(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、SiおよびMnを多く含む素地鋼板において、980MPa以上の高強度を有し、且つ、めっき性、加工性、および耐遅れ破壊特性、更には耐衝撃吸収性のすべてに優れた高強度めっき鋼板を提供するため、特に、めっき層と素地鋼板との界面から素地鋼板側にかけての層構成に着目して検討を重ねてきた。その結果、後記する
図1の模式図に示すように、(ア)めっき層と素地鋼板との界面から素地鋼板側にかけての層構成を、SiおよびMnよりなる群から選択される少なくとも一種の酸化物を含む内部酸化層を含む軟質層と、当該軟質層以外の、マルテンサイトとベイナイトを主体とし、且つ、旧オーステナイトの平均粒径が20μm以下である硬質層を有するように構成すると共に、(イ)内部酸化層の平均深さdを4μm以上に厚く制御すると、当該内部酸化層が水素トラップサイトとして機能し得、水素脆化を有効に抑制できるため、所期の目的を達成できること、(ウ)好ましくは、上記内部酸化層の平均深さdと、上記内部酸化層の領域を含む軟質層の平均深さDとの関係を適切に制御すれば、特に曲げ性および耐遅れ破壊特性が一層高められることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
本明細書において、めっき鋼板とは溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板の両方を含む。また、本明細書において素地鋼板とは溶融亜鉛めっき層および合金化溶融亜鉛めっき層が形成される前の鋼板を意味し、上記めっき鋼板とは区別される。
【0021】
また本明細書において高強度とは、引張強度が980MPa以上のものを意味する。
【0022】
また本明細書において、加工性に優れたとは、曲げ性および穴拡げ性の両方に優れることを意味する。詳細は後記する実施例に記載の方法で、これらの特性を測定したとき、実施例の合格基準を満足するものを「加工性に優れる」と呼ぶ。
【0023】
上述したように本発明のめっき鋼板は、素地鋼板の表面に、溶融亜鉛めっき層または合金化溶融亜鉛めっき層(以下、めっき層で代表させる場合がある。)を有している。そして本発明の特徴部分は、素地鋼板とめっき層の界面から素地鋼板側に向って順に、下記(A)〜(C)の層構成を有する点にある。
(A)内部酸化層:SiおよびMnよりなる群から選択される少なくとも一種の酸化物を含む層である。内部酸化層の平均深さdは、4μm以上、後記する(B)に記載の軟質層の平均深さD未満である。
(B)軟質層:上記内部酸化層を含み、上記素地鋼板の板厚をtとしたとき、ビッカース硬さが、上記素地鋼板のt/4部におけるビッカース硬さの90%以下を満足する。軟質層の平均深さDは、20μm以上である。
(C)硬質層:マルテンサイトとベイナイトを主体とし、且つ、旧オーステナイトの平均粒径が20μm以下である組織で構成される。ここで「主体とする」とは、後記する実施例の記載の方法で組織分率を測定したとき、ベイナイトとマルテンサイトの合計面積率が80面積%以上であり、且つ、フェライトの面積率が0面積%以上、5面積%以下のものを意味する。
【0024】
以下、
図1を参照しながら、本発明を特徴付ける上記(A)〜(C)の層構成について、順次、詳述する。
図1に示すように、本発明のめっき鋼板における素地鋼板2側の層構成は、めっき層1と素地鋼板2の界面から素地鋼板2側に向って、(B)の軟質層4と、軟質層4より素地鋼板2側の内部に(C)の硬質層5とを有する。上記(B)の軟質層4は、(A)の内部酸化層3を含む。また上記軟質層4と上記硬質層5は連続的に存在する。
【0025】
(A)内部酸化層について
まず、めっき層1と素地鋼板2の界面に直接接する部分は、平均深さdが4μm以上の内部酸化層3を有する。ここで、平均深さとは、上記界面からの平均深さを意味し、その詳細な測定方法は、後記する実施例の欄において
図2を用いて説明する。
【0026】
上記内部酸化層3は、SiおよびMnの少なくとも一種を含む酸化物と、SiとMnが酸化物を形成することにより周囲に固溶Siや固溶Mnの少ないSiおよびMnの空乏層とからなる。
【0027】
本発明では、上記内部酸化層3の平均深さdを4μm以上に厚く制御したところに最大の特徴がある。これにより、当該内部酸化層を水素トラップサイトとして活用でき、水素脆化を抑制できると共に、曲げ性、穴拡げ性、耐遅れ破壊特性が向上する。
【0028】
なお、本発明のようにSiおよびMnといった易酸化性元素を多く含む素地鋼板では、焼鈍時(後記する連続溶融亜鉛めっきラインにおける酸化・還元工程)に、素地鋼板表面にSiとMnの複合酸化膜が形成され易く、めっき性を阻害する。そこで、その対策として、酸化雰囲気で素地鋼板表面を酸化させFe酸化膜を生成させた後、水素を含む雰囲気中で焼鈍(還元焼鈍)する方法が知られている。さらに、炉内雰囲気を制御することで易酸化性元素を素地鋼板表層内部に酸化物として固定させ、素地鋼板表層に固溶している易酸化性元素を低減させることで、易酸化性元素の素地鋼板表面への酸化膜の形成を防止する方法も知られている。
【0029】
しかしながら、本発明者らの検討結果によれば、SiおよびMnを多く含む素地鋼板をめっきするために汎用される酸化還元法において、還元時の水素雰囲気で水素が素地鋼板に侵入して水素脆化による曲げ性と穴拡げ性の劣化が発生すること;これらの劣化を改善するためには、SiおよびMnよりなる群から選択される少なくとも一種の酸化物の活用が有効であることが分かった。詳細には、上記酸化物は、還元時における素地鋼板内部への水素侵入を防ぎ、曲げ性と穴拡げ性と耐遅れ破壊特性を改善し得る水素トラップサイトとして有用であり、その効果を有効に発揮させるためには、上記酸化物を含む内部酸化層の平均深さdを4μm以上と厚く形成することが不可欠であることが判明した。
【0030】
本発明において、内部酸化層の平均深さdの上限は、少なくとも、後記する(B)の軟質層の平均深さD未満である。上記dの上限は、30μm以下であることが好ましい。内部酸化層を厚くするには、熱延巻取り後の高温域での長時間保持が必要であるが、生産性および設備上の制約により、おおむね、上記の好ましい値になるからである。上記dは、18μm以下であることがより好ましく、16μm以下であることが更に好ましい。なお、上記dは、6μm以上であることが好ましく、8μm以上であることがより好ましく、10μm超であることが更に好ましい。
【0031】
更に本発明では、上記内部酸化層の平均深さdを、後記する(B)の軟質層の平均深さDとの関係で、D>2dの関係式を満足するように制御することが好ましく、これにより、曲げ性および耐遅れ破壊特性、特に曲げ性が一層向上する。これに対し、前述した特許文献2では、本発明に記載の内部酸化層の平均深さdおよび軟質層の平均深さDに、ほぼ対応する酸化物の存在深さdおよび軟質層の厚さDについて、d/4≦D≦2dを満たす溶融亜鉛めっき鋼板が開示されており、本発明で規定する上記関係式(D>2d)とは、制御の方向性が全く相違する。また、上記特許文献2では、基本的に前述したd/4≦D≦2dの関係を満足しつつ酸化物の存在深さdの範囲を制御することが記載されているのであって、本発明のように内部酸化層の平均深さdを4μm以上に厚く制御するとの基本思想は全くない。勿論、これにより、水素トラップサイトとしての作用が有効に発揮され、曲げ性、穴拡げ性、耐遅れ破壊特性が向上するという本発明の効果も記載されていない。
【0032】
なお、本発明において、上記内部酸化層の平均深さdを4μm以上に制御するためには、連続溶融亜鉛めっきラインに通板する前の冷延鋼板における内部酸化層の平均深さを4μm以上に制御することが必要である。詳細は、製造方法の欄で後述する。すなわち、後記する実施例に示すように、酸洗、冷間圧延後の内部酸化層は、めっきライン通板後の最終的に得られるめっき鋼板中の内部酸化層に引き継がれる。
【0033】
(B)軟質層について
本発明において軟質層4は、
図1に示すように、上記(A)の内部酸化層3の領域を含む層であって、且つ、ビッカース硬さが、素地鋼板2のt/4部におけるビッカース硬さの90%以下を満足するものである。上記ビッカース硬さの詳細な測定方法は、後記する実施例の欄で説明する。
【0034】
上記軟質層は、後記する(C)の硬質層よりビッカース硬さが低い軟質の組織であり、変形能に優れるため、特に曲げ性が向上する。すなわち、曲げ加工時には、素地鋼板表層部が割れの起点となるが、本発明のように素地鋼板表層に所定の軟質層を形成させることにより、特に曲げ性が改善される。更に上記軟質層の形成により、上記(A)内の酸化物が曲げ加工時における割れの起点となることを防止でき、前述した水素トラップサイトとしてのメリットのみを享受することができる。その結果、曲げ性のみならず耐遅れ破壊特性も一層向上する。
【0035】
このような軟質層形成による効果を有効に発揮させるためには、上記軟質層の平均深さDを20μm以上とする。上記Dは、22μm以上であることが好ましく、24μm以上であることがより好ましい。一方、上記軟質層の平均深さDが厚すぎると、めっき鋼板自体の強度が低下するため、その上限を100μm以下とすることが好ましい。上記Dは、60μm以下であることがより好ましい。
【0036】
(C)硬質層について
本発明において硬質層は、
図1に示すように、上記(B)の軟質層4の素地鋼板2側に形成され、且つ、マルテンサイトとベイナイトを主体とし、旧オーステナイトの平均粒径が20μm以下である微細な組織で構成される。上記硬質層5のマルテンサイトは焼き戻しされていても良い。ここで「主体とする」とは、後記する実施例の記載の方法で組織分率を測定したとき、全組織に対する、ベイナイトとマルテンサイトの合計面積率が80面積%以上であり、且つ、全組織に対するフェライトの面積率が0面積%以上5面積%以下のものを意味する。硬質層のベイナイトとマルテンサイトの合計面積率は多い程良く、好ましくは93面積%以上である。一方、フェライトの面積率は少ない程良く、5面積%以下が好ましく、3面積%以下がより好ましく、最も好ましくは0面積%である。
【0037】
本発明者らが研究したところ、旧オーステナイト粒径を小さくすれば曲げ性、穴拡げ性の加工性、および耐遅れ破壊特性が改善されることが分かった。これは、旧オーステナイト粒が粗大になると、応力集中によりき裂が発生し易くなるが、旧オーステナイトを微細化することによって、応力集中を緩和させ、き裂の発生を抑制できるためであると考えられる。
【0038】
このように曲げ性、穴拡げ性の加工性、および耐遅れ破壊特性を確保するためには、旧オーステナイトの微細化を図ることが有効である。こうした観点から、旧オーステナイトの平均粒径は20μm以下とする必要がある。好ましくは18μm以下であり、より好ましくは16μm以下である。旧オーステナイトの平均粒径の下限は上記観点からは特に制限されないが、実操業ラインでの製造能力や生産性を考慮すると3μm程度であってもよい。
【0039】
硬質層は、上記組織のほか、本発明の作用を損なわない範囲で、製造上不可避的に混入し得る組織、例えば、残留オーステナイト(γ)、パーライトなどを含んでもいても良い。上記組織は、最大でも15面積%以下であり、少ない程良い。なお上記組織は、後記する表3では、「その他」と記載している。
【0040】
上記硬質層の形成により、曲げ性および穴拡げ性が向上する。すなわち、曲げ割れや穴拡げ時のき裂は、一般に、軟質相、例えばフェライト;硬質相、例えばマルテンサイトおよびベイナイトの界面で応力集中することにより発生する。そのため、上記き裂を抑制するためには、軟質相と硬質相の硬度差を低減することが必要である。そこで本発明では、素地鋼板内部の組織を、軟質なフェライトの占める比率を最大でも5面積%以下に抑制し、ベイナイトとマルテンサイトを主体とする硬質層とした。更に、上記硬質層では、フェライトの比率を抑制しているため、降伏比(YR)が高くなり、耐衝撃吸収性も向上する。
【0041】
なお、本発明における硬質層は、上記のようにベイナイトとマルテンサイトを主体として含んでいれば良く、ベイナイトとマルテンサイトのそれぞれの比率は何ら限定されない。本発明では、上記要件を満足する限り、硬質層形成による上記効果が発揮されるためである。よって、上記硬質層は、上記要件を満足する限り、ベイナイト>マルテンサイト、ベイナイト=マルテンサイト、ベイナイト<マルテンサイトのいずれの関係も満足し得る。また、ベイナイトのみから構成され、マルテンサイトを全く含まない態様;逆にマルテンサイトのみから構成され、ベイナイトを全く含まない態様の両方が、本発明の範囲に包含される。上記観点から、後記する実施例では、ベイナイトとマルテンサイトを区別して観察せず、合計面積のみを測定し、その結果を表3に示している。
【0042】
以上、本発明を最も特徴付けるめっき層と素地鋼板の界面から素地鋼板側に向けての層構成について説明した。
【0043】
次に、本発明に用いられる鋼中成分について説明する。
【0044】
本発明のめっき鋼板は、C:0.05〜0.25%、Si:0.5〜2.5%、Mn:2.0〜4%、P:0%超0.1%以下、S:0%超0.05%以下、Al:0.01〜0.1%、およびN:0%超0.01%以下を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなる。
【0045】
C:0.05〜0.25%
Cは、焼入れ性を向上させ、またマルテンサイトの硬質化効果により、鋼の高強度化に重要な元素である。このような効果を有効に発揮させるため、C量の下限を0.05%以上とする。C量の好ましい下限は0.08%以上であり、より好ましくは0.10%以上である。しかし、Cを過剰に添加すると、軟質相と硬質相の硬度差が大きくなり、加工性および耐遅れ破壊特性が低下するため、C量の上限を0.25%とする。C量の好ましい上限は0.2%以下であり、より好ましくは0.18%以下である。
【0046】
Si:0.5〜2.5%
Siは固溶強化により鋼の強度を高め、加工性向上にも有効な元素である。また、内部酸化層を生成し、水素脆化の抑制作用も有する。このような効果を有効に発揮させるため、Si量の下限を0.5%以上とする。Si量の好ましい下限は0.75%以上であり、より好ましくは1%以上である。しかし、Siはフェライト生成元素であり、Siを過剰に添加すると、フェライトの生成を抑制できず、軟質相と硬質相の硬度差が大きくなり、加工性が低下する。更には、めっき性も悪くなるため、Si量の上限を2.5%とする。Si量の好ましい上限は2%以下であり、より好ましくは1.8%以下である。
【0047】
Mn:2.0〜4%
Mnは、焼入れ性向上元素であり、フェライトおよびベイナイトを抑制し、マルテンサイトを生成させて高強度化に寄与する。このような効果を有効に発揮させるため、Mn量の下限を2.0%以上とする。Mn量の好ましい下限は2.3%以上であり、より好ましくは2.5%以上である。しかし、Mnを過剰に添加すると、めっき性が低下し、また偏析も著しくなる。更に、Pの粒界偏析を助長する虞がある。そのため、Mn量の上限を4%とする。Mn量の好ましい上限は3.5%以下である。
【0048】
P:0%超0.1%以下
Pは、固溶強化元素として鋼の強化に有用な元素である。このような効果を有効に発揮させるため、P量の下限を0%超とする。しかし、過剰に添加すると、加工性のほか、溶接性、靱性を劣化させる虞があるため、その上限を0.1%以下とする。P量は少ない方が良く、好ましくは0.03%以下、より好ましくは0.015%以下である。
【0049】
S:0%超0.05%以下
Sは、不可避的に含有する元素であり、MnSなどの硫化物を形成し、割れの起点なり、加工性を劣化させる虞がある。そのため、S量の上限を0.05%以下とする。S量は少ない方が良く、好ましくは0.01%以下、より好ましくは0.008%以下である。
【0050】
Al:0.01〜0.1%
Alは、脱酸剤として作用する。またAlはNと結合してAlNとなり、オーステナイト粒径の微細化により加工性および耐遅れ破壊特性も向上する。このような作用を有効に発揮させるため、Al量の下限を0.01%以上とする。Al量の好ましい下限は0.02%以上であり、より好ましくは0.03%以上である。しかし、Alを過剰に添加すると、アルミナなどの介在物が増加して加工性が劣化するほか、靱性も劣化するようになる。そのため、Al量の上限を0.1%とする。Al量の好ましい上限は0.08%以下であり、より好ましくは0.05%以下である。
【0051】
N:0%超0.01%以下
Nは、不可避的に含有する元素であるが、過剰に含まれると加工性が劣化する。また、鋼中にB(ホウ素)を添加した場合には、BN析出物が生成し、Bによる焼入れ性向上作用を阻害するため、Nはできるだけ低減する方が良い。そのため、N量の上限を0.01%以下とする。N量の好ましい上限は0.008%以下であり、より好ましくは0.005%以下である。
【0052】
本発明のめっき鋼板は上記成分を含有し、残部は鉄および不可避不純物である。
【0053】
更に本発明では、以下の選択元素を含有することができる。
【0054】
Cr:0%超1%以下、Mo:0%超1%以下、およびB:0%超0.01%以下よりなる群から選択される少なくとも一種
これらの元素は、鋼板の強度上昇に有効な元素である。これらの元素は単独で添加しても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0055】
詳細には、Crは焼入れ性を向上させ、強度上昇に寄与する。更にCrは、セメンタイトの生成や成長を抑制し、曲げ性改善に寄与する。このような作用を有効に発揮させるため、Cr量の好ましい下限を0.01%以上とする。しかし、Crを過剰に添加するとめっき性が低下する。またCr炭化物が過剰に生成し、加工性が低化する。よって、Cr量の好ましい上限を1%以下とする。より好ましくは0.7%以下であり、更に好ましくは0.4%以下である。
【0056】
Moは高強度化に有効であり、そのため、Mo量の好ましい下限を0.01%以上とする。但し、Moを過剰に添加しても上記作用が飽和し、コスト高となる。そのため、Moの好ましい上限を1%以下とする。より好ましくは0.5%以下であり、更に好ましくは0.3%以下である。
【0057】
BはMnと同様、焼入れ性向上元素であり、フェライトおよびベイナイトを抑制し、マルテンサイトを生成させ、高強度化に寄与する元素である。このような効果を有効に発揮させるため、B量の好ましい下限を0.0002%以上とする。より好ましくは0.0010%以上である。しかし、B量が過剰になると、熱間加工性が劣化するため、B量の好ましい上限を0.01%以下とする。より好ましくは0.0070%以下であり、更に好ましくは0.0050%以下である。
【0058】
Ti:0%超0.2%以下、Nb:0%超0.2%以下、およびV:0%超0.2%以下よりなる群から選択される少なくとも一種
これらの元素は、組織微細化による加工性および耐遅れ破壊特性向上に有効な元素である。これらの元素は単独で添加しても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0059】
上記作用を有効に発揮させるため、Ti、Nb、Vのそれぞれの好ましい下限を、0.01%以上とする。しかし、各元素の含有量が過剰になると、フェライトが生成し、加工性が劣化するため、各元素の好ましい上限を0.2%以下とする。いずれの元素も、より好ましくは0.15%以下であり、更に好ましくは0.10%以下である。
【0060】
Cu:0%超1%以下、およびNi:0%超1%以下よりなる群から選択される少なくとも一種
CuおよびNiは、高強度化に有効な元素である。これらの元素は単独で添加しても良いし、併用しても良い。
【0061】
上記作用を有効に発揮させるため、Cu、Niのそれぞれの好ましい下限を、0.01%以上とする。しかし、各元素の含有量が過剰になると熱間加工性が低下するため、各元素の好ましい上限を1%以下とする。いずれの元素も、より好ましくは0.8%以下であり、更に好ましくは0.5%以下である。
【0062】
以上、本発明の鋼中成分について説明した。
【0063】
次に、本発明のめっき鋼板を製造する方法について説明する。本発明の製造方法は、熱延巻取り後に、保温せずに直ちに酸洗する第一の方法と、熱延巻取り後に保温してから酸洗する第二の方法を含む。保温の有無により、第一の方法(保温なし)と第二の方法(保温あり)とは、熱延巻取温度の下限が相違するが、それ以外の工程は同じである。以下、詳述する。
【0064】
[第一の製造方法(保温なし)]
本発明に係る第一の製造方法は、熱延工程と、酸洗、冷延工程と、連続溶融Znめっきライン(CGL(Continuous Galvanizing Line))での酸化工程、還元工程、およびめっき工程とに大別される。そして本発明の特徴部分は、上記鋼中成分を満足する鋼板を、600℃以上の温度で巻取ることにより内部酸化層を形成した熱延鋼板を得る熱延工程と、内部酸化層の平均深さdが4μm以上残るように酸洗・冷間圧延する工程と、酸化帯にて、0.9〜1.4の空気比で酸化する工程と、還元帯にてAc
3点〜Ac
3点+100℃の範囲で均熱する工程と、均熱後、冷却停止温度までの範囲を5℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する工程と、を、この順序で含み、且つ500℃からAc
3点まで3℃/秒以上の平均速度で昇温させるところにある。
【0066】
まず、上記鋼中成分を満足する熱延鋼板を準備する。熱間圧延は常法に従って行えばよく、例えば、オーステナイト粒の粗大化を防止するために、加熱温度は1150〜1300℃程度とすることが好ましい。また、仕上げ圧延温度は、おおむね、850〜950℃に制御することが好ましい。
【0067】
そして本発明では、熱間圧延後の巻取温度を600℃以上に制御することが重要である。これにより、素地鋼板表面に内部酸化層を形成させ、かつ脱炭により軟質層も形成するので、めっき後の鋼板に所望とする内部酸化層と軟質層を得ることができるようになる。巻取温度が600℃未満の場合、内部酸化層および軟質層が十分に生成されない。また、熱延鋼板の強度が高くなり、冷延性が低下する。好ましい巻取温度は、620℃以上であり、より好ましくは640℃以上である。但し、巻取温度が高くなり過ぎると、黒皮スケールが成長し過ぎて、酸洗で溶解できないため、その上限を750℃以下とすることが好ましい。
【0068】
次に、このようにして得られた熱延鋼板を、内部酸化層の平均深さdが4μm以上残るように酸洗・冷間圧延を行なう。これにより、内部酸化層のみならず軟質層も残るため、めっき後に所望とする軟質層も生成させやすくなる。酸洗条件の制御によって内部酸化層の厚さを制御することは公知であり、具体的には、使用する酸洗液の種類や濃度などに応じて、所望とする内部酸化層の厚さを確保できるように、酸洗の温度や時間などを適切に制御すれば良い。
【0069】
例えば酸洗液としては、塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸を用いることができる。
【0070】
また、一般に酸洗液の濃度や温度が高く、酸洗時間が長いと、内部酸化層が溶解して薄くなる傾向にある。逆に酸洗液の濃度や温度が低く、酸洗時間が短いと、酸洗による黒皮スケール層の除去が不十分になる。よって、例えば塩酸を用いる場合、濃度を約3〜20%、温度を60〜90℃、時間を約35〜200秒に制御することが推奨される。
【0071】
なお、酸洗槽の数は特に限定されず、複数の酸洗槽を使用してもよい。また、酸洗液中には、例えばアミンなどの酸洗抑制剤、すなわちインヒビターや、酸洗促進剤などを添加してもよい。
【0072】
酸洗後、内部酸化層の平均深さdが4μm以上残るように冷延を行なう。冷延条件は、冷延率が約20〜70%の範囲に制御することが好ましい。
【0074】
詳細には、まず、酸化帯にて、0.9〜1.4の空気比で酸化する。空気比とは、供給される燃焼ガスを完全燃焼させるために理論上必要となる空気量に対して、実際に供給される空気量の比を意味する。空気比が1より高いと酸素が過剰状態となり、空気比が1より低いと酸素が不足状態となる。後述する実施例では、燃焼ガスとしてCOガスを使用している。
【0075】
空気比が上記範囲となる雰囲気で酸化することにより、脱炭が促進されるため、所望とする軟質層が形成され、曲げ性が改善される。また、表面にFe酸化膜を生成させることができ、めっき性に有害な複合酸化膜などの生成を抑制できる。空気比が0.9未満では、脱炭が不十分となり、充分な軟質層が形成されないため、曲げ性が劣化する。また、上記Fe酸化膜の生成が不十分となり、上記複合酸化膜などの生成を抑制できずにめっき性が劣化する。上記空気比は、0.9以上に制御する必要があり、1.0以上に制御することが好ましい。一方、空気比が1.4超と高くなると、Fe酸化膜が過剰に生成し、次の還元炉で十分に還元できず、めっき性が阻害される。上記空気比は、1.4以下に制御する必要があり、1.2以下に制御することが好ましい。
【0076】
上記酸化帯では、特に空気比を制御することが重要であり、それ以外の条件は、通常用いられる方法を採用することができる。例えば、上記酸化温度の好ましい下限は500℃以上であり、より好ましくは750℃以上である。また、上記酸化温度の上限は900℃以下であり、より好ましくは850℃以下である。
【0077】
次いで、還元帯にて、酸化膜を水素雰囲気で還元する。本発明では、フェライトを抑制して所望とする硬質層を得るため、オーステナイト単相域で加熱する必要があり、Ac
3点〜Ac
3点+100℃の範囲で均熱処理する。均熱温度がAc
3点を下回ると、フェライトが過剰になり、一方、Ac
3点+100℃を超えると、オーステナイトが粗大になり、加工性が劣化する。好ましい均熱温度は、Ac
3点+15℃以上、Ac
3点+85℃以下である。
【0078】
更に、旧オーステナイトの平均粒径が20μm以下である硬質層を得るために、500℃からAc
3点までの温度範囲を3℃/秒以上の平均昇温速度で加熱する。平均昇温速度が3℃/秒を下回ると旧オーステナイトの平均粒径が大きくなり、曲げ性、穴拡げ性の加工性、および耐遅れ破壊特性が低下する。好ましい平均昇温速度の下限は4℃/秒以上、より好ましくは5℃/秒以上である。平均昇温速度の上限は特に制限されないが素地鋼板温度の制御のし易さや、設備コストを考慮すると20℃/秒以下であることが好ましく、より好ましくは18℃/秒以下である。
【0079】
本発明では、少なくとも上記温度範囲を3℃/秒以上の平均昇温速度で加熱することが重要であって、上記温度範囲を外れる温度域(500℃未満の温度域、またはAc
3点を超える温度域)の平均昇温速度は特に限定されず、上記と同様、3℃/秒以上の平均昇温速度であっても良いし、或は、3℃/秒未満の平均昇温速度であっても良い。例えば上記「500℃からAc
3点までの温度範囲」は、好ましくは酸化帯の温度域に相当するが、酸化帯を3℃/秒以上の平均昇温速度で加熱した後、そのまま3℃/秒以上の平均昇温速度で還元帯を加熱しても良い。
【0080】
なお、本発明においてAc
3点は、下式(i)に基づいて算出される。式中[ ]は各元素の含有量(質量%)を表す。この式は、「レスリー鉄鋼材料学」(丸善株式会社発行、William C. Leslie著、p273)に記載されている。
Ac
3(℃)=910−203×[C]
1/2−15.2×[Ni]+44.7×[Si]+104×[V]+31.5×[Mo]+13.1×[W]−{30×[Mn]+11×[Cr]+20×[Cu]−700×[P]−400×[Al]−120×[As]−400×[Ti]} ・・・(i)
【0081】
上記還元炉では、特に均熱温度を制御することが重要であり、それ以外の条件は、通常用いられる方法を採用することができる。例えば、還元帯の雰囲気は水素と窒素を含み、水素濃度は約5〜25体積%の範囲に制御することが好ましい。また、露点は−30〜−60℃に制御することが好ましい。
【0082】
また、均熱処理時の保持時間は短時間だと還元が不十分となりめっき性が阻害され、長時間だと旧オーステナイト粒が粗大となるおそれがある。これらを考慮すると、好ましい保持時間は、例えば10秒以上、100秒以下であり、より好ましくは30秒以上、80秒以下である。
【0083】
次いで、冷却する。冷却時の平均冷却速度は、フェライトの生成を抑制し得るよう、5℃/秒以上に制御する。好ましくは8℃/秒以上、より好ましくは10℃/秒以上である。平均冷却速度の上限は特に限定されないが、素地鋼板温度の制御のし易さや、設備コストなどを考慮すると、おおむね、100℃/秒以下に制御することが好ましい。より好ましい平均冷却速度は50℃/秒以下であり、更に好ましくは30℃/秒以下である。
【0084】
冷却停止温度は、フェライトが生成しない温度域まであれば良く、例えば550℃以下まで冷却することが好ましい。冷却停止温度の好ましい下限は、例えば450℃以上、より好ましくは460℃以上、更に好ましくは470℃以上である。
【0085】
本発明では、少なくとも上記冷却停止温度までの平均冷却速度を適切に制御することが重要であって、その後の冷却方法は上記に限定されない。例えば、冷却後、溶融亜鉛めっきする際のめっき浴温度まで加熱する場合は、上述した好ましい冷却停止温度を下回って冷却しても良い(例えば後記する表1のNo.11を参照)。或いは、所定温度まで冷却した後、水冷しても良い。
【0086】
その後、常法に従って、溶融亜鉛めっきを行なう。溶融亜鉛めっきの方法は特に限定されず、例えば、上記めっき浴温度の好ましい下限は400℃以上であり、より好ましくは440℃以上である。また、上記めっき浴温度の好ましい上限は500℃以下であり、より好ましくは470℃以下である。めっき浴の組成は特に限定されず、公知の溶融亜鉛めっき浴を用いればよい。また、溶融亜鉛めっき後の冷却条件も特に限定されず、例えば、常温までの平均冷却速度を、好ましくは約1℃/秒以上、より好ましくは5℃/秒以上に制御することが好ましい。上記平均冷却速度の上限は特に規定されないが、素地鋼板温度の制御のし易さや、設備コストなどを考慮すると、約50℃/秒以下に制御するのが好ましい。上記平均冷却速度は、好ましくは40℃/秒以下、より好ましくは30℃/秒以下である。
【0087】
更に、必要に応じて、常法により合金化処理を施しても良く、これにより、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。合金化処理の条件も特に限定されず、例えば上記条件で溶融亜鉛めっきを行なった後、500〜600℃程度、特に530〜580℃程度で、5〜30秒程度、特に10〜25秒程度保持して行うことが好ましい。上記範囲を下回ると、合金化が不十分である。一方、上記範囲を超えると合金化が過度に進行し、めっき鋼板のプレス成型時にめっき剥離が発生する虞がある。更にフェライトも生成し易くなる。合金化処理は、例えば、加熱炉、直火、または赤外線加熱炉などを用いて行えばよい。加熱手段も特に限定されず、例えば、ガス加熱、インダクションヒーター加熱すなわち高周波誘導加熱装置による加熱など慣用の手段を採用できる。
【0088】
合金化処理の後、常法に従って冷却することにより合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。常温までの平均冷却速度は、約1℃/秒以上に制御することが好ましい。
【0089】
[第二の製造方法(保温あり)]
本発明に係る第二の製造方法は、上記鋼中成分を満足する熱延鋼板を、500℃以上の温度で巻取る熱延工程と、500℃以上の温度で80分以上保温する工程と、内部酸化層の平均深さdが4μm以上残るように酸洗・冷間圧延する工程と、酸化帯にて、0.9〜1.4の空気比で酸化する工程と、還元帯にて、Ac
3点〜Ac
3点+100℃の範囲で均熱する工程と、均熱後、冷却停止温度までの範囲を5℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する工程と、をこの順序で含み、且つ500℃からAc
3点まで3℃/秒以上の平均速度で昇温させる。前述した第一の製造方法と対比すると、上記第二の製造方法では、熱延後巻取温度の下限を500℃以上にしたこと、熱延工程の後に保温工程を設けたことの二点でのみ上記第一の製造方法と相違する。よって、以下では、当該相違点のみ説明する。上記第一の製造方法と一致する工程は、上記第一の製造方法を参照すればよい。
【0090】
上記のように保温工程を設けた理由は、保温により酸化できる温度域での長時間保持が可能となり、所望の内部酸化層と軟質層が得られる巻取温度範囲の下限を広げられるためである。また、素地鋼板の表層と内部の温度差を少なくして素地鋼板の均一性も高められるという利点もある。
【0091】
まず、上記第二の製造方法では、熱間圧延後の巻取温度を500℃以上に制御する。上記第二の製造方法では、以下に詳述するように、その後に保温工程を設けたため、前述した第一の製造方法における巻取温度の下限である600℃よりも、低く設定することができる。好ましい巻取温度は540℃以上であり、より好ましくは570℃以上である。なお、巻取温度の好ましい上限は前述した第一の製造方法と同じであり、750℃以下とすることが好ましい。
【0092】
次に、このようにして得られた熱延鋼板を500℃以上の温度で80分以上保温する。これにより、所望の内部酸化層を得ることができる。保温による上記効果が有効に発揮されるよう、上記熱延鋼板を、例えば断熱性のある装置に入れて保温することが好ましい。本発明に用いられる上記装置は、断熱性の素材で構成されていれば特に限定されず、このような素材として、例えば、セラミックファイバーなどが好ましく用いられる。
【0093】
上記効果を有効に発揮させるためには、500℃以上の温度で80分以上保温することが必要である。好ましい温度は540℃以上であり、より好ましくは560℃以上である。また、好ましい時間は100分以上であり、より好ましくは120分以上である。なお、上記温度および時間の上限は、酸洗性や生産性などを考慮すると、おおむね、700℃以下、500分以下に制御することが好ましい。
【0094】
以上、本発明に係る第一および第二の製造方法について説明した。
【0095】
上記製造方法によって得られる本発明のめっき鋼板には、更に各種塗装や塗装下地処理、例えば、リン酸塩処理などの化成処理;有機皮膜処理、例えば、フィルムラミネートなどの有機皮膜の形成などを行なってもよい。
【0096】
各種塗装に用いる塗料には、公知の樹脂、例えばエポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコンアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂などを使用できる。耐食性の観点から、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコンアクリル樹脂が好ましい。前記樹脂とともに、硬化剤を使用しても良い。また塗料は、公知の添加剤、例えば、着色用顔料、カップリング剤、レベリング剤、増感剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、難燃剤などを含有していても良い。
【0097】
本発明において塗料形態に特に限定はなく、あらゆる形態の塗料、例えば、溶剤系塗料、水系塗料、水分散型塗料、粉体塗料、電着塗料などを使用できる。また塗装方法も特に限定されず、ディッピング法、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法、電着塗装法などを使用できる。めっき層、有機皮膜、化成処理皮膜、塗膜などの被覆層の厚みは、用途に応じて適宜設定すれば良い。
【0098】
本発明の高強度めっき鋼板は、超高強度で、しかも加工性(曲げ性および穴拡げ性)、耐遅れ破壊特性に優れているため、自動車用強度部品、例えば、フロントやリア部のサイドメンバ、クラッシュボックスなどの衝突部品をはじめ、センターピラーレインフォースなどのピラー類、ルーフレールレインフォース、サイドシル、フロアメンバー、キック部などの車体構成部品に使用できる。
【0099】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0100】
下記表1に示す成分組成で残部は、鉄および不可避不純物のスラブを1250℃に加熱し、仕上げ圧延温度900℃で2.4mmまで熱間圧延した後、表2に示す温度で巻き取った。
【0101】
一部の例No.25〜27、32については、その後、セラミックファイバーの断熱装置に入れて、表2に示す条件で保温した。500℃以上の保温時間は、コイル外周部に取り付けた熱電対を用いて測定した。
【0102】
次に、このようにして得られた熱延鋼板を、以下の条件で酸洗した後、冷延率50%で冷間圧延した。冷延後の板厚は1.2mmである。
酸洗液:10%塩酸、温度:82℃、酸洗時間:表2のとおり。
【0103】
次に、連続溶融Znめっきラインにて、表2に示す条件で焼鈍(酸化、還元)および冷却を行なった。ここで、連続溶融Znめっきラインに設置された酸化炉の温度は800℃、還元炉における水素濃度は20体積%で残部は窒素および不可避不純物、露点:−45℃に制御した。また、表2に示す均熱温度での保持時間はすべて、50秒とした。
【0104】
その後、下記No.10、11を除いて、460℃の亜鉛めっき浴に浸漬した後、室温まで平均冷却速度10℃/秒で冷却し、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)を得た(No.23)。合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)については、上記の亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを施した後、500℃に加熱し、この温度で20秒間保持して合金化処理を行ってから、室温まで平均冷却速度10℃/秒で冷却した(No.1〜9、12〜22、24〜33)。
【0105】
なお、No.10では、表2に記載の冷却停止温度200℃まで冷却した後、460℃まで加熱してから亜鉛めっき浴に浸漬し、上記と同様にしてGA鋼板を得た。また、No.11では、表2に示すように、平均冷却速度10℃/秒で600℃まで冷却した後、水冷(WQ(Water−Quenching))し、その後460℃まで加熱してから亜鉛めっき浴に浸漬し、上記と同様にしてGA鋼板を得た。
【0106】
このようにして得られためっき鋼板、すなわちGIまたはGAについて、以下の特性を評価した。なお、内部酸化層の平均深さは、以下に示すように、めっき鋼板のみならず、参考のため、酸洗、冷間圧延後の素地鋼板についても同様に測定した。これは、熱間圧延後の巻取温度や酸洗条件などの制御により、焼鈍前の冷延鋼板において、既に、所望とする内部酸化層の平均深さが得られていることを確認するためである。
【0107】
(1)めっき鋼板における内部酸化層の平均深さdの測定
めっき鋼板の板幅をWとしたとき、W/4部からサイズ50mm×50mmの試験片を採取した後、グロー放電発光分析法(GD−OES(Glow Discharge−Optical Emission Spectroscopy))にて、めっき層表面からのO量、Fe量、およびZn量をそれぞれ分析し、定量した。詳細には、堀場製作所製GD−PROFILER2型GDA750のGD−OES装置を用いて、上記試験片の表面を、Arグロー放電領域内で高周波スパッタリングし、スパッタされるO、Fe、Znの各元素のArプラズマ内における発光線を連続的に分光することによって、素地鋼板の深さ方向における各元素量プロファイル測定した。スパッタ条件は以下のとおりであり、測定領域は、めっき層表面から深さ50μmまでとした。
【0108】
(スパッタリング条件)
パルススパッタ周波数:50Hz
アノード径(分析面積):直径6mm
放電電力:30W
Arガス圧:2.5hPa
【0109】
分析結果を
図2に示す。
図2に示すように、めっき層表面からのZn量とFe量が等しくなる位置をめっき層と素地鋼板の界面とした。また、めっき層表面から深さ40〜50μmでの各測定位置におけるO量の平均値をバルクのO量平均値とし、それより0.02%高い範囲、すなわち、O量≧(バルクのO量平均値+0.02%)を内部酸化層と定義し、その最大深さを内部酸化層深さとした。同様の試験を、3つの試験片を用いて実施し、その平均を内部酸化層の平均深さdとした。
【0110】
(2)酸洗・冷間圧延後の内部酸化層深さの測定(参考)
酸洗・冷間圧延後の素地鋼板を用いたこと以外は上記(1)と同様にして、内部酸化層の平均深さを算出した。
【0111】
(3)軟質層の平均深さDの測定
めっき鋼板の板幅W方向に対して垂直な断面であるW/4部を露出させ、サイズ20mm×20mmの試験片を採取した後、樹脂に埋め込み、めっき層と素地鋼板の界面から素地鋼板の板厚t内部に向かってビッカース硬さを測定した。測定はビッカース硬度計を用い、荷重3gfにて行った。詳細には
図3に示すように、めっき層と素地鋼板の界面から板厚内部深さ10μmの測定位置から、板厚内部に向かって5μmピッチごとに測定を行い、深さ100μmまでビッカース硬さを測定した。測定点同士の間隔;すなわち
図3中、×と×の距離は、最低でも15μm以上とした。各深さでn=1ずつビッカース硬さを測定し、板厚内部方向の硬さ分布を調査した。更に、素地鋼板のt/4部におけるビッカース硬さを、ビッカース硬度計を用いて荷重1kgfにて測定した(n=1)。素地鋼板のt/4部と比較してビッカース硬さが90%以下の領域を軟質層とし、その深さを計算した。同様の処理を、同じ試験片で10箇所実施し、その平均を軟質層の平均深さDとした。
【0112】
(4)めっき鋼板の組織分率の測定方法
めっき鋼板の板幅W方向に対して垂直な断面であるW/4部を露出させ、この断面を研磨し、更に電解研磨した後、ナイタールで腐食させたものをSEM(Scanning Electron Microscope)観察した。観察位置は素地鋼板の板厚をtとしたときt/4位置とし、観察倍率は2000倍、観察領域は40μm×40μmとした。SEMで撮影した金属組織写真を画像解析し、マルテンサイトとベイナイト(両者は区別せず)、およびフェライトの面積率を夫々測定した。表3中、α=フェライト、(B+M)=(ベイナイト+マルテンサイト)を意味する。また、表3中、「その他」の組織の面積分率は、100面積%から、マルテンサイトとベイナイト、およびフェライトの各面積率を引いて算出した。観察は任意に3視野について行い、平均値を算出した。
【0113】
(5)めっき鋼板の旧オーステナイトの平均粒径の測定方法
めっき鋼板の板幅W方向に対して垂直な断面であるW/4部を露出させ、この断面を研磨し、ピクリン酸飽和水溶液と0.5%のアルキルスルホン酸ナトリウムの混合液にてエッチングし旧オーステナイト粒界を現出させた。次いで、JIS G 0551の切断法でt/4部位の組織の平均粒度番号Gを求めた。詳細には、上記t/4部位の組織の1つの視野で試験線が少なくとも50個の結晶粒と交差するように光学顕微鏡の倍率を決定し、無作為に選択された少なくとも5つの視野で、試験線と交差した少なくとも250個の結晶粒数を用いて、平均粒度番号Gを求めた。この平均粒度番号Gより断面積1mm
2当たりの平均結晶粒数mを算出して、旧オーステナイトの平均粒径d(mm)をd(mm)=1/√mの式で求めた。表3中「−」は、ベイナイトとマルテンサイトの合計面積率が小さいために旧オーステナイトを観察できなかった例である。
【0114】
(6)引張試験の測定方法
めっき鋼板の圧延方向に垂直な方向と試験片の長手方向が平行になるようにJIS 13号B引張試験片を採取し、JIS Z2241に従ってC方向の引張強度(TS)および降伏応力(YS)を測定した。TSおよびYSより、降伏比YR(YS/TS)を算出した。
【0115】
本実施例では、引張強度TSが980MPa以上のものを高強度(合格)と評価した。また、YRが60%以上のものを耐衝撃吸収性に優れる(合格)と評価した。
【0116】
(7)曲げ加工試験
めっき鋼板の圧延方向に垂直な方向と試験片の長手方向が平行になるようにめっき鋼板から切り出した20mm×70mmの試験片を用意し、曲げ稜線が長手方向となるように90°V曲げ試験を行った。曲げ半径Rを適宜変化させて試験を実施し、試験片に割れが発生することなく曲げ加工できる最小曲げ半径Rminを求めた。
【0117】
Rminを素地鋼板の板厚tで割ったRmin/tに基づき、引張強度TS毎に、曲げ性を評価した。詳細は以下のとおりである。なお、TSが合格基準である980MPa以上を満たさないものについては、曲げ性の評価は行なっていない(表3中、−と表記)。
TSが980MPa以上、1080MPa未満の場合、Rmin/t<1.0を合格
TSが1080MPa以上、1180MPa未満の場合、Rmin/t<1.5を合格
TSが1180MPa以上の場合、Rmin/t<2.50を合格
【0118】
(8)耐遅れ破壊特性試験
めっき鋼板の板幅W方向に対して垂直な断面であるW/4部を露出させ、150mm(W)×30mm(L)の試験片を切り出し、最小曲げ半径にてU曲げ加工を行った後、ボルトで締め付け、U曲げ加工試験片の外側表面に1000MPaの引張応力を負荷した。引張応力の測定は、U曲げ加工試験片の外側に歪ゲージを貼り付け、歪を引張応力に換算して行った。その後、U曲げ加工試験片のエッジ部をマスキングし、電気化学的に水素をチャージさせた。水素チャージは、試験片を、0.1M−H
2SO
4(pH=3)と0.01M−KSCNの混合溶液中に浸漬し、室温且つ100μA/mm
2の定電流の条件で行なった。
【0119】
上記水素チャージ試験の結果、24時間割れない場合を合格、すなわち耐遅れ破壊特性に優れると評価した。
【0120】
(9)穴拡げ試験
日本鉄鋼連盟規格JFST1001に準じて穴拡げ試験を実施し、λを測定した。詳細には、めっき鋼板に直径10mmの穴を打ち抜いた後、周囲を拘束した状態で60°円錐のポンチを穴に押し込み、亀裂発生限界における穴の直径を測定した。下記式から限界穴拡げ率λ(%)を求め、λが25%以上を合格、すなわち穴拡げ性に優れると評価した。限界穴拡げ率λ(%)={(Df−D0)/D0}×100
式中、Dfは亀裂発生限界における穴の直径(mm)、D0は初期穴の直径(mm)
【0121】
(10)めっき外観
めっき鋼板の外観を目視で観察し、不めっきの発生の有無に基づいてめっき性を評価した。
【0122】
これらの結果を表2および表3に記載する。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
【表3】
【0126】
表より、以下のように考察することができる。
【0127】
まず、No.1〜11、18、20、23、24、26、30、31、33は本発明の要件を満足する例であり、強度、加工性[曲げ性および穴拡げ性(λ)]、耐遅れ破壊特性、衝撃特性、めっき性の全てが良好であった。特に内部酸化層の平均深さdと軟質層の平均深さDが、D>2d(すなわち、表2中、「D/2d」の値が1超)の関係を満足するNo.1(D/2d=1.09)は、上記関係を満足しないNo.20(D/2d=0.91)に比べ、曲げ性が向上した。更にλも増加した。
【0128】
これに対し、No.12はC量が多い例であり、曲げ性、λ、および耐遅れ破壊特性が低下した。
【0129】
No.13はSi量が少ない例であり、内部酸化層が十分に生成されず、曲げ性、λ、および耐遅れ破壊特性が低下した。
【0130】
No.14はMn量が少ない例であり、焼入れ性が悪いためフェライトが過剰に生成し、且つ、(B+M)の合計量も少なくなった。その結果、TSとYRが低下し、λも低下した。
【0131】
No.15は均熱後の平均冷却速度が遅い例であり、冷却中にフェライトが過剰に生成し、且つ、(B+M)の合計量も少なくなり、所望とする硬質層が得られなかった。その結果、TSとYRが低くなり、λが低下した。
【0132】
No.22も均熱後の平均冷却速度が遅い例であり、冷却中にフェライトが過剰に生成したため、YRが低くなり、λ、曲げ性、耐遅れ破壊特性が低下した。
【0133】
No.16および17は、熱延時の巻取温度が低い例であり、酸洗・冷延後の内部酸化層の平均深さが浅いため、めっき後の内部酸化層の平均深さd、軟質層の平均深さDも浅くなった。その結果、曲げ性、耐遅れ破壊特性、およびめっき性が低下した。
【0134】
No.19は酸化炉での空気比が低く、鉄酸化膜が十分生成されず、めっき性が低下した。また、軟質層も十分に生成されないため、曲げ性、耐遅れ破壊特性も低下した。
【0135】
No.21は均熱温度が低い例であり、二相域焼鈍となり、フェライトが過剰に生成し、(B+M)の合計量も少なくなり、所望とする硬質層が得られなかった。そのため、YRが低くなり、λ、曲げ性、耐遅れ破壊特性が低下した。
【0136】
No.25は、熱延時の巻取温度が低い例であり、酸洗・冷延後の内部酸化層の平均深さが浅いため、めっき後の内部酸化層の平均深さd、軟質層の平均深さDも浅くなった。その結果、曲げ性、耐遅れ破壊特性、およびめっき性が低下した。
【0137】
No.27は、保温時間が不十分な例であり、酸洗・冷延後の内部酸化層の平均深さが浅いため、めっき後の内部酸化層の平均深さd、軟質層の平均深さDも浅くなった。その結果、曲げ性、耐遅れ破壊特性、およびめっき性が低下した。
【0138】
No.28は、平均昇温速度が遅い例であり、旧オーステナイトの平均粒径が大きくなったため、曲げ性、λ、および耐遅れ破壊特性が低下した。
【0139】
No.29は、平均昇温速度が遅い例であり、旧オーステナイトの平均粒径が大きくなったため、曲げ性、λ、および耐遅れ破壊特性が低下した。
【0140】
No.32は、平均昇温速度が遅い例であり、旧オーステナイトの平均粒径が大きくなったため、曲げ性、λ、および耐遅れ破壊特性が低下した。