミドDNAのミニスケール調製
対数増殖にある培養液5mLを、14,000 rpmで30秒間遠心し、上清を除去した。ペレットを再度10,000 rpmで1分間遠心し、マイクロピペットを用いて、上清を除去した。
ここに、150μLの上記バッファー1を加えて穏やかにピペッティングし、再懸濁した。この細胞懸濁液に、150μLのバッファー2を添加し、穏やかに転倒混和し、氷上に5分間放置した。冷却した細胞懸濁液に、150μLのバッファー3を加えて、再度転倒混和し、氷上に5分間放置した。
【0065】
この細胞懸濁液を、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、透明な上清を清浄な1.5 mlの遠心チューブに移した。この上清に、450μLのPCI混液を添加し、転倒混和して撹拌した。その後、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5 mlのマイクロ遠心チューブに移した。
以下のエタノール沈殿の操作は、上記(4−1)と同様に操作を行い、ペレットの溶解液は、使用まで−20℃にて保存した。目的のrDNAは、後述する制限酵素による解析及びPCRにより同定した。
(5)得られたrAdeno-XプラスミドDNAの制限酵素部位解析
PI-Sce I及びI-Ceu Iを用いて解析を行った。下記の表4に示す試薬を、1.5mlの滅菌済みマイクロ遠心チューブに入れ、30μLのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化反応液を加えて、十分に撹拌し、軽く回転させて内容物を集めた。
【0066】
【表4】
【0067】
37℃にて3時間インキュベートし、制限酵素処理を行った。この処理後の反応液を1%アガロース/EtBrゲルで泳動した。
(6)組換えアデノウイルスの産生
(6−1)HEK293細胞トランスフェクト用rAdeno-XプラスミドDNAの調製
下記表5に示す試薬等を、1.5 mlの滅菌済み遠心チューブに入れて混合し、微量遠心機で軽く遠心した。その後、37℃にて2時間、インキュベートし、rAdeno-X プラスミドDNAのPac I制限酵素処理を行った。
【0068】
【表5】
【0069】
60μLの1×TE Buffer(pH8.0)と、100μLのPCI混液とを添加し、ボルテックスで穏やかに撹拌し、微量遠心機で、4℃にて5分間、14,000 rpmで遠心した。水層を、清浄な1.5 mlの滅菌済み遠心チューブに注意深く移した。
以下のエタノール沈殿の操作は、上記(3−4)と同様に操作を行い、ペレットの溶解液は、使用まで−20℃にて保存した。
(6−2)Pac I消化Adeno-XプラスミドDNAのHEK293細胞へのトランスフェクション
上記プラスミドDNAのトランスフェクションの24時間前に、60mmの培養プレートあたりの細胞数が1〜2×106(およそ100 cells/mm2)になるよう、HEK293細胞を接種し、37℃、5%CO2存在下でインキュベートした。
【0070】
各培養プレートに、Pac I消化した10μLのAdeno-XプラスミドDNAをトランスフェクトし、標準的なトランスフェクション法(CalPhos Mammalian Transfection Kit 製品コード 631312、タカラバイオ製)に従って、HEK293細胞にAdeno-X DNAを導入した。トランスフェクションの翌日から、CPE(細胞変性効果)が起きているかどうかを確認した。
1週間後に、培養プレートの底面や側面に付着している細胞を穏やかに撹拌して遊離させた。得られた細胞懸濁液を15 mlの滅菌済みの円錐遠心チューブに移し、室温にて5分間、1,500×gで遠心した。
得られた沈殿を、500μLの滅菌PBSに懸濁した。ドライアイス/ エタノール中で凍結させ、37℃の恒温槽で融解させるという凍結融解操作を3回繰り返して、細胞を十分に融解させたライセートを得た。次いで、軽く遠心して浮遊物を除き、上清を滅菌した別のチューブに移して、直ちに使用した。直ちに使用しない分は、−20℃で保存した。
60 mmプレートの培養細胞に250μLの上記ライセートを加えて、培養を続けた。なお、Adeno-X Rapid Titer Kit(製品コード 631028、タカラバイオ製)に含まれる抗Hexon 抗体を用いて、このキットの取扱説明書(PT3651-1)に従い、アデノウイルスの力価を測定した。
【0071】
(6−3)高力価ウイルス調製のためのウイルスの増幅
この力価測定を始める約24時間前に、HEK293細胞をT75フラスコに接種し、37℃、5%CO2存在下で一夜培養し、50〜70%コンフルエントになっていることを確認した。
翌日、ウイルスを含む新しい培地と交換し、MOI = 10で感染させた。37℃、5%CO2存在下で90分間培養した後にフラスコを取り出し、10 mLの培地を加えた。
37℃、5%CO2存在下で3〜4日間培養し、CPEを確認した。50%の細胞が剥がれたところで、上記と同様にして遊離細胞懸濁液とし、15 mLの滅菌済円錐遠心チューブに移した。上記と同様の凍結融解操作を行い、細胞を融解させた。Adeno-X Rapid Titer Kit(製品コード 631028)を使用し、107PFU/mLの力価を得た。
ウェスタンブロッティングを行い、パッケージングされたアデノウイルスゲノムが、目的遺伝子に特異的な転写単位のコピーを、機能する形で持っているかを確認した。
【0072】
(7)標的細胞へのアデノウイルス感染
(7−1)標的細胞への感染
感染の24時間前に6−ウェルプレートに1×106個のSHEDを接種した。接種の翌日に培地を取り除き、ウイルスを含む1.0mLの培地を各プレートの中心に添加した。この溶液をSHEDが形成した単層全体に均一に広げた。
37℃、5% CO2存在下で4時間培養し、ウイルスをSHEDに感染させた。次いで、新鮮な培地を添加し、さらに、37℃、5%CO2存在下で培養した。感染24時間後〜48時間後にかけて導入遺伝子の発現を経時的に解析した。
(7−2)感染細胞のβ--ガラクトシダーゼ発現の解析
Adeno-X-lacZを感染させた接着性細胞におけるβ--ガラクトシダーゼの発現は、Luminescent β-gal Detection Kit II(製品コード 631712、クロンテック社)を使用してアッセイした。
【実施例2】
【0073】
(1)SHEDの作製
10歳の健常男児から得られた脱落乳歯を使用した。この脱落乳歯をイソジン溶液で消毒した後、歯科用ダイヤモンドポイントを用いて、歯冠を水平方向に切断し、歯科用リーマーを用いて歯髄組織を回収した。得られた歯髄組織を、3mg/mLのI型コラゲナーゼ及び4mg/mLのディスパーゼの溶液中で37℃にて1時間消化した。ついで、この溶液を70mmの細胞ストレーナ(Falcon社製)を用いて濾過した。
濾別した細胞を、4mLの上記培地に再懸濁し、直径6cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種した。10%FCSを含有するDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)をこのディッシュに添加し、5%CO2、37℃に調整したインキュベータにて2週間程度培養した。コロニーを形成した接着性細胞(歯髄幹細胞)を、0.05%トリプシン・0.2mMEDTAにて5分間、37℃で処理し、ディッシュから剥離した細胞を回収した。
【0074】
次に、上記のようにして選抜した接着性細胞を、付着性細胞培養用ディッシュ(コラーゲンコートディッシュ)に播種し、5%CO2、37℃に調整したインキュベータにて、一次培養し初代培養細胞とした。肉眼観察でサブコンフルエント(培養容器の表面の約70%を細胞が占める状態)又はコンフルエントになったときに、0.05%トリプシン・0.2mMEDTAにて5分間、37℃で処理して細胞を培養容器から剥離して回収した。
こうして得られた細胞を、再度、上記の培地を入れたディッシュに播種し、継代培養を数回行って、約1×107個/mLまで増殖させた。得られた細胞を、液体窒素中で保存した。
【0075】
その後、一次培養細胞を上記の培地を用いて約1×104細胞/cm2濃度で継代培養した。1〜3回継代した細胞を実験に用いた。ヒトBMMSC(骨髄間葉系幹細胞、Bone Marrow Mesenchymal stem cells)はロンザ社から購入し、メーカーの取扱説明書に従って培養した。
以上のようにして、ヒト脱落乳歯歯髄幹細胞(SHED)を得た。得られたSHEDを、FACSTARPLUS (ベクトン・ディキンソン社製)を用いて、各試料について、約1x106個のSTRO-1陽性細胞を以下のようにしてソートした。
ブロモデオキシウリジンBrdU染色キットのメーカー(Invitrogen社製)の取扱説明書に従いBrdUを12時間取り込ませ、SHEDの増殖速度を評価した(各群についてn=3)。実験は5回繰り返した。1元配置分散分析後に、Tukey-Kramer検定を行い、統計的有意差を評価した。
【0076】
STRO-1を免疫蛍光で検出するために、SHEDを3%パラホルムアルデヒドで固定し、その後PBSで2回リンスし、100mMのグリシンで20分間処理した。次いで、これらの細胞を0.2%のTriton-X(Sigma-Aldrich社)で30分間透過処理し、その後、5%のロバ血清及び0.5%のウシ血清アルブミンの混合物中で20分間インキュベートした。
次に、細胞を一次抗体のマウス抗ヒトSTRO-1抗体(1:100、R&D社製)と一緒に1時間インキュベートし、二次抗体のヤギ抗マウス免疫グロブリンM-FITC抗体(1:500、Southern Biotech社製)と一緒に30分間インキュベートし、ベクタシールドDAPI(Vector Laboratories Inc)を用いてマウントした。
その後、15%FBSを添加したα-MEMを6ウェルプレートに入れ、ソートした細胞をクローン作製用に播種した。増殖した細胞の中から約300コロニーを試験用にプールした。
【0077】
(2)遺伝子の導入
上述したように、bmi-1, E6, E7及びhTERTの4つの遺伝子をアデノウイルスベクターに組み込み、これらの遺伝子産物を発現するウイルスベクターを作製した。対照として、これらの遺伝子を組み込んでいない対照ベクターを作製した。
SHEDを100mmφのコラーゲンコートディッシュに1×106個を播種し、10%FBSを添加したDMEMを加えてサブコンフレントまで培養した。この培地を吸引除去して上記培地で希釈したウイルス溶液500μLを加え(MOI=10)、37℃にて、5%CO2インキュベータ中で1時間培養し、上記ウイルスベクターを感染させた。感染48時間後、培地を上記のものに換え、ピューロマイシン(1pg/mL)を加えた上記の培地中で感染細胞を10日間培養して選択し、500〜600個の耐性クローンをプールした。3〜4日ごとに約0.5x105個のSHEDを100mmφの培養シャーレに播種し、継代した。遺伝子が導入されたSHEDをSHED-T、遺伝子が導入されないSHEDをSHED-Cとした。
【実施例3】
【0078】
(1)SHED-C及びSHED-Tの成長速度の測定
SHED-T(遺伝子導入をしたSHED)の個体数の倍加状態を、図1に示した。図中、縦軸は個体数倍化回数(細胞分裂回数、回)、横軸は時間(培養日数)である。また、培養中のSHEDが1ヶ月間分裂しない状態を、細胞の老化の判断基準とした。
SHED-Cは30回程で増殖が停止し、老化又は増殖停止段階に入った。これに対し、SHED-Tは250PDを超え、800日経過後も増殖した。
(2)フローサイトメトリー分析
単一細胞の懸濁液を得るため、接着性の単層細胞をトリプシン/EDTAで消化した。2x105個の細胞に抗STRO-1モノクローナル抗体(1:100)を加えて放置し、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson社)を使用して分析した。対応するアイソタイプが同一の対照抗体と比較し、99%以上の割合で蛍光レベルが高い場合に発現が陽性とした。SHED-T及びSHED-Cともに、初期及び後期の継代細胞を固定し、FITC結合STRO-1抗体で染色した。その後、フローサイトメトリーで分析した。試験はそれぞれ二回行なった。SHED-CではSTRO-1陽性細胞の割合がPD20で27%であり、PD30では15%まで減少した(図2(A)及び(B))。SHED-TではSTRO-1陽性細胞の割合が、それぞれPD20で46%、PD40で41%であった(図2(C)及び(D))。
【0079】
(3)分化能の検討
PD0、PD10及びPD20におけるSHED-C及びSHED-Tの分化能を、新生骨量の形成能及び組織染色で調べた。
まず、2.0 x 106個のSHED-C又はSHED-Tを、40mgのヒドロキシアパタイト/三カルシウムリン酸(HA/TCP)セラミック粉末(オリンパス工業(株))に混合し、10週齢の免疫無防備状態マウス(NIH-bgnu-xid, 雌、Harlan Sprague Dawley社製)の背側表面の皮下に移植した。
移植8週間後に移植物を回収し、4%ホルマリンで固定して脱灰した後、パラフィン包埋するため10%EDTAを含むPBS溶液でバッファリングした。一部は、プラスチック包埋するために70%エタノール溶液中に保存した。
【0080】
パラフィン切片を脱パラフィン化し、これを水和した後、ヘマトキシリン及びエオシン(以下、「H&E」という。)で染色した。図5(A)〜(C)は、SHED-T(不死化幹細胞)のPD0〜PD20の染色像を示し、同(D)〜(F)はSHED-C(正常細胞)のPD0〜PD20の染色像を示す。生体内での新しい骨の形成を定量するため、特定の領域を選び、SHED-T移植後に形成された移植物又はSHED-C移植後に形成された移植物それぞれについて、新生骨面積と視野面積とを算出し、これらの数値から新生骨量を求めた。
新生骨量=新生骨面積/視野面積×100
【0081】
図4に各個体数倍加回数(倍加時間)における、SHED-TとSHED-Cとの新生骨量の変化を示した。図中、**はp<0.05、***はp<0.01を表す。なお、新生骨量は、以下の算出式で求めた。
図4に示されるように、SHED-Cでは個体数倍加回数が増えるについて新生骨量が減少し、PD20ではPD0の約1/5まで低下した。これに対し、SHED-Tでは、PD20まで新生骨量はほとんど変動がなく、PD20では、SHED-TはSHED-Cの5倍以上の骨を形成したことが示された。
【0082】
(4)癌化活性の評価
SHED-C及びSHED-T細胞を、免疫無防備状態マウスの皮下組織に、1×106個を移植した。移植後、30日以上観察を行ったが、この期間中、上記の細胞を移植したいずれのマウスにおいても、腫瘍は形成されなかった。また、SHED-T細胞では、40〜200PDの培養細胞のすべてのクローンの形態に変化はなかった。
以上より、SHED-Tには、癌化活性はないことが示された。
(5)評価
SHED-Tは、260PDを超えても分化能力を保ったまま増殖する能力を有していることが示されたが、SHED-Cは、分化能力を有するものの30PD以下で老化した。
以上から、SHED-Tは不死化幹細胞となっており、活性の高いSHED培養上清の大量生産に適することが示された。
【実施例4】
【0083】
(1)頸部放射線性潰瘍に対する治癒効果
64歳の右舌癌(T3N0M0)患者(男性)の舌半側切除を行った。約6ヶ月後に右頸部にリンパ節に転位を認めたため、60GYの放射線照射及び全頸部郭清術を行った。術後3週に顎下から頸部にかけて創傷治癒不全が生じ、潰瘍が形成された(図3(A))。このため、放射線性頸部潰瘍と診断した。
患部の創傷治癒を促進するために、上記のようにして得たSHED-Tの培養上清10mLを、患部を覆う大きさのガーゼにしみこませて患部に貼付した。2日に1回、上記培養上清をしみこませたガーゼを14回交換したところ、1ヶ月後には潰瘍が閉鎖した(図3(B))。以上から、上記培養上清には、上皮の潰瘍に効果があることが示された。
【0084】
(2)褥瘡に対する治癒効果
60歳の男性の腰に形成された褥瘡を、上記のSHED-Tの培養上清で治療した。この男性は2年前に脳卒中を起こし、片麻痺となった。褥瘡の治療のために、来院した。
感染を起こした肉芽組織(図6(A))を完全に取り除き、10mLのSHED-Tの培養上清を希釈せずにガーゼに含浸させて患部を覆った。ガーゼ交換を毎日行ったところ、2週間後に皮膚の端から、患部を覆うように新たな上皮が形成された(図6(B))。
以上より、SHED-Tの培養上清は、上皮の潰瘍及び褥瘡の治癒に対して、効果があることが示された。
【実施例5】
【0085】
(1)歯科領域におけるSHED-Tの培養上清の治療効果
男性11名、女性5名の計16名の患者(35歳〜70歳)の28部位に対して、歯科領域におけるSHED-Tの培養上清の治療効果を検討した。
症例の内訳は、インプラント関連が14名(18部位)及び歯周病関連が7名(10部位)であった。インプラント関連をさらに細かく見ると、骨再生誘導(GBR)・ソケットプリザベーションが11名(15部位)、サイナスリフトが3名(3部位)であった。
ここで、GBR(骨誘導再生)法とは、欠損した歯槽骨や顎骨などの骨組織の再生を促す治療方法であり、インプラントを埋め入れるために十分な骨の量がない場合などに利用される。また、ソケットプリザベーションとは、骨の吸収を防止するために、抜歯の時点で人工骨などを「穴」に入れて骨を再生させる方法をいう。
【0086】
サイナスリフト(上顎洞底挙上術)は、上顎骨の内部に存在する上顎洞が拡大し、歯槽骨のある部分の厚みがインプラントを行うために不十分となった場合に行われる。その厚みが不足している上顎洞の部位に、移植骨や骨補填材、最近ではインプラント本体の一部を挿入して、上顎洞の底部分を押し上げる技術をいう。
実施症例の評価を、2011年9月までの26部位について、術後3か月あるいは6ヶ月のレントゲン(CT含む)で評価した。以下の5段階に分けて評価した。結果を表6、図7(A)〜(F)、図8(A)及び(B)、並びに図9(A)及び(B)に示す。
図7(A)では、白抜き矢印で示した部分にβ-TCPの粉末が詰まっていることが観察された。これに対し、図7(C)では同じ部分が矢印で示した部分の構造が変化し、下側にある骨と同じ無構造となっており、骨形成が促進されていることが確認された。
また、図7(D)では、白抜き矢印の部分に骨ではなく、肉芽組織が形成されていること、及び黒色の矢印の部分に未熟な骨芽形成されていることが観察された。これに対し、図7(F)では黒食の矢印の部分が成熟した骨となっており、骨形成が促進されていることが確認された。
以上から、歯科の分野における骨形成の促進が確認された。
【0087】
5(著効):欠損部の30%以上で骨再生がみられる
4(効果):欠損部に骨再生がみられる(概ね〜30%程度)
3(不変):骨再生は明らかでないが、吸収はない
2(吸収):骨吸収がみられる
1(不良):著しく骨吸収を及ぼしたか、又は有害事象が発生した
【0088】
【表6】
*歯周再生
【0089】
上記28症例のうち、評価時期が到来していないNo. 27及び28については評価を行わなかった。評価を行った全症例(26例)中、著効(5)10例(38.5%)、効果(4)7例(26.9%)、不変(3)8例(30.8%)、吸収(2)1例(3.8%)、不良(1)0例であった。
著効と効果を合わせると17例(65.4%)という高い奏効率を示した。
疾患別の内訳をみると、インプラント関連(17例)のうち、著効(5)9例(52.9%)、効果(4)4例(23.5%)、不変(3)3例(17.7%)、吸収(2)1例(5.9%)、不良(1)0例であった。インプラント関連では、著効と効果を合わせると13例(79.4%)という非常に高い奏効率を示した。
【0090】
また、歯周病関連の9例では、著効1例(11.1%)、効果3例(33.3%)、不変5例(55.6%)、吸収及び不良は認められなかった。歯周病関連においても、著効と効果を合わせて4例(44.4%)という良好な奏効率を示した。
さらに、足場別に見てみると、β-TCPを足場とした8例では、著効が4例(50.0%)、効果が3例(37.5%)、不変及び不良はなし、吸収が1例(12.5%)という結果であった。足場としてβ−TCPを使用した場合には、著効と効果を合わせると7例(87.5%)という非常に高い奏効率を示した。
足場として、テルダーミス/テルプラグ(Col)を使用した18例では、著効6例(33.3%)、効果4例((22.2%)、不変8例(44.5%)、吸収1例(0.1%)、不良はなしということであった。足場としてテルダーミス/テルプラグ(Col)を使用した場合には、著効と効果とを合わせると、10例(55.5%)と高い奏効率を示した。
【0091】
インプラントでは、図7〜9に示すように、いずれの症例においても骨の再形成が観察された。
また、足場としてβ-TCPを使用したときに、β-TCPの骨への置換等がどのように起こっているかを、提出組織をヘマトキシリン及びエオシンで染色して確認した。結果を図10(A)〜(D)に示す。図中、NBで表わされる新生骨の形成がはっきりと観察され、BVで表わされる血管も認められた。
以上より、SHED-Tの培養上清には、骨形成能があることが確認された。
【実施例6】
【0092】
(1)歯髄幹細胞由来サイトカインの脳卒中患者への経鼻投与
灰白質での虚血性、白質での虚血、又は混合領域での虚血のいずれかを伴う8人の患者(男性6名、女性2名)に対し、SHED-Tの培養上清を投与して、治療効果を検討した。8人の患者はいずれも、この治験に加わる前に、脳卒中の標準的な治療を受けており、MRIによる診断、神経学的な試験及びNIHSSを用いて点数化した評価を受けていた。表1に示す患者は、脳卒中の発症後、20日〜133日を経過していた。患者のプロファイルを下記表7に示す。
実施例1で調製したSHED-CM(SHED-Tの培養上清)を、鼻腔内の臭神経の集中する部位より経鼻投与した(図11及び12)。投与期間は、投与開始の時点から起算した。
【0093】
【表7】
【0094】
回復の状況は、投与開始後、1日、2日、4日、7日、14日、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月及び1年の各時点で、神経外科医及び神経学者が評価した。ブラインドテストは行わなかった。すべての患者について、脳のMRI及びMRAを行った。MRAは、磁気共鳴血管造影とも呼ばれ、血管の状態を立体画像で表示することができる検査である。ある患者のMRAによる画像を図13に、また、MRIによる画像を図14にそれぞれ示した。
SHED-Tの培養上清投与の前後の血中酸素濃度、体温、血圧、心拍数、呼吸数等を、心電図を用いて、注意深くモニターした。投与前後で胸部レントゲン撮影も行った。
SHED-CMの鼻腔内投与前及び投与1年経過後に、すべての患者について血管病変を特定するための核磁気共鳴血管撮影を行い、カラー化核磁気共鳴画像法(MRI)で撮影結果を観察した。神経学的な状態は米国国立保健研究所(NIH)の脳卒中基準(NIHSS)を基に点数化した。
8人中2人の患者(いずれの急性期)では、NIH基準及びMRI画像において顕著な回復が見られた(図15(A)及び15(B)、図16)。No.2の患者は、図17(A)に示すように、麻痺していた右手でカップの積み替えができるようになり、また、図17(B)に示すように歩行できるまでに回復した。
【0095】
SHED-CMを投与したいずれの患者においても、中枢神経系に腫瘍、異常な細胞増殖、及び神経学的な悪化は観察されなかった。また、いずれの患者にも鼻の異常、全身性の悪性腫瘍、全身性の感染症は観察されなかった。
以上より、不死化幹細胞を用いることで、ほぼ無限の培養上清を得ることができ、この培養上清から薬剤を製造する場合には、成長因子の大量生産が可能となることが示された。また、これによって、低コストでの薬剤の製造が可能となるというメリットがある。
上述したように、セルソースとして特定の不死化幹細胞を使用すること、及びこの不死化幹細胞が特定の成長因子を持続的に同じような割合で産生し続けるものであることから、細胞上清中の成長因子の含有量や種類をほぼ一定になるように保つことが可能となる。これによって、量産化する場合に、培養上清の内容成分を規格化しやすいというメリットがある。
【実施例7】
【0096】
(1)歯髄幹細胞由来サイトカインのアルツハイマー病患者への点鼻投与
アルツハイマー病の患者に対して、SHED-Tの培養上清を経鼻投与して、治療効果を検討した。患者の平均年齢は79.5±3歳、女性3名であった。
SHED-Tの培養上清を、点鼻によって、1日1回、計28回投与した。投与の効果は、下記の表8及び表9に示すミニメンタルステート検査及び長谷川式検査で行った。
図18(A)に示すように、非投与群の場合、MMS及び長谷川式のいずれで評価した場合でも、大きな改善は認められなかった。
これに対し、SHED-Tの培養上清投与群では、3ヶ月目からインデックス値が上昇し始め、7カ月目以降は、MMS及び長谷川式のいずれで評価した場合でも、上昇幅が大きくなり、アルツハイマー病の症状の改善が認められた。
【0097】
投与群患者のうち、78歳のアルツハイマー病の患者が、特に顕著な改善を示した。この患者は、平成22年5月11日に、脳梗塞を発症し、高度の健忘症が出現した(Cornell Medical Index: CMI=27)。このため、平成22年12月20日に介護施設に入所した。
平成23年2月9日より、SHED-Tの培養上清を点鼻によって、1日1回、計28回投与し、投与の効果を、下記の表8及び表9に示すミニメンタルステート検査及び長谷川式検査で行ったところ、高次脳機能の大幅な改善が認められた。自炊及び自立歩行ができるまでに回復したため、この患者は、平成23年4月16日に退院し、帰宅した。










【0098】
【表8】
















【0099】
【表9】
【0100】
以上より、SHED-Tの培養上清は、アルツハイマー病に対しても、効果があることが示された。
【実施例8】
【0101】
(1)肝炎に対するSHED-Tの培養上清の治療効果
非代償性肝硬変をはじめとした重症肝疾患の根治治療法は肝移植であるが、ドナー不足などの理由で、現実には対処療法のみしか行われていない。これを補うために、不死化乳歯幹細胞由来成長因子(SHED-T)の投与による肝再生療法をおこなった。
表10に示すChild-Pugh値が7以上、また総ビリルビン値が3.0mg/dL以下、血小板数が5.0x10 *10以上でかつ、活性期の肝腫瘍をもたない男性患者3名(58〜70歳)患者を対象とした。なおこれらの患者は、慢性期脳梗塞(発症後1年以上経過)にあり、パーキンソン病の治療が行われた症例である。
プロトコルは、1日1回、不死化乳歯幹細胞由来成長因子(2μg)を5mlの生理食塩水に溶解して経鼻的に連日投与した。28回を1クールとして2クール行った。
症例の内訳及び効果を表11に示す。
【0102】
【表10】
【0103】
【表11】
*1:Child-Pugh値 *2:総タンパク *3:アルブミン
【0104】
(2)結果
いずれの患者においても、総タンパク値及び血清アルブミン値がいずれも増加し、CPがB分類からA分類となっており、肝の再生が起こっていると考えられた。
【実施例9】
【0105】
(II型糖尿病に対するSHED-Tの培養上清の治療効果)
II型糖尿病の患者に対するSHED-Tの治療効果を検討した。治療方法は、SHED-T(2μg)を5mlの生理食塩水に溶解し、1日1回、経鼻的に投与した。28回を1クールとして、2クール行った。
効果判定は、治療前と12週後のHbA1c(Glycated haemoglobin)の変化を指標として行った。なお症例には、全治療期間を通じて、頭痛、鼻痛、血糖変動などの有害事象は、認められなかった。また、いずれの患者も、糖尿病治療薬として、メトホルミンの内服、運動療法を行っていたが効果が見られなかった
【0106】
【表12】
【0107】
いずれの患者においても、治療前に比べて、HbA1c(%)が低下し、糖尿病の改善が見荒れた。以上より、SHED-Tは糖尿病に対しても効果があることが示された。
【実施例10】
【0108】
(難治性皮膚炎に対するSHED-Tの培養上清の治療効果)
難治性皮膚炎(アトピー性皮膚炎)を起こしているイヌ(ラブラドール・レトリバー、8歳、雌)に、SHED-T(2μg)を5mlの生理食塩水に溶解し、1日1回、患部に塗布した。14回を1クールとした。
SHED-Tを使用する前には、2ヶ月間、イヌインターフェロン−γ製剤を使用したが、治療効果が上がらなかったため、SHED-Tに切り替えた。
SHED-Tの治療開始前は、図19Aに示すように、難治性皮膚炎を起こしている部分の毛が抜けて白く見えていたが、治療後は、毛も生え揃い、皮膚炎が起きていた部位がわからないほどきれいに治癒した。
以上より、SHED-Tは、難治性皮膚炎に対しても効果があることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、医科及び歯科の領域で使用する薬剤の産生等において極めて有用である。
図1
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